「カッカッ!苦戦してるなアレックス。やっぱ俺がいなきゃただの腹ペコ騎士か?」

ドジャーが木の上に座ってダガーをクルクル回しながら言った。

「いいですよー。人を置いてく人の手助けなんていりませーん」

アレックスが槍を肩に担ぎ上げて言った。
だがその担ぎ上げる動作も、
ディドキャプテンのディズリングアイズのせいでゆっくりである。

「カッカッ!そうだろうよ。冗談冗談わりぃわりぃ、邪魔したな」

ほんと邪魔邪魔。
まったく、木の上なんかに座って。
猿みたいにすばしっこいと思ってたけど本当に猿だったのかな?

ドジャーが木の上で立ち上がり、
右手だけ背中の影に隠す。

「ま、邪魔しついで・・・・・だっ!!!」

ドジャーが突然右手で4本のダガーを投げる。
木の上から横殴りの雨のようにダガーが飛ぶ。
そしてその目標はもちろんディドキャプテンであった。

「コザカシイニンゲンメ!」

ディドキャプテンが舌を伸ばす。
その舌は2本のダガーを弾き飛ばした。
が、残りの2本は健在のまま空を裂き、
そのままディドキャプテンの横顔に刺さった。

「グ・・・・」

「すげ、あの盗賊の兄ちゃんすげぇぞアンリ!」
「えぇ、彼ならいけるかも!」

「よっ」

ドジャーが木の上から飛び降りた。
なかなか高い木から飛び降りたのだが、
着地音はしないほど静かであった。

「おい、黒ディド。俺のご馳走のお味はどうだったよ」

ディドの横顔から血が滴り落ちる。
だがディドの手足ではそれを拭う事はできなかった。

「うげ、テメェ血は赤いのかよ。気持ち悪っ!」

「イマノハユダンシタ、ダガ・・・クラエ!!!」

ディドキャプテンはまた突然目から鈍い光を放った。
それはアレックス達に放ったものと同じ。
ディズリングアイズであった。

「うぉ?」
「ウゴキガオモカロウ」

ドジャーが不思議そうに自分の指を動かす。
そしてポリポリとピアスの下をかいた。

「こりゃビックリだ。うまいこと体が動かねぇ」

そう言って腰から一本のダガーを抜き取った。

「ソウダロウ。・・・・シネ!!!」

またディドの鋭い舌が伸びる。
それも今までで最速のスピード。
それだけ突きも空を裂くほどにするどい。
マバタキをするほどの瞬間で舌の突きがドジャーを襲う。

が、
ドジャーはそれをいとも簡単に避けた。

「ナニッ!?」

「な、なんだぁあの盗賊の兄ちゃん。遅くなってねぇぞアンリ」
「まさかディドのディズリングアイズが効いてないの?」

「いえ、」

アレックスが言葉を挟む。

「ドジャーさんはディズリングアイズを食らってはいます」
「何言ってんのよ。彼、動きが鈍くなってないわ!」
「あれでいつもの半分くらいのスピードです」
「ウソ・・・・そんな・・・・」

「驚くのは速いぜそこのお姉ちゃん」

ドジャーがダガーをクルクル回しながらアンリに言う。

「まだ速くなるぜ」

ヒュンッという音と共にドジャーの周りに空気が舞い上がる。
ブリズウィクである。

「ウォ・・・・こいつシャレんなんねぇよアンリ」
「アハハ、頼もしい限りじゃないの」

「おっとぉ、勘違いするなよ」

「「へ?」」

「『人見知り知らず』ってぇ盗賊を知ってるか?」

「あ、あぁ・・・賞金首だったゴミ捨て場(99番街)の盗賊だろ?アンリ」
「えぇ、たしか老若男女関係なく金をむしり取るっていう・・・」

「それが俺だ。残念だったな。救助金はおめぇらの給料から天引きだ」

「「え・・・・」」

ナッグとアンリはそれぞれの武器をゆっくりと地面に落とした。


「ナニヲグダグダト話シテイル!」

ディドキャプテンが懲りることなく舌を突き伸ばしてきた。
その鋼鉄のような舌が真っ直ぐドジャーを襲う。

そしてまたもやドジャーに命中すると思った矢先。
ドジャーは瞬時にジャンプで避け、
さらに

「うぉぃ・・・マジ信じらんねぇぞアンリ・・・」
「ディドの舌の上に・・・・」

ドジャーは鋼鉄の槍のように伸びたディドキャプテンの舌の上に乗っていた。
細い舌の上に、片足だけでバランスをとるように。

「"舌の上"ってよぉ、響きだけは不思議だな。"シタ"で"ウエ"なんだかんな」

そんな所にのっかるあんたの方が不思議だよとアレックスは思う。

「ま、今晩は食事抜きだディド野郎!!」

ドジャーは右手のダガーで思いっきり真下を刈った。
右手のダガーは的確にディドキャプテンの舌を二つに切り離した。

「ガアアアアアア!!!」

ディドの命である大事な舌を斬り取られ、
痛みに呻くディドキャプテン。
その場で苦しみ始めた。

ナッグとアンリはあまりの手際に言葉を忘れて呆然としていた。
そんな二人の前でドジャーが立ち止まる。

「っと。まぁ報酬はキッカリ50万ってとこでいいぜ」

「ご、50も!?何言ってんだ!この仕事の報酬自体・・・・いくらだっけアンリ」
「私に聞かないでよ!」

そこは知っとけよと・・・・

「どーせお前ら二人じゃ仕事終えらんねぇだろが
 カッカ!まぁいいじゃねぇか。命がそんくらいで助かるんだからよ!
 助かる上に仕事も終わる。一石二鳥じゃねぇか。な?」

ドジャーは「ラッキーだったな!」とナッグとアンリの肩をポンポンと叩いた。

一石二鳥。
その一石にかかるコストがラッキーじゃない。とアレックスは後ろで冷静に思った。

「クソォ・・・・どうすんだよアンリィ・・・」
「しょーがないでしょナッグ!でもとりあえずあいつは倒してくれるんでしょ?」

アンリは苦しんでいるディドキャプテンを指差す。
ダメージはそれなりに与え、凶悪な舌の先が無くなったとはいえ、
まだやっかいな事に変わりなかった。

「ん?あぁ、まぁそれくらいなぁ。んじゃま、契約成立って事でコトを進めるか
 おい、アレックス。邪魔したな。続きヨロシク」

ナッグとアンリは「へ?」と振り向く。
そこにいたアレックスは左手の指を突き出していた。

やれやれ、やっと話が終わったかとアレックスは思う。
そして右手の槍を地面に突き刺した。

「素朴な疑問です。もとから黒い者が焼けても"黒こげ"っていうんですかね?」

アレックスは左手の指をクイッと上へ向ける。
それと同時にディドキャプテンの足元から勢い良くパージフレアの青白い炎が吹き出した。
その聖なる炎は黒き魔物を言葉通り黒こげにするがごとく包み燃やした。

「ガ、ガアアガアアアアア!!!!」

アレックスが指を下ろすと同時に炎が吹き止む。
すると中から焼け焦げたディドの姿が現れ、
ゴロンと砂の多い草原に転がった。

「時間とらせたなアレックス」
「ほんとですよ。構えっぱなしも疲れるんですよ?」

「ちょっ、アレックス君!え?なんであなたが、え?なんで?」


「ったく。しゃーねぇヘタレ共だな。
 さっきからずぅーーーっとディドの足元にパージの魔方陣があったの気がつけよな」

「・・・・・ど、どゆことだ・・・アンリ」
「私に聞かないでよ・・・」

ドジャーがやれやれと首を鳴らしながら近くの切り株に座って話し始めた。

「あんな。俺が現れた瞬間あるだろ?テメェらがトロくなった時だ
 あん時な、すでにアレックスはおめぇの後ろでパージの準備できてたんだよ
 あとは撃つだけ。あの瞬間で本当は一件落着ってわけだったんだ。
 あぁ、アレックスが聖騎士だなんて知らなかったか。
 ま、アレックスは遠距離攻撃できるんだからトロくなっても関係なかったってこった。
 でも俺が邪魔したんだよ。何度も言ってたろ?「邪魔してワリィ」って」

「な、なんで邪魔なんか・・・」

「そりゃオメェ・・・これよこれ」

ドジャーは親指と人差し指で輪っかを作ってニヒヒと笑う。

「オメェらから金が取れるかなーってな」
「ほんとドジャーさんは悪どいんですからね」
「んだよアレックス。そう言うオメェも金欲しかったんだろ?
 金の交渉中にいくらでもパージは撃てたんだもんな」
「そりゃぁねぇ、この手伝いで報酬がゲートですよ?そりゃないなって思いまして」
「ケッケケ。ないなないな」

ドジャーは「てめぇも悪くなったよのぉ」と言いたげな笑顔でダガーをクルクル回していた。
「誰かさんのがうつったんです」と言いたげにアレックスは地に突き刺した槍を抜いた。

ドジャーとアレックスがナッグとアンリの方を見た。
だがもう二人は地面にへたれこみ、
魂が抜けたような状態になっている。
意気消沈といった感じだ。

「ま、一件落着だな」
「ですね。さっさともっかいゲートで飛んでふれあい広場目指しましょ」

「マテ・・・・」

ドジャーとアレックスは瞬時にそれぞれの武器を構えながら振り向いた。

「まだ生きていたのか!」
「しぶてぇな」

「オマエラ、"フレアイ広場"ニ行クト言ッテイタナ」

「あぁ?」
「えぇ・・・そうですけど」

「ツマリソレハ"モンスターコロシアム"ニ行クンダロウ」

「そうですけど・・・・」

「ソッチノオトコ。オマエ、"ドジャー"ト呼バレテイタナ」

「は?それがなんだってんだ?」

「・・・・・・"メッツ"ニ会イニ行クンダロウ」

「!!!!??」 

ドジャーの目の色が変わる。

「おめぇ、メッツを知ってんのか?!」

「ソウ構エルナ。タダノ親切、ソシテ願イダ。メッツニ会イタイナラ普通ニ行ッテモ無駄ダ。
 夜。今日ガ最後ノ晩ダ。夜ニ必ズ、必ズコロシアムヲ訪レロ」

「夜だぁ?夜は閉まってるじゃねぇか」
「訳ありみたいですね。あなた・・・・何者なんですか?」

「ワタシハ"アナハイム"・・・。名ナドディドの世界ニハ・・イラナイ・・・ガナ・・・」

「ちょ、なんだマジてめぇはなんなんだなんで人語をしゃべる!
 天然か?!それで見せモノとしてコロシアムでなんかされたのか?!」

「オマエラナラ・・・天誅ヲ・・・クダ・・・セ・・・・・・メッツヲ・・・タ・・・・ス・・・」

「待て!まだ死ぬな!なんだ!なんでメッツを知ってるんだ!おい!おい!」


「ディド・・・・万歳・・・・」

そこでディドキャプテンはただの魔物の屍となった。
人語も何も関係ない。
ただのディドの屍に。


「・・・・チッ!」
「死んじゃいましたね」

「クッソ!メッツの身になんかあったってのか!」
「メッツってこれから会いに行くドジャーさんおギルメンですか?」
「そうだ。数ヶ月前からコロシアムに泊り込みで出かけてる。
 ったく。なんなんだ今のアナハイムと名乗っていたディドは・・・」
「・・・・多分コロシアムで戦いをさせられていたモンスターでしょう」
「チッ」

ドジャーは唾を吐き捨てた。

「まぁ行くしかないですね」



ドジャーとアレックスはナッグから剥ぎ取ったゲートで飛んだ。





小川のせせらぎと小動物と小鳥のさえずりだけが聞こえる森の中。



そこには
黒いディドの屍。
魂の抜けたようなナッグとアンリ。
軽くなった財布。

そして数百匹のディドの討伐という課題だけが残されていた。



「続き・・・・・俺達だけでどうするよ、アンリ」
「私に聞かないでよ・・・・」







                 






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