「うっおあぁ!!」

振り落とされるスマイルマンの両腕。
それをアレックス・ドジャー・エクスポの三人は飛び散るようにしてなんとか避けた。

「ギ・・ガギ・・・ギュゥ・・・・」

鳴き声のような機械音が轟く。
スマイルマンの腕が振り落とされた地面は穴でも開きそうなほどにへこんだ。
もし腕に潰されていたらペラペラな切手人間が製造されていただろう。

「ちょ、これは無理でしょ!!」
「無し無し!ノーカン!」

「アレックス君。ドジャー。諦めは美しくないよ?」

「だってなぁアレックス」
「ですね。だって・・・」

二人がスマイルマンを見上げる。

「でかいし」
「かたそうだし」

ホントにでかい。
見上げなければいけない時点でギヴである。

「まぁとりあえず攻撃ぐらいしてみるか・・・」

ドジャーが両手にダガーを構える。
計8本。

「ごちそうをくれてやる!」

言葉と同時に勢いよく投げたダガーは
8本の直線を空中に引きながら飛ぶ。
聞こえるか聞こえないかの風きり音が鳴る。

そしてスマイルマンの体に見事命中した。

命中したダガーはカランとはじき返され
スマイルマンを軽く傷を付けた程度で満足して地面に転がった。

「ドジャーさん。口にあわないから返品だそうです」
「・・・・」

「アッハハハハ!!!私の金に楯突こうとわ!!!!愚か!!
 金こそ至上最極よ!金より素晴らしい物はない!それがこの世の理だ!」

黒エリスが叫ぶ。
さきほどまでの優しい心はオセロのようにすべて裏返しになってしまったようだ。
そして穏やかさを無くした男のような乱暴口調でエリスはしゃべり始める。

「殺れ!スマイルマン!!お金の罪は極重罪だ!!!!!!!」

スマイルマンの目が赤く光る。
そしてまた大きな右腕を払うようにして攻撃してきた。

「うっぉわあ!!」

3人はまたしても避けには避ける。
が、いつまでも避け切れるものじゃない。

「あっ」

避けた反動でさきほどエリスに貰ったアレックスの懐中時計が滑るように転がる。
時計はそのまま地面を滑り、黒エリスの足元で止まった。

「けっ!」

その懐中時計をエリスは踏み壊した。
時計はガシャンと悲鳴をあげながら潰れた。

「金と比べたら時間なんてもんはクズみたいな価値しかないわ!
 タイムイズマネー(時は金なり)だって!?時なんかと金を一緒にすんじゃねぇええ!!!!!」

黒エリスが叫ぶ。
いや、それよりもスマイルマンだ。
本当になんとかしないと・・・。

「エクスポ!!!」

ドジャーが叫ぶ

「大きな声で呼ばないでくれ。美しくない」
「うっせ!それよりも作戦だ。俺らの中で一番火力があるのはテメェだ
 俺とアレックスで時間を稼ぐからその間になんとかしやがれ!」
「ったく。人に頼む時は敬いという美し・・・」
「さっさとやれぇえ!!!」
「はぁ・・・・分かったよ」

3人が別々の方へと散った。

ドジャーがスマイルマンを錯乱しようと動き回る。
相変わらず猿みたいだ。
だが、やはり動きは凄い。
避けきれないと思う攻撃も消えたようによけ、
あげくには攻撃してきたスマイルマンの巨大な腕の上に乗っかる。

「アレックス!おめぇもなんかやれ!」

なんかやれって言われてもなぁ・・・。
僕にはあんな動きできないし・・・。
なにかひきつける物・・・
ツれるもの・・・

あっ。

アレックスはすぐさま手を腰に持っていった。

「エリスさん見てください」

アレックスは腰の高級マネーバッグを外して手にぶらさげた。
わざと隙間から中のクラウン(王冠)が見えるようにして・・・。

「ほぉ、値打ちモンだね。金目のもんは全部戴きだ!!!」

スマイルマンの赤い点がアレックスを見据えた。
そしてスマイルマンの体全体もアレックスの方を向き
大きな両腕が振り上げられる。

「げげっ!」

絵に描いたように焦りながらアレックスは振り向き逃げる。
そして振り落とされた機械の両腕は
アレックスの尻をかすめるように地面に叩きつけられた。

「カッカッ!ハンペンになるとこだったなアレックス
 おい!エクスポ!準備はできたか!」
「手際は美しささ」

エクスポはまた指でバァンとドジャーを撃つ仕草をした。
そしてゆっくりと歩き出す。
右手には懐中時計。
もちろんエリスにもらったものなんかではなく自家製のである。

「この一瞬までの作業は興奮にも近い感情があるよ」

エクスポは歩きながら言う。
少しずつコツコツと歩く。

「ラストを思い描くとどんな努力や過程もつらくはない。むしろ楽しみだよ」

エクスポの持つ懐中時計からチッチッチッチと音が聞こえてくる。
そしてそのままアレックスとドジャーの横を通りすぎる。

「いい時計だね!私のコレクションに入れてやろうか!!!!」
「美しくない。あなたは愚の手本のようだ。基の顔は美しいのに表情が醜い。歪んでる
 ボクは金欲に囚われる者が一番嫌いなんだ。美を失うから」
「黙れ!!!!」

スマイルマンの腕がまた振りあがる。
どう見てもエクスポを狙っている。
そして今にもその腕は・・・・。

「エクスポ!」
「エクスポさん!!」

「死ねぇぇぇえええ!!」

エクスポの時計の針が0をしめす。



「 スーパーノヴァ(これが芸術だ)!!!!! 」


瞬間。

辺りが無音の光に纏われたかのようだった。



大爆発。


としか表現できない爆発。
爆音轟音以外に聴覚に入るものはなく、
大きな赤黒い爆発の炎と煙しか視覚に入るものはなく、
衝撃以外に感覚が感じるものはない。

スマイルマンを爆心地に、
サンドボムかソリッドボムか、
古今東西見たことないほどの爆発。

物が吹き飛び。地面が弾け飛び。

アレックス達は全員爆風で吹っ飛んだ。


「てててて」

爆発がおさまり、アレックスが起き上がる。
そして綺麗に跡形もなく掃除された周りを見た。
スマイルマンは本当にあれほどの大きさがあったのかと言えるほどに跡形もない。
破片を組み立てても元の形になるとは思えなかった。


「おぃ!エクスポ!周りを巻き込むなっつっただろが!!」

エクスポはドジャーの声なんて聞こえていないようだ。
ただただ今の爆発に感動し、感涙し、感震している。

「チッ、」
「ドジャーさん。それよりエリスさんは!?」
「ぉわっ、そうだった」

アレックスとドジャーは急いで辺りを見回す。
さきほどの爆風でエリスも吹っ飛んでいるはずだからである。

「あそこです!」

アレックスが指差す。
爆発が空けた大きな穴の前にエリスはいた。
もとの灰色のドレスに身を包んだ少女のようにも見える一人の女性に戻っていた。

「エリスさん!!!!」

「ありがとうございます・・・。私の黒い欲望を吹き飛ばしてくれたのはあなた方が初めてです」

黒い欲望?
そういえばスマイルマンはエリスから舞い上がった紙幣が固まって出来上がった。
あの紙幣が、スマイルマンが欲のビジョンのようなものだったのだろうか。

「このダンジョンから出たいんですよね?出るためのアイテムはここに入っています」

エリスは足元、つまり地面の大きな穴の前に小さなパウチを置いた。
アレックスの場所からでもその大穴の中を見下ろせた。
穴から見える下の景色は、雲に隠れてうっすらとしか見えないが
どこかの街並が刻んだ砂屑ように広がっているのがかろうじて確認できる。
ここが相当の高さの空中に浮かんでいる場所だったという事が一目で理解できた。
足がすくみそうである。

「これで私はここに縛られる事は無くなりました。でも私が犯してきた罪は重いです」
「罪?」
「いつの世も、どこの世界も、罪を償う術は2つです。それはお金と・・・・」

お金と?    ・・・・!! まさか!!

「娘達よりもお金に天秤を揺らしてしまった時点で気付かなきゃいかなかった・・・
 でも取り返しがつかない・・・。
 でも・・・最後に・・・・    娘達は元気で笑ってますか?」

「エリスさん!はやまらないでください!」
「・・・あぁ。あんたの娘達は元気すぎて困るくらいだぜ」
「ドジャーさん!」

「そうですか」

ドジャーの言葉を聞くと。
エリスは最後に一度微笑み、最後の言葉を言った。

「娘達がいつまでも笑顔でありますように・・・・・・・・」



そしてアレックス達の目線の先にはいなくなった。






















-スオミ なんでも屋-




「そっか・・・・・母は・・・」


アレックスとドジャーはスオミに戻ってきていた。
戻り方はあまりにもあっけなかった。
なにしろゲートで飛ぶだけなのだから。
ただダンジョンの中では希少といえば希少である。

「罪を償う方法に"謝罪"ってのを思いつかなかったのかしらね・・・」

そして出てきたアレックス達は正直にスシアにエリスは死んだと話した。
スシアは冷静なようで目の奥は寂しそうだった。
当然だ。
母の死だ。
泣いたっていい。

だが事実がある以上どうしようもない。
スシアを元気付けてやる方法はないのだろうか。

やはり本当の事は黙っておいた方がよかったのだろうか。

自分の親の死の経験があったので戸惑った。
そっとしておくか。
それとも元気づけてやるべきか。

だが、
いや、"また"と言うべきか。
不覚にも予想外にも
元気付けをしたのはドジャーだった。

「そういえばスシア。オミヤゲだ。ほれ、おめぇのオカンからだ」

ドジャーが出したのは古びた懐中時計だった。
もちろんドジャーがエリスに貰った物でスシアへのプレゼントではない。

「これをあの母があたいに・・・」
「あぁ、しかもな "あんたら姉妹が時がたっても笑顔と共にありますように"
 な〜んて願いをこめた名前までそいつにゃぁ付いてる。知りてぇか?」
「・・・じらさないでよ」
「時計の名前はな。"スマイルマン"だとよ」
「"スマイルマン"・・・。・・・・フフ。女の子の名前を付けて欲しかったわね」

スシアが胸に懐中時計を当てた。
そしてひっそりと目を閉じた。

嬉しいのだろうか。
思い出に浸っているのだろうか。
それとも母を感じているのか。

(ドジャーさん。小粋な優しいウソをつくもんですね)
(なっ、ばか野郎!俺はなぁ、報酬が貰えないかもって事を心配してだな・・)
(はいはい。分かってますよ)
(それに半分はホントだろが)
(・・・・。うん。そうですね)

時計の針はチクタクと回る。
急がず。焦らず。だがなまけず。
刻々と"時"というものを積み重ねるように。
積み重ね。
それこそが美し・・・

「あっ」
「ん?どしたアレックス」
「そういえばエクスポさんは?」
「は?うぉ、ゲート一個余ってんだけど」

「・・・・」
「・・・・」

「「まさか・・・・」」



エクスポが不思議ダンジョンから出てきたのは
時計の針がさらに3日分刻んでからだった。








-不思議ダンジョン-


「・・・・まったく美しくない」








                 






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