「マイブラザー(兄貴)!あいつ『人見知り知らず』だ」
「んだと!今朝いってたクソ野郎か!」
「あの体中銀々の身なりは間違いない。ぶち殺してやろうぜ」

双子がアレックスとドジャーに近づいてきた。
やはり全く同じ顔である。
兄がワイトで弟がエド・・・らしいが
結局どっちも悪党面をしているのでどっちがどっちか分からない。
ただ修道士の高位服モンクバディの赤い肩掛けが左右逆なことで見分けがつく。
いや、結局どっちがどちらかは分からないが・・・・

「てめぇ、クソ盗賊。おめぇたしか賞金もついてたな。いくらだったかマイブラザー(弟よ)」
「たしかデッド・オア・アライブ(生死問わず)で"ん〜百万"グロッドって話だ」

ソレを聞いてアレックスは驚いたりはしなかった。
身内と他人とで宝石と石ころぐらい激しく接し方が違うドジャーである。
石ころ(赤の他人)相手に数え切れない悪業を行って来た事だろう。

「あぁ、賞金ね。付いてたぜ。騎士団が潰れてリセットだがな」

「クソッタレ!そりゃ畜生話だ。どうするよマイブラザー(弟よ)」
「まぁまぁ、それより見ろよマイブラザー(兄貴)。あっちの騎士の腰を」

全員の視線がアレックスの腰に集まる。

「ほぉ。高級グロッドポーチか。中は何かな。腐ったアイテムじゃぁねぇだろ」
「あん中は高級品って相場は決まってるもんだ。アレ自体もはした価値にはなる」

「初めて会ったときの誰かさんと同じ事言ってますよ。
 チンピラの言う事やる事は万国共通なんですか?」
「・・・・うっせ」

「まぁ。お仕事といきますかマイブラザー(弟)。こりゃクソご機嫌だ」
「そうだなマイブラザー(兄貴)。アガっちまうお楽しみタイムだ」

ワイトとエドが構えをとる。
しょうがないのでアレックスも槍を構えた。

・・・・ふと気付く。
ドジャーがいない。

「アレックス。狙われてんのまたお前みたいだしお前やれよ」

ドジャーの声が聞こえたのは果物屋のテントの上からである。
相変わらず移動の速いことだ。

「何言ってんですかこの薄情者!相手は二人いるんですよ!」
「まぁまぁ。危なかったら助けてやるって」
「その前に死んだらどうするんですか!」
「悲しんでやるし墓も作ってやるよ」

アレックスは飽きれてソックス兄弟の方に目線を戻した。
ドジャーにはマリナの店の料理を大盛りでおごらせてやると心に決めて。

「じゃぁ、行くぜマイブラザー(弟)。蹴り殺してやろうぜクソ野郎を」
「おうよマイブラザー(兄貴)。ボロボロのサッカーボールにしてやるか」

ソックス兄弟は今にも襲い掛かってくる気マンマンのようだ。

「「行くぜオラァ!!」」

言葉と同時にソックス兄弟はショットガンのように同時に走り出した。
速い。
かなりの脚力だ。
最初にドジャーが「蹴り技で有名な」と言っていたのをアレックスは思い出した
足技に注意しないと・・・。

突然、並走していたエドとワイトが
二手に走る軌道を分かつ。
エドは左に膨らみながら。
ワイトは右に膨らみながら。
どうやらアレックスを挟みうちにする気である。

そんな事を判断するヒマもなく、
ソックス兄弟はすでに目の前に来てしまっている、

「食らいな!騎士野郎!死んじまいな!」
「キックのハムサンドだ!!」

そう言ってソックス兄弟は同時にアレックスの左右から蹴りを叩きつけた。

アレックスはそれを両手でガードしたが、
ガードの上からでも両手がミシミシと悲鳴をあげた。
まるで丸太を叩きつけられたような蹴りである。

「グ・・・・」

「こっからが本番だ騎士野郎!逝っちまいな!!!」
「地獄の感想待ってるぜ!ダブルマシガンキック!」

アレックスの左右から無数の連続蹴りが放たれた。
ガードのしようもない。
つまり、直撃。

「おらおらおら!キックのドラムのめった打ち(ブラストビート)だハゲ!」
「死ね!死ね!死ね!逝っちまえ!!」

なすすべもなく全身に蹴りを受ける。
痛い・・・・なんてもんじゃない。
痛いと感じる間もなく蹴りが打ち込まれる
x2倍のマシンガンキック。
一発一発が重い。
何十発叩き込まれただろう。
一発一発で意識が飛んでいきそうである。

「カカカカ!今ので100発目だ!もしかして1UPかマイブラザー(弟)!」
「二人合わせて200発。もう痛みも快感に変わってんじゃねぇか?憎いねマゾ野郎!」

容赦がない。
ソックス兄弟は完全にアレックスを殺す気だ。
たしかにもう痛みも感じない。
しゃれにならない。
本当に死・・・・



その時
突然、アレックスへの蹴りがやんだ。

アレックスは自分が死んだのだと思った。
どうか天国のハムランチはおいしいですように
アレックスは心底祈る。




・・・・・・・・・・・・kス・・・・ックス・・・・・アレックス!

「アレックス!!!」

ハッ!

アレックスが体を起こす。
目の前にドジャーがいた。
生きてるようだ。

「ボヤボヤしてねぇで自分を回復しろ!死んじまうぞ!」
「あ、そうか・・・ナイトヒール」

なんとか自分の体に手を当てて回復をほどこす。
酷いアザだ。
だが、今回は魔力が全開だから数分間全魔力を使い切るつもりで回復に専念すれば
完治はしずともすぐにでも動ける状態になるだろう。

アレックスがふと目を先に移した。

そこにはソックス兄弟の・・・・多分エドの方がいた。

「マイブラザー(兄貴)!マイブラザー(兄貴)!クソォ!目を覚ませマイブラザー(兄貴)!」

エドは必死にワイトの体を揺すっていた。
ワイトの背中には無数のダガーが生えている。
ドジャーの物だ。
それでアレックスはドジャーがワイトを倒したんだと理解した。

「わりぃなアレックス。あいつらを倒すには隙をつくのが一番だと思ってよ」
「僕をオトリにしたわけですか・・・・」
「マジでわりぃな。お前が死に掛けるとこまでいかしちまった。
 そういやすごい蹴りの乱打だったが、お前の宝物の方は大丈夫か?」

アレックスはハッと思い腰のマネーバッグを開ける。
そして中を覗き込んだ。
ホッ・・・・
中の王冠(クラウン)は無事のようだった。
いや・・・・・・・・
いっそ壊れてしまえばいいのだろうか。
こんなもの・・・・なぜ自分は大事に持っているのか。


「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

叫び声のような泣き声のような声が響いた。
エドが天を見上げて泣きながら雄たけびをあげている。
涙の量が凄い。
まるで干からびたサラセンに水分を与えるかのようだった。
そして雄たけびをやめてノラリと立ち上がり、喋りだした。

「物心がついた頃には親はいない。捨てられた子だったのかさえわからない。
 いつの間にか二人だった・・・・。いつも二人だった・・・。
 姓の無かった俺とマイブラザー(兄貴)は、子供の頃二人で姓を考えた」

「何を言い出すんだあいつ。兄貴がやられてイカれたか?」
「ドジャーさん。とりあえず様子をみましょう
 あの様子じゃぁもしかしたらもう害がないかもしれません」

「俺達は両足だ。二人だからソックスなんだ・・・
 今の世の中は腐ったクセェ廃棄場だとマイブラザー(兄貴)は言ってた
 ゴミ捨て場で生きるのは畜生だ。ここは誰もが畜生だ。人もヒトも俺達も
 俺達は決めた!二人で人を蹴り潰して生きていくと!
 クソは全部死ぬべきだ!マイブラザーは言った!必要なのは俺ら二人だけだと!!!」

エドの焦点の定まらない両目がこちらを睨んだ。
ドジャーがダガーを構える。

「カァ!どいつもこいつも訳のわからない思考回路してやがんぜ!」

「待ってください。僕がやります」

アレックスが立ち上がって槍を構える。
傷はまだ中途半端に残っている。
が、動けないほどではない。

「死ねぇぇええ!マイブラザー(兄貴)の分も!
 否!マイブラザー(兄貴)がお前を殺す!俺が殺す!俺らが殺す!死ね!
 俺の両足が貴様を潰す!俺達の両足が世界を踏み潰すぅううああああ!」

涙を流しながら
叫びながら
エドは走ってきた。
ワイトはもういないのに
一人だけで左に膨れながら
弧を画いて走ってくる。

「死ね!!!!!ハムサンドにしてy・・・・」

アレックスの槍がエドの体を貫いた。
それはあまりにも簡単だった。
血が槍を伝って落ちる。

「ガぁッ!・・・・痛ぇぇえ!イテェよマイブラザァぁァァあ!」

エドが叫ぶ。
もういない双子の兄に向かって泣き言を叫ぶ。

アレックスが人思いにすぐ槍を引き抜いた。
血が吹き出る。
エドの赤いモンクバディが一段と赤く染まる。

エドはサラセンの硬い砂の地面の上に倒れこんだ。
見る見る血が流れる。

「マイブラザぁ・・・マイブラザァ・・・・・助けてくれマイブラザァ・・・
 俺はマイブラザー(兄貴)がいねぇと何もできねぇみたいだ・・・」

ドジャーは微動だにせずその光景を見届けた。
ドジャーにも一緒に暮らしてきた一人の家族がいる。
血は繋がってないが、大切な兄弟であり親友だと思っている。
ドジャーとその親友もイカれた99番街で育ってきた。
このソックス兄弟と似た環境である。
ソックス兄弟のイカれ具合も納得はする。理解もできる。
自分も他人なんかより身内が大事だ。
大切な身内のためなら他人の命なんざクソ食らえともたしかに思う。
一歩間違えば自分達もこの双子の様にもなっていただろう。

「マイブラザァ・・・・俺たちは二人で両足だ・・・やっぱ片足じゃぁ歩けねぇみたいだ
 マイブラザ・・・ァ・・・片足の靴下は・・・捨てられちまうもんなのか・・・・そうなのか・・・・」

エドは必死でワイトへ手を伸ばす。
届かない。
だが必死に兄貴兄貴と声を呟く。
手がもう動かなくなった。
だが声は止まない。
声もかすれてきた。

「マイブラザァ・・・・マイブラ・ザァ・・・マイ・・ブラザァ・・・
 マイ・・ブラザ・・・・・マ・・・・・イ・・・・・・・・・・・・・・・・・ワイト・・・兄・・・ちゃ」

それを最後の言葉に
エドは息を引き取った。

一瞬ドジャーは自分が死んだのかと思った。
が、すぐに我に帰って言った。

「チッ!愚かしい兄弟だったな」
「・・・・・」

アレックスにもドジャーがいつもと違う雰囲気なのが分かった。
だがとりあえず聞かないでおいた。

ドジャーはサラセンの砂の壁に二人を並べておいてやった。
こう見るとサラセンのそこら中にある死体の中のただの一つである。
そう。一つである。
彼らは二人で一つ。二人で二足である。

「さぁて、肉買って帰るか。帰ってマリナの店で飯でも食おうぜ」
「ですね。お腹ぺこぺこです」





ここはサラセン。

まわりは地獄絵図。

人は愚かに傷つけあう。

だれもが心の底では優しさを求めるが

あいにくそんなもの品切れだ。

だれか助ける人がいれば

だれか優しさを持つ人がいれば

だがそれを教える教師はいない。

悲しみが螺旋階段をグルグル回る場所。

愛は階段から足を踏み外し

地に落ちて跡形も無く砕けて砂と混じってしまった。


人も金も物を町も水も天気も空気も心も

全部砂のように干からびている。

ここはサラセン。砂の町。






                         







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