-ルアス城内 地下-

「今の、芸術家さんじゃねぇか?」

ウサギの耳は触覚のように反応した。
クッチャクチャと噛むガムは止めず、
遠くの通路を走っていくエクスポの姿を眺めた。

「なんかから逃げてるようにも見えるけど」

特に追跡者の姿は無い。

「イミフだにゃ」

口いっぱいにガムを頬張りながら、
シドは首を傾げた。

「ってか背中から羽みたいなの生えてたけど」

シドは自分のウサギの耳を触りながら、

「いいセンスじゃん。僕は凄くいいと思うぜ!バリサイコーだよ!
 世界はラブとキュート!ラブ&ピース!そしてハッピーとディアフレェ〜ンド!」

何やらお気に召したようだ。
ウサ耳ファンシー殺人鬼には、
なかなかに興味のそそるアイテムだったのだろう。

「まぁディアフレンドには追いつけないだろうな。一回放っておこ。
 だぁーいじなのは、一階への道とぉー、あと・・・・この"空気"だな」

空気。
正しくは空気の主。
殺気の主とでも・・・。

「イッヒヒ」

その空気こそ、
エクスポが逃走した理由に違いなかったのだが、

「僕も殺人鬼として自覚しちゃったってわけだな。恨むぜディアフレンド芸術家さん。
 この空気の主。すっげぇピリカラくるぜ。僕と同じ空気だ」

口で、
一度フーセンを膨らました。

「・・・・うん。殺し屋とか、戦争屋とか、兵隊・・・ましてや騎士団とかゆーのじゃない。
 僕がシシドウからも嫌われるのはつまり、標的を狙わないからだ」

つまり、殺人鬼の空気だぜ。

狙った獲物は逃がさないから、
殺し屋。
なら、
それが無差別だったら・・・・
それは殺人鬼。

「僕はそーいうもんなんだって、芸術家さんに自覚させられちゃったけどな。
 やっぱり殺し自体は好きになれねぇ。だってライクもハッピーもなぁーいからね!
 キラーなんて嫌〜い!なんちゃって。だけど、だけどさぁ」

この空気の主。

「同じ人間・・・じゃないか。同じ鬼なら。・・・・・フレンドになれるかもしんない」

同じ、
無差別な殺人者なら・・・理解し合えるかもしれない。

「ダレデモコロシテヤルって感覚が溢れてるよ。未来のディアフレンド」

矛盾でいっぱいの、友。

「ちょっと挨拶にいってみっかな」

吐き捨てたガムは、味気無かった。
そして、

「マーダー(殺人鬼)。Mをとらなきゃ他人じゃないしね」

頭が少し悪い。
























「おい!おいお前!君!止まれ!」

無我夢中で走っていたから、
それで我に帰った。

「・・・・くっ・・・」

エクスポは、ロウマ=ハートの脅威でそれどころじゃなかったが、
気付けば、
こんな敵陣で見つかったらしい。

「ボクとしたことが・・・だね」

あまりに情けないことだ。
恐れる余り、敵に見つかるなんて。

「美しくなかった。ボクは哀しい。自らの汚点を露出するなんて。
 無我夢中の姿は時に美しいけど、見苦しかったな。・・・・さてどうしようかな」

エクスポは手の平の上で、
風を渦巻かせた。

「どうしようか。決まってるさ。見られたからには・・・・・
 嗚呼・・・美しくない。ただボクはこれからきっと美しくこの場を乗り切っていくんだろうな」

「お前エクスポだろ?」

エクスポを索敵した者は、
名を呼んだ。

「エクスポ。モントール=エクスポ。そうだろ?やぁ、久しぶりじゃないか」

その男は攻撃してくるのでなく、
笑顔で挨拶してきた。

「こんなところでハモるなんて。いいメロディーだよ」

見覚えがあった。

「・・・・・ミヤヴィ・・・だったか」

エクスポは発生させた風を一度解いた。
警戒は解かないまま。

「あぁそうさ。ノカン村での摩訶戦争以来だね」

一度面識がある。
ノカン将軍率いる帝国の魔物軍団。
それと対した時、
戦場で出会った。

「確かに久方の再会だね。偶然というのは美しい。
 ジャスティンに言わせるところの運命だ。だから赤い糸は綺麗だ。
 そしてよく解(ほつ)れる。そうだよな。スウィートボックス。で、何のようだ音楽家」

「そう警戒するなよ。芸術家。なんか性格が変わったんじゃない?」

「これがボクさ。ありのままこそ美しい」

神化しても、
エクスポはエクスポだ。

「・・・・まぁいいじゃないか。それよりも美しき偶然。ボクにとっては敵陣。
 あの時は戦わなかったけど、今回はそうもいかないんじゃないかな」

「そうだね芸術家。ピリオドはうたないと」

と、
ミヤヴィ=ザ=クリムボンはマラカスを一つ、
手に取った。

「・・・・といきたかったんだけど」

それをサーカス団のように宙に一度投げた。

「プログラムは変更。対バンじゃなくてセッションになったらしいよ」

マラカスをキャッチし、
ミヤヴィは微笑んだ。

「もっと美しく説明して欲しいな。回りくどい説明は好きじゃない」

「ハハッ、芸術家はウソが好きだね」

なるほど、
確かにこの男は自分と気が合うのだろう。
そうだ。
回りくどいのは大好きだ。

「分かってるじゃないか。ボクは回りくどいことは大好きだ。
 結果は毎日同じなのに、時計はキッチリ12回転するから美しい。
 ただし時は金なり、ちゃっちゃと説明してくれミヤヴィ=ザ=クリムボン」

「ユベンから連絡があってね。あ、うちの副部隊長ね」

「それくらいは知ってるさ」

「うん。んで・・・・いやまぁ。そちら側につくことになった」

「・・・・・・・」

正直な感想を言えば、
何をほざいているんだという感じの言葉だ。
ただ、
それを笑って下す事は出来なかった。

「ミヤヴィ。それは」

理解に苦しむわけではなかったから。

「"あの"ロウマ=ハートが関係してるわけだね」

いいアクセントだよ。と、
ミヤヴィは指をさして答えた。

「正確に言えばロウマ隊長の討伐・・・・が任務らしい。
 ハハッ、笑えない。笑えないけど、ユベンはジョークが苦手なんだよ」

そう言うミヤヴィの目は何か悲しそうで、
それよりも、
決心がまだついてない心境は映し出されていた。

「今ならいい曲が作れそうだよ。人は哀しいものこそ心に残す」

「そして儚いものも・・・な。音楽家」

「分かってるね。芸術家」

同じアーティストとして、
同時に皮肉に口をゆがめた。

「ということで、どうだいエクスポ。行動を共にしないか?ハモらないかな」

正直、まだ信用に足るかは分からない。
44部隊に異変があったのはロウマの姿を見たから分かる。
しかし・・・・

「本当は一度地下の様子を見に行くつもりだったんだけどね。
 君がここに居るという事は、フラン・キャラメル両部隊長はもうピリオドなんだろう。
 無理矢理仕事を探して、どうにか任務を後回しに出来ないかと思ったんだけどね」

いや、
ミヤヴィの心境にウソはないだろう。
さすが音楽家だ。
感情表現がうまい。
哀しみと・・・今の迷いが隠しきれてない。

「・・・・・そうだね」

ひとまず、それもいいか。

「ミヤヴィ。君とは気が合う。美しい波長の相和を感じるからね。
 君の言うところのハーモニーだ。モッツァレラチーズを食べた事があるかい?
 あれとトマトの組み合わせはまるでこの世が生んだ・・・・・いやまぁ、そういうことさ」

「アフェクトだよエクスポ」

芸術家と、音楽家は、
手を取り合うことにした。

「ミヤヴィ。ボクはとりあえずここを脱したい。殺人鬼が徘徊してるもんだからさ。
 寿命以外の死は美しくない。物語は完結してこそ美しいからさ。
 ボクはあぁいった芸術の中断行為を行う殺人鬼を忌み嫌うのさ」

「殺人鬼?シド=シシドウか。なるほど、僕が敵だろうと味方だろうと、
 彼と遭遇した時クレシェンドになるってことか。いいよ。案内するさ」

「とりあえず1階・・・いや、2階まで行きたい。このルアス城のね。
 嗚呼、この城はいい城だ。全てを見学したい気分にもさせられるけど、
 友情の方が大事でね。それでミヤヴィ。君の目的はロウマだったね」

「いやまずユベンと合流する。付き合ってくれるかい?」

「残念。さすがに君の目的まで付き合えるヒマはないんだ。
 大事なものには優先順位がある。それはボクにとってMとDなのさ。
 ボクは逆に外に出ようと思っている。それまでの付き合いさ」

中から襲撃するのが予定だったが、
あんな化け物が暴れているならその必要もない。
予定は挟撃に変更だ。

というよりも・・・
あんな化け物と同じ屋根の下に居たくもない。
それが本音だった。

「・・・・・と」

ミヤヴィが指を鳴らした。
エクスポへの合図だ。

「・・・・騎士団か」

兵がわんさかと駆けつけ出した。
恐らくロウマが暴れた音で駆けつけたのだろう。

「・・・・ミヤヴィ。城内の戦力はどの程度だい」

「外よりはマシ・・・って程度かな。つまることろ万全さ」

「ボクと君と二人で・・・・」

「どうにかなるようなら城なんて立ってないさ」

「だろうね」

エクスポは肩をすくめると、
再び風を渦巻かせた。

「静かに行動出来れば最高だったけど、派手さも芸術だ」

芸術とは爆発だから。
エクスポは戦闘体勢万全であることを示す。

「ボクはこういう行動に出ようと思うけど、君はどうする。
 任務はロウマ=ハートの討伐だけ・・・なんだよね?」

「そうさ。だから任務の遂行になるものは」

マラカスを二つ手にする。

「フィナーレを迎えてもらう」

「ハハッ、いい波長だ。気が合う。よろしく頼むよ音楽家」

「もちろん。いい演奏をしよう芸術家。ただ・・・・・・」

ミヤヴィはエクスポを凝視しながら、
眉を潜める。

「その新しいファッションなんだけどエクスポ」

「ん?あぁ・・・」

エクスポは、
変わり果てた自分の背中を見る。
忌み嫌う、
自分の美学に反する神の翼。

「うん。その翼」

「これはファッションってわけじゃないんだけどね。
 云わばボクに与えられた神罰ってところさ」

「そなのかい?ま、何にしろ」

「何にしろ」

「ナンセンスだよ。君らしくない」

「アッハハ!」

らしくもなく声をあげて笑ってしまった。
なるほど。
本当にこの男は気が合うらしい。

































-庭園 内門側 噴水前広場-


「がっ・・・・・」

また、突如現れた黒い球体。
いや、
黒い空間と呼ぶべきなのか。

デムピアスの片腕はそこに飲み込まれ、
食われた。

「まぁーた避けるかい海賊王ちゃん?俺ぁ人だろうが魔物だろうがオスと追いかけっこする趣味ねぇんだよ」

車椅子に乗ったクソ野郎は、
うんざりしつつも愉快そうに言う。

「いやいや、だが女は魔物・・・なんて響きにはなかなかそそるもんが・・・・ん?」

燻(XO)はまた顔をしかめた。
デムピアスの失った片腕。

「・・・・・勝ったわけでもないのに頭に乗るなよ人間」

デムピアスの片腕は、
ネジや電気コードや針金のようなものや、
つまるところあらゆる鉄が生え出すように、

「まったく度し難い」

再生する。

「うんざりだねウフフ・・・何回再生する気なんだか」

「何度でもだ。正義は負けん」

「処女膜もそうやって再生すりゃいいのにな。あぁ、それじゃぁ価値がないのか。
 あ、海賊王。知ってた?ヴァンパイアって居るじゃん?ドラキュラ、吸血鬼。
 あぁいう不死者っつーのは再生するだろ?だから何回ヤっても処女なんだとよ」

「興味ない。腐りきった人間の戯言など」

「そう?性への欲求こそ生者の嗜みだと思うけどね。
 ま、お前を倒した後にアイルカード部隊長にでも聞いてみっかな。死んでなきゃ」

って全員死んでるんだった。と、
ケラケラ笑う。
自分だけが生きて、
幸せならそれでいいというような、
そんなクソったれな笑い方だった。

「ヘドが出る人間だ。何が正義かなど、俺にはまだ分からないが」

デムピアスの右腕が変形していく。
それは一つのライフルへ。

「お前は悪だ。テュニショット」

打ち出される鉛弾。

「悪?いいね。ガキの頃に何度考えたか」

ウフフと笑いながら、
燻(XO)は車椅子から微動だにせず、
首を傾けてそれを避けた。
紫の髪が少し空中を待った。

「ヘタクソ。俺の鼻の穴を増やしたかったら金メダルをとれるぐらい鍛えてからにしな」

余裕。
一片の緊張感もない。

「悪。悪悪悪。ガキの頃漫画を見ながら思ったもんだ。何が悪で何が正義か。
 おっとクソみたいな論争はする気はない。結論は既に出ている。強ぇもんが決める」

それだけだ。
そう言い放つクソ野郎に、
今度は左手の人差し指を向ける。

「その通りだな」

そしてデムピアスの指先から、レーザーが発射される。
テュニのそれのように。

「だろ?ウフフ・・・・」

今度は首だけで避けられない弾道だった。
だから少し燻(XO)は右手を傾けた。
小さな、
小さな黒球。
ブラックホール。
それが宙に現れる。

「つまり、正義も悪も、名乗るには力がいる」

その黒球にレーザーが当たった。
それだけだった。
何の音もない。
溶けるように。
鏡に水鉄砲が当たったように。

そこで遮断された。

「警察は何故強いか。法律に守られているから。それは力だ。逆らえないから正義に従う。
 時にはそれは純粋な実力だったり、ただの年齢だったり、知識であったり。
 ウフフ・・・・つまり、価値観を強行出来る人間のみが、正義と悪を決定できるわけだ」

「だから正義は勝つ」

「勝つから正義だ。そしてお前に決め付けられなくても、俺は自分で悪を名乗る」

名乗る事が出来る。

「それは、俺の方が強いからだ」

「・・・・・・度し難い」

デムピアスの右腕が変形する。
それは刃であり牙。
トラバサミのような形。
チャウファング。

「まだやる気か。俺はお前を何回殺した?人間なら何世代分お前は死んだよ」

ここまでの戦い、
すでにあのダークパワーホールというスペルを前に、
何度も挑んだが、
その度に体をもっていかれるばかりだ。
デムピアスでなければ死んでいる被害を何度も。

「何度でもだ。正義は滅びない」

「悪のセリフだぜ!魔王さんよぉ!」

大きく笑いながら、
いっとう大きなダークパワーホールを形勢した。
燻(XO)の目の前に大きな。

「正義とは?悪とは?世界の破壊を防ぐこと?世界の平和をまもること?」

デムピアスは、
まず見極めなければいけないと判断した。

「愛か?真実か?貫くべきは正義か悪か?まぁいいじゃねぇか」

あのチート的な無敵な能力。
規模はどこまでか。
連射性能は。
回数は。
同時生成は可能なのか。

「俺はクソッタレでラブリーでチャーミングな敵(かたき)役が気に入ってんだよ。
 そしてデムピアス。お前は俺より下なら何も語る権限はねぇってことよ」

このブラックホール。
弾丸だろうか肉体だろうが、
どんなものでも飲み込んでしまう黒い渦。

「ほぉれダークパワーホール。黒い明日が待ってるぜ?・・・・なぁんてか・・・ウフフ・・・・」

確かめる。
デムピアスは動いた。

「その闇がどんなに深かろうと、海より深いものなどこの世にない」

それは燻(XO)でなく、
ダークパワーホールへの突撃。

「チャウファングっ!!!!」

その右腕の牙がさらに巨大化する。
そしてそれは、
ダークパワーホール。
ブラックホールを・・・・噛み付いた。

「あーん?海より浅はかだな。何考えてるんだか」

デムピアスは、
自ら黒球に腕を突っ込んだ。

「解放っ!!!」

黒い渦の中の腕に、そう念じる。

「・・・・・・チッ・・・・」

だが、
そこに感触は無い。

食われただけだ。

ブラックホールの中に、自分の腕の感触は無い。
この何もかもを喰らう黒い渦に対し、
全てが無効化だ。
感触がないのだ。

「解っ放!!!」

「なぁーにやってんだか」

燻(XO)にしてみれば、デムピアスが何をしているのか分からなかった。
事実何もしてないと同じだ。
食われた腕は、ブラックホールの中で消し飛んでいるのだけなのだから。
飲み込まれているのだけなのだから。

「・・・・・・・なるほど、度し難い」

デムピアスはそこで、
腕を引き抜いた。
当然突っ込んだ腕が戻ってくれるはずがなく、
クッキリと分断されているだけだが。

「大体分かった」

ダークパワーホールが解除される中で、
デムピアスは無表情に言った。

「なぁにがよ。無駄だってことがか?」

「あぁそうだな。一つ。この闇の渦への攻撃は一切合切無意味という事が分かった」

完全なる無効化。
チートな効果だ。
ブラックホールは何一つの例外もなく、飲み込むだけ。

「中で膨張させれば吹き飛ぶかと思ったが、そんな感触は無い。
 エネルギーは無限大・・・いや、何もかもが無効化と呼ぶべきか」

「ほぉ、パンクさせようと思ったわけか。ウフフ・・・・無駄な努力ご苦労さん」

ネクロケスタの骸骨を撫でながら、
あざける。

「一つ、このダークパワーホールというスペル。発動後に変化は起こせない」

「・・・・・」

そこに対しては、
燻(XO)は顔をしかめた。
デムピアスは続ける。

「規模の縮小、及び、拡大も出来ない。そうだろう?人間。
 それが出来るなら今さっきまさに増大させて、俺ごと飲み込む事が出来たはずだ」

だがしなかった。
出来なかった。

「それはつまり、発動した時の規模で固定ということだ。
 半径10cmの球として発動したらそのまま。1mにしてもそうだ」

「なるほど。なるほどなるほど。プロフェッサーだねぇデムピアスさんよぉ。
 でも俺はきまぐれでねぇ。余裕の表れかもしれねぇぜ?」

「何度も喰らって観察している。それは間違いない」

ただ無駄に何度も殺されていたわけではない。

「餌を与えたからには、見返りが必要だろう?人間」

「・・・・気に食わないなぁ!むかつくなぁ!死ねよ!俺を馬鹿にしてんのか!?」

「そしてさらに一つ、それはつまり、発動後に操作は出来ないと言うこと」

燻(XO)はイラついた顔を固定したままだった。
デムピアスの言動が、
あまりに的確だからだろう。

「黒渦の拡大をしなかった・・・出来なかった事と同じ根拠で、
 お前はこのブラックホールを発動後に動かす事は出来ない」

操作は出来ない。

「座標発動型。xyz。地点・・・空間発動タイプ。ピンポイントの発動だ。
 どこにでも設置とはある種の脅威でもあるが、避けられたらそこで終りという意味だ」

「・・・・・・・・ウフフ・・・つまり、ピンポイントで発動したら、見て避ける事も出来ないって事だよ。
 俺のダークパワーホールを、テメェの体と重ねて発動する事も出来るってことだ」

それは避けるなんて動作も行えない。
座標発動。
座標設置。

「一つ。無造作からの発動は出来ない。わずかでも動作が必要だ。
 詠唱無しのレベルには達しているが・・・・腕だな。発動には動作」

銃を向けるように。

「一つ」

デムピアスはさらに続ける。
ネタを曝け出してしまうように。

「発動までのタイムラグは0.5〜1秒」

「誤差レベルだろうが!」

「俺がチェスターと共にしていた時間は長い。人間には野球というスポーツがあるな?
 投手から打者にボールが到達するまでの時間が0.5秒ほどだった記憶がある」

それは見てから対応出切るレベルという事だ。

「それら全てを踏まえると、お前のダークパワーホールというスペル。
 確かに強力。度し難いほどにな。それらを踏まえても強すぎる。
 が、達人レベルの戦いに置いては・・・・・直撃させるために"読み"が必要になってくる」

動き回るウサギに猟銃を当てるような、
一発必中の読みが。

「人間。お前は脳ミソは腐っているが優秀なようだ。そこは優れているのだろう。
 しかし、この海賊王を相手にするにおいて、万全ではない」

当てる事は出来ても、
即死に値する必中。
それは多少の困難を要する。

事実、
デムピアスの全身を未だ食いきれていない。

「以上だ」

デムピアスは、
失った右腕を再生させながら答える。

「あとは・・・・」

「うるせぇ。死ねよ」

ダークパワーホールが発動する。
座標発火型。
デムピアスの胴体と重なったピンポイントに、
黒球は発動する。

「連射性能を見るだけだ」

そこにデムピアスの姿はない。
普通の人間ならともかく、
デムピアスは半身食い取られた程度では致命傷にならない。

ピンポイントで自分に当てるしかないのであれば、
発動を読んで動くだけで避けられる。

「ちょこまかすんじゃねぇ!便所に流してやる!」

黒渦が消えうせる。

「なるほど。さらに一つ確定だ人間。発動は一つずつ」

「クソでも食らいな!!」

デムピアスの進行方向に、
ダークパワーホールが発動する。
半径1mほどの巨大な黒球。

「連射性能は、規模の割にやっかいだな。
 リロードタイムは無し。一つずつであれば即時発動は可能か」

デムピアスはターンして割ける。

「あとは読み合いだけだな」

ピンポイントで食わなければいけないのならば、
燻(XO)は、
走るデムピアスの動きを予測し、
先回りした空間に発動させるだろう。

だからあとは読み合いだ。

動きを読まれて発動させられたら、
有無を言わさず、全身を食われる。
闇に、
食われる。

「だが最後のは致命的だな。人間」

気付けば、
右足を食われていたが、
移動しながら再生する。
同時にデムピアスの右腕が砲台へと変化する。

「一つずつしか発動出来ないならば、発動中に攻撃されたら止める術はない」

ダークパワーホールが、
有無を言わさず何もかもを食らう最強の矛であり、
有無を言わさず何もかもを食らう最強の盾であっても、
一つしか発動出来ないなら、

「早く消さないと死ぬぞ。もう遅いがな。イミットキャノン」

デムピアスは、
右腕からエネルギーの砲弾を放った。

「ちぃいいいい!魔畜生如きが!!!」

燻(XO)はダークパワーホールを引っ込める。
消す。
そしてイミットキャノンを止めるべく発動させようとするが・・・・

間に合わない。

0.5秒・・・足りない。

「このやろぉおおおおおお!!!」

燻(XO)は叫ぶと共に、
着弾した。

「・・・・なんちゃって」

それはただ、
燻(XO)の目の前でだった。
車椅子のクソ野郎は、
頭の髑髏さえズレることなく、
未だ動くことなく、その場に平然としていた。

「俺のウェポンが一つだけって道理はねぇだろ」

シュン・・・と種明かしのように、
燻(XO)はイミットキャノンを止めたそれを再び表した。

それは隕石。
一つの石の塊。
それがクソ野郎の周りを踊る。

「俺の表の顔はよぉ、『メテオドライブ』のメテオラ。
 ウフフ・・・面倒だったからって、偽名でしかありえないこの安直なネーミング。
 俺もどうかと思うぜ?ウフフ・・・よなぁ?もう死ねって感じだ」

燻(XO)は愉快に笑う。
紫の唇が歪む。
デムピアスは無表情だった。

「で、海賊王さん。魔物の王さん。魔王さん。感想は?」

デムピアスは、
一呼吸置いた後、
全身を変形させた。
全身から・・・・両腕から、腹部から胸部から、
首から肩から、無数の機関銃を生み出す。

「度し難い」

現状、
庭園での頂上対決は、
誰にも入る込む余地はなかった。

試合続行の機銃音は打ち鳴らされた。
































-庭園 西-

「うーん」

アレックスは頭を抱えた。

「アレックス。頭痛か?しっかりしてくれよ。こうしてる間も戦場は動いてやがる。
 テメェが指示しなきゃこっち側・・・西軍は統率者はいねぇんだからな」
「それに関しては一端エールさんと僕の部下に任せてあります。
 だれかさんと違って有能でテキパキと的確に動いてくれますので」

誰のことやらとドジャーは苦虫を噛んだが、
アレックスがWISオーブをしまうのを見て、
話しを続行させる。

「んで、さっきの44部隊の話。頭痛の種はそこか?」
「まぁ」
「いい話だとは思うぜ。穴は多くて怪しいが、それも今更だ。
 何にしろ、狙っていた44部隊の引き込みが一つの形になったわけじゃねぇか」

スミレコのWISオーブを通して、
それはアレックスも聞いている。
聞いているが、

「それはいいんです。44部隊の寝返りがどういう意図であり、利用するだけですから」
「カッ、怖い勇者様だ」
「ただメンツですよ。ユベンさん、メリーさん、エースさん、ミヤヴィさん」
「ちょいと足りない感があるってか?」
「そうじゃないんですけどね」
「俺としちゃぁ、これでメッツが完璧にこっち側ってだけでありがてぇわけだがな」

ドジャーにとってはそこが一番重要なのだろう。
家族で、
兄弟で、
親友なのだから。

ずっと頭を悩ませてたのだろうから。

「それと別に、クシャールという名を聞きましてね」
「なんかさっきも話してたなそいつ。傭兵だったか?」
「まさか元44の副部隊長だとはね。父さんもそんな事言ってなかった。
 教えてくれなかったのか、それか父さんも知らなかったのか」
「ぁあん?」
「これも因縁ってやつですかね」

竜殺しと竜騎士部隊か。
アレックスは戦場に気を戻す。

「それにしてもさすが僕の部隊。強い」

現段階、
こちらの戦場の戦法は16番隊を中心としていた。
アンデッドと聖職者。
その相性の良さ。
いや、
相性の悪さは見て歴然だった。

「ほら見てくださいドジャーさん。あそこで戦ってる若い聖職者。
 あれは僕が部隊長になってから入隊した子なんですよ」
「あ?どれだ?」
「あ、今死骸騎士をまとめて3匹蒸発させた男です」
「あれか。まぁ確かに強ぇな」
「さすがですよ。彼を残して両親がどこかへ蒸発しただけはある」
「重ぇよ話が。名無しの身の上話知りたくねぇよ」
「僕が育てました」
「・・・・・まぁ部隊長だからな」
「あっちで戦ってるレディーを見てくださいよ」
「レディーて・・・・」
「彼女は出来る子ですよ。彼女は僕が言えば5分でメロンパンを買ってきます」
「権力の横暴だな」
「ただ一度、売り切れだったという理由でクリームパンを買ってきたので減給しました」
「横暴だな!」
「僕が育てました」
「生活の首を絞めといてそんな事言うか」

アレックスは笑った。

「あっちも、あっちの男も、僕の部下です。彼らは僕の部下で、共に戦った仲間です。
 部隊が部隊ですから戦闘部隊じゃないですが、己の職務と戦ってました」

懐かしそうに、
それで誇らしそうに、
アレックスは彼らの戦いを見ていた。

「そして彼らと戦ってる相手も・・・・・僕の仲間です」

ドジャーはアレックスの目の前に、
眼前に、
指を突き出した。

「今更そんなとこでナイーブになるか?めんどくせぇ奴だ」
「いえ、ただ再認識しただけです。僕のせいで、騎士団は目茶目茶になったんだなと」
「目茶目茶にしなきゃハッピーエンドだったのか?」
「騎士としてはそうだったかもしれません」

自分は、
あの戦いで、
部下を、仲間を、
置き去りにして、
捨て置いて、
裏切った。

「なのに何故また僕の下で戦ってくれるのか」
「あれだろが、死骸騎士は終焉戦争の時点で時は止まってる」
「なら」

自分は、
英雄と部隊長を同時に演じるだけだ。

本当はどちらでもなく、
与えられただけの凡人であっても。

「・・・・・と、部隊長さん。話の途中だかどうだか知らねぇし悪ぃけどな。
 お前の愛する部下が指示無しで撤退を始めたぜ?アレックス。お前人望ないのか?」

言われて気付けば、
第16番・医療部隊の面々は、
前線で奮闘していた中、
後方へ撤退を始めていた。

「本当ですね。反抗期ですかね。軍費を食費に私用していたのを怒ってるのかも」
「そりゃぁ正当な命令違反だな」

ドタバタと一人走ってきて、
その女はズテンとアレックスの前で転んだ。

「アウチ!」
「・・・・・どうしましたエールさん」

ドジャーは未だ、
アレックスがこの女を前にする時に、
少し態度というか機嫌が変化するのが気にかかっていた。

「今、相手が崩れている絶好のチャンスなんです。
 一気に畳み掛けて進軍距離を稼ぎたい時なんです。
 撤退命令を出したのは貴方でしょう?どういう意図ですか」
「おいおいアレックス。本当にこいつに対しては口が悪ぃな」
「ドジャーさん。横から口を出すしか脳が無いんだから黙っててください」
「俺に対してはもっと酷ぇな」
「存在意義はありませんよね」
「追い討ちはいいから」

エールが口をアヒルのようにしながら、
アレックスに報告を始めた。

「う、うぃ!あのですね!私達は戦闘部隊じゃないんですが、
 聖職者の相性の問題で無双できてるといいいますか・・・つまりそんな感じで」
「前置きはいいので」
「う、うぃ、つまり戦闘スキル自体が備わっているわけじゃないので」
「やっぱ厳しいと?そんな事はありません。アンデッドに聖スキル。
 この相性に関しては、騎士団の部隊の優劣を覆します」

現時点で、
騎士団の最強は第16番・医療部隊。
それは確定だ。

「それを覆せるとしたらそれだけの戦闘技量が飛び抜けている者。
 居たとしても部隊長クラスか、44部隊・・・・それに」
「そ、"それ"が来たので撤退してアレックスぶたいちょに指示を貰おうと・・・」

アレックスはエールをどかした。
エールが気に食わなかったとかじゃなく、
戦場、
目の前に現れた、"それら"を目撃したから。

「なんだこいつら・・・」

ドジャーにも一見してその異様さは分かった。
数。
実力。
容姿。
全てが他の部隊とは違う。

「さすがディエゴさん・・・・・崩れた布陣の補強も早い・・・・」

応急処置としては、
鉄壁過ぎて嫌になる。

荒れ狂うように、
嵐のように、
それらは飛び交い、
戦場を支配しはじめた。

成す術もないほどに強力に。

「下がんな!下がんなお前ら!おいアレックス!なんなんだこいつら!」

アレックスは顔をしかめる。

「52番隊です」

王国騎士団の最終部隊。
個人の技量のみ、44部隊にわずかに遅れをとるが、
そのわずか以外、
全て王国騎士団随一の・・・・・最大の部隊。

「医療部隊!僕の後ろにラインを引いてください!死骸に変わりはありません!
 突破、殲滅よりも通さない事を優先!残りは一時後方から支援!」
「アレックス!こいつら・・・・だっ!」

ドジャーの所にまで、
52番隊の人間が飛び込んできた。

ドジャーはダガーで、その男と刃をぶつける。

「・・・・・ガッ・・・なんだこの力!これで一般兵(パンペー)かよっ!」

部隊のただの一人とかち合っただけで、
ドジャーは押されていた。

「でぃっ!」

それを横からアレックスがオーラランスで突き刺し、
52番隊の男を昇華させた。

「・・・・チッ・・・サンキュ。っつーかなんだこいつらは!他の部隊とレベルが違ぇぞ!」

それに・・・

ドジャーはアレックスが倒した男の亡骸を見る。
死骸は昇華されたが、
装備は虚しく地面に転がっていた。

漆(うるし)の鎧。
和刀(サムライソード)
騎士というよりは・・・・・・武士。

「通称"さくら部隊"」
「ぁあ!?」

既に次から次へと襲い掛かってくる、
異様な姿の者達と、
アレックスとドジャーは応戦する。

「さくら街・・・さくら村をご存知ですかドジャーさん」

アレックスは4・5度刃を合わせた後、
なんとか一人撃破する。
ドジャーは防戦でさえ必死だ。

「知ってるだろそりゃ!ルアス52番街の事だろうが!」
「1〜52番街。とんで例外99番街。最後の街と呼ばれているその街」
「知ってるっつってんだろが!99(うち)は人が避けて通る街だが、
 52番街立ち入り禁止区域・・・・・隔離地域だろうが!」
「そこで"生産"されているのがこの52番隊です」

ドジャーは敵を倒せないまでも、
蹴りで吹っ飛ばす。

「ああ!?」
「余計な説明はしません!つまるところ、52番街で意図的に量産されているのが52番隊!
 総合なら44部隊も圧倒的に凌駕する騎士団最大の部隊にして、」
「して!」
「全員がモルモットベイビーです」

は?とドジャーが余所見をしようとした瞬間、
52番隊の人間が飛び込んでくる。

「ちぃ!」

先ほど敵対していたのは武士の身形の男だったが、
その男は、
狐面の忍者のような姿だった。

ダガーを投げつけるが、

「・・・・おいおい」

避け方が異様だった。

「こいつ!関節が今逆に曲がったぞ!」

その狐面の男も小太刀であり、
ダガーと刃を合わせる。

「簡潔なとこ、全員・・・改造人間(モンスター)ってことか」

表情の見えない狐面が眼前に迫る。

52部隊の面々の容姿。

一番多いのは狐面。忍者のような容姿をしている。
または、
漆の甲冑の武士であったり、
女性の着物を着た面。
白化粧をした妖術師の姿だったり、
天狗の姿をした者も居る。

全員が和姿に身を包み、
顔を隠していた。

「さくらと言えば騎士団・・・いえ、マイソシアの一つのタブーですよ。
 神の冒涜。人間の改造。兵器人間の作成。人造部隊。
 今に思えば絶対ピルゲンさんや研究者が関っていますね」
「ミダンダスとかドラグノフあたりもか!」

医療部隊の聖スキルで、また助けられ、
ドジャーの目の前の狐面から逃れた。

「確かに天狗面の奴なんてとってつけたような黒羽生えてやがる」
「ピルゲンさんの神化実験の結果を付加したんでしょうね」

改造人間。
モルモットベイビー。

ドジャーが目にした事があるのは、
ポルティーボ=Dだ。
オーブ・・・・眼の改造者。

それと、

「エールさん。左の4体任せました」
「了解です」

うって変わって、
アレックスの命令を冷静に着実にこなすエール。
エール=エグゼ。
アレックスからは彼女もモルモットベイビーだと聞いている。

「にしてもキチィぜこの量と質はよぉ!」

他の部隊とは段違いだ。
圧倒的に相性の悪い医療部隊とさえ、互角以上の戦いをしている。

「到底敵わねぇぞ!アレックス!退くしかねぇ!」
「・・・・・ディエゴさん。嫌なとこで52なんてぶつけてきますね」

「アッちゃぁあああああああああああああああああん!!!」

炎が直下した。
いや、
直火した。

ダニエルが天から直滑降で振り落ちてきて、
炎と共に敵のど真ん中に激突した。

「ダニー!」
「ヒャーーーハッハッハ!面白いことになってんねぇ!」

辺り一面に炎を撒き散らし、
死骸を焼き払う。
彼は彼で、
この戦場では段違いの戦力だった。

炎の中で炎の悪魔は笑う。

「こいつらか!俺ぁこいつら嫌いだぜアッちゃん!騎士団の時からそうだった!
 痛み感じねぇ奴とか感情のねぇ奴とかよぉ!燃やしがいのねぇ奴らだ!
 炎の中では悲痛や哀しみにのたうちまわれってんだよぉぉおおおお!」
「ダニー!いいですか!?」
「はーい!アッちゃん!愛するダニーだよぉ!ハーワーユー!?」
「気が進まなくても手を貸して欲しいところです!」
「イエスイエスイエス!ヒャーハー!!!」

あたりに炎を振りまく。
52部隊の者達を焼き払う。

「こぉーいつらの焼却は俺の好みじゃぁねぇーがぁ!
 こんなつまらない奴らに俺のアッちゃんがやられるのもイヤだね!
 燃やして燃やして燃えカスにして!その上でさらに燃やしてやる!」

この中では、
ダニエルは異端と言ってもいいほどの強さだった。
反乱軍の中では、
飛びぬけて最大戦力だ。

「おいアレックス!ダニエルの馬鹿を扱えたのがいいが!それでもキリが無ぇぞ!
 倒しても倒しても減る気がしねぇ!どんだけ居るんだこいつらよぉ!」
「知りません!」
「知らねぇっておめぇ!」
「騎士団の中でかなりの数を有しているのは間違いないです。
 恐らくこれでも全員じゃない。東にも52の手は動いてるでしょう」
「・・・・ッ・・・数と質の改造人間部隊かよ・・・・」
「見ての通り情報はタブーもタブーなんですよ。姿も顔も仮面等で隠していて、
 部隊員の経歴は全員一切不明です。名無しの部隊なんですよ」
「量産されてんなら経歴もくそもねぇだろ!」

ドジャーの言うとおりだ。
彼らが作られた人間というのなら、
経歴なんてもの自体がないのかもしれない。

「狐!天狗!侍!般若!おかめ!全員ぶっちょうツラしやがって!」
「ダニー!出来るだけ前線から始末お願いします!
 こっちはほとんど対抗出来る実力者がいません!」
「ヒャハハ!アッちゃん見てみて!この狐面、腕が3本ある!ハンパな改造だな!」
「ダニー!結構ヤバいんです!」
「ヒャーーハッハ!それが面白いんじゃねぇーの?アッちゃんたらぁ♪」

ダニエルが居なければ既に前線は潰されていただろう。
それほどの部隊だ。
部隊長さえ姿を現して居ないのに、
部隊の質と量だけでこちらは何も出来ない。


「おー、いいぞ。退け退け」


どこからか声が聞こえた。
それが合図で、
52部隊の者達は機械のようにピタリと動きを止めた。

「後方の陣形は立て直したってよ。52(俺ら)の仕事ここまでー。一端下がれ〜!」

狐面に槍(ランス)を持った男だった。
さくら部隊の中でも、
和洋がアンバランスな異様な男だった。

ただ彼の一声で、
一斉に・・・蟲か波かのように52部隊の者達は下がっていった。

「おいおい、なんだよ」
「お役御免ってとこでしょうかね」
「ア、アレックスぶたいちょ!どうしましょう!
 劣勢だったのがこちらにゃ・・・なのでおかしいですが!ちゅ、追撃しますか?!」
「いいえ。させねーよ・・・って言いそうなのが数人残っています」

52番隊は一斉に嵐のように退却していったが、
数名、
堂々と残っていた。

和姿を見れば、彼らも52部隊の一員だと分かるが。

「へぇ、なるほど」

先頭に立つ、
退却の号令を出した槍の狐面が首をかしげた。
表情は面に隠れて伺えない。

「こいつがオリジナル(元凶)さんか。ユニークじゃないな。気に食わねぇ」

リーダーらしき狐面は、
面の下でハッと噴出した。

「なんだテメェ」
「・・・・・・52部隊の部隊長だとお見受けしますが?」

「いかにも・・・っついたいとこだけど。違ぇよ。
 同じ騎士団の部隊長くらい知ってろよ。オリジナル(元凶)さんよぉ」

「オリジナル?僕の事ですか?」

「オンリーワンって意味だ。英雄はつらいねぇ。お役目頑張れ。
 ま、うちの部隊長を知らない件はしゃぁねぇ。52の経歴は極秘だしな。
 実際、コッソリ入れ替わってるし、今のも終焉戦争からの新任」

ってどうでもいいか。
と、
リーダー格の狐面は、
その狐面を頭へと寄せ上げ、顔を晒した。

「お見知りおきを・・・ってか?俺は」

「レグザ!」

エールが叫んだ。
アレックスとドジャーは一瞬エールの方を見たが、

「そ。アール=レグザっつーんだ。よろしく。
 そこのエール=エグゼとは兄妹みてぇなもんだ。試験管のな」

少し動揺しているエールを見て、
アレックスは納得した。

「そうですか」

なんとなく、アレックスはこのレグザという男が好きになれない。
理由はやはり分からない。
でもそれはやはり、
エールと兄妹であるところが関係しているのだろう。
だから納得した。

単純な意味じゃなく、何かに似ていると感じたからだ。

「あぁついでに紹介しとこうか、この戦争のオリジナルさんよぉ。
 エールと俺は特に選ばれた双子みてぇなもんだが、こいつらも兄弟だ。
 左からセラ、アゼル、イグレア、ヤルク、サーレー、シール、ラッシェにエクサール」

「どうでもいいな。覚える気もねぇ。つーか覚えきれねぇ」

ドジャーはダガーを両手に構えた。
左手に4本。
右手に4本。

「やる気かそうじゃねぇか。そこだ」

「ラッシェ」
「おう」

レグザが指示すると、
残った52の中の一人が突如ドジャーに飛び掛った。
顔の上半分だけを覆った狐面の男で、
あろうことか、
口にダガーを咥えた。

「やる気ってか!?」

ドジャーがダガーを投げようとしたが、
それよりもその男は早かった。

気付けば犬に飛びかかれたように押し倒され、
彼の両手両足が、ドジャーの両手両足を押さえていた。

そして口に咥えたダガーを、
ドジャーの首元に突きつけた。

「ザコは大人しくしてようぜ」
「・・・・・チッ・・・・」

手も足も出ないとはこの事だろう。
実力が違った。
それに口にダガーを咥える戦法。

何か違う。

「セラ、ヤルク、サーレー」

続けざまにレグザが言うと、
3人の男女が踵(きびす)を返して後ろへ動いていった。

「うぉ!?何!?なんだぁ!?」

そこにはダニエルが居て、そして、
一瞬でまた、
取り押さえられた。

「ん?そっちの男は3人でも足りねぇか。エクサール」

追加で一人ダニエルに向かい、
和刀を突きつけると、
ダニエルもそこでチェックメイトだった。

「・・・・ったく。オリジナルさんよぉ。後ろのこの男にコッソリ合図を送ってたろ」

「バレてましたか」

「そんなダセぇ戦法、ユニークじゃねぇ。俺らがかかるかよ」

ハッと笑い、
レグザという男は視線をエールに変える。

「エール。そこの男はお前が期待するような男じゃねぇ。
 そんな部隊にいねぇで俺らの元に来いよ」

「・・・・いいです。エールさんはアレックスぶたいちょの下がいいです」

「分かんねぇな。出来損ないのキョーダイだ」

「アレックスぶたいちょは出来損ないじゃないです!」
「あ、僕の事だったんだ。え?僕の事ですか?」
「よう、出来損ないのアレックス」
「ドジャーさん。敵に取り押さえられた状態でほざかないでください」

確かに様にならない。

「あーあ。何にしろ、今回は挨拶だけのつもりだったが、それももういいか」

レグザは、槍を前に突き出した。

「オリジナル(元凶)さん。ここでお別れにしようや」

レグザと残りの52部隊が、一斉に武器を構える。
構えがまた、人らしくなかった。
物体が停止しているようにピクリとも動かない。
隙がないわけだが、
それはやはり機械のような無機感があった。

「レグザさんと言いましたね」

「おう。アールじゃなくてレグザと呼んでくれ。
 俺らにとっちゃぁ性や名なんてとってつけたようなもんだからな」

「貴方達は52部隊の中でも・・・モルモットベイビーの中でも精鋭なんでしょうか」

「ハッ」

レグザは笑った。

「モルモットベイビー。モルモットベイビー。差別用語だがその通りだ。
 だが俺らがその中で成功例・・・ってわけじゃない。品種が特別なだけだ。
 完成度でいえばポルティーボ=Dなんて方がマシな方でな」

「・・・・少なくとも貴方はそれに匹敵してそうですけどね」

「見る目あるねぇ。ユニークだ。確かにな、俺とエールに関しては完成品の一つだ。
 ここに居る兄弟は全部同じ品種だが、俺とエールはその中でも成功例」

「そんな事はどうでもいいです」

アレックスは切って捨てた。
エールが「もっと掘り下げてくださいよ」って顔をしていたが、
お構いなしだ。

「ただ、52の中でも実力者というならば・・・・・」

気付くと、
ここに残った52部隊の面々を、
16番隊が取り囲んでいた。

「ここで始末するのも已む無し・・・ってところでしてね」

本当の意味で取り囲んでいる。
いつの間にこんな指示を出したのか。
エールが親指を立てている。
副部隊長としては主張の激しい娘だ。

「ハッ、やる気だねぇオリジナルさん。だが人質がいるのをお忘れなく」

ドジャーとダニエルは取り押さえられたまま。
まぁダニエルはヒャハハと笑っているが。

「彼らに人質としての価値はありません」
「ねぇの!?俺!価値ねぇの!?」
「ダニーもドジャーさんも僕のためなら喜んで地獄の門を叩きます」
「ねーよ!人生名残惜しいよ!助けてくれアレックス!」
「情けないですよ。いいじゃないですか命の一つや二つ。減るもんじゃないし」
「減るし!hellにも逝きたくねぇし!ヘルプミー!」
「ドジャーさん。ここはカッコをつけると様になるんですよ」

ふむ、と、
ドジャーは取り押さえられたまま神妙な顔つきになる。

「アレックス。ここは俺に構わず先に行け!」
「状況を選んでセリフは選ぶこと」

アレックスはダメだしだけして、
レグザに話を戻す。

「まぁ、関係ないです。一瞬で終わるので」

「ほぉ、俺ら52(さくら)を一瞬で・・・ねぇ。ユニークじゃないな。笑えない。
 どこからその自信が出てくる。言ってみろ。笑ってやる」

「簡単です。スーパーリカバリでもグループリカバリでもホーリービジュアでもいい。
 範囲回復スペルを一斉に使います。分かりますか?ただの無差別範囲回復です。
 僕らにはなんの影響もない。調整は必要ありません」

一瞬で終る。
相手が死骸である限り。

「へぇ。面白いな。ただ・・・・エールや医療部隊も・・・・死骸だぜ?」

アレックスは笑わなかった。
睨むような目付きで、
レグザを見据えるだけ。
ただ、

「僕が、その命令を下せないとでも?」

エールも、
医療部隊も、
反応しなかった。
ただそれは・・・部隊長に対する服従。
いや、騎士団としての覚悟かもしれなかった。

「・・・・・なるほど。オリジナルさん。あんたは確かにユニークだ。
 つまり、手を打とう・・・・っつーわけか。お互いに・・・な」

「勘違いしていますね。已む無しと言ったはずです。僕はどちらでもいい」

アレックスの眼は本気だった。
仲間をここで犠牲にして結果を得る。
その覚悟のある、偽善の目だった。

「・・・・OKだ。ここは負けてやる。因縁もあることだしな。
 セラ、アゼル、イグレア、ヤルク、サーレー、シール、ラッシェ、エクサール。
 戻るぞ。あぁ、エール。お前は本当にこっちに戻ってくる気はねぇんだな?」

「うい」

「馬鹿な妹だ。同じ試験管から生まれたのにどうしてこうも違う?
 研究者(親父共)に説教が必要だ。試験管をよく振ってから人間を造れってな」

レグザは、狐面を付け直す。
そして52の者達はドジャーやダニエルからも離れ、
一斉に身のこなしよく、
後退していった。

「おっとオリジナルさん」

レグザだけ少し立ち止まり、
言葉を残す。

「俺達造られた人間っつーのはよ。つまり偽者人間なわけだ。
 俺もオリジナル(本物)と呼ばれたいもんだな。・・・あんたみたいな・・・な」

そう言い、
狐面は城へ向かって後退していった。

「・・・・・本物・・・ね。偽善者である僕をそう呼ぶなんて、皮肉なもんです」
「アレックスぶたいちょ!」

エールが、
アレックスの傍で言葉をかける。
アレックスはエールを見もしない。

「エールさんはですね!エールさんもですね!裏切り者です!
 だから・・・だから一緒です!仲間です!」

なるほど。

「この気持ちは"同族嫌悪"って奴ですか」
「?・・・・何がですか?」
「いえ、やっぱり僕は貴方をあまり好きになれないって意味です」
「う・・・・うぃ」

エールは余りに寂しそうだったが、
アレックスはやはり見もしなかった。
目を背けるなんて、それこそ偽善者だと分かっていても。

「いらねぇイベントが増えたみてぇだな」

ドジャーは砂を払いながら言う。

「寄り道無しにカラッと戦争を終わらせてぇとこなんだけどな」
「いえ、あれらは恐らく本筋です」
「ぁあ?」
「避けては通れないでしょう。勘・・・・ですけどね」
「カッ、お前の部隊員が関係してるならそうなのかもな」
「面倒がないならそれが一番ですけどね。ただ一つ分かった事があります」

アレックスはWISオーブを手に取った。
誰かに電話するってわけでもないようで、
メモ箱をチェックしていた。

「彼らとの戦いで分かったこと」
「なんだ」
「どうやったって反乱軍の戦力じゃぁ最後まで持たない」

それは、決定的な差。
52部隊の一部と今対峙しただけだ。
それなのに医療部隊を総活用するほどにして、やっと場を収めた形。

「決定的な駒は、医療部隊とダニー。エドガイさん達、44部隊ってところです」
「ヒャッハッハッハ!」

ダニエルが酔っ払いみたいにフラフラ歩いてきて、
ドジャーの肩に手をかける。

「こん中でドジャっちだけ選ばれてないねぇ」
「うっせぇよ離れろ!あと戦闘終わったら火をしまえ火を!
 暑苦しいんじゃなくて熱ぃんだよオメェは!」
「ドジャっちったら、クール装っちゃって」
「そういう意味じゃねぇっつってんだろ!」
「あ・・・あ・・・アレックスぶたいちょ!それで続きを!」

アレックスは頷く。

「それで、作戦変更です」
































-ルアス城 1階-

「作戦完了ってとこだね」

エクスポは最後の爆破を終える。
そうすれば、
もう死骸騎士の姿は残骸しか残ってなかった。

「エクスポ。君はいつからマジシャンになったんだい?」
「ん?これの事かい?」

エクスポがパチンと指を鳴らすと、
空気が小さく弾けた。

「マジシャン。いい響きだねミヤヴィ。ただこれには種も仕掛けもある。
 芸術とはいつも幻想ではないわけさ。重力がなければ歩けないって意味だよ」
「話はきいてたけどね。本当にゴッドになったんだね」
「響きが美しくないね。神化した、またはグッドになったと言って欲しいね」
「バッドな響きだよ。その慣れ果ては本当に美しいと思ってるのかい?」
「いや」

エクスポは皮肉に笑った。

「さて進もうかミヤヴィ。どこをどう行けばいい。風を頼りにしてもいいんだけど」
「んー・・・・」
「空気を読んでみたんだけど、ロウマとツヴァイが出てきた部屋。
 あそこにはもう誰も残ってない。だからお手上げなわけなのさ
 ボクでもあまり遠いところは探れなくてね」

エクスポとミヤヴィは城内の1階へは上がってきた。
エクスポのフウ=ジェルンとしての能力であれば、
空気の流れで辺りは感知できる。

階段の位置や部屋取りも大体分かるが、
さすがルアス城。
あまり易しい間取りにはなっていなく、
細かいところまでは分からないし、
1フロア上下したところだと、もはやあやふやだ。

「美しくない表現をすると犬の鼻みたいなもんでね。
 知らないものだらけなせいで感知してもそれがなんなのか判断出来ない」
「何かがあると分かっても、知ってるものしか識別出来ないわけだね」
「そういうこと」
「それなら」

ミヤヴィは、手の平を地面に当てた。

「感知に関しては僕の能力の方が上かもね」
「へぇ、心外だな」
「モルモットベイビーって知ってるか?芸術家」

ミヤヴィはよく顔に感情が出る。
彼がそう言う表情を見れば、
軽口で冗談も言えなかった。
ただ頷いた。

「僕はそれでね。僕だけじゃない。エースやメリー。
 パムパムやキリンジ。スモーガスも恐らくそうだっただろう。
 ヴァーティゴは後から改造したサイボーグ系だけどね」
「・・・・製作物が全て美しいわけじゃない」
「自然が一番か。僕には耳の痛い言葉だ」
「でも打ち明けてくれただろ?美しいことさ」
「君が自分で忌み嫌う神化を打ち明けてくれたからさ。ヘ長調は笑ったよ。
 だから僕もモルモットベイビーである事を明かした。それで僕の能力だけど」

片手を地面にあてたまま、
ミヤヴィはマラカスをシャランと振った。

「音。振動。バイブスさ」
「聴覚がいいってことかい?それとも絶対音感や相対音感」
「それは別腹であるさ。絶対音感は生まれつき。相対音感は努力で身に付いた。
 まぁ楽譜を戻そう。つまり僕は改造人間なわけなんだよね。
 エクスポ。君は化学系にも強かったから聞くけど」
「まぁね。知識は美しい。どうぞ」
「人間の水分の割合は?」
「70%・・・・っていうのは赤子時の割合であって、平均すれば50〜60%ってとこかな。
 男の方が水分の割合が多く、年を重ねると枯れていく。ま、見たまんまだよね。
 そしてだからこそ人は一日に水分を2〜3g摂取しなければいけない。
 大まかには2/3を占める細胞内液。残りは細胞間液や血しょうとかだね。
 ついでに言えば残りの成分を含めて、人体なんて2万グロッド以下で作成出来る。
 あぁ後、海の割合が70%ほどだから星と構成は同じ・・・・と考えるとロマンチックな・・・」
「あーあーあーもういいよ」
「まだまだしゃべり足らない」
「いいから。つまり僕は2万グロッド以下の経費で作られた人造人間であって、それでいて」

ミヤヴィは片手を掲げた。

「僕の水分は全体の95%を超えている」

ミヤヴィは皮肉に笑った。

「当然それに伴ってかなりキャシャな造りになってるんだけどね。
 僕は博学じゃないから自分の体がさらにどうなってるのか分かり得ないんだけど、
 つまるところ、僕は人より体で振動を察知出来る能力なわけさ」
「回りくどい上に結論が簡潔だ。ボク好みだよミヤヴィ」
「ありがとう」
「いえいえ」

ミヤヴィは地面に手を付けたまま、目を瞑った。

「当然、僕はその意味嫌う身体能力を戦闘と趣味に生かしてるんだけど、
 物と物が続いている限り、その先の振動も察知出来るのが本質さ」
「なるほど。人間レーダーか」
「うん。スミレコとスモーガスは能力的によくコンビを組まされていたけど、
 そのコンビのコンボも僕を含めてさらに初めて完璧なのさ」

二人とももう居ないけどね、
とミヤヴィは続けた。

「おっと」

ミヤヴィは地面から手を離して立ち上がった。

「ロウマ隊長は3階まで移動している。ツヴァイも含めてかなり派手に動いてるね。
 嵐は荒らし。災害が城内を移動しているような感じだ」

こんなの隊長じゃない。
小さく呟いた。

「僕のお目当ての方は残念ながら1階に居た」
「ユベン=グローヴァーかい?」
「うん。内門の内側。城内に入ってすぐの広いロビーに居る。敵と相対してるね」

敵。
敵・・・か。
同じ騎士団だろうに、
既にそう呼ぶミヤヴィを見て、
彼にとって44部隊としての行動が全てなのだと実感させられる。

「合流しよう。僕とユベンもそのまま上を目指す事になるから君にも好都合だ」


































-ルアス城内 内門裏ロビー-


「ディエゴ部隊長は、俺を敵と判断したようだな」

ふぅ、と一息つくユベン。

「だからお前をよこした。そうだろ?第12番・星獣部隊・部隊長」

星獣部隊長は、
部下達の後ろで無表情だった。

「そういう事だ。だがディエゴは甘い。仲間の反逆は一切視野に入れない。
 養成学校の時からそうだった。俺達は黄金世代と呼ばれても、聖者ではない。
 慢心や奢りにも近い仲間への甘えだ。12の星がそう言っている」

星獣部隊長は、ディエゴへの反感を口にした。

「反逆が起きてからの対応では遅いのだ。44部隊のような異分子はマークしておくに限る。
 まったく。16にも44にも続けざまに裏切られて。学ばない男だよあいつは」

「何よりじゃないな」

ユベンはさらに、
彼に対して反感を口にした。

「俺もディエゴ部隊長もお堅い男としてよく比べられたが、ディエゴ部隊長は立派な騎士だ。
 少なくとも・・・・・仲間の悪口を叩くお前よりは何よりもな」

「・・・・騎士団を危機に陥れる事が誇りであるなら、捨て置くべきだ」

「確かに」

ユベンは首を振る。

「あんたの言う事も何よりだ。部隊長としてはそういう判断も重要だ。
 あんたのように割り切りすぎてる男が上司なら、中間管理職も迷わないだろう」

自分とは違って。
冷徹になればいいだけだ。
それは上に立つ者には重要だ。

「それで」

ユベンは切り出す。

「第12番・星獣部隊。"俺を12人如きで止めるつもりか"」

慢心は持て。
自分の力を信じろ。
ロウマの教えだった。
それは強さに、力になる。

ユベンは自分の強さを測り間違えない。

「12人で十分だという判断だ。他は引き続き城内の警護にあたらせている」
「部隊長。あんたがしゃべるとこの男は問答を執拗に返してくるぜ。
 あんたの格を落とす必要はねぇ。俺で十分だ」

12人の一人が主張する。
剣を二本持った男だった。

「そうだな。俺も部隊への指示がある。代わりを頼む。ウサギバサミ」
「Jack in(ジャッキーン)!!」

ウサギバサミと呼ばれた男は、
両手の二本の剣を・・・・交差させた。
させたと思うと、

剣は結合した。

それはまさに、
二本の剣がハサミのように。

「ユベン副部隊長さんよぉ。12人で十分な理由を教えてやろうか?」

シャキッ、
シャキッと、
その巨大な二本剣のハサミを開閉させながら、
ウサギバサミはニヤニヤ笑う。

「俺達星獣部隊はよぉ、副部隊長が12人居る。十二支と十二星座に纏わる12の精鋭。
 他の51部隊よりも・・・・・層が厚いってわけだ。まぁ何せ・・・・
 あんたと同ランクが12倍居るんだからな!Jack in(ジャッキーン)!!」

ウサギバサミはケラケラと笑った。

「俺ぁ4星副部隊長!兎と蟹の星のウサギバサミだ。ハッピバースデイ」

「知っている」

ユベンは冷静に答える。

「同じ騎士団の者、知っていて当然だ。他の者も当然な」

1星副部隊長 子と牡羊の星 ネヒツジ
2星副部隊長 丑と牡牛の星 ソウギュウ
3星副部隊長 寅と双子の星 トラカガミ 
4星副部隊長 卯と蟹の星  ウサギバサミ 
5星副部隊長 辰と獅子の星 シシリュウ
6星副部隊長 巳と乙女の星 ヘビオトメ 
7星副部隊長 午と天秤の星 ババカリ
8星副部隊長 未と蠍の星  ベニヒツジ
9星副部隊長 申と射手の星 ヤザル
10星副部隊長 酉と山羊の星 トサカヤギ
11星副部隊長 戌と水瓶の星 ウミイヌ
12星副部隊長 亥と魚の星  イノヒレ

「エニステミ討伐の立役者。12英雄。知らん方が騎士団としておかしい」

「知ってて軽口を叩くあんたのがおかしいぜ」

シャキッ、
シャキッと、
ウサギバサミは大バサミを開閉させながら、
顔をしかめる。

「氷の女王、エニステミの首をとったのが俺の双剣だ」

「知ってる。エースが欲しがっていた」

「あぁ、そいつなら返り討ちにしたことがある。他の11人も同じような実力者だ」

ふと、
背後に違和感を感じた。

「Jack in(ジャッキーン)!!おい!ヤザル!俺が話してる最中だろうが!」

振り向かなくても分かる。
背中に殺気。
そして、表からでも分かる・・・首に突きつけられた、
二本のアイスアロー。
それを掴んでいる男。

ユベンは反応出来なかった。

「おいおい。これがユベン=グローヴァーかい?もう一回殺したも同然だぜ?」

ヤザルという男は手からアイスアローを消し、
ユベンから離れた。

正真正銘、確かに、
一回殺されたも同然だった。

少し侮っていたようだ。

「・・・・確かに、このままでは分が悪いか」

12の星の12英雄。
確かに、
このままでは、自分一人で相手出来る者達じゃない。

「何よりじゃない」

ユベンは首を振った。

「ウサギバサミ副部隊長」

「Jack in(ジャッキーン)!!」

「一つ聞いておきたい。お前達ならロウマ隊長を止める事さえ出来るかもしれない。
 だが、ディエゴ部隊長が指示したのは俺の阻止なのか?
 ロウマ隊長を相手出来るのはお前ら12英雄ぐらいのものだと思うが」

「愚問だねぇ」

ウサギバサミは笑う。

「ロウマ隊長は裏切っていない。利用されて暴走されているだけだ」

「危害はあると思うがな」

「それでも最強さんはこちら側で、だからこそ、今あんたはそちら側なんだろ?」

なるほど分かりやすい。
よく出来た男だ。
それでこそ騎士団の騎士。

「・・・・・とまぁ、前置きはこれくらいにして。なんつーんだ?
 内門は突破される予定はねぇし、かといって城内のターゲットは2匹。
 あんたとミヤヴィ=ザ=クリムボンくらいだ」

「そうだな」

「ヒマでねぇ。長く遊んでたいわけよ。つまり俺らにとっちゃゲーム感覚ってわけ」

何よりじゃない。
遊ばれているわけか。
実力差的には彼らにその権利はあるわけだが。
最強の部隊副部隊長としては、
ロウマ=ハートを馬鹿にされたようなものだ。

黙っちゃいられない。

「ってことで最初誰が行くよ?制限時間3分交代な」
「じゃぁ俺と、」
「私ね」

二人の男女が、
前に出てきた。

「Jack in(ジャッキーン)!!決定。ネヒツジとベニヒツジ姉弟!」
「ずりぃな」
「二番手は俺達な」
「オッケー。ババカリとソウギュウが次な」
「俺は単体がいい」
「そん次はシシリュウ。あー!俺何番にすっかな!」

余裕な事だ。
かませ犬にしてやりたいところだが、
彼らの実力はそうさせてくれないだろう。

「何よりか」

12英雄を同時に相手にするわけにはいかないと考えれば、
これは吉兆かもしれない。
それにこの男達は嫌いじゃない。

過信しているわけでなく、自分達の実力を分かっている。
信じている。
だからこその余裕。
44部隊としてはそれは嫌いじゃない。
手合わせは光栄とさえ思う。

ただ、

「何よりじゃない」

自分には時間があるわけではない。
ロウマ隊長の下に向かいたいところ。
それが最優先事項だ。

この時点で、
ミヤヴィとエクスポが向かってきている事は、
ユベンも知らない。
彼らが辿り着くまで15分もの時間があった。

ゲームが一回りする程度の時間。

「・・・だがまぁ、突きつけられた勝負を不意にするほど、44部隊は落ちた部隊ではない」

ツヴァイとどちらが楽かななどと考えつつ、
ユベンは大人しめにドロイカンランスを構えた。

「任務もこなさなければならない。部隊の格も守らなければいけない。
 納期が迫っているのに別の仕事もやらなければならない。
 それがさらに検収できそうにない手に余る仕事だろうとだ」

ただ、
現時点で勝機はなかったが、
負ける気などサラサラなかった。

「まったく。中間管理職は楽じゃない」




































-ルアス城内 最上階下フロア-

「戦場となっていない時に城内は走るなパッカー副部隊長」

ディエゴは、
テーブルに大きく戦場の地図を広げ、
その上に多々の駒を配置していた。

眺め、それを動かし、
そして幾多の策略を頭に浮かべていた。

「今は焦る時ではない」

悪い意味で仲間に甘すぎる。
よく言われることだ。

現時点、
元王国騎士団ダニエルの乱入にやられ、
第16番・医療部隊の反逆にやられ、
第44番・竜騎士部隊の反逆にやられ、
全ては身から出た錆。

だがディエゴに後悔は無かった。
仲間を疑うくらいならば、
仲間にやられたい。

裏切られようとも自分は裏切らない。
それが彼の信念。
"騎志"だから。

「申し訳ありませんディエゴ部隊長!しかし!」

それでも現状、大きく劣勢になったわけではない。
どれだけでも挽回はきく。
それほど騎士団の力は大きく、ディエゴもそれを信じている。

とりあえず次の一手も、
52番の駒の一つを動かした。

「報告しろパッカー副部隊長」
「はい!その・・・・アレックス部隊長の本隊が移動」
「どこにだ」
「それが・・・・」

副部隊長は、
盤面のアレックスの駒に指をつけ、
それをずり動かす。

「・・・・・ここまで」

それは、
騎士団側の駒をかき動かし、かなり内側に食い込んでいた。

「・・・・どういうことだ?」
「はい。報告によると、アレックス部隊長は面による進軍を止めました。
 戦線を押し上げようとという戦い型をやめ、云わば・・・」
「槍」

ディエゴは盤面上を見ながら言う。
副部隊長は頷いた。

「はい。挟撃・・挟まれる事や囲まれる事・・・結果的に不利になるのを厭わず、
 医療部隊を中心に、一点集中で突っ込んできました」

ディエゴは不審に思った。
いや、
誰だって思う。
アレックス=オーランドが後先考えない猪突猛進を行うはずがない。

「既に西側と呼べる地域を抜け出し、デムピアスのガレオン船を迂回しました。
 噴水前広場付近まで食い込み・・・・つまるところ」
「内門も目と鼻の先か」

ここに来て、
一気に歩を進めてきた。
進めすぎなほどにだ。

「確かに医療部隊を前に押し出しての一点突破。
 こちらとしては明確な対処法は52をぶつけるぐらいしかない」

それにしても、
戦況が出来ていないのに飛車が単体で飛び込んできているようなものだ。
効果は一瞬の、
刹那の功績でしかない。

「とりあえずソラ=シシドウを鳴かせるというのは?」
「いや、医療部隊を中心にしているのはそれをも踏まえている。
 第16番隊も死骸騎士だ。コンフュージョンは通じない」
「それでも先細りの一点突破。後衛がやられれば彼らは孤立します」

そういう策だ。
愚策だ。
刹那の輝き。
そんな愚策をアレックス=オーランドたるものが何故使用する。

「何にせよデメリットは思い浮かばないなら、ソラ=シシドウを鳴かせよう。
 ソラ=シシドウの捜索人数を増員しろ。見つけ次第鳴かせるんだ」
「はい」

副部隊長は近場の兵士達にその旨を命令する。
その間も、
ディエゴは盤面を睨んでいた。

「長期戦になれば不利と考えたか?・・・・事実地道に進んでも反乱軍は尽きる。
 そう考えれば一点突破は当然の策とも考えられるが・・・」

盤面で、
アレックスの駒を見つめる。

「!?」

ディエゴは盤面に両手をついた。

「なるほど・・・」
「どうしました?ディエゴ部隊長」
「事実、44部隊も含め、駒が揃った絶好の機会ではある。
 それに加え、見ろパッカー副部隊長。アレックス部隊長の経路」

ディエゴは盤面を指差す。

「ガレオン船を迂回したんだぞ。東軍と合流出来るはずだ。
 挟撃も出来る。・・・・だが経路はそれを行おうとしていない」
「真っ直ぐ内門に向かってる感じですね」
「狙いは、中央・・・噴水前広場でデムピアス海賊団と合流することだ」

副部隊長は首をかしげた。

「それはそうでしょう。あの魔物達はこちらの陣地の真ん中で戦闘を行っている。
 そこと合流するのは当然の策です。それは隊長にも見えていたと思いますが」
「海賊団の戦況は?」
「はぁ・・・・あと30分もあれば殲滅出来ると計算しています。
 燻(XO)部隊長がデムピアスを倒せばさらに早まるかと」
「どちらにしても間に合う」

ディエゴは、
アレックスの駒を、デムピアス海賊団の戦地へと動かす。

「これで繋がる。反乱軍と海賊団を繋ぐ道が出来る」
「ですが、それも刹那の事です。こんな無謀な一点突破では、
 海賊団と共にこちらの陣地に孤立させられるのは目に見えています」
「それでも間に合う」

ディエゴは、
アレックスの駒をさらに進める。

「少なくともアレックス部隊長を含む少数鋭は、
 海賊団周りでは戦闘を行わず、そのまま内門へ突っ切れる」
「いや、でもそれも・・・・」
「デムピアスと燻(XO)が戦闘中ならば、絶騎将軍(ジャガーノート)さえ無視して突っ切れる」

副部隊長は言葉を詰まらせた。
海賊団の戦地なら、
戦闘を行わずに突っ切れる。
そこに燻(XO)という強敵がいようとも、
それはデムピアスに任せて突っ切れる。

デムピアスが負けようが関係ない。

「海賊王さえ囮に使うか」
「・・・・・確かにそれで一気に内門までアレックス部隊長は辿り着く事が出来るでしょう。
 でも内門にはミラ部隊長の部隊が構えています。その戦力で突破は無理かと」
「そこまでは俺にも分からない」
「援護としてオレンティーナ部隊長の部隊も構えていますしね」

何にせよ内門まで辿り着く。
そこまでいけば、
何か策があるのか?

「城内か・・・・。内側に居るのはユベン副部隊長とミヤヴィ=ザ=クリムボン。
 あと、地下からの侵入者が居たという報告があったな。その辺りを使う気か?」
「どうします」
「いや、その前に潰す」

ガツンと、
顔面のアレックスの駒に拳を落とした。

「内門突破の策があるとは思えないが、あろうがなかろうがその前に潰す。
 トリサイクル=銀(AG)部隊長の軍をぶつけろ。進軍を錯乱出来る。
 援護としてケミカル=パンツ部隊長もだ。強引は策で止める」
「ハッ」

副部隊長はまた指示を飛ばす。

「・・・・アレックス部隊長には力よりも策だ。・・・彼も奇策師だが、
 策を策で覆そうとするなら、そこにロスは生まれる。
 デムピアス海賊団との合流を遅らせることが出来れば・・・・潰れる」

ディエゴは思考をフルに回転させる。

「アイルカード部隊長は・・・東か。アレックス部隊長をロスさせるには打ってつけだが・・・。
 いや、無理に陣形を崩させるのが彼の作戦かもしれない。
 内門も念のため固めるか。アバ=キス部隊長の鼓舞部隊を内門守備に回せ」

作戦が飛び交い、兵達が慌しくなる。

「東を空けるわけにはいかない。クシャールという得体のしれない者も含め、
 傭兵に44。反乱軍の3部隊とシシドウ。層はこちら側が厚いことに変わりない。
 52本隊・・・グッドマン部隊長をそちらへ。徹底的に東は止めろ」

アレックスの駒が気になってしまう。
事実、
作戦が飛び交っているのは、
アレックスの動きに翻弄されている事に違いなかった。

「ここに来て内門一通の一点突破・・・まるで槍だ。愚策には変わりないが・・・。
 城内地下も調べろ。恐らく地下の2部隊は謎の侵入者にやられている可能性がある。
 ミヤヴィ隊員が一度地下へと歩を進めようとした点も気になる」

戦況は大きく動き出した。

「くっ・・・ロウマ部隊長の暴走などさせなければもっと楽なんだが・・・
 騎士団長・・・あなたは何を考えている・・・ただ・・・楽しめればそれでいいのか」

動き出した戦況は、
少なくとも騎士団に亀裂を走らせてはいる。

「隊長。報告します」
「なんだ」
「オレンティーナ部隊長の下に謎の人物。恐らく神族、ライ=ジェルンかと」
「・・・・・さらに飛び入りか。地下の侵入者にクシャールという男。ダニエル=スプリングフィールド。
 44部隊と16番隊の反逆。確かに期としては揃った時期ではあるが・・・。
 それでもアレックス部隊長が愚策に走る理由は・・・・いや」

走る事が出来る理由はなんだ。
その策を、
とってはいけない策を、とることが出来るようになった引き金は・・・。

「あの・・・隊長」
「なんだ。なんだパッカー副部隊長!」
「いえ・・・もしかしたら大した疑問でもないのかもしれませんが」
「なんでもいい!言え!」

副部隊長は、少し自信なさげに言う。

「アレックス部隊長は、医療部隊と共に一点突破に踏み出ています。
 槍の先端を担って・・・突っ込んできています」
「あぁ」
「なら・・・・・」

副部隊長は、盤面を指差す。
それはアレックスの駒でもなく、
海賊団の戦地でもなく、
内門でもなく、
城内でもない。

一点突破で取り残された・・・西。

「西の本陣は、誰が指揮しているのです?」

ディエゴは止まった。
動きを止めた。

「・・・・・」

西。
そちらは反乱軍の大半を有しているにも関らず、
指揮出来る者がアレックスしかいなかった。
いや、
それだけの大軍を担う器が、
アレックス=オーランドを除いていなかったからこそだ。

その先導者が少数精鋭で一点突破に突っ込んだ。

「・・・捨てたのか?一点突破に踏み切ったならそれもありうる。
 ・・・いや、一点突破するからこそ、最低限の後方支援がなければいけない。
 後ろが柔いなら、アレックス部隊長の少数鋭は格好の標的・・・・」

なら、
西軍を指揮しているのは誰だ?
ディエゴは、
敵の面々を思い浮かべる。

「!?」

ディエゴは時計を見た。

「しまった・・・頃合か」

同時に、報告兵が飛び込んできた。

「ディエゴ部隊長!西城壁に!」

































-庭園 西-


「どういうことよね?」

第7番・摩訶部隊 マリリン=マリリン部隊長は、
動揺していた。

「アレックス=オーランドが愚行に出たよね。そこはいいよね。
 そこを突いて、私達は西軍を魔法で一気に虐待にしてやろうとしてたよね」

だが、
西軍は陣形を崩していない。
身勝手な動きもしていない。
まとまっている。

「どういうことよね?卑猥に虐待できないよね」

マリリン=マリリンが困惑していると、
彼女の部下。
彼女と同じように赤と黒のローブ・・・
カンジャラフードに身を包んだ魔術師が駆け寄ってきた。

「マリリン部隊長!」
「私を名で呼ぶな!馴れ馴れしいっ!」
「え!?・・・あ、申し訳ありませんマリリン部隊長」
「そう!私を呼ぶ時は敬意を持って姓で呼ぶのね」
「マリリン部隊長!」
「そぉーう!それでいてもっと私をさげづむ様に!
 Be!Obscene(もっと淫らに)!Be be Obscene(もっと猥褻に)!
 Be!Obscene(もっといやらしく)!但し!私への敬意は忘れないことよね!」

メチャメチャに訳の分からない事を言いながら、
マリリンは両腕を組んで満足したようだ。

「あの」

話しの続きだと、
部下は、部隊長であるマリリン=マリリンに報告する。

「それでマリリン部隊長」
「私を名で呼ぶな!馴れ馴れしいっ!」
「あ、はい。それでマリリン部隊長。敵です」
「何を言ってるよね。この馬鹿部下は」

そういいながら、
摩訶部隊部隊長マリリン=マリリンは、
赤と黒のカンジャラフードの内側から、
二本の杖を取り出し、クロスさせる。

「アレックス=オーランドが、あろう事か私の部隊を無視して一点突破したよね。
 むかついたよね。侮辱されたよね。八つ当たりをしてやろうと思ったよね。
 だから私は・・・・この"二杖流"で頭の無い西軍を始末してやろうとしたよね」

モノスタッフとオクタスタッフ。
黒と赤の杖をコツコツとぶつける。

「敵いるの、当然よね。ザコを虐待するために私はここに居るのだから」

まぁ、何故か統率がとれているので、
虐待に値する行為とはいかないが。

赤と黒の半分半分の魔術師は、それで妥協することにした。

「まぁ!今更!どう!でも!いいよね!残虐ショーの始まりよね!
 Be!Obscene(淫らで)!Be be Obscene(猥褻で)!Be!Obscene(いやらしくあれ)!
 それこそ摩訶不思議マリリン=マリリンのMobscene(ショータイム)よね!」
「いえ、マリリン部隊長」
「そう!私の事は敬意をもって姓で呼べ!」
「敵が・・・・」

部下は、
突破したアレックスの部隊でもなく、
残された西軍でもなく。

「城壁の上に・・・」

上機嫌に二本の杖を掲げていたマリリンは、
言われてさらに西。
西の城壁の上を見た。

「・・・・ほぉ」

カツンカツンと、
頭上で杖をぶつけながら、
敵を、
視認する。

「なるほど・・・よね。そういう事」

ニタリと笑う。
目にしたのは、

城壁の上に立ち並ぶ、無数の・・・・・・魔術師。

「Be・・・・be!be!be!be!オブスィーーーン!いやらしい状況よね!
 そういう頃合!そういうモブスィ〜〜ン・・・・そういう場面かっ!」

杖を二つ、
前に。
敵陣へと突きつけた。

「西軍の指揮権は、あんたに代わった。それだけ。よね」

西軍の中に一人、
落ち着いた様子の女。

「15ギルドのトップ3。《メイジプール》のリーダーともなれば、
 これだけの西軍を指揮するのは容易ってことよね」


「顔が割れているようですね。攻城戦の常連というのも困ったものです」


明らかにサイズのあっていない、
ピンクのローブはまるでミニスカートのようだった。
その裾に両手を当て、
フレア=リングラブは丁寧にお辞儀をする。

「これより西軍は私の指揮下。そして、西の戦場は私の監視下となります故・・・・」

ご了承を♪

フレアは微笑んだ。

「Be・・・・be!be!be!be Obscene!天使の顔した小悪魔め!その淫猥さ!素敵よね!
 《メイジプール》マスター!『フォーリン・ラブ』のフレア=リングラブ痴女!
 精神的に死んで戦線離脱したと聞いたけど!お早い復帰だことね!」

「涙は女の武器。だけど、泣いてるだけじゃぁ武器も錆付いてしまうから」

笑顔は絶やさない彼女。
微笑みは全ての理由を打ち消してしまう。
ズルいものだ。

「だがフレア=リングラブ痴女!浅はかよね!最初に立ちはだかる私を誰と心得るよね!」

「マリリン=マリリン部隊長・・・さんですよね?」

「名で呼ぶなっ!馴れ馴れしいっ!だがそう!私の部隊は魔術師の部隊!
 その中でも"同時発動"を主軸とした好戦的な魔術・・・・・」

マリリンの言葉を無視して、
フレアは片手をあげた。
同時に、
城壁の上の魔術師達が・・・・・一斉に魔術の砲撃を始めた。

戦場に降り注ぐ魔法の弾丸。

西は一気に騒がしく華々しくなる。

「お話中申し訳ありません。でも遠距離戦と、魔術と、戦争の基本は・・・。
 優位な場所をとること。そうではありませんか?そうなんですよ♪」

フレアは微笑む。

「何を隠そう、攻城戦の主役は魔術師ですからね。居ても立ってもいられません♪それに・・・」

フレアは両手を胸に当て、目を瞑る。

「私は外門で、してはいけない過ちを犯しました。後悔の螺旋に落ちました。
 何度も考えて懺悔したけど、取り返しはつきませんでした。
 汚名は返上できないものです。・・・・・・でも・・・・・・・・・名誉は挽回出来るはずです」

誇り高き、
敬意の繋がりで出来たエリート魔術ギルド。
《メイジプール》

「私は駄目な娘でも、ギルドの名誉は守らなければいけません。
 終焉戦争で散った仲間と、マスターのためにも」

「Mobscene(いい場面)よね!」

マリリン=マリリンは両杖をクロスさせる。

「それは私達騎士団も同じよね!全く!完璧に同じよね!
 騎士団は二度と陵辱されない!手始めにあんたで証明してやるよね!」

「残念ながらお断りします♪」

戦場に、
魔法の雨が降り注ぐ中、
降り注ぐ愛の女は微笑む。

「これから私達は、一点突破を試みたアレックスさんの後を追わなければなりません。
 何せ、内門突破こそ魔術ギルドの・・・そして私の能力の有様なのですから」

アレックスの愚行。
愚策。
そこに残された最後のカギ。
内門突破。
それは・・・・・ここに合った。

「・・・・・それは聞き捨てならないよね」

「あっと。私としたことが」

フレアはわざとらしく両手を口に当てて、
驚いた風を演出する。

「これでは、"格好の標的であるアレックスさんの部隊より、私を狙われてしまう"」

わざとらしく。
わざとらしく。
彼女は演出し、
笑う。

「困ったものですね。これでは逆にアレックスさんの方が手薄で突破しやすくなっちゃいますね」

ふぅ、とため息をつく。

「しょうがないです。じゃぁ私は西軍と《メイジプール》をひっさげ、
 囮ついでに内門まで堂々と突破でも試みようじゃありませんか。
 出来るだけ派手に、出来るだけ被害を大きく、出来るだけ捨て置けないように・・・・ね♪」

軽口を叩くか弱きミニスカートの乙女は、
わざとらしく、
ただ、

「ではマリリン=マリリンさん。"短い間でしょうけど"、お相手よろしくお願いします」

強気だった。






























-庭園 東-

「で、つまり東はうちが仕切るっつーわけ」

ツバメは黒服を引き連れつつ、
スーツをマントのように羽織い、
ポーズを決めるが、

「ねぇ、おいって。聞いてっか!?」

メッツもエースもエドガイも、
思考は別の方に行っていた。

「チッ・・・・メッツ。今の奴らどう思う」
「ハンパじゃぁなかった。それだきゃぁ間違いねぇ」
「あぁ。俺も長年騎士団やってるが、敵として対峙したのは初めてだ。
 まさか52(さくら)の奴らがここまで戦れる奴らだとは思わなかった」

52番隊が来たのは、
アレックス達の西だけではなかった。
こちらにも嵐のように、
和服和姿の仮面達は現れた。

「騎士団内での質じゃぁ俺達44が最強じゃなかったのかよ」
「俺達?はん。メッツ。テメェはまだちゃんと44っつー看板は背負ってるみてぇだな」
「はぐらかすなよエース。俺達は強さの看板を背負ってんだ。
 そりゃぁケンカじゃ負けねぇって意味で、それがやりたいようにやられたんだぞ?」

ケンカは大好きなケンカ屋だ。
メッツは。
しかし、負けるのは大嫌いだ。
最終的に勝つからこそケンカは面白い。

「確かにありゃぁ涙目だった」

エドガイは言う。

「この俺ちゃんが秒間1体倒せないなんてこたぁ侮辱でしかないねぇ。
 まぁそれでも俺ちゃんの敵じゃぁねぇがな。面倒ではある」
「エドガイさんよぉ。あんたは攻城戦の常連だ。何度も52とは対峙してんじゃねぇのか?」
「ははぁん。そうだな。毎度面倒なことだった。ただ、それに加えてアンデッドときたもんだ」

ただでも精鋭なのに、
多少の傷ではビクともしないどころか痛みもない・・・死骸騎士(アンデッド)。
面倒というならば、
このことこの上ない。

反乱軍では現状、
アレックスの16番隊と、
エドガイの《ドライブスルーワーカーズ》が抜きん出た精鋭だが、
52は、
それさえも止めた。

「アンデッドっつー特性を付け足すなら、俺ちゃんの傭兵達と同等だった」

それは、
一般兵の中では最強と呼んでもいい。

「・・・・・いや、"同等"と呼ぶよりはむしろ・・・・」

エドガイはいつも通りピアス付きの舌を出しておどけたが、
怪訝な顔つきだった。
自分の仲間の傭兵と比べたところ、
52の実力には感じるところがある。

「あーあーあー、こほん。ん。ん。こほん」

ツバメがわざとらしく咳き込む。
それを察し、
黒服のヤクザ達が怒涛。

「おいおいおい!」
「てめぇら!」
「姉御が意見してんだろうが!」
「舐めとんかおどれら!」

五月蝿い故、
メッツもエースもエドガイも、
面倒そうに振り向いた。

「おうおうおう!」
「我らが組長ツバメ=アカカブトの姉御がお出ましだ!」
「戦闘不能の淵から蘇った竜の燕!」
「姉御!言ってやってくだせぇ!」

「ふふん」

ツバメはボブカットを片手でかく仕草をし、

「生まれた時から極道へ繋がっていたのがうちの道。
 死が始動する運命と53番目の血が宿命でも、盃交わしたのはヤクザ筋。
 竜と虎の心を継いだ燕は、黒の鱗を纏って今ここに・・・」

「んでメッツ。成り行きで一緒になっちまったがどうする」
「知るかよ。俺ぁ俺でやりたいように戦う。ついてくんのは勝手だがな」
「誰様だよ。44では俺のが先輩だぞ。44の任務も出た以上、俺の指示に従えっての」
「先輩の顔を立てろなんて命令は出てねぇんでな。まぁ任務は面白ぇと思ったよ。
 事情は何かしらあるんだろうが、ロウマ隊長と戦えるってんならそれもいい。
 ただ、目的のために過程は自由ってのが《MD》の信条でな」

「聞けー!」

両肩に力を入れてツバメは怒鳴った。
そんなツバメを、
エドガイは自分の唇を指でなぞりながら言う。

「可愛い子ちゃん。なんかキャラが安くなったねん」

「ぶん殴るぞ変態のクセに!」

と言いながら実際ぶん殴った。
エドガイはベロを出しながらおどけた。

「痛いねぇ。俺ちゃん涙目。・・・・で、可愛い子ちゃん。
 カッコよく演出させてやれなかったのは悪かったけどさ。どすんの?」

「ん」

ツバメは苛立ったまま、
両腕を組んでいた。

「いや、「ん」じゃなくてだなおたく。東軍の指揮を頼まれてんだろ?
 実際それは助かる。団体の指揮者は完全に不足してたからねぇ」

「ハハハ!だろうねぇ!反乱軍で団体の頭をこなせるのなんて・・・まずうち!、
 《昇竜会》がマスター(組長)であるうち!・・・そしてフレア嬢くらいのもんだ。
 アレックス=オーランドはそれを踏まえて隊を二つに分けたんだろうよ」

アレックスのやる事はいちいち理に叶っている。
メッツとしては、
理なんていちいち疎ましいだけだが、
毎度ながら感心させられるのも事実だ。

「ガハハ!まぁ俺も助かる!足枷が少し剥がれたようなもんだからな!
 ロッキーの野郎も慣れねぇ指揮でカッツカツだったしよ。
 ・・・・ってそういやマリナとロッキーはどこいきやがった?」
「周りを見ろ。他の隊は動いてる。俺らがペチャクチャしてる間も進行中だよ」

そりゃぁいけねぇ!と、
メッツは意気込んだ。

「おいてけぼりたぁケンカ屋の名が廃る!」

そういって両手斧を担いだ時に気付く。

「ってありゃ」

その辺の騎士から奪った中古品の両手斧だ。
52と戦って無事に済んではいなかった。

「ったくよぉ。命も武器も消耗品でいけねぇな。
 サンドバッグと一緒だ。俺にとっちゃぁ丈夫じゃなきゃ意味がねぇ」

壊れた斧を投げ捨て、
メッツは煙草を取り出した。
今咥えて火を付けたヤニと同じだ。
メッツにとって武器なんてものは、
火をつけたらそのまま燃え尽きてしまうものに代わりない。

「いい名前使ってねぇなぁおい。いいかメッツ。獲物ってのはその人物の象徴だ。
 名前と同様で同等。いい名前(獲物)を使えないのは本人の器ってわけだ」

エースがやれやれと背中の棺桶を落とす。
地面に落ちるとズシンと沈むほどの重量。

「名無しの俺が言うのもなんだが、俺が名前を貸してやる」

とっておきだ。
と、棺桶から取り出したものを、
片方ずつ、
地面に置いた。

「・・・・・おぉ」

武器なんてものに興味もこだわりもないメッツも、
煙草を手に留めてしまうくらい、
その武器には威圧感があった。

「重すぎて俺には扱えないが、眠らしておくにはもったいねぇからよ」

それは、
重々しい・・・・二つの斧だった。

赤い・・・炎のように赤い斧だった。

「・・・・イカすじゃねぇか」
「だろ?」

地面に転がる二つの両手斧は、
鋭さよりも重圧感・・・いや、威圧感を発しており、
その二つの斧の姿はまるで・・・・

赤き"両翼"

何のと言われれば・・・

「両翼斧"クリモラクシャ"」

気高き火竜のようだった。

「今になって見てみれば形状自体は天上武器のクシュロンだが、実際の詳細は不明だ。
 俺が昔、クシャールの馬鹿オヤジからパクったもんでな。
 まぁなんであれ、俺のネームコレクションの中でも特上の一品に違いはねぇ」
「クシャール・・・・あいつのか」

『竜斬り』
ロウマ=ハートの匂いを感じた・・・
いや、最強を斬ると言い放ったあの男の。

メッツはそれを拾った。
その不恰好な重量感はとてつもなかったが、
よく手に馴染んだ。

「竜。竜ねぇ」

ツバメは口の下に手を当ててそれを眺める。

「竜はいい。竜は全ての象徴だよ。うん。うちも認めてやる。
 もっと趣(おもむき)があれば《昇竜会》の事務所に飾ってやりたいねぇ」

「これの元持ち主のあだ名は『竜斬り』だけどな」

「お呼びじゃないよ!その武器は腐ってるね!」

一瞬で言動を覆すツバメ。
エースはムッとした。

「ざけんな!俺のコレクションにケチつけんじゃねぇぞ!・・・・・ん!?」

エースはツバメのベルトにかかっているものを見る。

「そりゃぁリュウ=カクノウザンの"大木殺(だいぼくさつ)"か」

「お、これに目をつけるたぁいい目をしてるじゃぁないか」

「それは確かにいい名前(武器)だ。おい女。くれ」

「お呼びじゃないよ!」

だが真面目な顔をしてエースはツバメを見る。
その木刀と共に。

「いや。武器は主を選び、主は武器を選ぶ。お前はソレに相応しいかどうかだ。
 使うか使われるか。相応しくないなら言葉通り"名が廃る"。
 そういう事だ。ついさっきも『人斬りオロチ』に同じ事を言ってやった」

「イスカ嬢に?」

ツバメは首をかしげた。

「そうだ。言っただろ?武器は名前。人の象徴だ。
 現時点で俺は、その武器に似つかわしくないと評価するね。
 名を汚すくらいなら、落ちる前に俺のコレクションに保存させてもらう」

それを聞いてツバメは不機嫌に・・・・
なるかと思いきや、笑みを漏らした。

「上等だね。《昇竜会》の頭として相応しい女になってやる」

「ふん」

エースもそれに対しては上機嫌に笑った。

「まぁいいさ。名が熟したら俺のコレクションに・・・っておい!メッツ!」
「あ?」
「何俺の斧を乱暴に地面に落っことしてんだ!」
「重かったから疲れた」
「貸しただけつったろが!大事に使え!ってあー!お前!
 捨てたシケモクの上に落っことしてんじゃねぇよ!灰がつくだろ!」
「細けぇしウッセェなぁ」

メッツは耳をほじりながら、
次のタバコをすでに咥えていた。

「だぁ!匂いがつくだろ!そうだ!ほれメッツ!これ使え!」
「うぉ?」

エースが何かを投げて、
メッツはそれをキャッチした。

「ユベンからだ!携帯灰皿!ポケットアッシュ!ついでにお堅いあいつから一言!
 携帯灰皿とは・・・・どこでもタバコを吸っていい証ではない・・・・だとよ!」
「ガハハ!似てねぇー!」
「うっせぇ!何度も言うがその斧は貸しただけだからな!
 俺じゃぁ扱えないから貸しただけ!レンタル!分かったか!」
「わぁーった。わぁーった。でもお前、使えないのにこんな斧常備してたのか?
 普段合計何百kg背負ってんだよ。馬鹿なのか?アホなのか?」
「うっせー!俺のコレクションの重さは俺の誇りの重さだ!」

そんなエースにゆっくり近づいていき、
おもむろに馴れ馴れしく肩を組むエドガイ。

「まぁまぁ落ち着けジギー」
「ジギーじゃねぇっつってんだろエドガイ!俺は名無しのエースだ!
 それとお前の面白銃剣も俺のコレクションにしてやるからな!」
「無理無理。これは俺ちゃんが親父(ビッグパパ)から買った獲物だ。
 ピーキー過ぎて常人にゃぁ扱えないよぉーん」
「へへっ、名前(獲物)ってのはじゃじゃ馬な方がいい塩梅なんだよ」
「お、分かってんねジギー」
「エースだ!」

そんなこんなも、
戦場でダラダラし過ぎたせいもあっただろう。

最初に反応したのはエドガイ。

「訪問販売はお断りだよん」

エースが奪うと注目したその銃剣・・・
いや、拳銃ならぬ剣銃の刃先(銃口)を向ける。


「ナニ。ケンカいうのは売らなきゃ買ってくれないものアルね。そうデショ?」


この辺りでは見かけない、
おかしな格好をした集団。
ただ、
先ほどまでのトークの主役である武器。
それをを持ち合わせていない・・・・というより、
四肢こそ武具と言わんばかりのたたずまいをした、
修道士達。

「第13番・古武術部隊か」

「いかにも」

エースが言うと、
先頭の男がお辞儀をする。
さらに、

「やっちまいな!」

前振りの会話など待ってられないと言わんばかりに、
ツバメが号令をあげた。

ヤクザ達を中心に、一気に戦場が再開する。

辺り一帯で13番隊と反乱軍がぶつかり合う。

「我慢足らないお嬢ちゃんアルね」

「戦場で挨拶なんて馬鹿らしいでしょ?」

ツバメはそう笑ったし、その通りだった。
それ以上に、
久しぶりにいてもたってもいられないというツバメの士気が見て取れた。

「ガハハ!いきなり戦闘かよ!分かりやすいし手っ取り早くていいぜ!
 新しい斧の塩梅でも試すかね。ちょっくらい腕鳴らしでもするか」
「まぁ待てメッツ」

消えかかった煙草を投げ捨てるメッツに対し、
エースは抑止する。

「あぁ?」

辺りでは戦闘がおっぱじまったせいで、
ウズウズしているところにお預けを食らった気分だった。

「こいつらの部隊は見ての通り、文化の違う奴らだ。
 いや、聞いての通りか。カタコトな言葉遣いで分かるだろ?
 うちに居たダ=フイと同じ、マサイ部族だ」

マサイ。
サラセンと双璧を成す武術都市。

「はぁはぁ道理で。でも俺ちゃんはマサイは滅んだってきいたけどねん」
「滅んださ。騎士団のせいでな。ただ正確には騎士団が食ったというべきだな」
「なるほどねぇ」

エドガイは納得する。
つまり、
騎士団に食われたマサイの戦士。
その胃袋に残ったのがこの部隊というわけだ。

「そしてその中でもトップ3なのがそいつら3人だ」
「3人?」

先頭に居た男。
その後ろから2人、
分身したように湧き出てきた。

「ダ=ムド。ポ=リス。そして部隊長ノ=エフ。気を付けろよ。
 うちのダ=フイはマサイでも異端だったからこそ44に居ただけだ」

「そういう事アル」
「マサイの武術はそこいらの武術と違うネ」
「伝統であり、独特かつ、新機軸アルよ」

3人の武人。
マサイの戦士は同時に構えをとる。

「ボクシング。カンフー。空手。テコンドー。ムエタイ。柔道」
「相撲。レスリング。サンボ。合気道。カポエラ。バーリトゥード」
「この世の武術で最強とは何かわかるアルか?」

「ケンカだ!」

メッツは偉そうに胸を張って言ったが、
無視された。

「それらのどれでもないネ」
「それらの全てには穴がアルよ」
「それは・・・・」

全て、
基本的に1対1を目的としているから。

「よくても1対多」
「それも付け焼刃ネ」
「それではあくまで"格闘技"ヨ」

戦場では使えない。
それは、
武術で最強にはなれない。

「多対1」
「そして多対多」
「それを目的に作られたのが・・・マサイ武術ネ」

部隊長ノ=エフ。
及び、
ダ=ムド。
ポ=リスは、構えをわずかにも乱さない。
言わば・・・
三位一体。

「死角があれば、無敵じゃないネ」
「隙があれば、無敵じゃないアル」
「つまり、格闘技は最強じゃないネ」
「人ナラ、背中がアルね」
「人ナラ、両手足は増えないヨ」
「どんな武術でも、目指す技とはコンビネーション。コンボアルよ」

それを多人数にして極めたのが、
マサイの古武術。

「ガハハハ!なるほどな。エース。つまりこっちも多人数制で行かなきゃ・・・
 ってことで一度俺を止めたわけか。だがよぉ。だが、だ。
 残念な事に俺ぁ人と歩幅を合わすほどお上品じゃぁねぇぜ?」
「勘違いするなメッツ。共闘を薦めたわけじゃぁねぇ。
 向こうは慣れてるから気を付けろ・・・っつー先輩の助言ってわけだ」

確かに、
メッツ。
エース。
それにエドガイ。
三種三様、出所の違う者達にコンビネーションなんて期待できるものじゃない。

「そうイヤ、そこの黒服女」

部隊長ノ=エフが、
構えたまま顎をクイクイと指す。

「なんだい。お呼びじゃないよ」

「お前トコのヤクザ。昔、赤いのと戦った事アルよ」

思考を巻き戻す。
赤いヤクザ。
・・・・タカヤ。
リュウの側近で、GUN'Sのスパイだった男。
タカヤ=タネガシマ。

「3倍3倍五月蝿かったネ」
「なんであんなに3に拘ってたか分かるカ?」
「ワタシ達の強さ、知ったからアルよ」

「へぇ」

なるほど。
ツバメは笑った。
それは面白い。

「マサイで3は聖なる数字ヨ」
「安定を示す、極めの数字ネ」
「三位一体。それは極限アル」

「面白いよ。はん。面白過ぎて腹が立ってくるってもんだねぇ。・・・嘴(クチバシ)二刀流」

左手には使い慣れたククリ。
右手にはヤクザの頂点の証である木刀。

「タカヤの兄貴の事はうちの汚点だけど、あんたはヤクザを舐めた。
 箔がつかねぇってもんだ。黙っちゃいられないね」
「へぇ。ヤクザ姉ちゃん。面白い両刀だ。確かに賊が扱える二つの武器だが、
 ウェポンマスターってのは俺の領分だぜ?目立たせるわけにはいかないな」

エースは自分の棺桶の中のコレクションから、
一つ、迷わず武器を選んだ。

「マサイ族が相手っつーんなら、これしかねぇだろうよ」

エースはそれを手に取れば、
両手でその槍を頭上でブンブンと回転させる。

「ホアチャー!・・・ってか?」

そして、
それを脇に挟んで止めて、わざとらしい構えをとった。

「闘槍"ダ=フイ"」

カンフー映画よろしく。
エースはクイクイと片手で手招きの挑発。

脇にスネイルジャベリンを挟んだ構え。
エースのそれは、
戦士とは思えない構え。

「そうだジギー。それだぜ・・・」

エドガイは、そんなエースに聞こえないような小さな声で、
彼を見ていた。

「『千刀流』ジギー=ザック。それがお前だ。本当のお前なんだ。
 正しくは『千闘流』のジギー。武器によって戦闘スタイルを自由に変化させる・・・」

職にも色にも塗られない、
無限の戦闘術。
戦士でも騎士でも盗賊でも修道士でもなく、
武器の種類だけスタイルをシフトチェンジ出来る・・・・体。
特殊な・・・・・
モルモット。

「御託はいらねぇよ。さっさとやろうぜ。マリナとロッキーに遅れとってちゃダセェしな」

メッツは再び、
新しい斧をずっしり両手に束ねる。

「まぁいいじゃないさ。これも作戦の一貫ではあるし・・・ってああ。うちってば口の軽い事」

ツバメがウププと笑えば、
修道士達が怪訝な目をした。

「時間稼ぎってわけだよ。そう、お呼びじゃないんだよ。
 一応、魂だけの死骸にも脳ミソ的なものがあると仮定して聞いてあげようか?
 ・・・・《昇竜会》ってのはここに居る分で全員ってほど、少ない人数だったかしら」

そういえば、と
誰ともなく辺りを確認した時、

「もういいんだよ!難しいことは!」

我慢が一番足りなくて最初に動いたのはメッツだった。


































「《昇竜会》の人数が足りない・・・・か」
「はい」

作戦の間で、ディエゴは副部隊長の報告を聞く。

「確かに、その報告の数だと半分ほどしか居ないだろう。誤差の範囲じゃぁないな」
「でもまだ敵軍の全体像の分布を調べきったわけではありませんから・・・・・」
「ただ、どこかに分割して配置しているだけかもしれない・・・か」

ないな。
ディエゴは否定した。

「分断した東・西軍。それをギルドマスター2人に任せる。手際が良すぎる。
 完全に下準備があってとった布陣。それをとったのはアレックス部隊長だ」
「・・・・はい」
「あのアレックス=オーランドは、二人のGMの復帰を見越していたんだ。
 いや、調整までしていたレベルだろう。つまり、この援軍は確定事項」

その結果がコレだ。
と、ユベンは盤面を指差す。
西を。

「未熟とはいえ、フレア=リングラブは十分に優秀な先導者だ。
 彼女を伏兵として残すことで、アレックス部隊長は単独突破に踏み切った。
 踏み切る事が出来た。無謀に変わりないが、無謀を可能にした」

トカゲの尻尾切りではない。
頭を二つ用意し、分離した。
西軍はそのままに、一点突破のカードを切った。

「突撃を作戦として決行しただけではない。西軍は後衛としてさらに強固になった。
 今までは西も東も、敵と敵がぶつかる"線(ライン)"上でしか戦闘は行われなかったが、
 魔術師ギルドを旗本としたことで、これからは"面"で制圧出来る」

範囲攻撃。
攻城の主役は魔術師だ。

「しかし、魔術師というのはやはり脆いもの。崩すのは容易かと」
「そこも周到だった。タイミングの問題だ」
「タイミング?」
「わずか過ぎる絶妙なタイミングだった」

自分の性格を読みきられたとしか思えない。

「アレックス=オーランドの少数精鋭による突破。最初に叩き出されたのはそれだけだった。
 俺はアレックス部隊長の意図ばかりに気を取られ・・・・・チッ、敗北だな。
 結果、俺は打倒過ぎる決断を下した」

注目はアレックスと、デムピアス海賊団。
そして、
アレックスの進行方向が指し示す、
騎士団の最終拠点・・・・内門。

「意識をはぐらかされた。俺はそれらに対処しながら、あろうことか出した指示。
 西軍は手薄になったのは違いないと、摩訶部隊を流した」

特に深い思考もなく、

「脆くなった大軍を一層するには魔術師の部隊が適任だとな」
「間違っていないと・・・・」
「大間違いだ」

他の部隊ならどれでもよかった。

「フレア=リングラブを含む《メイジプール》の存在への発覚が遅れた。
 魔術師に魔術師をぶつけてしまった。正々堂々、対等の土俵を用意してしまったんだよ」
「でも」

副部隊長は否定する。

「魔術師同士の部隊対決でも、マリリン=マリリン部隊長の部隊はひけをとらないと」
「遅れをとるさ。贔屓目を抜くとな」
「そんな・・・」
「それ以上に、」

盤面上に、ディエゴは新たな駒を並べる。
最西端。
城壁の上に。

「城壁の上をとられた。これが致命的だった。魔術師にポイントを抑えられた」

西は、
城の真下まで、《メイジプール》の射撃範囲と化す。

「同じ土俵の中で、ハッキリ言って摩訶部隊の勝機は見えない。
 既に撤退の命令は出したが・・・・間に合うか・・・・」
「間に合わせます」
「どちらに転んでも負けなんだがな。摩訶部隊が敗走した分の広範囲を占拠される。
 摩訶部隊が居た空間分、西軍の進攻を許す事になるのだからな」

ディエゴは盤面に軽く拳を打ちつけた。
副部隊長は、
ありがた迷惑と知らず、慰めるように進言する。

「た、確かに西は現状反乱軍の流れとされました。ですが持ち直すことが出来るのが騎士団」
「あぁそうだ。やられっぱなしでいられるか」
「アレックス部隊長の方も、内門まで一気に突破したとして、そこまでです。
 フレア=リングラブでもいなければ内門の突破にわずかな光明も見い出せない」

確かに、
西を立て直せば全ては元通りだ。
目的はハッキリした。
何よりもフレア=リングラブを、西を止めればいい。

「逆に東はそこまで状況は変わっていません。むしろ現状まだこちらのペース。
 52が退がった隙間で乱戦気味にはなっていますが、
 相手の進攻を許しておらず、もう半刻あればむしろ押し返すでしょう」

そこで違和感を感じた。
だからこそ、
《昇竜会》の数が気になった。

「!?」

ディエゴはハッとし、
マップに両手を付き、食い入る。

「おいパッカー副部隊長」
「なんでしょう」
「西は完璧だった。フレア=リングラブの復帰。それを完全に戦略に組み込んでいた。
 アレックス部隊長の単独突破に謀略。こちらの陣形まで操り、あろうことか西の城壁まで占拠した」
「・・・・はい」
「特に城壁だ。これは援軍だからこその戦略だ。増援だからこそ成り得た不覚だ」

《メイジプール》を、
伏兵の援軍としてよこしたからこそ、容易にとられた。

「なのに東の詰めの甘さはなんだ」

東軍。

「ツバメ=アカカブト・・・・いや、ツバメ=シシドウか。
 彼女と《昇竜会》が来て、統率がとれた。"それだけだ"」
「・・・・買いかぶりでは?東は確かに反乱軍にも頭数が揃っていた。
 中途半端とはいえ、統率者が3名居た。効果が薄かっただけでは?」
「アレックス=オーランドに限ってか?」

ディエゴに睨まれ、副部隊長はギョッとした。

「西は、援軍を戦略に組み込んでいた。なら東は?増援するだけ?
 馬鹿な。アレックス部隊長がそれで満足する球なわけがない」

副部隊長は慌てる。

「だ、大丈夫です。西と違い、東に当てたのは古武術部隊。実践的戦闘部隊。
 突破さえ困難な上に、後ろに52番(さくら)の本隊を据えています。
 さらにその後ろにはオレンティーナ部隊長。・・・・・何があろうと・・・・」

鉄壁だ。
だがそれは向こうも分かっている?
ウォーキートォーキーマンという情報屋を雇っている。
布陣の情報に関しては早いはずだ。
ならアレックスも東が鉄壁であることは分かっている。

「・・・・・・城内を固めろ」
「は?」

城内?と、副部隊長が首を傾げる。
それをさらに折り曲げる勢いで、
ディエゴは盤面上に手の平を打ちつけた。

「城内を固めろと言っている!東に戦略を組み込めないならば!
 アレックス部隊長はどこに東の戦略を扱ってくる!」

どこに、
援軍を、
伏兵を送り込む。
消去法で考えれば・・・・・・・・決まっていた。

ただ、気付くのは一手遅れた。

突然の命令で慌しい作戦の間。
その中の一人の兵士に、WISが飛んできた。

「ディエゴ部隊長!」

そいつは慌てて駆け寄ってくる。

「敵が・・・・・・」

遅かったと、
ディエゴは顔を覆った。

「黒服のヤクザ共が地下から・・・・・」

ミヤヴィ=ザ=クリムボンが、
地下を気にした行動をとった時に、
もう少し深く疑っておくべきだったと後悔した。


































「光だ・・・・」

シド=シシドウは感動で震えた。

「地上だ!!ミラクルハッピー!ヤッハー!」

ウサギの殺人鬼は両手をあげて飛び跳ねた。
とうとう迷いに迷い続けた迷い兎は、
1階へと到達した。

「明るい!明るいぜ!僕の未来のように!」

明るい。
光といっても、
攻城戦中は1階フロアの窓は全てシャッターで閉じられる。
(内門を無視されて侵入されたらマヌケでしかないからだ)
なので光といっても人工的な灯りなのだが、
地下のそれと比べてシャバらしい空気に満ち溢れているのは確かだった。

「うう・・・気付けば長かったぜ・・・なんで僕が地下なんかに・・・」

思い起こせば辛い旅路だった。

「ルアス市街戦の時、うっかりバナナに滑ってマンホールに落ちなければ・・・・」

地下での苦難を考えると、
ウルウルとシドは目を拭った。

「でも悪い事ばかりじゃなかったな。フレンド候補に会えたし、
 僕は殺人鬼としての自分と見つめなおす事も出来た!ハッピーな人生に乾杯!
 さて!文字通り兎にも角にも地上だ!これからどうすっかな!」

まずはロウマ=ハートだった。
同じ、
無差別殺人の匂い。
フレンドの匂い。

「ウッシッシ。僕の人生はまだ続いている!まずはお鼻を鳴らして城内を・・・・」

そう思っていると、
ドタバタと足音。
騎士達の足音。
・・・・・こちらに向かっている。

「・・・・・・いきなり忙しいな」

シドはガムを口に放り込み、
そして両手でトランプをシャッフルし始めた。
戦闘準備は万全・・・・というところだ。

「なんだお前は!」
「おかしな格好をしやがって!」
「侵入者か!」

騎士達と遭遇する。
シドは無言のまま、ガムをフーセンにした後、
小さく笑う。
カードが一枚切られ・・・・

「いや待て。このおかしなナリ」

騎士の一人が手元の資料らしきものをペラペラめくる。
そしてどこかで止め、
仲間たちにもそれを見せる。

「お疲れ様です」

そして一人の騎士が敬礼で挨拶すると、
そのまま通り過ぎていった。

「え?あ?お疲れ!・・・ってなんで?」

ぽとぽととカードを落とす。
首をかしげ、傾げた分だけウサギの耳が垂れ、
そして15秒考えた時点でぽんと手を叩く。

「あ、そうか。僕、騎士団じゃん」

納得した。

「いやぁー、こないだまで隠密部隊だったしなー。
 騎士団に知り合いもフレンドもいないし、失念だった。アッハー!」

と一頻り笑った後、
自分で言ってて哀しくなった。

「・・・・とと」

振り向いたら、
騎士が一人倒れていた。

「あれ?どしたの?」

と疑問に思ってみれば、それは鎧だけだった。
すでに浄化された後のようだ。

「あ、ゴメン。気付かないうちに一人殺しちゃったみたいだ。ゴメンゴメン」

片手で軽く謝りながらも、
既に死んでるなら殺人じゃないな。うん。
といい訳し、
さらにその向こうを見る。
いや、
聞く。

「・・・・なんだぁ?」

つまるところそちらは、
シドがたった今抜け出てきた地下への階段なわけだが、
そちらが騒がしい。
騒がしいと思えば、
それが静かになる。

「な、なんか来る!?」

状況が分かってないためウサギは慌てた。
なんか知らないが、
なんか知らないものが地下から上がってくる。

「はわわわわわ」

階段の近場故、部屋もなく、
隠れる場所もない。

「どうしようどうしよう!もしもだったら!またやりたくもないのに人殺しちゃう!」

恐れる部分がおかしいが、
隠れる場所がないので、

「忍法!兎隠れの術!」

階段の脇で、置物の真似をした。
どっかの海賊団の娘と同レベルだが。

「兄貴」
「騎士団の奴らも大したことありゃぁせんな」

地下から上がってきた男達は、
シドに気付かなかった。

彼らは階段を上がったところで止まった。

黒服だ。
スーツだ。
ヤクザだ。

超コエー!

殺人鬼を怯えた。

「ん・・・あー!地上だ地上。ジメジメした所を抜けれてよかったぜボケがっ!」

黒服の先頭の男が大きく伸びをする。

「でも楽勝でしたね兄貴」
「なんてったって裏道は極道の領域ッスから」
「闇仕事でよく使うしな。イロイロと」
「まさか地下道のマップ把握してるとは思ってなかったろうな」

なるほど。
シドは散々迷った迷宮のような地下水路だったが、
確固として街の下に存在するならば詳しい者達はいるはずだ。

それが、街は裏で牛耳るヤクザというなら合点もいく。

城と繋がっている事も含めて、
よからぬ算々もあったのかもしれない。

「でも兄貴」
「なんで地下の部隊全滅してたんでしょうね」

「知るかボケが!」

それはシドがノリでやった事なのだが、
当事者はそれよりも"なんで?"って部分に目がいっていた。

「極道!俺達が通る道!それが極まってて何が悪いかボケっ!」

なんであのリーダー格の男。

「・・・・一人だけアロハなんだろ」

ボソりと呟いた。
黒スーツの群れの中、
リーダー格の男だけ、
今ビーチスプリント行って来ましたというアロハスタイルだ。

コーンロウとオレンジのサングラスで、
ヤクザというよりはチンピラに見えた。

変な格好だ・・・と、
ウサ耳をつけたファンシー殺人鬼は思った。

「しかし!しかしボケェ!この!この鉄砲玉ジャイヤ=ヨメカイ!」

シドの存在に気付かないマヌケなヤクザは、
わざわざ自己紹介を始めてくれた。

「やっと!やっと晴れ舞台が回ってきたぞボケェ!!!」

コーンロウのイカついアロハは拳を握る。

「天国のトラジ!シシオ!そしてリュウの叔父貴!
 生き残っちまった俺ぁ!ツバメの姉御と共に《昇竜会》を・・・《昇竜会》を・・・」

イカツいアロハは、
感極まってグラサンを外し、
イカつい腕で目を拭った。

「うぅ・・・必ず・・・必ずこのジャイヤが立派にしてみせっから・・・見ててくだせぇ・・・・」

意外と涙脆いようだ。

「うぅぅ・・・思い出すと泣けてきたじゃねぇかボケェ!
 叔父貴!なんで逝っちまったんだ!俺を置いてぇ!
 トラジとシシオのボケ!まだ極道は道半ばじゃねぇか・・・・」
「ジャイヤ兄貴・・・」
「気持ちは分かりやすが・・・・」
「ボケが!血を分けた兄弟分を回想する時間が惜しくて人生やってられるかっ!」

おいおいと涙ぐむジャイヤ。
一人で感涙モードに入っているが、
周りのヤクザ達はさっさと進みたそうだった。

「それもこれも騎士団のせいだボケェ!」

凄くシンプルに目的は決まっているようだ。
グラサンをかけ直し、
ジャイヤは前を見据える。

「地下からの鉄砲玉!予想してなかったと見えるぜボケェ!
 このままこの城の内臓をグチャグチャのメッタメッタにしてやる!」
「おう!」
「やったりましょうぜ兄貴!」
「片っ端からぶった切ってやりやしょう!」
「ボケがぁぁあああああ!!」

ジャイヤはヤクザを一人殴り飛ばした。

「な、何するんスか兄貴!?」
「片っ端からぁ!?ボケが!ボケが!リュウの叔父貴の信念を忘れたかっ?!
 俺ぁアマとジャリだけは手ぇ出さねぇ!極道なら筋見せろやボケェ!だから・・・・」

イカついアロハは、拳を強く志と共に握る。

「この鉄砲玉ジャイヤ=ヨメカイ!おっさん騎士を中心にボコるっ!」

いい奴なのか悪い奴なのか分からない奴だ。
見た目と肩書きはどう考えても悪人だが。

「だからそこのジャリボーイ」

と、
グラサンの向きと、ジャイヤの指先が、
シドの方を向いた。

「あ・・・やっぱバレてた」

「たっりめぇだろボケが!ヤクザ舐めてんのかボケ!このボケ!ボケッ!ボケッ!アホ!」

シドの中でこの人は悪人だと決定した。

「だからジャリボーイ。てめぇは見逃してやるからどっか行きなボケ」

「ガキって言われる年は卒業してるつもりだけどな」

「十二分にジャリだボケ。ナマ言ってっとハジくぞ」

チンピラアロハはグラサン越しに睨んでくる。
コエーと殺人鬼は思った。

「兄貴!」
「そこの廊下!」
「騎士団が一人寝てやがるぜ!」
「ぁあ?」

ジャイヤの視線がシドから反れる。
そして何一つの迷いもなく、
ジャイヤは"指先"を、廊下に転がっている騎士に向けた。

指先。
人差し指と親指だけを立てた・・・・
いわゆる、
右手を"拳銃"に見立てた形。

「片っ端から"ハジく"と思ったからには・・・・」

そして、
ジャイヤの右手が何かの反動で跳ね上がった。
まるで、
拳銃を打ち鳴らしたように思い反動。

同時に廊下の鎧が割れて吹き飛ぶ。

「すでにハジいている。それが俺のポリシー・・・・・ってボケぇ!」

ジャイヤは仲間の一人をぶん殴る。

「ただの鎧じゃねぇか!何が騎士だボケェ!」

またドタバタとヤクザ達が慌しくなるが、
シドは少し冷静にその結果を見ていた。
シドはのん気な人間だが、
殺人の才能は生まれつきのナチュラルボーンキラーだ。

今の攻撃。
右手が銃だったとしか表現できない。
右手で銃弾を発射し、
弾丸が鎧を跳ね飛ばした・・・と。

デムピアス海賊団の魔物なら、
そんな機械仕掛けのサイボーグもアリだ。
モルモットベイビーでも有り得る。

ただ、見て分かるのは・・・・技(スキル)であること。

ならば正体は魔術の可能性が単純に高い。
それが見えない弾丸だというならば・・・・
消去法で・・・・・

ウインドバイン。

それを指先に集めた・・・・風の弾丸。
一点集中型の、風のピストル。

「おいオッサン」

面白くなって、シドはジャイヤに話しかけた。

「ぁあ!?なんだジャリボーイ!?」

指先(拳銃)が、シドに突きつけられる。
その時の自分の反応。
ここまで近くに長くいれば、
とっくにこの男を刻んでいてもおかしくないはずだが、

「あんた、簡単に僕に殺されない・・・いや、僕が簡単に殺せる部類じゃない人間だと見受けるぜ」

「当たり前だボケ!《昇竜会》の鉄砲玉を舐めんなボケっ!
 この肩書きはなぁジャリボーイ!俺がリュウの叔父貴から・・・
 うぐ・・・うぅ・・・・・思い出すとまた泣けてきた・・・なんで先逝っちまったんだ叔父貴ィイイ!」

「いや、なんでもいんだけどさぁ。つまり僕のハッピーなフレンドライフのため、」

ちょっと一緒に行動してやってもいいんだぜ?

「却下だクソジャリボーイ!」

ジャイヤは親指を地面に向けた。

「ジャリが戦場で粋がってんじゃねぇ!ジャリは帰ってママと暮らしてろ!
 そんでクソみてぇ社会に揉まれてろ!苦しみながら成長でもしてろ!
 そして何度も挫折を繰り返しながらも人生真っ当して死んじまえボケ!」

やっぱいい人なのかもしれないと思いなおした。

「ジャリに用はねぇ!行くぞテメェら!極道を進むぞボケェ!
 んで中から内門ぶっ壊して姉御と合流だ!立ちはだかる者は老若男女ハジけ!
 但し!アマとジャリとご老体は勘弁してやれ!オッサンはボコボコにすっぞボケェ!」

そう言い、
鉄砲玉ジャイヤ=ヨメカイとヤクザ達は、
城内を風紀悪く進んでいった。

「・・・チェ。ガキ扱いしやがってさ」

ただし、
残されたウサ耳ファンシー殺人鬼は、
活き活きしていた。

やりたい事は増えたからだ。
殺すしか能がないが、
フレンドにしたい人間が増えていく。

何故かそれは騎士団の立場から反する側の場合が多い事も気付いた。

「さて、どうしよっかな」

当面はロウマの匂いを追う。
だけど、
基本的に自分は自由だ。
自由なウサギだ。

別に戦争に興味はない。
なら、

楽しそうなのは・・・・・
フレンドになりたいのはどっち側か。

それは決まっている。

そう考えていた。
そう考えていたのに、
地下という圏外から脱した殺人鬼のWISオーブに、
着信が入った。


クソ野郎(部隊長)からだった。




























「忙しいようでございますね」

ディエゴの居る間に、
黒い闇が現れ、
紳士が一人、顔を出す。

「・・・・・ピルゲンか」

「嫌そうな顔をしないで戴きたい。ディエゴ殿」

「心に正直に表情に出したまでだ」

かけられた言葉と裏腹に、
ピルゲンは上機嫌にディエゴに近づいた。

「戦況はよくないようで」

「よくないわけではない。それでもこちらの優位は覆らない。
 それが騎士団だ。ただ、少し揺らいだだけだ」

「揺れるモノは崩れるモノということです。御健闘願いますよ。
 フフッ、それと報告ですが・・・まぁご存知でございましょう。
 ロウマ殿の改造に成功致しました」

ディエゴは気付けば、
ピルゲンの胸倉を掴んでいた。

「粗暴な事で。1番隊の名が恥じますよ。落ち着くことが重要です。
 そうでございますね。ティーでもご一緒にいかがでございましょう?」

「ふざけるな!何故ロウマに!なんでだ!お前らは何を考えている!
 騎士団の不利にはなっても!有利になるとは考え難い!
 皆!真剣に!一度かけた命をもう一度かけて闘っているというのに!」

「何を考えている?フフッ」

ピルゲンは、ディエゴの手を振り解く。

「考える必要などございません。全てはディアモンド様の意志のまま。
 そこに意図など必要ない。あの人が少し面白いと思えばそれだけでございます」

所詮。
世界などアインハルト=ディアモンド=ハークスの暇潰しなのだから。

「貴様・・・」

「私に怒るのはお門違いというものでございましょう。
 それより、私個人の楽しみを少々、戦場に手加えさせていただきました」

「・・・・なんだと?」

「私の研究をしっていますでしょう?神族の研究ですよ。
 一つは完了済み。52の天狗兵共に翼を与えた程度です。
 改造人間(モルモット)は手を加えやすくてよろしい」

ディエゴは、
ピルゲンを睨む。

「もう一つは。言ってみろ」

「急かさないで戴きたい。なぁに。大した事じゃありませんよ。
 どちらもこちらの不利には一切ならない余興でございます。
 もともと"その予定"もあった事ですし、だからこそ・・・というわけで」

ピルゲンは自分のヒゲを指先で手入れしながら。

「オレンティーナ殿に、"残飯"を与えただけでございます」


































-庭園 東 内門傍-


「どどどどうなってんのこれ!?」

バンビは慌てた。
慌てたが落ち着きをハカッてる風を装い、
でも出来なくて、
結果大慌てだった。

「ピンキッド!?」
「ししし知らないでヤンス!」

第5番 乙女(アマゾネス)部隊
部隊長オレンティーナ=タランティーナ。

彼女の元に捕われ?
化粧とか着せ替えとか色々遊ばれて、
状況的には大ピンチな割に平和だったのだが、

「ちょっと!あんたが来たせいよ!あんたが煽るから!」

バンビは怒心頭で指を震わせながら突きつけるが、
彼は、
芝生の上で煙をふかす。

「・・・・・だり・・・・」

ネオ=ガブリエルは他人事のようだった。

「・・・・だり・・・・じゃないわ!あんたがあのオレンティーナを煽ったから!
 だからこの部隊が動き出したんでしょ!責任取りなさいよ責任!」

「・・・・メンドい女だ・・・・・疲れる・・・・誰か天罰でも落とせばいいのに・・・・・・」

他人事のようにガブリエルは寝返りを打った。

「バンビさん!落ち着くでヤンス!」
「でもピンキッド!」
「それよりも!」

そう。
そんな場合でなく、
部隊長の中でも五天王と呼ばれる内の一人。
オレンティーナの乙女(アマゾネス)部隊が動き出したのだ。

動き出した。
そう言うよりは、
各々が突然光に巻かれ・・・

「驚くべきじゃなくなくなぁーい?」

オレンティーナは口紅をつけながら言う。

「皆知ってるしー。それがうちの部隊。乙女(アマゾネス)部隊だしー。
 有名じゃなくなくない?知らない方が希薄って感じじゃなくなくない?」

乙女達が、
ドンドンと光に包まれていく。
天から降り注ぐ、
光の柱の中に。

「これが、私の部隊の戦闘態勢ってわーけー。オッケーじゃなくなくない?」

「戦闘態勢って・・・な、何をやってるの?何が始まるっていうの!?」

「リベレーション」

ギャル女は、
口紅をしまい、
今度はファンデーションの手鏡を取りだす。

「死んだらしいけど反乱軍にも一人リベレーション使いが居たってね。
 なんかハンサムな鎌使い。私が聖職者じゃなければ手でも繋ぎたかったけどね」

「リベレーション?」
「聖職者の攻撃スペルでヤンス」
「どんなの?」
「なんで知らないでヤンスか・・・。女神を召還して攻撃するスペルでヤンス」

「女神・・・ねぇ」

ガブリエルが、タバコを口に、
怪訝な顔をする。

「年寄り共に呼ばれてよぉ・・・・一回アスガルドの会議に出席させられた事がある。
 リベレーションについて。あくまで契約の下での取引だから問題はないはずだが、
 それを異端な使い方をして戦闘に用いている人間がいるってな」

いつになく、
ガブリエルにしてはよくしゃべる。
ガブリエルが行動を起こす理由は一つだけだった。

「リベレーションは、誰か一人を"媒体"にして女神を召還するスペルだが、攻撃だけに留まらず、」

光に包まれた乙女達が、
とうとう姿を変えた。
リベレーション。
仲間の体を媒体にして女神を召還するスペル。

彼女達は・・・・

「女神を宿した状態で戦う・・・・ってな」

女神の姿で、
そこに君臨した。

「女神様!?」
「がいっぱいでヤンス!」

第5番 乙女(アマゾネス)部隊。
彼女達は、
次々に女神へと変貌していく。
翼が生え、
空にさえ浮かぶ。

「"女神転生(女神インストール)"」

パタンと、
オレンティーナは手鏡を閉じた。

「純潔なる聖職者(シスター)だからこそ可能なの。そういうことなのよ」

リベレーションで、
女神をインストールした状態で戦う。

「・・・・・まったく。面倒クセェ・・・面倒クセェなぁ・・・・・」

煙草が根元まで燃えたのに気付かず吸い、
味がしないことに顔をしかめ、
ガブリエルは吸殻を投げ捨てた。

「神は人間界に干渉すべきじゃねぇんだ・・・・なのに利用されるたぁ・・・ダリィことだ・・・・」

「利用とは聞こえが悪くなくなくない?ちゃんとした契約の下で呼び出してるんだから。
 それも最高の状態で、ね。私はシッカリと神の教えを守ってきたわ。
 この人生。ちゃんと神に捧げた。汝、綺麗であれ。汝、純白であれ」

"騎志"ディエゴ=パドレス。
"泣虫"クライ=カイ=スカイハイ。
"魔弾"ポルティーボ=D。
"鉄壁"ミラ。

「"処女"オレンティーナ=タランティーナ。神はおっしゃりました。汝、汚れなくあれ」

「メンデェんだよ」

ガブリエルは、やっと腰をあげた。
そしてその手に稲妻が渦巻く。
稲妻がパチパチと渦巻く中、
それはサンダーランスへと変貌し、手の中に。

「どんな理由があろうと、人間は神を冒涜するな。そして、神は人間を冒涜するな・・・だ」

「あら。人と神は分かり合えるものじゃなくなくない?」

「分かり合えても、相容れないんだよ」

なら、
別つだけだ。

「そう。それは困った。困ったちゃんだわ。そうじゃなくなくない?
 私は神を信仰してるのーにー?相手が天使ときたら困ることない?」

バンビとピンキッドは、
置いてけぼりのようにオドオドしていた。
辺りでは、
乙女部隊の女達が女神に変貌し、
次々に浮かび上がっていく。

「でも神に誓って、やられちゃうわけにはいかなくない?
 とうとう私の信仰が、さらに神に通じたというのに」

ギャル女は、
その手に、一つのオーブを取り出した。
なんとも言えない、
空気のように美しく透明な、水晶。

「私はコレで、さらに美しくなれることなくなくなくない?
 今までよりさらに・・・・。神はおっしゃりました。汝、美しくあれ・・・と」

「"そいつ"・・・臭ぇな」

そいつ。
そのオーブ。
それは、
ピルゲンが渡した残飯だった。

「汚らわしい言葉はよくなくなくない?」

オレンティーナは、
それを割った。
水晶は割れた。
ともに、
天から光が注いだ。

リベレーションの光。
自ら、自らに転生の光。

「そうか。そういうことか。・・・・メンドクセェ・・・臭すぎる・・・・・」

ガブリエルはその時点で、
理解した。
感じた。

彼女は転生の光に包まれる。
女神へと、
姿を変えてゆく。

「正直・・・超ダリィし・・・面倒臭ぇし・・・動きたくもねぇけど・・・気も進まねぇけど・・・やるしかねぇわな」

"ソレ"は、
ピルゲンの行ってきた研究の、
一つの最終地点だったのだろう。

オレンティーナは、
女神転生(リベレーション)によって、
女神へと変貌する。

その姿は、

「臭い、臭いと、汚らわしい言葉を使うこと。これだから元人間。下等家畜種族は。
 神とはもっと、華麗で美しく、汚れなく、高等で高尚であるべきじゃなくなくない?」

オレンティーナの面影と意識を残しつつ、
だが間違いなくその女神は、

「"ジャンヌダルキエル"ッッ!」

異端の女神。
そのものだった。

「・・・・・・神の抜け殻の再利用だと?・・・・人間の中にもくだらねぇ冒涜者が居たもんだ」

メンドくせぇ。
メンドくせぇよと、ネオ=ガブリエルは唱えるしかなかった。

「なら、天地から消え去ればよくなくない?」

オレンティーナ=タランティーナ。
もとい、
ジャンヌダルキエルが片手をあげると、

ホーリーフォースビーム。

天から巨大な光の柱が降り注いだ。






                 






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