「おーぅ!メッツ!見舞いにきたぜー!」
「きましたよー!」

「おっしゃ!待ってたぜ!」


ここはミルレス白十字総合病院の一室。
メッツが入院している部屋である。
そこにアレックスとドジャーはお見舞いに来たのであった。

ミルレス白十字病院。
ここはマイソシアで最大の病院である。
歴史古いミルレスに残る知識と
静かで平和な環境がこの大病院の理由といえる。
この病院の影響もあり、ミルレスでは多くの聖職者が生まれていくという。

まぁそんな事はメッツにはどうでもいいようだった。
メッツは白いベッドの上で聞く。

「マリナは?マリナは来てねぇのか?」

「マリナさんは店が忙しいんだそうです」
「"メッツなんてツバでもかければ元気になるわ"って言ってたぜ?」

「・・・・俺自体が怪我みてぇな扱いだな・・・・」

メッツのドレッドヘアーがうな垂れる。
よほどマリナに見舞いにきてほしかったらしい。

「まぁまぁメッツさん。今度マリナさんに頼んでみますから。それよりもお土産が・・・・」

メッツがバサッ!と顔をあげて目を光らせた。

「見舞いってのは煙草か?煙草か?たーばーこーかぁー?」
「そんなもんおおっぴらに持ち込めるわけねぇだろぅが!」
「チッ!んじゃぁこの退屈な入院生活をどうしのげってんだよオラァ!」
「ゆっくり休めばいいじゃないですか」
「退屈なんだってんだぁ!!!病院でもまた監禁かよ!!!」

メッツがベッドにバタァーっと大の字に倒れてスネた。

あららー大きな子供だこと
ま、この筋肉の塊のような体を見れば見るほど落ち着くって言葉は似合わないけど・・・・

「あいあいあいあい。ほれ、メッツ。お見舞いのケーキだ」
「!!・・・・もしかしてマリナの手作りか?!」
「そうですよ」
「おっしゃぁー!!!」

ガッツポーズをとるメッツ。
そしてケーキを犬のように催促した。
ドジャーがケーキを渡す。
そして渡すついでにボソッと言った。

(箱の下に何個か煙草仕込ませてある。隠れて吸えよ?)
(!!! お、恩にきるぜ相棒よぉ!!)

ドジャーとメッツがバチン!とハイタッチをした。
わざわざ箱に細工してたのはそういうことかとアレックスは納得する。
そしてドジャーはメッツのためにわざわざそんな手の込んだ事したのだ。
アレックスはなんだかんだでこの二人の仲がうらやましかった。

「さぁーて・・・・マリナのケーキ!!!」

メッツはケーキの箱を勢い良く開けた。

そして目を疑った。

「ありゃ・・・・半分しかねぇじゃねぇか・・・・」

「クハハハ!そりゃそうだ!」
「は?」
「半分はアレックスが食った」
「はぁぁぁああああ?!」

メッツが大声をあげる。
まぁ無理もなかった。
楽しみの半分が削り取られているのだ。

「いやぁーすいませんメッツさん。ついつい・・・・」
「ついついじゃねぇよ!どういう了見で病人の見舞い品に手を出すんだよ!!!!」
「えぇーっと・・・・・・」
「カッカッカ!毒見だよなアレックス」
「そう、それそれ。毒見毒見」
「アレックス!さっきおめぇ"ついつい"って言っただろうが!
 テメェ俺のケーキの半分どおしてくれるんだよぉおおお!」
「えぇーっと・・・・」

アレックスは少し考え
そして言った。

「お、おいしかったです」
「・・・・・・・」

メッツは怒る気も失せたといった感じである。
首をカクンと垂らし、またドレッドが垂れる。
きっとこのドレッドヘアーは垂れるためにあるのだろうとアレックスは思った。

「カカッ!まぁメッツよぉ。これでもう一回お見舞いもらう理由ができたんじゃねぇか?」
「そ、そうか!そうだな!マリナにもっかいケーキ作ってもらえるな!ナイスだアレックス!」
「は、はぁ・・・どうも・・・・」

・・・・。
なんとも単純な人だ。
だがそこがまたメッツさんの好感なところでもあるかな
まぁケーキを食べれた上に誉められたのはなんか得だな。

ドジャーとメッツが二人でわいわいと話している間
アレックスは部屋を見渡した。

綺麗な部屋だ。
なんせ個室である。
窓からはミルレスの平和で穏やかな景色が一望できる。
特等席である。
といっても風景なんてメッツには関係のないものなのだから
もっと安い部屋にしてもよかったのにともアレックスは思った。

ふとアレックスが入り口のそばに目を向けた。
そしてドキッ!とする。

お、驚いたぁ・・・・
なんでこんなところにマネキンが・・・

入り口の側に一体のマネキンが置いてあった。
アレックスがマジマジとそのマネキンを見た。
人間の体温と血が通ってない事が一目で分かる。
手足顔が青白い。
聖職者のような白衣を着ている。
この白十字病院の制服だ。
病院のマネキンなのだろう。
顔にまでかかっているリアルな髪の毛が不気味だった。

マネキンというよりも死体だなぁ・・・・
でもなんでこんなところに・・・・

「・・・・・やぁ」

!!!!!!

「マ、マネキンがしゃべったぁあああ!!?」

突然手をあげて挨拶するマネキン。
いや、もうこれはマネキンじゃない!
やはり死体だったんだ!
病院で死体が生き返った!

「おぉ、レイズじゃねぇか」
「えぇぇ?!ド、ドジャーさん死体と知り合いなんですか?!」
「ち、違うぜアレックス・・・こいつは俺のギルメンのレイズだ」
「そ、そうなんですか・・・・」

アレックスは胸の前で十字を画く。
そして両手の指を組み、肩膝をついていった。

「ぁぁレイズさん・・・安らかに眠れ・・・・・アーメン」

「・・・・・」

「アレックス・・・・・レイズは死んでねぇよ・・・・」
「えぇぇ!?」

アレックスは驚く。
ちゃ、ちゃんと生きた人だったのか!
よく考えたら大病院だからって死体が生き返るわけない。

メッツはそんな様子に爆笑してベッドの上でガハハと転げまわった。

「ガハハハハハハハ!分かる!分かるぜアレックス!!ガハハ!
 マジで死んでるみてぇだよなこいつ!ガハハハハハッハ!」

「・・・・・・・笑いすぎ・・・・メッツ」

レイズがボソリと言う。
暗く小さな声だ。
メッツは笑うのをやめない。
腹をかかえて転げている。

まぁとにかくアレックスは改めてレイズを見た。
だがそれでも
え?生きてます?
といった感じの生気漂わない人であった。
やはり死体が動いてるようである。

レイズの容姿はなんというか・・・・
聖職者であるのに闇系だった。
青白い肌色。
やつれたような頬。
前髪が長く、顔を隠すようにかかっている。
まるで幽霊のようであった。
夜に出会ったら怖そうだ・・・・。

「・・・・・今怖いとか思ったでしょ」

「えっ?!」

「・・・・・・・・・・・・傷ついたなぁ・・・死にたい・・・・・」

「す、すいません・・・・」

謝るアレックス。
でもなぜか自然と手を合わせて謝った。
まるで拝むように・・・・。

「それよりレイズ。メッツの回復はどうなんだ?」

「・・・・・・・・・・・そうだね・・・・」

そうか。
白衣で分かるようにレイズさんはここの医者だったんだった。
ギルメンのメッツさんの面倒を見るのもうなづける。

レイズがカルテを見る。
ブツブツとお経のような言葉を言いながら読み上げていた。
そして最後に暗く小さなため息をついた。

「・・・・・・・残念・・・・・・・順調に回復してる・・・・・」

「そうか」
「よかったですねメッツさん」
「よかねぇよ!なにが残念だコラァ!ギルメンの容態だってんだぞ!」

「・・・・・・・・メッツは・・・・・元気無いぐらいが調度いいんだよ・・・・・」

「カカカッ!そりゃそうだな!」
「うっせ!生きてんだったら元気あってなんぼだろがオラァ!」

「・・・・・・・・・むしろ死ねばいいのに・・・」

「!!! んだとレイズこらぁ!」

レイズが小さくクックックと笑った。
その小さく怪しい笑い方は遠目で見たら咳でもしているようにも見える。

「まぁたしかにメッツさんは暴れたりなさそうですけどね」
「暴れたりねぇよ!」

「・・・・・・でも暴れられちゃ困るんだよね・・・・・」

レイズがなにやら取り出した。
それは・・・・
恐怖の道具。
人によっては見ただけで悲鳴をあげ、失神する人もいる。
聖なる凶器。
注射であった。

「い゙・・・・・・」

メッツがゴクンと唾を飲み込む。

「え?メッツさんもしかして注射が怖いんですか?」
「カカカカ!メッツは怖いもの知らずなくせに昔から変なところに臆病なんだよな!
 恋にしろ注射にしろ歯医者にしろ」

「だ、だってよぉ・・・・針が体の中に入っちまうんだぜ?どうなっちまうってんだ・・・・」

「・・・・・・・・・・・死ぬこともあるよ」

「「「え・・・・」」」

「・・・・・・・・・うそうそ」

レイズが小さくクックックと笑った。
やはり笑い方が不気味だ。
冗談と知りつつも怖い・・・。
いや、冗談かどうかが怖くなってくる。

「・・・・・・・・・ま、これは痛いよ」

レイズがかざす注射針が美しい日光でキラリと輝く。
その後ろでレイズの髪に隠れた目がキラリと輝く。

「うぐ・・・・・・いやだああああああ!」

メッツが逃げ出そうとする。

「・・・・・・ドジャーと・・・アレックスだっけ・・・・・」

「あ、はい」

「・・・・・・メッツの両手を押さえつけて・・・・
 ・・・・・・・ドジャーはできる限り全身をスパイダーウェブ・・・・・」

レイズ言われるがままアレックスとドジャーはメッツを押さえつける。

「は、放せ!アレックス!ドジャー!」
「お・・・・おとなしくしてくさい!」
「入院が長引いてもいいのかオメェ!」
「死ぬよりマシだああああああああ!」

メッツが力の限り暴れる。
いかにスパイダーウェブといえど
いかに男二人がかりといえど
なんとか抑えつけるのがやっとだった。
いや、抑え続けるのは無理だった。

「げ・・・・・・」

突然メッツがおとなしくなる。
視界にレイズの注射針が見えたのだ。
恐怖で一瞬メッツの体が凍りつく。
そして怖くて針をしっかりと凝視できていなかった。

「・・・・・・・・・・・・ブスッ!!!!!!」

「ぎゃあああああああああああ」

メッツは絶叫の末、
力なく失神した。
もちろん注射のせいではない。
レイズは声で「ブスッ!」と言っただけだ。
だが錯乱したメッツは射たれたと思って失神したのだった。

「・・・・・・・よし・・・・これで射ちやすくなった・・・・・死んだみたいに・・・・・」

レイズがクックックと笑う。

なんとも言えない新しい恐怖がアレックスの背筋をゾクっとさせた。

「ドジャーさん・・・・ドジャーさんのギルメンってこんな人ばかりなんですか・・・」
「・・・・・・違うとも言い切れねぇ・・・・・」











                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送