騎士団には様々な騎士がいる。
52の部隊が大きな区分けになるわけだが、
その1部隊の中でもさらに個性は分かれる。

部隊長と、部隊自体の役目が看板にはなるものの、
やはり個人は個体として個性が存在する。

みんな生きてるんだから十人十色だ。

・・・・と説明してしまえばここまでの説明は必要はない。

それでも騎士団の中の"騎馬隊"と言ったら?
そう聞けば3つがやはり帰ってくる。

オフロードを看破する、装甲搭乗型守護獣デミを要し、
ルケシオンを中心とした悪都市を生業とした騎馬隊。

部隊長ギア=ライダー率いる38番 湾岸警備部隊

オールマイティに駆ける、機動搭乗型守護獣エルモアを要し、
主に整備された善都市や森を生業とした騎馬隊。

部隊長ラブヲ=クリスティ率いる 39番 白馬(白バイ)部隊


そして、
人の足ではなく、騎馬であることを徹底的に追及・・・
いや、研究の成果ともいえよう。
斥候・追撃・・・それらも能力の後についてきた任務。

速度のみを追い求めた・・・地上最速生物Gキキを要する部隊。

第41番 騎土竜部隊

そこの部隊長をオジロザウルスは務めていた。


黄金世代に生まれた。

非凡な才能は誰しもが認めていたし、
今になっては恥ずかしいが地元だったら敵無し。

しかし世界は広い・・・というよりも、
世代が幸か不幸か。

どこかで何かのトップを担うほどの実力を持ちながらも、
黄金世代の中では黄金でなく銀メダリスト。

アインハルトやロウマを要する特級クラス。
そこにも入れない事で自分の立ち位置を知った。

だが、黄金に埋もれただけで自分も特別だと信じたかった。

だが特級クラスの奴らに勝って居る者などない。
世界は自分より劣った奴らばかりだというのに、
自分は何も掴めない。

自分より優れた奴らに勝つには、
それはもう・・・・・新しい事しかなかった。

彼らが得ていないこと。


その転機が訪れたのは最近の話だった。

「ジャイアントキキ騎乗計画。そのプロトタイプとなるG-TとG-U。
 奇しくも与えたのはオーランドの親子ということになったが・・・。
 時を経て得た結果は上々だ。本格的に部隊に取り入れる方針を・・・」

ルアス城の庭園。
集会にてピルゲン部隊長が放った言葉。
これしかないと思った。

Gキキへの搭乗。
今まで成されていなかった事。
誰一人として"それに特化したものは居ない"
誰もが0からの演習となる。

これしかない。

真っ先に名乗り出た。
行政部隊であるピルゲンに話すと、
その話は地下に持っていけと言われた。

チャンス。
それを掴むために何でもした。

下種な奴に頭を下げ、テストを受けた。
騎士団でもない請負の研究員。
ドラグノフ=カラシニコフの趣味に付き合うハメにもなった。

ただし、彼も"結果"に固執しているようで、
目的は重なったし馬も合った。

「騎馬隊だけにね」

理系の男というのはこういうくだらないことが好きらしい。

ただしオジロザウルスは、
騎士団の経歴に数年の空欄まで作り、
Gキキ乗りとして、
いや、
世界のTOP52とまで言われる部隊長の座を手に入れた。

オジロザウルスは、自分が特別である事を世に知らしめた。
埋もれていただけ。

その才能を努力と未開拓の地に寄せる事で・・・・

特別の域にまで昇華した。


それは彼の自身であり、
誇りだった。

























「がっ・・・・・かっ・・・・」

身を転がしている。
これは地面だ。

「くそっ・・・」

Gキキはどこだ。
俺はオジロザウルス。
騎土竜部隊の部隊長だ。

ここは戦場だ。
再びの終焉戦争。
二度も死ぬわけにはいかない。

「どこいくんだ兄ちゃんよぉ」

俺の手に刀が突き刺さる。
地面に串刺しにされる。

「てめぇ・・・調子に乗るなよ!!」

部隊長オジロザウルスを。

オジロザウルスは貫かれた手をそのまま引き抜いた。
手の平が半分吹っ飛んだが知るか。

「てめぇら!さっさと殺っち・・・・」

状況を思い出した。
周りを見渡せば・・・

Gキキの残骸達。
鎧だけの部下達。

残っているのは・・・・

「・・・・・・・ッ・・・・・」

「観念しねぇ兄ちゃん」
「往生際が悪い」

周りを取り巻くのは、
黒いスーツの男達。
ヤクザ。
《昇竜会》

「てめぇ・・・何者だ・・・・」

「てめぇ?」
「誰のことを指してるんだ?」

ヤクザ達はおどける。

「さして言うなら俺か。俺はヒドリ=テンラク。《昇竜会》の若頭の一人だが・・・・」

刀がオジロザウルスを貫く。

「・・・・ぐっ・・・・」

「覚えてくれなくていい。再登場の予定はない。
 俺を含め、ここに居る奴らなんて戦争のパーツの一部でしかない」

「てめぇら如きが・・・・」

自分の胸を貫く刀を握る。
痛みはない。
死んだ体。

「この俺を・・・騎士団長であるこのオジロザウルスを!
 俺は特別に辿り着いたんだ!この地位!力!誇りであり!認められた!
 その俺を!てめぇらみたいなパンピーがよぉおおお!!!」

「やれ」
「やっちまえ」
「さっさと姉御に追いつかねぇと」

周りから無数の刀がオジロザウルス貫く。
隙間無いほどに。

「・・・・俺は・・・俺は特別なんだぞ・・・・戦い・・・倒すのも・・・・倒されるのも・・・・」

「戦争にそんなもんは関係ないぜ兄ちゃん」
「主要人物なんて関係ねぇ」
「戦争の主役は」

あんたら(主要人物)じゃない

「俺達(駒)だ」



















私はフィーロ。
なんてことはない。

本当になんてことはない、
この戦場のコマの一人だ。

「振れ!剣を振れ!死にたくなかったらな!」

傍らで叫ぶのは、
グループリーダーだ。
名も知らない。
反乱軍に入った時に近くに居たから、
彼のグループになった。

「ぐぁっ!」
「また一人死んだ!」
「一人がなんだ!統計から見たら誤差だ!」
「5252525252!また52!」
「バグんな死ぬぞ!」

なんで私はここに居るんだっけ。
世界の中心。
ルアス城の庭園。
戦場の真っ只中。

その東。

この世と思えない死骸騎士。
死者が動いてる。
周りの仲間はこんな状況にもう納得いってるのか?
それとも麻痺してるのか?

「背後をとられんな!」
「内門はまだか!?まだなのか!?」
「見えるだろ?あそこだ!あそこなんだ!」
「遠い・・・・見えるのに遠く見え・・・・うわぁぁ!」

一人に血飛沫があがある。
狐面と男。
52。
部隊長でも隊長でもなんでもない、
52という部隊員。
それが一匹居ると、
仲間が2人死んだ。

「止めろ!止めろ!」
「内門に合流す・・・・ごあ!」
「無理だ・・・無理なんだよぉ・・・・騎士団だぞ・・・天下の騎士団だ・・・・
 俺らと違って年中鍛錬積んでる世界の精鋭達だぞ・・・・・」

無理だ。
同感だ。
私達一般人が騎士団に敵うわけがない。
天下を治める力があったから、
騎士団は世界の上に居たんだ。

東から内門へ。
遠い。
遠すぎる。
目に見える距離なのに。
この化け物たちを縫って進んで・・・
倒して殺されて、
その先に到達して・・・
そこでどうなる?

「・・・・・ーロ・・・」

どうしようもない。
これがそうなんだ。
私みたいな一般兵。
この戦争の中ではゴミみたいな・・・

「フィーロ!フィーロきいてるのか?!」

ハッと気付く。

「ききききいてててててて・・・・」

声にならない。
そこでやっと自分に気付いた。
冷静に達観しているようで、
自分はもう極限状態で思考回路がパンクしていることに。

「俺らのグループで魔術師はてめぇだけだ!」
「あの《メイジプール》にスカウトされたっつーてめぇの魔術みせてみろ!」

あの日。
私は周りにちやほやされていた。
《メイジプール》
あの巨大ギルドに声がかかったのだ。
鼻高々だ。
出身の町では歴代で一番の出世だって。

2年前の終焉戦争さえなければ、
私は晴れて《メイジプール》の下っ端の下っ端になれたというのに。

「モモモ・・・モノボ・・・・」

だめだ。
恐怖で声が裏返って詠唱も出来ない。
周りで仲間が死んでいくというのに。
それでも内門を目指さなきゃいけないというのに。

モノボルトというんだ私。
私の魔法の中で最強の呪文だ。

切り株くらいなら黒コゲにできるんだ。

「ごえ・・・」
「駄目だ!押される!」
「無理だったんだ!帝国に反乱なんてよぉ!
 俺は周りが反乱反乱って言ってるからつい乗っちまっただけで・・・・」
「歎いてるヒマがあったら振れ!剣を振っ・・・・・・・あ・・・・」
「言ってる側から首飛ばされてんじゃねぇよ!」

もうだめだだめだだめだ。
こんな、
内門の近くまでこれたのだって奇跡なんだ。
よくやった。
よくやったじゃないか。

自分の存在をよく認識できた。

私はこの戦争の中心・・・華やかな英雄達とは違う。

ただの・・・・・

「甘えてんじゃないよ!天国も地獄もまだお呼びじゃないよ!!!」

この戦場で、
他とは違う通る、存在感の違う声が聞こえた。

それが目の前に飛び出してきたと思うと、
あの、
化け物みたいなさくら部隊の狐面が、
木刀で潰れた。

「なに簡単に死んでんだいあんたら!そんなにスムーズに死んでちゃぁ、
 天国も地獄も渋滞しちまうよ!根性みせな!生きてる人間ならね!」

なんだろうこの人は。
凄い。
そう思った。

「ツバメだ!」
「《昇竜会》のギルドマスターだぞ!」
「お前ら続け!続け!」

あぁ、この人が有名な・・・
あの《昇竜会》の・・・
天の天の天の上の人だ。
凄いなぁ。
これが戦場か。
そんな凄い人が私の目の前に。

「姉御!」
「やっと居た姉御!」
「騎土竜部隊潰してきやしたぜ!」

「あんたら遅いよ!・・・なんて言ってるとアレックスにまた怒られるけどねぇ!
 よくやった!このまま内門を目指すよ!先陣をきりな!」

「あいさぁ!」
「ヤクザの底力みせてやりまさぁ!」

凄い。
そればっかりしか感想が出てこない。
《昇竜会》
世界トップ3のギルドの一つ。
この人達が・・・・

私にとって天上人達。

強い。
押し込めないまでも、あの52の兵士と渡り合ってる。
どうなってるんだ。

52なんて私が束になっても敵わないのに。
さらに死骸騎士。
あいつら刺しても死ななのに。

私のお母さんなんて、
転んで当たり所が悪くて死んだくらいなのに。

そんな差なんて気にも留めないみたいに。

「《昇竜会》に続け!」
「100人力だ!」
「内門まで突破するぞ!」
「フィーロ!魔法をパナせ!」
「ここらは魔術師が不足してんだ!」

「ああああ・・・・」

何をやってるんだ私は。
まだ震えているのか。
早く。
この人たちが居れば大丈夫だから。

私だって、
この戦いの参加者なんだから。

震えるな。
怖いなんて感情はどっかに・・・・

「あんた魔術師かい!」

震えを通り越して固まった。
硬直した。

「きいてんだよ!あんた魔術師かい!?」

恐怖に近いけど、
それは緊張というかなんというか。

あの《昇竜会》のマスターに、
声をかけられた?!

どどどう接すればいい。
敬語?
敬語だってなんだっけ?
いやややや、まず返事。

「あ、あへぇ!」

声が裏返った。
通じたんだろうか。
失礼じゃなかっただろうか。
土下座。
土下座すべきかな。

「道を作りたいんだよ!一発ぶちかましてくれ!」

会話。
会話した!
《昇竜会》のマスターと!?

もし、
もし生きて帰ったら、皆に自慢できる。

これからお酒を飲んだらいつもこの話をしちゃおう。
それくらい興奮した。

感情が昂ぶった。
だから結果的にはそれが功を奏した。

「モモ、モノボルト!!」

雷が落ちる。
小さな小さな雷だ。

狙ったところにも落ちやしない。
やっぱり切り株とは違う。

だけど、

「当たった・・・」

私のモノボルトは52の騎士を、
一人焼いた。

それ以上でもそれ以下でもなかったけど、
でも、
私も出来るんだって・・・・

「・・・・あー・・・・」

《昇竜会》のマスターさんは微妙な反応だった。
それが規模の小ささへとガッカリ感だったりとか、
そういう事は思わなかった。
何せ感情が昂ぶって昂ぶって。
私にしたら頑張った方で上出来でしか。

「いいぞフィーロ!」
「調子にのんなよ!俺が7人倒したんだからな!現状トップだ!」
「もっぱつだ!」
「モノボルトうちこんでやれ!」

やってやる。
やってやるやってやる。
内門まで、
反乱軍の・・・仲間として突き進んで。

そう思ってると、

「うぉ!?」
「うわっ!!」

巨大な爆発が目の前で起こった。
騎士達が吹き飛ぶ。
凄い。

なんだ?天変地異か?
それはオーバーとしても、
私が考えている規模の魔法ではなくて、
私とは比べ物にはならなくて。

「ツバメ〜〜。元気?」

「おおロッキーの坊や!やっと来たかい!
 よしあんたら!道が出来たよ!一気にいくからねぇ!」

皆が歓声をあげる!
そして辺りは士気に満ちる。
突き進む。

「すげぇな。格が違ぇよな」

仲間が一人、私の肩に手を置き、
そう言って走っていった。
走っていった先で切り殺された。

格が違う。
その通りだ。

この戦場の中心である彼らは、
住む世界が違って・・・

「みんな!もうひと踏ん張りだよ!内門でアレックス達を助けてあげて!」

ロッキーという人が、
いや、
ロッキーという方がそう言う。

私達にとっては天上人。
だけど、
彼らだって、私達を必要としている。
助けを求めている。

「モノボルト!!」

今度は、ハッキリ唱えれた。

私は我に帰った。

誇らしく思う。
この戦場にこれた事を。
この戦いの一端を担えた事を。

まだ人と付き合った事さえない私が言うのもなんだけど、
子供が出来て、
お母さんになって、
それでまた子供に子供が出来て、
おばあちゃんになって。

それから先もこの話をしてあげよう。
五月蝿いと言われようが、
私の英雄譚を。

きっとこの戦争の英雄になるだろう人たちが目の前にいて、
私はその人に声をかけられた。
一生の自慢話に。

「フィーロ!!」

仲間が叫んだ。
あっ、と思えば、
もう遅かった。

後ろから槍が貫通していた。

気付いたのは引き抜かれた時だというのだから、
情けない。

「フィーロがやられたぞ!」
「くそっ!貴重な魔術師が!」
「哀しんでる場合もクソもねぇぞ!」
「続け!後ろに道はねぇ!」

私は倒れた。
横たわっても、
世界は止まらない。

視界の半分が地面になっていて、
そこを人が走り去っていく。
血飛沫があがる。
私の横にもう一つ死体が並ぶ。

「でも魔術師が・・・・ープに一人いねぇと・・・」
「・・・門で合流しち・・・・係ねぇだ・・・・」
「ただで・・・・・・乱せ・・・・・・グル・・・・・・・・・」
「・・・・れっ!・・・・ゃなき・・・・・・・・・・・・て・・・・・・・・」

世界が閉じていく。

秒単位でカウントが駆け上がる死者数。
私もその中に組み込まれた。

「・・・・・・っ・・・・と・・・・・・・ぁ・・・・・・・・」
「・・・・・さ・・・・・・・・・・・・・え!・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・」

合計3人倒した。
今尚生きてる者達にとっては少ない方だけど、
よくやった。
私なんかでよくやった。

1人分の命にしては。

なんのために戦ってるんだっけ。
世界のためだ。

でも私自身が死んじゃって意味があるのかな。


分からないけど、


心から思える。





後は頑張っ・・・・・・・





































「第41番・騎土竜部隊 壊滅です」

ディエゴは顔色を変えない。

「壊滅。壊滅という言葉はどういった意味で使用している」
「言葉の通りです」

いや、変わる。
状況はこちらが有利。
策はハマった。
だが、犠牲は増え続けている。

「ここまでの反乱軍の動き。それはアレックス部隊長の策の積み重ねでした。
 だからこそ、あの奇策師は重要な部分のみ、最低限で突破してきました」
「分かっている」

ここまでは、
部隊長を倒す・・・といった定石を使い、
部隊を突破してきていた。

部隊を壊滅させるのでなく、
部隊としての能力を奪ってきたというべきか。

「1部隊が壊滅、根絶やしという状態は初めてです」
「それはアレックス部隊長の意思が届かなくなってきたということだ」

ディエゴは冷静に分析する。

「乱戦に持ち込んだからこその結果かもしれない。
 的確に急所を貫いて突破してくるアレックス部隊長の策。
 乱戦の中ではそんなものはない」
「反乱軍の一人一人が独断で動いている」
「あくまで目的を重ねた上でな」
「アレックス部隊長がやってこなかったということは、
 壊滅にまでもっていくのは無駄な労力なのかもしれませんね」

テーブルに、
ディエゴは腕をぶつけた。

「味方が消える事に無駄もクソもないっ!!!」

怒りをぶつけてしまった。
自分を憎みたい。
この状況を作り出したのは自分だ。

「犠牲の上に出来る確実な勝利・・・その道を俺は選んでしまった」

選ばざるを得ない。

「ディエゴ部隊長。貴方は間違ってはいない。力付くにでも止めるべきなのです」

力。
力か。
力の前には何もかもが屈する。

例えば・・・・・


ロウマ=ハート



不気味だった。

どう見ても脳がイカれているとしか思えなかった。
だが、
静かに、
怖いくらい静かに、
不気味に、

彼は"ここを通って戻っていった"

死人が歩いているかのように、
不気味に静かに。

「ツヴァイ=スペーディア=ハークスはどうなったんでしょうね」
「さぁな。あんなロウマを直視出来なかったが、一人しか戻ってこなかったのだ」

結果は見えている。



































「ガブちゃんさん!ガブちゃんさん!」

アレックスは上空へと声を投げる。

「・・・・・・・・」

「聞こえないフリをしないでください!」

「うっさいな・・・・ちゃんと戦ってる」

嘘ではない。
空中戦の真っ最中だ。
中々骨が折れる。

むしろ密度だけ話すならオレンティーナと戦っている時の方がマシだった。

「・・・・・・分かったよ。雷だろ?」

サンダーランスで周りの女神達を蹴散らし、
逆にバチバチとサンダーランスは、巨大な十字架へと変貌する。

「雷は直下だ。・・・・真っ直ぐな・・・・内門には落とせねぇぞ」

「分かってます!重装騎士に落としてください!!」

「・・・・・あいよ」

クロスライトニングスピア。
無数の稲妻が、
雲少なき空から落ちる。
落雷。

それは内門前の重装騎士達へと直撃する。

「どうだ?」

ドジャーが敵の攻撃から逃げる形でアレックスの側によってきた。

「まぁ予想通りです」
「・・・・・カッ」

浄化された魂は、予想通りというよりも、
予想より下だった。
1つ。

ノカン村跡地での摩訶戦争では、
数が女神達とは違えど、悪魔部隊を一掃した技だ。

「鉄は電気を通すもんじゃねぇの?鎧には効くもんだと思ったが」
「生身で喰らうのが一番に決まってるじゃないですか。
 その上あの重装備は雷も受けきるみたいですね」

防具という言葉がこれほどまで脅威になったことはない。

「まだこのままメッツさんとおじいちゃんに任せた方が効率が良さそうです」
「今ここに居るメンツだとな」

その上メッツは持ち場を離れている。
攻城ハンマーの援護に。

「一般兵にも火力のある人は多々居ます。東と西の完全開通を待ちましょう。
 攻城ハンマーも効果的に使えるはずです」

「待つ必要はないよ〜」

ロッキーだ。

「お?」

カプハンジェットで飛んでくるロッキーの姿と共に、
東に視線が泳ぐ。
アレックスは迫り来る死骸騎士をオーラランスで薙ぎ払い、
声を返す。

「早かったですね!さすがロッキーさんです!」

「ぼくが頑張ったわけじゃないよ〜。
 ぼくやメリーの仕事はちょっとだけ〜」

地面に衝突するように着地したロッキーは、
なんともない表情でニコニコと微笑んでいた。

「ぼくらだけが必死になる事なかったんだよ」

「・・・・って言いますと?」

「反乱軍の皆の力だけで切り開く力はあったんだよ。
 ぼくやメリーは最後の一押しだけ。《昇竜会》が大きいよ。
 あとはツバメが引っ張ればそれだけでよかったんだ」

見れば、
東から反乱軍の姿が次々と現れる。
開通した・・・・というほど滑らかではないが、
彼らはここ、内門下へと雪崩れ込んできている。

彼らが駒なんかではないと分かる。
想像以上の事を、
彼ら一人一人がやってくれている。

「でもやっぱり52が多くて、戦場をこっちに移すまでは無理そうだよ。
 東でも戦いつつ、内門にも戦力が流れてきているって感じかな」

「十分だ」
「十分です」

待ちに待った・・・増援だ。
よく堪えたと思う。

気付けば、医療部隊も半分にまで減っている。
アレックスのために、
ドジャーのために、
犠牲になったのだ。

この戦場の切り札であり、最終兵器とも言える戦力だが、
この少数鋭でよくこの内門下を耐え切ったものだ。

「せいっ・・・・」

ロッキーはおもむろにカプリコハンマーを振りかぶった。

「ばーーい!!!」

首のマフラーと共に、体を捻り、
ハンマーが360度回転する。
ロッキーの背後に迫っていた仮面の者が、
爆発と共にこれでもかというほど吹き飛んだ。

「でもここはどこよりも忙しいね」

「あぁ。とっとと働いてくれ」

「はーいはい。あ、連絡で入ったアレックスのおじーちゃん上から見えたよ。
 凄いねぇ〜。あの人だけだよ?あの重たそうな騎士倒せてるの」

「お前だってお前の火力ならいけるっての。メッツ離れてるから援護してやれ」
「あ、いや、ロッキーさんにはやってもらうことが・・・」

「アレックス。似てるね」

ロッキーは微笑みを絶やさず、
ただ、作り笑顔でない事が分かるその表情で、
真っ直ぐ言った。

「僕と、おじいちゃんがですか?」

「うん」

「カッ、似てっか?食欲以外は別物に俺は見えるがな」
「僕も、父さんともそうですが、顔とかが似てるとかは言われたこと・・・・」

「んーん」

首を振る。

「自分のために戦ってるのに、人のためになってるところとか」

自分のため。
自分勝手。
自己満足。
自己中。

自分はそうだ。
自分のために、こんなにも人を巻き込んでいる。

あの人も、この戦争とは関係ない自分の目的があり、
そのために戦っている。

「おじいちゃんはオーランドを捨てました。父さんと母さんと僕は逆に・・・」

「なのにやってる事は同じなんだね」

やっぱり家族なんだよ。
・・・・と、
ロッキーは自分の首元のマフラー。
三騎士のマフラーを嬉しそうに撫でながら、
やっぱり微笑んだ。

「・・・・と」

ドジャーが、
アレックスとロッキーに迫る狐面の男を、
素早くオーラダガーでカッさばいた。

「カッ、浅かったか。ここいらのは一匹一匹が本当にやっかいだ」

「ありがとねードジャー。ここら辺はちょっと油断したら敵・敵・敵だね。
 それでアレックスー?ぼくの役目って?」

「そうそう」

「アレックスぶたいちょ!!」

割り込むようにエール。

「なんですか」

「支援スキルを散開させていた鼓舞部隊にダニエルって人が強襲しました。
 今なら西の陣形をさらにちゅめ・・・噛んだ・・・詰められます」

「そうですか」
「アレックス!あれ!」

ドジャーがダガーで指し示す。
城壁にかかっていた、攻城はしご。
数人の反乱軍がそれを登っていたが、
それが大きく傾く。

「・・・・・西はあのままでいいです。ダニーが鼓舞部隊を燃やしつくしたら動きます。
 エクスポさん!ガブちゃんさん!聞こえてますか!?」

上空で片手間に返事が聞こえる。

「城壁の敵と女神達はお二人に任せます!もうちょっと二人で堪えてください!
 え?なんですって!?聞こえないです!・・・・バンビさん?
 模索中です!聞いた蜃気楼アピールは範囲系なので仲間も混乱に招きます!」

「ア、アレックスぶたいちょ!」

「エールさん少し黙って」

「う、うぃ」

「あいや、伝令を飛ばしてください。ツバメさんに。
 無理矢理にでも戦火の中心を中央に寄せるように」

「アレックス部隊長!エール副部隊長!」
「東と中央への開通路に52が集中砲火しています」
「52にまとまりが見えますが・・・・」

「グッドマンはそこか。エドガイが居るかもな」
「エドガイさんはとりあえず無視です。せっかく繋げてくれた道ですが、
 捨てるつもりで他を当たってください。出来る限り退避。
 動かされるのは不本意ですが出来る限り52の動きに沿わない陣形を」

「アアアアアレックス部隊長。東を退かせる分、西を詰めちゃ・・・・」

「西はそのままです。内門突破の援護は東中心にします。
 西はハシゴ攻略及び、ハンマーの準備を継続。
 ハシゴによる城壁攻略を踏まえて、敵を逆にバラつかせます」

エールは医療部隊へ、指示を分担させる。

「でも西は不動ではありません。ロッキーさん」

「やっとだね」

微笑みの似合う青年だ。

「フレアさんの所へ」
「・・・つーと」
「メテオの準備に入ります」

きたか・・・とドジャーは呟いた。




































名前はシン。
かっこいい名前だろ?
結構羨ましがれていて、
たまに似合ってないと馬鹿にされて、
俺自身も気に入っていて、

「俺はハシゴに行くぞ!」
「あぁ登ってやれ!城へ侵入するんだ!」
「ハシゴが落ちた!」
「一個落ちたぞ!」
「・・・・・っ・・・・怖気づくな!侵入できたら英雄だぞ!」
「やってやれ!やってやる!!」

でも周りの人間は俺の名前なんて知らない。
集まった烏合の反乱軍。

俺だって、こんな終焉を迎えた世界はイヤだった。
そうやって愚痴っていたら、
数時間前、酒場に一人の男が駆け込んできた。

反乱だ!反乱が始まったらしいぞ!

皆席をたった。
店主さえも皆の支払いを忘れてフライパンを手に取った。

思えば周りに流されやすい性格だったと思う。
臆病者だっていうのに、
気付いたらルアスへのゲートリンクに混ざっていた。
その先には同士が集まっていた。

ルアス城に駆け込んだ時には、
庭園の半分が戦場を終えていた。

「ハンマーだ!攻城ハンマーがきたぞ!」
「手伝え!」
「でけぇ・・・・・・・」
「何人係で支えりゃいいんだよこんなん」
「おいお前も手伝え!」

はっと我に帰る。
無理矢理ひっぱられた。
気付くと、
10人ほどの男に混ざり、
攻城ハンマーを担いでいた。

「内門にぶちこむぞ!」
「あの重装騎士を貫いてやる!」
「よっしゃぁ!!」
「ごあ!!!」
「おい!傾いたぞどうした!」
「一人殺された!」
「おい援護しろ援護!!」

あっと思うと、
俺の横にも騎士がいて、槍を突き出していた。
両手はハンマーを担ぐことで塞がっている。

終わったと思った。
周りの奴らと同じで、
こんな風にあっけなく死ぬんだと思った。

そう思っていると、
一人の同士が俺の前に立った。

「・・・・ぐっ・・・」

盾で防いでいたが、
安物の盾では、鍛錬された騎士の突きは防ぎきれなかった。
貫通して、
腹に穴をあけていた。

「・・・・・・さっさといけっ!!!」

俺達はそれを見て歩を進めた。
速度は出ない。
それでもこの重いハンマーを担ぎ必死に戦場を進んだ。

俺を守ってくれた男は、
そのまま騎士に囲まれて赤くなった。

俺の代わりに死んだ。
俺は、
その分生きなければいけない。

「ハンマーを守れ!守るんだ!」
「生命線だぞ!」
「またハシゴが落ちたぞーーーー!」
「ならもう一本かけろ!」
「憎き城が目の前にあんだぞ!!!」

名も知らない男達と、
俺はハンマーを担いだ。
体が繋がっている気分だ。
一心同体。

手が震える。
でも離すわけにはいかない。

重いなぁ・・・。
手が痺れる。

重いといえば、
俺はこの戦争で初めて剣をとった。

漫画のように見よう見まねで剣をもって、
剣というのは片手で持てない事を知った。

片手で振れる奴なんて、それこそ達人級なんだろう。
または力持ち。

俺はどちらでもない。

でもハンマーを担ぐことは出来る。

「おいお前!歩をあわせろ!」

俺?
あぁすいません。
勇み足になってたみたいだ。

「駄目だ!進めねぇ!」

先頭のやつがいう。

「内門への道はまだ開通してねぇ!」
「繋げてくれよ!」
「じゃぁ誰か指示を仰げよ!」
「お、俺ならリーダーに頼めるぞ!リーダーは隊のまとめ役と知り合いなんだ!
 そこから情報屋に接触してもらってフレアさんに指示を・・・・・・」
「そんな事してる間に死んじまうよ!」

俺は最後尾だったけど、
ごった返す戦場の中で、
人の合間を縫って、見えた。

「かんべんしてくれよ・・・・」
「52多すぎだろ・・・・」

内門近くはこんなにも52が密集しているのか。
騎士達相手でも、気付けば死んでいるってレベルなのに。
ここを、
俺達は突破して内門にいかなきゃいけないのか。

そんなの・・・。

「突っ込むぞ!!」

誰かが叫んだ。

「3・2・1でいくぞ!」
「・・・・え?」
「ハンマーで突き進むんだよ!」
「道がねぇなら切り開くしかねぇだろ!」
「お、おう!」
「ほら3!」
「3!」
「2!」
「3!」
「2!おい合ってねぇ・・・・うわぁ!!」

ハンマーが傾く。
俺の隣の奴が地に伏せた。

「む、無理だ!」

俺の目の前のやつが、ハンマーを捨てて走り去った。
その先で切り殺された。

「逃げんなよ!俺達が生命線だぞ!」
「だがここらの奴ら強ぇ!」
「52だけじゃねぇ!質が違う!」
「話きいてなかったのか!?鼓舞部隊の範囲内だ!」
「じゃぁ鼓舞部隊がどうにかなるまで待機したほうが・・・・」

何を言ってるんだ。

「待つのか!?」

俺が叫んだ。

「俺らが誰か頼みで待ってる間!誰かも俺らを頼みに待ってるんだぞ!!」

頭で考えた事じゃなくて、
いつの間にか叫んでいた。

すぐには返事は返ってこなかった。

「・・・そうだ!」
「いくぞ!」

ハンマーにまた担ぎ手が増えた。
また動き出せる。
周りの奴らは俺らを守ってくれる。

「3!」
「2!」
「1!」

誰ともなく意気のあった合図で、
一気に走った。
そして最後尾でよくみえなかったが、
手ごたえがあった。

ハンマーが敵を4・5体ぶっ飛ばした。

「いける!いけるぞ!」
「はは!」
「おい後ろ!」
「ハンマー隊が2個ついてきてる!」
「よし!俺達が先陣だ!」
「おいアレ見ろ!」

一人が指を刺したわけでもないが、
城壁を示した。

ハシゴ隊のことを言ったのかと思ったが、
違う。

「装束部隊だ!」
「23番隊か・・・・」

城壁に影。
影。
まるで忍者だ。

壁に、
城壁立ってやがる。

「どうなってんだあれ!」
「知らねぇのか44部隊のカゲロウマルを!あれと同郷の奴らだ!」
「なんだ!?あいつら忍者か!?」
「スパイダーウェブで壁を走れるんだよ!」
「やべぇ!ハシゴの奴らが格好の標的だ!」
「おい!俺らは俺らの仕事をするんだ!」

騎士団・・・か。
俺の知ってる世界とはかけ離れた、化け物達の集まりだと思った。

「あの内門近くの壁に張り付いてる奴」
「・・・・・あれがコエンザエモンって奴か」
「おい!だから俺らは俺らの・・・・・」

弧縁左エ門=天空。
第23番・装束部隊・部隊長
部隊長なんて・・・そんなのとかち合ったら終りだ。

皆は目を背けた。
壁を走る敵。
ハシゴの奴らが落下していくが、
俺達には俺達の仕事があると。

でも俺は見ていた。

内門の空を飛びまわる女神。
それらと戦いながら、
壁の敵をも打ち倒す・・・・・天使達を。

名前は知らない。
だけど仲間だとは知っている。

雷を使う天使と、
爆発を使う天使と・・・
あと一人、女の子の天使。

俺の手の届かない領域。

彼らは俺と違って・・・・。


「ヒャーーーーハッハッハッハ!」


炎が降って来た。

「なんだあいつ!」
「構うな!進め!」

もう、俺の手の届かない世界は、気にしていられない。

だってふと横を見据えれば、
デムピアスなんて巨大な化け物が存在しているんだ。

もうどうとでもなれだ。

「おいだれか!」
「ハンマーが通るぞ!」
「援護!援護してくれよぉ!」

だけど進める距離にも限度があった。
敵は強い。
進めない。
内門は目の前まできているのに、
敵が多い、
強い。
進めない。

「もう一回ハンマーでタック・・・おわぁ!」
「くそぉ!くそぉ!!」

「おい先陣のハンマーどうした!」
「さっさと先に!」

「うるせぇ!軽々しく言うな!」
「簡単にはいかねぇんだよ!」

でも怖気づかない。
皆。
皆、
進むことだけを考えている。
俺も。

希望は捨てない。

・・・・

「どうした?」

歩が止まった。

俺も覗き込む。
あぁ、
なるほど。

「52が・・・ピンポイントで立ち塞がってやがる」
「狙いは俺達だ・・・・」

どうする。
ハンマーで突っ込むか?
俺達が3人がかりでやっと1人倒せるような化け物部隊にか?

「おわっ!!」

また担ぎ手が一人死んだ。

「いつの間に横に・・・あぁ!?」

どうすればいい。
くそ。
でも、
でも俺一人になったってこのハンマーは運んでやる!

「くそぉ!くそぉ!」
「ぐあああ!」
「もうすぐなのに!もうすぐなのによぉ!」

成すすべなく殺されるけど、
誰もハンマーから手を離さない。
もう残り3人になった。
ハンマーも地に付いていて、
支えているだけの状態だ。

だけど、
誰も逃げなかった。

後ろで重い音が聞こえた。
他のハンマー、その一つが担ぎ手を失ったのだろう。
地面に転がる音が響いた。
俺達もそうなるのか?

いや、
これで、
何もしてこなかった俺が、
これで、
このハンマーで、

あの扉に、
内門に、
世界の元凶に、

穴をあけてやるんだ!!


「オラァッァアアアアアアアアアアアア!!!!!」


内門の方から、
五月蝿いほどの怒鳴り声が聞こえた。

死骸騎士の体が、上半身だけ、3つほど宙をカッ飛んでいた。

「あった攻城ハンマー!よっしゃ!!結構近くじゃねぇか!
 お前らが運んだんだな!ガハハハ!よくやっ・・・・おっと!」

ドレッドヘアーの男が、
内門の方から現れて、
それで近場の敵を一網打尽にした。

「だぁ!こいつらチョコマカとよぉ!避けんなよコラァ!
 ・・・・ん?おいテメェラ!手ぇ空いてんなら手伝えコラァァ!!!」

ドレッドヘアーの男の声があたりに響く。
嫌がおうにも、皆動いた。

「ちげぇよ!俺を手伝うんじゃねぇよ!ハンマーの方・・・・あぁもう!!!」

52の騎士達に手こずりながらも、
景気よく死骸の胴体をぶったぎっていた。

なんだあの人は。
どうなってるんだ。

「うわ・・・『クレイジージャンキー』じゃねぇか」
「《MD》が中心に動いてるってのはマジだったのか」
「誰だそれ?」
「知らねぇのか?!懸賞金ついてたじゃねぇか!?」
「まぁ99番街の事なんてルアスのさらに一部の奴しか知っちゃいねぇよ」

申し訳ないが知らない。
知らないけど、
思い知った。

話は戻るが、
俺は、剣は片手で振れない事を知った。
戦闘はこの戦場でしか行っていないが、
斧や鈍器といった武器はダサいと思っていた俺に、
そういった武器は選ばれた者しか扱えないと認識を改めさせられた。

その斧の中でも、
さらに重量のある両手斧。

あんたは人間を片手で振り回せるか?

あの人はそれ以上の事を目の前で行っている。

「ったく!!チンタラやってんじゃねぇぞてめぇら!!!」

声のデカい男だ。
だけど、
そこに破壊力があった。
破壊的な圧倒感。
特別・・・という言葉を感じさせるような。

あ・・・
こっちに近づいて・・・・

「どけテメェラ!!!」

ハンマーを支えていた俺達をどかす。
なんでか、
俺達は謝りながら後ろに下がった。

「おぉーーーらよっと!!!!」

おいおい。

それは、
それはさぁ。

俺達が10人係りでやっと運んできたもんなんだぞ。

なんであんたは・・・

一人で担・・・・・

「ぶっ飛べコラァァァアアアアアアアア!」

投げやがった。
槍じゃないんだぞ。
ハンマーがミサイルみたいに飛んでいく。
敵をぶっ飛ばしながら。

「っしゃ!道が出来た!いっちょあがり!おいテメェラ!さっさと内門まで来い!」

戦場というのに、
俺達は少し呆然とした。


「あーあーメッツー」

「お?ロッキー!どしたぁ!?」

「フレアのとこいけってアレックスが〜。でもメッツってば駄目だよぉ?
 西は現状維持って言ってたのに、内門前まで突破しちゃう勢いじゃん」

「ガハハハハハ!それに越した事はねぇだろ!」

「まぁねー。でもメッツは本当に馬鹿だねぇ」

「ガハハハ!馬鹿力は言われ成れ・・・・・馬鹿だぁ?!おいテメェ!ちょっと降りてこい!」

「アハハハハ」

俺達が到達出来ない場所というのがある。
だけど、
それを実感させられるけど。

彼についていけば、
"彼の到達すべきところまでいける"

俺は焦って、
居てもたっても居られなくなって、

一番近くにあった攻城ハンマーの隊へ駆け寄った。
そして隙間に無理矢理入って担いだ。

「いこう!行こう!内門へ!!」

俺は叫んだ。
いけるんだ。

皆同じ気持ちで、
それと共にハンマーは速度よく突き進んだ。

見ろ。
もう目の前じゃないか。
内門は。

「どーけどけどけ!!!」

「おー?メッツ。何突破してきてんだよ」

「ガハハハハ!そういう作戦だったろがエース!」

「ま、結果オーライか」

近くの奴が、
あれは44部隊だと教えてくれた。

二人が暴れまわる。
道を作ってくれる。

「おわっ!」
「なぁーにやってんだメッツ!背中斬られてんじゃねぇぞ!
 52舐めてんなって!普通だったら致命傷だぞ?おい医療部隊!」

「私達は部隊長の命令しか聞きたくないんですけどね」
「アレックス部隊長!」
「こちらに戦力を割いてもいいですか!?」

「あれ?なんで西も開通してるんですか?」

あれが、
アレックス=オーランド。
この戦争の中心。
反乱の中心。

見た目は、とても普通の人だ。
凄い人には見えない。

「いや!援護に行ったらもうすぐ側まで来てやがった!
 だからちょちょいとな!ガハハハハ!」

「なるほど。ロッキーさんの言ってた事は本当だったんですね。
 皆さん頼もしいです。西を援護してください!ハンマーが来ますよ!」

あれが、
医療部隊か。
対死骸騎士の最終兵器だっていう。

面白いように道が開く。
頼もしい。
凄い人たちだ。

俺達は、
作られた道を、
ハンマーを担いで進む。

「カッ!アレックス!あの城壁走ってる部隊なんだ!?新手の部隊か・・・・うぉ!?
 ハンマーきてんじゃねぇか!デケェなおい!これが攻城ハンマーか!」
「メッツさん!エースさん!うちの部隊の隙はあなた達が・・・・ってメッツさん!」
「あぁ!?」
「そこに立ってたらハンマーが通れないでしょう!」
「あ、悪い」

いや、
あなた達がいなければ、
俺達はここまで来れなかった。
内門下まで。

いや、
違う。
あなた達がいなければ、
俺達は戦場にさえいなかった。
世界と戦う事さえしかなかった。

あなた達が切り開いてくれる道。
到達すべき道。

俺達は、
そこについて歩いているだけだ。

「道を作ってください!ハンマーが内門突破の道を切り開きます」

・・・・・。
いや、
いや、もう違う。
俺達も、俺達も戦場の一人だ。
彼らも戦場のコマで、
俺達も戦場のコマで、
それは同じだ。

最初から言っていたはずだ。

俺達は俺達のすべきことをする。

俺達が誰かを頼りにしている間、
誰かが俺達を頼りにしている。

ハンマーを担ぐ俺達は、走った。
これを担いでよく走れたもんだ。
ふくらはぎがパンパンなことを気にするヒマなんてなかった。

あれが重装騎士。
凄いな。
あんなのが固まっていて内門を突破できるのか?
まるで壁だ。


まぁ、
知ったこっちゃない。


「俺達が道を開くぞ!!」


戦闘もしたことなかった俺だが、

今は無敵の気分だ。


ハンマーの先端が重装騎士達へとぶつかった。




































「痛ぇ!痛ぇくそ!!」

燻(XO)は無くなった右腕。
その先を未だ名残惜しそうに。

「俺が人生をかけて共にあんなことやこんな事をしてきた手だぞクソ!
 どうなってんだチクショウ!ハッキリしやがって!」

車椅子に座ったまま、
亡き手を掲げて悶絶する。

「奪うのは好きだが奪われるのは大嫌いだ!大嫌いなんだよぉおおお!
 痛ぇ!痛ぇチクショウ!奪うのは!勝者の特権だっつーのによぉおおお!」

「なら貴様は敗者だったということだろう」

既に刀を納めているイスカは、
さほど、
というよりも完全に冷静を保っていた。

彼女を狂わせたのはマリナで、
やはり彼女を助けるのはまたマリナだった。
そういう事だ。

そして、
今はもう狂っていようがどうでもいい。

マリナを守る。
それだけだ。
考え方は狂っていてもそうでなくても同じだ。
それだけ。
それだけを考えていれば、
やはりそれがありのままである。

「歯医者?!てめぇの歯ぁ全部抜き取って○○○しやすくしてやろうか!?
 ぁあ!?キレた。プッツンした。故に興奮してきやがったぞ俺よぉ!
 てめぇを○○して××して○○ってやる!このXO様がなぁ!」

「言ってる意味は分からんからこそ理解不能だな
 が、これは危険な奴だという事は分かる。マリナ殿の敵で間違いない」

「マリナ?・・・・ウフフ・・・・」

右腕を押さえながら、
さきほどまで喚いていたのは演技だったかのように、
燻(XO)は笑う。

「あぁ、あの女。あれがマリナっつーわけだ。ウフフ・・・・・。
 よく見えなかったがイイ女なんだろうなぁ。俺には分かる。
 何百・何千と弄んできた俺にぃーは分かる」

べろぉん・・・と紫の唇の間から舌が垂れる。

「腕を奪った女・・・てめぇも中々イイ女だ」

「拙者は性別などとうに捨てた」

「いーーーーーーね!面白い意見だ!俺もその遊びはよくやったっつーの。
 男の場合何本切り落としてやったかなぁ。女の場合は縫ってやった。
 ・・・・・・・てめぇにも二つ空いてんだろが!俺によこせこのアマ!」

理解する気はない。
こいつはただの脅威だ。
脅威であって、
狂気だ。

そしてマリナの敵。
それでしかない。

「お、れを・・・こんなムカつく気分にさせてくれた女は初めてだからよぉ!
 俺の愛らしい美しい誉しい体を奪ってくれやがった女はなぁ!
 ・・・・・いや、違うな・・・・ウフフ・・・・てめぇで二人目だ」

一人目は・・・・

ツヴァイ=スペーディア=ハークスだった。
この両足を奪った女。
もう動かない両足。

そして二人目は、
右手を奪った・・・・

「いいね・・・・いいねいいねいいねいいね!憎らしいぜコンチキショウよぉ!
 憎くて憎くて憎くて溜まらない!誰かが言っていたよなぁ!
 "憎しみとはまるで愛のようだ"。実感するぜ。実感するぜよぉ!」

憎くて憎くてたまらない。
イスカが憎くて溜まらない。

もし、この場から切り抜けることがあったとしても、
燻(XO)はイスカの事を忘れない。
恨み続ける。
片時も忘れず、
どんな場所でも、
どんな時でも、
誰と居ても、
イスカの事だけを思い続ける。
思い続ける。

愛と何が違うのだろうか。

「だから俺はお前を奪う事にするぞ・・・・ウフフ・・・・いい気分だ。最低な気分だ!
 まずそのデケェ胸の片方を切り落としてマクラに使ってやる!
 腐って使えなくなったらもう片方も切り落としてやるよぉ!」

「やってみろ」

イスカが付き合いきれなくなり、
鞘に手を添えた。
ぶったぎる。

それで終りだ。

一瞬で終わる。

「・・・・・・・・」

ただし、イスカは動かなかった。
いや、動けなかったか。

燻(XO)の左手がこちらに向いている。

「・・・・ウフフ・・・はたから見て俺の能力は知ってるよなぁ?」

「・・・・それより早く貴様を斬る」

「やってみろよ」

ダークパワーホール。
恐らく、
今イスカ自身に重なるように発動するつもり・・・・と思う。
思う。
それで一瞬で終わる。
跡形も無く体が闇に食われる。

ならば発動より先に燻(XO)を斬り捨てるまで。

しかし、頭を過る。

イスカと燻(XO)対角線上。
二人の間。
そこに発動されたら?

間に壁があるのに豆腐が投げ込まれる様子を思い浮かべる。
自殺行為だ。

いや、

「発動の瞬間を見切る?後ろのドデカイ化け物もそう言っていたな」

イスカの思考を先読みするように紫の唇が動く。

「発動の瞬間にもう体は無いんだぜ?軌道とかそういうもんは無い。
 それが俺の能力。DPHだ。ウフフ・・・何人が嘆いたかなぁ」

ふざけた奴だが、
肌に感じる威圧感。
それは拭いきれない。
イスカも相手を過小評価するつもりはない。

ただ感じるままに言うならば、
過大評価無しで化け物だ。

いや・・・・化け物とも少し違う不気味さだ。

なんと言おうにも・・・・

隙だらけに感じる。

事実、障害者であり、機動力は0に等しい。
何せ車椅子だ。
その上、腕力があるようにも見えない。
接近戦は出来るのか?
出来るはずがない。

両足は動かず、
女のように美しいヤサ男で、
片腕がない。

この戦場でスペックだけ言うならば最下位を争うんではないだろうか。

なのに、
あまりにもアンバランスに一撃必殺な魔法がひとつ。

世界一の攻撃力があったとしよう。
それを食らって、満身創痍で立ち上がる姿。
漫画でなら有り得る。

でもこの男を相手した時、それは敵わない。
これが漫画であっても、
あのダークパワーホールは有無を言わさない一撃必殺だ。

取り返しのつかない、何せ体を消し飛ばされるのだから。

再生が可能なデムピアスだから、辛うじて相手をしていたのだ。


「案ずるな」


耳障りなほど大きな声。
響く音。
戦場に鳴り響く声。

「お?まさか背後で俺に照準向けてんの?」

その、
デムピアスだ。

「まだ俺を相手する元気があったかねぇ。
 あんたは別の奴からの攻撃でそれどころじゃないと思ってるが」

ウフフと笑う燻(XO)。
左手はイスカに向けたまま下ろさない。
右腕からダラダラと血液が垂れ流れる。

「チェスターの仲間よ。案ずるな。十分にチェックメイトだ。
 この人間を相手する者が、この俺以外に現れただけでな」

デムピアスには絶えず砲弾が鳴り止まない。
魔法。
・・・・・よりも、
ゴラン=スポンサーのパワーハンマーがだ。

今見れば、既に体は2/3ほどになっているんじゃないだろうか。
それでも巨大過ぎるのに代わりは無いが、
一度巨大化した時と比べると、
貧相にも見える。
鉄鋼の体が削り落ち、破壊されていっている。

「・・・・俺は長くこの人間と戦い、調べ上げた。弱点」

「弱点。ん〜、勝者に弱点・・・・ね」

「やはり脅威はそのダークパワーホール。"だがそれだけだ"」

それだけ。

「それ単体だ。同時発動出来ない事はもう確定的。
 単発でしか発動できないというならば・・・・この状況」

燻(XO)の背後には、
戦場を影で覆い潰すほどに巨大なデムピアス。
胸部から砲台が覗いている。

前方にはイスカ。

挟み撃ちの形。

「球体以外の形でダークパワーホールは発動しない事も分かっている。
 挟み撃ちに弱いのだ。こいつは、2方向からの攻撃を防ぐ術はない」

特に・・・だ。
デムピアスが単体で戦っていた時は両手があった。
片手で単発メテオを操り、カバーするということもしていた。
だが、

「なるほど。今は腕は一本だしな」

イスカは頷く。

それはあまりにも簡単で、
あまりにも燻(XO)にとって破滅的で致命的。

ひとつしか発動できないダークパワーホール。

「ウフフ・・・・・ウヒャヒャハハハハハ!!!!」

妖美な顔がもったいないほど壊れる。
燻(XO)の美しくない下品な笑い。

「んで?んで?どうすんの?デムピアス。てめぇの攻撃はデカすぎんだよ。
 ここにいる豚侍ごと俺にぶっ放すのかい?ウフフ・・・面白いねぇ」

「撃つさ」

イスカはデムピアスの発言に眉を動かなさかった。

「覚悟はあるのだろう?チェスターの仲間」

「イスカだ」

大空の名前だ。
マリナがくれた。

「無論。覚悟はある」

「ウフフ!アハハハハ!なに?この俺を倒すために死ぬ覚悟が!?」

「否」

違う。

「マリナ殿を守るため、どんな状況でも生き延びる覚悟が、だ」

もう曲がらない。
イスカの思いは。

「いい心意気だ。チェスターの仲間。いや、イスカ。
 だが俺はここら一帯を灰にするつもりで撃つぞ」

「なら俺はてめぇ側にダークパワーホールで盾をつくる」

「なら背後から拙者が斬るぞ」

笑う。
笑い転げる。
何が楽しいのか。

詰んでいる。
事実上詰んでいるのだ。この状況は。

でも、だからこそ、
燻(XO)は不気味だった。

「この世はよぉ・・・・ウフフ・・・・2種類だ・・・・敗者と・・・・俺だ。
 やってみろ。やってみろ。ほぉーーーら!」

向けている左手を、イスカから離した。

それどころか、
その左手と、半分斬り落ちた右手で、

バンザイをするよう・・・・に。

「ふざけおって!」

「人間がっ!!!」

イスカが踏み出した。
同時にデムピアスの胸部の砲台から、幾多のガトリングガンが打ち鳴らされる。

弾丸の雨。
雨。
雨という表現があまりに似つかわしい。

天気予報に記載していいいほど広範囲に、隙間なく、
デムピアスという巨大な化け物から弾丸の雨が降る。

燻(XO)と、イスカに向かって。

それに逆流するようにイスカも走る。
一発目の雨が地面に着弾するよりも早く、
イスカの剣は燻(XO)に到達した。


「ウフフ・・・・・・」


荒野に雨が降る。
一度デムピアスが辺り一面を荒野にしたせいで、
ここら一帯は草一つない。
敵の影も、
味方の影もない。

クレーターの中心にイスカと燻(XO)のみ。

そこに弾丸の雨が埋め尽くされるように降り注ぎ、
降り止まない。

時間にしたら1分程度だろうか。

それくらいのスコールだった。

1分間雨を避け続けろと言われて避けれる人間がいるわけがない。
蟻じゃないんだ。
雨の間に人の入れる隙間などないのだから。

そんな弾丸が降り止んだところに、


やはり当たり前のように、

燻(XO)はそこに居た。



「ウフフ・・・・・クククク・・・・・」

勝者の余裕というべきなのだろうか。
楽しそうに。
愉しそうに。

「んで?俺がいつ、ダークパワーホールとメテオしか使えないと言った?」

勝者の、余裕。

「生まれついての頂点なんだよ。卑怯なほど、突き抜けた存在。
 アインさえいなければ、俺は肩を並べる人間などいなかったくらいにな」

燻(XO)の周りに・・・・・膜が張っていた。
というよりは単純にバリアという方が想像が易い。

「処女膜・・・じゃぁないぜ!それじゃぁ一回しか防げねぇからなぁ!
 カーズディフェンス。俺くらいになれば、ここまで具現化できるわーけ」

カーズディフェンス。
物理攻撃に対するスキル。

「とーぜんっ、プロテクションの方は当たり前のちゃんちゃんに出来るわけだけど、
 ま、デムピアスちゃん。あんたの攻撃は全部物理攻撃って分かってるしな。
 てめぇの攻撃なんて見ないでも全方向カーズディフェンスで防げるのよ」

今までの戦闘は遊びだった、
とでも言いたげだった。
捌ききれない攻撃がなかったから使わなかっただけ。

そういう意味では、
初めて燻(XO)に遊び紛いの縛りを解かせたという点で、
戦況は進展してはいるが・・・・

「でもよぉ、巨乳豚侍。あんたやっぱいいわぁ。憎らしくて愛らしくて勃起してくる。
 感動のあまり揉みしごいてやりたいんだけど、テメェのせいで片手しかないんだよね」

その片手。
その片手で、
燻(XO)はイスカの剣を・・・・止めていた。

「まさか、自慢でとっておきだったカーズディフェンスを、一回目で突破されるとはねぇ。
 いい剣士だ。俺も夜は剣士なんだが、ま、接近戦に弱いねぇ俺って」

ウフフと笑う。

「・・・・何故、刃が通らん」

なんでも斬れるとまで称された、
剣聖カージナルの剣。
名刀セイキマツ。
それが、
ヤサ男の手で止められている。

「ラストブレード。威力減少スペル・・・・って俺のはやっぱ規格外だけどな!
 ウハハハハ!ヒャハハハ!小枝で叩かれてるくらいにしか感じねぇな!」

車椅子のヤサ男が片手で弾くだけで、
イスカは後ろに飛びのいた。

「・・・・・呪術に関しては良く分からんが・・・・」

あちらの手がおかしいのでなく、
こちらの攻撃が弱体化させられたわけか。

「巨乳は頭が悪いっていうけど、ウフフ、理解くらいは出来たみたいだねぇ。
 でも残念。数刻後はあんた、俺の奴隷になるから。理解とか理性とかなくなるから。
 殺すつもりだったが長く遊んでやる。お前とはよぉ」

それほどに、
余裕があると言いたげだった。
いや、
違う。
単純に趣向が変わっただけだ。
余裕があるのは当然で、
それは勝者の権限でもある。

「何せ俺の右腕を斬りやがった!人生最大の油断だったねぇ」

逆に言えば、
隙はやはりある。
そう考えるしか。

「だかさぁ、俺、もう右手でマスターベーションできないじゃん?
 自慰ってのは欠かせないのよ。俺みたいな性欲の権化にとっちゃぁなぁ。
 だからよぉ、お前、俺の右腕になれよ。ウフフフ・・・・」

使い方が正しければカッコよくなるセリフも、
この男が言うと途端に下婢た意味に変わる。

「断る。拙者はマリナ殿のものだ。己の左手とでも遊べ」

それも、
切り取ってやる。

イスカは姿勢を低くし、飛び込んだ。
剣が地を這う。
そして、切り上げる。

「え?なに?マリナ殿のものって?」

その剣も、
簡単に左手で止められた。
まるで小枝を止めるように。
ラストブレード。

こんな男に、培った剣術を弄ばれているかと思うと、

「何?おい豚女。あんたレズとか百合とかそーゆーのなの?超もえるんだけど」

「性別などとうに捨てた!」

もう一度切り払う。
が、
やはり、刃は通らない。
今度は防ぎもしない。
刀が燻(XO)の横顔にぶつかるが、
ぶつかるだけだ。

「いいね・・・・超いいじゃねぇか。俺の頭貫いた女と、俺の腕斬った女。
 それが愛し合ってんの?超いいじゃん。つまり、つまりさぁ、
 女がお互い愛し合いながら、今後さらに俺を求めるわけ?そう教育できるわけ?」

「拙者はマリナ殿だけを見ている!」

「そう教育すんだよ。てめぇの意思も俺(勝者)のものなんだよ!
 俺に弄べなかった人間なんていねぇんだからなぁ!」


燻(XO)の左手が、こちらを向いて・・・・・


「油断すんなよ家畜風情が」

「・・・・・・・・!?」

悪寒という悪寒が体を走った。
燻(XO)の目。
冷たいカスの目が同時に流れ込んだからだ。

イスカは全力に後ろに飛び退いた。

死ぬ・・・・というよりも、
魂をつかまれる・・・・と思った。

ダークパワーホール。
それが出現した。
イスカの居た位置に。

飲み込まれていた。
一歩遅ければ。

「威嚇だよ。ウフフ・・・・生かして遊ぶっつったろ?」

「このっ・・・・・」

一筋縄ではいかない。
いや、
改めて認識した。

目の前にいるこの男は・・・・・ヤバイ。
どうしようもなく、
ヤバイ。

実力は底無し。
底無し。

そう。

あまりにもその強大な力が、
下に下に下に、
暗黒を貫いてさらに下に、
底辺に、
底に、
落ちて堕ちて、
さらに最下層の・・・・最悪に。

底無しに下に向けられている。

上ではない。
この男は頂点などではない。
誰よりも突き抜けたその能力は、
あまりに下に向けて振るわれている。

最高でなく、

・・・・最低。

「お主は・・・・本当に殺しておかなければいけない・・・・」

だがどうする。
剣が通じない。
通じないのだ。
相手の攻撃は防ぎようも無いのに、
チートにチートを重ねたような、
最低。

だが、
倒さなけれ・・・・・

「・・・・・?」

ふとバランスを崩して倒れそうになった。
左に。
不思議な気分だ。
足で踏みとどまる。

「・・・・・ウフフ・・・・」

愉しそうな燻(XO)の表情。
それで気付いた。


左腕が、無い。


「ウフフ・・・・ウヒャハハハハハハ!これでお相子!お似合い!ペアルックゥ!」

避けてなどいなかった。
喰い取られていた。
ブラックホールに。
異次元に。
左手は消え去っていた。
左の肘より先は、空気だった。

「こ・・・の・・・・・」

「イヒヒヒ・・・・いいんだよ!ウフフ・・・生かしておけば別にどーだって!
 俺にとってお前は便所以外に使うつもりなんてイーーーーッサイ無ぇんだから!
 その両胸と穴が三つあれば!俺はもーそれでじゅーーーぶんなわけ!」

腕。
か。
今まで・・・
今まで戦ってきて、相手のものを奪ったことはある。
だが、

自分が失うのは初めてだ。

「・・・・くっ・・・・う・・・・・・」

なんというか気持ち悪い気分だ。
あったものがないというのは。

それも、この、こんな、男に。

「なぁー・・・なぁ!?どんな気分だ!?あぁ!?俺の気分はよぉ!感じてるかぁ!?
 おいおいおい血ィ出てんぞぉ!"初めてだった"って証拠だねぇ!ウヒャハハハ!」

動揺するな。
勝たなければいけない。
マリナのために、
自分は、
この男を・・・・

「まぁまぁ安心しろって!さっきもいったけどよぉ!お前は手とかなくていいから!
 それでも俺はちゃぁーんと射精してやるから!整った顔してるから頭部残してやるしよぉ!
 ・・・・んーでもなぁ、気が強そうだから歯はやっぱ抜いとくべきだな。ウフフ・・・・」

ゆらりと、
また、
あの左手がこちらを向く。

「ってことで・・・そのもう一本の腕もいらないって意味でした。ウフフ。お別・・・・・」

機嫌のよさそうな燻(XO)。
こちらは存外に気分が最悪だった。
まだ正直精神が整っていない。
自分が、腕がなくなったくらいで動揺するとは思っていなかった。

だが機嫌のよさそうな燻(XO)の顔も曇る。
そして車椅子ごと後ろを振り向いた。

「なんだよ・・・・いい気分の中でよぉ。我慢汁の気分だったのに」

デムピアスが動いている。
あの巨体が。
空を覆い隠すように。

「なんだぁ?俺が狙いじゃねぇのか?」

デムピアスの動き。
異様だ。
何かなりふり構っていないというか・・・・

・・・・・・・・そんな事はいい。

「あああああああああああああああ!!!」

こんな隙は無い。
片手。
片手がなくとも、
片手がある。

剣振りながら、我武者羅に斬りかかった。

・・・・・。

当然のように、イスカの剣は燻(XO)の後頭部で止まった。

剣だけが取り得だった。
不器用で、
それ一筋で、
それだけしか自分にはなかった。

だがそれだけを信じて、
自分は・・・・

「今の拙者は・・・・・・」


何を守れるのか。



































タピアは元から反乱軍だ。
生まれついての反乱分子・・・・なんてカッコイイ意味ではなく、
1年という長い年月、
あのスオミダンジョンの跡地で暮らした。

「デムピアスが・・・・動いてる・・・・・」

身の丈にあっていない鈍器・・・ハンマーなんて使っているから、
戦闘はへなちょこだ。
自分のスタイルに合わない武器が、平凡な才能の足を、さらに引っ張っていた。

でもスタイルは重要だ。
それはこだわりたい。
だから、
こんな自分程度でも、こんな世界だけは許せないと、
反乱軍の初期の初期から参加していた。

「デムピアスが動き出したぞ!」
「どうなってる!?聞いてないぞ?」
「援護すればいいのか?」
「元からデムピアスの動きなんて反乱軍の作戦に入ってない!」

あのコロニー。
反乱軍の基地。
あそこが壊滅した時はいきり立った。

もう我慢ならないと思った。
でもそれは誰しも同じで、
反乱軍はルアスに立った。

「だがこちらの味方・・・いや、こちらの力だ!」
「何かしらの考えがあってに決まっている!」
「援護だ!援護しろ!」
「デムピアスを落とさせるな!」

死骸騎士。
ルアス市街で彼らと戦った時は絶望した。

魔物と戦争し、
次はゾンビと戦争。
着々と地獄に進んでいるのを感じた。

ルアス市街での戦闘の時点で、もう勝機はないと感じた。
だけど、
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。
我らが切り札で、我らのリーダー。
彼女が部隊長を二人、
ギア=ライダーとラヴヲ=クリスティをものの見事に倒した。

彼女のような、英雄がいるならいけると思った。

だが、
さらに彼の足を進めたのは、もっと身近な事だった。

主人公達じゃない。
コマである自分達。
彼らが戦役をこなした始めての出来事。

数に数を押し、
犠牲に犠牲を重ね、

部隊長シャングリアを討ち取った。

トドメは5人くらい同時だったと思う。
泥臭いところまで持ち込んだと思う。
だが、
向こうより数倍の犠牲があったとはいえ、

名無しのコマが、部隊長というこの戦争の主人公を一人、討ち取った。

タピアは奮い立った。
そして今なお、
ここに生き延びて立っている。

「衝撃部隊の残党と、長槍部隊の残党!まずはこいつらを一掃するんだ!」

叫んだのは自分だ。
僕だ。

「そうだ!」
「誰かゴランを止めろ!」
「あいつのパワーハンマーがあと数分続いたらデムピアスも落ちるぞ!」
「突っ込め!」
「デムピアスの敵が俺らの敵だ!」

僕たちが、
この世界を変えるんだ。
世界を変えるんだ。
歴史を変えられるんだ。

「衝撃部隊の残党を突破しろ!」
「数はそれほどじゃない!」
「デムピアスの攻撃でほぼ全滅したからといって気を抜くな!」
「気は抜かねぇ!突き抜ける!」

僕たちは、
今、あのデムピアスは守っている。
効果はさほどじゃないかもしれない。
でも、
守っているんだ。

蟻の大群は象を守れる。

「ゴランさえ倒せば!デムピアスはフリーだ!」
「ゴランを倒すのは誰だ?!」
「反乱軍の中心人物はここには居ない!」
「だから俺達がやらなきゃならねぇ!」

僕はハンマーを振り上げた。
重い。
フラフラと体勢が崩れる。
なんでこんな武器を選んだのだろう。
一つは見得。
一つはスタイル。
貫き、
突き抜けるんだ。

「えりゃ!」

ほらみろ。
僕にだって死骸騎士は倒せる。

「デムピアスはどこに向かってるんだ?」
「どう見ても内門だ!」
「あれほど戦った絶騎将軍(ジャガーノート)を無視してか!?」
「魔王でさえ、今すべき事を自ら見定めたんだ!」
「俺らのすべきことはなんだ!」

僕はハンマーを振る。
きっと、
さっきまでのようにデムピアスは凄いことをしでかすのだろう。
その器がある。

世界を変える器がある。

こちらの中心人物である、
ツヴァイ=スペーディア=ハークスや、
アレックス=オーランドという人にもあるのだろう。

僕には無い。

でも、器を押すことはできる。

「お前ら・・・・・」

目の前の死骸騎士が呟いた。

「俺達は世界の平和のために・・・お前ら民のために・・・戦ってきたというのに!」

何を言ってる。

「お前らの善の形を押し付けるな!」

僕はハンマーを振るった。
それは届かなかった。
横から現れた仲間がその騎士を倒した。

「こいつの言うとおりだ!」
「今の世界は望んだ世界じゃない!」
「なら変えるのは底辺である俺達だ!」
「上に立つものは・・・・」

上に立つものは、

「土台が揺れれば落ちるだけだ!」

そうだ。
そうだ。
変えるのは僕たちだ。

支えているのは僕たち底辺だ。

僕はその一端だ。

「うっ・・・・」

横から斬りかかられた。
肩から腰にかけて、
無様な長傷が走る。
血が走る。

だが誰も見てはいない。

僕なんていう底辺の一部の怪我など、
今更仲間も、敵も気にしちゃいない。
僕も気にしちゃいない。

皆傷を負っている。
皆死を追っている。

これくらいがなんだ。

歴史を変える戦いの万の一の犠牲になれるなら、
こんなもの。

「ゴランだ!!!」

誰かが叫んだ。
僕はつられた。
皆もつられた。

標的。
倒すべき、僕たちが出来る目標。


「どぉりゃあああああああああああああああああああ!!」


パワーハンマー。
それが爆ぜる。

物凄い衝撃・・・という表現しか出来ない。

僕らのような底辺にとっては。

パワーハンマーの衝撃は空をフッ飛ばし、
デムピアスに着弾する。

デムピアスの装甲が崩れ、落ちる。

僕らじゃ傷一つ負わせられないだろう、
あの巨大な魔王。
海賊王を、
砕いている。

「ゴランだ!部隊長ゴラン!」
「『モーニンググローリー』のゴランだ!」
「死ぬ気でかかれ!」
「全滅したっていいから倒せ!!!」

「邪魔すんじゃねぇええええええええええええええ!!!!」

ゴランという男が振り返ったと思うと、
トゲだらけの鉄球。
モーニングスターが振り切られていた。
空を走るパワーハンマー。

「ぐわっ!」
「あ!」
「ぎゃあああああああ!!」

・・・・・数にして20人。
凄まじい勢いで粉々に吹き飛んだ。

「ひっ・・・」

近場の男が剣を落とした。
無理も無い。
その男がいなければ僕が先に武器を落としていた。

密集した戦場に、
パワーハンマーが通ったところだけがもぬけの殻になっている。

僕たち20人の命など、
あの部隊長にとったら一振り程度にしか値しない。

「・・・・・俺・・・部隊長なんて初めて会った・・・・」
「ひるむんじゃねぇ!」
「無理だ!世界に選ばれし52人だぞ!?」
「格が違う!化け物だ!」
「ひるむんじゃ・・・・・」

「うっせぇええええええええええええええええ!!!!」

僕の真横までの男達が、
いなくなった。
消え去った。
パワーハンマーで、吹き飛んだ。
僕の横には空間しかない。

「目ぇ、覚めたか」

ゴランの言葉は、
ここいら一帯で断トツの存在感だった。
選ばれし主役。
部隊長はその一人だ。

「目ぇ、覚めたかと聞いてんだ!お前らは俺と同じ人間だろうが!
 あそこにいる馬鹿デケェのはなんだ!化け物だ!魔物だ!
 人間を殺しに殺している天敵だろうが!違うか反乱者共!!!!」

ゴランの声だけで、
反乱軍の者達は2歩引く。
言葉にさえ威力があるようで、

「騎士団は世界のために戦ってきた!その騎士達を殺したのはデムピアスだろが!」

「う、うるせぇ!死者が!」
「今俺達の敵になってるのが騎士だろうがよ!」

「世界を守る!それが騎士団だ!俺達はお前らが攻めてきたから守っている!
 世界をだ!お前らがやってる事は"壊して変える"だ。どこの魔物の考えだ!
 目ぇ覚ませ!人間だろが!真に戦う相手はなんなのか考えろ!!」

「考えろ・・・だ?」
「これは俺達の望んだ世界じゃねぇ!」
「昔のような平和なマイソシアを作るんだ!」
「俺達の手で!」

「平和なマイソシアだぁ!?武力でそれを作るのか!?」

目ぇ覚ませ。
という言葉が、僕の頭にも貫く。

「その平和なマイソシア!アスク=ルアス王が作った世界はよぉ!
 自衛以外の武力を持たない世界だったろうが!平和が欲しいなら!
 世界を守る以外のことに武力を行使してんじゃねぇえええええ!!!」

ゴランのパワーハンマーが、
また振り切られる。
また道が出来る。
人が消し飛ぶ。
世界最高の火力の一端。
そして言葉。
それに反乱軍は・・・・

「うぅ・・・クソ・・・クソ・・・・」
「だからってよぉ・・・・」

馬鹿げている。
その言葉に感極まっている者さえいる。
確かに、
確かに正しい。
正論であり、筋も通っている。

だけど、
だけど今更なんだ。

「僕らのリーダー!ツヴァイ=スペーディア=ハークスは!!」

僕は振り切るように叫んだ。

「この戦いが始まる前に!覚悟を決めろと言っていた!!!」

そう、
言っていた。
あの言葉は僕の心の中心にある。

「僕は!僕が決めた行動に後悔なんてない!変えるんだ!"僕の手で"!
 そうだろ!?僕らは・・・・・守られ続けるほど無力じゃないんだ!!!」

その後は、
ワケも分からない叫び声をあげて走っていた。
ハンマーが重い。
なんでこんな武器を選んだんだろう。

でも僕が選んだ道だ。

「うあああああああ!!!!」

僕の叫び声かと思ったが、
違う。
周りの仲間達だ。

僕だけかと思ったが、
違う。
皆、ゴランに向かって走っていた。

「目は・・・・覚めてるようだな!!!」

ゴランは、
雄雄しくそれを受け止めた。

「なら次は夢で会おうか"仲間達"よぉ!」

ゴランのパワーハンマー。
仲間が吹き飛ぶ。
横から騎士の攻撃。
目の前の味方が串刺しになる。

それでも走った。

右とか左とか、
上とか下とか、
もうわけもわかんなかった。

自分が斬られた事にも気付かない。
誰が死んで、誰が生きていて、
自分は生きているのか、死んでいるのか。

でも走った。

皆一丸となって走っている。
なら、
この底辺の塊は僕だ。

全部僕だ。

僕が死んでも僕がまだ走っているだろう。

誰か一人でもいい。

目指しているものは、
届かないものなんかじゃない。


もう視界も・・・・・




















「・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」


生きてる。
僕は生きてるようだった。
多分。

未だ続く戦争は、未だ五月蝿かったが、
ここら一帯は静かだとも思った。

「うぉおおおおおおおおお!!!」
「やったぞおおおおおおお!!!!」

仲間達が叫んでいる。
嬉しそうに、
黄色くない我武者羅な声をあげて。

「やった!やったぜお前!!!」

血みどろの、
片手の無い男が、
血みどろの、
片手の無い僕に飛びついてきた。

「・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」

目線を下げた。

モーニングスターが転がっていた。
獰猛な鎧が転がっていた。
魂の光が上がっている。

この残骸は・・・・・

「やったぞ!!!こいつがやった!!ゴランを殺ったぞ!!!!」

仲間が、
僕の片手を無理矢理挙げた。
掲げた。

歓声があがる。

「・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・僕が・・・・・」

僕が・・・やったのか・・・
世界の選ばれし52人の一人を。
僕が。
部隊長なんていう化け物を・・・。

「・・・・いや・・・・・・」

違う。
違うさ。
僕は結果に過ぎない。
やったのは僕じゃない。

皆が居たからだ。
僕一人じゃどうやったって倒せない。

たまたまトドメが僕だっただけだ。

見ればいい。
周りに倒れる仲間の死骸を。
あの結果として僕が居る。

僕は、
僕は、
ただの、底辺の一人だ。

一人だけで力じゃない。

僕一人だけじゃぁ世界なんて・・・・・・・

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

でも僕は叫んだ。
天に向かって。
鼓動が熱くなり、
感極まって破裂した。

「よっしゃ!いくぞ!浮かれっぱなしでいられるか!」
「次は俺だ!俺がやるぞ!」
「内門だ!内門に向かえ!」
「今度はデムピアスを援護するんだ!!!」

皆、戦いに飢えている。
結果に飢えている。
実感が沸くんだ。
自分達が、世界を変えているんだと。

戦場は移動する。
仲間が移動する。
それは、僕が移動しているようなもので、

「世界を変える戦争で、部隊長を倒したんだぜ」

横に居た、
誰とも知らない仲間が俺に言った。

「英雄さ。教科書に載るかもよ」

そう言って彼は移動する仲間達の中に消えていった。
もう彼と合流する事はないだろう。
烏合の衆の一人でしかないのだから。

反乱軍という一つの体の一つでしかないんだから。

僕もまた走った。
仲間達の中に埋もれた。

変わらない。
皆英雄だ。

僕も底辺の一人へと戻った。



この戦争の勝敗はどうなるか分からない。
僕は死ぬだろう。

でも、
後の世の人が、この第二次終焉戦争の事を教科書で読んだら、
"反乱軍"
その文字を見てくれればいい。




僕の名だ。



































「限界・・・・か・・・・・」

デムピアスの呟きは、
あまりに大き過ぎて、戦場の誰しもに聞こえるだろう。
でも彼は呟いた。

「もう・・・・何もしなくても・・・・体が崩れ行く・・・・
 これだから・・・これだから人間の力は恐ろしい・・・・」

たった一人の人間。
あのゴランという男など、
眼中に無かったような男で、ただ、ここで出会った。
その男にここまでやられた。

鋼鉄の体が崩れ行く。

人間。
人間一人の力というのはどれだけ強大なのだろう。

これだから恐ろしい。

そして、

「だからこそ、俺は、人間を愛した・・・・・」

たった一人の少年。
ヒーローを自称する少年の行動が、

魔王に憧れをもたせた。

だから彼は、今の行動に迷いはない。

デムピアスは歩を進める。
歩・・・といっても、
彼は浮いている。
人間の知識ではまず有り得ない体積で推進している。

鋼鉄の魔王の体は、戦場をゆっくりと前進し、
憎き人間。

燻(XO)の上を通過した。

「度し難いが・・・・妥協しよう・・・・俺は人を信じる・・・・
 俺に成しえない・・・その悪の討伐は・・・・"仲間"に任せる・・・・・」

自分は自分の成すべき事をしよう。

崩れる体が進む。
鋼鉄が落ちる。
ガラクタとなる。
ジャンクとなる。
その一途を辿る。
だがまだ体は動く。
この何よりも強大で巨大な鉄は冷たく動く。

血は流れていないが、まだ動く。


「正義の・・・・・道を作ろう・・・・・・・」


デムピアスは限界だった。


今更かもしれないが、
限界だった。

一度、殺された。
アインハルト=ディアモンド=ハークスという人間の手によって、
一度葬られた。

魂さながら生にしがみ付いた。

終点はルケシオンの小さな魔物。
その矮小な魔物は、

一人の大きな魂を持つ、小さな少年の傍らにあった。

彼を見ながら、
魂の修復をした。

だが限界を感じた。
それは人間の素晴らしさを理解してしまったからこそ、
それは魔物の限界を与えてしまったのかもしれない。

これ以上力は得られない。
小さな猿の中でデムピアスは悟る。

でも正義には力が要る。
そして、
体が要る。

猿の体では限界があった。
体を変えた。
そして、
鉄で補強した。

鉄という鉄を食らい、体を作った。
修復した。

今のデムピアスの体は、その結集で結晶だ。

デムピアスの人間時の体というのは、その凝縮された姿。

食らった鉄の量以上でもなく、以下でもない。

再生能力というのは回復能力ではない。
食らって溜め込んだ鉄の量。
それだけだ。
100tの鉄がデムピアスの中にあったならば、
100tまでは再生出来る。

それが限界となった。
弾切れ。
それが今のデムピアスの姿だ。

蓄積された鉄の体のタンクが、もう残量無しになった。
再生する鉄の体積が、
もうデムピアスの中にはない。

いや、
それだけじゃない。
やはり、魔物は魔物なのだ。

人の体、無機物の体。
それは完全に魔物の血と交わる事は無かった。

体の中で拒絶し、反発し、壊れていくのが分かる。

「悪は・・・・正義にはなれないのか?」

正義は・・・俺を拒むのか?
こんなに恋焦がれているというのに。


魔王は正義の使者にはなれないのか?


  正義に権利なんてないよ


不思議だ。
この大きな体。
その肩の上にヒーローの幻覚が見える。

                   正義だと思えばそれが正義じゃん

その通りだな。
肩の上の幻覚。
それは、
自分が過去、ヒーローの肩の上に乗っていた小さな魔物時代。
それの逆の光景にも見える。
でも、
力をもらっているのは同じだ。

                   でも正義は誰にでも持てるけど

あぁ。

                   ヒーローは正義があるだけじゃなれない

そうだよな。

                   力が必要だ。

それはある。

                   絶対に負けちゃいけない。

その通りだ。

                   でも、

でも、
なんだ。
教えてくれチェスター。
正義は持てても、
ヒーローになる条件とはなんだ。

力はある。
絶対に負けない。
そして正義も持っている。

何が足りない。

・・・・・。
あぁそうか。

そこまでは、悪も同じものを持ってるんだな。
じゃぁなんだ。
やっぱり、
人として、
ヒーローになるための条件とは。



                   誰かのために動く事ジャン



「・・・・・・・・そうだな」

デムピアスは、拳を振り上げた。
片方しかない拳。
だが、
この世界で一番大きな体の、
大きな力の、
大きな拳を。


「誰かに支えられて、応援されて、そして、守るものがある奴がヒーローだ」

正義は、
誰かに称えられてヒーローとなる。

「悪には悪の正義がある」

ふと気付けば、
もうチェスターの姿はない。

拳は、重く重く突き出された。

世界で一番大きな拳。

これが限界だ。
突き出すだけで体が砕ける。
鋼鉄の体はもう持たない。

でも、
気付けば目の前に・・・内門がある。

皆が開く扉だ。
道を開こう。

俺は"こちらが正義だと思っている"
確信している。

何故なら、
見ろ、
あんな豆粒のような人間達が俺をここまで運んでくれた。
一人なら、
ここまで辿り着けなかった。
魔王デムピアスは砕け散っていた。
無残に。

ここまでの道を作ってくれたのは彼らだ。

口約束さえないのに、
あんな小粒の人間達は俺を援護してくれた。
何故だ?

決まっている。


彼らは、

俺の事を、

同じ正義だと思ったからだ。



「度し難い」



デムピアスの大きな拳は、内門へと突き刺さった。



























「破片が落ちます!退避!一時退避してください!!」

デムピアスの大きな腕の下、
アレックスが叫ぶ。

「たまげたぜ。一瞬でお天等さんが見えなくなった」

デムピアスの腕だけで天が遮られる影の下。
デムピアスの腕から、
ボロボロと鋼鉄の破片が落ちる。
彼の限界を物語っていた。

「カッ・・・しかし、近くで見るとデケェなおい」
「ガハハ!ドジャー!遠近法というやつなんだぜ?!」
「分かってるっての!あんまり自分の馬鹿をお披露目してんじゃねぇよ!」

アレックスが辺りへ指示を飛ばしている。
一気に慌しくなっていた内門下だが、
デムピアスの一撃が打ち込まれると、
途端に蜂の巣を散らしたようになる。

「っと危ね」

メッツがデムピアスの腕から落ちてくる破片を避けた。

「つーかどーなった!?」

あたりが騒然としたのと、
デムピアスの腕自体の存在感に気をとられていたが、
重要なのはそっちだ。

デムピアスの腕は内門に。

世界最大の拳が。

「・・・・・・ハズれてねぇか?これ」

メッツが言う。
ハズれている・・・・というのは言葉の通り。
デムピアスの渾身の一撃。

それは・・・・・内門に至っていない。

「いや、」

しかし、
考え方を改めれば失敗とは言えない効果を発揮している。

デムピアスの巨大な腕は、
内門前、
内門下、

立ち並ぶ重装騎士達の群集へと突き刺さっていたのだから。

「エールさん!」

名前を呼んだだけだが、
副部隊長エールはそれだけでアレックスが何を欲しているかは分かる。

「う、うぃ!デムピアスの拳は第50番・強壁重装部隊に着弾しままま・・・・
 拳の面積からすると、50体・・・衝撃・二次災害を含めれば・・・・」

重装騎士達を100体。
それもド真ん中にぶち込んだ事になる。

事実上・・・・・・・・・完全に整列していた門番達の布陣を崩すに至ったと思う。

「カカッ・・・・」

ドデカイ拳が、内門の門番達。
ほとんど歯が立たなかった重装騎士達のど真ん中に突っ込んでいるのを見ると、
ドジャーは笑った。
笑えた。

いける。
いける。

流れはこっちにある。

東・西、どちらからも内門下に援軍が流れるようになった現状。

クシャールとメッツ以外ではビクともしなかった重装騎士達も、
攻城ハンマー投入により、一般兵達による効果も見えてきている。

「いける!いけるぞアレックス!」
「おっしゃあああああ!テメェらコラァ!!!この勢いで内門を潰すぞコラァァァアア!!!」
「待ってください!!」

アレックスが制止する。

「あん?」

流れはこちらだ。
勢いは今だ。

「おいアレックス」
「・・・・・見てください」

何を?と思う間もなく、デムピアスの拳が動くのに気付いた。
いや、
否、

デムピアスの拳が動かされているのに。

いや、分からない。
何が起こっているのかまだ状況を説明はし難いのだが・・・・・・

拳の先を見て、
それは把握できた。


「・・・・・・・・・ワタシ・・・・ハ・・・・・・・守ル・・・・・ソレダケ・・・・・・・・」


第50番・強壁重装部隊・部隊長。

『AC(守備漬け)』ミラ。

あのロボットのような鎧人間。

彼が・・・・・・全身で拳を受け止めていた。

「止めてやがる・・・・」

たった一人の人間が、
パワーだけでデムピアスという巨大な化け物の拳を。

「おいおいおい・・・どうなってやがる!俺にはあの鎧野郎が!
 25メートルプールみてぇなこの拳を受けきっているように見えるんだがよぉ!」

アレックスは歯を食いしばっているが、
眉は下がる。

「事実・・・・その通りです」

門番。
番人。
ミラ。

「化け物かあいつは・・・・」
「こんな諺(ことわざ)・・・・みたいなものがあります」

歴史に誇る騎士団の中で、民が面白がってそういったものを付ける事はよくある。
一番有名な諺は、
『ロウマは一日にしてならず』
そしてミラを差して言われる諺は・・・

「『門は飾りだミラが居る』」
「・・・・カッ、いいジョークだ」
「続きです、『故に、世界が滅んでも内門だけは残るだろう』」
「・・・・・・笑えねぇ」

騎士団に縁(ゆかり)のある者は再認識する。
それ以外の者は認識させられる。

ルアス城が鉄壁な理由。
それは、
内門が難攻不落なのではなく、

"鉄壁"ミラ

それ一つで全ての理由が足りているのだと。


『門は飾りだミラが居る。故に、世界が滅んでも内門だけは残るだろう』


言い得て妙。
いや、
言い得て絶妙だ。

この矛盾。

内門とは、難攻不落のルアス城の核。
鉄壁無敵なのが内門。

ルアス城(世界)は内門が守っている。

で、あるのに、

内門が世界最難である理由。
それが、
"内門をミラが守っているからだ"

世界を守っている世界最高の防御壁は、
ミラという男が守っているからこそ、完全な防御壁である。

笑える事に、
内門は世界で一番の"固さ"と"堅さ"と"硬さ"と"難さ"を備えるが、
ミラさえ居れば、
極論、無くても同じとさえ言ってしまえる。

「内門が開いても、ミラが居る限り突破出来ない勢いだな・・・」
「部隊長ミラ。"彼こそが内門です"」

攻略しなければいけないキーは3つ。

1つ、世界一の強度を持つ、内門自体。
2つ、不可欠なメテオを無効化する燻(XO)の存在。
3つ、そして、ミラ。

「アレックスぶたいちょ!離れてくださっ!」

エールが叫ぶ。
見上げれば、
デムピアスの腕が、さらに軋みを上げている。

「なんだ?」
「デムピアスさん!デムピアスさん!聞こえてますか!?

アレックスはデムピアス自身に応答を願う。

「・・・・・・度し難い」

広がる声が落ちる。

「・・・・動かない」

動かない。
それは・・・・拳が。

「おいおい・・・・・」

この戦場には蟻と象が居る。
それは大きさの意味でなく、力の意味で。
ただ、
蟻達にも命と意思がある。
それは少しは伝わったかもしれない。

けど、これは違う。
事実として規模の問題。

蟻が、象の身動きを止めているという。

「決意しても・・・正義を真っ直ぐにしても・・・俺にはこの程度なのか・・・・・」

デムピアスの言葉。
それは違う。
ただ、
ミラという男が、誰よりも迷いがない男だから。

自分の正義に一寸の曇りもない男だから。
故にミラが勝った。
それだけで。

「・・・・・守ル・・・・・ソレ以外ハ・・・ワカラナイ・・・・・シラナイ・・・・・」

バキバキと、
巨大なデムピアスの腕が軋む。

「・・・・英雄トハ・・・正義トハ・・・ソノ役目トハ・・・・悪ヲ葬ル事に在ラズ・・・・・・。
 魔王ヲ倒ス・・・・勇者ダッテ・・・・本来ノ目的ハ・・・・到達点ハ・・・・・・」

「ぐ・・・お・・・・・」

「"世界ヲ守ル事"・・・・ソレダケ・・・・・・・ワタシハ・・・・ソレダケデイイ・・・・・・」

それだけでいい。
それしかしらないし、
それ以外は眼中にない。

守る。
守る事。

世界を失わないために、
戦うのでなく、

守る事を極限にまで選んだ男。

五天王が一人。


"魔弾"ポルティーボは無駄が嫌い
"泣虫"クライは嘘をつかない
"処女"オレンティーナは否定する


「任務・・・・遂行スル・・・・・」


"鉄壁"ミラは失わない


「・・・・・ワタシハ・・・・甘イオ菓子ノ次ニ・・・・世界ガ好キダ・・・・・・」


バギィン・・・・・と音は鳴り響いた。
この擬音だけでは、
鉄が折れた・・・くらいにしか伝わらないかもしれない。

ただ実際は・・・・・・


デムピアスの腕が落ちた。

機能の停止し、
ガラクタと成り果て、
デムピアスの意思とは切り離され、

地に落ちた。

「マジかよ・・・・」
「パワーがどうとかってレベルじゃねぇぞ」

終わってみれば、
デムピアスの一撃は意味があったことも分かる。

ミラよりも前列の重装騎士達はブッ潰れていた。

比喩するならば、
野球の球場に重装騎士達が敷き詰められていて、
その、
内野が全てデムピアスの一撃で破壊されたと言ってもいい。

外野は未だ重装騎士達が敷き詰められ、
中心、
2塁にミラがいる。
そう想像してもらっていい。

ただ、その2塁。
そこにいる部隊長ミラの存在が強大すぎて、
どんな打球もホームラン(内門)には届かない。

「返・・・・・ス・・・・・・」

落ちた、
千切り取られたデムピアスの腕を、
象の腕を、
蟻が、
ミラが持ち上げた。
その全身で。

「おいおいおいおい!」
「まさかあいつ!」
「散って!離れてください!」

「ココハ・・・・・」

ミラは、
デムピアスの巨大な腕を持ち上げ、

「ゾウリムシ・・・・一匹モ・・・・通サナイ・・・・・・・・・・」

投げた。

この規模の戦争でも、
この規模のモノが宙を舞う光景はいささか初めてではあった。

ミラの全長は、
ロウマをも越える2m半あるが、
それでも人間のレベルの大きさだ。
生物界のサイズ。

それが投げるモノとしては在りえない規模ではあったが、

「おい!デムピアスの腕!」
「返すってまさか・・・・・」

放物線を描き、

「ここ・・・までか・・・・」

デムピアス本体に直撃した。

質量に質量。
重量に重量がぶつかる。

表現としては後者が正しい。

規模が大き過ぎて、勢いはそれほどには見えなかったが、
自身の巨大な腕をぶつけられたデムピアスは、
大きく傾いた。

辺りは騒がしい。
これ以上になく。
地震、天災でも起きたかのように。

「落ちる!」
「デムピアスが落ちるぞ!」
「離れろ!巻き込まれる!」
「死にたくねぇなら離れろ!」
「デムピアスが落ちる!!」
「デムピアスが落ちるぞ!!!!」

すでに体が限界に達し、
それを見越しての渾身の一撃を放ったデムピアス。
その抜け殻のような体は、
まるで巨大な積み木のように、
無残に傾き、
崩れる。

「崩れる!」
「バラバラに崩れるぞ!」

落ちる。
デムピアスが落ちる。
倒れるのでなく、砕ける。

デムピアスが終わった事を物語っていた。

彫像のように、全身が分解し、
ガラガラと崩れ落ちる。
鋼鉄が、
鉄が、
破片という破片に分解されて崩れて、


デムピアスは落ちた。


「おいアレックス!アレックス!」
「分かってます!」
「デムピアスがやられたぞ!!」
「分かっています!」
「ど・・・」
「「どーすんだ」・・・でしょ!?」

どうする。
どうするもこうするも、
どうしようもない。
事後の話である。
意味的には「どうしよう」・・・という感情が込められる。

「デムピアスさんの方はもう終りです!切り替えてください!」
「や、やっぱやられたのかアレ!?」
「いえ、魂だけで再びあの体まで再生した事を考えれば、
 "死んだ"という表現は当てはまらないでしょう。
 ただし、もう使い物にはならないでしょうね」

使い物・・・というのは酷な表現だが、
事実、
デムピアスはこれでもう終わった。

もし魂だけ再び逃げ延びたとしても、
また弱小な生物に寄生するところからだろう。
いや、
恐らくもうそれさえも出来ないかもしれない。

「アレックス!もう一回全体に指揮を伝えなおせ!
 こっからでも全体が混乱してんのが分かる!」
「分かってます。もう部隊の皆にやらせてます!」

ドジャーはミラの方を見た。
認識しなおすに至る、
鉄壁の存在を。

表情は兜の奥の奥で一切わからない。
ロボットにしか見えないほど、鎧塗れの姿。

「あれだけの攻撃でも、"十二単(じゅうにひとえ)"の表面を崩すだけですか」
「なんだそりゃ?」
「ミラさんの鎧の俗称です。見ての通り、鎧の上に鎧を、重ね着に重ね着を重ねた装備。
 昔の和国のお姫様が着ていた着物のように鎧を重ね着しているからです」

ミラの装備の総重量は、
数百キログラムになると言われている。

鎧とは通常でも重いものだ。
アレックスのように関節部位に支障をきたさない、
軽装の中の軽装のような鎧でも、
ものの10キロは越える。

通常の鎧ならば30や40キログラムに届く。

『AC(守備漬け)』のミラ。

歩行さえ困難なほど、守備を固めに固めたミラの二つ名。

「敵も体勢を整えなおし始めました!医療部隊は率先して応戦を!」
「ミラはどうすんだ?!」
「ミラさんは基本的に攻撃手段を持ち合わせていません。
 邪魔が来たら排除する。それ以外の行動は行いません」

いや、
行えないというべきだ。
重装備すぎて行動が困難なのだから。

「攻城ハンマーは直ぐに重装騎士へと突撃を開始!30秒後からです!
 すぐです!ハンマーをここに通す事を最優先に!エースさん指揮してください!」
「なんで俺が・・・・」
「ゴチャゴチャ言わない!」
「おいアレックス!それでもミラは無視できねぇだろ!
 こっちから攻撃しなければって・・・・後回しにする気か?!」
「ミラさんを突破出来る可能性がわずかでもあるのは・・・・・決まってます!
 おじいちゃん!それと・・・・・・」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

既に、メッツが突撃していた。

「なめんなよ!動かねぇ相手なんざ!ケンカにもならねぇじゃねぇか!!」

勢いそのまま、
ダンプカーのように突撃し、重量斧を振り落とす。

「オゥルァアアアアア!!!!」

それは、ミラに直撃する。
思い切り振り落とされる。

「・・・・・・ッ・・・・・・・」

ただ、それだけだ。

「・・・・・・・上等・・・・・」

ミラは、身動き一つしない。
メッツという、こちらの物理火力最大の男が突撃してきて、
斧を振り落としたというのに。

避ける事はしないのは分かっていたが、
手で防ぐとか、
ガードの動作さえしない。

ただ、
そこで立っているだけ。

斧は、鎧の表面で止まった。

「幾多とケンカしてきたがっ・・・・棒立ちの相手は初めてだっ!!!」

もう一度振り上げ、振り下ろす。
それでも、
鎧の表面に割れ目が入る程度。

ミラは動かない。
静寂。
ただ棒立ち。

それさえも、貫けない。

「・・・・・メロンパン・・・ガ・・・食ベタイノニ・・・・・・・」

「・・・・あ!?」

「・・・・・"コノカラダ"・・・ジャ・・・・モウ・・・・食ベレナイ・・・・」

死骸の鎧の奥の奥から、
篭った声が、そう響く。

「・・・・二回モ・・・・失ッタリハ・・・・シナイ・・・・モウ・・・失ワナイ・・・・」

失わない。
守る。
言葉と共に、
腕が払い出された事に気付いた。

体は動いていない。
ただ、
右腕だけが人形のように振り払われただけ。

「・・・・・ごっ・・・・・」

避けることもままならず、
メッツは直撃を受けると共に、
放物線を描くほどに吹き飛ばされた。

アレックス達の頭上を越え、さらに向こうにまで。

「・・・・・やっべぇんじゃねぇの?」
「他にも皮肉な諺(ことわざ)がありますよ」
「聞きたくねぇ」
「『内門を破壊するくらいなら、ルアス城を破壊する方が楽だ』」
「・・・・あそう」

「その話を聞くと、根本的な解決にはならなそうだけど」

急にいつの間にか、
頭上に翼を纏った芸術家が居た。

「頃合だと思う。ボクの"仕掛け"の出番かな」

回りくどく隠す必要なんてない。
エクスポの仕掛けなんて、一種類しかない。



































「デムピアスが落ちたぞ!」
「よし!よしよしよし!!」
「陣形を組みなおせ!」

会議室は、一層慌しくなった。
一番隊の死骸騎士達は、
歓喜と共に、大きく動いた戦場にまた、
新たな息を吹き込もうと指示が飛び交う。

「ディエゴ隊長」
「ここは素直に喜ぶべきだ」

ディエゴはそれでも冷静だった。

「デムピアスが落ちた事。裏もなにもない。これ以上はない。
 犠牲は多大に出たが、段階としては早い方だ。
 殉職したゴラン部隊長に賞賛を贈ろう」
「はい。彼と彼らの部隊がいなければデムピアスは倒せなかった」

会議室は忙しく回る。
この忙しさも嬉しい悲鳴ではある。
反乱軍側の内門突破の道は大きく絶たれたわけであるから。

「戦争は終わってはないぞ。次。次だ。状況報告を送れ。パッカー」
「はい」

副部隊長は重なる報告書の束から、
必要なものを選び出す。

「どこからもデムピアス関連の報告ばかりで難儀します。
 このドサクサだからこそ、見落としてはいけない事実があるんですがね」
「冷静にそれが分かっている同志が居るだけで俺は幸せだ」

紙を掻き分け、
1枚をディエゴに手渡した。

「そのせいもあり、通達が遅れてきました」
「西・・・・フレア=リングラブか」
「はい。『ロコ・スタンプ』ロッキーが合流し、指示が止まっています」
「詠唱が始まったか」
「始まったどころか・・・・」

続きの報告書は、テーブルの上に置いた。

「詠唱の終了を計算出来る段階です。いえ、ハッキリ言いましょう」

手遅れです。
副部隊長の言葉をディエゴは刻んだ。

「今から戦力を集中してフレア=リングラブを止めにいったとしても、
 既にフレア=リングラブは広範囲メテオを放つに至るでしょう」

思い返す。
あのメテオ。
あの日・・・。
思い返したくもない終焉戦争。
実質、内門はこのフレアのメテオによって突破された。

「MAXの状態になる前に放たれるならば、むしろ歓迎だ」

その報告の裏側を、ディエゴは瞬時に悟る。

「だが撃たないだろう。フレア=リングラブは」
「はい。燻(XO)将軍が居ますから」
「ジレンマだな」

副部隊長が、新たに一枚、用紙をテーブルに流す。

「広範囲メテオ、最大威力時での予想被害です」
「見なくても分かる」

見ているのだから。
終焉戦争で。

「重装騎士が半壊以上。内門自体にも3・4割の損傷。
 一撃で内門下の戦況下が傾く被害だ」
「百歩ひけば許容出来る範囲ともとれます」
「"既に百歩ひいた状態なんだ"パッカー副部隊長。
 デムピアスの先ほどの一撃がある。合計するとミラの部隊が消える」

メテオだけは・・・撃たせてはいけない。

「続いて、城内の状況です」

頭が痛い。
今、戦っている者達にとっては内門前が全てだろう。
それだけだろう。
だがココは、それ以外も考えなければいけない。
戦場全てを。

「ユベン副部隊長、以下、ミヤヴィ=ザ=クリムボン44部隊員。
 2階で足止めが出来ています。現状、足踏み状態でしょう」
「2人で突破出来るほど生易しくはない。
 かといって、向こうもこちらの事は熟知している。
 少しでも変化があれば最優先で伝えてくれ」
「はい」
「他は?」
「・・・・・シド=シシドウと、未確認の者が行動しています。
 合流は地下から。正体は不明。探らせています」
「仲間の報告は後回しでいい」

副部隊長は、危惧していた。
ディエゴのこの部分だけは。

シド=シシドウ。
確かに・・・こちら側の人間だ。
立ち居地だけで言うならばだ。

だが、正体不明ほど見逃していけない因子はない。
その上、
あの殺人鬼だ。
いつ、なにが、どうなるかなんて分かったものじゃない。

それなのに、
ディエゴ=パドレスという男は仲間を信じる。
信じてしまう。

それを既に何度もアレックスに突かれているというのに。
世界一愚かな信者。
仲間信者。
信じてやまない。
疑わない。
仲間を。

だからこそ、この男に付いていっているわけでもあるが。

「・・・・・《昇竜会》の分隊について。未だ、隊は一塊です」
「別行動をとるつもりはないのだろう」
「鉄砲玉ジャイヤ=ヨメカイと共に行動中。進軍に統一性はありません。
 恐らく迷っていると決めてかかっていいでしょう。しかし行動に変化がありました」
「迷走の変化など分かるのか?」
「一度、"ユベン副部隊長達と合流しました"」

その報告は聞いていない。
そこ部分について叱りを与えるべきかと思ったが、
過ぎたことと思い躊躇した。

「その後、"逆走"しています」
「怪しいな」
「ユベン副部隊長達と出合ったならば、むしろ道を知ったと思うべきです。
 なのに逆走しています。それも今回は迷走ではありません」

何かある。
それは分かる。
ただし、振る作戦はない。

城内は、
ユベン組と、
ジャイヤ組。
その二つ。
たった二つだけだ。

現状でも十分にその二つに搾りつくして動かしているのだから。

「シャル=マリナ」

迂闊にも、見落としていた事に気付いた。

「燻(XO)将軍の障害になると思い、刺客を仕向けるつもりですが、
 その前にこちらの部隊が既に追走を始めていました。
 第17番・遊撃部隊です。彼らの追走でシャル=マリナは手一杯です」
「あのじいさんか。なら心配はない」

17番・遊撃部隊。
部隊長は、ストリートバッカー。
騎士団の中でも高齢の中の高齢。

「孫の敵討ち・・・・か」
「私念に捕われる方ではないと思いますがね」
「そうだな。仕事に忠実だからこその、その現状か」
「はい。まぁ、細かい部分に目をかけるとしたらそれくらいです。
 やはり重要なのは戦場本体。相手の配置は望まぬ結果にもなりましたが、
 デムピアスが落ちた勢いで盛り返しています」

いや、
素が出たというべきだ。
騎士団本来の地の力を見せるために乱戦に持ち込んだのだ。
一時的に内門は危うくなったが、
結果的に戦況は傾いていない。

「このまま押し通すぞ」
「はい」
「戦闘地域の中で一番今危ういところから埋めていく」
「そうですね。基本的にはどこも・・・・・」

副部隊長が確認を始めた。
戦場は今、こちらに傾き直した。
だが気は緩めない。

相手はアレックス=オーランドだ。
奇策師。
イレギュラーを扱う事に関しては随一だ。
穴を見逃してはいけない。

アレックス=オーランドが突いてくる穴。
それを見つけなければいけない。
彼はそれが出来ないほど手一杯な状況だと分かっているが、
それでも目は背けない。

イレギュラー。
それを見つけなければいけない。
だから、
アレックス=オーランドが扱いそうなイレギュラー。
そればかり考えてきた。

そしてそれを抑えてきたからこそ、
ここ数刻は奇策らしいものは出てきていない。

アレックス=オーランドの思考。
それを制することが、この戦争の勝機。

ディエゴ=パドレスは、それを制していたのだ。

「・・・・・・なんだ?」

部下が一人慌しく部屋に入ってきた。

嫌な感じだ。

いや、
アレックス=オーランドの考えは全て先回りしているはずだ。
何も起こるはずがない。

そう言い聞かせる。

だから、イレギュラーなはずがない。
アレックス=オーランドが起こすイレギュラーは封じているはず。

でも、
だけど、
ふと頭に過る。
根本。
戦争の根本。

それを思い返す。

主役は誰だ?
戦争の主役とは。
反乱軍=アレックスなのか?
違う。
戦争は一人でするものじゃない。

ならなんだ?

アレックス=オーランド以外に誰がイレギュラーを起こす。
いやいやいや、
アレックス=オーランド以外のイレギュラーなど、
それは許容の範囲内のはずだ。

・・・・・・。

なら、

アレックス=オーランドにとっても計算外。
そんなイレギュラーがあるとしたら・・・・

それはなんだ。

走りこんできた部下は言った。


「西が・・・・・・燃えています」



































「アレックス!アレックス!」

ドジャーの声の中、
アレックスは西の空を見上げていた。
気付けば、
瞬く間にオレンジに染まっていく。

炎があがる。

敵の策略なのか、
味方の成果なのか。

「これはお前が指示したことなのか!?」

違う。
何も知らない。

これはこちらに優位な事が起こっているのか?
それとも、致命的な何かが起こっているのか?

「炎上に利点はあまりありません・・・・城というものは燃える設計じゃないからです」

もちろん、
こんな正々堂々と戦争せずとも、
火責め・・・という案が無かったわけではない。

ルアス城は、知っての通り森に囲まれている。
城が炎上しなくても、
煙などの二次災害的で、城内の人を全滅・・・・というのも、
残酷だが案にあった。

「相手は死骸騎士・・・・酸欠も窒息も中毒もありません。
 炎はこちらにとって悪影響はあれど・・・・」
「じゃぁ向こうの策か!?」

それもない。
誇り高き騎士が、
この城を守ろうとしている騎士が、

自らの城を焼く真似なんて。

「"じゃぁ原因は一つしかねぇじゃねぇか!!"」

そう。
一つしかない。

想像が出来ないやつなんていない。

火種の原因なんてのは、一人しかいない。


「ヒャァァアーーーーーーーハーーーーーーー!!!!!」


その馬鹿が、
火の粉を撒き散らしながら、
アレックス達の頭上をカッ飛んでいった。

「やっぱりあの馬鹿か!?」
「ダニー・・・・・」

失態。
失態以外の何者でもない。

「僕のミスです」
「・・・・ぁあ?」
「ダニーから目を離しすぎました」

絶対にフリーにしてはいけない存在だった。
天邪鬼で、
身勝手で、
暴虐無人。

無差別な放火魔。

戦争に興味もない、一人、遊びに来ただけの男。

「自惚れでなく、ダニーは僕にしか扱えません。
 フレアさんがうまく誘導したからって安心していました」

結局、
それがアダになった。

フレアはうまくやった。
誰よりも。
アレックス以外で初めてダニエルを誘導した。

しかし、
ただ、あの炎の神はやはり、
アレックス以外の手には余ってしまった。

それだけだった。

ほどなくして東からも煙があがる。

「・・・・・城壁に沿って燃え上がってきやがったな」

戦争らしいといえば戦争らしい、
煙の空。
黒い空。

アレックスは考えた。
どうにか、
なんとかこの炎をこちらの優位に動かす事は出来ないか。

今出来る事はそれくらいだ。

「ケホッ・・・ケホッ・・・・だりぃ・・・・・・」

フラフラと、上からガブリエルが落下してきた。

「ニコチンのねぇ煙は吸いたかねぇな・・・・」

「ガブちゃんさん」

「どうにかしてくれよ面倒くせぇ・・・・空中戦やめていいならいーけどよ・・・・
 敵に取っちゃ視界が悪くなる程度だが、こっちはもう・・・・ダリィよ・・・・」

炎の被害はむしろ煙にあるといっていい。
空中の煙。
黒煙。

死骸騎士にとっては煙幕でしかない。
彼らは酸素なんて既に欲していない。
生きていないのだから空気を欲しない。

「ボクにとっても厳しいね」

エクスポもやれやれと両手を広げた。

エクスポ。
ガブリエル。
こちらの空中戦の要だ。

それがこんな事で不意になるのは痛手だ。

「あー・・・・しんど・・・・・」

そして、
要ではない空中人が、久しぶりに顔を出した。

「なにこれー?どーなってんのどーなってんの?」

バンビだった。
理解も遅いようで、皆が集まっているから寄ってきただけのようだ。

この炎の利用。
アレックスはそれを最大限に考える。

・・・・・だが。

「バンビさん」

「え?なになに?ビックリした」

「霧を撒いて下さい。出来る限り消火活動を」

これは・・・イレギュラーでしかない。
不運で、
被害。
それだけだ。
そう覚悟を決めるしかない。

幸運な事に、こちらにはスイ=ジェルン事バンビ=ピッツバーグが居る。

力を持て余していた彼女に、
人肌脱いでもらうしかない。

「ん〜・・・僕、結構デムピアスの件で動揺してるとこだったんだけどね。
 同じ海賊王として。・・・・残り少ないけどデムピアス海賊団の指揮も・・・・」

「お願いします」

「分かってるよもー」

しぶきをあげながら、
バンビは空中に飛び立った。

「・・・・・煙はともかく、炎自体には敵も手をこまねいているはずです。
 このドサクサはどうにか好機に変えましょう」
「ゲンジョー、発火地点は敵である事に代わりねぇしな」

ガブリエルがタバコを吸っている。
この炎の中、
よくもまだ煙を吸えるものだ。

「なら、ボクも出番だね!」

エクスポが得意気に言った。
空中で翼を広げてクルンと回る。

「この煙じゃぁどーせお役ゴメンだ。
 ボクのとっておきをビューティフルにお披露目しようじゃないか!」

「おめぇさっきもそんな事言ってたじゃねぇか。さっさとやれよ」

「・・・・・うるさいなドジャーは」

不機嫌なりながらも、
自分のこれからの行動に自信があるのか、
エクスポはすぐに得意気に代わる。

「さて、ショータイムさ」

エクスポはフフッと笑い、
片手を顔の前にもってくる。


「これが、芸術さ」


パチンッ

そう、指を鳴らした。

「フフッ」

戦場は燃える。
戦いは続く。
こうしている間にも、
人と死骸は戦い。
民と騎士は戦い。
終わる事はない。

命を削りあい、
そして・・・・・・好機を待っている。

そしてその一つが、

このエクスポの"とっておき"

「・・・・・・・・・・あれ?」

のはずだったが。

「あれ?あれ?」

パチン。パチンと、
何度も指を鳴らす。

何も起きない。
何も変わらない。

「おいエクスポ!もったいぶんなよ!何がとっておきだ!
 テメェのとっておきなんて一種類しかねぇんだから出し惜しみしてんじゃねぇよ!」

「ちょっとタンマ」

パチン。
パチン。
何度もキザに指を鳴らす。
が、
何も起きない。

「・・・・・アレックス君」

「なんですかノロマポさん」

「もしかして、内門って対魔力のコーティングとかしてある?」

「当然でしょう。世界最強の防御壁ですよ?攻城戦に備えてるんですから、
 内門にとっても天敵である対魔法策がとられていて当然じゃないですか。
 マジックネムアに使われる素材でコーティングしてあります」

「・・・・・・そっか。ちょっとまってね」

エクスポは首をかしげた。
どう見ても困っている。

「・・・・・・いや、ちょっと待ってね・・・」

重ねるように言い訳をし、
エクスポはWISオーブを取り出した。

「いや、ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってね。大丈夫。大丈夫だから」

大丈夫じゃなさそうだ。



































私はダブ。
反乱軍の男だ。

「どーしてこうなってしまったんだ・・・・」

西。

そこに私は位置している。

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・・」

煙が口を犯す。
当然だ。
馬鹿と煙は高いところが好き。
私が馬鹿かどうかは置いておいて、
高いところに居る。

攻城ハシゴの半ばに。

「クソッ・・・・」

それでも、どうにかもう一段、
ハシゴに手をかけた。
登る。
この城壁を。
見下ろせばなかなかの高さだ。
落ちたらどうなるだろう。

地獄の深さは知らないが、
地獄に落ちるには十分な高さだと思う。

「このっ・・・・」

城壁。
そこには装束部隊と呼ばれる忍者達が居た。
壁を走っている。
どうなっているんだこいつらは。

他のハシゴ。
同じハシゴ。
登っている仲間が彼らの手によって、何人も落とされていた。

「どうしてこうなっている・・・・なんで私は・・・・」

ここに居る。

私は、
百姓だった。
ただの農民だった。

ホロパを育てる事だけが生き甲斐だ。

ルアスで流通しているホロパの5%は私のものだ。
誇りだ。

しかし、
私はこの戦争に参加した。

俗世の底辺だと卑屈に考えながらも百姓をしていた私も、
自ら参加した。

参加したのはついさっきだ。
駆けつけたのはかなり遅い部類に入るだろう。

デムピアスが居たから。
それだけがこの戦争の参加理由だった。

百姓なんかしている自分にとっては反乱も蚊帳の外の出来事だ。
誰かが何かしてくれる。
その時代の流れに乗って生きてきた。
世界が変わるなら、やむなし。
自分は底辺の存在として、
それを受け入れなければならない。

税金がいくらあがろうとも、
横暴な圧力があろうとも、
ホロパを作り続けなければいけない。
そう思っていた。

でも、
デムピアスが居た。

俗世から隔離された生活を送っていた私にとって、
魔王デムピアスの存在は夢物語。
ファンタジーだった。

それが、
戦争に参加していると聞いた。
正真正銘、
本物の海賊王が、だ。

それも、
反乱軍の側でだ。


・・・・・いても立っても居られなくなった。

何をしているんだ私は。
そう思った。

魔物の王。
海の王。
機械の王。

王の中の王。

そんな存在でさえ、
この世界に不満があり、戦っている。

そういうことなんだろ?

私は居ても立ってもいられなくなった。
私も同じ立場にいけるのなら。

そう思い、

クワを捨て、剣を握った。

「どうして・・・・・」

ハシゴを登る半ば、
何度も口にする。
煙が苦しい。

「そのデムピアスでさえ・・・・落ちた・・・・」

王でさえも、世界に抗えなかったのに。
私のような底辺の存在が、
何故、
こうも一生懸命ハシゴを登っている。

「何度呟いた・・・この言葉・・・・」

私は、
それでもハシゴにもう一段、手をかける。

「皆が戦っているからだ・・・私もその一員だからだ」

もう一段。
煙の中、
攻城ハシゴを少しずつ、
少しずつ。

「私も世界の一部だからだ・・・底辺にも権利はあるからだ・・・・」

登る。
登る。
隣のハシゴが傾いた。
悲鳴が聞こえる。

一つのハシゴに十数人の男が登っている。
それが逆さまに倒れていく。
でも、
私は私のハシゴを登る。

「王は肥える・・・民から金をむさぼり、肥やしとしているからだ。
 その民・・・その民も生きている。生きているから食う。
 金を使い、食し、どれもこれも誰も彼も・・・生きている・・・・」

強者と弱者がいる。
でも、
誰もが、
食って働く。
金を稼ぐ。
その金で食う。
食うために金を稼ぐ。
稼ぐために働く。

「私のホロパも、その一部。世界の一部だからだ!!」

王も底辺も同じ。
同じ螺旋の中にあるからだ。

だから私も、世界に異議を唱えるために。

「あ・・・・・」

グラリ・・・・と、このハシゴが揺れた。

「落ちる!」
「落ちるぞ!?」

敵の力によってか?
装束部隊の攻撃?
はたまた、
下を崩されたか?

「ハシゴが燃えた!」
「駄目だ!崩れる!!」

フッ・・・と、支えが無くなるのに気付いた。

ハシゴはすでに城壁になく、
空中を彷徨っていた。

私は放り出され、
投げ出されていた。

「落ち・・・・・」

なんで私は落ちている。
ハシゴはなんで崩れた。
燃えた。
なんで燃える。
なんで炎がある。
なぜ燃え広がっている。

なんで私はここにいる。
私はなんで戦っている。


数時間前までただホロパ庭園を耕していたのに。


なんで私は落ちている。
地獄の深さは知らないが、
地獄に落ちるには十分な高さだ。

「・・・・・・私も・・・・」

世界の一部だからだ。

私のホロパは皆に食される。
だけど、
あのまま戦争を傍観していたら、
一生食われるままだ。

私も世界の一部だ。

一度くらい・・・噛み付きたかった。


世界の一部として死ねるなら、



悔いは・・・・ない。








「んなわけあるか!!!!」


私の視界は広がった。

「うぉおおおおおおお!!!」

不意に空中。
たまたま横を浮遊していた女神騎士。
それに、
剣を突き立てる。

「私もっ!私も世界の一部であり!一つの命だっ!!!」

空中にぶら下る。
女神に剣を突きたて、
空中に留まる。

クワから持ち替えた、その剣で。

「次だ!!誰でもいい!!次のハシゴをさっさと立てやがれ!!!!!!」

諦めてたまるか。
私は、
私は世界の一部だが、
世界の一部に過ぎないが、

世界なんてのは、

私の人生の舞台でしかない。

そんなもののために、
死んでたまるか。

「諦めてなるものか!世界も!自分の命も!私だって生きている!
 ほら!さっさとしろ同士よ!ハシゴを!ハシゴをかけるんだよっ!
 私がこのまま死んでいいのか?!私のホロパが食えなくなるぞ!!」


諦めてなるものか。





































「ちぃ・・・・・」

地面を滑る。
また危なかった。
一瞬遅ければ。

「ウフフ・・・・・やっぱりすばしっこいのは苦手だねぇ。それが面白いとも云うけども」

闇に食われていた。
ダークパワーホール。
あの一撃必殺の闇の中に。

「・・・・・こしゃくな」

キッと睨むイスカだが、
無き片腕からダラダラと血液が零れる。
なるほど。
四肢の一つが奪われるというのは、死に値するのも分かる。

ペットボトルでいうところ、
口の部分より大きな脱水口が生成されているわけだから。

「臭い物には蓋をしろって言わないか?家畜侍ちゃんよぉ」

ウフフと目を見開き笑う燻(XO)は、
表情だけで異常者にも見えた。
見えた?
見えるだけでなく、事実こいつは異常者だ。

「例えばこういう風に」

クソ野郎が突然発火した。
おそろいの、無き腕。
燻(XO)の右腕だったところが炎上する。

「ウヒッ!イヒヒヒ!熱ぃっ!痛ぇよおい!チクショー!」

自らそうしていながらも、
口の両端を吊り上げながら目を見開き、笑っている。

「たまんねぇなおい!なんで俺こんな思いしなきゃいけねぇんだ!?あ!?」

炎は止んだ。
燻(XO)の出血口は焼きただれ、
それによって出血は止まった。
戦場ではよく行われる止血方法ではあるが、

「あ?なんで俺がこんなクソみてぇな思いしなきゃいけねぇんだ!?
 誰のせいだ!?ったくたまんねぇよ!だからテメェも同じ思いしようぜ?
 な?ほれ、刀貸せ。てめぇのその傷口に突っ込んでヒィヒィ言わせてやる」

「御免こうむるな」

「嫌よ嫌よも好きのうちってね。クセになるぜ。
 ・・・・もっと・・・もっと・・・・あぁ・・・ってな具合にな。
 よがらせてやるよ。もっと高い声で喘ぐ姿がテメェには似合う」

御免こうむる。

剣を握る。
だが、
この剣に意味はない。

ラストブレードによって、
イスカの剣の威力は微力の微力にまで落とされる。

それでも、

「闘志は消えない。いいね。おっ立つよ。そういう強気な目を腐らせる過程。
 それが凄く、凄く心地いいんだ。"堕落"こそ上に立つ者に許された楽しみだ。
 さぁ、仲間入りだ。お前も「殺して」と懇願しながら股間を濡らす事に・・・・」

「飛ぶのは止めん。拙者は二度と落ちぬ」

もう、落ちない。
もう、地に落ちてたまるか。
十二分に落ちたのだから。

「拙者はイスカ。青い空の渡り鳥の名だ。マリナ殿がくれた名だ。
 二度と落ちん。地の上は真っ平御免。大空を知ったなら尚更だ」

「地の下はさらに心地いいんだけどねぇ」

べろんと紫の唇に舌が這う。

「だが名前。んー。名前。大事だねぇ。家畜に名前はいらないけどな。
 俺はほとんど失っちまった。お前を新たな家畜1号に任命してやる」

「御免だ」

「その強気がいい。恨みと混ざり合って心がネトネトに熱くなる。
 ・・・・・そう、名前。名前だったな。お前には家畜1号と名付けるとして、
 長者にはその名付ける権利がある。その者に合った名前っつーもんがよぉ」

優雅に、燻(XO)は両手を広げた。
片手が無い事を忘れて。

「たとえばウンコ。ウンコっつーのはなんでウンコって呼ばれるんだろうな。
 それは簡単。あれがウンコだからだ。生み出された瞬間、ウンコ以外の何物でもない。
 そう呼ばれる以外はない。完璧な呼称だ。誰も異議を唱えんだろうよ」

何の話をしている。

「だから俺は改名した。偽嘘(マコト)なんて名前も気に入っちゃいたが、
 それは俺を表していない。ウンコがウンコと呼ばれるのに、何故俺はそう呼ばれない?
 だから改名した。俺はこの名が最高に似合っている。・・・・・そうだろ?」

クソ。
クソ野郎。
こいつは、
自らそれを認めつくしていて、
自分がどういう存在かを理解していて、
納得していて、
肯定までしている。

下品で最低なクズ野郎である事を、

誇りにさえ思っている。

「理解に苦しむな。ウンコヤローめ」

「ウフフ。言い直せ。俺の事はウンコでなく、"クソ"と呼べ!もっと高貴に!高尚に!」

「最低のクズだな」

「・・・・・いい」

燻(XO)はウットリと、表情がトロけるように崩れる。
涎が零れそうなほどに。
下半身が盛り上がっている。

「もっと俺を蔑(さげず)んでくれ・・・・もっと俺を蔑(ほ)めてくれ・・・・
 嫌ってくれ・・・軽蔑してくれ・・・愛してくれ・・・・そこに俺の存在意義がある・・・・」

鳥肌が浮かんでいる。
美しい顔の両目玉が上を向き、
口が垂れる。

この男は何もかもが異端だ。
異なった上に、
違う世界・・・異なった世界に居るクセに、
その端の端。
最低の影の陰の隅に存在する。

異端のクソだ。

「お主のその顔、見飽きた」

というより、

「もう見たくはない」

「お?」

瞬間移動のような踏み込みだ。
燻(XO)もミリ単位程度に驚いた。
眼前、
目下に侍が詰め込んでいる。

「斬る」

「斬れんけどな」

ラストブレードによる劣化。
剣は通じないのは分かっている。

「だが、拙者は剣しか能が無い」

それに、
こんなもの、存在する価値もない。
またつまらぬものを斬る。
そう思うと、
自然な形で剣が振れた。

「・・・・・・ウフッ・・・・」

燻(XO)は笑った。
通じないはずのその剣は、

わずかに・・・・わずかにだが、
燻(XO)の脇腹に食い込んでいた。

「・・・・ウフッ・・・・・アハハハハハハハハ!!!」

片手で顔を覆い、突然に笑い出す燻(XO)。
その動作が何か攻撃の動作と思い、
イスカは飛び退いてしまったが、
この戦いの最中、
燻(XO)は堂々と笑い上げるだけだ。

「なるほど!なるほどなぁ!ラストブレードさえ貫くかその剣は!」

「『ハートスラッシャー(この世に斬れぬもの無し)』・・・・・
 剣聖カージナルの剣と意志を継ぐのが拙者だ」

「あぁ面白い!面白すぎてつまらないなぁおい!この世はハッキリ二種類!
 楽しむ者と・・・・お前だ。わずかな希望でも見せてしまうとつまらねぇじゃねぇか!
 こう・・・・落ちて堕ちて、わめき、無き、失意する過程が途絶えちゃうんだからよぉ!」

そう言いながらも、
楽しそうだ。
イスカを恨み、
愛し、
どん底に落とす。
その過程が何よりも楽しくて楽しくて。

「・・・・・・ふん」

イスカは考えを切り替える。
もし、
さらに磨きがかった剣を振れたならば、
もしかするとラストブレードを無効化するほどに、
それほどの鋭さで剣を振れるかもしれない。
いや、
振れる。

しかし、
剣技とは、"それだけにあらず"。
今までも幾度とやってきた。

それならば、もっと確実に・・・・

「"剣が退けたぞ"」

燻(XO)の言葉に、イスカはビクリと背が反応した。

「いい反応だ。だが安心しろ。俺は魔術師であってエスパーではない」

「・・・・・」

「だ・ぁ・が、お前の行動は手にとって摘まんでクリクリするほど分かる。
 わぁーかるんだよねぇ・・・・・・・・・・蹴りたいんだろ?"コレ"を」

指し示す事もしなかった。
だが、
どれの事を言っているのか分かる。
それは、
まんまとイスカの思惑を読まれた結果だったからだ。

「この車椅子。俺の生命線だ。剣の火力を鈍らせたところで、体重が変わるわけじゃぁない。
 ・・・・・だからラストブレードがあるとはいえ、我武者羅に突っ込んで、
 そしてどうにか車椅子を揺らす・・・・・事が出来ればいーよなぁ?なぁ?」

思惑は完全に読まれていた。
読まれた?
いや、
見取ったのだ。
イスカの構え。
動き。
そこから、イスカの感情を。

「おう、いい考えだ。ハッキリしている。そして正しい。
 蹴りでならば、俺に通用するかもしれん。いや、通用する。
 魔力ってもんは物理法則までは揺るがせないもんだからな」

自分でも分かっているが、
イスカは頭が良くは無い。
ラストブレードがどのように作用し、
剣の威力を衰えさせているかまでは知る由はない。
考えるだけ無駄だ。

しかし自分の持つ剣が紙切れに等しくても、この体は、この体だ。

「ま、オツムがあまりにも可哀想だから先に助言で愛撫してやろう。
 デムピアスの攻撃の時見てなかったか?俺にはカーズディフィンスがあるぞ」

デムピアスの攻撃さえも無効化する、
鉄壁の防御。

「それをお前が突破出来たのは、その剣の異常な鋭さがあったからだ。
 蹴ぇりじゃぁねぇー・・・駄目だろ。馬鹿じゃねぇの?な?いや、嫌いじゃないよ。
 能無しはよ。アヘアヘ〜って言ってみろ。な?超似合う。愛くるしさ満載だ」

「神経を逆撫でる男だ」

「素直に感じたって言えよ」

「・・・・・ふん」

横着が過ぎた。
こんな自分が思考などを持つのが馬鹿らしいのだ。
自分に何がある。

剣だけだ。

頭じゃなく、心で動く。
思った時、
剣は・・・・・最高の形で振り切れているだろう。

「終わりにしよう」

イスカは剣を鞘に収めた。
諦めではない。
構えだ。

「抜刀術。・・・ウフフ・・・・この俺の右腕(ダーリン)を奪った技だな」

サベージバッシュ。
イスカが持つ中でも最高の技だ。
・・・・しかし、

斬れるか?

「・・・・・ウフフ・・・・」

先ほどの剣はわずかに食い込んだ。
だが、
その上をいけるか?
いや、断体出来るレベルにまで一振りを昇華できるか。

この一撃にそこまで重みを持てるだろうか。

燻(XO)の余裕の表情は、それは思っていない。

なら面白い。
剣。
自分にはこれしかない。
これのみだ。

「不器用だから」

この道一つでしか、人生をやってこれなかった。
シシドウとして生きた時代も。
それさえ知らなかった時代も。
そして、
シャル=マリナという恩人と出会ってからも。

これだけは変わっていない。

人を斬る自分が嫌いでも、
人を斬る自分が好きでも、

これだけは手放せない。

剣は、誇りだ。

「これは・・・・・渡り鳥の翼だ。これからお前に・・・・・」

「俺に?」

「神風が吹きぬけるぞ」

燻(XO)が笑って何か声を返してきていた。
だけど聞く耳なんてない。
知らない。
それほど無心になれた。

あんな底辺のクソったれなど、もう眼中にないほど、
心を無に出来た。

体が軽い。

まるで、空を飛べたみたいに。



「・・・・・・・・神風(サベージバッシュ)」



自分の意識に気付いたのは、
通り過ぎてからだった。

斬り抜けた後になってからだった。

剣を振り切っている自分。

そして、
背後には車椅子に乗った紫色のクソ野郎。

「・・・・・・ウフフ・・・・」

彼は笑っている。

「ウハハハハ!すげぇ!すげぇよ姉ちゃん!マジ?マジもん!?
 ウヒャハハ!見えなかった!見えなかったぜ!最高!!!」

燻(XO)は片手を挙げ、
天に向かって笑っている。
大きく、
大きく笑っている。

斬られた事も気付かずに。
いや、
気付いた後だからこそ、大きく笑っている。

「また、」

つまらぬものを斬った。
そう・・・イスカは剣を鞘に収めた。
のと同時。

燻(XO)の体から鮮血が。

「世の中はハッキリ二つ」

剣を、収めた。

「・・・・・・敗者と、」

剣・・・を、
剣。

「俺だ」

剣は、どこだ。

「これをお探しか?」

ハッと振り向いた。

紫の悪魔がニタニタニタニタ笑っている。

摘まむように、燻(XO)の左の指の間に、
見覚えのある刀がぶら下っている。

自分の手には・・・・・・何も無い。

「見えんかったけど、なぁーんとなく軌道は読めた」

鮮血などあがっていない。
燻(XO)はすこぶる健在。

斬ったはずの自分の手に、剣は無く、
斬られたはずの相手の手に、剣がある。

それが答えだった。

「馬鹿・・・・な・・・・」

「なぁーんか言ってたよね?鳥がどーとか、羽がどーとか。
 あら?あらあらあら?ここに大事な大事な片翼が?
 らららららら・・・・・これは大変だ!飛べないじゃないか!」

可笑しそうに笑う燻(XO)を尻目に、
イスカはただ、

呆然とした。

「いーーーー気分だ!飛ぶ鳥の羽を千切り取っちゃった!
 どうなっちゃうんだろうねぇ。そりゃぁ決まってる。
 堕ちて落ちて、地面に落ちて、バタバタバタバタともがく」

ふざ・・・・けるな。
魔術師だろう?
魔術に長けているだけだろう?

自分には剣しかない。

神は人に何かを与える。
自分の翼はコレだ。
あいつの翼は別にある。

なのに・・・・・なんだこれは。

どうなっていて、
どうしてくれるんだ。

何故あんな・・・あんな・・・
底辺の底辺の底辺。
最も最も最も悪な、
最悪の最低な野郎が、


あんな手の届かないような高みに居る。


「ウフフ・・・・まぁもうちょっと楽しくいこうぜ。返してやるよ。
 俺こんなん使えないし、俺は股間にもっと業物が控えてるしな。
 ・・・・・ウフフ・・・・・半分鞘かぶってるけど!ウヒャハハハハ!!」

剣が投げ返される。
それは、
空中で何回転かして、
イスカの目の前に突き刺さった。

それも拾えず、
そんな施しは手に出来ず、

ただ、
ただ呆然としていた。

「ほら、返すって。あ、勝手にパクったせいで怒った?ねぇ?そりゃぁ悪ぃ。
 人様のものはとっちゃいけねぇよなぁ。・・・・・・命と人生以外は♪」

誇りを、奪われた気分だった。

自分には、これしかないのに。
これだけが取り得なのに。

他の何を奪われてもいい。
唯一磨いてきたものなのに。


「オゥルァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


イスカの背後から、
顔の横を何かが霞め通っていった。
その重圧な風圧で、
イスカの髪が前に靡いた。

「なんだこれ?」

微動だにしない燻(XO)から少し離れた地面に、
ソレ、
その両手斧は着弾し、
地面を跳ね上げた。

「しょげてんじゃねぇ」

後頭部に一撃。
バヂンと張り手。
呆然というか朦朧としていたイスカは、
情けなく前のめりに叩き付けられた。

「マリナまで取られていいのか?」

イスカは顔面を地面にめり込ませたまま、
停止していた。
ドレッドヘアーの馬鹿が、
声を投げつけてこようと。

「おいコラてめぇ!!!」

メッツは、
イスカの頭を掴んで引き起こした。
そして死んだ目をしているイスカの額に、
音がする勢いで己の額をぶつけた。

「下手こいた勢いでこっちに寄ってみりゃテメェ!
 なんだこのザマは!いや、なんだテメェのザマはよぉ!」

cm単位の顔の距離でも、
イスカはメッツの眼に眼を合わせなかった。

「マリナに惚れてんのはテメェだけじゃねぇぞ!?
 だが俺は、"テメェになら任せてもいい"。そう思って任せていたっ!
 なのにテメェはこんなくだらねぇ姿さらしてやがる!」

「・・・・ウフフ・・・おい。ゴリラ。いきなり現れてなんだ。
 お前は500回生まれ変っても俺の悦楽の対象にならねぇ。黙っ・・・・」

「黙ってろ"四足"!!」

燻(XO)の表情が、
美貌が、
へしゃげるように固まった。

メッツはかまわずイスカを罵倒する。

「テメェの剣はなんだ!?剣はなんだった!あ!?
 俺の斧と同じだ!ただの"足"だ!進むための足でしかねぇだろ!
 んじゃぁなんだ!てめぇの目的ッつーもんはなんだっつーんだ!!」

剣。
何故、自分は剣を握っている。
最強の剣士になるためか?
剣の最たる高みに辿り着くためか?
剣による、無双者になるためか?

「・・・・・たわけ」

「ぁあ!?声が小さくて聞こえねぇな!」

「ヤニ臭いのだ!離れろたわけ!!」

次の瞬間には、
イスカの拳がメッツの頬を貫いていた。
よろけるメッツ。

「ふん」

イスカは右手で、自分の頬を叩いた。
パチンと女の肌が弾けるような音が鳴る。

「言われんでも分かっておるわ。足りん脳細胞のぶろっこりー全開にしおって」

「・・・・・ガハハ。ボキャブラリーだろ」

「ふん」

ハラリと、
イスカの足元に、長い布が落ちた。
イスカが胸に巻いていたサラシだ。

「とっとと拙者の左腕を縛れ。血が流れすぎて足りんくなってきた」

「頭を冷やすには調度よかったんじゃねぇか?」

ガハハと笑い、メッツはサラシを拾った。
拾うなり、ムチのようにピシリと引っ張り、

「よっ・・・・と」

途中から欠落しているイスカの左腕に回し、
引っ張る。

「ぐっ・・・」

骨が軋むような音がした。

「馬鹿力が」

骨が折れるんじゃないかというほどギチギチと縛りつけ、
さらに最後の一噴き、血流が飛ぶ。
そんな状態でサラシを結んだ。

「加減をしらんのか馬鹿者め」

「これぐらいしねぇと血は止まんねぇよ。泣くほど痛かったか?」

「ふん。女じゃあるまいし、この程度で泣くか」

「女じゃねぇか」

「性別など当の昔に捨てた」

「そうかい」

メッツは相変わらず歯を大きく見せて笑う。
そして二人同時に照準は決まる。

「男は守り、女は守られる。それならば、女などに留まるつもりはない。
 拙者には守りたいものがあるのだ。お主の言う、目的がな」

「カッコイイねぇ。テメェが女なら惚れてたかもな」

「それは助かった」

しかし生憎、二人の想い人は同じだ。

「・・・・しかし、そうだな」

イスカは、剣を抜いた。
地に刺さっていた剣を抜いた。

「拙者は、道を進む方法を知らん。一つしか」

剣で、
切り開く道しか。

「不器用でな」

剣は足だ。
進むための。
大事な、大事な。

しかし、
足が止まっても進むのをやめるわけにはいかない。

「・・・・・・・・おいゴリラ」

ピクピクと、額に血管を浮き上がらせる燻(XO)が、
やっとのことで口を開く。

「非常に・・・いや、異常にムカついたぞ・・・・。知ってるか・・・・
 人様の欠陥を指摘するような奴は、人としてあっちゃいけねぇ・・・・」

「そうなのか。だが俺はゴリラだからな」
「鬼畜道に落ちた男に人道を語られては敵わんな」

「俺の・・・楽しみに水を差しやがって・・・てめぇの登場だけで気分台無しだ。
 勃起も絶頂って時に萎え萎えだ・・・・俺の眼前から退場させてやる・・・・」

「なぁイスカ」
「なんだ」
「乱入者である俺は確認したいんだが、
 この変態みてぇな奴を倒せばマリナを守った事になるんだな?」
「違う。変態みたいではなく、変態だ」
「あぁ」
「後者は・・・・まぁその通りだな」
「そうかい」

バキッバキッ・・・と、メッツの拳が鳴った。

「最後に取り合ったのはケーキかなんかだったか」
「あぁ」
「今回は俺がもらうぜ」
「譲れんものがある」
「そうかい。誰か居たら協力って手を指摘されると思うが」
「知ったものか。拙者は不器用でな」
「俺もだ」
「奇遇だな」
「あぁ」

「ウフフ・・・・」

燻(XO)の笑い。
同じ笑い方だが、
それは愉快のカケラもないように感じられる。

「テメェらみてぇなド畜生がギャーギャーとよぉ・・・・
 この世は二種類だ。テメェら如きが"勝者"に勝てるとでも思ってやがるのか」

「さぁて」
「知らね」
「あまり頭がいい方ではなくてな」
「奇遇だな」

「このド畜生がっ!!!!!!」

燻(XO)のダークパワーホールが発動した。
































「ドジャーさん!メッツさんは!?」
「いやだから!出ねぇんだって!WISに!」
「WISをコールしたのは5分前の話でしょう!?現状どうなんですか!」
「片手間に電話しながら戦闘出来るわけねぇだろうが!」

戦場はまた活気を戻していた。
いや、
それ以上に。
デムピアスの脱落。
それによって戦意が喪失されるかと思いきや、

反乱軍。
その一人一人に意志があり、
個人個人が抱える責任感があった。

まるで穴を埋めるべく、内門下の戦火は燃え上がった。

「おい!アレックス部隊長さんよぉ!」
「なんですかエースさん」
「メッツはどうしたっつー話だよ!」
「ドジャーさんに聞いてください!」
「繋がらねぇっつってんだろ!情報屋からの連絡待った方が早ぇ!」
「攻城ハンマーのお陰で対・重装騎士の人手はあがってるが、
 ミラ部隊長倒さねぇとどうにもならねぇだろ!
 クシャールのジイさんは強ぇが、単体でミラを落とせるとは思えねぇぞ!?」

分かっている。

今一番のポイントは五天王ミラだ。

重装騎士に対抗する手立ては攻城ハンマーのお陰で厚くなったが、
それでも目に見えて効果的というわけではない。
それでも最強の鉄壁。
内門の防壁部隊だ。
堅い。

逆に押しつ押されつの持久戦だ。
悪く言えばジリ貧。

ディエゴ=パドレスの戦略どおり、
先にダウンするのは反乱軍で間違いない。

大きく戦況を変える必要がある。

「エールさん!」
「う、うぃ!」
「消火活動の方はどうなっています!?」

炎。
ダニエルが撒き散らした炎。
特に炎上する西と東の城壁。
もちろん、炎で城壁は溶けたりしない。

炎が毒となっているのはこちらだ。

「うぃ!バンビ=ピッツバーグさんの消火活動は・・・まだ目に見えて効果をきたしていません。
 攻城ハシゴを逆に危険として、本数はかなり限られています。
 空中戦も未だ続行不可能と思います・・・・・城壁に関しては帝国優勢かと」

「参ったねぇ」

上半身裸の天使が、
慌しい戦場の中で寝転んで一服ふかしていた。

「役に立てない事がこんなに悔やまれるとは・・・・・ふぅ・・・・・」

ノンビリと煙を吐き出すガブリエル。
神ほど役に立たない存在はいない。
聖職者にとっては甲斐の無い姿だ。

「逆に城壁・・・壁自体に配置されている部隊。装束部隊の忍者達は陣形を広げています。
 このまま炎があがったままだと、縦のラインが厳しくなってくるかと・・・・」

ドン詰まりだ。
東と西は炎のせいで半凍結状態。
そしてもとから本命の内門もこの有様だ。

部隊長ミラを倒す術は思い当たらず、
メテオを放つための燻(XO)討伐も同じ。

「アレックス部隊長!」

医療部隊の者が、駆け寄ってくる。

「エドガイ=カイ=ガンマレイの所在が明確になりました!」

「やっとか」
「東・・・とだけは聞いていましたが?」

「52番隊部隊長グッドマンと交戦中です!
 グッドマンはともかく、エドガイ氏は戦況を微塵も考慮して戦闘を行っていません!」

私情に走った。
そう判断するしかない。
もちろん、
ダニエル、ガブリエル、クシャール同様、
この戦争に意志を共にしている同士・・・という訳ではない。

エドガイが戦争を行わなければいけない義務などないが・・・・

「どうする!?アレックス!半凍結状態の東西を先に整理するか!?
 聖職者をファイアダウン要員にして消火活動に当たらせるとかよぉ!」
「却下です」

聖職者は要。

「ただでも治療員は全体で足りていません!
 その上聖職者は死骸騎士に有効な聖スキルが扱えるんですから!
 炎はバンビさんに任せます!これ以上は割けません!」

ならば、
ならば内門だ。
ドン詰まり状態でも、それしかない。
しかし、

「妙です」

敵から見てもそれは同じだ。
それでも中心は内門の突破戦のそれなのだ。
向こうにとっても予想外だった炎のはずだが、
向こうにとっては幸を成した筈だ。

一気に東と西が楽になったはずなのだ。
炎の被害は同じでも、
煙という二次災害は、こちらにのみ毒なのだから。

「なのに内門を固めてくる気配がない」

内門に兵を割いてくる気配がない。
攻城ハンマーで、内門は今までよりキツい攻撃になっているはずだ。
さらに、
デムピアスの最後の一撃でかなりの重装騎士を大破しているのだから。

「何かあるはずです!」
「西はあれじゃねぇか?フレアのメテオを警戒して討伐に兵を割いているとかよぉ」
「どちらかというと、格好のチャンスなのにそれをしてこない西が怪しいんです」

西と東が帝国優勢になった今、
畳み掛けるようにフレアを狙ってきていいはずだ。
それさえしてこない。
かといって、内門に兵を割くわけでもなく、

現状維持。


「YOYOYO!アレックス部隊長サーン!お困りデスカー!?」


どこからの声かと思うと、
それは、
内門自体。

「内門がしゃべった!?」

というドジャーのセリフは、皆スルーした。
声は、内門の扉・・・そこに立っている男。
重力を無視したように扉自体に立っている男。
金髪の忍者。

「装束部隊の部隊長。コエンザエモンさんです」
「あの壁走ってる忍者共の部隊長か」

「YOYO!ファイアのプレゼント、センキューネー!
 こうしてワタシの部隊は完全フルセットネー!」

分かっている。
報告の通りだ。
煙で視界も薄く、魔法による砲撃は効果が弱まり、
攻城ハシゴも大半が中止している。
空中戦も出来ていない。

城壁は、忍達の姿で埋め尽くされていた。

「縦のラインはワタシの部隊のお陰でオールオッケーヨー!
 ハッハー!対策しなくてイーんデスカー!?出来るもんナラネー!」

「挑発に乗るなよアレックス!効果が期待できない空中戦を煽ってやがる」
「・・・・・・・」

それ以上に、アレックスは考えていた。

「ハッハー!YOYO!ワタシの部隊のニンジャが怖いとミエール!
 デモそれショーガナイねー!天災のお陰でカチイクサだヨー!」

「あいつムカツクな・・・なんか・・・おい!おいエクスポ!
 内門周りは煙がまだ薄いからよぉ!てめぇあいつぶっ殺してこい!」
「まってまてまって・・・今連絡中・・・・ボクのとっておきのために・・・」
「まだやってたのかよお前!とっておきすぎだ!腐るぞ!」

アレックスは・・・・考えていた。
腑に落ちない事が多すぎる。
それらを踏まえて、
今なすべき事はなんだ。

「HEYカマーーン!このコエンザエモン=テンクウがお相手するヨー!
 天使サーン!来るなら来ちゃいなヨー!ワタシら忍ばないヨー!」

腑に落ち・・・・ない。

「エールさんっ!!」

アレックスは、ハッと気付き、叫んだ。

「う?うぃ!?」
「攻城ハシゴ、及び魔法による砲撃の体勢を全部リセットさせてください!それと・・・」

「ワァーーツ!?」

内門の壁で、金髪の忍者が疑問系の声をあげた。

「コエンザエモンさん。手が空いてるからって出過ぎた真似をしましたね。
 ディエゴさんぐらいの慎重さがあれば、僕もすぐ気付かなかったかもしれません」

「・・・・〜♪・・・・」

金髪の忍者は口笛で誤魔化していた。

「帝国側が現状維持だった理由・・・それとわざわざあなたが出てきた理由。
 もちろん、それは誤魔化すため。僕らがそちらに目を向けるのを、少しでも遅らすため」

アレックスは、
指を内門のコエンザエモンに突きつけた。

「炎による被害はそちらにもあったわけです」

コエンザエモンは顔を背けた。

「ダニーの発火地点。最初の炎上地点。それはフレアさんの思惑通りにいった。
 炎のせいで状況把握が遅れていますが・・・・・・鼓舞部隊が落ちたと見ていいでしょう」
「あ?なんだっけ?それ」
「部隊長アバ=キスさん率いる鼓舞部隊。広範囲支援補助が任務の詩人部隊です」
「・・・・カッ、そうだった。途中から敵単体の質が上がりやがったんだった」

アレックスは、それが落ちたと見る。

「欲を言えばほぼ全壊。甘めに見積もっても、アバ=キスさんが落ちましたね」

つまり、
と、
アレックスはコエンザエモンに向かって言う言葉を、
そのまま部下達が指示として使えるように唱えた。

「帝国は現状、広範囲支援をしていた鼓舞部隊が落ち、"地上戦が劣化している"。
 炎のせいでそれに対応した陣形の整備も間に合っていない。
 あなたは上に目を向けさせたかった。地上戦をさせたくなかったからです」

アレックスの部隊の者が、一斉に連絡を始める。
各隊に、指示を飛ばす。

「西と東を攻めるなら、むしろ今しかないというほど弱っていますね。
 炎に加え、乱戦に持ち込んだため、体勢を整えるのに時間がかかる。
 時間が欲しかった。露骨な挑発のせいで逆に気付く結果になりましたけど」

アレックスにとってのイレギュラーは、
やはり敵にとってもイレギュラーだった。

鼓舞部隊が落とされるだけでも全体が劣化する上に、
炎が広がったせいで、連絡網がうまく機能していない。
なんだかんだといっても、
炎が広がっているのは敵の陣になのだ。

「アバ=キスさん殉職の報告も近いうちにあるでしょう。率先して調べさせてます」

「・・・・・シット」

金髪の忍者、コエンザエモンは、
内門の壁から、ツバを吐き捨てた。

挑発が下手だったように、態度に出やすい男だ。
鼓舞部隊。
そして部隊長アバ=キス殉職はほぼ間違いないだろう。

「西は足りる分だけ、残りは東に回してください!東と西の地上戦に切り替えます!
 城壁の忍者、窓枠の魔術師、空中の女神、縦軸の対応はほぼ停止します!」
「アレックス!」
「なんですか!?」
「炎が味方になった以上、バンビの消火活動をやめさせた方がいーんじゃねぇか?」
「いえ、それはそのままやらせてください。恐らく消火よりも敵が立て直す方が早い。
 そうなると結局また炎はこちらの足枷に逆戻りになります」
「・・・カッ、それまでの単騎集中の地上戦か!」
「ここ数分が重要ですよ!一気に西と東をこちらの優勢に傾けます!」

「ア、アレックスぶたいちょ!」

エールが何か連絡を得たようで、
アレックスに声をかける。

「フレア=リングラブさん。メテオの詠唱が規定のレベルまで達したと・・・・」

いいタイミングだ。
素晴らしく。
イレギュラーは・・・・こちらに味方していた。

「神のイタズラって奴だな」
「まったくです」

ダニエル自体はそんな事も考えて行動してはいないだろうけど。
不幸中に幸いがあった。
とり逃さず、見つけることが出来た。

「・・・・・シカーーシ!しかし!アレックス部隊長サーン!」

コエンザエモンは本当に態度に出やすい男のようだ。
負けず嫌いな言葉が露になっている。

「燻(XO)将軍!ミラ部隊長!この二つはやはり手立てナイデスヨネー!?
 SO!やはり決め手はこの内門!ワタシの足の裏にある内門デスヨー!
 結局これは突破出来ナーイ!世界の扉は開かナーーーイ!!」

それは・・・・・事実その通りだ。
やはり、
やはり内門への対策はない。
フレアのメテオは装填された。

ならば燻(XO)。
燻(XO)を倒さなければいけない。
そうでなければ、この戦況は最悪のところは改善しない。

何か・・・・
内門に動きが欲しい。


「だから!!!」

それらの戦況から切って離されたような話し声が聞こえる。
いや、
それらを全て無視して、寝転がってタバコを吸っている天使もいるが、
それはもう一人の天使。

「なんでだいミヤヴィ!友達だろ!?美しきフレンド!」

WISで連絡を取り合っているようだ。
察するに、城内のミヤヴィ=ザ=クリムゾン。

「いーじゃないか!ちょっと!ちょびっとUターンするだけだって!
 ・・・・・・そう!そう!内門の裏のところまでさ!・・・・・・・・違うんだって!
 あの時はまだ時期じゃなかったわけなんだよ!今は時期!」

まだ、とっておきとやらのために、
悪戦苦闘しているようだ。

「・・・・違うよ!ボクがお願いした奴とは別件!・・・・・へ?
 ・・・・いやそりゃ忙しいと思うよ?君は二人で城内に居るんだしね!
 でも!・・・・え?・・・・・・大丈夫じゃないって!・・・・・ちょちょちょ・・・・」

エクスポは最後に何度も叫んでいた。
だけどWISオーブからは応答が無くなっている様だ。

「ガッデム!!」

エクスポは地面を足蹴にした。
した後にハッ・・・と

「ハハッ・・・ちょっと取り乱しちゃったね・・・・いやぁ・・・ボクとした事が美しくない・・・・
 ・・・いやいやいや!美しくないわけじゃないさ!そりゃぁ思い通りにいかない事もあるよ!
 そういう遺憾は芸術家の妥協無き精神として重要な事であってね!」
「いや、エクスポさん」
「今から集中的な地上戦になるからよぉ。空中戦が出来ない現状、
 お前には内門戦に力を注いでもらおうと思うんだがどうよ?」
「何を言っているんだい!ボクの美しい作戦がもう無かった事になってるじゃないか!」
「無いじゃん」
「無に美しさはありません」
「あるから!あるから待って!」

エクスポは必死だった。
最近は存在感があると思ったら、
存在"意義"が疑われ始めた。
どちらがマシかと思うと、どうとも言えない。

「周りくどいんだよ。んでそのとっておきはなんなんだよ!」
「・・・・フフフ。どーしよっかなぁ。教えてあげちゃってもいいんだけどさ」
「うぜぇ・・・」
「んじゃいいです。エクスポさんがやる事なんて言わなくても分かります」
「取り得限られてるからな」
「分かった!お話しよう!しょうがないから!」

必死な神様だ。

「何を隠そう、内門突破のための作戦なのさ」
「だろうな」
「でしょうね」
「・・・・・あれ?」
「っていうか今、その作戦じゃなかったらぶん殴ってるな」
「現状を把握出来ていないというか空気が読めないというか」

思ったように驚きを与えられなかったようで、
エクスポは動揺していた。

「いや!で!その作戦のポイントというのがだよ!
 さっき話してたように、ボクがここから遠隔着火が出来ないせいでね・・・・」
「着火」
「着火」
「やっぱそれか」
「それですね」
「そこ!そこめざとく読みとらないで!」

もとからバレバレだ。

「それで内側からの協力者が必要だったんだけど・・・・」
「ミヤヴィさんが協力してくれなかったわけですね」
「・・・・・・まぁ・・・・」
「発動出来ない時点でお前の作戦もうゴミじゃん」
「作戦の不法投棄ですね」
「発動しない時点であってもなくても同じじゃん」
「エア作戦ですね」

えらい言われようだ。

「けど、けどだよ!もし!もし発動してたら!」
「たら」
「れば」
「・・・・・いや!そうだけどもしもちゃんと発動出来ていたら!!」

エクスポは指を指し示した。

「あの内門がっ!!!」

その時、
戦場が揺れた。
篭ったような轟音。
何かに封じ込められたような轟音が鳴り響く。
地面が薄く揺れる。

いや、
その中心は・・・・・

「・・・・ど・・・・・かーーーん・・・・・・」

本人も思いもよらなかったようだ。

そう、
内門が大きく揺れていた。
あの難落不動の鉄扉。
何もしてきても動かなかったあの鉄壁の内門が、

揺れていた。

「・・・・・・」

明らかに今までと違う。
明らかに・・・・

内門事態に異変が起きていて・・・・・・・・効果をきたしている。
内門の側面に立っていたコエンザエモンが、
反動で落下するほどに。

・・・・・
エクスポがアレックスとドジャーの方を見た。

「・・・・・・・・」

そしてニヤリと、どや顔で親指を立てた。





































「ビビった・・・・俺のチャカが凄ぇ進化したかと思ったじゃねぇかボケッ!!!!!」

アロハシャツを着たチンピラは、
後ろを振り返って部下達に語りかける。

「いや!そうなのか!?俺のチャカは超絶な威力を誇るようになったのか!?」

「違いまさジャイヤの兄貴!」
「兄貴の空気弾は引き金に過ぎんです!」
「恐らく爆弾か何かが仕掛けられていたんだと!」

内門の裏側。
ジャイヤ=ヨメカイ。
及び昇竜会の分隊・鉄砲弾一団は、
再度そこに居た。

「爆弾だぁ!?どこにだボケェ!」

「今爆発したじゃないですか!」

「俺ぁ訳分からんから適当に発砲してただけだぞ!
 それこそ発砲だけに四方八方・・・・・ってやかましいわボケェ!!!」

ジャイヤは親指と人差し指を立て、
銃に見立てて発砲する。
エアガン。
一点集中型ウインドバイン。

やたらめったに。

「爆弾たってどこにもそんなもんねぇじゃね・・・おわっ!!!」

二度目の爆発。
ジャイヤの発砲がまた爆弾に着火したのだ。

突然の巨大な爆発に、
ジャイヤを含めるヤクザ達は、その場に立っているのがやっとだった。

天上が揺れる。
地面が揺れる。

そして、内門が揺れる。

それこそ外側の者達よりも数倍も大きくその衝撃を感じているだろう。

この巨大な城を支えている太い太い柱が3本ほど崩れた。
シャンデリアが2つほど落下し、
美しく弾けてその生命の灯りを散らす。

「どーなってんだこりゃぁ!ボケェ!」

発動源はジャイヤ自身なのだが、
本人にもその経緯は分かっていない。

「あの途中で出会った44ボケ共に、ココに来いって言われたから来ただけだっつーのに!」

「だからその理由がコレなんですよ兄貴!」
「見えない爆弾が設置されているんでさぁ!」
「内門の裏側に!」

見えない爆弾。
空気の爆弾。
エクスポの爆弾。

ジャイヤの銃弾がそれに当たり、
発動。
爆発する。
単純な過程だ。

くしくも、偶然。
限りなく偶然だったが、
空気の爆弾と空気の銃弾。
この組み合わせも相性が良かった。

「にしてもスゲェでさぁ」
「あの内門がグラングラン揺れてますぜ!」
「兄貴が何やってもビクともしなかったのに!」

「じゃかましいわボケェ!今は俺のお陰でこうなってんだろがボケェ!」

「炭鉱でダイナマイトを使うのにマッチを褒める人はいないでさぁ!」
「いや、だがよぉ」
「実際どうなってんだ?」

ヤクザ達にもそれは疑問だった。
内門。
その重厚な防御力。
装甲。
その凄さは知るところだ。

「あのエクスポって奴の爆弾なんだろうが」
「それでもビクともしなかったって44の奴ら言ってたよなぁ」
「だが、奴らのいうとおり来てみれば・・・・」

内門が揺れている。
明らかに衝撃を与えている。

エクスポも一度は内側からの破壊を試みた。
しかし、
ジャイヤと同じく徒労に終わっていた。

しかし明らかに衝撃を与えている。
もちろん、
内門自体に目立った外傷が与えてはいないが。

「よく分からんが食らえっ!!食らえボケッ!!!」

ジャイヤが発砲する。
両手を突き出し二丁拳銃。
手による銃なのだから、まさに拳銃だ。
それを乱射する。

「ありゃ?」

だが先ほどのように爆発しない。
内門に銃跡を付けるだけに終わる。

「だから見えない爆弾ってなんだボケェ!どこにあんだよっ!
 姿を見せないなんて卑怯だぞ!もっと活躍させろボケッ!!!」

「あんた・・・じゃなくて兄貴の銃弾だって見えない銃弾じゃないですかい・・・・」
「消していたのは帝国に悟らせないためでしょうや」
「だが確かに俺らにだってどこにあるか分からない」

そんな爆弾の存在を知ってか知らずか、
ユベンとミヤヴィ。
彼らはエクスポの連絡より先にココに彼らを導いた。

いや、知っていたのだろう。
エクスポと共に居たのだ。
ここで彼が何をしていたのか。
エクスポはあえて話さなかったが、
精鋭44部隊の彼らは見逃さなかったし気付いていた。

ジャイヤらヤクザをここに導いたのは、
抜け目ない手柄だ。

「兄貴!」
「我武者羅に撃っても爆弾には当たらねぇ」
「2発当たったのは偶然でさぁ」
「ちょっと考えてみやしょう」

「考えるのは性に合わねぇ!」

「リュウの親父はこんな事言ってやした」

「話せ!」

リュウの話ならば飛びつくのは当然だ。
それがジャイヤ。
いや、昇竜会だ。

「『木造の登り竜』ことリュウの親父さんは言ってやした」

「叔父貴ぃいいい!なんで死んじまったんだよぉおおおお!」

「いや、感極まるのは後にしてくだせぇ」
「親父の話はタブーだったか?」
「んーにゃ。ジャイヤの兄貴を一番釣りやすい」

部下に言いように扱われている。

「葉を見ていては木は見えない。木を見ていては森は見えない・・・と」

「さすがリュウの叔父貴!言う事が違うぜ!・・・・・全然意味分からん!」

「・・・・・」
「内門だけ見ていても分からないってことでさぁ」
「そういう視野を持てって親父さんは言ってやした」

「叔父貴ぃいいい!あんたは天国で俺を見ていてくれやぁぁぁああああ!」

「・・・・それででさぁ」
「ビクともしない内門。それのドコに爆弾を設置したか」
「というか、なんでそれなのに内門に爆撃が効いているのか」

「・・・・根性じゃね?」

「あ、なんか俺分かってきたぞ」
「俺もだ」

ジャイヤはキョロキョロと見渡す。
皆が気付いてきたが、
自分にはサッパリ分からない。

「・・・・・気合か?」

「兄貴!」
「アレだ!!」

部下達が指をさす。
ジャイヤはサングラスをズラし、目を凝らす。

「・・・・・内門だな」

「違いやす」

「違わねぇだろボケ!舐めてんのか!?極道舐めてんのか?!」

「もっと端でさぁ」

ジャイヤが前屈みになるほど目を凝らす。
そうしていると、
ガラン・・・・・と、
大きな・・・大きな音を立ててそれは落ちた。

"ソレ"自体がまるで戦車の装甲のように分厚くて巨大だったが、
爆撃でへしゃげた、
鉄の板。

「"止め具でさぁ"」

巨大な内門を支えていた巨大なソレは、
重圧感と共に亡骸になっていた。

「内門は鉄壁ですが」
「壁ではない」
「扉。扉に代わりありやせん」
「扉にとってのウィークポイント・・・・」
「それも"内側にしかないもの"がコレでさぁ!」

蝶番(ちょうつがい)とも言う。
扉が扉として存在する限り、必ずあるもの。

エクスポは中で観察した。
この扉を。
破壊出来ぬ鉄壁。
だが突破は出来るはずだ。

芸術家は仕組を考える。
まずはそのギミックを。

思い至った結果がコレだった。

「なるほどボケェ!!!!!」

ジャイヤはやっと理解し、ニタリと笑い、
その指の拳銃を突きつける。

「それが爆弾の在りかってわけか!!!」

そして銃弾。
何度も何度も打ち鳴らす。
撃って撃って、
撃ち鳴らす。

鉄砲玉による鉄砲玉を。

その落ちた蝶番に。

「いやいやいや!」
「そうだけど違う!」
「その通りだけど違いまさぁ!」
「本当にいい頭してんなこのオッサンは・・・・」

「俺のこの髪型(コーンロウ)か?この髪型はな。リュウの叔父貴に・・・・・・」

「つまり兄貴」
「内門の内側。その止め具一つ一つに爆弾が仕掛けられているって事でさぁ」
「いわば関節」
「内門のウィークポイントでさぁ」
「内門自体を破壊出来なくても、それさえ壊せば・・・・」

内側からでも雄雄しく聳え立つ、
その巨大な鉄壁。
内門。

「こんなもん、超ド級の壁の積み木が立ってるだけでさぁ」

「なるほどな」

ジャイヤは指を向けた。
そして発砲。

「おわっ!」
「すげっ!?」

同時に爆発がまた起きる。
爆風で飛ばされてしまいそうなほどの爆発が。
城壁と内門を結ぶその止め具上で起きる。

「これでツバメに見せるツラもあるってもんだ」

爆風だけでヤクザ達は立っていられなかったが、
その中、
一人だけジャイヤは物ともせずに立ち続け、
銃弾で止め具を、
エクスポの爆弾を発火させていく。

「根の無い木はすぐ倒れる。リュウの叔父貴が言ってたな。そういうわけだ。
 上に伸びたいなら根を張らなきゃな。・・・・・木も、人も。
 こいつが騎士団の誇りの根だ。文字通り、根こそぎにしてやるよボケが!!!」

この巨大な扉を繋ぎ止める金具。
それ自体もド級の装甲と大きさを持っていて、
支えるために十数と存在していたが、
その全てに爆弾。

ジャイヤがそれを撃ち落していく。

そして最後の一つ。

「クソボケがっ!!!!!」

その爆弾が爆発した。

気付けば、黒煙に塗れていた。
ド級の爆発が爆弾の数だけ行われたのだから当然だ。
それも広いとはいえ室内で。

だが残っているのは、
グワングワンと反響する・・・・ただの扉。

内門は内門だ。
支えが無くとも、その自身の最上級の重さと分厚さで立ってはいる。
だが、
今もう・・・・支えは無い。

分厚すぎる、
巨大すぎる鉄扉が、
そこに立っているだけだ。

「いくぞ野郎共」

ジャイヤは振り向いた。

「え?」
「兄貴!仕上げしねぇと!」
「ここまでしたんだから後は倒すだけでさぁ!」

「バーロー。根っこは無くなっても腕力でどうにかなるシロモノじゃぁねぇさ。
 外側には重装部隊が敷き詰めてるしな。こちら側から出来るのはここまでだ」

「兄貴・・・」
「だがよぉ」

「ゴチャゴチャ五月蝿ぇぞボケッ!!!」

ジャイヤは天井に向かって空砲を撃ちあげた。

「外側の奴らを信じやがれ!俺らがやらねぇでもやれる奴らだ!
 なぁに、倒すだけだ。ただ、後は倒すだけなんだ。
 俺らは俺らが出来る次のことをやるべきだ」

ジャイヤは迷いなく、また城内へと向かう。

「それに根っこのねぇ奴には興味ねぇんだ。愚図愚図すんな。
 あれが倒れてきたら俺らペシャンコだぜ?」

パンッ、パンッと、歩きながら天井に発砲する。

「いくぞ野郎共。祭りは引き際が肝心ってなもんだ。
 俺に続け。・・・・・次のパーティーを用意してやっからよぉ!」

なんだかんだで、
彼の後ろには男達が付いて行った。
ジャイヤという男は、そういう男だ。

「足りねぇ足りねぇ!あの世に叔父貴に届くぐらい祝砲を積み上げねぇとな!!」

































「・・・・・というわけさ」

エクスポがフフンと目を閉じて自慢げに言う。
が、

「突っ込め!突っ込めテメェラ!今やらなきゃイツやるってんだ!」
「横は気にしないでいいです!東も西も地上戦で手一杯の今しかありません!
 今!目の前に居る敵だけを見て!戦い!進んでください!!」
「おいガブリエル!お前飛べるんだからよぉ!内門に一撃やれねぇか!?」
「・・・・・キツぃかねぇ。あの忍者共がヘバりついてるしねぇ・・・・」
「攻城ハンマー整列!いけるのは何対ですかエールさん!」
「うぃ!15秒後3つ突撃準備完了です!」
「合図は任せます。エースさん!エースさん!」
「なんだぁ!」
「援護任せます!ハンマーを狙ってくる52を出来るだけ食い止めて!」
「・・・・はん!俺は何人力だと思ってるんだっつーの!」

既に皆、真っ最中だった。

「まったく・・・褒め称える気もないのかい。美しくないねぇ」

肺の中の空気を全て吐き出すほどに、
エクスポはため息をついた。

「ハンマー!とちゅ!・・・噛んだ・・・・突撃!!」
「エールさん!」
「う、うぃ!?」
「修復兵!騎士団には城門修理工が確か居ましたよね!」
「うぃ!」
「扉を修復されたら元もこうもありません!予測は!」
「じょ、情報屋さんの話では!城門修理工召還書・・・
 それは故・ドラグノフ=カラシニコフ研究員の財産だとか!
 相手も期待出来るほどには確保出来ていないかと!」
「ツバメさんを通じて内側のジャイヤさんに連絡を!」
「うぃ!」
「内側から修復をかけるような事があればすぐに対処させてください!」

声の揃う歓声と共に、
ハンマーが重装騎士にぶつかる音が鳴り響いた。
音だけでも分かる。
効果は出ている。

「ハンマーもういっちょいくぞ!下がれ下がれ!残りの奴はフォロー!」
「おじいちゃん!おじいちゃん居ますか?!」
「うっせぇガキのガキが!」
「居た!フォロー願います!」
「俺の事は俺が決める!ガキのガキのクセに指図すんな!ケツは自分で拭け!」

盛り上がっている事で。
エクスポはやれやれと、飛び立ち、
自分も参加しようとした。

「エクスポさん!」

攻撃も指示も中断し、アレックスがこちらを見ている。

「ありがとうございます!」

そしてまた忙しそうに声と腕を奮う。

「・・・・・・なるほど。君はリーダーの・・・いや、英雄の器だね」

それこそやれやれと、
エクスポは笑って飛び立った。

「ハンマー!アレックス!ハンマーもっと増員出来ねぇか!?」
「要請はしています!」
「足りねぇぞ!なぁエース!」
「あぁ!重装騎士を突破するには1にもハンマー!2にもハンマーだ!
 火力が必要!単体で有効なのはクシャールのじいさんぐらいだ!
 メッツが居ない今!控えめに見ても次に通用するのは俺ぐらいだ!」
「カッ!そうだメッツは!?」
「燻(XO)さんと交戦中だそうです!そのままやらせましょう!
 あっちも優先事項な割に手薄です!エースさん!エースさん!おーいエースさん!」
「何度も何度もうっせぇな!俺はテメェの部下じゃねぇぞ!」
「あなたのコレクションで火力重視なものを出来るだけ兵に流してください!」
「チッ!しゃーねぇな!ほらテメェら!俺のコレクション!大事に扱えよ!」

ハンマーがまた整列する。
攻城ハンマー。
これが決め手だ。

しかし、間に合うか。
東と西が地上戦で追われている間に。
扉に修復兵を召還される前に。

間に合わなくてもやるしかない。

「アレックスぶたいちょ!5ついけます!ハンマー5つ!もういけます!いきますか!?」
「待って!」

アレックスは気付く。

「おいアレックス!1にもハンマー!2にもハンマーだったろ!?
 ハンマーでとにかく抉じ開けるしかねぇ!モタモタすんな!」
「20秒待ってください!20秒後!突撃です!」

20秒さえ勿体無く感じる。
重装騎士達をぶちぬくハンマー。
とにもかくにも、
とにかく、
ハンマーをぶつけてぶつけてぶつけるしかないのだ。

間に合わなくても・・・・

「もっと効果的にいきましょう!」

我慢が出来なくなって、
ドジャーが10秒の時点で代わりに突撃の合図を出そうとした時。

「お!?」

突如、
最前列の重装騎士達が・・・・・・・・

凍りついた。

物言わぬ鎧の置物たちが、さらに静寂の氷の世界へと。

「ハッハー!メリーか!?」

エースが威勢良く言う。
言葉の通り、
ニコニコと笑う魔女が、ぬいぐるみを抱いてそこに居た。

「と、とちゅげきっ!!!」

噛みながらも、エールが腹の底から声を張り上げる。

5つのハンマーが一斉に突っ込む。
男達は声を張り上げ、
そのハンマーを持って力の限り走り、
突撃する。

重装騎士達への直撃。

「これは"クール"だね!」

空中でエクスポが言った。

氷漬けの重装騎士達は、
バギッ・・・・という砕ける悲鳴と共に、
ハンマーの一撃で粉砕された。

鎧ごと、氷ごと、
粉々に粉砕された。

「これはイケる口だ!効果倍増ってなもんだ!」
「下がってください!ハンマーはまた助走域を確保!
 フォローする人たちもエールさんの氷に巻き込まれないように!」
「アレックス!テメェのジジィが氷漬けになってんぞ!突っ込みすぎだ!」
「ほっとけばいいんです!少し頭冷やした方がいいんです!」
「風邪ひいて永眠しなきゃいいけどな!」

心配などしなくても、
すぐさま内側から氷を砕いてクシャールは復帰した。
元気過ぎるジジィだ。

「アレックスぶたいちょ!ハンマーがひとつっ!!」

エールが示すその方角。

「やっぱり"そこ"は通りませんか・・・・」

攻城ハンマーを真正面から。
男が十数人がかりで突撃するそのハンマーを真正面から、

"鉄壁"ミラは受け止めていた。

「これ以上押せねぇ!」
「ってか引けねぇ!」
「ビクともしねぇぞ!」

「・・・・ワタシハ・・・・・守ル・・・・・・」

鎧の騎士。
機械仕掛けのロボットのようなその巨体の奥で、
目が光ったように見えた。

「・・・・ワタシハッ!ココヲッ!守リ抜クッ!!!」

ハンマーが粉砕した。
密度に密度を重ねたその木造りの攻城ハンマーは、
押し潰されるように、
ミラの胸の中で粉砕。
砕け散り、

「ノケッ!!!!」

ハンマーの主達は一斉に吹き飛ばされた。

"鉄壁"ミラは失わない。

「ミラ!ミラは避けろ!中央は避けろ!」
「あれを通れるのかよ!内門までよぉ!」
「・・・・ッ・・・・エクスポさん!」
「なんだい」
「空爆を!空中戦はガブちゃんさんに任せて!エクスポさんは下を狙ってください」

OKの合図代わりに、
エクスポは内門前を旋回しながら、爆弾の雨を降らせた。
爆発爆発。
空爆。

効果は見える。
それでも立ち続ける重装騎士及び、部隊長ミラを褒めるべきだろう。

「アレックス!アレックス!ミラを抜けねぇぞ!」
「削っていくしかありません!」
「我慢の限界だ!フレアに撃たせろ!メテオをよぉ!」
「まだっ!やるのは"今"ではありません!
 せめて燻(XO)さんがメテオ操作出来ない状態でないと!」
「全てが上手くいって内門が倒れても!ミラは残るぞ!!」

ミラ。
部隊長ミラ。
世界の門番。

彼こそ内門だ。

今こそ見える。
最優先事項。
部隊長ミラこそ、最優先に排除しなければいけない因子。

しかし。
しかし、同時に避けて通らなければいけない鉄壁でもある。

「アレックス!」
「・・・・・ッ・・・」

決断。
迫られる決断。
しかし、どの決断を下しても、
それは中途半端に終わる。

今の状態は内門突破戦の中でも最良の部類だ。
敵の状態も、
こちらの攻撃の効果も。

しかし、
それでもミラは抜けない。

鉄壁ほどどうしようもないものはない。


「どぉーきぃなあああああ!チビ共ぉおおおおおおお!!!」


デムピアスが、もう一度現れたかと思った。
そんな錯覚に陥った。

見てみれば、そんなはずはない。
規模にしろ、
質にしろ、
デムピアスのソレとは大きくかけ離れて劣化した部類だろう。
しかしそれは、
どうにも衝撃的で待ち望んだような援軍だ。

「!?・・・・道を!道を空けてください!」

それは、

スマイルマンだった。

「目立ってるね!お姉ちゃん!」
「これが我が家の財産だからね!」
「この戦いに勝って!お金持ちになって!世界と家を買うんだよっ!」

ルエン。
マリ。
スシア。
ロイヤル家の三姉妹が搭乗したスマイルマン。
それが内門下に参戦した。

「おいおい!三姉妹!どっからもってきたそれ!」

「作ったのよ!」
「デムピアスの残骸(ジャンク)から!」

「今?!無理だろそれ!」

「修理工召還書とか警備兵召還書とかでゴチャゴチャやってたら出来た!」

「出来るか!」

「商売一家なめないでよね!」

もちろん、そんな無理のある話・・・とは思う。
でもアレックスもドジャーも、
そしてエクスポも見ている。

彼らの母。
エリスと戦っているのだから。

彼女もスマイルマンを無から創造していた。
不思議のダンジョンだからこそ、創造というより想像からの召還だろうが、
それも力だ。

彼女ら三姉妹も、母、エリス=ロイヤルと同等の
"召還術"の才能があったのだろう。

「マリ!そこに転がっているデムピアスの腕もスマイルマンに変えな!」
「OK!」

しかし、
この内門戦において、これほどの戦力はない。

「よーし!いっちゃうわよ!」

「待って!待ってください!」

まさにスマイルマンで突っ込もうとしている三姉妹を、
アレックスは制止した。

「何よ!いいとこだよ!」

「それでもっ!スマイルマンを持ってしても!」

"鉄壁ミラは抜けない"

攻城ハンマーでも、
そして、
何倍もの規模のデムピアスでも、
無理だったのだ。

「スマイルマンは重装騎士の討伐に当ててください!
 ミラさんは別途方法を考えます!何か!何かあるはずですから!」

「何か?"何か"ってなんだい?」

スマイルマンの上で、
ルエンは悪女な笑みを漏らした。

「こちとら"何でも屋"だ!全てのニーズに応える商売人の鏡よ!
 "何か"が欲しいっていうなら!売ってやろうじゃないの!」

気付けば、
スマイルマンの上に・・・・一人居ない。

「!?」

スシアだ。
スシアが単独、スマイルマンから降り、走りこんでいる。

「おいスシア!!」

戦闘能力もない女が一人、
この激戦の内門下を走っている。
無謀この上ない。

「カッ・・・・エース!」
「わぁーってら!」

ドジャーとエースがそれをフォローする。
当然のように52共も襲ってくる。
危なっかしくもフォローする。
危なっかしくも、
一人の少女は走る。

そして、

「・・・・・・ナンダ・・・・オ前ハ・・・・・・」

「・・・は・・・配達に・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

既に息が上がっている女が、
あの、
どうしようもない鉄壁の眼前に、
眼下に立っている。

「誰デアロウト・・・・ワタシハ・・・・ココヲ・・・通シハシナイ・・・・・」

「お買い上げありがとうございます・・・・」

その巨体の下で、
スシアは顔をあげる。
そして、
何かを広げた。

「・・・・・ソレハ・・・・」

「料金は・・・・マイソシア(世界)につけておきますからね♪」

そのスクロールは、
いや、
地図は、
ミラの前で広げられ、

そしてミラは、光に包まれ・・・・・

「・・・・貴様・・・・ワタシハ・・・・ワタシハッ!ココヲッ!!!」


蜃気楼の地図。


「ここで商売したければ、お姉ちゃんから商売許可書を買ってください」

「・・・・・・・・・・ウヲヲヲォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


鉄壁のミラの姿は、


跡形も無く・・・・・消えた。


「・・・・・・・つ・・・・・」

何かを考えているヒマも、
何かを思うヒマも、
ボヤボヤしているヒマも、
驚くヒマも、
そんな時間・・・・・ありはしない。

アレックスも、
エールも、
ドジャーも、
そして指揮権の無いような誰しもが、

同時に息を吸い込み、

叫んだ。


「「「「「 突っ込めぇええええええええええええ!!!! 」」」」」


戦場はこちらに傾いた。
反比例し、

人の雪崩れは内門へと駆け上る。








                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送