「でもなぁ、ほんとあいつらはどっから沸いてくるんだろうな。アンリ」
「そんな事私に聞かないでよ!」

ルアスの森の一角。

アレックスはナッグとアンリの後ろをついて歩いていた。
モンスター駆除の手伝い。
それさえすればルアスの森ゲートをくれるというのだ。
手伝わないわけには行かない。
かなり労働と見合わない見返りだが、
当ても無く森を彷徨う事を考えると手伝うしか道はなかった。

だが問題は目の前の二人。
この二人は頼りになるのだろうか。

「ナッグさん。ナッグさんは『ぎざっ刃』と呼ばれてるらしいですけど
 なんでそんな刃こぼれでギッザギザのソードを使ってるんですか?」

「あ、これ?そりゃぁ仕事はディドやらモスやらを狩る仕事だぜ?
 仕事道具なんざ"斬れればいい"ってなもんだ。な、アンリ」
「私に聞かないでよ!あんたが勝手に使ってる仕事道具でしょ!」

「アンリさんは何か得意なんですか?」

「私は聖職者よ。回復が得意に決まってるじゃない。
 それに『アーリークロス』って呼ばれるだけあって私の回復は速いわよ
 ペア狩りならお手のもの・・・・って自分で言うのもナンなんだけどね」

ふむ。
まぁ話からするとこの人達もザコじゃないだろぅ。
だけど頭が悪そうだ。
どっかでヘマしそうな
そんな感じだ。
どうにか少しでも仕事を楽にしないと・・・。

「あの・・・。ナッグさん。アンリさん。結局どうする気ですか?
 まさかあの数のディドを一匹一匹倒していくってんじゃぁ・・・」

「まぁさか。俺達を馬鹿だと思ってんのか?策ぐらいあるってのぉ。なぁアンリ」
「なんで私に聞くのよ。あんたが考えなさいよ」

「・・・・」

「じゃぁどうすんだよ。マジお手上げじゃねぇかアンリ!」
「だーかーらー私に言わないでよ!」

「あの・・・・」

睨めっこしながらケンカするナッグとアンリの間に
アレックスが話を割って入った。

「僕実は元王国騎士団なんです。で、よくここにモンスター狩りに来てたんですけど
 その時はいつも"頭"を探してました。モンスターといえど上下関係はありますから」

「ほぉ〜、頭を叩けばおとなしくなるかもってことか、
 もしくは最低でも統率力がなくなって混乱が起きるって事だな。アンリ」
「だからアレックス君の説明を私に聞いてどうすんのって言ってるでしょ!」

アレックスは少し頭が痛くなった。
こんな人達と一緒で大丈夫なんだろうか。
アレックスは額に手を当てて軽く首を揺らした。

「んで、その肝心の親玉はどこにいるんだ、なぁアンリ」
「そんなこと私じゃなくてディドに聞いてよ!」

「親玉系のモンスターは親玉なんですから当然1エリアといえるくらいの範囲に1匹です。
 そして当然居心地のいい場所にいるはずです。環境、安全、そしてモンスターの多い場所
 それらを考えればおのずと場所は分かるはずです。伊達にお互いここらを歩き回ってないですしね」

アレックスは騎士団時代の経験をフルに使う。
その様子にナッグとアンリは口出すこともなくただただ聞き惚れた。

「あらあら、落ち着いて状況判断ができるものね」
「騎士団ってのはこんなのが数千人といる集団だったのか。
 それなのになんで全滅なんてしたのかねぇ、俺らの仕事的には嬉しいけどよ、なぁアンリ」
「不謹慎なとこで私に振らないで!」

「とにかく頭を探しましょう」

アレックスは地面に即興の地図を画く。
そして大まかに特徴のあるものを画き、相談を始めた。

「まず僕は目の前のこの小川の周辺が怪しいと思います。
 水場が近いに越したこと無いのは万物共通でしょうから」
「この大きな一本杉の近くにはそこそこモンスターがいたわ
 でもそれ以上離れたところは逆にモンスターが少なかった覚えがあるわ」
「あーんと。たしかディドの行列が徘徊しているのはここら辺だ、よなアンリ?」
「えぇ、私達が遭遇したのはこことここと、あとここら辺かしら」
「うーん。あとどこか食物的な情報はないですか?」
「おぉ、それなら川沿いによくすっぱいリンゴの木が立ってる。な、アンリ」
「そうね。いつも私達もそこで食糧補給してるから。
 それに特にここら辺の辺りは地層の問題かおいしい植物が生えやすいわ
 その代わりモンスターも多かったけどね。ザドがセイジリーフとか食べてたわ」
「なるほど」

アレックスが地面に木の枝で○やらXやら書き込んでいく。

「ま、こんなもんですかね。で、これらをまとめると・・・・」

「結構しぼれそうだな。分かりやすい。な、アンリ」
「私に聞かないでよ!でもこの図からいくと怪しいのは・・・・」

「・・・・・」

三人が立ち上がり、そして辺りをキョロキョロと見回した。
なぜなら地図が示した場所は・・・・。

今まさにいるこの場所だったからだ。

「なぁ、アレックス兄ちゃんよぉ、親玉ってのはどんな奴なんだ?アンリ」
「なんで私なの!?今の変化球みたいな振り方はなんなのよ」

「親玉っていうのは通称ディドキャプテンというモンスターです。特徴としては・・・」

「黒くてでっかいのか、アンリ」
「なんで私に!・・・ってなんで知ってるのナッグ。
 仕事で倒した事あったっけ?私達は雑用ばっかでその辺は上司の仕事でしょ?」

「いや、だってよぉ・・・・」

ナッグがギザギザのソードを構える。

「・・・・・俺の目の前にいるんだぜ?アンリ」

「「えっ」」

アレックスとアンリが振り向く。

そこには黒くて大きなディドが一匹立っていた。
黒くて大きい。
それ以外に説明方法はなかった。

「コウゲキ 目標 3体 カクニン」

突然ディドの舌が槍のように伸びる。
数メートル以上はあるんじゃないかというその舌は
真っ直ぐナッグの方に向かって突き進んできた。

「のわっ!」

ナッグは咄嗟にソードの腹で舌を防ぐ。
だがソードはディドの舌でパカァンと折れてしまった。
ソードの上半分が地面に突き刺さる。

「おわぁっ!折れやがったこのソード!ふざけんな安物!なぁ、アンリ」
「あんたが好きで使ってる刃こぼれソードでしょ!」

ナッグは真ん中から上のないソードを構えなおす。

「気をつけてください。ナッグさん。アンリさん。
 刃こぼれをしていたとはいえソードを腹から割ってきました。相当の攻撃力です」

「タチサレ、ニンゲン」

「んが!このディドまたしゃべったぞ!しゃべるディドっているのかアンリ?!」
「だからそれはディドに聞いてよ!」
「だって人語しゃべったぞ!泣き声みたいなディド語なら聞いた事あるけどよぉアンリ!?」
「だから私が知るかっての!」

「人語をしゃべるディド・・・。聞いた事ありません。
 それに普通のディドキャプテンは常に仲間を近くに置き、支援攻撃をしてきます。
 仲間の数が親玉の強さ。しかしこいつはなぜか違います。とにかく油断はできません。
 僕とナッグさんは攻撃。アンリさんは回復に集中してください!」

折れたソードを構えるナッグ。
その少し後ろでアレックスが槍を構える。
ソードと槍の射程を考えるとこの陣形が最高だろう。

「忠告ハシタゾ」

またディドキャプテンが勢い良く舌を突き出してきた。
しかもさっきより速い。
まるで鋼鉄のようなその舌が迫る。

それをナッグは血を軽く飛び散らせながら脇の皮一枚で交わす。
そしてそのまま突き進んだ舌は後ろのアレックスの肩に刺さった。

「クッ!」

だがアレックスの傷はすぐに塞がった。
すぐにアンリがヒールを使ったのだった。
『アーリークロス』と呼ばれるだけはある。
回復が早い。
アレックスはアンリを見直した。

「俺の傷も直せよアンリ!」
「うるさいわね!私は範囲回復はないの!」

・・・・。
だからペア狩りがどうこう言ってたのか。
ペア狩りで重宝されるんじゃなくてペア狩りしかできないんじゃないか・・・。

「モウイチドイウ。タチサレ、ニンゲン」

「やだっての!てめぇらのせいで人間様がたくさん困ってるんだよ!なぁアンリ」
「えぇそうよ。困ってくるから《モスディドバスターズ》に依頼がくるのよ!」

「コマッテイル?ソレハオ互イ様ジャナイカ。オマエラモ我ガ同胞ヲコロスダロ」

「そりゃぁおめぇらが襲ってくるからだろう!なぁ、アンリ」
「えぇ、襲ってこなければ襲わないわ!・・・・・・・・そうだ!
 もしあなたが手下達を連れてもっと人目の届かない森の奥に潜んでくれたら
 お互い血を流さずこの場が収まるわ!ね、そうしましょ?」

「ムリダナ。貴様達ハ同胞ガ町ニ迷イ込ンダダケデモ同胞ヲ間違イナク殺ス
 ソレハコチラモ同ジ。住処ニ来ラレレバコロス。
 ソレニ貴様ラハ修行ナンテ理由デ同胞ヲコロス。許セナイ」

「最初から和解なんて無理です。ナッグさん。アンリさん。
 言葉で済むなら人と魔物の共存はとっくの昔に実現しています」

「チッ、そうだな、とりあえず俺たちの目的は目の前のこいつを倒す事だ!な、アンリ」
「仕事だからね」

「ソレハコチラモ同ジ。目ノ前ノニンゲンヲ生カシテハオケナイ」

突然に一瞬辺りが光る。
ディドキャプテンが何かした。
何かしたとしか分からなかったが、魔法のようなものだろうか。
一瞬目が光ったような気がした。
だが何をされたか分からない。
別段何かが変わったようには思えない。

「けっ!こけおどしか!なぁ、アンリ」
「えぇ、ナッグ!トドメを刺してきて!」

ナッグは片手の折れたソードに力を込める。
折れていてもディドの体に致命傷を与えることくらいはできそうである。

「くら・・・え・・・・・・あれ?なんだこりゃアンリ」
「え?何がよ。私に聞かないでよ」

ナッグはゆっくり剣をおろす。
そしてゆっくりと走り出そうとした足をとめた。

「体が!なんか遅ぇ!ゆっくりだアンリ!」
「え?ほんとだ!」

「ディズリングアイズですね・・・・ディドキャプテンの得意技です
 やられた・・・・。会話と特異さで忘れていました・・・・」

アレックス自身ゆっくりとなった体を動かす。
思い通りに動かない。
これでは食事も二倍時間がかかってしまう。
いや、それより戦闘だ。
通常時でもあの舌は避けるのは困難だった。
なのに今の状態では避けることなどとうてい無理である。

「アレックス君。なんか作戦はない?」

「そうですね。考え中です。目の前のナッグさんを盾にユックリ考えます」

「ちょっ!正義の騎士団様が人間を盾にする気かアンリ?!」
「そうみたいよ。ね、騎士団様」

「"元"騎士団です」

「シネ、ニンゲン」

ディドが言葉を告げる。
舌を突き出してくる気だ。

「だぁああああああ!!!死にたくねぇよアンリィイイイ!!!」


アーメン・・・・。




ディドキャプテンが舌を突き出そうとするその瞬間だった。



突然一本のダガーが全員の視界の真ん中に突き刺さる。



アレックスはそのダガーには見慣れていた。




「よぉ、アレックス。なんか役立たず連れ歩いてんな。俺のご馳走は必要か?」


そばにある木の上で金にうるさい盗賊がピアスを光らせてニヤニヤ笑っていた。








                 






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