S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<天使と魔物と賭博場>>








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ルアスの端の端。
ルアス99番街。
ここを世界の果てだという人もいる。
または落ちこぼれ人間のゴミ箱という人もいる。
とにかく治安は最悪という事だった。

強奪略奪は当たり前。
それがここで生きていくための当然の手段。
強者が寿命を延ばし
弱者は強者の食物として寿命が消える。

それは今も昔もそうであった。

ドジャーは当時6歳。
少年ドジャーはその街に住む夫婦の間に生まれ、
貧乏ながら愛され生活をしていた。

というと聞こえはいいが、
親も99番街の住人。
命の略奪の螺旋の中に生きる者であった。
親が人から奪った物・金でドジャーは育った。
その分だけ悲しむ人がいる。
その分だけ苦しむ人がいる。
だが親は人から奪った愛情を自分に注いでくれる。
ここはそういう場所なんだとドジャーは小さいながら理解し、
両親の血まみれの愛情にドジャーは甘えた。

大きなベッドの上。
毎日ドジャーは父と母の温もり挟まれて眠る。
安心して寝息をたてるドジャーの心は暖かかった。

その朝は特に変わった朝ではなかった。
天気は晴れ、
いつもの鳥のさえずり声でドジャーは目を覚ました。
本当にいつもの99番街の朝。

ただ、目を覚ましたドジャーの目に飛び込んできたのは、
割れた窓。
荒れた部屋。

両側で寝ている父と母は、血で赤く染まっていた。
揺すっても返事はない。

夜盗が入ったのだろう。
布団の中に潜り込んで寝ていたドジャーだけが助かった。

父と母がもう目を覚ます事はない事は分かった。

99番街では話題にもならない日常茶飯事。



その日小さなドジャーは愛と生活を失った。







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-ふれあい広場 モンスターコロシアム-





「そ、その・・・ドジャーさん。これには訳があってですね・・・・」

「ほぉ、その"訳"というのは"いい訳"というやつかアレックス」

「・・・・」

声が聞こえなくなるほどの大歓声の中でアレックスは沈黙した。

ここはモンスターコロシアム
ルアスの森と暗黒の森を繋ぐふれあい広場に設置されているこの施設は
モンスター同士を戦わせる闘技場で
どのモンスターが勝つかを予想して賭ける。 
云わば賭博場である
昔は土日だけ開催の上、掛け金の上限は10万という軽い娯楽施設だった。
なぜなら王国騎士団公認の公式賭博場だったからである。
あくまで遊びの範囲を出ないゲームセンターであった。

だが1年前 王国騎士団が滅んでからというもの、
"年中無休"で"賭け金制限無し"という無法の賭博場となっている。
不景気で荒れた時期というのはギャンブルに比重がくる。
毎日多くの人が訪れ、盛況中の大盛況。
ここも今では直径100mという巨大コロシアムにまで発展していた。

ギャンブルのみに命をかける者。
通りがかりに寄った者
生涯のかかった大勝負に来る者。
月の小遣いを賭けに来る者。
全財産を賭ける者
ただ見に来た者。

全てを飲み込んでいるせいで
コロシアムの活気は物凄く、
歓喜や悲鳴を含む大歓声が耳をさすようコロシアムを包み込んでいた。
ハズレ券の紙ふぶきが舞い散り地面に白い絨毯を作る。

この日最後の試合が行われる前のコロシアム。

そのコロシアム客席の一角にアレックスとドジャーはいた。


「よし、そのいい訳というものを聞いてやろう。特上の言い訳を期待してるぜアレックス」

ドジャーは髪の毛が逆立って見えるほどの怒りを纏っていた。
"おかんむり"というやつだ。
アレックスは必死に言葉を繕う。

「い、いえ!絶対いけますって!」
「イケる?絶対?マジにそう思うか?」
「えぇ!当然じゃないですか!あれはやる男・・・いえ、やるオスの目ですもん!」
「あのオハギがか?」

ドジャーは背後のコロシアムを親指で指差す。
そこにはジャイアントキキがいた。
多くのファンを抱えるほどのその愛嬌ある可愛らしい姿は、
フランゲリオンやキャメル船長などの強豪の中に沈み、
少し、いや、かなり頼りなさげに見える。

ドジャーが片手にチケットの束をかざす。
そのチケットはジャイアントキキ[単勝]5万グロッド分のチケットだった。
もちろんアレックスが買ったのだ。

「俺はたしかメッツを探しに行くからって別行動をとる時、
 "一番人気のモンスターの券"を5万グロッド分買っといてくれって言ったよな?
 それなのにこの券には"Gキキ"と書いてある。不思議でしょうがない。
 名のあるギャンブラーも目ん玉飛ばして「なんでGキキ?」って聞いてくるだろうよ」
「きっと可愛さでは人気ナンバーワンですよ!
 それにだって!・・・・だってですよドジャーさん!僕Gキキ大好きなんですもん!
 僕の守護動物もGキキなんですよ。かわいいですよ?ね?ドジャーさんにも見せて・・・・」
「いやいやいや、お前の好みで5万使うな!」
「で・・・・でも!でもですよドジャーさん!もし当たったら5万が50倍!
 ドォーーーンと一気に250万グロッドですよ!ね?」
「ね?じゃねぇ。その"もし"がまず起こらないから50倍なんだ。OK?」
「・・・・・」

ひとつの大きな銃声が上がった。
今日最後の賭けバトルの開始の合図であった。
歓声の波が波紋を生じる前に広がりきり
大小強弱のモンスターが一斉にコロシアムに開け放たれる。
そしてそれぞれの爪や牙を血を流すためにぶつけ合いはじめた。

「始まっちまった・・・・」
「だ、大丈夫ですって・・・・」
「大丈夫ってか?見ろよコロシアムの中。あの参加モンスター達
 ほれ、キャメル船長にグレイブ、フランゲリオン
 並み居る強豪ってなもんだ。どれもGキキなんて目じゃねぇ」

モンスターの鳴き声や戦闘音がするたびにコロシアム全体から歓声が沸き上がる。
その中でひときわ目立つ唸り声と共に炎を吐き出すモンスターがいた。

「そんであれが極めつけだ。一番人気のドラゴンライダー
 89戦85勝2敗2分け。常勝、磐石。コロシアム新時代の帝王だな。
 あいつがいて他が残るはずがない。骨ごとな?
 なにせ他のモンスターどもが束になったってあいつにゃぁ・・・」
「束になってますよ」
「あ?」

今コロシアムの中はモンスターのバトルロワイヤルといった感じではなく、
ドラゴンライダーVS他の3匹という構図が出来上がっていた。
おっと失礼。可愛らしいオハギを忘れていた。
1VS4である。


「あ、でもグレイブがやられました」
「ま、そうだろうな」
「キャメル船長とフランゲリオンも」
「そうだろうそうだろう」
「でも一緒にドラゴンライダーも共倒れになりました」
「そうだろそうだ・・・・・・・・・・・・ は!?!!!?」

慌ててドジャーがコロシアムに目をやる。
そこには4匹のモンスターの残骸。
当のドラゴンライダーも地面でピクピクと倒れこんでいた。
そしてたった一匹戦場の中に立ち残ったのはフサフサしたGキキだった。

それはつまりGキキ"ごとき"が
Gキキ"なんか"が
Gキキ"のくせに"勝ち残った事を意味していた。

「アレックス・・・・」
「・・・・・はい」

ドジャーはアレックスの手を両手でガシッと掴んだ。
その手の力は強い。

「Gキキは最高だ!!!」

ドジャーの目はグロッドマークになって輝いていた。
その喜びのみを映した純粋な瞳はアレックスを見つめながらも別の世界を見ていた。

「この金で欲しかったアクセ買って服も新調して・・・」

お前は年頃の女の子か。
それよりこれは僕のお陰だ。
だから・・・

「当分食後3食デザート奢ってくださいね」
「食え!好きなだけ食え!マリナんとこの"得盛りワイキパフェ"も食っていいぞ!」
「マジっすか!」
「マジだ!"美肌ステリロゼリー"も"7色ビーズアイス"もだ!」
「ま、まさか"豪華な卵プリン"も?!」
「食えーー!!!好きなだけ食え!」

アレックスの目も煌めく。
そしてヨダレがダラダラと地に垂れた。
ドジャーとアレックスは手を取り合ったままそれぞれ上の空のまま満面の笑みを浮かべていた。
帰り際のコロシアムの客達はそんな二人を見てひそひそと小声で笑いながら話す。

そんな状況に先に気付いたのはアレックスで
すぐさま手を振りほどいた。
おっと、口にヨダレの川が出来ているのを忘れてはいけない。
そしてあわてて話を変えた。
いや、本題に戻った。

「ああぁ・・・と、そ、それでメッツさんには会えたんですか?」
「お?ん?あぁ、そうかそうだった」

万馬券の当選のせいですっかり忘れていたが
アレックスとドジャーの当初の目的はドジャーのギルメンのメッツに出合うためであった。
事の始まりはアレックスがドジャーのギルメンに会いたいと言い出したことだが
ドジャーによるとドジャーも前々からメッツとアレックスを会わせたかったらしい。
ドジャーとメッツの間にはなにか絆のようなものでもあるのだろうか。

「んでよ、それがどこにも見当たらねぇんだ。
 ちょい前に「毎日コロシアムで遊んでんぜ!」って連絡は来たからいるはずなんだけどな」
「WISはできないんですか?」
「繋がらねぇ。リストが灰色になってやがる」
「やはりあのアナハイムと言う名のディドキャプテンが言っていた事といい
 何かあるみたいですね」
「今晩が最後の夜って話か。手がかりはこれだな」

ドジャーが柱を叩いた。
その柱には一枚の大きなポスターが貼ってある。

"○月□X日。 世紀の大勝負!デスメッセンジャーVSドラゴンライダー!!!"

迫力のある見出しだった。
そしてその日付。それは明日を示していた。

「ドラゴンライダーかぁ。
 さっき負けたし明日はドラゴンライダーに賭ける人は少なそうですね」
「さぁな。デスメッセンジャーは明日が初試合だからどうとも言えねぇ。
 ドラゴンライダーは結局9割5分の勝率は維持したままだしな
 前評判はどっちもどっちだ」
「何にしろこの大イベントが絡んでる確率はありますね」
「確立はあるが、ただのディドの戯言だったかもしれねぇ」
「ですね」
「ま、今ある手がかりはまず"今夜"なにかあるかがあるかもって事
 あくまで"かも"だ」
「あと森で出会ったしゃべるディドの"アナハイム"」
「明日のコロシアムの"大勝負"」
「ドジャーさんの知り合いの"メッツ"さん。それと・・・・」

アレックスとドジャーはポスターの端にある白い羽のマークを見た。

「このコロシアムのオーナー 『天使』"アンジェロ" か」

「有名人ですね」
「この不法時代で一・ニを争う成功者だからな」
「何かに絡んでるだろうクセェ臭いがプンプンするな。
 ま、俺に関係ない事だったらどうでもいいがな、
 とにかく他に手がかりないからな。ヒマつぶしがてらだ。
 今日の夜忍び込んでみて何事もなかったらなかったでそれもよし」
「とにかく今夜ですね」
「あぁ」


コロシアムのマークである天使の両翼が夕焼けに輝いた。







                 






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