S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<森とディドと駆除>>








「なぁ、多分ここさっき来たよな」
「・・・・・」


ここはルアスの森。

風がびゅーっと吹き抜けると
木々がざわざわとざわめいた。

砂が主張する草の平原。
少し少なめだが森といえる木々。
どの方向を見ても同じような風景だ。

そんな場所に聖騎士と盗賊が二人。
アレックスとドジャーは一言で言うと

「だぁぁあああ!どっち行きゃぁいぃんだ!!!」

迷子になっていた。


「それもこれもマリナのせいだ!あいつに地図なんか書かせたのが馬鹿だった!」
「マリナさんにこれほど画心絵心がないとは・・・」

アレックスはまたマリナに画いてもらったふれあい広場行きの地図を開いた。
だがそれは森で開くとゾっとするような暗号地図であった。

「どの辺なんでしょう"この辺"って書いてある場所は・・・」
「それよりこの線はなんだ?!道か?!川か!?髪の毛か?!」
「この異様にボリュームのある木はなんなんでしょう・・・」
「まずこのルアスよりデカいカエルはなんだ?!ディドのつもりか!?
 こんなバカでかいディドがいるわけねぇだろ!!」
「っていうかこの地図・・・上に東があって右に西があるんですけど・・・」
「"少し大きい木を左の方に"って分かるかあああああああ!!!!」

ドジャーはアレックスから地図を取り上げ、
両手でクシャクシャに丸めて近くの木に投げつけた。

「・・・・まぁ落ち着いてくださいドジャーさん。きっとなんとかなりますよ」
「なりますよじゃねぇ!俺は嫌だ!こんなプロブだらけの森はよぉぉ!!!」

ドジャーがビシっと指差す。
その指の指す先には一匹のモンスター。
そのモンスターは緑の球体から手と足と触覚と顔が生えていた。
見るからに気持ち悪い。
たしかにこんなモンスターを見学がてら歩き回るなんてたまらない。

「違いますよドジャーさん」
「あん?」

アレックスが自身あり気にいう。

「そいつはププロブです」
「限りなくどっちでもいいわ!」

たしかにどっちでもよかった。
とにかく今の状況にため息をつきたいのはアレックスも同じだった。

「はぁ・・・しょうがない。ここには騎士団時代に何度かモンスター討伐で来てます。
 なんとかその時のカンを頼りに歩いてみます」
「お、頼りなるね!」
「カンを頼りにするっていってるじゃないですか・・・・」

なにはともあれアレックスとドジャーは適当に歩き出した。
止まっているよりはマシだろう。
だが歩いても歩いても木とか木とか木とか木しかない。
さらにプロブやディドも木と張り合うほどにいる。
弱いくせにピョコピョコはねて飛びついてくる。
美人は三日で飽きるっていうがこいつらはいつ見てもウザい。

「もとはといえばアレックスが俺のギルメンに会いたぁ〜いとか言ったからだぜ?」
「それはたしかに言いましたよ。言いましたさ。
 マリナさんやエクスポさんみたいな面白い人にもっと会いたいですもん
 でも普通99番街にいると思うじゃないですか?!こんなとこ歩くと思いませんよ!」
「ざぁーんねん。たしかにうちのギルドは99番街で結束したが、
 今じゃぁ99番街にいるのは俺とマリナだけだ。俺みたいなキマグレ野郎が多いからな」
「・・・・」

アレックスはひどく納得してしまった。
すぐに想像がつく。
「ヒマだ」みたいな理由でどっかプラプラしてる人だらけな気がする。
それにアレックスもそこそこの期間99番街で暮らしているのだ。
そんな広い街ってわけではない。
知り合いなら生活する上で会わないはずがなかった。

「ま、今回会わせる奴は前々からお前に会わせたいと思ってた奴なんだ。
 お前が言い出さなくてもその内会わせる気でいたってわけだ」

・・・・それはつまり僕のスケジュールには"ルアスの森で迷子予定"があった訳か。

「なんにしてもふれあい広場に着かなきゃ話にならないじゃないですか」
「そりゃそうだ」
「あぁもう!一回仕切り直しましょ!帰ってもう一回ルアスの森ゲート買いましょ!」
「無理だな」
「へ?」
「帰りのゲート持ってきてねぇ」

・・・・

アレックスは膝の力が抜けて崩れ落ちそうなほどにガクリと来た。
それはつまりふれあい広場に着かない限り今晩はディドと添い寝という事だからだ。

アレックスは辺りを見回す。
目線に入るのはディド。
そしてプロブ、あとザド、モス・・・etcetc・・・・・
飽きるほどにいる。
際限なく弱いモンスター達だが
これらが今晩の相手と分かるとヒヤリとくる。

「おい、アレックス。見ろ。ディドだディド」

アレックスの後ろからドジャーが肩を叩きながら言った。

「もう〜・・・ディドもモスもプロブもノカンもザドもモスもいいですってぇ〜〜」
「今モスだけ二回言ったぜ」
「どぉ〜〜でもい〜ですよぉ〜〜〜」
「いや、だけどまぁ見ろって」
「もう、ディドがどうしたんですか!」

アレックスが振り向く。

「ディドがな」

アレックスは瞳孔が開きそう・・・。いや開いた。

「いっぱいいるんだ」

アレックスの目線に入ったのはおびただしい数のディド。
見る限りディドディドディド。
あちらもディド。こちらもディド。
こんにちは、ディドです。
全画面ディド色一色。
その数は1・2・3〜〜10・・・
あぁ、両手があと何十セットかないとカウントできない。

「これだけいるとよ、結構・・・・・・やばくね?」
「やばいですよ!!!!!」

ドジャーとアレックスは同時に振り向き。
ディドを背に一目散に走り出した。

「ちょ、ちょっとドジャーさん!置いてかないでくださいよ!」
「知るか!自分の身は自分で守れ!」

自分だけトットと先に逃げるドジャー。
そしてすぐ見えなくなった。
自慢の足は生かして仲間を見殺し。
にくいねあんちゃん。

アレックスは走りながら首だけ振り向く。
振り向いた先にはすごい勢いで追いかけてくる数百匹のディド。
その行進音は地響きとなる。
ディドで地響きが起こるとは何事であろうか。

「うひゃ〜〜〜!!」

アレックスは足が棒になりそうなほどに走った。
というかすでにデッドゾーンに突入していた。

もう走りたくない!

だがそれとうらはらに鳴り止まない背後の公葬曲。
数百のディドの足が奏でる重低音がアレックスに迫る。

もう駄目だ!
逃げ切れない!

"元騎士団員。ディドに踏み殺される"

そんな記事が頭に浮かんだ瞬間だった。




「こっちよお兄さん!」




道の脇から突然の声

アレックスは咄嗟にそこに飛び込んだ。

脇の草むらに飛び込んだアレックス。
荒い息を殺して潜んだ。

目の前をディド達が通過していく。
まるで雪崩でも起こっているかのような数だ。
あんなディドの爆走行列に巻き込まれたら塵になってしまうんじゃないだろうか。

「よし行ったようだなアンリ」
「私に聞かなくても分かるでしょ!」

その時やっとアレックスは自分の目の前に二人の男女がいる事に気がついた。
その男と女はアレックスに話しかけてきた。

「あぶなかったな兄ちゃん。な、アンリ」
「私に振ってどうすんのよナッグ!怪我はない?お兄さん」

「あ、ありがとうございます。ディドですり身になるところでした」

「ハッハ!礼なんざいらねぇよ。なっ、アンリ」
「私に聞かないでよ!いらないならいらないって言っておきなさい!」

変な二人組みだ。

男の方は戦士のようだ。
身なりからでも分かるが剣を持っている事でも分かる。
だがその剣は刃が欠けてギザギザになっている奇妙な剣だった。

女の方は聖職者のようだ。
白い服に大きな十字が画かれている。見るからに聖職者している。

どうやら戦士+聖職者のペア狩りをしている所だったのだろう。
にしてはルアスの森で修行を積むほど弱そうな人達でもないのが不思議だった。

「あなた達はここで何をしてたんですか?」

「あぁ俺ら?まぁ狩りっつっても不思議がるかな。だって俺強そうだもんな。な、アンリ」
「私に聞いてもYESとは言わないわよ」
「そりゃないぜアンリ」
「私達の事だったわね。とりあえず自己紹介から。私の名前はアンリ
 ちまただと『アーリークロス』のアンリって呼ばれてるわ」
「俺はナッグ。『ぎざっ刃』のナッグだ。よな?アンリ」
「自分の事まで私に聞かないで!」

ナッグとアンリ。どっちも聞いた事のない名とあだ名だった。
だがナッグという男が連呼しているせいでアンリという名は覚えた。

「俺たちは《モスディドバスターズ》って業者のもんだ。な、アンリ」
「そう。ルアス番街に本社を構えるモンスター清掃会社よ」

「モンスター清掃会社?」

「そう。依頼を受けて街の周りや旅路の清掃。簡単に言えばルアスの森のモンスター狩りよ」
「この仕事は騎士団がやってたんだが、潰れちまってからは俺らがガッポガッポ。だな、アンリ」
「いちいち私に言わないでって言ってるでしょ!」

元騎士団でこの仕事を何度かしたアレックスからすると微妙な心境であった。

「ナッグさんとアンリさん。ちゃんと仕事してくださいよ
 あの大量のディド軍団を倒すのもあなた達の仕事なんでしょ?」

「うぉ、いきなりビシっと言うようなったな兄ちゃん。な、アンリ」
「だからなんで私に言うのよ!」

「あ、僕の名前はアレックスです」

「アレックス君ね。そりゃぁ私達もあれらを倒すのが仕事って分かってるわよ
 でも今日はなぜか他のメンバーが全員同時に有給とっちゃってね」
「ぜってぇあいつらみんなで旅行でも行ってるんだぜ
 でも年中無休って言ってるからには数人おいとかなきゃいけないからよ
 だから俺らに仕事押し付けるために内緒にしたんだぜアンリ」
「あいつらめ・・・・。帰ってきたら前髪を二箇所だけ残して刈り取ってディドヘアーにしてやるわ」

アンリは片手の杖を地面に突き立ててディドのような形相で言った。

「あ、社内事情はどうでもいいんですが・・・」

「それはそうね。ま、二人じゃぁあの軍団を倒すにも限界があって困ってるのよ」
「で、アレックスの兄ちゃんはなんでこんなとこにいるんだ。な、アンリ」
「だからなぜそこで私に振る」

「あ、僕はふれあい広場に行きたいんですけど迷子になっちゃいまして
 でも帰ろうにも帰りのゲートもないし踏んだり蹴ったりでして・・・・」

「へぇ、道も分かるけどそれは森ゲート渡した方が事は早いわね」

「くれるんですか?!」

「その代わり!ちょっくら手伝ってくれよアレックスの兄ちゃん。だよなアンリ」
「そゆ事♪」

「え・・・・手伝いってまさか・・・」

「「たぶんそのまさか」」
「だなアンリ」
「ふふ♪」


アレックスは大きなため息をつく。

そのため息はびゅーっと風にのり、木々をざわざわとざわめかせた。









                 






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