「へ、へへ・・・・殺してやったぞ・・・・」


その日の99番街は
秋だというのにいつにもまして寒かった。
雨が降っているからだろうと自分は思った。
いや、それもあるだろうが、本質的なところは違った。

今日初めて人を殺した。
ここではそれが当然だと分かってはいたが、
子供の純心な心はそれをヨシとはしなかった。
口とは逆に、罪悪感のような恐怖のような、
そんな様々な感情が入り混じって寒気として少年を襲っていたのだった。

自分はメザリンの皮を繋ぎ合わせた布に包まり。
雨をなんとかしのげる路地裏で、人を殺めて手に入れたパンを握りしめてかがんでいた。
寒い。
だがひと時の油断がここでは命取りになる。
なぜなら今自分はパンを持っているのだ。
99番街の住人はこのパンのために小さな自分を鉄パイプで殴るだろう。
やられるもんか。

名も無い俺はパンと小さなナイフを握り締めた。

突如ふと気付いた。

目の前に自分と同じくらいの年齢の少年が立っていた。
雨の中。
全身ずぶ濡れのまま自分の目の前に立っている。
その少年は話しかけてきた。

「ねぇ、君は家がないの?」
「なんだよお前!あっちいけよ!」
「そんな事言わないでよ。ねぇ、その手のパンを半分わけてくれない?」
「お前!やっぱりこのパンを目当てで寄ってきたのか!
 くるな!これは俺のだ!俺が人を殺して手に入れたんだ!」
「でも僕もお腹が空いてるんだ」
「うるさい!あっちいけ!じゃないと・・・・」

俺はナイフを突き出した。
その手は"寒さ"のせいでブルブルと震えていた。

「そんなのしまってよ。ねぇ、君は家がないんでしょ?」
「家なんて!あるわけないだろ!」
「じゃぁ。僕と一緒に住まない?」
「へ?」

俺は驚きでナイフをポトンと落とした。
目の前の少年が何を言ってるのか分からなかった。

「僕はね。家はいるんだけど家族がいないんだ。
 殺されちゃって・・・。だから僕には家しか残ってないんだ。君と一緒に住みたいな」
「・・・・・家に・・・住ませてくれるの?」
「うん。でもね」
「?」
「そのパンを半分だけくれる?僕は食べる物もないんだ」
「・・・・」

少し考えた。
だが、愛情を知らない俺は
この愛情というものに胸がときめいた。

「・・・・うん。いいよ」
「ほんと?!」
「・・・うん」
「やった!ねぇ、君の名前はなんていうの?」
「俺は・・・・名前なんてないんだ・・・・」
「そうなの?困ったなぁ、なんて呼べばいいんだろ。
 ま、それは後で一緒に考えようよ!」
「う、うん」
「僕の名前はね。ドジャーだよ」
「ド、ドジャー?」
「うん。ほら、さっそく僕の家にいこうよ!」

ドジャーという少年は俺の手を取る。
そして無理矢理小さな路地裏の雨宿りから雨の中に引っ張り出した。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「弱いヤツは奪われるだけだぜ?命さえもな」

魔物を死体にいう。

メッツは巨大な両手斧を背中に背負い、
先ほどまで命を刈っていた手でタバコの火を点けた。

数十匹といたモンスター達がすでに残骸になっていた。
アッという間だった。

アレックスが倒した数は10にも満たない数。
残りは全てメッツが一人でやったのだった。

アレックスはそれを感心しながらも未だ呆然としていた。




「そっちも終わったみてぇだな」

ドジャーがアレックスとメッツの前に現れた。
そっちも。
自分もアンジェロを倒したという事を言いたげだった。

「もうメッツさんが凄くて・・・・なんかもう・・・・こう・・・・斧でバッタバッタと・・・」
「ガハハハハ!凄かったろ?」
「あんま調子こかせんじゃねぇぞ?アレックス」
「あ、それよりドジャーさんも大変そうでしたね。見ましたよハリケーンバイン」
「カッ!風魔法なんて当たらなけりゃただのそよ風だ。
 それよりアレックス。悪ぃけど俺の怪我治してくんねぇか?」
「あらら、そよ風にやられたんですか?」
「うっせ!」

アレックスがドジャーの体に手を当てる。
そして手が青白く鈍く光だし、
ドジャーにヒールという癒しの力が送り込まれる。
それを見てメッツが聞いた。

「ぉお、戦闘中にも気になってたが、アレックス。オメェ聖職者の能力もあんのか?」
「あ、はい。僕は聖騎士<パラディン>です」
「やっぱりか。じゃぁ悪ぃけど俺にもヒー・・・・っとっと」

メッツが突然ヨロリと体勢を崩し、
体ごとドサっと地べたに倒れた。

「なぁにしてんだメッツ」
「ガハハ・・・。ちと足元がな・・・」
「戦闘で無傷だったのにふら付くなんてどうしたんですか?」




「・・・・・教えてあげましょうか」

突然の声。
アンジェロだった。

「しぶてーな」

といってもアンジェロに当初の気高しさはない。
体を完全に起こしきる事もできず、
立っているのがようやくと言った感じだった。
血で赤く染まった全身と翼が重症を物語っていた。

「アハハ・・・しぶといのはむしろメッツの方ですよ。動いてられたのが不思議なくらいです」

「なんだと?」
「どういうことです」

「メッツは2日の断食と2週間の監禁を受けた体なんですよ?
 そんな体でよく動けたものです・・・・いや、動いたのが致命的なのでしょうね・・・」

アレックスはそれを聞いてすぐさま横たわるメッツに手を当てる。
直に触ってみると体の衰えが分かる。
こんな体でモンスターと戦っていたのか・・・・。

とにかく急いでスーパーヒールで治療を行った。

「ヒール?それでも完全な回復は無理でしょう・・・・
 長時間の監禁というものは精神力と体力の疲れを体の奥まで染み込ませていく。
 普通なら丸2日間は寝たっきりになるような消耗です。
 それが魔法で回復するものなら人は不眠で生きられますよ」

アンジェロの言う通りだった。
肉体の活発化で体力や病気に貢献はすれど、 
回復魔法(ヒール)というのは基本的に外傷に対するものなのだ。
傷を癒し、ふさぐ。それがヒールの本質だ。
もちろんそれなりに体力の回復にも効果がある。
だがそれも万全なはずがなく、あくまで表面的な回復である。

だが何をしないよりはマシだとアレックスは必死にヒールを送り込んだ。
間違いなく回復自体はメッツに行われているのだから。

「クッ・・・・私も厳しいところです・・・・だから・・・・・これで終わりにしましょう」

アンジェロは最後の力と言わんばかりの力でウインドブレードを使う。
それはアレックス達の方にではなく

・・・檻の方にであった。

2つの檻が開いた。

さきほどではないにしろ。
片方の檻から多くのモンスターが飛び出してきた。

「アハハ・・・・こいつらは先ほどのモンスター達とは違いますよ・・・
 コロシアムの有望株・・・・。そこらのモンスターとは違いますよ・・・・そして」

そしてもう一つの檻。
そこから出てきたのは・・・・

「見なさい!これがコロシアムの花形!ドラゴンライダーです!!」

巨大な龍のようなモンスター。
他のモンスター達より一回りも二回りも大きい。
そんなドラゴンライダーが大きな炎を天へと吐いた。
まるで夜空が燃やすようだった。

「やっべぇぞコレ・・・・」
「さっきのモンスター達だってメッツさんがほとんどやったのに・・・
 それ以上のモンスター達とドラゴンライダー・・・」

ドジャーとアレックスがそれぞれの武器を構える。
やらなきゃやられる。
そういった状況下だった。

「ド、ドジャー・・・・」

メッツがフラフラと斧を杖に体を起こした。

「メッツ!てめぇは寝てろ!」
「ドジャー・・・"アレ"は持ってきてるか・・・」
「な!?」

"アレ"?

「そりゃぁ・・・持ってきてるが・・・おめぇそんな体で・・・」
「こんな体"だから"できるんだ・・・・大体俺がやらなきゃアレらを誰が始末すんだ・・・・
 ガハハ・・・役立たずども。大丈夫。ヒールは効いてるぜ」
「・・・・チッ!」

ドジャーは懐に手を入れる。
そして取り出したのは・・・・
煙草だった。
見たこともない銘柄だ。
パッケージには"バーサーカー"と書いてある。

「無理はすんなよ。駄目そうなら無理やりにでも止めるかんな・・・・」
「ガハハ!・・・お前に俺が止められるか?」

メッツは手に"バーサーカー"というタバコ受け取る。
そして1本。
いや、3本取り出して口にくわえた。
そして・・・火を点けた。

「タバコで・・・どうなるんですか?」
「見てろ。これからがメッツの全開だ」
「ぜ、全開ってさっきまででもイカれた強さだったですよ・・・
 『クレイジー』って意味もわかりました」
「違うぜ。アンジェロが表で『天使』、裏じゃ『ペ天使』って言われてるように
 メッツも二つあだ名がある。ひとつは『クレイジージャンキー』
 そしてもう一つは封印した昔のあだ名・・・・」

メッツの目の色が変わる。
明らかに様子がおかしかった。

「ガハ・・・ハッ・・・ハ・・・・」

メッツの体がドクンッ!と脈打つ。
もう一度。
さらにもう一度。
全身に太い血管が浮き出る。

「ガハ・・・ひサしブリだ・・・・こノ感ジ・・・」

垂れたドレッドヘアーの下の顔。
目の照準があってない。
口もとをかるくニヤかせ、
ヨダレが垂れている。
そしてヨロヨロだった体に生気が満ち始めた。

「いイっ・・・溢レるゼ・・・・・・・・殺しテぇ・・・なンデもィいヵら壊シてェェエ!!!」

メッツは両手にブラリと斧をさげる。
まるで獣のような格好である。
ただ本能のみしか知らない・・・
ただ目の前の者を殺す・・・
そんな姿であった。

「あ、アガはあ・・・ガハハ・・・気分ィイ・・・」

「ど、どうなってるんです!?一体メッツさんに何が!?」
「使いすぎたんだよ・・・・」
「え?」
「昔な・・・使い過ぎたんだ・・・使いすぎて・・・使いすぎて・・・
 体も心もついていかずにボロボロになっちまった・・・・ボロボロにな・・・
 快楽に負けちまったんだ・・・・。力って快楽に・・・・」

体はブラリとそのままに
メッツが顔をあげた。
笑い、まるで獣のような目が光る。

「コロ・・・こ、殺ス!!!!全部!!!」

様子だけではなく明らかにさっきまでのメッツとは違った。


「メッツはな・・・・ジャンキーなんだよ・・・・
 使いすぎてイカれちまったからこう呼ばれてたよ・・・
 
        ・・・・・・『"レイジ"ジャンキー』ってな・・・」


バーサーカーレイジの暴走。

殺戮マシンになりはてた愛煙家が斧を両手に引きずる。


「殺ス・・・・コろしテヤる・・・・」

血を求めてバーサーカーはモンスター達に飛び掛った。








                 






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