「チクショゥ!あとちょっとで・・・ルアス中の店を全部潰すことが出来たのに・・・」

「ケッ、人迷惑な夢だなそりゃ。
 一年前まではマジメに商売してたくせにいきなりこんな悪女になっちまってよぉ。
 こらしめてやった方が世の中のためってもんだな」

ドジャーが両手にダガーをクルクルと回転させた後にダガーをルエンに向けた。

「まぁ、まってくださいドジャーさん。
 一年前まで真面目だったって所に僕は興味あります。話を聞きたいです。
 ルエンさん。あなたはなんでルアス中の店を狙ったんですか?」
「俺は興味ないね、こいつは俺の知り合いの店を狙いやがった。
 こらしめてやる理由はそれだけでいい」
「まぁまぁいいじゃないですか。僕が知りたいんです。
 僕のほうはほぼタダ働きみたいなもんですし」
「ケッ!」

「・・・・」

一瞬黙り込んだがルエンは話始めた。

「一年前。王国騎士団が滅んで、税金が無くなったのは知ってるわね」
「知らん」
「ドジャーさんは黙っててください」

アレックスは肘でドジャーを軽くこづいた。

「あたいを含めたルアス中の店はそれを喜んだわ
 なんていっても王国騎士団が設定した税金の金額は莫大だったからね」
「ほぉん。そうなのか」
「そうなのかって・・・税金ぐらい知っときましょうよドジャーさん・・・」
「知らん!俺は商売もしなけりゃ金払って買い物もしない!なぜならパクるから!!!」
「威張って言わないでください」

アレックスが呆れる。

「んでその税金ってのは結局いくらだったんだ?」
「93%よ」
「きゅ!!!」

ドジャーもさすがに声をつまらせるほど驚いた。

「おま、アレックス。おめぇら金取りすぎだぜ?」
「・・・そんな事言われても僕にそれを決める権限はなかったですよ・・・」

「それで王国騎士団が滅んでからは世界の治安が悪くなったものの
 税金から解き放たれた町中の店の活動は活発になったわ
 なんてったって騎士団が滅んでから店が増えるほどだったし」

「なんじゃそりゃ。騎士団が滅んで良かったじゃねぇか」

「・・・」

ルエンはまた少し黙り込んでから話はじめた。

「良くないわ、その分広場の露店の数が急激に減ったんだから」
「は?」
「広場は私の育った庭のようなものよ。そこから人がいなくなっていく
 堪えられなかった・・・。だから少しでも広場に人が戻るようにと・・・」

ルエンは横たわったブレーブを見て話しを続ける。

「こいつらと広場の見回りを始めたわ、
 治安の悪い世の中でも広場で安心して商売が出来るように・・・」
「ふーーん。いい話だねぇ。俺の趣味じゃねぇや。おもしろくもない」

ドジャーは片手でダガーをクルクル回しながら言った。
やはり身内の事意外の事情にはほとんど興味がないらしい。
と、思いきや次に話を進めたのはドジャーだった。

「で、なんでルアス中の店を潰し始めたんだ」

「・・・」

またルエンは一瞬黙った。しゃべりにくいのだろう。
結果が結果だ。事情も事情なのだろう。
だがルエンは正直に話した。

「露店の数が増えるようにだよ」
「は?」
「普通の店で商売できなきゃみんな広場で露店しようと思うだろ?それが狙いさ」
「・・・・・ほんっっと悪女だなテメェ」

ドジャーはツバを地面に吐き捨ててそう言った。
そしてとうとうドジャーがダガーに力を込めた。

「ひ、広場思いが行き過ぎちまったんだよ・・・
 実際あたいは安全に商売のできる場所を作ったんじゃないか
 治安の悪いこの世界で安心して露店が出来るなんてここくらいのもんだよ!」
 
「その考えだけだけならまだよかったんですけどね」

今度はアレックスが話を切り返す。

「あぁん?なんだよアレックス。もう聞き疲れたぜ」

まぁまぁとアレックスはドジャーをおさえた。
そしてアレックスはルエンに近寄って言う。

「ルエンさん。あなたが権力を手に入れてやってきた事は王国騎士団と一緒です」
「・・・・あたいが騎士団と同じ?」

「あなたは広場復興だけに留まらずお金が欲しくなったんです。そうでしょ?」
「あぁ。罰金の事か。そういやそうだな。あそこまでキツい罰金にしなくていいな」
「いえ、ドジャーさん。それだけじゃないんです
 さっきドジャーさんが戦ってる間になんでも屋を調べたんですけど
 明らかになんでも屋で売る以外の商品で溢れていました
 きっと潰した店から奪った物でしょう。そして・・・・」

アレックスが懐から青い淵取りの紙を取り出した。
「『新・商売許可証』。集めた商人にこれを買わせて大もうけしてたってわけですね」
「・・・・」
「うぇ・・・そんなもん作ってたのか。いくらなんだそれ?」
「・・・・5万よ」
「たっか!毎回そんなにも払わないと広場で商売できないのかよ!」
「でも露店以外の商店は潰されてしまう・・・と」
「カァァーーっ!マジ悪女だな!広場思いじゃなかったのかよ!」
「建前のような安全確保を盾に力で抑えて莫大な金を取る。まさに王国騎士団の・・・」

「うるさい!!!」

ルエンが突然叫んだ。

「あたいだって人間だ!お金が・・・お金が欲しくなっちまったんだよぉ・・・・」

ルエンが広場の地面に涙をこぼし始めた。
元は真面目に商売をしてきた人間だ。
そして心底広場を愛し続けてきた人間である。
愚かな欲に負けてこんな事をしてしまった事を心のどこかで悔やんでいたのだろう。
その懺悔の気持ちがルエンの目から涙となってあふれている。

だがそんな姿を無視してアレックスは言う。

「ま、ルエンさんが悪女になった全体図は見えました。
 話は聞けたし。ドジャーさん。やっつけちゃっていいですよ」
「なっ!俺に泣いてる女をやれっていうのか!?」
「『人見知り知らず』とも言われるあなたが"泣いている女性は減罪"・・・と?」
「い、いや・・・・・・」

ドジャーはルエンを見る。
泣き崩れる彼女の姿を見ると悪女という言葉の似合わないただのキャシャな女性だった。
それを見ると手に持つダガーにも力が入らない。
アレックスを助けた時と同じような気持ちが駆け巡る。
そしてドジャーが口を開く。

「もういい、やめた。どうせあの部下二人がいねぇと店も潰しにこれねぇだろ
 俺の用事は元からそこだけだ。目的は果たした。だからもういい」
「そういうと思いましたよ」

アレックスが微笑む。
アレックスも最初からドジャーがルエンに手を上げるとは思っていなかった。
アレックスもまたドジャーに助けられた時の事を思い描いていたのだ。

「僕を助けた時も心の中でそんな言い訳でもしてたんですか?」
「う、うるせぇ!俺は無駄なことをしないだけだ!いい人じゃねぇ!
 俺は老若男女構わず標的にする悪党『人見知り知らず』だ!」

まるで子供が良い事をして照れているみたいである。
それがおかしくてアレックスはクスクスと笑った。

その後、笑いを止めたアレックスは
突然ジャンプして今にも崩れそうななんでも屋の上に飛び乗った。
見晴らしがいい。広場が全て見渡せる。

「あーー。あーー。マイッテスマイッテス。天気は良好」

突然アレックスは大声で広場の注目を集める。
そして大声で話し始める。

「あー。露店中と買い物中のみなさん聞いてください。そして見てください」

そう言った次の瞬間。アレックスは手に持った『新・商売許可証』をかかげる
そして両手で思いっきり破り捨てた。
破り捨てた許可証が広場の一番高い場所から紙ふぶきとなって風にとばされる。

「たった今、この時から。・・・・・・・・全ての商売は自由になりました
 これからは好きなところで、好きなだけ、好きな商売してください!」

広場全体からウワァァァァと歓声が上がる。
その声の中に町の人の"喜び"という感情を確実に感じる。

これからこの人々が協力し合って広場は確実によい方向へ向かうだろう。
アレックスは"秩序は人が協力し合って作り上げるべき"だとあらためて実感する。
過去の事、そして今自分が置かれている状況を思うとさらにそう思う。
アレックスは自分の腰の高級マネーバッグを見た。
深い思いが募る。

「おぅおぅアレックス。結構目立つ事をするタイプだったんだな」
「え?あぁ。こういうのには慣れてますから」
「慣れてる?」
「あ、いえ、なんでもないです」

アレックスがなんでも屋から飛び降りる。

「そういやアレックス。さっき腰の高級マネーバッグを見てたな
 それで思い出したぜ。結局その中身はなんだったんだ?
 それのために俺らはこないだ殺し合いをしたんだぜ?もう見せてくれてもいいだろ?」
「えぇ〜・・・」
「み〜せ〜ろ!!」
「・・・・・まぁいいですけど・・・」

そう言ってアレックスは高級マネーバッグを開けて中の物を取り出す。

「ほぉ〜〜〜。王冠(クラウン)か。綺麗な装飾だな。珍しい造りだ。
 大切ってのも分かるぜ。たしかに高そうだ。いや、それもかなりだ。
 精密に作られたクラウンは高性能な兜になる力を持っているが
 これをかぶれば相当な能力UPになるかもな。いや、本当に素晴らしい」

ドジャーは売ったらいくらぐらいになるだとかこれは素晴らしい仕事だとか
王冠をジロジロ見ながらあーだこーだとブツブツと呟き続けている。
盗賊の鑑定(アイデンティファイ)ってやつだろうか。
それとも物盗り盗賊の性というやつだろうか。

「まるで王様がかぶる王冠みたいだな。」
「えっ!!・・・あ、あぁ・・・ハハ、そうですか?・・・ただのクラウンですよ
 て!、ていうか!王冠は普通王様がかぶる物ですよドジャーさん!!!」
「あぁそうだったな。そこら中のパンピーが装備してるもんで忘れてたぜ
 でもアレックス、焦りすぎだぜ?まさかお前の親が王様とかいうオチはないよな?」
「ハ、ハハ・・・ま、まぁその話はまた今度今度」

アレックスは無理矢理話を中断した。
ドジャーの探るような視線が痛い。

ドジャーがアレックスにクラウンを返す。
アレックスはひさびさにクラウンを手にとった。というよりひさびさに見た。
これを見るとやはり憎しみのような感情が湧き上がる。

ふと思い、ドジャーに話かけた。

「ドジャーさん。突然権力を手に入れた者がすることはいつも一緒ですよね」
「あぁん?ルエンの話か?」
「・・・・・・・・いえ、なんでもないです」

アレックスは黙ってマネーバッグにクラウンを戻した。


活気が溢れるルアス中央広場。
日が沈んで人の気が減っていくのにもまだだいぶ時間がある。

太陽は相変わらず雲に守られるように半分隠れていた。
でもどちらかといえばよい天気だといえるだろう。

あーあーマイクテストマイクテスト 今日もルアスの天気は良好





                          




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