「あーあー。広場のみなさん。危険ですので落ち着いてその場で待機してください
 また、ゲートでの非難は自重してください。もう少しお待ちを」

なんでも屋の上から何かで増音したような声が聞こえる。
それは聞いたことある女の声である。
ドジャーは声の音源にディテクションを唱えた。

「よぉルエン。広場の管理人っぽい事してんじゃねぇか」
「あらま、あんた達かい。今忙しいんだ。後にしてくれないかい?」
「まぁまぁ、透明の人ごみをかき分けてここまで来るのも一苦労だったんだぜ?」
「そんな事あたいが知ったことじゃないよ」

彼女はルアスの中央広場を仕切っているルエン・ロイヤルという女性である。
ドジャーとアレックスは以前彼女と一騒動起こしている。
今は改心して広場のために動いているようだ。

「ルエンさん。なんでゲートでの非難は禁止なんですか?」
「あぁ、ミルレスとスオミから苦情が来てね。
 透明状態の人で町の到着地点が溢れてアクシデントがあったらしいのよ」
「なるほど。それでルエンさんが呼びかけてるんですね」
「まずは動かない事と思ってね。将棋倒しにでもなったら大変だしさ」
「カッ!真面目になったもんだぜ!」
「あたいの広場のための罪滅ぼしみたいなもんだよ」
「そうか。カッカッカ!」
「それよりルエンさん。少し協力して欲しい事がありまして」
「?」



-小時間後-



〔ねぇ〜〜。もう降参したら?〕

フィリーから連絡だった。
しびれを切らしてきたのだろう。
少し退屈そうだ。

〔ちょっと待ってなクソガキ!今準備を〕
〔ドジャーさん!言っちゃダメですよ!〕
〔あぁそうか・・・〕
〔?〕

〔よぉっし。こんなもんかな〕
〔ですね〕
〔じゃのぉ〕
〔なに?なんか作戦?無駄だよ。絶対見つけられないもん〕
〔ケケケ!テメェのほえ面が楽しみだガキ!〕
〔無理だってー〕

「じゃぁ作戦開始といきますか」
「そうじゃの」

〔ガキ!たった今からお前を捕まえてやるぜ!〕
〔はいはい。やってみてよー〕

「レン爺さん!お願いします!」
「ぉーぅ。このスペルはひさびさじゃ!」

レン爺は腰から小さなドラムを取り出した。
そしてそれを地面に置いてスティックを構える。

「昔『楽音屋』と呼ばれた腕前を見せて・・・いや、聴かせてやるわい」

レン爺はスティックでドラムを軽快に叩き、
低すぎない乾いた打音が奏でた。
ドラムだけで音楽が奏でられるものなのだと教えてくれる音色。
アニマトなんたらドラムというらしい。
詩人として今だ現役という事を納得させるには十分な演奏である。

音の光・・・というのが正確だろうか、
そんな不思議なキラメキがアレックスとドジャーの周りに現れた。
体に魔力がみなぎる。
だが、そんな事はどうでもよかった。
肝心なのは・・・・

「あそこです!!」

アレックスがなんでも屋の上から指を指す。
まるで宇宙に一番星が輝くように広場の一箇所がなぜか輝いていた。
それはアレックス達にかかった光と同じ光だ。

〔な、なにこれ?!〕
〔このスキルはグループ範囲に効果があるんじゃよフィリー〕
〔グループだけに効果があるって言った方が分かりやすいですね〕
〔場所が分かったぞガキ!まってやがれ!〕
〔携帯オーブでグループ通信がしたいがために組んだグループがアダになりましたね〕

〔へ、へん!場所が分かったからなんだい!
 人の姿が見えないままじゃここまで来づらいだろ!それに僕だって動くんだ!〕
〔お前だって人が見えなきゃ動きづらいじゃろ?〕
〔それに動くか動かないかなんて関係ないんですよ〕
〔俺の蜘蛛(スパイダーウェブ)で捕まえてやっからな!〕

〔ばーか!蜘蛛みたいな制度の低いスキルが見えてない人間に当たるわけないだろーだ〕
〔見えてれば?〕
〔え?〕
〔準備!!〕

アレックス・ドジャー・レン爺は懐からマッチを取り出した。
そして三人がマッチを構える。
少し異様だ。

〔僕達ちょっとココ(広場)に知り合いがいましてね。なんでも屋っていう店です
 まぁ様子くらいは見てたでしょうけど、そこでいろいろとアイテムを頂きました。
 この騒動を解決するためと言ったら快くね。とりあえずマッチです〕
〔マッチなんかで僕が見つからないよー〕
〔そうですね。でもこれは火をつけるためだけの道具なんです〕
〔フィリーは危ないから火遊びは駄目じゃぞ?〕
〔え?何?もしかして無差別に爆弾とか使っちゃうの?・・・〕
〔違いますね。でも近いです〕
〔なんだよ!なんか秘密兵器?〕
〔ただの爆竹ですよ〕
〔ホッホ。"ただの"じゃな〕
〔さぁガキンチョ!パーティータイムの始まりだぜ!!!〕

「着火!」

三人は一斉に手元の爆竹に火をつけた。
その瞬間三人の手元から爆竹が発射された。
特にフィリーがいると分かった方向へ向けて。
そして休む暇なくドンドン発射する。

大量の爆竹が広場中を飛び回る。

広場中で爆発する花火。
奏でる爆音。
炸裂する色とりどりの火花。
広場中が火の花で包まれた。

大パニックだ。
人々の悲鳴と騒ぎ声が聞こえる。

そして人の姿がドンドン現れだした。

"インビジはダメージを受けることで切れる"
人々がパニックになればドンドン人と人がぶつかって姿が出て行くという寸法である。
キャンパスに色を塗るように人の姿で広場が色味を増してきた。
突然の爆竹に驚く人々は例外なく、慌てて人にぶつかる。

広場中が大騒ぎである。
とにかくパニックという言葉が似合う状況。

危険なのでルエンがこうなる事を避けるように呼びかけていたのだが
まぁこの際ごめんなさい。

「フィリー君の姿が現れました!」

なんでも屋の上からアレックスが叫ぶ。

場所は先ほどレン爺のドラムが光った辺り。
そこを重点的に見ていたので割かし簡単に見つかった。

人の混乱に巻き込まれたのだろう。
姿が現れている。

「おりこうにしてな!」

ドジャーがなんでも屋の上にあがり、スパイダーウェブを使う。
二発知らない人に当たってしまったが、三発目が見事にフィリーにヒットした。
フィリーの足元にクモの糸が絡まる。

〔く、くっそぉ!〕

「おっしゃぁぁ!」

ドジャーが叫ぶ。
これでチェックメイト(詰み)だ。

「さ、早くつれてきてください」
「おーよ♪」

ドジャーが素早い身のこなしで大パニックの広場へ飛び込んだ。
そして人と人の隙間をうまい事スルスルと通っていく。
この辺はさすが盗賊である。

そして数分もしないうちに
フィリーを抱えて戻ってきた。

「ケッ!クソガキ!手間かけさせやがって!」

ドジャーはアレックスとレン爺の前にフィリーを転がした。
地面に転がるフィリーの小さな体を見ると
まだ子供なんだと改めて実感する。

「くっそぉ!」
「いつまでもこんな遊びしてんじゃねぇよ」
「やるとしても迷惑のかからないように・・・・」
「ふーんだ!」
「フィリー。かくれんぼっていうのは見つかったら終わりなんじゃ
 お前は見つかってしまった。もう終わりにしようじゃないか」
「・・・・ブー。楽しかったのにー」

起こす行動はともかく遊びたい年頃なんだろう。
だが気持ちは分かるが相手にするのが大変だ。
まぁ、こういう時は・・・・

「フィリー君」
「?」
「遊びたいならいつでも遊んであげますよ」
「え?」
「この人が」

アレックスは親指で背後のドジャーを指差した。

「うぉい!また俺かよ!?」
「えー。この人イヤー」
「俺もイヤだってんだこのボケ!」
「イーーっだ!」

指で口を引き伸ばして挑発するフィリー。
ドジャーの血管がまた浮き出る。
そして表情が"コロシテヤロウカ コノガキガ!"と言っている。

「まぁまぁドジャーさん相手は子供です。それよりとりあえず解決ですね?」
「お、そうだそうだそうだった。レン爺!報酬くれよ!」
「ほいほい分かっとるよ。ほれ」

レン爺はグロッド金貨の入った汚い茶色の袋を差し出す。

「やったぜええええ!ケケケ、今日も酒だな♪」
「こんなに頂いちゃっていいんですか?」
「あぁいいとも。というかいつもの事じゃ」
「いつも?いつもドジャーさんに任せてるんですか?」
「実力・・・もあるんじゃが。ま、金がかかれば間違いなくやってくれるからじゃな」
「なるほど・・・・でもあげすぎじゃ?」
「ホッホ。ガキの頃から世話してやってるからのぉ。小遣いみたいなもんじゃ」
「え?!ガキの頃ってレン爺さんの子供の頃からドジャーさんが生きて・・・」

「生まれてねぇよ!逆だ逆!俺がガキの頃だ!」

ドジャーが大声で突っ込んだ。

「大体レン爺のガキの頃ってまだミルレスが首都の頃だぜ?!」
「んな訳あるか!わしゃ何百年生きとるんじゃ!?古代人かワシは!」
「じぃちゃんじぃちゃん!じぃちゃんの子供の頃ってルアスあった?」
「あったっちゅーねん!」

老人を化石かなんかと間違えているようだった。

そんな事をしている間に
いつの間にか辺りはほとんど暗くなりだしていた。
酒場を出た時夕日だったのを考えれば当然であった。

「じゃぁまぁ帰ろうじゃないかフィリーや」
「えーーー」
「これ!暗くなる前にうちに帰りなさいといつも行っておるじゃろう!」
「うーん・・・しょうがないなぁ。今日は十分楽しかったし!」
「帰ったら大好きなカボチャの絵本を読んでやるからの」
「じぃちゃん!僕もうそんな歳じゃないよ!」
「お、おぅおぅすまんすまん。
 まぁ今日も凄かったぞフィリーや。まさかカモフラを使うとはのぉ
 やっぱお前は頭のいい子じゃ。さすがワシの孫じゃの」
「へへ。ほんと?凄かった?」
「おぅ。お前は天才じゃ!」

典型的なジジバカだなぁ・・・。

これでフィリーのイタズラが耐えない理由が分かった。
誉めすぎなのだ。
アレックスは呆れて眺めながらも
その和むようなうらやましいようなほのぼの感に包まれた。



まぁそんなこんなで今回の事件はめでたしめでたし・・・と




「めでたくないよ!」

突然水をさすような声。
ルエンであった。

「あたいの広場を大混乱にして!怪我人続出してるじゃない!」
「まぁ解決したんだからいーじゃねぇか」
「なぁにが解決よ!さっきから話を聞いてれば
 金やら孫やら言っちゃってさ!結局あんたらのせいなんじゃないの!
 それに時間がたてば飽きてカモフラも解けて解決してたんじゃない!」
「あ〜・・・・・。わりぃわりぃ」
「なにが『わりぃわりぃ』よ!本当に反省してんの!」

んー。
アレックスは少し考えた。
終わったことはどうしようもない。
つまり謝るしかない。
なのに謝ってもいろいろと文句が出てきて・・・
これはどう話してもループしそうな雰囲気だ。
あぁ〜メンドくさい。
ん?
メンド?

あ、なんかおもいついた。

「ルエンさん」
「ん?」
「ごめんごめんごメンドゴラ」
「・・・・・」

「カッカッカ!アレックス!いいなそれ!」
「全然よくないわよ・・・」
「まぁまぁ。聞けよルエン」
「なによ」
「すまんすまんすマンドレイク」

「・・・・・」


この後ルエンがブチ切れて大変だったのは言うまでもない。


                         







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