S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<金欲と時計と不思議の国>>






「まったく。ルエンもパンピーにお使いを頼むなんてねぇ
 ま、急ぎの物じゃないし気軽に運んでくれればいいよ」

「「あ〜い」」

アレックスとドジャーがなんとなくの返事をする。

ここはスオミ。魔術師の町である。
魔術師の血が色濃く伝承されている由緒あるこの町は、
ニミュ湖という巨大な湖の中心に孤立した形で位置している。

一色の青の床と青の造形に彩られたこの神秘の街
そのなんでも屋。
アレックスとドジャーはその店主"スシア・ロイヤル"と話をしていた。

ここに来た理由はルエンからお使いを言い渡されていたからだ。
大層お怒りのルエンに頼まれちゃしょうがない。
なによりこっちに非があったわけだからなおさらだった。

だけど最近こういう事が多いなぁとアレックスは思ったりもした。

「あ、ついでにルエンにたまには実家に顔出せって言っておいて」

このスシア・ロイヤルというスオミの何でも屋の店主。
この女性はルアスのなんでも屋の店主ルエン・ロイヤルとは姉妹関係である。
ロイヤル一家は知る人ぞ知る商人家系であり、
彼女ら姉妹はそれぞれの町でなんでも屋を営んでいる。
スオミのスシア・ロイヤルと
ルアスのルエン・ロイヤルに加え、
ミルレスのマリ・ロイヤルを含めた三姉妹であった。

彼女らはとても顔の作りがそっくりで傍目では見た目のちがいが分からないほどであった。
まるで同じマネキンを基に3つの女性を作ったようである。
噂では三つ子との噂だが、
まるでコピーしたような三姉妹
実際アレックスとドジャーはスシアに会うのは初めてだが、
まるで見た目もしゃべり方も同じなのでルエンとしゃべっている気分であった。
だから初対面にも関わらず何の差し支えもなく会話ができていた。
かれこれルエンのお使いついでに30分スシアと立ち話をしている。

「"実家に顔出せ"って、スシアさんとルエンさんの実家ってどこなんですか?」

「あたいらの実家はアベルって都市だよ。知ってるかい?」

「アベル・・・僕の知らない街だなぁ・・・」
「俺ぁ知ってるぜ。金持ちの多い商業都市だろ?まぁ地図に載ってないからな」

アレックスは商業都市という響きに納得した。
生粋の商売人であるロイヤル姉妹に似合う故郷である。
ロイヤルという名字もどことなく貴金の匂いがする。

「あそこは昔稼がせてもらった事があるぜ
 なんつっても盗賊にとって住みやすい感じがあったからな」

金のあるところに盗賊は生えるものなんだとアレックスは納得した。
そしてふと思う。

「僕もアベルという街に行ってみたいです」
「あーやめとけやめとけ」
「なんでです?さっきはドジャーさん絶賛してたじゃないですか」
「地図に載ってないっつっただろ?公式に行き道が発表されてねぇ
 もちろんゲートはおろかウィザゲの材料さえそこらじゃ見たことねぇよ。
 裏ルートを使うと金が張るしな」
「そっか・・・残念です」

アレックスは残念に思った。
見たこともない所にはきっと見たこともないような物で溢れているに違いない。
もちろん食べ物もだ。

あぁ・・・。そう思うとやけに残念に思えてきた・・・
もしアベルに極上においしい料理があったとしても
僕はもしかしたらそれを食べずに一生を終えてしまうのかもしれない。
なんてことだ!
そんな悲しい事があっていいのか!

あぁ・・・逃がした魚は大きいなぁ・・・。
いや、ちょっとコトワザの使い方が違うかな
あ、でも魚料理を食べたくなってきた。
スオミの周りのニミュ湖でおいしい魚ってとれるのかなぁ

「連れてってやれない事もないけど?」

突然スシアがなんでも屋の中からそう言った。
もちろんアレックスはそれに飛びついた。

「マ、マジっすか!?」
「マジっすよ。・・・て言ってもあたいが連れてってあげるってわけじゃないんだけどさ」
「っていいますと?」
「まぁ前置きを聞いてちょーだい」

アレックスはなんでも屋の前の地面に正座して聞く態度をとった。
まるで"待て"をくらった犬のようだ。

「まずこのスオミという街は形と家によって巨大な魔方陣を形成しているの
 それでこの街には魔力が渦巻いているわけね」
「ふむ、なるほど」

声と一緒にドジャーが頷いた
それと同時にアレックスも頷いた。

ここに来たときから体に魔力が滲んでくるような感覚があった。
その正体がそれだったわけだ。
ここで優秀な魔術師が育つ理由は家系という理由だけではなかったのだ。

「でもそれゆえにこの辺りは空間や時空もとてもあやふやなの
 たとえばイカルスやレビアに通じる道や使者がいたという噂もあるわ」
「ほぉ、じゃぁここにもアベルへ繋がる道があるって事か?」
「いいえ、そういう事じゃないわ」
「?」
「スオミの北西。そこへ行ってみて。そこに一つのドアがあるわ
 そこへは怖がらずに飛び込んでみて。そしてのその奥の奥。そこにある人物がいるわ
 その人がもしかしたらアベルへの道を開いてくれるかも・・・。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!そのドアはどこに繋がってるんですか?!」
「それがよく分からないんだよ。噂だけよ」
「いい情報じゃなさそうだな・・・」
「安心して。そこへ行った人も帰ってきた人も大勢いるわ。ただし・・・。
「帰ってこなかった人も大勢いるってか」

スシアは黙って頷いた。

「それでその奥にいる人物というのは誰なんです?」
「信用に足る人物なのか?」

「・・・・」

スシアはいきなりうつむいて黙り込んだ。
その沈黙具合の感じがルエンに似ていると改めて思う。
そしてだからこそこの沈黙には後ろめたい事があるときのものだと分かった。

長い時間のような数秒がたったあと
スシアは顔を上げて言った。

「そこにいる人物はあたい達ロイヤル家の母よ」

「え?!ルエンさんやスシアさんのお母さんですか?!」
「なるほど、てめぇのオカンなら商業都市アベルに連れてってくれるかもって事か」
「ただ・・・」

ただ・・・
スシアは突然そう言って盛り上がっているアレックス達の話に割り込んだ。
そして続ける。

「信用に足るかは分からないわ」

「え?」
「何言ってんだ。てめぇのオカンだろぉよ」

そして片時だけ息を呑んでまたうつむき、
そしてさらに真顔になって話を続けた。

「あの人は・・・・。アベルの中で溢れるお金に取り付かれてしまったわ
 あの人はもうあたい達の母であって母じゃない・・・もうあたい達の事さえ分からない・・・
 お願い!母を!母の様子を見てきて!そしてできれば連れ帰ってきて!」

「・・・・」
「・・・・なんかやっかい事みてぇだな」

今の話でアベル行きの話はこじつけだとアレックスとドジャーは突発に理解できた。
そして助けを求めるスシアの心の声も聞こえる。
本題は最初からここだったのだった。
アレックスとドジャーに母の様子を見てきて欲しいという事。
そういうお願いを今されている。

ドジャーは面倒くさそうに耳をポリポリとかいた。
同時に耳にぶらさがるピアスが揺れる。

「ドジャーさん・・・」
「まぁ待てアレックス。おいスシア!」

「・・・はい」

「俺たちゃぁ・・・。いや、少なくとも俺は人の頼み事なんざ聞く人間じゃぁねぇ
 それがあったかいホームドラマのためときたらさらにクソくらえだ。
 だがな、一つだけその依頼を受ける引き鉄になるものがある」

「・・・・お礼ならなんでもするわ」

「よっしゃ!いくぞアレックス!」

結局それか・・・
アレックスは思う。

でもまぁたしかにボランティアで危険はおかせない。
見返りくらいはあったほうがいいかな。

見返りか。
昔の自分ならそんな事・・・・。

「金狩りに行くぞアレックス!」

まったくこの人は金金って・・・

・・・金・・・
・・・金欲・・・か・・・

スシアは金に溺れた母と言っていた。
その娘のルエンでさえも一時期金欲に負けて愛を失っていた。
だが家族愛を失うほどとなるとどうなっているのか。
傾いた金と愛の天秤。
ルエンとその母を血筋というだけで同じ過ちを踏んでいると考えるのは失礼かとも思った。
だがその母もルエンと同じくまだ改心の余地があるかもしれないとも思える。

「スシアさん。少しでもいいですから情報はないですか?」
「情報・・・」
「そりゃそだな。とりあえずこれから行く所の情報くらいないのか?」
「行き先はあたいもよく知らないけれど、まるでお伽の国のようであると聞いたことあるわ」
「は?メルヘンか?夢の国とか虫唾が走るんだけどよぉ」
「だけどいい所ではないみたいよ」
「よく分かんないですね」
「そう。だから人はみなそこの事をこう呼ぶわ 『不思議のダンジョン』」
「不思議ねぇ・・・」
「頑張ってね・・・」
「あぁ、気にすんな。金がかかってりゃ嫌でも頑張るぜ俺わ」
「・・・・」
「じゃぁ行ってきますねスシアさん」

ドジャーがなんでも屋に背をむけて歩き出した。
アレックスもなんでも屋にむけて大きく手を振り、ついていった。
青い地面を踏みしめ、アレックスとドジャーがなんでも屋から遠のいていく。

「・・・・待って!」

それを呼び止めるスシアの声
カウンターの中からの精一杯の声であった。
それで二人は足を止めた。

「最後に・・・母の名前だけ」

「んあ?そんなんどうでもいいけどな」
「そんな事ないですよ。教えてくださいスシアさん」

スシアはこくんと頷き
そしてゆっくりと口を開いた。


「母の名前は・・・・  エリス。 エリス・ロイヤルよ」








                 






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