S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<僕と盗賊と命とお金>>




[王国騎士団全滅から一年後 ルアス99番街]








アレックスは死にかけていた。



「パン・・水・・・魚・・・・・・肉団子・・・・・・」

欲望をただただ口にする。
とにかく食べたい飲みたい休みたい。
もうほんと、食べれるならなんでもいい。

飢え死にしそうな理由。
そんなもの決まっていた。
何も食べてないからだ。

腹のアラームが「あんたヤバいよ」と警報を送る。

「卵・・・バナナ・・・・ソーセージ・・・・・」

時は太陽が顔を覗かす夜明け頃。
どこともわからぬルアスの街の一角で
アレックスは途方にくれていた。
死にかけたモスのような目をし、
口から舌をダラリと垂らし、
槍を引きずってただただイモ虫のように歩いていた。
いや、イモ虫のほうがまだ元気である。

なんでこの世は簡単に食にありつけないようになっているのだろう・・・・
もし神様が"毎日実のなる木"を作ってくれたら
食っちゃ寝食っちゃ寝の動物ような生活ができたはずなのに・・・

アレックスはそんな事を考えていた。

「・・・サラダ・・・・・・スープ・・・・・・チョコレート・・・・」

一週間前まではまだモスの小便ほどのグロッドも残っていたが
それも変なうさん臭いおじさんに騙されて失った。

   お兄さん。お腹がいっぱいになる薬を買わないかい?
   かうかうー!

ステリクに全財産を支払ってしまった。

よってもう数日間はロクな物を食べてない。
最後に食べたのはなんだったか。
2日前に道端で拾ったセイジリーフだったのを思い出す。
カピカピで食べられたもんじゃなかった。

昨日の昼間なんてのどが渇いたからルアスの川で水を飲もうとしたら
自殺者と間違われて周りの人に止められた。

   騎士さん!はやまっちゃダメだ!川に飛び込んだら死ぬぞ!
   川の水がなきゃ死ぬんです!!!!
   錯乱しているぞ!とめろー!

今やアレックスの胃の中はサラセンのようにカラカラだ。

「・・・豆・・・・肉・・リンゴ・・・・・・・・・・・ガイノカン・・・・・・」

もう思考すらままならない。

目の前に落ちている石ころがディド目玉に見える。
重症だ。
だが今は石ころのディド目玉を見てもよだれが垂れる。
マジで今ならディド目玉もモリモリ食べられそうだ。

「もう・・・だめだぁ・・・」

なさけない声を出して路地に倒れこんだ。
アレックスはとうとう諦めた。
生きるという事を。というか頑張るという事を。

僕はどうせここまでの人間だったんだ
……とアレックスは腹をくくった。
何か大事な使命があった気がするけど
もう何もかもどうでもよくなってきていた。

腹も減ったが頑張る力もない。

もういいや、
死んでから食べよう。

皆が起床しだすこの時間にアレックス一人だけが目を閉じ、
思考と現実を自らフェードアウトしていった。




・・・
ん?

薄れゆく意識の中。
アレックスの最大まで研ぎ澄まされた鼻のレーダーが反応する。

何か目の前からいい匂いがする・・・
デリシャスかつマーベラスな(?)
少し臭いけどおいしそうな匂いだ。

アレックスは目を開いた。
そして目に映ったのは肉。
骨付き肉だった。

「にく・・・にくーー!!」

大声で叫んで野良犬のように肉に飛びついた。
なぜ道の真ん中に肉が置いてあるのか
そんな事を考える思考力はすでに無かった。
ただ目の前に肉がある。
野生化した脳内で働いた方程式は
肉=食べる のみ
ただひたすらに油したたる肉をガッついた。
その姿はやはりまるで獣である。

「そんなうまそうにディド肉を食べる奴は初めてだぜ」

ふとアレックスが目を上げると
そこには盗賊の身なりをした男が立っていた。
大きめのピアスがよく目立つ。
全身アクセサリーで身を包んでいる事が見て取れた。
おそらく肉を提供してくれた方であろうと思う。

「ゴホッゴホッ」
人の存在に驚いてアレックスは少しむせた。
それを見てピアスの盗賊は水を差し出す。
アレックスはそれを取り上げるようにして飲んだ。

「ぷはーっ ありがとうございます。僕もうホント死ぬかと思ってました」
「俺はどっちかっつーと死んでるかと思ったよ」
「アハハッ、僕が死んで生き返ったならあなたは聖職者様だ」

とは言ったものの
この盗賊は身なりだけでなく目つきも悪かった。
およそ聖職者という言葉の似合わない男である。
いや、盗賊だから似合わないのは当然なのだが。
とにかく命の恩人には変わりない。

「僕はアレックスといいいます。アレックス=オーランドです」
「アレックス?見かけによらずイカつい名前だな」
「よく言われます」

よく言われる。たしかにそうであった。
アレックスは騎士でありながら顔立ちは優しげというか少し頼りなさ気というか
とにかく騎士というよりは図書館の管理人でもしてそうな顔をしていた。

「それでアレックスとやらよぉ」
「あ、はい」
「ここがどこか知ってるのか?」
「ぇと・・・なにぶん満身創痍で無我夢中だったもんで・・・
 どこですか?天国ってオチじゃないですよね?」
「ここはルアス99番街。ルアスの端の端。まともな人間なんて住んじゃいねぇ
 あんたみたいな人の良さそうな人間の来る所じゃないぜ?」
「そんな危険なんですか?」
「ただでも一年前から世界中の治安が悪くなってるんだからな
 まぁルアスやミルレスなんかの善都市はまだ安全とは言われているが
 当然それも"ピンキリ"だ。ここはルアスの"キリ"だと思えばいい」 

アレックスは周りを見渡した。
人がいるのかどうか分からない石造りのボロ家が立ち並び、
舗装された地面はすでにボロボロ。
ゴミが溜まり、一言でいうと汚い。
そこの裏路地で寝ている人は生きてるのか死んでるのかといった様子だ。
言われてからよくよく見渡すとあまりいい景色とは言えない。
一言で言うとここはスラム街であった。

「でもこんな所であなたのような優しい方と出会えてよかったです」

アレックスの言葉にピアスの盗賊はぷっと息を吹き出し、
大きな声を出して笑った。
朝の静かな空気の中に盗賊の笑い声が響き渡る。
アレックスは何がおかしいのかといった気持ちで盗賊を見た。

「カカカッ!誰が優しい?俺?そうだよな。お前の命を救ったんだもんな」
「?・・・・・あ、はい。あなたは命の恩人ですよ」
「だよな。じゃぁまぁコレを受け取れ」

盗賊は一枚の紙切れをアレックスに渡した。
小汚いクシャクシャになった紙切れに文が書いてある。
アレックスはその紙切れを受け取り内容を読んだ。

" 肉代20万グロッド 水代10万グロッド"

「な、なんですかコレわ!?」

「あんたの命の代金だよ」





                            





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