「マイブラザー(兄貴)。新聞みろよ。ルアスの広場が全面開放だとよ
 みんな仲良く手をつないで商売しましょってね」
「はぁ?クソ食らえだマイブラザー(弟)。そんな話面白くもねぇ
 その新聞でケツでもふいてクソと一緒に便所に流しちまえ」
「しかもそれを促したのは悪党『人見知り知らず』かもしれない・・・だとよ」
「ふざけんなクソ!悪に手を汚した者が世のため人のためってか?
 なめた話だ。まるめて犬のエサにでもしちまいたいくらいの痴話だ」
「大体人のためってのが訳分からねぇ。サラセンでは聞いたことない言葉だ
 なんなんだそれは、食い物か?教えてくれよマイブラザー(兄貴)」
「マイブラザー(弟よ)。そんなもの俺には教えられねぇし知りもしない
 そしてサラセンじゃそんなもん腹の足しにもならねぇクズゴミだ」
「そうだな、マイブラザー(兄貴)。ヒマだ。だれかを殺して酒でも飲もうぜ」
「そうだな。畜生道とはそういうもんだ」
「二人で殺そうマイブラザー(兄貴)」
「あぁ、そうしようマイブラザー(弟)。俺らは四つの足で二足分だ」
「全てを踏み潰して歩く両足だ」





S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<血と略奪と双子と砂の町>>





「なんで俺達がパシりに行かないといけねぇんだ!」

ドジャーが街角のクズ箱を蹴飛ばす。
散乱したゴミは腐ったような化石ゴミと灰ばかりだ。
ゴミ箱があっても回収する人が99番街にはいないのだろう。

「しょうがないですよ。マリナさんには悪いことしちゃったし」

アレックスとドジャーはマリナに頼まれた買い物に出かける所だった。
店が傷ついた責任はアレックスとドジャーにもあるとお怒りの女神様。
せっかくだからサラセンの高品質な肉でも買ってこいとの事だった。

あの日。『バーニング・デス』を飲んだ『ナイトマスター』ディアンは一命をとりとめ
現在ミルレスの白十字総合病院の集中治療室で全身を管に繋がれているそうだ。
今頃全身にヒールを流し込まれているころだろう。
原因はなんだと医者に言われたが『酒です』と言っても信用してもらえなかったそうな。

壁の修理は《騎士の心道場》の門下生達が必死で直しているそうだ。
総出なのでかなりの人員である。
あれだけいれば数日もすれば直るだろう。

とにかくマリナには逆らってはいけないという事が前日の件で分かった。
生物間のピラミッド関係の中で
あきらかにマリナは自分達より上に位置している。
店の名前の通りまさにQueen(女王)だ。

「で、どうやってサラセンに行くつもりですか?」

かれこれ99番街を十数分歩いているのに目的地を知らない。
だからアレックスはドジャーに尋ねた。

「雑貨屋薬屋は全部ルエンに潰されちゃったじゃないですか
 ゲートを売ってる店なんてないですよ?露店で買う気ですか」
「露店のゲートは高値なのが多いからな。今みたいな時代はさらにだ。
 まぁ移動サービスに関してはここが一番だぜ」

ドジャーが立ち止まる。
その足につられてアレックスも足を止めた。
古びた黒い怪しい店が目の前に映る。
看板を見る。

"カレワラWIS局ルアス支部"

そう書いてあった。
なるほど、とアレックスは思う。

Witch Inter Service局 通称WIS局は
カレワラの魔女達によって経営されるサービス会社である。
一番有名なサービスは携帯用WISオーブを使ったWIS通信サービスがあげられる。
今では誰もが一つ携帯するほどの普及率だ。
最近の若いもんは所かまわずメモ箱メモ箱。

そして魔法のホウキを使った宅配サービス。
魔法の書による転送サービスなど様々なサービスを提供している。
魔法関連のアイテムも浅く狭くだが扱っている。
とにかくマイソシア一のサービス会社である。

ミシミシと音をたてて木製のドアを開けた。
中はロウソクの小さな灯りがあるだけで薄暗い。
ドジャーとアレックスが中に入ると赤髪の魔女が軽快な声で挨拶を始めた。

「"魔法であなたとあなたを繋ぐ"カレワラWIS局へようこそ!
 どんなサービスをお求めですか?」
「あぁーっと。サラセンまで二人行きたいんだが」
「かしこまりました。プランはどうしましょう」

そう言って赤髪の魔女はスペルブックのようなメニューを広げた。

・サラセンまでの料金表・
魔法のホウキタクシー 20000グロッド  
ウィザードゲートタクシー 1800グロッド  
魔法の書による転送サービス・グループ 1800グロッド(記憶の石は別額)
    *さらに位置によっては追加金額をもらう場合があります
サラセンゲート 10000グロッド
サラセンリンク 30000グロッド
etc・・・・

細かく分けるとサラセンに行くだけでかなりのプランがある。
ホウキで飛ぶだけでもかなりのコースがあったりするようだ。
そりゃぁあの分厚い本一冊分のメニューにもなるだろう。

「あ〜・・・サラセンはゲートの定価が高いんだったな。
 ウィザゲで頼む。あぁ、あと帰宅用のルアスゲートも二つ欲しいな」
「かしこまりました。全部で2500グロッドになります」

ドジャーが懐からグロッド金貨を出した。
そして代わりにゲートが二つ汚い机の上に差し出された。

「それでは飛んでもよろしいですか?」
「おう」「はい」
「では表にお願いします」

アレックスとドジャーと魔女が店を出て外に出ると
赤髪の魔女はスタッフを取り出して呪文を詠唱した。

三人が大きな魔法陣に囲まれる。
そして次の瞬間光に包まれて空へと飛んだ。






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[サラセン中央部]




光が硬い砂の地面にぶつかる。
砂煙が巻き上がり、煙の中からアレックスとドジャーと魔女の姿が現れた。

「それではこれからもカレワラWIS局をよろしくお願いします」

そう言って赤髪の魔女は
もう一度ウィザードゲートを使って飛んでいった。

「あっという間でしたね。僕、ウィザゲって始めてなんですよ」
「ぉえ?!マジかよ。」
「騎士団では魔法を使える者なんてそんなにいないですからリンクが主流でした」
「なるほどな。そーいや初めてっていえばサラセンも初めてか?」
「はい。それで楽しみで楽しみで♪」
「じゃぁ残念だったな。これが現実だ」

ドジャーが両手を広げた。
アレックスが"?"と思いながら周りを見渡した。

そこは地獄絵図だった。

まず一面に広がる薄暗い空気。
そしてまるで温かみのない砂の地面。
そこら中に落ちているわけの分からない肉片。
壁にもたれる人々は生きているのか死んでいるのかさえわからない。
街角で殴り合いが起こっている。
罵声を飛ばしながら血を吐き出し吐き出させ
それが終わったと思ったらまた違うところで争いが起きる。
血が飛び絶えない。
悲鳴と罵声の二種類しかない声。
小さな子供は親に抱かれて泣き、老人は隅で震えていた。

「どうなってるんですかココは・・・・」
「前に言っただろ。ルアスなんかの善都市はまだマシだって。
 これがマシじゃない方の光景だ。悪都市はどこもこんな感じだ
 世界の無法化。その本当の姿がここにありありと出てるわけだ」

そう言ってドジャーは肉屋を目指して歩き出した。
アレックスはあわててそれに着いていく。

進んでも進んでも同じ風景だった。
ただ脅える人と脅す人。殴りあう人と息をしてない人。
他の種類の人はいなかった。

廃墟といっていい町並み
家もボロボロで崩れかけたものばかりである。
もうどれが窓でどれが入り口でどれが破られた穴かわからない。
人が住んでいるのかどうかも怪しかった。
人が中に居たとして、その人が生きているのかどうかさえも・・・。

途中でカカシが並んでいる場所を見かけた。
たしか強さを求める者がよくあのカカシで修行をするんだと騎士団時代聞いた事がある。
あのカカシはまるで実際に戦っている時の攻撃の感触が得られるという。

ただ、今そこにあるのは本当の人であった。
人が血だらけでカカシにくくりつけられている。
または人自身がカカシとして立たされている。
それを笑いながら殴る人。斬る人。
涙を流しながら許しを請うカカシ。
見ていられなかった。

「ここでのあいさつを知っているか?」

突然ドジャーが声をかけた。
いきなりの事でアレックスは少しビビった。

「知りませんけど・・・」
「ここでのあいさつはな、『金を出せ』だ。ここの人は人に出会うと必ずそう言う
 朝でも昼でも夜でも共通の挨拶だ。わかりやすいだろ?」
「金に・・・・飢えてるんですね」
「あぁ。なのに不思議なことにここの通貨はグロッドじゃねぇんだ」
「え?」
「ここの通貨は『暴力』。世界で一番平等な通貨だ」
「・・・・・・」

人は金を求めて奪い合うが、もう金など残っていない。
今あるものをただただ奪い合う。
手に入るのならなんでもいいのだろう。
それを総称して『金』と呼んでいるだけの事だ。
生産する物はいない。
奪い、消費する物だけがいる。

だが、足りてはいないが食料だけは無くならない理由があった。

「あれがサラセンで唯一商売が続いている伝統の肉屋と果物屋だ」

ドジャーが指差した先には二つのテントのような店が並んでいた。
なぜこの危険地帯で商売が続いているのかはわからない。
いや、さすがにあれらを潰したら自分達も生きていけないとわかっているのか。
何にしても世界最低の環境にあるこの二つの店舗が
世界最高の称号を持つ肉屋と果物屋だった。

「ちょ、か、勘弁してください。
 私ははるばるミルレスからここの肉を買いに来たものでして・・・・」

肉屋の店の前には3人の男が立っていた。
2人の男が1人の男に迫っているように見える。
1人の男が「勘弁してください勘弁してください」と頭を下げている。
その声が悲鳴に変わったのはそのすぐ後だった。
2人の男はその男をめっためたに蹴った。
そして男のふところから財布を抜き取る。

「ケッ!クソ野郎だ!素直に金を出せばいいものをよ!なぁマイブラザー(弟)」
「あぁマイブラザー(兄貴)。ま、。結局ボコる気だったけどな
 俺らの手間が増えるからサッサと出せってんだよな」
「おい、肉屋!よかったな。肉を仕入れる手間が省けたぜ、もらってくれ」

そう言って片方の男は地面に横たわった男をまた蹴飛ばした。
ミルレスから買い物に来たその男はもうピクリとも動かない。

「野蛮な二人組ですね。同じ顔をしてるように見えますけど双子でしょうか・・・」
「あ〜〜〜・・・・・なんか聞いた事あるなぁサラセンの双子・・・双子・・・」
「どうせあんまいい噂じゃないでしょ?」
「あぁ〜っと。いい噂じゃないで思い出した。たしかエド・ソックスとワイト・ソックス
 たしか『双発ショットガン』と呼ばれる蹴り技で有名な兄弟だ。もちろん悪評」

ドジャーの声に反応したのかソックス兄弟がふとこちらを見た。

「なーんか嫌な予感しませんか?」
「するね。イベント発生の予感がピンピンする」




                          






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