「お前はやればできる子じゃ」

おじいちゃんがそう言った。
レビアの一軒。
大きくない、外れにあるひとつの家。
その中でおじいちゃんは言った。

「ほんとかなぁ・・・・」

「本当だとも」

おじいちゃんはそう言った。
そう言って頭を撫でてくれた。

「ニッケルバッカー。お前はできる子じゃ。間違いない」

「うん。おじいちゃんの子だもんね」

「おじいちゃんの子の子じゃ。だからわしはおじいちゃんなんじゃ」

「難しくて分かんない」

「そうか」

「でもおじいちゃんの子の子だから。僕はできる子だって思えるよ」

「それはおじいちゃんの方が難しくて分からないな」

「なんで?」

「おじいちゃんは関係ない。"お前は"できる子なんじゃ」

「なんで?」

「理屈なんてないわい。ただお前はできる子なんじゃ。お前自身ができる子なんじゃ」

「難しくて分かんない」

「つまり自分を信じろって事じゃ。おじいちゃんができる子だからじゃない。
 お前ができる子だから。お前自身ができる子なんじゃ。お前自身を信じろ」

「・・・・・・難しいけど・・・・なんとなく分かった」

「そうか」

おじいちゃんはニッケルバッカーの頭をまたクシャクシャと撫でた。

「やはりお前はできる子じゃな」

優しく微笑むおじいちゃんの顔は、
僕に自信をくれた。

















そんな日々も昔で、
ニッケルバッカーは10とか12とか。
11?
なんかそれくらいの年になっていた。
ちゃんと年齢を数えてないから分からない。

「多分10くらい」

ニッケルバッカーはレビアの街人。
特に大層な家柄ではない。
いや、大層ではないどころか、
一般家庭より下。
いうならば移民であり、
家柄というものは無かった。

だから姓はなく、
ニッケルバッカーという名だけがあった。

「多分ってなんだよっ!」
「メソメソ野郎!」

ニッケルバッカーは学校に通っていた。
騎士団養成学校。
ルアスにある、ずば抜けて世界最大の学校。
まぁだからと言って入るのは難しくは無く、
誰でも入れる。
そしてニッケルバッカーは年齢的に幼い時期に入ったため、
飛び級などなくともこの年で中等部だった。

「メソメソじゃない・・・俺はニッケルバッカーだよ・・・・」

「うるせぇ!」
「名字もない農民の子め!」

まぁ、
学校生活。
ニッケルバッカーはいじめられていた。
理由はまぁ、
そういう家柄の事もあるが、
その態度的なものがあるだろう。
引っ込み思案で、
弱虫で、
だがそのくせナマイキな強い口調。
そして周りより年下。
正直なところ、
いじめられやすい存在ではある。

「お、おいやめとけよ・・・」
「なんだよ」
「こんな奴むかつくんだ。イジメとけばいいんだよ!」
「お前ら知らないのか!?そいつはあのストリートバッカーの孫だぞ!」
「!?」
「うそっ!?・・・・やべっ・・・」

その情報を聞き、
同級生達はそそくさと逃げていった。
取り残されたニッケルバッカーは、
虚しく座り込んだ。




祖父、
ストリートバッカー。
職業。
王国騎士団員。
役職。
第17番・遊援部隊 部隊長。

遊援部隊とは、つまるところ聖職者の集まり。
だが、第16番・医療部隊と違うのは、
遊撃手のように戦場を駆け回り、
仲間の援護補助、回復、時には攻撃の援護。
個々で戦場を走り回る"移動式援護部隊"。
一人一人が別々に動く。
一人一人が個々の判断で動く。
救援の要請があれば駆けつけ、
戦場を走りまわって死んでいる仲間の蘇生など、
部隊といっても個々で戦場を支える者達だ。

祖父ストリートバッカーはその部隊長。
『3ドアーズ・ダウン』と呼ばれているのは、
居て欲しいところにいつも何故かいる。
3次元空間の中ならどこにでも、いつでも、
まるでゲート(扉)を使って動き回っているほどの迅速な動きと、戦場把握能力。
個としての嗅覚。
彼がいるかいないかで、
戦場の死者負傷者数は何百人も変わるといわれている。

「おじいちゃん・・・・」

家柄はないが、
能力故に、
古き騎士団長アンドリューの頃からアインハルトに変わった後まで、
部隊長として永きに渡って働く。

ニッケルバッカーはその孫。

「僕はなんでおじいちゃんの孫なのにこんなに弱いのかな・・・・」

だが、
その血を継いでいるとは、
誰もが思えなかった。

「また学校でいじめられたのか?」

「うん・・・・」

「だらしないのぉ」

「ごめんなさい・・・」

「コラっ!もっと自信を持てニッケルバッカー。お前は出来る子なんじゃ」

「でも僕・・・おじいちゃんの孫なのに・・・・」

「"俺"じゃ」

「へ?」

「いつも自分の事は"俺"と呼べと言ってるじゃろっ!」

「でもいじめられるんだ・・・お前なんかが俺とか言ってナマイキだって・・・・」

「ふぅ・・・・」

祖父は、
ニッケルバッカーの肩に手を置く。
そして老人とは思えない強い目でニッケルバッカーの目を見つめ、
話す。

「お前はだから自分を"僕"と呼びたいんじゃろ?その時点でお前は自分に負けている。
 俺と僕。たしかにそんな事自体はたいした問題ではないじゃろうて。
 じゃがな、お前さん自身が"俺"を怖がり、"僕"に逃げ落ちようとしてる時点でそれは問題なんじゃ」

「難しくて分かんない・・・・・」

「逃げずに自分を強く持て。その小さな手始めとして、自分自身を"俺"と呼べ」

「・・・・・・うん」

「怖がるな」

「・・・・・うん」

「自分を信じろと言っておるだけじゃ。自分なんてものを何故怖がれる」

「分かってるよ・・・・自信持つよ・・・だっておじいちゃんの孫だもんね」

「分かってない」

祖父ストリートバッカーは、
ニッケルバッカーの肩から手を離した。
それがとても悲しかった。

「わしは関係ない。お前はお前じゃ。わしの血とかはまったく関係ない。
 わしが凄いからお前も凄くなれるのではない。お前はお前。
 お前が出来る子なんじゃ。お前自身を信じろ。自分が出来る子だと自覚するんじゃ」

「・・・・・・」

「わしが凄いから?そんなものを自信にしていては駄目だ。
 わしなど信じるな。わしだけを信じて生きていく気か?
 自分は信じず、わしを信じて生きていく気か?それではお前の人生じゃない」

突き放されたような気持ちになった。
祖父を誇りに思う。
だが、
それを自信にせずに自分として生きろ。
自分の事を突き放されたような気がした。
だが、
誇りに思う祖父がいうのなら、
それもまた信じれる事だった。

「分かった」

ニッケルバッカーは、
祖父の事を誰よりも信じている。
だからこそ、
祖父を信じずに自分を信じようと思った。

「僕頑張る!」

「俺じゃ」

「・・・・・・俺頑張る!」










それから必死になった。
自分を信じる。
それだけに必死になった。

「俺をなめんなっ!!!」

「ぐぁっ!」

昨日いじめた奴をぶん殴ってやった。
いじめたその男は、
ありがちな捨て台詞を言いながら逃げていった。
せいせいした。

「俺はできる子だ・・・・」

その後、
いじめっこは仲間を連れてきた。
4対1。
ぼこぼこにされた。

「ケッ、」
「ニッケルバッカーのくせに」

ぼっこぼこだ。
まぁ勝てるわけのないケンカだ。
ただの素手のけんか。
学生どうしのけんか。
4対1は袋叩きでしかない。

「俺は・・・できる子だ・・・・」

ニッケルバッカーはぼこぼこになりながら、
ただ反撃した。
あまりに何度でも立ち上がってくるので、
途中で4人組は諦めて帰っていった。
いや、逃げていった。

「・・・・・・・・・」

ニッケルバッカーはその場で仰向けに倒れ、
空を見上げた。
やればできる。
それを理解できた。

「じいちゃんの言うとおりだ・・・。まだ全然だけど・・・俺はやればできる子だ」

後ろ向きから、
前向きに変わった。
それは大きなことで、
間逆の事で、
ニッケルバッカーの力になった。

「俺はできる子だ・・・俺はできる子だ俺はできる子だ俺はできる子だ」

ひたすらになった。
とりあえず力を試したい。
まず勉強をしてみた。
自分はできる子だ。
それをつぶやきながら机に向かった。
成績が上がった。
中の上といったところか。
だが結果は問題じゃない。
やればできるという事が分かった。

「こう・・・・・・・かな・・・・・」

「違う!」

祖父にスキルを習った。
祖父は聖職者なので、
聖職者としてのスキルしか学べないが、
それは難しいものだった。

「十字を切るのはただの動作ではない」

「分かってるけど・・・・」

ニッケルバッカーは指先に集中する。
そして切り株の上に乗せたノカン肉。
そこに指先を狙いつける。

「アーメン!」

パージフレア。
指先をあげる。
だが炎はあらぬところで吹き上がった。
まぁ吹き上がったといっても、
ライターの火程度の小さな火だ。
威力も精度も下の下。

「・・・・・・・」

「まぁすぐにはできんじゃろうて。養成学校の高等部にいけば専門科目がある。
 そこにいって少しづつ学んでいくといいわい。まだ早いといえば早いからの」

「やだ」

ニッケルバッカーは強い目で祖父を見た。

「俺はできる子だ」

ニッケルバッカーの目と、
その言葉、意思を見て、
祖父はニヤりと笑った。

「よく言った。んじゃぁもう一回やってみろ!」

「分かってる!」

ニッケルバッカーは十字を切る。
そして指先を切り株の上のノカン肉に向ける。

「・・・・・・」

指先が震える。
聖力のため方はあっているか?
照準は?
出来るのか?
いや、出来る。
指先が震える。

「・・・・狙え・・・・狙え狙え・・・・」

震えている。
やらなきゃという心が重荷になっているのか、
強く言葉と裏腹に、
震えるその姿はか弱くみえた。

「集中しろニッケルバッカー」

ストリートバッカーはニッケルバッカーに言った。
だが・・・・

「俺はできる子だ俺はできる子だ俺はできる子だ・・・・・」

我を忘れたようにニッケルバッカーをつぶやいていた。
祖父の声は聞こえていないようだった。

「・・・聞こえてないか・・・・・それでいい」

ストリートバッカーは、
ニッケルバッカーの集中力を見て安心した。
そして切り株の方へ目を戻す。

「お?」

切り株。
丸い切り株。
その上。
年輪ではない。
切り株の上に魔方陣が形成されている。
小さく、
薄っすらだが、
それは確実にそこにあった。

「いけっ!」

「アーメン!!」

ニッケルバッカーは指を上げると、
切り株の上でパージフレアが吹き上がった。
蒼白い炎。
小さく、
弱い。
だが、
それは切り株の上のノカン肉を燃やした。

「で・・・・・できた・・・・」

ニッケルバッカーは、
指を上げたまま、
そのポーズのまま、
見開いた。

「じいちゃん!俺にもできた!」

ニッケルバッカーが嬉しそうに祖父を見る。

「出来て当然じゃ」

ストリートバッカーはニヤりと笑いながら、
ニッケルバッカーに言った。

「お前はできる子なんじゃから」

「・・・・・うん!」

ニッケルバッカーは嬉しそうに、
もう一回パージフレアを構えた。

「まさか本当に出来るとはな・・・・・」

「へ?」

「あぁ・・・いや、人も信じてみるもんじゃなとな」

「ふーん」

ニッケルバッカーはそう言いながら指を上げると、
また切り株の上で小さな炎が上がった。

「お?今度は楽にできたの」

「そりゃそうだよ。俺ができるって分かったんだから」

「なるほどな」

自信は力になる。
それは間違いないようだ。










やりたい事は、
自分を信じて頑張れば出来る。
それを知ったニッケルバッカーは・・・・無敵だった。

努力は楽しかった。

結果が出ると知っているから。
やれば出来ると分かっているから。
無駄な努力などないと分かっているから。
出来るところまでやろう・・・ではない。
出来るまでやろう。
それなら結果は100%出るのだ。
努力が無駄になることは100%無い。

ただ、
人付き合いは相変わらず下手だった。

「いや・・・俺は出来る子だ・・・・」

やろうと思えば出来ない事はないはずだ。
ただ自分が頑張るだけでそれは出来るものではない。
達成の効率も学んできた。

「ねぇ」

「ん?」

ニッケルバッカーが話しかけた相手は、
ユベン=グローヴァーという男だった。
一見地味で、
顔立ちも地味で、
とにかく地味な男だった。
ただ個性は無いが、
苦手な事もなく、
なんでもオールマイティに出来る男で、
何色にも染まらない男。
訳隔てなく誰とでも付き合い、
誰もが彼を嫌う事なく一目を置く存在だった。
そしてニッケルバッカーは、

「い・・・いい天気だね・・・・」

相変わらず人付き合いが下手だった。

「曇ってるけどな」

「だね・・・」

「・・・・・・・・」

無言になった。
とりあえず次に出る言葉は無かった。
ユベンは手に持つ本を開いたままだった。
急に訳のわからない事を話しかけて、無言になるニッケルバッカー。
だがユベンは「何の用だ?」とは返さなかった。
ただ待っている。
突き放してこない。
この辺が人に好かれる理由かもしれない。

「ユ・・・ユベンって凄いよな・・・なんでも出来て・・・」

ユベンは年上だ。
ニッケルバッカーは早く入学し、
ユベンは遅く入学した。

「そうか?まぁ言われて悪い気はしないな」

「や・・・やっぱりお兄さんも凄かったしな」

と言ってニッケルバッカーは「あ」と口を噤んだ。
ユベンの年の離れた兄、ラツィオ=グローヴァー。
世界を代表する騎士で、
アインハルト、ツヴァイ、ロウマと並んで『4カード』と呼ばれていた。
だが原因不明で死んだ。

「兄貴は関係ないさ」

「・・・ごめん」

「いや、気にしてない。だけど俺は俺だ。俺として成長している。
 兄貴は誇りに思うが、俺は俺として生きていくだけだ」

・・・・・。
好感を持てた。
それは自分と重なった。

「お前はどうなんだ?あのストリートバッカーの孫らしいじゃないか」

「・・・・・俺もじいちゃんは関係ないさ。俺は俺、俺が出来る子なんだ」

「お?そういうの好きだぜ?」

小さく、
ふと微笑するユベンの姿は、
少しかっこよく見え、
少し羨ましくも見えた。

「お互い七光りとか思われるとツラいな。自分自身だけを評価してもらえない」

「・・・・評価してもらえるようにやるだけさ。俺は出来る子だ。
 出来ると思ってやれば出来ない事なんてないから・・・・」

「フッ」

ユベンは本をパタンと閉じた。
本の続きよりも自分との会話をとってくれたようで、
それは嬉しかった。

「・・・・最近いきなり後ろからお前が追い上げてくると思ったら、そういう事か」

「?」

「自分に自信を持ってる奴は強いってのは本当なんだな」

「そ・・そりゃそうさ」

「お前進路は?」

「え?遊援部隊志望だけど・・・」

「そうか、残念だ。俺と一緒に44部隊目指さないかと思ってたんだけどな」

「よ・・・44部隊!?無理無理無理!エリート中のエリートじゃないか!」

「出来ると思えば出来ない事なんてないんじゃなかったのか?」

「う・・・・いや、でも俺は遊援部隊がいいんだ」

「そうか。お前ならロウマさんに気に入られると思ったんだが」

ユベンは視線を外し、
曇り空を見た。
いい天気だねなんて言葉が今更また恥ずかしくなった。

「兄貴の知り合いでな。何度か会った事あるんだが、ロウマさんは凄い。
 信じる者は強くなる。それを教えてくれた。そしてそうやって生きてきた。
 俺は是非ともあのロウマさんの下で戦いたい。だから44部隊を目指す」

「・・・・・・・・」

こいつは出来る子だと思った。
悔しくなる上で、認めた。
負けていられない。
俺だって出来る子だ。
それを胸に誓った。

「いい天気だな」

「え・・・・」

ユベンは曇り空を見たまま言った。
馬鹿にしているのか?
いや、まぁ違うだろう。

「なぁニッケルバッカー。やろうと思えばなんだって出来るんだろ?」

「そうさ」

「ならやろうと思えばこの空だって飛べるかな」

「!?」

「ハハッ、冗談だ」

ユベンは軽い冗談で言ったのだ。
穏やかな笑みだった。

だが・・・・
その言葉はニッケルバッカーの奥深く。
心の奥深くに突き刺さった。

「でき・・・・」

考えないようにしていたことだった。
気付かないフリをしていたことだった。
たまたまユベンの言葉が引き金になっただけで、
いつかは直面する事だった。

「・・・・・?おい?どうした?」

ニッケルバッカーの顔は青ざめていた。
青白くなっていた。

出来ない・・・・。
出来るわけがない。
出来ないかもしれない。
出来ない事がある。
出来る事と出来ない事がある。
出来ると思っているだけじゃ出来ない。
出来やしない。
出来ない・・・・。

頭の中でぐるぐる回る文字列。
自分が唯一信じていたこと。
それだけを芯にして生きてきた。
それが崩れた。

「お、おい!おい!」

ユベンがニッケルバッカーの肩を両手で支えて揺らす。
だが、そんな事は別世界だった。
現実を突きつけられた気分。
夢と真実の崩壊。
子供が誰もが一度は体験する現実。
自分は野球選手にはなれないと分かってしまう時。
それがニッケルバッカーには少し遅かっただけ。
そして積み重ねすぎた自分の信じる道。
それが揺らいだ。
目の前が真っ白になった。



出来ると思ってても出来ない事がある。

なら俺は・・・・何を信じて生きていけばいい・・・・・・






















「専門科目の選択記入用紙です」

騎士団の養成学校の高等部に進学した。
まぁ成績は中の上。
学問も実技もだ。
100人いたら20番以内には入れないかな?という程度。
掲示板に名前が載ることも無く、
偏差値にしたら50と60の間をウロウロする程度。
目立たぬ成績だが、
進学に困るものでもなかった。

「てめぇが聖職?」
「ま、引っ込み思案なお前にゃお似合いだ」

ニッケルバッカーの用紙を見て、
後ろから二人の男が言った。

「騎士団に入ってから精々俺らの後ろに隠れてな」
「けどてめぇが自分の部隊の専属聖職者とかになったと思うと・・・怖ぇー!」

「・・・・心配するな。俺は遊援部隊志望だ」

そう言ってニッケルバッカーは用紙を提出しにいった。
男達を無視し、
歩き去るニッケルバッカー。
そんなニッケルバッカーの肩を捕まえる男たち。

「あぁ!?てめぇが遊援部隊だぁ?」
「あそこは個々で動く部隊だぞ。個人の実力が重視される部隊だ」
「てめぇなんかにゃできねぇよ!」

「ッ!?」

ニッケルバッカーは大抵の言葉に無関心で、
自分が自分を信じていれば他人の言葉などどうでもいいと思っていた。
それは祖父の教えで、
それは正しく、
自分自身が自分自身を信じてさえいればそれは力になる。
それを心に留めていた。
だが、
その言葉に、
ニッケルバッカーは男に掴みかかった。

「な、なんだよ・・・・」

「お・・・・俺は出来る子だ」

ニッケルバッカーの目は真剣だった。
怖いくらい真剣な目で、
それは実際怖かった。
昔ユベンと話したとき、
揺らいでしまったその心。
だが、たった一つの生きる道。
それはもう崩れ去っては生きていけない。
アンバランスに、
いつ崩れてもおかしくない自分自身を信じる心。
だが・・・・
それでも・・・
それをなんとか支えながら生きていくしかニッケルバッカーにはできなかった。
ただ・・・
自分は・・・
俺は出来る子だと信じ続けて生きていくしかできなかった。

「いいか・・・・俺は出来る子だ」

そう言ってニッケルバッカーはその男から手を離した。
だが、
もう一人の男が言った。
もう一度言ってしまった。

「い・・・いい気になるな!てめぇなんかにゃなんもできねぇよ!」

「ふざけんなっ!!!!!」

ニッケルバッカーは気付くと、
その男を殴り飛ばしていた。
高等部への入学早々で、
その男は吹っ飛んだ。
周りはざわめき、
教師はきょとんとしていた。
だがそんな周りも目に入らず、
ニッケルバッカーは殴り飛ばした男を見下ろす。

「い・・・いいいいか・・・おお俺は出来る子だ・・・・」

興奮のあまり滑舌まで悪くなっていた。

「おお俺は出来る子だ・・・出来る子なんだ・・・俺は出来る・・俺には出来るんだ・・・・」

呪文のようにつぶやくニッケルバッカー。
その姿は異様だった。
揺らいだ。
彼がなんとか支えていた自分自身を信じる心。
それが揺らいで、
自分自身がグラグラと揺れている。

「俺は出来る子だ俺は出来る子だ俺は出来る子だ・・・・俺は出来る子なんだ・・・・・」

自分自身が崩れてしまい、
狂ったかのようになった。
困っているような、
狂っているような
取り乱しているような。
顔を見れば誰もが異様だと分かる。
そのままニッケルバッカーは顔を強張らせたまま、
目の前に転がる男に、
大声で言う。

「俺に・・・・俺に!!俺に!!!・・・・俺に"出来ない"と言うなっ!!!!!」

そして目の前に転がる男をもう一度殴った。
鈍い音がして、
それがヤバい音だとも気付かず、
さらにもう一度殴った。
殴り続けた。
ただただ、
「俺は出来る子だ」とつぶやきながら、
馬乗りになって拳をぶつけ続けた。
血が飛び散る。
鈍い音が続く。





我に戻ったのは実家の椅子の上だった

「なんとか一命は取り留めたらしい」

目の前の祖父が言う。
いつのまに学校に来たんだ?と思ったが、
やっとそこが自分の家だと気付く。
そして自分がしたことも思い出す。
自分の両手を見る。
なんであんな事をしたのか・・・・、
だが・・・・

「俺は・・・出来る子のはずだ・・・・」

一度崩れた心が蘇ってきた。
ガタガタと震える。
たった一つの言葉で崩れてしまうような・・・アンバランスな決意。
それを立て直すのは難しかった。

「ニッケルバッカー」

「・・・・・・・」

虚ろに視界をあげると、
そこには拳が迫っていた。
ニッケルバッカーは椅子の上から思いっきり吹っ飛んだ。

「・・・・・・」

歯が一本抜けた。
それくらい本気の拳だった。
痛かった。
頭が吹っ飛んだのかと思った。

「お前・・・・自分がやった事が分かっているか?」

口元から血を流しながら、
地面にへたりこんで祖父に返事をする。

「あ・・・相手を殴った・・・・」

「違う!お前は殺したんだ!」

「え・・・でもさっき・・・・」

「死んだんだよ!ミルレス白十字病院での蘇生と治療が無かったら命は無かった。
 だが今も集中治療室で管繋ぎじゃ!お前は仲間を殺したんじゃぞ!」

殺気立つ祖父。
だがニッケルバッカーはそれに反省はしなかった。

「あいつが・・・俺に・・・俺に出来ないなんて言うから・・・・」

「なら仲間を殺すのか?」

「あ・・・・あいつは仲間なんかじゃない!」

「だがこのまま騎士団に入るべく学んでいた男だ。いずれ共に戦う仲間じゃ」

「仲間じゃない・・・」

祖父が詰め寄り、
へたりこんでいるニッケルバッカーを無理矢理立ち上げる。
胸倉を掴んで。

「お前は遊援部隊に入るんだろ!お前は仲間のために戦場を走り回らなけりゃならん!
 だが・・・・その時・・・・目の前に今日の男が横たわっていたらどうする!?
 お前は助けるか?!助けないのか!仲間を!好き嫌いで助けないのか!?」

「そ・・・それは仕事だろ・・・・」

「少なくともお前は一瞬迷う!目まぐるしく変わる戦場の中だ!
 もしその時、他にも助けなければならない奴がいたら・・・お前はその男を見捨てる。
 優先順位をつける!それはしなければならない事だが・・・それは好き嫌いで決めるな!」

祖父はニッケルバッカーを捨て、
背中を向ける。
強き祖父。
だがその背中は弱弱しく見えた。
震えながら、
泣くように言った。

「お前に・・・・遊援部隊は出来ない」

ニッケルバッカーの顔が・・青ざめた。
遊援部隊。
いや・・・そんな事はいい。
ただ・・・

出来ないと言われた。

祖父の言葉は信じていた。
自分を信じろという言葉も、祖父を信じているから信じた。
だが、
その祖父に・・・・・・

「じいちゃん!!」

ニッケルバッカーは不恰好に立ち上がり、
後ろから祖父の肩を掴む。

「そんな事言わないでくれ!俺にそんな事言わないでくれ!
 俺は・・・俺は出来る子なんだろ!やれば・・・やれば出来る子なんだろ!
 俺に・・・俺に・・・俺に"出来ない"なんて言わないでくれ!!!」

「・・・・・・・・」

「じいちゃん!俺は・・・俺は出来る子だ!出来る子なんだよ!
 信じてくれ!俺を信じてくれ!俺自信を信じてる俺を信じてくれよ!!!」

「自分を信じてる者が人の言葉で逆上するのか?」

「違うんだ!あれは違うんだ!俺は出来る子なんだ!じいちゃん!なぁじいちゃん!
 出来ないなんて言うな!出来ないなんて・・・出来ないなんて言葉をかけないでくれ!
 俺は出来る子なんだ!俺に・・・俺に出来ると・・・俺は出来る子だって言ってくれ!!」

祖父は振り向いてくれなかった。
ただ壊れたようにニッケルバッカーは言葉を発した。
狂ったように言い続けていた。
信じてくれ。
俺は出来る子だ。
それは祖父に言っていたのか分からない。
自分に言っていたのかもしれない。
ただ・・・
祖父は返事を返してくれなかった。


















「アーメン」

10m先でノカン肉が焼けた。
切り株の上で焼けた。

「・・・・・・・」

今日も家の庭で一人だった。
もう18にもなる。
普通の奴ならば高等部を終えて騎士団入りする年だ。
だが、
あれ以来学校へは行っていなかった。
まぁ行けるものでもなかった。
祖父は仕事。
自分は家。
する事も無いので、
ただひたすら・・・
ひたすらパージフレアを練習していた。
学業をやめたので、
できるスキルはこれしかなかった。

「卒業なんて・・・出来て当然と思っていたのに・・・・」

ニッケルバッカーは距離を離す。
俯きながら歩く。

「出来ると思っていたのに・・・・出来なかった」

20mの距離。
そこで振り向き、十字を切る。

「俺は出来る子なのに・・・・やれば出来る子なのに・・・・」

指先をあげると、
20m先でノカン肉がまた焼けた。
そしてまた距離を離すべく、
後ろに歩む。

「やれば・・・やりさえすればできるのに・・・・」

あれ以来会っていないが、
ユベンは騎士団入団と同時に44部隊入りが決定したらしい。

「ユベンはやると言ってた事をやった・・・・出来る子だった」

俯きながら歩く。
毎日歩く道。
毎日反復反復。
そして振り向いた。

「やるといっていた事をやった・・・できた・・・・なのに・・・・
 なのに俺は・・・・・・やれることをやっているだけ・・・・・」

50m先でノカン肉が燃えた。
指先をあげたまま、
手を突き出したまま、
呆然とした。

「俺は他にできる事がない・・・出来る事をやってるだけ・・・
 もうできる事をやってるだけ・・・出来る事しか出来ない子なのか・・・・・」

俯きながら振り向き、
また歩く。

「いや・・・出来るはずなんだ・・・俺は出来る子・・・俺は出来る子なんだ・・・・
 やろうと思えば・・・なんだって出来る子なんだ・・・・・」

相変わらずそれが支えだった。
俺は出来る子だと言い聞かせた。
それしか信じていなかった。
他に何を信じて進めばいいか分からなかった。

「出来ないと思うな・・・出来ないなんて事はないんだ・・・・」

つぶやき歩く。
毎日反復したこの道を歩く。
出来ること。
それは毎日同じ事の繰り返し。
新しく・・・・
新しく何かに取り組むことはできなかった。
それを探せなかった。

「他に何をすればいいんだ・・・・」

今考えてみれば、
自分から何かを探した事は無かった。
教師が、
祖父が、
教えてくれることを、
やれと言ってくれることをやっていただけだった。
自分では何一つ見つけていない。
できる事・・・・。
自分はやれば出来る子だ。
だが・・・・・・・やれる事をどう探せばいい・・・。
だから毎日同じ事の繰り返し。

「・・・・・・・・」

いや・・・・
いや一つ・・・
一つだけ自分で行動した事。
ユベンに話しかけた。
人付き合いだってやれば出来ると、
話しかけた。
だが・・・・・

「あれは出来ない事だったのか」

その後、
同級生を殴り殺した。
生き返りはしたが、
あれでもう立場が今のものとなった。

「・・・・・出来ると思っていたのに・・・・」

人付き合い。
それはできない事だった。
人には出来る事と出来ない事がある。

「・・・・・・・おっと」

考えすぎて歩きすぎていた。
ニッケルバッカーが振り向くと、
ノカン肉。
切り株の上のノカン肉は遠く離れていた。
距離にすると150mはあるだろう。

「・・・・・・・・・」

ニッケルバッカーは十字を切り、
腰を落として構える。
右手で左手を支えるようにして。

「俺に今できる事といったら・・・これくらいか・・・・」

毎日練習した。
パージフレアばかり練習していた。
いや、それしか出来る事が無かったからだ。
射程距離は毎日伸びていった。
そして150m。
それは彼の新記録。

「・・・・・・くっ・・・・」

視界が歪む。
魔方陣が揺れる。
照準が合わない。
指先を向ける。
だが照準は合わない。
指先が震える。
照準も揺れる。

「落ち着け・・・俺は出来る子だ・・・・・」

揺れる照準。
150m先の魔方陣。
150m先の照準。
150m先の標的。

「信じろ・・・・俺は出来る子だ・・・・俺は出来る子だ俺は出来る子だ俺は出来る子だ」

そして・・・

「アーメン」

指先をあげると同時に、
新記録を達成した。
150m先で、
ノカン肉は燃え上がった。

「・・・・・・・・・・ほれ見ろ」

力が抜ける。

「俺は出来る子なんだ」

と同時に、
ある事に気付いた。
150m先のノカン肉。
今ので、
とうとう黒焦げの墨クズになってしまった。

「・・・・・・・しまった・・・・昼飯にするつもりだったのに・・・・」





































「ニッケルバッカー君。君を第17番・遊援部隊への配属をここで表明する」

壇上で受ける紙切れ。
これが自分の欲しかったもの。
拍手が奏でられる。
今日何度目の拍手か。
新団員全員に送られているのだから数えれるものではない。

「・・・・・・・」

礼をし、
壇上を降りるニッケルバッカー。
だが、
その顔は虚ろだった。
祖父の推薦でこうなった。

「おいおい姓無しかよ」
「百姓かなんかか?」
「っていうか知ってるか?あいつ中退らしいぞ」
「なんでそんな奴が・・・」
「ばーか。じいちゃんがあのストリートバッカーなんだよ」
「うっわ・・・コネかよ」

周りから小さく聞こえる声。
耳を通り抜ける。
その通りだった。
いや、
実力自体は問題なかった。
はっきり言って他の者達と比べて遜色ない。
中退という経歴と、
身の上を考えるとそうなる。
結局の所、
実力はともかく、
半分以上は祖父ストリートバッカーの力なのだ。

「・・・くそ・・・」
「気にするなニッケルバッカー」

並ぶテーブル。
豪華な食事。
その一つのテーブルに戻ると、
祖父はそう言った。
祖父の横にいるのさえ、
周りに何か言われているようで嫌だった。

「機会を与えただけだ。お前は騎士団の中で出来る事をすればいい」

出来る事。
祖父の口からやれば出来るという言葉は出てこなかった。
それはもう祖父は自分に期待していないという事かもしれない。
信じていないという事かもしれない。
自分自身を信じてきた。
だが、
自分自身ではできなかった。

ただ・・・・
自分自身で、
自分では出来なかったと分かった。
出来る事ではなかった。
実際出来なかった。
























「何をボサボサしているニッケルバッカー!!」

同僚の声。
戦場の轟音の中、
それは確かにニッケルバッカーの耳に入った。

「・・・・・う・・・・・」

目の前の光景。
血。
血血血。
これが・・・
これが戦い。
これが・・・・戦争。

「俺達は一刻を争うんだぞ!」

初めての戦場。
さもない攻城戦。
勝ち戦だ。
だが、
敵が死んでいく。
味方が死んでいく。
死んでいく。
死んでいく。

「おい!!」

同僚の男が詰め寄ってくる。

「戸惑っているヒマがあったら走れ!それが俺達の仕事だ!
 足を使って一人でも多くの仲間を助けるんだ!
 援護でも!回復でも!補助でも!攻撃でも!蘇生でも!
 なんでもいいから!1つでも多く味方を助けるのが仕事だ!」

「・・・・・・え・・・あ・・・・」

「ボサボサするんじゃねぇ!!!」

「で・・・でも僕は・・・研修中で・・・まだパージしか・・・・」

おびえ。
そしてへりくだり。
いや、へりくだりは関係ない。
ただ、
怯え、
そして自信からきた言葉。
"僕"
他愛もない。
普通ならさもない一人称。
だが、
ニッケルバッカーにとってそれは・・・・自信を表す。

「くっ・・・・パージでも仲間の援護は出来るだろ!なぁ!?出来るだろ?!出来ないのか!?」

出来ない。
その言葉は・・・
すでにニッケルバッカーには効かなかった。
すでに・・・
崩れる自信はなかった。
今、
心は不安と恐怖で崩れ去っていた。

「もういい!この一刻の間にも仲間は死ぬ!一人でも多くの仲間を助けなきゃならねぇんだ!」

そう言い、
遊援部隊の同僚は、
ニッケルバッカーを置き去りに走った。
一人でも、
一人でも仲間を助けるため。
そのためだけに走り回る部隊。
そして・・・・
ニッケルバッカーの目の前に・・・
メテオが落下してその同僚は死んだ。

「・・・・・・・・ひ・・・」

情けない声をあげてニッケルバッカーは逃げた。
逃げて逃げて逃げつくした。
自分を信じる?
信じれていなかった。
怖くて怖くて仕方が無かった。
出来る?
やれば出来る?
何も出来ない。
何も出来やしない。
俺には出来ない。
体がいう事をきかない。
ただ逃げた。





















「中央を《昇竜会》のヤクザ共が突っ切ってくるぞ!」
「馬鹿みてぇにまっすぐ特攻してきやがる!」
「道を作らせるな!《メイジプール》が来るとやっかいだ!」

二度目の攻城戦。
この日、
ニッケルバッカーは物陰に隠れていた。
一度目の攻城戦は逃げに逃げ、
逃げつくした。
それは反省している。
が、
怖いのは変わらなかった。
そして学んでしまった。
遊援部隊は個別での行動。
自分は・・・・・・居なければ居ないで分からない。

「違う・・・俺は・・・俺は俺に出来る事をやるだけなんだ・・・・」

物陰に隠れながら戦況を伺う。
怖くて顔を半分も出せない。

「く・・・う・・・・」

死んでしまう想像ばかりする。
仲間が体を張っている。
だが、
自分は張れない。
怖いから。
それは自分に出来ない事なのだ。
人には出来る事と出来ない事がある。
自分は・・・・・出来る事をやるしかない。

「俺は・・・・今できる事をやるんだ・・・」

いかにも正論。
正論という名の・・・・・・逃げ。
昔教師が似たような事を言っていた。
やれることをやる。
出来ることをする。
出来ることなら出来る。
当然だ。
当然過ぎる。
つまりそれは現状を発揮するだけであって。
成長することはない。
だが、
その正論を支えに、
揺らぐ自分の心を繋ぎとめた。

「狙え・・・・狙え・・・・・」

物陰から指先を出し、
向ける。
隠れて向ける、
指先という名の銃口。
安全圏からの攻撃。
パージフレアしか出来ない。
パージフレアなら出来る。
出来る事をやる。

「出来る・・・俺は出来る子だ・・・出来る子だ出来る子だ出来る子だ・・・」

同じ言葉だが、
意味は大きく違った。
だがそれに気付かないふりをする。
指先が震える。
敵に向ける。

「出来る・・・出来る・・・・・」

一つ違う事というと、
人殺しという事だ。
人は殺したことはある。
だが、
こんな形でではない。
そしていつも的はノカン肉だった。
人を狙うのは初めてで、
動く的を狙うのも初めてだった。

「・・・・・出来る!」

あげた指先と同時に、
敵が一人燃えた。

「ほ・・・ほれ見ろ・・・・俺は出来る子なんだ・・・・・」

それに満足した。
仕事をしたという事に。
それだけに目を向けた。
自分が出来る事をしたと・・・盲目になった。
目の前で、
自分の横で、
味方が死にそうになっていても、
死んでいても、
助けを求めていても、
それからは目を背けた。
それは自分に出来ない事だから。
自分に出来る事だけをやった。











「出来る・・・・出来る・・・・・・」

それからというもの、
攻城戦に参加する時は同じようなものだった。
物陰に隠れ、
遠くに隠れ、
パージフレアで狙撃する。
それは自分に出来るから。

「出来る事を・・・・やる・・・・・」

言い訳だった。
言い訳でしかなかった。
まだ未熟とはいえ、
騎士団の研修で多少の他のスペルも学んだ。
だがそれは自信にするには儚く。
出来ないものと決め付け、
出来る事だけをやった。

「俺は出来る子だ・・・俺は出来る子だ俺は出来る子だ俺は出来る子だ・・・・」

もはや意味を失った言葉。
足し算しか出来ない子が足し算しかやらないようなもの。
ただひたすら隠れて狙撃。
遊援部隊。
その意味さえ消えうせ、
仲間のために走り回るなんて事は頭にない。
いや、
それは意味が無い。
自分には出来ない事。
出来る事をやる。

「・・・・・・・・・」

仲間を助けるより、
敵を倒すことだけを目的とした。
彼は・・・・
前へ進むことを止めた。





























「ヒャーーーーーーーハッハッハッハハハ!!!!!!燃えろ!燃えろ燃えろ!!
 全部燃えろ!燃えろ!モエロ!もえろ!萌えろ!モエロ!もえろ!萌えろ!燃えろ!」

どこかの部隊の、
仲間の一人が叫ぶ。
わめき散らしていた。

雨の中。
ここはどこかの森の中。
ひとつの戦争の中。
いや、
虐殺。
攻城戦ではない。
ひとつの討伐。
地図を塗り替える殺し。

雨の中でも煙はあがった。

「5・6番隊は砦へ向かえ!」
「一匹たりとも逃がすな!」
「ノカンもカプリコもだ!」
「人が生きるため!全部殺せ!!!」

ここまで大きな戦場は初めてだった。
ノカン村が燃える。
カプリコ砦が燃える。
雨の中。
水の中。
森が燃える。

「何をボサッとしているニッケルバッカー!遊援部隊なら走れ!」
「この戦場は待ってはくれないぞ!」

仲間達が走り回る。
ノカンを殺すために、
カプリコを殺すために。
待ってはくれない。
攻城戦と違い、
攻めてくるわけじゃないから。
攻めていかなければならないから。
隠れて攻撃なんて事は出来ない。

じゃぁ自分に何が出来る。

「殺せ!」
「早く殺せ!」
「逃がすな!」
「クソっ・・・ノカンとカプリコはどこに逃げている!」
「俺達の知らない逃走ルートがあるのか!?」

関係ない。
どうだろうと・・・
自分に出来る事はない・・・・

「俺は・・・・・俺は・・・・・」

自分に・・・・
出来る事が無くなった。
無力。
出来ない・・・・。

「俺に出来る事は・・・ここにない・・・・・」

森の一つの丘の上。
ニュクノカンやプラコの死体の横。
戦場の真ん中から離れた場所。
全体が見渡せる。
逃げるノカンとカプリコ。
追う人間。
王国騎士団員。
燃える森。
燃える砦。
燃える村。

丘の上で・・・
何も出来ず・・・
何もする事が出来ず・・・
何も出来る事がなく・・・・

自分は何も出来る子じゃないと悟り・・・
ニッケルバッカーは膝をつき、
両手を地面に落として俯いた。

「何が出来る子だ・・・俺に何が出来る・・・出来る事だけして・・・
 出来なければ何も出来ない・・・・何も出来ないんだ・・・・・」

燃える。
雨の中で燃える森。
煙が立ち上る。
その暗い空。
うな垂れたまま空を見上げた。

出来ると思えば空だって飛べるのか?

「出来る事と出来ない事がある・・・・か・・・・・」

片手を握る。

「俺に出来ない事だらけ・・・それを知ってしまった・・・・大人になってしまったって事か・・・・」

昔は・・・・・
無敵だった。
出来ると思えばなんでも出来ると思った。
無知だからこそ・・・
それは無敵だった。
出来る子。
自分は出来る子だと思うだけで・・・
なんだって出来た。

「・・・・・・辞めよう・・・」

王国騎士団を。
理解した。
自分は・・・・出来ない・・・。
この仕事を。
出来る子じゃなかった。
出来ないのだ。
向いてない。
人は出来る事しか出来ない。
当たり前すぎる。
出来る事しか出来ないに決まっている。
出来ないのだ・・・
出来ないんだ・・・

[・・・・・ピー・・・ガ・・・・ガー・・・・・・]

WISオーブから通信。
遊援部隊はバラバラに行動するため、
状況判断のためにグループ通信は常に受信できるようになっている。
つまるところ、
仲間の遊援部隊からの通信。

[・・・・・ガ・・・・・ガガ・・・・聞こえ・・・・・・か・・・・・・]

雨と、
距離と、
煙と、
雑音と轟音と。
そして故障しているのか。
それらが折り重なってか通信はギリギリ聞こえる程度だった。
それはそうだ。
自分は逃げているのだ。
遥か遠くの丘の上。
戦場を見下ろしながら・・・
出来る事のない外野。

[・・・・・・・だ・・・か・・・・こえるか・・・聞こえるか・・・]

「!?」

その聞こえる通信。
それにハッとした。
この声・・・。
ニッケルバッカーはWISオーブを取り出し、
すぐに口元に当てる。

「じいちゃん!あっ・・・ストリートバッカー部隊長!」

[・・・・ピー・・ガッ・・・・・・・・・・ッケルバッカーか・・・ど・・に居る・・・・・・・]

「丘だ!丘の上だ!」

[・・・・・・そ・・・・か・・・・・他・・・・西の森・・・・・近・・・者はいな・・・か・・・・・ガガガ・・・・・]

途切れ途切れの通信に耳を澄ます。
だが他の者達の返信。
それは全て否定だった。
ノカンとカプリコを追う。
西の森は、
他の王国騎士団がいる場所から少し離れた場所だった。
遊援部隊の隊長がいるにはおかしな、
戦場から少し離れた場所。

[・・・・・・・いな・・・か・・・・・・誰でもい・・・・・聞け・・・・・・]

もしかしたら、
他の遊援部隊の者達は今急いでその地点に向かっているのかもしれない。
部隊長ストリートバッカーの通信。
そこに何かあるのは間違いない。
間違いないと確信できる言葉。
キャリア。
実力。
人望。
それは・・・他の誰もが祖父を出来る人間と認識しているからだ。

だが・・・・・・
自分は丘の上で立っているだけだった。
どうしたらいいのか分からない。
自分が行って何になる。
何か出来るのか?
出来ない。
出来ないのだ。
自分は何もできない。
できない。
できない。

[・・・・今・・・こ・・・場所で・・・・・ロウ・・・隊長と・・・・三騎・・・・が戦っ・・・・た・・・・]

ロウマ隊長と三騎士?
人間の戦力最強と、
モンスター界の生きた伝説。
カプリコ三騎士が戦っていた?

[・・・ガガ・・・・・・勝負・・・・付かなかっ・・・・けど・・・・・アジェト・・・・捕らえ・・・・・・]

「!?」

ニッケルバッカーは見回す。
丘の上から。
戦場を、
燃える森の中を見回す。
雨と煙で視界が悪い。
だが探す。

「・・・・・・・・居た!」

木陰の隙間。
間違いない。
人間がカプリコを背負い締めにしている。

[・・・ガー・・・・・ガガ・・・・・・・・ホ・・・リーディメ・・ジョンで・・・・固定・・・・・誰か・・・・・]

ホーリーディメンジョンで固定したまま、
やっとの思いで背負い締めにしている。
だが相手はカプリコ三騎士。
アジェトロ。
長くはもたない。
少し視線を外す。

「あれは・・・ロウマ部隊長・・・・」

ロウマは残りの三騎士。
エイアグとフサムと戦っていた。
あの最強の苦戦は初めて見るものだった。
つまるところ・・・
祖父をどうすることもできない。
祖父に何か出来る者はいない。

「じい・・・ストリートバッカー部隊長!」

WISオーブを片手に大声で通信する。

「状況が確認できました!ですけど・・・周りには援護できる人はいません!」

出来る事。
それに必死だった。
今の自分に出来る事。
これしかない。
状況を伝える事くらいしか・・・
わずかな可能性にかけて駆けつけようなんて考えはなかった。
出来ないから。
それは出来ない事だから。

「誰か!誰か駆けつけれる人はいないのか!」

だから・・・
そんな事を言う。
自分はしないのに。
自分は出来るかもしれないのにしないのに。
他人にそう言う。
まるで子供が川で溺れているのを黙って見てる人間のように。
出来ない。
出来ない。
何も出来ない。
何が出来る。
状況確認。

「誰か!誰か!」

WISオーブで仲間に呼びかける。
まるで・・・
言い訳を探すように。
自分は何かしているかのように。
逃げ。
出来る事をやるという・・・逃げ。
出来なければやらないという・・・・逃げ。

[・・・ニッケ・・カー・・・・・おま・・・・やれ・・・・ガ・・ピー・・・・・・]

「え?」

[・・・・お前・・・・・・やる・・・・だ・・・・・]

途切れ途切れの通信の中、
聞こえる言葉。
祖父の言葉。
部隊長ストリートバッカーの言葉。
ニッケルバッカー。
お前がやれ。

「お・・・・・俺が・・・何を!」

[・・・・場所・・・・把握し・・・・お前だ・・・・だ・・・・ガ・・・ガガ・・・・・そこから・・・・パー・・・・撃しろ・・・・・]

パージ?
狙撃?
何を言ってるんだ。
距離を考えてみろ。
300・・・
500・・・
いや・・・それ以上・・・・

[・・・・・早・・・・しろ!・・・・場所が分かっ・・・・のはおま・・・・だけ・・・・
 三騎士・・・・・みすみ・・・逃すわけに・・・・かない・・・・・ガ・・・・・・・・ガガ・・・・・・]

「無理だ・・・」

出来るわけがない・・・
出来ない・・・
出来ない。
出来ない。
出来ない。
出来ない。

「無理だ!!練習でも150mまでしか出来なかった!でもゆうに500mを超えてる!」

[・・・・ガ・・・・出来る・・・・・]

「出来ない!無理だ!」

[・・・・・お前・・・・しか・・・・出来ない・・・・]

俺にしか?
違う。
俺には出来ない。
いや、
誰にも出来ない。
出来るわけがない。
500・・・
いや600・・・
こんな距離・・・
こんな距離を狙撃なんて・・・・

「たとえ出来たとしても!じいちゃんにまで当たる!」

[・・・・当てろ・・・・・れが・・・・仕事・・・・]

出来ない。
出来やしない。
いや、
祖父に当たる。
そんな事はするわけがない。
出来ない。
やっちゃいけない。
それを言い訳に・・・・出来ない。
出来ない・・・。
出来ない・・・・。

[・・・・出来る・・・・・]

心を読んだように・・・
祖父は言う。

「あぁ・・・・ああああああああ!!!」

丘の上で、
ニッケルバッカーは頭を抱えた。
出来ない。
出来ない。
出来ない。
出来ない。
もう完全に崩壊してしまった自信。
小さな支えでなんとか持ちこたえてきた自信。
それは先ほど崩れ去った。
出来ない。
出来ない。
俺は出来ない子だ。
出来ない。
出来ないんだ。

[・・・・・・・・]

通信から言葉はない。
ニッケルバッカーはうな垂れるだけ。
ニッケルバッカーにしか出来ない。
確かにそうだ。
だが・・・
ニッケルバッカーには出来ない。
不可能なのだ。
昔の・・・
無敵だった頃とは逆。

出来ると思えば出来るではなく・・・
出来ないと思えば出来ないのだ。

[お前なら出来る]

何の因果か・・
通信がクリアになった。
まるで意思を明確にしているように。
祖父の確信したような声がハッキリ伝わった。

[言い直すぞ。お前にしか出来ないんじゃない。お前なら出来る]

祖父が・・・・
久しぶりに言ってくれた言葉だった。
それは・・・
心の奥深くに響いた。

[お前なら出来る]

「俺・・・なら・・・・」

なんで?
出来る?
なんで出来ると言える。
だが・・・・出来る。
出来るという簡単な言葉。
簡単だからこそ・・・
聞かされると違う。
出来るかもではなく・・・・・出来る。
揺らぎもなく、
ただ確信のように言う。
出来る。
出来るから出来る。
簡単な事だ。
なんでそんな簡単に信じれる。

[お前はやれば出来る子だからじゃ]

そうだ。
簡単な事だ。
理由もいらない。
理屈もいらない。
理想もいらない。
現実もいらない。
真実もいらない。
事実もいらない。
ただ・・・・
ただ俺は・・・・

「俺・・・は・・・・」

[お前はなんじゃ?]

「俺は・・・・・」

[お前は・・・なんじゃ?]

「俺は・・・・・・」

なんでも良かった。
お前は出来る子。
俺は出来る子。
俺は出来る子。
俺は出来る子。
それは・・・
一種の催眠だった。
俺は出来る。
やれば出来る。
なんでも出来る。
一種の催眠だった。
だが・・・
なんでも良かった。
俺は出来る。
俺は出来る。
俺は出来る。
出来ると思えば出来る。
やれば出来る。
一種の催眠だった。
だがなんでもよかった。
出来ると思えば出来る。
出来る。
出来る。
出来る。
出来る。
出来る。
一種の催眠だった。
現実逃避にさえ近いかもしれない。
だが・・・・・・・・

「俺は・・・・・・出来る子だ!!!」


そう思えたニッケルバッカーは無敵だった。

丘の上。
深く腰を落とす。
十字を切る。
深呼吸と共に。
右腕を十字に切る。
思いを乗せるように。

右手の指先を、
右手の人差し指を向ける。
丘の下。
遥か向こう。
肉眼の彼方へ。

左手で支える。
右手を支える。
砲台のように。
銃を支えるように。
左手で右手を支える。

目に力を入れる。
肉眼の彼方へ。
遥か500m以上先へ。

「俺は出来る・・・俺は出来る俺には出来る俺なら出来る・・・理由は簡単だ・・・・・」

俺は出来る子だからだ。

指先が震える。
限界の先。
己の境地の先。
実績もなく、
実力もなく、
だが・・・・不確かなな自信がある。
その不確かな自信。
可能性にしたらわずか。
だが・・・・

出来ると念じる。
それだけでその可能性は100%になる。
自信は確かになる。
理屈はなくとも・・・・

出来るといったら出来るのだから。

「俺は出来る子だ俺は出来る子だ俺は出来る子だ俺は出来る子だ・・・・」

揺れる指先。
肉眼の彼方。
はっきり見える。
アジェトロとストリートバッカー。
その下のホーリーディメンジョンの魔法陣。
いや・・・
その魔法陣が消えた。

通信を通しても聞こえる。
声が。
鼓動が。
状況が。
そして自分の目を通しても聞こえる。

アジェトロが祖父を振り払った。
そして右腕のカプリコソードを振る。
チャンスは一瞬。
考えるヒマもなく、
瞬間は刹那。

指先。
その照準は一つ。
アジェトロ。
ストリートバッカー。
迷いはない。

いや・・・・
頭に一瞬よぎる。


お前なんかには出来ない。


「・・・・・・・」


そんな事言わないでくれ。
俺にそんな事言わないでくれ。
俺は出来る子なんだろ?
やれば・・・やれば出来る子なんだろ?
俺は出来る子なんだ。
出来ないなんて言うな。
出来ないなんて。
出来ないなんて言葉をかけないでくれ。
俺は出来る子なんだ。
俺に。
俺に出来ると。
俺は出来る子だって言ってくれ。



「俺に・・・・・」

だがそれは一瞬で振り切られた。

「俺に・・・・・・俺に"出来ない"なんて言うな!!!!!!」





指先をあげた。









































-ルアス城 一室-



「お?」

部屋のドアを開けると、
中の男がこちらに振り向く。
ユベン=グローヴァーだ。
ユベンはニッケルバッカーを見るなり、

「よく来てくれた」

と言い、
昔と同じ小さな微笑。
羨ましい微笑をあげた。

「失礼します」

ニッケルバッカーは頭を下げた。
ユベンにではない。
その横の・・・
ロウマ=ハートに。

「いい眼だ」

ロウマは、
何もかもの返事をそっちのけ、
そう言った。

「お前がこのロウマを救ってくれたものだな」

「いえ・・・ただ結果的にそうなっただけです」

ニッケルバッカーは頭を上げながら、
少し緊張を交えながらそう言った。

「そう謙虚になるなって。お前らしくもない」

ユベンは軽い口調でそう言った。
そう言いながらも、
何かしら堅い感じと威厳を感じるのが羨ましい。
そしてロウマからは威圧感のようなものひしひしと感じた。

「お前があのありえないパージフレアを撃ってくれたから、
 アジェトロの剣は吹っ飛び、三騎士は退却を余儀なくされたんだぜ?」

あの日のパージフレア。
放つ。
それは確実なものだった。
ニッケルバッカーの放ったパージフレア。
それはアジェトロとストリートバッカーの間。
アジェトロのカプリコソードへと吹き上がった。
祖父を巻き添えにアジェトロを燃やすでなく、
ただピンポイントに、
狙い通りに、
アジェトロのカプリコソードだけを吹き飛ばした。

「難しい事だった。たった少しの誤差でもできたら最悪の事にさえなっていた。
 もともと不可能に近い事だが、やった事に比べれば巻き添えにする方が遥かに簡単だった。
 だがお前はその道を選んだ。ピンポイントで狙うにしろそうだ。
 アジェトロを狙っていれば剣はストリートバッカーの命は奪っていただろう。
 唯一で最善。それを出来た。やってのけた。その選択。・・・・自信はあったのか?」

ロウマの問い。
答えは簡単だった。

「自信なんてものは今考えるとちっぽけなものです。
 自信ではなく、確信があった。俺はやれば出来る子なのだから」

何一つ迷いなく。
ニッケルバッカーはそう言った。
ロウマは相変わらず無表情だったが、
少し笑ったようにも見えた。

「そういう奴は嫌いじゃない。お前は強くなる」

その言葉に・・・胸が高鳴った。
あの最強。
ロウマ=ハートに言われたからという事もある。
だがそれ以上に・・・「強くなる」
この言葉にだった。
強くなるだろうではなく、
強くなる。
出来るだろうではなく、
出来る。
たまたまの表現だったかもしれないが、
ニッケルバッカーには何よりも大きく、
そして心の固まる言葉だった。

「ストリートバッカーはこの機会にとうとう一線を退くらしいな」

「はい」

「いい騎士だった。聖職者の鏡ではなく、騎士の鏡だ。
 遊援部隊。影で働く最高の部隊。その部隊長に恥じない男だった」

「はい。俺も誇りに思っています」

「それとも別に・・・個人としてこのロウマの尊敬に値する男だった」

「はい。ありがとうございます」

「その男とユベンの薦めだからな」

ロウマはその大きな腕をニッケルバッカーの肩に置いた。
まるで祖父がニッケルバッカーにするように。

「今日からお前は44部隊として働いてもらう」

「はい。・・・・・・・・・え!?」

ニッケルバッカーは、
さすがにその言葉に驚き、
眼を見開いてロウマを見た。
ロウマの眼は、
まるで揺らぎなく、
一点のウソもないような真っ直ぐな眼だった。

「おれ・・・が・・・・?」

信じられない。
恥ずかしくも、
そう思ってしまった。

「まぁこのロウマが見て認めれないような男ならそうはしなかったがな」

「・・・・・」

「自信がないか」

その質問。
その質問でニッケルバッカーの目は固まった。
確信という意味で固まった。
決意という意味で固まった。

「まさか。俺は出来る子です」

一点の曇りもなく、
そう言えた。
偽りではない。
心からそう思った。
俺は出来る子だ。
出来る。
出来るのだ。
出来ないわけがない。
俺は出来る子なのだから。

「悪くない。お前は自分の力を決め付ける男ではない。
 上を、ただ上を目指せる男だ。慢心こそ最強だ。
 このロウマの部隊に相応しい。お前は間違いなく強くなる」

それだけ言い、
ロウマは肩から手を離し、
部屋から出て行った。

「あのロウマ=ハートに・・・・認めてもらえた・・・・」

他人の意見など関係ない。
自分は自分。
俺は俺。
それだけだった。
だが、
それは嬉しく、
確信に変えれるような言葉で、
深く自分の心を確固たるものにできた。
自分を信じる上で、
尊敬という心。
それが深く植えつけられた。

「一回ダメになったと思ったが、やっぱり戻ってきたな」

ユベンは笑いかけてきた。

「お前と話したのはあの一度だけだが、確信していたよ」

その言葉は嬉しく、
そして「そうだろう?」という自信の心も素直に出た。
あの44部隊。
そこに選ばれた。
俺は・・・
俺はやはり出来る子だった。
結果として提出されればやはり嬉しく、
そして当然にも思える。
自分は出来る子なのだから。

「ユベン」

ニッケルバッカーは話しかける。

「ん?」

「あの日の言葉。冗談だっただろうが、今は冗談無しで言える」

そう言い、
ニッケルバッカーは窓の外を見た。

「出来ると思えば、俺は空だって飛べるさ」


理屈なんて関係ない。
出来ないなんて事実なんて無駄だ。
出来ると思えば出来るのだから。
そうなのだ。
思い込みなんて問題じゃない。
出来るなら出来る。
出来ると思えば出来る。
それは無敵だ。
ニッケルバッカーが出来ると信じる。
それは出来る事なのだ。

理屈はいらない。


彼は





出来る子なのだから
































                 






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