「このドアか」
「ですね」


その大きなドアはあまりにも唐突にあった。
スオミの端。
最北西端。
そこにポツンとあった。
それは人目に触れようとしているようでもなく
それでいて隠れる様子もない。
ただそこに当たり前のようにあった。
不思議なドアである。

「ここが夢の国への入り口ってわけですね」
「カッ!ピーターパンを夢見たことない俺が夢の国へってか。自分で考えても寒気がするぜ」
「ドアの中・・・どうなってるんでしょ・・・・」
「うーっえ気持ちわり・・・なんか空間がグルグルまわってやがる」
「ま、入りましょうか」
「げ、アレックス・・・よくそんなすぐ決心つくな」
「決心がすぐつこうがつかまいが結局入るんですから早く入っちゃいましょうよ」
「・・・・なるほどな」


アレックスとドジャーは同時にドアの中へ足を踏み出した。
そしてまるで吸い込まれるようにドアの中の空間に包まれた。












気付くとココは


「・・・・どこだ?」

アレックスとドジャーが辺りを見回す。

まず線路とホームがある事でここが駅なのだと分かった。

だがそれ以外には何もない開け放たれた空間だった。
平行の地面がどこまでも続いているように広がっている。
そしてその先は果てしない空。
雲。青い空。

「どうなってるんでしょ・・・」
「さぁな。だがピーターパンは迷子らしいぜ」

風が強い。
どうやらここはとても高度な場所なんだと分かる。
もしくは宙にでも浮いているのだろうか。

「いらっしゃいませお客様」

突然声がした。

振り向くとそこにはウサギがいた。
いつからそこにいたのかもよく分からなかった。
だが目の前には間違いなく首から時計をぶらさげたウサギがいる。

「モンスターか!」
「いえいえ、私はこの駅の駅員のしがないウサギです。列車をご利用ですよね?」

「はい。乗せてください」
「お、おいアレックス・・・そんな即決・・・」
「さっきも言ったでしょドジャーさん。悩んでも結局乗る事になるんです」
「何いってんだ!さっきと今では状況が違うだろが!こういうあからさまに怪しい奴はパスすべきだ!」
「まぁまぁ、たしかに状況がちがいます。見てくださいよ周り。何にもないでしょ」

"不思議のダンジョン"と呼ばれるこの場所。
見渡しても

空と
地面と
線路しかない。

それ以外にはアレックスとドジャーとウサギがいるだけだった。
他には何もない。

もちろん入ってきたドアさえも。
すでに帰り道さえないのだった。

「進むしかねぇってか」
「そういう事です」

「ではお客様。ご案内してもよろしいですか?」

「あぁ」

ドジャーが返事をするとウサギが首から下げた時計を確認した。

「調度まもなく列車が到着します。幸運なお客様ですね」

ウサギの言葉が合図かのように地平線の向こうから列車が走ってきた。
煙を自信満々に吐き出し、線路に導かれている。
歯車を噛む音と蒸気の音が次第に大きくなってきた。

「さぁさぁ列車が止まりますお客様。こちらへこちらへ。
 あ、白線はこえないようにお願いしますね」

そしてその列車は駅の前でゆっくりと止まった。
こう見ると大きな列車だ。

ウサギは笑顔でドアの方へ手をやる。
アレックスとドジャーは誘導されるように列車に乗り込んだ。

「では、ごゆっくりと・・・・」

列車の扉が閉まると列車はまた走り出した。
ゆっくりとしたスピードからだんだん加速する。
機械の心臓音と煙の呼吸音を響かせ、
列車は先の見えない線路の先へと進んでいった。
ただただ直進する列車は一生戻れないような果てを目指しているようでもある。

「とりあえず座りましょうか」
「落ち着いたもんだなオメェわ・・・」

アレックスとドジャーは客車へと移動する。
列車がガタンと揺れるのと同時に客室の扉が開いた。
そして客席の様子を一目見てアレックスが口を開く。

「・・・・満席ですね」
「こんなに先客がいたとは・・・」

そこには客がいた。
それも大勢。
全ての席に。
しかもそれはどう見ても同じ現実の住人達だった。
見るからにさっきのウサギとは違う、現実を生きてきた雰囲気を漂わす人達。
それが生気のない表情で座席に座っていた。

「どうなってんだこりゃ」

大方の予想はつく。
スシアが言っていた。
この世界に入って帰ってこない者もいると
ここにいるのは現実世界に帰れない者なんだと分かる。

まぁとりあえず列車に乗っているしかない。
アレックスとドジャーは空いている座席を探した。
座席を探して何両かの車両をわたった。

「席、開いてないですね・・・」
「ったく、じゃぁ誰かをどかすか」

その時だった。

「ドジャー!!ドジャーじゃないか!!!」

突然叫び声が聞こえた。
その声はその車両の一番後ろの席からだった。

「エ、エクスポ!」

ドジャーも叫ぶ。
そしてその座席へと走っていった。
アレックスも後を追う。

「こんなとこで会えるとはドジャー。美しい偶然だ!いや、奇跡といった方が美しいかな
 でも君は相変わらずアクセ以外はきったない身なりだな」
「ほっとけ!」

ドジャーがエクスポと呼んだ男は清涼な顔だちをした男性だった。
一目で綺麗好きと分かるサッパリとした身だしなみ。
彼を見るとドジャーの格好はたしかに汚らしくも見えた。
アレックス自身もあわてて自分の服のほこりを手でパッパッと払った。

「ドジャーさんの知り合いですか?」
「おぉ、こいつは俺のギルメンのエクスポだ。簡単に言やぁルアス99番街のダチだな。
 エクスポ、こいつは最近知り合ったアレックスだ」
「これはこれは。ボクはエクスポといいます。ドジャーに似つかわしくない友達だね
 でも気に入ったよアレックス君。顔から心の美しさの破片が滲み出てる。よろしくね」
「あ、やっぱ分かります?こちらこそよろしくエクスポさん!」

僕の心の美しさを見抜くとは・・・この人できるな!
やはり聖騎士として清らかな心が表にも出てしまっているのだろうか!
きっと"よく寝よく食べ"って生活が清らかな心を生み・・・

「アレックスは結構あくどいぞ」

うるさいなこの人は!
体全体から醜いいやらしさが滲み出ている!

「それよりエクスポ、なんでこんなとこにいんだよ」
「愚問を。ボクが美しいモノを見たくて世界中飛び回ってることを知ってるだろ?
 当然不思議や夢といった美しい響きに興味があって入ってみたに決まってるじゃないか」

やっぱりドジャーの知り合いだとアレックスは納得した。
このエクスポという人もなにかズレたところがある。
ドジャーの知り合いはやけに王国騎士団にはいなかったような個性的な人物が多い。
だが嫌いなタイプではなかった。

「でも入ったはいいけど出られなくなってね」
「出られなく?やっぱ出られないもんなんですか?」
「出方がわからないんだよ。だからとりあえず列車に乗ってみてるのさ」
「降りないんですか」
「調度その話をしようと思ってたんだ」

エクスポは片手を列車の窓につけて外を眺めた。
相変わらず外は地面と空以外の景色はなかった。

「いや、さ。何もない景色は退屈でね。
 たしかに空も美しいし"シンプルイズザベスト"という言葉もある。
 そういった意味ではここも美しい場所だ。探せば永遠の美さえ見つかりそうさ。
 だけどここは見かけだけで本当は美しくない。なにが夢の国だろう。
 見てよ乗客の顔を。出られない絶望と何もしなくてもいいというネガな心が滲み出ている。
 人の一番美しい顔は笑顔だ。苦渋の顔は愚と醜の骨頂さ。つまりここは最悪なのさ」

エクスポという人は「美」を基準に話をする人のようだ。
アレックスはそこまで美的センスに興味はない。
だが言いたい事は分かる。
こんな場所にいつまでもいたらおかしくなりそうだ。
そしてアレックスとドジャーの目的はエリスを探す事である。
とりあえずこの列車が"エリス行き超特急"というわけではないだろう。
そう考えるとまず降りる事だった。

「駅があるから列車から降りる事自体は簡単なんだ」
「じゃぁ降りればいいじゃないですか」
「それがどこに降りればいいか分からないんだ。どの駅にも醜いモンスターがはびこっていてね」
「だけどよぉ、動かなければ始まらねぇじゃないか」
「それはそうだけど危険を掻い潜った先にもし出口が無かったら?」
「最悪だな」
「さらにこの列車に帰れなくなるかもしれない。この列車と駅の周辺が唯一の安全地帯なんだ」
「なるほどね」

駅に乗っている人たちが列車から動かないのも頷ける。
手がかりが無さ過ぎるのだ。
カンだけを頼りに危険に身を投じるわけにはいかない。
だからドン詰まり状態でとりあえず列車に乗っているのだろう。

「でもエクスポ。お前詳しいな」
「まぁね。伊達に3週間もここにいないよ」
「「さ、3週間!?」」
「乗客の中には数ヶ月、数年って人さえいるよ。ま、だからいい加減ボクも外に出たいんだ。
 一人じゃ危険だと思ってたけどドジャー達もいればモンスターも怖くなさそうだ
 君達に出会えた美しき偶然を期にここを出ようって思ったわけさ」
「俺たちはココにちと用事があんだ。すぐに帰るわけにゃいかねぇ」
「ドジャー。またどうせ一攫千金の金でもかかった依頼かなんかなんだろ?」

そのとおり!
アレックスは関心した。
さすがドジャーのギルメンだけはある。
よく分かってるなぁと深く思う。

「まったくドジャーはねぇ・・。ボクがいつも言ってるだろ?
 何事も積み重ねだって。積み重ねて積み重ねてそして最後に華々しく。
 これが最高の美だって。いつの時もパっと手に入るものは美しくないよ」
「いい事言いますねエクスポさん!聞きました?ドジャーさん!。1に努力。2に努力ですよ!」
「カッ!俺は1,2,3,4、と飛ばして5に金なんだよ」
「「・・・・・・」」

エクスポとアレックスが同時に呆れてため息をつく。
二人とも期間が違えどドジャーに振り回される仲間という事で息はピッタリだった。

「まぁ何度も言うけどボクはここから出たいからね
 って事でそのためなら君達の手伝いも惜しまないよ」
「ほんとですか!?」
「いい判断だなエクスポ」
「もちつもたれつだよ。で、君達の目的は?」
「エリスという人物を探してる」
「あ、それなら手がかりがあるよ」
「ほんとか!」

ドジャーがエクスポに飛びつく。
エクスポは飛びついてきたドジャーの手を汚らわしいといった態度で払い、話を続けた。

「さっき駅があるって言ったよね。ボクが知っている駅は5つだ」
「ふむ」
「まず"ガリバー"と"くるみ割り"あと"石化"と"ボス"・・・・・そして"エリス"」
「うっお、わかりやすいな」



"次は〜〜エリス〜〜エリス〜〜お降りの際は忘れ物が無いかご確認の上・・・・"


まるでアレックス達の会話を聞いていたかのように車内にアナウンスが流れる。


「決まりだな」

列車の窓から顔を出すと3人の目に1つの駅が映った。








                 






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