驚くかもしれないが、作り話とは思わないで欲しい。

俺はなんと、俺が0歳ジャストの時に産まれた。
コンマ1秒のズレもなく、0歳ピッタシだったらしい。
その記念と言ってはなんだが、
その0歳の誕生日に親から誕生日プレゼントをもらった。

なんだと思う?
こっちは意外と普通だ。

俺は0歳の誕生日に、親から名前をもらった。
誕生カードにはアクセル(axel)と書かれていた。

これまた気に入ったらしく、
俺はまだそのプレゼントを捨ててないからビックリだ。

あともう一つもらったものがある。

それも大切なもので、
少なくとも・・・・・・・そうだな。
昔話をしよう。

とりあえず俺がその大切なものを、
6年間大事にした日のことから。












-ルアス2番街-

下から数えると骨が折れるから、上から数えてみる。
そうすると数える必要もないほど、まぁなかなか出来た街に俺は住んでいた。

「ただいま」

俺が家に帰ると呟く独り言だ。
独り言が趣味なわけじゃない。
たまには返事が返ってくるんじゃないかと期待しての事だ。

「・・・・・ったく」

6歳にしては生意気でマセるほど成長していたと思う。
ついでに言うと、
同情してくれなくても俺は一人暮らしなんて身の上ではない。

「またかよ」

俺は帰るなり、カバンを部屋の隅に投げ捨てた。
それでも親父は気付かない。

「何が楽しいんだかなぁ」

6歳にしては生意気でマセるほど成長していたと思う。
大事な事だから2回言った。
でも、
それもこれも、この親父のせいだ。

「・・・・ほんと、ガキに見せるもんじゃないっての」

俺の親父。
クシャールは、昼間っから我が家の居間で行事に励んでいた。
人間から退化したんだろう。
親父はいつも全裸だ。

「また違うヤツ・・・・」

見知らぬ女をテーブルにうつ伏せ、
ケツに腰を叩き付ける。
クセなのか知らないが3・3・7拍子がカンに障る。
二人分の大人の男女の吐息で、
居間はいつも温度が高い。

「おい親父!オーヤージ!帰ったって!」

「んお?」

腰を得体の知れない女に打ち付けるのもやめず、
親父は俺の方を見る。
心地良さそうな疲れ顔がカンに障る。

「おぉ、いつ帰ったんだアクセル」
「いつでもいいだろ」
「待ってろ。すぐ終わる」
「・・・・・いいってのもう。ゆっくりやってろよ」
「ゆっくりじゃこいつが満足できねぇって言うんだ」

したり顔で言う親父をよそ目に俺はため息をつき、
奥の部屋に行こうとする。
これからが教育って年の自分だが、あれは教育によくない人間だ。
まぁ、反面教師としては素晴らしい点がナンだ。
そのせいで俺はこんなに早熟にマセて育った。

「あー待て待て待てアクセル!おい女、今日はもう終りだ。帰れ」

情事も途中故に、そのビッチの方が親父に擦り寄っていたが、

「うっせ。終いだ終い。俺の大事なガキが帰った」

あんなに愛しそうに腰でキスしていたクセに、すっかりそれを止める。
そう。
俺にとって、一番この親父の気に入らないところは・・・

「あん?うっせぇ!てめぇなんかより息子のが大事に決まってんだろ!
 ・・・・・・・はぁ?うっせぇ!知るか!俺が決めた!帰れ!」

人間としては駄目なやつだが、
親父としてはそこまで悪くないという点だった。
親父は女に衣類を押し付けて玄関先に押し込める。
「サイテー!」とその名無しの女は捨てゼリフを吐き、
出て行った。
いつもの光景だ。

「はぁ。やれやれ。おい俺の息子。
 息子のクセに俺の息子が満足する前に帰ってくるとは何事だ」
「息子の前で息子丸出しのお前は何事なんだよ」
「なんだ?コレに嫉妬してんのか?大丈夫だ。お前もその内こんくらい成長する」
「どーでもいーっつーの」
「あぁそうだ。ピアシングボディの稽古をつけてやろうか?」
「その格好で言うと違う意味にとれるからパンツをはけパンツを!」

いつもの事だ。
いつもの。

「飯にするか。アクセル」
「・・・・・別に腹へってねぇ」
「俺が減ったんだよ。いいから。俺が決めたんだ」

強引だが、
俺の事はとりあえず想ってくれているらしい。












「学校はどうだ?」

口にカツ丼半分押し込めた状態でよくしゃべれると思う。
見習いたくない親父だ。

「ボチボチだね」

同じ状態の俺もどうだか知らんが。

「何年になったんだっけか?」
「小学部の3年だ」
「ほぉ」
「また忘れてんのかクソ親父。また聞かれるのもイヤだから先言っとくぞ。
 飛び級してんだからな飛び級。何歳だっけ?って聞くんじゃねぇぞ」
「ふーん。じゃぁ俺がテメェの年齢を知る由もねぇな」

空いた皿が山積みになっている。
2人分の消化量ではないが、
いつもこの後二人で10枚ずつ分担して皿を洗う。

「別に生意気に気にしなくていいんだぜ?アクセル」

食うのもやめずにしゃべる親父。
この先の話もいつものループだ。

「・・・・何がだよ」
「学費なんて気にしなくていいっつってんだ。俺ぁこれでもそれなりに金持ちなんだぜ?
 早く卒業したからなんだってんだ。若ぇ内は遊べ遊べ」
「親父は今でも遊んでるじゃねぇか」
「まだ遊び盛りなんだよ。まだ24だぞ24」
「俺よりは大人だ」
「だろうな。だろうよ。ま、避妊はちゃんとしねぇと苦労するぞって話」
「6歳にする教育か?」
「お、6歳か。そうだったな。お前は6歳だ」

したり顔の親父の顔には、米粒が満載だ。
マヌケなツラでよくそんな笑顔が出来るもんだ。
ただ、
見た人に「親子だな」と言われるのがいやなので、
今水入らずの写真(SS)を取られるのは勘弁願いたい。

「そんで明日7歳だ。そうだろ?」

本当にイヤな親父だ。
馬鹿なフリしてちゃんと分かってやがるんだ。

「何か欲しいか?」

ニヤニヤする親父。
毎年この、
「どんな願いでも叶えてやろう。俺様が」
・・・・・って顔をされると不思議と期待したくなる。

「か・・・・」

・・・・族に会いたい。
という言葉を米粒と豚カツと一緒に飲み込んだ。
たまにはオーランドの実家に行きたい。
会った事もない母にも会ってみたい。

でも、
オーランドという姓を捨てた親父を思うと、
その願いはブレーキとなった。
アクセルなんて名前をもらっておきながら情けないし、
この年で親の事情を考慮するなんて、
やはりマセて育ったと思う。

「いいぜ」

何も言って無いのに、親父は全てを分かった顔をする。

「お前は今日からアクセル=オーランドだ」

そして全て実際に見透かしているから、
この親父は抜け目無い。
驚きで体を乗り出してしまった自分を思うと、
やはり自分はまだまだガキだとも思う。

「醤油がこぼれたぞ。テーブルは食いもんじゃねぇ」
「・・・・いや、親父・・・今なんて?」
「だーかーら!テーブルは・・・・」
「オーランドって名乗ってもいいのか?」

親父は他人事のようにテーブルをトントンと叩いていた。

「お前の人生だ。好きに名乗れよ」
「だけど親父はオーランドを捨てたって・・・・」
「俺ぁ捨てたよ。捨てた。俺が決めた事だ。
 俺はなんかに縛られるのが大嫌いでね。だから自由に決めた。
 だがテメェは決めてないだろうが。だから決めろ」

オーランドという家系に、
戻るか、
戻らないか。

「親父」
「なんだ」
「俺、数回しか行った事ないけど、あの家、好きなんだ」
「そりゃ好きだろうよ。親戚共が集まるときに数回行っただけだが、
 祭りごとの時にいけば気分はよくなるだろうよ」
「いや、なんていうか、同じ種類の人間っていうか・・・」

家族が、
親父だけじゃないんだと感じれたから。
つまり、
欲張りなんだ。

「親父は・・・・なんだオーランドを捨てたんだ?」
「自由」
「それは知ってるけどさ、別に名乗る名乗らないだけの話じゃんか」
「名乗る名乗らないが面倒なんだよ。
 少し好き放題するだけでオーランドさん家のあいつはー・・・
 定職に付いてないだけでオーランドさん家のあいつはー・・・」
「親父今仕事してんじゃん」
「ぁあ?俺、お前に仕事の話したっけか?」
「いや・・・」

でもなんとなく感づいている。
親父は毎日遊んでいるだけみたいに振舞ってるが、
何かしらしている事くらいは分かる。

「つまり、親父は名前に泥を塗りたくないわけか」
「難しい事いうガキだ。ま、そうとも取れるかもしれねぇな」
「そういう事じゃん」
「それは俺が決める事だ」

ガンコな親父だ。

「だがお前はお前。好きにしろ」

でも、そう言われるなら決まってた。

「俺、明日からアクセル=オーランドな」
「そうかい」
「俺は親父と違って度胸があるしシッカリしてるからな。
 泥を塗る心配なんてしなくていいもんな」
「あいあい」
「でも親父」

一つ心配なのは、

「俺はオーランドになった。けど親父はただのクシャールだ」
「ただのクシャール。いい響きだな」
「でもそれでも」

俺と親父は親子か?

そう聞くと親父は大笑いした。

「馬鹿じゃねぇのお前。いいか、そういうのはそうやって決まるもんじゃねぇ。
 ・・・・・・親子に決まってんだろうが。ある種の既成事実だ。
 テメェが俺の金玉の中に居たのはどうやったって覆せねぇんだよ」
「あ?」
「ん?」
「俺は親父の金玉から生まれたのか!?」
「おー、そうだ!」
「母ちゃんじゃなくて!?」
「・・・・?何言ってんだ?お前。とにかくお前は俺の金玉に居たんだよ。
 ほれ、後でそこのゴミ箱でも見てみろ。ティッシュの中でお前の兄弟が何億と死んでる」
「死んでんの!?」
「生きてたら怖ぇよ」
「俺は!?」
「お前は」

親父はハシを息子に突きつけた。
礼儀を知らない。

「何兆の中で選ばれた・・・・たった一人の俺の息子だ」





次の日から親父は俺を寮に入れた。

口答えはしなかった。
散々教えてもらって、
それで俺は名乗ると決めたからだ。

































何歳になったか。
アクセルは学校の机に突っ伏していた。

「周りは年上ばかりなのに、馬鹿ばっかだな・・・・って顔をしてるな」

そう言ってきたのは、
なんとまぁどうやったらここまで顔が整うのかって男だ。

「うっせぇよ泣虫。あっち行ってろ」
「行くとこなんてないさ。あと数年以上はな」

クライの言う事は分からなくもなかった。
黄金世代。
いつの日か呼ばれる俺達のソレは、出来上がりつつあった。

飛び級を重ねた自分。
実力性のスクールじゃ珍しくない事だが、

「見る顔は増えたな・・・確かに」

どんどんと飛ばしてるはずなのに、
よく見る顔・・・というのが出来てきた。

今横に居るクライもそうだし、
向こうで女を誑かしてるエドガイというのもそうだ。
確か去年も同じクラスだった。
同じように級を飛ばしたんだろう。

「俺としては嬉しい限りだがな」
「なんでだ?」
「マセた性格になるからだ。周りの奴らが馬鹿なせいでな。
 そういう意味で対等の同級生が居る事はエクスタシーだな」

そうとも取れるか。

「俺は別に頭よくねぇけどな」
「は?飛び級してんだろ?君も」
「騎士団養成学校なんだから騎士になりゃいいんだよ。
 槍術系だけ抜けてて、後は並なんだよ俺は」
「はぁ、それでよく飛んでこれたもんだ」

五月蝿ぇ、とクライをどっかにやる。
しっし。

「でもま・・・確かに、自分が優れてるって自覚は持っちまうけどな」

それもすぐ潰えた。























「特級?」

よく分からんがそういうクラスが設けられたらしい。
ラツィオが言うんだから間違いないだろう。

「なんでもな、優秀な世代が混じり過ぎって事で設けるんだと」
「なんで」
「前々からそういう方針があったらしいが、引き金は・・・まぁ」

チラリと見た先。
アクセルも釣られて見た。

「あぁ、ロウマね」

先日、ロウマが実習中に人を殺してしまう事件が起きた。
実技のある学校ならば、
それは事件程度で起こり得る話。
しょうがない事なんだが・・・・

ロウマの場合、
相手は養成学校の教師・・・・退役の騎士団長が相手だった。
そして・・・
故意だったのは周りの誰もが知っていた。

「・・・・っておいおい。あのキレた化け物とずっと同じクラスなのか?」
「そう言うなよアクセル。これからは仲間だ」
「仲間って・・・・あいつ校外じゃ毎日5人ずつ殺ってるって噂じゃねぇか」
「噂だと祈るべきだな」

ラツィオは深入りしなかった。
中立に居るのが上手い奴だ。

「それにロウマより心配するべき相手がいる」
「は?」

廊下を歩いていた。
そこに、真っ黒が二人。

「・・・・・・・誰だ?」
「アインハルトとツヴァイ。ハークス家の双子だよ」

噂だけは聞いていた。
見るのは初めてだった。
思わず見てしまう・・・そんな存在感のある男だった。

「アイン・・・ハルト・・・・」

影のようなツヴァイよりも、そちらに目がいった。

「関りたくねぇな」
「見ただけだろ?」
「見ただけで終わりたくなった」
「まぁそうだろうな。分かる奴には分かる・・・ってレベルじゃない。
 ただ居るだけで誰にでも分かってしまうようなヤバさだアレは」
「次期生徒会長のラツィオ君。あいつを破門にしてくれ」
「・・・・・俺としては共存の道を選びたい。
 強い力というのは正しく使えば世界が明るくなるものだ」
「お堅い奴だ」

なのに話していて嫌いじゃないのがこいつの変なところだ。
誰もが認めてしまう雰囲気がある。
自分としても、こいつが天辺に居るなら納得するだろう。
ただ、
あのアインハルトという男。
アレだけは勘弁だ。

「そういえばだがアクセル」

ラツィオは変に気の効く奴だ。
ウザいくらいに。

「そのクラスが設立されるとだけどな、
 騎士団の方から援助が出る。特待生って奴だ。
 良かったな。学費面でもう親父さんを気にかけなくていい」
「俺そんな話お前にしたっけか?」
「なんとなく分かるよ」
「そうか。お前は騎士より占い師とかエスパーとか預言者が似合ってる」
「そんな職業はマイソシアの戦闘職に登録されてないだろ?」
「その内されるかもしれねぇぜ?」
「まさか」

冗談だけは下手な男だとも思う。
でも親父か。

俺を学生寮に押し込めてからも、学費と生活費は送ってくれている。
親父は・・・
クシャールは、
俺が邪魔だから排除したわけじゃない。
それは分かっている。

俺がオーランドを名乗ると決めたから、
自分の普段の行いで俺に迷惑がかかるのが嫌なのだろう。

勝手な親父だ。
すっとぼけた優しさだ。
優しさの意味を履き違えている。

見たこと無い母など居ないと同じ。
なら俺の親は、あんただけなのに。































特級クラスにも馴染んできた。
天才とは須らく変態だと言うが、それも納得した。
そういう奴らばかりだ。

「あぁ?そういう口を利くか?アル。俺様の方が年上だぞ?」
「周りは年下ばっかのクラスで同レベルなお前が問題なんだぜ?」
「年など信念の前には関係ないさ」
「ほれディン。ディゴがこう言うなら間違いねぇよ」

飛び級やらを繰り返した天才の集まるクラスだ。
出身地から年齢まで様々な奴がいる。
特技から性格までな。

ここに居るクライやディエゴ、ディアンだってそうだし、
ポルティーボやエドガイ、ミラとかツカイタチ・・・・まぁ、変人ばかりだ。

「おいタッチ。んで占いの方はどうなんだよ」
「運命は自分で切り開くものだ。くだらんさ」
「ディゴの意見は聞いてねぇんだよ。ほれ」
「だから俺様の方が先だっつってんだろアル!」
「焦らなくても俺の星座占いは外れたりしない」

略称で呼び合うのは、一つのブームみたいなもんだった。
年齢層が違うクラスでわだかまりを緩和しようと・・・
まぁラツィオが提案したんだ。
本当に変なところに気が回る。

「運命なんて占くても、金でどうにもでなるだろ」
「ライ。てめぇの価値観は聞いてねぇだろ」
「HAHA。こいつはいつも金金金金。エドとは正反対だな」
「あいつの話はするな」
「あんで?んでほれタッチ。どうなんだ?」
「オメェも本当に乙女チックな趣味持ってるもんだぜ」
「ロマンじゃないさ。星は嘘を付かない」

ツカイタチが机の上でカードを並べていた。
そのフォーメーションさえ意味不明だったが、
知りたいのは結果だけだ。

「このカードの陣形に意味はあるのか?」
「例えば双子座が何故双子座と呼ばれるか。まぁ、星の配列がそう見えたからだ」
「見えねぇけどな」
「見えねぇな」
「見えるんだ。月には兎が居るようにな」
「俺様は蟹って聞いたが・・・まぁタッチはロマンチスト過ぎるな」
「ふむ。これは戦場の陣形ではないわけか」
「ディゴ。てめぇはおかしい。ラツィオも堅いがお前は突き抜けてる」
「そうか?」
「いいか?このカード。これで将来とか恋愛を占うわけだ」
「恋愛などハレンチだ」
「・・・・・・お前は聖職者が向いてる。転職しろ。ティナと話が合うぞ」

星座の事なんて分からないが、
もしこの陣形に意味があるっていうなら、
それはどういうことだろう。

俺達がどう見えようと、星と星はそうやって配置されているのは間違いなくて、
それは運命と呼ぶべきか、
サダメとでも呼ぶべきか。

ならココに集結してしまった俺達にも何か意味はあるんだろうか。

そんな中、
ツカイタチはカードを一枚だけめくった。

「・・・・・」

そして立ち上がった。

「飯にでもしよう」
「はぁ?」
「何言ってんだお前っ!結果教えろよ結果!」
「なんだ?占いの結果で飯を食おうと出たわけじゃないのか?」
「ディゴは黙ってろ!おいタッチ!結果を言え結果を!」

でも結果を教えてくれる気配はなかった。

「お?なんかやってんじゃねぇか。占い?愛を占おうぜ愛を。
 世の中愛だよ愛。俺ちゃんの愛くるしさは何%だい?」

「・・・・・チッ、悪い時に来たなエド」
「調度冷めたとこだよ。お開きだお開き」

「なんでぇ涙目だね」

エドガイはそのまま通り過ぎて廊下に出て行った。
恐らく食堂に行くのだろう。

「んじゃ俺らも飯行こうぜ飯」
「俺らも早くいかねぇと席埋まっちまう」
「俺は小用済ましてから行く」
「んじゃディゴ、またミラ目印にしとくわ。
 あの巨体見つけれなかったら明日からあだ名は節穴な」
「分かった」
「あぁアル。君は5分後に来いよ」
「なんで?」
「メニューが減るからだ。お前は食いすぎなんだよ」
「ケッ」

事実だからしょうがない。
皆が先に食堂に行く中、
アクセルは教室に残った。

「・・・・・俺も行くか」
「待て」

最後にツカイタチも出て行こうとしたのを、
アクセルは呼び止めた。

「・・・・・・なんだ」
「俺にだけ結果教えろよ。な?」

軽い気持ちだった。
後で皆にコッソリ教えてやろうとか、
そういう類の。

「・・・・・星座は嘘を付かない」
「ん?うん。いやだからコッソリ教えてくれ」
「人は皆・・・・」

ツカイタチは少し沈黙を溜めた。

「最後は星になるものだ」
「・・・・・あい。んで?」

だがツカイタチはそのまま廊下に出て行こうとする。

「・・・・・このクラスの事を占ったんだ」
「ほうほう」
「・・・・・・・・・遠くもなく、大体の者が星に手が届くだろう」
「は?」
「そういう事だ。あまり知って気分のいい結果でもない。
 ただ・・・・お前は結構早い方だから・・・いや、言うべきでもなかった」

ツカイタチもそのまま食堂へと向かっていった。

「意味分かんねぇ」

知り由もなかった。
こんなクラスに居てなんだが、頭はいい方じゃない。
真正面から言ってくれなきゃ分からない。

ただ、
親父の口癖だった。
「自分の事は自分で決めろ」
それを思うと、こんな占いなんてどうでもいいかも。
そんな風に思えて。

「もう5分たったろ」

どうでもよくなって、
次の瞬間には頭の中には飯のことばかりになっていたから、
2分もたっていないが席を立った。

「・・・・・っと」
「邪魔だ」

出て行こうとしたところで、
ヤンキー女とぶつかりそうになった。
ティルだ。
口数の少ない女。一匹狼でも気取ってるんだろうか。
そのまま教室の隅の席に、

「おーーいしかったニン♪」
「ねぇティナ。なんであんたはお肉食べなかったの?」
「神様がおっしゃったわけ」

食堂から帰ってきたのだろう女子陣が入れ替わりに教室に入ってきた。

「だぁ・・・うっせぇ女達だ」

そのまますれ違っただけだが、
ただ、
やっぱり目を引いたのは・・・・一人の女だった。

「・・・・・」
「・・・・・」

向こうも何か思ったのか、
お互いに何か感じたのか。
ただ占いを思い出した。
星座ってのは・・・・

「・・・・・おいレン」
「カツ」
「と?」
「カレー」
「!?ってことは!?」
「残念。でも卵ならあったわ」
「ありゃぁんじゃぁ・・・」
「味噌で豆腐」
「おぉ。つまり・・・」
「4杯くらい」
「そりゃヤベぇ」

それだけ会話し、俺は走った。

「・・・・・ねぇレン」
「何?」
「アルと仲がいいの?」
「・・・・・いや、別に」
「でも私達じゃ今の会話意味わけわけわかめだしー」
「そう?」
「いやぁー、怪しいっしょ。でっしょ。L・O・V・Eっしょ」
「何言ってんだか」
「でも夫婦みたいな会話ニン♪」


































もし、星座の配置に意味があって、
そして俺達がここに集結したのにも意味があるなら、
それなら、
星座占いも信じよう。

でも占う必要もなく、
それは"必然"だった。

運命だろうがなんだろうが、"必然"それ以外に例えようが無い。

アクセル=オーランド。
エーレン=アイランド。

「んで?キスはしたのか?」
「誰と」
「とぼけんなよ」

クラスは高等部まで進んでいた。
クラス替えもなく特級クラス。
慣れない方が異常だろう。

「ディン。あんな。俺とレンは別にそういう関係じゃねぇっていっつも・・・」
「いっつも聞いてるけどそういう風にしか見えねぇんだよ。
 はたから見ればバレバレ。じゃなきゃ男が皆レンなんて放っておくかよ」

この3年。
順当に進級したクラスの中で変わった事と言えば、
会話に色恋沙汰が増えた事と、
ブチキレたように異常な野蛮人・・・ロウマ=ハートが大人しくなった事。
それに、
女みたいに綺麗な顔した変な名前の紫と、
言語も扱えない野獣が編入したくらいだ。

「いやもうウザったらしいんだよ!そんならさっさとくっつけよ!」
「うっせぇなもう!」

廊下を歩いていたアクセルとディアン。

「おい!アル!ディン!」

慌てて走ってくるのは、
生徒会長から風紀委員までこなす変質者。
ラツィオだ。

「どうした?」
「ハハッ、お前が焦ってるっつーのは学校のピンチかなんかか?」

「笑い事じゃないぞ。まぁたギルヴァングが鎖を千切った。見なかったか?」

「ま・・・ったかよ。さっさと捕獲しとけ」
「アレを捕まえるなんて出来る奴限られてくるけどな」
「そうだな。例えば・・・」

アインハルト。
・・・・戯言だ。
あいつが何かのために動くはずが無い。
むしろ・・・未だに表に出して何かしようとしてないのが不気味なくらいだ。
皆気付いてるのに何も言わない。
関りたくないからだ。

アレは全てを目茶苦茶にするだろう。
だから、
蚊帳の外に居てくれてる間は触りたくない。
障らぬ仏になんとやらだ。

「ロウにでも頼めよ」

「もう頼んである。後はあの野獣がどこに逃亡したのかだけ・・・・」

どこかで何かが崩れる音がした。
学校で聞こえる音じゃない。
戦場の一角のような。

「・・・・・場所分かったな」

「みたいだ」

ラツィオはそのまま音のした方へ走っていった。

「おーい生徒会長!廊下走るんじゃねぇぞー!」
「あいつは優先順位ハッキリつけすぎだな」
「にしてもギルはどうにかならんもんかねぇ」
「現騎士団長さんは何を思ってあんなモンスターをガッコに入れたのやら。
 ・・・・ってそういや、アル。お前こないだギルに言葉教えてただろ」
「ん?おぉ。そりゃぁ言葉使えないんじゃどうしようもないからな」
「だからってなんで「いただきます」と「ごちそうさま」なんだよ!
 こないだ体技の講義であいつの戦った時キョトンとしちまったじゃねぇか!」
「大事な言葉だろうが」
「そうかぁ?」

にしても・・・
とディアンは舌打ちした。

「お前らの世代が上がって来るまで俺様ぁ無敵だったんだけどな。
 槍術だけじゃなくて戦闘系なら敵無しだった。それが今じゃなぁ・・・」
「俺より槍術は上のクセに」
「アルに比べればな」
「俺だってクラスで5本指には入ってる」
「俺だってそのレベルの自信は持てるが・・・・・せめてロウが居なけりゃなぁ」

ロウマ?
いや、あれだってどうしようもないほど規格外だが。

「アインやツヴァイはどうなんだよ」
「言いっこ無しだろそこは」

あまり授業に出てくる奴らでもない。
だけど、
見た事がなくたって劣っているだろうと・・・分かってしまう。

「実戦じゃまだしも、槍術の成績って点だとラティやディゴも居るしな」
「こないだお前が模擬戦で攻撃してこねぇミラに判定負けしたのは笑ったけどな」
「うっせ。あの鎧はズルだろ」
「でも槍術部門はまだ競ってるだけマシだろ」
「なんでよ」
「聖術なんてレン1強だしな」
「あぁそういう意味か。魔術部門だってポル1強じゃねぇか」
「燻(XO)がいるだろ」
「あいつスゲェのか?」
「表にゃ出さねぇけどな」
「へぇ。まぁ体術ならライか。ギルは体術っつーより暴力だしな」
「人間になれたら分からないぜ」
「人扱いしてやれよ。まぁ野獣だけどな」
「ハハッ。あと剣ならエド。遊術ならハヤテ・・・いやタッチか」
「どれにしたって実戦形式になるとロウマ1強だ」

実戦形式以外でも、
全てにおいての例外も居る・・・・が。
言いっこなし・・・か。

「なんであんなんが存在してんだろうな」

アインハルト=ディアモンド=ハークス。
絶対的過ぎて、
それは・・・・

「アインの事か?」
「他にねぇよ」
「あんまりアレの事は考えない方がいいぜ?自分が微弱に見えてくる」
「だけどよぉ」

だけど、

「もし、あいつの前に立たなきゃならない事になったら。
 俺はどうするんだろうなぁ・・・・とかたまに考えるんだ」
「何もできねぇ。以上」
「分かってる。だから皆避けてんだ。俺だって」

だけど、
もし、そんな事がもし、もしあったら。

「そうならないように生きろ。それしかねぇだろ」

それしか・・・ないかもしれない。
でも占いなんか信じるように、
何かによって決められた"必然"ってもんがあるなら、
もう何かは決められているのかもしれない。

アインハルトに誰も敵わないように。
生まれた瞬間・・・いや、その前から決められていた必然ってもんが。

「おっと」

ディアンが不意に立ち止まった。

「いきなり土石流の如く便意を催してきた」
「なんじゃそりゃ」
「30分は戻ってこねぇから。HAHA!じゃぁな!」

わけのわからん事を言いながら走っていった。
わけがわからん。
そう思って目で追っていると、
ディアンとすれ違いに・・・・・女がこっちに歩いて来ているのが見えた。

「・・・・ッ・・・・いらねぇ事を・・・・」

気遣いのつもりかなんか知らないが。

「・・・・・・・・よぉ。レン」

エーレン=オーランドが通りかかった。
それだけだ。

「アル。何あれ?ディンがニヤニヤしながら走ってったけど」
「はん。クソが詰まって腹からはち切れそうなんだと」
「へぇ・・・あんたはもうはち切れたからここに一人で立ってるわけね。
 ごめんなさいね。私が知ったからには明日からあだ名はオムツ大魔神よ」
「ブチ切れるぞ!」
「ぢになるわよ」
「血管がだよ!」
「へぇ。さすが欠陥品」

つくづく口の悪い女だ。
こいつの家系はきっとこんなのばっかなんだろうな。
自分の息子がこんなんになったら、
俺は俺の親父のように息子に愛情を注ぐ事は出来ないだろう。

「んで?何の用?」
「何のようもクソも、お前がたまたま通りかかっただけだろ」
「それもそうね」
「だろ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・って。用はねぇんだぞ?どっかいかねぇのか」
「え?いやまぁ・・・別に」
「・・・ふーん」
「でも用がなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
「ん?」

いやそれはなんだ。
・・・・まぁ。

「別にいいな」

というより、
今更でなんだし、ディアンのいう事も最もであり、
言うならば必然なんだ。

のぼせ上ってるって思われるかもしれないが、
そうじゃなくて、
つまるところ・・・・俺らだってお互いの気持ちくらい分かってる。

「それで?アル。用がないのも寂しいからなんか用でも作ってよ」
「無茶言うよな。お前は」
「用が作れないんなら私のために金銀財宝でも差し出してよ」
「無茶苦茶言うよなお前は!」
「茶々を入れるのは得意なのよ」
「うまい事言うなお前は・・・・」

話を戻そうか。
もし、必然ってものがあるなら。
いや、
必然ってもんは確かにあるわけで。

「んじゃぁデートにでも誘うか」
「唐突ね。なんで恋人でもないのにそんな事しなきゃいけないのよ。馬鹿なの?」
「うっせ。じゃぁ恋人になったらいいのかよ」
「私は恋人のデートだって断る人間よ」
「・・・・あそう」
「で、何それ?告白?」
「別に」
「あ、そ」
「告白だったらどうなんだよ」
「何が?」
「返事は」
「それは告白された時に答える事でしょ」

必然。
運命って言葉に代えたら喜ぶ人もいるかもしれない。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「とりあえずしてみたら?ダメもとで」
「ダメもとかよ」

でも言うならば、
必然としか言いようが無かった。

「そういやもうすぐクリスマスだな」
「安易に展開が読み取れる切り出しね。5点」
「・・・・・うっせぇな」
「1000点満点で」
「い・・・1%の評価ももらえてないっ・・・・」
「クリスマス。クリスマスね。私は神様信じてないからどうでもいいわね」
「聖職者じゃなくて冒涜者だな」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ」

俺、アクセル=オーランドも、
彼女、エーレン=オーランドも、
偶然同い年だったが、
それは必然の中の些細な因子でしかなくて、
そこに誤差があったって、
それはどうにでもなった。

「それでまぁ・・俺はその日ヒマだなぁとか・・・・な」
「あらそう。で?」
「お前はどうかなぁと」
「私は神様を信じてないのよ」
「っつーことは空いてるってことか」
「空いてるわね」
「っつーことは」
「次の日に、皆が楽しんでる聖夜をどう寂しく潰したかを語らえるわね」
「そんな寂しい仲間を求めてたわけじゃねぇよ!」

なんでかっていうと、
俺は1年や2年ズレて生まれてたところで、
やっぱりどうやったってこの騎士団養成学校に入学してただろうし、
エーレンはエーレンで、
やっぱりこの世界で1番の学校に入学してたはずだ。

「じれったいわね。つまりクリスマスに誘ってるわけでしょ」
「いや、お前が遠回りにさせたんだぞ」
「別にいいわよ」
「あそう。・・・・んお?」
「なにその金魚みたいな顔は」
「あ、いや・・・確認していいか?」
「だからその日はOKだって言ってんの」
「・・・・・あっちの日取りも?」
「へ?何・・・が・・・・・・・・はぁぁあ!?ぶっ殺すわよあんた!」

俺もエーレンも、
きっとこの学校に来て、
そして飛び級やら何やらを重ねてたはずだ。
どんな時に、
どんな所で、
どんな風に生まれてもだ。

「その辺はおいといてだな。まぁ俺としても・・・・そろそろ蹴りはつけときたいっつーかな」
「まぁ。それは同感ね」
「一応さ、分かってるつもりなんだが、もし、もしだぞ?」
「だから返事はされてからするもんでしょ?」
「・・・・・そだな」

いつ生まれても、
どこで生まれても、
俺達はこの学校に通ってたわけで、
そして、
そこに少々のズレがあったとしても、
絶対にこの特級クラスではち会わせになってたわけで。

そして出会ったなら、
こんな感じで・・・・

「あ、絶対他の奴らに言うなよ。何冷やかされるか分かったもんじゃねぇ」
「分かってるわよ・・・・・」

だからこの関係は"必然"としか言えなかった。

どんな誤差があったって、
運命と呼ぶには理論的過ぎる・・・。

確実に出会っていた二人なんだから。


































つまりこの世界の頂点の頂点。
のちに黄金世代と呼ばれるこのクラス。
どう飛び級しても、
どうやってもこの世代に捕まるのなら、

アクセル=オーランドと、
エーレン=アイランドという才能は生まれたその時から、
必然的にひっつくのが決められていたようなものだ。

「おーアル。クリスマスはどうだったよ」
「なんでお前知ってんだよ」
「そりゃお前。本当に30分も便所に・・・っておまっ!何それ!?」

冬の休みを抜けても、
俺は顔面を含めて全身の怪我が完治してなかった。
切り裂かれたような傷。
それが痣と共に無数にあり、
他人が見たら虎の檻にでも閉じ込められてたのか?とでも聞くだろう。

「虎の檻にでも閉じ込められていたのか!?」

まぁそう聞くだろう。

「血だらけじゃねぇか!」
「いや、まさか本当に血が出るとは思わなくて・・・」
「は?」
「いや、俺の話じゃなくて・・・・」
「はぁ?」
「痛ぇ痛ぇ喚き散らした挙句、ひっかき回すし、殴ってくるし、んでこの有様。
 まぁ俺として止まんなかったっつーか・・・夢中で悪かったけどよぉ」
「状況よく見えねぇんだけど」
「あぁいい・・・こっちの話」
「・・・・まぁいいけどよ。お、レンだ」
「・・・・・ッ!?」

なんとなく身を隠した。
といってもバレバレだったが。

「ってあれ?」

だけど向こうも向こうだったのだろう。
なんとなく気まずかった。
怒っているのか。
無視して通り過ぎていった。

「なんだぁ?アル。てめぇなんか怒らすような事しちまったのか?」
「まぁそれもあるんだろうけどよぉ」

この気まずさも時間が解決してくれるもんなんだろうか。
それとも、
このまま消滅するもんなんだろうか。
どちらにしろ、
この出会いが確定的に絶対に必然であったわけだから。
その結果もやはり必然の理なんだろう。





















「チョコでもくれんのか?」

そんな日々が続き、ロクにしゃべらずに月日が過ぎ、

「今から買ってきてもいいけど?」
「用意されてない時点でゲンナリだ」

久しぶりに1:1で話した日は、
2月も14日目だった。

「地味に仲直りにはいい日かなと期待はしてたんだけどな」
「相手に機会を願うなんて男らしくないわ」
「かな」
「そうよ」
「かな」
「ゴミクズよ」

口がストレートに悪いだけになっている気もする。
2ヶ月たっても人とは機嫌が直らないものなのだろうか。

「じゃぁ俺からにするよ」
「じゃぁって何。じゃぁって。炊飯機?」
「うっせぇな。濁すなよ」
「・・・・・ふん」
「別にどっちが悪いわけでもケンカでもなんでもねぇだろ?
 なんとなくお互い敬遠してただけじゃねぇか」
「敬遠なら次の塁に進めるわ。私達は進んでないじゃない」

うまい事を変に言うやつだ。

「・・・・・・」
「なんだよ」
「・・・・・・」
「ったくなんなんだよ」
「出来たわ」
「何が」
「ベイビー」

は?

「何が」
「・・・・・」
「何て?」

何つった。

「だからなんなんだよお前は。何が言いたいんだよ」
「聞こえなかったの?」
「何が。冗談じゃねぇっつーの」
「冗談なんかじゃないわけっつーの」

・・・・・は?

「来月に正式に結果が出るわ。でもほぼ確定」

エーレンはそう言って、
お腹はさすった。

「・・・・・・」

俺は、そう頭のいい方じゃない。

「は!?」

だからまだ整理もしきれてない。

「整理じゃなくて生理の話」
「・・・・・少し整頓させてくれ」

何がどうなった。
あれがこうなってどうなった。
とりあえず、
それがそうなって・・・・

「・・・・・1回だぞ?」

一応聞いておいた。

「宝くじを1000枚買うよりは確率は高いわ」
「・・・・・1回オンリーだぞ」
「スナイパーになれるわね」
「・・・・たった1回だぞ」
「YES。ワンショットキル。1発必中オーマイガ」

オーマイガ・・・・・

俺は頭が真っ白になって壁に頭を打ち付けた。
打ち付けたまま、
ボォーっと無い視界を見ていた。

「気持ちは分からなくはないわ。私はそれを先月から感じ続けてるから」

親父の教育は正しかった。
あいつの教育は早すぎたわけでもなかった。
何が反面教師だろうか。
カエルの子はカエルか。

「過ぎたこと・・・とも言わないわ。なんて言っても私達はまだ学生よ」

学生。
学生。
教育期間中に教育者に転身。
学生。
やばいか。
やばいのか。
いろいろ。

「ヤバいわよ」

ヤバいよなぁ。

「なんていったって私達・・・・」

ヤバいさ。
学生。
それもヤバいが、それ以上にヤバい。
そりゃぁそんな心配頭にもないさ。
ねぇよ。
有り得ない。

だってよ。

なんていったって俺達。

「まだ12よ」

だよな。

12。
・・・・だ。
1をまだ12回繰り返しただけだ。
同じ年はランドセル背負ってる。
俺達は高等部まで飛んでるが、
つまりそういう事だ。

まだ12。

学生どうこう以前の問題で・・・

「おろす?」

つまりなんなんだ。
もしかしたら新聞載るんじゃないか?
名前は出ないかもな。
でもバレバレだろうな。

「感情の問題でも勘定の問題でもないわ。そりゃぁ学生よ。
 私達の気持ちどうこうの前に、育てていく手立てもない。
 それに私だって・・・・自信があるわけじゃない」

そりゃそうだ。

「自分の事は優秀だと思ってる。ウソだと言ったらウソになるわ。
 でも、体は未成熟なのが分かってる」

未熟児かもしれないわ。

エーレンの言葉は震えていた。
体もおまけで・・・・。

「変なハッピーエンドは求めてないの。
 その場のノリでの感動的な言葉で将来を後悔で埋めたくない。
 正直に言うわ・・・・・・私は・・・・・おろそうと思ってる」

どうなんだろうな。
なんなんだろうな。
何か色々・・・
頭ん中が・・・。

必然。
必然か。

1回でこの結果ってなると、
急に笑える単語に聞こえてきた。

「ねぇ!ちゃんと聞いてるの!さっきから黙って!」

俺はやっと、フラリと、
エーレンの方を見た。
ただ、
ボロボロの表情だっただろう。

「・・・・・・分かんねぇ」

やっと出た言葉が、
そんなだった。
本当に・・・・・カッコつかねぇ。

「分から・・・・ないってあんた!そんな無責任にっ・・・」
「決まんねぇんだよっ!!」

意図せず怒鳴ってしまった。
怒鳴った自分に驚いた。
あの強気なエーレンが一歩引いた。
どれだけ彼女が不安だったか、
その一瞬だけで分かった。

だから、

「・・・・名前が決まんねぇ・・・どうしよ・・・・」

さっきから悩んでいた事を、
言葉にした。

「・・・・・・・はぁ?」
「カッコイイ名前にしたい・・・けど強そうな奴じゃなかったらどうしよう・・・・」

エーレンは呆然としていた。
感情の一つも出てこないといった表情で。

「・・・・・なんで男って決め付けてんのよ」
「!?・・・そうか!女の可能性も・・・・」
「ふざけてんじゃないわよっ!」

今度一歩引いたのは俺の方だった。
彼女の形相は見たことも無いものだった。

「話きいてたの!?私はこの場限りの雰囲気に流されたくないの!
 不完全な子かもしれないし、育てる経済力もない!
 幸せにしてあげられない!身勝手で無責任よ!
 そんな・・・・私達がよければそれでいいみたいな決定で・・・・」
「つまりお前はいいんだな」

頭が冴えてきた。
目が覚めてきた。
脳が冷えてきた。

「・・・・え・・・・いや・・・・・」
「お前は答えを用意してきた。けど一人で決められる事じゃねぇから俺のとこにきた。
 俺も答えを用意した。けど一人で決められる事じゃねぇからお前に聞く」
「・・・・・」
「産んでくれねぇか?」

答えなかった。
答えてくれなかった。
でも、
すぐに×を返してこなかっただけで、
彼女の気持ちも分かった。

最初からお互いの気持ちに気付いてた関係だった。
必然だったから。
だからこうなった。

そのナァナァの関係に蹴りをつけたいと思って誘って、
その結果がこれなら、
これも必然だったんだ。
逃れられない。

おっと・・・・。
それじゃぁ決断から逃げたみたいじゃないか。

だから、

「言葉を変える」

それは、
あまりにありがちでポピュラーで、
むしろポピュラーすぎて逆に有り得ないような。
でもそれでいて、
あまりにも俺にピッタリだった言葉選びだったと思う。

本当にそう思う。

「毎朝俺に味噌汁を作ってくれ」

彼女は俯いた。
顔を反らした。
俯いたままだった。

「そんなの作ったこともないわ・・・」

だからその返事は、
俺と同じで、
とても彼女らしいと思った。

「明日から練習してみる」


































「ちょっとちょっと!何何!?ありえなくなくない!?」

ティナが慌てて俺に駆け寄ってきた。
ブリンブリン揺れる胸を見ていると、
決断を早まったかとも考えた。

「あの独尊エーレンがなんか料理本見てるんだけど!
 何?!なんかあったのあんた達!答えなさいよアル!」
「あー・・・ファーマシーの本かなんかじゃねぇかな」
「そんなの有り得なくなくなくない!あれは料理本!なんで!?
 家庭科の授業なんてなくなくない!?兵糧研修も選択してないし!」
「そうだっけ?」
「なんか課題でも出たみたいな!?」
「まぁ・・・そんなもんかな。言うならばインターハイじゃなくて、
 シーズン戦に参加する事になったっつーか・・・まぁそんな感じ」

それからの日々は、
まぁそんなんばっかだった。

「"不吉"・・・・・簡潔に言うならばそんなところだ・・・」
「んだよポル」
「"不可解"・・・・・・無駄な事はしない女だと思っていたが・・・
 無駄だらけだ・・・・何があった?独り言を呟いてるぞ。
 己の腹部にだ。・・・・無駄だ。無駄すぎる。有り得ない」
「年頃の女はわかんねぇもんだよ」
「"謎"・・・・・・・とうとうあの鬼女からエイリアンでも参上するのか?」

ヒデェ事いうもんだ。
そういえばディエゴも来た。

「人とは変わるものだな」
「なんだよ突然」
「人は誇り高く生きるべきだ。騎士を男女で隔てるつもりはないが、
 騎士でなく、女として見るならば最近のエーレンは模範だ」
「色のある褒め言葉じゃなさそうだな」
「女性は大和撫子的清楚であるべきだからな」
「・・・・・お前はやっぱり堅いを通り越して突き抜けてんわ」
「ハレンチはけしからんからな」

普段関らんよぅなのさえ話しかけてくる。

「なぁに?ウフフ・・・・調教でもした?」
「珍しいなお前。俺んとこ来るなんてよぉ」
「いー・・・や♪ただ忠告しとこうと思ってな。
 世の中には色んな種類の人間がいるわ・け。
 私物ってのをポイントとしてとらえるような腐ったのとかな」

気味の悪いやつだ。

まぁそんなこんなで、
また月日がたち、
とうとう学校を産休という異例の事態が起きてからは、
俺は人の目が気になり人間不信になったものだ。


































「まさか一軒家が支給されるとはな」
「それだけ騎士団も将来有望な人間を手放したくなかったんでしょ」
「それなりの結果を出してた学校生活も無駄じゃなかったってわけだ」

ルアスの2番街。
一等地だ。
親父の実家からもそれほど離れて居ないのは偶然だったが、
こんなもんが騎士団からもらえるとは思わなかった。

「契約書見たでしょ?先20年は騎士団滞在。
 給与5%とボーナス10%減額で、守れなければ契約破棄。
 ある意味先払いでローン組まされたようなもんだわ」
「それでも釣りのくる待遇だ。な?アレックス」

ベッドですやすや寝ている俺らのガキ。
いい気なもんだ。
名前は"AXEL"からとって"ALEX"
俺は気に入っていたがエーレンにはたまに愚痴愚痴言われる。
彼女の名前からとったものに改名される日も近いかもしれない。

「立派な子でよかったよな」
「立派どころか他の子より体重重かったくらいだし」

まだ一人で歩けないような年だが、
アレックスは既に自分で落花生を剥いて食う。
自分の子ながら末恐ろしい子供だ。

「こいつは俺に似て凄くなるぞ」
「やめてよ。24でおばあちゃんになっちゃうわ」
「ハハハッ!俺の親父だってキレてたな。
 まさか30でジジィになるとは思ってなかったんだろ」

ほとんど顔を見せないが、
親父・・・クシャールも気になるらしくて訪れたりした。
「ざまぁみろ」「俺の言う事きかねぇから」
と若すぎる結婚を馬鹿にしてきたが、
心からの悪気はなかっただろう。
「お前が決めたことなんだろ?」
そう言ってくるだけだ。
そしてその通りだ。

自分の事は自分で決めろ。

親父の口癖だった。
得てしてそうしたわけだ。
人間としてはどうでも、立派にあいつも親父だったわけだ。

まぁ、
こないだ来た時はエーレンを口説き始めたから蹴飛ばしたが。

「親父も好きで作った子じゃねぇんだろ」
「何が?」
「俺だよ。実の息子。だけど俺は不幸せと思ったことはねぇ。
 ならその子の子もきっと同じ風に思ってくれる」

カエルの子はカエル。
何が反面教師だろう。
親父とまったく同じ道を歩んでいる。

「よっし!腹減った!飯にしようぜ!」
「えっらそうに」
「何を言うか。俺は亭主だぞ!一家の大黒柱だ!」
「まだ働いてもないくせに。なのに家事は女なんて10年早いわ」
「俺だってちゃんと風呂・便所掃除と食器洗いとゴミ出しと、
 あと買出しとか洗濯物を・・・・!?・・・今気付いた!俺のが家事多くね?!」
「そんな事ないわ」
「いや!ぜった・・・」
「そんな事有り得ないわ」
「で・・・・」
「御飯の時間よ」
「・・・・・・・」

既に未来が見えてきた。

「・・・まぁいいや。それより飯だ。おい!起きろアレックス!」

ベビーベッドに寝る愛子をペシペシ叩く。

「ちょっと何やってるのよ!寝てるじゃない!」
「男は食わなきゃダメだ!食わなきゃ強くなれねぇ!」
「ならなくていいの!」
「親父は言ってたぞ!まず何よりも食う事だ!
 人間の行動をギリギリまで還元していくとすべきことはそれだけだ!
 そして食う奴は成長するのだ!という事で起きろ!」
「もう・・・」
「食って喰って食って喰って人は強くなると親父は・・・・あ」

大事な事を思い出した。

「今日は何だ?」
「赤味噌よ」

今更だけど照れるもんだ。
まさか、
告白よりプロポーズが先になるとは。
これだけは誰にも言えない。
そして、
彼女は俺に毎日味噌汁を馳走してくれる。
言葉の綾だったけど、
それが今の何よりの幸せになっている事も。

「・・・・・・・」

ただ、
食卓に並ぶと、少し後悔もする。

「・・・・あの・・・エーレンさん」
「何?」
「一緒に住んでもう2ヶ月です」
「そうね」
「ですよね」
「そうね」
「・・・・・また御飯とお味噌汁だけですか?」

・・・・・・だけなんですか?

「おいしいわよ」

おいしいけども・・・・・。
監獄か病院の方が豪華だ。

「他はまだ勉強中」
「・・・た、たまには俺が作ってやろうか?」
「そんな!旦那様に家事を全てやってもらうなんて!」
「じゃぁ交換しよう」
「や」
「・・・・・・カレーくらいなら作れるしさ」
「それくらいなら私だって作れるわよ。で、何味噌のカレーがいい?」

食卓が華やかになるのはもう少しだけ先の話。


































「なんなんだよ」

卒業っつーのも早いもんだ。
それもそうか。
学年飛ばしてるんだから。

「こんなところに集めてよぉ」
「新入団員がよくこんな城の会議室借りれたわね」

もちろん、特級クラスの人間はもれなく騎士団の仲間入りだ。
将来有望な黄金世代とまで呼ばれていい気なものだった。
逆に、
その流れに逆らったのは3人。

ディアン。
奴は最初からそういう進路を狙っていたそうだ。
戦士を騎士に育成する《騎士の心道場》を開く。
最初から騎士団へ顔が利くようにという、
まぁ見かけによらず将来の事を考えてた奴だった。

エドガイ。
後から知ったことだがクライと同じ所属だったらしい。
ただエドガイの方は別の道を選んだようだ。
いや、
同じ道を進みたくなかったのかもしれない。
傭兵団を作るとかなんとか。

ティンカーベル。
ティルはクライと入籍してからダラダラしていたが、
詳しい事情は知らない。
ただまぁ騎士団に入らないと言ったときも、皆なんとなく納得したものだ。

「んでなんだよディゴ」

「学生気分な呼び名はやめてくれ。俺達はもう騎士だ」

そして残る者は皆、
ほぼこの日、この場所に集っていた。
のちのち見れば恐ろしいほど豪華なメンツだったかもしれない。

「学生気分も抜けてなくてしょうがなくなくない?」
「まーだ1週間かそこらだぜ?初任給さえまだだ」
「あ、そういや聞いたか?」
「何々?」
「アインハルトとツヴァイ。それにロウマ」
「あ、聞いた。最初から部隊長だってな。異例中の異例だぜあんなん」
「すぐに追いついてやるよ」
「そういやあいつらここに居ねぇな?・・・って居たら気分も落ちるが」

「聞いてくれ」

一同を集めたディエゴは、静粛に物を言った。
誰様だよとか、
小声で文句も聞こえてはいたが、

「ラツィオが死んだ」

無駄口を叩く者はいなくなった。

「・・・・・・」
「は?」

「本当の事だ」

ディエゴの顔は真剣だった。
彼が真剣な顔以外をしている時など見たことないが、
それでも真剣さはマジマジと伝わる。

「・・・・・・冗談」
「いつよ」

「騎士団入団の前後。詳しくは分からないが確かだ。
 現に名簿を拝借したが記載されていない」

「誰に殺された」

俺がそう聞いたが、
そこに突っ込んでくる者はディエゴくらいだった。

「死因も言っていないのに、他殺で聞いてくるか」

「あいつが自殺する人間か?それとも事故でおっ死ぬタマか?
 次期が次期だ。出来すぎてもいる。集めた理由もそういう事だろうよ」
「・・・・確かにね」
「あいつはあの3人を差し置いて騎士団長最有力とまで言われてた」
「その3人をここに呼ばなかった理由は?」

エーレンが深く突っ込む。
ディエゴは苦笑いを微かに浮かべる程度だったが、
分かりやすい返事でもあった。

「ラツィオを殺せるとなるとあの辺しかいねぇわな」
「一緒に生きてきた私達にしか分からない事かもね」
「マダ・・・・居ナイ奴・・・・イル・・・・・」

ミラが篭った声でさらに突っ込んできた。

「・・・・・ぎる・・・ト・・・燻(XO)・・・・・アイツラ・・・ドウシタ・・・・」
「そういや・・・・」
「燻(XO)もギルヴァングも騎士団に入ったって話聞かないわね」
「社会不適合者がダブルでねぇ」

「憶測はどこまででも出来る」

ディエゴは仕切った。

「だが、俺は出来るだけ仲間は疑いたくはない」

アインハルト。
ツヴァイ。
ラツィオ。
ロウマ。
『4カード』と呼ばれる誰もが認める4人を除けば、
ディエゴは中心として認められる類の者ではあったと思う。

「疑いたくはない?」
「ここに呼んでねぇだけでお前の本音は見えるがな」

軽く懸念でざわついた。
ツカイタチが一人だけ冷静にカードを引き、
「1枚目か・・・」と呟いていた。

「"根拠"・・・・それはないが確定的だろう。
 俺達だからこそ分かる。あいつしかいない」

あいつ。
ツヴァイ・ロウマという容疑者を差し置いても、
中心は誰か。
すぐに浮かび上がる。
真っ黒な・・・・絶対。

「あぁ。だが俺が皆を集めたのはソレを明らかにするためじゃない。
 これから・・・・・・俺達は"どうするか"・・・皆の意見を聞きたかった。
 個人的な理由だ。俺の・・・・個人的な・・・な」

「どうするったって・・・・」

皆顔を見合わせた。

「ラツィオの敵討?」
「アインに?冗談じゃねぇぞ」
「いや勝ち負けじゃない!仲間を殺されたんだぞ!?」
「死にに行くだけなのは分かってるじゃない」
「ラツィオはそれを望んでいるか?もっと懸命な手段があるんじゃないか」
「ソレヲ・・・・でぃえごは・・・聞イテル・・・・」

ディエゴは頷く。

「奴が何を考えているかは分からない。ただ結果は最悪に違いはない。
 奴が何を望んでいようが・・・そうは叶うだろう。ならば俺達は?」

「何かしら利用されるだろうな」
「いや、はたまた駒の一つに過ぎないか」
「眼中にさえないかもしれないわね」

今思えば、
俺達は教育されていたんだ。
アインハルトは何もしなかった。
この学校生活で。
だから触れなかった。
触れてはいけない事を教育されていたんだ。

何かされるよりも、
何も出来ない事を・・・・恐怖を染み付けられた。

奴は何もしていないのに。

「お互いがお互いを監視しあうしかない」
「"賛成"・・・・といったところか。守りあうしかない」

「逃げの口実でしかないな」

たまらず、俺は吹いてしまった。

「何て言った?」
「・・・・・カッコつけてんじゃねぇぞアクセル」

「カッコつけさせろよ。一度しかねぇ人生だ」

そう。
俺の人生だ。

「俺の人生は俺が決める。そう教育されたんでね」

俺の人生を教育したのアインハルトじゃない。
クシャールだ。

「あんな奴に人生を渡してたまるか」

「勇気と無謀は違うと言うが」
「アクセル。はたやアインハルトに向かう姿は一周して無様とも呼べる」
「ラツィオの二の舞になりたいの?」

「歯向かう気なんてねぇよ。まず歯向かうって表現がおかしいけどな。
 ただの同級生によぉ・・・。ただ、俺の人生に踏み込んでくるならって話」

自由に生きる。
きっと親父とは自由の意味が違ってきてるんだろうが、
そう誓う。
誰か様のせいで、自分の人生をグチャグチャにされてたまるか。

「・・・・・・」

皆反論はあったようだ。
正論つっぱねぇてんじゃねぇぞと。
まぁ漫画じゃねぇんだ。
カッコつけてどうにかなる相手でもない。
そう思ってると、
ディエゴが、部屋にかけてあった槍を手に取った。

「・・・・・何のつもりだ」

「訂正しようか同士。皆の意見を聞きに来たと言ったが嘘だ。
 俺はお前のような奴を止めにきた」

「へぇ」

「アインハルトを回避しながら騎士団で治安を守っていく。
 マイソシアのな。それは必ず出来るはずだ。その方法を見つける」

「俺よりお前の方が夢物語を語ってるように聞こえるがな」

「お前を中心に世界が回ってるわけじゃないぞ。アクセル」

・・・・何を言ってんだ。
そんな天狗じゃぁない。
身の程は弁えている。
ただ、俺の人生は俺のものだろ?

「お前の行動は火だ。火の粉がふりかかるという言葉を知っているだろ。
 お前の考えがここに居る者達を巻き込む結果になるかもしれない」

巻き添え。
・・・か。
なるほど。
そこは考えて話してなかったな。

「確かにそうだ」
「アクセル自重しろ」
「あんたの考えを配慮するにしても、それは急ぎすぎな結果よ」
「ディエゴのいう通り、何かしら案が出るかもしれない」

火の粉。
火の粉火の粉ねぇ。
そんなに火傷が怖いか。
黄金世代が聞いて呆れる臆病者達だ。

「それでもその選択肢をとるか?アクセル」
「お前は危険人物だな」
「自分の人生に手を出すな?」
「それで俺達がとばっちりを食うんなら逆にこっちが言いたいね」
「気を付けろよ皆」

もう今になっては誰が言ったか分からないが、
その言葉はよく覚えている。

「オーランドに関ると痛い目みるぜ」

それは後に、
アレックス=オーランドさえ言われる言葉だったが、
事実でしかないため反論もない。
反論もないし、それに・・・。

さすがに俺もそう言われると。

「アクセル」

追撃は当然だ。
相手は俺の嫁さんだ。

「私もこっち側よ。あんたはちょっと自重しなさい」

夫に意見に逆らうか?なんて亭主関白な事は言わないが、

「エーレン。お前までそっちの意見っつーのは寂しいなおい」

「ディゴの言う通りよ。他人まで巻き込む可能性があるわ。
 あんたが一人で誰とも関らずに生きてるってんなら話は別だけど」

「お前も巻き添えは嫌か」

「嫌ね。大嫌いよ。でもあんたは私が言いたい事を履き違えてるわ。
 あんたが誰かに迷惑をかけるから放っておけないってわけじゃない。
 あんたはね、もうあんた一人の体じゃないって事」

「・・・・・・」

「私達には子供がいるのよ」

・・・・あぁ。
そうか。
そういう事か。
親父。
あんたの教育はまだまだ俺に全部伝わってなかったってことだった。

「それに私だって・・・・」

家族をもつっていうのはこういう事なんだな。
家族、
つまり・・・・"オーランドを名乗る"ってことは・・・・。

今の俺には、同じオーランドが自分を含めて3人居る。
俺の行動は、
オーランドの行動なんだな。

だからあんたは自分の自由のために、
姓を捨てる孤独を選んだ。
自ら選んだ。

そして俺は・・・名乗る方を選んだ。

そういうことだったんだな。

「・・・・・・・・OK」

俺は威勢のいい事を言い散らかしてたクセに、
返事はそうやってダサったらしく出すくらいが関の山だった。
我ながら情けない。
正しいのは周りだった。
まだまだ学生気分が抜けてないってとこか。

いや、
子を持つ親の自覚か。

「決まりだ。アクセルにも少し大人しくしていてもらう。
 これから出来るだけこうやってこれからを話し合う場を設けよう。
 表沙汰になると面倒だから、おおっぴらには出来ないがな」

でもだからって、
答えは見つからないままか。
相手が相手だもんな。

「アインハルトが怪しいのには変わりはないし、
 アクセルと同じような意見の者も口に出さないだけで少なからず居るだろう。
 これからは本音で話し合おう。なにせ・・・・相手がデカ過ぎる」

デカ過ぎる・・・か。
そうだな。
どうするかなんて考えても、きっと大した答えは出ないだろう。
アインハルト=ディアモンド=ハークス。
あいつは絶対なのだから。
覆す事なんて。



































「お疲れ様ッス」
「お疲れ〜」

特に何事もなく騎士団の日々は流れた。
いや、
水面下では何事かは起きてるのだろうが、気付かないフリをした。
俺達にはそれしか出来ない。
動き出すにしても何をどうすればいいか・・・
否、
何が出来るかなんて分からないどころか存在しないのだから。

「パトロール後、直帰にしてくれりゃぁいいのになぁ」
「部隊長厳しすぎだぜ」
「治安維持部隊って看板しょってんだからしゃぁねぇだろ」

いつもの通りこの城で、
俺の所属している8番隊はそんな感じで解散だ。

「事件が起きようが起きまいが、パトロールしてりゃ給料は入る。
 そういう意味で、俺はこの部隊は楽で気にいってるッスよ?
 ま、管理職になりたいかっつったらどうかっつー話だが」

「ったくアクセル。若造のセリフだな」
「それでも次の部隊長候補っつーんだからムカツくぜ」

「そう言ってくれんなって先輩方。部隊長も若い部類だ。
 異動でもない限り次なんてのはずっとずっとの先の話ッスよ」

「あいあい、余裕だね若き妻子持ち」
「男は出世しにゃならんよぉ〜?」
「おいアクセル。飲みに行くぞ飲みに」

「俺ぁ未成年ッス・・・って事で帰らせてもらいます」

「コラァ!先輩の言う事がきけねぇのか!」
「まぁまぁ、帰れば綺麗な嫁さんが居るってんだから」
「チクショー!おいアクセル!明日は99番街周辺の担当にしてやるからな!」

「げ・・・」

とまぁ、これでもうまい事やってる。
若すぎる俺を煙たがる輩もいるが、
黄金世代が入ったことでそれはどこの部隊も同じだ。
出る杭は打たれるというが、そういう意味ではありがたい時代にうまれた。

「はぁ〜ぁ。疲れた」

首を鳴らしながら俺は城の中、
帰り路についた。
城内でさえかなりの交通時間をとられるのが騎士団のやっかいなところだ。

「ってか今日の分残業代出んのかな?・・・って贅沢言える立場じゃねぇか。
 外回りの仕事は気楽だが、サビ残が多すぎで困るねぇ。
 公務員っつっても黒黒黒だねぇ。ま、生きていけるだけ十分か」

毎日似たような独り言をぼやきながら、この城内を歩む。
いっそどっかのお偉いさんにでも聞こえてくれと思う。

「エーレン先帰ってるはずだよな。今日は料理のレパートリー増えてっかな?」

毎日の楽しみはこんなもんだ。
それでいて、家庭の食卓は至高の幸せだ。
とりあえずこれだけのために俺は頑張って働いていける。

「・・・・・って・・・ゲッ・・・こんな時間。アレックスに食い尽くされちまう」

焦って早足になり、
偉そうな装飾の城内を歩んでいると、

「・・・・・ん?」

ふと、誰かとすれ違った。
知り合いじゃぁないはずだが、酷く懐かしい感じがした。
そう思って振り返ると、

その男も振り返っていて、こっちに来いと手招きした。

顔を見れば無視は出来なかった。
食事より優先すべき事象が起きるのはマレだ。
俺は誘われるまま、少し人通りの少ない廊下へと付いていった。

「おい、どういう事だ!」
「カハッ、あんまり大きな声出すんじゃねぇよ。知り合いと思われたらアレだろが」
「知り合いもなにもっ!」

そこに居たのは・・・・親父だった。

「なんでお前がココに!?っつーかその格好・・・」
「ご名答。とうとうバレたな。お前を寮に入れてからはここで働いてんだよ」

親父。
クシャールは騎士団に居た。

「・・・ど、どこの・・・」
「44だよ」
「よ、44!?」
「そういやテメェの同級生が入ってきたぞ?いきなりあの若さで上を埋めやがった。
 ナメんなよと思ったが・・・・ハハッ、なるほど。喰い甲斐がある男だなぁありゃ」

いや、っていうか・・・

「なんで・・・・」
「なんでって別に俺の勝手だろうが。俺が決めた。
 お前が騎士団に入りたいっつーから騎士団養成学校にいれてやったんだろ?
 ま、それで俺もちょっくら味見をってね。世の中には食ってねぇもんが多すぎる」
「あんたは・・・」

俺は一応周りを気にした。
定時後という事もあって、住み込みと夜勤以外は居ない。
人通りは無さそうなのを確認した。

「あんたは身内を巻き込むのが大嫌いなはずだろ?」
「おう。自由が一番だ。だからそろそろ潮時かな?
 あのロウマってのを食ったらここも満腹だ。姿を消すつもりだ。
 あぁ・・・・俺との関係はちゃんと隠しとけよ?それが身のためだ」
「そりゃそうするけどよぉ」

それよりも・・・

「退団するなら早めにしといたほうがいいぜ」
「お?これまた酷い息子だねぇ」
「いや、」

うまいことやってんだろうが、44部隊ともなると・・・・巻き込まれる。
もしあの絶対が何かしようというなら・・・。

「皆の言うとおり早まらなくてよかったぜ」
「何が?」
「いや」
「まぁ何にしろ、ここはきな臭いとこだな。平和を掲げて裏でコソコソ。
 税金払う身分になると途端に文句言いたくなるな。
 おいアクセル。お前偉くなって消費税下げろ」
「そんな事言ってるから所得税が増えんだよ」
「なにそれ?」
「給料明細みてみろ」
「収支しか見てなかった。・・・・え!?引かれてんの!?ふざけんな!
 誰が決めた!出て来い!おい!誰が決めた!俺の給料は俺が決めるぞ!」

相変わらず、馬鹿な親父だ。
でも変わってない。
変わってないもクソも、年に数回は合ってるわけだが。

「おい親父。たまにはアレックスに会いに来てやってくれ」
「お前の嫁さんに手ぇ出すと怒るクセに」
「嫁じゃなくて孫に会いにきてくれっつってんだ!」
「孫じゃねぇよ。息子の息子だ」

息子の息子。
何が違うってんだ。

「あれは俺の孫じゃねぇ。お前が選択した道の中の産物だ。
 俺はただのクシャール。オーランドじゃねぇ。だから息子の息子だ。
 俺には家族もいねぇのさ。完全なただの一人の男だよ」

オーランドじゃないから。
誰にも迷惑かけたくない人生だから。
だからって・・・・家族じゃないとか言うなよ。

「だが、てめぇは俺の息子だ」

そう言って偉そうに笑って、
俺の頭を撫でようとするもんだから、俺は振り払った。
こっ恥ずかしい事この上ない。

「お前は名乗るのを選んだんだ。まだ捨てる選択も出来るわけでもあるが・・・。
 ハハッ、それどころかオーランドを+2にするんだからそんな気もねぇわな」

あぁ。
無いさ。
俺はオーランドとして生きていく。
誇り高く・・・なんて気のきいた事は言えないがな。

「そろそろ行くかな。アクセル。さっきも言ったが、騎士団の中では俺を無視しろよ」
「親父」
「なんだ?」
「親父はよぉ」

親父は、
親父なら。

「自分の自由を脅かすモンがあったら・・・・・どうする?」
「食ってやるさ」

だろうな。
だって親父はその選択が出来るように・・・
"守るべきものがない道"を選んだんだから。

「俺と違って、お前は背負うんだろ?」
「あぁ」
「重てぇぞ?ソレはよ」
「感じてるよそれは」

背負う事。
それは親父の選んだ自由とは逆の・・・・不自由。
だけど捨てるわけにもいかねぇさ。

「なら親父らしい事を最後に言っておいてやる」

そんな風にカッコつけた笑い方をして、
親父は言うんだ。

「名は捨てれても血は消せねぇさ。契れても、千切れないもんだ」

矛盾しているが、
最高の言葉だった。

姓を捨てても、
家族を捨てても、
親父は・・・・・、

俺の事だけは息子だと言ってくれているんだから。




































「お味噌汁・・・・っつーのはどうかな?」

俺の言葉に、食卓についていたエーレンは箸を止めた。
アレックスは構わず黙々と食事をしていた。
もう学校にも通うほど成長した。
ガキの成長は早いもんだ。
ハイハイより先に覚えた箸の扱いで、皿の上の全滅作業に取り掛かっている。

「何それ?食卓に味噌汁が並ぶのが気に食わないの?
 あらそう。ちょっと印鑑もってきなさい。私は用紙をとってくるわ」
「いやいやいや違う違う!」

早とちりで不機嫌になったエーレンを必死にとめた。

「昨日支給されたGキキだよ!プロトタイプのよぉ!
 『G−T』なんてコードネームのままじゃ可哀想じゃねぇか。名前だよ名前」
「あぁそういう事」

納得したようだったが、

「・・・・・その名前を付けられるのは可哀想じゃないのかしら」
「あんで?」
「・・・・まぁいいわ。あんたが支給されたもんだしね」
「まぁそうだな。でも騎乗用のGキキねぇ。騎士団は何を考えてんだか。
 速い事は間違いねぇんだろうけどよ。実用的なんかねぇ」
「だからプロトタイプなんでしょ?実験台にされてるわけよ」
「騎馬隊で実験すればいいのになぁ」
「あんたみたいに街でヤンチャのガキを追い回してる部隊の方がうってつけなんでしょ」

ショボい仕事みたく言われたが、
まぁ治安維持部隊の仕事は街のパトロールがもっぱらだ。
気楽なのは否定出来ない。
それが気に入ってる部隊なわけだしな。

「いいじゃない。建前は昇格記念でしょ?」
「らしいけどな」

「記念?なんの?」

アレックスが反応する。
記念という言葉には反応よく反応する。
記念日には何かしら食卓が豪華になると学んでいるからだ。

「俺と母ちゃんが明日をもって部隊長様になるんだよ」
「私は医療部隊の。お父さんは治安維持部隊のね」

「へぇ」

「興味なさげだな。中身はどうでもいいってか」
「ちゃんと両親を敬う事を教えないとね」

「その部隊長っていうのになるとどうなるの?」

「部下に色々押し付けてサボれる量が増える」
「またあんたはそういう・・・その代わり責任が全部あんたなのよ?」
「・・・なんだよなぁ面倒クセェ」
「あと、お給料が増えるわ」
「別に今まででも困ってなかったから嬉しくもねぇんだが」
「その代わり残業代が出なくなるわ。憎たらしいわね」
「おー、怖」

「ふーん」

アレックスはサラダを口に流し込んだ。
それはお椀じゃねぇぞと教えたいが、
それはエーレンの役目だ。
俺も同じ事をするから。

「それで、なんで偉くなれたの?父さんと母さんは凄いから?」

それには、
俺もエーレンもすぐに返事は出来なかった。
実力による順当な評価・・・というのは事実あっただろう。
それぐらいの自信はある。

ただ、
その前の理由はお互い同じ。

部隊長の不自然な死だ。

公からすれば不自然とは思わないように出来てはいる。
戦闘を行うから騎士団だ。
名誉の殉職はどこでも起こり得る。

この1ヶ月だけで3人の部隊長。
そして1年で10人の部隊長が消え去っても、
ニュースはあまりにも不幸な偶然ぐらいに大々的に取り上げる程度だ。

俺の部隊長も、
エーレンの部隊長も、
まだどちらかというと若い部類ではあったし、
人格者で実力者だった。
知っている人間からすれば有り得ないタイミングの死だとすぐ分かる。

死んでいるのが、
平和主義の国王派の部隊長ばかりであるのも、
偶然と言うには必然すぎる。

気付く奴は気付いている。

「・・・・アクセル。今日私のところにディエゴが来たわ。週末にまた集会をするって」
「このタイミングにやると疑われるんじゃねぇか?」
「隠しとおせるとはもう思ってないみたい」
「そりゃそうだ」

あのアインハルトだ。
主犯があいつだという確信は日に日に強くなる。
一切尻尾を見せない完璧さがまたカンに障る。

「だが、今回の俺達を含めて黄金世代の部隊長昇進は10人だ。
 きっとまだ増える。世間じゃそれなりに疑われるだろう」
「とっくに噂になってるわよ。黄金世代の騎士団乗っ取り説」
「やっぱか。俺達の意志じゃねぇってのにな」

なら誰の意志。
絶対の意志。
ただその意志が何を考えているかなんて分からない。
きっと、
ただ邪魔なものを扱いやすい者に入れ替えているだけだ。

逆らう事の無謀さを知っている人間に・・・・。

「なんの話?」

「なんでも無いわ」

エーレンはアレックスに優しく微笑む。

「ふーん。ご馳走様。デザートは?」

「なんにも無いわ」

エーレンはアレックスに優しく微笑む。
絶望的な表情をしている息子はトボトボと自分の部屋に戻っていった。

「1お人。って言ったわよね?」
「ん?」
「9人よ。ツヴァイが部隊長を辞退した。アインの部隊の副部隊長に自主降格」
「・・・・ッ・・・ますますって感じだな」

アインハルト。
ロウマを初め、
オレンティーナ。
ミラ。
ディエゴ。
ポルティーボ。
クライ。
そして俺、
エーレン。

着々と黄金世代が騎士団に根を張り始めた。

「このペースだと、後々は半分の部隊長が黄金世代に打って変わるわ」
「だな。あぁチクショウ。どういう意図でこんな事してるかは別として、
 ミラとポルなんかに先越されたのはムカつくな」
「部隊長なんてなりたくないって言ってたクセに」
「どうせ成っちまうなら話は別だ」
「私より後じゃなくてよかったわね」
「あんで?」
「階級権限を家庭まで持ち込むつもりだったから」
「そりゃ怖い」

そんな事しなくてもこの屋根の下はお前の天下だけどな。

「それで・・・」
「ん?」
「数年の間にアインは騎士団長に打って変わる」
「アンドリュー騎士団長をどかすのは大概だと思うけどな。
 それにどかすだけで手に入るもんじゃぁない。地位ってもんはな」
「それくらいの算々はつけてくるでしょう。あのアインハルトなんだから」

間違いねぇ。
俺は遅れて食事を口に放り込んでいた。

「何考えてんだろうな。あいつは」
「分かりえないわ」
「一番奇妙なのは、あいつが実力行使に出ない事だ」

俺は箸の先を偉そうにエーレンに向けた。
もちろん行儀が悪いと怒られた。

「やろうと思えば簡単にこんな国を手に入れてしまえるはずだ。
 あいつの実力ならな。お茶の子さいさい・・・ってなもんだ」
「ツヴァイとロウマを従えているならなおさらね」
「従えてなくても、だ。むしろそのレベルでさえ合ってもなくてもだろうよ。
 だが俺が怖いのはそれを実行しない事。静寂に事を起こしすぎてる」
「まぁね」
「無傷で国を壊滅させる事さえ可能なはずだ。だけどそれをしない。
 壊さないように、この国を手に入れようとしている・・・・。理由は?」
「あんたにしては脳ミソの入った意見を持ってるわね」
「毎日味噌汁漬けのお陰でな」
「皮肉?」
「いや、最高だ」
「あそ」
「で、理由」
「それは・・・そうね。この国に何か魅力があったんじゃない?
 この国、そこに何か壊さずに手に入れたい何かがあった」
「そんな心もった奴じゃねぇよ」
「なら、作り直すのが面倒臭いから」
「こんな年月使う事の方が面倒じゃねぇか」
「答えが分かってる風な口ぶりね」

分かってる・・・か。
分かってはいない。
分かりたくもない。
でも、
ムカツく事に多分正解だろう。

「楽しんでるだけさ」
「・・・・・遊びってわけ」
「完璧はやる事がない。何でも出来るからな。目標が生まれてこの方ない」
「ゲーム。暇つぶし」

プレイヤーは1人。
ただ、舞台は全て。
考えたくもない。
そんな意志に・・・・自分達が巻き込まれているなんて。

「俺はよく考える」

入団してすぐの集会のあの日から。
親父と城内で会ったあの日から。

「もし、アインの手が俺達の伸びてきたら、俺はどうするんだろうな・・ってな。
 俺は失いたくないんだ。この関係・・・・・この家ってもんをな」
「亭主らしい事言うじゃない」
「あぁ。男がなんで働くかはなんとなく分かったよ。
 俺はなんで働かなくちゃいけねぇんだとかガキの頃よく思ってたが、
 なんの事はない。成長でも先でも、未来でもない。・・・・維持」

維持。
ただ、
守りたい。
この暮らしを。

「私はね」
「ん?」
「世界が1人の意志でどうこうされるなんてまっぴらゴメンだわ」
「なんだぁ?」
「世界は人と人が繋がって・・・それでやっと社会と呼べるものだと思ってる。
 だから、国っていうものは、世界っていうものは人が結束して出来るもの」
「何々?お前の意見?」
「私はそういう考えってこと」
「ふーん。大層立派だな。さすが聖職者様」
「ちゃんと聞いてよ。話したんだから」

真面目な表情をしていた。

「あんた一人で考え込んでたみたいだからね。あんたはたまにそういうところがあるわ」
「そうかね?俺は結構他人任せな怠け者だけど」
「任せて欲しいところだけ任せてくれない」
「なんか顔が怖いぞ。生理か?」

ビンタされた。

「・・・・ってぇ!」
「謝りなさい」
「すいません・・・・」
「・・・・続き。私ぐらいには話しなさいよ。私も話すから」
「そういう話か」
「そういう話。だって家族なのよ?」

おう。
・・・・・おうおうおう。
ありがちなセリフだと思ったが、これはなかなか。
うん。
いいものだ。

なるほどなるほど。
悪くない。
悪くねぇぞ親父。
繋がりを持ってるってことは。

「アクセル。あの日の集会でのあんたの意見。あんたは納得したかもしれないけど、
 それでもあんたの中に"ソノ"気持ちがある事だけは変わりようがないわ」
「・・・・・」
「もし、アインの手が私達の生活を脅かすような事があった時、その時はちゃんと相談して」
「相談したらどうなる」
「また止めるわ」
「止まらなかったら?俺の二つ名知ってるか?」
「何にしろ、話して」
「・・・・・」
「どんな結論になるとしても、これだけは約束して。
 それはあんたの意志じゃなく、オーランドの意志にしてからにするって」

親父。
本当に、
本当に悪くねぇもんだ。

重荷なんかじゃねぇ。
背負ったもんを・・・一緒にもってくれるんだと。

・・・・・いい嫁をもらった。
必然っつーなら幸運ものだ。

俺にはこいつ以外考えられない。

「って事で今日の話は終り。食器洗っておいてね」
「え」
「私は食後にヨガやってくるわ」
「ちょ、俺一人で?」
「あんたが二人以上居るなら協力してもらいなさい」
「おい!オーランドの意志は!?」

前言半分撤回。
親父の選んだ道も羨ましい。
自分の事は自分で決めたいもんだ。


































アインハルト=ディアモンド=ハークスは騎士団長になった。
エーレンの言うとおり、
あまりにもスムーズに、世間に波を立てる事なく。
むしろ英雄として受け入れられるほどに。

デムピアス討伐のたった一人の生還者は、
哀しき偶然・・・・
国王の病に代わり、世界の頂点に立った。

「国王絶対死んでるだろ」
「国民がそれに気づいた時にはもう遅いでしょうね」

その時はそんな会話をしていた。
そして、もう遅いというには、俺達も遅すぎた。
そんな時点でアインハルトに立ち向かえる者などいなかった。
世界は奴の手に渡った。

気づいた時には独裁政治はマイソシアを包んでいて、
国王の代わりに立った帝王の意のままだった。

それでも何も出来なければ時が過ぎる。
時の経過はアレックスを見ていれば分かった。

俺の息子か疑いたくなるほど頭も良く、
エーレンにばかり似ている。
学校の卒業も首席だった。
浮気で出来た子じゃねぇのか?と一度冗談で言ったが、
「食卓を見てると逆の不安が私を襲うわ」
と一蹴された。
言われれば間違いなく俺とエーレンの子だ。

俺は槍を教えた。
息子が日に日に上達していく姿を見るのが幸せだったが、

才はなかった。

それでも努力だけで人一倍になった息子は誇りだ。
途中、聖職者として学業を学びたいと言った。
アレックスは両立した。
槍よりは才があったのが、また悔しかった。
遺伝子はエーレンよりに出来てるんじゃないかとな。

アレックスが医療部隊に入った時なんか嫉妬で口ゲンカまでした。

俺は親父の背中を見て育ってよかったと思うから、
アレックスにもそう思わせたい欲望があった。
ただ本人に言わせれば「十分に」だそうだ。
子は知らない内に見ているものだと感じた。

立派になった。
それだけは言えた。

親が部隊長をやっている部隊に入団し、
人の目を辛かったろうに、
俺から見てもよくやっている。

「今のお前の年ぐらいには、俺は部隊長になってたぜ?」
と笑って言ってやったら、
興味はないと言っていた。

そりゃそうだ。
親父や俺と違い、アレックスは分別が出来ている。
親父と俺と同じ道を進んでいたら、
俺はもうジジィに。
親父は40代でひぃジジィだ。
俺も親父もそれぞれ無事30代と50代を迎えられて助かった。

とにかく、

アレックスが自分だけで生きていけるまで成長出来て・・・・よかった。


「行くのか?」


城の中だ。
ここは。

俺とエーレンが並んで歩いている。
そこに、
親父が居た。

「騎士団抜けた身がルアス城で何やってるんだ」

「別に傭兵ってのは攻め側だけの特権じゃねぇんだよ。
 今度の攻城は守備でって要請をロウマの馬鹿から受けてな」

エーレンは丁寧にお辞儀し、挨拶していた。
よく出来た嫁をもった。
本当に。

「で、行くのか?」

「義父さん。何の話か分かりません」
「別に散歩だよ散歩」

「そうかい」

久しぶりに会った親父には、白髪があった。
老いたな・・・と思ったが、
染めてるようだ。
いつになっても自由に遊んでいるらしい。

「"血縁解体法"。あれが原因だろ。あれが正式に通ったら困るわな」

お見通しか。

「建前は差別社会の廃止・・・・とピルゲン卿は謡ってるが、笑い話だ。
 "差別"の廃止は"無差別"の始まりだ。人は愛を知らなくなる」

俺には関係ない話だが、
と親父は皮肉に笑った。

「あの法令はまだ切り出しだ。あの騎士団長様は・・・・
 世界の全ての人間を全員平等に玩具にする気マンマンだな。
 頂点一人とその他底辺。完璧なバランスの世界が生まれる」

それを知らしめたいんだろう。
そういう・・・・遊びだ。
遊び・・・その一つにしか過ぎない。

「だが法令は通る。逆らえる人間はマイソシアには居ない。
 ただ・・・・だからってお前らは黙ってられない。そうだろ?」

その通りだ。
だから、
だから今俺達はここを歩いている。

書類の上での繋がりなんてどうでもいいじゃないか。
・・・・なんて奇麗事を通してピルゲンは完結させようとしている。

「そう。黙ってられないんですよ」
「エーレンの堪忍袋は、俺らの胃袋ほど広大に出来てなかった結果・・・ってわけだ。
 もちろん俺も。このまま行けば、俺達の生活はメチャメチャになる」

「死んだらもともこもねぇ」

正論だ。
その通りだ。
俺達だってそう思って長年我慢してきた。

「世界は人と人が繋がりあって出来るべきだと私は考えています」

「ハハハッ!その通りだ。人と人が繋がるから子が産まれる」

「茶化さないでください」

「大真面目さ。だからこの世界がある。そうだろ?息子の嫁さん」

あぁ。
その通りさ。

「私は、自分の息子には、"世界"の中で生きて欲しい。
 そして私自身も、世界の中で生きていたい」
「それが俺達が話し合って出た結論だ」

「ご立派だ。覆せるなら・・・だけどな。で、勝算は?」

「ある」

俺は、言った。

「1%ぐらいのもんだがな」

「絶対やらねぇギャンブルだ」

「俺は、"アインハルトの弱点に気付いた"」

親父は表情を動かさなかった。
荒唐無稽な言葉のはずだ。
あの絶対の弱点?
ただ、
親父は馬鹿にはしてこなかった。

「確信はないがな。試す手段はない。ぶっつけ本番だ」

「なんでその弱点とやらに気付いた」

「ただあいつを観察していたら・・・気付いたんだ。なんで今まで気付かなかったのか・・・」

「それで、その弱点とやらは致命的なもんなのか?」

「いや、突ける程度のもんだ。捉え方によっては弱点とも呼べないかもしれねぇ。
 しかもその弱点自体、あいつが少し本気になればすぐ覆るかもしれない」
「でもそれは、今ならまだ弱点があるという事」
「つまり、あの絶対相手に"1%もの勝算があるのは今しかない"ってことなんだ」

その勝算を突けるのは、
今しかないから。
そして、
動くのは俺達しかいないから。

「・・・・チッ・・・・・何やら決心固まっちまってるみたいなもんだな。
 俺にはもう決められねぇか。お前が決めたことならもうしょうがねぇ」

親父は・・・
諦めきれないといった顔で、諦めたようだった。

「おい息子」

親父の顔を見たのは、それが最後だった。
後ろを向いてしまったから。

「最大の親不孝を知ってるか?」

「死にはしねぇよ。・・・・約束は、しねぇけどな」


親父を残して、
俺達は・・・その城の中で歩を進めた。

残した親父の背中を見るのは気が引けた。
そして、
これ以上会わす顔なんてなかったから。


ルアス城の中はいつもの通りだ。

アクセル=オーランドと、
エーレン=オーランド。

この二人がどういう意思をもって並んで歩いているかなんて、
誰も知らないだろう。
そんな、
いつもの出来事。

誰も、
何も、


「あれ?父さん。母さん」


だから、
その、避けたかった偶然は、幸か不幸かと聞かれたら・・・・
幸だったかもしれない。

見ておきたかったから。
目に焼き付けておきたかったから。

「・・・・・・あら」
「・・・・・・おぉ、アレックスか」

「二人してサボり?もう定時終わってるのに」

「残業みたいなもんよ」
「ずっと・・・・ずっと溜めてた仕事があってな」

だから偶然じゃなくて、
これも必然だったんだろう。

「ふーん」

何も知らないアレックスは、
俺達を見てもやっぱり何も気付かない。
それでいい。
それがいい。
そう思った。

・・・あぁ。

「そういえばだがアレックス。突然で悪いんだが」

俺は親父のように、
選択はさせてなかった。

「お前はアレックス="オーランド"なわけだけどよぉ」

「何言ってんの?母さんと父さんの子なんだからそうに決まってるじゃん。ボケた?」

・・・・・・。
そうか。
もう、選択はしてるんだな。
いい子を持った。

ちゃんと俺の子で、
ちゃんとエーレンの子だ。

「悪ぃ悪ぃ。少しボケた」

「しっかりしてよ?僕の給料はオヤツに消えるんだから、
 食費は稼いでもらわないといけないんだからね」

思い残す事は、
もうねぇな。

「じゃぁアレックス。俺達はちょっと行ってくる」

カエルの子はカエル・・・・か。
さっきの親父の心境だ。
俺はそう言ってすれ違って、
もうアレックスに会わす顔はなかった。

いつも通りの息子の表情が見れて、未練はない。

「アレックス」

エーレンが最後に、アレックスに声をかけていた。

「夕御飯は・・・・作ってあるから」



































最上階。
王座の扉。
その前。
俺達はなんでこんな所に立っているんだったっけか。

「エーレン」
「なによ」
「俺達の分の夕飯はねぇのか?」
「それは帰ってからのお楽しみ」

そうか。
そうだな。

「でもお味噌汁は作ってないわ」
「なんで?」
「それはあんたに作ってあげるもんでしょ」
「そうかい」

俺は扉の左半分を、
エーレンは右半分を、

手で押した。
そして、

「そういや今言っときたい事がある。プロポーズの時は曖昧にしちまったからな」

俺達は、
最後の扉を開いた。





























驚くかもしれないが、作り話とは思わないで欲しい。

俺はなんと、俺が0歳ジャストの時に産まれた。
コンマ1秒のズレもなく、0歳ピッタシだったらしい。
その記念と言ってはなんだが、
その0歳の誕生日に親から誕生日プレゼントをもらった。

なんだと思う?


まぁそれは置いておいて、

あともう一つもらったものがある。

それも大切なもので、
少なくとも・・・・・・・俺は今日この日まで大事にしてきた。

捨てるつもりはなかったが、
まぁ親父には悪いがとうとう失くしちまった。

でももう一方、言いかけた方はちゃんと持ったままだ。

でもどんな理由でこんな名前をくれたんだか。



「これが俺の息子か!ハハッ!言われりゃぁ似てやがるぜ!」


おっと。
夢かな。

俺が産まれた時じゃねぇか。

走馬灯みてぇなもんか?
知らねぇが、
そんな0歳ピッタシの時にまで遡るとはね。

親父もまだ若いじゃねぇか。


「名前?名前か。そうだな・・・・」


親父。
くれんならマシな名前くれよ。
アクセル。
アクセルだ。
気に入っている。

止まりたくはねぇからな。

そういや聞いてくれよ。
のちのち俺は自分の息子も授かるわけだけどよぉ。

名前何にしたと思う?

ひくなよ?
アクセル(AXEL)からとってな・・・・


「クシャール(XAEL)からとってアクセル(AXEL)。どうだ!俺が決めた!」


あぁそうか。
上出来だ。


いい人生だった。












                 






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