S・O・A・D 〜System Of A Down〜

<<酒と女店主と騎士の心>>


「ここだ」

アレックスとドジャーは『Queen B』と書かれた看板の前に立った。
ここがルエンに狙われていたドジャーの知り合いの店らしい。
それはすでに深夜というのに人の声が溢れる酒場だった。
だが、お世辞にも大きいとはいえない大きさである。

「ルアスの栄えている地域から来た奴はウサギ小屋っつってたよ」
「店の大きさとご飯は無関係です」
「まぁたしかにな。味は保障するぜ?」

木製の開きドアを押すとガランガランとベルが店内に鳴り響く。
中へ入るとすでに満席というのが一目で分かった。
みんな騒ぐようにして酒と食事を楽しんでいる。
ルアスの端の端である99番街までこれほどの盛況なのは
ルアス中の店がルエンに潰されたせいが少なからずあるのだろうか。
それとも元からルアス99番街の人が集まる酒場なのだろうか。
柄の悪い客が多い気がするので後者だろうか。
アレックスはいろいろ考えたがお腹の虫が鳴るとその思考は吹っ飛んだ。

「どこに座るんです?」
「一番奥。カウンターのすぐ横のテーブルだ」
「え、ドジャーさん。そこもう人が・・・」

アレックスの話を聞いてか聞いてなくてかドジャーはズカズカと歩いていった。
仕方なくアレックスも着いていく。
なんとなくドジャーの考えていることも分かっていた。

「どけ、百貫ハゲ。ここは俺の特等席だ」

ドジャーは初対面の男にいきなりこんな事を言い放った。
さすが『人見知り知らず』
節操のないことである。

「んーだとぉ?てめぇこの俺様に相手にな・・ヘゴァ!」
「あぁ!てっめぇ!親分になんてことをす・・ハガァ!」

二人の男は鼻血を出して地面に転がった。
そしてそのまま死んだようにノびて動かなくなってしまった。
いや、むしろこれは死人の逝き顔である。
あぁ安らかに眠れ見知らぬ人よ
アー・メン
アレックスは片手で十字を画いた。

「有無を言わずパンチですか。酷い事しますねドジャーさん」
「何言ってんだ。片方はおめぇがやったんじゃねぇか」
「僕はとってもお腹が空いてるんです」
「カァ〜ッ!。人の命を救う仕事をしてたとは思えねぇ発言と行動だな
 おい、マリナ!テーブルの片付けと注文をとりに来てくれ!」

「はいは〜い。ちょっとまってぇ〜」
ドジャーの声にカウンターの中の女性が返事をした。
彼女はマリナというらしい。
マリナはカウンターの奥から水とおしぼりをもってテーブルに来た。
腰よりも長いんじゃないかというブロンズの髪が印象的であり、
大人の女性のようでもありながら、まだ若さを残したような雰囲気があった。
いかにも酒場のママといった感じのヒラヒラな赤いドレスを見に纏っている。
とりあえず一言で言うと美しかった。

「はいはい何にする・・・・って何これぇ?!!」

マリナは店の地べたでのびている二人の男を見て驚いた。

「あー 酔いつぶれて寝ちまったみたいだぜ?」
「寝たって…白目むいて泡吹いてるじゃない・・・・・・・・・ま、いっか」

いいんかい
アレックスは声を出して突っ込みたかった。
だが自分も犯人の一人として言うのはやめておいた。

「あら、初めて見る顔ね。かわいいじゃない
 ドジャーがこんなまともな子を連れてくるなんて珍しいわ」
「うるせぇ! それにアレックスは案外まともじゃねぇぞ」
「あらそうなの?後で詳しくお話しがしたいわね。んで注文は何にするー?」
「あーんと・・・とりあえず何か腹のふくれるモン2つ」
「じゃぁホロパチャーハンでいい?」
「あぁ、それでいいや。後は〜・・・アレックス酒飲むか?」
「僕は酒より食い気でして、お酒はあんまり飲んだことないんです」
「なに!?そりゃいかん!人生の8割損してる!マリナ!この店で一番強い酒頼む」
「そーいう事ならいいのが入ったわよ♪」
マリナがニヤリと笑う。

「ほぉ〜〜!新酒か。じゃーそれ頼む」
「はいはーい♪ じゃ、アレックス君も楽しんでってね〜」

そう言ってマリナはアレックスとドジャーにのされた可哀相な二人組を持ち上げ、
引きずるように・・・いや、引きずって出口へ連れてった。
マリナの後ろ姿の長いブロンズ髪を見ると、まるで彼女が女神のように見えた。
が、その女神は金だけ抜き取って男二人をゴミのように外に投げ捨てた。
世界が荒(すさ)んでからは女神も心がお荒んらしい。

「ドジャーさん。今日はおごりなんでしょ?」
「今日"も"だろ? まぁ今日はまた特別だ。
 マリナがルエンの件の礼でおごってくれるんだってよ
 しかも!俺は今までのツケをチャラってな!」

ドジャーがイヒヒと笑う。自慢のピアスがカチャカチャと揺れる。
アレックスは自分がドジャーのツケのために戦っていたと知って悲しくなった。
まったく、だいたいドジャーさんはいつも・・・

「おまちど!」
「「 はや! 」」

二人は声を揃えて言った。
マリナが酒とホロパチャーハンを運んできたのだ。

「酒はともかくチャーハンがなんでこの短時間で完成すんだよ!」
「ウフフ、これが当店4千年の歴史の成果よ」
「まだ10年もやってねぇじゃねぇか・・・・」
「うるさいわね!さっさと食べなさいよ!ほら、アレックス君を見なさい」
「もぐ、いたらいてまふ」
「・・・食いつくのは早ぇぇんだからな・・・・」
「おいひいでふマリナひゃん」
「あら、ありがと♪」
「おいしい・・・・・・か。開店当時のマリナの料理はひどいもんだったけどな」
「なによぉ」
「むぐ、(ゴックン) そうなんですか?」
「あぁ、あの時食ったカレーはこの世のものとは思えない出来だったぜ
 なにせカレーが一つの黒い塊として差し出されたんだからな」
「見栄えと味は関係ないでしょ!」
「味もそりゃもぅ酷いもんだった。甘・辛・苦をどう組み合わせてもできない味でな
 人々は感想を言う前にもだえ苦しんだ。その後トイレは溢れんばかりに大盛況ってな
 なのにこいつは『いつかマイソシア中に支店を出したい』とか言い出すしよぉ
 『お前は人類を滅ぼす気か!』っつってみんなで必死に止めたもんだ」
「む、昔の話でしょ!今は立派になったんだからいいじゃないの!」

マリナは顔を染め上げてドジャーをパシパシと叩いた。
それを見てアレックスはアハハと笑った。

「それでさっきから気になってたんですけど・・・」
「ん、あぁ・・俺もだ・・・」

アレックスとドジャーの目線の先にはマリナが持ってきた酒があった。

「あ、よくぞ気付いてくれました。色男(ロメオ)達!」

そう言うとマリナはなぜかその場で酒を持って2回転した。
長いブロンズ髪とヒラヒラの赤いドレスが渦を巻くようになびく。
そして止まったと同時に酒を片手にこう言った。

「ジャーーン! サラセン限定産熱烈強烈飲用酒『バーニング・デス』よ!」

・・・・
二人に驚きと恐怖と疑問と警戒心が同時に湧き上がった。

黒を基準として赤い炎をつかさどったラベル。見るだけでも熱い。
中央で笑うドクロマーク。口の吹き出しから禁止用語が発せられている。
そして極めつけは商品名のロゴの横に表記された大きく「DANGER」という文字。

これは本当に飲用酒なのだろうか。

「すごいラベルだなマリナ・・・」
「バーニングデスって魔術師のスペルの名前ですよね?」
「そっそー♪ 一口飲めばバデスを食らったようにまっ赤っ赤ってね♪
 飲めば五臓六腑に染み渡り、心と体が燃え尽きるほどにヒート♪
 この酒を口にぶち込んだウッドノカンは火を吐いて息を引き取ったとかどうとか……」

「「 なるほど 他のをお願いします 」」

二人はまた声を揃えて言った。
こんな逆養命酒で命を落とすわけにはいかない。

「ぶー いけずー」
「マリナ。年を考えた言葉使いをしろよ」
「なーに言ってんの私はまだ20よ?」
「ハァ? 何言ってんだお前。先月でたしかにじゅーろ・・・」

突然マリナはドジャーの胸倉を掴みあげた。
ドジャーは引っ張られるように椅子から立ち上げられる。
マリナは一見満面の笑みをしているようだが
空気でマリナの怒りと殺意を5感で感じとることができた。
ドジャーの顔が恐怖で青く染まっていく。

「20よ」
「20です・・・」
「よろしい」

マリナが力を抜くとドジャーは椅子にストンと腰から力なく着地した。
年に関してはタブーなんだなとアレックスは学習した。

「とりあえずお酒だけ代えてくるわね」

そう言ってマリナはまたカウンターの奥の酒蔵へ入っていく。
テーブルにはまたアレックスとドジャーが残された。

「仲いいですね」
「ん?あぁ。この荒れ果てた99番街にあいつが来た時からの付き合いでな
 最初はよく世話してやったもんだ。今じゃぁあいつもウチのギルメンだ」
「へぇ〜。ドジャーさんってギルドに入ってるですか」

その言葉にドジャーは何かを思い出したように真剣な顔つきになる。

「・・・そういやぁ、ギルドに関してお前に言っておかなきゃいけない事がある」
「はい?勧誘ですか?」
「いや、お前が元王国騎士団って事と関係してんだが・・・」

「王国騎士団だとぉお!!」

突然横のテーブルの男が大声をあげて立ちあがった。
立派な鎧で見に包み、テーブルの上にも立派な兜が置いてあった。
その兜に見覚えがあったが思い出せない。
そしてとにかく体が大きい。

「面倒なのに因縁つけられたなアレックス」
「だれなんですこの人」
「こいつはな」

「HAHAHAHA!おれは『ナイトマスター』ディアン様だ!」

鎧の男が自分から話し始めた。
かなり偉そうだ。

「・・・ってことだ結構有名人だぜ?」
「知ってますよ。騎士団外では最強の騎士って噂の人ですね」
「騎士団外ではか。ククッ・・・騎士団にはもっと強い騎士がいるって口ぶりだな」

いる
いや、いた・・・というのが本当の表現だろう。
素晴らしい騎士はたくさんいた。
だが、騎士団の人間はもう全滅したのだ。
思い出しても悲しいだけだ。

「てめぇ!元王国騎士!」
「は、はい?」
「てめぇらのせいで俺様は困ってんだよぉぉ!」
「は、はぁ?」
「騎士団が潰れてから騎士になろうって奴が全然いねぇ!
 俺様の《騎士の心道場》の新入希望も門下生も減る一方だ!」

『ナイトマスター』ディアンが開いている道場についてアレックスは聞いた事があった。
たしか戦士を立派な騎士にしたてあげる道場である。

"あなたも今日から立派な騎士に!必要なのはあなたの騎士の心だけだ!"

そんな張り紙をそこら中で見たことがある。
だがそういう熱血心情論は少し苦手だった。

「てめぇが何故騎士団のなのに生き残ってんのかは知らねぇが、
 ウサ晴らしには調度いいぜ!HAHAHAHAHA!
 てめぇも槍持ってきてんだろ?ちょっくら相手になってもらうぜ」

槍?相手?ウサ晴らし?戦えってことか。
『ナイトマスター』と呼ばれて体もデカいくせに人間が小さいな。
ドジャーが言う『面倒なのに因縁つけられた』というのは正解だった。

まず戦う理由が理由だ。
なんでそんな訳の分からない理由で戦わないといけないのか。
今はそれどころではないのだ。
何がそれどころではないのかというと・・・・

アレックスはまだ食べかけのホロパチャーハンを見る。

「え・・と。ご飯が食べ終わってからでいいですか?」




                         






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送