「ジョカポの味はどうだい?見えねぇだろ騎士さんよぉ
 視力回復薬なんて持ってないよな?持ってたら食費にしてるだろうしな」
「クッ!」

目に両手を当ててしゃがみ込むアレックス。
槍が地面を転がった。
視界が暗転している。
見えない・・・何も・・・。
一寸先は闇という状況である。
そして盗賊のいうとおり視力回復薬なんて持っていなかった。

「まさにお先真っ暗だな!」

盗賊は両手に4本づつのダガーを構えた。
アレックスに視力がない内に殺す気である。

「・・・お別れだ騎士さんよぉ!もう会えないと思うとさみしいぜ」

盗賊が両手を後方に伸ばし、ダガーを投げる溜めを作る。
・・・まさに盗賊がダガーを投げようとしたその瞬間だった。

突然アレックスが光に包まれた。

「な、なんだ・・・?」

アレックスから放たれる光に盗賊は驚く。
光が消え、屈んで目を押さえていたアレックスがむくりと立ち上がった。
目がしっかりと見開かれている。焦点も定まっている。

「馬鹿な!ホーリービジョンだと!?騎士がそんなスペル使えるわけ・・・」

驚きのあまり盗賊はダガーを投げるのを忘れた。
アレックスが口を開き、話し始めた。

「僕は一年前の攻城戦で全滅した王国騎士団の生き残りです」

アレックスは落とした槍を拾い上げ、話を続ける。

「そして僕が所属していた部隊は・・・・医療部隊です。
 医療部隊は治療目的のため、騎士の修行と別に聖職者としての修行を積みます」

聖職者としての修行を積んだ騎士。
つまりアレックスは騎士と聖職者の混合職なのである。

「・・・なるほど。聖騎士<パラディン>ってやつか・・・・やっかいだな」

盗賊がもう一度両手のダガーを構えなおす。
ダガーが再び朝日色に輝く。
それに対してアレックスは槍を構える気配はない。
右手に槍を地面に垂らしているだけであった。
だがアレックスは盗賊に向けて言い放つ。

「ダガーのごちそうはもうお腹一杯です
 今度は僕から行きますよ『人見知り知らず』さん」
「フン! 騎士団のお医者様風情がいい気になるなよ!」
「・・・お医者様風情として通告します。あなたの余命は1分です」
「んだと!」

アレックスは胸の前に左手を置き、
そのまま左手で十字を画いた。
そして左手の人差し指を盗賊の方に突き出す。

すると盗賊の足元に光り輝く魔方陣が現れた。

「こ、こりゃぁまさか・・・」

「アーメン」
アレックスが人差し指を上へ向けた。
その瞬間
光り輝く白き炎が魔方陣から吹き上がった。

「ぐぁぁあ!」
勢いよく吹き上がる青白い炎。
ひとたまりもないといった勢いである。
盗賊は白き獄炎の中に包み込まれ、悲鳴とも言えない声をあげるだけだった。

「がぁぁぁああぁ!!!パージフレアか!くそぉぉぉ!・・・・・こんな遅漏技に!」

アレックスが指を下げた。
同時にパージフレアが吹き止み、魔方陣が消え去った。
盗賊の姿があらわになる。
全身に相当のダメージを負っているようだ。
致命傷ではないが、もう体の自由がきかないのだろう。
そのまま力なく地面に倒れた。

地面で仰向けの大の字になったまま盗賊が言う。

「もう体が言う事きかねぇ・・・俺の負けだ・・・お医者騎士様よぉ
 すばらしい診察結果だ。もうすぐ1分。死亡通告も完璧だな」

盗賊はクックックと大の字のまま笑った。
アレックスがその盗賊の近くに歩みよる。
そしてアレックスが盗賊を見下ろす形になると、盗賊はまだしゃべり続ける。

「俺にサシで勝った奴はあんたが初めてだぜ」
「そうですか。じゃぁ今日は赤飯ですね」
「ククッ、さぁトドメを刺しな」

盗賊はトドメをご所望らしい
正真正銘最後の頼み、死のリクエスト。
アレックスは考える。
だがすぐ答えは出た。

そんなに死にたいと言うのなら・・・

アレックスは槍を置いて盗賊の胸に両手を当てた。

その瞬間盗賊の体が温かい光に包まれる。
同時に火傷の痕が少しづつ消えていく。

「なっ!! これはスーパーヒール…。てめぇ!敵に情けをかける気か!」
「黙ってて下さい。傷が悪化して僕が疲れます」

そう言ってアレックスは盗賊にスーパーヒールをかけ続けた。
青白い光が輝き続ける。
アレックスから汗が漏れ出す。
さっきまで半死状態だった上にパージフレアまで使って魔力が残り少ないのだろう。
そんなアレックスの姿を見て盗賊は皮肉を言う。

「正義を担う元王国騎士様はどんな人間の命も助けますってか?偽善だな」
「黙ってくださいって言ってるで・・・しょっ!」
「ガハっ!」

アレックスは片方の手で盗賊の顔を殴って黙らせた。
治しながら殴る。新種のアメとムチである。

「っってぇなぁあ!」
「むかついたんですよ」
「あぁん?」
「金くれとか殺すとか殺せとか・・・・・自分勝手すぎます。
 僕には得のない戦闘でなんで僕が敵の言う事まで聞かなきゃいけないんですか」
「は?そんな理由で俺を助けてんのか?」
「ん〜・・・」

アレックスは少し上目遣いにして考えるような仕草をした。
それからまた目を下に向けて話を続けた。

「いえ、多分助ける理由はあなたが僕を助けてくれた理由と同じです」
「・・・・・・俺がお前を助けた理由は金をふんだくるためだっての」
「違います。僕はほっとけば餓死していました。
 あなたは死んだ僕から"コレ"を盗めばいいだけだったんです」

そう言ってアレックスは自分の腰の高級グロッドポーチをポンポンと叩いた。

「でも助けてくれた」
「カッ!馬鹿だから気付かなかったんだよ
 それに結局その後俺達は殺し合いしてんじゃねぇか」
「いちいちうるさいですって!」
「ゲハッ!」

もう一度盗賊の顔を殴る。
ある意味マウントポジションをとられているようなもので盗賊は避けようがなかった。
盗賊の鼻から鼻血が垂れたが、すぐスーパーヒールの力で止まった。

「実際僕もパージフレアはあなたを殺す気で撃ちました。
 ぶっちゃけ『アーメン』とか言いながら心では『死ねチンピラっ!』とか思ってました」
「・・・」
「ただその後になんとなく助けようかなと思っただけです
 理由は究極にしてしまえば『なんとなく』です。お互いね」
「なんとなく・・・?」
「そうです『なんとなく』です。理由とかそんなのメンドくさいです
 寝たり散歩したりゴミを蹴飛ばしたり、行動するのにいちいち理由なんてつけてられません」
「・・・フッ。なんだそりゃ」

それからほんの数秒後に青白い光が消えた。
アレックスの魔力が尽きたのだった
だが盗賊の怪我はほとんど完治していた。
白と黒の盗賊服が所々焼け焦げている事以外出会った時のままである。

二人は同時に立ち上がった。

「さぁてと。アレックスだっけか?
 お前は余命一分とか言ってたけど俺は今ピンピンしてるぜ?診察ミスか?」
「変な事だけ覚えてるんですね」
「まぁどうする。ほぼ完治したし俺的には戦闘再開!・・・ってのも悪くないけど?」
「んー。もう戦う理由も無くなりましたしねぇ」
「は?」
「だって僕はあなたの命の恩人ですよ?」

いつの間にかアレックスは右手にクシャクシャの紙を持っていた。
シワだらけで読み取りにくいが、かろうじて文字が読める。

"治療費30万グロッド"

「んだこりゃ!」
「これで肉と水代はチャラですね」
「クハっ!」

盗賊はやられた!と苦い顔をし右手で顔を覆った。

「正義の騎士団様がパンピーから金を取る気かよっ!」
「"元"騎士団です」
「クハハ! いいなオメェ。結構俺の好きな性格だ」
「男に好かれても嬉しくないですね。それがあなたみたいな人なら"なお"です」
「クハハハハ!言いやがるぜ」

盗賊はピアスを揺らして大笑いした。

「まぁとにかくこれで僕を襲う理由は無くなったわけですけど
 それでもまだ僕の高級マネーバッグの中の物を狙う気ですか?」
「あー・・・・。普段ならそうする所だが・・」
「だが?」
「もういい。なんかそんな気分じゃなくなってきた。それにお前から奪うのは至難だ
 金目の物パクんならもっとその辺でブラブラしてるアホから盗るとするさ」
「どうしても人から盗るんですね」
「あぁ。盗賊だからな。盗むのが仕事だ」
「『人見知り知らず』なんて呼ばれるだけはありますね」
「あー、そうか。勝利記念に俺の名前を教えてやるよ」
「え、別にいいです。とてつもなく興味ないです」
「まぁまぁ。『人見知り知らず』の本名ってだけで情報として多少の値段で売れるぜ?」
「え?んじゃ、まぁ聞いときます。あしたのパン代にでもしますよ」
「ククッ、コロコロと意見の変わる事で。まぁ、俺の名前はドジャーだ」
「炊飯器みたいな名前ですね」
「てめぇ・・やっぱ殺してやろうか」
「アハハハ」

今度はアレックスが笑う。

そんな中盗賊ドジャーは突然ハっと何かに気付いたそぶりを見せ、
まわりをキョロキョロと見回し、
真剣な眼差しでアレックスを見つめて口を開いた。

「なぁ、アレックスよぉ」
「はい?なんですか人見知r・・じゃなくてドジャーさん」
「最後に頼みがある」
「?」

「投げたダガー拾うの手伝ってくれ」
「・・・」




ここはルアス99番街

オレンジ色の朝日が見守る中

早朝の静寂に二人の男の声が響く

この日からこの二人はよく一緒に行動するようになる。

人の命を救い続けてきた男と
人の命を餌に生きてきた男

はた目から見ると相対なる二人がなぜ?とも思うが、

理由は強さを認め合ったとか気が合うからとかもあるかもしれないが

究極的には『なんとなく』であろう。


とにかく、これが聖騎士アレックスと盗賊ドジャーの出会いであった。




                       





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