「・・・・・・・・・・・・・死ねぇ・・・・・・・・・」

メチャクチャ怖い事を言いながらレイズはメッツに注射を打つ。
そして実際メッツも死んでいるんじゃないかという姿だ。
失神しているだけなのだが・・・・。
死んでいるように顔色の悪い医者が死んでいるような患者に注射する様子は異様だった。

「・・・・・・・・・・これでよし・・・・」

「ご苦労様ですレイズさん」
「レイズ、それはなんの注射なんだ?」

「・・・・・・・・・・・安楽死の・・・・・・」

「「はぇ?!」」

「・・・・・うそうそ・・・・・」

レイズはクックックと笑う。
コッソリ笑うようなその笑い方は何かがリアルで怖い。

「・・・・・・でもあながちウソでもない・・・・かも・・・・」

「どっちなんですか・・・」
「ホントだったらシャレんなんねぇだろが・・・・」

「・・・・・・鎮静剤っていうか睡眠薬っていうか・・・・そういうの・・・・
 ・・・・・メッツは・・・・・なんていうか暴れるタイプだろ・・・・・」

アレックスとドジャーが同時に首をコクンとうなずく。
即答だ。

「・・・・・・・だからこそ・・・・監禁のストレスやらで受けた精神や体の疲労は・・・・・
 ・・・・・結構ハンパじゃない・・・・・なのにそんな体にバーサーカーレイジ・・・・・・
 ・・・・・・・・・そんなボロボロの体を休ませてやらなきゃならないんだけど・・・・・・
 ・・・・・メッツはじっとしてるのがまたストレスを産んで・・・・・それが矛盾っていうか・・・・・
 ・・・・・だから回復させるには・・・・・寝ててもらうしか・・・・・・・」

「なるほど」
「寝る子は育つってやつか」
「ちょっと違いますね」
「そうか、ま、今のは弘法も筆のあやまりってやつだ」
「それも違います。弘法ってところが」
「ナハハ、殴っていいか?」

アレックスとドジャーのやりとりにレイズがクックックと笑う。

「と、とりあえずメッツさんも寝ましたし帰りましょうか」
「そうだな・・・・・」

アレックスとドジャー、そしてレイズの3人は
病室のドアノブに手をかけ、メッツの病室から出て行った。

そして病院の狭いようで広い廊下を歩く。
病院特有のにおいがアレックスの鼻をさした。
自分も王国の医療部隊にいたせいでひどく嗅ぎなれた匂いであるが、
そのせいでひさびさにかぐと昔の思い出が蘇ってきそうでイヤだった。

「・・・・・・アレックス・・・・・・」

レイズが突然アレックスに話かけきた。

「はい?」

「・・・・・君・・・・・・見た目・・・・騎士だけど・・・・
 ・・・・・同じ聖職者の感じがする・・・・・・もしかして・・・・・」

「あ、はい。聖騎士<パラディン>です。昔は王国騎士団の医療部隊に所属してまして」

「・・・・・・・そうか・・・・・ドジャー・・・・・・」
「あん?」
「・・・・・・アレックスも・・・・《MD》に入れる気なのか・・・・・・」

「MD?」

もしかしてギルド名だろうか。
そういえばドジャーさん達のギルド名を僕は知らなかった。
それにしても《MD》・・・・
どこかで聞いた事があるような・・・・

「《MD》は今もう親睦みたいなもんだ。今更ギルメンを募るのに意味なんかないだろ」
「・・・・・・・そうじゃない・・・・・・」

レイズは廊下で立ち止まり、髪で隠れた目をアレックスに向けた。

「・・・・・・・・・アレックス・・・・・・君・・・・ギルド名知らなかった風だね・・・・・・」

「え、なんか聞いた事あるなぁとは思いましたけど」

「・・・・・黙ってたなドジャー・・・・・話してやれよ・・・・・・・・」
「別に黙ってたわけじゃねぇよ。ただ言うタイミングがなかっただけだ
 それに話したってそんなことたいした問題じゃぁねぇよレイズ」

ドジャーが首の後ろに両手をあてながら言った。
いつものようにピアスが揺れる。

「ってかアレックス知らねぇのか《MD》をよぉ、それはそれでショックだぜ」
「有名なんですか?」
「少なくとも騎士団では有名だったと思うんだけどよぉ」
「騎士団で?」
「うちのギルド《MD》はな、マイソシア有数・・・・いや、トップだったかな?
 わっかんねぇけどたしかそんくらいの賞金首集団なんだぜ?」

・・・・・あぁ。
思い出した。
ギルド《MD》
10にも満たない少数ギルドでありながら王国騎士団に最重要ターゲットとして認定されている。
付けられた賞金総額(トータルバンディッド)は"億"を超えると予想されている。
たった数人でその総額は異例である。
《MD》についての情報の流出が極めて少なく、
分かっているのは有名な数人の賞金首が所属しているという可能性。
そんな荒れくれ者集団。
食べたら忘れるほど全然興味なかったけど・・・。

「ドジャーさん達が噂の賞金首ギルド《MD》だったんですか」

「一応知ってたみてぇだな。そりゃそうか、なんだかんだで騎士団員だもんな」

「じゃぁレイズさんも賞金首なんですか?」

「・・・・・・・そうだよ・・・・」
「カカカッ!こんな死にそうな顔して"加害者"なんだぜこいつ。笑っちまうな。
 レイズはちまたじゃ『隣人を愛する悪魔』って呼ばれてる。
 聖職者で医者なのに悪魔だってよ。カカッ!ちげぇねぇけどな!」
「・・・・・・・・もちろん周りにはバレてないけどね・・・・・・・・・」

またもや聞いた事ある二つ名だ。
そしてギルドの話を聞き、あらためてギルド全体を考えてみると
賞金首ギルドというのに納得がいく。
『人見知り知らず』
『時計仕掛けの芸術家』
『クレイジージャンキー』
『隣人を愛する悪魔』
本人達の名前は知られていない代わりに
ドジャー・エクスポ・メッツ・レイズ
彼らのあだ名は賞金首としてかなりの有名どころだった。
もし今王国騎士団が壊滅していなかったら彼らの賞金だけで先数十年の飯が食べれるだろう。
さらにまだ他にも数人のギルドメンバーがいるのだ。

お腹一杯になる想像でアレックスはヨダレが落ちた。

「・・・・・・で・・・どうなのアレックス・・・・・・・」

「へ?どうって?」

「・・・・・・"元"でも・・・・君は・・・・騎士団員で・・・・・・僕たちは賞金首・・・・・」
「つまりギルドに入る入らないは関係ないにしろ
 相対する俺達が一緒にいるのに抵抗はないのかって事だろ?」

「ないに決まってるじゃないですか。
 大体もともとドジャーさん達が賞金首だって知ってて行動してるんです
 いまさらギルド全員がって言われても驚かないし予想もしてました」

「ほらな、たいした問題じゃないだろ」
「・・・・・・適当・・・・」

「大体僕はですね。騎士団時代は戦線にも立ちますがあくまで医療部隊なんですよ?
 人々を救うのが第一の仕事なんです。人を追い詰める仕事は専門外といえば専門外
 だから賞金首とかあんまり関係ないんですよ。ぶっちゃけ興味ないだけだけど。
 って大体ですね。今はもう王国騎士団がないんだから賞金もない。
 ドジャーさん達は"元"賞金首ってだけのただのパンピーですよ?どうでもいいですよ」

「・・・・・・・・・・・案外口が悪いね・・・・・・・・・」
「毎度の事だ」

ドジャーは苦笑いしながらレイズに言った。

「それにですね、僕がドジャーさんと一緒にいるのは
 そんな昔がどうこうの理由で片付けられるもんじゃないんですよ」

「?」

「だってですよ。ドジャーさんがいなかったら僕はどうやって生活するんですか
 また路上で野たれ死んでしまいます」

「はぁ?」

ドジャーは呆れた声と共にポカァンと口を開けた。
レイズも一瞬アレックスの言葉にキョトンとしていたが、
すぐにクックックと小さい声で笑い出した。

「あぁ〜・・・・・まぁレイズ。アレックスはこういう奴なんだよ」
「・・・・・・・・ドジャーが好きそうなタイプだ・・・・・・・」
「あん?それはどの辺で判断してんだ?」
「・・・・・・・・・《MD》のメンバーを見れば分かるじゃん・・・・・・・」
「カカっ!んじゃオメェも俺の好みだな!」
「・・・・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・・・」
「んだとレイズ!」

クックックと笑うレイズ。
アレックスもおかしくて笑った。
そうだ。
何一つ問題じゃないないか。



「話が終わったんなら、俺の話を初めていいですか?」

突然の声。
それはアレックスでもドジャーでもレイズでもなかった。
いつからそこにいたのか
病院の廊下の壁に手を組んでもたれかかっていた男。
その男が言ったのだった。

戦士。
見覚えがあった。
それはそうだ。
最近の話である。
一目で分かる特徴は健在だ。
なぜなら腰には二本のソードがあるのだから。
二刀流の剣士といえば・・・・・

レイズがアレックスにボソりと聞いた。

(・・・・・・・・・だれ?・・・・)
(彼は《騎士の心道場》の二刀流剣士ツィンさんです)
(・・・・・・あぁ・・・・『両手に花』か・・・・・)

「久しぶりですねコソ泥盗賊さん」
「カッ!だれだったっけな」
「言うと思いましたよ」
「なんだ、こんなところで俺のストーカーか?」
「残念ながら違います。師範がまだ退院してないもので、俺はそのお見舞いってやつです」
「お見舞いついでに盗み聞きたぁ趣味悪いこったな」
「相変わらず口の減らない盗賊さんだ。あんたがまさか《MD》のメンバーだとはね」
「メンバーもメンバー。俺は立場上はギルドマスターだ」
「へぇ、まぁギルドマスターが一番強いって道理はないですけどね」
「カッ!まぁ実際その通りだがお前よりゃ強ぇのは道理だ。この間はボロ勝ちだったしな」
「今はもう前の俺じゃない」
「変わらねぇ変わらねぇ!花は咲こうが咲くまいが踏み潰されて終わりなんだよ」
「その減らず口を黙らせる日が来る事を楽しみにしてます」
「お?今やらねぇのか?花はチキンへと突然変種したのか?
「フン、あなたじゃないんだ。病院で戦うほど礼儀知らずじゃない。
 騎士道は礼儀からです。それに今は師範の見舞いの方が大事なんでね」
「カッ!あのだらしのねぇ『ナイトマスター』ディアンのか
 今日の『両手に花』は見舞いの花ってか」
「今度俺があなたに会う時には死に花を捧げますよ」
「二度と会わない事を祈るよ」
「フン、それとそっちの騎士。アレックスだったか」

「はい?」

「奇妙な青服の盗賊があなたを探していました」
「僕を?」
「変なしゃべり方をする男です。貴方達は敵が多いな」

そう言ってツィンは壁から離れ、
後姿で手を振りながら廊下の奥へと消えていった。

「ケッ!散れ散れ!花だけに散れ!」


僕を探している・・・・。
今ではただの99番街の住人である僕を探す理由など一つだ。

アレックスはギュゥっと腰の高級マネーバッグを握り締める。
自分だけ秘密の上に生き、
自分だけ矛盾の上に生きてもいいのだろうか。

再び病院の匂いが鼻につく。
それは医療部隊所属時代を思い出させる懐かしい匂い。
それは今を生きている自分に、
お前にはまだひとつだけ使命が残されているだろうと
教えているようだった。










                 






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