「ディエゴ様!」
「いいんですか!?」

半壊したこの作戦会議の間の中、
ディエゴは苦虫を噛んだ。

「いい。通せと令が出たんだ」

もちろん、本心ではない。
命令が出たから"いい"。
そんな考えは持ち合わせていない。

「戦況とは一歩ハズれた問題であることは事実だ。
 私的にはどうやっても踏み込んでやりたい問題だが」

いや、
私的だからこそ、
踏み込まない方がいいのかもしれない。

「何にしろ、アインハルト・・・いや、騎士団長が居る時に、
 ここを通過するという意味は俺には測り知れん」

結果だけは・・・分かってしまうが。


































「ふぅ・・・・ふぅ・・・・」

こんなにも息を荒くしたのは、
生まれてこの方何回目だろうか。
生まれてから、ここまで追い詰められるのが何回目か。
・・・・そう言い換えてもいい。

「・・・・・いや、追い詰められているからではないか」

ツヴァイはエルモアを卵に戻し、
目の前の扉を見上げた。
見上げる必要なんてないのに。

「あの二人がここに立った時はどんな気分だったのだろうな」

今では少し分かる気がする。
アインハルト=ディアモンド=ハークスに立ち向かうこと。
その意味。

ツヴァイは後ろを一度振り向いた。

「ロウマが来る。時間が無いのが惜しい限りだ」

ツヴァイは王座の扉を開いた。


































もちろん、
俺ちゃんだって、
二度死んだクライだって、
そして自覚のないジギー=ザックこと、エースだって、

ビッグパパ(親父)の本当の息子じゃない事は分かっている。

「だからって、実子が登場とは・・・・ねん」

それも身内とは。

ルエンも、
マリも、
スシアも、
金の亡者の血を引く者達は目の前で、
明らかに正気ではない眼をして立ちはだかっていた。

「おいおいお嬢さん方。まさかそっちとはね」

メッツが皮肉に笑っていた。
これでも甘い男だ。
女で、身内で、正気でないものを襲える男かと言えば・・・
なかなかに《MD》という組織は戦争に向いてない輩の集まりだと思う。

「笑えよエドガー。我が義息子よ。笑って殺せ。人生は楽しまなければ。
 躊躇は必要ない。一瞬の迷いが一攫千金を失うことになるぞ」

「・・・・俺ちゃんはエドガイだ。あんたがくれた名前だ」

「お前はもう俺の息子ではない。俺もお前の父ではない。
 俺はただのグッドマン。お前はエドガーだ」

命を、モノとして扱う男。
ビッグパパの正体が分かった気がした。
いや、
最初からそれには気付いてた。
そのシンプルで分かりやすい愛だからこそ、俺達は付いていったんだ。

今更捨てられて何を思うんだ自分は。

10グロッド失ったなら、10グロッドどこかで手に入れればいいじゃないか。
そういう愛を求めたはずだっただろう。

「よく分からんが話を進めてもいいか?」

エースが言った。

「つまり、その女共を叩き斬って、そこのオッサンも叩き斬ればいいわけだな?」

エースが取り出したのは、
刃が"Y"字に2手に別れている異様な剣。
コレクションの一つなんだろう。

「捻剣"フタバ"。このエペの通称は"枝毛"。なかなかのもんだろ?
 一振りで三等分に出来る。三姉妹が九つに分かれるぜ?」
「おいエース!」
「関係ねぇんだよメッツ。俺にはよぉ。
 三姉妹?アザー(他人)だ。グッドマン?ビッグパパ?アザー(他人)だ。
 そしてお前らもアザー(他人)だし、ジギー=ザック?アザー(他人)だね」

「ほぅ。ジギー。いい気兼ねの無さだ。金儲けに向いている。
 エドガーやクライでなく、お前に最強の称号"カイ"を与えればよかったな」

「ジギーじゃない。そして名前はもらうもんじゃねぇ。手に入れるもんだ!」

エースが飛び出した。
当然、
ビッグパパ・・・・グッドマンにではない。
ルエン。
マリ。
スシア。
三姉妹に。
正真正銘無関係なエース・・・もとより敵側の人間にとって、
何一つの躊躇はない。

微動だにしない、人形のようにボンヤリしたルエンに、
その剣を振り下ろした。

「まぁ、焦るなジギー」

立ちはだかったのは、グッドマンだった。
相変わらず両手を後ろに組んだまま、
澄ました涼しい造作で、
いつの間に・・・というほど素早い動きで、
エースの剣を止めた。

「・・・・・ぁあ!?」

「娘達の起動にはもう数秒かかる。それで終わってはもったいないだろう?
 俺はケチなのだよ。モノとは価値を見い出してこそ意味がある」

「どうなってんだこれ!」

エースの剣は、
グッドマンの足・・・・膝で止められていた。

剣を、生身の足で止めていた。

「だが心意気や由。エースと名乗ったなジギー。
 ジギー=ザック(ZZ)からエース(AAA)とは面白い。
 初心に戻るとはまさにこの事だな」

おもむろに、
グッドマンは両手を後ろに組んだまま、
体を捻る。
もう片方の足で、回し蹴りを・・・・

「チッ!!」

エースは後ろに跳んでそれを避けたが、

「なっ!?」

胸を斜め上に、切り裂くような傷が残された。

「避けたはずっ!」

「案ずるな。浅くしておいた。オードブルでは満足できんだろ?」

困惑の表情でエースは距離をとった。
浅いとはいえ、肩口まで切り傷を負った。
手で傷を抑える。

「ジギー」
「エースだ!」
「てめぇは記憶がねぇからビッグパパ(親父)の能力も忘れてるだろうが・・・・
 アレが奴の能力だ。クライも俺ちゃんも教わって・・・辿り着けなかった境地だ」

グッドマンは、
片足だけを折りたたんで持ち上げる。
相変わらず両手は後ろで組んだまま。
まるで、
フラミンゴのような佇まいだった。

「体は資本だ。肉体を磨いてこそ金になる。武器を使うなどまだ二流なのだよ」

フラリと・・・ビッグパパは、
その片足をスナップをきかせて振った。
遠距離で・・・振っただけだ。

「・・・・!?」

メッツのドレッドの一つが、宙を舞った。

「・・・・・・なんなんだこの能力」

メッツは微動だにしなかったが、見切ったわけでもなかった。
冷や汗が出た。

「ビッグパパ(親父)の武器は・・・あの体だ。"親父の剣は全身だ"。
 "手刀"・・・・・"足刀"・・・・・四肢を越えた刃だ。さらに言えば・・・・・」

「俺は"無刀でパワーセイバーを放てる"」

グッドマンは上げていた片足を地面についた。
地面に・・・・切れ目が入った。

「剣は天地と一つ。なら剣など要らない・・・・と聞いた事がないか?
 これが無双の境地だ二流達。体こそ資本・・・・財産なのだよ。
 "無刀の剣士"は実在したわけだ。四刀流と名乗っても面白いがな」

「・・・・・・・・・・・・・親父ぃいいいいいい!!!!」

エドガイは気が付くと剣を構えていた。
剣のトリガーを引いていた。
連射していた。

エドガイの剣からパワーセイバーが連射される。

「二流め」

フワリ・・・・とグッドマンが浮いた。
柔らかな体だ。
柔らかい剣だ。
軽く、それでいて神風のように回転し、
グッドマンは着地した。

その最中に蹴りを何度繰り出したのだろうか。
相変わらず両腕を後ろで組んだままだ。

エドガイのパワーセイバーの全ては、
グッドマンの足から放たれる飛ぶ斬撃で、
全て叩き落された。

「タイムイーバーだ。時間を有意義に使えた。
 ここからは娘達がお前らの相手をしよう」

後ろ手を組んだまま、
グッドマンは背中を向けた。

「てめぇ!」
「逃げるのか!?」

言った本人達にとっても、笑えるセリフだった。

「これでも俺は騎士団に買われた身だ。金のため以外に仕事が出来るか?
 仕事はせねばならん。俺はこれから内門に行く。予定が変わったらしくてな。
 俺とやりたければ追えばいい。時間稼ぎは置いていくがな」

堂々とグッドマン・・・・第52番隊部隊長は内門の方へと歩んでいく。

「こでは俺の時間稼ぎのため俺がに時間稼ぎをした結果だな・・・・ふん。
 タイムイズマネー。金は金を産む・・・か。富は富によって築かれるものだな」

遠くなっていく親父の背中。
・・・・親父の背中だって?
笑える表現だ。

「待ちやがれっ!!」

メッツがブォン・・・と重い斧の片方を振りかぶる。
投げつける気だ。


「・・・・・・・・」


三人の女のうちの一人が動いた。
スシアだ。
デクの人形じゃないらしい。
初めてみせる行動。

「・・・・っとっとぉ!ブレーキきかねぇ!」

スシアに気を使って斧を止めようとしたが、
メッツの強力(ごうりき)でもその斧の重量は歯止めが利かなかった。

「チィ!!」

斧は放たれた。

「・・・・・・・」

スシアは避けようともしない。
というより、
メッツは軌道を逸らしたのにも関らず、
斧の軌道へと飛び込む。

「・・・・・・・」

そして羽衣のように広がったそれは・・・巻物?
何かと思った刹那、
その瞬間には・・・・・・斧が光と共に消え去った。

消滅した。

「おわっ!俺の斧!なんだ!?どうなった!?」
「俺の斧だメッツ!貸しただけだ!・・・・・・で!俺の斧どうなった!?」

消えた。
跡形も無く。

「ったく。状況悪くしちゃって。ダラしないねぇ」

ノシノシと、後ろからツバメが歩み寄ってきた。

「あの女たちはあんたらがしっかりと片付けときな」
「そんな場合じゃねぇ!」
「斧が!」
「ウチは人間率いて内門向かうからね。あんたらは片付けてからのお呼びだよ」
「俺の斧が!」
「俺のだっつってんだろ!OH!NO!」

ツバメが顔をしかめて呆れた。

「もうちょっと状況判断が出来ないのかねぇ。この男達は」

ツバメは周りにアゴで指示をしながら、
メッツとエースに説明する。

「ま、"うちだから"分かったってのもあるんだけどね。
 結果だけ見れば一目瞭然。見てみな、スシア嬢の足元」

無意識のスシア。
その足元には、先ほどの巻物が広がって捨てられていた。
巻物?
マイソシアでの一般的な呼称で言うならスクロールか。
いや、
スクロールというよりは紙切れにも近い。

「蜃気楼の地図だよ」

蜃気楼の地図。
ランダム転送の書。

「蜃気楼だって?」
「人体以外を飛ばすなんて聞いた事ねぇよ」
「人が転送する時に持ち物だって転送されるだろ?そういうこと」
「屁理屈だな」
「屁だ」
「屁理屈も理屈だよ。お呼びなんだよ。
 頭の中に蜃気楼の書が一式刻まれてるうちだから分かる。
 ってかあんたのボスの盗賊野郎だってインビジそんな風に使ってるじゃない」

それはそうだが。

「おい、おたくら。べちゃくってる場合じゃぁなさそうだよん」

エドガイが口を挟む。

「時間稼ぎって話じゃない。あの可愛い子ちゃんら、やる気マンマンだ」

意識が飛んでる者達に"やる気"なんて表現があるかは分からない。
だが、戦闘体勢に入ってるのは間違いない。

「・・・・・・・」

ルエン。
彼女がその時放ったのが何だったかは分からない。
だが、結果はすぐ見えた。

「うぉ」
「来るぞ」

幾多の何かが飛んできた。
それは直線でもなく、不規則に煙をあげながら飛んでくる。

エースは棺桶を前に壁を作り、
メッツも斧で体を隠し、
ツバメはやれやれとその後ろに隠れた。

「ぐっ!」

耳が痛い。
幾多の破裂音。
破裂、
破裂破裂。
飛んできたソレらは爆発というよりは甲高い音を出して破裂した。

「なんだ今の」
「こりゃぁ・・・」

エースが足元の残骸を指で摘まむ。

「・・・・爆竹?」
「あん?玩具じゃねぇか!」
「改造してあるようだね。爆竹如きって言えど、何発も喰らうと文字通り火傷するよ」
「なんでも屋なら花火の取り扱いくらい注意しやがれ!」
「とにかく、うちは先行くからね。こいつらの相手頼むよ」

先に命令しておいた部隊の人間達と共に、
ツバメは走っていった。
52も大半がグッドマンと共に内門に向かったらしい。
完全にこの三姉妹は、
やっかいなエースとメッツ、エドガイの時間稼ぎでしかないようだ。

「まったく。可愛い子ちゃんに怪我させろってか?親父。
 ・・・・・本当に虫唾が走る。あの人にとっちゃ人に差別がないんだろうな」

全て等価。
付加価値などなく、どれも平等に拾い、捨てる。
元義家族だろうと、
他人だろうと、
本当の娘達だろうと。

「おいメッツ」
「あん?」
「あのなんでも屋の娘ってのは・・・・・魔法がつかえるのか?」
「いや俺も反乱軍に居たわけじゃねぇから普段買い物で見ただけだが、
 んなわけねぇだろ。ただの街娘達だったぞ。
 GUN'Sの時はスマイルマンに搭乗してたがな。今回はそれも見えねぇ」
「んじゃあれはなんだ」

マリ。
マリ=ロイヤルの右腕から・・・・・炎が巻き上がっていた。

「なんじゃありゃ・・・」
「あの可愛い子ちゃんの指見てみろ」

マリの右手には、ドジャーがダガーを挟むように、
いやそれ以上の数の、

「・・・・マッチ?」
「焼肉用マッチか?」

マッチの燐が凛々と燃え上がっていた。

「マッチであんな炎が出るか!焚き火みてぇになってるじゃねぇか!」
「腕も見てみろよ。フレイムメダル?・・・いや、火リビだな。
 ガッチガチに巻きつけてある。無理矢理に増幅してんだな。
 あんな使い方したらいつ炎が暴走するかも分からないのにねぇ」

炎の勢いに安定感がない。
武器に炎の属性を付加するアイテムではあるが、
その対象がマッチともなれば、火に火を汲むようなもの。

「何にしろ、魔術師でもねぇお嬢ちゃんがあんな炎扱ってたら、
 腕が黒こげになっちゃうね。親父・・・・・実の娘も使い捨てのつもりか」


「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

マリ。
スシアが動いた。
こちらへ走りこんできた。

「・・・・・・・・・・」

それを援護するようにルエンが爆竹をまた幾多と発射した。

「来るぞおたくら!」

エドガイがパワセイバーを打ち鳴らす。
爆竹を撃ち落していく。

「ちぃ!弾道が不規則で全部は落とせねぇ!
 おたくら!玩具と思って何発かは覚悟しとけ!
 爆竹に気を取られてると残り二人にやられるぞ!」
「分かってるが・・・・」

エースの肩辺りに被弾した。
破裂した爆竹は、エースに火傷を負わす。

「人に向けて使っちゃいけません・・・ってか?あんま喰いたくはねぇな」
「エース!来たぞ!」
「な」

速い。
もうこちらまで詰めてきている。
一般人の動きじゃない。
戦闘する人間じゃないんだぞ?
なのに・・・速い。

「速度ポーションか」
「この調子じゃ強化してんのは足だけじゃなさそうだ」

「・・・・・・・・」
「・・・・・・」

炎が揺らめき、マリが走りこんでくる。
スシアは羽衣のようにスクロールをなびかせて走りこんでくる。

エースは上着の裏から武器を取り出した。
関係ないとはいえ、気を使い、
出来るだけ傷付けないよう、クラブを選択した。

メッツは已む無く、斧を地面に捨てた。

「ったくよぉ!顔は殴らねぇから寝て目を覚ましなっ!」

メッツはマリに向かって豪腕を突き出すが、
速度ポーション。
それも恐らくクレイジーと呼ばれるものだろう。
手加減があったとはいえ、
マリはメッツの豪腕を避けた。

「・・・・・・・・・」

そして炎に巻かれた右腕を繰り出してくる。

「火が怖くて火遊びが出来るかっ!!」

メッツはその腕を、手首を掴んで止めた。
やはり・・・素人だ。
動きが素人でしかない。
攻撃の際に相手に手首を掴まれるなんて。

「・・・・・お?」

メッツは自分の右肩に違和感を感じた。
見てみれば・・・・
ダガーのようなものが突き刺さっていた。

「・・・・採取用ナイフ?」

炎は囮だったと気付いた。
マリの腕力では、メッツの肩に突き刺すまでが限界だが、
腕に違和感を覚えるほどには・・・
つまりに十分には深く突き刺さっていた。

「ドジャーにも劣るような小細工・・・・・・・でぇ!?」

マリは、
メッツに何かを向けていた。

「ゴールドスプレー?!」

メッツの顔面に金粉が噴射された。

目への激痛で声をあげた時には、
腹部に2本目の採取用ナイフが突き刺さる感触を覚えた。










「なんだこいつっ!」

エースは、スシアに対して攻撃を放ったわけでもない。
それはスシアが攻撃してきたわけではないから。
いざとなったらこんな女やっちまおうという気持ちはあるが、
それは見極めてからにしようと思っていた。

「このっ!蜃気楼狙いかと思っていたが!」

エースの予想は、
先ほどメッツの斧にやったのと違い、
蜃気楼の地図を直接エースにぶつけて来る・・・というものだった。

いくらポーションで強化したところで限界がある。
一般人とプロのプレイヤーとの差はそんなもので埋まらない。
なら狙ってくるのは・・・・

蜃気楼で無理矢理どこかに飛ばしてくる・・・という手段だ。

だが、

「こいつ・・・俺の武器の方に飛び込んできやがった!」

スシアは、スクロールでエースのクラブを包んでいた。
無闇に掴みかかってきた。
風呂敷で包むように。

だが蜃気楼で武器が飛ばされるなら、
そのままその手で殴ってやろうと思った。

・・・・武器は転送されなかった。
それどころか。

「て・・・・てめぇええええええええ!!!!」

「・・・・・・・・」

スシアのスクロールに包まれたエースのクラブは、
ボロボロと・・・
腐るように・・・砕け散って落ちた。

「このスクロール・・・・呪いの巻物かよっ!!」

呪いの巻物。
エンチャントを行う際の。
言うならば・・・大ハズレを引いたのだ。

「このっ!」

エースは自分のコレクションを壊された怒りで、
また上着から武器を抜こうとした。

「くっ・・・」

だがそれは出来ない。
恐らくあのエンチャ用巻物は・・・・"欠陥品"
失敗前提のまさに呪いの巻物だ。

大事なコレクションを破壊される。
エースにとってこれ以上に動揺を誘う事象はない。

「だから・・・・だからなんだっ!キレたぞ俺は!」

エースは、スシアの首に掴みかかった。

「パンピーの女だろうが俺のコレクションを壊しやがったのは許せねぇ!
 大体武器なんかなくてもテメェなんかに負けるほど44は弱くねぇんだよっ!」

大人気ないともおもったが、
舐められてたまるかと、エースはスシアの首を本気で締め上げた。

「・・・・・・・・・・・」

無言のまま苦しんでいたスシアだが、
なんとか無理矢理・・・・
エースの眼前に一枚の紙切れを突き出す。

「あん!?なんだこりゃ!蜃気楼かなんかか!?
 はん!飛ばされるとしてもこの戦場内だ。てめぇは俺を怒らせた!
 すぐに戻ってきて・・・・・・・」

蜃気楼・・・・じゃない。
なんだこの紙切れは。
スクロール?・・・・でさえない。
なんて書いてある。

「・・・・・・・・・じゃんけん・・・・「パー」?」

エースの手から力が抜ける。
強制的に、両手が広げられた。
強制的に・・・パーを出させられた。

「おいおい・・・・」

何度か咳き込み、
だがスシアはエースの手から脱出した。

「玩具で遊びやがって・・・・」

「・・・・・」

スシアの手元から、
突然"風船"が膨らんだ。

(*>ω<*)

「ぶっ殺す」

怒りが頂点に来た時、

突如"世界が大きくなっていった"

「あ?なんだ?」

景色がデカイ。
突然にだ。
なんでだ?
それどころか・・・スシアもデカい。
なんでだ。

なんで自分はいきなり"この女を見上げている"

「・・・・・・・・」

パサりと、
スシアの足元にスクロールが落ちた。
何のスクロールだ。

「まさか・・・・」

エースは自分の体を見た。
手を見た。
これが・・・・手か?

「変スク!?・・・・しかもディドかよ!」













「くっそ・・・・」

メッツは両目の激痛に耐えながら、
闇雲に腕を振った。
いくら豪腕でも、当たらなければ意味がない。
見えない中で敵に攻撃を当てるなど出来なかった。

「アッチ!!!!」

強化マッチをぶつけられたようだ。

「小細工ばっかこの野郎!」

だからといって、
既にメッツの体は小規模な火傷がいくつも。
採取ナイフが何本も刺さっていた。

「この!もう我慢なんねぇぞ!!」

やたらめったに周りを殴りぬける。
空を切るばかりだが、
実は効果的だった。

マリレベルでは、そんな闇雲な攻撃でさえ、
近づくには難しくなる。
事実、一発でも当たれば十分に昇天できる。

近づかせなければ大した事も出来ない。

そう思っていると、

「うぉ!」

ヒュンっ・・・・と何かが飛んでくる音がした。
ドジャーではないのだが、ナイフなんて投げたところで刺さるようなほどじゃない。
だが飛んできたものは・・・・

メッツの首に絡みついた。

「なんだこれ!」

見えない視界の中で、自分の首に手を当てる。
だが掴めない。
それほど細い。
糸。
糸だこれは。

「・・・・・・・・」

マリが居るらしき方から、
キュリキュリキュリ・・・・と、何かの回転音が聞こえる。

「こっ・・・カッ・・・・」

同時に、メッツの首の糸が締め付けられていった。

「これ・・・かはっ・・・・・釣り糸・・・・」

細すぎて締め付けられる糸を掴めない。
マリが釣竿のリールを巻いている。
巻くたびに首が締め付けられる。
いや、
細いその糸は、メッツの首に切れ目さえ入れる。

「・・・・・や・・・・べ・・・・・」

マリの腕力ではメッツの首を飛ばすほどには巻き取れないが、
締め付けてくる。

「このっ・・・・」

メッツは逆にそれを利用し、
糸ごとマリを引っ張ろうとした。
ただ、
哀しい事にリールが逆回転するだけだった。

メッツの動きに合わせてまたリールが回転する音がする。

釣られる魚の気分だ。

敵は見えない。


「なぁにやってんだ。おたく」


ドサり、と何かが崩れる音がした。
同時に首の糸が緩んだ。

「何?顔面キンピカじゃん。豪華なメイクだねぇ」

そして顔に何かをぶっかけられた。

「げほっ、なんだ!?」
「視力回復薬だよ。暗闇解除ポーションかな?どっちでもいいか。
 この可愛い子ちゃんがもってた。金粉に効くかはしらんけど」

幸運な事に、視界が晴れてきた。
痛みは伴っているが、
洗い流されたようだ。

まだボンヤリとはするが。

「・・・・エドガイ・・・・」
「パンピーの可愛い子ちゃんに何手間取ってるんだかねぇおたくら」

ぼんやりする視界の中では、
ルエン、
マリ、
そしてスシアが転がっていた。

「俺ちゃんは10秒あれば十分だったがまぁ、おたくらはそうもいあかなかったみたいね。
 子供だましに翻弄されちゃってまぁ・・・・・・・・アダルトに成りきれてない証拠だねぇ」

そう言いながら、
エドガイは自らも瓶の中の何かを飲んだ。
口に含んだ。

「・・・・確かにカッコつかねぇな・・・けどテメェもなんかされたんじゃねぇのか?
 それだから今みてぇに何かしら回復薬かなんか飲んでんだろ?」
「うみゃ、こりゃひがう」

エドガイは口に含んだまま、
何を思ったか・・・・そのまま横たわっているマリに・・・・・

「おい!」

口付けした。

「ぷは♪御馳走さまぁん♪」

ペロリと満足げに舌を出し、
プラプラと空き瓶を見せる。

「精神安定剤だよぉん。親父に何されたかは知らねぇが、効果はあんだろーよ。
 短期間でやった催眠だ。打ち消すのにも時間はからねぇもんだ」
「・・・・・別に口移しじゃなくてもいいだろ」
「それは頑張った俺ちゃんへのご褒美♪」

なるほど。
苦労させられたからな。
それなら自分もとメッツが思ったが、
すでに全員への安定剤投与は終わってるらしい。

「やっぱ女は怖いねぇ。何しでかすか分かったもんじゃないねぇ。
 で、可愛いくない子ちゃん。口止め料もらっていいかね?ダサい醜態広められたくなきゃ」
「・・・・・この野郎・・・」
「しかも怪我だらけじゃん?ヒールでどうにでもなるレベルだけど。
 それでも女の子にやられまくった挙句、手も足もでなかった勲章じゃん?
 どんなツラで説明すんだか。あーあー情けない。天下の44部隊員様の逆レイプショー」
「うっせぇ!」
「ま、おたくよりも・・・・こっちが哀れすぎるけどねん」

気付けば、
こんな戦場の中にディドが居た。
何か怪我だらけだ。
虐待にでもあったみたいに。
デムピアス海賊団でもなさそうだし、

「なんだこのディド。はぐれディドか?」
「いーや♪最近じゃぁディドも44部隊に入れるらしいよぉん♪
 はい言ってみようか。ディド君。おたくのお名前は?」

「・・・・・俺に名など無い」

ディドは明後日の方向を見たまま振り向かなかった。


































エドガイが意識の無い女を相手に口付けをしている間、
ここでも。

「んーー!んーーーー!」

接吻が行われていた。
ロッキーはジタバタと暴れ、
暴れつくし、
アイルカードを引き剥がした。

「ぷはっ・・・・・くっ・・・・・・・うっ・・・・・」

ロッキーは引き剥がした直後、
地面に崩れる。

それはそう、
エドガイが行ったソレとは真逆の事。
アイルカードのソレは、
"エナジードレイン"

ヴァンパイアのソレ。
ドラキュリアのソレ。
吸血鬼のソレ。
不死王のソレ。

「かっ・・・・あ・・・・・」

唇がパサパサだ。
全身の肌が。
いや、
水分という水分が吸い尽くされている。
まるでミイラだ。

体に力が入らない。

「これがエナジードレイン・・・・・だね・・・・」

「そうじゃ坊主」

ドラキュリア・・・アイルカードは妖美に舌を舐め磨った。
ロッキーとは一転、
肌に張りがあり、
ツヤツヤと生命力を感じる。
若き女性のみずみずしい強さを感じる。

「ワシはこうやって永らえてきたのじゃ。不死はなくとも不老はある。
 等価交換の摂理を逆手にとれば、人は何倍にでも生きられる」

「・・・・・命の強奪・・・」

「といっても今は死骸の義骸じゃ。生命力の活気を表面に施しただけ。
 体力など無い今では穴の空いたジョッキにビールを流し込んでいるだけじゃがな」

死骸ならば体力の回復などない。
なら、
奪うだけなら返して欲しいものだ。

「・・・・・せっかく子供から大人に成長したのに・・・・」

ロッキーは自分の手を見る。
カラカラの。

「行き過ぎておじいちゃんだね・・・・」

「その姿でも笑顔を絶やさぬとは、よい子供じゃな」

ドラキュリアは感心する。
ロッキーの純粋無垢で、死なずの微笑みに。

「和国ではサクラのように生きるのが美しいとされる。
 綺麗に一時咲き誇り、枯れるくらいならそのまま散る。
 カミカゼの侍道という奴だが・・・・・まぁ52の語源でもある

「へぇ・・・エクスポが好きそうで・・・・だけど真逆の考えだね」

エクスポは、長く長く永く咲き乱れて・・・そして散るのが信念だ。
積み重ねたものこそ美しい。

「その男の事は知らんが、お前さんの仲間というならお前も同じ考えなのじゃろう。
 洋国では逆にバラのように生きるのが美しいとされている。
 枯れていく様も、老いさえも楽しみ、美しいと見る」

ならそっちだ。
エクスポも考えも、
そして、
自分も。
《MD》の皆も。

生きながらえるためだけになんでもやってきた、
スラム街の無法者達なんだから。

命知らずだけど、少しでも長く生きるためだけに何でもやってきた。

「だが、そうじゃな・・・・同じ長寿の家系という事で一つだけ勘違いを正してやろう。
 マウンテイン一家は人の数倍寿命が長いが、それは人の数倍生きられるという意味ではない」

関係ない。
自分はただのロッキー。
カプリコ砦のロッキーだ。

「人は20代で思考に衰えを感じ、80越えれば痴呆症にもなろう。
 身体の成長が遅くても、脳は一分一秒を刻んでおるのじゃ。
 脳は老化というよりは消耗品。お主も30前後の外見になった時には・・・・」

「かんけ・・・・ないよ」

水分が体にないせいで言葉がスラリと出てこない。

「ぼく・・・らは・・・毎日を生きて、明日を生きて、未来も生きようとするだけだ・・・・・」

「その答えが世界への反乱というなら、意味は逆と思うがの。
 自殺行為以外の何ものでもない。ワシも長く生きてきたが・・・・」

「ぼくらは・・・・・」

ロッキーは立ち上がろうとするが、
生命力を吸われた体は思い通りにいかない。
自分のやせ細った体も支えられないキャシャな両足。

「自分達の未来を野放しにするほど・・・安楽的じゃないんだ」

それでも微笑みは絶やさない。
そういえばエクスポはいつの日か言ってたっけか。
"老人の笑顔は美しい"
その意味を反復するように、
ミイラのような体で、シワクチャにロッキーは微笑んだ。

そして砂漠のような喉でなんとか声をあげる。

「ぼくの指揮下の全軍・・・・進むんだ!・・・今・・・戦地が内門へ移行してる・・・・
 こんなところでボヤボヤしてられない・・・・全軍・・・進軍・・・・」

「ワシの部隊を突破出来ると思っておるのか?お前さんさえそのザマで。
 ワシの黒魔術部隊は足止めのエキスパート。
 搾りつくされてもいいならば、生者が通過に勤しんでみるのも悪くない」

「回り道をしてもいい・・・とにかく進むんだ!」

ロッキーの目の前に、
大岩が発生する。
ローリングストーン。
それは発生と共に勢いよく転がった。

「体力を吸われても、魔力はあるっ・・・・魔力の貯蓄量には自信があるんだよ」

「ふむ」

アイルカードは牙を見せて小さく口を歪めた。

「それでも体力あっての行動じゃ。燃料があっても火が足りんのじゃろう?
 だからこの程度の規模の魔術しか扱えない」

転がる岩。
アイルカードはさほど焦る必要もなく、
それを避けた。
避けた先で、アイルカードの部隊員が、
いとも簡単にローリングストーンを破壊する。

「避けた・・・な」

ロッキーは水気の無い唇で呟く。

「やっぱり・・・あなたの戦闘スタイルの基準は"エナジードレイン"・・・・
 ぼくの魔術スタイルは"無機物"だよ。相性が悪いみたいだね」

生命力を飲む尽くす彼女。
不死者のアイルカードにとって、
生命無きものは専門外ということ。

「まだ行ける」

ロッキーは微笑みを絶やさない。

「皆っ・・・接近戦を行う人はまずは待機っ・・・または迂回して進軍。
 遠距離での攻撃手段がある人は無駄じゃないっ!
 恐れずに撃つんだっ!相手は近寄る者にしか効果をきたさないっ!」

ロッキーの判断は正確だった。
概ね正しい。
アイルカードの部隊に対し、それが最良であった。

ただし、
だからこそ足止めに特化しているとも言っていい。
このままではジリ貧だ。

ロッキーを含む東軍の3割が、来たる内門の戦いに間に合わない。

「・・・・困るな」

ロッキーは後ろに下がる。
もう一度アイルカードにエナジードレインされたらアウトだ。
そして、
一気にこの部隊を崩すなら、
自分の範囲魔法が不可欠だ。

「誰か、体力の回復が行える人はぼくに・・・・」

カラカラの声で、ロッキー声を撒き散らす。
笑顔は絶やさないが、
危機感は滲み出ていた。

「下がるか坊主!!」

アイルカードの声が突き刺さる。
弱まったロッキーの耳に。

「生きるという事は前に進むという事だ!
 我ら長寿の民にもそれは同じ!それ無くして生きるとは言わん!
 この戦争への参戦が生きる道を選んでの事ならばそれこそじゃ!」

「・・・・あなたはぼくらが中途半端の方が好ましいんじゃないの?」

「違うな。ワシは人の生命を奪い生きる者じゃ。
 輝く生命こそ、ワシの命に取り込むに値する。
 死してその性分を終えても、ワシはワシじゃ」

貴高いドラキュリアは言う。

「・・・ぼくの命は簡単にあげられないよ」

「それは弱者側が決める事ではなかろう。弱肉強食。
 だからこそワシは寿命を延ばしてきた」

弱者。
そう言うならば、そのとおりだ。
反乱軍。
その中で・・・
戦闘タイプの部隊長クラスを倒せるのは、
・・・・ツヴァイ。エドガイ。そしてアレックス=オーランド。
それくらいだ。
単体で部隊長クラスを倒せる者はそれぐらいしかいない。

ロッキーは冷静に判断する。
それでも万全ならば自分にだって勝機はある。
今の自分には・・・・・勝機はない。

ならば力を合わせる。

「・・・・・・」

ロッキーは何かを願うように周りを見渡したが、
援護に現れる仲間はいなさそうだ。
マリナ。
イスカ。
メッツにエドガイ。
誰かが来てくれれば違うが、
哀しくもすれ違いさえ起きない。

いやむしろ。
自分がほぼ無力なこの状況下。

援護に来てくれる者が、単体で部隊長クラスを倒せなければいけない。

差し引くとエドガイ。
それだけだ。
アウト。

44部隊でさえ、部隊長クラスには単体では一歩敵わないと、
ロッキーは見る。

「さぁ坊主。長寿の命の最後の絞りカス。ワシにおくれ」

ペロリと舐める奥に牙。
"ドラキュリア"アイルカードの食事。

「ほぉ」

目さえ水分が足りなく、
効果の薄い瞬きばかりしているロッキーの目の先で、
アイルカードは感心していた。

「学習能力はあるようだな。近づけさせなければワシを無効化出来る・・・と?
 だがお前さんの体ではこの程度の足止めどれだけ持つものか」

「・・・・・・・・?」

薄っすらで見難いが、
アイルカードの足が地面と共に凍らされていた。
フリーズブリード。

「お前さんは地爆系の魔術師かと思っておったが、魔術師とは多彩なものだ。
 その分、血の味も色濃く混ざり合って美味ではあるが」

「・・・・ぼくじゃない」

言って後悔した。
バラさない方がよかった。
ただ、
そうじゃなければ誰だ。
あの程度の魔術なら自分の部隊の誰かかもしれない。

そう思っていると。


「・・・・・・・・♪」


蝶々を追いかけるようにフラフラと、
無邪気に。
子供が迷い混むように。

ゴシックな格好をした大きなリボンの女性が、
大きなぬいぐるみを抱えて混じりこんできた。

「ほぉ、メスの血はあまり吸いたくはないのだが」

アイルカードの目線はロッキーから反れ、
散歩のついでに巻き込まれたような女性に移った。

「44部隊。メリー・メリー=キャリーか」

ハッと気付いたようにメリーがアイルカードを見、
丁寧にお辞儀した。
手に抱えるぬいぐるみにも、
同時に挨拶させていた。

「・・・・44?」

ロッキーがメリーを見ると、
やはりメリーも目線に気付き、
ぬいぐるみの手を持ってロッキーに手を振った。

「・・・あ・・・・どうも・・・」

かすれる声と共にロッキーもつられて手を振り、
つられてなんとか微笑んだ。

「・・・・フフッ・・・・これは面白い」

アイルカードは何やら上機嫌だった。

「レアな長寿の家系だけでなく、エニステミの血まで吸えるとは」

「・・・・・・エニステミ?」

氷の・・・女王。
アドリブンのクイーン。

「知らぬのも無理はない。ワシのように裏の家業に詳しくなければな。
 そこの知能障害のような小娘。こいつはモルモットベイビー。
 それも・・・・氷の女王エニステミの遺伝子から作り出した・・・・な」

今更、モルモットベイビーについては知識を得てはいる。
『口無しメリー』さんと呼ばれる彼女が、
その改造人間の一人とはまでは、ロッキー自身は知らなかったが。

「・・・・魔物の・・・」

「そうじゃ。ある意味坊主・・・お主と同じ魔物の子じゃな。
 氷の女王から生み出された・・・・・バケモノということじゃ」

そんな会話を無視するかのように。
聞こえて居ないかのように。
メリーはキョロキョロと辺りを見渡す落ち着きの無さだった。

「これは少し本気になってしまいそうじゃな」

足のフリーズブリードを、
アイルカードはそのまま割って引き剥がした。
言葉にするのは簡単だが、
それこそメッツやギルヴァングといったパワーキャラでないと出来ない芸当だ。

「ワシはここに居る誰よりも長く生きてはいるが、まだピークは過ぎておらん。
 数倍の鍛錬の結果を見せてやってもいい。こやつ相手ならば」

ロッキーがまだ6歳前後の外見の時、
それでも20年生きてきた積み重ねがあってのあのパワーだった。
長い年月があの小さな体に凝縮されていた。

アイルカードはその何倍もの時間を積み重ねている。

「メリーさん!」

ロッキーが叫ぶと、メリーはまたロッキーの方を見て微笑み、
ぬいぐるみの小さな手と共に手を振った。

「年増が君を狙ってるよ!」

「年増ゆーな」

「油断してる場合じゃないよ!・・・かっ・・・こほっ・・こほっ・・・」

ミイラのようになった体には、
声さえも毒だった。

「話しかけているつもりなら無駄じゃ坊主。返事はこない」

「・・・・・はぁ・・・なんで・・・」

「あやつはしゃべれんのだ」

メリー・メリー=キャリー。
44部隊が、
『口無しメリーさん』

「魔の王がデムピアスなら、魔の女王がエニステミ。
 その遺伝子で人間を造るなど、愚かな行為だったという事じゃ。
 人間の器にエニステミは納まりきれなかった」

「・・・未完成の・・・人間」

「否。欠陥品と言うべきじゃの。人語を扱うレベルにも到達しなかった。
 少なくとも生態、そして声帯が人間のソレにまで模造する事が出来ていない。
 メリー・メリー=キャリーはしゃべらないのでなく話せない」

人間としての欠陥品。

「但し、声を発する事が出来ない事が一つの副産物を生んだ。
 それが完全バイバスのクイックスペル。所謂"詠唱破棄"。
 世界最速の魔術師よ。油断する気はない。その命・・・搾り取るぞ」

自分の牙で、
自分の下唇を刺激しながら、アイルカードは邪気で妖美な笑顔を浮かべる。
メリーとて、
さすがに自分に向けられている露骨な殺気にも気付き、
少しスネたような表情をした。

「さぁやろうか。お前さんの詠唱破棄による魔術と、ワシの肉体。
 どちらが速いかだ。なぁ!"44部隊員最強"さんよ!」

アイルカードは地面を蹴る。
蹴ろうとした時点で、その脚力の凄まじさは分かった。
誰よりも長い年月を生き、蓄積された力。

地面にヒビが入るほどだった。

しかし、

「なっ」

アイルカードの体は、そのまま地面勢いよく倒れた。
飛び出そうとした勢いそのまま、
だが飛び出すことも出来ずに転がった。

「なんだ・・・・」

アイルカードの体は・・・・・凍りついていた。

メリーはぬいぐるみを抱きしめたまま、
微笑んでいるだけだった。

「速い・・・・」

ロッキーは薄っすらな視界の中でも、
その魔術の速度に目を奪われた。
見ることも出来ない程の速さ。

「違う。そんな馬鹿な」

アイルカードは否定していた。

「速いというレベルではない。詠唱破棄だからといって、
 いきなりワシの体が凍りつくなどという事はありえん!」

まるで、
直接、突然、
自分の体が凍りついたように。

「魔術には流れがある。ワシはそれを警戒したはずじゃ。
 なのに、攻撃スペルが飛んでくる気配さえなかった。
 詠唱をカットしても、魔法の動きをカットしているわけでは・・・・」

メリーはままごとのように、
のん気にぬいぐるみで遊んでいた。

「・・・・・・・そうか分かったぞ」

首から上は凍りついていないアイルカードの表情は、
また妖美なドラキュリアのものに変わった。

「お前さんの魔術の本質・・・それは詠唱破棄ではないな。
 この魔術の正体は・・・・・・"属性付与"か」

属性付与。
自分の攻撃属性を、相手の防御属性に変化させるスペル。

「魔法を飛ばしてきて凍らせたのでなく、直接ワシの体に氷を施したのか。
 ・・・・くくっ・・・なるほど。詠唱も破棄、魔法の流れも破棄っ・・・」

メリーが微笑めば、
詠唱時間もなく、
魔法の射出もなく、
ただ同時に相手は凍りつく。

「確かに・・・最速。魔術の完成形だなエニステミもどきめ」

嬉しそうにアイルカード。

「そうでなくては、お前さんの生命・・・吸うに値せん!」

突如、
氷漬けのアイルカードの氷が・・・
溶け始めた。
いや、
蒸発し始めた。
否、
消え始めた。

「だが残念ながら、"魔術師では"ワシは倒せんのだよ」

元に戻ったアイルカードは、
ピンピンとした状態で立ち上がった。

「"エナジーオフセット"・・・・SPでMPを相殺させるスキルだ。
 ワシほど経験を詰めば、放たれた魔力だって相殺する事が出来る」

相手の体力を奪い、
相手の魔力は殺す。
ドラキュリア。
ヴァンパイアの所業。

「・・・・・?」

メリーは首をかしげる。
そしてまたアイルカードを凍らせる。
刹那凍結。

詠唱破棄。
射出無用。
つまり、
絶対回避不能。

だがアイルカードを凍らせても、
すぐにその氷は消えてなくなった。

消え去った。
魔力という根底の部分から。

「魔法・・・・・無効化だって?」

ロッキーでさえ、笑えなかった。

さすが部隊長クラスといえど、
されど部隊長クラス・・・と侮った。

そんな"戦闘の半数を詰みに持っていける"能力。
戦争の主人公に選ばれたアレックスでさえ無力になってしまう、
そんな優れすぎている能力。

「それは少し・・・・ズルいんじゃないかな」

笑えなかった。
出ても苦笑い・・・苦笑程度がやっとで・・・。

「・・・・・・・?・・・・・・・?・・・・・」

メリーが何度もアイルカードを氷漬けにする。
それでもすぐに消えてなくなる。
無意味この上ない。

「フフッ・・・さぁ、吸わせておくれ。二匹の魔物もどき。
 ワシと同じ、人間の枠から外れた化け物達よ。
 死者となってもワシは生を吸い続けていたいのじゃ」

無敵。
完全魔力無効化能力。
そして一方白兵戦ではエナジードレイン。

魔力を削り取り、
体力を吸い取る。

ヴァンパイアらしい魔物染みた能力。

「見えているぞ小僧」

アイルカードの目がロッキーにいった。

「やはりセルフヒール程度は扱えたか。
 メリー・メリー=キャリーの登場を気にドサクサに紛れたつもりじゃろうが、
 ワシは目がきく。特に肌の変化には敏感でな」

バレていた。
外傷を与えられたわけではないから、
セルフヒールで体力の回復はうまくいった。
全快とはいかないが。

「魔法がきかぬなら体術でということなのだろう。
 だがさきほども話したとおり、身体能力でもワシの方が上じゃがな」

魔女。
吸血鬼は軽い体を見せしめる。

魔術は無効化。
体術でも負ける。

それどころか向こうは吸収し、
こちらは衰えていくばかりだ。

「どうしようか」

ロッキーは皮肉混じりにメリーに微笑んだ。
メリーは困ったように口をパクパクさせた。

「だよね。でも何か提案はないかな?」


特になんということはない。
なんということはないが、

メリーは何故か驚いていた。
そして発せぬ声の口を動かした。

「え?ぼくが?それだけでいいなら別に言ってくれれば・・・・」

「どういう事じゃ?」

何故か、アイルカードが驚いて、
ロッキーに問いてきた。

いや、
アイルカードだけじゃなくて、
メリー自身も驚いてロッキーを見ていた。

「・・・・へ?何が?」

「いや、今、お前さん・・・・」

続きはメリーの方が聞いてきた。

「君の声?聞こえないよ。でも声が聞こえなくたって話せるでしょ?」

やはり一番驚いた顔をしていたのは、
メリー自身だった。
それは、
彼女にとっては驚愕の出来事だったに違いないから。

「あ、ぼくはね、カプリコ砦で育ったから。魔物と一緒に育ったからね。
 魔物とか動物の言ってることがなんとなく分かるんだ。
 あれ?でもパパ達はおしゃべり出来なかったなぁ?・・・んー・・・とにかくぼくには出来る」

メリーは驚きと必死さが相まった表情で、
ぬいぐるみを抱きしめながら、
ロッキーに何か伝えようとしていた。

「そんな凄い事じゃないよ。例えばさ、オリオールだって生きてたんだ。
 魔物とだって動物とだって無機物とだって、意志があれば通じ合えるよ。
 何より君は人間じゃない?お話できて当然だよ」

ロッキーは微笑む。
メリーは一時停止していたが、
その後、
嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑み返してきた。

「言葉以外での会話。ふむ。本当に面白い小僧じゃ。
 やはり、人間ではないわけじゃ。ワシと同じ、人間の道から踏み外した・・・・」

「人間じゃなくたっていいさ。ぼくは魔物の子なんだから」

本質なんて、
そんなどうでもいいことどうでもいい。

「メリーさんだったよね?さっきの続き話して」

メリーは嬉しそうに嬉しそうに口を動かす。
声など出ないのに。

「なるほど。だからぼくの力が必要だったわけだね。
 でもそれいけるよ!なんでもっと早く教えてくれなかったの?」

教える術なんてなかったから。
メリーにとっては、
こうやって意志を伝えられる相手は、希少過ぎる。
奇跡の相手と言ってもいい。

「それでいこうよ。うん。単純だけど理に適ってる
 アレックスなら多分すぐ思いついたんだろうけどね」

ロッキーが微笑むとメリーは頷いた。

「同士と出会えるというのは嬉しいものなのだろうな。
 ワシもそうじゃ。だから・・・・吸わせてもらおうか!!」

これ以上情報を交換させてはいけないと思ったのだろう。
アイルカードが飛び出した。
蹴り出した時に、地面に音が響く。

長年に蓄積されたそのパワーは、
やはり体術としても超人の域に達しているようだった。

速い。

「・・・・・・・・!・・・・」

メリーは魔法を発動した。
属性付与による直接攻撃でなく、
アイルカードの進撃を止めるべく、
巨大な氷のツララ・・・・アイシクルレインが何本も地面に突き刺さる。

「無駄じゃっ!魔力である限りワシは全てを無に帰す!」

アイルカードは通過した。
すんなりと。
手を差し出すだけで氷のツララは説けた。
いや、
魔力ごと消え去ったというべきか。

「つまり小僧!お主が接近戦でワシを倒さぬ限り!
 お前さんらに勝機はないというこっ・・・・・・」

活走するアイルカードの女体が、
突如不意討ちで真横に吹き飛んだ。

「・・・・な?」

アイルカードは一度地面にぶつかり、
だが無理矢理地面に腕を突き刺して体を止めた。

「・・・・・なんだ」

腕を引き抜き、
周りを見渡した。

「メリーさんの提案だけど、偉そうに説明させてもらうね」

アイルカードの周りに、
石の飛礫が幾多と浮遊していた。

「魔力が駄目なら無機物も駄目なはずだ」

メガスプレッドサンド。
石が意志を持つように、浮遊し、
そして突風と共に・・・・・アイルカードを襲った。

「ハハッ!油断しただけじゃ!残念じゃったな!」

アイルカードは手を突き出す。

「最初のローリングストーンを避けた事。それでそう思ったのだろう。
 だがアレは"布石"じゃ!魔力である限り!魔法である限り!
 ワシには通用せん!全て吸い!全てかき消してくれる!」

だが、
石の飛礫はアイルカードの体に突き刺さり、
めり込み、
そして吹き飛ばした。

「・・・・・ぐっ・・・・」

地面を転がるアイルカード。
転がりきった先で、
立ち上がろうともせず、
呆然とこちらを見ている。

「何故だ・・・火であろうと氷であろうと風であろうと・・・・
 そして岩であろうと、魔力である限り相殺出来るはず・・・」

「それは"ローリングストーン"の場合でしょ?
 ローリングストーンは無から岩を発生させる魔法だから。
 でもメガスプレッドサンドは違う」

メガスプレッドサンドは突風で土砂瓦礫岩を飛ばす魔法だ。

「あなたを襲っている岩は、魔法じゃない」

この戦場にある、"現物"だ。

さらに地面から岩飛礫が浮遊する。

「くっ」

アイルカードは飛び起きる。

「なるほどっ!なるほどな!いい魔術師になるぞお前さんっ!」

メガスプレッドサンドの飛礫が、
またアイルカードを襲う。

「だが!それでもワシが上じゃ!年期の違いを見せてやろう!!」

今度は体術に出た。
アイルカードの女体は、
飛散し飛び掛ってくる岩達を、
素手、
素足で、
ぶち壊していった。

「ワシを倒したければ!ダイヤモンドでスプレッドサンドでもするんじゃな!」

そして、
突風がやんだ時には、
クズのような瓦礫と、
立っているアイルカードが残った。

体術だけで全ての岩を葬った。

「いい線はいっておったが!」

「だけどもうひとつ!」

「!?」

ロッキーがぶっ飛んだ。
カプリコハンマーからバーストウェーブを爆発させ、
その力でぶっ飛んだ。

「あなたは今、岩だけを撃ち落した。"突風でなく岩を"。
 メガスプレッドサンドの根源である突風を打ち消せばいいだけなのに。
 それは・・・・あなたのエナジーオフセットの効果範囲を示している」

あくまで、
アイルカード・・・彼女の能力は至近距離限定。
射程距離は短い。

「ぼくのこのっ!カプリコハンマーの一撃!
 バーストウェーブの推進力の方は打ち消せないっ!」

バーストによるブースト。
その勢いが、
アイルカードの目前に迫るのは一瞬の出来事だった。

「小僧が!!!!!」

ロッキーはハンマーをそのままアイルカードへぶつけた。
両腕に全力を込め。

アイルカードはそれを、
両手を突き出して受けた。

「年期のっ・・・違いをっ・・・見せてやると言っただろうが!!!」

アイルカードの腕がメキメキと軋む。
軋むが、
やはり人間の腕力を超えていた。
鋼鉄だって砕くだろう細大の勢いをつけたハンマーにさらに力を込める。
それでも、
押せても、
振り切れない。

「痛みの無い体じゃ!腕が砕けようとも止めてみせるっ!」

「うううううううううう!!」

力が足りない。
パワーが足りない。
アイルカードの腕は見るからに変形してしまっているが、
それでも・・・押し込めない。

「バーストウェーブ増し増しっ!!」

ロッキーはカプリコハンマーからバーストウェーブ。
それを逆放射。
それでさらに勢いをつける。

「若造がっ!!」

つけるつもりだったが・・・
バーストウェーブが発動しない。

「この距離なら相殺の範囲内だ!」

「うぐぐぐぐ・・・」

腕力だけなら、
これでもロッキーは《MD》でメッツに続いて二番手だ。
だが、
それでもパワーが足りない。

「一歩!この一歩が経験の差!積み重ねた年期の差じゃ!
 このまま!お前さんの生気をもう一度堪能させてもらおうか!」

そう勝ち誇ったアイルカードの視線。
ロッキーは一瞬だけ反れた。

ぬいぐるみを抱きしめているメリーが見えた。

それは遠かったが・・・

「あなたには聞こえなかっただろうけど、ぼくには聞こえた。
 だからさっき言ってた事を代わりに言ってあげるよ」

メリーの仕業か。
ロッキーの背後の方から・・・・

単発の岩が飛んで来ていた。

「氷の魔女は、氷しか使えない能無しじゃないんだよ・・・・だってさ!!!」

単発のメガスプレッドサンド。
その岩は、
そのまま・・・・
勢いを帯びたまま、

ロッキーのハンマーにぶつかった。

ロッキーのハンマーに最後の一押しを与えた。

「どーーーりゃぁぁーーーー!!!せいばぁぁあああああいっ!!」

「このっ・・・・」

その勢いは、
アイルカードを貫いた。

アイルカードの両腕を潰し、
そしてアイルカードの体を粉みじんに吹っ飛ばした。

「小僧・・・・・共め・・・・・」

ハンマーが振りぬかれ、
体が微塵に吹っ飛び、
上半身と下半身が別々に吹っ飛ぶ。

そしてゴロンゴロンと、
地面に落下した。

「ワシが負けた・・・・?」

両腕を破壊され、
バストアップしか残っていない体で、
ヴァンパイアは空を見上げていた。

「・・・・同族の・・・・しかもワシの数分の1しか生きておらんガキに・・・・」

ロッキーはハンマーを引きずりながら、
アイルカードの傍らへ歩んだ。

「ドジャーは言ってたよ。重要なのは強さとかじゃない。
 最後に立ってるかどうか。それだけだってね」

ロッキーは微笑んだ。
眩しすぎる笑顔は、敗者には皮肉にしか映らなかっただろう。

後ろから、
転びそうになりながら必死にメリーも走ってきた。
そして声無しの息切れをした後、
アイルカードに話しかける。

聞こえるはずなんてないが。

「・・・・・そうだな。そういう手もあっただろうな」

だが、
アイルカードにも伝わったようだった。
それは言葉じゃなく、なんとなくだったんだろうが。

「二人掛りで魔法をありったけぶつけてくるという手もあった・・・。
 お前さんらの合計魔力量・・・どう考えてもワシは相殺仕切れん。
 ワシの相殺を逆手にとって、精神(SP)を破壊する・・・という手もあった」

だがしなかった。

「多大な無駄遣いは出来んだろうて・・・・。
 お前さんらには戦争の続きがある・・・・未来があるものな。
 ワシはもう・・・・長く生き過ぎて、暇つぶししか考えておらんかったのに・・・」

吸血鬼の牙を見せながら、
アイルカードは笑った。

「やってくれ」

ロッキー頷き、ハンマーを振り上げた。

「最後にひとつ言わせてくれ・・・ワシが言うのも、
 お前さんに言うのも・・・可笑しな話なんじゃが・・・・・」

それは確かに滑稽な言葉だった。

「長生きはするもんだ」

ロッキーはハンマーを振り下ろした。















大体の指示を伝え終えた。
アイルカードという部隊長を失っても、
黒魔術部隊はやっかいだった。
突破はもう少し時間がかかるだろう。
でもそれでもすぐだろう。

「ねぇ・・・・」

それよりも問題は・・・・

「も、もうちょっと離れてくれないかな・・・・」

メリーがやけにロッキーに懐いてしまった事だ。
ベッタベタと猫のように擦り寄ってくる。

「え?何?」

メリーは嬉しそうに話す。

「キリンジ?えっと・・・君のお仲間さんか。へぇ。その人も動物と話せたのか。
 でもその人しかお話出来る人がいなかったのに、その人も死んじゃったから寂しかったって?」

メリーは何度も何度も頷いた。

「参ったな・・・・」

ロッキーは狼帽子を深くかぶった。
だがメリーは煌く瞳で訴えかけてきて、
そして満面の笑みだ。

「分かった・・・分かったって・・・友達になるよ。ぼくも友達増えるのは歓迎だしさ・・・」

メリーは嬉しそうにぬいぐるみを抱き抱えて飛び跳ねた。

「44部隊との関係を考えると複雑だなぁ・・・・。でもいい人だしいっかなぁ」

ロッキーは内門を見た。
あそこに行かなければいけない。

「・・・・うん。身内を失ってばっかりだ。家族が増えるのはいいことだね」

ロッキーは微笑むと、
メリーも微笑み返してくる。
笑顔は連鎖する。

「行こう」

どんなに皮肉でも、笑顔は絶やしたくない。
寿命なんて分からないけど、

未来も笑っていたくて、
今も笑っていたいなんてのは・・・・・・・欲張りじゃないはずだ。


































「バンビちゃんトリプルマジカルパイレーツキィーーーック!!」

バンビの飛び蹴りが、
(といっても飛行しての蹴りを飛び蹴りというかは分からないが)
ジャンヌダルキエル・・・もといオレンティーナの背中に突き刺さる。
3人のバンビ。
蜃気楼アピールでの幻想の中の、
3連蹴り。

「・・・・・といっても・・・・」

体術のカケラも習得していない小娘の蹴りなど、
オレンティーナには微塵もきいていなかった。

「っていうか2人は幻覚なので、全然トリプルでもなんでもないですよねー・・・・」

「低能な人間がっ!!」

「あわわっ!!」

バンビは逃げる。
霧の中へ。
空中に散布する霧の中へ。

「チィ・・・・」

バンビが二人に増える。
そして三人に増える。

「べーっだ」

しっかり目で追っていたはずが、
いつの間にかアピールによって意識が誘導され、
どれが本物だったか分からなくなる。

「いつまでもそれが続くと思うな小娘!」

「それはあんただ偽神」

背後にネオ=ガブリエル。
サンダーランスを手に、突っ込んできている。

「いつまでも神様ごっこが許されると思うなよ・・・・地上でな」

サンダーランスを突き刺す。
突き抜ける。
オレンティーナはヒラリとかわす。

「許されたんだ私は!神に尽くして!尽くして尽くしてきたから!
 だから!私は神に選ばれたんじゃなくなくなくなくない!?」

オレンティーナが天を指差す。
遥か上。
霧の上から、光が刺す。

「させないね」

そのオレンティーナの周囲が突如爆発した。
1度2度3度と、連爆。
エクスポのエアサンドボム。

「ぐっ・・・・この虫けら共っ・・・・」

爆煙から抜け出てきたオレンティーナ。
ダメージはあるようだ。

「光に散れっ!」

天上から光が落ちてきた。
ホーリーフォースビーム。
その光の柱が・・・・。

「おっと・・・・・これはボク・・・・やばいんじゃないかな?」

避け切れない。
太く、
速い。

次の思考に移る前に・・・
降り注ぐ光のビームはエクスポの頭上から地上へと通過した。

エクスポの存在をかき消した。

「まずは一匹っ!!」

「ま、ハズレなんだけどね」

「!?」

振り向くと、
そちらにフウ=ジェルン。
エクスポが無傷で浮遊している。

「いつの間に!」

「何を言ってるんだい?ボクは最初からココに居た。
 君は誰も居ない空にホーリーフォースビームを放っただけだ」

スイ=ジェルン・・・・。
バンビ=ピッツバーグの蜃気楼アピールは・・・・。

「別に僕の姿でだけ釣るわけじゃないんだよね」

バンビは偉そうにふんぞり返って言った。

「ターゲットを釣るためなら、僕のアピールは何にでも見せられるよ!」

見せる。
むしろ視せる。
観せるか魅せる。

見させる。

「小賢しい!小賢しい小賢しい下等生物のクセに!神に歯向かうなどっ!」

オレンティーナはまた、
天を指差した。
ホーリーフォースビーム。
ただし、
直ぐには降ってこない。

「ならば!数撃てば当たるっていうわけじゃなくなくない!?」

溜めている。
チャージしている。

ホーリーフォースビームの規模を。
本数を。

「信じる者に光差す!神は分け隔てなく平等に与えよう!」

「ちょっちヤベぇぞこれは」
「なんでなんでなんで?僕のアピールがあれば当たらないよ?
 当たらなければどんな攻撃だって無駄でしょ?」
「話を聞いてなかったのかい?君は・・・逃げ場ないほどに落とす気だよ」

エクスポはオレンティーナに向け、
指を突き出す。

同時に、オレンティーナの周囲が爆発する。

「おっとっと」

数発被弾しているが、直撃は避けている。
オレンティーナは天に指を突き上げたまま、
飛び回る。

「神の偉業を止められる者なんていないのよ!」

「チッ・・・・フウ=ジェルン。撃たれる前に仕留めろ」
「やってるけどっ・・・」

爆発を何度も起こす。
ただし、
エクスポの爆発は座標発火タイプだ。
動き回る敵には当てづらい。

さらにここは空中。
相手は360度x360度自由自在に飛びまわれる。

「ボクだけじゃ間に合わないっ!援護してくれよっ!」
「あー・・・俺は人頼みが仕事でね」
「この場合神頼みだろっ!」
「僕はアピールしか出来ないしねー。攻撃能力ナッシンだよ」
「降ってきたら終りだな。俺のライトニングスピアも降下タイプだ。
 同じ降下タイプのホーリーフォースビームは打ち消せねぇ」

それはエクスポの爆発も同じ。
爆発は一瞬だ。
持続の長い光の柱を受け止める事は出来ない。

イメージするなら、滝の流れは爆発で止められない・・・ということ。

「あーあー・・・・神っていうのはイツでもドコでも役に立たないもんだねぇ」

エクスポが爆発を連発する。
それしかない。

「せめて降る前に止めるのを援護出来るだろ!」
「俺の武器は槍だぞ?お前の下手クソな爆発の中に飛び込めって?」

ガブリエルは煙草を咥えた。
本当に状況を弁えないマイペースな奴だ。

「向こうは逃げの一手だからあんまり蜃気楼アピールも意味ないかな?」
「いや、誘導は出来るはずっ」
「分かったよ」

どれくらいだ。
あとどれくらいで・・・・・・・・天から天罰が降る。

ジャンヌダルキエルは何本出せた。
光の柱を。
ならオレンティーナのホーリーフォースビームの規模は?
なら一端範囲外まで退避する手も・・・・。

「どうするっ・・・・何にしろボク一人じゃ未然に防げないっ」


「ヒャーーーーハッハッハッハッハッハ!!!」


斜め下から、
火炎の弾が登ってきた。
地上からメテオが上がってきたかと思った。

「ダニエル?」
「エン=ジェルンか」

ダニエル。

「神の丸焼きってぇのはイイ匂いがすんだぜぇぇええ!?」

突撃と共に、
ダニエルは炎をバラ撒いた。

「調子をこくな下等神共が!」

オレンティーナは避け切れない。
というよりは、
ある程度のダメージを覚悟している。

ダニエルがバラ撒いた炎にあえて向かい、
最小限で抜けていく。

「痛みの無い体だ!この程度!気にする事はなくなくない!?
 でも神はおっしゃった!"右頬を殴られたら左頬を差し出せ"
 神に逆らった罪!甘んじて受けることじゃない!?」

「意味が違っ・・・・」

エクスポの言葉に聞き耳をもたず、
ジャンヌダルキエル・・・・オレンティーナは天空へ登っていった。

「上?離れていく」
「逃げる気だよ。上方向は理屈的に無限に逃げられるからね」

ただし、
オレンティーナのホーリーフォースビームに至っては、
地上までが射程範囲。
縦の射程範囲だ。

「逃がすかよぉ!!!ヒャハハ!火と煙は高いところが好きってねぇ!!」

ダニエルがそれを追う。
炎に撒かれて真上へ飛ぶ。

「おい馬鹿が上に行ったぞ。俺達も追わなきゃな」
「自分が最初に動かないのが君らしいねガブちゃん」

エクスポ、
ガブリエル、
バンビも上へと飛ぶ。

「神が逃げるわけがないでしょう。神は上!愚民は下!
 それが世の理!当然の事じゃなくなくなくない!?」

上を見上げる。
空へ。
さらに空へ。

思えば、ジャンヌダルキエル自身も同じ事をしていた。

「落ちな」

天空。
向かう天空から・・・・雷撃。

「ライ=ジェルンかっ!!」

雷が降り注ぐ。
モノボルトのそれのように。

「チィイ!」

落ちてくる雷。
落雷。
それを避けながらさらに上昇する。

「くっ・・・」

ガブリエルの落雷のひとつが、
オレンティーナに被弾。
それも翼の一部を貫いた。

「こ・・・・の・・・・下等神が・・・・」

「ヒャァァーーーーーーハッーーーーーーー!!!!!」

オレンティーナの横を、
凄い勢いで追い抜いて上空へ駆け上る・・・・・・炎。

「!?」

ダニエルがオレンティーナを追い抜き、
さらに上をとった。
オレンティーナも已む無く翼を止める。

「私より早い!?下等天使のクセに!」

「ヒャハハハハハ!だって?だって?俺ってば炎の神様。
 炎神(エンジン)だぜ?炎は原動力。火は全ての火種だからな!
 ブーストでバーストでバーナーなジェットなわーけーよーーーー!」

目も、
髪も、
翼も燃え盛る炎の神。

ダニエル自身が説明した事も最もだが、
本質は違った。

オレンティーナ。
ガブリエル。
バンビ。
エクスポ。

彼ら彼女らとは違い・・・・・ダニエルは"根っから神族"
人間から転生した他の4人とは違う。
そういう意味で・・・・
下等はどちらかという話。

「ヴィー♪ヴィー♪キュゥーーー♪といこうか!?」

「・・・・・・遅かったわね」

「あぁーん?」

ジャンヌダルキエルは、天を指差したまま。
それを見て、
ダニエルは真上を見上げた。

「・・・・・・げりょげりょ・・・・」

天が輝いている。
雲の隙間から漏れ零れている光。

「あれ全部がなんとかなんとかビームってーの?」

「その通りだ」

オレンティーナは笑みを零さずにはいられない。

オレンティーナの周りで数発の爆発。
どれもうまくは当たらなかったが、
下方から3つの影。

「ダニエル!止めろ!」
「撃たれたら終りだねぇ」

急速上昇のせいでガブリエルの咥えタバコが千切れ飛んでいた。
それでも登る。
撃たれたら・・・・逃げ場がない。

「もう遅い。神曰く、"汝殺す勿れと云う勿れ"」

オレンティーナは、指を振り下ろした。

「空が落ちるぞ!絶望だ!」


雲が消し飛んだ。

そして・・・・幾多の光が・・・・・降り注いだ。

「ダニエルっ!!」

エクスポが何かを必死に伝えようとしていた。
それが届いたかは分からない。
届こうが関係なく、
間に合わず、

光は落ちた。

光の柱。
ビーム。
聖なる力の光線。
それが幾多と落ちる。

一つ一つが半径10mはあるんじゃないだろうか。
そんな規模の、避け切れない規模の光の柱が、

1・・・・234・・・・・10を越え・・・・
13・・・15・・・・20・・・・24・・・・

数え切れなくなったところで、
視界の全てが光に満ちた。


天には逆らえない。
天災には逆らえない。

そう云わんばかりに隙間無く無差別なホーリーフォースビーム。
止められないし、
避けられない。
相殺なんてもっとの他。
無効化する術さえない最大スペル。

その大量降下。

天には逆らえないことを示すように。
雨を避けられる者がいるか?
いや、
日光を避けられる者がいるか?

そう・・・・云わんばかりに。

「アッハッハッハッハ!おかしく!おかしくなぁーーい!?」

全ての光が過ぎ去った中で、
この上空で、
オレンティーナは高笑いをあげた。

「これが私の力!神の力!神による戦争!ゴッド・オブ・ウォー!
 そして全ての結果は神が示す!神のみぞ知る!ゴッドノウズ!
 グッド(good)ではない・・・・天辺だからこそのGodJob(神の所業)!」

光。
ホーリーフォースビームの過ぎ去った空は静かだった。
恐らく地上でも大きすぎる被害が出ているだろう。

「小さい!小さい小さい!私は人を超えた!それがこの結果!
 私が思えば!この世の何だって消え去るわけ!
 ま、アスガルドでよろしくして欲しくなくなくなくなくなく・・・・」

ふと、
気付く。

「・・・・・・・馬鹿な!」

辺りの異変。

「・・・・・霧!?」

霧。
それがまた立ち込める。
抜け出たはずなのに。
この能力の持ち主は・・・・。

「天なんて、海に比べれば小さい小さい♪」

スイ=ジェルンがオレンティーナの眼前に現れた。
1人。
でなく、
2人、3人・・・・いや・・・もっと。

「うーみーはー」
「ひろいーなー」
「大きーーーなーー♪」
「そう!」
「海はお空なんかよりも大きい!」
「だって空は見渡せるけど海は海平線の向こうまで♪」

「この・・・・脳細胞の矮小な下等神・・・・・何故貴様!」

オレンティーナは片手を広げる。

「それは僕の能力で♪」

「お前の能力など関係あるか!避ける事などできぬほど無差別に降下させたわけ!」

「無差別?」
「本当に無差別かな」

エクスポとガブリエルも、
霧の中から現れる。

「人は日光を避けられるか?」
「人は雨を避けられるか?」

天災を避けられるか?

「出来る。日陰に隠れればいい」
「傘を差せばいい」

エクスポが指を指し示した。
オレンティーナに向けて。

「君の真上には絶対に落ちないだろ?ホーリーフォースビーム」

「・・・・くっ・・・・」

エクスポも、
ガブリエルも、
バンビも、
咄嗟にオレンティーナの真下へと移動した。
本人に当たるわけがない。
なら、
そこは安全だ。

オレンティーナの周りにだけはビームは落ちるわけがない。

「ダニエルも気付いてくれるか微妙だったんだけど」
「ま、大丈夫そうだな」

「・・・・くっ・・・このっ・・・・」

オレンティーナは辺りを見渡す。
霧の中。
ダニエルの姿が見えない。

エクスポと、ガブリエルと、
そして7・8人はいるバンビの姿だけ。

「どこだ・・・・」

「やっぱりダニエルは怖いんだね。君は。
 なんてったって彼は本当に神族だからね。
 君にとって一番危険な人物はダニエルだろう」

まぁダニエルは誰にとっても危険人物だが。

「その前に、バンビちゃんが・・・・」

さらに増える。
10人の蜃気楼バンビ。

「あんたをやっつける!!」

10人の蜃気楼バンビが一斉に飛び掛った。
バンダナの下から流れる水の髪が靡き、
水神が飛び掛る。

「・・・・・・・・・」

オレンティーナは・・・・・・冷静を保った。
この状況でこそ、
神はうろたえてはいけないと。

オレンティーナはエクスポとガブリエルを見る。
・・・・・動いていない。
攻撃してくる気配がない。

この蜃気楼の女達の混ざって攻撃してくるのが最善なのに、
それをしてこない。
何か企んでいる。

「やぁぁーーーー!!」

蜃気楼のバンビが蹴りをしてくる。
だがそれは、
オレンティーナを突き抜けて、消えた。

「こいつらはあくまでアピール・・・惑わされるな。
 本人が混じっていても、あの小娘なら致命傷はない」

2人目のバンビもオレンティーナを突き抜けた。
その中で、
冷静に辺りを見渡す。
幻覚を恐れるな。
霧の中を・・・・・・視認する。

神なら出来ない事はない。

「!?」

オレンティーナは気付いた。
一箇所・・・・"空間が歪んでいる"

「フフッ・・・・アッハッハッハ!!バーカ!じゃなくなくなくない!」

オレンティーナだからこそ・・・・気付いた。
その一箇所の・・・霧の異変。

「炎の神!そこだな!」

オレンティーナは天へ指を突き出した。

「"霧が蒸発しているぞ"!覚えたてで欠点に気付いてなかったようだな!」

「やばっ・・・」

幻覚のバンビ達が視覚を邪魔する。
邪魔するが、
オレンティーナはうろたえない。

「そこだっ!!!」

一本のホーリーフォースビームが落ちる。
それは霧が蒸発している箇所へと・・・。

「あっ・・・・・だぁぁあああああああ!!!」

光が縦に貫くと・・・・・そこからはダニエルが現れた。

「あぎゃああああああ!俺の足!!俺の足!」

直撃はしなかったようだ。
だが、
ダニエルの片足を・・・・・消し飛ばしていた。

「俺の足!俺の足ぃいいいい!無くなっちゃ燃やせねぇじゃねぇかあああああ!!」

「アハハハハ!!!トドメだ!!」

オレンティーナはもう一度天へ指を指し示す。

「・・・・・・燃やしたかったのにぃいいいい!!・・・・・・・・・なんちゃって」

「!?」

片足の無くなったダニエルは、
一瞬笑った。
笑ったと思うと、
それは歪み・・・・・・・・・・バンビの姿になって消えた。

「なっ!偽者・・・・・」

と同時に、
オレンティーナの体が動いた。
何かに動かされた。

気付けば・・・・・・
腹部を貫かれていた。

「やっりぃ・・・・♪」

バンビ=ピッツバーグ。
スイ=ジェルンが・・・・・槍をオレンティーナに突き刺していた。

「何故・・・・お前が・・・・・」

この槍はガブリエルのサンダーランス。
それは確かにガブリエルが持っていたはず。
オレンティーナがガブリエルの方を見る。

「あ・・・・」

ガブリエルとエクスポが居た場所。
そこから、
ガブリエルだけが歪み、消えた。

そして、

「あの女・・・スイ=ジェルンは天使じゃねぇ。ペテン師だぜ?」

オレンティーナを貫いているバンビの姿が、
歪み、
そして、
それはガブリエルの姿になった。

「小娘の幻覚達の一人に・・・・紛れていたのか・・・・
 あの娘の能力は・・・・自分自身を魅せるだけじゃなかったのか・・・・」

「あぁ、強ぇ能力だ。この霧の中は奴のテリトリーみたいだぜ?
 見るもの全てを疑った方がいい。どれも・・・・・蜃気楼だ」

ダニエルが居ると思わせた空間の歪みさえ、
蜃気楼アピールが見せた屈折。

「まぁ当の本人が使い道分かってねぇけどな。これもフウ=ジェルンの提案だ」

エクスポが遠目の場所で、
チッチッと指を振ってウインクしていた。

「このっ・・・このぉおおおお!」

「もうあんたじゃ何にも出来ねぇよ。ホーリーフォースビームを撃つか?
 自分にも当たるぜ?そりゃぁ面倒クセェわな・・・・超ダリィよ」

「く・・・・ううううううう!」

「無力だな。神よ」

槍は右手。
ガブリエルは、左手の指を、
オレンティーナの胸の谷間に当てた。
十字架の・・・・ネックレスに。

「神にしか出来ない事、そして人にしか出来ないことがある。
 そしてそれは相容れない。理由は簡単。住む場所が違うからだ。
 "鳥と魚が仲良しになる事は世界の破滅までありえない"」

「神は・・・・全てにおいて人を超えているわけ!」

「そう信じるだけに留めておけばよかった。現実は厳しい」

ガブリエルはさらに奥に槍を突き刺す。

「神にしか出来ない事、そして人にしか出来ないことがある。
 ・・・・・・あり?さっき言ったっけ?説教は苦手でね」

「・・・・・このっ・・・」

「つまり例えばこれ」

突き刺したサンダーランスがバチバチ・・・バチバチと悲鳴をあげる。

「・・・・・なんだ?」

「元のジャンヌダルキエルが、俺達『四x四神(フォース)』を創った理由。
 人間にしか扱えない自然属性(エレメント)の力。神にはない力だ」

「光・・・こそ全てのっ・・・・・」

「お前の敗因はホーリーフォースビームに日陰があったこと!それだ!
 それが出来れば俺達は全滅させられたっ!違うか!?そして・・・・・・」

サンダーランスの唸りがさらに強くなる。
強く、
強く。
痺れる。

「俺にはそれが出来るっ!ライトニングスピア!」

雲が裂け、
太き雷が・・・・・・・ジャンヌダルキエルを貫く。

「うあぁあああ!!キャアアアアアアア!!!」

稲妻の中の二人。
オレンティーナとガブリエル。
そして、
オレンティーナだけが貫く落雷で焼け焦げていく。

「わわ私は!私はああああああ!かかか神のために!ためにいいいい!」

「これは・・・・ジャンヌダルキエル本人と同じ逝き方だぜ
 光栄に思いたかったら勝手に思え。偽神様よぉ」

「かかか・・・・てん・・・天国・・・・・・・アスガ・・・・・・」

ガブリエルは放電を止めた。
落雷を止めた。
ライトニングスピアを止めた。

「私はずっと・・・・神様にお祈りしてきた・・・んだから・・・・・
 神様は・・・・私をずっと見ててくれた・・・・はず・・・・・」

そんなわけねぇだろと思いながら、
ガブリエルは槍を引き抜いた。
黒コゲのオレンティーナの体は、
空中を落ちた。

「落ちる・・・・落ちる・・・・落ちる・・・そんなわけ・・・・な・・・・・・
 わた・・・・・・神・・・・・・・・・天に・・・・・・・・・・・・・」

そして、
オレンティーナの体は、
光の粒に変わり、

天へ昇華した。




















「他の死骸騎士の時はなんとなしに見てたけど、
 あの光が登っていく姿。あれって成仏したって考えでいいのかい?」

空中をゆっくり降りながら、
エクスポはガブリエルに聞いた。

「それは天国に言ったってニュアンスか?」

ガブリエルもタバコをふかしながらユックリ降下する。
・・・・というより、
面倒だからそのまま落下しようとしたところを止められ、
バンビが必死にガブリエルの体を持ち上げてゆっくり落ちていっている。

「まぁそういうニュアンス。生涯神様を信じて尽くしてきた彼女だ。
 無事に天国にいけたって考えでいいのかい?」
「バカバカしい」

ガブリエルは鼻で笑った。

「とりあえずコスモフォリアで魂の選別だ。
 下界でいうところの閻魔様みたいな裁判官がちゃんと居るんだよ。
 そこで善悪を分けられる。いわゆる地獄と天国みてぇなもんだ」
「へぇ・・・ぇ・・・天界も現実的な・・・うぅ・・・重い・・・・・」

バンビは必死にガブリエルを支えながら、
降下する。

「それで結局あのオレンティーナは天国逝きなのかい?それとも・・・・」
「そんなわけ・・・・ないよ・・・・重い・・・」
「へぇ。君の意見を聞こうバンビ」
「だって・・・あんなに人を殺してる・・・・正義のためでも人を殺しちゃいけないでしょ?」

バンビのいう事は最もだ。

「正当防衛って言葉もある。正義の刃はそういうものじゃないかな」
「殺しは殺しだ。殺しのいい訳に正当防衛って言葉を使ってるなら結果は同じ。
 殺しってのはいけねぇ事だって分かってるわけなんだからな」

なら、
神を信じ、
神の言いなりになった彼女とて・・・

「そんで、ま、天国逝きなんじゃねぇの?」
「え?なんでだい?」
「神様が言ったんなら神様好みなわけじゃねぇか」
「だが殺しは悪だって」
「バカバカしい。神は人を殺さないと?じゃぁ天災ってなんだ。
 大体殺傷を全否定するなら、とっくに天使は悪魔に滅ぼされている。
 それに善の世界にも魔物はいるぜ?天国だって殺し合いは茶飯事なのさ」

そんなものなのか。
結局、
地上も、
天国も、
地獄も。

「なら彼女のいく天国は、いわゆる天国じゃないわけか」
「天国さ。そーいう神を信じ、そーいう神の言葉に従ったんだ。
 そーいう神の住まう、そーいう天国に行くさ。本望この上ねぇだろ」
「なんだかなぁ」

まぁ、
死んだ先の事なんて考えたくない。
そんな事を考えていたら、
生きる価値が薄くなってしまう。

「そ・・・れでっ!・・・どうするかさっさと決めて!・・・重くて僕・・・・」
「がーんーばーれー」

バンビが頑張っているのに、
ガブリエルはのん気のタバコをふかしている。
なるほど。
確かに天国っていうのは言うほどのもんじゃないだろう。

「ヒャッハーーーーーー!!パーティーはどこだぁぁぁああああ!!!」

ダニエルが上空から通過していった。
下に向かってカッ飛んでいる。

「ありゃぁ、戦争欲が沸いてきたって感じだな・・・ダリィこった」
「君はどうする。目的は達成されたわけだけど」
「いや・・・・」

ガブリエルは顔をしかめる。

「あの偽神が言っていた言葉。・・・・・この馬鹿げた偽神祭の犯人を殺す」
「ピルゲンか」
「人と神は交わっちゃいけねぇ。俺の目的はそれだけだ。
 お前らも今は俺の矛先になってねぇだけだからな?」

まぁ、それはそうだ。
だが・・・
エクスポやバンビは変身解除の能力を扱える吟遊詩人を探せばいいだけだが、
ダニエルはどうする。
アレは・・・・人ではない。
エクスポはあえては聞かなかった。

「なら城内を目指すわけだね。ピルゲンは間違いなく城内だ」
「そうかい」
「願ったり叶ったり。ボクも城内にいかなきゃいけない。
 いろいろ城内に置き土産もあるしね・・・ってところなんだけど。
 残念かな。その前に内門の仲間を助けてあげないとね」
「俺はパス・・・・関係ねぇとこはダルい・・・・。
 最速の必要はねぇ。手助けのある楽な場面まで寝かせろ」
「僕は僕は!海賊王として!手下を引き連れないと」
「決まりだ。ボクとバンビはまず内門戦に参加する。しかし」

問題はその後。

「出来ればまた合流したい」
「『四x四神(フォース)』でか?」
「笑える呼び名だね」

炎 エン=ジェルン ダニエル
水 スイ=ジェルン バンビ
風 フウ=ジェルン エクスポ
雷 ライ=ジェルン ガブリエル

「内門を突破させなきゃ、仲間達が通過出来ない。
 でも、"ボク達"は違う。ボク達には・・・・・翼がある」

飛行能力がある。
自由自在の。
それは・・・・何も内門にとらわれなくていい。

「見えたよ。下が。もう落としてもいいかな?」

下。
バンビの霧がまだ残っていたせいか、よく見えなかったが、

「なるほど。すげぇ成果だ」
「オレンティーナはそれだけ夢中だったってことだろうね」

先ほどの無差別ホーリーフォースビーム。
その被害は甚大だった。
自分達の戦闘地域は、東の城側付近。
分かり難いと思うが、

内門付近と東軍の・・・・狭間そこの敵が崩壊している。

「自業自得だ。ピルゲンってやろうのな。人を狂わすっていうことはそういう事だ」
「人を狂わす・・・・か」

思えば、それはもう一箇所ある。
城内。
ロウマ=ハート。

オレンティーナと別に形で、意識が暴走している。

それが凶と出るかどうか。
現在は狂だ。
































「つってもビビったての。お前のジイさんねぇ」

「ジジぃって呼ばれるのは嫌ぇだ。年をとった気になる」

ジジイかどうかは俺が決める。
・・・・・と、クシャールは不機嫌に竜肉を頬張っていた。

「カッ、確かに言われてみれば似てっかな」
「でしょう。手と足が2本ずつあるところとか」
「それで似てるっつーんならまさに人類皆兄弟だな」
「でも顔は似てないですよね。僕は母さん似だから」

いや、
そうやって並んで肉食ってる姿がだ。
瓜二つだ。

「・・・・っても若ぇな」

「まだ50も半ばだからな。現役世代だ。だからジジィって言うんじゃねぇ」

「・・・・・俺の親父が生きてたらそんなもんだ。
 アレックス。てめぇの一家っつーのはあんまり教育がなってねぇみたいだな」
「僕をこの人と同じにしないでください。
 それにおじいちゃんはオーランドの血筋を捨ててます」

「そういう事。血は繋がってても家族じゃぁねぇ。分かってるじゃねぇか息子の息子」

ドジャーにしてみれば理解がし難い。
何故わざわざ家族と決別する。
それは・・・・
99番街というスラム街に生きた自分達からすると、
贅沢この上ない選択だ。

「でもこの賑わい方・・・・なんだ?」

ドジャーが辺りを見渡す。
戦場がにぎやかに?・・・・というよりは、
この周辺が賑やかにというべきか。

「ディエゴさんには非を認める強さがあるということですよ」
「あん?」
「全体を内門戦に切り替えてきたというわけです」

そう言われれば、戦況の変化もそう見える。
敵の部隊達が、
内門へと集結してきている。

「プライドの高い軍師なら、こんな単独突破は見逃します。
 やられたが、どうせすぐに朽ちる・・・・ってね」
「当の本人である俺もそう思うがね」

「不安要素を残すよりも、着実に確実に潰す・・・ってのを選択した。
 相手の軍師さんはな。・・・・ってぇことだろ?息子の息子」

「アレックスです。孫です」

クシャールはケタケタと笑っていた。

「つまり、ディエゴさんは僕に奇策の抜け道なんて与えてくれない・・・という事です。
 まったく・・・・ギャンブルをやらせてもらった方が勝率はわずかに高かったのに」

ディエゴはそれをさせてくれない。
アレックス達の単独突破。
それをさせた"負けを認めた"
負けを認めること。
非を認めること。

それが出来る人間ほどやっかいな人間はいない。
我が身を省みる者に隙は無い。

「・・・つーと?」
「奇策をかけて突破する道を潰されたんですよ。
 僕らだけで内門を突破するとか、隙を付くとかね。
 内門までは譲ってくれるから、後は自力で突破してみろってことです」

やれるもんなら・・・・。

立ちはだかるのは、
鉄壁のミラ率いる重装備の鎧騎士達。
そして聳え立つ内門。

「俺には関係ねぇけどな。俺はいつも独りだ」

巨大な斧を肩に担ぎ、
クシャールは肉を食いちぎった。
誰の援護も受けず、
誰にも邪魔はされず、
誰の指図も受けず、
そして、
誰にも迷惑はかけない。

自由を選んだアンチオーランド。

「逆を言えば、味方にも活路が見えたな」

振り返った先は、
敵が内門に押し寄せてくる姿・・・・だけではない。
味方もそれに乗じて内門へ雪崩れ込み易くなっている。

「それもディエゴさんの作戦の内でしょう。
 乱戦に持ち込むのは一興。実力では向こうが上なんですから。
 内門戦に持ち込んだのは個々の実力を出し易くするため」
「誤魔化し無しにガチの結果が出るわけか」

最善だ。
終焉戦争の一度。たった一度だけだ。
この内門が崩されたのは。

「正直・・・・策の付け入る隙の無い乱戦に持っていかれると・・・・」
「俺にはそこまで状況が悪化したのか実感はねぇが」
「最悪ですよ」

アレックスは苦虫を噛んだ様な表情。
どこか余裕を残すいつもの表情と比べると、
ドジャーには分からない、この状況の困難さが分かる。
だが、
ドジャーにも分かる事はある。
だからアレックスの肩に手をかけた。

「そりゃぁつまり、相手を追い詰めたって意味だろうが」
「・・・・・」
「何もしてなかったら内門にさえ辿り着けたかわからねぇ。
 それがこんな状況になったんだ。お前の奇策には意味があったんだ」

それは無理矢理にポジティブにとっただけの言葉かもしれない。
それでも、
救われる気分だ。
偽善も心地いい。


































「えぇーと・・・・なんだっけ!」

ツバメは群れる大軍の中で、声を張り上げる。

「姉御!」
「ブラボー(B)とチャーリー(C)でさぁ!」

「そう!C!のCの5〜8隊はさらに東に回りな!
 なんか知らないけど光が落ちてきたところは荒野になってる!
 お呼びだよ!罠だろうがなんだろうが知るもんか!Bは全隊真っ直ぐ!」

「姉御!」
「勇み足すぎでさぁ!」
「敵と混ざってる!」
「先頭のB-3と4が敵に挟まれて先細りになってやがる!」

「知るかい!今行かなきゃイツいくんだよ!」

ツバメの指揮はなかなかのものだった。
ここまで大軍を指揮出来るのは、
反乱軍でも二人だけだろう。

ツバメは多少強引だが、それが逆に幸を奏していた。
今逃げ腰になる必要はない。
オレンティーナの自被害による隙を、一切逃していない。

「出来る限り東に迂回しなっ!光の柱の落ちた隙間にまた敵が埋まるよ!
 西は最西端の城壁まで制圧してる!フレア嬢に負けてられないでしょ!」

「東の端は敵がうじゃうじゃいやすぜ!」
「内門を目指すなら最短で直進したらどうです!?」

「相手に楽を与えるんじゃないよ!内門が閉じてるってことは、
 "相手にも増援の余地はない"ってことだよ!
 むしろ内門方面に押し込むんだ!袋の鼠にしちゃいな!」

そう。
強引さはあるが的確だ。
攻城慣れもあるだろう。
15ギルドの中でもトップ3のギルド。
《昇竜会》の幹部として慣らした経験は無意味でない。

「52!」
「52だ!抜けられない!」

「チィ・・・Bの1と7・8・9!西南方面に敗走!
 出来るならそのまま52を釣るんだよ!庭園中央に集めてしまいな!
 敵は内へ!味方は外へ!東から丸め込むんだ!」

「姉御!!」
「魔物だ!」
「デムピアス海賊団の戦地が見えた!」

「突っ込めっ!!合流しなっ!見えた奴から走れ!途切るな!」

























「アルファの22隊以降の連絡が来てないです。どうなってますか?」

西。
フレアは着実に、
急ぎすぎず、西を制圧しながら広く進軍する。
ツバメとは対照的だ。

「すぐに調べます・・・あ、どうなってる!」
「フレア様」
「A-22及び25〜30!誘導にかかってます!」

「・・・・イロヒね」

見えなくても状況を把握出来る。
視野が広い。

「アピールに一度かかったらすぐに撤退させてください。追わせると相手の思う壺です」

「代わりに、相手囮部隊周辺はどうします」
「部隊長トリサイクル=銀(AG)は健在です」

「孤立させてください。アピールを扱う囮部隊にはそれが最善です。
 むしろあの部隊の配備はデムピアス海賊団前方です。
 もう少し乱戦になればむしろ囲まれる形になるでしょう」

フレアが指揮するのは、
アレックスが率いていた本隊・・・アルファ(Aチーム)だけだが、
数にすればツバメの率いているBとCよりも格段に多い。
それを全て卒なくこなすのは、
彼女の冷静さがあってのなせる技だろう。

「むしろデムピアス海賊団の戦地は避けて通る事です。
 見えるでしょう?デムピアスの規模・・・巻き込まれます。
 それに絶騎将軍の燻(XO)がいます。中央は絶対に避けること」

「東が中央に向かってるとの事ですよ?」
「東のB隊先頭が先ほどデムピアス海賊団戦地に合流しました」

「あらら・・・ツバメさんったら。すぐにツバメさんに伝えてください。
 こちらと合流したい意志はあるでしょうが、まだ危険です。
 合流するならばその先。内門前でと即急に」

「はっ!」
「フレアさん!」
「A−43隊!効果ありました!」
「ディテクションの包囲網にヒット」
「伏兵部隊とステルス部隊の残党!本当に居ました!」

フレアはニコリと笑う。

「数は」

「30にも満たしていません」

「ハヤテ=シップゥ及びリンコリン=パルク部隊長両名不在の隊。
 姿を荒らせばただの少数伏兵です。恐れずに潰してください」

「敗走の摩訶部隊が内門の防衛部隊と合流した模様!」
「200も残ってはいないはずですが」

「部隊長のマリリン=マリリンさんの姿は?」

「見えません」
「隠れているとも思えません」
「情報屋からは同士討ちにて消えたと報告が」

「味方に?向こうにもジョーカーがいるようですね」

同じ魔術師として、
彼女とは決着をつけたかったけども・・・
そう思うフレアだが、そんな私情には振り回されない。

「摩訶部隊はそのままあえて合流させておいてください。
 させて得はありませんが、深追いするとこちらが損です」

「はい」

「むしろ魔術師の部隊というなら、後衛魔術部隊の残党が気がかりです。
 五天王ポルティーボ=Dを失ったといっても最大の魔術部隊です。
 名の通り、内門守備が本職の部隊のはずだけど・・・・」

彼らの所在がつかめて居ない。
情報屋に任せるしかない。

「犠牲部隊残党の陣形付近が攻めあぐねていますが」

「焦らないでください。そこは時間との勝負です。
 アレックスさん達が部隊長クラスをかなり削ってくれたお陰。
 頭無き部隊はどれも大きな動きはとれないはずです」

だが数が数だ。
52も少なからず居る。
東に集中している分、ツバメの方に苦労をかけてはいるが。

「居ました!」
「第27番・鼓舞部隊です!」
「部隊長アバ=キスの姿もあり!」

「場所は」

「既に内門付近に布陣が完了してる模様」
「申し訳ない。こうなる前にとの話でしたが」

「相手の方が上手だったというだけ。内門に近づき次第最優先で狙うように。
 あの部隊は補助の部隊。相手がさらに屈強になってしまいます」

さて、
どうするか。
命令ばかりで暇がないが、
そろそろメテオの詠唱に入らなければ。
自分のメテオは、
自惚れでなく、内門突破に不可欠だ。

「・・・・・今度は・・・・外すわけにはいかないから」

「ぐわっ!」
「奇襲だ!近い!」
「遊撃!第17番・遊撃部隊!」

「こちらのこんな深いところまで・・・本当に向こうは乱戦がお望みのよう」

「やっかいです!分散しています!」
「隊を遊撃部隊討伐に割きますか!?」

「それこそ相手の思う壺です!確実に確固撃破!進軍の型は崩さないで!
 遊撃部隊はストリートバッカー部隊長の引退で命令系統がまだ出来てないはずです!」

忙しい。
でもそれは役に立っているということでもある・・・かな。

「メテオの詠唱は合流してからになりそうですね」











































-ルアス城内 内門裏側-





「オラッ!オラッ!オウゥルァ!」

アロハシャツを着た男が、
弾く音と共に声を漏らす。

「このボケっ!こらボケッ!死ねボケッ!」

右手を銃に見立て、
打ち出す空気の塊。
銃弾。

撃つ。
撃つ。
打ち鳴らす。

「ジャイヤの兄貴」
「何やってんスか?」

周りのヤクザ達が恐る恐る聞く。

「ぁぁーーー?」

コーンロウのチンピラが、
顔をへしゃげて振り向きガンを飛ばす。

「決まってんだろボケがっ!脳ミソつまってんのか!?あ!?」

ドスの利いた声と共に、
ジャイヤはソレを蹴っとばした。

「内門ぶっ壊すんじゃいっ!!!!」

内門の裏側で、
威勢のいい声を鳴り響いた。

「・・・・・」
「内門を・・・ッスか?」
「ジャイヤの兄貴だけで?」

「・・・・なら手伝えよ。あ!!?ボケか!!!つったって見てるだけかテメェらは!
 ボケッ!このボケッ!カカシはてめぇらは!」

ジャイヤはもう一度、その南国なサンダルで内門を蹴飛ばした。
内門はビクともしない。
揺れもしない。
とても立て付けがいい。

「兄貴ぃー」
「無理だって」
「この門見てくだせぇよ」
「象が30匹居たって傷もつかんですよ」

「んーなら50匹つれてこいやボケッ!!!」

「どこからッスか」

「んなもん・・・・・この門開けて外から連れてこればいいだろが!!!」

誰も返事はしなかった。
答える言葉はない。
当の本人は必死だ。

「いーーかテメェラ!テメェらっていうかボケら!!
 城内に侵入してんのは俺と、ツヴァイって女と!そしてエケポポってやつだけだ!」

「エクスポッス」

「エクスポってやつだけだ!」

「そいつはさっき場外に出たって報告がありました」

「言えよ馬鹿!ボケっ!あぁもう!そんなポポい奴はどうでもいいんだよボケ!
 とにかく!つまり俺達の役目はなんだ!決まってんだろ!中からなんかすんだよ!!」

なんか。

「ボヤボヤしてっと内門突破戦が始まっちまうだろ!?だろ!?な!?ボケッ!
 そん時に役に立たないでツバメのボケにどんなツラ見せればいいんだ!?あ?!
 だから俺達はこの扉を潰す!壊す!中から畳む!しまう!片付けるっ!イエス!」

ジャイヤは指をまた突き出し、
空気の銃弾を打ち込む。
その威力は折り紙付きだが、何せ銃弾だ。

銃弾と内門を比べると巨人と蟻だ。
ビクともしない。

「ほれボケッ!ボケボケしてても時間の無駄だ!やるぞテメェら!」

この場合、
どの行動が時間の無駄なのか小一時間問い詰めたい。

「あぁーーもぉ!開かないし空かない!なんだこのデケェドアはよぉ!
 ドアノブとかねぇのかよ!開けよ!開かねぇとぶっ壊しちまうぞボケ!」

なら早く壊してくれ。

「なんなんだよっ!合言葉でもあんのか!?」

あるわけが無い。
合言葉ってなんだ。
まさか言わないよな。

「開けゴマ!」

言いやがった。

「開けよボケッ!」

とうとうタックルを始めた。
痛そうだ。

「ジャイヤの兄貴」
「思ったんですが、」
「この扉、騎士らも力付くで開閉してるとは考え難いッス」
「つまり開閉出来る装置でもあんじゃないスかね」

「安易な考えもってんじゃねぇボケ!」

いやあるだろ。
というか力で開閉するって考えの方が難解だ。
理解が。

まぁ事実あるわけだが、それはユベン達の会話の中でもあった。
開閉権のある兵は少ない。
それは大概外に居る。
事実上、装置での開閉は不可能だ。

「・・・・・・・・」

ジャイヤは急におとなしくなった。
諦めたか?と黒服達が思った矢先。

「俺、頭いいかもしれんな」

頭の悪そうな事を言い出す。

「何がッスか」
「そのヘアースタイルっすか?」

「それは当然だボケ!これは俺の極道のソウルだボケ!!
 リュウの叔父貴も「ん?まぁいいんじゃないか?」と言ってくれた髪型だ!
 俺が言ってんのはつまり、閃いたってことだ!」

とりあえず聞いてみよう。
期待せずに。

「こんだけ力付くでも無理ってことは・・・・」

ジャイヤはおもむろに、両手を広げた。

「こう、左右に開く扉なんじゃねぇか?障子みてぇに」

駄目だこの人。
駄目だ。
どこに冊子がある。
察しろ。
それにそういう扉だったらなんだっていうんだ。

「・・・・・・むぅーーーん!」

ジャイヤはとにかく扉をあっちこっちいじくった。
もちろん、
どうにかなる扉ではない。
内門だ。
城の。
巨人が居ても開くのは困難な鉄壁の扉だ。
世界一の開かずの扉。
それが、いち人間の力でどうにかなるもんではない。

「ふぅ・・・・」

そしてやっとジャイヤは落ち着いた。
落ち着き、
振り向き、
部下のヤクザ達に叫ぶ。

「やってられるかボケぇ!!!やってられるかってんだボケ!
 時間の無駄だクソが!いくぞテメェら!こんなとこに居る意味ねぇ!
 こんなとこで油売ってるヒマあったら一匹でも多く敵を・・・・」

「よーしお前ら」
「兄貴がやっと気が変わってくれたぞー」
「休憩終り。はい!はい!立て立てー」
「おーい。この空き時間に方針決めたやつー」
「あいあーい。俺ら」
「この辺の戦闘跡見た感じ東はヤバめだな」
「城内マップ3回見尽くしちしまったよ。あんな、そこを・・・・」

ゾロゾロとダラダラと行軍が始まる。

「・・・・よーし!俺に続けぇー!!!」

最後尾でジャイヤが叫ぶ。

「あ、兄貴。そっちじゃないッス」
「こっちッス。こっち」

「そっちか。おーし!いくぞテメェラ!俺の進む道に続けぇー!」

「あーちゃうッスちゃうッス。こっちこっち」
「俺らに付いて来てくだせぇ」

「あぁそっちか。おーし!俺に続けコラァ!!!」


































「これでとりあえず黒魔術部隊はあらかたかな」

氷漬けの氷塊。
それらが砕け散った無残な残骸の跡地に、
ロッキーとメリーは居た。

「このまま真っ直ぐ進軍!それでそのまま他の隊と合流できると思うよ。
 合流した者から指揮権はツバメって人に移るからね!
 C隊!ぼくの最後の指揮だから真面目に進軍してね!」

全体が分かりやすく流れるように走る。
ここからでも内門付近・・・・否、全体の活発化は分かる。

「ぼくらも行こう。乗り遅れないようにね」

メリーがうんうんと何度も頷く。
ロッキーはカプハンジェットの使用を控えた。
まだC隊は自分の指揮下。
それを見届けるまでは我慢だ。

「それで情報屋さん」

近くには、ウォーキートォーキーズの一員。
そのトレカベストの一人が居た。

「さっきの情報は本当なんだね」

ロッキーはマフラーを巻き直す。
父親のマフラー。
カプリコのマフラー。
無くさないように。

「イエス。ウォキトォキ。後ろをとられてるぜい」

前後に分かりやすく分かれていた、騎士団と反乱軍。
いつの間に後ろをとられていたのかといえば、
どうやら片方は城外に待機していた部隊らしい。

「西軍の背後にはカニエ=ウエスタン率いる第40番・追撃部隊。
 ま、こっちはA隊が半壊させてはいるが、うまいこと後ろをとられた。
 先ほどフレア=リングラブにも報告済みだ」

半壊してでも後ろをとる陣形の取り方。
相手はどうしても乱戦に持ち込みたいらしい。
いや、
そういう意味では既にという意味か。

「そして東。東はオジロザウルス部隊長率いる第41番・騎土竜部隊。
 数分前に外門を抜け、こちらに迫っているって話だぜい」

「数分前ってことは東が挟まれるまではまだ時間がありそうだね」

その間に出来るだけ距離を稼がないと。
乱戦にされるならば、
内門近くに陣取ってからの方が被害が少ない。

「そうでもないんだがねぇ」

「ふーん。まぁいいや。ありがとう」

「イッツァウォキトォキ!」

情報屋が去る。
去る姿を見てから、もうちょっと話を詳しく聞いておくべきだったと思った。
全然部隊について知らない。

「騎土竜隊かぁ。騎馬隊だろうなぁ。土竜・・・もぐら・・・・」

それよりも行軍だ。
もうすぐ東の軍も全てまた一つになる。
ツバメに全権を任せた方が混乱は少ない。
その上で自分が必要ならそれだけを率いよう。

メリーが「早くいこう早くいこう」と言っていた。
言葉はないが、
ロッキーには聞こえる。

「そうだね。よーし!皆!進軍速度を上げ・・・・わっと!」

ずっこけそうになった。
後ろから何かぶつかっていった。

「ってて・・・なんだよぉ」

「うぉ!?ロッキー!」

そのドレッドヘアーはロッキーに気付き、
通り過ぎた所でブレーキをかけた。

「おいおいまだこんなところに居たのかノロマ!」

「後ろから来たメッツに言われたくないよ」

「おい何してんだメッ・・・・・うぉ!?メリー!ここに居たのか!?
 っつーか何してんだお前!お前が他人に懐くたぁ珍しいじゃねぇか!
 でも大概にしとけよ。こいつらは敵じゃなくても味方じゃねぇんだからな」

メリーは声を出せずとも、
我が身を見直せとエースに伝えたそうだった。

「んー♪この狼坊やは改めてみると可愛い子ちゃんだねぇ♪
 っておぉう。そっちのゴスい可愛い子ちゃんも好みじゃねぇか」

メッツはエースとエドガイと一緒だ。
3人して慌てていたようにも見えたが。

「メッツー。せっかく合流したんだから一緒に内門いこーよ」

「ガハハ!ピクニック気分か?てめぇはのん気なもんだぜ」
「のん気なのはテメェだメッツ!早くしろ!走るぞ」
「そーそー。そういう事だねぇ」

「何なにー?」

「後ろを見てみな、モンスター可愛い子ちゃん」

ロッキーとメリーは後ろを振り向いた。
振り向いたが・・・・

特に何も変わった景色ではない。
情報屋の言っていた騎土竜部隊もまだ迫って居ないようだ。

・・・・。
ん?
騎土竜部隊?

そう思っていると、
地面が数箇所、
ボコ・・・ボコボコ・・・・と盛り上がった。


「キキキキキキキキキ!危機イッパァーーーーーッツ!!!」


地面から、
黒い塊が盛りだくさんと飛び出してきた。
水面から飛び出すイルカのように、
黒い・・・それは・・・

「じ・・・・・Gキキの騎馬隊!?」

ジャイアントキキに搭乗した騎士達が、
土の中からお出ましだ。

「キッキーーー!!」
「轢っくぜい!」
「轢っくぜい!」
「超轢っくぜい!!」
「キッキー!!」
「「「「「危っ機ーーーーー!!」」」」」

「わわわ!」

ロッキーとメリーも慌てて走り出した。
気付けばメッツもエースもエドガイも、
前を走ってる。

「ななな何あの部隊!」

「ガハハ!ロッキーてめぇGキキも知らねぇのか?」

「知ってるよー!アレックスが乗ってたよー!」

「そのアレックス=オーランドが乗ってる奴がプロトタイプ。
 その末があの部隊ってわけだオチビちゃん」
「騎士団最速の騎馬隊だ」

最速。
振り返ってみれば、先ほど見えた所よりかなり迫っている。
早い。
速い。
地上最速生物Gキキ。
その騎馬隊。

「・・・・・っ・・・・・っ・・・・・」

メリーが苦しそうに速度を落としていた。
彼女の体力じゃぁ走るのは辛いらしい。
ロッキーはメリーを肩に担ぎ、
ハンマーと女の子を担いで走った。

「あんなのズルッコだよー!」

「ガハハ!そう思うなら走れ走れ!」
「って・・・何かねぇ。あの先頭のGキキ」

エドガイがバック走しながら気楽に言う。

「何がだ・・・・ってうぉ!!!なんじゃありゃ!気持ち悪っ!
 なんだよあのGキキ!2mくらいあんぞ!?」
「あれに乗ってるのが部隊長のオジロザウルスだ」
「Gキキは可愛いが、可愛い子ちゃんとは言い難いねぇ」

「疲れるーーーーー!メッツおんぶーー!」

「どわっ!ロッキー乗るな!ってこらオメェコラ!
 人担いでるのに俺に乗っかるってどんなだおい!」
「メッツ〜〜〜俺ちゃんもオンブ〜」
「俺も〜〜」
「帰れ!オハギに轢かれろ!!!ペラペラにダイエットしてから言え!」

と言いつつ人のいいメッツは、
ロッキーとメリーとカプハンと、
片方だけで数十キロある斧を担いで走った。

「メッツの頭とマリナの胸は落ち着くよねー」

「うっせぇ!ロッキー!燃料が足りねぇ!タバコ咥えさせろ!」

「はーい。これでいい?」

「おう!はい着火!」

「はーい」

「カハッ!ゲホゲホッ!!俄然元気でたぞコラァァアアア!!!!」


デムピアス海賊団の戦地が見えた。

そして、
そのさらに向こうには内門が見える。


































「アレックスぶたいちょ!」

背後から多くの者の足音。
エールを始め、
医療部隊の仲間達だ。

「おいアレックス。エール達も来たぜ」
「そうみたいですね」
「なんだなんだ?息子の息子。てめぇの部下なのかあれ」

活発になってきているが、
それでもまだ、
この内門前最奥まで来たのはアレックス、ドジャー、クシャール。
そして2番乗りでこのエール達だけだ。

「お、遅れましたです」

「少し減りましたか?」

「途中に車椅子の男にやられたです。5名ほどですが・・・・
 禁呪ダークパワーホールを使うようで、医療部隊といえど、
 治療の機会さえ与えてくれずといったカンヒで・・・噛みました」

「しゃぁねぇよ。むしろ絶騎将軍の傍らを抜けてその犠牲はいい方だ」

クシャールは笑っていた。
まるで、「それでも犠牲は犠牲だろ?」とでも言わんばかりだった。

「これが内門の警備兵達ですね。医療部隊構え!」

死骸の彼女達に疲労という概念はなく、
到着と同時にエールは号令をかけた。

「相手は死骸です!エールさん達の敵じゃないです!撃てっ!!」

一斉に白魔術を放射する。
それは立ち並ぶ鎧兵達へと放たれる。

アレックスはやれやれと顔を手で覆って首を振った。

「あ・・・あれ・・・効いてない・・・・」

「僕の副部隊長ならもうちょっと冷静になってください。
 相手は騎士団の仲間。知らないわけじゃないでしょう?
 彼らの厚い鎧の内側まで呪文は届きません」

ヒールだけではない。
パージだって届かないだろう。
もちろん、
攻撃だって・・・・。

「っしゃぁ」

クシャールは斧を担ぎなおす。
改めてデカい斧だ。
有り得ない大きさだ。
ロウマの槍を思い出す。

「騒がしいのは好きじゃねぇ。他人と決別するための人生だからな。
 だから決めた。俺が決めた。俺はそろそろ行くぜ」

クシャールはそう言って内門へ視線を見定めた。

「やれるのか?」

「やれんことはやらん」

白と黒のメッシュヘアーの初老は、
そう言いながらステップ混じりに斧を振りかぶった。
4mを越える巨斧。

確かに、
現状このクシャールに任せる以外突破口はない。

「おぉーーーっらっ!」

そしてそのまま斧を振り切った。
地面が動いてるかと錯覚するほどの光景だった。
敵・・・
鎧の重装騎士達は動きもしない。
黙って盾を構えているだけ。

そこへ・・・・・巨斧"竜斬り包丁"は突き刺さった。

「・・・・・っとぉ」

誰にも止められない超重量の斧の一撃。
一撃だが、
それは止まった。

「・・・・・っ堅ぇ!!!」

3体ほどの重装騎士を半壊させながら潰した。
潰したが、
それ以上斧は進まなかった。

明らかに、この戦場において武器攻撃での最大攻撃だろう。
最大火力だ。
これ以上の物理攻撃はない。
だが、
それでさえ、重装鎧騎士を3体と破壊できない。
その3体でさえ、
半壊しながらもまだ立ったままだ。

本当に生物が入っているのか心配になるほどに、
重々しく、静かにただ立ち並んでいる。

それが・・・・・
何百と立ち並んでいる・・・・・。

「アレックス・・・・こりゃヤベェんじゃねぇのか?」
「ですね。正直期待してたんですが、これでもこの程度なら、
 それこそここを突破出来る術が思いつきません」
「これで駄目ならメッツでもロッキーでも駄目だろうよ」

沈黙と共に立ち並ぶ鎧達。
中央には一際大きい甲冑。
『鉄壁(AC漬けの)』ミラ。

「んーならよぉ!!!」

クシャールは斧を振りかぶった。
岩石でも置かなければ割に合わないスイカ割り。
小さな家なら両断するだろう規模。

「これでどうだってんだっ!!!!」

クシャールはその竜斬り包丁をオモクソに叩き付けた。
先ほどの3体にさらに・・・・。

直撃と共に、
地面が砕ける音。
地面が飛び散る。
轟音。

さらに衝撃波。
それがかっ飛んだ。

パワーセイバーならぬ・・・・パワーアックス。

「必殺っ!!!・・・・・とか言いたくねぇんだけどよぉ」

最前列の3体の鎧の破片が飛び散った。
砕け散って飛び散った。
さらに縦に衝撃波が伸びる。

重装騎士を両断しながら、破片をバラ撒きながら、
パワーアックスが突き進む。

「・・・・・・・・・こいつはツレェな」

その衝撃波も、敵を騎士を10体掻き分けたところで消え去った。
10体掻き分けた・・・・といっても、
浄化された光は5つほど。
砕けながらも、鎧騎士達は立ったままだ。

「今の成果が反乱軍の最大火力と思ってください」
「・・・・こりゃ・・・・無理なんじゃねぇのか?」

そう思わせるほどの鉄壁。
絶対の鉄壁。
これが・・・・内門守備。
ディエゴが一歩譲って内門戦に持ち込んだ意味。
確実。
確実なる鉄壁。

「うっせぇガキ共!誰が無理って決めた!決めた奴には無理なんだよ!
 俺はこのまま掘り進むぞ!城内でロウマをぶちのめさなきゃいけねぇからなぁ!!!」

クシャールがさらに斧を振りかぶったところで、

「アレックスぶたいちょ!!」

エールが叫んだ。

「上です!!!」

指をさした。
皆つられて上を見た。
上?
内門という行き止まりで上?
そう思った矢先。

「おいおい!聞いてねぇぞ!」
「・・・・・僕も思考の外でした」

ルアス城の窓。
窓枠。
そこに・・・・・・・・魔術師が立ち並んでいた。

城の空気道を塞いでしまっているかというほどに。

「散って!散ってください!」
「わわっと!!!」

城からの砲撃。
魔術。
それが燦燦と降り注いだ。

「だだっ!なんじゃこりゃ雨かよっ!!」
「避けてください!」
「どこにだよっ!・・・・痛っ!カスった!!」

降り注ぐ魔法。
避け場もない。
重装兵達が痒くもないといった表情で(表情など見えないが)居る中、
医療部隊がまた2名ほど光となって昇華していった。

魔法の雨が降り止む。

「次弾来るぞ!」
「なんなんだよあれ!」
「・・・・後衛魔術部隊・・・・・ポルティーボさんの残兵ですね。あそこに配置してたとは」
「あんなベストポジションあんなら先に考えとけよ!」

いや・・・・。
アレックスは考えもしなかった。

「・・・・恐らくこの配備はディエゴさんの思惑じゃないです」
「なんでだ!」
「城壁に兵を配備するという事は、こちらの応戦が"城壁に向かう"ということです。
 普段の騎士団ならしない。しません。そんな後先考えない陣形なんて・・・」

でもしてきた。

「城さえどうなってもいいという考えなんでしょう。
 全て・・・・全ては使い捨てだと考えているんです」

帝王・・・アインハルト=ディアモンド=ハークスは。

やはり、この先の未来など考えていない。
この先の世界など。
世界など消耗品の遊び。
この戦争で消えてなくなるなら、別にソレでいい。

「おい息子の息子!次弾来るぞ!」
「アレックスぶたいちょ!どうするですか!」

どうする?
そんな事を言われたって・・・・だ。
このまま内門前に居たら、城壁窓の魔術師の格好の餌食だ。
ボーナスステージさながらの標的だ。
だからといって・・・・退いてどうする。
ここまで来て。
ここまで来たのに。

「ディエゴさん・・・・使えというならと云わんばかりに徹底的に追い詰めてきましたね・・・・」

どうする。

「どうすんだよ!」
「アレックスぶたいちょ!」

未来は・・・どこに向かえば手に入る。
ボヤボヤしていられない。
だからって下がれない。
進めもしない。
未来への道は・・・。

「くっ・・・・」

そう少し迷ったあげく・・・。
城壁の窓枠の魔術師達は、一斉に魔法を・・・・・・


「アーーーーハッハーーー!!!」


その城壁の各処が、突然爆発した。
連撃のように連爆。
戦車から砲弾でも飛んできたかのように。

その爆発の主は、
空中を2・3回羽根を撒き散らしながら旋回し、
アレックス達の上空で停止した。

「イッツ!ビューーティホー!芸術とはこの事だね!!」

芸術家の神は、空中で指を立てて自慢げだった。

「モントールさん!!」

「なんで!?なんでだいアレックス君!?何故この場面であえて姓で呼ぶ!
 せっかく出会えた美しき再会なのに!?ボクらってそんな遠縁な仲だっけ!?」

「エクスポ・・・・さん?」

「疑問系!なんで!?このボクの顔を忘れてしまったのかい!?」

ガクンと得意気だったエクスポの生気が落ちる。
まぁそれらは茶番でも、
事実久しぶりに向き合ったエクスポの外見は変わっている。
フウ=ジェルンとして。
神の姿として。

「エクスポ!いろいろ言いてぇ事はあるが説教は後だ!城壁の魔術師共は頼んだぞ!」

「お安い御用だよドジャー。生憎ボクは綺麗好きでね」

エクスポは得意気に空中をグルングルンと旋回し、
羽根を撒き散らしながら城壁の敵の迎撃に向かった。

そして代わりに、


「アッちゃああああああああああああああん!!!!!」


炎が落下した。

「ここに居たぁああああ!!!」

天空より舞い降りし炎は、そのまま地面と衝突し、
爆炎を舞い上げた。
飛び散る火の粉ならぬ炎の粉の中から、
放火魔が嬉しそうな顔を出す。

「ダニー!」

「そう!ダニー!俺ってばダニー!アッちゃんと世界の皆が愛するダニエルだよぉおおーーん!
 今のダニーは超御機嫌!消化不良の不機嫌のせいでチョーゴキゲン!
 ガソリンタンクは満タン!堪忍袋は燃え尽きた!なんか楽しいことはなぁーーい?♪」

「ダニエル!調度いいところに来た!今からこの・・・・」

「てめぇには聞いてねぇよドジャっち」

「・・・・・・・」
「ダニー!いいところに来ました!特に注文はありません!好き放題暴れてください!」

「わぁーーかったよぉおおお!マイラバーアッちゃぁぁぁああああああん!!!」

エクスポとは違い、
火の粉を振りまきながらダニエルは飛び立ち、
そして火炎を撒き散らした。

「アレックスぶたいちょ!西・東・南より敵切腹中で・・・・噛みました!
 接近中です!共に反乱軍も混ざってますですよ!」

「分かりました。僕の部下は出来るだけ四方に散って援護してください。
 出来るだけ味方への道の助力をお願いします。1人でも多くここに通してください!」
「アレックス!飛んでる奴がいるぞ!」

エクスポの事でもない。
ダニエルの事でもない。
敵だ。
翼で空を飛ぶ乙女達。
それが内門の周辺に集まり出した。

「乙女(アマゾネス)部隊の残党みてぇだな!」
「彼女らは僕らじゃどうしようもありません!エクスポさんとダニーに任せましょう!
 フレアさんの《メイジプール》も近づき次第撃墜を要請します!」

「52!」
「52ですアレックス部隊長!」

「ドジャーさん!」
「OK」

ドジャーは地面にダガーを突き刺す。
アレックスが魔方陣を展開し、

「出来るだけ片付けとくぜ」

ドジャーは蒼炎を纏ったオーラダガーを引き抜く。
そしてどこへともなく飛び出した。

「ショータイムだ!」
「・・・・くっ・・・持ちこたえられるかな。おじいちゃん!」

「うっせぇ!指図すんな!俺の事は俺が決める!」

クシャールは他の者とは逆方向。
あくまでマイペースかつ自分の目的のために、
重装騎士へと三度斧を振り落とした。

「ありがたいですね。3割ほどの敵の応援はデムピアスさんの討伐に向かってる」

振り向けば、
ここまで影になるほどに大きな魔物の王。
デムピアスが暴れている。
彼が燻(XO)も倒してくれれば文句無しだが・・・
そう簡単にもいかないだろう。
兵の流す事も考えなくてはいけないか・・・・

「アレックス!」
「お早いお帰りで」
「怪我したっ!回復してくれ!」
「どんだけ消耗早いんですか」
「うっせ!代わりに5体倒したぜ!だがさすが52だ。一匹一匹が強ぇ。
 応援の奴らを押し返そうと思っても押されるばっかだ!万全を尽くしてぇ!」

ドジャーにヒールをかける。
かけている間に、
ドジャーはブリズを自分にかけていた。

「・・・・っと。バレバレなんだよ!!」

さらにドジャーはディテクションを発動した。
目の前に現れた仮面の男。
52。
そいつにダガーを突き刺し、昇華させた。

「・・・・ったく。アレックス!おいアレックス!」
「なんですか!」

後ろから押し迫ってくる相手にパージを唱えるアレックス。
その背中に背中を合わせるようにドジャーがぶつかる。
背中越しに叫ぶ。

「いけるよな!?」
「はい?」
「いけるよなって聞いてんだ!」

・・・・・いけるか。

どうやったって・・・どうしようもない。
そんな状況。

だけど、そんなものはずっとだ。
この戦争が始まって・・・・ずっとだ。

それがさらに厳しくなって、
厳しくなって、

・・・絶望にまで達した。

でも、

それだけ。
それだけだ。

なんてことはない。

「当然です」
「おっしゃぁ!!!」

そして、
そこに・・・・
ここに。


「・・・・・・・・・だ・・・・・り・・・・・・」


天使が落ちてきた。
アレックスとドジャーの目の前に。

「・・・・あ?」
「ガブちゃんさん!」

落ちてきたガブリエルは・・・・・・・・負傷していた。

白い翼が赤く湿っていた。
アレックスはすぐさま治療に入る。
近場の医療部隊も数人呼びつける。

「・・・・浅くない。でも致命傷でもない。どうにかなります」
「おいガブリエル!なんだってんだ!」

「・・・・・面倒クセェ・・・・・ズルはさせてくれねぇってよ・・・・・」

苦笑するガブリエル。
横たわるガブリエルの視線の先は・・・・遥か上。

城。
その上も上。

テラス。

そこに、黒い剣が待っていた。
漆黒の紳士が、そこに居た。


「さてさて、戦場もよい塩梅になったようでございますね。
 実に心地よい。感情が入り乱れ、染まって消えていく様はさも美しい」


大きくもない声なのに、
その冷酷な声は何故かよく耳に響いた。
遠いここまで。

「今この時、これも命の奪い合いの一つの丑三つ時でございましょう。
 命が消え、また命が消え、さらに消え、止まる事のない蝋燭の火。
 殺し合いの連鎖の中、螺旋から滑り落ちる命はいくつになるか」

紳士の言葉は嬉しそうで、
とてもカンに障った。

「さて、ツヴァイ=スペーディア=ハークスの次に消える炎はどれでございましょうね」


戦場は、加速した。

部隊は内門。
大いなる門。












                 






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