「HAHAHAHA!この『ナイトマスター』を恐れt・・・・って何飯食ってんだ!」

ホロパチャーハンを口いっぱいに詰め込んでいるアレックスにディアンは叫んだ。

「もぐ、あとにひてくだはいよ」
「飯を後にしろ!」
「チャーヒャンがさめひゃうじゃないでふか」
「口に物を入れながらしゃべるなぁぁ!!!」

いろいろめんどくさい人だなぁとアレックスは思う。
とりあえずディアンの怒りは冷めそうにないがチャーハンは冷める前に・・・
そう思ってアレックスはまた口にチャーハンを詰め込む。

「くそぉこのナイトマスター様を愚弄しやがってぇぇえ!」

「あれ?師範。また何かもめ事ですか?」

突然トイレのドアが開いて中から短髪の男が出てきた。
ディアンを師範と呼んでいる事から《騎士の心道場》の門下生だろう。

「おぉ、ツィン!聞いてくれよ」
「どーせまたたいした理由のケンカじゃないんでしょ?」

さすが弟子。よく分かっている。
だがアレックスはそれよりこのツィンという男が気になった。
ツィンといえば有名な二刀流剣士『両手に花』のツィンの事だろうか。
かなりの剣の使い手と聞く。

そっとアレックスがツィンの腰に目をやる。
ソードが二本。
あちゃぁ・・・ドンピシャ。

「まぁ師のケンカは弟子のケンカ。しょうがないから俺も加勢しますよ
 竹刀の練習試合ばかりで腕がナマり気味でしたし」

この人も僕と戦う気なのか。
これまためんどくさい・・・・
んー・・・・そうだ。

アレックスは一度チャーハンを食べるのを中断してツィンに話しかけた。

「えっとツィンさん。残念ながら僕は二人いないのであなたの相手はできません
 でも安心してください。代わりにあなたの相手はこの人がします」

アレックスは右手に持つスプーンをドジャーの方に向けた。
第三者顔で様子を見ていたドジャーは一瞬状況を飲み込んでいなかったが、
やっとスプーンの先が自分に向いている事に気付いた。

「はぁぁ!?俺を巻き込むなよアレックス!」
「まぁまぁドジャーさん。長いものには巻かれろっていうじゃないですか」
「使い方が全然違う!」

ドジャーがアレックスの耳元で叫ぶ。
うるさいなぁ。ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃないか。

「HAHAHA!ツィンも実戦をドンドン積んだほうがいいからな。調度いい
 前座にツィンVS盗賊 その後に俺様VS元王国騎士といくか!」

「ちょ、勝手に話を進めんなよ!」
「あれ?盗賊さん。ナイトマスターの弟子であるこの俺と戦うのが怖くなったかな?」
「うるせぇ。テメェは道場で並んでエィ!とかヤァー!とか言ってな」
「はん!コソコソジメジメしたなさけない泥棒盗賊のくせに」
「・・・・今何つった?」
「あんたは暗みをズルズル這い回る汚ねぇ泥棒猫だっつったんですよ」

ドジャーがバンっと手をテーブルに叩きつけた。
テーブルの上の物が驚いて揺れる。
ご自慢の大きなピアスもブリンブリンと揺れて、その横では血管が浮き出ている。
これが堪忍袋の緒が切れたってやつだろうか。

「オーケー、買ったぜその喧嘩。高額買取だ。ツリはいらねぇ死んじまいな。
 覚悟しろよ、99番街じゃ酒場の口ゲンカで死人が出たなんて月刊運動だぜ?」
「まぁ死人になるのはあなたですけどね」
「うるせぇ、死ぬのはテメェだバーカ」
「バーカっていうアホがバカです」
「んだと、このトリプルベーコンヘクサバーカ!」
「な、どういう意・・・」

「ツィン!!!」

突然ディアンの大きな声が響く
師『ナイトマスター』の突然の渇にツィンは少しビクっとした。

「《騎士の心道場》の門下生なら言葉でなくて槍と剣でだまらせろ」
「は、はい。すいません師範」
「お前はまだ戦士だが俺様の《騎士の心道場》自慢の弟子だ。
 そしてちまたで『両手に花』と呼ばれるほどの二刀流剣士じゃねぇか。
 剣術の美しさは芸術とまで言われているのにその名声が安っぽくなるぞ」
「すいません・・・・」

「ケッ、なぁにが『言葉でなく』だ『安っぽくなる』だ
 元はてめぇの安っぽいアレックスへの因縁付けが発端じゃねぇか」

「んだとぉぉぉお!言わせておけばこのチンピラ盗賊が!!!」
「し、師範・・・おさえて・・・・槍と剣でだまらせるんでしょ」
「う、うむ・・・そうだった」
「安心してください師範。俺があの盗賊を無口にさせてやりますよ」
「HAHAHAHA!頼もしいなツィン!それでこそ俺様の一番弟子!
 俺様と騎士の戦いの前に道場で鍛えた全てをあの盗賊ぶち込んできてやれ!」

ディアンがツィンの背中をボンっと叩いた。
師匠の言葉と押しに芯が通ったのか、ツィンの目つきが変わった。

「覚悟してください盗賊さん」
「カっ!せいぜい師匠の前で情けねぇ姿をさらさないよぉにな
 店ん中じゃナンだから外に出ようぜ。アレックス!食ったら出てこいよ!」
「むー!」

多分相槌だろうと判断してドジャーは席を立った。
続くようにディアン・ツィンの二人も席を外して出入り口へと歩む。

ガランガランという音を鳴らしながらドアを開き出ると深夜の暗闇が広がった。
外は夜だけに少し寒い。
三日月が酒場を見下ろして笑っている。
酒場から漏れる灯りが暗い99番街の一角を照らしていた。
ドアの横には最初にドジャーとアレックスが殴った可哀相な二人の客が
尻を月に向けた格好で転がっていた。

「さぁてと・・・やるか」
「《騎士の心道場》の名にかけて俺は負けません」
「あぁそりゃ困ったな。じゃぁ誰が負けるんだ?対象者が見当たらないな」
「負けて地面に転がってからも同じこと言えるといいですね」

ドジャーとツィンが酒場の前でお互い距離をとって立ち合う
ドジャーが両手にダガーを抜いてクルクルと回した。

ツィンも腰から二本のソードを抜いて構える。
見事な構えだ。
『両手に花』と呼ばれるだけあってまるで両手に花が咲いたかのようにも見えた。
さらに美しいだけではなく隙と無駄がない。
このツィンという男。偉そうな事を言ってただけじゃない。かなり出来る。
・・・・・・とドジャーは見た目で適当に想像してみた。

「HAHAHAHA!では、始め!!!」
「なぁにが『始め!』だ。ここは道場じゃないんだぜ」

開始の合図がなされてもドジャーは気を引き締める様子がない。
相変わらずクルクルとダガーを回すだけだった。
その様子に腹が立ったのかツィンが剣を両手に喋りだした。

「試合が始まったんですよ盗賊さん。なんですかそのチャラけた態度」
「あぁん?ここは道場じゃねぇっつただろ。んなもん畳の上で言いやがれ」
「礼儀は大事です」
「カッ!そんなもん俺の大事な物ランキングでは軽く圏外ッスわ」
「・・・・」

ツィンが少し黙りこんで話し始めた。

「盗賊さん。やはりあなたでは俺には勝てない」
「あぁん?」
「積んできたモノの差です。あなたが弱いものイジメをしてた時も
 俺は道場で汗水垂らして技を洗練する努力を積んできました」
「ほぉ、んで勝てない因子はなんだ?」
「俺の二花剣の構えはどのような攻撃がくり出されようと対応できます
 しかもこの二本の剣からくり出される攻撃の組み合わせは・・・・無限大です」
「アッソ」

そう言いながらドジャーはダガーを腰にしまった。
そして何やらパウチから取り出す。

「・・・・どうして立会いの途中に武器をしまうのです。臆しましたか?」
「だれがテメェなんかにビビるかよ。
 武器をしまったのはテメェを倒すにはコレだけで十分だからだ」

そう言ってドジャーが見せたのは二つのサイコロだった。
ルエンのなんでも屋からこっそりパクってきたものである。

「人をなめるのも大概にしてください!」
「ウソじゃねぇよ。テメェはこの二つのサイコロにやられる。無様にな」
「・・・・・・さてはそのサイコロに何か仕込んであるな」
「さぁ〜〜〜てね♪道場産の温室育ちな強さなんか怖かねぇってのを見せてやるよ」

二つのサイコロを手の中で遊びながらニヤニヤと笑うドジャー。
だがツィンも油断しない。
油断と慢心に関しての心情論は道場で嫌というほど聞かされていた。
何かあると踏まえて十分に警戒する。

「さぁて時間だ。ほ〜〜〜ら・・・ヨッ!!っと」

ドジャーは思いっきりサイコロを空中に放り投げた。

「クッ!」

ツィンが上を見上げる。
夜空に二つのサイコロが舞っている。
まるで暗い空に飲み込まれているようだった。
見れば見るほど怪しい。
いきなり煙でも吐き出しそうなサイコロである。

突然ヒュンっ!という音が周りに響いた。

ツィンが体に軽い衝撃を感じた。
どこへの衝撃かはよく分からない。
何かが滴り落ちる音が聞こえる。
そしてなぜか体から力が抜けていく。
何が起こったかよく分からない。
だがツィンは目線を下げると状況を把握した。

腹に一本のダガーが生えていた。

「戦闘中に余所見しろって道場で習ったのかい?」

ドジャーは腰にしまったはずのダガーをクルクルと回していた。
だがそれも左手だけの話で右手のダガーはツィンの腹に出張中だ。

そして今頃になってサイコロが空から落ちてカランっという音を奏でた。

「投げダガーだって・・・・」
「おーぅ、俺の十八番だ」
「・・・・サイコロは・・・ただ注意をそらすための物だったのか・・・・」
「当たり前じゃねぇか。サイコロで人を倒せるかっての」
「・・・クソォ・・・・修行の成・・・果を・・・・・」

『両手に花』と呼ばれる男の自慢の両の剣は手から離れ、
まるで花びらが散ったように地面へ落ちた。
そしてツィン自身の体もガタンと崩れる。

「実力が出せるか出せないかなんてどうだっていいんだよ
 問題なのは最後に立っているかどうかって事だ。出直してきな」




                 







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