「なんか景色が変わってきたな」

ドジャーが言う。

たしかにその通りだった。

エリスゾーンに入って大分たつ。

今でも果てしない地面と
果てしない空
その二つが果てしなく続いているのは変わらない。

だが、所々景色が変わってきている。
まず地面の色。
そしてモンスターの種類。
そして・・・

「うぉ!!見ろよあれ!シャレんなんねぇ!今まじトキメいた!!」
「うわぁぁ〜〜。おっきな金貨ですね」

3人の目の前にバカでかい金貨が現れた。
それもたくさん積み重ねられている。
巨人の落し物のような金貨。
夢のような光景だ。

「こんだけありゃ一生遊んで暮らせるな!」
「いいえ!これだけあったら一生食べて暮らせます!」

ほとんど一緒の意味だが欲の違いで言葉も変わるものである。

ドジャーが金貨に飛びつき、ダガーでガリガリと削り始めた。
アレックスはすでにおいしい物を食べる妄想を始めたのか口からよだれが滴り始める。


「おかしいな・・・・」

エクスポが言う。

「お菓子じゃねぇよ!これが駄菓子屋のチョコ入りコインにでも見えるのかテメェわ!」
「僕は見えるなぁ・・・。これだけチョコがあったら・・・(ジュル)」

ドジャーの足元に金クズが落ちる最中
アレックスの足元に大粒の唾液が音を立てて落ちた。

「いや、そうじゃなくて"おかしい"って言ったんだよ。
 たしか列車の中でボクが集めた情報だとこれは"ガリバーゾーン"のものなんだ」
「こんなすっげぇゾーンがあるなら最初に教えろよ!」
「フン。金貨や宝石自体は美しいけどボクはそれに対する人間の欲ってのが大嫌いなんだ
 他を捨ててでも金を手に入れようとする行為は愚の骨頂だ。金欲ほど美と遠いモノはないよ。
 ・・・っとまぁ、その話は置いておいて。本筋の話はね・・・」
「歩いて他のゾーンまで来ちゃったかもって事ですか?」
「うーん・・。ボクの予想はそれとちょっと違うかな」

エクスポは少し歩いて止まり
所々を指差す。

「たとえばアレ、あのモンスターは"石化ゾーン"にしかいないはずだ。
 それにこの床、これは"くるみ割りゾーン"の床だ。
 そしてその大きな金貨は"ガリバーゾーン"の物だ。
 地形自体はエリスゾーンの地形だけど・・・」

「混じってるって言いたいのか」

「それそれ」

エクスポは指でドジャーをバァンッと銃で撃つような仕草をした。

「こんなおかしな状態ここら周辺だけだよ。"裏ゾーン"とでも言うしかないかな」
「怪しいですね」
「こういう所が案外ビンゴってなもんだな。今にも何かに出合いそうなそんな・・・」



「こんにちは、彷徨い子達」




不意の声。
突然の声。
それは優しい女性の声だった。

3人が振り向く。

そしてそこにはいつからいたのか、一人の金髪の女性がいた。

エリスの外見の情報は無かったが
なぜかそれがエリスだと一目で分かった。

「いつからそこにいた」
「え?、たまたま通りかかっただけですよ。散歩が日課なんです」
「彷徨い子って?」
「よくここに間違って辿り着いてしまう人が多いんです
 迷い着く以外にここに来る方法はないの」

迷子のお陰という事である。
アレックスは自分の悪運の強さに対して思わずため息が出た。

「あんたがエリス・ロイヤルか」
「あら、私をご存知なの?」
「あなたの娘のスシアさんからの依頼で来ました」
「え?あの子が?」
「そうですよ、心配してました」
「あらあら、娘を心配させるなんてダメな母親ね私は」

欲に負けたと言っていたことからもっと駄目人間を想像していたが、
実際話してみるととても優しい感じの人だ。
とても落ち着いた感じがあり、
人を和ませる力を持つ声でもある。

「でもこんな所まで大変だったでしょぅ?
 なにももてなすモノなんてありませんけど、
 あっ、ウサギさんにもらった懐中時計があるんですけどお土産にいかが?」

エリスは手もとから懐中時計を取り出し3人に手渡した。
それは古びた時計で駅員のウサギが持っていたものと同じであった。
エリスはこの時計がここでしか手に入らない物だとかいろいろ説明してくれる。
アレックスは食欲に反して物欲が乏しいが
エリスから貰うとなぜか"嬉しい"といった感情が沸いた。

「ボクの時計の方がいい造りだし美しいな」

エクスポは時計という部分でこだわりがあるのだろう。
なにせ『時計仕掛けの芸術家』と呼ばれているのだから。
それに古びて汚らしい感じが好みに合わないのかもしれない。

「いや、あの。嬉しいんですけど・・・それより話が・・・」
「話?」
「はい、スシアさんに頼まれてましてね」
「スシアが?」
「心配してたって言いましたよね?様子を見てきてくれとの依頼でして
 出来れば連れ帰ってとも言っていました。」
「そうねぇ」

エリスは灰色のドレスをヒラつかせながら考える仕草をした。
少し沈黙の時間が訪れる。
故にどうしてもアレックスはエリスの外見に目がいった。
エリスは小柄で童顔である。
とても成人女性3人の母とは思えない。
4姉妹でしたと言われても疑いようがなかった。

そうこう思っているとエリスが考え終わったわと言わんがごとく指をパチンと鳴らした。

「じゃぁ帰っちゃおうかしら。
 娘の頼みを聞けない親なんてよくないわよね」
「え?」
「ん?何か?」
「あ、いえ・・・。よかったです。スシアさんも喜びますよ」

アレックスは少し驚いた。
というのももう少し手こずると思っていたのだ。
スシアは欲におぼれた母と言っていた。
それこそ説得などが必要と思い言い争いになるぐらいの心構えもしていた。
スシアの様子は普通じゃなかったし、こんな簡単に解決すると思っていなかった。
いや、だからこそなにか落とし穴があるような・・・。

「とりあえずそれならそうとさっさと帰っちゃいましょ!」

アレックスは少し心に雲を持ちながらも開き直る事にした。
うまく事が進んでいるならそれにこしたことはない。
が、

「ちょぃちょぃ、まてまて。こんなお宝を見殺しにしていけっていうのか?」

ドジャーが言う。
大金貨を親指で指差しながらドジャーは片口の端をにやけさせていた。

「こいつぁゴールドパウダー(金粉)なんかたぁ違う。本物だぜ?
 これを置き殺しっちゃぁお百姓さんに申し訳ねぇってもんだ
 ・・・ってことでもう少し頂いていくとするぜ」

ドジャーはまた右手のダガーでガリガリと金貨を削り始めた。

まったく・・・いやしいなぁ・・・
ってことでってなんだよ。
お百姓さんって誰だよ。
エクスポさんなら"美しくない!"って言うところだ。

「ドジャー。ボクは欲々しいのは美しくないと思う」

ほらね
まぁでも言う事に一理あるといえばある。
こんな危険な所にはるばる来たんだ。
せっかくだから少しぐらいはいいかも。


その時。
アレックスは少し冷たい空気を肌で感じた感じた。
まるで誰かの暗い心を空気に染み込ませたような・・・

「あ・・・あんた達・・・何やってんの・・・」

「へ?」

「アタシ・・・の金に・・・何・・・やってんの・・・」

「あ、これエリスさんの金貨だったんですか。す、すいません
 ほら、ドジャーさん。金貨削るのやめて!」
「チっ、こんなにあんだからいいじゃねぇか」
「ほんとすいませんねエリスさ・・・」

アレックスはそこで口を止めた。
エリスの様子があまりにおかしいからだった。

「あたし・・・の・・・お金・・・に・・・」

見る見るエリスの服が変色していく。
どちらかといえば白に近かったエリスの灰色のドレス。
それがドンドンと黒く染まっていくのだ。

「ちょ、エリスさん? エリスさん?!」

「ソレは・・・アタ・・・シの・・・お金だ!!!!きたねぇ手で触るんじゃねぇテメェら!!!!!」

突然エリスの手元からたくさんの紙幣が舞い上がった。
どこにどうやってこの量の紙幣がしまってあったのか。
ただそのおびただしい量の紙幣は渦を巻くように宙へとさかのぼっていく。
まるで竜巻のようだ。

「アタシの金に手ぇつけた罪は万死に値する!!!!殺しちまえ!!!!」

宙に昇りきった紙幣たちは空中で球を作るようにぐるぐると周り
圧縮していくように少しづつ固まっていった。
そして最後は一つのバカでかい塊となった。

その塊は轟音をたてて3人の前に落ちてきて地面にヒビを作った。
あまりにでかいその塊は体の奥からなのか声のようなモノを発した。

「ギ、ガ・・・・」

「な、なんですかこれ・・・・」
「でけぇ・・・」

その機械の塊は無機質な目でこちらを見据える。
少し動くたびにキシむような音をたてていた。

そしてたった二つ生えた大きな腕を大きく振り上げた。

「ス、スマイルマンだ・・・・」



スマイルマンは振り上げた大きな腕を振り落とした。





                 






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