「歓迎しよう」

頂点。
その世界の中心に位置するこの城の最上階で、
その絶対の存在はふんぞり返って言った。

その言葉が気に食わなかった。
そんな言葉、
嘘っぱちか戯言か。


「兄上が、オレにそんな言葉を贈るとは到底思えないな」


ツヴァイは王座に踏み入り、
赤い絨毯を足で踏みにじって歩いた。

王座にはアインハルト=ディアモンド=ハークス。
傍らにはロゼ。
そしてピルゲンが不敵にお辞儀している。

不思議と圧迫感を感じなかった。

覚悟が決まっているからだろうか。

ピルゲンのトゲのような殺気は痛々しいが、
もはや眼中にない。
自分の眼に映るのは究極の存在だけ。
血を分けた・・・半分であり、
相対的に手の届かない絶対の・・・・・兄。

「ヒマになってな」

アインハルトはそう言った。
ヒマ?
この戦いの張本人が、この戦況の中でそう言うか。
今更言及はしない。

「我がやれることは全てやった。楽しみは終わった。
 あとは待つばかりだ。どの様な結果が現れるかとな」

「映画を見るような物言いだな兄上」

「いや。育てた子の過程を眺めるような気分だな」

「似合わんぞ兄上。全てに興味がないくせに」

歩み寄れば歩み寄るほど、
アインハルトの顔が鮮明に見えてくる。

他者が見れば自分と兄の顔は鏡写しのようだと言うだろう。
双子なのだから。
事実、性別は異なってもコピーをとったかのように生き写しだ。

「興味がないわけではない。どうなってもいいだけだ」

ただ、全くの別物だ。
鏡写しというならば真逆の存在。
そして、
コピーととったかというのなら、現物は・・・・。

「兄上。兄上はいつもそうだった。他人などオブジェクトに過ぎない。
 だけどオレはいつも傍らに居たから自分を除外していたんだ。
 人生の全てを兄上のために尽くしてきても・・・・・・」

アインハルト=ディアモンド=ハークスは、
一片たりとも自分の事を見ていなかった。

「兄上の手足として働いてきたからこそ、盲目になっていたんだろう」

「そうだな。勘違いだ。全くの」

「・・・・・・」

「お前は我に必要な存在だ。・・・・・・・・・とずっと思ってきたのだろう?
 違う。一番手短にあった道具を使っていたに過ぎん。
 ハサミなど、手の届くところにあったもので十分だった。それだけだ」

なんでもよかった。
どれでもよかった。
世界で2番目の存在でなくても、
血を別つ兄妹でなくても、
なんでもよかった。

「分かっている。兄上。分かっているんだ。そんな事・・・・・もう」

「そうか。残念ながら、我はカス共の知能がどれ程か測り知れんのでな」

自分の分身でさえ、
その他大勢。
そうでしかない。

「兄上。もし"兄上がオレだったなら"、"オレが兄上だったなら"、そう考えたんだ」

「そうか」

「そう考えると怖いんだ」

同じ顔の、
同じ血の兄に、
全く同じ造りの眼で、
全く違う目を、ツヴァイはアインハルトに向けた。

「オレはオレでよかった。弱者の良さが分かったから。
 初めて人と関ったこの短い期間。それを経験出来たからだ」

反乱軍に身を置いたこと。

「もしオレが兄上なら、全てを独りで賄える力があったなら、知り得なかった」

「理解に苦しむ。という言葉が欲しいのだろうが、
 哀しきかな。我はさらさら理解する気がない」

哀しさなど持ち合わせていないくせに。

「そうだろう兄上。だからこそ、オレは兄上でなかった」

「よくある話だな。孤独な我は不幸か?」

アインハルトは少しの後ろめたさもなく、
常闇に笑った。
微塵さえもそんな感覚などない。
独りが不幸。
そんな感情、残念ながらアインハルトは持ち合わせていない。
それが不幸だというのも、
弱者達、負け犬の遠吠えでしかなく、
アインハルトという絶対にならなければ分からない身の上。

「違う」

小さく首を振れば、
アインハルトと同じ、
きめ細かい黒という黒の長髪が揺れた。

「兄上が孤独で不幸なんじゃない。繋がりを知ったオレが幸せなだけだ」

それだけだ。
それだけなんだ。

アインハルトに産まれたなら、
アインハルトの立場が至高だっただろう。
アインハルトがツヴァイの立場に立っても、
面白さも楽しみも幸せも感じなかっただろう。

だから、
ツヴァイはツヴァイに生まれて良かったと思う。

「スオミダンジョンの跡地。コロニー(反抗期の巣窟)で数日暮らした」

ハッキリと思い出せる。
それが全ての人生だったように。

「ある青年がドラム缶に風呂を沸かしてくれた。
 風邪をひかないようにと熱くしてくれたそうだ。
 正直熱すぎたが、オレは我慢して入った」

「何を言い出す」

「オレはさすがに堪えられなくなって出ようとしたところに、
 おもむろに少女が駆け寄ってきた。5つくらいの少女だ。
 100数えないと駄目だって怒られた。オレは数えた」

見上げる。
天上を。
あの洞窟の天井はもっと高かったが、
圧迫感があって、皆との距離も近く感じた。

「老婆がオレを呼び止めた。洗濯を手伝えと言われた。
 働かざるもの食うべからず。武力は一時、家事は一生もの。
 ありがた迷惑な彼女の説教は一字一句覚えている」

わたしも若いときはあんたみたいに・・・・
と笑うシワが素敵と感じた。

ここは王座。
でも、
横を見れば風景が広がるようだ。

「片腕の中年の男が言った。この無法時代のせいで失ったらしい。
 彼は自分の食料を分けてくれた。あんたは反乱軍の要だからと。
 自分は腕一本分食わなくていいから、あんたの力にしてくれと」

砂が混じっていたが食べた。
腹じゃない所が満たされたのを感じた。

「あの老人は古のミルレスの話を・・・・」

「つまらん」

アインハルトは口だけを動かした。
眉一つ動かさず、表情というものがなかった。

「もう少し工夫は出来ないのか?我の興が満たされん。
 ヒマ故に付き合ってやっているというのに、脳細胞の無駄だ。
 まるで話の中に意味や価値が含まれていない」

「聞けっ!!!」

ツヴァイは叫んだ。
落ち着いていたはずの心が動いていた。
心が震えていた。
口元と共に。

「聞け兄上・・・・・オレの話を・・・オレの人生を・・・・」

ツヴァイは心と共に震える右手を差し上げた。
手の平の上には、
枯れた一輪の花が乗っていた。

「ある少女がオレにくれたものだ・・・・・夕顔・・・
 黄昏の花・・・トワイライト・・・・・オレの花だ・・・・
 兄上はオレの存在を使ったが・・・彼女はオレの心を動かした・・・・」

枯れた花は、
手の上で砂のようになって零れ落ちた。
手の上の命の残骸を、ツヴァイは握った。

「彼女も彼も、そんな彼女もそんな彼も、彼女らも彼も、
 兄上・・・あんたの差し金で全て消え去った!
 全ての命は!繋がりあって!支えあって生きていたのにっ!」

「お前は石ころが転がって割れた事に同情するのか?」

「石ころではない!命だ!」

「そこに違いが見い出せんな」

アインハルトは切って捨てた。
何一つ、絶対の帝王の心には伝わらない。

だが・・・
だけど・・・
それでいい。
もう。

もういい・・・。

「兄上・・・・」

何を言っても無駄だ。
だけど、
手に入れてしまったものがある。

それを言いたい。

正しくは・・・・手に入れた事の・・・真逆だが・・・

「"オレは哀しみを知ったぞ兄上"」

哀しみ。
悲しみ。

全てを兼ね揃えた絶対が、唯一持っていないもの。
喜びも、
楽しみも、
怒りも知っている絶対が唯一持っていない。
それが・・・・

「ほぉ。それは興味深い。是非知りたいな」

「もう話した・・・もう話したんだ兄上!
 それで分かり得ないというなら!もう兄上は!」

もう金輪際、
哀しみなんて感情を知る術はない。

「ふん。だがそこは我にも興味のある話だ。
 時間を潰すにはまぁ悪くない無駄話になるだろう。
 で、哀しみが無いというのは欠点に値するのか」

完璧な絶対の、穴となるのか。

「オーランド共はそこではないと口にしていたがな」

弱点。
アインハルト=ディアモンド=ハークスの弱点。
それを持参してきたと言っていた、
アクセル=オーランドと、
エーレン=オーランド。

それを証明する機会は与えられなかったが。

「欠けている事が弱点ではない。兄上。
 哀しみが無い事は兄上の強さになるだろうが、弱みにはならないだろう。
 だが哀しみを知りえないという事自体が哀しいものだと同情する」

「理解し難い。知能が低下しているカスの気分が味わえる」
 ツヴァイ=スペーディア=ハークス。お前は哀しみたいのか?」

哀しみたい人間などない。
映画や小説・・・物語に置いて言えば、
つまり客観的に観賞する分には人は哀しみを欲するが、
人は哀しみたいはずがない。

それこそ、不幸なシンデレラを気取りたい偏屈でもなければ。

自分にしろ、他人しろ、
哀しみを楽しめる人間は狂っているか余裕のある満たされた者だけだ。

そういう意味では本当に哀しみを知っている人間は僅かだ。

「・・・・・・」

だからその問いに対してはツヴァイは何も返せない。
哀しみを知った自分の方が幸せなどとは口が裂けても言ってはならない。

「なるほど羨ましい」

何一つ下からではなく、
見下すように帝王は言う。

「哀しみ、落ちぶれ、萎む。感じてみたいものだ。
 我にも手に入らないものがあるというならそれこそな」

何を失っても、
何が起こっても、
感情に響かない・・・アインハルトの心に棘は残らない。

それほどに興味は無さそうに言うだけだ。

「つまり、改心の余地はないという事だな兄上」

「改心?心を改める。不思議な言葉を使うな。
 それはまるで"我が心を改める必要性がある"ようではないか」

「兄上は元凶であるまま変わらないということ」

そうなんだろ。

「なるほど。それは面白いテーマだ。我の変化。ふん。
 現状に満足しているかと聞かれれば肯定は出来んな。
 この世の全ては物足りん。逆を言えば・・・」

「世界に兄上を変える力はない」

ツヴァイはそこでやっと、
握り締めていた槍に力を込めた。

「元凶であるまま変わらないというなら!ならば!
 だからこそ起きた戦争だ!兄上!オレはあんたを」

殺す。

「殺さなければいけない。たった一人の血族でも」

そこに、
心の底にわずかな未練があったとしても。

「オレは兄上を殺す」

自分が変われたように、
アインハルトも変われるんじゃないか。
そう思った。
思ったが、
それも届かなかった。
ならもう迷う部分はない。

「でないと、世界にまた"哀しみ"が産まれる」

産まれ続ける。

「そうか。わずかな暇潰し。ご苦労だった。
 ふん。しかし今回のお前との話は得るものがあった。
 まさか、壊して遊んでいるだけのつもりだったが」

産みだしもしていたとは。

可笑しそうにアインハルトは小さく口を歪めた。
自分は手に入らなくとも、
哀しみというものを全ての者に配賦していたとは。
と。

「ただし、お前は我に哀しみを与えてはくれん」

それは、

一度殺した。

「我に哀しみを教えてくれるというのなら、お前しかいないと思った。
 一度はな。が、殺してみると、それはカケラも感じなかった」

たった一人の血筋が死んでも、
虚しささえも残らなかった。

「オレは兄上に"かけがえのないもの"と評価されてなかった。それだけだ」

代替の可能な存在。
それだけでしかなかった。

「そうだ。だからお前はもう"中古"だ」

一度殺して効果がなかったものを、
二度殺しても意味はない。

「我は今、ただの観賞者だ。参加などしない。する必要も無い」

「オレと戦え兄上!・・・・とは言わん。戦わないというのなら」

そのまま、
この槍で・・・


「お前は、我を客席から腰を上げさせる事も出来ないと言っている」


不意い悪寒が走った。

背中に殺気の冷たさ。
首筋が凍える。

振り向かないでも分かる。


立っている。
この王座の入り口。

とうとう追いついてきたか。

ロウマ=ハート。


「兄上!!!」

ツヴァイは叫んだ。

「オレはレプリカだ!オリジナルにはどうやっても届かない代用品!
 アインハルト=ディアモンド=ハークスの失敗作!贋作だ!」

唯一無二の"2番手"

「だがそれは!オレがツヴァイ=スペーディア=ハークスだという事だ!」

オレは・・・・

「オレの道を切り開くぞ兄上!!!!」

荒々しい吐息が、
耳元に触れた。

狂った最強の矛盾が、

ツヴァイを・・・・・


































------------------














「お姉さんの夢はなぁに?」

夕顔の少女は聞いてきた。

夢?
つまるところ到達したい場所。

オレにとっては・・・そうだな。
兄上を。
アインハルト=ディアモンド=ハークスを倒す事。

オレにしか出来ないと誘われたのだから、
それをやってこそ、
ツヴァイ=スペーディア=ハークスの価値はある。

「私は次の数学のテストで80点とりたい!って言った事があるよ。
 でもね、それは夢じゃないって怒られたよ」

やるべき事。
到達点。

それと夢は違う。

責務と夢は違う。

なんのために生まれたか。
自分の価値とはなんなのか。
そんなものは全て取っ払い、

夢は自由に見ることが出来る。

そういうことらしい。

「私の夢はお嫁さん!」


それこそ夢と呼ぶに値するのか?

「駄目だよお姉さん。女の子の夢はやっぱりお嫁さんだよ」

考えた事もなかったな。

「そうなの?"いいおとこ"がいなかったの?」

そうかもしれないな。
考えた事も無かったのだから。


「私もさぁ。こんな地下じゃ結婚なんて出来るのかなぁ?」

・・・・・・

「でも私の人生はまだ長いんだから!お嫁さんに絶対なるんだ!」

そうか。
なら、
尚更・・・
尚更こんな状況は放っておけないな。

「お姉さんも素敵な旦那さんを見つければ幸せになれるよ!」

そうかな。
分からない。
分からないが・・・・そうだな。

この少女と同じで"人生はまだ長い"

何せ、

ツヴァイ=スペーディア=ハークスとして歩み出して、
まだ、
まだほんのひとときしか生きてないのだから。



ただ、

お嫁さんになる・・・なんて夢は到底まだ浮かばないが、
笑い話はある。

人を好きになった事などないが、
"男にフラれた事はある"

そうだな。

モノ考えぬ、ただの道具だった半生。

兄上は自分を殺しても何も感じなかったと言っていたが・・・


そうだ。
そうだな。


オレは捨てられた時・・・・








哀・・・・・































-------------------------------------





























「ツヴァイが死んだだと?」

荒れ狂う内門。
アレックスと、横たわるガブリエルの傍らで、
ドジャーは見上げる。

ルアス城の最上階テラスには、
漆黒の紳士。

「マジに言ってんのかあのヒゲ」
「敵の言動を鵜呑みにするのは、人がいいか馬鹿かですよドジャーさん」
「カッ、どっちも同じ意味じゃねぇか」
「ですがあながち否定出来ない言葉(カード)だから突きつけてきたんでしょう」

城内に単独で侵入したツヴァイ。
侵入というと御幣があるか。
何にしろ、
アインハルトの手で連れて行かれて無事とは到底思えない。
それからかなりの時間を有しているのだから。

あのツヴァイ=スペーディア=ハークスが、
これだけの時間、音沙汰がない方が異常なのだ。

「少なくとも身動きが出来る状態ではないんでしょう」

前向きに考えればだ。

「ツヴァイさんが生存を確認出来ない状況にあるからこそ、
 ピルゲンさんはあぁいった言葉を口に出してきた」

いつの間にかピルゲンの姿は消えていた。
影のように、
ウッスラといつの間にか消えていた。

「逆に言えば、だが」
「言いたいことは分かります」

ツヴァイ=スペーディア=ハークスが死んだなら、
それを伝える手段として、
絶望を与える手段として、
言葉というのはイササカ・・・・。

「だぁクソ!次から次へと!」

こちらの都合とは関係無しに、
敵は攻撃してくる。
ドジャーはオーラダガーを片手に、辺りを飛び回る。

「おいアレックス!俺はフレアの援護に行くぞ!」
「なんでですか?」
「馬鹿か!内門を突破するにはまず"フレアのメテオ"。
 それは目に見えて明らかだろうが!だから援護だ!このままじゃぁジリ貧だっつーの!」

それは否定はしない。
ジリ貧というよりは、このまま終わってしまう。

「却下です」
「なんでだよ!」
「確かにその通りです。それに今彼女は指示だけで手一杯です。
 彼女のフォローは即急に行うべきでしょう。
 このままじゃ貴重な戦力が司令塔としてしか機能しなくなる」
「じゃぁよぉ!」
「ただし、今のままじゃフレアさんは"無力"です」

規模。
威力。
それらを総合しようとも、
または、
単体で評価しようとも。

フレアのメテオは反乱軍の最終兵器と言っても申し分無い。

彼女のメテオ無しで内門の突破は有り得ない。

ただし、

「援護に行くならばフレアさんでなく、デムピアスさんです」

アレックスが指を指し示す。
内門の逆を見れば、
視界から外れようのない巨大な姿。

魔物。
金属の魔物。
海賊王デムピアスの本性。

「アレに援護なんていらねぇだろ!むしろ巻き込まれるわ!」
「言っている意味が分かりませんか?」
「分からねぇからさっさと言え!」
「フレアさんを助けるんじゃなく、それでいて、
 デムピアスさんを助けろって言ってるわけでもありません」
「メチャクチャ言ってんなお前」
「デムピアスさんと戦っている"燻(XO)"さんを倒さなければ始まりません」

ドジャーは仮面の騎士を一匹浄化させた後止まり、
ツバを吐き捨てた。
理解した。

何故外門でメテオが機能しなかったか。
味方を襲ったか。

それは裏切り者・・・いや、これも御幣がある。
スパイであったメテオラ。
もとい燻(XO)の存在があったからだ。

「確かに、同じ過ちが二度生まれるだけだな。
 たがせっかく突破した先に戻れってのか!?
 わざわざ中に侵入したのに出てきた馬鹿みてぇによぉ!」

「呼んだかい?」

「うぉ!?」

ドジャーの眼前に逆さまの顔。

エクスポが空中で反転したままドジャーの顔を覗きこんでいた。

「美しくない言葉を使うね。これだからドジャーは美学と逆なんだよ。
 いいかい?芸術とは外見だけでなく内面まで見なきゃぁいけないのさ。
 表だけ見て悪評価を口にするのは評論家として三流以前に失格さ」

「んだよ!」

「ボクはしっかり最低限の仕事はしてきたって意味だよ」

そしてエクスポは飛び立った。
また空中に戻る。
空中には女神の残兵。
そして城壁の敵達。

彼らを相手してやれるのは、今のところ、
エクスポとダニエルだけだ。

「少しここらを手伝った方が・・・・面倒じゃなさそうだな・・・・」

横たわっていたガブリエルは、
気付くとも煙草に手を出していた。

「あぁ、もういい。怪我は十分だ。あんがっとよ。聖職者の鏡だね。
 が、神様に慈悲を与えるなんて事は人様のやる事じゃねぇぜ」

医療部隊の聖職者をおっぱらい、
ガブリエルは見上げる。

「あのヒゲを倒さなきゃ俺の戦いは終わらないようだが、
 まだここに冒涜者の残兵もいるみたいだしな」

やれやれとガブリエルは翼を広げて地面と別れを告げた。

「それぞれに役割があります。誰かが指示したわけじゃなくても」

飛び立つガブリエルを見上げながら、
アレックスは言う。

「その理由でフレアさんをカバーするならば、燻(XO)さんを倒しに行った方がいい。
 それがドジャーさんの役割かどうかは、まぁドジャーさんが決める事かもしれないですね」
「説教くさくしてんじゃねぇぞアレックス!」

ドジャーは敵でなく、
アレックスの目の前に瞬時に飛び込んだ。
アレックスの眼前に、捻くれた眼を突きつける。

「これは"俺の物語じゃぁねぇ"んだ。俺は単純に役に立ちてぇだけなんだよ!
 ぶっちゃけるとな!正直ココまで無力無力役立たずで通ってきただけだからよぉ!」

ドジャーは与えられたオーラダガーをアレックスに見せる。
見せ付ける。

お前がくれたもんだと。

「言え!アレックス!これはお前の物語だ!俺は最善を尽くしてやる!俺は何をすべきだ!」

本当に、
人がいいか馬鹿なのか。
同じ意味だったか。

ここまで他人事に突っ込んでくる人は他にはいない。
他人事でこんなところまで首を突っ込んでくる大馬鹿者なのだから。

「・・・・そうですね」

ドジャーはダガーをおろす。

「とりあえず待機です。この内門の最深部まで来れているのは少数です。
 わざわざ戻る事もありません。燻(XO)さんは他の方が倒してくれる事を祈りましょう」
「じゃぁどうする」
「待機って言葉が気に食わないなら"維持"です。このポイントを陣取ったんですから」
「維持って言葉でも気に食わない」
「なら"死守"です」
「上出来だ」
「何かあれば燻(XO)さんの背後を突ける」
「分かった。分かったよ」

つまり、
とりあえずは他の奴らを信じるしかない。

自分に出来ることは待機・・・
じゃなくて維持・・・
でもなくて・・・・それは死守。

「うぉ!なんだ!?」

急に何かの変化に気付いた。
音というか、
雰囲気というか、
勢いというか。

「なんか攻撃されてるか!?」
「いえ、あっちですね」

振り向いたからこそ気付いたのかもしれない。
振り向けば、
城の半分ほどもありそうな巨大な魔物。
デムピアスの存在感は拭えなかった。

そのデムピアスが、
何か呻き苦しんでいる。

「攻撃されてるのは彼の方らしいですね」
「アレにダメージがあるような攻撃があるのか?」
「エールさん」
「う、うぃ!」

周りの敵の応戦に必死だったエールが、
アレックスの声には敏感に反応する。

「う、うぃ!さっきも話しましたけど、
 あの燻(XO)って男の能力はダークパワーホールです!
 防御力なんて言葉は無意味だと思いますです!あい!」
「ってことは規模の問題ですけど」

ただし、
ブラックホールによる攻撃を受けているようには見えない。
燻(XO)とタイマンというわけでもなさそうだ。

事実、
周りの帝国兵から魔法等の攻撃は絶えず受けている。
下から照らされるスポットライトの如く、
当たり前のように被弾は続いているが、

「そこらの魔法攻撃とは別に、威力の高い攻撃が一つありますね」
「言われれば・・・な。さすがにあの巨体はビクともしねぇが、
 ・・・・あっ、ほれ、あれだ。胸部の装甲が一瞬剥がれた」

鉄の塊のデムピアスの部位が割れる。
それは全体像からすれば些細だし、
多少としかいいようがないが、
僅かでも明らかにダメージを与えている攻撃がある。

「魔法には見えねぇ。どっちかっつーと衝撃がいきなりぶつかってるように」

「ありゃぁゴランの野郎だな」

後ろから、クシャールがのこのこと歩いてきた。
斧に重装騎士の破片がへばりついている事に気付き、
地面に叩きつけて剥がした。

「ゴランさん?第19番衝撃部隊の部隊長」

騎士団は基本防衛戦が仕事だが、
魔物の討伐等の際、
逆に騎士団側が門を破壊しなければいけない場面などが現れる。
カプリコ砦であったり、海賊要塞であったり。

そういった場面でのオブジェクト破壊を専門にする部隊が、
第19番・衝撃部隊だったはずだ。

「俺が騎士団で遊んでた時に稽古つけてやったことがある。
 ほれ、ロウマの馬鹿は俺を参考にハボックショックをあそこまで洗練したが、
 ゴランの野郎は俺の技をまんまパクった形だったな」
「あんたの技っつーと」
「パワーアックス。斧によるパワーセイバーですね」
「あぁ。ただし、ゴランの場合は武器が鈍器だったけどな」

鈍器。
ハンマー。
またはメイスか。

「ハンマーだ。モーニングスターを使ってた。あのトゲトゲ付いた鉄球みたいな奴。
 ま、パワーセイバーやパワーアックスが飛ぶ斬撃と表現するなら」

飛ぶ衝撃。

「カッ、変なもん教えこみやがって」
「勝手に覚えたんだよ。才があったんだな。
 俺の技は悪いけどよぉ、誰にでも真似出来るもんじゃぁねぇよ」
「元44から部隊長になったのはゴランさんだけだと聞いています」
「ま、俺から見ても、破壊力に関してはロウマと並ぶな。
 騎士団1・2を争う火力だとは評価してやってもいい。
 ロウマもゴランも俺よりは下だけどな!実力も!」

あんまり当てになる評価じゃなさそうだ。

「俺の評価は俺が決める!」

だそうだが。

































「ハエよりも、度し難い人間だ」

城の半分といっても大げさでない規模。
その魔物の王。
魔王デムピアスは蟻達を足元に見渡す。

「ぐっ・・・」

頬の金属が剥がれる。
またあの衝撃。
飛ぶ衝撃。

パワーハンマー。


「オォラ!目が覚めたか海賊王!ハーリー・・・ハーリィハーリィハーリィ!ハリアッ!」


棘の付いた鉄球棒。
モーニングスターを持つ屈強な男。
見るからにパワーファイターと分かる身形の男が、
デムピアスの足元で、
米粒の如く叫ぶ。

「ここで会ったが100年目だ!全滅したデムピアス討伐隊の仇が討てるってもんだぜ!
 この『モーニンググローリー』ゴラン様が目覚めの一発をくれてやらぁ!」

米粒が群れているようにしか見えない、
人々の数々。
色々の虫々。
その中に一匹存在感のある男。
それが吼えてきている。

「ウェーーイカッ!!!」

棘鉄球が降られると、
また飛ぶ衝撃だ。

デムピアスの巨大な五指の一本にヒビが入る。

「どうだデムピアス!俺が貴様を粉々にしてやるっ!」

指が再生する。
鉄傷が無かったようになる。

やはり再生が遅い。
体の消耗が激しいか。

ギロリと、頭部に二つ付いている視覚を担う鉄球が違う男を睨む。

車椅子に乗る紫髪の男。
燻(XO)。
あの男を倒さなければ"正義"はない。

「余所見してんじゃねぇ!!」

眼球の片方がショートする。
パワーハンマーが飛んできた。
デカい眼球が破裂する。

「・・・・・度し難い」

その傷もユッタリと再生していく。
無限の化け物。
魔王デムピアス。

「どけ。ミニサイズの人間」

「おめぇがデケェんだよ!」

「声が小さくてよく聞こえん」

「おめぇがデケェからだよ!!」

モーニングスターをぶん回してきた。
デムピアスから見れば、
蚊がケツを回しているようなものだが、
次の瞬間にはデムピアスの顔面に3つのヘコみが出来ていた。

「お前じゃ俺に勝てんぞ人間」

顔面のヘコみも、ゆっくりと再生していく。

「うっせぇ!このゴラン=スポンサー様がてめぇを・・・」

「酷い名だな」

「う、うっせぇ!聞こえてんじゃねぇか!」

「偽名か?」

「・・・・・うっせぇ!本名だよ!」

「仲間の復讐という事らしいな」

「あぁそうだデカ魔王が!騎士団長を除き、テメェは騎士団の遠征部隊を全滅させた!
 この気持ちは復讐・・・いや!仇討ちだ!弔いだ!見ろっ!!」

見ろと言われれば見るが、
デムピアスの目からは矮小な生物達。

「あぁ。てめぇの眼じゃぁ違いなんて分からねぇだろうな!
 だがテメェめてぇデタラメにデケェ化け物相手に!
 俺を含め!逃げずに挑んでいる騎士団員の姿が列記としてここにある!」

確かに、
デムピアスは腕を一振りすれば跳ね飛んでしまう米粒が、
そこに参列し、
こちらに向いている。

「これが俺達の心情の表れだ。目ぇ覚まさしてやる。地獄に還りな!」

足元から魔法が一斉に射出される。
デムピアスのデザインに足などないが、
それこそ踏み潰すに値しないほど矮小な者達が、
自分に挑んでくる。

人間。
何故人間は知性があり、利口な生物であるのに、
そんな事が出来るのか。

理解出来る。
あぁ。今の自分なら理解出来る。

出来るが・・・・。

「やはりお前らでは俺は倒せん。理由は一つ」

それは、
たった一人の人間から教えてもらった事。

「正義がない。勝つのは正義だ」

「・・・・・黙れ。復讐に正義はないってか?」

「違うな。お前らは死骸騎士だ。魂と心の在り処は過去にある。
 お前らは何故この城を守る。この騎士団を守る。守る価値などないのに。
 それは過去に縛られているからだ。それだけだ」

きっと、
この死骸騎士達だって、
今の今まで生き永らえていたならば、
今の騎士団を守ろうとなんてしなかったはずだ。

死骸騎士として蘇らせられたからこそ、
意志は置いてけぼりに戦っているだけ。
過去のまま。

「ココに意志はないなら、"ココに正義はない"」

拳があがった。

「!?」

それは言葉にするならば簡単だ。
猿でも出来る。
しかし、
その拳の強大さ、デカさ。

街を一区間無き物に出来る・・・・・

「正義でなければ、勝てん」

拳が叩き付けられた。

地響きになる。
庭園が揺れる。
地が割れる。

半径十数メートルとも言える拳が、
地にめり込み、

隙間から・・・・幾つもの魂か昇華していった。

「勝つのは正義。それだけだ」

それだけ。

「力あるものが勝つのでなく、正義が勝つ。
 力あるものが正義でなく、正義だからこそ力がある。
 今の魔王(俺)には、正義だと言い切れる意志がある」

たった一人のヒーローに魅せられた、
魔王。

誰かが言った。
正義の反対はまた別の正義だ。

だが今やっと、デムピアスは自分にある正義を認識出来た。

「・・・・なら勝つのは俺らだろ?」

ただし、
その正義の鉄槌。
文字通りの"鉄"拳の上に、
モーニングスターを持ったゴランが立っていた。

「過去に縛られている?はん。眠ったままだと言いたいか?」

ゴランはモーニングスターを、
そのまま真下のデムピアスの拳に叩き付けた。

「ぐっ!?」

拳が割れる。
岩石よりも何回りも大きい拳が、
ヒビ入り、砕ける。

「俺達の過去。上等だ。俺達は"過去に後ろめたさなどない"
 俺達は過去からずっと、騎士団の正義を信じてきてんだからな!!」

さらにもうひとつと、
ゴランはモーニングスターを叩き付けたところで、
デムピアスの拳は砕け散った。

「・・・・にっ・・・んげんっ!!!」

デムピアスは手首から先の無くなった腕を振り上げる。

「やるな!やるな!人間!そうか!そうだったな!
 それでこそ人間だ!俺が成りたかった正義の権利を持つ生物!」

デムピアスの手首が変形していく。
規模からして、
まるでヒーローモノの巨大ロボットのように。

それは巨大な大砲へと変貌する。

「下がれ!散れ!来るぞ!!」

「人間っ!俺はっ!俺はお前らを倒しっ!自分の正義を証明しっ!
 正義をも上回る本当の正義を手に入れてっ!!!」

巨大な手首の砲台が、
光を吸い込み、輝く。
庭園全てを照らす。

「人と成るっ!!!イミットキャノンっ!!!」





一瞬世界がカッ・・・・と輝く。






無音。
無音が続いたと思うと、

それは誰しにも幻聴で、

辺りは轟音に変化していた。


全てを飲み込んでいた。






























「ウフフ・・・・・・ウハハハハハハハハハ!!!!!」

世界が白くなった。

その景色の中、
爆風で辺りが逆に向かう。

凄まじい、
凄まじい規模だ。

視界が爆発の光以外見えない。

「なんじゃこりゃぁ!アッハッハッハッハ!!!」

人が吹き飛んでいる。

物が飛んで、

地面が畳みのように翻って、


右見ても、
左見ても、
白。

白白白白。


真っ白。


豪風が吹き荒れる。
台風のソレが放射状に広がるように。


その中、

燻(XO)は両手を広げて笑っていた。

「いいね・・・いいねいいねいいね!デムピアスなんてつまらないと思っていたが!
 ウフフ・・・アハハハハ!ラグナロクが存在するならこんな風・・・・おっと・・・・」

辺りを全て包むその爆風で、
燻(XO)の車椅子が倒れる。

「ウフフ・・・・アインが手に入れたかった力のはずだ・・・。
 ハハハッ!実につまらない!これほどどうしようもない規模だとは!」

これが海賊王。
これが魔王。
これがモンスターのキング。
デムピアス。

「ほらっ!そこら辺のクソ共。畜生共。俺の車椅子を起こせ。
 高級な三枚重ねのトイレットペーパーでケツを拭く様に丁寧にだ。
 俺は今、機嫌が物凄く悪い。絶好調だ。最高にクソッタレで興奮する」

爆風の中、
一番近場の騎士がなんとか駆け寄って・・・

「おっと」

爆風の中で地面の瓦礫が一つ飛んできた。
燻(XO)は指を軽く捻る。

お得意のメテオ操作の要領で、
瓦礫は軌道が変わった。

駆け寄っていた騎士に直撃し、
吹っ飛ぶまもなく光となって昇華した。

「アッハッハッハッハ!クソつまんねぇな!!!」

車椅子が倒れたまま、
起きれない燻(XO)は地面に大の字になったまま、
紫の長髪を広げたまま、
天を仰いで笑った。

「あんなクソったれ存在しちゃぁいけねぇな!
 この世にクソったれは俺独りで十分だ!
 他人の人生を陵辱する権利があるのも!弄べるのも!
 最悪の名を欲しいままに出来るのはこの俺だけで十分だ!!」

トチ狂ったように楽しそうに、
燻(XO)は笑う。

「海よりもデケェ便所に流してやるぞ。海賊王」
































「・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・」


庭園に、建造物が一つ。
要塞生物デムピアス。

爆発は消えうせ、
辺りは静かになった。

直径50mはあるクレーターが一つ。

そこにはあって、
既に300を越える騎士達の魂は空に上り果てていた。

「・・・・・はぁ・・・・くっ・・・・はぁ・・・・」

ゴランの居た場所を中心地点に、
荒野と化したその場所。
魂に見た目は無く、
廃に見た目は無い。

全ては平等に召された。

その横、いや、上で、
デムピアスは自分の左手首を見ていた。

「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・再生・・・・しない・・・・」

ゴランに破壊された左拳は、
どうコントロールしても再生しなかった。

「度し・・・難い・・・・・・・自分の底を初めて見ることに・・・なるとは・・・」

再生しない。
遅いというレベルでなく、戻らない。
着実なる終りは見える。

パラパラと・・・・自分の体の部位が剥がれていっている事に気付く。
鉄板のクズが巨体から落ちていく。

その落ちた部位の落下だけでも、
下に居る者は下敷きになり、消えていく。

「今のは・・・エネルギーを使いすぎたか・・・あと・・・どれくらい持つ・・・・ふぅ」

デムピアスは息を整える。
機械のクセに。
魔王のクセに。
あまりに人間らしい自分に笑う。
嬉しいから笑う。

「あとどれくらい足りる。今のは無駄撃ちだ。
 次は、内門か燻(XO)という人間に撃たなければ・・・・・」

不意に足元を見る。
足など無いが。

「・・・・・・・・」

平がるクレーター。
自分の規模からみれば大したことはないが、
この戦場の地図を書き直さなければいけない規模だ。

そこに居た人間が皆無となった。

死骸だけではないはずだ。

反乱軍の人間も。
海賊団の魔物も。

「心をコントロール出来ないようでは人間には・・・・・」


                     邪魔する奴は全て倒ーーーーす!!

あいつの声が聞こえてくる。

「あいつの言っていた事は・・・・こういう事じゃない。
 全てとは・・・無差別の事ではないはずだ。正義じゃない」

歯がゆい。
人になりたい。
ヒーローになりたい。

命を、
己として、
花咲かせたい。

悪には悪の正義がある。

「負けるわけにはいかない。負けては正義ではない」


































「迂回しな迂回!さらに東へ!内門はすぐそこだよっ!」

ツバメは指示を飛ばしながらも、
その跡地を見る。

「・・・・・危ないねぇ。フレア嬢から伝令が来てなければ直撃だったよ。
 確かにデムピアス周辺は避けて通るが吉だね」

多少の迂回はしても、
内門はすぐそこだ。
相手は内門に集結しつつある。

辿り着くだけならばそう難しくない。
ものの数分の問題だろう。

「姉御!こっちは無理だ!」
「相手もデムピアスの居る中央は避けて通る事を見越してまさぁ!」
「堅い」
「52も固めてきてる!」

「無理なんてこの世にあるかい!お呼びじゃないんだよ!
 道が無ければ作る!それが極道だ!」

フレアと違い、ツバメの指示は多少のゴリ押しが入る。
しかしそれを可能とするのもまた才能だ。
被害もデカいが効果もデカい。

「姉御。ジャイヤの兄貴から連絡があった」
「どうやら内側からの内門破壊は諦めたそうで」

「なぁにやってんだいあいつは。なんのために侵入したんだい。
 とりあえずそれはアレックス=オーランドに通達しな。
 うちじゃ命令は出来ても策は練れないからねぇ」

そうだ。
結局のところ、フレアもツバメも、
指揮は出来るが、
戦団を動かす事は出来るが、
戦場を動かす事は出来ない。

フレアとツバメは反乱軍の最重要。
キーパーソン。
最上2名だが、

アレックス=オーランドは、
居なくなればソコで終わる。

重要でなく、必須な因子。

「確かに英雄の素質はあるよ。けど、踏み切れるかねぇ」

ツバメが心配しているのはそこだ。

アレックス=オーランドは"人間味があり過ぎる"

「"徳"を曝け出しておいて、裏では人を駒のように扱う決断力も必要だけどね。
 奇策好きだが、リスクのある奇策には自分自身で動くフシがある。
 それ自体は英雄の資質にもなるけど、いかんせん"能力が伴っていない"」

我が身を削るものとしては、
何もかもを背負うものとしては、
英雄としては、

小さ過ぎる。

「もとを正せば凡人。そんな奴にうちらも頼りすぎなのかもしれないけどねぇ」

祭り上げられた英雄はただの凡人。
戦場の主人公は、
舞台ばかりが加速して、自分自身が置いてかれている身の上。

背負いきれない荷を担がされた彼は、
どこまでいける。

「フフッ、それでも15ギルドのうち3つをも指揮下に入れた人間は史上初だよ。
 その上、魔王もを使い、神を飼う。凡人の中では頂点に違いないさ。
 よく頑張ったもんだ。あとはうちらが押し上げてやろうじゃないか」

内門はすぐそこだ。





































「作戦室(1番隊)から、ゴラン隊長をフォローしなかった非難が飛んでいます」
「デムピアス討伐に欠かせなかったピースだったと」
「まぁディエゴ部隊長ご本人からではありませんが」

燻(XO)は、数人の騎士の手により車椅子を起こしてもらう。
もちろん、
障害者とはいえそれぐらいは人の手を借りなくとも出来るが、
他者を使うのは気持ちがいい。

「非難?ウフフ。なるほど、非難。非難ね。新鮮な気持ちだなおい。
 人目の付かないところでジメジメコッソリ陰湿に遊んでた俺にはな。
 だが逆に言えばこの俺が肯定意見を得る行動を起こすなんてのは・・・・」

まぁいいか。
燻(XO)の機嫌は最悪によかった。

狭い地下で遊んでいては出会えないモノが目の前に居る。

見上げれば、
いや、見上げなければいけないものなど地下にはなかった。
だから見上げれば、
あの強大な魔王。

アレで何して遊べるのかと考えればほとほと心地よい。

「あぁご苦労だった。・・・・で、お前ら」

燻(XO)の世話をした騎士達はビクりとした。
燻(XO)に声をかけられる事。
それが意味するところぐらいの理解はあるようだ。

「まぁそう腰を引かすなって。殺しゃぁーしねぇよ。だって恩人だぜ?
 お前らがいなけりゃ俺は戦場の土とキスしたまま・・・・ってこたぁないか。
 ちょいと聞きたいだけよ。ウフフ。お前らどこの部隊のもんだ?」

「・・・・・・犠牲部隊です」
「俺も」
「私は摩訶部隊に所属していましたが、こいつらと同じで部隊長が・・・・」

「生い立ちまで聞いてない」

騎士の体がガクンと崩れた。
膝から落ちた・・・・
という表現は文字のまま。

膝から下が消え去り、地に転がった。

「!?」
「何を・・・・」

「お前らも」

他の者も、膝から下を黒渦に食われ、
地に転がった。

「いいねぇ。お前ら。死骸だからこんぐらい大丈夫だろ。
 パンピーだとこんなんでも十二分に出血多量するもんだが」

「何・・・・」

「"頭が高ぇんだよ"」

燻(XO)は車椅子の車輪を、
地に這い蹲る騎士の顔面にぶつけた。

「俺はよぉ。横に立たれるのが大嫌いなんだ。あ?大嫌いなんだよオイ。
 死ね。死にさらせ。あ?地に立ってるのがそんなに偉ぇ事なのか?
 俺よりクソなくせに俺より優越感に浸ってるようでよぉ!」

車椅子を転がし、
手助けをしてくれた騎士に仕打ちを与える。

「世界は二つ!上に立つモンとお前らだ。俺はなんだ?分かるだろ。
 この世は俺に優しく出来ている。そうじゃないと嫌なんだよ。
 誰様だテメェは?分かったら土でも舐めて勃起を覚えろ」

そうすりゃ許してやると笑っている中、

「燻(XO)将軍・・・」
「・・・・敵勢です」

それでも健気に職務を果たす騎士は、
誇らしいのか逆なのか。

ともかく、
デムピアスのあの攻撃の騒動に乗じて、
反乱軍もこんなところまで攻め込んできたらしい。

「居たぞ!車椅子の男だ!」
「情報屋の話だとアレが絶騎将軍(ジャガーノート)の一人だ」
「だ、大丈夫なのかよ俺らだけで」
「じゃぁ誰がやる!」
「後ろを見ろ。味方が雪崩れ込んで来る。先頭が情けない姿見せられっか!」

反乱軍の先頭の男が、
勇敢にも燻(XO)に声をあげた。

「おう女男!俺はギルド『ホテルLA』のマスター。チェキータ。
 そのナリ、障害者だかなんだか知らねぇが手加減にする気はねぇぞ!」

「クソ口叩くのは"どの口"だ」

返事は無かった。
先頭の男は勇猛に声をあげていたが、

今この瞬間、既に終わっていた。

首から上がなかった。
斬ったわけでも潰されたわけでもなく、
黒き異世界に食われ、無くなった。

首なしのマネキンが勇猛にそこに立っているだけで、
遅れたように首から多量の血液が天に向けて噴出した。

「うわっ!うわああ!!」
「落ち着け!ダークパワーホール使いだって情報屋が言ってたろ!」

「あらら。もうそこまで知れ渡ってんの?気分悪いね。・・・おい並べ」

「つまり魔術師だ!」
「一斉にいくぞ!」
「接近戦に持ち込め!誰か一人でも奴の体に金物を叩き込んでやれ!」

「並べ・・・・っつってんだろ」

一人の男の腹部に、
ブラックホールが重なった。
それは上半身と下半身の別れの合図でもあった。

「背の順に並べ。背の順に殺してやる。イラ立つんだよ。
 人様を障害者だバスケットケース(だるま)だってよぉ。
 手も足も出ねぇのはそっちだろうが。なぁ?なぁ・・・・・」

ダークパワーホール。
小規模のそれが連発される。

「俺のっ!手!手!」

規模なんてのは関係ない。
威力なんてのはインフィニティと置き換えてもいい。
ガード方法などない技なのだから。

「ひ、退け!退け!」
「どっち向いて言ってんだよ!」
「知るか!足が!足がねぇんだよ!」

一瞬で混乱が立ち込める。
可愛く言えば蜂を散らしたように。

気付けば、
そこには誰の部位かも分からぬ残骸が転がり、
五体満足な人間が何人いるかという・・・・

「そういう事。障害者って言葉、俺は大嫌いでね。差別だよな差別。
 まるで俺が弱者みてぇじゃねぇか。そーいうのは無し。無しだ」

カラカラ・・・と、車椅子を転がす。

「俺はさぁ、全人類が平等であるべきと思うわけよ。
 つまり俺が障害者なら、お前らも五体満足であっちゃぁいけねぇんじゃねぇの?」

自分の足を捜してる者。
首無しで歩いてそのまま倒れる者。

そういった混乱の中で、一つの残骸の頭を燻(XO)は掴み上げる。

「お前女だな。ん〜・・・・いいね。戦場にはデザートがあるべきだ。ツラ見してみ」

女騎士のアメットを揺らすと、
ドサリと女の体が地面に落ちた。
燻(XO)にとっては異性の評価基準として、
生死というのはあまり重要ではない。

「・・・・・ツラ見なけりゃよかった。美しいのは罪だが、逆は罰だな」

そのまま捨て置き、
混乱の中で燻(XO)は叫ぶ。

「おいお前ら。嬉しそうに喚いてないで少しは甲斐性ってもんを見せてくんねぇか?
 俺に会ったのは運の尽き。あぁ、それはしゃぁねぇだろ。だが俺は有情だ。
 少しはソソる女が居れば名乗り出ろ。一時間くらいは長生きさせてやる」

戦意を喪失して逃げ出す者が多い中、

「ん〜。やっぱ頑張った自分へのゴ・ホ・ウ・ビ・・・がないとねぇ。
 じゃねぇと俺ってただの頑張りやさんな掃除業者に・・・・ん?」

燻(XO)の目は一つ、
ソレを見つけて輝く。
紫の唇に下が這いずる。
車椅子の足取りも軽快だ。

「これはこれはレディー。神は俺に加護を与えてくれたのかもしれない」

それは、
まだ幼き戦士だった。
少年兵さながらの少女兵だった。
こんな小さな子までもが戦場に・・・
そう思わせられる一面であったが、
燻(XO)にとってはボタモチ程度の感覚だった。

少女兵は怯えたまま、
腰を抜かせて動けないでいた。
震えていた。

「まぁまぁまぁ。怖がらなくていい。怪しい者ではない。危ない者ではあるが。
 あぁそうだキャンディーをやろう。お前のママの教育を見たいところだ」

カタカタと少女兵は怯えていた。

「幼いレディー怯えるな。確かに今からの君が会う事柄には同情の余地はある。
 だが受けて入れてしまえばいい。悦びにすればいい。楽しみに・・・・」

車椅子を、その少女兵の周りで走らせながら、
思わぬ拾い物に燻(XO)は饒舌に話す。

「あぁそうだな。俺が言うのもナンだがクソったれた変態の知り合いも結構居てな。
 幼女趣味(ロリコン)なんてのは結構多数派な部類だ。
 ま、俺にも分からんでもない。純粋なものが汚れる姿はソソり立つ」

車椅子を止め、
燻(XO)は少女兵の顔に触れる。

「ある変態仲間は言ってたな。『最高だ。普通だと法律に触れる年齢の子が相手でも、
 この地下の遊び場ではお役人の目も届かない』・・・そしたら他の奴が答えた。
 『馬鹿言ってんじゃない。お前はロリコンのロの字も分かっていない。
 幼い子っていうのは"触れられないからこそ神聖"なんだ』・・・ありゃぁ名言だった」

ウフフと笑い、
燻(XO)は少女の唇に指を這わせる。

「みずみずしくていいな。ウフフ。コレは俺もたまに味わいたくなる。
 そうだ。もう一度聞くぞ?お腹はすいてないかい?"キャンディーをやろう"」

気分は最高潮だった。
最高の気分だった。
これ以上はない。

場所など知ったものか。
クソったれを行うのが自分だ。

だがその反吐が出る最高の気分の真っ最中。




燻(XO)の頭が、 跳ね上がった。




「・・・・・・・・・・・・あ?」

何故か、
急に、
唐突に、
自分は天を見上げている。

カクン、と上に跳ね上がった頭を落とす。
首が飛んだかと思ったが、違うようだ。
代わりに、
紫の髪の隙間から・・・・・鮮血が零れてきた。


「・・・・あぁ!?」

額から流れる血を拭う。
手を血で染める。
自分の頭部から流れてきている血。
それを見て、
気付く。

「・・・・・ざけんな。・・・・・どこのクソ野郎だ」


































「やった!?」

マリナは目を凝らす。
ここは・・・・デムピアスの巨大ガレオン船。
その船尾。
城にケツを向けて降り立ったこの船の最北。

そのポイントで、
マリナはギターを構えていた。

「・・・・・いや、」

目を凝らす。
先。
先の先。
豆粒のようにしか見えない人の中。

デムピアスの巨体の影を縫う視線の先。

「やっちゃった!?外した!?」

マリナは歯を食いしばる。

「マジ?マジで?ちょっとちょっと何してんの私は!
 絶騎将軍(ジャガーノート)を瞬殺出来る最初で最後のチャンスを!」

悔やまれる。
当然だ。

燻(XO)とて人間。
この人だらけの戦場の中、全ての人間に意識を向けているわけがなく、
さらにこの遠方にいるマリナ。

「ニッケルバッカーを撃った距離の半分も無いのにっ!」

そのスナイピングだ。
意識出来るわけがない。

燻(XO)とて同じだ。
人間の枠を出ない。
遠くにコッソリ存在するマリナ程度の存在に気付くはずもない。

「馬鹿!馬鹿!私の馬鹿!もっと確実にって自分に言い聞かせたでしょ!
 もう!こういうのは私の領分じゃないっていうのに!」

事実、
あと少しだけズレていれば・・・・・

燻(XO)の頭を貫いていた。

マリナのMB16mmスナイパーライフルの狙撃は成功していた。

「でもイケる・・・・・イケるわ」

狙撃。
スナイプ。

何故それが忌み嫌われ、戦場で脅威なのか。

単純な話からすれば、
手も出せない、
姿も発見出来ない、
そんな長距離からの攻撃。

狙撃側の一方的な攻撃。

言い換えればズルい。
射撃ゲームでしかない。

1部隊が1人とスナイパーに壊滅させられるなんてのは事実起こる話。

ただし、
この超人が蠢く戦場でも一昼一夜のマリナのスナイプが通用するのが、
スナイピングの本当の怖さでもある。

殺人的因子は距離か。
現在、この船とターゲットの位置。
マリナと燻(XO)の距離は、

曖昧に500m無いか・・・くらいのものだ。
いや、
距離だってどうでもいいかもしれない。

結局のところ、
"音は銃弾に追いつけないのだから"

音など、
秒間360mなんて陳腐な速度しか出ない。

"狙撃された者が、狙撃音を聞くことはない"



例えばロウマ=ハート。
彼は音を聞いてから、ソレを把握し、動き、
避ける。
止める。
そんな事さえ可能な超人でもあるだろう。

だがそんな彼でさえ、
自分が狙撃された事に気付くのは、当たってから以外に不可能だ。

それは、
燻(XO)も同じ。

どんな化け物でも、
認識出来ないものに対して・・・・対処などない。

「でも外した・・・・場所がバレてない事だけを祈らなくちゃ・・・・」

燻(XO)の行動は一部始終見ていた。
頭がイカれている。
異常だ。
しかし、
頭は正常以上だ。
才がある。

戦場の状況。
自分が受けた傷。

それらから、ココを割り出す事は可能だろう。

「バレる前に・・・・」

あの男を倒せば、あとはフレア=リングラブ。
彼女が内門にメテオを放てる。
あれは突破口。

1度やれた事は2度やれる。

「それで駄目なら数撃ちゃ・・・・」

目を凝らす。
気を引き締める。

何があったって、あんな男と真正面からぶつかる事だけは避けなくちゃいけない。
自分だけでなく、
誰であっても。

あのチート染みたブラックホール。
どうやっても足掻けない能力。

あれに対抗出来る能力など無い。
全てを無効化してしまう反則の技だ。

やるのは・・・・今、自分しかいない。

マリナの人一倍の五感が研ぎ澄まされる。
目を凝らす。
気を引き締める。

次弾。
魔力を込める。

ターゲット。
紫と赤が混じった頭。
車椅子の男。
クソ野郎。

「いい男じゃないの。顔以外の全てを整形したら付き合ってあげてもいいわ」

MB16mmスナイパーライフル。
そのマジックボールの魔力。
その凝縮。

照準が合った。
ブレない。

いける。

「ミートボールを・・・・御馳走してあげるわ!」

発射した。
狙撃した。

それとほぼ同時だった。

燻(XO)が動いた。
何かしてくる?
関係ない。
万が一にこちらが攻撃を受ける覚悟さえしている。

それでも撃ち抜かなくちゃいけない最悪があいつだ。

ただ、

それは燻(XO)の事であって・・・・


あの女の子ではない。


「なっ!?」

クソ野郎は、
あろうことか、少女を盾にした。

タイミングはドンピシャだった。
照準は咄嗟にズレた。
あらぬ地面に銃弾は着弾した。

同時に、先の先。
マリナの目線の先。

クソ野郎の目玉がこちらを向いたのが、ハッキリと見えた。


「や・・・・・・ばいっ!!!」

崩れた船上。
物陰に咄嗟に隠れる。

「・・・・・ふぅ・・・・ふぅ・・・・」

自分の息が荒くなるのが分かる。
あの目。
あの男の目。

人の目じゃない。
悪魔の目でもない。
獣の目でもない。

間違った目だ。

心ある畜生の目。
あってはいけない目。

「あれは駄目・・・絶対に会いたくない・・・・もう一回・・・目も会わせたくない」

この戦場。
主要人物の中で、
燻(XO)と逆側の立場に向かう合う人間は、
マリナが初めてだった。

心無きクズでなく、
心有るクソ。

「ギルヴァングって奴の時は・・・・人間の頂点と戦う事を思い知ったわ・・・
 だけどアレは逆・・・真逆・・・・最悪・・・・"人間の底辺"・・・・あんなの・・・・」

関りたくもない。
何をされる。
触れたくない。
触れられたくない。
悪寒が走る。

あの最悪に認識された事だけでもう。

「・・・・・と」

不意に、
背もたれにしていたものが無くなる。
この船上。
崩れたガレオン船。

戦場が一望出来る。
見晴らしはいいもんだ。
こっちからも、
あっちからも。

「完全に・・・・バレた」

500mの距離感を挟み、
マリナは船の上を転がる。

また船が食われた。
球状に削り取られる。

「酷い能力ね!」

向こうは遠距離をピンポイントで狙う能力がない。
それだけが救いか。
足元にブラックホールが現れる。

船尾が崩れる。


































「キリ無いっつーか・・・・」

エース。
エドガイ。
メリーにロッキー on the メッツ。

ひたすら走る。

エドガイは走りながらも後方に剣から弾丸を打ち鳴らす。

「半分以上は避けられるっつー涙目」

後方からはジャイアントキキの大軍。
土竜部隊。
追いかけられる。

必死に走るばかりだ。

「後ろ見たくねぇ!どんくらい迫ってる!?」
「100あると願いたい」
「あれを陸上選手に置き換えてももの十数秒で追いつかれんじゃねぇか!」
「メリー、メリー。応戦だよ」

メッツの肩に乗っかってるロッキーは、
同じくメッツの肩に乗っかってるメリーに話す。
メリーは頷く。

「・・・・・・・・・」

メリーが微笑むと、
Gキキの一匹が凍り付き、
氷の岩石になって遠ざかった。

実際、物凄い速さで追いかけてくるため、
遠ざかっていくように見えた。

「もっと!もっとだよ!」

ロッキーもバーストウェーブで応戦し、
エドガイも後ろに向かってパワーセイバーを打ち鳴らす。
命中率は酷いもんだが、
着実に撃退はしていた。

少々の足止めくらいにもなっていた。

だが世界最速種族Gキキの前では、
それも誤差のようなもので。

「走れメッツ!遅れてんぞ!」
「俺は2人担いでんだよ!」
「知るか!俺の武器満載棺桶のが重いっつーの!
 それに比べればお前は両手斧1本分より軽い荷物だろうが!
 ・・・・あぁ思い出した!っつーか俺の斧の片方!てめぇ!」
「スシアに言えスシアに!俺のせいじゃねぇよ!」
「メッツ〜。速度あげていい?」
「お前は俺に乗っかってるだけだろが!」
「メッツジェットー」
「おわっ!!おわわわわ!!!」

ロッキーがカプハンからバーストウェーブを放ち、
無理矢理推進力を与えた。

「のわったったった!」

あっという間にエースを追い越す。

「元気なのはいいことだねぇ」
「ありゃぁ元気とは違うだろ」
「まぁいいや。なぁジギー」
「エース」
「ジギー。これ借りんよ」
「おい!ちょっ!!」

エドガイは不意にエースの背中の棺桶を蹴飛ばした。

「何すんだ!」
「何をって?そりゃぁまぁ・・・・オチビちゃん。あれ叩いて」
「ん〜?こう?」

ロッキーはエドガイの指示を把握し、
メッツに騎乗したままカプリコハンマーを振りかぶり、
叩いた。

ゴルフのように。

「こうするわけ」

エドガイはその棺桶に乗った。
さながらスケートボードか。

ロッキーのハンマーで打ち出された棺桶は、
速度を維持したまま地面を滑っていた。

「あぁ!ズリィ!楽しようってか!?」
「いーや」

エドガイは棺桶に乗っかったまま、
居合い斬りの構えをとり、振り返った。

気付けば敵は目の前まで迫っていた。
速い。
世界最速生物。
どうしようもなくもう追いついてきていた。

「キッキー!ハッハー!遅ぇ!遅ぇなおい!足が遅ぇよ!
 ま、Gキキに足なんてねぇんだけどな!!」

先頭。
巨大なGキキに跨った男。
騎土竜部隊 部隊長オジロザウルス。

「それでも、"足"止めをしたくてねぇ」

エドガイは居合いの構えのまま、
剣のトリガーを引いた。

「・・・・・キ!?っと!てめぇら!避け・・・・」

「遅いよん。ナ・ミ・ダ・メ・・・・・だねぇ!」

振り切った。
渾身のパワーセイバー。
正統派のパワーセイバーであり、最大級の斬撃。

波紋のように広がる。

言い換えれば、

"長さ50mの剣で横薙ぎにしたような"

「ずっきゅん♪」

先頭のGキキから真っ二つになる。
速度も相まって、
地面とぶつかり、
分断されたGキキの残骸が地面を跳ね、遠ざかっていった。
数にして30は分断した。

当然後続も遅れる。

「すごーーーーい!」
「・・・お・・・・っそろしい規模だなおい。エドガイさんよぉ
 絶騎将軍(ジャガーノート)に張り合える能力ってのは嘘じゃないらしい」
「買いかぶりだよん」

エドガイは棺桶から飛び降りる。
エースは棺桶を走りながら腕力で引き上げ、
背負い直した。

「買いかぶりだぁ?」
「あぁ。だねぇ。俺ちゃんの力なんてのはタカが知れてる。凄いのはお金の力だよん。
 俺ちゃんはお金さえあればどこまでだって強くなれるさ。それより」

エドガイは走りながら、
親指で指し示す。

「あの可愛い子ちゃんの言葉を翻訳してくれないかな」
「あ、えっとね」

ロッキーがメリーの意志を預かる。

「今走ってる方向、これでいいのかだってー」
「走ってる方向?」
「とりあえずあいつら追っ手から逃れるために人ごみに紛れようって話だったろ」
「あぁいや、俺ちゃんは言いたいこと分かるぜ」

そう言われて前方を見れば・・・・
いや、
頭上を見れば・・・・

「もうデムピアスの真下だよん」
「・・・・・チッ・・・・」

エースも状況はやっと理解した。
つまり、
誘導されていたのだ。
あのGキキ部隊に。

追いつくならもっと早く出来たのだろう。
あいつらはむしろ自分達をデムピアスの方へ追い詰めていた。

「キッキーー!危機一髪!!!」

上から声が聞こえてくる。
後方の上空。
見上げれば・・・・・・空にGキキ。

黒い毛むくじゃらの球体が、
Gキキが、
超回転して飛んでいる。
大きさからしてオジロザウルスのGキキだ。

「あいつ、上に跳んで避けてやがったか!」

エドガイが空中に向けて発砲する。
飛ぶ斬撃。
たが、
高速回転する砲弾キキは、
斬撃を跳ね飛ばした。

「どんなんだよ・・・・」

「キッキー!!!」

落下してきた。
一度地面をヘコましてバウンドし、
そして回転を止め、
また地上を走り出した。

「今更気付いたか!このトンマ共め!」

さらに後続のGキキ達も既に再び追いついて来ている。

「ディエゴの策略でな!こうするのが俺達の任務だったんだよ!」

ディエゴ=パドレスの策略。
それは、
メッツ達をデムピアス方面に導く事。
あえて導く事。

効果は二つ。

一つは、先ほどのデムピアスの攻撃を見て分かるように、
巻き添えの可能性が高い。
デムピアスの大きすぎる攻撃に巻き込まれる。

やっかいな反乱軍の主要メンバーがここに集結しているのだ。
デムピアスの巻き添えになってくれればこんないい事は無い。

二つ目。
それは一つ目の逆。
デムピアスの封印。

主要メンバーの塊であるメッツらを、
巻き添えの可能性がある場所に導けば、
デムピアスという大きすぎる存在の動きを抑制出来る。

メッツらがデムピアスの巻き添えになるか。
その巻き添えを恐れてデムピアスが身動き出来なくなるか。

どちらに転んでもいい。

「やられたね・・・・」
「出来るだけ進路を東に修正するぞ!」
「馬鹿か!そんでもこの進路が内門への最先端だろうが!突っ切るっきゃねぇだろ!」
「筋肉馬鹿が!話きいてなかったのか!」
「メッツー。人の足ひっぱっちゃうのはヤダよー」
「んじゃぁまずテメェの足で歩け!」

そう口喧嘩しながら走っていると、
不意に皆を影が覆った。

辺り一面が、影に覆われた。

天気はいいはずだ。
太陽が雲に隠されたとは思わないが・・・と考えて上を見上げれば。

「・・・・・おっとっとっとー!?」

拳。
拳だ。
デカすぎて拳なのか判断に困る。
ただそれは鉄の拳。

デムピアスの・・・・右拳だ。


「そのまま突っ切れ・・・・人間達」


辺り一面から聞こえてくるような声。
魔王の声が降ってくる。

「・・・・・ッ・・・」
「走れ!走れ真っ直ぐだ!!!」

迷っているヒマはない。
一気に加速する。
いや、これ以上加速も出来なかったわけで、
なりふり構わず走ったとしか・・・・

「おいおいおいおい!ディエゴからこれは聞いてねぇぞ!
 止まれ!いや下がれ!お前ら!Uターン!Uターン!
 デムピアスの拳が降ってくるぞ!!」
「とーまーれーないッスよオジロザウルス隊長!」
「んじゃぁ避けろ!」
「あんなデケェ拳をどう避け・・・・あああああああ!!」


拳が叩きつけられた。
騎土竜部隊の頭上に。
一気に押しつぶした。

地面にぶつかった鉄拳の塊の質量は物凄く、
重量は物凄く、

拳が地面に叩き付けられた瞬間など、
衝撃で、
メッツ達の体が空中に浮いたほどだった。

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・」
「はぁあ〜〜助かった・・・・」

メッツらはやっと休息を得た。

エースは大の字になって寝転がり、
エドガイも剣を杖に膝をついた。
メッツもメリーとロッキーを放り捨てた。

全員息があがってる。

「つっても・・・・」

後方を見る。
拳が地面に突き刺さっている。
後方がもう見えない。
遮断されている。
その拳の巨大さで。

「パンチ1発で1部隊潰しちまったぞ・・・」
「勘弁してくれよ・・・この規模じゃねぇとこの戦場にゃ居られねぇのか?」

呆れる。
振り下ろされている腕を見れば、
既にここは通常の人間の居場所はないのかもしれないと。

「メッツー。悲観しちゃだめだよ?」
「別に悲観しちゃいねぇけどよ」
「チェスターは言ってたよ。デッカくなった敵はやられちゃうんだって!」

あの猿の言いそうな事だと、メッツは苦笑いした。
あいつはこの状況をさらに楽しんだだろう。
そして、
自分もそういう人間じゃなかっただろうか。

下手に実力を感じられるようになったのが枷にでもなっているのか。

「俺はチェスターの敵ではない」

上から降ってくる声。
魔王の声。

「なら、デカくなった正義もやられる対象なのか?知りたいところふぁが、
 ・・・・まぁ答えをくれるヒーローはもう居ない。度し難いがな。
 なら勝利で正義を示すだけだ。俺は負けるわけにはいかない」

目下から、多大に攻撃を受けながら、
機械仕掛けの魔王は言う。

「行け。人間達。振り返るな。このまま内門まで突き進め。道は開いてやる」

巨大な魔人の全身から、砲台が競りあがる。
テュニショット。
バルカン砲。
目まぐるしい雨のようにそれがバラ撒かれる。

「内門まで止まるな。数分やる。間に合わなければ保証はせん」

「間に合わなければ?」
「何にだ」

「俺はもう一度・・・あの"腐れ"に一撃ぶつける」

燻(XO)。
奴の事を言っているのは間違いないだろう。

「待って待って!!」

ロッキーが大きな声で主張する。

「一撃って、さっきのデッカイ攻撃でしょ?どっかんっていうの。
 聞いた感じだと何発も撃てるもんじゃないみたいだしもったいないよ!
 ぼくらとしては内門に放ってくれた方が助かるんだけど」

「悪いな。俺の正義のためにはあの人間を消し去る事を捨て置けない。
 内門にはその後、体力が余っていたらお見舞いしてやる」

「そっか。しょうがないね」

ロッキーは頷く。

「じゃぁボヤボヤしてられないね。行こ皆」
「待て待て待て!」
「もう行くのかよ!疲れてんだよ!お前は乗っかってただけだからいいかもしれんけど」

不意にデムピアスが揺れた。
あの巨体だ。
何かあれば戦場の誰もが気付く。

「なんだ?」

飛び交っている魔法とは別に、
一つ・・・いや、明らかにソレらだけはデムピアスに効いている。
刃。
真空の刃が飛んでいる。
何発も。

それがデムピアスの鉄鋼を刻んでいる。

「・・・・ありゃぁ」
「・・・・親父。親父(ビッグパパ)のパワーセイバーだ」

エドガイは苦虫を噛む。

「確かにボヤボヤしてられないねぇ」
「え?何?メリー」

ロッキーが、メリーの様子がおかしいことに気付く。
メリーは何かを主張していた。
右手で後ろを指差しながら、
左手をパタパタと。
口をパクパクと。

「何何?追っ手?追っ手って?・・・・・・地面?」


「キッキーーーーーーーー!!!!」


地面が破裂した。
地面の瓦礫が飛び散り、
水面下から黒の毛むくじゃら球体が撃ち上がる。

「そう・・・・だった」
「キキは土竜(もぐら)だったっけか!?」

騎土竜部隊。
先頭にオジロザウルス。
土に下に潜り、
少数はデムピアスの攻撃から逃れたようだ。

「チャウファング」

デムピアスの右腕が、巨大な鉄のカニバサミへと変形する。
モンスターのチャウのような牙へと。

「さっさと進め人間共っ!!」

右腕の牙が、
Gキキを数匹喰らった。

「すばしっこい奴らだ」

デムピアスの両眼にエネルギーが集約する。
両目。
オレンジに輝く。
そしてそこから放たれる怪光線。
テュニレーザー。

その熱線は、内門方面に放たれ、
地面を這う。

怪光線が通過した場所は全て廃になる。

それはまるでメッツらにレールを轢いてくれたようだった。

「恩に切るぜデムピアスさんよぉ!」
「今度魔物に生まれ変ったらあんたの部下になってやらぁ!」

メッツらは走り始めた。
内門に向けて。
デムピアスが作ってくれた道。
ここを進めば一気に内門だ。

「キィーーー!逃がすか!作戦失敗のままじゃカッコつかねぇんだよ!」

駄目だ。
さっきまでと違う。
距離が足らなさ過ぎる。

世界最速の騎馬隊の前に、この距離で逃走など無理だ。

「迎え撃つか!?あの数なら勝負になるだろうよ!」
「デムピアスの話聞いてなかったのかい?可愛いくない子ちゃん。
 デムピアスはここら一帯を塵にする予定だって言ってたろい。
 ほれ、あいつだ。あいつを黒コゲにするためにな」

走りながらエドガイはそれを指し示す。
・・・・車椅子。
車椅子に乗っている男が横目に見える。

あれが燻(XO)。
絶騎将軍(ジャガーノート)

何か遠くを見据えている。
見上げている。

ここからだとデムピアスを見上げているようにも見えるが、
違う。
もっと遠くの何か。

その標的がマリナだとまでは気付かず、
メッツらは走った。

「キキ!ハッハー!!」

真後ろから声。
もう、追いつかれた。
オジロザウルスの声。
速い。
速すぎる。

「死因は交通事故。ぶっ潰してやる!ごしゅーしょーさま!
 10:0だが保険は入ってるか!?人身事故のよぉ!」

「メッツ!」
「くそっ!」

メッツが振り向いて両手斧をぶん回そうと思った。
が、
それ以上の速さだった。
目の前の目の前。

そんなところまで詰め寄られていた。
このまま、
このデカいGキキに轢かれて・・・・・・


「お呼びじゃないんだよっ!!!!」


横から飛び込んできた影。
その木刀がGキキの横っ腹にめり込む。

「重っ・・・・」

ふっ飛ばすまではいかなかったが、
横から強烈な一撃が芯に決まり、
Gキキはあらぬ方向に転がっていった。

「・・・・たぁ・・・たた・・・ジンジンするねぇ・・・」

「ツバメ!?」
「助かったぜ可愛い子ちゃん」

身丈に似合わず、デカいGキキを相手にしたせいか、
ツバメはゼェゼェと息を切らしていた。

「つーか追いついたのか。俺ちゃんらこんなとこまで来てたんだな」

「違うってんだよっ!騒がしいから戻ってきたんだ!感謝しなっ!
 おいあんたら!さっさとしなっ!遅れるんじゃないよ!」

さらに集まってくるのは、
黒服の男達。

「待ってくだせぇよ姉御」
「早いんスよ!」

「ちんたらしてんじゃないよ!それでも極道かい!?
 極道たるものうちみたいに瞬間移動のひとつやふたつ身につけな!」

無茶を言いながらも、ツバメの手際はいい。

「後続は任せたよ!ヤッチマイナ!極道の力見せてやりなっ!」

そして、
Gキキの群れの後続を、
《昇竜会》のヤクザ達が道を阻んだ。

「デムピアスのデカい声聞こえたろ!?頃合を見計らってココから離れるんだよ!
 よし、んじゃ行くよあんたら。一気に内門だ」

いきなり仕切り、
ツバメは先頭を進む。

「おいおい。いいのか?」

「うちのヤクザ達を甘く見てもらっちゃ困るねぇ。部隊の1つや2つ余裕だよ。
 それに旗本だけ率いて戻ってきて正解だったね。
 デムピアスが開いてくれた道がある。一気に進めるじゃないか」

パーティーにツバメを加え、
というよりは仕切っているからツバメのパーティに加わりというべきか。
さらに激しくなった戦場の中を駆け走る。

「こっから先はほぼ乱戦だよ。指揮系統もイカれてきてる。
 向こうの思惑なんだろうけどね。東から迂回させてる軍も、
 もう指示飛ばしてもそこまでの効果が期待出来なくてねぇ」

思い通りに動かせないほど入り組み始めた。
まぁそれでも、
フレアとツバメは個人の力だけで大隊をよく動かせていたというものだ。

「まぁそれでも指揮を放棄するわけにはいかないんだけどねぇ」

「おい可愛い子ちゃん。なぁ可愛い子ちゃん。親父は、グッドマンはどこだ。
 さくらのリーダーだ。さっきデムピアスに斬撃飛ばしてた奴」

「知らないよ。52はかなり散らばってて纏まりを得てないしね。
 大体、私情挟む事柄なんて構ってられるかい」

「・・・・チッ・・・・情報屋を使うか」
「エドガイ!そんなもん後回しだ!」
「デムピアスに巻き込まれるぞ。まずは進むんだ!」

だが前方。
当然立ち塞がる敵達。
仮面をかぶっている。
和服の者達。

「クソッ!52だ!」
「もう迂回してるヒマなんかねぇぞ!デムピアスは待たないつってたしな!」
「いんじゃないの?ね?メリー」

メリーがニコりと笑う。
と同時に敵の1人が氷漬けになる。

「だってこのメンバーだよ?」

ロッキーが微笑み言う。

メンバー。

メッツ。
エース。
エドガイ。
ロッキー。
メリー。
ツバメ。

「相手が52部隊でも、このメンバーで突破出来ないなら終りだよ?」
「確かに・・・な」
「どうやったらこんなに偏るんだっつー話だ」
「主要メンバーのほとんどがここに集まってるわけだねぇ」

足は止めない。

すぐ上空では天使が待っていた。
風と、
炎と、
雷と共に。

もうフレアの西軍も目視出来る。
そして内門の射程にも。
立ち並ぶ重装騎士も遠目に見える。

あの噴水を越えれば・・・。































「デムピアスの声聞いたか!?アレックス!」
「この戦場で聞こえてない人が居たら盲聴の人だけです」

敵の攻撃も激しくなってきている。
この内門直下。

重装騎士達は動かない事だけが幸いだが、敵の数は増えるばかりだ。
あまり周りを見ているヒマもない。

ドジャーとアレックスも顔を見合わせるヒマもなく戦い通している。

「デムピアスのさっきの一撃!あれでこの重装騎士達を一掃して欲しいとこだ!
 なのにあいつは敵1匹始末するのを優先するときたもんだ!」
「絶騎将軍(ジャガーノート)相手っていうのはそれほどってことです」
「しかしよぉ!燻(XO)を倒さないとフレアがメテオ撃てねぇが、
 メテオどーのこーのの前にデムピアスが内門ぶち抜いてくれりゃいいだろ!」

さきほど、
戦場の一部を廃にした一撃。
あれを内門にぶち込めば、さすがに門もタダでは終わらないだろう。
というか突破出来るはずだ。

「じゃぁそう言ってきてくださいよ!」
「説得無駄そうじゃねえか!」
「じゃぁ話題にあげないでください!」

オーラランスとオラーダガー。
対、死骸騎士としてはアルティマウェポンといっていい。
さらに医療部隊。
死骸騎士を相手する上で最大の相性を持つのが、
このアレックスの周囲一団だが、

それでも正直、
手が足りない。
少しずつ追い詰められている。

「もたねぇぞ!」
「デムピアスさんの話聞いてたでしょ!あの数刻の我慢です!
 メッツさん達が合流出来ます!そこまでは踏ん張るしかないですよ!」
「つーか、敵の数とか勢いどーこーよりもよぉ!
 一匹一匹がさらに強くなってる気がすんだけど!」

それは、アレックスも感じていた。
ドジャーに回復を施す機会も増えた。
自分にもだ。

常時傷を負って、それでもなんとかというレベルにまで・・・

「アレックスぶたいちょ!」

エールが叫ぶ。

「なんですか!忙しいんです!」
「恐らく鼓舞部隊です!鼓舞部隊が近場に居ますです!」
「・・・・・ッ・・・・そうか・・・・」
「なんだよその鼓舞部隊っつーのはよぉ!」
「吟遊詩人の部隊です!補助専門の!内門前全体をカバーできるほどのね!
 エールさん!フレアさんと連絡をとってください!
 彼女は先ほど通信で鼓舞部隊の存在を確認してたはずです!」
「・・え・・でも戦闘で手が離せな・・・・」
「命令です!」
「う、うぃ!」

アレックスは戦いながらも上空に声をあげる。

「エクスポさん!エクスポさん!」
「聞こえてたよ」

上から声が降ってくる。
エクスポは女神残党や城壁の敵と戦いながら、
応答してくる。

「城壁沿い、やや西だね。確かにフレア君の方が近いね」
「エクスポさんが始末してくれませんか!?」
「始末。ん〜怖い言葉を使うね」

エクスポは上空を旋回しながらあたりを爆破させる。

「残念ながら手が空かないね!ダニエルが好き勝手だし、ガブちゃんはマイペースだし!
 バンビ君に至っては攻撃スキルが無い上、まだ能力を扱いきれてないんだ!
 ボク以外に上空の応戦担当者がいないんだよ!」
「そうですか。ありがとうございます役立たず」
「いいってこ・・・・最後なんて!!?」

カカカッ、とドジャーの笑い声が聞こえてきた。
自分以外がその言葉を言われると安らぎがあるのかもしれない。
なんてちっぽけな人だ。

「にしてもよぉ!デムピアスの巨体!格好の標的だな!次の一撃の前に・・・落ちないか?」
「ジワジワは削られているでしょうね」
「たまに飛んでる斬撃が俺らから見ても致命的だ!
 明らかに目に見えてデムピアスの体力を奪ってやがる!
 どいつの攻撃だ?鼓舞部隊よりそっちが優先じゃねぇのか!?」
「・・・・知りません。騎士団にエドガイさんみたいな能力者が居たとは・・・・」

グッドマンの参戦は終焉戦争からだ。
それを差し置いても、
52部隊は情報隠蔽の激しい部隊だ。
アレックスの知るところではない。

「テメェのジジィなら知ってんじゃねぇのか!?」
「おじいちゃんはまた重装騎士相手にしてますよ!どーせ知らないでしょうけど!」
「ったくよぉ!・・・・・・がっ・・・・・」

ドジャーの体が前方に飛ぶ。
後ろから攻撃を受けた。
狐面の男が背後に。

「・・・・ドジャーさん!」

アレックスはスーパーリカバリを唱える。
放つ。
すぐさまドジャーを回復しながらも、
ドジャーに攻撃を与えた52の者もまとめて浄化する。

「戦い方が慣れてきちゃいましたよ!」
「こっちも怪我するの慣れてきたっつーの!
 おいアレックス!このままじゃただの52一般兵にやられるぞ!
 そう持たな・・・・・?!・・・・・アレックス!!後ろだ!!」
「へ?」

アレックスの背後。
半分囲まれていた。
3人。
もう武器を振り下ろしている。

対応が一歩遅れた。
和姿の者達がアレックスを襲う。

アレックスは振り向きながら槍を・・・・・
いや、
間に合わない。


「コォラァァアアアアアアアアアアアア!!!!」


ドレッドヘアーがミサイルのように飛んできた。
その飛び蹴りは、
狐面の男達を3人まとめて吹っ飛ばした。

「・・・・・とぉ」

地面を滑り、ドレッドヘアーは停止する。

「ふぅ」

と顔をあげ、おもむろに煙草を咥えて火をつける。
肺までタールを流し込み、
心地良さそうに副流煙をばらまく。

「待たせたな」

とカッコつけたメッツだが。

「メッツ後ろ!」

この内門下でそんなヒマなど無い。
敵につぐ敵の数。
だがそれらも細切れになり、
後続が到着する。

「だぁぁあああ!着いた!着いたぁぁぁあ!!」
「疲れたぁぁぁあ」
「ふえぇ・・・・給水所はどこだい?お呼びだよ・・・・」
「あぁもう、ここも騒がしいねぇ」

エース、
エドガイ、
ツバメ、
メリー、
ロッキー。

彼らが到着した。

「俺ちゃんら結構いいとこで到着したみたいだねぇ。
 やぁ可愛い子ちゃん。再会だ。惚れた?惚れたでしょうよ」

「はい。惚れ惚れしましたよ。よく来てくれました。
 って事でさっそく働いてください!忙しいんですよ!」

「えぇー、休ませてよーアレックス〜」
「こっちはこの庭園の半分くらいダッシュしてきてんだぞ!」
「休憩!休憩タイム!」

「なに増援が足枷になろうとしてんだよ!」
「っていうかツバメさん!なんで単独で来てんですか!東軍は!?」

「怒られた!うち怒られた!」

「さっさと西軍と合流路を作るように動いてください!
 エドガイさん!部下の傭兵さん達は!?」

「あー・・・・今結構バラけてて・・・・」

「すぐに集めてください!彼らは単体で52に匹敵出来る貴重な戦力です!
 さらにチームとして動ける。まとめて使わなければもったいないので!」

「お、おう・・・」

「っていうかロッキーさんメッツさん!ツバメさんに東軍預けたからって!
 3人まとめて動いてちゃ意味ないじゃないですか!
 残りのマリナさんはちょっと前に狙撃に入ると連絡受けてるんです!
 ツバメさんもツバメさんですけど、指示権のある人間はカバーしながら動いてください!」

「す、すまん・・・」
「ごめん・・・」

「いいですもう!メッツさんはここで戦力として動いてください。
 攻撃が大振りなので出来るだけ味方を気にせず戦える内門側・・・敵側で、
 ・・・クシャールさん(おじいちゃん)と共に内門突破を目指してください!」

「おっけだ!内門までの道を切り開けばいいんだな!」

「違ーう!あくまで消耗目的で動いてください!
 あんまり単独で進まれると僕の部隊の補助が届かなくなってしまうでしょ!?
 駆けつけてくれた人に手がかかっちゃ意味ないじゃないですか!
 あくまで少し離れて前を担当して欲しいって意味です!」

「あーあー・・・あー・・・えっと・・・うん。多分分かった・・・・」

「おいアレックス!大変な状況なのは分かるがいきなり役割を与えす・・・」

「ドジャーさん!そこ敵!」

「わわわっと!」

「ロッキーさんはさらに大きな範囲攻撃なんで東との合流路をフォローしてください!
 敵しかいないところに打ち込んでこそ意味のある能力です!
 入り乱れている場所よりも、魔法を最大限に使えるよう、ここより東に・・・・」

「アレックス〜、東はツバメも行ったから西のほ・・・・」

「東です!西はフレアさんの統率が行き届いています!数も多いですしね!
 東は乱戦状態が著しいんです!"なんでか"指揮者がいないんでね!
 命令系統の無いまま東の人たちが孤立しちゃうでしょ!」

「わ、分かった!」

「違う!ジェット!カプハンジェットに乗って上から!当然でしょ!」

「ほ、ほい!」

「それでえぇと・・・」

「エースだ。そんでこっちがメリーで」

「知ってますよ!もう!メリーさんは魔術師ですよね?
 ロッキーさんより器用に魔術を扱えそうですから乱戦もいけそうですが、
 やはり相乗効果を狙ってロッキーさんと共に東の応援をお願いします」

「おいアレックス部隊長よぉ。俺達は44だ。あんたらの指図は受けない。
 それに俺達は裏切り者のあんたをまだ許したりしたわけじゃぁ・・・」

「いいから言う事を聞く!」

「!?」

「メリーさん!あなた確か口が聞けないんでしたね?ですが聞こえるならいいです!
 スミレコさんのWISオーブで指示飛ばしますからONにしておいてください!
 まだ能力を把握してないんでそれに応じて使い方を変えます!」

メリーはコクコクと何度も頷き、焦って東へ走っていった。

「エースさんは僕らのフォローです!なんだかんだで内門下の戦力を割いてないんで!
 3名も東に戻す事になっちゃったんでね・・・ってエドガイさん!?どこいきました!
 あっ!そんなに離れないでください!ココにお仲間を呼んでと言っただけです!」

「ヘイ可愛い子ちゃん。それは了承したが、俺は親父を・・・」

「僕の親父の親父を見せてあげますから我慢してください!」

「ど、どんな理屈だそれ!」

「ああああドジャーさん!また敵が五月蝿くなってきましたよ!黙らせてください!
 ってエースさん!もう指示することないんで早く戦って!
 何突っ立ってるんですか!あんたは木ですか!?木ですか!?デクですか!?」

「アレックス部隊長。今の言葉気に食わな・・・・」

「動物ならさっさと動け!!」

「!?」

厳しい戦いの中だ。
何をやっても追いつかないのは事実だろうが、

それでもドジャーは、

アレックスが親の七光りだけでなく、
他の者達よりも劣っている平凡な能力の中で、
若くして部隊長に成れた理由が分かった気がした。



































「L・O・V・E!KNIGHTS!」

「「「「「L・O・V・E!KNIGHTS!」」」」」

「頑張れ頑張れALLGARD!」

「「「「「頑張れ頑張れALLGARD!」」」」」

荒くれた戦場の中、
一箇所だけ黄色の声援が児玉してくる。

騎士・・・という言葉は似つかわしくない。
というのも、彼らは・・・というより彼女らは、
鼓舞部隊。
第27番・鼓舞部隊。

範囲補助を専門とした、非戦闘部隊。

ギターにハープにマラカス、ドラム。
それらは吟遊詩人というよりは軽音楽部のノリであり、
そして声援をあげる鼓舞部隊員達は、

踊っている。

その姿は・・・まぁ。
チアガール以外の何ものでもない。



「フレアさん。鼓舞部隊の陣形を完全に捕捉しました」
「距離にして50」
「なだれ込みますか?」

「いえ、まだ動かないでください」

フレアは冷静に事を動かす。
東と違い、
フレアの行軍は基本、徒歩かそれ以下。
だが確実に、
被害を最小限にしながら着実に進軍させる。

西は人数も多いがため、その慎重さが必要だった。

ただし、
東に比べて派手さは一切無いが、
行っている規模と難しさは西の方が格段に上だった。

「補助の部隊を丸裸にするわけがないでしょう?
 鼓舞部隊の周囲の防備は堅めにしているはずです。
 まずは部隊長アバ=キスの所在を明確にしてください」

そしてもうこちらはこちらで内門下と合流目前だった。
というよりも合流したといっても変わらない。

アレックスがツバメ達に激を飛ばしたように、
フレアは結局西の要であり、そこまで動くわけにはいかない。

内門突破戦に突入してはいるが、
フレアの低位置はこれ以上あまり動かないだろう。

「チアガール。いいですね。私も学生生活もう少し長くしていたら、
 あぁいう事もしてみたかったんですけどね。でもスオミは貞操に厳しいし・・・」

ミニスカみたいなローブを身につけておいて何を言う。
と、周りの者達は思ったが、
戦争の真っ最中なので口を噤んだ。


「ヒャッハッハッハーーーーーー!!!!!」


突然、
空から炎が落ちてきた。

それは味方をも燃やして地面に着弾した。
敵の砲撃かと思い身構えたが、

「ありゃ?ここはどこだ?」

現れた天使の姿を見て、
フレアはフゥ・・・とため息をついた。

「・・・・ダニエル・・・・さんでしたっけ」

「あれ?何々?何お嬢ちゃん?お嬢ちゃん誰?どっち?燃やしていいの?」

「私は反乱軍のフレア=リングラブです。GUN'Sの時にも確か・・・」

「フレア!あー!あーあーあー!・・・・知らね!
 だけど凄くいい名前だな!ハッハー!燃える名前だ!・・・燃やしていい?」

ケタケタと笑うダニエルの相手。
フレアは一応慎重になる。
扱いを間違えると、本当に惨事になる。

味方のはずだが、夢半ば、廃になることも覚悟しなければいけない。

「ここは西軍の旗本です。出来れば内門下に戻ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

と微笑む。

「ラブリーだね!燃やしていい?」

あまり会話にならない相手だと悟る。

「ヒャッハハハハ!残念!俺に命令出来るのはアッちゃんだけだよぉーん!!
 あとは俺の好き勝手やっちゃうもんねー!んで何燃やしていいんだっけ?
 何燃やそう。んー。何を燃やすのが一番熱いと思うよフレアちゃん!」

そりゃ敵を・・・と思いたいところだが、
フレアは思考を巡らし、ポンッと思いつく。
そして微笑む。

「ダニエルさん。鼓舞部隊っていう部隊があるんですが♪」

「エビフライ?」

「鼓舞部隊です。ほら、さっきから五月蝿い声が聞こえてきませんか?
 五月蝿いと思いませんか?黙らせちゃうのは、そう、あなたです」

「そうやって俺を使おうとしてんの?」

ニタニタと笑うダニエル。
ダニエルは馬鹿だが、知能が低いわけではない。

「いえ、貴方の事を事前にアレックスさんから聞いています。好みもですよ♪」

「こーのーみー?」

「鼓舞部隊は8割が女性ですよ。チアガールです♪」

フフッと微笑むと、
ダニエルはニタァと笑う。

「そうか。そうかそうかそうだった!ヒャハハ!なるほど!乗ってやる!
 分かってるねぇお嬢ちゃん!そうよ!どーせ燃やすなら女なんよ!
 女の方が脂質が多くてこうー、燃やしたときに漂う空気に脂がさぁ!」

ペロリと舌を嘗め回す。

「さらに、大好きだった騎士団のってなると・・・ほほぉ!よし!釣られてやるよ!」

ダニエルはそう嬉しそうに空に飛び立った。

「気が向いたらお嬢ちゃんも燃やしにくるからねー♪」

心配なところもあるが、
うまくいった。
フレアは微笑む。

「・・・・ま、死骸騎士なんで外見の内側は骨しかないんですけどね」

フレアはボソりと言う。
怖いものだ。

こうでもなければ西軍を率いる統率者にはなれないのかもしれない。
器といえばよく聞こえる。
外見に見合わず怖い女だと思えば寒気がする。

「それで、鼓舞部隊以外のところで他に情報の進展は?」

「いえ、情報屋からも」
「フレアさんが気にしていた事に関してもそれ以来・・・」

「うーん・・・・・」

フレアは他の者達と違って、大きな視野で戦場を見て動いている。
その中で、
おかしいなと思うことがある。
部隊の事でだ。

こちらから進軍する上で、

"欠けてしまっている部隊がある"

彼らの所在を知りたい。
進軍を早めない理由もそこにあった。
もうほぼ到達も同然なので、進軍という言葉自体使う必要もないのだが、
だからこそ、
到達してしまったからこそ、

彼らと出会って居ないのがおかしい。

「もしかするともう壊滅している?でも情報屋さんからもそんな情報は・・・。
 ならどうして、音沙汰が無さ過ぎますね」

「音沙汰が無いといえば、52の中の主要人物」
「いえ、部隊長のグッドマンでなく」

「分かってます。レグザ。アール=レグザでしたっけ?
 あの辺りは敵からの情報キャッチで、どうやってか城内に入ったと聞いています。
 ですけどその52達と違って、"彼ら"は全く敵味方関係なく音沙汰がない」

そうなると、
フレアのしわ一つない手入れの行き届いた顔に、
眉間に、しわがよる。

「ん〜・・・もしかしたら壊滅している。"だとすると"ヤバいかもしれません」

「フレアさん」
「内門化と通信が再開出来ました」
「東から一部合流したそうで少々の通信の余裕が出来たみたいです」

「あら、負けてられませんね」

少し微笑み、WISオーブを受け取る。

「とりあえず伝えておきましょう。そして、私達も"攻め"に入りましょうか」

「フレアさん!」
「あれ!」

反乱軍の者達が騒ぎ出した。
いや、
反乱軍だけでない。
敵もだ。
皆の視線・・・注目は一箇所。


デムピアス。


彼の右腕は砲台に変形していた。






























「デムピアスを止めろ!!」
「またさっきのが来るぞ!」
「いや逃げるべきだろ!止める術はない!」
「1番隊は!司令室はなんて言ってるんだ!」

目下から聞こえる声。
止めようと放たれる魔法。

聞く耳も、
効く体も持ってはいない。


「どこだったか」

数多い・・・多すぎる人の群の中。
デムピアスは見定める。

「・・・・ふん。見失うわけもないか」

デムピアスの声は大き過ぎて、
次弾があるという事は知れ渡っている。
だから、
デムピアスの目下は、敵味方問わず、人の気配は無かった。

それはもちろん、

標的、
燻(XO)を中心に。

「消えてもらうぞ。人間」

右腕を、
その超巨大砲台と化した右腕を、
燻(XO)へと向ける。


「・・・・ったくよぉ。勘弁してくれよ」

「聞こえているぞ人間」

「お?俺の声聞こえてんのか。そんな遠くで」

聞こえているし、
顔の隅々まで見える。

気に入らない。
あの人間が"人間の皮"を巻いているのが気に食わない。

あんなもの、デムピアスが憧れる人間ではない。
人間として認めたくはない。

「聞こえてんなら調度いいや。交渉したいんだ。
 ウフフ・・・・だってさぁ。さっきのあのすっげぇのやってくるんだろ?
 あんなの喰らったら俺だってオジャンだ。クソになっちまう」

「なってしまえばいい」

「いーや。御免だね。俺の夢は長生きなんだ。
 弱者の命を粗末にしながら俺は楽しく生きていく・・・ってのが最高でね。
 そーいうわけでよぉ。謝るから考え改めてくれねぇかな」

「断る」

「よし、だから交渉だ。"俺が門を開けてやる"」

燻(XO)はそう、
そう言った。

「・・・・・何?」

「聞こえなかったか?言葉遊びじゃない。内門を開けてやるって言ったんだ」

何を言っている。
何を・・・・
何をヌケヌケと。

「貴様の顔面についたケツの穴が発する言葉は信用しない」

「おぉ、素晴らしい比喩だ。それは使わせてもらいたいねぇ。
 だがウソじゃないんだな。これが。俺の能力は知っているだろ?」

ダークパワーホール。
ブラックホール。
全てを飲み込む、反則禁呪。

「内門がなんだって"関係ない"。俺のDPHなら1アクションでポンッ・・・と穴が空く」

事実。
事実だ。
燻(XO)ならば、
ダークパワーホールならば、
内門の強度など関係ない。

「外門はギルヴァングの馬鹿の攻撃が引き金になった。
 なら内門は俺っていうのもなかなかいーんじゃないのか?」

「・・・・黙れ。貴様の言う言葉など信じない。それにもともと俺はお前を殺すのが目的だ。
 もとよりこんな交渉に○などは無い。無駄口に過ぎない」

「殺すな・・・と言っているんじゃない。少し待てと言ってるだけだ。
 ちょいとさぁ、"ウサギ狩り"を優先したいんだよね。
 ほら、あんたの大事な船に乗ッかってる兎ちゃんよぉ」

マリナ。
マリナを始末する事が優先。
それだけのために、
別に内門なんかどーだっていい。
燻(XO)は正気でそう思っていた。

敵味方問わず、あの内門に何百、何千という思いが詰まっている。
壊したい、
守りたい、
どちらも問わずだ。

でも燻(XO)にとってはその程度。

「それでも却下だ」

「えぇ!?なんでぇ?!」

「正義に反する」

デムピアスの腕にエネルギーが凝縮していく。

「おいおいおい待て待て待てって!もっとこう、理論的にものを考えられないのか!?
 どうやったって得じゃねぇか。魔物畜生だが頭はいいんだろ?」

「貴様の好きを与える。そんな行動は、俺の正義に反する。
 いや、人にしても、善としても、だ。正しき義に反している」

「勘弁してくれよ」

燻(XO)は舌打ちをした。

「頭から血が出るわ、さっきの女の子には逃げられるわ。
 んでこれ?散々じゃねぇか。クソ喰らえだなほんとによぉ・・・・」

「黙れ」

正義。
正義。
その言葉を飲み込めば飲み込むほど、

心があいつを殺せと叫ぶ。

あれはあってはいけない。
いけないものなんだ。

そしてこの一撃で・・・・


俺は一歩、正義の道を進める。



「イミットキャノン」



戦場はまた光に包まれた。





































二度目。

規模は同じだ。

だが被害は前回とは違う。

先ほどはかなりの人間が巻き込まれたが、
今回は燻(XO)以外の全ての者が非難している。

敵も味方も。

だから、

この訳の分からない規模の爆発は、
燻(XO)一人のためだけに起きている。

地面を跳ね飛ばし、
空気を焦がし、
視界を真っ白にし、

地形を変化させてしまう。

この戦場の誰もが、
この一瞬だけはそれにしか目がいかなくなる、
全ての人を巻き込んだ爆発。


終わってみれば、
着弾点には直径50mほどのクレーター。

密集地帯に放っていたら、
何百人が消え去ったのだろうか。

跡形も無い。

草の一つも残らない。
地表さえも残っていない。

円状に、
いや、
半球状にくり貫かれた地面。

町を一つ壊滅させてしまう大きさのクレーター。

そこに残っているものは何も無かった。




一箇所を除いて。


「ウフフフフ・・・・・・」


そのクレーターのド真ん中。
そこだけが、
まるでドーナツの逆のように。

「だから嫌なんだよな。慈悲を与えてやってんのに人の話を聞かない」

競りあがった崖のように。
その一箇所だけが地面が無事で、

そこには当然のように車椅子に座った男が居て、

そして、


宙に黒い球体が浮いていた。


「俺のダークパワーホールはブラックホールだっつってんだろ?
 どんなものでも例外なく飲み込む。それがエネルギーだろうがなんだろうがな。
 盾にも傘にもなるさそりゃ。俺に通用する攻撃なんてねぇんだよ」

それは、
威力や規模ではない。

どんなものでも飲み込むんだ。
亜空間の中に。

「だからよぉ、調子コイてムカつくんだよな。世の中は二種類だ。下と、俺だ」

ダークパワーホールを解除する。

「言ったろうが、俺はよぉ、俺はよぉ!俺を見下す奴が大嫌いだってな!
 何偉そうにでけぇタッパして俺を見下ろしてやがる!あ!?」

そして、
燻(XO)は腕を振り下ろす。

自分の真下にダークパワーホールが生まれた。
巨大な、
黒い亜空間。

唯一生き残っていた地面がそれに飲み込まれた。

ダークパワーホールを再び収めると、

燻(XO)の車椅子はクレーターの真ん中に着地した。

「・・・・おっと。邪魔者の気配もする」

燻(XO)は首筋にそんな気配を感じた。

「邪魔される前に便所に流してやるよ。デムピアス」


































「やったか!?」
「見えないんですか?ドジャーさん」

戦場の、全ての戦いが一時中断していた。
デムピアスの攻撃に誰もが魅入った。

収まった今、
再び動き出すのも時間の問題だが。

「おいおい、あれ食らって無事なのか?本当にか?」

メッツはタバコを咥えたままそう聞くが、
爆風のせいで着火点が吹き飛んでしまっている事に気付き、
投げ捨てた。

「んじゃどうしろっつーんだあいつによぉ。
 俺は力が通用しない敵なんかと戦いたくねぇぞ」
「誰だってそうですよ」
「つーかあんなもん誰だって認めたくない」
「おいお前ら!敵がまた動き出したぞ!」

エースが叫ぶ。

「律儀なもんだねぇ。仕事熱心な公務員だ」

メッツは持ち場へと走っていく。
なんとなく嬉しそうだ。
燻(XO)のようなのはゴメンだと言ったが、
もとよりケンカ好きなのだ。

「にしても、」

ドジャーも再び戦闘に入り、
飛び回る。

「あれが通用しないんならどう倒すんだ?あれを倒さなきゃ内門突破出来ねぇんだぜ?
 それこそデムピアスをもっかい説得するしか・・・・っと」

ドジャーはデムピアスの攻撃の爆風でオーラダガーの蒼い炎が消えている事に気付き、
アレックスに仕草で要望する。
アレックスも答える。

「確かに実際そうですが、隙はあると思いますね」
「リスクがでか過ぎる」

ガード不能の一撃必殺だ。
どんな些細な失敗さえ許されない。

関りたくなんかない。

「おいアレックス部隊長よぉ、西が騒がしくねぇか?」

エースが問う。
確かに。
言われてみればそうだと思う。
敵も騒がしい。

「いえ、先ほどフレアさんから連絡がありました。動き始めたんでしょう」
「何?」
「今回だからこそ使える作戦です。急遽思いついたそうで」
「ほぉ、フレアが作戦の提案ね」

誰かが気付けば、
一気に騒がしくなる。
特に敵がだ。

考えてもみなかったのかもしれない。

「おい、なんじゃありゃ」

ドジャーが西を目を奪われる。
その隙は致命的だが、
敵のほうがそれどころではないようだった。

敵達がその答えを運んでくれた。


「"はしご"だ!」
「反乱軍の奴ら!」
「攻城はしごを城壁にかけてきたぞ!」
「落とせ!」
「早く落とせ!!!」


長い、
巨大なハシゴが、
一斉に何本も城壁に立てかけられた。

「おいおい、ありゃぁ普通外門に使うもんじゃねぇのか?」
「外門に使うんじゃなく、内門に使えなかっただけです」
「どういうこった」
「外門なら乗り越えられるでしょう?でも内門付近で使っても乗り越えられない」
「そりゃそうだ」
「でも今回は違う」

見上げる。

「エクスポさん達が応戦しているように、今回は城壁にも敵が配置されています。
 窓等からの侵入も可能ってことですよ。エクスポさんが出てきたようにね」
「なるほど。さすがフレア。攻城常連だな」

アレックスは指で輪っかをつくり、
唇に当てて口笛を鳴らした。
ピィ〜♪と、
甲高い音が鳴り響く。

「いやアレックス君。ボクは鳥とかじゃないんだけど・・・・」

エクスポが降下してきた。

「エクスポさん!」
「いや、分かってる。援護しろってことだね。片手間でしか出来ないけどOKさ。
 どうせ城壁の敵も偽女神達もハシゴの排除に乗り出すだろうから」
「お願いします!逆に東の空はロッキーさんにカバーするように指示します!」
「理に叶ってるね。了解」

そう言ってクルクル回り、飛び立つ。

もう一度見てみれば、
はしごの数が増えてきている。

「東にもそのうちハシゴが回ると思います。
 でもあくまで大軍が侵入するには内門を突破しなければいけません」
「だろうな」
「メッツさん!メッツさん!聞こえてますか!?」

鈍い音が響いたと思うと、
死骸騎士の上半身が空へと舞い上がった。

「あぁ!?なんだ!」

「お仕事中申し訳ないですが!西へ進路をとってください!」

「ガハハ!離れるなじゃなかったのか!?」

「臨機応変に、です!フレアさんの方に"攻城ハンマー"が配備され始めました!
 そちらの指揮と援護をお願いします!」

「ガハハハ!そりゃ面白そうだ!」

「迷子にだけはならないでくださいね!」

「お安いごようだ!」

「そっちは東です!」

慌ててUターンするメッツ。
ドジャーは顔を覆った。

「・・・ったく。・・・とと。カッ、にしても油断は出来ねぇなぁおい。
 少し目を離すと襲ってくる。メッツが抜けた分気張らねぇと」
「おいおいアレックス部隊長よぉ、エドガイが居ねぇぞ」
「・・・・もう」

ドサクサに紛れていつの間にか消えている。
恐らくデムピアスの攻撃に散じてだ。

「結局3人と医療部隊だけでココを抑えとくのか!?」
「いや、エースだっけか。てめぇは来てばっかだから分からねぇだろうが、
 西と東に敵も戦力を分断せざるをえなくなってる」
「さっきまでより少し楽なぐらいですよ」
「ぜんっぜんそう感じねぇけどな!」

エースは武器をとっかえひっかえしながら、
迫り来る敵に応戦する。
44部隊といえど、ここでの戦闘は楽じゃない。
というよりも、
もう既に何度も傷を負っている。

医療部隊が居なければ既に死んでいてもおかしくはない。

「にしても、一つ気にかかっている事があります」
「なんだ?」
「フレアさんからの情報です。ある部隊が消息不明だと」

フレアが作戦を伝えてきた時に、
同時に言っていた不安だった。

「こんだけ部隊居たらどれの事か分からねぇよ。
 部隊長が消えても残党として残ってる部隊も大半だしよぉ」
「"部隊長が残っているはずだからこそ"ですよ。
 数刻前までは、その部隊に手をこまねいていた・・・とフレアさんからは連絡がありました」

だが、
ポカリと消えた。

「"イロヒ"ですよ」

イロヒ。
囮部隊。

「あの犠牲部隊とコンボで出てきた奴か。トリサイクル=銀(AG)だったか?
 カッ、犠牲を倒して突破したから興味なかったが。
「あぁアピールで敵を釣る誘導部隊だったっけか。んでそれが?」
「恐らく、壊滅しています」
「んじゃどうでもいいだろうが」
「いえ」

その部隊が壊滅した事が、ヤバい。

「オトリの部隊が壊滅したってことは、任務を真っ当したって事です」
「・・・・なるほどな」
「なのに、そんな気配がない。いつの間にか消えていた」
「・・・・・」
「よく分からないな」
「いえ、つまり、気付かないような規模に紛れて・・・・・」

轟音が聞こえた。
聞こえると共に騒がしい。
それは内門とは逆。

「アレックスぶたいちょ!!」

エールが叫ぶ。
振り返れば、

デムピアスが煙を噴いていた。
体が・・・
傾いている。

「なんだ!?燻(XO)の攻撃か!?」
「それなら削り取る形になるはずです!でも違う!」
「じゃぁなんだ!デムピアスがやられるような攻撃なん・・・・」

ドジャーが言葉を止めた時、
後ろからクシャールののん気な声が聞こえてきた。

「おーいおいおいどーなってんだこりゃ。
 あいつさっき死んだんじゃなかったのか?」

また轟音。
デムピアスの胸部の装甲が大きく凹み、
そして崩れて落ちた。

さらにもう一撃轟音。
あの、
大きすぎるデムピアスの体が、
ついに反動で傾くまでダメージを受けていた。

「パワーハンマー・・・・ゴランって奴かっ!」
「衝撃部隊部隊長、『モーニンググローリー』ゴラン=スポンサー。
 なるほどな。世界一の馬鹿力・・・・あいつなら、あの火力も納得いく」
「すげぇ名前だな・・・偽名か?」
「いや、本名らしい」
「というか・・・・」

見たところ・・・あのままじゃ・・・・

落ちる。

あのデムピアスが、
ゴランという男の手によって落ちる。

「後方に精鋭を置いてねぇぞ!ゴランを始末する奴がいねぇ!
「エールさん!マリナさんに連絡してください!出来るなら狙撃を!」
「う、うぃ!」
「なんで生きてる!死骸騎士っつってもデムピアスの一撃目食らったはずだろ!」
「だからイロヒですよ!」

イロヒ。
囮。

「彼らが身代わりになった!一撃目の照準を自分達に向けさせたんです!」

ゴランは、
燻(XO)、グッドマンを差し置いても、
デムピアスを落とすのに一番向いている。
というより一番効果的で、適任だ。
ただ破壊力。
巨大すぎる敵には、ただそれが必要だ。

「だ、だからってあの規模だぞ!?」
「あの爆発(インパクト)から逃れられたのか!?」
「・・・・いや、恐らくゴランさん自身も既に満身創痍でしょう。
 でもそれでも動けるのが死骸騎士です」

極論を言ってしまえば、者によっては半身でも生きながらえる。
逆に一撃で浄化されてしまう者もいるが、
それだけ、
魂の重みが違うのだろう。

それだけ、デムピアスに対する執念が。

「どうする!?」
「・・・・・考え中です!」
「つーかこっちの立場もそんな楽観的なもんじゃねぇぞ!」
「アアアアレックスぶたいちょ!マリナという方に通信繋がりません!」

繋がらない?
WISオーブが手元にない。
または・・・
通信しているヒマがない?

「・・・・踏んだり蹴ったりですね。ゴランさんがデムピアスに行った分、
 燻(XO)さんが標的をマリナさんに戻したんでしょう」



































「ちょーちょーちょーちょー!!なんでまたこっちに攻撃が!?」

ガレオン船上で、マリナは飛び込む。
背後が消える。
船が消える。

どうなっている。

"船尾がもうない"

ダークパワーホールに飲まれ、
飲まれ続け、
虫食いのようにボロボロに、

船の体積自体が減っている。

「このまま最終的に船全部飲み込んじゃうじゃないの!?」

船の一部が崩れる。
崩れた場所にさえまたブラックホールが発生し、
飲み込まれる。

「隠れる場所!隠れる場所!」

瓦礫の後ろに隠れようとする。
だがそこにブラックホールが発生し、
飲み込む。

空気しか残らない。

「もう!見えるところに居るわけにはいかないし!
 だからってそうすると隠れれる場所を当てずっぽうで飲み込んでくる!
 暴飲暴食にもほどがあるわ!お店に呼んだら好き嫌いなくなんでも食べそうね!」

また発生するダークパワーホール。
規模は・・・
3mくらいあるんじゃないか。
大きい。

「・・・・逆に相手の強力すぎる能力を逆手にとるっていうのもいいかもしんないわ」

船にまた、
球型の空間が空く。

「全てを飲み込むから、逆に私が飲み込まれても跡形も無い。
 つまり死んだフリ!ジッとしてれば飲み込まれたと思って!」

ゴゥン・・・と、
背後の地面がダークパワーホールに飲み込まれた。

「・・・・・いや、とりあえず跡形も無く全部飲み込むつもりみたいね・・・」

どうする。
出来るだけ船首の方まで逃げれば、助かるかもしれない。
射程はギリギリだろう。
それ以上に、
こんな末端でなく、
全然見えない範囲に行ってしまえば、
燻(XO)とて攻撃しようがない。

「少なくとも船の船首まで逃げれば安全・・・・
 この船全部飲み込むとしても、さすがに数十分かかるはず」

そこまでしてくるかは分からないが、
つまり、それだけ安全ラインという事。
ただし、
そこに逆の発想も生まれる。

「・・・・・私がこのまま逃げ続ければ・・・」

燻(XO)に狙われ続ければ、
燻(XO)という凶悪過ぎる相手の動きを封じる事が出来る。

戦場から除外出来る。
マリナを追うだけの。

「その間なら・・・逆にチャンスかもしれない」

マリナはそちらを選んだ。
危険だが、
燻(XO)の行動を自分にだけ向けさせる事が出来る。
こんなチャンスは他にはない。

「あのデムピアスの攻撃から生存するような奴・・・・。
 倒せるとは思わないけど、倒せす道を作れるなら・・・」

マリナは、船尾に立った。

船尾といっても、すでに船の1/4は食い尽くされ、
その末端というだけだが、
その頂に、
マリナは堂々と立った。

「・・・・・・ふぅ・・・・・」

息を呑む。
少し体が震える。

「・・・・しゃぁ!こいや!このマリナさんは逃げも隠れもっ!!!」


悪寒が走った。

死ぬ。

その感覚が一瞬遅ければ、
事実死んでいた。

マリナは死に物狂いで横に転がった。

立っていた場所に大型のブラックホールが生まれた。

何もかも、
塵一つ残さずに食らった。

見て反応出来ない。

座標設置型。
ガード不能。
火力∞。

「やっぱ考え直すべきだったわ・・・・」

同時、
そのダークパワーホールの一撃で、
船の末端。
マリナの周囲が揺れた。
崩れ始めた。

「や、やばっ!」

離れないと・・・・
ここら一角が崩れる。

マリナは飛ぼうとする。
するが、

「きゃっ!」

足を滑らす。
どこもかしこもボロボロで、
足場が崩れた。

船の最後尾が共に崩れた。
木片が落ちる。
崩れる。
マリナも共に。


「・・・・・・ったた・・・・」

一番下まで落ちたようだ。
ガレオン船の真下。
周りに船の残骸が転がる。

「・・・・って・・・・」

今の状況に気付く。

丸出しだ。
丸見えだ。

振り向く。
当然のように立ちはだかるガレオン船の絶壁。

「に、逃げないと・・・・・・・・・!?」

ドレスが・・・挟まれている。
瓦礫に。

「ちょ、ちょっと!」

どかすか?すぐにどかせるレベルだ。
いや、そんな悠長な事は・・・・

破くしかない。

「は、早く!!」

チラりと、
マリナはそちらを見た。

大きなクレーター。
デムピアスの一撃で広がった、誰も居ないその空間。

その真ん中。

車椅子の・・・紫の鬼畜生。

目が合った。


どうにもならない事を悟った。


今ここから脱しても、
隠れる場所の無いココで、
燻(XO)の攻撃から逃れる術はない。

「・・・・・・」

誰か助けて?
無駄だ。


燻(XO)の居るクレーター。

直径50mに及ぶ荒野。
味方の影などあるはずもない。

見晴らしが良すぎてうんざりする。

希望のカケラもないことを悟って。



「・・・・・・・あ・・・」


ただし、
助かる方法はひとつだけあるかもしれない。


保証なんてどこにもない。

根拠なんてどこにもない。

マジックボールしか使えない自分。
魔術師のクセにそれしか出来ないからこそ、
99番街に落ちぶれた。


そんな欠陥品の自分。


でも、
マジックボール以外にも、


"ひとつだけ魔法が使える"




「                」





マリナは縋るように、





その呪文を叫んだ。



































「ウフフ・・・・」

燻(XO)の視界にはもう、それしか映っていなかった。

「追い詰めた。アハハ・・・この時が最高に楽しい・・・愉しいんだなぁこれが!」

美しい。
美貌に満ちたその鬼畜の顔が歪む。

「もっと!もっと近くで見たかった!絶望に落ちた顔を!
 なんだ、なんだなんだなんだ?なかなか可愛い子じゃないか!
 女っぽい影が見えた時から興奮は禁じえなかったけどもさぁ!」

燻(XO)の舌が、
化け物のように、
風車のように動く。

「ウフフ・・・アヒャ!追いかけてよかったぜウサギちゃぁぁーーん!
 君の素晴らしい人生・・・・俺にくれないか?・・・・・なんつってなぁ!
 アハハハハ!いやぁ!出来れば飼いたいなぁ!そして解体したいなぁ!」

歪んだ欲望の趣を露にする。

「うーん、でも残念。ま、いい素体を使い捨てるっていうのも強者の嗜み。
 権利だしな。違う形で出会っていたら、豚さんにしてあげたんだが・・・・」

それも出来ない。
残念。
燻(XO)は右腕をあげる。

「ま、しゃぁないわな。俺のこの顔に傷を付けてくれたお礼もあるしな。
 それも・・・・あんな高いところから俺を見下した!その罪は重い。万死に値する」

万死。

「それを一括払いにしてやる。普通なら半殺し2万回払いなんだがな」

止むを得ない。
楽しみもなにもないが、
サラバベイベー。

そのまま無に帰せウサギちゃん。

そして燻(XO)は、




ブラックパワーホールを発動した。



「ウフフ・・・・」

この余韻が溜まらない。
台無し。
台無しだ。

一瞬で消えうせる台無し。
この力。

これが・・・・・

「・・・・・・・・ん?」

発動。
発動した。
したぞ。

「どうした?」

もう一度右腕を・・・・・

「・・・・あん?」

右腕を・・・・


「あん!?」


右腕は・・・・・・どこにいった。



「・・・・・ッ・・・・あ!?・・・・・なんだこりゃ!」


肘から先がない。
右腕の肘から先が何も無い。

ダークパワーホールの暴発?
そう考えても可笑しくない。

綺麗に右腕の中間地点より先が・・・・・無い。

遅れて、
血が噴出す。

その行先の地面に、その腕の続きがあることに気付いた。

「おい!おいおいおいおい!ふざけんな!俺の!この神聖なるクソ野郎様の腕だぞ!?」

カチリ・・・・と、
背後で金音が聞こえる。
何かを、
収める音。

怒りなのかなんなのか分からない感情の頂点で、
燻(XO)は歯をギリギリ鳴らしながら、
首を後ろに向ける。

「てめぇ・・・・どどど・・・どこから沸いて・・・・・」

「神風に乗って候」

彼女は、
燻(XO)には目もくれず、
空を仰いだ。


「・・・・・呼んだか?」


そして、




「呼んでくれたんだな!!!! マリナ殿ぉおおおおおおおお!!!!!!!!!」




侍は、

空へと咆哮した。
























                 






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