******注意******

この短編は、
実際のSOADと全く関係ありません。

本編と世界はリンクしていませんし、
実際のキャラとは無関係です。


**************






















「生き返った!!!!」

チェスターは言った。
両手をあげて、
高らかと。

「いや・・・生き返ってはねぇよ馬鹿猿・・・ただの番外編だ・・・」
「リクエストに感謝してください・・・」
「何言ってんジャン!!ヒーローが死ぬわけないジャン!」
「生き返るのはアリかよ」
「アリ!!」

とまぁ、
そんなこんなで。
サッカーです。
サッカー番外編です。

皆さんこんばんわ。
マイソシア対抗エキシビジョンマッチ。
ギルド連合VS44部隊。
実況はジョン・カビラ、解説には中西哲生さんに来ていただいています。
こんにちわ〜→こんにちわ〜。
ってね。
まぁいないけどね。



「ギルド連合軍対44部隊ねぇ・・・・」


ドジャーがポリポリ頭をかきながら見渡した。
フィールドの真ん中に整列する両者。
自分側の列。
相手側の列。
そりゃぁもう死んだキャラや既存のキャラまで勢ぞろいだが、

「サッカーできるのかよこんなんで・・・・」

歴戦の勇士達が揃っているわけだが、
そりゃぁもう、
バトル小説の類なのだからサッカー出来るメンツとは思えない。

「馬鹿か!」
「阿呆か!」
「「できるに決まってるだろ!!」」

と、
声を合わせて言うのは、
44部隊側の二人。
マイケル=リーガーと、
ロベルト=リーガー。

「サッカーは最高だ!」
「野球のが最高だ!」
「「最高だ!」」

「・・・・・・・おいアレックス・・・なんだこいつら・・・」
「さぁ・・・本編で唯一ちゃんと登場してない44部隊二人だと・・・」
「あぁ。可哀想なやつね」
「カゲロウマルさんよりは未来がありますけどね」

「・・・・・・・・」

カゲロウマルは顔をそらした。

「カゲロウマルよりはマシだろな!」
「マシだろな!」
「けど俺らもちょっとだけ出たぞ!」
「少しだけ出たぞ!!」
「「地味すぎたけどなっ!!」」

本編でも気づいた人しか気づかないくらいの所で登場した二人。
ついでにこの機会に言っておくと、
双子ではない。
どっちが兄だったか忘れたが。

「で、この機会に張り切ってんのか・・・」

「違う!」
「間違ってる!」
「サッカーといえば俺!ロベルト=リーガー!」
「野球といえば俺!マイケル=リーガー!」
「ってことでサッカーの話なら!」
「俺達のホームゲームみたいなもん!」
「「サッカーなら任せとけ!!」」

「・・・・・・・・」
「そりゃぁまぁ・・・ビックリするくらい見せ所ですね・・・」
「野球は関係ないけどな・・・」

「野球が好きでもサッカーはできるぜ!」
「サッカーが好きならサッカーはできるぜ!」
「俺達いつも一緒に遊んでるしな!」
「あぁ!遊んでるしな!」
「サッカーで!」「野球で!」

まぁ、
なんともよく分からないが、
張り切って名前を覚えてもらってほしいものだ。

スタジアム。
サッカーのスタジアム。
というか球場。
その中心に相対するギルド連合チームと44部隊チーム。
一面人工芝がひかれ、
簡易な客席とベンチもある。
なかなか出来た市民球場って感じだが、
まぁ設定としてはふれあい広場のどっか・・・・・・・・みたいな感じでよろしいでしょうか?
よろしくなくてもどうしようもないですけども。

「ってか《MD》?44部隊?その他ギルド?・・・カッ、出てくるキャラ合計30超えるだろ」
「そんなんゴチャりますね。収拾つかずに訳が分からなくなりますよ」
「大丈夫なのか?」

大丈夫じゃなくともどうしようもないですけども。

「まぁー考えてもしゃぁねぇ。チャッチャと始めようぜ」
「そうですね」
「おぉーーーっしゃぁ!いっちょやったるかコラァ!!!」

と、
威勢良くアレックスとドジャーの横で叫ぶ男。
豪快な声を出す男。
メッツだ。
ひと暴れしてやるかと意欲たっぷりの豪快人間。
・・・・・・・だが、
ドジャーの目は冷たかった。

「おい、メッツ」
「あん?」
「おめぇ44部隊側行けよ」
「え・・・・」

ドジャーがシッシッと手を払い、
44部隊側に行くように指示する。

「あ、いや・・・俺《MD》だろ!!」
「いーからいけよ裏切り者」
「さっさとしないと始まりませんよ?裏切り者」

メッツはオロオロと挙動不審になる。
チラりとマリナの方を見た。

「シッシッ」

マリナは手を払う。
番外編だからといって鬼のような仲間達だ。
本編で出会ってもこんな扱いなんだろうかと心配しつつ、
メッツはションボリしながらセンターサークルを超えて44部隊側に移動した。

「あん?何こっちきてんだよ」

と、
44部隊側に移動したらしたで、
いきなりグレイに言われた。

「テメェ44部隊だが《MD》なんだろ?痴話話だな。
 こっちはもとよりメンバーパンクしそうなんだよ。
 44部隊員だけで18だからな。邪魔なんだよ。そっちいけ糞野郎」
「ちょ・・・」
「あっちいったりこっちいったりな蝙蝠男に興味ないアルね」
「死んだ人間的には目立ちたいし、あっち行ってくれないかしら」

メッツはセンターサークルの真ん中でオロオロとお犬のように怯える。
ギルド連合側を見たり、
44部隊側を見たり、
本編的には両方に所属してる形なのだが・・・
どうすればいいんだ。
なんだこの損な役回りは、
ストーリー上しょうがないじゃないか。
・・・・と言った目。
哀れ。
いじめられる筋肉質な男。

「メッツ。こっち来いよ」

そう・・・・神の慈悲ような事を言ったのはジャスティンだった。
涙が溢れそうだった。

「ジャスティィイイイイイン!!!」

とゴリラのような凶暴な肉体で抱きつくメッツ。
心から求めていたの誘い。
神だ。
そんなメッツを見てジャスティンは呆れながらクールに言う。

「ばっか。親友だろ?」
「心の友よぉおおおおおおお!!」

ジャイアンかお前は。

「おいおいジャスティン」
「どうしたんですか?こんな時にいい子ぶって」
「ドジャー、アレックス君」
「ん?」
「なんですか?」
「前々から思ってたんだ。イケメンなのに《MD》でやけに人気のない俺だぜ?
 こういう時に点数を稼いでおかないと・・・と思ったわけさ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・頑張れ」
「口に出した時点で誰も投票しないと思いますけど・・・・」

「いや、まぁ丸く収まったなら何よりだ」

と、
44部隊チームのキャプテン。
ユベンが前に出ながら言う。

「何より・・・何よりでいいんだが、何よりじゃない事がひとつある」

「なんだよ」
「まぁ文句は先に聞いておくが吉ですね」

「まぁそのなんだ。・・・・審判についてだが・・・」

ユベンが横を見ると同時に、
全員がその視線につられる。
その視線の先。
それはもちろん審判なのだが・・・

「なんでこいつなんだ」

「・・・・・・俺の何が悪い・・・・・・死ねばいいのに・・・・・」

小さく鼻で笑いながら、
レイズは言った。

「いや、そちら側の人間が審判っていうのは何よりじゃない。不公平が起こるかもしれない」

「・・・・・・ないから安心しろ・・・・・むしろ性格上・・・・・44部隊を応援するかもな・・・・・・」

「・・・・・・・ひでぇ」
「でもなんでレイズがやんだよ」
「せっかく復活の機会なんだからプレイすればいいじゃないですか」

「・・・・死ねばいいのに・・・・・・・俺がボール蹴ってる姿が・・・・想像できるか?・・・」

「「「・・・・・・・・・・」」」

無理だ。
無理すぎる。
悲しい事に無理だ。
恐ろしくダサいかもしれない。
サッカーボールで儀式とか始めるかもしれない。
とにかく、
レイズとサッカーボールなんて想像しようがない。

「・・・・・・・異論は?・・・・・・」

レイズが言うが、
誰も返事はしなかった。
あるわけがない。
なんか怖いし。
呪い殺されそうだし。

「・・・・・・・じゃぁルールを説明する・・・・・・・」

まるでお経のように、
魔王でも召還する呪文のように、
レイズは暗くルールを読み上げる。

「・・・・・・サッカーのルール・・・基本的には普通だが・・・・細かい事は排除・・・ダルい・・・」

「ちょ、」
「その細かい事がダルいってのは審判のお前の意見か?」
「それとも・・・」

「・・・・・・知るか・・・・・・・」

まぁ、
いいじゃないか。

「・・・・・・・・時間について・・・・前半後半とか無し・・・・ダルい・・・・」

「ちょっとまてよ!!」
「サッカーは時間の中、戦略を立ててやるからいいんだぞ!」
「「いいんだぞ!!」」

「・・・・・うるさいな・・・・ネタが尽きたらゲームセット・・・以上・・・・」

無視して進む。
確定事項のようだ。
とにかく細かいことは排除。
レイズがいう事が全て。
まぁ、
いいじゃないか。
めんどいし。

「・・・・メンバーは11人VS11人・・・・けどどう考えてもあぶれる・・・・
 ・・・・けど交代は自由・・・・・というか交代の描写もいらん・・・・
 ・・・・いきなりメンバーが変わってても・・・誤字とか描写ミスとか言わないように・・・・・」

なんのルールだろうか。
不思議だ。
とりあえずめんどいからというルールだろう。
誰がって。
それは知らない。
きっとどこかの誰かだ。

「・・・・次・・・・・・・ロウマとツヴァイは無し・・・・・監督な・・・・」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

それに関しては・・・全者・・・異論は無かった。
そのルールに関してはもう・・・・両者誰も異論はなかった。
誰からも文句はなかった。
いろいろ考えると・・・・どうにも異論は出なかった。
良くも悪くも、
全部もってかれる感がある。
その一言に限る。

お互いのベンチを見ると、
ギルド連合側にはツヴァイ、
44部隊側にはロウマが座っていた。
置物のように。
役に立つかどうかも分からない。

44部隊の面々が自分のベンチを見ると、

「・・・・・・」

ロウマは腕を組んで目を瞑っていた。
威厳だけはある。
この話で役に立つかは知らないが。

逆にギルド連合の面々が自分達のベンチを見ると、

「ん?なんだ。こっち見るなカスが」

ツヴァイに怒られた。
息苦しいベンチになりそうだ。
面々は対象を審判のレイズに戻す。
レイズはルールの続きを話し始めた。

「・・・あと・・・・・ファールは甘めにとる・・・・・一応・・・バトル小説の類だしな・・・激しめでもOKだ・・・
 ・・・・・・というか、スキル・・・スペルは有りだ・・・・・直接攻撃じゃなければな・・・・・・・
 ・・・・・・・・まぁ・・・基準は全部俺が決める・・・・俺がファールと言ったらファールだ・・・・」

「ファールはお前次第かよ・・・」
「当然ですが・・・嫌な審判ですね・・・」
「怖いな!なんか!」

「・・・・・・・・・・俺がルールだ・・・・・」

「神かお前は・・・」

「・・・あとは・・・・・・もちろんイエローカードはある・・・・レッドもな・・・・・
 ・・・イエロー1枚で警告・・・2枚で退場・・・・3枚で切腹だ・・・・・」

「切腹!?」

「・・・・・・・・切腹だ・・・・」

なんとサドいサッカー・・・
いや、それ以前に3枚イエローカードは出ないだろう・・・・。

「・・・以上・・・・・・ルールだ・・・・何か質問は?・・・・」

「はい!!オイラ質問!!」

「・・・・・・・異論は認めん・・・」

なんのための質問タイムだ。
自由すぎる。
フリーダムレイズ。
完全にこの番外編のラスボスだ。
とりあえずチェスターは元気に質問する。

「オイラほとんどルール知らないんだけど!!」
「あぁ、大丈夫だチェスター」
「今の聞いてた感じ、"ルール適当にしたサッカー"ってだけです。
 さすがに手を使っちゃダメとか、ゴールにボール入れるとかぐらい分かりますよね!」
「それは分かるジャン!!馬鹿にすんなよ!オイラはヒーローだぞっ!」
「関係ないけどならオッケィ」

「・・・・・・いいなら全員ポジションにつけ・・・・はじめるぞ・・・・」

「お、おい!いきなりか」
「まだ心の準備が!」
「っていうかギルド連合側なんて誰がいるかさえまだ分かって・・・・」

「・・・・・・・・遅れた奴は切腹だ・・・・さっさと位置につけ・・・・」

鮮やかなほど全員一瞬でポジションについた。
見事というほかない。
これくらい運営がしっかりしていると、
どんなイベントも滞りなく進むだろう。

「キックオフは俺らからか」

アレックスとドジャー。
広いサッカーコートの真ん中。
サッカーボールにドジャーが足をつき、
アレックスが横に。

「・・・・・・一応・・・・・・なんでお前ら二人からキックオフかって言っておくと・・・・
 ・・・・・クック・・・・・主人公なのに・・・・・本編で凄く空気だからだ・・・・」

「「・・・・・・・・」」

なんだこの罰ゲーム。
馬鹿にされているのか。
弱い主人公の何が悪い。

「・・・・・いいからさっさと笛吹けレイズ!!」

レイズが懐からイエローカードをちらつかせる。

「・・・・・・吹いてくださいレイズ様・・・・」

弱いな、
主人公2。

「・・・・・・・よし・・・・・」




〔ピピーーーー〕



こうして試合は開始された。

「おっしゃ!!行くぜアレックス!」
「僕がスポーツマンだってところも見せてあげますよ」

ドジャーがちょいとボールをアレックスに蹴り、
試合は始まった。

「と言っても最初はボールを後ろに戻したほうが懸命ですかね」
「カッ!!あっちは戦闘ばっかやってた馬鹿ばっかだ!一気にいっちまおうぜ!」
「そうですね。僕がスポーツマンだってところも・・・」
「さっき聞いた」

アレックスが口をとがらせてむくれながら、
前へドリブルしようとした。
が、

「ギュィイイイイイイイイイイイイイン!!!!」

前方から、
ものすごい勢いで迫ってくる男。
人間。

「うわっ!!」

「掘って刻んで!すり潰すぅうううううう!!!」

ヴァーティゴ。
スキンヘッドの男。
44部隊のヴァーティゴ。
ヴァーティゴがものすごい勢いで迫ってくる。
ものすごい。
止まらない勢い。
そして、
その手には・・・・・・・・

ドリル。


〔ピピーーー!〕

笛が鳴る。
試合が止まる。
レイズ審判が近寄る。
そしてヴァーティゴに差し出す。

「・・・・・退場・・・」

「えぇ!!!??」

みんな愕然としていた。
というか冷めていた。

「なんで!!?」

「・・・・・・・いや・・・・・・ドリル・・・ドリルはないだろ・・・・バトル小説でもサッカーにドリルはないだろ・・・・」

「おまっ!!これは俺の体の一部だぞ!!」

「・・・・・・・知らん・・・・・」

「ドリル抜きで俺はどこでキャラ作りすんだよ!!」

「・・・・・・・知らん・・・・出てけ・・・」

スキンヘッドのイカつい男はそこで下を向き、
とことことベンチに向かっていった。
試合開始5秒。
退場1名。

「試合始まらねぇじゃねぇか・・・」
「ていうかいきなり11対10ですか・・・」

「・・・・いや、めんどい・・・・どうせ誰が参加してるか分からんし・・・・・・好きに出たり入ったりしろ・・・・・」

「・・・・・」
「リスクねぇじゃねぇか・・・・」
「メチャメチャだな・・・・」

いや、
あえていうならせっかいの番外編での登場機会か。
それは大きいかもしれない。

気を取り直し、
ドジャーのフリーキックからスタート。
ドジャーはまたキックオフのように近くのアレックスへボールを渡す。

「本当に馬鹿ばっかみたいですし、一気にゴールまでいきますか・・・」
「だな」

「馬鹿め!!」
「阿呆め!!」
「「させるか!!」」

「げ・・・」

アレックスにボールが渡るのを分かっていたように、
ロベルト=リーガーとマイケル=リーガーのコンビが迫る。
堂々と、
ノリノリで。
めちゃめちゃ張り切っている。

「あいつらは気をつけろアレックス!」
「分かってます!」

アレックスは前に進むのを諦め、
後ろを振り向き、
後ろへボールを返す。

「チェスターさん!」
「任せとくジャン!!!」

ボールが渡ったのはチェスター。
後ろから走りこんできていた。
まぁ前に出るのしか考えていないだろう。
だが、
《MD》の中では一番スポーツが似合う感じはする。

「オイラのヒーローパワーを見せてやるジャン!!」

パスされたボールを受け取り、
チェスターは前へ走る。

「うおおおおおお!!」

「ちょ、」
「チェスター!」

「スーパーミラクルハイパーグレートバナナシュウウウーーーート!!!!」

シュート。
シュートと言った。
この猿頭はシュートと言ったのか?
ここをどこだと思っている。
センターサークルより後ろだ。
そこから全精力をかけて放つシュート。
・・・。
蹴った。
凄い勢いだ。
猛烈なシュート。
ビックリするほど強烈なシュートだ。
センターラインより後ろからの強烈シュート。
バナナシュートと言っていたが、
まったく曲がってない直線的な強烈猛烈シュート。
そして・・・・
・・・・・
キラーーン。
ボールは星になった。

「「・・・・・・・」」

「よし!!」

チェスターは遠くの彼方まで蹴飛ばしてしまったボールを眺め、
自信満々だった。

「ホームランは何点?」

「「そんなルールねぇーよ」」

「あれ・・・・」

チェスターは困ったような顔をしていた。
いや、
こっちが困る。

「ゴールに入れろっつったろゴールに!!」
「少年漫画の第一話「主人公、初めてのサッカー」って感じですね・・・」
「試合全然進まねぇじゃねぇか!」
「ですね・・・・」
「チェスター!てめぇキーパーやってろキーパー!」
「えぇー!!」
「やってろ!!」
「えぇー!!」
「チェスターさん」

アレックスがチェスターに近寄る。
そして肩に手を当て、感銘な顔つきで言う。

「僕達のゴールを・・・守ってください・・・チェスターさんじゃないと・・・僕達のゴールは守りきれない・・・」
「・・・・・・・・・・オイラが守ってやるよ!ヒーローだかんな!!」

周り全員「うまいなぁ」と思いながら、
アレックスを見ていた。
一人純粋な少年チェスターはウキウキとゴールに向かっていった。
純粋は不幸ですね。

「こっちのゴールキックッスね!!」

44部隊側のキーパーのナックルが、
ボールを置いた。
なんで彼がキーパーかというと、
パンチが凄そうだから。
・・・・というのは建前で、
下っ端の彼は無理矢理キーパーをやらされた。
44部隊も目立ちたがり屋が多い。

「ナックル。こっちだ」
「はいッス!ユベン先輩!」

ナックルはゴールキックのボールをユベンに蹴り出す。
そのボールを受け取り、
ユベンはギルド連合側のコートを振り向いた。

「いくぞお前ら」

下がり気味の要。
実質司令塔に近い存在ユベン。
こういう時にこそ頼りがいがある。
44部隊で誰もが認める副部隊長。
彼を中心に動けば44部隊チームは・・・

「ユベン!!パス!!パスくれパス!!」
「グレイにやる必要ないね。こっちアルよ」
「俺俺!俺にくれ!」
「俺は出来る子だ・・・俺に・・・」
「あぁん!あちきだろ!!アニマル差別する気か!!!」

・・・・・統率は出来てないようだった。

「・・・・・何よりじゃないな」

そう言いながら、
ユベンがパスを出したのはキリンジ。
キリンジ=ノ=ヤジュー。
ユベンが大きくあげたパスは、
美しい軌道をかたどり、
的確、
かつ確実。
強くもなく弱くもなく。
完璧な・・・
つまり・・・・

「地味なパスありがとよヒポポタマス!!!」

「地味っていうな・・・」

ユベンのパスをもらうキリンジ。
狼づくしの身なりからは想像できなかったが、
彼女はなかなかキッチリした胸トラップでボールを落とし、
ドリブルを始めた。
女ながら男のような精悍な顔立ちをしているので、
なかなか様になっていた。

「あちきの実力見せてやるよ!!このモンキー共が!!!」

が、
全員の感想は他へいった。

「おい!今胸であざやかにトラップしたぞ!」
「つまり貧乳だ!」
「貧乳だ!!」
「貧乳じゃないとあんなトラップできねぇ!!」

「・・・・・・」

キリンジはドリブルしながら狼の耳をピクピクと揺らした。

「・・・・てめぇら!!そりゃアニマル差別か!!あん!?」

あまり触れてはいけないところだったらしい。
男勝りに貧乳をキレていた。

「ふざけんなヒポポタマスども!あちきの力を見せてやる!!
 いくぞGキキちゃん!メザリンちゃん!!」
「キ!」
「ピィー!!」
「アニマルフォーメーション!!」

ドリブルするキリンジの周り、
そこに守護動物のGキキとメザリンがフォーメーションを象った。

「ちょっと待て!!」

ドジャーが言う。

「審判!!あれありかよ!!」

「・・・・・・・ありだ・・・・・」

「増えてんじゃねぇかよ!11人以上よぉ!!」

「・・・・・・・・・増えてない・・・・・」






-44部隊ベンチ-


「・・・・・・無念でござる」
「・・・・・・・・シュコー」

↑メザリンとGキキのせいであぶれた人達。







「おっしゃぁあ!!このままゴールまで行くよあちきのアニマルちゃん達!!」
「キィ!」
「ピィ!」

Gキキとメザリンでフォーメーションをとりながらドリブルで突き進むキリンジ。
自身満々の表情。
その笑みのこぼれる口からは八重歯がのぞく。

「やべぇ!!マリナ止めろ!!」
「任せときなさい!!」

キリンジ達が進むほう。
ドリブルで突破する方向。
ギルド連合側はマリナのいるポジションだった。

「このマリナさんを突破しようなんて考え・・・・笑わせるじゃないの!!」

女王マリナは堂々と立ちふさがる。
Gキキとメザリンと狼女キリンジが突っ込んできている。
3対1だが、
堂々としているその態度はやはり怖いもの知らずだった。

「止めれるものなら止めてみなメスチンパンめ!!」

「私を侮辱しておいてただで済むと思わないでね!」

ドリブルで突き進むキリンジ。
そこへ足を踏み出すマリナ。
その方向はキリンジ一筋。
ドリブルができるのはキリンジ一人とよんでか、
キリンジ一人を狙った足取り。

「このマリナさんの怖さを思い知るがいいわ!」

「なんだこのメスチンパンの自信・・・どうやって止める気だ・・・
 真っ直ぐ足を出してくるか。それとも進路をふさいでくるか!
 フフ!でもアニマル差別だな!あちきのメザリンちゃんもドリブルはできるんだよ!
 どうとでも対応できる!アニマル差別したその行動が命取りだ!さぁどうくる!!」

「てぇりゃああああああ!!!」

ゴキッ


〔ピピーーーーッ!!〕

「え?」

マリナの疑問をよそに、
レイズが近寄りイエローカードを掲げる。

「なんで!?」

「・・・・・・・なんでって・・・お前の手にあるそれはなんだ・・・・」

と言われるマリナの手。
両手。
その両手でキリンジの首根っこを掴んでいた。
首ねっこをつかまれ、
窒息しそうなキリンジがマリナの手の中ブラブラと揺れていた。
顔色が悪い。
首をしめられ、
マリナの手の中で揺れるキリンジ。
死んでるんじゃないだろうか。

「反則?」

「・・・・・・反則に決まってるだろ・・・・」

「あ、ハンド?」

「・・・・・・・・根本的に違う・・・・・死ねばいいのに・・・・・・」

「うーん・・・・サッカーって難しいわね・・・・」

マリナはキリンジを投げ捨て、
不満げに下がっていった。
一方キリンジはタンカで運ばれた。


「おいおい・・・これサッカーだよな・・・」
「早くサッカーやろうぜ・・・・」
「進まねぇよ・・・」

それも淡い希望だが、
44部隊側からフリーキック。


「それなら心配ない。何よりだ」

ユベンが蹴りだし、
パスを送ったのは・・・

「やっと俺の出番か。待ちすぎてヘドが出そうだったぜ」

グレイだった。

「この番外編は俺のためにあるのによぉ!」

ツバを吐き捨てて笑うグレイ。
スポーツマンシップのカケラもないが、
その自信は本物のようだった。

「調子こいてんなよグレイ!!!」

そんなグレイにドジャーが一気に突っ込む。

「調子こいてなんぼなんだよマイエネミー」

スライディングで突っ込んだドジャーだったが、
グレイは、

「ほっ」

ボールに軽くバックスピンをかけて宙へ浮かせる。
ボールごとジャンプでドジャーを飛び越した。

「なっ!!」

「足技は俺のオハコだぜマイエネミー!!」

空中でドジャーに言い捨て、
空中でドジャーに向かってツバを吐き捨てる。
余裕のグレイ。
それだけの足技が彼にはあった。

「ほれパスだ!!ネリッ!!チャギッ!!!」

得意の空中ネリチャギ。
空中でカカト落とし。
カカト落としでボールを蹴るなんて考えられないが、
グレイには出来る。
空中からカカト落としで急速に落下するボール。
地面で斜めに跳ねて軌道が変わる。

「ナイスパスだ!!年棒が楽しみだなグレイ!!!」

そう言ってその特殊なパスを楽々拾ったのは、
マイケル。
野球好きのマイケル=リーガー。
絶妙に足を絡ませ、
吸い付くようにトラップする。

「いくぞロベルト!」
「分かってるぜマイケル!!」
「「俺達の出番だ!!!」」

そう言い、
ロベルトとボールを持つマイケルは並列して走り始めた。

「ほい!」
「ほい!」
「「ほいっ!」」

マイケルとロベルトの間でボールが行き来する。
パス・パス・パス。
1・2・1・2。
ワンツーワンツー。
ジグザグとボールがリーガー兄弟の間を行き来する。
それは無駄がなく、
鮮やかで、
彼ら二人のスポーツのうまさが垣間見れた。
まぁ、
敵のいないところでやられても自慢以外の何物でもないが。

「くるぞジャスティン!」
「分かってるさ」

マイケルとロベルト。
そのサッカー本命二人。
それに迎え撃つのは、
ジャスティンとメッツ。

「くっそ!どっちからくんだよ!!」
「落ち着けメッツ」

ロベルトとマイケルの間を行き来するボール。
どちらからどうくるのか・・・

「どっちでしょー!」
「どっちかなぁー!」
「こっちかもしれないな!」
「俺かもしれないな!」
「「どっちかな!!」」

分からない。
というかサッカー初心者的には目でボールを追うのさえ困難だ。

「どうすんだよジャスティン!!」
「そうだな」

向かってくるリーガー兄弟。
落ち着いて考えるジャスティン。

「突っ込めメッツ!!」
「ん?」
「突っ込むんだ!」
「なんか作戦か!!」
「いや・・・」

ジャスティンは落ち着いて言う。

「激しく引き立て役になりそうな気がするんだ。俺は引き立て役になりたくないからお前突っ込め!」
「なんじゃそりゃあああああ!!」

と言いながら突っ込むメッツは可愛いものだ。

「ああもう!!とにかくぶんどりゃいいんだろ!!」

とにかくボールに向かってフラフラ突っ込むメッツ。
右、
左、
右、
踊らされてる。

「ほい!」
「ほい!」
「「ほいっ!!」」

息の合いすぎている二人。
メッツが来ると、

「こんなとか!」
「こんなとか!」
「「できちゃうぜ!!」」

足でボールをパスしあっていたリーガー兄弟だが、
ロベルトが鮮やかにボールを浮かせ、
今度は頭でパスしはじめた。
ヘディング。
ヘディングで二人はパスしあう。
走りながら。

「ほい!」
「ほい!」
「「ほぉ〜〜い!!」」

ヘディングで山なりにジグザグパスしながら進むリーガー兄弟。

「わわっ!!ちょ!」

メッツは突然上空を行き来し始めたボールに戸惑い、
手も届かないパスへ手を伸ばしながらあたふたする。
そして、
ズテンと転んだ。
だめだこりゃ。

「だめだこいつ!」
「だめだこいつ!」
「「だめだこりゃ!!」」

だめだこりゃ。

「フッ・・・・」

ジャスティンはすまし顔で言う。
ニヤりと笑う。
向かってくるリーガー兄弟。
だがジャスティンの余裕。
秘策が・・・

「・・・・・・・だめだこりゃ」

何もしなかった。
リーガー兄弟は素通り。
ジャスティンはさらさら諦めていた。
人気を増やそうと思ってたさっきの威勢はどうした。

「へへっ!」
「ははっ!」
「「俺達無敵だな!!!」」

たしかに無敵だった。
サッカー。
その土俵の上では、
このリーガー兄弟は無敵だった。






-ギルド連合ベンチ-

「うまいなあいつら」

ツヴァイが言う。
その近くにはフレアとイスカが座っていた。

「たしかにな。拙者も蹴球はあまり分からんが筋がいいことは分かる」
「スポーツできる男性はカッコイイですね」
「だな。カスよりはいい。だが・・・」
「だが・・・」
「だけど・・・・」

三人は息を合わせて言った。

「「「空気読めてない」」」












「ハッハー!!」
「ヤッホー!!」
「「俺達最強!!」」

空気読まずに自慢のサッカーテクを披露するリーガー兄弟。
目立ちたがりダブルス。
目立ちたがり元気ブラザーズ。
本編での出番の無さの反発か、
その元気は強烈だった。

「次は!」
「今度は!」
「「どいつだ!!」」

マイケルとロベルト。
二人の猛威。
サッカーという土俵で彼らを止められるか?
そしてその進行方向。
そこに立ちふさがるのは・・・

「ぼくだぁ〜〜〜〜!」

小さい少年だった。

「ぼくだってやればできるんだぞ〜!」

ロッキー。
狼帽子をかぶり、
ぶかぶかのローブを引きずりながら、
トタトタと小走りでリーガー兄弟に突っ込んで言った。

「ぷっ!」
「ははっ!」
「「ラクショー!!」」

鼻で笑うリーガー兄弟。
調子にのってるリーガー兄弟。

「負けないぞぉ〜!」

愛らしくトタトタと突っ込むロッキー。

「やぁ〜!」

っとスライディング。
・・・
と言ってもヘッドスライディング。
ロッキーは小さな体で芝生をズザーッと滑る。
もちろんどんでん返しもなく、
ロッキーはただ地べたを滑っただけ。

「ほぃ!」
「やっ!」

ヘッドスライディングで・・・
というか芝生に転んだロッキーの横で、
ロベルトとマイケルはリフィティングをした。
余裕。
遊び。
ゲームでしかなかった。

「むぅ〜・・・・」

ロッキーは転んだままむくれた。
余裕だらけのロベルトとマイケル。
そのままロッキーを置いてまら敵陣へと突破していく。

「こりゃあ!」
「登場人物!」
「「俺らだけでよくね!?」」

だが、
そう言ったのも束の間だった。

「参る」
「応!」
「・・・承知」

「「ちょ!!」」

突然フィールドを待って飛んできた三連星。
小さな体。
だがヒュンヒュンと身軽に、
かつキレよく飛び回りながら跳んでくる・・・・
エイアグ、
アジェトロ、
フサム。

「おい!」
「三騎士とか!」
「「いるのかよ!」」
「ずるくね!」
「卑怯だ!」

「応応!」
「ロッキーがこっち側なら我らもこっちだ」
「・・・・・そういう事だ」

「くっ!」
「でも!」
「「逆に見せ場だ!!」」
「いくぜマイケル!」
「おう!ロベルト!」

一気に身構えるロベルトとマイケル。
パスを交わしながら、
止まる事なく進む。

向こうからは・・・カプリコ三騎士。

「三騎士ったって攻撃はできないんだから恐れずいくぞマイケル!」
「分かってる!スポーツなら俺達が上だロベルト!」

「参る!!」

エイアグが瞬発力を生かして突っ込んでくる。
それをヒラりと、
ボールを空中に蹴りだしながら避けるロベルト。

「応!」

「げっ!」

それを束の間、
空中に蹴りだしたボールに、
アジェトロが突っ込む。
早く。
流星のように飛び掛る。

「くそっ!マイケル!」

ロベルトは咄嗟にオーバーヘッドで空中のボールを蹴りだし、
マイケルにボールを渡す。
突発的でボールは少しズレたが、
蹴り手はさすがロベルトで、
受け手はさすがマイケルだ。
難なくパスが渡る。

「・・・・承知」

だが、
そのマイケルにもすでにフサムが回りこんでいる。

「くっ!」

マイケルは2タッチですぐにロベルトにボールを返す。
持っていられない。
それほどの動き。
ロベルトもそれを察知してか、
オーバヘッドした体勢からすぐにボールをもらいやすい位置に移動していた。

「応応!やるな!」
「だがこちらも参るぞ」

すぐさま近づいてくる三騎士。
ゆずらないリーガー兄弟。
リーガー兄弟の息のいいコンビプレー。
お互いの位置を確認しなくても分かる、
分身のような息のよさ。
だが三騎士もチームプレーはさすが。
止まらず、
走り続け跳び続け、
三匹の動きは息が合っている。
サッカーの能力ではリーガー兄弟。
動きの良さと人数でカプリコ三騎士に分があった。

「しまっ!!」

さすがにボールをキープし続けるのは難しく、
マイケルがボールをこぼす。
てんてんとフィールドに転がるサッカーボール。

「てりゃぁあ〜〜〜〜〜」

そこに滑り込むのは・・・ロッキー。
滑り込む。
もちろん頭からだ。
またヘッドスライディング。
いや、
やっぱ転んでるのか?
ともかく芝生をすべる小さな少年ロッキー。

「くそぉ!」
「やられた!」
「「正直悔しい!!」」

ロッキーの頭にポテンと当たったボールは、
そのままてんてんと転がり、
一人の足元に納まった。
ボールを踏みつける。
その男。


「あっしの出番ってぇもんでさぁな」

マントのようにスーツのコートを羽織るリュウ。
リュウ=カクノウザン。
背中のコートがなびき、
ボールを片足で踏みつけ、
両手は胸の前で組んでいた。

「親っさん!!かっこいいでさぁ!!」

ボールを所持したリュウに向かい、
新若頭のトラジが声援。
リュウはそのままボールを踏みつけ、
腕を組んだままだった。

「手前、性はカクノウザン、名はリュウと申しやさぁ。
 死にやしましたがぁ、義理ありゃ出向くが男の仁義ってもん。
 奈落も冥土も渡し舟ありゃ黄泉も帰りも難儀ってもんじゃぁありやせん。
 一つ機会に恵まれたこのひと時。筋を通して見せるも一興と馳せ参じさせて頂きやした」
「親っさん!さすがでさぁ!」

「いや・・・」
「はよ蹴れ・・・・」

「トラ坊。火ぃ」
「へい!」

リュウが煙草を取り出し咥えると、
トラジがリュウにかけよりライターを差し出し火をつける。

「ちょ!」
「審判!アウトあるヨあれは!」

さすがに笛が鳴る。

「・・・・・・・・・・タバコはアウトだろ・・・・・・」

レイズがイエローカードを差し出す。
だが、
リュウは堂々とタバコを吸っていた。

「紙切れ一枚。そんなガサ入れで引っ込むタマ無しじゃぁケチがつくってもんで。
 警告なんざ夢御託。そんなもんで止まるようで極道はやってやいられねぇんでさぁ」

カッコイイやらどうなのか・・・
とりあえずスポーツマンとしてフィールドでタバコ。
それは筋が通ってるのかは知らない。
だが、
ボールを踏みしめ、
堂々とタバコを吸う姿は間違ってると言い難い。

「お、おい!退場だろあれ!」

「・・・・・・・いい・・・・もう好きにしろ・・・・・」

お咎めないようだ。
タバコ吸いながらサッカー。
ねぇーよ。
・・・・と誰もが思いながら、
遠くでメッツは「イエロー1枚で吸えるのか」と、
興味津々だった。

「いい事でさぁ。さすがに問題は無粋ってもんでぇ。こちらに非はあれど天晴れと言わせて頂きやす。
 しがな一日。一つの球求め青空の下人集う。夢も桜にも負けず彩るたぁこれも一興。この日・・・」

「烈ッッッ!!!!」

リュウはボールを踏みしめたまま語っていたが、
そこに突っ込む足一つ。
グレイの突発型"烈"。
まぁつまるところサッカーではスライディングでしかないが、
リュウの足元をスルリと抜け、
ボールはグレイの足元に移った。

「だから・・・」
「はよ蹴れと・・・・」

「しゃぁ!!」

グレイに渡ったボール。
グレイは器用にボールを運ぶ。
何が器用かって?
ポケットに手を突っ込んだままドリブルしてるからだ。
まぁそれでも様になるほど足技にキレがあった。
そして、

もうゴール前だった。

「ボール運びをマイケルとロベルトに任せてゴール前まで走ったかいがあったぜ!
 犬畜生もビックリのゴールチャンス!明日のスポーツ欄見て糞でもちびれ!」

軽く蹴りだし、
助走をつけるグレイ。
シュートに行くつもりだ。

「本編で見せなかった俺の蹴技見せてやるぜ!」

グレイはそのまま、
ボールを蹴飛ばした。

「ドライブシュートォオオオ!!!」

いや、
それは本編でやったら大問題だ。
まぁそれは別問題として、
グレイのシュートはギルド連合のゴールへと突き進む。

「やべぇ!!」
「チェスター止めろ!!!」
「分かってるジャン!!!」

ゴールの隅に向かって蹴られたシュート。
キーパーのチェスターが飛ぶ。
横っ飛び。

「届かないだろ!!」

「いや!とって見せるジャン!!!」

どうだ?
分からない。
きわどい。
とれるか。
とれないか。
だが、
ゴール前の異変に気づいた。

「これも忍の特色でござる」

「なっ!?」

ゴール。
ゴールポスト。
ゴールバー。
カゲロウマル。
カゲロウマル=サルトビがいる。
ゴールバーにぶら下がっている。
いつの間にか。
それこそ忍者。
忍。
カゲロウマルがゴールバーにコウモリのようにぶら下がっていた。

「先回りの術成功!」

まさかこんなところにいるとは。
だめだ。
このままでは・・・・

ベコッ。

グレイのシュートはカゲロウマルに直撃した。

「無念・・・・」

カゲロウマルはボールが直撃し、
ゴールの下に落下した。
もちろんボールはゴールに入っていない。
チェスターが慌てて拾う。

「な・・・」
「何をしてんだよカゲロウマル!」
「せっかくのシュートを!!」

「案ずるなでござる」

そう言うと、
ボールが直撃して落下したカゲロウマルの姿は消えた。
煙に巻かれて消えた。
代わり。
代わりにゴールポストの脇からピンピンしたカゲロウマルが出てきた。

「変わり身の術でござる」

「知るかぁああああ!!」
「てめぇの心配なんざしてねぇよ!!」
「なんで味方のシュート阻止してんだよ!!」
「っていうかオフサイドだオフサイドォオオオ!!」

「ぐっ・・・無念・・・」

カゲロウマルはそのままガクンと項垂れた。
無念なのはシュートを打ったグレイの方だと思うが、
足をひっぱったカゲロウマルは落ち込んでいた。
自業自得で足ひっぱった上に落ち込む忍者とかマジで面倒くさい。

「ボール!!こっちだ!!」

叫んだのはトラジ。
《昇竜会》の新若頭、トラジ=テンノウザンだった。

「はいよ!!」

チェスターがボールを投げる。
それはトラジへ渡る。

「よっしゃぁ!!」

トラジがボールをもらい、
振り向く。
黒のオールバックにサングラスが光るスーツ姿。
ヤクザのトラジ。

「俺の出番でさぁ!!」

と、
意気揚々。

「・・・・・誰?」
「誰だあれ・・・」
「あぁ・・あの、あれじゃない?2部の最後の方に出てきた奴」
「あぁ、リュウの引き立て役の」
「ちょい役の」
「新・火付け係か」

「なめてんじゃねぇよ!」

トラジは両手でオールバックの髪を後ろに流した。

「俺も《昇竜会》に盃を捧げた身。仁義と言う名の誇りを持ち、筋という名の極道を・・・・」

いいからはよサッカーやれ。

「分かった分かった!分かったかトラジ君!ボールくれ!」
「即効でいくぞ!カウンターだコラァアア!!」
「俺空いてるぞ!俺に出せ!」

ギルド連合の面々がパスを要求する。
だが、

「親っさん!!」

トラジがボールを渡したのはリュウへだった。

「なんでだよ!」
「カウンターっつってるだろ!」
「馬鹿野郎!親っさんならなんでもしてくれる!親っさんの信用を分からないでか!?
 俺ぁ親っさんしか信じねぇ!だから俺ぁ親っさんにしかパスしねぇからな!」

これまた面倒くさい奴だ。
まぁまたリュウへボールが渡る。
リュウがボールを踏みつける。
風になびくマントのように羽織ったコート。
腕を組んだまま動かないリュウ。

「あっしはリュウ。性はカクノウザン。不肖ながら《昇竜会》の頭を・・・」

「さっき聞いたわ!」
「はよ蹴れ!」

だが、
リュウはマイペースに語りを進める。
それどころか羽織っていたコートを投げ飛ばした。
背中の竜の刺青が姿を現す。

「あっしの背に輝く竜は!この一分一秒を噛み締め生き輝きまさぁ!
 杯(さかずき)もらったその日からぁ!消える事なく空飛び笑う竜が如・・・」

「烈ッッ!!!!!」

スライディングでボールを奪うグレイ。

「・・・・・・」
「デジャブだ・・・」
「デジャブだな・・・・」

ともあれ、
またゴール前でグレイにボールが渡る!!

「ハッハー!!痴話話だな!なんの腐った冗談かしらねぇが!今度こそ俺が!」

だが、

「なっ!!?」

そのグレイの足元。
そこにボールは無かった。

「取られたってのか糞!いつの間に!!」

グレイから一瞬でボールを奪う。
誰が?
どうやって?

「出番いただきや!!!」

神風のように走る。
超速で走る。
神速。
そんな速さのドリブル。
それは、
エンツォだった。

「おまっ!」
「なんで参加してるんだよ!」

「なんでってかぁ?そりゃおかしな質問やんけ!
 ギルド連合っちゃぁGUN'Sの残党も組み込まれてんやろ?
 ならわいもこっちで参加してええんとちゃいまっか!?」

エンツォは超速でドリブルする。
サイドライン際。
目にも留まらぬ速さ。
サイドライン際を光速なドリブルで駆け抜ける世界最速。
エンツォ=バレット。

「わいの速さ!瞬きの隙間!見えへんって形で見せたるわ!!」

ノリノリで突き進むエンツォ。
すでにハーフライン。
その速さは異常だった。
だが、
周りの反応も異常だった。

「・・・・・・・」
「あいついらなくね・・・」
「私あいつ知らないんだけど」
「あぁー、ほとんど本編の話に絡んでないのにやけに頻繁に出てくる奴?」
「ウザいやつか」
「しつこいやつだな」
「あいつ本編的にもいらなくね?」
「なんでわざわざ番外編にまで顔出すんだよ」
「しつこくてウゼェ」

敵味方関係なくあびせられる罵声。
エンツォの動きが鈍った。
ボールがトテントテンと転がり、
エンツォはゆっくりと力なく足を止めた。

「・・・・・・・それが売りやっちゅーねん!」

「ウザキャラが売り?」
「可哀想な奴だな・・・」
「登場を誰にも望まれてないとか悲惨よね」

「・・・・・・・・」

これで心にこない奴はいない。
エンツォは完全にドリブルをやめていた。
そして・・・

「・・・・・・・審判・・・・・・」

レイズを呼び寄せた。

「・・・・・・・なんだ・・・ウザキャラ・・・」

「・・・・・・レッドカードくれや・・・・」

「・・・・・・・・」

なんて悲しい男だろうか。
罵声をもらいまくり、
立場を失って自分からレッドカードを懇願しだした。
自分から退場を所望。

「・・・・・欲しいなら・・・やるが・・・」

レイズはレッドカードを軽くかかげる。

「・・・・・・・おおきに」

そして立ち去るエンツォ。
世界最速。
そうは思えないほどトロトロと項垂れて退場していくエンツォ。

「えろうすんまへん・・・」

謝られた。
自分で退場して謝って出て行った。
まぁ、
頑張れとくらいは言ってやりたい。

「おいレイズ!この場合どっちボールだ!」

ドジャーはすでに試合に再開に夢中だった。
レイズは一人先に帰宅しながら一度振り向いたが、
誰もそれには気づかなかった。
・・・・・・バイバイ。

「・・・・・・・別に・・・・・・・お前らボールでいいぞ・・・・」

「おっしゃぁ!」

ドジャーが急いでボールを拾いにいき、
試合再開。
気を取り直して試合再開。

「カッ!こっからはこっちの攻めだぜ!」

ドジャーは意気揚々としていた。

「いくぞアレックス!!」

と、
ボールを蹴り出そうとするが、

「・・・・・すいません」

当のアレックス。
アレックスはなんか謝っていた。
なんで?
それはアレックスの姿を見れば分かった。

「なんか知らないんですけど・・・僕に密着マンマークがダブルでついてるんですが・・・・」

アレックス。
アレックスにマーク二人。
・・・うん。
ついていた。
密着。
それはもうベッタリと。

「せっかく生き返ったんだから逃がさないわよアレックス部隊長♪」
「・・・・・・・・あたしこっちのチームでいいのに」

それは姉妹。
サクラコとスミレコ。
ドSの姉、サクラコ=コジョウインと
ストーカー妹、スミレコ=コジョウイン。
それはもうベッタリとくっついていた。

「馬鹿!何やってるアルか!」
「なんでそんな中盤で二人もアレックス部隊長にマーク行ってるんだよ!」

「あら、それは自由でしょ?マークしたいからマークしてるのよ。
 拘束は大好き♪ムチが持ち込み禁止なのだけが残念だわ♪」
「・・・・・・・・私はむしろマーキングしたい」

SM姉妹にベッタリマークされるアレックス。
いろんな意味で身動きがとれなかった。

「あの・・・・僕は普通にサッカーがしたいんですが・・・・」

「普通に?普通なんてつまらないわよアレックス部隊長♪
 危ないノーマル。それはアブノーマル♪世の中はアブノーマルこそ楽しみなのよ。
 でもそんなに球蹴りしたいならアレックス部隊長の玉なら蹴飛ばしてあげるけど♪」
「・・・・・・私は蹴飛ばされたい」

「・・・・・・・・誰か助けて・・・・・・」

広いサッカーのフィールドで監禁されるアレックス。
サッカーで人質。
それも珍しい光景だ。
アレックスは涙目で鳥肌をたてまくっている。
逆に楽しそうなSM姉妹。

「じゃぁ俺ちゃんも♪」

と、
エドガイがアレックスの肩に後ろから手を回した。

「楽しもうぜ可愛い子ちゃん♪」

どっから沸いて出たのか。
アレックスにはいい迷惑以外の何物でもなかった。
サクラコとスミレコ。
そしてエドガイ。
敵味方関係なく、
3人にベッタリマークされるアレックス。

「・・・・・・ほっとこう」
「そんな!ドジャーさん!見捨てないで!」
「・・・悪ぃアレックス。俺にはどうしようもなさそうだ・・・・」

黄泉の国から手を伸ばすようにアレックスはドジャーに助けを求めたが、
ドジャーは目をそらすので精一杯だった。

「まぁまぁ可愛い子ちゃん♪俺ちゃんと向こうで夜のPKしようぜ♪」

ドジャーは心の中で同情しながら、
ボールを蹴り出した。

「むっ、拙者か」

イスカへと。

「いけるか!?イスカ!」
「無論だ」

イスカは自信満々でボールを受け取る。

「剣技の中には蹴技もある。見出せばどんなところにも技はある」

確かにそうだ。
蹴りは剣を極める中で必要な要素の一つ。

「いくぞ!戦連撃(ウォーリアーダブルアタック)!」

鮮やか。
そう言わざるをえないだろう。
不思議ともいえる。
見事ともいえる。
右足でボールを蹴り出したイスカ。
だが、
ボールは軸足の左足に当たり、
虚しくコートの外へ転がった。

「・・・・・・・・」

思った方向に飛ばなかったのが不思議なのか、
イスカはボールの行方も見ず、
進行方向を凝視したまま黙った。

「・・・・・・」

そして片ヒザをついてつぶやいた。

「拙者・・・不器用でな・・・」
「言い訳はいい・・・」

無念がるイスカ。
それにこれ以上かける言葉はない。

44部隊ボールでスローイン。

「おい」
「誰が投げる?」

サイドラインに置かれたボール。
誰がスローインするか。
いや、
すでにもうそこに人は居た。

「あんなー、棒高跳びが発達すれば横断歩道はいらなくなると思うんだー」

失礼。
パンダだった。

「オラ、新しいユニットバスを考えたんだー。お風呂とトイレが合体してるんだー」

それは新発明だ。
場所をとらない上にワンタッチでお湯が流れ、
ウォシュレットがシャワーになるんですね。
誰が使うか。

「つまり未亡人が最強だと思うんだー」

「「「・・・・・・・・・」」」

ボールの横に転がるパンダ娘。
ただのスローインが不安になるのは初めてだ。

「おいパムパム・・・」
「いいからスローインしてくれ・・・」

「コラーーーーッ!!オラに物を頼むときは"ごめんなさい"を付けろー!」

「・・・・・・・ごめんなさい」

「おー、いいカミングスーンだなー」

・・・・。
なんかほんとごめんなさい。
助けてください。

「あんなパムパム・・・」
「そこのボールをちょんっと触ってくれるだけでいいんだ・・・・」

やけに敷居の低いスローインだが、
それさえもこのパンダ娘にやらせるのは難しい気がする。

「おーーー」

だが、
予想外にパムパムは自分の横にあるサッカーボールに興味を示した。
興味深そうに座り込み、
じっとサッカーボールを見つめる。

「ボールは友達かー」

これは・・・
いけるかもしれない。

「オラは友達と思ってないけどなー」

やっぱダメかもしれない。

「コラー!なんとか言えー!人の話を聞かない奴はいい大統領になれないんだぞー!」

・・・と、
ボールに叫ぶパムパム。
いや、
正論だが、
間違っている。
何もかも。
というかお前が話しを聞いてくれ。

「頼む!パムパム!」
「ボールを投げてくれ!」
「それだけで・・・それだけでいいんだ・・・・」

「ふむー」

パムパムは首をかしげた。

「つまり円周率の問題だなー」

だめだ。
無敵すぎる。

「あんなー、昨日の夕御飯はポン酢だったんだけどなー、
 やっぱあれはかき氷にしか合わないってバナナ大王が怒ってたんだー」

さぁどうしよう。
どうすればいいのだろう。
スローインが終了しない。
サッカーが再開されない。

と思っていると、
どこからか口笛が鳴り響いた。
審判のホイッスルかと思ったが、
口笛だ。
高く響き渡る口笛の音。

「パムパム!投げろ!!あんたならできるよ!」

言ったのはキリンジだった。
全生物で唯一パムパムという存在とコミュニケーションを取れる存在。
神の一声だった。

「おー、そういうカラアゲだったのかー」

パムパムは意味不明の事を言いながら、
目の前に落ちてるボールを投げた。
いや、
投げたっていうか、
ケツでヒップアタックしたが、
ボールはコート内に転がった。

「・・・・・・・・・・もういいや・・・・・・・・」

レイズは審判として今のスローインを問題にしなかった。
こうじゃなきゃ進まないからだ。
他の誰も文句を言わなかった。
ナイスジャッジと指を立てる奴はいた。

「よくやったなミス.パムパム。あとでお茶でもどうだい?・・・・さぁて。試合再開だぜい」

ボールを拾ったのはギルバートだった。
パムパムをナンパするとか、
女なら誰でもいいのか。

「調子こくなよオッサン!!」

「おっと若造(ニーニョ)。ダンディなジェントルマンにオッサンはないだろ?」

ギルバートのドリブル。
いや、
別にドリブルに特筆すべきはない。
ただ・・・・
右手にワイングラスを持ったままだった。

「ちょ、なんでそんなもん持ってるアルか!」
「やりにきぃだろ!」

「ニーニョ達。人生アンバランスにこそ華があるんだよ」

「審判!!」

「・・・・・・・・別に凶器じゃないし・・・・・いいんじゃね・・・・」

「いいのか・・・」

いいらしい。
ギルバートは赤いワインを持ったままドリブルを始めた。
驚く事に、
ワインが零れない。
それはそれで物凄い。

「制限ある不安定の中でこそ、男は磨かれるものだよ」

ヒゲを生やしたダンディは、
ワイングラスを持ったまま愉悦顔でドリブルしていた。

「いかせるかってんだ!」

立ちふさがるはドジャー。

「ニーニョには無理さ」

「おっさんが粋がるなよ!」

ドジャーがギルバートからボールを奪おうとする。
だが、
ギルバートは鮮やかに体を翻し、
ドジャーを避け、
抜いた。
ワインは零れていない。

「ん〜♪・・・俺ってブラボー♪」

愉悦顔のまま、
ギルバートはドリブルを続ける。

「このやろ!俺は引き立て役で参加したんじゃねぇぞ!」

と、
ギルバートを追いかける主人公2。

「補助スペルはありだったよな!!」

そう言うドジャーの周りに風が渦巻く。
巻き上がる風。
ブリズウィク。
移動速度向上スペル。

「やられるか!」

ドジャーは加速し、
一気にギルバートに追いつく。

「何度だって同じ事だよニーニョ」

だが、
予想外に上手い親父だった。
ギルバートはドジャーのプレッシャーをものともしない。
ワイングラスからワインを零すことさえなく、
瞬発力にものをいわせるドジャーの猛攻を鮮やかに避け進む。

「ボールゲームも楽しいものだな。ダンディのたしなみといったところか」

「クッソ!」

のれんを押すように、
ギルバートへのアタックは意味がない。
まったくボールが取れない。
得意げなギルバートの顔がむかついた。
だがとれないからと言って、
スピードはドジャーの方が上。
置き去りにもされない。

「だがゴールの方へは進めているさ」

「カッ!なめんな!」

「いつまでついてこれるかなニーニョ」

「俺をなめんなよ!」

「ジャンボジェットは世界いちいいいいいいいいい!!!」

「「!!?」」

突然背後から迫る声。
声で分かる。
二人の背後から迫るもの。
もの。
パンダ。
パムパム。
両手を広げ、
まっすぐドタドタ突っ込んでくる。
超絶ダッシュパンダ。

「半熟バターで写生の旅っ!」

「うごっ!」

「がはっ!」

パンダが通ります。
パムパムはギルバートとドジャーをひいた。
吹っ飛ばした。
ドジャーとギルバートはきりもみ状態で上空へ吹っ飛ぶ。
ボールと共に、
空へ吹っ飛ぶドジャーとギルバート。
ワイングラスから零れるワインがキラキラと輝いた。

「あなたのお宅へホールインワァーーーーン!!!」

パムパムはそんな事をよそに、
そのままダッシュで通り過ぎ、
ギルド連合のゴールへ突っ込んだ。
いや、
自分だけで。
ゴールネットを突き抜けてどこへ行くパンダ。

「よく分からんけどボールが浮いたぞ!」

誰かの叫びと共に、
全員が空中を見る。
きりもみ状態で舞うドジャーとギルバートはさておき、
ボールは遥か空中へ。

「ジャンプ力なら私だわ!!」
「痛っ!」

そう言って、
メッツを踏み台に空中へジャンプしたのはマリナ。
蜂のように舞い、
蜂のように刺す。
ブロンドの髪が蜂の羽に舞う。
マリナは空中のボールへ。

「いいぞマリナ!」

だが、
44部隊もボールが欲しいのは同じ。

「いくぜマイケル!」
「分かってるロベルト!!」
「日本代表が!」
「世界通用するってのを!」
「「証明する!!」」

日本ってどこだ。
ともかくそう言い、
空中のボールを追うのはリーガー兄弟。

「飛べロベルト!」
「分かってるマイケル」

ロベルトが小さなジャンプ。
マイケルはその下に滑り込んだ。
そして、
マイケルは両足を突き出す。
両足で、
ロベルトを空中へ突き出した。
ロベルトの両足とマイケルの両足が重なり、突き出すと、
ロベルトは空高くジャンプした。

「「スカイラブハリケーン!!!」」

コンビプレーの真髄。
どっかの漫画の必殺技。
空高く飛び出すロベルト。

〔ピピーーーーッ〕

鳴り響く笛。


「ええ!?」
「なに!?」
「「なんで!?」」

笛が鳴り響き、
マリナも、
リーガー兄弟もそのまま着地した。

リーガー兄弟に近づく審判レイズ。
その手にはイエローカード。

「・・・・・・・・反則・・・・」

「「だからなんで!?」」

「・・・・・著作権の侵害・・・・・・・」

そんなルールは知らない。

「ちょ!」
「それもファールなの!?」
「さっきドライブシュートとか出てたじゃん!」
「「なんで俺らだけ!?」」

「・・・・悪意がありすぎる・・・・そして古い・・・・」

よく分からんがファールらしい。
たしかに見ていて胸糞悪い。

「・・・・・・・・クックック・・・・」

いや、
ただのレイズの好みの判断かもしれないが・・・・

「・・・・・・まぁイエローだ・・・・・」

レイズが差し出すイエローカード。

「どっちに!?」
「もしかして二人にイエロー!?」

「・・・・いや、一枚・・・・・・」

「へ?」
「一枚って?」

「・・・・・・・どっちかがイエロー・・・・お前ら仲いいんだし・・・・好きなほうが受け取れ・・・・・」

「「・・・・・・・」」

「・・・・・・・クックック・・・」

鬼かこいつは。
だが、
兄弟といえどイエローはお互い欲しくない。

「マイケルもらっとけよ・・・」
「ロベルトでいいじゃん・・・」
「野球好きなんだからサッカーでもらったっていいだろ!」
「じゃぁ別にお前でいいだろ!」
「・・・・」
「むぅ・・・」
「分かったよ・・・じゃぁ俺がもらうよ・・・」
「!?・・・何言ってるんだロベルト!」
「俺達兄弟だろ・・・」
「それなら俺がもらってやるよ!」
「いいや!俺が!」
「俺が!」
「「俺が!」」

なんだこの会話。

「・・・・・・・クック・・・仲いいな・・・ならケンカにならないようにもう一枚つけよう・・・・」

そう言い、
レイズが差し出したカードは赤かった。
レッドカードだ。

「そっちのがイヤだろ!」
「なんで善意でカード進化するんだよ!」

「・・・・・・じゃぁ選べ・・・イエローとレッド・・・・どっちがいい・・・」

「「・・・・・・・・」」

ロベルトとマイケルは顔をあわせるが、
考えなくても結果は出ている。

「「イエローで・・・」」

そりゃそうだ。

「・・・・・・・・クックッ・・・」

レイズは笑った。
悪魔審判は笑った。

「・・・・・お前ら正直だな・・・・正直なあなた達にはレッドを1枚づつあげましょう・・・・・」

「「・・・・・・」」

どこの泉の女神様だ。
悪魔だ。
リーガー兄弟はお互いを慰めあいながら、
とぼとぼとベンチへ戻っていった。
まさか自分達の見せ場が悪魔のきまぐれで終わるとは思っていなかっただろう。

「おいレイズ!フリーキックだろ!さっさとしやがれコラァ!」

メッツが叫ぶ。
こちらボール。
ならばさっさと。
だが、

「・・・・・・・・いや・・・・ジャンプボールだ・・・・・・・」

「・・・・・・・・は!?」
「サッカーだろこれ!」
「バスケやドッジじゃないんだからよぉ!」

「・・・・・・・・空中で反則が起きたから・・・・・空中から特殊フリーキックだ・・・・・・
 ・・・・・・・とったもんが勝ち・・・・・・・クック・・・・もち俺の思いつき・・・・・・」

・・・・・・・。
審判がゲームを楽しんでどうする。

「・・・・・・・さっさとやるぞ・・・・・」

レイズがボールを持つ。
周り両者慌てる。
ジャンプボールなんて想定してない。
もちろん手は使っちゃいけないのだろう。

「・・・・・・・ほれ・・・・・奪い合え・・・・・・」

審判の言葉と思えない言葉。
それと同時。
レイズの手からサッカーボールが空中へ勢いよく投げられる。

「くっ!!」
「飛ぶしかねぇ!!」

ギルド連合。
44部隊。
両者の人間が一斉に飛ぶ。

「やっぱりジャンプ力ならこのマリナさんよ!!」
「ふがっ!」

またメッツを踏み台に、
マリナが高く高く飛ぶ。
蜂のように舞う。
やはりそのジャンプ力は脅威。

「させっかクソアマ!!」

対抗して跳んだのはグレイ。

「覚えとくアルよグレイ・・・・」

グレイはダ=フイを踏み台にして跳んだ。
脚力の自信。
それは事実。
ポケットに手を入れたまま高く高く。
まるで人間大砲のように。

「アマに負けたら痴話だ。俺がとるぜ」

「このマリナさんにアマとは言うわね」

互角。
同じくらいのジャンプ力。

「とぉおおんでけぇえええええええ!!」
「お〜〜〜わぁ〜〜〜〜〜い!!」

下から声が聞こえると思うと、
凄い勢いで向かってくる者。
ロッキーだ。
その小さな体が弾丸のように飛んでくる。

「ガハハ!!メッツカタパルトォ!!ってかぁ!!!」

メッツがぶん投げたのだ。
ロッキーの小さな体は凄い勢いで空中へ吹っ飛ぶ。

「高いたかぁ〜〜い!!」

「クッ!アマの次はガキかよ!痴話だ!クソ痴話だ!」

「それでも私が取るわ!」

「・・・・・・いや・・・俺だ」

また下から声。
飛んできたのは・・・ニッケルバッカー。

「俺はできる子だ・・・俺はできる・・・できる子だできる子だ・・・」

という自己暗示。
・・・・。
まぁ、
一人だけ相手にならないほどジャンプ力がなかった。
ニッケルバッカーは戦力外。
このジャンプボール。
空中で張り合うのはマリナ、グレイ、ロッキー。

「ぼくのだよ〜〜〜!!」
「私が取るって言ったらもう私のもんなのよ!」
「ガキとアマに負けれるかクソ胸糞わりぃ!!」

わずかにマリナのジャンプ力が高い。
このまま行くとマリナか・・・・

「あめぇよ!クソ甘ぇ!!」

グレイは空中で体勢を変える。

「手が使えねぇんだ!足を伸ばせる俺が有利ってもんなんだよクソが!」

足の長さ分グレイ。
だがマリナの方が高く飛んでいる。
ロッキーも吹っ飛んできているので追いつけば可能性が・・・
マリナ、
グレイ、
ロッキー。
空中で三者がボールに飛び交う。
そして・・・・・・・

「ゲットだぜっ!!!」

取ったのは・・・・

「よっと」

全員が一斉に着地する。
マリナはボールを取っていない。
グレイも。
ロッキーも。
なのにボールを取ったのは・・・

「オイラの勝ちぃー!!」

チェスターだった。
チェスターもジャンプしてきていた。
チェスターのジャンプ力も猿並に凄い。
だが、
マリナ、グレイ、ロッキーを掻い潜ってチェスターがボールを取れた理由は・・・・

「ジャジャーーン!!ソッコージャン!!」

チェスターはボールを掲げた。
その手で。


〔ピピーーッ〕


当然鳴り響くホイッスル。

「えぇ!?なんで!?」

ボールをガッシリ掴むチェスターは、
首を傾けた。

「トラベリング?」

「・・・・・・そんなルールない・・・・」

レイズは呆れ顔でチェスターに言う。

「・・・・・・・・なんで手で取ってるんだ・・・・ハンドだハンド・・・・」

「ばっかだなーレイズは!!」

チェスターは自信満々にフフンと鼻を鳴らし、
意気揚々と言った。

「オイラはキーパーだぜっ!!!」

「「「「・・・・・・・」」」」

やはり馬鹿にはキーパーさえやらせるべきではなかった。

「あんなチェスター・・・」
「キーパーってのはゴール前じゃないと手ぇ使っちゃ駄目なんだ・・・」

「えぇ!?マジで!?キーパーなのに!?」

「キーパーだからだ・・・・」
「どこでも持てたらラグビーになるだろが・・・」

「ありゃぁー・・・?」

チェスターは落ち込んだ。
難しいなぁサッカーは。
そんな顔だった。


「速攻だ!!!!」

「!?」

ボールがすでに蹴られていた。
蹴ったのはユベン。

「なっ!」

「ふん。ちゃんと審判には許可とったぜ」

ユベンは自信ありげに言う。
こういう状況判断はさすがというべきか。
出番がとても地味だが。

「いくぞお前ら」

ボールを蹴飛ばしたユベンが言う。

「作戦決行だ」
「おう!」
「ァィャー!」
「「「「王国騎士団に栄光あれ!!」」」」

蹴飛ばしたボールは・・・

「・・・・・シュコー・・・」

スモーガスのところに渡った。

「・・・・・・・・シュコー・・・コー・・・」

「なんだぁ!?」
「煙でまみれて見えねぇ!」

スモーガスの周りには煙が立ち込めていた。
スモークボム。
立ち込める煙。

「・・・・コォー・・・・俺が・・見えないのか?」

「くそっ!」
「だがあの煙のどっかにいるはずだ!!」

「・・・・シュー・・・・いるさ・・俺はここに」

と、同時。
今度は煙がひいた。
煙が晴れた。
いや、
消えたという言葉が正しいかもしれない。

「いねぇ!!」
「誰もいねぇぞ!」

無くなった煙の中。
そこには・・・
ボールどころかスモーガスの姿さえなかった。

「ってか地面が消えてってるぞ!」
「おいドジャーどこだ!」
「カムフラ!?」

消えた。
全てが。
スモーガスを中心に不可視になっていく。
全て。
円形に。
球形に消えていく。

「見えねぇ!」
「何も見えないわ!」
「誰かディテクしろ!!」

「何よりさ。時間稼ぎに過ぎない」

どこかでユベンの笑い声がした。

「カッ!カムフラぐらいじゃ・・・」

ドジャーがディテクで自分の周りのインビジを解除する。
ドジャーの周りの人間の姿が現れる。
ドジャーだけでなく、
盗賊が一斉にディテクションを発動したため、
そこら中で人間の姿が現れた。
だが、

「おいあれ!!!」

ジャスティンが指をさした先。

「・・・・・・・・・・・・・・・全部絡まればいい。この芋虫共」

両手を芝生につけている者。
スミレコ。
スミレコ=コジョウイン。
そしてその手から・・・
放射状に伸びていく・・・蜘蛛の巣。
スパイダーウェブ。

「やべぇ!!」
「逃げろ!!」

迫りくるスパイダーウェブ。
だが、
不意をつかれたため皆蜘蛛の糸の餌食になっていく。

「くそっ!そういう事か!」

ドジャーが自分にかかったスパイーダウェブを解除し、
苦笑する。

「蜘蛛全員分解除してるヒマはねぇ。盗賊しか動けねぇって事か!」

「理解が早い事は何よりだ。まぁそういう事だ」

ユベンは笑う。
そして、

「アレックス部隊長。ちょっとだけお別れね」
「・・・・・・正念場でござる」
「・・・・・・シュコー・・・」
「・・・・・・・・みの虫の相手とか疲れる」
「だがこういうのは大好きだぜぃ。ニーニョは蜘蛛の巣で寝てな」

44部隊。
その盗賊の数。
圧倒的に不利。

「やってやるでござるよ」

カゲロウマルがボールにディテクションをかけ、
ボールを運ぶ。
敵はほとんど蜘蛛の中。
蜘蛛の巣に絡め取られ動けない。

「くっそ野郎め!!」

ドジャーが向かう。
だが追いつけない。
それだけ。
それだけでもう・・・

「てやんでぃ!!」

だが、
立ちふさがる者。

「ルケっ子がここで意地張らねぇでいつ張るんでぃ!!」

ジャッカル。
ジャッカル=ピッツバーグ。

「鈍足な海の民でござるか。忍の相手にはならんでござるよ」

「バーローべらんめぇ!」

ジャッカルが海賊帽をかぶり直し、
眼帯のついた目で睨み、笑う。

「海賊王は・・・・」

ジャッカルが踏み出す。

「どんなものでも盗む!たとえボールでもな!」

一瞬だった。
一瞬ジャッカルが踏み込む。
そして一瞬でカゲロウマルとすれ違う。
そして・・・

「・・・・・無念」

ボールはジャッカルの足元にあった。

「てやんでぃ!藻屑になりな!」

ジャッカルは海賊帽をかぶり直し、決めた。

「くそ!何よりじゃない!解除しろ!」

蜘蛛の巣が解除される。
スミレコがスパイダーウェブをやめたのだ。
全員が開放される。

「バーロー!海賊王をなめんじゃねぇぜ!これが海人(うみんちゅ)の力だ!」
「さすが親父!」
「親びんすごいでヤンス!」
「おっしゃ一気にいくぜ!!」

ジャッカルがボールを蹴った。
パス。
それは長く低く。
転がるボール。
そのボールは・・・

「あ・・・あと・・・えっと・・・」

フレアの前に転がった。

「いけフレア!」
「一気にいけ!」

「あぁ・・・えぇと・・・・」

フレアは焦っていた。
どうしたらいいのかという様子。
いや、
蹴れ。

「おいはやく!」
「チャンスだぞ!」

「そんな!私なんてメテオ以外なんの取り得もない人間なんです!」

「いいから蹴れ!」
「とにかく前に蹴れ!」

「は、はい!えい!」

フレアがおぼつかない足でボールを蹴る。
蹴る。
空振り。
そのままフレアはくるくる回り、
ドテンと転ぶと同時にやっとボールにぶつかった。
ボールは失速さえしないほどヨロヨロと転がった。

「あちゃー・・・」
「フレアさんって予想以上に秀でたものないですよね・・・」

ヨロヨロオロオロと転がるボール。
それは・・・
相手の足元に転がった。

「・・・・・・・・」

その女性はぬいぐるみを抱いていた。

「チャンスだメリー!」
「蹴れ!!」

「・・・・・・・」

メリーはオドオドとしていた。
何かを訴えようとしていたが、
口が利けないため、
よく分からない。
いや、
伝わる。
・・・・・・・・つまり駄目そうだ。

「蹴れ!蹴ればいいんだよ!」
「とにかく前に出して!」

「・・・・・・」

メリーはオドオドと眉をひそめながら決心したようで、
ギュウと胸でぬいぐるみを抱きしめ、
懇親の思いで蹴飛ばした。
・・・・。
もちろん思いとは裏腹に、
ボールはコロコロと転がった。

「アィヤー・・・」
「お互いダメだな・・・」
「いや、」

そのボールに一人走りこんでいる者。

「ピアニッシモも上等だよ♪それはクレッシェンドへの道しるべ。道の調べさ♪」

ミヤヴィ。
ミヤヴィがボールを拾う。

「こういうのも全てリズムさ♪アン♪ドゥ♪トロワの階段さ♪」

軽快なリズムでドリブルを始めるミヤヴィ。
リズムよく。
一定の間隔で音楽を奏でるようにドリブルする。

「おっしゃ!!ミヤヴィ!こっちだ!」

エースが手招きしながら走りこむ。
パスをくれと。

「ボールは友達ってんだろ!?俺がそいつに名前つけてやるからよぉ!」

エースはいいポジションをとっていた。
パスが通るとヤバイ。

「・・・・・・・」

だが、
エースは走るのをやめた。

「・・・・・・おい」

エースはミヤヴィを見る。

「♪〜〜♪♪♪・・・ド〜ド♪レドシソ♪」

ミヤヴィは夢中だった。
リズムに。
その自分のドリブルに。
ハーモニーを奏でる事に。

「・・・・・・・ソロで遊んでるんじゃねぇよ・・・」
「貸すアルね!!」
「あぁ!!?僕のハーモニーが!」

ダ=フイが仲間であるミヤヴィからボールを奪い取る。
まぁしょうがないだろう。
あのままではボールと共にミヤヴィは大行進。
止まる事なく地平線の果てまでいってしまいそうだったのだから。

「マサイの男に任せておけば安心アルよ」

ダ=フイがボールを蹴り進む。
悪くない。
修道士というのはやはり身体能力が高く、
運動神経に優れているものなのだろう。

「ダ=フイ!貸せ!パスしろパス!」

平行して走り、
ダ=フイに声をかける男。
グレイ。

「・・・・・・・」

ダ=フイは無視。

「おい!聞こえねぇのか田舎もん!」
「うるさいアルね!」
「聞こえてんじゃねぇか糞!さっさとボール貸せ!」
「イヤアルよ」
「んだと!!」
「サラセンの男には絶対ボール渡さないネ」
「んなこと言ってる場合か!」
「これ以上重要な事ないヨ」
「糞野郎め・・・」
「とにかくあんたにボールあげないヨ。エース!パスアルね!」

ダ=フイがパスを出したのはエース。
近くの絶好の場所にいるグレイは無視。
ガン無視。
サラセンの男など信用ならない。
だから無視。
ってことでエースにパスだ。

「・・・・・・・・・と思いましたよ」

「!?」

だがそれを絶妙のタイミングでカット。
パスカット。
アレックスだ。
狙っていたかのようなタイミング。
いや、
狙っていた。
ダ=フイとグレイの仲の悪さを考え、
パスコースを予測していた。

「頭を使えば楽もできるのがスポーツなんですよ」

アレックスは笑顔でそう言い、
逆にボールを運ぶ。

「クソッ!しまった!」
「あんた達がケンカしてるからよ!」

「っしゃあああ!よくやったアレックス!」
「そのままいけぇえええ!」

「・・・・・っていっても・・・」

アレックスはドリブルしながら周りを見渡す。
強靭なる44部隊が立ちはだかる。
どこを見てもだ。

「僕一人で突破できる気はしないですけどね・・・」

だからといって、
パスコースもなかった。
突破するには距離がありすぎる。
パスもできない。
どうする。
身動きがとれない。

だが、
身動きをとったのはもっと別の者だった。













-ギルド連合 ベンチ-



「どうしたのぉ〜〜?お姉さん〜〜?」

ロッキーが心配げに覗き込む。
それはツヴァイ。
ツヴァイがプルプルと震えていた。

「お腹いたいのぉ〜?」

「いや・・・・」

ツヴァイはベンチから勢いよく立ち上がった。

「もうカス共のプレイなんて見てられん!!審判!!」


「・・・・・・ん?・・・・・・・」

レイズが呼ばれ、
ギルド連合の方のベンチを見た。
ツヴァイは表情を鬼のようにして立っている。

「選手交代だ!!」

「・・・・・・・いちいち報告しなくていいって言ったろ・・・・・・」

「選手交代!オレ!」

ツヴァイが右手の親指で自分自身を指差した。

「・・・・・・・・・は?・・・・・」

「オレが出るって言ってるんだカスが!」

「・・・・・それは無しって言っただろ・・・・・・」

「イエローでもなんでも出せばいいだろ!オレを出させろ!」

「・・・・・そういう問題じゃない・・・・」

「じゃぁなんだ。お前を殺せばOKか。それなら文句も言えないだろう。
 死人に口なし。ふん・・・・それが所望ならこの番外編で二度目の死亡を与えてやろう」

「・・・・・・・・・認める・・・・・・」

「最初からそう言え」

ツヴァイがコートに立った。


「ちょ!」
「そんなんありかよ!」
「完全脅したじゃないの!?」
「じゃあこっちもロウマ隊長を・・・・」

44部隊が一斉にベンチを見る。

-44部隊ベンチ-

「・・・・・・・・いや、このロウマ。最後まで見届けよう」

「そんな!」
「隊長出てくれよ!」

「死人が出てもいいならな」

「「・・・・・・・」」

それは困る。
確かにツヴァイとロウマ。
その巨大な力が二つ同時に出た瞬間、
緑のフィールドが赤く染まるかもしれない。

「俺らで止めるしかねぇ!!」

迫りくるツヴァイ。
まるで戦争のような形相だ。

「どけっ!!カス!!」

「・・・・・・・・」

片手でポィ!
メリーさんがコートの彼方へと飛んでいった。

「ちょ!」
「反則だろ!」
「腕使ってるぞ腕!!」
「審判!」

「・・・・・・・どうしようもない・・・・」

「は!?」

「・・・・・・笛やカード如きで・・・止まる気がしない・・・・」

「「「・・・・・・」」」

たしかにそうだ。
今のツヴァイ。
笛が鳴ろうが、
反則だろうがおかまいなしだろう。
どうやって止めろというのだ。

「シュコー・・・・」

「邪魔だカスがっ!!」

片手でポィ!
スモーガスがコートの彼方へと吹っ飛んでいった。
どうしろというのだ。
完全にボールはおまけだ。
重兵器が突進してきている。

「いかせるわけには行かないさ」

立ちふさがるのはユベン。
44部隊の要。

「・・・・・・俺だけは突破されるわけにはいかんのでな」

44部隊のキャプテン。
立ちふさがる。
迎え撃つ。
ツヴァイを。
堂々と。
その自信・・・・・・

「視界から消えろカスが!!!」

・・・は儚く砕け散った。

「・・・・・・・・・何よりじゃない」

ユベンはそう言いながら、
コートの彼方へ飛んでいった。

「やべぇ!?」
「あとゴールだけだ!!」

「いけツヴァイ!」
「ツヴァイさん!!」

「黙れカスども!」

ツヴァイは突進する。
ゴールに向かって。

「ナックル!」
「止めろ!お前だけだ!」

「は!はいッス!!」

キーパーのナックル。
だが少しビビっていた。
何せ守らなきゃいけないゴール。
それに向かってツヴァイが突進してくるのだから。

「お、男は退かないッス!逃げないッス!」

と言い聞かせ。
心を落ち着かせる。
だがツヴァイはすぐ目の前まで・・・・

「死ぃいいねぇええええ!!」

・・・・と、
シュートを打つ叫びとは思えない。
何かしらやけにストレスが溜まっているようだ。
そんなにカス達のサッカーを見ているのがイライラしたのか。
だが、
死ねと言いながら放ったボール。
それはもう・・・
たしかのそのまま・・・殺人シュートとでも言っていいような勢いだった。

「お、男は逃げないッス・・・」

本当にサッカーボールなのか?
飛んできてるアレ。
アレはボーリング球か何かが大砲か何かで射出されたんじゃないのか?
だが、
あれが大砲だろうが核兵器だろうが、
止めなくてはいけない。

「クッッソォオオ!!男ならやってやれだあああああ!!!」

腕を振りかぶり、
そして思いっきり突き出すナックル。
超パンチング。
というかもう真っ直ぐのド右ストレート。
それがツヴァイの放ったシュートにぶつかる。
ぶつかり、
火花を散らしながら押し合う。

「ぐぬぅううううう!!」

ボールと・・・人間の拳・・・
その二つが・・・押し合っている。
あり得ない光景だ。
起こりえない。
だが怒っている。
退かない男のパンチ。
・・・・・にボールが負けない。
それほどの威力のボール。
それほどの威力のシュート。
恐らくほっておいたらイカルスくらいまで飛んでいくんじゃないだろうか。
それはないか。
いや、
ありえなくもないぐらいのシュートなのだ。

「まぁ・・・けえええええ・・・・・・」

ナックルがねばる。
拳に血管を浮き出させるほど本気で拳を突き出す。
限界の限界まで力を搾り出す。
そして・・・

「・・・・・・・・・なぁああああいいいいいッスよぉおおおおお!」

止まった。
ナックルの動きが。
止まった。
突き出したままの拳。
そしてボールは・・・

コロンコロン・・・
と足元に転がっていた。

「な・・・」
「止めた!」
「ツヴァイのシュートを!?」

「疲れたッス・・・・」

シュートを止めるだけで体力を消耗したナックル。
それほど驚異的なシュートだったが、
それを止めた。
疲れきったが、
ツヴァイのシュートが止められたなら、
もう得点する方法は・・・・


〔ピピーーーッ〕


笛が鳴り響いた。
レイズの笛だ。
なんの?
と思うと・・・・

「おい!」

ボールがゴールに転がっていた。
てんてんと。
力なく、
だが確実に・・・・

「なんで!?」
「どうした!何があった!」

「ボールがゴールに入ってるんですけど・・・」
「なんだぁ?風で転がったか?」

という、
両者の疑問も、
本人が自分の口で答えを出した。


「美しいな!実に美しい!」

一人の男が声高らかに言い、
感動に身震いをしていた。

「見たかい?これがボクの真髄さ♪一点の重みは一転の極み♪
 それは美への階段。それを踏みしめたのをボクの足♪」

彼は両手を広げ、
ゴール前で自画自賛で感動していた。

「「・・・・・・・・・」」

逆に回りのテンションは低かった。
というののも・・・・

「誰・・・」

と・・・敵味方問わず思ったからだ。

「ボク?ボクかい?ボクは美の貴公子モントール=エクスポさ!」

と自慢げに高らかに華やかに言うエクスポ。

「・・・・・・」
「いたのお前・・・」

「え・・・」

エクスポは固まった。
彫像のように。

「いや・・・・」
「いたんですね・・・・エクスポさん・・・」
「まったく気づかなかったぜ・・・・」
「え?インビジしてた?」
「影さえ感じなかったんだが・・・」

「ちょ・・・・一応《MD》のメンバーなんだけど・・・」

「いや・・・悪気はないんですよ!ただ・・・その・・・気づかなかったっていいますか・・・」
「同じ酸素吸ってると思わなかったっていうか・・・」
「忘れてたっていうか・・・・」

「・・・・・・・」

エクスポは口の端をヒクヒクさせていた。
その侮辱というか・・・待遇に・・・

「い、いや!ボクは忘れられちゃ駄目だろ!」

「その・・・なんつーか・・・本編でも空気だし・・・」
「いえ、悪い意味の空気じゃないですよ!?空気って言ってもその・・・
 ほら!空気って透き通って綺麗じゃないですか!?エクスポさんらしいっていうか・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・まぁ・・・そろそろ試合終了でいいか・・・・?・・・・・」

「あっ!ハハッ!!つまりボクのゴールが決勝点なわけだね!
 やはり最後は華々しく!それが最高の美だって事が証明されたってことに・・・・」

「帰るか」
「だな」
「空気がエアゴール決めたことだしな」

「エアゴールって言うな!」

「じゃぁエアシュート?」
「エアキャラ?」
「存在がインビジキャラ?」

「・・・・・・・・」

「疲れたな」
「いい汗かいたー」
「やっぱスポーツは結果じゃねぇよな。いい勝負だったな」
「0−0で接戦だったしな」
「結果はどうあれな」
「じゃあなエアMVP」
「美しいもの好きなんだし掃除頼むなー」

「・・・・・・・」

さっさと帰ってしまう人々。
躊躇もなにもない。

ただ、
ただ一人広いフィールドに残された男。


「・・・・・・・・・・・美しくない」


とだけ、

取り残されたロスタイムの中でつぶやいた。























******注意******

この短編は、
実際のSOADと全く関係ありません。

本編と世界はリンクしていませんし、
実際のキャラとは無関係です。


**************





                 






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