S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<広場とお店と悪女ルエン>>




「だーから〜・・それじゃぁまた生き倒れるっての。こいつみたいに!」

そう言ってドジャーはお金をくれとすがってくる乞食を蹴飛ばす。
ここはルアスの一角。
雲が太陽を守るように隠しているが、それでもいい天気の内に入るだろう。

そこには王国騎士団の生き残りである聖騎士アレックスと
『人見知らず』と呼ばれるチンピラ盗賊のドジャーが並んで歩いていた。
二人は出合って三日目。
だがはたから見たら長年の知り合い通しにも見えるだろう。

歩きながらドジャーがアレックスに今の世の中の生き方を語っていた。
生き倒れたら生き倒れたでいいかと思っていたアレックスだったが、
ドジャーが結構真剣に教えようとするのでその話に耳を傾けた。

「まず一番安全なのは空き巣だ。家に入るまで得の具合は分からないが
 ローリスクハイリターンを期待できる事もある。オススメだ」
「宝くじ感覚ですね・・・」
「やり方は簡単。家のドアをノックして"返事がなかったら入っていい"って事だ」
「・・・なるほど」
「あとお前の場合、実力はかなりのもんだから戦耳狩り狩りもいいかもな」
「ガリ・・・ガリ?」
「あぁ、戦耳(ウォーリアーイヤリング)を狩ってる人を狩るんだ。これは儲かる」
「虫より虫かごを狙えってことですか・・・」
「ま、そういうことだな」

突然あたりが騒がしくなった。
ルアス名物「中央広場」に着いたからであった。
地平線・・・と言っては大げさだが、それぐらい広いんじゃないかという広場。
人・人・人。見渡す限りが露店と買い物客で溢れている。
そこら中から聞こえる元気のいい商売声のせいで
小声ではかき消されて無くなってしまいそうだった。






「ここに連続店舗強襲犯がいるんですね」
「あぁ。ぶっとばしてやるよ」

ここに来た理由はそれだった。

ここ一年でルアス中の店が強襲に合う事件が多発しており、
順番的には、ドジャーの知り合いの店が次に狙われる番らしい。
ルアスの端の端 ルアス99番街にある店まで標的にされているという事実から、
店舗強襲事件の被害の大きさがうかがえるだろう。

アレックスとドジャーはその犯人を討ちに来たのである。
もちろんドジャーの理由は"知り合いの店が狙われているから"であって
商人の命である店を潰すなんて許さん!・・・なんて事はこれっぽっちも思っていない。
ただ身内に火の粉が飛んでくるとアクションが途端に変わる。
今のドジャーは犯人をクチャクチャにしてやろうと殺気ムンムンである。

アレックスはドジャーに無理矢理討ち入りの手伝いをさせられに来たのである。
ここ数日間、宿と食べ物を提供してもらっているだけあって断れない。
特にアレックスは飯の恩には逆らえない。

まぁそんなこんなで店舗強襲事件の犯人を倒すべく
アレックスとドジャーの二人は広場へ来たのだった。

「んでドジャーさん。肝心の犯人さんはどこなんですか?」
「ど真ん中だよ」
「へ?」
「ルアスの真ん中にあるこの広場。そしてさらにその真ん中に奴はいる」
「はぁ・・・ルアスの中心の中心ってわけですか・・・・そこに何があるんです?」

「なんでも屋だ。犯人はその店主のルエンという女だ」

店の店主、しかも女性が犯人という所にアレックスは少し驚いた。
だが今の世の中は誰が何するかわかったもんじゃない。

しかし犯人がルアスのど真ん中で日の目を浴びているというのはおかしかった。
アレックスはその辺の疑問をドジャーに問いた。

「あぁ、そりゃぁな。ルエンが広場を牛耳る大権力者だからさ
 広場は全部ルエンが仕切ってやがる。中心のなんでも屋を拠点にな
 さらに常に二人の腕利きの部下が一緒だ。逆らえる奴はいねぇ」

そうこう言ってるうちに広場の中央に着いた。
露店ばかりの広場の真ん中で出っ張った大岩のようになんでも屋が突き出していた。
だがカウンターに人影はない。

「留守みたいですね」
「ん〜。んじゃ多分広場を見回っているんだろう」
「見回り・・ですか?」
「多分広場を我が物顔で歩ってるとこだろう。庭みたいなもんだからな
 そんで目を光らせているのさ。なんか問題がないかってね」
「はぁ。でも・・・」

アレックスが回りを見渡す。
広い。数百メートルはあるんじゃないかというルアス中央広場。
その中は人でごった返しているのだ。
その中で一人の女性を見つけるのは簡単ではない。
アレックスはげんなりした。

「そんな顔をするなアレックス。見つけれないなら向こうから来てもらえばいいさ」
「そんなのどうやって・・・」
「言っただろ?目を光らせているって。まぁ俺は『買い物』をするだけさ。見てな」

そう言ってドジャーは一つの露店の方に歩いていった。
ひ弱そうなオヤジがシートの上に数十点の商品を並べている。

「へいらっしゃぃ。」
「ダガーを5本くれ」
「まいどぉ〜。5本で1万グロッドになりやす」

ドジャーは5本のダガーの内の1本をクルクルと手元で回した。
さすがといった手際である。
そして次の瞬間、突如ドジャーはそのダガーを店主の首の前に突きつけた。
これまたさすがといった手際である。
そして一言。

「金を出せ」

逆だろ
アレックスは心の中でつぶやく。
アレックスは店で商品と代金を請求する客を始めてみた。

「店主。おとなしく金を出せ。でなきゃ買い物が強盗になるぜ?」

いや、もうなっているだろう
アレックスはまた心の中でつぶやく。
ドジャーは罪の境界線が人と違うのであろう。

店主の頬に冷たいダガーの刃が当てられる。
さぞヒンヤリしてて気持ち良いことだろう。
肝も冷えたようで店主は「勘弁してください」と言ってしぶしぶお金を差し出した。

「まいど♪」

ドジャーは嬉しそうな声でお金を受け取った。

そして意気揚々とした歩き方と満面の笑みでアレックスの方へ戻ってくる。
この人に罪悪感というものはないのだろうか。
よい子のみんなは普通に買い物をしよう。

「みろ。オツリがこんなにもらえたぜ」
「お金出してないのに何がオツリですか・・・」
「細けぇ事気にするな。大事なのは結果だ
 手元のダガーと俺の財布がさっきより太っているという結果がな」
「そんな事より今のでルエンが見つかるんですか?」
「ん?あぁ。まぁ見てなって。多分もうすぐ・・・」

「ちょっとそこのあんた!まちな!」
「まちな」「な!」

突然女の声がした。
アレックスが振り向くとそこには男2人を両側に引き連れた女が立っていた。

「ほーら来た」
「あの女性がルエンですか?」
「あぁそうだ。あれが悪女ルエンだ」

悪女という割にはそこまで気強い顔をした女性ではないと思った。
それよりアレックスはルエンの左右にいる大男と小男が気になった。

「横の二人の男は誰ですか?」
「あぁ。大男の方は『ルエンの大右腕』と呼ばれるブレーブという男だ
 そんで小柄な方は『ルエンの小左腕』と呼ばれるカブという男だ
 実際に店を潰して回ってるのはルエンの部下のあの二人って話さ」

たしかに女一人で店を潰しまわったとは考えられなかった。
両サイドのブレーブとカブという男の悪人面を見ると納得がいく。

「あんた、あたいの広場(シマ)の店においたしてくれやがって!」
「くれやがって」「て!」
「あたいの広場で悪さをする悪い子にはおしおきが必要だねぇ」
「だねぇ」「ねぇ!」
「あんたらココでのルール違反の処罰は何かしってるかい?」
「しってるかい?」「かい!」

「さぁ、知らねぇなぁ。それよりさっきから横の二人はいちいちうるさいぜ
 なぁアレックス。なんなんだろうなあの二人」
「さぁ〜? 山びこさんじゃないですか?」

「んだとコラァ!」「ラァ!」
「らぁ〜!」「らぁ〜〜〜〜」

アレックスとドジャーがブレーブとカブの山びこの真似をする。

「て、てめぇら・・・」「ら・・・」
ブレーブとカブは青筋を立ちはじめて今にも飛び掛ってきそうだ。

「ブレーブ、カブ、挑発に乗るんじゃないよ。」
「あ、あねごすいません」「せん・・・」
「話の続きだあんた達!ココで悪さをした奴への罰金は"全財産"!
 払わないなら命ごと没収て事になるよ!」
「なるよ!」「よ!」

あぁ、そういう事か。
アレックスはルエンがなぜ自分から出向いてきたかを理解した。
ルエンは問題がないかを見るために広場を見回ってるんじゃない
問題が欲しくてを探し回っているという事だったのだ。
きっつい罰金狙いで・・・。
だから強盗したドジャーの所に飛びついてきた訳である。
さすが商人。金にめざとい・・・とでもいうところか。

「罰金?とれるならとってみな。あいにく俺は財布は盗るがとられた事はネェ」

「ほぉ〜。ブーレブ、カブ、命ごと没収コースをご所望らしいよ!」
「あいよ」「よ!」

ブレーブとカブがそれぞれの武器を取り出した。

「ご所望もご所望。こちとら最初から殺(や)り合うのが目的で来てるんでね」

ドジャーが左右の腰からダガーを1本づつ取り出し、クルクル回した。
しょうがないのでアレックスも槍を構える。

「ふん、そうかい。いいカモだね。ブレーブ!カブ!やっちまいな!」
「わかったぜあねご!」「ご!」

ごつい体の男と小柄な男がそれぞれ飛び掛ってきた。

「アレックス!俺はチビ男をやる!おめぇはもう一人を頼んだ!」

強そうな方を押し付けやがった・・・
アレックスはそう思いながらため息をつく、
ため息がざわめく広場の声の中に溶けて消えた。

大体この討ち入りはドジャーと店をやってるドジャーの知り合いの問題であって
アレックスにはコンマ1mmも関係ない。
それなのになんであんなゴッツぃ野郎と戦って血を流さないといけないのか。
そんな事より何かおいしい物でも食べたい・・・・。

昨夜のおいしいハンバーグを思い出す。
今朝の目玉焼きトーストもその前の朝のチキンライスもおいしかった。
昼食のノカン肉のミートパテはおいしくなかったけどデザートのプリンは絶品だった。

はぁ・・・ともう一息ため息をつくと、アレックスは真剣な顔つきになった。

「ご飯の恩だけは死んでも返さないとね」

アレックスは槍を突き出すように大男に飛び掛った。



                            






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