「はぁ・・・・はぁ・・・・・」

エドガイは走った。
走っていた。
どこへ向かっているかなんて分からない。
ただ走った。

視界がいつもの半分の半分くらいに感じて、
天井が低く、左右の壁は狭く感じて、
全部が揺れている気がした。

それくらいに我武者羅に走っていた。
訳も分からず。

恐怖から。
矛盾の化け物。
最強というどうしようもないものから。

追いかけてきているかも分からないのに、
とにかく遠くへ走りたかった。

「はぁ・・・・はぁ・・・・・」

グッドマンと戦った時、悟った。
自分に生きる道などない。
だが価値はある。

エドガイの体は、男でも女でもない。
良性不具備。

性行為等出来るはずもなく、
子孫を残す事も出来ず、
それは人間というよりも生命の輪廻から外れている。

生物として、もっとも根本の"生きる"理由が取り除かれたボトルベイビー。
ボトルベイビー等、生産されるべきでないと考えたガンマ博士は、
エドガイの事を完成品と呼んだ。

それを聞いたエドガイは思う。

自分は完成品などではない。
"完結品"だ。

子孫という続きの無い命。
自分の命だけで全てが終ってしまい、続きがない。
完結品だ。

でも、
だからこそ、
この命に掛け替えの無い"価値"を求める事も出来る。
精一杯に。

グッドマン。
ビッグパパはそれを羨ましいと言った。

正直、今だ納得はいっていない。
自分の生涯の芯に居たクセに、あんな消え方。

結局、金のために生きるべきか、愛のために生きるべきか。
その答えは見つからず、
今出せる答えは・・・・・・・自分のために生きること。

いや、自分の命の本当の価値を見い出すために生きる事。

なら悲観的に考えず、精一杯に生きよう。
後悔の無い命。
価値という価値を見い出すために。

自分の命に命をかけよう。
ベットしよう。

そのためならば死も怖くない。
死さえ覚悟しよう。

自分の命が、掛け替えの無い価値で輝けるのなら。


「クソォ!!クソォオオオ!!!!」


その思いが、
たった一瞬で吹き飛んだのだ。


怖い。
怖いのだ。
死さえ覚悟したのに。
いつ死んでもいいという輝ける意志を持ったのに。

"アレ"を前にした瞬間、
覚悟など吹き飛び、逃げ出した。

死ぬことを超越した恐怖がソコにあった。


『矛盾の武王(スサノオ)』
ロウマ=ハート。

アレは、
命だけじゃない。
大切な何かまですべて奪われてしまうような・・・
いや、すべて喰らってしまうような・・・・
そんな何かとしか言えなかった。

矛盾さえ感じた。


































「はぁ・・・はぁ・・・・」

逃げた?逃げ切ったのか?

アレックスはある廊下を曲がり、
その裏側の壁にもたれ掛かった。

息が荒い。
全力の全力で駆けた。
漏れてしまう息遣いで、ロウマにバレてしまうんではないか?
そうも思えて怖かったが止まらない。

「アレに・・・・勝つ・・・・か・・・・」

失笑を禁じえない。

「僕が?どうやって?」

"現実"に向き合うまでは、「何が何でも勝つと言ったら勝つ!」
なーんて、好きな事はいくらでもいえた。
"現実"に向き合うまでは、「それでも勝たなければいけないんです」
なーんて、好きな事はいくらでもいえだ。
でもそれは、
まだ未来を見ていない学生の時のように、
まだ到達していない少し遠い未来だからこそ好きに言えた事だった。

「勝つ手段が見当たらない・・・・」

いや、それは違う。
言い得てない。

「あの化け物と向き合う勇気が見当たらない・・・・」

それが正解だ。

勝つ、負けるじゃない。
アレと戦おうという決心の方が見い出せない。

ほら、
今にも別の道を考えている。
ロウマを倒さなくてとも、アインハルトを倒せばいい。
ロウマをいかに回避するか。
そんな事を考えている。

「バラバラになっちゃいましたね・・・・」

ふと気付く。
何かに縋りたいという気持ちから、
今更気付いた。
エドガイも、エースも、ドジャーも、メッツも、エールも居ない。
夢中すぎて。

「"エ"が多いなぁ。出席番号偏るんじゃないですか?」

と言いながらその自分の言葉に対して苦笑した。
自分の名前でも思い出したか。

そう思いながらも周りを気にする。

「ココもロウマさんが通ったんですかね」

そこは残骸だった。
壁や地面だけでなく、天井までボロボロだ。
明らかに戦場の跡だ。
死骸騎士の跡と思われる武具もチラホラ見える。

「いや、違いますね」

アレックスは分析する。
分析が出来るほどの冷静さが自分に残っている事が自分でも驚きだった。

「これは"戦場"の跡です。"あのロウマさん"が通った跡ならば、
 戦い自体が起こってるはずがない。はずがないわけです」

それは一方的な殺戮。
いや、
捕食。
喰われるだけの。

ここにあるのは争いの跡だ。

「ユベンさんとミヤヴィさん。または先行部隊《昇竜会》のジャイヤさん。
 さてさて、誰とまず合流すべきなのか・・・・・」

アレックスは深く壁にもたれ掛かる。

・・・・怖い。
思考がまとまらない。
今にもロウマが出てくるんじゃないかと。
その時、きっと自分は逃げるんだろう。

"どうしようもないもの"
あれはそうだった。
アインハルト=ディアモンド=ハークスと向かい合った時。
それと同等であり、
それでいてまったく別ベクトルのソレを感じた。

「・・・・・・」

WISオーブを手に取る。
誰に助けてもらおうか。
そして、自分が誰かを助けようという気持ちが今無い事に絶望を感じた。

「ミルウォーキーさん・・・情報屋はまだ侵入は完了していないでしょう。
 城内の状況を把握出来ているのは帝国・・・・ディエゴさん辺り」

今になって、敵の巣の中にいる事を把握する。
見晴らしのいい庭園とは違う。
こちらに情報はやってこない。
敵の渦中。

「庭園までの作戦。いや、"策戦"においては、僕の勝ちでした。
 けど、ここからは少し分が悪いかな・・・・」

というより策を労するヒマがない。
今にも・・・・

ロウマへの危機感でいっぱいだ。

「とりあえず・・・・誰かに連絡を・・・・」

まず思いついたのがドジャーだ。
戦闘力に置いては他より落ちるというのに、
どうして自分は彼ばかりに頼ってしまうのか。
それほどまで・・・

ロス・A=ドジャーという存在は自分の支えになっている。

「駄目だ・・・」

アレックスは顔を覆う。

「ドジャーさんが気付いてマナーモードにしてるはずがない・・・・」

城内でピロピロ鳴って危機に陥る可能性がある。
大いにありうる。
笑い話だ。
笑えるそれは。
ホラー映画の一場面みたいじゃないか。
あまりにありえる。

他のメンバーはどうだろうか?

「同じか・・・・」

侵入してすぐにロウマとの遭遇だ。
まだ必死に逃げている者達ばかりだろう。
他に気が使える余裕は皆ないはずだ。

アレックスはたまたま戦場跡に来たからこそ、
敵と遭遇していないが、
城内は敵だらけのはずだ。
既にそれどころではない者も・・・・・

じゃぁ・・・誰を頼ればいい。


「・・・・アレックスぶたいちょ!」


声が聞こえて、
アレックスはそちらを見なかった。

「アレックスぶたいちょ?アレックスぶたいちょ?あれ?
 違う人?人違い・・・ですかぁ?・・・おーい。アレーーックスぶたいちょー」

アレックスは顔を覆ったまま、そちらを向かなかった。

「・・・・ソックリだけど違う人ですかー?あれー?人違いですかー?
 エレックスさんとかロレックスさんとかそんな人ですかー?」

なんで彼女なんだ。
この事態において、どうして。
最悪だ。
ギャグではなく、心の底から、本当に出会いたくない。

「エールさんですよー?ジンジャエールのエールシャ・・・・・噛んだ」

自分の名前を噛むな。

「アレックスぶたいちょですよね?アレッ・・・・アレッ・・・・クションッ!!!」

なぜこのタイミングでクシャミを。
死骸がクシャミをするな。

「うー・・・・」

エールはキョロキョロと辺りを見回す。
彼女も彼女でロウマから逃げに逃げて辿り着いたのだろう。
たまたまに。
ここに居たのがアレックスでなくとも、
それは嬉しい合流だっただろう。

「あんまり大きな声を出さないでください。敵にバレます」

「!?やっぱりアレックスぶたいちょじゃないですか!」

華が開いたようにエールの表情が明るくなる。
電球のような顔だ。
そう思った。

そう思うなりエールがドタドタと走ってきて、
アレックスに飛び込んできた。

いや、どちらかというと転んだのだろう。
何をするにもドン臭い副部隊長だ。

「怖かった!怖かったですよー!」

おいおいと泣き出す。
死骸だから、涙なんて出ないが、
五月蝿いぐらいに泣き出す。

「・・・・・ッ・・・・大きな声を出さないでくださいと言いませんでしたか?」
「も、申し訳っ」
「返事は?」
「う、うぃ!」

敬礼をする。
涙も出ない死骸のクセに、顔はグシャグシャだった。
表情はグシャグシャだった。
嫌いな顔だ。
本当に。

「取り乱すなんて副部隊長失格です。肝に銘じてください」
「う、うぃ・・・」
「他の皆さんは見ませんでしたか?」
「見てないです・・・・・とにかくアレックスぶたいちょを追いかけてきてて・・・」
「・・・・・・?」

自分を?
あの誰もが混乱で無我夢中で逃げ出した中で?

「よく分からないけど!アレックスぶたいちょをおいかけるのが一番だと!」

少し考えて・・・・アレックスは・・・・・・・腹がたった。
副部隊長だからって、それはどうだ。
そして、
エールが自分へ寄せる好意にだって気付いている。
だからこそ、
こんな大事な場面で・・・・・

・・・・・・あれ?
それは腹が立つことなのか?
動きとしては一番理に叶っているんじゃ?

なんで・・・・・自分は彼女に対してこうも牙を剥く。

・・・・・決まってるか。

「とにかく!とにかくアレックスぶたいちょが居れば安心です〜〜」

エールは縋るようにアレックスに抱き付いてくる。

その体には、体温が無い事に気付いた。
死骸には体温というものがないのだろう。

彼女から、
エール=エグゼから、

体温を奪ったのは誰だ。
涙を奪ったのは誰だ。

仲間達から・・・・・全てを奪ったのは・・・・。

「行きますよエールさん」

もう・・・何度後悔した。
だけど、
後ろには戻れないから、前に進むだけだ。



































「そうかい。オリジナル(元凶)が来たか。そいつぁゴキゲンだ」

仲間の連絡に・・・・レグザ。
アール=レグザは口の端を緩ませる。

「あぁ。だがレグザ、ロビーでロウマと遭遇したらしい」
「侵入した5人はバラけちまってまた所在不明だ。少しかかる」

「どーっでもいい。ユニークじゃねぇ。ツヴァイを含め、他の勇者は偽者だ。
 俺、いや、俺達にとって興味があるのはオリジナル(アレックス=オーランド)」

それだけだろ?

城内の一角。
廊下に座り込んだまま、
アール=レグザは笑った。

「でもね」
「5人の内の一人はエールだ」

「・・・・妹が?・・・・はんっ、ゴキゲンだ」

言葉の通りに、レグザは陽気に笑った。

「ノンビリもしてられねぇな。他の奴の殺られちまう。
 せっかくの"英雄"をとられちまうのは我慢ならねぇよなぁ?」

レグザは立ち上がる。
他。
他の仮面等を付けた男達は、頷きもせず、同意した。

「どう動く?」
「グッドマンは逝ったぜ」

52部隊。
彼らはソレだ。

「関係ねぇよ。モルモットベイビーでもねぇ奴が指揮ってたのがまずおかしいんだ。
 あいつは部隊長というよりは管理官。大体部隊長1匹で担えるほど52は小さくねぇ」

「好きにやるってこと?」

「セラ。てめぇ漫画読んだ事ねぇのか?漫画。ありゃぁゴキゲンだ。
 俺らみてぇのがいっぱい出てくる。実験体ってーのはトレンドなんだぜ?」

「それがなに?」

「改造人間とか実験体って奴の行動理由はいつも一緒だ。自由だよ自由」

「つまり好きにやるってことじゃない」

「ハハッ!ゴキゲンだ!」

レグザは一人、
52の証でもある和風な顔隠しをせず、
狐面をズラしてかぶったまま、表情を隠さず、笑う。

「セラ、アゼル、イグレア、ヤルク、サーレー、シール、ラッシェ、エクサール」

各々が、
各々の返事をする。

「アレックス=オーランドは俺達 《10's(ジュース)》 がいただく」

「ハハッ」
「それを名乗るってぇことは」

「もちろん」

レグザは先頭を切って歩き出した。

「ジンジャエールのエールさんに決まってんじゃねぇか。最愛の妹だぜ?
 10人揃わなきゃ《10's(ジュース)》とは名乗れねぇわな」

ゴキゲンに、レグザは笑うばかりだ。





































-庭園中央-







氷。
巨大な氷がソコに聳え立っていた。

メリーでさえ、そこまでの氷柱を作り出せるかは分からない。
氷の女王エニステミの血を引くモルモットベイビーでさえ、
是か非かというその規模の氷が、

ただの人間の手によって作り出された。


「ウフフ・・・・・・あははははっは!!!!!」


燻(XO)は天を仰いで笑う。

その氷柱。
その氷柱は、クソ野郎の笑い声の中、

一閃。

縦に切れ目が入る。

「これでも駄目だってのか!?このド畜生が!!!!」

そして、割れ、
氷柱は粉々になった。

その中から現れたのは・・・・・・
片翼の渡り鳥だ。


「安心しろ。十分に冷たかった」


イスカは剣を鞘にしまう。

「ウフフ・・・・ウフフハハハ!駄目だ駄目だ!キレそうだド畜生!
 俺をコケにしやがってまぁ!・・・・なぁ!アバズレのクセによぉ!
 テメェのXXXに豚のドタマを切り取って突っ込んでやらねぇと気がすまねぇ!」

余裕ぶってみたものの・・・・
いや、
自身でも驚くホドに事実、冷静であったイスカも、
どうしたものかと考える。

「向こうの攻撃はこちらに届くが、拙者の攻撃は・・・・」

斬る。
その行為は限界に至った。
それはいい意味での限界だ。

ダークパワーホール。
その異次元さえも切り裂いた。
最早イスカの剣に切れないものなどない。

それは、
闇だろうと、
氷だろうと、
炎だろうと、
風だろうと、

つまり魔法というモノは全て斬り捨てる事が出来るということだ。

燻(XO)にとってもう手出しする術はない。

・・・・という風に見せているのが現状だ。
しかし、
追い詰められている事は変わりない。

こちらの攻撃は届いていないが、
向こうの攻撃は届いているのだ。

切捨て続ける事が出来ればいいが、
ノーダメージというわけにはいかない。

先ほどの氷も、氷漬けにされた事自体は事実なのだから。

「早目に・・・・切捨てないと・・・・」

全ては燻(XO)が有利なのは代わりない。
だが、
"流れ"だけは今、イスカのものだ。

「・・・・・ウフフ・・・ふざけやがって・・・・」

左手で、自嘲気味に顔を覆う燻(XO)
車椅子まで振動するように震え、笑っている。

「アマのクセによぉ・・・俺を見下す気かぁ?・・・・ぁあ!?
 俺ぁ俺を見下す奴だけは我慢ならねぇんだよ!!」

動揺している今がチャンスか?
いや、探らなければ。
付け入る隙を。

「女のクセによぉ!!」

イスカは動いた。
走りこむ。

カミカゼ(サベージバッシュ)での攻撃はやめておいた。
アレはイスカの中で最高の技だ。
切れ味、速さ、それらに関して追随を許さない。

しかし単純過ぎる。
前に剣をとられたように、
燻(XO)程の"異常な天才"に使用するのは危険が伴う。

「女ってぇのはよぉ!社会で生きてくように出来てねぇ!
 身体能力も!頭脳・・・いや、思考回路も業務向けじゃぁねぇよなぁ!
 全てが男様の劣化版なんだよ!きいてんのかド畜生が!」

何か放ってくるか?
いや、その様子はない。
ならば走りこもう。
今の自分ならば・・・・わずかな動きから反応する事も可能だ。

「女の武器なんてのは魅力だけだ!そいつだきゃぁ認めてやる!
 だからよぉ!俺が言いたいのはよぉ!縋れよ!男によぉ!
 結婚だぁ恋愛だぁ!体使って男に養ってもらえよ豚ぁ!畜生が!」

何もしてこない?
何かを誘っているか?
・・・・考えるな。
感じるように動け。

「そんな女如きが俺に盾突こうっていうのが気に食わねぇんだよ!」

いけ。

「いい気になるなよド畜生が!!」

剣を振った。
首を狙った。
そして、
止まったのは分かった。

「ウフフ・・・・」

燻(XO)が、手で掴むように、剣を止めていた。

「片手で白羽取り・・・か」

「ポキッ・・・と折るような握力はねぇがな」

刀を止める燻(XO)の手からは血が垂れていた。
魔力で無理矢理止めたわけではない。
やはり今のイスカの剣で斬れないものはない。
しかし、
つまりそれは、やはり才能のみで剣を止めたということ。

あまりにも飛び抜けている事を除けば、ただの魔術師でしかないのに。

事実、
才能という一点において燻(XO)は、アイハルトに順ずるといってもいい。
アインハルトに最も近い天性の才能を得ているのは、彼である。

最強であるロウマや、双子のツヴァイでもない。
努力をしない、才能だけの人間。

他の全ての人間をあざけ笑う冒涜。
あってはならない人間。

天性の才は"最低"に与えられた。
いや、
それがあったからこそ、彼は最低に堕ちたのかもしれない。

アインハルト=ディアモンド=ハークスさえいなければ、
全ての人間が彼の才能に勝れないのだから。

「・・・・・・ウフフ・・・・・」

剣を止めたまま、
燻(XO)は顔を近づけてきた。
そして・・・・・

「・・・・・ッ?!・・・・」

ペロリ・・・とイスカの顔を舐めた。

「触れるなっ!」

「おっと!」

止められたとはいえ、チャンスだったかもしれない。
だが、
イスカは跳ねのいてしまった。
向こうも剣を離してくれたのは幸いだった。

それが狙いだったのかもしれないが。

「ウフフ・・・・・汗の味というのは美味だねぇ」

クソ野郎の紫色の唇に、クソ野郎の舌が踊る。

「俺は性行為の前にシャワーという下卑た習慣を嫌う。
 体臭で極まったアノ兵器的な臭みも、嫌悪が沸く程に好きだからだ」

「・・・・・チッ・・・・」

イスカは剣を持つ手で、頬の唾液を拭った。

「俺は基本的に、畜生を拘束したら世話はしてやらない。
 女が体臭に染まるのが好きだ。小便を漏らし、恥じらいながら脱糞するのが好きだ。
 出来れば美人がいい。もったいない程に痩せ漕げ、堕ちていく様が好きだ」

燻(XO)の舌が、振り子時計のように踊る。

「そして、最終的に恥じという概念が無くなり、ただただ俺に縋るのが最高だ。
 こんな最低な男なのに、俺が全てであるように家畜は俺を求める」

片腕しかないが、
両腕を広げるように燻(XO)は高揚していた。

「それでいい。女は全て豚だ。俺無くして生きてはいけない。縋れよ。
 そのために生まれてきたんだテメェらはよぉ・・・・・ウフフ・・・・・」

そして一頻り感動を越えた後、
ギロリ・・・とイスカに目の玉が向く。剥く。

「だが・・・・俺の両足を奪ったのも・・・頭を貫いたのも・・・・腕を奪ったのも!」

女だ。

「納得いかねぇよなぁ」

両足の腱はツヴァイ。
頭を打ち抜いたのはマリナ。
腕を切り落としたのはイスカだった。

「女・・・・・・ウフフ・・・ノッてきたなぁおい・・・・・もう我慢ならねぇ。
 女ってぇのは男の下。いや、俺の下で縋って生きてかなきゃぁならねぇ。
 そんな豚共が俺から奪うなんてのは・・・・・・ウフフ・・・・許せんよなぁ」

震える。
燻(XO)の左腕が・・・こちらに向く。
そして、

「俺ぁなぁ侍女・・・・テメェの体の端から端・・・小指の先まで全て・・・・・」

中指が立つ。

「犯しつくしてやる」

猫が咄嗟に牙を剥くように、
イスカは剣を突き出した。
ピンッ・・・・と、鋭く。

それは燻(XO)の前で停止した。

「・・・・・ウフフ・・・・・イヒヒ・・・・」

剣を止めるのを分かっていたのか。
それとも、反応出来なかったのか。
クソ野郎は下品に笑うだけだ。

いや、前者だろう。
それを行うほどの才能が、この男にはある。

「・・・・どうした豚。刺したってぇいんだぜ?」

「・・・・・・」

「わぁーかってるじゃねぇか。そう。女は"刺される方"だ。いいこだ。股を開け」

剣先を、
燻(XO)の舌が這う。

「一つ、言いたい」

「言わなくていい。お前は喘げばいい」

「拙者は性別など、とうに捨てた」

捨てた。

捨てたのはいつからだろう。
それは、
最愛の人に出会ってからだ。

何故捨てたのだろう。

最愛の人が、女で、
自分も女だったからか。

「ほぉ。それは前にも聞いたな。だがそれがいい。
 体は女で、泣き叫ぶ悲鳴が黄色であるなら、そう実感させるのも悪くない」

自分はマリナという人間を愛している。
愛とはなんだろう。

難しい問題だ。

「拙者、不器用でな」

頭が悪くてかなわない。
だから、

「命をかけるに値するから、拙者は今、"こうある"のだ」

ヒュンッ、と剣が走る。
同時に燻(XO)が首を退けた。

「ヒヒッ・・・」

紫の長髪が、数本宙に舞った。

「ウフフ・・・・アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」

燻(XO)の"左腕"の動きが見える。
不意をつかれた。

「チッ!」

イスカは距離を取る。
取らなければならない。

イスカとクソ野郎の間に、
ブラックホール。
ダークパワーホールが展開される。

「こんなものはっ!斬り捨てるっ!!!」

展開されたダークパワーホールを、
すぐさま斬り捨てる。
真っ二つに。

時空が二つに別れ、
黒の球体が二つとなる。

その隙間から、クソ野郎の顔が覗く。

堕落した悪魔のような笑み。

「そうかい!!そうかい!?!」

その隙間から、クソ野郎の左腕が伸びた。

「ぐっ・・・・」

それがイスカの顔面を掴んだ。
この至近距離でなお、
優位は燻(XO)
接近戦でなお、燻(XO)に先手を取られる。

埋めようのない・・・・才能の差。

「全っ然理解できねぇなぁ!だがそう言うならそーしてやる!」

熱。
このまま魔法でも放とうというのか。

「くっ!?」

イスカは右肘で燻(XO)の手を弾いた。
弾いた燻(XO)の手からは、爆炎が巻き上がった。

「じゃぁよぉ!てめぇを本当に女から落としてやるよぉ!
 まずはその両乳房を千切りとるっ!切り離したらそれを口に突っ込んでやる!
 そんでテメェの股間にゴボウを突っ込んで、掻き回した後に飾ってやるっ!!」

世界が一瞬光った気がした。
想像を思考に組み込むのには時間を有したが、
それを直感と言い換えるなら、1秒にも満たなかった。

稲妻だ。
イスカの頭上。
上は見ない。
感覚で分かる。

「ちぃ!」

イスカは剣を振り上げる。

雷鳴と共に電撃は二手に別れ。
枝分かれのように、
避雷針の逆、
モノボルトを分断する。

「それでも生きてたら!テメェのヘソを俺の宝物で犯してやるっ!
 小腸と大腸でシゴけ!俺に快感を分けろ!そして直接胃袋に射精してやるっ!
 さらにテメェの右腕を切り落とし!俺の右腕の代わりに自慰行為の道具にしてやる!」

燻(XO)の左腕が振られる。
同時に突風が巻きおこる。
剣が間に合わない。

「・・・・こっ・・・・のっ!!!」

イスカが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるだけならいい。

まるで風事態がコンクリートのような風圧だ。
骨が軋む音がした。

「これしきでっ!!負けるかっ!!!!」

それでも、
イスカは地面に剣を付き刺し、
無理矢理吹っ飛ばされる体を止める。
止めるが、
辺りの地面の瓦礫が、自分の周りに浮いている事に気付く。

「しまっ!?」

瓦礫が直後、
イスカへと閉じる。

辺りに浮かんでいた瓦礫が、
イスカを押し潰す。
磁石のようにイスカへぶつかっていく。
ゴミが積み重なるように、瓦礫の中にイスカが埋まっていく。
あっという間に、5mを越える石の塊へと変わる。

「・・・・・ウフフ・・・・そして、テメェの剣を・・・・・突き刺す。
 ナニにって?あの、俺のドタマを貫いた狙撃手の股間にだ!
 処女膜の100倍分の出血が終るまで抜いたり刺したりしてやるっ!」

瓦礫の塊に、一閃の光が通る。
同時に、
瓦礫が両断され、

ボロボロのイスカが生まれる。

「貴様の・・・・・貴様の腐った思考の中にマリナ殿を浮かべるなっ!!」

「いい顔だ。想像妊娠の才能がある」

風が吹いた。
どうにかなるレベルではなかった。

視界の全て。
あの下劣なクソ野郎以外の全ての視界が、突風で包まれているかのよう。

斬るというレベルの話ではなかった。

なんでも切れる刃で、
木は斬れても、
森は斬れない。

そういうどうしようもない規模の突風が吹きおこった。


「・・・・こっ・・・・のっ・・・・・・・」

吹き飛ばされる。

風は圧力で、
全身に痛みが走った。
同時に全身の力が吹き飛ぶ感覚だった。

前面の全面に地面があるような重みだった。

突風に乗るように、イスカは吹き飛ばされた。

風は刃でもあった。
全身に切れ目が入るのが分かった。
肩が、
腹が、
腕が、
足が、
腰が、
顔が、
切り刻まれるのが分かった。

全身から血液が噴出し、
花びらのように散った。



イスカは、風に乗るように吹き飛ばされるだけだった。



ここまで達しても・・・・届かないのか。

あんな最低のクソ野郎に。
境地に辿り着いたのに。
もう、
斬れぬものなどないほどの、達人の域に達したのに。

剣人の頂さえ見えたと思ったのに。
それでも、

どうしようもない才能が目の前にいる。

守りたいものがあろうと、
どれだけ意志を大きくしようと、

無残に踏みにじってしまう・・・最低な最悪。

そんなものがあっていいのか。


・・・・この世に斬れぬものなどない。

木も斬れる。
石も斬れる。
鉄も斬れる。
炎も斬れる。
氷も斬れる。
風も斬れる。
雷も斬れる。

闇も斬れる。

だが、光が見えない。

『剣聖』・・・・

そう呼ばれるのには、まだ至っていないのか。

・・・・・・それはそうだ。
おかしな話だ。

斬れないものが一つある。


・・・・・心。

剣聖カージナルは、
『ハート・スラッシャー(この世に斬れぬものなし)』

自分に、
心は斬れるのだろうか?

試したこともない。
どうだろうか。
無理だろうな。

無理。


その点、
燻(XO)。
あの男の反則級の技。
ダークパワーホール。
あれは何でも飲み込むのだろう。

木も。
石も。
鉄も。
炎も。
氷も。
風も。
雷も。

その時点で負けているではないか。

あんな黒い、最低な力に・・・・。


・・・・そういえば、
なのに何故あいつはソレを使わなかった?

決定的な場面はあった。

自分の、顔面を掴んだ時だ。
あの時、外し様が無いじゃないか。
何もかも飲み込む最大の技。

でも使わなかった。
・・・・・いや、使えなかった。
・・・・・・・・・いや、使いたくなかった。

理由?
やはりそれは・・・・・・


"なんでも飲み込むからではないだろうか"


そうか。
なるほど。

それが弱点か。

なんでもありだからこそ、それが弱点か。

諸刃とはよく言ったものだ。


でも、
だからなんだというのだ。
もう、
そのチャンスも無い。

また振り出しだ。
振り出しの上、手持ちもない。

なんでも斬れる剣と、
なんでも飲み込む闇。

勝負は決した。

だってそれはやはり、

自分の剣は心を斬れず、

あいつの闇は・・・・・・心をも飲み込む。

その差。
その差だ。


自分には・・・・・・切れないものがある・・・・・。







タァァン......






その音は響いた。



「カッ・・・・・・」

燻(XO)は目を見開いていた。

「あ・・・・が・・・・・」

それは銃声で、
クソ野郎は舌を最大限に出して、嗚咽に苦しんでいた。

「カッ・・・・・ごのっ・・・・・・」

舌の先へと、赤い血が這っていく。
紫の唇から、
赤い液体が流れ落ちていく。

「豚・・・・が・・・・・」

燻(XO)は、ノドを押さえていた。
口からよりも、
さらに多く、

ノドの中心から血が零れ出す。

「二度・・・・・までも・・・・・」










嗚呼・・・・分かった。
なんでも斬れない訳が。

イスカは理解した。

自分は、何もかもを切る刃になれない訳が。
そして、
理解すると同時に、

納得した。

そうあるべきだ。
そう望んでいるから、自分はそうなのだ。

愛したからこそ、
命をかけるに値したからこそ、"こうある"だけだ。


木も斬れても。
石も斬れても。
鉄も斬れても。
炎も斬れても。
氷も斬れても。
風も斬れても。
雷も斬れても。

闇も斬れても。







縁だけは斬りたくないから。



































「・・・・当たった・・・わね」

マリナはギターという狙撃銃をひっこめ、
船上。
半壊しているデムピアスのガレオン船上で、
姿をもひっこめる。

「・・・・・ッ・・・頭を狙ったつもりだったけど」

マリナが見た限り、
弾丸は燻(XO)のノドを撃ち抜いていた。

「致命傷になる箇所だけど、死ぬタマでもなさそうね。・・・・・はぁ」

致命傷には違いない。
ただ、
命には至っていない。

「すぐにでもイスカの援護射撃を続けたいけど・・・・」

マリナは自分の足を見る。
動かしてもいないのにプルプルと震えていた。
いや、あくまで足はそれを描写するための一部分である。

「まさか料理人が乳酸に負けるとはね」

簡単にいえば・・・・・

披露困憊だった。

マリナが先ほどまで戦っていた相手。
いち、部隊長とその部隊。
ストリートバッカー。
遊撃部隊部隊長。
先刻戦った、44部隊がニッケルバッカーの祖父にあたる男。

『3ドアーズ・ダウン』と呼ばれる三次元のエリート。
ゲート(扉)でも使ってるんではないかというほど、
視野に優れ、俊敏かつ、狡猾。

簡単に言えば、超強い鬼ごっこの鬼だ。
どこに逃げても先回りしているような。

「孫、おじーさん揃って諦めの悪い人だったわ・・・・」

疲れは精神にも作用していた。

マリナ一人で撃退したわけではないが、
向こうの狙いは明らかにマリナだったわけで、

「この広い庭園を3週分は走ったわよ・・・・」

というわけで疲労困憊だった。

「・・・・・・もぉ!」

次弾を装填する魔力が思ったように溜まらない。
底を付きそうなのもあるが、
荒息と鼓動が邪魔をする。

「チャンスだっていうのに・・・・」

あの・・・・クソ野郎。
規格外のクソ野郎を倒すチャンスだというのに。

「・・・・・・・・」

チラリと、
船上の影から燻(XO)を確認する。

「・・・・・・イスカ・・・・」

目に入るのは、天敵でなく、イスカの方だった。
離れた場所で仰向けに倒れている。
ボロボロだ。
明らかに。

全身から赤黒い染みを表し、
捨てられた人形のようだ。
応急処置しかしていない食われた左腕から、
またドクドクと血が溢れているのも分かる。

あれがイスカでなければ・・・・ただの死体としか思わない。

「まだ・・・間に合うわよね?」

本音を零す。
というより願いだ。

まだ・・・・間に合ってくれという。
つまり、イスカはもう手遅れなんじゃないか・・・という恐怖の。

「燻(XO)を倒せば・・・反乱軍の聖職者もイスカに近寄れる。
 ・・・・・いや、私が燻(XO)と応戦している間にだって」

強い心は、魔力にも表れる。
スナイパーライフル。
その弾として十二分な魔力がチャージされた。

「あのこが私を守ると約束した時に、イスカは私が守るって約束してんだから!」

マリナは体を乗り出す。
動作的には数十cmだけなのだが、
自分の体でないようなほど、気だるく重い。
しかし、照準を見定める。

「・・・・・・酒場のマスターが・・・・オーダーされたものを無視出来るわけないでしょ!?」

燻(XO)はこちらに気付いているか?

「・・・・・それどころじゃなさそうね」

首を貫いたマリナの弾丸。
燻(XO)はそのノドを押さえ、血を止めている。

滑稽な行為だ。
それで血が止まるはずがない。

10人居たら、9人は既に息絶えているような傷だ。
急所といってもいい。
首なんて血管が一本千切れただけで死んでもおかしくない。
出血の勢いも身体の中でチャンピォン級だ。

セルフヒールぐらいは使えるだろうが、
レイズのような異能を持ち合わせていない限り塞ぐ事など出来ない。

「・・・・異能・・・」

それは燻(XO)という男にはピッタリの言葉ではないだろうか。
誰からも愛される男ではないが、
才能に愛された男。

しかし、マリナはこの局面にいて、いつもより頭は冴えていた。
いや、
というよりも自分勝手な《MD》の人間にとって、
相手を分析するというスタイルは、アレックスがくれた財産でもあった。

レイズを比較に出せたのもそこだ。
燻(XO)がノドの致命傷を塞げる程の治癒能力があるならば、
彼の切断された右腕はもっとマシな応急処置が施されているはず。

"ノドを貫いた傷は致命傷"

それは確約されていた。

事実、彼は悶えていた。
こちらにも背を向けている。

「罪悪感はないわ」

ギターには無い引き金に、心の中で指をかける。

「あなたは死ぬべき人間だわ」

そういう風に、生きてきた事が分かるから。

マリナは、
引き金を引いた。

「終わりにしましょう。閉店。また来世にご来店どうぞ」

イスカは、
マリナを死ぬ気で守った。
結果、死の淵に立っている。

だからマリナは、逆の約束をした。
イスカが死にそうな時は、助けると。

相互の理。
イスカとマリナは助け合う約束をした。

それは言い換えれば無敵だった。


弾丸は約束のために撃ち放たれた。





ただ神はロミオとジュリエットが嫌いだった。

「!?」

ゾッとした。
身の毛もよだつという言葉がある。
それは全身の毛穴が開く感覚からくるのだとすれば、
マリナはそれを感じた。

「・・・・・ひっ」

小さな悲鳴をあげながらも、
マリナは逃げる事を許されず、
目を背ける事も許されなかった。

後ろを見ている燻(XO)は、後ろを見たままだった。
しかし、
妖怪の如く、左手だけが動き、

背後から飛んできたマリナの弾丸を・・・・・・・・


掴んだ。


マリナの中で最も威力の高いはずのその弾丸は、
手の平で止められ、
握りつぶされた。
魔力が握りつぶされた。

「有り得ないっ・・・・」

燻(XO)がマリナの存在に気付いている事は分かっていた。
ノドへの一撃は、二度目の狙撃だ。
狙撃主がマリナである事は、
燻(XO)じゃなくとも誰にだって予想はつく。

しかし、
彼は後ろを向いていた。
なのにマリナの弾丸を止めた。
片手で止めた事自体も常軌を逸していたが、それは別の話だ。

この距離での狙撃を、
見もせずに止める事は不可能だ。

音速は340 m/s
マリナと燻(XO)の距離はそれを越える。
つまり、
当然、音より先に弾丸の到着の方が早い。

燻(XO)にマリナを狙撃のタイミングを知る術はない。

それを的確に握りつぶした。
・・・・・。
それは恐怖。
それ以外にない。

「どうしてっ・・・・・」

だが今更その理論を分析する気にもなれない。
それほどまでに、
彼が与えられた才能は常人の理性を凌駕しているのだから。
でも、
だからって・・・

「どうして勝利の女神はこうもっ・・・・」

なんで終らしてもらえない。

「もういいじゃないっ!」

こちらは限界だ。
イスカは限界だ。

そして、ここまで健闘した。
追い詰めた。

条件は全て満たしたはずだ。
なのに、

あそこに居る異端の天才は、それを踏みにじる。

最低だ。
最悪だ。

努力、過程、全てを馬鹿にする。
結局、勝者として生まれたクソ野郎は負けない。

燻(XO)の顔が振り向き、
的確に、
明確に、

遠き、ココにいるマリナを睨んだ。

殺意に満ち溢れた目だ。

生かしてはおけない。
しかしタダでは死なせない。
この世の底を見せてやる。

そんな禍々しさを感じる目だった。


「・・・・・・・・・・・・勝てない」


マリナは悟った。


































「なにか返事してくれないかな?」

城内。
城内も城内。
その中を堂々と、二人が歩いていた。

男と女。
どちらも、この戦争の中では年齢として若い類だ。
(騎士団が公務員という仕事である限り、
 この二人のような成人していない少年少女が希少なのは当然だが)

「・・・・はぁーぁ・・・・」

返事がなく、少年の方はガムをクチャクチャを噛む。
噛んで間を持たせる。

少年と少女。
年齢を抜きにしても、彼らの歩む姿は希少・・・というより奇異だった。

少年は、全身をファンシーな装飾で着飾り、
耳にまでキーホルダーをぶら下げる始末。
首にヘッドフォンをかけ、
クリーム色の髪の上にはウサギの耳が可愛らしく上を向く。

少女は、何一つ着飾らない。
というより、着ていない。
ただ、ボロボロのシーツで体を包んでいるだけだ。
ホームレスを100人連れてきてももっとマシな格好をしている。
妖怪か人形かと思わせる長すぎる髪だけが人間の証だった。

「なぁアヒル。なんかこー・・・もっとハッピーにエンジョイできないかな?」

「・・・・・」

自分が与えた名だから返事をしてくれない・・・というわけではない事を、
シドは分かっている。
こういう娘なのだ。

気品とは真逆の薄汚れた少女。
それはただシドの少し後ろを黙って歩むだけだ。

「燻(XO)隊長の趣味も分からないぜ」

「・・・・パパの悪口は言わないで」

返事が口答えだった。
たまに口を開いたと思えばこれだ。
本当にフレンドになれるのかと心配した。
けど、
しかし、
友達というものをもったことがないシドにとっては、
その発見は一つの進歩でもある。

「ディアフレンド。お前、燻(XO)隊長の話には食いつくんだな」

「・・・・・」

アヒルは顔を背ける。

その反応で、シドは「にたぁ」と笑い、
ウサ耳は天に元気よく立ち上がった。

「なるほどな!これがフレンドシップってやつだぜ!
 なぁアヒル!なら聞かせてくれよ!そーいう話をさ!」

シドは後ろを振り向きながら、歩く。
両手を広げて、満面の笑みで。

「あんまり興味ない!っていうか正直聞きたくないけど燻(XO)隊長の話っ!」

この少女は、
地下。
燻(XO)の私室で拾った子だ。

所謂クソ野郎の"玩具"だ。

不気味な子だが、自分と同じ、死に愛された子だ。
いいフレンドになれるかもしれない。

そうシドは思っていた。

フレンドとハッピーな人生。
それが生涯の目的であるシドにとっては、
現時点でそれが最優先事項だ。

「あれ?燻(XO)隊長っていえば、なんかおつかいが・・・・」

地下のギルド金庫。
その中。
その秘密。

そのカギを手に入れるために、
カギである、王家の血・・・ミイラ。
それを手に入れるために燻(XO)の私室に訪れたはずだったが、
それもシドは忘れ去っていた。
ロゼ=ルアスのミイラは手に入れたが、
迷ったあげく、そのまま目的を忘れて1階まで来てしまっていた。

「ま、いいや。な?な?」

ただ、ウサギは前向きだ。
フレンドが話しをしてくれるなら、そちらの方が大事だ。

「・・・・・パパは・・・・」

シドはフレンドの話に4つの耳を傾ける。

「いいパパ・・・・」

ずっこけそうなのを、シドはこらえた。

「・・・・はぁ?」

「だから私はパパが大好き・・・・」

シドはクチャクチャとガムを噛む。
理解できないから・・・・
というよりは、
少し理解しようとして、間を持った。

「・・・・んー・・・僕には分からないぜ?あの燻(XO)隊長がいいパパ?
 つーか"いい"って単語がこれほどまでに似合わない人はいないぜ?」

睨まれた。

「あー・・・つーと、ディアフレンド。お前の前ではいい人ってわけか?
 ・・・・でも血も繋がってないわけだよな?なんなんだ?」

「優しい。愛してくれる」

理解不能だ。
想像が出来ない。

「パパは、私のために殴ってくれる。パパは、私のために罵倒してくれる。
 パパは、私のために蹴ってくれる。パパは、私のために咥え・・・・・」

「ちょっとまった」

シドは口で小さくガムの風船を作って、
すぐに潰して口に収めた。

「それって優しいのか?愛してんのか?」

「構ってくれる」

「・・・・・・・」

病んでいる・・・・とはシドは思わなかった。
シドは、友に恵まれなかった。
当然だ。
殺人鬼なのだから。
誰もが避けて通る。
誰も自分に寄ってこない。

人は、愛の矛先で無い人間には、近寄りもしない。
無関心でいる。

「シドシド」

「ん?」

「パパはね、私だけじゃなくて・・・・人間が大好きなの」

さすがにその言葉には、
口笛でも吹きたくなる。

「歪んだ愛情ってやつかな」

無理矢理合わせたシドの言葉に、
アヒルは、首を傾けた。

「私は、その愛情しか貰った事がないから分からない」

にしても、
飛躍している。
馬鹿げている。
そんな"いい"話があるとは思わない。
有り得ない。
いや、
あってはいけない。

あの、最悪で、最低なクソ野郎に、
同情の余地なんてものは存在してはいけない。

まぁつまるところ・・・
アヒルはトチ狂っているのだ。
燻(XO)の玩具でしかないのだから。

シドはガムをフーセンにしながら、
続くアヒルの言葉を聞いた。

「パパはね」

「ん〜?・・・・」

「うんこなの」

フーセンがバチンと割れた。
顔面がガムだらけになった。

「むがっ、ゲホッ・・・・」

トチ狂いそうなシドを尻目に、
アヒルは続ける。

「そう、パパは言ってた」

シドはガムだらけの顔を清掃する。
ペリペリ、ガムを剥がし、
それに必死だ。

「うんこっていうのは排泄物」

別にいちいち返答もしなかった。
話をあわせる価値もない。
というか知ってる。
"クソ"という名なのだから。
うんこという名の、
最低で最悪の、畜生なのだから。

「人のね。いらなくなった醜い汚物が俺だ・・・ってパパは言ってた」

そう。
自覚しているのがあの最悪の最悪たる由縁だ。

「でもね。うんこって肥料になるんだよ」

「・・・・あーそう」

「排泄されるのは・・・・"人には必要ないから"・・・・それだけ」

剥がしたガムを捨て、
次のガムでも取り出そうとして、
シドはそれをやめた。

「俺は人に受け入れられない部分だけで出来ている」

「・・・・・・」

「だから俺はクソなんだ。・・・・パパはそう言ってた」

クソは・・・・クソだ。
そういうものだ。
彼は・・・・人であるまじき者なのだ。

そう生まれついたのだから。

人として、持たなくていい部分だけ。
排泄すべき部分だけ。
汚点だけ。
それだけを持って生まれた。

正常位の感覚など、持たず・・・。

ただ、
だからといって彼が不幸な身の上なのかといえば、
そうではない。
やはり、
ただの害なのだ。

ただ、快感をむさぼり、性欲をむさぼり、残虐をむさぼる。
彼は100%それを正当化し、
微塵も正常位の事柄に興味がない。

属性としては、
人というよりは、妖怪に近い。
それはそういう"災悪"なのだ。
根本から"そういう"ものなのだ。
そういう特性であり、同情の余地はない。

ただ最悪で最低な、"燻(XO)"という存在なのだ。
人ではない・・・・だけなのだ。


救いようの無いものというのは、確かに存在する。


「へぇ〜〜」

やる気なく、シドは間延びした声で答える。

「それでディアフレンド。君はそんな隊長が大好きなのは分かったぜ?
 だけどなんで燻(XO)隊長は君を特別視するんだ?」

特別視。
明らかな特別視だ。

全ては平等な家畜。
遊び道具。
玩具。
そんな風に弄ぶ最低なのに、
明らかにこのアヒル。
醜いアヒルの子は、特別視された風にそこに居た。

「鍵になるから」

「鍵?」

「ってパパは言ってた」

カギという言葉で、
やっとシドは自分の"おつかい"を思い出した。
王家の血。
空かずのギルド金庫。
でもまぁ、思い出したからといってどうでもよかった。

「お前は戦争の秘密兵器だ・・・って」

「へぇ・・・・強ぇーの?」

秘密兵器という言葉を分かる。
彼女の強さは目の当たりにした。
自分と同じ、
異端の型の強さ。

"阿修羅"の如く・・・だ。

「そういう意味じゃないみたい」

となると、
ややこしい話の何かだろう。
あんまりシドのオツムじゃぁ分からない"大人の事情"ってやつだ。
深入りする気はない。
興味もない。

「僕はさ、強ぇーよ」

「・・・・・・」

「人殺しは嫌いだけどね。得意なんだ」

「・・・・・」

「チェッ」

燻(XO)の話から離れるとこれだ。
ゲンナリだ。
ハッピーなライフ。
フレンド。
友達100人。

夢というのはなかなか難しいらしい。

「・・・・・さてと」

シドはそこで足を止めた。

「あんまり歩き回ると迷惑かかるかな」

そういうシドの両手には・・・・・・・
トランプがあった。
"あった"という言葉が随分と似合う。
そう。
それはずっとあったのだから。

本人のシド自身さえ、気付かず手にしている。
手にしていた。
ずっと。
だって、彼は殺人鬼。
息を吸うように無関心に人を殺す。

シドとアヒル。
彼と彼女が歩いた後には・・・・・・

無数の死骸が転がっていた。

「ただの散歩のつもりなんだけどなぁ」

すれ違っただけでも、人を殺す。
殺してしまう。
本人の意思とは無関係に。

「ね?」

そしてそのシドの手。
紙の刃が、スッ・・・・と自然に、

アヒルの首をカッ切ろうとした。

当たり前のように。
自然に。

そしてアヒルも、包まっているシーツの下から、
手に持つエッジ。
双刀をそれに合わせる。

「アハッ」

シドの刃は、アヒルに届かない。
アヒルの羽織っていたシーツが、バサバサっと舞った。

「風邪ひくぜ?ディアフンレド」

この子は・・・・死なない。
こんな自分の横に居ても、死なない。

この子しかいない。
そうとさえ思う。

シドは落ちたシーツを、
一糸纏わない阿修羅の娘にかけてあげた。

彼女の体は、同年代の少年でも、欲望に負けて襲うに足るだろう。
壊れてしまいそうな、人形のように美しい体。

でもシドにそんな感覚は沸かない。

愛情でなく、欲情でなく、求めるのは友情だけなのだから。


































「欲情。全ては性の対象・・・だ・・・・。欲する情の・・・慰み者。
 世の中は二種類だ・・・・俺の・・・・玩具に成りえるか・・・・否か」

燻(XO)は、血の溢れる首を押さえながら、呟いた。
誰にとでもない。
答える者など周りにいない。

「俺のような汚れたモノの愛などいらないなんて・・・・弱者に選択権はない」

そんなものは必要ない。
世の中のYESとNO。
それを決定するのは・・・・才能を持つ、権力者。

「Fxxk you(クソでも食らいな)」

紫の長髪を前に落とし、
紫の唇で「ウフフ・・・」と笑う。
妖美な鬼畜。

「どいつも・・・・こいつも・・・・クソを足蹴にしやがって・・・・」

普段は避けて通るクセに。

「あー・・・・・」

紫の髪と共に顔を落としたまま、
燻(XO)は気だるそうに言う。

「蝿が五月蝿ぇ・・・・」


「せぇーーーーいばぁーーーーい!!!」


直後、
狼帽子をかぶった男が、天から突撃してきた。
振りかぶっているハンマー。
それ以上に、勢いはメガトン級だった。

振り切られたハンマー。
同時。
爆発。
バーストウェーブの爆発が、
ハンマーと共に炸裂し・・・・・

燻(XO)に直撃する。

「俺に盾突くなんて・・・・フンコロガシにでもなったつもりか?」

そのハンマーを、
燻(XO)は片手で止めていた。

「え・・・・・」

ハンマーの威力。
やさ男が片手で止められるはずもない。
さらに爆発も起こった。
なのに、
悠々と片手で止めている。

「バーストウェーブがなければまだ分からなかったな。
 魔術で俺以上の才能を持つ人間が・・・・この世にいると思うか?」

理屈はもはや無用だった。
彼は、
ただ恵まれすぎているのだ。
頂点。
・・・・・・いや、

「この世に"俺以下"の存在がいると思うか!?」

同時に、
逆に、
爆発が起こる。

3倍返しレベルでやり返された。
その爆発と衝撃で、ロッキーは吹き飛ばされる。

「あー・・・・・ブンブンブンブン・・・・・・」

キッ・・・と燻(XO)が上空を見上げる。

「クソに集る蝿共がっ!!」


タバコの灰がポロリと落ち、
地上へ落ちる間も待てず、それは塵と化して風化し溶け込んだ。

「めんどくせ・・・・・さっそくバレたじゃねぇか」

上空には、神が二人。
単位を"人"とすべき、神が二人。

「あの狼少年が勇み足すぎるからだ。ダリィ・・・・」
「ガブちゃん。それは違う」

ガブリエルの言葉に、エクスポは首を振る。

「仲間がやられているのに堪える事が出来る。そんな忍耐力は欲しくない」

それは美しくない。
こうあるべきなのだ。
それが《MD》だ。
それが人だ。

「怒りとは花火のようなものさ。何かに怒れる事が出来、弾けられる事は・・・」

芸術だ。
フウ=ジェルンは、
モントール=エクスポはそう思う。

「そういう感情の勘定はもう忘れたなぁ・・・・」

ネオ=ガブリエルは気だるそうに、
煙を漂わせながら、
ただ、
右手にはバチバチと渦巻くサンダーランス。

「だが、やれやれ・・・・天罰を与えるべき人間はよく見える」

神の宿命かな。
などとガブリエルは皮肉りながら、
電気、
雷をその魔力に込める。

「めんどうなんだよ」

そして、
稲妻は落ちた。

クロスライトニングボルト・・・・・ではない。
広範囲に拡散する必要はない。
むしろ、一点集中。

天罰を与えるべきなのはただ一人、
地獄さえ引き取ってくれるか分からない・・・・クソ野郎だ。

稲妻は落ちる。
太く、強大に。

それは直撃する。

「かはっ・・・・」

人間一人を包み込み、
黒く、灰にする勢いで。

避けられてもいない。
止められてもいない。

それは確実に貫き、致命傷となった。

「なん・・・・で・・・・・・・」

天から、
芸術家を一人排除するという意味では。

「・・・・・・・・美しくない」

雷はエクスポを貫いた。

天罰は燻(XO)でなく、エクスポに落ちたのだ。

黒コゲになりながら、エクスポは墜落する。
ガブリエルの方を見ながら。

「・・・・・・」

ガブリエルの表情はというと・・・・

「・・・・・・・は?」

彼には珍しく、唖然としていた。
咥えていたタバコをポロリと落とすほどに。
その表情は、
逆にガブリエルが裏切った訳ではないという証拠でもあり、
不幸中の不幸は避けたといえよう。

ただし、
今のド級のモノボルト。
稲妻・・・・・雷は、
雷の化身であるライ=ジェルンに相応しい規模のものだった。

「・・・・・俺はまだ撃っちゃねぇぞ・・・・」

それは、
神にも値する才能を、最底辺のクズ野郎が手にしている。
それだけの結果だった。

「ウフフ・・・・アハハハハハハハハ!!!!」

紫の髪を振り乱し、
車椅子の最低は高らかに笑う。

「あー失敗した!あー失敗したなぁ!俺とした事がつまんねぇ!!
 メテオドライブの要領でそちらの雷を操作すりゃよかった!!」

他人のメテオさえ自在操る才能。
『メテオドライブ』のメテオラ。
その他面も見せる燻(XO)にとったら、
ガブリエルのモノボルトを操作する事さえ可能だっただろう。

それほどの才能。

だが、彼の言葉からすれば、それは行われなかったのだろう。
ただ単純に、燻(XO)という男の才能の雷が、
エクスポを撃ち落した。

「そうすりゃこう!仲間割れ的な一面も見れたかもしんねぇよなぁ!
 そうした方が面白かった!失敗だ!失敗!あー!あー!つまんねぇ!げほっ!」

ノドに穴が空いてる事を忘れ、無邪気に笑っていたせいか、
燻(XO)は吐血した。
しかし、
紫の唇が赤く染まっているクソ野郎の表面は、
それはまた・・・・・・・・悪魔のようにも見えた。

「もっと・・・・犯し、侵し、冒し尽くすような行動をとるべきだよなぁ・・・
 せっかくやるなら・・・出来る限り"おったつ"事をするべきだ・・・なぁ?神」

ガブリエルは不覚にも・・・ぞっとした。
いつも無関心、無感情を気取っていたガブリエル。
とらえどころのない人間を装っていたガブリエル。
しかし、
神でありながら思う。

こいつは ヤバい。

「なぁ神。神様よぉ・・・・。"これはテメェラが招いた事"だぜ?
 ハンバーガー・・・ポテト・・・・ジャンクフードの類とかよぉ・・・
 あぁ・・・・・タバコでもなんでもいい・・・・・つまり・・・・反省点は・・・・・」

燻(XO)の顔には、感情しか溢れていなかった。
怒りなのか、
いや、それでも愉悦に包まっていただろう。
そんなおどろおどろしい・・・・いや、禍々しい笑顔だ。

「人の体によくねぇもんを・・・・"美味い"と感じる体に・・・設計しちまった事だ・・・・」

神の設計ミス。

「食っちゃぁいけねぇもん・・・・やっちゃぁいけねぇこと・・・
 やっちゃぁならねぇこと・・・・やるべきじゃぁねぇこと・・・・・
 "だからこそ"って感じちまう体に設計したのが悪ぃんだぜ・・・・ウフフ・・・・・」

神による、人間の設計ミス。
だからこそ、その極点に燻(XO)

この男がいる。

「おおっと・・・・」

バジュンッ・・・と何かが握りつぶされる。
燻(XO)は不意に左手を伸ばして、
何かを握りつぶしていた。

何ということはない。
もはや"何ということはない"のだ。

発射のタイミングも、
発射されたことさえも分かるはずのない・・・・マリナの狙撃さえも。

「全員・・・草食系男児(ベジタリアン)に設計すれば、皆健康でいれたろうに・・・・」

ただ可笑しそうに、
いや、犯しそうに、
燻(XO)は笑う。

「ちぃ・・・・・・」

ガブリエルは、苦虫を噛む。

「こいつは面倒くせぇ・・・究極に面倒くせぇよ・・・・・
 今にも尻尾巻いて「俺ぁパス」・・・・って言いたくなるねぇ・・・・・」

攻撃には移れない。
ガブリエルは攻撃に移れない。
先ほどの燻(XO)のセリフが効いているのだ。
先ほどの燻(XO)のセリフの裏を返せば、

ガブリエルの雷は、燻(XO)の手の平なのだから。

操作されてしまうのだ。
彼の才能によって。
通用しない。

しかし、雷の化身であるガブリエル。
ライ=ジェルンは、もし自分に雷が降りかかろうと、効かない。
雷は味方でしかない。

ならば、撃って損はないと、
撃たなければ勝ちもないと、
そうタカをくくってモノボルトを落とすべきなのだが・・・・

ガブリエルは攻撃に移れない。

それが、燻(XO)に、一歩も二歩も遅れを取っている原因だ。

「策が下手だねぇ。神様。エーレンのガキのようにはいかねぇな」

一か八かでも雷を落とせない理由は、
単純に・・・・自分以外に雷を誘導されては困るという事。
つまり・・・・・

「待て、バレてる」
「たまんないね・・・・・」

ロッキーは嬉しさの全く無い笑顔を見せた。
魔法。
その才能の頂点に居る燻(XO)を相手にするにあたって、
キーになるのはロッキーだ。
ロッキーの物理攻撃しかない。

魔法はクソ野郎の才能の前には無力と帰す可能性がある。
どうにかロッキーをもう一度接近戦に持ち込ませる必要がある。

「選択肢はいつも二つだ」

クソ野郎は、呟いた。

「それでも雷を打つべきだったか、否か。撃ったとしよう。
 そちらの坊やの存在を隠す、隠れ蓑には出来たかもしれない。
 ドサクサという隠れ蓑に隠して、坊やは俺のところまでこれたかもしれない」

だが、結局のところは無意味だ。

「効かないと分かっていて雷を撃ったら、それこそ俺は狼坊やの存在に気付いたろう。
 何を企む・・・ってな。・・・・・ウフフ・・・・ま、実際は最初からバレバレだったけどね」

選択肢はいつも二つ。
しかし、
どちらも燻(XO)に通用はしていなかった。

「・・・・とまぁ、なんでそんな終った事に対する反省会をするのかって聞きたいよな?
 つまりやっぱり、策が下手だねぇって言いたいわけよ。・・・・ウフフ。隠れ蓑・・・
 そう。あんたら、まだ隠しておきたい事があるって・・・・・顔に出すぎなんだよね・・・・」

「「!?」」

その反応こそ、
まさに顔に出すぎていると言われても返せなかったろう。

「しかし、嗚呼無情」

突風。
吹き荒れた。
一瞬の内に吹き抜けた。

あまりの突風に、強風に、
ロッキーもガブリエルも一瞬それを体で遮ったが、
あくまで吹き抜けただけだった。
攻撃の類でなく、

ただあまりにも広範囲に突風が吹きぬけた。
それだけだった。

つまり・・・・・・最悪だった。

「え・・・ちょちょ!あれ?!え?どうしよ!?」

焦って、
遠き場所からその翼で、
スイ=ジェルン・・・いや、バンビ=ピッツバーグが、
ガブリエルのもとにカッ飛んでくる。

「"霧"!吹き飛ばされちゃった!!!」

バンビはそれを体全体で表現する。

霧。
つまりそれは・・・・バンビの能力。
蜃気楼アピール。

その力は絶大だ。
要ともいえる強力な技だ。

だからこそ・・・・下準備である霧の散布がバレるわけにはいかなかった。

しかし・・・・
クソ野郎は感づいた。
感づかれてしまった。

「・・・・めんどくせぇ・・・・」

ガブリエルは言う。

「スイ=ジェルンの能力は・・・・てめぇは知らねぇはずだろ・・・」

燻(XO)はずっとここで戦っていた。
内門下での二度の蜃気楼アピール時もココに。
つまり、霧の外に。蚊帳の外に。

どこかで耳に挟んでしまったか?
バンビの能力を。

「ウフフ・・・・いや、知らんけど?何?あの霧」

いや、事実、
燻(XO)は知らないのだ。
バンビの蜃気楼アピールという能力など。

だが、気付き、突風で吹き飛ばした。

「なんか知らんけど・・・・・、隠したがってりゃ気付くだろ。
 つーか周りの景色の変化に気付かない奴の方がトンマじゃねぇーの?」

霧が立ち込めている事。
それに気付かせない事が絶対条件だ。
しかし、
今までとは違う。
燻(XO)が圧倒的に上回っているからこそ、
周りを気にする"余裕"がありすぎる。

気付いてはいけないような狙撃にさえ気配りが間に合うのだ。

霧の散布に気付かないわけがない。

「なんか知らねぇが、クソみてぇな技だな。最弱に値するね」

燻(XO)はそういい捨てる。
幻覚という、
それこそ反則といってもいい強力な技を。

「俺が言うのもナンだが・・・・プロのプレイヤーとしてあるまじき技だな。
 俺なら致死性の毒にする。あの霧が俺に触れただけで死んじまうような・・・・
 そんなだったら分からなかった」

霧。
相手を包み込んでおいて、「さぁここからだ」と効果を発揮する。
そんな遅すぎる攻撃はあまりにも実用的ではない。
燻(XO)はそう言う。
相手が気付きもしないヘナチョコである事が前提など、前提が間違っている。

気付けず霧で包めるなら、
そんな段階を踏まずにそのまま殺せばいいだろう。

「僕・・・・馬鹿にされてるね」
「核心はつかれた・・・ってとこだけどな」

悲観することではない。
ただ、
相手が通用しない程に・・・・・格が違いすぎた。

それだけだ。

「さて、手詰まりだよね」

ロッキーが、
バンビとガブリエルの周りをカプハンジェットでぐるんと一周し、
そう呟いた。

「そうだな。霧も雷も通用しねぇ。だが一つ手はある。
 お前が一人であの人間に突っ込むって手だ」
「勘弁してよ。唯一の手だけど、手詰まりから手が無いにグレードダウンするよ」

ロッキーは笑顔を絶やさず言うが、
そこに楽観的な意味合いは皆無だ。

手詰まり。

その最たる理由があった。

エクスポだ。

それを見越していたと云うならば、
いや、見越していたからこそ、燻(XO)が圧倒的に上回っている。

エクスポの爆発なら、まだ可能性はあったからだ。

エクスポはあくまで盗賊。それは変わらない。
彼はフウ=ジェルンとなり、風・空気を操るが、
攻撃はあくまで爆発・・・・いや、爆弾だ。

知っての通り、風や空気による攻撃は、
フウ=ジェルンであるはずのエクスポは使わない。
いや、使えない。
あくまで盗賊だからだ。

それらを操作して爆弾を作る。

爆発自体に魔力は存在しない。
遠距離からの物理攻撃といっても差し支えは無い。

そういう理屈で考えるならば、
ライ=ジェルンであるところのガブリエルの雷。
こちらもライトニングスピアの亜系なのだが、
雷を魔法ではないで締めくくるのはつらい。

というよりモノボルトという魔法がある以上、
やはりそれは燻(XO)の操作対象になるだろう。

もちろん、爆発を行う魔法もあるのだから、
エクスポの爆発だって燻(XO)はどうにかしてしまいそうだが、
エクスポの爆発にある可能性というのは、さらに別の点にある。

"地点発火"・・・・座標攻撃であるという事だ。

直接、"そこ"に爆発を起こすという事は、
操作されるという心配はない。

車椅子を要する障害者であるところの燻(XO)は、
避ける動作もできない。

はっきり言うと、

燻(XO)を倒しうる天敵がエクスポだったと言い切れる。
燻(XO)にとって、人生で最悪の相性の存在だったと言える。

それは早期に摘み取られた。

燻(XO)の才能の属性に最初から気付いていれば。
バンビの能力を活かす策に固執しなければ。

全ては後の祭りだ。


「どきな!」

だがまぁ、

「ヒャッハーーー!!!」

そういう難しい理屈を考えない奴だっている。

現れたのは炎の神。
放火魔ダニエル。
そういう意味では"魔神"とでも称するべきかもしれない。

「燃やせばいーんだよ!燃やせばよぉ!おっけー!あんだーすたーん!!?
 人間!皆生まれたら最後は焼け死ぬんだ!例外はっ!なっしん!!!」

ダニエルを中心に、炎が広がる。
それは、
空中から雲が一気に広がるかのようで、
それは、そこら中の空間を・・・・いや、空気を炎に変換しているかのように、

一気に侵食した。

「ヒャーーーーハッハッハッハッハハ!!!!」

それは一言で言えば台風のような炎だった。

「・・・・ったく。ぎゃーぎゃーと気品のねぇ神・・・・ん?」

クラッ・・・・と、
燻(XO)は一瞬頭を傾けた。
いや、傾いた。

「ちっ・・・・・」

燻(XO)は自分の額に手を当てる。

「血を出しすぎたか・・・・・」

生易しい言い方をすれば貧血。
血を出しすぎた。
そういう表現をするならば、
腕を切断したイスカよりも、マリナに賞賛を贈るべきだ。

一度は頭を貫き、
一度は首を貫いた。

燻(XO)の脳へ供給される血の量は明らかに不足していて、
特に効果を得ているのは、マリナが与えた2発だ。

その2発が通った理由を考えれば、功績はイスカにあるとも言えるが。

「ヒャハハハ!!バテたか人間さんよぉおおーー!YO!」

ノリノリのダニエルの言葉も、
実は的を得ていた。

燻(XO)の魔法は超絶で、理解に苦しむほどの規模だ。
だからこそ、魔力の消費もハンパではない。

当然、通常の人間を遥かに凌駕する魔力量はあるし、
魔力の節約法や、回復法も心得ているが、
それでも、

血と魔力。
ガス欠が遠いとはいえない。

「ちょーしこくんじゃねぇぞ」

台風のような炎が燻(XO)を襲う。
飲み込む。

「てめぇら如き・・・片手でオナニーしながらでも殺せんだよ!!」

現時点では片腕しかないが、その片腕を振り払う。
同時、
まるでそこにバリアでも張られているかのように、
いや、実際に張ったのだろう。
イスカとの戦闘でも見せていた。

炎が燻(XO)を避けて通る。
炎が、燻(XO)に通らない。

「ヒャーーーーハッハッハッハッハッハ!!!!燃えろ燃えろぉおお!!」

燻(XO)に炎が通じているかどうかなど、
あまりの火炎量でダニエルからは見えていない。
陽気なダニエルはただ笑う。

「・・・・ヒャハッ!?薪が足りねぇか!?」

ただし、ダニエルは馬鹿だが天才だ。
放火のエリートだ。

「人の油が焦げた感じ・・・空気に混じってこねぇなおい!!」

火炎の量をあげる。
火力をあげる。

「増し増しだ!!」

オーバードライブなエンジン。
炎神。
熱量は加速する。

「通じねぇっつってんのにねぇ」

燻(XO)は炎の中で笑う。

「俺が、魔力なら操作出来る事を知らねぇんだな。ノリノリが逆にダサく見えるぜ」

そう、笑う。

「ウフフ」

そう笑う。笑っている時だ。

「・・・・・あ?」

チリッ・・・・
それだけだ。
それだけだが・・・・・自らの髪。
自慢の紫の長髪が、少し焦げたのを感じた。
火の粉程度だが。

「なんだ?・・・・・うぉ!?」

炎が吹き込む。
自分が操作しているテリトリーへ、炎が吹き込んでくる。
燻(XO)は魔力を上げ、
なんとかダニエルの炎の嵐を食い止める。

「・・・おいおい・・・どーいうこったド畜生が!!?・・・・圧された?
 この俺が!?ざけんなよ!魔法の一介に過ぎねぇだろ!」

例外はない。

「・・・・・"純正"だからか?」

純正。
いや、
純血。

「ウフフ・・・・確かに、純正の神の魔術とやらは受けたことはなかったが・・・納得いくか!!!」

神だからなんだ。
神に生まれたから偉いのか?
この燻(XO)様より?

それだけで、
自分の選ばれし才能を超越しようっていうのか?

「ド畜生がっ!!!」

燻(XO)は魔力をさらに放出する。
押し返そうとする。

そこで気付く。
間違いに気付く。

「・・・・・違ぇ・・・・」

ダニエルは確かに、他の誰よりも火力が高い。
魔法の威力も段違い。
純血・・・根っからの神であり、
神の中でも特殊な才能の持ち主だ。

しかし、燻(XO)を超越しているかというとそうではない。

気付いた間違いとは、

「俺の方が弱ってる・・・・っつーのか」

ガス欠。
それが直結している。

「それはぁ・・・クソ許せねぇ理由だよなぁ!!」

ガス欠。
血。
魔力。
それが直結した理由。
理由だが、

「・・・・・・クソッ!ド畜生!」

さらにクソッタレな事に気付く。
それは、
やはりダニエルが上回っていたということ。

ダニエルという男が、放火魔であり、
その、エリートであるという事。

「熱ぃ・・・・息っ・・・・が・・・・・」

燻(XO)の周りだけ、炎が止められているという状態は、
裏を返せば、
炎に囲まれているという事だ。

この熱量だ。
燻(XO)の立ち位置の温度は、
炎を食い止めていても、既に2桁後半に差し掛かろうとしていた。

燻(XO)のキャシャな体を蝕む熱量。

「・・・・うぅ・・・蒸し殺す気か・・・・いや・・・・・・」

そして、
周り全体が燃えているという自体は、
炎によって、
酸素を大幅に焼かれている状態でもある。

致命的なのはガス欠でなく・・・・・・・・・・・酸欠。

これらの連鎖。
殺すための連鎖をダニエルが考えてやっているかと言えば・・・・
否。
感覚、いや、本能。

「・・・・・"燻"・・・・なんて名前の通りにしようってか?」

それはダニエルの才能。
人を、燃やす。
そんな極端な才能こそが、ダニエルの最大の強み。

「この世は二種類だ・・・・人を弄ぶ権限のあるものと・・・・そのほかっ!
 ・・・・・・・前者はっ・・・・・・この燻(XO)だけでいいっ!俺だけでっ!!!」


































いつの日の話になるだろう。
遠すぎもせず、
ただ、近くも無い昔の話。

暗い暗い地下。
ルアスの城の冷たい地下。

「お前は最高だ。・・・・・俺が最低だからこそ」

「私にとっては・・・それが逆だよお兄ちゃん」

薄暗い地下。
車椅子に座る燻(XO)。
その両足の上に、さらに跨るように、一人の少女。
燻(XO)を「お兄ちゃん」と呼ぶ少女は、
ある日は「あなた」と呼び、ある日は「パパ」と呼ぶ。
そして先の未来では、一人の殺人鬼に「アヒル」と呼ばれる少女。
今日は「妹」の日。
それだけだ。

「お兄ちゃん。お兄ちゃんはなんで私を殺してくれないの?」

"妹"は、燻(XO)によりかかり、そう聞く。

「それはお前を愛しているからだよ・・・・・ウフフ・・・」

「だって・・・お兄ちゃんは他の人とは遊んで、遊んで、遊び倒して・・・
 そして遊びつくした先で・・・・・殺すじゃない・・・・なのに・・・・」

私のことは もてあそんで くれない。

「哀しそうな顔をするな。勃起してしまう。
 お前の下半身に3つ目の穴を作ってブッ刺してやりたくなる」

「我慢しなくていいのに」

覚悟は出来てるのに。
そうして欲しいのに。
そう、少女は健気に哀しむ。

「ウフフ・・・我慢した方が快楽も強まる。俺だけじゃない。
 それはお前にとってもだ。焦らすっていうのもまたいいもんだ」

「でも待ち遠しくて」

「ふん。・・・・・まぁお前には別の使い道があるからな・・・・」

燻(XO)は天を仰ぐ。
天は狭い。
この狭く、暗く、冷たく、湿った、臭う地下では。

「お兄ちゃん。それは、アレらもそうなの?」

指を刺したわけでもなく、
視線を向けたわけでもない。
だけど、
示したものが何かは分かる。

堂々と飾り付けられている・・・・ミイラ。

2つは、男女のミイラ。
そこら中が虫食いのようにボロボロで、
すでに人と判別が付くかどうかも危うい。

英雄を産み、役目を終えた夫婦のミイラ。

「アレらは確かに役目はほぼ終えた。お前のように残しておく必要はない。
 ただ、まだ遊びに使えるかと思って残してある。いや・・・・本音は」

いやらしく、燻(XO)は笑う。

「尊敬の念で残してあるんだ。あえて晒し者にしてある。あざけ笑うためにな」

「お兄ちゃんが尊敬?」

「あぁ。俺がどうやっても届かない唯一の存在・・・・それに無残に殺された末路がアレらだ」

「お兄ちゃんでさえ届かない存在?それは・・・・」

どれだけ最低な奴なの?

少女が問うと、燻(XO)は大きく笑った。

「簡単に言えば"絶対"。シンプル過ぎてどうしようもない・・・・帝王だ。
 アインハルト=ディアモンド=ハークス。・・・・俺の飼い主だ」

「・・・・私の飼い主は・・・お兄ちゃんだけ」

少女は寄り添う。
子犬のように、健気に、情けなく。
燻(XO)は・・・ニッ・・・と・・・怪しげな笑みを漏らす。

「これは、俺の独り言だ」

「・・・・・・・?」

「あいつは"頂点"だ。天辺・・・最上に位置している・・・だが・・・
 頂点は、下にも頂点なんだよ・・・・・俺を越えて・・・・何もかもが・・・・」

悔しそうな顔は、始めてみる。

「・・・・抜け駆けしてやろうと・・・考えている。
 一瞬だけでも・・・・奴の一手前に躍り出てやる・・・・・」

それは、燻(XO)が人生で唯一もった・・・野望でもある。

「ギルド金庫を開けるのは・・・アイン・・・てめぇじゃねぇ・・・・俺だ」

それは、言葉にした通り独り言だ。
独り言であり、野望だ。
燻(XO)という最低のクソ野郎の持つ・・・最上の。

「あいつを出し抜くカギになるのが・・・・王女ロゼ=ルアス・・・・・」

燻(XO)の視線は、
最後の一つのミイラ。
名を呼んだ者のミイラに向けられていた。

「そして・・・・もう一つは・・・・お前だ」

燻(XO)は少女の頭を撫でる。
燻(XO)は思い描く。
プランを。
アインハルトを出し抜く・・・・野望を・・・・

「アイン・・・てめぇはロゼさえ手に入れてねぇ・・・・・
 てめぇは何でも出来るが・・・・代換の効かねぇもんってのがこの世にはある・・・・」

哀しくも、
アインハルトはこの未来、
ロゼを手に入れることとなる。
ロゼ。
王女ロゼ=ルアス。

2人のロゼ=ルアス。
ミイラとなった死したロゼ。
アインの傍らの生きるロゼ。

何が真実で、何が偽りかは、
今後、燻(XO)の頭をも惑わす事になる。

「王家の血こそがギルド金庫の鍵だ・・・・ウフフ・・・・奴もそこまでは辿り着いてるはずだがな・・・・」

企む最低。

「アインッ・・・・」

燻(XO)という男にも、
一つ、譲りきれないものがある。

「この世で人を弄んでいいのは・・・・・俺であるべきなんだよっ!!」

そこだけは・・・譲れない。

「俺は王になるっ・・・・貴様をも越えてなっ!!!」








































                 






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