「うわぁあ!」

アレックスは吹っ飛んで露店の一つに突っ込んだ。
崩れ落ちる商品の不協和音が鳴り響く。
商品が土砂崩れ後のように山済みになる。
その商品の山からアレックスはガラガラっと音を立てて首を出した。

「ガハハ!他愛のないことだな!騎士さんよぉ」
「まだ・・・これからです!」

アレックスは立ち上がって槍を構え直した。
目の前にいるブレーブというゴツ男。
アレックスを吹っ飛ばしたのはこのブレーブという男の盾だった。
このブレーブという男の装備。
右手に盾。左手にも盾。
両手に盾という異種なるものだった。

「攻防一体とはこの事だぜ坊主!」
「くっ!」

アレックスはもう一度構えた槍を思いっきり突き出した。

だが、結果はさっきと同じである。
突き出した槍を、ブレーブは盾でガードしがてらそのままその盾を叩きつけてくるのだ。
アレックスはまた盾を腹に食らい、吹っ飛んだ。

今度はさっきとは違う露店に突っ込む。
商品が飛び散り、アレックスは露店の店主にぶつかって止まった。
チラかった露店のシートの上でその店主と目が合う。
「あ、・・・おじゃまします」「・・・いらっしゃいませ」
店主にげんこつを一撃もらった。追加ダメージ HPが10減った・・・ってか?

「ハッハッハ!そんなんでルエンの姉御に逆らおうなんてな!」

ブレーブは両手の盾をぶつけ合わせてガンガンッと音を鳴らした。

両手の盾というのは単純なりにやっかいであった。
広範囲をガードできる上にカウンターを狙いやすい。
突く、なぎ払うしか攻撃方法のない槍では
最初から防御を狙っているブレーブに攻撃を当てるのはかなり難しく、
アレックスはほぼ間違いなくカウンターを食らってしまう。

「あら、ブレーブに攻撃するのが怖くなったようねチキン騎士さん」

少し遠めの所からルエンの野次が聞こえる。
ルエンは戦闘をブレーブとカブに任せっきりで
自分は立って見ているだけだった。
アレックスは戦ってもいないルエンの野次に一瞬ムッとしたが
挑発に乗ってはいけなかった。

ブレーブは攻撃してくるのを待っているのだ。
ブレーブの攻撃は防御から始まる
カウンター狙いである故にブレーブは先に攻撃はしてこなかった。

だがそこが狙い目でもある。
ならば近づかずに攻撃すればいいのだ。

アレックスは左手で十字を画いて指を突き刺す。
ブレーブの足元に魔方陣が現れた。

「む、」
「アー・メン」

指を上へ向ける。
魔方陣からパージフレアの青白い炎が吹き上がった。

「どうだ!!」

アレックスが叫んだ。

だが、
炎の中から現れたのは健在のブレーブの姿だった。

「ガハハ!騎士のくせにパージフレアが使えるのはなぁ。驚いたぞ騎士野郎」
「くっ、なんで・・・」
「俺の左手の盾が見えるか? マジックネムアっつぅ盾だ」

マジックネムア。魔法防御力の高い盾である。
あれならパージフレアの炎を防ぐことも可能だろう。
ブレーブはその盾を真下に突きつけてパージをガードしたようだった。
無傷というわけではないが衣類が少し焼けた程度の損傷しかない。

「聖騎士<パラディン>とは珍しいわね。ブレーブ、気をつけな!」

また遠くからルエンの声が聞こえる。
あぁやって言葉で補助をする気なのだろう。
アレックスには得一つない声なのでウザいと感じる。

「分かってるぜ姉御!まぁどうせ俺の盾の前では全て無力だ!」

ブレーブはまた両方の盾をぶつけてガンガンと音を鳴らしていた。
その姿を見てアレックスは
小さい頃レビアのオモチャ屋で見たシンバルを持ったゴリラの人形を思い出した。
シャンシャンシャンシャン ピッピッピッピッ。
あれが欲しくて欲しくて。

いや、そんな場合じゃない
まずあの盾をどうにかしないと
だが槍も魔法も効かない。
打つ手がなかった。

アレックスは考えた。
どうすれば勝てる。
槍を出しても盾で防がれ、魔法を撃っても盾で・・・
ん、って事は・・・

思いついてアレックスは再び胸の前で十字を画く。

「またパージか。何度やったって無駄だ!
 俺の盾の前ではどんな攻撃も無力無力!!」

再びブレーブの足元に魔方陣が現れる。
アレックスは指を上へ突き上げた。

「アー・メン」

魔法陣から青白い炎が吹き上がる。

「きかーーーーーーん!」

ブレーブが盾を下へ突きつける。
そしてまたもやいともたやすくパージを防いでしまった。
だがその瞬間だった。

「ん、しまっ!」

ブレーブが叫ぶ。
アレックスの槍がブレーブに向かって突きつけられていたのだった。
アレックスはブレーブがパージのガードのためにネムアを下へ向けた瞬間を狙っていた。
左手のマジックネムアが下へ向いている瞬間ブレーブの左半分はがら空きだからだ。
しかもブレーブ自身の注意も一瞬パージにいっている瞬間である。
まさにその一瞬の隙を突いたのだった。

勝った。アレックスがそう思った瞬間だった

「イィッーーーーーーーー!!!」

突然空中からカブが飛んできた。
そしてキックでアレックスの槍を蹴り付けた。
小柄な体だったが飛んできた勢いが体重ごと乗っていたせいで槍は弾かれた。

「クッ!!」

「ナイスだよカブ!!」
「イィ!」

ルエンの声がまた聞こえてくる。
カブはルエンに誉めてもらえて嬉しそうだ。
両腕に装備した爪をカンカンとぶつけて音を鳴らしている。

あの爪どこかで見たことがある。
修道士用の爪みたいだが、修道士が身に付けているのを見たんじゃなくて・・・
あぁ、そうだ。たしかサラセンの森かなんかでモンスターが付けてたヤツだ。
ハロウィンなんたらってヤツである。

「わ、わりぃアレックス・・・」

アレックスの背後からドジャーの声が聞こえる。

「何してるんですかドジャーさん!こっちはブレーブを倒せる瞬間だったんですよ!」
「い、いやさ、そいつすばしっこくてさ。その・・・逃がしちまって・・・」
「・・・」

カブの猿のような小柄な体がブレーブの肩に乗っかった。

「俺らが揃えば怖いもん無しだぜ!」「ぜ!」

ブレーブが両方の盾をガンガンとぶつけて音を鳴らす。
肩の上のカブは両腕の爪でカンカンと音を鳴らした。
こう見ると大猿小猿といった感じである。

そんな事よりアレックスはドジャーの方を睨むように見た。

「『俺はチビ男をやる!!』・・・・偉そうに言ってましたよね」
「う・・・」

アレックスの皮肉にドジャーは反論出来ない。
実際今また振り出し状態に戻ってしまったようなものである。

「俺と違ってテメェの仲間は頼りにならないようだな!」「な!」

「んだとてめぇら!コマ切りにして露店の店頭にならべてやろうか!」

ブレーブとカブの声にドジャーが怒れた声で叫び返す。
あの二人組みのしゃべり方には人を逆上させる効果がありそうだ

そのドジャーの肩にアレックスはポンっと手を置いてなだめる。

「まぁまぁドジャーさん。今の時点では反論できませんよ
 カッとなったら相手の思う壺です。行動で返してやりましょう」

アレックスの言葉にドジャーはハッとなって落ちつく。

「あぁ、そうだなわりぃ」

それに対して今度はルエンが大声をあげた。

「アハハハ!騎士野郎は口も出せないチキン野郎のようね!」
「ようね!」「ね!」

ルエンとブレーブとカブの笑い声が広場に響く。
その大きな笑い声は広場の端まで聞こえそうだ。

「ドジャーさん」
「ん?」
「コマ切りにしてやりましょう」
「お、おちつけ・・・」



                 




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