話の前に、
断っておかなければならない事があるかもしれない。

いや、
"彼"風に言うならば、
それは二種類ある。

一つはどうでもいい事だ。

読者の方々など、
どうやっても限りなく100%に近い形で、
和という文化の息づく国に生まれた方だろう。
・・・・という前提の中での忠告で、
意味はないかもしれないが、
彼を語る上では重要なキーワードなので前振りはしておこうという事。

それはX(バツ)と○(マル)について。

誰だって分かると思う。
その、
Xと、
○の意味を。

深く考えてくれなくても、
そのままの意味だ。

○は善で、
Xは不善。
○は良で、
Xは不良。

○は肯定で、
Xは否定だ。

だけどそれは、
和の国に生まれた人間にしか通用しないルールなのだ。

和の国以外では、
Xも、
○も、
△や◇や☆と同じ、
ただの記号。

Xに否定的な意味などないし、
○に肯定的な意味などない。

国によっては真逆に意味の場所さえある。

正解という意味でテストの答案に○を付けるのも、
和の国だけだ。

機械化された遊びの中、
○で決定するのは和の文化だけで、
海を越えればXで決定するのが一般だ。

負傷したからといって、
スポーツで異文化の審判に手をクロスさせたところで、
何も意味は伝わらない。

まぁそれでも、
あなたの、
たった今、
目の前の視界の右上にもXがあるように、
記号には何かしら似たような印象を与える力はある。

その中で、
やはり"彼"を現すのは、
×と○で間違いない。

×(否定)であり、
○(肯定)。

×(エックス)であり、
○(オー)、
つまり、
X(未知)を現していながら、
○(原点)を現し、

それでも
×(中心)を現しながら、
○(周辺)を現す。

とにかく相対する存在として○とXはある。

くだらない豆知識の披露のようになってしまったが、
つまりは、
あなたのそのままの意味で、
○とXを受け入れ、
そのままの意味で彼を見てくれという事。

これから登場する彼の故郷は、
その和の文化に染まった都市であるからという意味で、
この前置きをさせていただいた。


あぁ、
長くなってしまったので、
もう一つは手短に。

もう一つは、
勘違いしないで欲しいという事だ。

前項の事など置いておき、
とにかく勘違いしないで欲しいという事。


物語だからといって、
人間だからといって、

×に意味があるなどと・・・・・


○(正当な)、
それに相応しい理由や、
哀しい過去があって、
誰もが×(罰)に染まるわけではないと。



残念なことに、
彼はそういう男なため、

今回の話は、

ただあなたを不快にさせるだけになる可能性さえある。


あぁ、
大丈夫。
だからこの二つの前置きがある。


ちゃんと二つの前置きには意味があったんです。












不快が嫌いな方は、

即刻右上の×を押してください。


























・・・・・・。



それでは、
作者としては哀しい事に、
入場者が減った所で童話の始まりです。


それでは登場してもらいましょう。


場所は地図に無くなりし悪都市オレン。

豊かな資源と自然に囲まれた、
和と享楽文化の国。

そこで生まれしは、

まだ名の違う彼。



サマドゾ=マコト。



もちろん、
この和の国では姓が先で、
名が後。

そして名には漢字があてられる。


そして彼は生まれた。


マコト。

誠でも真でも良でもなく、

偽嘘と書いて、

偽嘘(マコト)。


Xが重なり、
○となった、
史上最低のX○(クソ)野郎のお話。



































「次の選挙は誰が勝つのかしらね」
「んー?」

偽嘘(マコト)の父と母は、
食卓でそんな話をしていた。

父は新聞をたたむ事なく答えていた。

「どうだかねぇ」
「どうだかねぇじゃないわよー?私達の上に立つ人を決めてるのよ?
 私は多分ツリマインさんかディスマインさん辺りだと思うわ。
 あの一家は凄いわよ。これからはあぁいう頭のいい方が上に立つ時代だと思う」
「だめだめ」

父は新聞をたたんだ。

「頭のいい奴っていうのは気付いちまうのさ。自分の能力の使い方にな。
 少し頭を捻れば気付いちまう。どうすれば人を出し抜き、自分が得できるかってね」

ここに乗ってる政治家って奴は皆そうだよ。
・・・・と、
新聞を空いている椅子に置いた。

「そう?しっかりしてる人はちゃんといると思うけどねー。だって人望っていうのも大事なのよ?」
「悪党だって悪党のカリスマがいる。それにしたって世の中は悪党の方が多いんだ。
 善人の人望と悪党の人望。どっちが票が集まるかねぇ。・・・・権力の世界ってのはそういうことさ」
「夢のない人ね」
「夢見てたら現実見れないだろ。現実をキッチリ見ろ。これが現実だ。
 大体ディスマインの野郎なんてこのオレンをほっぽってルアスかなんかを仕切る気みたいだぜ?
 ルアスに街を作るんだとよ。ケッ、オレンの和文化がルアスで受け入れられるかってんだ」
「フフッ、ルアスも姓が先で名が後になるかもね」
「まさか。だとしてもルアスの端っこにスラム街でも出来るだけさ」

悪党が作るんだからな。
そう言い、
父は視線を変えた。

「おいマコト、食事中に漫画読むなって」
「新聞読んでるパパには言われたくないね」
「そりゃぁハッキリした反論できない反論だな。よし許そう」

そう言われ、
6歳になる偽嘘(マコト)は、
食事中の読書を続行した。

父はそういう人だった。
中途半端が嫌いで、
ハッキリしていれば文句は言わない。
自分もその意見は好きだった。

「まったく・・・甘いんだから・・・」

文句があっても、
母もそれ以上言ってこない。
言ってこれない。
ちゃんとハッキリとした理由があるなら親は叱れないもんだ。
世の中、
○とXなのだから。

「ねぇパパ」
「ん?」

偽嘘(マコト)は、
父に視線を渡さず、
漫画に目をやったまま、
片手にオハシ。
それで聞いた。

「この漫画意味わかんない」
「はぁ?」
「いや、意味は分かるんだけどさ。なんでこの人たち戦ってんの?」

それは、
偽嘘(マコト)があまりに、
あまりに純粋だから出た疑問だった。

「じゃなかった。なんで正義の味方を中心にしてるんだろうって思ってさ。
 だって悪の親玉にとっても自分の願望・・・夢のために戦ってるんじゃん」
「その悪の親玉は悪い事をしてるんだろ?」
「人が嫌がる事をしたら殺されなきゃいけないの?じゃぁやっぱ意味わかんない。
 だって勇者がやってる事も悪の人達が嫌がる事じゃん」

父と母は顔を見合わせた。
そして、
さすがに返事も出来なかった。
キッカリハッキリ、
筋が通った質問だったからだ。

「悪の親玉は破滅っていう、正義の味方は平和っていう、お互いがしたい事のために戦ってるんだよね。
 結局、どっちも同じじゃん。どっちも自分のやりたい事を叶えるために戦ってるんじゃん」
「でもやっぱり人を困らせることはよくないんだよ」
「悪の人達はそーやって生まれてきたのに?ただそういう性格で性質だっただけなのに?
 じゃぁさ、人に嫌われるってだけでなんで人はゴキブリを殺すのかな。ゴキブリは悪いのかな」
「「・・・・・」」

父と母は、
何も答えられなかった。
それでも漫画を片手に、
マコトは続ける。

「結局みんな、自分を正当化してるだけなんだよね。だから最後には力のある人がワガママできる。
 ・・・・って事で、僕は誰が選挙に勝ってもいいと思うな。つまりその人が力があって、
 しかもその人の考えを支持する人がそれだけ沢山あるってことなんだから」

悪党が上に立つのは、
悪党を皆が望んだからだよ。
そう言って、
マコトは漫画を閉じた。

「御飯冷めちゃった」

それだけ言って、
少しハシを付けただけで、
偽嘘(マコト)は部屋に戻っていった。









「でも、やっぱり正義の味方の方がカッコいいな」

マコトは、
一人、
階段を下りながら呟いた。

「だって、自分の正義のためにさ、逆側の奴のやる事に勝手にXを付けて、
 そして自分の願望のために全部○にする。それで叶えちゃうんだからね」

つまり、
マコト。
サマドゾ=偽嘘(マコト)が正義の味方に憧れるのは、
純粋な心でなく、
それでいて人間としてあまりにも純粋な意味。

自分の願望を自ら叶えてしまう力を持っているから。

そういう意味だ。
夢を叶える男はカッコイイ。
そして、
羨ましい。

「僕もそんな男になりたいな」

そう言い、
マコトはドアを開けた。
階段を下りて、
ドアを開けた。
マコトの部屋は地下だ。
父がワイン置き場にしていた場所が、
今は子供部屋だった。
そう。
その薄暗い部屋のドアを開けると・・・・

そこは、
まだ6歳のマコトの趣味の部屋だった。

「さぁ、今日も自由研究だ」

それは、
とても子供らしい部屋だっただろう。
その子供部屋。

壁という壁に、
昆虫の標本が飾ってあった。
何千、
何万という、
虫の標本が。

蝶々が、
カブトムシが、
クワガタが、
カマキリが、
トンボが、
てんとう虫が。

壁という壁に、釘で打ちつけられていた。
埋め尽くしていた。

「可愛いなぁ・・・みんな・・・・」

360度。
どこを見ても、
虫という虫が、
標本として壁に打ち付けられている。
晒し者として。
一人の人間の趣味のために、
そして、
屍骸として。

「僕の部屋は地下でよかったなぁ。死んでるのに皆活き活きしてるもん。
 冷蔵庫とおんなじなのかな?やっぱ低温かつ保温が一番命が長引くんだろうなぁ」

本人はまだ知る由もないが、
こんな、
こんな趣味と環境が、
将来も続く事になる。
いや、
知っていたかもしれない。
自分はそういう人間なのだからと。

ただ、
マコトは、
自分を特別だとか思っていなかった。
人より格段に頭はいいが、
人と違うとか、
感性がズレてるとか、
そういうわけではないと。
ただの趣味で、
ただの個性だと、
そんな風に思っていた。


































「また昆虫採集かよ偽嘘(マコト)〜〜〜」
「よく飽きずにやってるな!」

「ん〜?」

マコトは、
一人、
虫かごをぶらさげ、
麦わら帽子に虫取り網という、
あまりに少年らしい恰好で、
近所の裏山で昆虫採集をしていた。

けど、
近所だからこそかもしれない。
近所の子供達が、
(もちろんマコトも子供だが)
声をかけてきた。

「そんな事してないでさー」
「かくれんぼしよーぜかくれんぼ」
「この裏山でさっ!」

ん〜。
マコトは首をかしげる。
かくれんぼ。
嫌いではないけど、
そんなに有意義かなぁ?
終わったあと何も残らない。
疲れくらいだ。

だけど昆虫採集はその時楽しくて、
それでさらに昆虫が集まって、
そして自分の部屋でも一緒にいれる。

釘を刺して、
栄養を与えて、
そして、
僕の肥やしとして、
息もせずに、
コレクションとして。

「ね・・・・ねぇ・・・マコト君」

そんな事を考えて上の空になっていると、
声をかけてくる、
少女の声。

「一緒に遊ぼう?」

少女は、
俯き具合に、
顔を赤らめて言った。

「いーよ」

それで決めた。

勝利(ツヨシ)も、
青(ススム)君も、
一歩(ハジメ)も、
どうでもよかったが、

微笑(エミ)ちゃんという子が一緒に居たから、
とりあえず、
一緒に遊んでみることにした。


なんでそうしたのかっていうと、
まぁ、
マコトはまだ思春期にカケラも訪れてはいなかったが、
つまり、
その「なんで」が、
その始まりの一つだったんだろうと思う。




















「んじゃ100秒な!!いーち・・にーーぃ・・・・」

勝利(ツヨシ)が、
裏山の一つの大木に頭を伏せ、
大きな声でカウントを始める。

その間に、
他の男の子3人と、
女の子1人は、
バラバラに裏山へと散った。

「マコト〜!絶対てめぇより逃げてやるからな!」
「ひきこもりっ子には負けねぇーぜ!!」

青(ススム)君も、
一歩(ハジメ)も、
裏山の中へと消えていった。

子供のかくれんぼとて、
この裏山はなかなかに広い。
遭難者が出るくらいで、
本当は大人たちから軽く出入り禁止をされてるくらいだった。
だからまぁ、
このかくれんぼが終わるのは夕方くらいになっちゃうんだろうな、

とか考えながら、

マコトも一人、
裏山の中を駆けていった。


「ま、待って!マコトくん・・・・」

「あれ?」

そうしていると、
後ろから、
微笑(エミ)ちゃんが追いかけていた。
まだ始まってばかりなのに、
すでに息は途切れ途切れだった。

「どうしたの?エミちゃん」

「あ、あのね・・・・」

もじもじと顔を赤らめ、
エミちゃんはマコトに言った。

「い、一緒に逃げよ?」

「・・・・・・」

正直なところ、
偽嘘(マコト)は、
この子の気持ちには気付いていた。

自分はまだ、
恋愛どうこうなんて気持ちは出来上がっていないが、
どういうものかなんて本とかでよく分かる。
この子は自分の事が好きなのだろう。

理由とかはあんまり考えなかった。
けど、
少女とはいえ、
恐らくその理由は外見だったかもしれない。

偽嘘(マコト)は、
正直に言ってしまえば、
6歳という未成熟にして、すでに美少年と呼ばれてもおかしくなかった。
服装さえ変えてしまえば、
女の子にだって間違えられる。

普通に生きているだけで、
どうやら自分が何もしなくても女の子が寄ってくるくらいは分かっていた。

「いーよ」

だからマコトはそう微笑んだ。
悪意なんてこれっぽっちもない。
ただ、
それが人として大切だと思ったからだ。
愛されるのは悪い事じゃないし、
気分もいい。
それは、
愛情で返してあげなくては。


・・・・。
でも、
断ろう。
今日の帰りにでも。
ハッキリと。
期待させちゃ悪い。
子供ながらそう思った。

だって自分は君の事を好きってわけじゃないんだから。

「結構遠くまで来たね・・・マコト君」

裏山の薄暗さに、
少し恐怖を覚えながら、
微笑(エミ)ちゃんはマコトの服のスソを掴んでいた。
でも、
名前の通り、
彼女はずっとなんとか笑顔を保っていた。
自分に笑顔を見せたいんだろう。

「そうだね。逃げすぎちゃったかな?これ以上行くと大人の人に怒られちゃうかな」

「そうだよね・・・あんまり裏山の奥に行くべきじゃないよね・・・・」

「でもここまでこれば絶対見つからないだろうな。勝利(ツヨシ)だって、手を焼くよきっと」

「あ・・・じゃぁ・・・・」

エミちゃんは、
そう言い掛けて、
モジモジと言葉を渋った。
けれど、
勇気を振り絞るみたいに、
顔をあげて言った。

「そ、それまでは一緒だね」

震えながら、
でもやはり笑顔で、
エミちゃんはそう、
マコトに言った。

「・・・・・」

その時、
マコトは思ってしまった。
・・・・悪くないと。
感動してしまった。
・・・・・。
人に好かれる事は、
それだけで気持ちいいものだと。

「・・・・い、いやだった?」

「え?・・・んーん。全然!」

そう。
好かれるだけで、
人は人を好きになれるのかもしれない。
正直、
ときめいた・・・なんて言葉を使えばいいのだろう。
初恋だった。
恋されることによって、
マコトの初恋は始まった。

「いこっ!」

「えっ?え?」

マコトは、
夢中になって、
いつの間にか、
エミちゃんの手を握って走っていた。
裏山を。
かくれんぼの最中、
さらにさらに、
奥へと、
無我夢中で。

「エミちゃん!僕が絶対逃がしてあげるからね!
 ただのかくれんぼだけど、二人で一緒に逃げ切ろうよ!」

「・・・・・うん!」

純粋な。
あまりにも純粋な、
恋。
恋だった。
それだけだったんだ。

手を握って、
裏山を走った。
目的なんて、
かくれんぼの勝者になる。
それだけで、
何もカッコイイことではないけど、
でも二人で走った。

裏山の中を・・・・・。

「・・・・・あっ」

そして、

見つけた。

マコトは、
全力で裏山を駆けていたその両足を、
止めた。

「ど、どうしたの?」

「えへへ。いいもの見つけたよ」

そして、
マコトはそれに歩み寄る。
エミちゃんの手を引いて。

それは、
山に捨てられた一つのドラム缶だった。

「これっ!これなら見つからないんじゃないかなっ!」

「え?これに入るの?」

「うん!絶対に見つからないって!」

そう言って、
そのフタを開けた。

「あっ、まだ新しいみたいだよ。結構綺麗だ。これならエミちゃんの服も汚れないよ」

「服・・・なんて別にいいよ・・・」

「え?でもお母さんに怒られちゃうでしょ?」

「怒られちゃうけど・・・うーうん。それよりもありがとうマコト君。私のために」

「いいっていいって!ほら、入って!勝利(ツヨシ)の奴が来ちゃうかもしれない!」

そう言い、
マコトは手をとり、
エミちゃんをドラム缶へと導く。

「マコト君は隠れないの?」

「一人しか入れないでしょ?僕は見張りしてるよ!絶対にエミちゃんだけは守るから!」

「・・・・うん」

エミちゃんは、
嬉しそうに岩を足場に、
ドラム缶へと入った。

「あっ、マコト君。ちょっと暖かいよこの中」

「よかった。それなら風邪ひかないね。ほら、フタ閉めるよ?」

「じゃないと見つかっちゃうしさ」

それに対し、
エミちゃんはまだちょっと不安がっていたが、
それよりもマコトは必死だった。
純粋な気持ちだった。
エミちゃんを勝たせてあげよう。
僕が守るんだ!
そんな、
純粋な気持ちだった。

「暗いよマコト君・・・・・」

「ちょっとのガマンだよ!」

純粋な気持ち。
それだけだった。

「・・・・あれ?・・・なんの音?マコト君」

「岩を乗せてるんだよ!勝利(ツヨシ)の奴なんかにエミちゃんを捕まえさせてやるもんか!」

そう言い、
子供の非力な力で、
一生懸命、
一個、
二個、
と、
重い岩を乗せていった。

「ふぅ・・・・」

パンッパンッ、
と手を払う。
これならちょっとやそっとじゃ・・・・

「ねぇ〜・・・・・マコト君・・・・いるよね?近くにいるんだよね?」

「・・・・・」

「ねぇ〜?マコトく〜ん?」

「・・・・・」

純粋な気持ちだった。
ただ、
それだけ。
それだけ・・・・だった。

はずだった。

のに、

その光景に、

マコトは、
マコトの中で、




マコトの何かが、
弾けた様な気がした。



「マコトく〜ん?マコトく〜〜〜ん?」

「あ・・・う、うん・・・・」

「ねぇー、一緒にいるんだよね〜?」

そう。
それこそ、
それこそ、
ただ、
純粋な気持ちだった。

説明のしようがなかったが、
ただ、
そうしたかった。

自分でも気付いていなかった。


たった今、
自分の顔が、


砕けるほどに笑みで歪んでいる事に。


「い、一緒にいるよ・・・エミちゃん・・・・・」


子供とは思えない、
魔物のような、
そんな、
嬉しくてたまらない愉悦の顔に歪ませ、

ゆっくり・・・・
ゆっくり・・・・

マコトは後ずさりをした。

「じゃぁエミちゃん・・・」

そして、

「おやすみ」


マコトは走ってそこを後にした。




































「微笑(エミ)ちゃんがまだ帰ってきてないんだって」

母が、
そう言った。
夜の食卓。
母、
父、
そして偽嘘(マコト)がテーブルを囲み、
そして今日もマコトは漫画を読んでいた。

「ほら、聞いてるの?マコト。今日一緒に遊んだりしなかった?」
「遊んだよ〜?」

漫画のページをめくるついでに、
ハシでおかずを摘まみ、
口に運んだ。

「え?遊んだの?じゃぁエミちゃんといつまで一緒だったの?」
「裏山でかくれんぼしててさー。だから始まってから会ってないよ。別々に逃げたし。
 もともと日が暮れたら解散っていう約束だったしね」
「おいおいマコト。だからって女の子を残して帰ってくるなよ」
「まだ帰ってきてないなんて分からないよ。かくれんぼしてたんだからさ」

母と父は顔を見合わせた。
まぁかくれんぼなのだから、
隠れているわけで、
それで時間切れになったのでは、
確かにどうしようもない。
皆帰ると約束したのに探すのもおかしなものだ。

「でも一緒に遊んでたんでしょ?どうしたものかしら」
「うーん。青(ススム)君の家や一歩(ハジメ)君のお父さんお母さんも同じような話してるんだろうね。
 ちょっとWIS(電話)いれてみようか。さすがに女の子がこの時間に帰らないのか心配だ」
「そうね」

そう、
母と父はそこでマコトへ話を振るのをやめた。
そして、
マコトは、
少し罪悪感を覚えた。

エミちゃんを、
あの裏山に置き去りにしたのは自分だ。

なんでか分からないけど、
そうしたのだ。

自分でも理由が分からないのに、
エミちゃんにしたらもっと分からないだろう。

分からないで済めばいいが、
あんな暗い、
夜は寒い、
魔物だって住んでいる裏山に、
ドラム缶に閉じ込められているのだ。

暗いだろうな。
寒いだろうな。
怖いだろうな。


可哀想だな、エミちゃん。

ごめんね。

そう心の中で思い、
食事を終え、
風呂に入り、
偽嘘(マコト)はそのまま寝た。


































「エミちゃん。大丈夫?」

次の日、
マコトは裏山の、
その場所に足を運んだ。

「・・・・・!?・・・・マコト君!?」

ドラム缶の中から、
相変わらずな、
エミちゃんの声が聞こえてきた。

「酷いよ!置いてけぼりにするなんて!私・・・私・・・・」

半泣きの声が聞こえる。
いや、
ずっと泣いてたのだろう。

寒くて、
暗くて、
怖くて。

「ごめんね。エミちゃん」

「・・・・・うっぐ・・・・ううん・・・・何か理由があったんでしょ?
 ・・・・いいよ。来てくれたから・・・・ねぇマコト君。開けて」

その時、
自分が、
自分が笑っている事に、
やっぱりマコトは気付かなかった。
感情の意味も分からなかった。
大好きなエミちゃん。
それだけだった。

「エミちゃん。お母さんとお父さんが心配してたよ。
 エミちゃんが可愛いからだね。いつもいい子にしてたからだね」

「・・・え?・・・何?・・・マコト君、開けてって・・・・・」

「寂しかったでしょ?こんなところで。寒くて、暗くて、怖くて・・・・」

「うん・・・・ねぇ、マコト君・・・・」

「でも大丈夫。エミちゃんには僕がいるよ。エミちゃんが寂しくないように・・・・・」

薄暗い、
裏山の奥で。
誰も来ない、
裏山の奥ので。
一人の少女の入ったドラム缶の前で。

「明日も来るからね」

デートの約束をし。
マコトはその場を後にした。

ドラム缶の中から、
エミちゃんの声が聞こえてきた。
それは自分が離れていくと共に遠くなっていった。

エミちゃんの声は可愛いなぁと、
そう純粋に思った。


そして同時に、
可哀想だなぁと、

思った。


































「今日はね。御飯を持ってきたんだよ」

すでに4日が経過していた。
そして5日目くらいのものだ。

昨日の訪問時だったが、
あまりの空腹に、
エミちゃんは苦しそうだった。

可哀想だ。
そんな、
暗くて、
寒くて、
怖くて。

なのにお腹まで空いてるなんて。

"じゃぁ僕が助けてあげないと"

だから御飯を持ってきた。

「ほら、上っかわは隙間がちょこちょこいてるからさ」

そう言い、
マコトは、
パンをすり潰し、
ドラム缶の隙間に流し込んだ。

「・・・・・ケホッ・・・ケホッ・・・・」

あまりに元気の無い、
ドラム缶の中のエミちゃんの声。
すり潰したパンが降り注ぎ、
咳き込んだんだろう。

可哀想に。
でも僕が助けてあげるさ。

エミちゃんは僕が守るんだ。

「どう?おいしい?エミちゃん」

「・・・・・ぅ・・・えっぐ・・・・うぅ・・・・」

ドラム缶の中で、
6歳の少女は泣いていた。
何か哀しい事でもあったのだろうか。
その、
狭く、
暗く、
冷たいドラム缶の中で。

「・・・・・開けてよマコト君・・・・・」

消え入りそうな声で、
ドラム缶の中から声。

「大丈夫。その中は安全だよ」

「何を言ってるの・・・・わけが分からないよ・・・開けてよ・・・開けてよ・・・・」

ドラム缶の中で、
せせら泣く、
少女の声。

可哀想に。
可哀想に。
そう純粋に思いながら、

マコトの顔は愉悦に歪んでいた。
そんな事、
当の本人さえ気付いていないが。

「大丈夫だよ。エミちゃん。ほら、喉もカラカラでしょ?」

そう言い、
マコトは、
ドラム缶の上から、
ドラム缶の隙間から、
お茶を流し込んだ。

「どう?飲めた?おいしい?」

「・・・・うぅ・・・・・うぇぇえええーーーん・・・・・」

泣き出してしまった。
そんな、
そんな哀しい声をあげないで。
僕が、
僕が守ってあげるから。

「マコト君の馬鹿っ!馬鹿っ!出して!出してよぉおおお!!」

「・・・・・・」

「酷い!酷いよ!どうしてこんなことをするの!?」

「・・・・・」

・・・・・。
酷い?
酷い?
どうして?
どうして?
どうしてこんなことをするのか?

なんて、
なんてことを言うんだ。
なんて酷い事を言うんだ。

僕に向かって。

僕が守ってあげなきゃ何も出来ないクセに。

守ってあげてるのに。

僕が守ってあげなきゃ、

そのまま死ぬだけなのに。

「・・・・・夕飯の時間だ」

そして、
今日も帰る。
何事も無かったかのように。

だけど、
マコトがそう言い、
動く物音がすると、
見えないドラム缶の中の少女はビクッと反応する。

「待って!待ってよマコト君!」

「そんなこと言われても・・・・」

デートは夕方までだよ。
一日中も一緒にいられないよ。
生活は生活。
恋愛は恋愛。
わがままだなぁ。

こんなに愛を注いであげてるんだから、
それでも満足してくれないのかい?

ま、
そこがそこで可愛いんだけどね。

「もうちょっと・・・もうちょっと居て・・・居てください・・・・
 怖いの・・・・こんな山の中で一人・・・本当に怖いの・・・・・
 もうこのまま・・・毎日誰とも会えなくなっちゃうみたいで・・・だから・・・・もうちょっと・・・・」

ほんとうに。
そこが可愛いところだ。

泣き声とともに、
すがる声。
マコトに。
張本人に、
すがる声。

振るえがくる。
ゾクゾクする。

当然だろう。
彼女にしたら、
今、
世界はマコトしかいないのだ。

この場所を知っているのはマコトだけで、
ここに訪れるのはマコトだけで、
ここから出せるのもマコトだけなのだから。

「ね、ねぇ・・・マコト君・・・・ちょっとお散歩しよ?・・・えっぐ・・・ね?
 だから・・・このフタを開けて・・・・開けて・・・・ね・・・・外に・・・・出して・・・・・」

「外は危ないよ。そこのほうがいいよ」

「・・・ちょ・・・ちょっとだけでいいから・・・ほんとにちょっとだけで・・・・
 あっ・・・また、またその後この中に戻ってもいいから・・・ね?・・・ね?」

「・・・・・・」

マコトは、
心の底から、
この少女を好きになってしまった。
だから、

どれだけでもこの子に尽くそう。

「また明日ね」

毎日の時間を君のために使おう。
甲斐甲斐しく、
君のためならなんでもしよう。
あぁ。
明日は何を持って来ようかな。
何を持って来たら、
君は喜ぶのかな。

泣いてばかりじゃ僕も悲しいよ。
明日は笑ってくれるかな。
君の名前のように。


泣き叫ぶエミちゃんの声を尻目に、
ウキウキ、
ワクワクと、
6歳の少年は山を降りた。



































「ごめんなさい・・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・」

2週間が経過した。
ドラム缶の中の彼女は、
僕の彼女は、
弱りきって、
それでもか細く、
声をあげていた。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・許してください・・・・
 いい子にしますから・・・・イイコにしマスから・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・」

何を言ってるんだろう。
エミちゃんは何も悪くないのに。
悪い事なんてしてないのに。
なんで謝ってるんだろう。

「そんなことよりさ、エミちゃん。遊ぼうよ?何がいいかな。しりとりなんてどうかな?」

「開けて・・・開けてください・・・・お願いします・・・・いい子にしますから・・・・」

「エミちゃんはいい子だよ。とってもとっても」

「・・・・なんで・・・私が悪かったんなら謝りますから・・・・お願い・・・・・」

2週間も、
暗い、
寒い、
怖い山の中、
ドラム缶という密室に閉じ込められ。
押し込められ。
まさに缶詰にされ、
気はすでにさらされていた。

いや、
狂ったんじゃない。
ただ、
極限で、
幼い少女が受ける待遇としては、
世界の最下層のようなものだ。

親の愛を受け、
ゆとりをもち、
わがままさえ許されながら、
ぬくぬくと育つ時期に、

6歳の少女が住まうには、
ドラム缶は狭すぎた。

「・・・・なんで・・・・なんで閉じ込めたの・・・なんで・・・・出してくれないの・・・・・」

「え?」

「なんで・・・出してくれないん・・・ですか・・・・・」

敬語になる必要なんてない。
だが、
最悪な事に、
彼女にとって、
世界はマコトしかいないから・・・・。

マコトは、
自分の恋した天使であり、
マコトは、
自分を陥れた悪魔であり、
でも、
マコトは、
今の自分の全ての権限を持つ、

神でもあったから。

「おかしな事聞くよね。エミちゃんは」

「お願いします・・・・お願いしますお願いしますお願いします・・・・・」

声を出すのもツラそうだ。
こんな狭い、
ドラムの缶の中に、
2週間も詰め込まれたままなのだ。
そして、
食べるものは、
偽嘘(マコト)が持ってくる、
粉クズのようなものだけで、
苦しいのはさらに水分で、

6歳の少女の体重は、
20kg台という軽量から、
10kg台という致死量まで下がっていた。

でも、
偽嘘(マコト)には、
そんな姿は見えないし、
見ないし、
分からない。

「僕ら二人だけになれたんだからさ。もっと喜んでくれると思ったんだけどね」

「なんで・・・・どうして・・・・」

シクシク・・・
と、
凍える泣き声。

なんで?
どうして?

「うーん・・・・」

2週間も同じ事を質問され、
うんざりだが、
そんなの、
思ったままとしか表現しようがない。

「どうしてっ!!どうして出してくれないのっ!!」

消え入りそうな声の、
全力が、
ドラム缶の中から聞こえてきた。
そんな大きな声を出したら、
力尽きて死んでしまうんじゃないかとさえ思った。

「いいじゃん」

偽嘘(マコト)は、
歪む。
歪む笑顔で答える。

「"僕は"、嬉しいし、楽しいし、幸せだよ」

「・・・・・・」

もう、
少女にも。
どうにもならない事は理解できた。
何を言っても無駄だと理解できた。
何も、
継ぎ合わないから。

「・・・・・ぅ・・・ぅう・・・・ひぐ・・・・」

「臭いよエミちゃん。女の子がそんなじゃだめだよ」

「・・・・うぅ・・・・うぅ・・・・・」

「でも気付かなくてごめんね。そうだね。そこじゃぁトイレなんて行けるはずないもんね。
 大丈夫。僕がちゃんと世話をしてあげるから。明日はオムツを持ってきてあげるよ」

どこかの隙間から入るかなぁ?
そんな、
そんな悩みしか出てこない。
自分の行動自体には、
疑問のカケラも沸かない。

「ウフフ・・・僕結構尽くすタイプでしょ?慣れてるんだ。部屋でね。昆虫を飼っててね。
 最近はネズミとかカエルとかも。だから世話するのはお手の物なんだよ」

どれも。
一緒だから。
でも、
やっぱり人間は違うね。
感情があるから。
喜びが返って来るから。

・・・・。
ガゴンッ!!!

と、
ドラム缶が内側から殴られる音がした。

「わわ・・・どうしたの?エミちゃん」

「人殺し!!」

何を言ってるんだろう。
僕は、
君を守っているのに。
君が死なないように、
世話をしてるのに。

「この・・・この・・・・」

そして、
ドラム缶の内側から聞こえてきた、
その、
少女の一言が、

彼を、
偽嘘(マコト)を、
あっち側に、
落とす、
"堕とす"、
最後の引き金になってしまった。
と、
今を思えばそう思う。

「この・・・・このクソ野郎!!!!」

「・・・・・あひゃ」

心が、
スっとした。
黒々と、
自分の心を痛めつけられたような、
つまり胸に突付き刺さるようで、
罪悪感の全てを押し付けられたような。

なんて酷い言葉だ。
なんて汚い言葉だ。
少女が使っていい言葉じゃない。
でも、
それがまた、
あは、
あはは。
ウフフ。

「ウフフフ・・・・・・」

その時のその反応は、
偽嘘(マコト)自身、
その反応の意味なんて知らないけど。

その言葉を浴びせられたのが、
何か・・・・

心の中の、
胸の奥からスゥー・・・っと・・・
膨らんだズボンと同じで、

快感だった。

「・・・・あはっ・・・・ウフフ・・・・ねぇ、ねぇねぇ。何って?ねぇ。何って?
 ひどいなぁ、あはは、酷い。傷ついたよ。・・・・ウフフ・・・ねぇねぇ、もっかい言ってみて」

6歳の少年は、
あまりにも早すぎる勢いで、

堕ちた。

「ねぇ、ねぇ」

偽嘘(マコト)は、
ドラム缶を抱きしめ、
頬ずりをし、
舌を出し、

せがんだ。

「ねぇねぇ、もっかい言って。なんか分からないけど、もっかい言って。ねぇ。
 ・・・・ウフフ・・・・それ気に入っちゃった。・・・・ウフフ・・・・もっかい・・・もっかいさ」

山の中。

少年の笑い声と、
少女の泣き声だけが、

世界にあった。


































さらに数日後。

終わった。


「・・・・・あれぇ?・・・・・・」

時として、
調度20日が経過した日だった。

いつも通り、
偽嘘(マコト)は、
愛の塊である、
パンくずと水分を手にとって、
山を登った。

自分だけしか知らない、
愛する彼女のいる場所に。

だけど、
終わっていた。

死なないように、
食べ物は用意してたのに。

なんで。
どうして。

あぁ。
気付かなかった。

山の中、
暗い山の中。
ドラム缶の前に立ち竦む偽嘘(マコト)は、


傘を差していた。


「・・・そっか。そりゃそうだよね・・・・」

ザーザーと降り注ぐ雨。
山全体が悲鳴をあげているかとも思えた。
雨。
雨音。
雨水。
雨。
滝のように。
一面を多い尽くす、
雨。
豪雨。

そして、

ドラム缶のフタの隙間からは、
チョロチョロ・・・
チョロチョロ・・・
と、
雨水が溢れて、
漏れていた。

「そうかぁ」

偽嘘(マコト)は、
反省した。

「溺れちゃったのか。しょうがないよね。"出れないのに水は溜まってっちゃうんだから"。
 そういえば虫を飼う時も、穴とか空けとかないと死んじゃうもんね。
 しまったしまった。うっかりしてたなぁ」

岩でフタをしめられたドラム缶。
その中の少女。
溜まる雨水。

「どんな気持ちだったのかな・・・・」

出たいけど、
出れない。
水かさは増える。
溜まる。
息が吸えない。
苦しい。
フタを叩く。
壁を叩く。
でも、
出れない。
水かさは増える。
溜まる。
息が吸えない。

「きっと苦しかったんだろな・・・・」

偽嘘(マコト)は、
傘を落とし、
ドラム缶を抱きしめた。
そして、
後悔した。
心から後悔した。
自分を、
非難したかった。

「苦しくて苦しくて苦しくて・・・・」

想像すると、
想像すると、
胸が締め付けられる。
締め付けられて、
それが快感で、
想像をやめられない。
いつまでも彼女の死に様を考えていたい。

「守れなくてごめんね」

あぁ。
好きな女の子一人助けられないなんて。
あぁ。
あぁ。
あぁ。

ゴポゴポと、
ドラム缶のフタから溢れ出す雨水。
それが彼女の命を奪った殺人鬼。

僕は彼女を大事にしたかっただけなのに。

「・・・ウフ・・・ウフフ・・・・」

そう。
そうだ。
大事にしたかった。
独り占めにしたかった。
思うようにしたかった。
そして違う意味で、何でもしてやりたかった。

これが。
愛。
これが。
恋。

そう思うと、
自分の感情に酔心してしまう。
大人になった気分だ。
僕は一つ、
大人になったなぁ。

6歳にして、
女の子を失う悲しみを知った。
そして。


その快感も。





その日、

クソ野郎が生まれたのではない。

正しい言葉で、

目覚めた。

確固として、
彼の心にあった性癖が、
X(未知)なるO(原点)が、
目覚めた。
ただそれだけだった。









































「学校とかいかないのか?偽嘘(マコト)」

普通に日常が過ぎた。
誰にも知られる事は無かったし、
誰にも知らさなかった。

「いいって。学ぶ事なんて自分で見つけるから」
「それは大事だな」
「まぁ確かにマコトはそれが出来る子なんだけど・・・」

11ほどになったか。
どう成長したかといえば、
傍目からは普通に・・・か。
ただ容姿はやはり、
性別欄に記入でもしない限り分からないほど、
男女を超越して美麗で、
そして頭も良かった。

だが父と母は心配していた。
いやいや。
マイソシアでは学校なんて優等生だけが行くものだから、
それ自体に問題があるわけではないのだが。

「確かに俺は優等生だけどね。でも父さんと母さんが言う学校っていうのは、
 騎士団養成学校だろ?だよね。あそこ入って王国騎士団に入れば鼻高々。
 富(給料)、地位(名声)、そしていわゆる超公務員っていう安定まで入るし」
「いえ、別にそういうのを求めてるわけじゃないのよ?」
「ただお前が何も夢がないのならばそれを見つけるために行ってみるのも手じゃないかと思ってな」
「だから」

ソファにふんぞり返り、
偽嘘(マコト)はアイスクリームを片手、
その銀のスプーンをもう片手に話す。

「あそこに行くのは優等生だぜ?いいかい?父さん母さん。優等生には二種類ある。
 一つはそのまま、能力の問題さ。レベル最大だからな。あの学校は。
 その点は俺はオールクリアさ。独学だけですでにオレン一くらいの自信はある。
 だけどもう一つの意味。こう・・・・人柄も優等生であるべきよ。
 だめだめ。俺にゃぁ無理だって。縛られるのは向いてねぇもん」

縛るのは・・・
いいけどな。

心でコッソリそう呟き、
笑った。

「それに違うよ。俺には"やりたい事"は山積みだ」

あれから、
サマドゾ=偽嘘(マコト)は、
"味をしめた"

もちろん、
それは人殺し・・・・という意味ではない。
だってあの日、
初恋のあの子は、

殺してないんだから。

事故で死んでしまったんだ。
自分はむしろ生かそうとした。
だけどだめだった。
哀しいな。
悲しいね。
悲観に浸るのは人間の特徴だ。
映画。
漫画。
演劇。

喜劇よりも悲劇の方が人気があるのは、
人間の特性なのだ。

ラブストーリーだったら、
恋人のどちらかが、
なんらかの不治の病、
または死ぬ。
そんなストーリーが当然。

いかに人間とは、
愛情と悲劇が隣り合わせである事を好むかが分かる。

そしてそれの味をしめたのが、
偽嘘(マコト)だった。

"人殺し!"

彼女の言葉を思い返すとドキドキする。
胸が高鳴り、
勃起しそうになる。

だけど違う。

殺しは"結末"であって、
大事なのはその過程。

X(十)が、○(零)になるのが好きなんだ。



「ウフフ・・・・」

部屋に戻ると、
その模様は異変していた。

「悲しいな・・・スッキリハッキリ・・・こういうのがいいよね」

最初は、
昆虫だった。
大事な大事なコレクション。
だけどそれも永遠でなく、
それらが腐った時、
とてもとても悲しくなった。
その悲しさが、
とても楽しかった。

「さぁ、俺のコレクションちゃん達は、今日も元気かなぁ?元気じゃなけりゃいいなぁ♪」

でも虫は反応をしてくれない事に気付き、
目標を変えた。
変えたというより、
コレクションは増えた。

「るんるるんるるーん♪」

カエルなどの爬虫類。
おっと、
それらで遊んでいた頃は、
さすがに学校にも行きたくなった。
なんせあそこは、
薦めてカエルのお腹をかっ開かせてくれるらしい。

解剖とか、
そういうのは人間として学ばなければいけないのだなと、
芯に思った。

「ありゃ。死んでる」

部屋に戻り、
檻の中を見ると、

大好きな犬が死んでいた。

いやはや。
マイブームだった、というべきか。
彼はその犬にも愛情を注ぎ込んだ。
その犬の末路を見れば分かる。

前足がない。

「やっぱバイ菌が入っちゃったかな?んー。残念。犬だって進化したいと思ったんだけどなぁ。
 だから前足なんて"枷"を外して、二足歩行の訓練をしてたのに。そっかそっかぁ」

でも困ったな。
また死体を作っちゃった。
早いうちに始末しないと、
両親になんて言われるか。

「今日の夜にでも捨てにいくか。溜まった分、まとめて」

そう言い、
自分の部屋の隅を見る。

・・・・山積み。
死体の、
山積み。
小さいものは爬虫類。
鳥や、
昆虫も含め、
一番大きいものは、
さきほどの犬。

「愛し終わった"思い出"を見るのも、またいいんだけどな♪」

屍骸をコレクションしているといってもいいほどの、
量。

悪趣味な、
趣味。

切り開かれた、
ネズミ。
前足のない、
犬。
羽をむしられた、
鳥。
甲羅を剥がされた、
亀。

あのトカゲは、
「どこまでなら尻尾を切っていいんだろう?」
という疑問のもとに、
細切れにされていて、

あのネコは、
「大きい方が勝つわけじゃないよなぁ」
という結果を手に入れるために、
ガラスケースの中で10万近いアリと共に閉じ込められて、
あがき苦しんでいた。

「さぁて、でもそろそろヤバいなぁ」

惨殺部屋という、
マイルームの中。
マコトは腕を組んで頭を傾けた。

「やり過ぎると両親にバレちまうよな」

やりすぎると・・・か。
言い得て妙だ。
やりすぎてないと思ってるのだから。

「ま。なんとか悪趣味な生物コレクションを息子がしてるくらいにしか思ってないんだろうけどな。
 父さんも母さんも、こんな臭い部屋嫌いなんか知らねぇけど寄ってこないし。
 死体も、こんだけ動物飼ってりゃドンドン出てくる程度に思ってるんだろな」

見られたらヒくかな。
屍骸の末路も。

「さすがに釘が刺さってたり原型留めてない屍骸見たら卒倒すっかもな」

実際のところ、
悪い予感があり、
"見たくないから"、
両親はマコトの趣味をあえて知ろうとはしなかった。

息子があまりに悪趣味な所業を行っているだろう予想はついていたが、
それに触れるのが怖い。

「でも勉強になったな。"嫌われれば干渉されないのか"。
 知りたくない事は知ろうとしてこない。無理矢理にでも。こりゃ使えるな。
 まぁそれでも実家で隠れて殺戮ごっこしてるのにもそろそろ限界か」

ふと、
部屋の隅に目をやる。

「元気かい?好々(ユリ)ちゃん」

これが、
新しい彼女だった。
否、
今の彼女か。
何人目か。

「今日も行儀がよくていいね」

部屋の隅。
死臭と、
生物臭の充満した部屋の端で、
彼女は正座で座っていた。

「・・・・ん・・・・・」

目隠しをされ、
猿ぐつわをされ、
両手足を縛られたまま、
静かに鎮座していた。

「ウフフ・・・・」

あまりに大人しい彼女を見ると、
彼氏としては頑張っていこうと思える。

「好々(ユリ)ちゃん」

マコトは、
彼女の前で屈む。
目隠しをされ、
猿ぐつわでしゃべる事も出来ない彼女でも、
それは分かったろう。

「お手」

ニヤニヤと、
偽嘘(マコト)は手を差し出した。

「・・・・ぅ・・・・・」

「あぁそうか。手ぇ縛ったままだったな。そうかそうか。ご主人様(彼氏)としてこりゃ失態だった。
 でも暴れられても困るからなぁ。じゃぁお手は無しにしといてあげるよ」

そして、
マコトは、
彼女の白い首に、
頬をすりよせる。

「あぁ・・・今日も綺麗だねぇ好々(ユリ)ちゃん・・・・」

「・・・・・んぐ・・・・ぐ・・・・」

「そうかいそうかい。嬉しいかい♪」

ペロリと、
そのまま長い舌で彼女の首筋を舐めあげ、
そしてダランと、
長い舌を出したまま、
マコトは舌を離した。

「・・・・・・おい」

「・・・・・・」

「てめぇなんか臭ぇな」

マコトは顔をしかめた。

「てめぇ!!!」

そして、
立ち上がり、
おもむろに、
おもくそに、
彼女のを蹴り飛ばした。

「・・・・んぐっ!・・・ん!・・・・ん!!」

「てめぇまた漏らしやがったな!あ!?してぇ時はちゃんと言えつったろが!」

「ん!!・・・・んんんー!」

「あーあー、しゃべれないし動けないからどうしようもないって?
 なるほどなるほど。それはハッキリ正しい反論だな。でもよぉ。
 俺は今、好々(ユリ)ちゃんの言いたい事伝わったよな?分かってやれたよな」

「・・・・・ん・・・・・」

「じゃぁなんでてめぇは俺の思いが伝わってねぇんだ!?あん!?
 愛っつーのは言葉とかじゃなくても伝わるもんだろ!?違うか?
 ・・・・うわ・・・・あーあー・・・何?糞まで漏らしやがったのか。ざけんなよ!!」

もう一度、
今度は躊躇もなく、
彼女の腹部を蹴り飛ばす。

「・・・・・・んご・・・・ごほっ・・・・」

猿ぐつわをされたままの彼女は、
何かを吐き出す事も出来ず、
あまりに苦しそうだった。

だがマコトは、
逆に、
愛のある怒りに満ちていた。

「いいか。好々(ユリ)ちゃんよぉ。俺はお漏らしちしまった事自体に怒ってんじゃねぇ」

マコトは、
彼女の髪の毛を掴み、
持ち上げる。

「俺のいう事が聞けないからだ。なんでだよ。なんでちゃんと"しつけ"出来ねぇ。
 今日死んだ犬だって用足しくらいちゃんとできた。なのになんでてめぇは出来ない。
 あ?・・・お手は出来るようになったじゃねぇか。なのになんでお漏らししちゃうんだろなぁ。
 ワンちゃん育成本に書いてあったぜ。しつけが出来ているのは愛の結果だってよぉ。
 愛するあなたのパートナーに愛が伝われば、あなたのパートナーは応えてくれるはずだってよぉ」

犬も、
人も、
同列に、
ただ愛す。
だからお手を教えた。
友達(ペット)なら出来るはずだ。
だからお座りを教えた。
彼女(愛する君)は、それに応えてちゃんとお座りするようになってくれた。
なのによぉ。

「ん?」

マコトは、
彼女の髪の毛を掴んだまま、
揺する。

「あれ。コレも死んだ」

彼女に反応は無かった。
目隠しで目も見えないし、
猿ぐつわで話せもしないが、
それを抜きにしても何も反応が無かった。
人形のように。
髪の毛を掴んで揺すっても、
ブラブラとマリオネットのように。

「あぁ・・・血とか口に溜まって窒息したか」

猿ぐつわを片手で引き剥がし、
そして彼女を投げ捨てるように離した。
床に転がった彼女は、
口からドロりと赤と白を垂れ流して、
やはり反応しなかった。

「まぁた俺、フラれちまったよ。俺結構モテないのかねぇ。ウフフ・・・・・。
 何故俺はロミオなんだろうなぁ。あぁ、あの話の最後は心中だったか。
 それさえさせてくれないんじゃぁ、なかなかどうして俺も哀れだねぇ」

長い舌を出して、
顔を左右に振る。

「まったく。今度は言う事聞いてくれる彼女だったし、長続きすると思ったんだけどねぇ。
 お漏らしする以外、俺の愛にちゃんと応えてくれる健気な子だったんだけど・・・・あぁ」

今度は頷く。

「そういえばこの子、年上だったな。14だったかな。そうかそうか。不純な動機だったからだ。
 男は顔とか言いやがって、性格は二の次だからって俺んとこ来たんだった。
 そぉーーーりゃ間違ってるよ好々(ユリ)ちゃぁーん。顔はどうにでもなるけど性格はねぇ」

俺は、
どっちも変えてやるのが趣味だけど。

いろいろ考えつつも、
その顔は、
笑っていた。
愉悦に。
美麗な、
誰もが憧れる美しい仮面の下に、
ドロドロと淀んだ性格を隠しながら。

今の、
悲しき快感に浸っていたので、


ちょっとだけ気付かなかった。


「・・・・・ん?」


振り向くと、

父と母が立っていた。

「・・・・あひゃ」

驚いた。
バレた。
驚いた。
と、
同時に、
なんか笑ってしまった。

呆然と立ち尽くす、
父と母を尻目に。

「な・・・」
「マコ・・・ト?」

マコトは辺りを見渡した。
ふむ。
見慣れた光景だ。
居心地のいい。
生と死の共存する、
自分の部屋。

だけどまぁ、
人様が見たらちょっと異様っちゃ異様だろうな。

「なんなんだこれは・・・」
「どうなってるの・・・・」

まぁ驚くかもしれないな。
自分の子だしな。

「あーあー、待って待って。ごめん驚かしちゃって。
 ビックリするよな。こんな部屋。待っててくれ。すぐ片付けるから」

そう笑いながら、
マコトはおもむろに、
立てかけてあったバットを手に取り。

「失恋万歳」

まずはハムスターを飼っていたガラスケースに振り下ろした。
ガラスと共に、
ハムスターの、
鳴き声と肉が飛び散り、

そして今度はもう一振り。
壁を薙ぎ払うと、
虫の標本がバリバリと紙切れのように、
ゴミのカケラのように散乱し、
舞い、

「あぁ、やば。逆に散らかっちゃうなこれ」

今度は、
その辺りにいる動物を、
鳥を、
生物を、
手当たり次第、
手で掴み、
水槽に押し込んでいった。
ギュンギュンと、
ゴミ箱を破裂させるように、
すべての生命を。

そして当たり前のように水槽はパンクし、
割れ、
水と共に、
また部屋に失った命が零れ出した。

「・・・あぁ・・・・」

やっちゃった、
そんな顔をした後、
マコトは微笑む。

「大丈夫。あとでちゃんと片付けるから」

「何・・・何をしてたの?マコト・・・あなた・・・毎日こんなことを・・・」

「毎日?母さん。あんたは酷いね。"命に休暇なんてあるわけないじゃないか"。
 俺はちゃぁんと毎日愛を持って世話をしてあげないといけない義務があったんだ」

愛したからには、
愛を与える義務がね。

「何かの・・・・勉強かと思っていたが・・・・」

「なぁに言ってんのよパパさん。勉強っちゃ勉強だけどよ♪
 普通に考えてなんとなく分かってたんだろ?だけど理解しないようにしてた」

あんたらは、
息子から目を反らしてたんだ。

「自分らから生まれたんだから、本性は自分らのようなものだって思ってた?
 知らない知らない。そういう話むっかしいよ。ただ俺の性癖はこうだっただけ。
 いやぁー・・・でも、とうとう見られちゃったか♪恥ずかしいなぁおい。
 こういうのってつまり、オナニー見られたようなもんだからな。アチャーって感じ」

偽嘘は、
紫の髪の頭で、
うんうん、
と頷く。

「マコト・・・・その子・・・は・・・」

「ん?あぁ」

好々(ユリ)ちゃんの事か。
おいおい、
タイミング悪く何死んじゃってんだよ。
俺の両親に紹介のチャンスなんだぜ?
挨拶くらいしてくれよ。
俺の面目丸つぶれだっての。

「まぁまぁまぁ、黙ってたけど、俺の彼女だ。・・・あぁー・・・彼女"だった"・・・だな。
 さっき愛情の相違で別れたとこ。今は赤の他人かな。気にしなくていいよ。すぐ帰るし。土に」

「マコ・・ト・・・・」

母は、
顔を青ざめさせ、
現実を直視できない。
そんな表情で、

「なんで・・・・どうして・・・・」

またそれか。

ただ、
そう思った。

なんで皆、
愛する人はそんな事を言うんだろうか。

「なんでって」

マコトは苦笑いをし、
両手を広げて首を振った。
なんでって。
なんでってなんで。
逆に俺が聞きたい。
なんでそんな事を聞く。
思いのままにしただけなのに。

「俺、漫画好きじゃん」

マコトは、
汚れた本棚を指差した。

「昔は飯の時に読んでてよく怒られたな。いや、今もか。まぁそれはいっか。
 でも俺の読んできたストーリーで、悪の親玉にそんな事を聞く主人公はいなかったよ」

だって、
分かりきっているからだ。

「理由はそれぞれでも、嫌々やってる悪党なんていないさ。
 そうしたいからそうした。それが、たまたま社会のルールとかから外れてた」

それだけなんじゃないかな。

「だからガッコに行かない理由もそれだな。俺は優等生じゃない。
 正常の社会の中では生きられやしねぇのさ。俺は陰で生きるしかない」

ビッ、
と、
両手の指をそれぞれ、
父と、
母に突き出して笑う。

「だってすでに、この惨状を見たあんたらは、"そんな目"で俺を見る」

父はそのままだったが、
母は顔をそむけた。
それがまた笑えた。

「でもま。俺の正常(○)を、異常(X)と見られるのも悪くない。
 なんていうか心地いいんだ。異常であるのがな」

「マコト」

父は、
落ち着いたのか、
険しい真剣な眼差しで、
偽嘘(マコト)を見た。

「いつからだ」

「いつから?どれが?"どの事が"・・・かな?」

ニヤニヤと、
そう悪気もなく笑う。
偽嘘(マコト)

今更、
犯した過ちの数なんて分かったもんじゃない。

「ま、どれのことか分からねぇから、全部ひっくるめると・・・・4・5年ってとこかな」

「つまり、最初は微笑(エミ)ちゃんか」

「ん?」

「行方不明になったあの子もお前がやったんだろ」

「あーあー、初恋の子ね。そうだね。"やった"ってニュアンスで言うなら、俺だな」

「マコト・・・あんたっ!」
「母さん」

母の肩に手をやり、
止める父。

「もう無駄だ。もう元には戻れないさ。自分の子を見捨てるとかの意味じゃなく、
 すでに5年というならば・・・・・偽嘘(マコト)が行ったX(罰)は・・・・すでに償える量じゃない」

父はやはり、
自分を見てくる。

「何人、そこの子のように。殺した」

そこの子?
あぁ、
好々(ユリ)ちゃんか。

「あんたが思ってるほど、俺も鬼畜じゃないよ。まだ両手で数えられるほどさ」

その言葉で、
父も、
母も、
同時に俯いた。

まだ両手で数えられるほどさ。

その言葉。
その数に、
それほどの人を趣味で殺めておいて、
その言葉。
違う。

父と、
母が、
本当に哀れんだのは、

"まだ"

その部分。

やめる気もなく、
反省する気もない。

息子は・・・・
間違った道を、
真っ直ぐ進んでいる。
振り向く気はない。

「最後に一つだけ聞いておくぞマコト」

「最後とも一つとも言わず、なんでも聞いてちょーだいよ。パパさんよ」

「お前のこの行為の始まり。どうやってどうした・・・なんては聞かないが、
 ただ、微笑(エミ)ちゃんはなんで殺した。どうして。どう思って」

また。
またそれだ。
なんで。
どうして。

「んー・・・・」

でもまぁ。
知りたいもんかねぇ。
でも、
そんなの答えようがない。
なんと答えようか。

「こう、俺はエミちゃんが大好きになったわけね」

なんでと聞かれても、
そんなの答えようがない。

「で、かくれんぼの時、ふとドラム缶があったのよ」

そんなの答えようが無い。
だって、
ありのままに。
思ったとおりに、
感情のままに、
考えもしないままに、
ただ、
行動しただけだから。

だから、
あえて説明するなら、

「ただ、閉じ込めてみたくて」

偽嘘(マコト)は、
ニタァー・・・と不吉に、
嬉しそうに笑った。
思い出すと、
快感が体を駆け巡る。

そう。
あれは愛だった。
でも儚かった。
どうしようか。
言葉じゃ説明できない。
だから、
こう、
説明しようと思うと、
それに尽きる。

「ただ俺は真剣だったわけよ?俺としては間違った事は何一つしてない。
 後悔?やってよかったとしか思わない。愛と同じで、それは愛だっただけ。
 愛情だったのよ。おんなじ。気持ちのままに、考えるでなく思ったことをしただけ」

父は、
確信した。

この子は、
もう。
"そう"なんだとしか。
説明もしようがない。
ただ、
正す気もない。
これが偽嘘(マコト)にとっての○なのだから。

正しい真っ直ぐな橋の上を渡る、
そんな人生を歩む人間達を、
河の下から足首を掴み、
落とし・・・・。

そんな、
害悪でしかない。
そんな人間。

元に戻れないんじゃない。

元々、
こういう人間なのだから。

「行こう。母さん」
「・・・・・」

まだ震えている母の肩を抱き、
父は階段を上がっていった。

「ありゃ」

不思議そうに、
偽嘘(マコト)は眉をひそめた。

「こりゃ最悪だ」

父と母の後姿を見て、
思う。

「怒らないでやんの。叱らないでやんの。はぁ・・・・そういう事かねぇ。
 "しつけは愛"だぜ。つまり俺はあんたらから全然愛されてなかったって事か」

悲しいねぇ。
可哀想だねぇ。
俺。
親に諦められてんの。
見捨てられてんの。

「見損なったぜ。俺の両親さんよぉ。"愛は苦しみ"で分かるもの。
 俺はいろんな子にその愛を与えてきた。でもあんたらは俺にそれをくれないんだな」

その日は、
そのまま終わった。

その日は。

否、
そうだな。

その日で終わった・・・・


というべきか。


































朝起きると、
父と母が死んでいた。

「・・・・・・ふぁーーぁ・・・・」

大きなアクビを立てる。
紫の寝癖頭をポリポリとかき、
まだ半分眠くて開かない片目で、
その光景を見た。

「なるほどねぇ。こーゆープレイもあるわけか」

プラン・・・
プラン・・・
と、
天井から、
父と母はぶら下がっていた。

「わっかんねぇなぁ。なんであんたらが死ぬんかねぇ」

俺を殺しにくるなら気持ちは分からんでもないけどな。
っていうか、
殺しにきてくれた方が気持ち良さそうだったんだけどな。

「ふぁーぁ・・・眠ぃ・・・早起きしたのにこれかよ全く・・・・・」

夫婦そろって、
天井からぶらさがったまま、
揺れる。
揺れる。
その光景の前で、
ただ、
日常の一部である偽嘘(マコト)

「あー・・・えぇーっと?微笑(エミ)ちゃんも俺が殺した事になるっていうんならー、
 これも俺が殺した事になんのかな?うっわ。殺意なくても殺人犯?やっだねー世の中。
 あー・・・・んーー・・・・そうだな。これで調度10人目か。楽しくなかったから嬉しくもないけど」

そのまま、
もう一度大きなアクビをする。
父と母が、
自分のせいで、
自ら首をくくったというのに。

「んで」

ポリポリと、
半目で尻をかきながら、

「朝飯どうすんだよ。作ってから死んでくれよ」


























「んーっしょっと」

ソレを置き、
偽嘘(マコト)は両手を払った。

「ったくよぉ。自殺にもいろいろあんだろって話。なんで首釣るかなぁ。
 ネコみたいに見えないとこで迷惑のかからないように死んでくれりゃぁいいのに」

"慣れてきた"からこそ分かる。

死体の駆除ってのは面倒なのだ。

人間の体ってのは荷物として持つには、
ちょっと重過ぎるくらいの重量があるし、
そのままの状態では、
案外世の中、
あのサイズのゴミをコッソリ捨てる場所なんてないのだ。

「あぁーあぁー・・・疲れる・・・親父の体かてぇっての・・・・」

だからといってバラすのはこれまた大変で、
人間の体を刻むのは相当の力仕事。
剣の達人でもない限り、
一閃なんてわけにはいかない。
ナタをもってきても、
何度も切りつけてやっと分断できるくらいだし、
結論的には、
ノコギリぐらい使わないと、
人の体なんて分断できないほどに丈夫だ。

「あー・・・こんなもんでいいだろ。キャンパスバッグぐらいにゃ入るサイズだし。
 あーあ。俺も剣聖カージナルくらいの腕前がありゃぁ、死体処理も捗るんだけどなぁ」

ノコギリを投げ捨てる。
自分が殺したわけでもないのに、
なんで父の体を分割しなきゃいけねぇんだ。
楽しくもない。
雑務だ。

「捨てるとこは裏山でいっかな。捨てるとこは。あそこくらいしかねぇわな。
 うわくっさ!だからなんで首吊りなんだよ!死んだ後の事考えろっての!
 首吊ると糞とかションベンとか垂れ流れるんだよ!ちゃんと知ってから死ね!」

風呂場。
そこで八つ当たりのように父の頭部を蹴飛ばす。
蹴飛ばすと、
狭い風呂場で転がり、
母の死体にぶつかった。

「・・・・あぁ・・・もう一体あるんだった・・・メン・・・・・ッドクセェ!!!」

自分の楽しみとは全く関係ない死体処理など、
ほんと、
雑務でしかなかった。

「あーあ、彼女とかの死体をバラす時は楽しいし義務感もてるんだけどなぁ。
 愛がなきゃやっぱ人は死んじゃだめね。愛よ。愛。あぁ・・・そう思うとこれも愛か。
 つまり愛は苦しみ。お前らは苦しみのあまり、自分が苦しみ死ぬ事選んだわけだしな」

そういう解釈をすると、
ブルッとくる。
愛してくれたからこそ、
苦渋。
そして死。
死を選んでくれたわけだ。
愛を交えた死は、
なかなかに興奮する。

「・・・・・」

その興奮ついでに、
父の頭部の先、
母の屍骸を見る。

「あんたも悲しいわなぁ。こんな息子産んじまってなぁ。
 だからってあんたは悪くないんだから死ぬことねぇのに。わかんね。
 ハッキリキッカリ、"誰も悪くなんてねぇのになぁ"。・・・・なのに何の×(罰)なんだか」

そして、
ゴクン、
と唾を飲む。
ペロリと、
舌を出す。

「ウフフ・・・・そうだな。俺も"可愛い"恋愛しかしてこなかったしな。
 あんたは俺のママさんだ。俺を育て、俺を大人にしてあげる義務ってもんがあるわな」

そして、
屈んで、
母の死体を見つめる。

「ほほぉ、こっから俺が生まれたわけね。なら、里帰りでもしてみっか。
 ただ捨てるだけじゃもったいないからな。世の中リサイクルリサイクル♪エコだエコ♪」

父の言葉の通り、
ただ、
外れた道をいく。

それを外道という。

外道は、
ただ、
外道の道をさらに進んでいくだけだった。





































「へぇ。こりゃ大金だ」

なんとか"掃除"が完了し、
落ち着いた時だった。

もう一人となったこの家で、
(といっても地下にはまだ処理してない"友達"が数匹いるが)
両親がいなくなって、
いらなくなったものでも売ってやろうと思ってた時だった。

「当面の生活費を作るだけのつもりだったけど。へぇ・・・・」

それは、
通帳だった。

「1000万グロッド・・・ねぇ」

そこには、
一つの1と、
多くの0が並んでいた。

「ウフフ、結構隠し持ってんじゃねぇか。親父ってば悪い事でもしてたんじゃねぇの?」
「・・・・うう・・・・」
「おっとっとっと。おい、ちゃんとしてろっての」

語り遅れたが、
今、
マコトが座っているのは女性の上だった。
目隠し猿ぐつわはもう当然で、
女性を椅子代わりにしていた。

「ったく。もうコソコソやる必要無くなったから早速捕まえてきたのによぉ。
 それがよくなかったな。手当たり次第で連れてきた女相手じゃぁ愛がねぇもん。
 椅子ぐらいにしか使えねぇと思ったら、椅子にもなれねぇでやんの」
「・・・・・う・・・ぐ・・・・・」
「うっせぇな。恥ずかしくねぇのかあんた。22だっけか?
 そんな大人になったクセに、11の男の椅子代わりにもなれねぇんなんて人生ヤバいんじゃね?」

マコトは呆れた。
愛がない愛が。
こいつとは愛し合えないな。
今日中に捨てよう。
そう考えていた時だった。

「・・・お?」

気付いた。
手に持っていた、
その通帳。

「俺の名義じゃねぇか」

それは、
偽嘘(マコト)あてに作られた金だった。

「なんでだ?なんでだと思う?俺の彼女」
「・・・・・う・・・・」
「ちゃんとしゃべれよ椅子のくせに。しゃべれない椅子なんて聞いたことねぇよ」

椅子代わりの彼女のケツをひっぱたき、
また通帳に目を通す。

それをよくよく見てみると、
いろいろな事が書いてあった。

まず、
どうやらこれは借金のようだ。
通帳でなく、
借用書。
残念ながら父は悪い人間じゃないようで、
つまり大金など手に入るような人柄じゃないという事で。
それでまぁ、
借金だった。

「借りもんかよ。だからハッキリキッカリ1000万ジャストなわけね」

そしてさらに呼んでいくと、
理由も説明文と共に記載してあった。
つまり、
この金は、

学費だった。

王国騎士団養成学校。
あの超学校に中学部から中途で入るのはなかなかに面倒らしい。
でも一括ならば話も楽だ。
そこには院まで学費も記載されていた。
つまり、
10年分の、
中学部、
高等部、
大学部、
学院、
の、
学費と一人暮らしの生活費。
それでもまだ余裕があるほどの大金。

父は部屋からあまり出てこない偽嘘(マコト)を変えるため、
それだけを縛りのように一括で払う気だったのだ。

「へぇ。だから昨日わざわざ夫婦揃って俺の部屋にきたわけか。
 ウフフ・・・アハハ!!驚かすつもりが逆に驚いちゃったってか?!」

ある種のショック死。
あまりのショックを、
耐え切れなくなっての、
死。

「・・・・って事は・・・えぇ!?何この金!俺がガッコいかなきゃ使えねぇってこと!?」

偽嘘(マコト)は、
頭を傾げた。

「そりゃぁイヤだな・・・・でもあっち側にもう振り込まれちまうって設定になってるみたいだしな。
 あー・・・・働くよりはいいか?ベンキョーなんてしなくても俺できるし。
 そう思えば半分くらいは生活費として俺が自由に出来る金なわけだよなー」

すでに、
いや、
さらさら、
それに対する父と母の思いやりとか、
愛情とか、
それを理解する思考は、
偽嘘(マコト)には備わっていなかった。

「借金自体は親父名義か。でも死んじゃったしな。どうすりゃいんだろ。
 このままじゃ逆に借りた金も帳消しってのもありえるよな。それもったいねぇ。
 お。そういや借金ってのも財産だったよな。財産相続で借金受け継げるんじゃね?
 普通なら借金なんて財産相続蹴るもんだけどな。
 でもこの場合、借金と共に1000万も俺のもんになっちゃうんじゃね?!」

それは、
+−で0じゃないのか、
とも思えるが、
いや、
時間が少したっていて、
利子が少し膨らんでいるからマイナス気味だが、

「それは踏み倒す」

偽嘘(マコト)は、
ニタァ・・・と笑った。

「いや、いわゆる自己破産ってやつだな。うん。自己破産しちゃおう。
 条件は十分だろ。こんなガキに支払い能力ないわけだしな。
 そのくせ、まだ手に入れてない金は失わねぇだろ。
 この1000万、一応まだ学費なんていう見えない買い物だからな。
 ギンコーもじゃぁ支払いで1000万グロッド分勉強教えろなんて言わねぇ」

自分で納得していった。

「でも1000万程度に多分一回しか使えないだろう自己破産使うのもったいねぇな。
 せっかく全国民に借金パー権限あんのになぁ。でもこんな条件揃ってる事そうそうないか。
 俺だけじゃぁこんなに借りれないのに、手に入って、だからこそ返せないから自己破産できる」

笑いはとまらない。
まるで、
母と、
父の愛情の結果が、
ただの偶然拾った札束にしか見えないように。

「おっけ。それにしよ。あ、でもそのせいでガッコで俺いじめられねぇかな?大丈夫か。
 自己破産て履歴書に載せないし、戸籍も傷つかないし、実は何一つ被害ないものだしな。
 カード作れないなるくらいか。そりゃそうだな。でもルアス銀行からなんて誰が借りてやるか。
 あー・・・でもガッコが国立だから王国騎士団に裏でリスト入りされると面倒だな・・・・」

あくまで、
俺の人生は、
裏で、
陰で、
こっそり。

俺の性癖なんてのは社会とはくっつけねぇもんだから。

それが分かってれば、
別にコッソリしてりゃぁいいだけ。
それだけだ。

「戸籍買うか」

偽嘘は思いついたように、
机の上にある父の書類金庫をひっぺがした。

「あーあー。どこだ。情報屋っての。あったあった。三代目『ウォーキートォーキーマン』。
 うわ・・・ディスマインのジジイが作ったスラム街までいかなきゃなんねぇのか。
 でもその方が確実か。オレンの字付き、名が後って特殊な名前にも対応できそうだ」

そして、
合図のように、
椅子のケツを引っ叩いた。

「おい」
「・・・・う・・・」
「良かったな。寿命延びたぜ。俺の入学の日まで。
 キッチンに首輪で繋いでやるからそれまで俺の飯でも作ってくれ。
 なんとその残飯で養ってやるという超好待遇だ。キッチンには"蛇口の風呂場"ついてるしな。
 今日から一年間。てめぇは椅子、兼、食事係だ。わかったかオラッ!」
「・・・・んっぐ・・・・」
「あーあ。言いなりになっちゃって。あんたの半分しか生きてない男の言いなりか。
 ま、俺みたいな優等生な美男子の"尻に敷かれて"。あんたもラッキーだったろ?」



そして

一年近く後。

全てが整ったのはその日だった。

王国騎士団。
中学部。

12歳を過ぎた春。

今までのX(罰)を全て捨て、
新しいX(罰)を刻むため、



「やっぱこれだな。俺にピッタリだ。名前を呼ばれるたびに勃起しそうだぜ」




燻(XO)は生まれた。





































「・・・・・っとまぁ、こんな感じよ。オッケ?」
「あぁオッケ」

学校生活ってのも悪くない、
と思った。
とりあえず偽嘘(マコト)、
もとい、
燻(XO)の実力ならば、
授業で困ることはなかったから。

つまり、
何が悪くなかったかというと。

出会い。

学校という環境。
どれだけでも選べる。
一人や二人居なくなっても気にならないほどに人間がいる。

まるでバーゲン。
選びたい放題だ。

「ウフフ・・・・」

バラ色の学校生活を想像すると、
笑みもこぼれる。

「おいおい燻(XO)、人が親切に教えてやってんだからそっぽ向いてんじゃねぇってば」
「ん?おぉ、悪い・・・」
「お?なんだ。素直な奴じゃねぇか。ならいい♪俺ちゃんそーいうやつ大好きよ」

非常階段の途中に腰掛ける二人。
小、
中、
高、
大、
院。
全て連なる王国騎士団養成学校。
つまり、
ほとんどの人間はガキの頃から顔見知りらしい。
そんな中、
中途で中学部から入ってきた燻(XO)に、
いろいろと親切に教えてくれてるのは、
これまた、
変な男だった。

「あぁー・・・・と」
「お。また忘れたのか?俺ちゃんはエドガイ。エドガイね。よーろーしーくーねん♪」
「そうそう。エドガイ=カイ=ガンマレイだっけか」
「覚えてんじゃん」
「"三つ名"ってことはいいとこ出か」
「・・・・・はぁ。また坊ちゃん呼ばわりか。ま、そんなとこだ」
「いーじゃねぇか。俺なんて姓もねぇ百姓の出だぜ」

それは嘘だ。
父も母もいた、
立派な家だった。
姓もあった。
名もあった。

だから嘘だ。
偽の名だ。
偽で嘘で、
それが真(マコト)だった。

「んでよぉエドガイ」

燻(XO)は、
非常階段にもたれかかった。

「あん?」
「女紹介してくれよ」

それが本題だった。

そのために。

いや、
むしろ学校なんて正常位なとこに来た理由の、
半分。
それこそそれだ。
愛探しだ。

俺のパートナーを探す。
何人も。
何十人も。
弄べるパートナーを。

だからそのきっかけとして、
知りたくもないガッコのシステムやらなんやらをおしゃべりしてもらった。
口実として。

そのためのエドガイ。
クラスで一番・・・、
こう、
人当たりがよく、
世話好きそうで、
そんでもって女受けのよさそうなツラしてて、
それでまぁ・・・・・
お人好し臭いのを選出して今の状況だ。

「ありゃりゃ。そっちが本音か」
「そそ。本音だな」
「あーあー。新入生がわざわざこんなとこ連れ出してくるからなんだとは思ってたけどよぉ、
 そーいうことね。っていうかお前、ほっといても女の方から寄ってきそうじゃねぇか」
「選びてぇのよ」

そう。
選出したい。
選びたい。
愛する人間を。
二人きりで遊ぶ人間を。
モテて、
遊ぶ。
そう読んで弄(もてあそ)ぶ。

他人の目からすれば犠牲者と呼んでもおかしくない。

そんな人間を選びたい。

「活きのいいのがいいね」
「あー・・・・紹介はしねぇけど情報くらいならな。紹介するくらいなら俺ちゃんだって女の子と遊びてぇ」
「いいからいいから♪うちのクラスのがいい。まだ名前も覚えてねぇけどな」
「うえ!?"うち"からか!?新入生が手を出すにゃぁちょっと勇気だぜそりゃ」

うち。
ってぇいうのはつまり、
うちのクラス。
それは
まぁ。
いわゆる特待クラスだ。
特進クラスだ。

特別クラスと言ってもいい。

のちに黄金世代とも呼ばれるこの世代で、
選りすぐりを集められたクラス。
まぁ、
中途とはいえ、
入試だけで燻(XO)はそこに入れた。

「危ないくらいがいいのよん♪」
「お、そりゃ同感。気が合うねぇ新入生」

それを聞き、
そっぽを向いて舌を出した。

気が合う?
・・・・違うね。

エドガイだったか。
確かにあんたにゃ似たような部分がある。
歪んだ部分もあるし、
変な性癖もなんか隠し持ってそうだ。

でも違うね。
外れてない。
臭いで分かる。

あんたはまだあっち側の人間だ。

確かに似てる。
俺とあんたはいろんなところが似ているが、

俺に言わせりゃ・・・・

あんたはただの"俺の劣化版"だ。

「ま、可愛い新入生のためだ。協力しちゃうかねぇ」

そこだな。
つまり、
そういうお人好しなとこだ。

おぉ、
今気付いた。
大人になったね。俺。

つまり俺が人から忌み嫌われるのは、
自分勝手だからだな。

向こうからの愛を受け入れず、
自分の愛だけを許容する。

目の前のこいつのように、
人から好かれるってのをヨシとしない。
愛せと強要するのが俺だ。

いやぁ、
また自己分析にあった。

「ま、うちにいる女ってだけでもうエリート街道まっしぐらの女ばっかなんだけどな。
 それでも外見と実力が両方○ついてるすんげぇのは4人くらいのもんだ」
「言え言え。どんどん言え」
「んじゃぁどんどん言っちゃうよぉ」

見かけの通り、
なかなか好き者のようで、
しゃべり出すと、
エドガイの口は止まらなかった。

「まず究極はツヴァイな。ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
 顔も体もあらゆる才能も化け物クラスな。でも無理。ぜってぇ無理だから諦めとけ。
 実力っつえばオレンティーナ=タランティーナ。覚えやすいだろ?
 ギャルみてぇな奴だけど成績優秀、あの怪人みてぇな厚化粧しなけりゃもっと可愛い。
 あとヤンキー系が好きならティンカーベルもだな。怖くて俺ちゃん無理だけど。
 おっと、エーレンもいいけどな。あれは除外。もうアルの奴のツバが付いてるからな」
「なんか無理なのばっかだな」

でも、
関係ないけどな。
強制が楽しいんだから。

人のもんでも、
性格難でもなんでもいい。

しつけすりゃいいんだから。

それが楽しいんだろ?

「でもよぉ」

エドガイは、
ふと、
燻(XO)の肩に手を回してくる。

「俺ちゃんはお前でもいいぜ♪ 男女問わず、可愛い子ちゃんは好物でね」
「あ?なんか変な性癖もってんなあんた。ホモか?」
「男女問わずっつったろ?バイだバイ」
「自慢げに言うな。ヘドが出る。どこまで本気だ?」
「おーおー・・・口が悪いね新入生。ま、どこまでっかなぁーん♪」

なんとも、
いけ好かない奴だ。
掴み所がない。

やはり、
臭いが違う。

こいつは俺と似ているが、
俺と違う。

"変人のフリをしているだけの真っ当者だ"

「この年で堕ちたくないね。金もらってもゴメンだ」
「年は関係ないだろ。年は。レンとアルのカップルぶり見てるとそんな事は言えな・・・・ぁあん?
 っつーか今なんつった。金?金はねぇだろ金は。世の中金じゃねぇよ。愛だよ愛」
「それには同意だな」

愛だよ愛。
愛を探そうぜっと。
とっかかりの情報は手に入った。
それらを基準に学校生活でも楽しませてもらうか。

裏でな。

「で、どーなのよ可愛い子ちゃん♪」
「うわっ、てめぇ気持ちわりぃな。のいてろ!もう用はねぇ!」
「おーおー、つれねぇなぁ。ま、性格が可愛い子ちゃんじゃないのは俺ちゃんもゴメンだけどな」

俺もだよ。
でも、
ウフフ・・・
なるほど。
男ねぇ。
"そっちもアリか"
いつか遊んでみるかな。



































「じゃーねぇーん♪また明日」

そう言い、
燻(XO)はロッカーを閉めた。

「うぅー!うぅー!」

学校生活も2年が過ぎた。
今は今で彼女もいる。
今、

ロッカーで飼ってる。

もう使われていない、
誰のものでも、
なんの活動のものでもない、
廃部室のロッカーに、
彼女を閉じ込め、
そしてまた明日。

ってな感じ。

「生活費の節約で寮生活にしたのが失敗だったかなぁ。
 こっそりイチャツクのも結構難だぜ。あ、大人しくしてろよ。
 誰もこねぇような場所だけど騒ぐと難だからな。
 死にたくなけりゃ、大人しくしてろ。毎日放課後だけ光を見せてやるからよぉ」

ロッカーの中へ、
ウフフと笑みを送る。

「明日は体を洗ってやるよ。そこに雑巾あるだろ。それでな」
「・・・・うー!うー!」
「・・・・チッ・・・おい」

もう一度ロッカーを開ける。
中には当然、
束縛された彼女がいる。
猿ぐつわというにも粗末。
汚い汚い雑巾を口に詰め、
ガムテープで塞いである。

「大人しくしてろっつってるだろ。強制的におねんねされたいか?
 おめぇがすぐ叫ぼうとするから、猿ぐつわ(雑巾)も外せねぇんだろうが。
 明日も食事は鼻からだからな。いいな?」

まったく。
主従関係ってのを分かってねぇのかねぇ。

「あんな。俺が養ってやってんだ。お前をな。
 だから今日は雑巾に染み込んだ牛乳をチューチュー吸えて幸せだろ?
 大体そんな年でもうマイホーム住まいたぁ・・・・ウフフ。いい身分じゃねぇか」

ありがたく思えよ。
愛してやってんだから。
無償でな。

「実際ガマンしてんだぜ?ガッコん中で戯れるのは凄い好きなんだけど規制が多すぎる。
 血の臭いでも漂うだけでアウトだから俺も気ィ使ってんだぜ?
 だからアザしか作ってねぇだろ?でもほんとはよぉ・・・・・・・・・・   ッ!?  」

"気付き"
燻(XO)は慌ててロッカーを閉めた。

(死にたくなけりゃ静かにしてろよ。アマッ!)

小声で威圧し、
閉めたロッカーにもたれ掛かり、
燻(XO)は歯を噛み締める。

・・・・。
声。
足音。

廊下を誰かが歩いてくる。

「だっからよぉ。ディン。次の模擬戦ではぜってぇロウの野郎に負けたくねぇのよ」
「HAHAHA!一回も勝ったことねぇもんな!」
「うっせ!てめぇもだろが!」
「俺様は槍技の部では成績はロウと並んでるもんよ。アル。てめぇは全部負けてたっけか?」
「うっせうっせ!昼飯食う早さだけは誰にも負けねぇ!」
「そりゃぁ飯にかける時間どころか、昼飯食い始める時間さえトップだからな。
 こないだなんて一次限目の前に食ってたろ?ありゃ早弁すぎだ。朝飯だよありゃ」
「食わざるもの学ぶべからずなんだよ」
「てめぇは午前のデスクワークはまるまる寝てんじゃねぇか」
「ディンもだろうが」
「まぁな」

(・・・・・)

チッ、
声で分かる。
同じクラスの奴らだ。

アクセルとディアン。
あの戦闘馬鹿の二人だ。
特別クラスのくせに、
オツムは最下位の馬鹿二人。
おっと、
その下にまだギルヴァングの猿頭がいるが、
あいつはまだ言語も話せないただの野生児だしな。

とにかく、
あぁいうオツムの足りねぇ馬鹿は大嫌いだ。

馬鹿のクセに第六感だけは敏感だから俺に迷惑をかける。
今のように・・・・・

「大体よぉ、アル。ロウよりアインを敵対視しろよ。あいつオールSだぜ?化け物だ」
「・・・・・ケッ、あいつとはいろんな意味で相手したくねぇんだよ。向かい合いたくもない」
「HAHA、同感だな」

さっさと行け。
馬鹿頭共。

廃部室の中、
ロッカーを背に、
息を潜める燻(XO)。

「・・・・うー!・・・・」

(ッ・・・!?)

クソッ、
これだから、
しつけの足りねぇペットはよぉ!

廃部室の前の廊下で、
足音が止まる。

「おい、今なんか聞こえなかったか?ディン」
「あぁ聞こえた」

六感だけじゃなく無駄に五感もいいとか、
そういう脳みそ筋肉化のアホ共め・・・・。

歯を食いしばる。
こんなとこで、
楽しい学校生活をオジャンにされてたまるか。

「こぉーんな廃部室だらけの廊下で声ねぇ」
「HAHA!もっかして誰か乳くりあってんじゃねぇ?」
「・・・・ディン。お前の脳みそは中学生だな」
「中学生だもんよ。レンがいるお前と違ってまだまだ未成熟なわけ」
「・・・・ったく。でも気になるな」
「何が?なんかイヤな予感でもすんのか?」
「いやいや。お前の言う理由だとしたら、そっちのが気にならないか?イヒヒ」
「HAHAHA、お主も悪よのぉ。アル」
「セリフが古ぃんだよおめぇわ・・・」

や・・・ばい。
クソ。
クソ。
ド畜生!
気にしてんじゃねぇ!

これだから馬鹿野郎は・・・
なんで、
なんで人様の幸せを崩そうとしやがる!

俺は、
誰にも迷惑をかけずに趣味に没頭できりゃぁそれでいいのに!
平和主義者なのによぉ!

誰にも迷惑かけてねぇ、
余分もねぇ。
自分が食う分だけ手に取って食らってるだけなのに!

日向者が陰を気にするんじゃねぇ!

「この部屋が怪しくね?」
「おー。俺も思ってた」

足音が再開する。
こっちに。
この部屋に。

クソッ・・・
クソッ!

「おい!!!アル!ディン!!!なんでこんなとこにいる!」

「やべっ!ラティだ!」
「逃げっぞディン!」

突然ドタドタと外が騒がしくなる。

「アル!ディン!ここらは立ち入り禁止だぞ!っつーか下校の時間だ!」

「うっせよラティ!委員長ヅラすんじゃねぇ!」
「いや、アル。ラツィオは学級委員長の上、風紀委員長でさらに生徒会長だぞ」
「知るか!」

「待て問題児ども!」

「うっせばーかばーか!」
「またユベンいじめるぞ!」

「どっちにしろ許せん!」

「やーいやーい!お前の弟デーベーソ!」
「おぉ。お前はお前で脳みそが小学部まで落ちたな」
「いいから逃げっぞディン!」

騒がしい足音が、
どんどん遠くなった。
どうやら、
なんとか助かったみたいだ。

「・・・・ふぅ」

ヨロヨロと、
足の力が抜ける。

「ウフフ・・・まぁ世の中悪党が馬鹿を見る風には出来てねぇみてぇだな」

平穏な毎日。
表向きには・・・だが。
誰にも邪魔もされない。
そんな、
自分を最大まで楽しめる、
この生活を失うわけにはいかない。

正直助かったと思った。

ココはいいところだ。
いろんなのがいる。
いろんなのをヤれる。

「とりあえずよかったぜ・・・・」

やはり、
2年間、
ガッコというところに居ても、
隠していれば、
得をする。

燻(XO)の美貌。
純粋な女学生なんて、
ほいほいと寄ってくる。

その順番に、
原因不明の退学休学生も増えているわけだが。

肉食者がステーキハウスにいるようなこの待遇。
失うわけにはいかない。

「っつっても・・・・」

思い出したように立ち上がり、
ロッカーをぶち開ける。

「おいアマ。言う事きけねぇのな」
「う・・・うぅ・・・・」

ロッカーの中で、
女はもがく。
これでもたかだか14歳だ。
純粋な子供だ。

燻(XO)があまりにもイッてしまっているだけで、
彼女ぐらいなら思考より感情が先に出る。
助かるために、
声も出す。

「ケンカ売ってんのかアマッ!!」
「んごっ!!ごっ・・・むごっ・・・・」

燻(XO)は、
躊躇もなく、
女の腹にヒザを入れる。
二度、
三度と。

「ざけんなよっ!なんで言う事きけねぇ!?あぁ!?なんで抵抗する!?
 しつけした通りに大人しくできねぇ!?抵抗されるとなぁ!!」

蹴るのをやめ、
舌を出しながら、
彼女の眼前まで顔を近づける。

「俺、燃えちまうんだよ。喜んじまう。怒りと屈辱がこう・・・体をスゥー・・・と抜けてな。
 それが快感でよぉ。さぁらにぃ・・・・・いじめたくなっちゃうのよ」
「・・・ん!・・・んーんー!」

彼女は、
状況が飲み込めたのか、
ただの感情なのか。
首を思いっきり左右に振った。

「うん。反省してるみたいね。でも今回は褒める部分もあるんだよん。
 なんてったって・・・・ドキドキしたからなぁ♪・・・・いけないことしてる感じでぇ♪」

綺麗な、
美麗な顔も、
こうなるといつも歪む。
目がにごる。
美しく濁る。

「ご褒美だ」

燻(XO)は女の髪を掴み、
ロッカーから引っ張り出す。
縛られたままの女は、
そのまま地面に転がった。

「解放してやるよ」
「ん!」

女は、
その目で喜びを感じたが・・・・。

「当然だろ。死体が校内に残っちゃ面倒なんだよ」
「・・・・・・」

彼女は、
何一つ反応することなく、
青ざめた。

「そんな顔すんな。興奮すんじゃねぇか。・・・・ま、心配すんな。
 明日からは食後のワイングラスにてめぇの血が入るだけだ。
 あんたは今日で終わるが、俺の人生はまた楽しく染まる。赤色にな」

何も特殊な事ではない。
燻(XO)も、
また人。
皆と同じように、
皆と同じような事を願うだけだった。


この生活がずっと続けばいいのにと。




だが、
人生において、
どうしようもない存在がいるのを知るのは、

近からず、
遠からず。


































「へへっ、この女どーよ」
「お?いいね。いい具合に調教できてんじゃねぇか」
「どう?100グロッド」
「アハハ!買った買った!」

これだけ生活してると、
それなりに気付く。

どこにでも似たような奴がいる。
と。

「ふぁーぁ・・・」

どことも言えぬ、
その秘密の場所で。
暗がりの廃墟。

いやぁ、
言ってしまおう。
ここはミルレスの西。
再西。
ミルレスの絶壁の横に、
つり橋が架かっていて、
そこから入れる地下の洞窟。

まぁさすがの燻(XO)も、
これからの未来。

その場所に、
"あいつ"の企みで作られた、
出来レースの最強ギルド。
《GUN'S Revolver》。
そしてそのスパイ。
メテオラ=トンプソンとして、
この場所を使うことになるとは、
まだ思っていなかったが。

「肩こったな。この年で気苦労の多くてやんなっちゃうね」

そして、
その場所。
その地下で。

3人と、
30人。

3人の悪魔と、
30人の奴隷。

それだけがここに居た。

「おい燻(XO)。クソ野郎ってばよぉ」
「おめぇもトレードしようぜ。奴隷トレード。鬼畜トレード」

「・・・・・」

ま、
3人の悪魔のうち、
2人の名などさして意味がないから省いておこう。

クラスは違えど、
同じ学校に通う、
同じ鬼畜。
いわゆる鬼畜仲間だ。

「ったく付き合いわりぃなぁ」
「クズはクズ通り仲良くやろうぜ」

なんの因果か、
類は友を呼ぶとでもいうべきか。
畜生は畜生と出会う。
同じところで同じようなことをしていれば、
必然的に出会っただけだった。
この秘密同盟。
《畜生商店》なんてダサい仲間。

フランゲリオンの帽子と衣類を着た、
ムチ男と、
キャメル船長のキャップをかぶった、
フェンシング剣の男。

そして、
ネクロケスタの帽子をかぶった、
クソ野郎。

3人は3様、
かつ、
同属で同族。

言うならば、
ここは地獄絵図だった。

「あぁーん?馴れ馴れしくすんじゃねぇよ。俺とお前らは目的が重なったからこうしてるだけだ」

「いーからいーから」
「ほれ、燻(XO)。人間ダーツ。お前の番だぜ」

「・・・・ヘヘ。まぁやりたい事も一緒だから遊んではやるけど・・・・よっ!」

地下の奴隷場の中で、
燻(XO)は、
その手のダーツを投げる。

それは当たり前のように飛んでいき、
そして、
木の棒にくくり付けられた男の胸に突き刺さった。

「おぉー!」
「うめぇじゃねぇか!」

「ウフフ・・・死んだか?死んだか?死んだら点数5倍だったよな」

「・・・・ア・・・グフッ・・・」

その木の棒にくくりつけられた男は、
全裸で、
そして、
胸から腹。
そこに大きくペンキで的が書かれていた。

「あーーダメー!残念!」
「ヒャハッ!やっぱ俺が一番だな!ほれ見ろ、俺のダーツは全部腹に刺さってんだぜ?」

くくりつけられた男は、
一本たりとも、
抜かれず、
ダーツが体に突き刺さっていた。
プラン・・・プラン・・・
プラン・・・プラン・・・
と、
体に突き刺さった針が、
振動で揺れていて、
だが、
何も出来ない。
ただの的だった。

「ばーか。一発逆転はど真ん中じゃなくて頭だからな!死ねば逆転よ」
「ばかはてめぇだ。ダーツくらいじゃ頭に刺さったくらいじゃ死なねぇよ。
 だからあんなとこ狙うのは馬鹿よ馬鹿。刺さらなかったらつまんねぇしな」

「なぁなぁ、次から目に刺さったら300点にしねぇ?」

「お?さすが我らがリーダー燻(XO)っちだねぇ」
「その限度の知らねぇクソ加減。胸が痛んじまうよぉ・・・・ってかぁ?!アハハハ!!」

・・・・、
ま。
こういうのも悪くない。
正直、
一人で遊びたい。
独り占めしたい。
愛は、
愛し合うから愛なのだから。
自分だけを愛して欲しいならば、
当然の欲求。

だけどまぁ、
ガッコじゃこうはいかない。
一人じゃ楽じゃない部分もある。
だからこーいうコネクションもあると楽だ。

サボっててもあいつらが奴隷をつれてきてくれるしな。

「ウフフ・・・・」

笑いながら、
自分の頭の上のものを弄る。
ネクロケスタの骸骨。

ただの"ごっこ"のかぶりもの。
魔物は魔物らしくしようぜってだけの、
3人3様の"ごっこ"な衣装だったが、
とても自分に合ってる気がした。

「ま、オナニーはオナニー。乱交は乱交。気分転換でこーいうのも悪くない」

なにせ。
絶景だ。
見てみろ。

この景色。
まさに地獄絵図。

30人の男女が、
うごめいている。

3人の魔物に、
ただ、
弄(なぶ)られるために。
弄(もてあそ)ばれるために。

皆、
誰一人として、
自分の血を見たことない者などいない。

「燻(XO)っちよぉ。こないだプレゼントした奴隷ちゃんどうよ?」

「おぉ。お気に入りだ。自分用にカスタマイズしちまったよ」

ま。
何度も言うように悪くない。
だってよ。
たまには自分の愛するコレクションの自慢の一つでもしたくなる。
そーいう事の出来る相手は稀だ。

「見ろよ。首に直接首輪を縫いつけたんだぜ?ウフフ。
 散歩してやると、悲鳴あげるみたいに喜んでくれるんだよ俺のお犬ちゃん♪」

「そぉーれはそれは」
「アハハッ、お前の愛情の深さのあまりに胸が痛むねぇ♪」

そんな。
そんな、
人間以下の扱いを受けている者ばかり。
何も、
彼らは、
何も、
彼女らは、
何も、
そんな罰を受けるような人間ではないのに。

悪い事をしていないのに。

いや、
一つだけ。
彼女ら。
彼ら。
その者達に悪があったのならば、

ただ、
運が悪かった。

それだけだった。

「おい!」
「あっ!あいつ逃げる気だぞ!」

一人の女が、
奴隷が、
家畜が、
一目散に走り出した。

「あーあぁ。あんな甚振ってやったのにあんな元気あったか」
「でもダァーメ♪」

フランゲリオンの衣装をした男が、
それを、
簡単に止める。
髪の毛を掴んで止める。
楽なものだ。
弱った、
愛らしい玩具を捕えるなど。

「やめ・・・やめてくださ・・・・」

「ダァーメ♪」
「おい!罰ゲームだなこりゃ!罰ゲームだな!」

「ウフフ・・・じゃぁ俺、後ろな」

「あっ!ずっり!んじゃ俺は口とった!俺くちなくち!」
「しゃぁーね。んじゃ俺は前かよ」

こうやって。
鬼畜の限りを尽くす。
それだけの生活。
あぁ。
なんと幸せなのだろうか。

欲求の限りを消費する。
性処理を、
正しく、
生を○(正)に処理する。
それこそX(罰)ゲーム。

こんなに好きな事ばかりやってて、
俺はいんだろうか?
いいに決まってる。

これでいい。
最高だ。

・・・・。
ま、
こいつらとはそのうち別れるがな。

やっぱ団体はダメだ。
飽きる。

俺の悪趣味なんて、
あくまで自慰だ。
自慰は自分で慰めてこそ自慰だ。

俺だけの世界に連れ込みたい。
俺だけの世界に引き込みたい。

所有物で遊ぶ。
持ちもので遊ぶ。
もって遊ぶ。
それこそ、
弄(もてあそ)ぶ。だ。

このネクロの骸骨が笑う限り、
遊び続けよう。

昔読んだ漫画で学んだ。

自分の夢を貫ける奴が主人公なのだ。

俺は主人公になってやろう。
誰もかもの、
主人。
ご主人様になってやろう。


そう。


俺は自由だ。


何をしてもいい。
















それが間違いだと気付くのは、

この学校生活に終わりが近づいた日だった。









































ガヤガヤと五月蝿い。
教室の中。
まぁ無理もない。

もうすぐ卒業なのだから。

「俺はな!絶対すげぇ騎士になるぜ。最高の騎士になってやる!
 目指すはナンバー1だ!そして絶対に騎士として生涯をまっとうすんだ」
「分かった分かった。そればっかだなディエゴはよぉ」
「そーいう話はラツィオとやってよね」

教室はそんな話題でひしめいている。
名門の中の名門。
そんなクラスがまたくだらない話で盛り上がるものだ。

「騎士団にエスカーレーターしねぇの誰だっけ?」
「ディンとエドくらいだろ」
「おいおい俺ちゃんをなつかしい名で呼ぶなっての。
 そんなあだ名が流行ったのなんて中高部くらいの時だろ」

不可解と言ってもいいほど、
メンツは変わらなかった。
実力主義の、
飛び級アリアリのこの学校では、
すでにこのクラスだけでも年齢は様々だ。
だけど、
大学部を卒業するこの年なのに、
ほとんどが成人してないほどのエリート揃いだが、
メンツは中学部から変わらない。

未来を約束された黄金世代達は、
すでに王国騎士団から保証があり、
ならばと、
遊ぶも、
学ぶも自由に。

普通に進学し、
小、
中、
高、
大と、
16学級を越えて卒業するものが多数。
というか全員だった。

エリートであるのに院に進むものは皆無。
それもまた騎士団側からの保証で、
即戦力をあまりに有望されるがためだった。

だから伸ばさず、減らさず、
全員がこの年での卒業となった。

「くだらねぇ」

部屋の端の机で、
足を机の上に投げ出し、
燻(XO)は一人、
座っていた。

「未来なんかがそんなに楽しみかよ。俺ぁ今が楽しけりゃそれでいいね♪」

そう独り言を唱えながら、
コッソリと、
自分のコレクションであるSS(写真)を眺めていた。
そのSSは、
あまりにも悪趣味な、
家畜写真だったが。
自作自演の宝物だった。

「みなさん二言目にはショーライ。ショーライ。国家に組み込まれるのがそんなに楽しみかねぇ。
 俺にとっちゃぁこのガッコも、このガッコの中の人間も、趣味の一環材料でしかねぇけどな」

ハッキリ言って、
馴れ合う気もなく、
馴れ合う必要もなかった。

だから拒否してきた。

単純に、
嫌われ者になったのだ。

嫌われれば、
干渉されない。

これは燻(XO)が人生で学んだ最上の事だった。

馴れ合う必要があるとすれば、
それは裏。

お別れを約束した奴隷達との楽しみだけ。
ガッコはその家畜を探す養豚場でしかない。

燻(XO)。
22歳。
いや、
燻(XO)という名になってからは、
10歳か。

10年の学園ライフはそれは楽しいものだった。
奴隷ちゃんの数は、
すでに数え切れないほどで、
3ケタを突破していて。
つまり、
その等分だけ殺してきた。

ある者は、
1年かけて殺し、
またある者は、
生かさず殺さずまだ監禁していて、
またある者は、
いっそ殺してくれとせがんできた。

「所詮、この世の人間は二種類だな」

殺してくれと、
俺にせがんでくるもの。
殺さないでと、
俺にせがんでくるもの。

その二種類。

「Xか○か、それだけだ。取捨選択だな。それ以外は俺に介入しなくていい」

そういった、
楽しい思い出が、
今手元のSSの中に集結している。
見るだけで、
快感が蘇り、
顔が愉悦に歪む。

こんな生活も、
10年隠しとおしてきた。

「なぁーにしてんだ!燻(XO)!」

「ッ?!」

すぐさまSSを隠す。

「あ、なんか今隠した。隠したろ?見せろって」

・・・・またアクセルか。
このクズ野郎。
能無しめ。
いろんなとこで噛み付いてくる。

「・・・・・うっせぇな。どっか行け。俺に構うな」

俺の高等な悪趣味は、
お前にゃ理解できねぇよ。
なら、
邪魔だけはすんじゃねぇ。

「まいっか。おい、お前は卒業後どうすんだ?どこ志望だ?」

本当にうんざりする。
10年猫かぶって隠してきたっつっても、
10年も一緒なのだ。
薄々俺が裏っかわの本性の臭いくらい気付いてるはずだ。

というか、
このクラスの奴みんなだ。
鋭い奴らばかりだ。
一人残らず。

俺が何をしているかまでは知らなくとも、
性根が腐っているくらいまでは知ってやがる。

だからわざわざ嫌われ役になってやった。
そうやって、
人を遠ざけ、
そうやって隠してきた。

なのに噛み付いてくるから迷惑なんだ。

怖いもの知らずが多い。
怖いものなど無いほどの実力者ばかり。
そのせいでこのクラスの奴らは、
10年間手ぇ出さないできた。

奴隷にしたい素材は腐るほどいたのに。

手を出せなかったといってもいい。
化け物の集まりだここは。
化け物め。


・・・化け物?
・・・・フッ・・・
俺がそんな事を言うかな。

「俺がこれからどうするか?俺ぁプーだよプー」

もう十分楽しんだ。
ここに思い残すことはねぇ。
新たなステージに行く。
そのために国家の下につく必要はねぇ。
むしろ法なんてのは俺の敵だ。

寿命までまだまだ遊ぶんだからよ。

「あぁん?お前もかよもったいねぇな。ディアンといいエドガイといいお前といい。何考えてんだ?
 騎士団が俺らに与えた報酬きいてねぇの?俺らは特別だぜ特別♪楽して人生楽しめるぜ」

「・・・・悪ぃな。与えられたもんじゃ人生楽しめなくてね」

そう。
俺は与える側だ。
屈辱を。
陵辱を。
そして、
死を。

それが楽しみなのだ。

それは与えられて手に入るもんじゃないんでね。

「そりゃ偉いこった。おー、聞いたかー?ライバル減ったぜー?」
「減ったじゃねぇよ。騎士団の味方が減るんだからよぉ」
「大体アクセルあんた、出世する気もないくせに」
「そりゃぁ食って寝る生活できりゃぁ最高だっての♪仕事はそこそこにな。
 でもこのアクセル様の事だ。騎士団のが黙っちゃいねぇだろうよ♪」
「HAHA!部隊長狙いか?」
「聞いたぁ?アルの志望、公安だってー。パトロールでサボる狙い見え見えよねー」

「・・・・・」

アクセルがまた、
華々しい集団の中に戻っていったのを見計らい、
燻(XO)はその場を立った。
誰にも気付かれぬよう、
ただ教室をあとにした。
ただ嫌いだからだ。

得にならない人間関係など。

横のつながりなどいらない。
必要なのは、
ただ上下関係。
それは愛。
俺の愛。

「せいぜいがんばれや公務員(ポリ公)共。俺の敵にならねぇことだけ祈って・・・な」

むしろ願うぜ。
敵になったときは、
お前らも汚してやるからよ。
それはそれで楽しみだ。
どんな風に泣くのかね。

誰にも聞こえぬ言葉を置き、
その場をあとにした。


































つまり、
奴らは皆、敵だ。

「あんまり俺の平和を乱す事で盛り上がってんじゃねぇよ」

悪と正義は相違であり、
分かり合えない。
法の下など最悪だ。

「でも、奴らが俺の敵になるんなら・・・」

廊下を歩きながら、
燻(XO)は舌をなめずった。

「あの正義馬鹿共の最も嫌いな悪趣味で・・・・完膚無きまで屈辱してやるのも悪くない」

そう思うと、
興奮する。
10年も手を出せなかったが、
解禁だ。
奴らはメインディッシュ。
あいつらを手篭めにし、
監禁し、
泣き叫ぶ様を見れたら・・・・

「メインディッシュとティッシュが同時に必要なのは俺くらいのもんだろうな。
 ウフフ・・・・やりてぇな・・・・殺りてぇな・・・ヤりてぇな・・・あいつらを・・・・」

それは至福に違いない。
私腹なる至福。

「国の狗共が、俺の犬に・・・か。ウフフ・・・それもいい。とてもいい。
 俺の悪趣味はいつだってパブリックエネミー(法治圏外)だ。
 社会の敵に生まれたからには・・・・常識なるマナーの相対として生まれたからには・・・」

完膚無きまで、
しゃぶりつくしてやるよ。
てめぇら。

常識とか、
そーいうのの圏外がいる事を教えてやる。

規定外がいることを、
教えてやる。

社会からはみ出した、
クソ(排泄物)みたいな・・・・俺がな。

泣け。
わめけ。
そして死ねばいい。

所詮、
弱肉強食。

てめぇらのしたたる肉体。
精液愛液の隅まで食らい尽くしてやる。

「ウフフ・・・・ウフフフフ・・・・」

そう笑いながら、
これから先を思い浮かべ、
胸躍らしながら、

ある部屋の前で足を止める。

「さぁて、俺のド畜生ちゃん達は元気かなぁ。元気なわけないか♪俺だけが元気♪
 死んだ魚のような目で、俺を見てくれるかなぁ。軽蔑し、それでいて乞うて欲しいなぁ」

廃部室。
その中には、
燻(XO)の愛する愛玩具(ペット)達がいる。
時に、
ストレス解消のため。
時に、
性欲処理のため。

今はコレンクションも最高潮。
男女織り交ぜた青春の学生達が、
泣きそうな顔でここでクソ野郎の帰りを待っている。

もう卒業だ。
最悪忍ぶ必要もない。
だから思い切って10人も集めた。

大事に大事に。
弄んでやる。

そう思い、
扉を開けた。

「・・・・・・・・・・・あ?」

だが、
そこは天国ではなかった。
燻(XO)の思い描く、
地獄絵図のような天国でなく、

ただの跡地だった。

「・・・・おいおい・・・・」

10人の男女、
もとい、
10人の奴隷、
もとい、
10人の家畜、
ペット。
恋人。
愛玩具。
どう呼べばいいか。

それらは、
事切れてた。

「・・・・・・チッ・・・・なんなんだなんなんだおいおいド畜生!!!」

燻(XO)は、
その美しい顔を苛立たせながら、
後ろ手で扉を閉め、
中に入る。

「どーなってんだぁアインちゃんよぉ」

「・・・・・ふん」

その死体の部屋の中心には、
アイン。
アインハルト=ディアモンド=ハークスが立っていた。

「なぁに。目障りなカスが居たんでな」
「問題ない。兄上。処理はオレが」
「当然だ」

正確には二人。
アインハルト=ディアモンド=ハークスと、
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。

頂点なる二人。

漆黒の髪を持つ、
双子の絶対。

「ふん。悪趣味の極みだな。ヘドが出る」

部屋の中心に立つ、
その漆黒の男は、
愛玩具の屍骸の部屋を、
見渡すでもなく、
眺めるでもなく、
そう言った。

ただ、
散らばっているのは眼中にないカスも当然と。

「悪趣味?悪趣味はわぁーってんのよ。理解されようとも思ってねぇ。
 でもなんだ。なんでてめぇがここに居て、こーなってる。それが聞きてぇのよ」

正直、
10年近く共に居て、
言葉を交わすのは初めてに等しかった。

燻(XO)は、
嫌われる事によって他人の介入を拒否する性質があるためもあるが、
それ以上に、
この男。
アインハルトが他人と関っているところなどほとんど見たことがない。

燻(XO)が、
近寄りたくないキャラを演じているのに対し、
アインハルトは、
近寄り難い。

アインハルトの隣に居る者など、
ロウマか、
ツヴァイ。
そのどちらか程度のものだ。

ある意味怖いもの知らずの正義感であるラツィオと、
正真正銘、脳みそがイッてしまってるアクセルを除けば、
本当にそんなものだ。

「優等生様よぉ。俺を叱りにでも来たのか?」

「まぁ・・・・・そんなところだ」

小さく。
わずかに。
漆黒の完璧が笑ったように見えた。

「・・・・・」

全ての主導権はアインハルト。
その影に隠れるように。
まるで主人の影であるかの如く、
ツヴァイが従順にアインハルトの後ろに。

ほぉ。
顔を合わせるのも躊躇われた二人だが、
こう見ると・・・
いやはや・・・
あのツヴァイって女。
たしかにこれ以上ない上玉だ。

アレが泣き叫ぶ様を見れたなら・・・・
この落とし前としてはツリがくるかもな。

ペロリ・・・と、
燻(XO)は舌で紫の唇を舐めた。

「我の前で、他事を浮かべる余裕があるとはな」

「ッ!?」

一瞬、
後ろに倒れそうになった。
なんだ?
何をされた?

・・・・。

何もされていない。
なら、
ただの威圧?

・・・・ヘヘッ。
馬鹿な。
んなことは有りえない。

「ふん。だがそれもまた。我が目をつけた箇所の一つだ。
 己の欲求に従順で、そのための恐れを知らない。
 目的が伴うならば、その身を躊躇わず闇に落とし、何もかもを敵とするだろう」

「・・・・?」

何を言ってやがるんだ。
こいつは。

「よく分からねぇが。気に入られてるようだな」

「気に入った?違うな。使えるレベルの駒だと判断しただけだ」

はん。
なんのだよ。

「とにかく、この場面は笑えねぇな。ココの落とし前、どうしてくれるんだ」

「貴様。兄上への口の利き方に気をつけろよ」
「いい。黙ってろツヴァイ。お前は我の言うとおりにしていればいい」
「・・・・はい。兄上」

「・・・・♪」

ほっほぉ♪
いいね。
ズルいね。
嫉妬しちゃうね。
あんな極上を手玉か。
俺もあの漆黒乙女をあんな風にしつけたいね♪。

「話の続きだ。カス」

あん?
ちょっとケンカ売ってんな。
何様だテメェは。

「てめぇ人の事をカスたぁいい度胸だな。あ?俺はクソって呼ばれるのは最高に勃起モンだが、
 言葉で戒められるんじゃなくて、言葉で除外されるのは大嫌いなんだ」

「じゃぁ何と呼べばいい」

「あん?」

「ふん。悪いが、お前を駒として興味はあるが、おまえ自身に興味はない。名もな」

「・・・・・ほんっ・・・とにいい度胸だな」

この俺に、
歯向かう奴は初めてだ。
否、
違うな。
抵抗されるのが凄い好きだが、
それは皆、
俺の下で這い蹲るように抵抗してくるからだ。

上からものを言ってくるのは勘弁御免だ。

「てめぇの凄さは分かってるが」

燻(XO)は、
両手を構える。
猫の手のように。

「俺を怒らせると痛い目みるぜ。・・・・・痛くて痛くて快感に変わるほどにな!!!」

ぶっ殺してやる!
いや!
殺さず生かさず!
奴隷として俺の足でも舐めさせてやる!

「クソでも食らいな!!!」

そして、
燻(XO)はアインハルトに向かって、
殺意。
殺さぬ殺意。
攻撃をしかけようとした。

した。

だけだったが。

「ツヴァイ」
「はい。兄上」

それよりも、
漆黒は数段早かった。

言葉と同時。
返事と同時。
長い、
キメ細やかな漆黒の長髪がなびくヒマもないほどに、
ツヴァイの動きは速かった。
見えなかったに等しく、
動けなかったに等しい。

「・・・・・あ?」

狭い部屋だったとはいえ、
一瞬だった。
ツヴァイ=スペーディア=ハークスが、
視界から消えたのと同時に、

後ろからっ、
圧力。

「ぐっ!!!」

考えるよりも先に、
ツヴァイの片手で、
地面へうつ伏せに叩きつけられた。

「がっ・・・・」

一瞬。
刹那の出来事だった。
攻撃しようとした次の瞬間、
漆黒の戦乙女は自分の背後に回っていて、
そして、
自分を地面へと叩き付けた。

「て・・・め・・・・」

・・・。
違う。
違う。
地面にうつ伏せに叩きつけられて、
その視界の先。
足。
アインハルトの足を見て思う。

・・・・。
脅威はツヴァイじゃない。
目の前のこいつ。
これほどの使い手。
ツヴァイを、
一言で扱う、
この男。

ツヴァイなど、
ただの道具。
駒。

「・・・・・ウフフ・・・・」

だが、
地面にうつ伏せになったまま、
燻(XO)は笑った。

「いいね・・・最高だ。女に押し倒されるなんてぇまったく。夢心地じゃねぇか」

ウフフ
エヘヘ
無様に寝そべったまま、
燻(XO)は、
笑う。

「・・・・ウヒヒ・・・つまり、なんだ?ウフフ・・・・俺をこーまでして、
 いや・・・・お前ほどの奴がわざわざこーまでして・・・・俺に頼みごとってぇのは・・・・」

「黙れカス。ツヴァイ。やれ」
「はい兄上」

・・・・ったく。
人の話をまったく聞かねぇやつだ。
俺が言えた口じゃねぇがな。
・・・・と。
お?
全然動けねぇ。

足で踏んづけられてるだけなのに。

「おいおいお嬢ちゃん。どいてくれよ」

女の足で踏みつけられているだけなのに、
体はビクともしなかった。
片足で背中を地面に押さえつけられているだけで、
ミリ単位で動けなかった。

「ウフフ・・・こりゃまた、俺ってばいい心地じゃねぇか。
 女に踏んづけられて地面舐めてるなんて屈辱・・・最高に勃起するね♪」

「黙れ」

冷たい、
ツヴァイの声。
背中の上の、
声。

「いいね。その上から押さえつけてくる冷たい声・・・最高に・・・・・・・・・・」

そこで、
燻(XO)は、
しゃべるのをやめた。

否、

やめてしまった。

声が出なくなった。

まだ何をされたでもない。
だが、
人生で初めて感じる・・・・

それは悪寒。

冷たい快感が突き抜けた事はあるが、
恐怖。
否、畏怖。
それが全員を駆け抜けた。

ただ、
ただ、
ツヴァイの手が、
ソコに、
両手が触れただけなのに。

「・・・・・ちょ・・・ま・・・・・」

叫ぼうとした。
懇願しようとした。
いつも、
奴隷にしているやつらが言うように、
必死で、
全力で、
だが、
そんな事よりも先に、

部屋に、
いや、
自分の脳内に

響く音。


ブチンッ。


「あっ・・・・あ゙あああああああああ!!!!!」

あまりの痛みに、
もがこうとしたが、
それさえも出来ない。

「・・・・・・・・・・・・ッッッ・・・・痛ェエエエエエエ!!!!!」

痛い。
体がソコから冷たくなる。
なっていく。
感覚さえなくなる。

「俺のっ・・・・ぬっ・・・・あ・・・・・あし・・・・足ィイイイイイ!!!!」

足、
それは・・・・

アキレス腱。

足首の裏側。

両足の、
二本の生命線が、

馬鹿デカイ音を立てて、
ブチ切れた。
ブチ切られた。

「・・・・ハッ・・・・へへっ・・・・はぁ・・・・・」

息をするのがキツい。
そういえば、
自分が怪我をするのは初めてだ。
両足が、
自分のものじゃないみたいに・・・・・

「・・・・・う・・・ぐ・・・・・・ウフフ・・・・」

口から泡が出た。
アゴが痛みでガタガタと震える。
だが、
それでも、
その口は笑みを無理矢理作った。

「・・・・えヘ・・・・・フフッ・・・・て・・・てめ・・・・ウフフ・・・・・なんて事しやがる・・・・・」

「頼み・・・・とか言ったな」

歯をガタガタ言わせながらも、
燻(XO)は、
うつ伏せのまま、
痛みをこられたまま、
アインハルトを見ていたが、
だが、
あまりにも日常のように、
その男は続けるのだ。

「それは間違いだ。お前の是非など聞いていない。命令しにきた。・・・・・・我の駒になれ・・・・とな」

また、
小さく微笑した。

・・・・。

「・・・・なに・・・・」

なに・・・を言ってやがるんだ。
こいつは。
意味が、
分からない。

頼みでなく、
命令?
貴様にどんな権限があって・・・・

「ウフフ・・・・」

いや、
その権限はあるな。
弱肉強食。
自分がいつもやっているように、
弱者は、
強者に遊ばれる。
もてあそばれる。
それが世の理。

・・・・。
だが、

その弄ぶ対象の足を潰しておいて、
破壊しておいて、

何が駒になれだ!!

「・・・・ぐっ!・・・・ウフフ・・・・・なるほど・・・・」

燻(XO)は、
やはり笑う。

「・・・・・取引か・・・・」

なるほどな。
と、
笑う。

「この・・・足を・・・治してほしければ・・・奴隷になれと・・・・」

「半分○で半分Xだ」

「・・・・・あん?」

なんだ。
俺の・・・名か?
・・・・
いや・・・・

「お前の足など治す気はサラサラない。というか手遅れだ。
 腱の切れた音と裏腹に、言うならば破壊したと言ってもいい。お前はもう一生歩けんよ」

「!!??」

なっ!?

「何言ってやがる!?おい!!ウソだろおい!!!!?」

唯一自由な両手を、
地面にぶつけてあがく。
そんなわるあがきしか出来ないほどに、
燻(XO)の思考は停止していた。
混乱していた。

「おいおいおい!!ウソをつくなよぉおい!!てめっ!てめっ!俺の人生に何してやがる!
 俺の人生に何してくれんだ!!!てめぇ!他人の人生を何だと思ってやがるっ!!」

そんなの、
燻(XO)自身が一番言えたことじゃないが、
わが身だ。
それを、
痛いほど思う。
言う。
言える。
だが、
目の前の男は続ける。

「人生?粋がるなよ。世界など我の玩具に過ぎん。
 我が生まれた瞬間に・・・・・世界の全てのものに自由も権限もない」

こ・・・の・・・・・

この野郎は、
本気で言っている。
本気でそう言っていて、
それで、
分かった。
本気でそう言っていて、
そして、

こいつにはその権限がある。

その力がある。
弱肉強食のピラミッドの頂点。
否。
否否否。
頂点が一つだけあり。
残りは全て底辺。

そんな最悪の系図を、
この男は作る力がある。

「話を最初に戻そうか」

何事もないように、
続ける。

「お前は騎士団に上がらないらしいな。ふん。目を付けてやったのにそれではつまらぬのだ。
 全ては余興故にのちのちでいいと考えていたが・・・・だからお前だけは先に手を付けてやったのだ」

嬉しいか?
そんな、
そんな目で、
見下してくる。

「もう一度だけ言う。・・・・我の駒となれ」

「・・・・・・」

この状況で、
この状況で、

全てを理解した。

その言葉足らずでも、
やはり分かる。

この男は、
本当に、

もう一度言っているだけだ。

答えなど待っていない。
命令だ。

○もない。
×もない。

選択権など与えてくれていない。

人が、
○になるのも、
×になるのも、
関係ない。

ただ、
この男が思ったとおりにしかならない。

それを、
理解した。

「ア・・・・ハ・・・・・」

笑えた。
笑える。

いつも自分がしてきたことの、
数十倍のことを、
今されている。

たかだが両足。

そんなものもう忘れた。

ただ、
この男が放つ漆黒のプレッシャーは、
息を吸うのさえも困難で、
押しつぶされそうになる。
逃げたくなる。
だけど・・・・

ひれ伏して靴でも舐めてやりたくなるような魅力がある。

「・・・・アヒャ・・・・ヒャ・・・・ウフ・・・・・フフ・・・・」

笑えた。
笑える。

快感だ。
どうしようもないということが、
これほどの快感だとは。

屈辱だ。
陵辱だ。

弄ばれている。

この俺が。
この俺が。

「わわわ・・・・かった・・・」

笑えた。
笑える。

怖いのに。
恐怖なのに、
それが快感で。

「俺に・・・・・あんたの下につく快感をくれ・・・・・」

その決断に、
その言葉を発する事に、

燻(XO)は生涯最上級の快感を得た。

押し倒されたまま、



あまりの快感に失禁した。



恐怖に押しつぶされ、
自分の股間が濡れる様は、

クセになりそうなほどの快感だった。




































「ウフフフ・・・・・・」

それから幾分の月日が流れた。
流れたというのに、
世界は基本的に変わらない。
まぁ、
黄金世代と称されるツワモノ達が王国騎士団に入団したことで、
マイソシアは沸いていたが、

「あいつらもまた、アインの駒でしかないわけね。何も知らないってのはお気楽なもんだ」

とはいえ、
自分だって知らない。
アインハルトが何をしでかそうとしているのか。
だが、
想像はつく。
ただの遊び。
遊びだ。

何もかもを弄ぶ気だ。

世界の端から端まで。
微塵も残らず。
カスも残らず。
クソも残さず。

「あれが世界(マイソシア)の主人公だった。それだけだ」

昔、
漫画で読んだ。

それは、
主人公の視点で描かれていて、
相対する悪を倒す物語。

悪には悪なりの理由やワガママがあっても、
最後には正義の正義なりの理由とワガママに駆逐される。

結局のところ。

力。
力で押しつぶせるかどうか。
感情論は後からついてくる。

勝つ奴がほざくからカッコいい。
負け犬が正論を言っても負け犬の遠吠え。

「なら俺はどこでおいしい思いをするのか。それがここだったってだけ・・・だな♪」

アインハルトの下。
そこしかない。
勝つ者の下。
そこで、
思うが侭、
我が侭。
そんなママゴトをすればいい。

できる。
楽しく、
誰にも邪魔をされず。

「ま。正式にじゃないとは言え、俺が騎士団に入る事になるとはな」

そう。
ここは、
ルアス城。
地下。

「やはり俺は闇がお似合いだ。・・・違うな。陰がお似合いなんだ」

それが心地いい。

「ウフフ・・・・ありがたく思うぜ。法の敵(パブリックエネミー)な俺が、法の下に。
 これはおかしな話じゃねぇ。だからこそ。法をも陵辱できる」

法を従えた俺に、
出来ない事はない。
なんでも。
好きなように。

ほら。
この景色のように。

「ウフフ。ま、俺の出番はまだまだ先だろ。アインが動き出すまでまだ何年もあるはずだ。
 それまで好きなだけ、好きなことをしよう。なぁ・・・・俺の奴隷ちゃん達♪」

地下。
隠れ家。
秘密の隠し部屋。
そこには。

やはり。
当たり前のように。
否、
もう、
誰の目を気にする事も無い太陽の届かぬ所で、
好きなだけ。

愛する家畜の群れ。

「ウフ・・・ウフフ・・・・」

カラカラ・・・と、
もう動かなくなった両足の代わりに、
車輪が回る。

「さぁそちらの坊や達。俺の前に並べ」

「はい」「はい」「はい」「・・・はい」「はい」

「いい子だ。よし。そのまま背の順に死ね」

「はい」「はい」「はい」「・・・はい」「はい」

そんな簡単な言葉で、
教育の限りを、
調教の限りを尽くされた愛玩具(少年)達は、
順番に。
ナイフで自分のノドを貫いていった。

「ん〜〜♪いいねいいね♪もったいない気もするけど今日は無礼講無礼講!」

パンッパンッと、
手を叩く。
嬉しそうに。
紫のクソ野郎は笑う。

「はい、そちらのお嬢さん達。そうそう。豚さん1号から5号までね。
 俺ってば汗かいちゃった。けど足が不自由でねぇ・・・体洗って着替えさせてくれ」

呼ばれた者達は、
全員後ろ手を縛られていたが、
返事をし、
そして、
教育されたとおり、
調教されたとおり、
車椅子の座る燻(XO)に近づいてきて、

口だけで言われた事を行う。

必死に。
懸命に。

「はいはい。そこのお母さんとお子さん。こっちに来てね」

自分の世話をしてくれる女達はそのままに、
呼び寄せる、
怯える母子。
震える母子。

「優しい優しい子供思いのお母さん。命令だ。そこに落ちてるクギで、その子の目を突け」

「!?・・・そんなこと!できるわけが・・・」

「やらないとお前の子は殺す。ウフフ。世の中○かXかだ。選べよ。
 子供を失いたくないなら、自らの手で子供の目を貫け。もちろん両方だ♪
 ウフフ・・・・あ、追伸、どっちにしろあんたは死んでもらう。ウヒャヒャヒャ!」

大盤振る舞いに笑い、
紫の綺麗な髪をなびかせる。
そして笑いながら、
また傍らを指差す。

「ウフフ・・・・おーい便所隊。便器隊ってば」

そこには、
女達が正座で並んでいた。
目隠しをされ、
ただ強制的に道具で口を開かされている。

「もよおしてきた。一番近い奴さっさと来い。ほれ、俺ちょうど今着替えさせてもらってるし。
 ほれ。漏れちまったら俺恥ずかしいだろが!さっさと咥えに来い!」

一人の女が、
怯えながら、
足元を確かめるようにフラフラと動き出す。

「あ、忘れてた。そこのオッサン」

「は、はい!」

その呼ばれた男は、
ただただ、
ただ、
無意味に、
無情に、
無常に。
無心に、

地面に頭を打ち付けていた。

「もう土下座いいから。謝ってもらわなくていいから。許してやるから」

「ほんとですか!?」

「あぁ。もう死んでいいよ」

「ありがとうございます!!!」

その男は、
そう、
最上に嬉しそうな笑顔で、
最後に一度、
全力で、
地面に頭を打ちつけ、
動かなくなった。

「ぉっ・・・・おお・・・・」

フルフルと、
残尿感の快感に身震いをした後。

「よし。おめかし完了。お前ら下がっていいぞ」

燻(XO)は、
そう言い、
周りの者達を下がらせる。
そして、
紫の美しい長髪の上に、
ネクロケスタの骸骨をかぶりなおし、

「おい、肩を貸しな」

二名の女性をサイドに。
松葉杖代わりに置き、
車椅子から立ち上がる。

「ウフフ・・・・」

そして。
歩む。
歩む。
この地下で。
自由なる地獄で。

「そうさ。まぁ何も変わらない。昔から今まで何も変わらない。
 俺はやりたいことをやり、殺りたいことをやり、ヤりたい事をやる。
 土の下で。日の下で。絶対の存在の下で、それでも○(確固)として×(罰)は存在する」

登る。
登っていく。
上っていく。
昇っていく。
地下の中で。
地獄の中で。

「変わるわけがねぇさ。俺はこういう風に生まれてちまって、それでそのまま。
 何が悪い?俺はそれが通常のように生まれちまっただけ。それだけだ。
 多数派が俺を論外と評価するだけで、それだけで俺は除外者として幸せに生きてるだけ」

のぼっていく。
のぼっていく。

「結局のとこ。思うが侭に生きれるかどうか。それだけだろ?
 人生楽しみたいじゃねぇか。俺は楽しんでいる。ありのままに。
 欲望のままに。性欲のままに。容姿は絶品で、中身は最悪のままに」

そして、
頂点で。
地下の。
地獄の頂点で座る。

「結局世の中は二種類さ。俺の遊び相手と、それ以外。
 結局世の中はハッキリしてる。したいことを出来る奴とされたくない事をされる奴。
 結局世の中は極端だ。力を持って何もかも許された奴と、それ以外。
 結局世の中はX(十)かO(零)。全てを手に入れる奴と、何もかも失う奴
 結局世の中はどっちかだ。私欲なX(罰)を与える者とそれ以外。
 結局世の中は相対なルール。不自由な公共と、自由なる犯罪者。
 結局世の中は物語だ。主人公であれるのと、それ以外。
 結局世の中は決まりきってる。笑う強者と泣く弱者。
 結局世の中ってのは・・・・・・・・俺以外の奴と・・・・・"それ以外"」

頂点で笑う。
その場所の。
駆逐された陰の頂点で、
紫の鮮やかな長髪に、
悪魔の骸骨をかぶり、
両手を血まみれに、
全身に快楽を、
心に欲望を、
美麗な素顔に、
道化な性癖。

「結局世の中はXか○だ」

X(悪)か○(善)か。
X(未知)か○(原点)か。
X(否定)か○(肯定)か。
X(10)か○(零)か。
X(間違い)か○(正しい)か。
つまり、
X(自由)か○(不自由)か。
それは、
X(罰)か○(偽善)かの違いで、

その全ては表裏一体。
幸という字が裏返してもひっくり返しても逆さまにしても回しても、
やはりそれであるように。

そして両方を持つものは、
ただ、
XO(クソ)と発音される。
狭間で燻(くすぶ)る。
火で燻(いぶ)し、薫(かお)る。

腐ったからこそ、
燻(くさ)った男で、
臭いからこそ、
燻(くさ)い男で、
癖が異常な、
燻(くせ)悪な男で、
そして何より、
糞のような、
燻(くそ)野郎。

「どっちかなんて、俺が決める。だから俺がどっちかなんて、あんたらが決めてくれ」

頂点。
それは、
この地下。
あまりに、
あまりに、

山積みになった屍骸の上。

積み重られた、
屍骸の山の上。
屍の上。
その頂点に、
当たり前のように腰を下ろし、

死体の山の頂点で、
両手に女を抱え、
笑うのは、

両足喪失という不自由と引き換えに、
自由を手に入れた燻野郎。

「ウフフ・・・・さぁ、世界の愛するド畜生ちゃん達よ」

Xと○の狭間は、
今日もただ愉悦に笑う。

「クソでも喰らいな(I love fxxk you)」

ただ笑う。








                 






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