「自己紹介させてもらうと俺は金目の物が大好きな悪い盗賊さんってやつだ
 『人見知り知らず』って言えば結構有名なんだが・・・・知らねぇかな?」

『人見知り知らず』・・・・
噂で聞いた事ある。
たしかルアスに出没する盗賊で、
犯してきた罪はカツアゲ、スリから窃盗、詐欺、強盗、強奪、etc・・・
老若男女関係なく、見かければ誰でも標的にする事からこのあだ名がついたとか。
つまりアレックスに肉を与えて助けたのはお金のためという事だった。

アレックスは信じられなかった。
といっても彼は別にこの廃れた世界の全ての人がいい人ばかりだなんて思ってはいない。
今の世の中こうして生き長らえている人は少なくない。
ただ彼は食べ物をくれる人に悪い人はいないと信じていたからである。

「まぁそんな俺の朝一の獲物に決まったラッキーボーイがあんたさ」
「朝っぱらからカツアゲですか・・・仕事熱心な盗賊さんですね・・・」
「別にお前をとって食おうって訳じゃない まぁ・・・・とるにはとるけどな」
「お金さえ払えば何もしないってことですか」
「あんたの命がたった30万グロッドで救われたんだぜ? 安いもんだろ?」
「30万なんて持ってたら飢えてませんよ!」

たしかにそうである。
だがその言葉をあざ笑うかのように盗賊はピアスを揺らしながら言った。

「金がないのになぜ腰に高級マネーバッグがあるんだ?騎士さんよぉ
 それの中は高級品と相場は決まってるってもんだ。
 バッグ自体も売れば大金ではないがそこそこだ。ま、それを頂戴させて頂くぜ」

さすが盗賊・・・とでもいうところか
勘がいいとアレックスは思った。
たしかにこの高級マネーバッグの中にあるモノ。
金ではないが価値にするとかなりのものである。
だが"コレ"は同時にとても大切なものでもあった。

「これは死んでも譲れません」
カッコイイセリフだが、さっき一度人生を諦めた人間が言うと説得力がない。

盗賊は腰からダガーを抜き、
それを手元でクルクルと回す。
一瞬アレックスはその手際に拍手をおくろうかと思ったが、
その前に盗賊は親指でその回転を止めてしまった。
そして盗賊のダガーの切っ先がアレックスへ向けて突き出された。

「じゃぁお前の屍から受け取るって事でOKか?」
「渡せない物なので死ねません。何より死にたくないです」

アレックスも槍を盗賊に向けるように構えた。
この盗賊はアレックスを殺して"コレ"を奪う気マンマンだ。
武には武で立ち打つしかない。
それが恩を仇で返す形になったとしても・・・

「両者合意って事で」

盗賊はニヤリと笑う。

突然盗賊の周りの風が一瞬浮き上がった。
ブリズウィクという移動速度向上スキルだろう。
速さにものをいわせて突っ込んでくる気か・・・

そう思った次の瞬間。
盗賊の手から何かが放たれた。
小さく、鋭い・・・
ダガーだ。
1本のダガーが閃光のようにアレックスに飛んでくる。

アレックスは咄嗟に槍を振り払い、ダガーを弾いた。

「投芸ですか・・・」

槍でダガーを薙ぎ払った後、そう言ってアレックスは再び盗賊の方に目をやった。
が、いない。
ダガーに気をとられた一瞬の隙に盗賊がいなくなっている。
今のほんの一瞬で移動するなんて・・・
どこだ
移動がし易く、それでいてこちらを攻撃しやすそうな所
そこに盗賊はいるはずだ。
アレックスは慌てて周りを見回す。

いた。
小さな家の屋根の上。
一瞬であんなところまで・・・

「ほお、ダガーを弾いた事とすぐ俺の位置を掴んだ事だけは誉めてやる
 だが次はこんなもんじゃねぇぜ?」

盗賊の手元に目をやると、盗賊の両手の指と指の間に1本づつ
つまり片手に4本、両手で8本のダガーがオレンジ色の朝日に反射していた。



「まばたき禁止注意報だ。見失っても迷子のアナウンスはしねぇからな!」

盗賊が屋根の上を高速で移動し始めた。
さらに屋根から屋根へと飛び移る
猿かあんたは
だが本当に一瞬でも目を離すと見失ってしまうスピードだった。

「ごちそうをくれてやる!」

そう言って盗賊はまたダガーを放った。
片手の4本のダガーがこちらに飛んでくる。
移動しながら放った物であるのに正確な軌道だった。
一本の槍では4つ同時には払い落とせない。
それを判断し、アレックスは横に少し飛ぶようにして避けた。

「おかわりだ!」

声のした方に目をむけるとまた4本のダガーが飛んできていた。
それも避けようとするが、
避けたばかりで体勢が悪い。
避けきれない。駄目だ、2本当たってしまう。
そう思った瞬間アレックスは咄嗟にその2本を槍でなんとか払い落とした。

「どれだけ投げてきても無駄です」

アレックスはそう言ったがウソである。
今のは避けるのも払うのもギリギリだった。
投げ続けられたらいつか当たるかもしれない。
だから本心はもう投げてこないで欲しいから言ったウソである。

だが無情にも盗賊の投げダガーは続く。
4本・・・また4本と飛んでくる。
自分の四方八方から飛んでくるダガー
アレックスはそれを避けたり槍で払ったりしながらなんとか耐えていた。

お金に困って盾を売ってしまったのを悔やんだ。
あの盾が今あればもっと楽に投げダガーを防げただろう。
いや、あのお金で食べたサラセン肉屋直送特製ベーコン弁当はおいしかった。
やはり悔いはない。

盗賊のダガーの連投が止まったのは8セット分のダガーを避けた後だった。
といっても時間にするとたった数秒間の出来事である。

盗賊はキキッ!と突然屋根の上で走り回るのをやめた。

「チィ!騎士さんよぉ。最初はとぼけたフリしてたが・・・あんたなかなかやるね」
「サーカスごっこはもう終わりですか?」
「フン。ダガーも四次元ポケットから出してるわけじゃないんでね
 それに安くもないんで無駄には出来ねぇ。  ・・・・次で終わらせてやる。」

盗賊は両手を広げた。
両手の先に見えるのはお馴染みのダガー。
だが数が違った。
指と指の間に2本づつ。つまり片手に8本づつ。計16本。

「メインディッシュだ」

言葉と同時に16本の閃光がアレックスへ飛んできた。
たしかに4本でも無理なのに、
これだけの数が同時に飛んできたのでは払い落としようがない。
さらに広範囲のため避けきれない。
アレックスは槍に力を込める。

「払い落とせないなら突き落とします!ブラストアッシュ!」

アレックスは前方に高速で槍を突いた。
まるで剣山の壁のような連続突き。
16回の金属音と共に飛んできたダガーを全て弾いた。

「やるねぇ。だが・・・」

槍を突ききったアレックスの視界に何かが映った。
何かがすぐ目の前まで飛んできている。
黒い・・丸い・・・
・・・・
爆弾だ!
まずい。
アレックスは咄嗟に槍で薙ぎ払う。

「てりゃぁあ!」
「攻撃しても無駄だ」

アレックスの槍が爆弾を真っ二つに割る。
しかしその瞬間爆弾から噴出された灰色の煙幕がアレックスを襲った。

「ジョカポだ」




                




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