S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<ジジィと子供とかくれんぼ>>



「この新作のホロパ汁。ほんとおいしいです!」
「あらほんと?」
「こっちのアンバーのじゃがバターもいけるぜ」
「そりゃよかったわ!さっそくメニューに加えて・・・・と」

マリナが嬉しそうにメニューを付け足す。

ここはマリナの店「Queen B」
アレックスとドジャーは開店前から遊びに来ていた。
時は夕方。
だが酒場はこれからが一日である。
マリナが太陽が沈んだのを確認する。
そして店の外のパネルをひっくり返して"営業中"にした。

開店直後なので酒場には他に人はいない。
ただアレックスとドジャーとマリナがいるだけだった。

「こんな時間から遊びに来て・・・。あんた達少しは働いたらどうなの?」
「俺は働いてるぜ?」
「あら、窃盗は"仕事"とは言わないわ」
「僕は働くより食べるほうが好きです」
「あのねアレックス君・・・。逆よ・・・。人は食べるために働くものなの」
「もぐ・・・」

働く。
アレックスは考えていなかったわけではない。
ドジャーの所に居候してからというもの、そういう事を考える時間は多々あった。
小さい頃から騎士団に入る事が当然の環境で育ち、
当然のように騎士団に入った。
騎士団で人のために働くことだけが全てだった。

だがそれも終わった。

すると途端に何をすればいいか分からなくなった。
信念もない。
やりたい事もない。
すべき事はある。
だが・・・・


突然ガランガランと『Queen B』のドアが開く。

「いよぉぉ〜〜。元気でやっとるかぁ〜!?」

開店直後で客のいない店内に年老いた声が響いた。
アレックスは少しムッとした。
せっかくシリアスに考え事をしていたのにぶち壊しだ。
酒場で酒でなく自分に酔う。
これが新しい酒場での・・・・・・・・・・
まぁいっか。

「うぉ!レン爺じゃねぇか。久しぶりだな」
「おぅおぅドジャー。やっぱここにおったか、探したぞい
 あ、マリナ嬢ちゃん。なんか酒とツマミ適当に出してくれぃ」
「あら、こんな早くからお酒ですか?お体に悪いですよ?」
「逆じゃ逆。酒がないと生きてられんわぃ!」
「いやいや・・・ジジィ。ただでさえ残り少ない寿命を減らすことになるぜ?」
「はっはっは!寿命と金は使うためにあるんじゃよ。あるうちに使っとけ
 それに酒の飲めない余命なんて水を飲んで生きるのと一緒じゃわぃ」

元気な老人だ。好感が持てる。
ドジャーとマリナとは顔見知りのようだ。
きっとルアス99番街の人なのだろう。

「お?」

ふとレン爺さんが年老いてなお力強い目でこちらを見る。
アレックスの存在に気付いたようだ。

「えぇーっと・・・ よぉ!ひさしぶりじゃの!!」
「あ、いえ・・・・僕とは初対面だと思いますが・・・」
「おぉおぉ、そうじゃよな。どうりで記憶にない顔だと思ったわい
 こりゃ失礼。わしはレンじゃ、周りはみんなレン爺と呼んでおるよ」
「僕はアレックスです。アレックス=オーランドといいます」
「アレックスか。凛としていい名じゃ。少しお主にしてはイカつい名な気もするがの」
「よく言われます。」

「ったく。会ったか会ってないかくらい覚えておけよジジィ。やっぱ年か?」
「はっはっは!まだまだわしゃモウロクする年ではないわ!」
「何言ってんだジジィ・・・・たしか去年76とか言ってたじゃねぇか」
「あら、私は一昨年80って聞いたわ」
「はっはっは!60から先は数えておらんよ!」

それをモウロクしているというんじゃないだろうか。
元気ハツラツなジィさんだと思っていたが
それを聞くと10分後にでも寿命がきそうで心配だった。
飲みついでに聖職者として葬儀の司会を行うはめになったらたまらない。

「で、レン爺よぉ。俺を探してたって言ってたがどうしたんだ?」
「いや、実は孫を探しておるんじゃ」
「孫?フィリー君を?」
「そう、フィリーをじゃ」
「またかよ・・・」

ドジャーとマリナが同時に大きなため息をついた。
まるで楽しみでない恒例行事が来たような反応だ。
アレックスにはそれがどういう事か分からないので状況を聞く。

「お孫さん・・・ですか?」
「おぅおぅそうなんじゃ。もう今年で10にもなる子なんじゃが
 幼い頃はもうかわいくての。風呂あがりなんかに肩たたきをしてくれるんじゃ。
 寝るときにカボチャの絵本読んでやったりな、お小遣いをあげるとそりゃもう・・・」
「ジジィ!」
「おぉ、すまんすまん。孫自慢をしてしまったわい」
「孫探しって事は迷子にでもなったんですか?」
「迷子・・・ってのもちょっと違うかのぉ・・・なんていうかの
 小さい頃から99番街で自由に遊ばせておったんじゃが」
「え?!危険じゃないんですか?!」
「ほっほ。孫のフィリーは天才盗賊と言われとるほどの子での。
 まだ大人になりきれておらんが、ある事が得意なお陰で心配はないんじゃ
 本当はワシと同じ詩人の道を歩んで欲しかったんじゃがのぉ・・・悪に憧れる年頃というか・・・」

「ジジィ!ちゃんと説明してやれ!」
「おぉおぉ、すまんすまん。それでフィリーが天才盗賊だと言われるようになったのはな、
 5歳にしてインビジブルをマスターしたからなんじゃ」
「ご、5歳でインビジブルを!?」
「そうなんじゃ。それ以来フィリーはインビジを使ったイタズラが増えてのぉ
 それゆえフィリーは人からこう呼ばれておる。天才盗賊『ハイド&シーク』と」
「『ハイド&シーク』・・・・『かくれんぼ』ですか?」
「そうじゃ。インビジにかけては類をみない実力の持ち主なんじゃ
 凄いんじゃぞ!他はてんでダメじゃがの。一芸に秀でているんじゃ
 こないだなんかの!マイソシアの連続インビジ継続時間を更新したんじゃ。んでの・・・」

「分かった分かった。よく分かったわよレン爺さん」

マリナが4人分のコーヒーをいつの間にか作って持ってきた。
酒にはまだ早いと思ったのだろう。

「いや、フィリーの凄いところはの・・・」
「カッ!とにかくジジィがここに来た理由は分かったぜ。俺のディテクションか」
「その通りじゃ」
「カァ〜! ガキ探しのために99番街中をディテクして回れってか?!」
「頼むドジャー!この通りじゃ!孫のためにも!」
「違うだろジジィ。俺に頼む時は頭なんか下げたって何の意味もねぇぞ」
「わかっとるわぃ。ほれ、コレでいんじゃろ」

そう言ってレン爺は金貨を数枚取り出した。
テーブルの上でグロッド金貨が音をたてて輝く。
ドジャーがとても好きな輝きだ。

「分かってんじゃねぇか!99番街のシステムをよぉ!」
「その代わり、絶対見つけてくれよ」
「分かってるって!金が貰えるなら殺してでも連れてきてやるぜ!」
「な、無事に連れ帰ってこんかい!」
「ケッケッケ!冗談冗談♪」

ドジャーがとたんに上機嫌になる。
子供を捕まえただけでお金が貰えればこれほど楽な商売はない。

ふと、
ドジャーがマリナがいれたコーヒーを飲もうとした時だった。
ドジャーがある違和感に気付いた。

「マリナこのカップ何も入ってねぇじゃねぇか」
「はぁ?あたしはちゃんとコーヒー作って出したじゃないの」
「知らないうちに飲んだんじゃないですか?」
「いや、そんなはずは・・・・」

「「「まさか」」」

3人が何かを思いついたようだ

ドジャーが魔力を込めて右手を振る。
ディテクションという透明状態解除スペルだ。

すると
空席だった椅子に小さな盗賊が座ってるではないか。

「ペッペッ!やっぱコーヒーはおいしくないね」

「フィリー!フィリーじゃないか!お前探したんじゃぞ!?」
「知ってるよジィちゃん」
「じゃぁ家に帰ろう・・・な?」
「やーだよ。まだ遊び足りないもん」

ヒュン!という音が鳴る。
同時にフィリーの姿が歪んで風景と同化していった。

「あ、まてこんガキ!」

ドジャーとレン爺が同時にフィリーに飛びつく。
が、椅子の上にはもうフィリーはいなかった。
ドジャーとレン爺はゴツンといい音を奏でて頭をぶつけた。

「ク、クソォ。すばしっこい野郎だ!」
「ど、どこいったフィリーやぁ〜い」

ドジャーとレン爺が店内を見回す。
そう遠くまでいってないはずだからだ。
ドジャーがもう一度ディテクを唱えようとする。

その瞬間だった
突然甲高い音が聞こえた。
それは一個のカップが割れる音だった。

「な、なんだぁ!?」

カップの割れ目から一個のダガーが現れた。
血がついている包丁のようだダガー。
パンプキンダガーというやつだ。

「何もないところからダガーが・・・・」
「アハハハハハ!ビビったびびったぁー!」

いきなりまたフィリーが現れた。
そしてパンプキンダガーを拾い上げたと思うと
すぐにまたダガーもろとも消えてしまった。

「インビジってのはね。身につけている物も消えるんだ
 それを利用した遊びだよぉん♪ビックリしたでしょー♪」

このフィリーという子供。
本当にインビジに関しての応用力はあるようだ。
『ハイド&シーク』と呼ばれるのも分かる。


TRRRRRRRRRRRRRR!!!

突然着信音が聞こえた。

今度はなんだ・・・・
一個ではない。
複数の。
そう思っているとテーブルの上に4つのWISオーブ(電話)が現れた。

「俺の!」「僕のだ!」「あら、」「わしのも・・・」

全員が同時にオーブを取る。
オーブから通話音が聞こえる。

〔アハハ!ビックリしたぁー?さっき透明の間に抜き取っておいたんだー♪〕
〔テメェガキ!なんの通信だこりゃ!〕
〔へへ。G通信(グループ通信)だよ。それもさっき設定しておいたんだー〕
〔こんガキ!出てこい!〕

ドジャーがディテクションを唱える。
だが何も反応はない。

〔ヘヘ。ざぁーんねぇ〜ん!僕はもうそこにはいないよ〕
〔んだと!?どこいきやがった?!〕

〔アハハハハ、僕を捕まえたらジィちゃんにお金もらえるんでしょ?
 そりゃ本気になるね。おもしろそう!頑張って僕を見つけ出してね〕
〔99番街でお前とかくれんぼでもしろってのか?!〕
〔ん〜。99番街はもう飽きちゃったなぁ〕
〔んなこと知るかガキ!〕
〔あ!!そうだ!!!広場でやろうよ!かくれんぼをさ!〕
〔は、はぁぁああ?!〕
〔アハハハ!おもしろそうだ!じゃぁ先行ってまってるね〜〜♪〕

そこでグループ通信はプツンと途切れてしまった。

「チクショウ!あんガキ!」
「グループが解除されてないですね。連絡はとってくる気でしょう
 多分こっちから連絡しても返答ないでしょうけどね」
「くっそ!広場に行くしかねぇのか」
「え、別に無理に探さなくてもいんじゃないですか?」

「今あいつは賞金首だ。盗賊が金を見過ごせと?」
「にしてもいつになく必死ですね」
「ったりめぇだ!あんなガキになめられたんだぞ!たまんねぇっての!
 屈辱の極みだ!俺の堪忍袋の緒がたった今はち切れた!」

これからはもうちょっと堪忍袋の緒をキツく締められないものか・・・。

とにかく子供相手のかくれんぼが始まった。



だが、それは普通のかくれんぼではなかった・・・・。







                 






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