「これも、あとこれもかな」

エクスポ。
もとい、フウ=ジェルンは、
薄暗い地下の一室で物を漁っていた。

「それにしても凄いな。ボクも盗賊さ。そして芸術家。モノを見る目はある」

暗い一室で、
ガラクタの山のようなモノの塊の中から、
ガラクタを手に取り、
放り投げる。

「研究者というのはロマンチストじゃないとなれないなんて言うけどね。
 ミダンダスやドラグノフといった科学者もココで夢を追っていたわけか」

一般人にはガラクタの山でしかない、
この研究室の跡地。
そこでゴミを漁るのは神。

「夢を組み立てるパーツは確かにある。そういうところは嫌いじゃないさ」

彼らの様々な研究材料(アイテム)を漁っていた。
何を探すでもない。
いや、
求めるべきものはある。

「まだ足りないか・・・・・」

エクスポは汗を拭うが、
自分がこんな事では汗をかかない体になっている事も気付いた。

「こんな事をしているよりも、さっさと合流して皆の力になるべきなのかもしれないね。
 フフッ、そうさ。ボクの今の力でドジャー達を驚かしてやるのもいいかもしれない。
 きっと絶賛と賞賛の嵐の中、そんな中のボクは赤い絨毯のように美しく・・・フフッ・・・」

ブルブルと体を震わせながら、
想像を快感にしていると、

「・・・・・おっと」

ここは敵陣のど真ん中。
ルアス城直下。
ラビリンスを抜けた先だと気付いた。

この研究室の外、
気配。
足音が聞こえる。

「・・・・誰かな」

敵以外にいるか・・・・と、
エクスポは風を渦巻かせる。

「ドア事吹き飛ばすか。派手な事はしたくないんだけどね」

何者か。
それがドアの前を通過したら、
一気に吹き飛ばす。

「・・・・潮時と言えば潮時だったんだよね」

フランとキャラメルを始末してから大分たつ。
相手が悲しい事に馬鹿ではなければ、
そろそろ気付く時期でもあった。


「フンフフッフフ〜ン♪」


ただ、
声が聞こえるまで近くなった時点で、
エクスポは風を収めた。
むしろ背中の仰々しい翼を折り畳み、
自分を包み込んで身を潜めた。

「・・・・・・なんだ。そっちか」

エクスポが息をも潜めると、
ドアの窓に、
ウサギの耳が映った。

「今日っもイイッことあんじゃねぇーのぉ♪」

鼻歌を歌いながら、
ウサギの耳は通過していった。
エクスポには気付かず、
通り過ぎていったようだ。

「・・・・行ったね。彼とはあんまりイベントが欲しくないからね」

廊下を歩いていくウサギの鼻歌は、
道を逸れていった。

「おっと。・・・・そっちの道は来たほうに戻るよ・・・シド」

まぁ教えてやることはない。
心配するには及ばない。

地下の迷宮。
牢獄の迷宮をエクスポも越えてきたが、
マリナやイスカと違い、
神であり、
飛行さえ可能なエクスポには大したダンジョンではなかった。

風を感じ取れるからこそ、道も楽に判断出来た。

それはシドも同じだろう。
後者はともかく、
実力面でシド=シシドウが困難に陥る事はまずない。

殺す側以外に立った事はないのだから。

「君が徘徊してるとなると、ボクもボヤボヤしていられないな」

ガラクタ漁りは中断せざるを得ない。
欲しい物は揃わなかったが、
移動を始めないといけない。

「って言ってもね・・・・やれやれ」

神は一人で呆れた。

「ボクもこれ以上進めないんだけどね」

進めないのは訳があった。
これ以上地上に進むためには、
この先の"ある場所"を通らなければいけなかった。

数々のデメリットというデメリットに目を瞑り、
爆弾を使用して、
天井を破壊して進む方が遥かに安全とも言える。

「困ったね」

神をも凌駕する武人が居るならば、
その部屋の前を通りたくもなくなる。

ロウマ=ハートは、避けて通らなければいけない。

「なんの部屋かは分からないが、この威圧感の持ち主・・・ロウマ以外にないだろうさ。
 ・・・・というか彼以外にこれほどまでの覇気を出せる人間が居たら勘弁さ」

ロウマが居るという証拠はないが、
ロウマが居るという確信はある。

「風が泣いてる・・・・・」

ただ、
ロウマ以外にこれほどの殺気を放てる人間はいないにしても、
それはロウマ=ハートという誇り高き武人のものとしては、
あまりに陳腐というか・・・・
野蛮なものだった。

「美しくはないね。どちらにしろ近寄りたくはないが」

さてどうする。

「あの部屋の前を通過しなければ地上には出れない」

だからこそ、
あの部屋があそこにあるとも考えられるが。

「シドは本能であの前を通るのを拒否したか・・・・な。
 ・・・嗚呼・・・何にしろどうしたものかな。通りたくないね」

その廊下の先を見通していた。
結果は出ない。

「やはり天井を爆破して・・・・」

そう何度も繰り返した思考を再び活動させていた頃。
目線の先。

廊下の壁が粉砕した。

「!?・・・・なんだ?」

何かと思えば、
それと共に、
漆黒の戦乙女は吹き飛び、
廊下に崩れた。

「・・・・・・ツヴァイ?」

エクスポはバレないように気を細心にし、
目を凝らした。
ツヴァイが体勢を立て直し、
槍を掴んで・・・・

一目散に逃げ出した。

同時に壁が再び粉砕する。

二本の巨槍を持った矛盾の武人が、
そこに確固と立っていた。

「?!」

こちらを見た気がした。

「あぁ!!?」

エクスポは一目散に逆方向へ走った。
向こうはこちらに気付いたか?
知らない。
分からない。
知ったことじゃない。

ただ、

「殺される!?」

ただ直感のように感じた。

それほどまでに獰猛で凶悪な暴力の最強。

「あれがロウマ=ハート!?」

地下で翼を広げた。
ただ生き延びる事だけを優先した。

ロウマ=ハート?
否、
そんなもんじゃない。

絶対的な暴力の塊。
人格さえ感じなかった。
魔物さながら悪魔。

アインハルトが全てを絶対で片付ける帝王なら、
あれは全てを矛盾に帰してしまう武王だ。
ただ何もかも跡形も無く・・・・


「・・・・・喰っ・・・・」


矛盾のスサノオの声が逆に向かったが、
それでもエクスポはなお逃げた。
































「でぇりゃ!!!」

壊れた斧をぶん回すメッツは、
散乱する骨の破片を見ながら、
さらにその奥に蠢く死骸の数にうんざりした。

「ったく・・・こんなんケンカじゃねぇよ」

腕二本と斧二本じゃ足りない敵の数。
しょうがないから足を突き出して迫り来る騎士を吹っ飛ばした。

「コォラ!!押せっ!圧せよコラァ!!!馬鹿にされてんじゃねぇぞ!
 あいつら死んでんだぞ!死んでる奴らぐらいぶっ殺してやれっ!!」

背後の者達に檄を飛ばすが、
押し込める雰囲気でもない。

数。
圧倒的な数だ。
キリがないという言葉は本当にキリがない。

「くそ!またコレも使い物になんねぇ!オラお前ら!休むヒマがあるか!」

ギルヴァングに半壊させられた斧など投げ捨て、
その場で敵の武器を拾っては使う。
武具など無限に落ちてる。
敵も。

「だぁクソォ!!これ全部やれってか!正気かよアレックスの野郎!
 進める気がしねぇぞコラァ!!殺っても殺ってもだ!だぁもおお!!」

軍の先頭に立ち奮闘はするが、
圧倒的な数は、崩れる砂山を穿る程度の効果にしか見えない。

「オォーラ!進め!進みやがれ!それしか命令しねぇぞテメェら!!
 一歩進んだら目の前の敵をぶっ倒して絶対に退がるな!分かったか!!」

とにかく気合論だけを引き連れた者達に檄し、
敵の大勢に真正面から推し進もうとする。

「メッツっ!周りを見て動きなさいよ周りをっ!!!」

少し離れた場所で、
マリナも軍の先頭でマシンガンをぶっ放していた。
メッツとは違い、
敵とは少し距離を置いて牽制しつつ進軍を測る。

「あー!?何ってぇ!?聞こえねぇよマリナ!!」
「あんたの軍だけ進もうとしてんじゃないって言ってるの!」
「進めてねぇよ!進めねぇんだよクソっ!むしろ気ぃ抜くと圧されるんだよっ!」
「そうじゃなくて!私とロッキー君の軍との連携を考えなさいって言ってるの!」

最前線の中央をメッツの軍。
少し遅れてマリナの軍。
その両軍をフォローするようにロッキーの軍が続く。

ただメッツの軍だけが先走り、
楕円形の陣形になっていた。

「軽く戦術指南されたでしょ!」
「あぁ!俺がゴリ押すってとこは覚えてる!」
「そうれはそうだけど!あんたんとこだけ進んじゃ囲まれるでしょ!
 ロッキー君から連絡あったわ!私とロッキー君の軍が両端から押すのよ!」
「ぁあ!?」
「逆に囲む形にするのっ!そこをあんたの軍で押し切りなさいっ!」
「よぉーしゃ分かった!ぶっ飛ばせばいいんだなっ!」
「自重しろって言ってんのっ!!!!」

マリナの言葉を半分も理解せず、

「行くぞお前らぁ!!!」

メッツは斧を掲げてさらに突っ込む。
前に進もうにも、
むしろ圧されるような戦力差なため、
その場で目の前の敵をぶっ斬るくらいしか出来てはいないが。

「メッツ!!左舷と右舷はむしろ押し返されてるのっ!」
「きーこーえーねー!もっとデカい声で叫んでくれ!」
「あんたはそこで堪えて両側に戦力を割いてっ!」
「分かったが体は一個しかねぇーっつーの!お前ら!右向け右っ!
 そんで目の前の敵は薙ぎ払え!以上っ!オーライ!?叫べコラァ!!」

無茶苦茶だったが、
メッツの理不尽な豪快さは士気に担っているらしい。

ロッキーから見たところ、
メッツがいなければ勢いですぐに飲まれて終わっているだろう・・・。
といったところ。

戦術は無くとも、武将としての能力は備わっている。

「フロントマンとしては悪かないけどね」

マリナは前方に狙いを付けることなくマシンガンを打ち鳴らし、
それこそ魔力装填(リロード)するヒマに相手は雪崩れ込んでくるが、
無理矢理に圧し留めていた。

攻めるでなく堪えていた。

「・・・・と!?」

マシンガンが一瞬止まった。
うまい事マジックボールのコントロールが出来なかった。

「ジャムった!?だから安物のマナリクシャなんて買うんじゃなかった!
 魔力液になんか混ぜたわねあの店主!ガソスタみたいな事してくれちゃって!」

再連射をするよりも先に、
マリナは片腕を斜め前に突き出し、

「しょーがないわもう!」

人差し指を立てて叫ぶ。

「進めーーーっ!!遅れた子からケツひっぱたくからねっ!!」

一斉にマリナの後ろから反乱軍が走りこむ。

「デェーりゃでりゃでりゃでりゃでりゃでりゃ!!!!!」

マリナがマシンガンを再び打ち鳴らす中、
味方が一気に敵へと距離を詰めていく。

「進め!進みなさいっ!メッツ!・・・じゃわかんないか!えっとなんだっけ!
 B!そうブラボー!ブラボーと同じラインまでまず進むっ!
 それ以上はいらないわよっ!出来ないとは言わせないわ!進みなさいっ!!」

さらに別方向て爆発が起こる。
マリナはそれを横目に見ながら乱射をやめ、
自分の軍と共に敵へとなだれ込んだ。

空中。
カプリコハンマーのジェットでカッ飛ぶ狼少年。

「マリナはそのままお願いっ!メッツ!メッツってば!進みすぎ!
 隊に隙間が出来てるのは駄目って言ったでしょ?」

ロッキーは空中から指示を飛ばす。
この五月蝿い戦場ではクールな声を出すのも至難なようだ。

「はい業務連絡だよっ!C(チャーリー)はマリナの言葉通りでいいよ!
 B(ブラボー)は我慢し・・・・メッツ!もぉ!だからちゃんと指示してって!
 D(デルタ)遅れすぎっ!右舷だけ逆に敵が進軍してるよっ!
 すぐぼくも前線に戻るからそれまで・・・・・わわっ!?」

下方から魔法が飛んできた。
カプハンジェットの軌道で避けつつ、

「もう・・・ぼくだけ荷が重い気がするんだけど・・・・」

カプハンで飛びながら、
ロッキーは片手を掲げる。

「戦闘に専念出来れば楽なんだけどね。しょうがないっかな」

ハードインパクト。
空中のロッキーの周りを、
雨のように岩が降りそそぐ。

「・・・と。ふふ」

自分の降らせた隕石の中、
ロッキーは溢れる敵軍を見据える。
何か見つけた。

「チーム・ブラボー!ぼくの指揮下に移権!出来るだけデルタに歩波を合わせてね!
 メッツ!メッツ〜?!聞こえてる!?あーあー!ぼくだよっ!」
「聞こえてるっつーの!忙しいんだよっ!」
「言葉の通り!ちょっと部隊借りるよっ!」
「知るか!返せ!」
「部隊長っぽいの見付けたよ!」

メッツは、
周りの死骸騎士達を一気に吹き飛ばす。
そして、
戦場の真ん中で空中を見上げ、

「ほぉ」

イカれて笑った。

「デルタ!だからもっと右舷に!もっと!もっとだって!城壁に沿うの!
 ぼくが穴を空けるからデルタとブラボーはそこを目指す形で進軍!
 言った通り引率者メッツは指揮権を一時剥奪!ぼくに従って!」
「おいロッキー!」
「そこから50m真っ直ぐ!少しだけ右寄り!行ってきてメッツ!」
「おっしゃあああああああ!!!」

狂犬はやはり自由が似合う。
メッツは単独で敵の渦に埋もれていった。
































西

「アッちゃぁあああああああああああああああああああああああん!!!!」

太陽が落ちてきた。
西に日が落ちるとは、
世界の倫理とは嘆かわしい。

「おいっ!来るぞアレックス!」
「・・・・・ほんとに。ダニーに関しては敵なのか味方なのか・・・・」
「事故だあんなん!」
「なるほど」

斜め上。
空中から炎に塗れた神が滑空してくる。

「ヒャーーーハッハッハッハ!!アッちゃん燃えぇえええええええええええええ!!!!」

まるで火の飛礫だ。
1軍フッ飛ばす勢いでこちらに・・・・

「待てダニー!」

「わぅん!?」

・・・・突撃してくる中、
アレックスの目の前で空中停止した。

二次災害のように炎が後方の軍を包み込んだが、
ダニエルはアレックスの目の前で止まった。

「僕を殺そうとするなら僕はその前に自分で舌を噛みますよ」

「それは困るっ!!!」

ダニエルは慌てた表情で地面に着地した。
背中の炎の翼。
轟々と燃えるソレは熱を発し、
近寄るだけで溶けそうだった。

「って・・・アッちゃん?本当にアッちゃんなの?」

主人を確かめる犬のように、
ダニエルはアレックスの周りをウロウロと回って匂いを嗅いでいた。

「・・・・分からん。燃やして確かめよう♪」

ボゥンとダニエルの右腕に炎が着火した。

「ダニー?ダニーは僕を燃やした事なんてないでしょ?」

「そうだった!」

着火と同じように炎が消え、
ダニエルは腕を組んで頭を傾げた。

「うーん。なら俺はどうやったらこれをアッちゃんだと判別すればいいんだろうか」

腕を組んで考えるが、
燃え盛る炎の頭がプスプスとショートしそうだった。

「・・・・やいアッちゃん!」

だが何かを思いついたように、
ダニエルはアレックスに指を突き出した。

「お前の名前を言ってみろっ!」

「アレックス=オーランドです。元第16番・医療部隊部隊長です」

「俺の名前を言ってみろっ!」

「『チャッカマン』ことダニエル=スプリングフィールドです」

「じゃぁじゃぁ!えっと!お前は偽者か!」

「本物です」

「アッちゃぁぁあああああああん!」

どこに判断基準があったのか知らないが、
ダニエルは確信してアレックスに抱きついてきた。

「本当の意味で熱苦しい」

足で顔面を押さえてそれを止めた。
抱擁で燃え尽きたらたまったもんじゃない。

「いぎでだんだねぇ!」

顔面を踏まれたままダニエルは感動を口にした。

「カッ、さっきまで死んでたけどな」

「あ、ドジャっちも居た」

アレックスの足から逃れ、
ダニエルはドジャーの方も見る。
そして他にも。

「あと〜・・・・誰だっけこいつ?なんか見覚えあんだけど?」

ダニエルは、
エールの姿を見て首を捻った。

「エ、エールさんはえ・・・えっと・・・・」
「エールさんは昔の僕の部下ですよ」

「昔」・・・その言葉に少しエールは残念そうな顔をしたが、
ダニエルは「おぉ」と腕を叩いた。
それだけでも火花が飛び散る。

「騎士団の時に覚えてたんだ。そーだそーだ!だから見覚えが!
 なるほど!スッキリした!ヒャハハハハハハ!・・・・・・・・燃やしていい?」

「も、燃やひ・・・」

あわわとエールはアヒル口になってキョドったが、
アレックスから助け舟は無かった。
このままじゃ本当に燃やされかねないとドジャーがフォローをいれた。

「おいダニエル。てめぇいきなり現れたが一体ど・・・」

「アッちゃん!アッちゃんはなんで死んだの!?」

聞いちゃいねぇ。

「非力だっただけですよ。インフレについていけなくてですね」

「そうか!そうなのか!ヒャハハ!ならなんで生き返ったんだ?!」

「スミレコさんに助けてもらいました」

「炭!?素晴らしい名前だなそいつ!こんど灰にさせてくれ!でもアッちゃん」

ダニエルは途端に真剣な眼差しになり、
アレックスを睨むように、

「命を粗末にしちゃ駄目だ!命は一個しかない!超大事だぞ!
 火と一緒で付いたら消えるしかねぇんだ!死んだら俺超哀しい!
 だからもう死んだら駄目だ!俺が燃やすまで死んだら駄目だ!」

「おっーけーー」

「約束だぞ!・・・・・ってことでさっそく燃やしていい?ねぇいい?」

「だぁーめーー」

ダニエルは「ヒャハ♪」と笑った。

「おい、んでダニエルよぉ」

「あ、ドジャっちじゃん」

「いやお前さっきも確認しただろ・・・・」

「そだっけ?ヒャハハ!だってドジャっちあんまり燃やし欲が沸かねぇんだもん!
 脂肪無さそうだしイイ臭いしなさそうだしさぁ。燃えねぇよ。
 あ、でもどうしても燃やして欲しいってんなら燃やしてやらんこともないけど!」

「いやいい」

「イヤよも嫌も好きのうち♪俺に触れると火傷すんぜぃ!ヒャーーッハッハ!!」

相変わらずわけの分からん奴だが、
それでも何よりも、

「俺が聞きたいのはダニエル。お前は"どっち側"だ」

「どっち側?どっち側って?」

「いやだから敵かどうかっつーか!」
「ダニーは僕ら側につくかどうかって事です」

「うーん」

炎の翼の神は、
また腕を組んで考えた。

「難しい事聞くなぁ・・・俺はただ遊びに来ただけだしなぁ」

「こ・・ここは戦場でし!」

噛みながらエールが横槍を入れる。

「皆必死でたたた戦ってる戦場に遊びに・・・あぅ・・・・」

「いや別に皆の理由とは関係なくね?焦げねぇよ。心がよぉ。
 俺はアッちゃんが死んだって聞いてもー!もう本当に自暴自棄になっててさぁ!」

なにやら思い返すようにダニエルが話し始める。

「八つ当たりで山を燃やしたり海の水蒸発させたり街を燃やしたりさぁ!
 目に付いた人も魔物の片っ端から燃やしたり焼いたり焦がしたりさぁ!
 それでもこぅ・・・・心に火が灯らないってーの!?ヒャハ!?分かる!?」

分からんが頷いておいた。
というか知らんとこで災害を起こしまくっていたようだ。

「で!もうアッちゃんを燃やし損ねた心を満たすものはなかったわけよ!」

八つ当たりの災害。
それらはアレックスには理解出来る。
GUN’Sとの戦いで再会するまで、
その時まで、
ダニエルはやはり今と同じようにアレックスを失ったと思って好き放題だった。

騎士団を燃やし、
ギルドというギルドを燃やし、
ついた二つ名が『チャッカマン』

「で!風の噂で騎士団の復活を聞いたわけよ!」

両手を広げてダニエルは大げさに叫ぶ。

「一回燃やしたけど消化不良な規模だったしな!
 それに何より共に戦った仲間!愛すべき同士!
 失いたくはない・・・失いたくはないんだ!」

ダニエルは拳を作って熱弁した。

「だからこそ燃やす!お気に入りが炎に巻かれ灰になる過程!
 その喪失感!俺はそれが大好きだ!哀しくて虚しくて心が燃え盛る!」

そういうのがダニエルの大好物だった。

「浮気じゃないぞアッちゃん!俺が一番燃やしたいのはアッちゃんだからな!」

そこは置いておいて、
つまり、
より"おいしいもの"の処に飛んできただけ。
それだけのようだ。

「・・・チッ・・・おいアレックス。やっぱこいつの思想は危険だ。
 敵にも味方にもなる・・・・っつーかこいつはお前を燃やそうとしてんだぜ?」
「そうですねぇ。その通りです。でも大事なのは結果。そうでしょ?」
「ぁあ?」
「見てください」

アレックスが指差す。
それは、
先ほどまでの戦場。

氷と雪の蒸発でおきた霧は晴れ、
炎はすでに鎮火していて、

そこには何も無かった。

「"壊滅"です」

ドジャーは少し目を疑ったが、
結果・・・・現実はそこにある。

先ほどまでアイスバーという部隊長が指揮していた雪原部隊。
難攻不落だったその部隊が、
跡形も無い。
跡形も無いのだ。

「文字通りの"火力"。そして規模。それはこの戦場でダニーが1です」

ダニエルはあんまり聞く耳を持たずニヤニヤとアレックスを見ているだけだったが、
この状態を見せられると、
ドジャーも何も言えない。

「・・・・・・・」

火力。
それに関してはエドガイが最大だったが、
単体でそれに並ぶだろう。
だが何よりその規模。
それに関してはもう筆を走らせる必要もない。

やろうと思えば・・・・・ダニエルだけで何部隊でも・・・・・

「ハハッ・・・・」

神。
そんなもん信じてこなかったドジャーだが、
それは確かに希望の光かもしれない。

「ダニエル」

「んーあ?」

「てめぇ、俺ら側につくわけだな」

「いや別に」

「よし・・・ならこの戦いイケ・・・・あぁ!?」

湧き上がった希望が一瞬で吹っ飛び、
ドジャーはダニエルに目を向ける。

「なんでだよ!?」

「え?は?いやなんでって・・・いやなんで?俺が?」

「アレックスがこっちに居んだろ!!

「うん」

「じゃぁこっちの味方だろ!」

「え?だからなんで」

「だあぁぁああああああ!」

ドジャーはワシャワシャと頭を掻き毟る。
その姿にダニエルは無邪気にヒャハハと笑っていた。

「ヒャハハハ!いやドジャっち!さっき言ったじゃん!
 俺ぁただ気晴らしに来ただけなわけ!別に戦う理由なんてないのよ!
 だから指図は受けないし俺がやりたい時にやりたい奴を燃やすだけ」

「でもお前は騎士団燃やしにきたんだろが!」

「いやだから趣味だっつってんじゃん。自由にさせろよ。
 ドジャっちはゲーセンで「はい今からこのゲームをやりましょう」って指図受けんの?
 いつ、どこで、誰を、どうやって燃やそうが俺の勝手にさせろよ」

プライベートよプライベート。
・・・とダニエルは気軽に答える。

実際、
彼は巻き込まれる理由はない。
戦わなきゃいけない理由もない。

食べたくなったらリンゴをもいで齧ればいい。

「ま、なんとか手綱はひきますよ。安心してくださいドジャーさん。
 大事なのは味方にならない事じゃなくて敵じゃない事です」

確かにそれは言い得てはいる。
いつ爆発するか分からない核爆弾だが、
それが自分らに向けられないのなら大歓迎だ。

「ダニー」

「なんだアッちゃん。燃えたいのかい?」

ニッと笑い、
ダニエルがパチンと指を鳴らすと火花が散る。

「はい。燃えたいところです」

アレックスがニコりと笑う。

「ただ、この戦いが終わるまでちょっと死ぬわけにもいかないんですよ。
 でもなかなかに厳しい。命がいくつあっても勝利が見えない。
 でも僕は行きます。僕が死んでしまわないように気をつけてくださいね」

「ヒャハハハハハハ!!!アッちゃんは俺使いがうまいねぇ!!」

ダニエルは嬉しそうに楽しそうにメラメラと燃えた。
頭と背中の炎が轟々と唸る。

「あと熱苦しいので通常時はその炎、消しといてください」

「ん?これ?」

返事をするように、
ダニエルの炎はいとも簡単に消えた。
そうなってしまえば、
ただの人間にしか見えない。
いや、ただの狂った変態にしかみえない。

カルキ=ダニエルでなく、
ダニエル=スプリングフィールドだ。

「アレックス。決まったならすぐ進軍だ」
「はい。この隙を1秒でも逃すわけにはいかない」

雪原部隊を運良く?無傷で突破したソコは、
蛻(もぬけ)のからだ。
アレックスは号令を出す。

「部隊A進軍!はいはい走ってください!止まる必要はありません。
 敵にぶつかるまで進んで進んで!そのままぶつかってやってください!」

アレックス達の周りを追い越すように、
飲み込むように、
本隊が一斉に進軍を始めた。
雪崩れた。

「てっ、あでっ!」

乱暴にドジャーなんて跳ね飛ばしながら、
本隊は動く。

「出来るだけ右舷に固まるように!目標は東のフォローなんですから!
 城壁側・・・左は多少、敵にやってもいいです!数は足りてますから致命傷はないです。
 はい速度を落とさない!ガレオン船の船首部ラインまで制圧を目指してください」

何はともあれ光が差した。
ダニエルのお陰で"西"がとれた。

ディエゴとしても、
アレックスとしても、
誰としても思惑が外れた結果になったが、

結果としてはこちらに笑った。

「ヒャッハー!なんか知らんけど派手だねぇ!!いいねぇ!
 俺がハァーナビを上げてやろうか!?どうだ?いいだろアッちゃん!?」

「こちらの兵が死ぬのでやめてください。さ、ドジャーさん。僕らも行きますよ」


































「悪には悪の!正義があるっ!!!」

デムピアスは・・・叫んだ。
叫んだが、
身なりからすればそれは無残なものだった。

腕は千切れ、
横腹には大穴。

「貴様のような人間は・・・俺の勘に障る。度し難い」

ただその体の破壊も、
鉄や肉が蠢き、
再生する。

サイボーグであり、
魔物であり、
人であり、
鉄であり、
肉であり、
闇であるデムピアスにとって、
体の形状は借り物に過ぎない。

チェスターを模した姿も造型に過ぎない。

「頂上に居る人間こそ、チェスターの悲願・・・そして仇だ。
 俺はこんなところで足止めされているわけにはいかない」

少し見上げれば内門も見える。
後ろを振り向けばガレオン船が見える。

周りを見渡せばデムピアス海賊団。
魔物達。

中盤が中間地点のど真ん中にて、
デムピアスは進めないで居る。

「知らん知らん知らねぇ知ったことじゃねぇ。世の中には二種類の者が居る。
 思い通りに事を運ぶ事が出来る者と、それ以外だ。・・・・この場合どっちがどっちか」

燻(XO)は、
車椅子の上で笑った。

「もちろん俺が・・・・上だ」

クソ野郎は車椅子の上で嘲笑する。
呆れて。

「海賊王デムピアスなんてのは、こんなもんか」

デムピアスは・・・・進めないでいた。
絶騎将軍(ジャガーノート)が燻(XO)を前にして、
完全に太刀打ちできない状況に居た。

「・・・・・正義の無い口ぶりだ」

デムピアスは鉄の眼で辺りを見渡す。
魔物達。
海賊団はどうなった。

・・・・明らかに数が減っている。

正直なところ、
意志や思惑、プライドの云々は抜きにして、
今の正解は反乱軍を待つことだ。

ここで散っていくよりも、
できるだけ長く持たすことが、
デムピアス海賊団にとっても反乱軍にとっても吉。

ただ魔物にそんな統率は無かった。

食って暴れるだけ。

「・・・・・・・・どうやら状況としては俺がお前を藻屑にするしか道はないようだが」

デムピアスは燻(XO)を睨んだ。

「俺は貴様が嫌いだ人間。お前には善の正義も悪の正義もない・・・・。
 誇りも信念も無く、貴様はここに立っている。それが気に食わない・・・。
 だが、邪魔をするなら藻屑にしてやるだけだ」

デムピアスの右腕が、
大きなトラバサミになる。

「チャウファング」

「それはさっき"流して"やっただろうが。学習しねぇのか?魔物ってのはよぉ」

やだねやだねと、
紫の髪ごと首を振り、
ネクロケスタの髑髏をかぶりなおす。

「俺を倒すぅ?あんたさっきからそんな事ばっか叫びながら、俺に傷一つ付けれてねぇじゃん」

車椅子の上で両手を広げる。
曝け出すように。

「逆にあんたはもう人間でいうところ6回は死んでるぜ?
 これがじ・つ・りょ・く・・・の差なわけだ。あんたと、俺とのな。
 勝負から二種類の者が生まれる。・・・・敗者と・・・・・・俺だ」

「いや・・・勝つのは正義だ」

「どの口が言うかねぇ。・・・ウフフ・・・・アッハッハ!アヒャヒャヒャヒャ!!」

燻(XO)は腹を抱えて笑う。

「フハハ・・・だってだから・・・・おま・・・・俺に負けてんじゃん!
 ご大衆の皆様の前で!超負けてんじゃん!地味によぉ!
 俺を車椅子の車輪一つさえ動かせてねぇじゃねぇか!なのに・・」

事実、
ここまで燻(XO)とデムピアスが戦ってきて、
100人が採点すれば100人が燻(XO)の圧勝を付けるだろう。
デムピアスにさえ異論は無い。

「正だぁ!?義だぁ!?正義は勝つだぁ!?勝ってから言えよ!
 いやいやいや、"勝った者が正義だ"・・・・なんて頭の悪い事は言わねぇよ?
 だって俺勝ちまくってきたけど正義じゃねぇもん!なぁ?!」

ただ、
この燻(XO)という男が、
"強い"とは到底思えない。

身体能力は下の下・・・なんてもんじゃない。
車椅子なのだから。

魔力や知力は人一倍だろうが、
それを賢く使用して戦闘しているわけでもない。

「俺はよぉ!身体障害者だぜ!?世間的弱者・・・事実弱者なんだぜ!?
 そんな俺によぉ・・・・成す術も無いのに勝つ勝つって・・・アホ?ドアホ?死ねばいいな」

だがやられている。

わけの分からない内に、
胡散臭く、
見えない切り札を無理矢理押し付けて勝っているような・・・・。

あまりにアンバランスな・・・・・

「ピンポン♪」

デムピアスが何も言葉を発していないのに、
クソ野郎は正解の音を鳴らした。

「そう、ウフフ・・・俺っていう野郎はすげぇ弱ぇ。もうクソみてぇに弱いんだ。
 ちょっと小突かれて車椅子から落ちて、当たり所が悪かっただけでも・・・
 ウフフ・・・そんくらい弱ぇ。ちょぉーー弱ぇ!ハッキリ弱ぇ」

ギルヴァングと双璧の、
ジョーカー。
2枚のジョーカー。

なのに、
世界最強の身体能力と、
身体障害者。

「それでも俺がクソみてぇに強ぇのは・・・そう。
 それを帳消しにしちまうほど、たった一つの能力が飛びぬけてるからだ」

たった一つの能力。
それを誤魔化し誤魔化し、
それだけで魔王である自分が完璧に封じ込められて、
それでも捉えきれなくて、

「躊躇が無い・・・・とかだったらカッコイイんだけどな!ウフフ・・・それはただの個性。
 ・・・・教えてやろうか?つまり・・・・俺の能力はウンコなわけだ!アヒャヒャヒャ!」

6回殺された。
この短期間で、
デムピアスでなければ、6回死んでいる。
それほどに食いちぎられた。

「この世はクソだ!クソまみれだ!臭ぇ臭ぇ!その王者がこの燻(XO)様だ!
 クソの王様の王座はどぉーこかなぁ?・・・・決まってら!便座だベーンーザ!
 W・C!便所!世界のクソを束ねる水洗便所!俺にチョーお似合い!」

燻(XO)は片手を掲げた。
車椅子の上で、
腐った右手を。

「超弱ぇ俺の超強ぇ能力!強と弱・・・善と悪・・・始まりと終り!○と×が混じった能力!」

幾多の命を奪い、
そして、

ジャスティンの・・・・・頭部以外を持ち去った能力。

「ウフフ・・・・・・反則(チート)だと罵ってくれよ」

クソ野郎の手の上には、

黒い闇が・・・黒い球体が・・・・渦巻いていた。
さながら・・・・・

「・・・・ブラック・・・ホールか」

「・・・"ダークパワーホール"だ・・・・全てを吸い込む水洗便所だ!
 ウフフ・・・・分かるか?・・・・・・・・俺には何も通用しねぇ・・・・そして!
 俺の攻撃は完全なるガード不能って奴だ!流れねぇクソなんてねぇんだよ!」

クソの手の上で、
渦巻く黒球。

「Fxxk you(クソでも食らいな)っ!!!」



































「クゥシャァァアアアアアアアアアアアアアル!!!!!!!」

エースは、
剣を5本抜き、
それらは両手に無理矢理掴んで飛び掛った。

「・・・・ぁあ?」

白と黒のメッシュヘアーの男、
クシャールは、
突然飛び掛ってきたエースに目くじらを立てる。

「なんだよなんだよ。いきなりよぉ、この対戦は誰が決めた?」

グォン・・・と唸る。
それは4mをゆうに超える有り得ない巨大斧。
"竜斬り包丁"
部屋の壁以上の物が軽々と持ち上がったことを想像して欲しい。

片手で、天井を振り回しているようなもので、

「俺の許可はとったのか?おお?」

そんな巨斧を片手で振り回し、
ドスンとそれは地面に落ちた。
まるで盾・・・というか壁でも形成されたかのように。

「テメェ!!貴様!!!」

エースはその斧に向かって5本の剣をぶつけたが、
当然のようにそれらは折れて吹っ飛んだ。

「ちぃ!!」

折れた武器を放り投げ、
両手で上着を広げる。

上着の裏に敷き詰められた武器。

「やめろジギー!」
「ジギーじゃねぇ!俺はエースだ!」

そんなエースをエドガイは無理矢理掴みかかって止める。

「いらねぇ戦いはすんな!それでも元傭兵か!
 こいつはどう見ても生きた人間!敵じゃねぇだろうが!」
「知るか!こいつ!クシャール!こいつだけは許せねぇんだ!!」

我武者羅なエースに掴みかかるエドガイ。

「涙目な仕事だぜこりゃ・・・・」

人の面倒を見るのがいきなりつまづくとは、
そう思い、
ハッとエドガイは振り向いた。

「どいつもこいつも・・・・」

エドガイがエースを捕えている間に、
イスカの姿が無かった。

「サムライ可愛い子ちゃん逃がしちまった!
 おいテメェら!手分けして探せ!情報屋にも連絡入れろ!」
「「「サー!イエス!サー!」」」

飛び散る傭兵達。

「ちぃ!状況が目まぐるしくて俺ちゃん訳分からねぇよ!」


東。

この場所。

メッツ・マリナ・ロッキーの軍が動き出したせいで、
冷戦気味だった辺りは一気に慌しくなっていた。
エドガイ達は進軍する反乱軍の波の中に置き去りになった形で、
気付けば周りには敵がいない。

居るのは、

「おいおい面倒はちゃんと見てくれよ。保護者だろ?」

この白黒メッシュヘアーの親父、
クシャールという謎の傭兵。
部下を数人引き連れてはいるが・・・・。

「俺はやる事を自分で決める。俺が決めた事しかやらねぇ。
 だから無理矢理戦闘なんてぇのは真っ平ゴメンだ」

「俺ちゃんに謝罪の意志はねぇが、こっちとしてもゴメン・・・って意味で謝ってはおこうか」

エドガイが体面上謝ると、
クシャールは巨大な斧を持ち上げた。
片手で。
もう片方の手はというと、
竜肉を口に運ぶのに忙しいらしい。

「おい、ジギー・・・ジギー=ザック!何を熱くなってやがる!」
「俺はエースだ!」

エースはエドガイを振り解き、
それでも睨むような目付きをクシャールに向ける。

「おい!おいクシャールの親父よぉ!」

「親父だぁ!?誰がテメェの親父って決めた!」

「そういう意味じゃねぇよ!てめ、俺の顔を覚えてねぇのか」

「ぁー?」

肉を齧りながら、
『竜斬り』は渋い目付きでエースを見据える。

「・・・・・・ぉーぉー」

「思い出したようだな」

「確かカゲロウマルとかい・・・・」

「俺のどこをどう見たら忍者に見えるっ!!」

エースはまた飛びかかろうとするのを、
エドガイが襟を掴んで止める。

「あーあーあー、おたくもう暴れんなっての。
 サムライの可愛い子ちゃん逃がしちゃって既に俺ちゃんの面目丸つぶれ。
 おたくぐらいお利口さんにしてくれよ。な?」
「・・・・・・くっ・・・・」
「んでジギー」
「エースだ!」
「おたく、『竜斬り』と知り合いか?」

「エース?エース?あーあーあー、44部隊の。ほーほー」

クシャールは思い出したようで、
骨に残っていた最後の肉切れを齧りとり、
骨を投げ捨てた。

「なんだなんだ流暢にしゃべるようになったじゃねぇか!記憶が戻ったのか?」

「・・・・お陰様で一切戻ってねぇよ」

「なら独学で言葉学びなおしたのか。そぉーりゃ結構!」

何が可笑しいのか、
クシャールは大笑いしていた。

「そっちのあんたはエドガイ=カイ=ガンマレイだな」

「・・・・よくご存知で」

「そりゃぁ俺も傭兵だからな。俺の方は有名じゃなくて悪かった!が、
 ま、俺は別に生きれればいいからな!食って寝れればそれでいい!」

ワッハッハ!と笑って言う。
豪快な親父だ。

「ハハハハ!・・・・ってことで自己紹介終り。じゃぁな」

「なっ」
「ちょい待て!勝手に決めて行こうとする・・・・」

「今俺が決めたことだ!俺が決めたことは絶対だ!
 ・・・・・・ま、付いてくるのは勝手にしてくれていいがな」

肩が壊れるんじゃないかという心配もあったが、
巨斧を肩にどしんと担ぎ、
クシャールは背を向けた。

反乱軍の流れに乗って歩いていく。

「付いて来い・・・・だと・・・」
「面白いんじゃねぇーのぉーん♪」

エドガイはペロリと舌で唇を嘗め回す。

「もとより戦争が再開しちゃったかんねー。前線にいかなきゃならんのよ。
 って言っても可愛い子ちゃんから結構自由をもらってっから、
 あの『竜斬り』の戦いを追ってみるのも悪かない」

同じ傭兵として興味がある。

「それにおたくの行動をその方が抑制出来そうだしな。ジギー」
「・・・・・・ちぃ・・・・」
「決まりだ。俺ちゃんらも前線に行くぞ。見たところ苦戦しちゃってるしねん♪
 ・・・・・・ってうぉ!何あれ!あれって可愛い子ちゃんと一緒に居た子じゃね!?
 カプハンで飛んでね!?ジェットで飛んでね!?よく見ると超可愛いくね!?」

テンションを上げてエドガイは空飛ぶ狼男を見上げていた。

「・・・・クシャール」
「んで可愛いくないジギーよぉ」
「うぉ!?」

エドガイはエースの顔面を腕で掴んで進軍を始めた。

「あのオッさんは何よ。なんか"臭い"んだけどよぉ。
 どちらかというと"おたくら"じゃない何かの匂いがすんだけどな。
 嫌いじゃない匂いのはずだが・・・・・・あいつは一体全体」
「『一騎当斧』クシャール・・・・王国騎士団時の二つ名だ」
「・・・・ほぉーう」

と相槌はうってみたものの、
予想はついていた。

「っつっても騎士団の生き残りっつーのはよぉ、
 アインを除けばピルゲンに44と53。それに可愛い子ちゃん。そんだけっしょ?」
「終焉戦争の生き残りはな」
「なるほどねん」
「あのツヴァイやダニエルだって元騎士団だ」

戦争に埋もれても、
あの大きな斧は彼の位置を教えてくれていた。
あの巨大な、
規格外の武器。
まるで・・・。

「一部を除いてはあんまり有名所じゃぁない。オッサンだ。
 ただ『一騎当斧』から『竜斬り』に二つ名が変わったのは・・・・」

"44部隊"を・・・抜けた時だ。

「元44番・竜騎士部隊・副部隊長クシャール・・・・・・ロウマ隊長を・・・・倒した男だ」

・・・・噂だがな。
最後の言葉を、なんとかエースは付け足した。





























「なっ?!」

ユベンはその時、全てが停止したような気がした。

自分は何をしていたのだろう。
そうだ。
隊長の下へと駆けつけるため、
城内を駆け回っていた。

最初に疑問に思ったのは、

城内なのに馬の蹄の音が聞こえたこと。

ユベンを跳ね飛ばさん勢いですれ違ったのは、
ツヴァイ=スペーディア=ハークスだった。
彼女は逃げていた。
ただ絶世の美女が白馬で駆けていただけなのだが、
それは逃げていたのだろう。

確信ができた。

だが彼女を追うよりも、
彼女が来た方向。
そちらにも確信があった。

その確信が何かもハッキリさせぬまま、
ユベンは、
ツヴァイが来た方向を振り向いた時・・・・・


化け物とすれ違った。


化け物と一瞬目が合った。
死んだと思った。
その刹那の時間は自分の人生を失うに十分だっただろう。
それくらいの殺気に塗れた怪物が、
自分の目の前を通り過ぎた。

「あ・・・くま・・・・か・・・・」

そんな無様な比喩が出たが、
残念ながら、
悪魔としては強すぎる殺意。
悪魔ごときで終われない化け物。

そんな・・・・矛盾の化け物だった。

「隊長・・・・」

それは間違いなくロウマ=ハートだった。
見間違うはずがない。
見間違うはずがないが、
見違えてしまった。

跡形も無い。
絶対的にロウマ=ハートにしか有り得ない脅威を持ち合わせながら、
荒唐無稽にロウマ=ハートでは有り得ない殺意を持ち合わせていた。

矛盾の化け物。

化け物が嵐のように通り過ぎた後も、
目には残像が残っていた。
誰よりも好んでいた彼の冷たく優しい目は、
煮えたぎった恐ろしいものに変化していた。

「隊長・・・・・・」

ガタン・・・・と、
ユベンの足は崩れた。

「遅かった・・・あの日・・・貴方が言ってた通りになった・・・・」

無念しか残らない。

「隊長・・・貴方は誰かに何かされるのを許すほど弱くない」

最強のロウマ=ハートなのだから。
だから、

「"ソレ"はどこかで貴方が望んでいた本性なんですね・・・・」

矛盾。
矛盾の上に咲く最強。

「だから貴方は矛盾を無視して騎士団長の横に居たっ・・・・・」

ユベンは拳を握り締めた。
痛いほど。
痛くなるほど。
痛みになって欲しいほど。

「何よりじゃない・・・・」

ユベンから連絡が届いた。
クシャールの名が刻まれていた。

「これも・・・・輪廻か」

































「どうでしょうか。新しきシスター。新しき乙女」

バンビは呆然としていた。

「よくなくなくなくなーい?」

女達に囲まれ、
バンビはその中心で変わり果てた姿になっていた。

「イイのか悪いのか・・・」

フリルがいっぱいついている生地。
ドレスだ。
スカートさえ履いた事が無い自分には、
なんとも落ち着かない通気性だ。

バンビ特有の利点をあげるなら、
ある意味、立ちションは逆にし易いぐらいのもので、
後は柄じゃないとしか言えない。
というよりも胸元がブカブカで貧相だ。

「あら、サイズはなかったかしら?私のシスター達」

「お姉さま。すいません」
「お姉さま。さすがにこのサイズはありませんでした」
「お姉さま。寄せて上げるレベルにも達していないのです」

「海の女にケンカを売ってるね!」

嫌がらせ以外の何ものでもないが、
軽口を叩くと、部下の女達が一斉に睨んで来る。

「お姉さま。そういえば」
「お姉さま。この乙女のパンツも替えました」
「お姉さま。使い物にならなかった故に」

ギルヴァングにビビって漏らしたとは言えない。
言わなくても事実が勲章として残り、
没収されたのだからもう言い逃れもできないが。

「はん!海の女は陸でも泳ぐのさ!」

いい訳としては落第点この上なかった。

「バンビさん。馬子にも衣装という言葉でヤンス」
「それ褒め言葉のはずだよね!馬鹿にされてるよね!」

「いえいえ美しくなり得ていますわ」

オレンティーナ=タランティーナに抱きしめられる。
着せ替え人形の如く遊ばれているような気がする。
何にしろ、
抱きしめられ、
体温が無いことに気付き、
この人達は死んでいるんだったなと再確認させられた。

「あの・・・」

「なにかしら。新しき乙女。どんな質問でも、言えばよくない?」

「結果はどうあれ・・・なんで敵の僕なんかを」

「敵?関係なくなくない?その前に貴方も女じゃなくなくなくなくない?」

それはそうだが、

「戦う理由が出来たなら戦えばよくなくない?
 でもまだ理由がないなら殺生は無いほうが良いと神様はおっしゃったわ」

オレンティーナはバンビを離し、
胸元から十字架のネックレスを取り出して口付けする。

「私の神様はおっしゃったわ。"殺す勿(なか)れ"」

聖女。
尼僧。
部下たちをシスターと呼んでいるのは、
義妹という意味だけでなく、
そういう意味も含んでいるのだろう。

どうみてもギャルにしか見えない身なりだが。

「そして汚れなく、美しくあれ・・と。貴方も例外じゃないのよ。新しき乙女。
 ねぇそうでしょう?私の乙女。私のシスター達」

「「「「はい。お姉さま。愛しております」」」」

よくわからないが、歓迎はされているようだ。

「あの、なら聞くんですけど・・・・なんで貴方達は戦っているんですか?
 なんで戦いを好まないのに騎士団なんかやってるんですか?」

「戦いが嫌いでも、戦いは必要じゃない?そうじゃなくなくない?」

自らのぷっくらした唇に、
オレンティーナは指を当てて笑う。

「アスク帝国。王国騎士団は平和を愛する正義の一団だったのよ」

「・・・だった・・・とは聞いてるけど・・・今は違う。
 あ、貴方達死骸が終焉戦争当時の思いででしか動けないとは知ってるんだけど。
 それにしたってその頃は既に平和の王国騎士団とは呼べなかったんじゃ・・・」

アインハルト率いる、
たった一人の人間による、
独裁、
わがまま、
そんな・・・・世界の力の根源。

「私は世界を愛している。ヤバくない?」

ギャル聖女はそう言った。

「新しき乙女バンビ。貴方は親が好き?嫌い?」

親。
ジャッカル=ピッツバーグ。
海の王者。
海賊王。

「その親が変わり果てたとして、貴方はそれを見捨てるのかしら」

「それは・・・・」

「それが全てじゃなくなくない?」

オレンティーナは、
軽率な身形とは裏腹に、
暖かに笑った。

聖母。
聖女。
マザー。

そんな言葉の似合う女性だと思った。

「変わり果てても私は世界を愛している。見捨てたりはしない。
 神様はおっしゃりました。見捨てる勿(なか)れ。
 私は世界を愛し、それ以上に自分を超愛し、そしてシスター達も」

「「「「はい。愛しております。お姉さま」」」」

バンビは分からなくなっていた。
敵は、
悪なのか?

あまり多くの敵とは遭遇していない。

ギルヴァングは恐怖の対象でしかなかったが、
悪とは違う気がした。
逆にツヴァイは憎き仇だ。
何を信じればいい。
この騎士団を倒して世界はよくなるのか?
新しい世界はまた無秩序なだけじゃないのか?
何が正義で、
何が・・・・

デムピアスも魔王のくせに正義という言葉を頻発させていた。

「迷える子羊(乙女)バンビ。貴方はただ貴方の信じる道をいけばよくなくない?」

オレンティーナは言う。

「私は私の信じる道に同じ神を信じてる。そうなりたいし、そうありたい。
 じゃぁ乙女バンビ。貴方は何?何を信じ、何に成りたい?」

「僕は・・・」

親父のような・・・

「海の・・・・」

「海の神?海の王?海の守り神?ポセイドン?リヴァイアサン?ネプチューン?
 トリトンかしら。オシリスかしら。称して"ワダツミ"・・・・それとも」

デムピアス?

オレンティーナが問いかける。
彼女は・・・導ける者なのだろう。
話を聞いていただけなのに、
バンビに答えが固まっていた。

いや、
昔から固まっていた答えが導き出された。

「僕は海賊王になる」

それだけだ。

「そのどれかに成りたいわけでもない。バンビという海賊王に成りたいんだ。
 親父のようにもなりたいし、デムピアスの名も欲しい。
 だけどそれらもひっくるめた、バンビ=ピッツバーグという海の王になりたい」

ピンキッドは、
親心のように涙ぐんだ。
バンビが成長したのかは分からない。
だけど、
それは求めていた強い目だったから。

「よくなくなくない!?」

オレンティーナは嬉しそうに手を合わせた。

「乙女バンビに神のご加護のあらんことを!」

周りの乙女達が一斉に目を瞑り、
祈りを捧げた。

「でも乙女バンビ。貴方は乙女。王でなくて女王を目指さなきゃ駄目じゃなくなくない?
 女は強いのよ。自信を持ちなさい。女は武器。美しさは武器よ。
 戦場でも美しくあらんことを!ってことで女をもっと磨きましょう」

「え・・・あれ?」

「もっとセクシーに!キュートに!スウィートに!ビューティフルに!
 まず貴方が海の乙女になるために足りないのは水着に似合うダイナマイトボディよ!」

そうなのか。
絶望的じゃないか。

「大丈夫。乙女バンビ。足りないものは化粧で補えばよくなくなくなくない?」

「も・・・もう化粧は・・・」

「あっまーい!スウィーツ!」

いつの間にやらオレンティーナはポーズをとっていて、
両手に化粧道具を装備していた。

「ここが戦場になるまでまだ時間は沢山あることなくなくなくない?
 それまでに貴方は一端の超ヤバいに乙女にしちゃうわ!ねぇ私のシスター達!」

「「「「はい。お姉さま」」」」

「じゃぁ任せたわ。愛する私の妹達」

そう言い、
バンビは女達に囲まれたが、
オレンティーナは一人、
ピンキッドを抱き抱えて別の方へ歩んだ。

「私は、"こっち"の相手をするとします」

オレンティーナは立ち止まる。
"それ"はあまりにも自然にそこに居て、
それこそ、
存在感は妖(あやかし)が如く。
いつもそこに居て、
どこにでも居て、
どこにも居ない。

そんな存在感の者。


「・・・・・・・」


そんな上半身裸で、
胸の刺青のある、
安全ピンピアスの神が、

地面に寝転がり、煙草を燻(くゆ)らせていた。

「・・・・メンデぇ・・・・・・バレてた」

「堂々と寝転がってる者の言葉じゃなくなくない?」

「・・・・・それでも気付いたのはあんただけだ・・・・・・あぁ・・・ダルぃ・・・」

ネオ=ガブリエルは、
戦場の真ん中でアクビをする。
寝転がったまま。

ダニエルのドサクサに紛れて侵入したのだ。
・・・・・まぁあくまでそんなのは偶然だ。
ダラりと地味に飛んできたら、
たまたまダニエルが派手にやらかして、
誰からも興味を持たれなかったのでそのまま寝転んだだけだった。

「翼」

オレンティーナはぷっくらした唇に指を当てて、
それを魅惑な睫毛の下で眺める。

「・・・・・・・そ、俺、天使・・・・・そ、エンジェル」

適当に答える。
ネオ=ガブリエルは、
エクスポ・・・・基、フウ=ジェルンの気配で駆けつけたはいいが、
ちょっと面倒な場所に居る事に気付き、
ダルいし面倒だから、
意志弱く諦めたところだった。

基本的に全てに興味がない。

「神族・・・・ね。だけど私の信じている神様とは違くない?違くなくなくない?」

「・・・・・・・・・だる・・・・」

相手にするのもダルい。
興味もない。

「でも神様は神様。崇めるに値すると私は思ってることない?」

オレンティーナは、
またネックレスを取り出して口付けをする。

「神様といえど、ここは男子禁制じゃない?ここに来た理由はなにかしら」

「・・・・・理由なんざねぇよ・・・」

ダルい。
面倒だ。
全ての行動に理由なんてない。

「嘘吐きな神様ね」

オレンティーナは魅惑に笑った。

「完全な自然体というものは、身を委ねたまま流れ着くべきところに流れ着くものよ」

理由はある。
神であるネオ=ガブリエルが、
理由もなく流れ着いた理由は。

「・・・・・・・面倒ぇ・・・けど・・・・聞いてやる。・・・・名は」

「オレンティーナ=タランティーナ。神の娘。神の乙女。
 王国騎士団第5番・乙女(アマゾネス)部隊・部隊長・・・・じゃなくなくない?」

「ダリィ口調だ・・・・俺はネオ=ガブリエル・・・・ガブちゃんでいい」

ガブリエルは、
寝転がったまま、
地面に煙草の火をすり潰した。

「・・・・俺が流れ着いた理由は・・・・匂いだ」

煙草の匂いに撒かれたまま。

「俺の嫌いな香水の臭ぇ匂い・・・俺の嫌いな化粧のケバ臭ぇ匂い・・・・」

そして俺の嫌いな面倒臭ぇ匂いと、

「神の臭ぇ匂い」

「残念。私は人間。でも貴方いい男ね。禁愛してなきゃ・・・・」

オレンティーナな妖美に投げキッスを神に送った。

「いえ、愛する乙女達に浮気だって怒られちゃうかしら」

ガブリエルは、
面倒臭そうに笑わなかった。
笑えなかった。

「"化粧がうまい人間だな"」

言及はしなかった。
面倒だから。

































「何がチャンスだ!むしろ押されてんじゃねぇか!」

ドジャーは叫ぶ。
ダニエルが作ったスペース・・・・
雪原部隊を壊滅させて作られたスペースに一気に攻め込んだのだが・・・

「アレックス!進むどころか押し返されてる!どーなってんだ!」
「どうなってるもこうなってるも・・・・」

見たとおりだ。

「地の部分で圧倒的に騎士団のが上なんですから・・・その上死骸騎士」

まともにやる分には、
確実に力量で負けて当然。

「それに対抗するためにこちらに大勢を割いたんですが・・・・読みが甘かったです。
 体力が増えただけで攻撃力はそのまま・・・と表現するべきでしょうか」
「・・・・・カッ・・・」

人数的に、かなりの時間は堪えられるが、
人が多いところで攻め込む力が増えるわけでもない。

「盾を持った人間は出来るだけ前に出てください!
 押し込むこと・・・押し込まれること・・・それらの対処が先です!」

アレックスが指示を飛ばす。
乱戦にならないのはアレックスの統率のお陰だ。

「ダガー等、獲物の小振りな人や修道士、及び逆に大振りな武器な方、
 それに魔術師等の人は後ろに下がり、出来るだけ・・・・
 あぁ!つまり騎士!騎士を職としている方を出来るだけ前に!」

戦争になれば、
団体戦になれば、
騎士ほど有力な者はいない。

機動力は要らない。
守る盾と、
目の前・・・・真っ直ぐのみに威力とレンジを備えた槍。
それだけで十分。
それ以外は邪魔。
混雑な団体戦での前衛はむしろ騎士にしか有り得ない。

「騎士団か・・・・」

相手にしてみて初めて分かる脅威。
戦争のための・・・・力。

「ダニー!」

どれだけやっても劣勢の戦況の中、
押し込めない中、
一人ボンヤリと自分の後ろに立っている男に、
アレックスは叫ぶ。

「おぉーよびっかね♪アッちゃん」
「ちょっとキツいです。敵の上空に行って掃除してきてくれませんか?」

キツいとはいえそれでも、
ハッキリ言ってそれでも、
ダニエルの力を使えばどうにでも・・・

「NO!・・・・だアッちゃん!」

ダニエルは両手で×字を作り、
ケラケラ笑う。

「今は俺、アッちゃんを観察したい気分だからノらねぇんだよ。
 それによく見てみれば騎士団(こいつら)さぁ、骨じゃん」

今戦っている死骸達は、
変身スクロールも与えられていないような雑兵だ。

「燃えねぇんだよ。こぅ・・・・燃やしてぇ〜〜!・・・・ってならねぇの。
 これがこう心が映し出される表情とか、思い出の顔ぶれとか、
 そういうのだったら俺もアルバム代わりに火葬してやりてぇ!ってなるんだろうけどさぁ」

放火魔の趣味の問題だった。
ダニエルの好物は特に人の心だ。
燃え逝く人の苦渋や覚悟。
心の燃え尽きる姿こそ至高。

彼らがせめて、騎士団員の顔をしていれば、
元同士を燃やす快感に目覚めるのだろうが・・・・・

「きまぐれ屋ですね・・・ダニーは」

失笑してアレックスは目の前に槍を突き出した。

「アーメン」

それでもなお、この戦場で一人際立っているのは・・・・
アレックス=オーランドだった。

「どいてください。葬送こそ聖職者の役目なんで」

どこも一進一退の中、
奇しくも一人抜けている存在がアレックスだった。

「地獄の底まで寝てたんで、元気が有り余ってるんですよ!!」

蒼白い炎。
それを渦巻く槍。
オーラランス。

受けるだけで蒸発するように死骸は昇華されていく。
圧倒的だ。
実力というよりは、
相性の問題でアレックス=オーランドだけが、
ズルい武器を手にしているような・・・・・

否、
この状況の中で唯一許された、
そんな英雄の立ち居地を約束されているような。

「僕一人じゃ一人分の道しか作れませんよ!それじゃぁ戦争に意味はない!
 だから簡単な言葉を皆さんにかけますよ!ほら!もっと頑張ってください!」

皆に激励する。

「勝ちたかったら前に!前です!何度も言ってるでしょう!下がらないで!
 あぁそこの魔術師の人達!下がれと言いましたけど休めという意味じゃないです!
 これは試合じゃない!戦争です!どこかが抜け落ちれば負けます!」

一人だけ戦力的に有効なアレックスだが、
同時に一人だけ戦争を動かせる人間でもある。

英雄に課せられた仕事は多大だった。

「そこの盗賊の方!気合は認めますが後ろに下がって援護に回って下さい!
 自分に出来ることを見つけて・・・・とにかく全体を見ることから・・・・」
「うっせぇ!」
「あ、ドジャーさんでしたか」

ドジャーは前線で両手のダガーで舞っていた。
ただ先ほどのアレックスの命令通り、
小味な武器は、
統率のとれている戦争の前線ではあまり役に立たない。
・・・・というか。

「・・・・ド、ドジャーさん・・・」
「なんだよ!分かったよ!下がるよ!」
「いえ・・・っていうか・・・まだ克服出来てなかったんですか」

ドジャーはピタリと動きをとめた。
そこを狙って突いて来た槍を、
なんとか避けた。

「・・・・何がだよ」
「・・・・・僕が寝てる間にそれくらい解決してると思ってたんですが・・・・」

ドジャーは体を反転させて、
前線から抜け出た。

「あぁうっせ!そうだよ!その通りだよ!なんの進化もしてねぇよ!
 未だ俺の火力じゃ死骸騎士を殺しきれねぇんだよっ!」

アレックスは残念ながら呆れた。
死骸騎士の耐久力をまだ克服できていないドジャーに。
ドジャーのダガーでは死骸騎士に致命傷を与える事は出来ない。
それはイコール・・・
死骸騎士を倒せない。

「カバー!ひとまず耐える事に専念してください!
 攻め込むのは次の段階で、まずは押されないこと!後退しないこと!」

アレックスは周りに指示を出し、
戻ってきたドジャーに対した。

「・・・・ドジャーさん・・・無駄ですね」
「無駄っていうな!駄目とか役立たずならまだしも!無意味みたいに言うな!」
「ヒャッハッハッハッハ!ドジャっち居る意味あんの?」

ダニエルが腹を抱えて笑っていたのを、
一睨みするドジャー。
だが負け犬の遠吠えのようなもんだ。

「死骸騎士には小型の傷は無意味ですから、盗賊の皆さんは基本援護に回ってもらっています」
「・・・・俺もそうしろと?」
「少なくとも無駄から、まぁ居るよりは・・・ってレベルには進化出来ます」

屈辱だ。

「いや、真面目な話」

アレックスはドジャーに言う。

「プライドなんかで戦われても意味がないんじゃしょうがない。
 そんなのは今日がゴミの日です。包んで縛って捨ててください」

結果が全て。
そうだろ?と云わんとしている。

「・・・・・・チッ・・・」

ただ、
そうなるとドジャーが戦える相手なんてのは、
44と53。
そして絶騎将軍(ジャガーノート)だけ。

それらにドジャーが勝てるかという話なら、
それもまたNOである。

「死にたい気分なら手ぇ貸すぜドジャっち?」
「・・・・うっせぇよ」
「だぁーいじょうぶだぜ!燃えるのは怖くない!何より有意義!
 ドジャっちが焚き火になればよぉ、周りの皆の心と体が少しホットになるぜ?」
「お前の気分がだろ・・・・」
「レッツファイヤ!」
「うっせ!」

何度も感じてきた不甲斐なさ。
だが、
それ以上に目に見えるほどの・・・
ここまでの絶望的な無力感。

「・・・・・・」

アレックスも、ドジャーの扱いには頭を抱えるところだ。
もちろん、
共に戦いたいに決まっている。

「だけど使い道が・・・・」
「声に出てるぞ。黙って悩んでくれ」
「ドジャっちドジャっち」

ダニエルが自分自身を指差しながら、
何やら表情を変えた。

「ば、馬鹿な・・あれは古から伝わる馬上風土拳・・それを乳首一つで破るとは・・・・
 ・・・・・みたいな解説役とかどぉ?ね?ドジャっちにピッタリじゃね?」

そのポジションは十分に埋まってる。

「あぁ、使い物にならないといえばエールさん」

思い出したように、
アレックスはエールを指差す。
こそこそと、
アレックスの機嫌を様子見ながら距離を置いていたエールは、
ビクりと体に電撃を通した。

「う、うぃ!」
「役に立たないだけなら付いて来ないでください。意味、分かりますよね?」

エールはアヒル口になったまま、
考えるように呆然としていたが、

「う、うぃ!!」

敬礼してピューっと戦場の中、どこかへ行ってしまった。

「アレックス。ほんとあの女に厳しいな」
「その事は個人的な問題です。それはいいでしょう。それよりドジャーさん」
「ん?」
「戦力に関してですが、ドジャーさんがどうにかなるために一つ。
 ティルさんから戴いたダガー。あれを使ってください」
「あ?これか?」

ドジャーはティルから受け取ったダガーを手にする。
装飾は派手な割に、
特に際立ったところはない。

「普通のダガーだぜ。これ」
「それ、割れますよ」
「へ?うぉ!?」

ドジャーが少し力を入れると、
ダガーは割り箸のように縦に二つに別れた。

「ほほぉー!」

ドジャーはそれらを両手に持ち、
珍しそうに眺める。

「なるほどなるほど。つまり俺もこれで・・・」

その二つに別れたダガーで、
構えを取った。

「ダガー二刀りゅ・・・・・・全然今まででも事足りてただろ!
 何この地味なドッキリギミック!このダガーなんなんだよっ!」

ドジャーはダガーを地面に叩き付けた。

「別に特別な事は一切ないダガーですよ」

アレックスは言う。

「・・・・・・なんだよ。なんか知ってんのか」
「僕は気付いただけです。でもティルさんはドジャーさんに気付いて欲しいみたいなんで」
「んな事言ってる場合でもねぇだろ!」
「いえ、切り札に関してはとっておけるならとっておくのもまた一つなんで」

アレックスはそれはさて置き、
戦場の方に関心を戻す。

「いいですね」

状況を確認し、
アレックスは周りに聞こえるように声を張り上げる。

「いいですよ!押されなくなってきました!慣れてきたってことです!
 向こうは戦争のプロです!こっちも定石くらいは感じれないと!」

西。
この戦況としては、
動けない状況だった。
相手の力量がそうはさせてくれない。

「騎士団の弱点は"命令系統が完成してしまっている事"です!
 完璧故にそこ以外の対応、次行動にラグがあります!
 こちらの変化への対応は指揮系統にしか出来ないってことです」

だが相手の力量は、
アレックスはよく・・・知っている。
知りすぎている。

「もう一度言います!向こうは完成し切っています!変化はこちらだけ!
 向こうが対応してくる前に次の段階にいきますよ!
 今前衛で動いてる方はそのまま右翼に流れてください!
 そう、そのまま船を迂回して東を攻め込むつもりで!」

攻め込めない。
だが、
攻め込まれない状況なら五分と取る。
悠長な事は言っていられないが。

「それでも敵の位置よりも仲間の位置に意識を持つ事は忘れないでください!
 後ろで戦意の有り余ってる方!朗報です!左翼に突っ込んでください!
 職種は問いません!勢いだけで十分!ボヤボヤしてると対応させますよ!」

ドジャーにも、戦場の動きが見て取れた。
関心した。

「こう崩すわけか」

右・・・東に流れた前衛達に、釣られて対応する騎士団の騎士達。
意志とは別に、同じ方向に流されていた。

陣形を崩した。
いや、ズラした。

そして空いた西の城壁側・・・・左翼を埋めたのは、
当然指示の飛んでいる反乱軍側の方が早かった。

「今右翼に流れた前衛の人達はこのまま前衛として使い続けます!
 堪え、出来るならば押し返せるレベルまで到達してください!
 そのチャンスは今しかありません!前衛のエキスパートになってください!」

無茶を言う。
だが、
騎士団側の対応はむしろ雪崩れ込んだ空いた左。
今勢い任せに突っ込んでいるだけの行軍だ。
そちらに手を巻いてるヒマもなく、
結果的に・・・全ては微妙にうまくいっている。

「やるな。アレックス」
「惚れ惚れするねアッちゃん」

ドジャーとダニエルが言うが、
アレックスはまだ五月蝿い戦場で指示を飛ばしていた。

「戦術が・・・ってのは俺にはよくわからねぇが、それ以上に"教育"がすげぇ。
 まさか戦いながら育てるっつー芸当に出てるとはな」
「ヒャハハハハハ!俺的には捨て駒にするぐらいの気概がイー!んだけどね!」
「やらざるをえない・・・・っていうか騙し騙しですけどね。
 それでもクロールの型を覚えるだけなら誰でもすぐに・・・ってところです」

何でも極める事は難しい。
だが"えせ"な初歩を付け焼刃にするのは案外楽なものだ。

「ただ、順調すぎます」
「あぁ?順調か?それでも燻ってるように感じるがな」
「それでもやろうと思えば簡単に向こうはこちらを潰せるはずです。
 だからこその完成形。付け焼刃で押し返される騎士団じゃないはずです。
 部隊ごと編成を変えてこないのは、ディエゴさんが"東"の処理に追われているからか・・・」

それは考え難い。
本隊はこちらだ。
失礼だが、マリナ・メッツ・ロッキーの部隊で、
ディエゴ=パドレスの頭を痛ますほどの成果は見込めない。

「それとも・・・・・・」


「作戦、を、練って、あった、から・・・・・か?」


答えるように後ろから声。
振り向いた。
振り向いた先には、

「その、通り、だ。時期を、見計らって、いた」

パンプキンヘッドをかぶった男が居て、
同時、
反乱軍の中で悲鳴が一斉に飛び交った。

「なんだこいつ。それに何が起こって・・・・・」
「ヒャハッ♪」

ドジャーはダガーを、
ダニエルは申し訳程度に手の平に炎を灯した。

「俺、は、名乗る、ところ、の」

「第26番・伏兵部隊部隊長・・・リンコリン=パルクさん・・・・ですね」

「久し、ぶり・・・だ、な。アレッ・・・クス、部隊、長」

「注意はしていたつもりでしたけどね・・・・・・
 慌てないでください皆さん!攻撃してきた者だけを把握するように心がけてください!」

アレックスは全体に指示を飛ばす。
反乱軍の中。
その中が騒がしくなった。

戦闘が起こっている。
否、
暗殺に近い形で・・・・・つまり、仲間の中で敵が暴れている。

まずどこをどうすればいいのか、
アレックスが苦虫を噛んでいる間に、ドジャーが口を開く。

「カッ・・・伏兵部隊ね。インビジには注意しながらぶつかったつもりだったがな」

「バレたら、伏兵、では、ない。侵入した、のは、つい、さっき、だ」

カボチャマスクの男は、
一人、
淡々と話す。

「注意、していた、と、言ったな、アレックス、部隊長。
 俺達に、裏を、かかれまい、と、・・・・それは、そうだ。
 伏兵部隊が、あると、知っていれば、慎重にも、なる」

伏兵をするぞ・・・と名乗っている部隊が存在しているのだ。
それを警戒しないわけがない。

ただ現実、
伏兵部隊は反乱軍の中に忍び込み、
今、暴れている。
反乱軍は対応出来ずに被害だけが増えているようだ。

「ただ、"伏兵"は、"伏線"を、張った。お前に、バレないよう、に、な。
 "東"で、お前らの、仲間と、遭遇、しておい、た」

それは偶然の産物でなく、

「ディエゴ、部隊長が、お前の、耳に、入るように、立てた、伏線、だ。
 お前、は、思う・・・・・・伏兵、部隊は、東の、どこかに、配置されて、いる、と」

警戒はしても、
その可能性の方が高いとアレックスも踏んでいた。
今・・・目の前(西)に現れるまでは。

「ディエゴ、部隊長に、一本、とられた、な」

カボチャのマスクで隠れているが、
その裏で笑ったのだろう。
篭った吐息が聞こえた。

「おいカボチャ野郎。調子こいてんのは自由だがな、こんなのすぐ収まるぜ。
 かんしゃく玉が弾けたレベルの作戦だ。見たところ数はそこまでじゃねぇ。
 時が立てば結局・・・・・・お前らは敵のど真ん中の袋のネズミだ。ご愁傷様」

一回コッキリの効果の短い作戦だな、と。
ドジャーは嘲笑した。

「敵の、真ん中、ほど、安全な、場所、は、ない」

リンコリンはそう返した。

「・・・・あぁ?」

事実、
形勢が逆転する様子はない。
伏兵部隊は、反乱軍の真ん中で散り散りに暴れまわっているようだ。

「よく、誤解、されるが、俺達は、インビジの、部隊じゃ、ない。
 それは、ステルス、部隊の、仕事、だ。俺達の、仕事は、"挟撃"・・・・。
 敵の、不意を突き、戦況、陣形、それらを、優位な形に、する」

お前たちはこの伏兵の出現によって、
挟み撃ちになっているんだよ・・・と、
カボチャは言う。

「あんた、ら・・・・オセロは、好きか」

リンコリンは言う。

「お前は、伏兵を、置くとしたら、盤面の、どこに、置く。オセロで、いい」

オセロの盤面の、
どこに伏兵を置く。

「角?、違う、それは、最終、目標。そこに、到達、するまでに、戦況を、変える、一手。
 伏兵、を、放り込むと、したら、それは・・・・・・当然、敵の、ど真ん中、だろ?」

ここだ。
と言わんばかりにカボチャ男は手を広げる。

「挟撃、を、するために、一番、挟まれた、所に、現れる。
 オセロで、八方を、黒で囲まれた、白は・・・・」

無敵だ。

それが、最強の伏兵だ。

「バレ難い、対処し難い、特に、お前らは、即席の、軍だ。馴れ合いの、軍だ。
 隣の、人間が、味方だと、全員が、判別、出来て、いるのか?」

未だ、
対処は出来て居ない。
アレックスもその区別は出来ない。

「オセロ、囲碁、戦場、・・・・そこは、将棋や、チェスと、違い、王手は、無い。
 チェック、メイト、とは、ど真ん中と、周囲が、落ちた、状態を、指す」

気付けば、
前線がまた押され始めた。
対処は急務だ。

「どうすんだ。アレックス」
「・・・・・・」

また、
ディエゴ=パドレスに遅れを取った。
戦術で・・・・彼には勝てないのか。

「伏兵を浮かび上がらせる・・・それが最善でありながら、それが向こうの狙いです。
 堂々とリンコリンさんが目の前に居るのもその一つ。囮でもあるわけです。
 対処法を導き出した時にはもう遅いでしょう・・・・・彼らは消えています」

そしてその頃には、
伏兵以外の場所が、
チェックメイトの陣形を作り上げているだろう。

「なら無視だアレックス。鬼になれ。被害は致命的じゃぁない」

敵は決して多くない。
伏兵を無視して戦争。

「毒を浴びているようなものです。隣に敵が居たまま皆は戦えると?
 ただでも劣勢な戦いで枷をつけてやれと?そういうんですか」
「じゃぁどうすんだよ!」

答えは決まっている。
被害は最小限に。
でもそれは、
アレックスがやるわけにはいかない。

「トリック、オア、トリート。ハロウィンに、ようこそ。
 甘い、もんが、ある奴、には、イタズラ、だ」

その結果だ。
カボチャマスクは言う。

「ウィル、オー、ウィスプ。で、ジャック、オー、ランタン、だ。
 俺達は、カボチャの、亡霊。伏兵に、手出しは、出来ない。
 アレックス、オーランド、菓子を、よこせ。じゃなきゃ・・・・」

「カボチャの丸焼きにするぞ」

リンコリンの、
南瓜頭を、何かが後ろから鷲掴みにした。

「な、・・・」

「いやぁぁあ〜〜〜・・・・・俺には難しい事分かんねぇな♪」
「ダニエル!」
「ダニー・・・・」

ダニエルは、カボチャ頭を掴んだまま、
命を握ったまま、
ヒャハハと笑う。

「でもつまり、つまり、つまりぃ?なんか困った子ちゃん達が混ざってて〜。
 判別出来ないとか?そんな?っしょ。だっしょ?ヒャハハハハハハ!」

「・・・・・何が、おかしい、俺の、命を、手篭めに、した、くらい、で、何も、変わらない。
 作戦は、終わらない。ハロウィンが、必ず、一晩、ある、ように。
 お前、ら、は、俺達、イタズラ小僧の、被害者でしか、ない。ハロウィン(伏撃)が、終わ・・・・」

「被害者ぁぁぁぁあ?ヒャーーーハッハッハハハハ!!!」

ダニエルは胸を仰け反らせて笑う。
背中に、
着火したように、
炎が。

「知らねぇ知らねぇ知らねぇ知ったこっちゃねぇーーーなぁ!!」

炎が、翼のように。
翼になって広がる。
轟々と。
炎の翼が感情を表すように燃え上がっていく。

「俺は!ダニー君はよぉ!被害も加害もねぇーーんだよ!
 被害者になんてならねぇ!放火魔だから!そして加害者にもならねぇ!放火魔だから!」

「な、この・・・」

リンコリンの体が、浮き上がっていく。
ダニエルに頭を掴まれたまま、
ダニエルが、空へ飛び上がっていっているのだ。
炎の翼を揺らめかせて。

「俺はよぉ!火害者(ひがいしゃ)だ!火害者(かがいしゃ)だ!天災なんだよっ!見てろ?」

そして、
少々上空に飛び上がったと思うと・・・・

「Let's!ランブー!ヒャッハーーーー!!」

炎をばら撒いた。
火炎をばら撒いた。

「火害(ひがい)だ!火害(かがい)だ!炎害(さいがい)だ!
 ほら!カボチャ!笑え!笑えって!鉄板?網焼き?どっちがお好きぃ〜?」

ファイアストーム。
炎の雨が降り注ぐ。
それは多大に、災害並に火力が広がり、
辺り一面を、
炎の海に変えていく。

「あん、た・・・何を、・・・やってる!か!分かって!る!のか!」

「わぁーかってる分かってる。分かってないと楽しめないじゃねぇか。
 困ったちゃんが紛れてるんだろ?見つけられないんだろ?」

なら、
全部燃やせばOKだろ。

「ちょーーーーっと面白そうだって思っちゃったなぁ!俺!」

地面が炎の海になる。
地面からのオレンジの輝きが、
上空のダニエルの顔を下から映し出す。

「ヒャハハハハハハ!熱い?燃える?灰かい?廃かい!?」

伏兵達が、燃えていく。
そして、
その何倍もの数の・・・・・反乱軍が燃えていた。

彼らは悶え、
呻き、
悲鳴を・・・・

「ハイ、はい、廃、灰、HIGH、はい!イェス!いえすいえすいえす!!!
 いぃーーーご返事だ!そぉーれが聞きたかった!まるでオーケストラだ!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!」

神の、
悪魔の、
笑い声が響きわたる。

炎上する地の上で。

「ヒャァァーーッハーーーー!!!お勤めご苦労様!」

ダニエルが、
リンコリンの頭を鷲掴みにしたまま、
その手に熱を込める。
バーナーで焼いたように・・・・オレンジに発光していき、

「あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁ、ぁぁぁぁぁ、!!!!!!」

「さらば。カボチャの丸焼き。俺は焼くならやっぱ肉だからよ」

天空で、
リンコリンの頭と体が熱で爆発した。

炎のゴミクズと化した骨が、
小雨のように降り注いだ。

「炭焼きパンプキン。食えたもんじゃねぇな!ヒャーーーハッハッハッハッハ!!!!!」


































「正義は勝つのだあああああああああ!悪は滅すべしぃいいいいいいいいいいいい!」

「くっ・・・・」

単身敵の群れに飛び込んだメッツだが、

「これがケンカと戦争の違いか・・・・」

部隊長は見つけた。
これを仕留めればここらの戦況は大きく変わるだろう。
ただ、
だからといって戦争でタイマンなんてさせてもらえるわけもなく、

「ちぃ!どけ!どけコラァ!!」

両手斧をぶん回してもぶん回しても、
それ以上の圧力が8方から圧し掛かる。
囲まれているならまだしも、

「おしくら饅頭じゃぁねぇんだぞ!」

数と勢いで押しつぶしてくる。
戦いどうこうよりも、
一人の人間が動ける状態でさえない。

「どけ!どけテメェら!しつけぇんだよっ!あいつを俺にやらせろっ!
 お前らは後から順番にぶっ飛ばしてやるからよぉ!!」

斧で無理矢理掻き分けるように、
その群れの中を進もうとするが、

「がっ・・・・」

強さとかそういうものでどうにか出来るレベルではなく、
メッツは地面に叩きつけられた。

「・・・この・・・・」

視界を埋め尽くすように槍が自分へ向けられた。
ハリネズミの逆のような状態で、
地面に伏せさせられたメッツの目の前に、
その、
部隊長の足が映る。

「見ろっ!悪は!悪は滅びるのだぁぁあああああああああああああ!
 悪に勝利などなぁぁぁあああい!故に貴様は倒れているのだあああああ!」

熱弁に叫ぶその部隊長。

「・・・・・・・誰かに似てるよな・・・お前・・・・」

「ほぉ!このラモン=オリオンパックに似ている者がいるのか!!
 その者もぉおおお!世界の!世界の悪を駆除するべくううう!
 果敢に貴様の前に立ったのだろうなぁぁあああああああ!」

五月蝿いほど熱い男だ。
どっかの道場の誰かと名前も似ている。

「悪は!即刻!駆除すべし!デリート!デェリィイイイイイイト!
 騎士団の正義の前に!残る悪など根絶おらん!おらぁぁぁぁぁああああん!」

ラモンという部隊長は、
槍を振り上げた。

「くっ・・・・」

地面に叩きつけられたメッツは、
周りの騎士達の槍に包囲され、身動きもできない。
ただ、
黙って死ぬわけにもいかないが。

「しかと身に刻め!悪の者よ!この第8番!治安維持部隊!部隊長!
 ラモン=オリオンパァッァァァーーークが!鉄槌を下してやるっ!」

「やられるか・・・・よ!!」

メッツは倒れた状態のまま、
左手の斧を振り回そうとした。

「・・・・・お・・・・」

そこで気付く、
そうだった。
こっちの斧は既に・・・・この男に折られていたんだった。

初見出来た時に勢い任せて襲い掛かることが出来たのだが、
簡単に見切られ、
そして槍なんて重量の違う武器にいとも簡単に突き割られたのだ。

「馬鹿め!悪め!貴様に世界は微笑まない!悪に世界は導かない!
 悪は滅びるものだからだ!分かっただろぉおおおおおおおおお!!
 分かったならここで駆除!駆除駆除駆除駆除ぉおおおおおおおお!!!」

「黙ってやられるかよぉおおおおお!!」

メッツの叫びは、
勢いと裏腹に皮肉なもので、
最後の足掻きとしては無力だった。
折れていない方の斧に力を込めたが間に合わない。

「なんだ!?」

ただ、
ラモンという男の槍は止まった。

「・・・・は?」

メッツも訳が分からなかった。
単独で突っ込んできたわけだから、ここには自分一人しかいない。
いないのだが、

「どうなってんだこれ」

メッツもラモンと同じ方向を見定めると、
そちらは、

開け放たれていた。

詰まりに詰まっていた騎士の群れが居たはずなのに、
そこはモヌケの空。
半径5・6mにおよび、
数にしたら数十人居たはずのその場所に、
空間が出来上がっている。

「人が・・・消えた?」

いや違う。
魂の光がそこら中に浮き上がって天に昇華されている。
つまり、
目を離した一瞬で、そこらの死骸騎士が倒されたということ。


「いやいや。ちょっと聞き捨てならねぇから寄り道させてもらおう」
「クシャールさん」
「無駄足ですよ?」
「うっせぇ!俺が決めた!文句あっか!」


そこには従者を連れた男・・・
有り得ない巨大な斧を地面に立てた、
白黒メッシュの男が、
片手に肉を頬張っていた。

「誰だ貴様ぁああああ!悪か!悪だなぁあああああああああ!!!!」

ラモンが槍を突き出して激情する。

「騎士団にあだなす者!悪!悪でしかなぁああああああああああああい!
 貴様ぁぁあああ!その斧か!その巨大な斧かああああああ!
 それで!我が同胞を葬ったのかぁあああああああああああああ!!」

「あぁ。一振りで十分だった」

竜肉を頬張り、千切り、
頬を膨らますほどにクチャクチャ噛み締めながら、
その男は言う。

「30匹くらい居たか?ま、つまり俺が10回くらい斧を振ったらここは田んぼになっちまうな」

クシャールは自分でおかしそうに笑ったが、
それは余裕の笑みでしかなかった。

「貴様!貴様ぁぁぁああ!この悪がああああ!
 誰に!誰に断って騎士団にあだなすかあああああああああ!!」

「俺が決めた。文句あるか」

自意識過剰に、
威風堂々とクシャールは返す。

「それよりも、おいザコ騎士」

「ザコぉ!?貴様ぁぁぁあ!誰に向かって言っているぅうううううう!
 この!このラモン!ラモン=オリオンパックにかぁあああああああああ!
 悪は必ず滅する!負けるクセに正義をザコ呼ばわりするかぁぁあああああああああ!」

「御託はいいっての。俺が決めただけだ。それよりザコ騎士。
 てめぇ、面白い部隊名を口にしたな。たしか第8番、治安い・・・・」

「第8番!治安維持部隊!!ラモン=オリオンパックだぁぁああああああああ!」

「そう。いや、テメェの名前は聞いてねぇんだけどよ。それ・・・・・」

クシャールは、
片腕で、
その4mを超える斧を軽々と持ち上げる。
重量にして素人目に数百kgに達しそうなそれを。

「アクセル=オーランドの部隊だよな」

メッツは突然の来訪に傍観者となっていたが、
その名前には反応した。

「アレックスの・・・親父さんの部隊?」

「そうだぁぁああああ!だが!元でしかなぁぁああああああい!
 彼は死んだ!悪だからだ!悪だから滅したまでだ!
 8番隊は正義の部隊としてぇええ!ここに!蘇っているのだああああ!」

「"あんなやつ"の事はどうでもいいが、興味はそそられた。
 俺には聞く"義務と権利がある"。まず、アクセルを悪と称するのは?」

「決まっているうううううう!騎士団にあだなしたのだ!悪!悪でしかない!
 正義にあだなすなどぉおおお!悪!悪悪悪悪悪!あぁぁぁああああああああく!」

「誰が決めたそんなこと」

クシャールは一歩前に出る。

「正義だ悪だのと、そんな事、俺の断りもなく誰が決めた?
 んなもんよぉ、人間如きが決められるもんじゃぁねぇだろう?おぉ?」

「決めたのでなぁぁああああく!決まっているのだ!
 悪は潰えるように世界は出来ているぅううううう!」

「まぁいいやもう。少し聞きたかっただけで興味はねぇからよぉ。
 俺さ、正直、今なんでここで戦争が起こってるかもよく分かってねぇ人種なんだわ」

なんだこいつは・・・・と、
メッツは傍目で思いながらも、
このクシャールという男。
誰かに似ている・・・・そう思った。
表ではないところの雰囲気が。

顔か?
性格か?
いや違う。
じゃぁ誰と似ているのか・・・・それは分からなかった。

「寄り道は終りだ。じゃあバイバイだ。
 苦しまないように一撃で仕留めてやる。必殺ってやつだ」

そう言いクシャールは、
その巨斧を振り上げた。
振りあがるとその威圧感はただものではなかった。
メッツから見て、
太陽が隠れてしまうほどの大きさ。

「・・・・・なぁーんてセリフ、ダサくて本当は言いたくないんだけどな。
 締まらねぇだろ?大人の事情ってやつだ。勘弁してく・・・・・れよ!!!」

そしてその斧は、
振り落とされた。
地面に。
目の前の地面に落とされた。

何も無い地面に。

そう思うと、地面が跳ね上がる。
跳ね上がるどころか、
真っ直ぐ衝撃が走る。

地面を衝撃が走っているように。

地面が真っ直ぐ割れていくように。
地面が真っ直ぐ爆発していくように。

巨大な衝撃が地面を走る。

「なんだ!こっ!」

ラモンは、その衝撃に巻き込まれた。
大したセリフを言う間もなく。
地面を走る衝撃は、地面を跳ね上げるレベルであり、
ラモンの体など飲み込まれた程度の通過点に過ぎず、
そのまま、
何十もの死骸騎士を吹き飛ばし、
飲み込み、
そして、

城壁にぶつかって終わった。

「なんっ・・・つー・・・・」

メッツはその事件の隙に、
辺りの死骸騎士を吹っ飛ばす。
吹っ飛ばして立ち上がり、
その跡地を見る。

「世界でも・・・割れたのかっつー光景だな」

幅5mほどある地面破壊のレールは、
100m程先まで伸びており、
城壁もヒビが入っていた。

「あー、ウソついたな。俺。10回斧振らなくてもここらは消し炭に出来る」

機嫌よさそうにクシャールという男は、
片手に肉を持ち、食っていた。
メッツはたまらず駆け寄った。

「おいあんた!なんだ今のは!つーかあんたは・・・」

「あぁー?誰てめぇ。まぁいいか。今のはパワーアックスだ。
 パワーセイバーの斧版だと思え。俺が作った。俺が決めた。んじゃ」

「いや待て!行こうとすんなっ!あんたは一体なんなんだ!今の技・・・」

「説明したろが。なんだ?凄さにビビったか?」

「ちげぇ。いや、それもあるが」

メッツは臆せず、
クシャールに問いかかる。

「今の技のイメージ・・・・・ロウマ隊長のハボックショックに似ていた」

「・・・・ほぉ」

クシャールは面白そうに笑って、
肉を頬張った。

「そこに繋げられるたぁ、見る目があるな。テメェ。
 上辺で世界を見てねぇ、戦いを見る事が出来る人間の目だ。
 それに"隊長"・・・なぇ。まぁ状況に興味はねぇ」

色々と、
頭の中でだけ、クシャールだけで楽しんだ後、
やはりクシャールはそれ以上メッツと関らず、
従者を連れて背を向け、
さらに敵の居る方向へと堂々と歩んでいった。

「辺りは静まってるのも少しの間だけだぜ。すぐまた敵に囲まれる。
 精進するこった。強くなぁーれよ。なぁ?後輩」




























----------------------------------





あの日、
俺は・・・

「俺が・・・・・副部隊長ですか?」

「そうだ」

ロウマ=ハートに呼ばれてその部屋に呼ばれた。

「ユベン=グローヴァー。お前を第44番・竜騎士部隊・副部隊長に任命する」

突然の出来事で、
嬉しいとかそういう感情は沸かなかった。
それよりも、

「なんで・・・・俺なんですか?」

若造を脱したかどうかという年のユベンにとって、
それは疑問しか浮かばない命令だった。

「そこの男が辞めると言い出したからだ」

この部屋には、
自分とロウマを含めて4人居た。
そこの男・・・と呼ばれたのは、
現役の副部隊長。
クシャールという男だった。

「あぁ。俺が決めたことだ。文句あっか?」

その頃のクシャールはまだ40台だったと思う。
白髪が生えだしてもおかしくない年でもあるといえばあるが、
故意に染めているだろう、白と黒のメッシュヘアー。

「あーー、いや。決めたっつーのは辞める事をだな。
 別に俺がお前を後継にって選んだわけじゃねぇぞ?」

「ク、クシャールさん。貴方程の人がなんで44部隊を辞めるんだ」

「別に。飽きたし、それに年下の上司ってのもなかなかプライドがよぉ」

他人事のように話しながら、
肉を頬張る。
いつもの事だ。
精がつくとか力になるとかでいつも口にしている。
本当はただ食いたいだけなんじゃないかというほど、
彼はドロイカンを餌としていた。

「ロウマ隊長。クシャールさんが辞めるのを止めないんですか?」

「来る者は選ぶが、去る者は拒まない」

ロウマは個人の意志を何よりも尊重する。
だからこそだろうが・・・。

「彼を失うのは恐ろしいほどに損失だと思いますが・・・・」

ロウマ自身も納得済みというのならば、
これ以上口も出せない。

「本当に、辞めるんですか。クシャールさん」

「辞めるさ。さっき言った理由ももちろんだが、風当たりもキチィしな。
 俺は家柄捨ててるアウトローだし、平和な騎士団で上に居るとよぉ。
 それにこのデクの棒、部隊長を譲る気ねぇみてぇだしな」

上司に対し、
クシャールは親指で失礼に指差す。
というか口の利き方さえなっていないが、
それを含めて年齢の関係もあるのだろう。

「これ以上給料増えないんじゃぁ、寂しいだろが。
 つーか正直俺、自由に生きてぇんだよ。公務員なんてそろそろゴメンだ。
 好きな時間に好きに仕事して、食って、寝てっつー生活がいい」

「後悔はないんだな」

ロウマ=ハートが口を開く。
納得済みと思っていたが、
その言葉を聞くと、クシャールには残って欲しいという思いがあるのだろう。

「俺が決めた事だ。勝手にさせろ」

頑固にもう確定したことのようだ。
こうなるときかない。

「なら、ですが。それも何よりじゃぁないんですが、それでもなんで俺なんでしょうか」

ユベンが聞く。

「俺より実力が上な者は沢山居る。それに統率者としての適任者はいる。
 例えばそこに彼が居るのも、候補としてなんでしょう?」

ユベンが目をやった先に、
もう一人、
この部屋に。

「俺もゴメンだからだね」

ギルバートはワインを持ったまま、
壁を背に答える。

「大方、クシャールと同じだよ。年が少し上だから適任だとか笑えない。ノンだ。
 それに俺も自由がいい。管理職なんて御免だ。アンバランスなのが俺に合っている。
 ギャンブルのような人生。うん。マラビジョッソ(素晴らしい)だろ?」

カランと、グラスを傾ける。

「それに新しく入ってきた・・・ミヤヴィ=ザ=クリムボン。キリンジ=ノ=ヤジュー、
 トリプルエー・・・じゃなくてエースだったか?それにメリー=2=キャリー」

「メリー=メリー=キャリーだったと・・・」

「あぁ、そうだったか?そういうことだったか。
 つまり、"そういう部分"の面倒を見るのが嫌だしな」

「・・・・彼らと接触はまだしてないんですが、問題児なんですか?」

「言葉の上ではそうも表現できるが、まぁ新しい副部隊長に隠してもしょうがない。
 アンバランスで嫌いじゃないんだが、モルモットベイビーというやつだ。
 意味は後で勉強しておきな。ニーニョ。おっと・・・・話しが反れたな」

ギルバートはグラスをロウマに向けた。

「続けてあげてくれ。隊長」

「あぁ。まぁユベン。そういう事だ。それでこのロウマとしてはお前を推したい」

「お下がりは嫌かい?ニーニョ」

問われる。
ハッキリ言うと・・・
いや、だが・・・

「任せてもらえるとあれば」

ユベンは返事をした。

理由はなんでもいい。
ただ、
自分が選ばれた理由がロウマ隊長の意志であるならば。
根拠まで言われなくとも、
それで十分・・・・十分に納得出来る。
やってみせる。

「なら任せるぞ。ユベン=グローヴァー副部隊長」

ロウマは無表情に、
力強く言う。

「これからは、お前に頼る事もあると思う。このロウマの力となってくれ」

その言葉は、恥ずかしくも新境地のような感情さえ生まれた。
途端に実感が沸き、
くすぐったいような血の踊る感覚さえ覚えた。
ただ無理矢理冷静を装って、

「何よりです」

答えるくらいしか出来なかった。

「そしてユベン。就任にあたってお前に命令を下す」

「・・・・副部隊長としての初任務・・・というわけですね」

「いや」

ロウマはやはり、ナイフのような眉さえ動かさずに、
威風堂々。

「最後の任務と呼ぶ方が相応しいか」

「・・・・・・・は?」

「おーおー、それで思い出した!」

クシャールが頷きながら言う。

「おいロウマ。俺が抜ける前に一戦手合わせ頼むぜ。
 ロウマ=ハートを倒したとなれば、俺もシャバで生き易い」

「マラビジョッソ!クシャール副部隊長。ロウマ隊長に勝てるお気持ちかな?」

「元だ。いや、勝てるだろこんなデクの棒よぉ。
 おいロウマ。後で騎士団の闘技場に来い。準備してっからよ」

「クシャールさん・・・ロウマ隊長はまだ返事も・・・」

「俺が決めた!文句あっか!」

そう言って畳み掛けるようにクシャールは出て行った。






次の日、
ユベンはロウマ=ハートが負けたなどという、
愚かしい噂と共に、
最初で最後の任務を聞いた。











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「やっちまった・・・・・」

アレックスとドジャーは、
目の前に広がる炎の海を前に、たたずんでいた。

「あの・・・・馬鹿・・・」

歯を食いしばりながら、
ドジャーはオレンジに反射する自分の瞳で、
炎を見ていた。

「ダニエルの奴!味方ごと燃やしやがった!
 いや!数の規模を考えると味方を燃やしたって表現したっていい!」

もちろん、
本隊の一部ではあるが、
被害は多大だ。

少なくとも伏兵部隊の殲滅と比べて、
割には合わない。

「僕の責任ですね。コントロール出来ないならダニーを使おうなんて思うなってことです」
「そうは言ってねぇけどよぉ」
「・・・・・・」

強大は力となればと思ったが、
味方を壊しかねない。
いや、
無差別な炎でしかない。

ダニエルは兵器ではない。
誰の意志にも関係なく降りかかる・・・・災害でしかない。

神が起こすのであれば天災か。


「不幸はそちらについたようであるな。アレックス=オーランド部隊長」


混乱する現場の中、
後ろに騎士が立っていた。

「なっ、クソ!この混乱に乗じてもう敵が!」

アレックスもドジャーも振り向く、
そして目にする。

「・・・・・ってデケェ!!!」

そこには倍くらいあるんじゃないかという、
ノッポな騎士が居た。
2m半はあるんじゃないか。

「第32番・長槍部隊 部隊長。リトルプッチ=ミニーであーる」

身長に比例した槍を持つその男。
そして辺りでは既に、
こちらの前衛が崩れていた。

「やはり・・・・後ろが崩れちゃぁ前線もこうなりますよね・・・」
「っていうかデケェ!アレックス!こいつデケェ!ロウマよりデケェ!」

炎は、ダニエルの意志でしかどうにも鎮圧出来ない。
だからアレックスが相対すべきは、
この目の前の男にあった。

「我輩に戦意は無いのであーる。槍を収めるのである。アレックス=オーランド」

兵隊人形のようなノッポは見下して話しかけてくる。

「混乱に乗じて攻めさせてもらった。もともと伏兵との協策だったのであるが、
 事態が事態である。攻めるのは容易であったのであーる」

「カッ、背に比例した間延びした言葉遣いのやつだ。的が多くて狙いやすいぜ」

ドジャーは役立たずなダガーを偉そうに手の中で回す。

「我輩の長槍部隊であれば、前衛を崩すのも容易である。その結果がこれである」

「・・・・こちらとしても、貴方の部隊を前に出させるために騎士を前衛に置いたんですが。
 そのために後ろに後衛系を揃えた。でもタイミングをミスったみたいですね」

「それもディエゴ部隊長は読んでいたのである。そのために挟撃と合わせたのである。
 一歩も二歩も、戦略で毎回ディエゴ部隊長に遅れをとっているでありますね」

結果としてはそれ以上に最悪があったわけだが、
結論は、
長槍部隊にそのまま前衛を崩された。
対処するヒマもなく。

「くっ・・・・」

長槍は最前線で配列させる上では有効だ。
というよりは無敵だ。
一方的な展開になる。

「アレックス!まずは前衛をひっこめるぞ!」
「どこに・・・」

だからアレックスは何も出来ず、
苦虫を噛んでいる。

「後ろは炎・・・。どこに退げるんですか。背水の陣ならぬ、背火の陣。追い詰められるだけです・・・・・」

だからといって何も命令しないわけにもいかないが、
出来る命令がない。

「何より、戦わないでよいのであれば、我輩はそれでいい。正義を貫けるのである」

ノッポの騎士。
リトルプッチ=ミニーは上から『言う。

「戦いとは愚かである。これを機に、諦めてもらおうと単身で来たのである」

「・・・・馬鹿いうんじゃねぇ!」
「えぇそうですよリトルプッチさん。今更・・・・」

「偽善の勇者。愚かである。それは勇猛ではないのである」

戦いは、
しないことこそ最上。

「我輩は、戦いの才能しかない者である。それしか能が無い。
 身体さえも、戦いの長所となるよう生まれてしまったのである」

長身の部隊長、
見上げた先で言う。

「戦いは正義ではないのである。略奪強奪。正義を掲げても、戦争とは結論それである」

「カッ、ならテメェの正義はなんだ。傍観か?懇願か?」

「正当防衛であーる」

胸を張って、
リトルプッチは答える。

「騎士団とは!守るためにある!大事なものを!守るためにある!そうなのである!
 正義の戦い・・・それにしか身を置きたくないのである!戦いにしか才が無くとも!
 その才を使える場所はここ!世界で唯一、罪無き戦場!正当防衛である!」

この男は、
戦いしか能がないからこそ、
正義の戦いの出来る場所を見つけ出した。
それが、
正当防衛。
守るための戦い。
正当な・・・・・殺人。

「あなたは僕に似ていますね」

いい訳を掲げた、
偽善者。

「アレックス!こんな奴は後回しだ!まずは戦況は変えるぞ!
 ダニエルをどうにかするしかねぇ!あいつは火事の元なんだからな!」
「・・・・ダニーは遊びを弁えています。とりあえずここでこれ以上はない。
 火は既に彼の手を離れています。消えるのを待つだけです。
 それに対しての指示は既に回しました。あとは待つだけです」
「・・・・ッ・・・やれることはやったってか・・・なら!
 それこそ前だ!崩れかけてる前衛をどうにかするぞ!」

その問答はさっきもやった。
何にしても、
火が消えるのを待つしかない。

「正当防衛!正当防衛である!」

リトルプッチが、
胸を張って大声をあげる。

「我輩は、そちらが攻撃してこない限り!危害は加えないのである!
 アレックス部隊長!いざ選択を!ここで選択をするであります!」

正当防衛を盾に、
己を偽って・・・勝負を挑んでいる・・・のか?

「ディエゴさんの指示ですね」

「・・・・・なんの事であります」

「こちらの指揮系統は基本、僕一人が出しています。
 火が消えるタイミングで対処が遅れるように、僕の相手をしておけ・・・と言われたんでしょう?」

「・・・・・・」

「リトルプッチさん。あなたが単身で来た意味はそこです」

手が早い。
本当に。
先の先まで見据えている。

「アレックス部隊長!説得はウソではないのであります!」

「・・・・何を今更」

「同じ部隊長としてであります!同士として国を守ってきたものとしてであります!
 我輩達は!この城を守りたい!貴方にもその思いが伝わるはずである!」

長槍が、
ぶぅんと天に向かった。
長身のこの男が掲げると、
それは何よりも高く見えた。

「実力では数段我輩の方が上である!倒すのは容易である!
 ただ!戦争は悪である!同じ釜の飯だった貴方を!
 正当防衛の名目を使いたくはないのである!裏切り者の名目を!」

裏切り者か。
聞きなれたが、
耐性は出来てないな。
仲間に・・・言われることには。

TRRRRRR・・・・

「・・・・・・おい。アレックス」

アレックスの腰のポーチの中で、
WISオーブが鳴った。

「誰かから電話だぜ。とらねぇのか?」

だが、
コールは3回ほどでキッカリ止まった。

「メッツ達からだったかもしれねぇぞ。こっちが身動き出来ない以上、連絡すべきだろ。
 ありがてぇ事に目の前のノッポの馬鹿は攻撃してこねぇっていうしな」
「・・・・・いえ。準備が整ったっていう合図です」
「は?」
「まさか整うなんてこれっぽっちも思ってなかったんですけどね」

嘘だ。
偽善者め。
ただ、
罪悪感の中で嬉しいくせに。

「リトルプッチさん」

アレックスは一歩前に出た。

「正当防衛は悪じゃありません。ただそれは、今の世の中に順応しているからです。
 今の世界を否定したい者としては、犯罪者になるしかないんですよ」

「クーデターであります。正当防衛を駆使するでありますよ。それ以上前に来ないことであります」

だがアレックスは無視して、
もう一歩前に出る。

「それに、僕がディエゴさんに遅れをとっていると言いましたね?その通りです。
 ただ正確じゃぁない。僕は戦略で負けていますが、戦況はそこまでそうでもない」

「この状態でそう言うでありますか?」

「雪原部隊の策戦は完璧でした。僕に抗う術もないほどに完膚無きまで。
 伏兵部隊も完全に裏をかかれました。それとあなたの部隊とのコンボもね」

全てにおいて、
ディエゴ=パドレスの思い通り。

「ただ、結果はそうじゃない。雪原部隊の策戦は、ダニーのお陰でオジャン。
 今回もあなたの部隊は機能したが、ダニーのせいで伏兵部隊はオジャン」

作戦は完璧であるのに、
ダニエルの手によって全て台無し。

「ディエゴさんの弱点はそこにあるんじゃないかと思うんです。
 彼の口癖・・・"騎志"・・・彼は世界と人を信じすぎるところがある」

「それは・・・」

リトルプッチは、
上から言葉を落とす。

「我輩達が、終焉戦争から魂が進化もしない・・・・停滞した心だから。そう言いたいのでありますか」

「それもあると思います。ただディエゴさんは仲間を信用し過ぎる。
 それが完璧な策を編み出しましたが、敗れる事への対処は見受けられない」

同士を、完全に信用し切っている。

「ここまで両方ダニーに台無しにされていることもポイントだと思っています。
 ダニーは元王国騎士団。なのに詰めが甘い。完璧なのにダニーに対してだけ」

ダニエルの存在は不規則でも予想はできたはず。
それに対する防御策もディエゴならば用意出来たはず。
それに、
一度ダニエルが来た後にも関らず、
ダニエルに二度もぶち壊しにされている。

「確信もないし、根拠も薄い。あやふやな部分もあります。
 ただ、ディエゴさんは騎士団の同士に甘い。それは間違いない」
「おい、アレックス。それってつまりよぉ」
「はい。そこを上手く突ければ・・・・僕がディエゴさんに負ける事はない」

アレックスは、前に、前に踏み出す。

「それ以上近づくなであります!それは我輩には適用されないのである!
 正当防衛とあらば、我輩は容赦はしない!今なら手を引けるであります!」

「無理ですね」

アレックスは一度止まる。
地面に槍を付きたて、
そこに魔方陣が浮かび上がる。

「イソニアメモリー。オーラランス」

引き抜けば、
蒼白い炎を纏った・・・・勇者の槍。

「残念ながら、僕は既に"あなた程度の部隊長クラスには負けません"。
 英雄の役目を与えられてしまいましたから。ズルいですよね」

死骸騎士の完全なる弱点を、
アレックスは手にしている。
その手に。

「正当防衛に負けはない。正しいからであります」

リトルプッチも、槍を構えた。
長い。
恐ろしいほどまでのリーチ。

だがそれと同時、

別の魔の手。

ディエゴと関係ない、
別の災害。

「おいアレックス!!」
「耳を塞いでください!すぐに伝えてっ!早く!」

ハープの音色。
ハープというよりはベースに近い、
重低音。

「コンフュージョンです!耳を!近くに居る者は出来るだけ早く伝令を!」
「くそ・・・ソラ=シシドウか・・・・このタイミングで・・・」
「アーメンっ!!!!!」

即座にアレックスは指を突き出し、
魔方陣を形勢。
そしてパージフレアを吹き上がらせる。

あらかじめの対策の一つだ。
発炎筒・・・ノロシのようなもの。

コンフュージョンに対応出来るように全軍に伝えてある。
もちろんアレックスだけでなく、
反乱軍のいたるところから、
様々な魔法で仲間にそれを伝える。

「・・・・なんとかなりそうか?」
「完全に全員をこの音から遮断するのは難しいでしょう」

耳を塞いだまま、
篭るように聞こえる声で会話する。

「念のため、解除の出来る人間・・・解除方を知っている人間を数十人、
 常時耳を塞いでいるよう命令してあります」
「カッ、被害は免れねぇが最悪は抜け出る事は出来るってか」

哀しくも、
場所によっては背後から同士討ちの悲鳴が聞こえる。
伏兵部隊に攻撃された時と騒動が似通っているのが、
また皮肉だった。

「気付いてみればダニエルの炎も鎮火してきてるが、
 騒動の位置を探ってみりゃぁやっぱり混乱に乗じてた場所に被害が多そうだな」
「不幸中の幸いはここらでこの音量という事は・・・」
「東のメッツ達の方の被害は少なそうってことくらいか」

出来る限りの対策はしている。
これで駄目な部分はしょうがないとしか言いようが無い。
願わくば、
遊撃として動いているエドガイが、
ソラを見つけ出して排除してくれる事を・・・・

「お互い。うまくはいかないみたいでありますな」

リトルプッチが言う。

「そちらの軍は味方同士で争いを始め、元同士との戦いを避けたい我輩は・・・」

戦いを免れない。

リトルプッチの構えは、
完全に臨戦態勢に入っていた。

あとは、アレックスが動けば正当防衛を発動する。
そう言わんばかりに。

「コンフュージョンの鎮圧が先というならば、我輩は待つでありますが」

「その頃には火も干上がっています。あなた以外の部隊も一斉に詰め寄せてくるでしょうね」

「我輩の思いは届かないでありますか・・・・残念であります。
 そしてアレックス部隊長。あなたはその槍をもってすれば我輩より上・・・
 そう言ったでありますが、そうではない。そんなわけではないのであります」

そちらはそちらで、
届かない。
異常なまでのリーチ差。

当たらぬ攻撃に意味はない。

実力では・・・リトルプッチが上。

「先ほど言ったでありましょう。それ以上近づくなと」

だが、
アレックスはまた前へ、
歩を進めて・・・

「届かぬ思いに意味はないのである!出来ぬ正義に意味はないのである!
 正当防衛!正当防衛である!攻撃の意志があるとして、アレックス=オー・・・」

リトルプッチはそこで、
辺りの様子がおかしい事に気付いた。

「・・・・アレックス=オーランド。アレックス部隊長。貴様の差し金でありますか」

だからといって、
よそに気をとられることはしない。
目線は常にアレックスに。
高い背の中にある、高い騎士精神。

「どうなってんだこりゃ」

驚きを口にしたのは、
ドジャーだった。

「敵が、同士討ちを始めたぞ?」

「!?」

それでもリトルプッチは隙を作らず、
動じはしたものの、
振り返らなかった。

「騎士団が・・・同士討ち?有り得ないであります。死骸騎士にコンフュージョンは効かないのである。
 ・・・何をした・・・アレックス部隊長。同士に!何をしたでありますか!」

「話を戻しましょうか」

アレックスはゆっくり歩いたまま、
静かに話す。

目線の先は前衛。
騎士団の者達が同士討ちを始めて、
逆に驚いてどうしたらいいのかとうろたえている。
問題はない。

「ディエゴさんは同士に甘い部分がある。そう言いました。
 だからこの作戦は・・・ダニーを止められなかったように、
 ディエゴさんには止める術はない。そう確信していました」

コンフュージョンの効かない騎士団が、
同士討ちをしている。
その理由は?

「・・・・死骸に効かないのであります。まさか・・・・生き返らせた?」

「そんなことできるわけないじゃないですか。
 そんなハッピーエンドが用意されているなら、この戦争は報われない」

「なら・・・どうやって。騎士団での同士討ちなど!ありえんであります!」

そうも言っていると、
ドジャーは目を細めて、その光景に気付く。

「おいおい。同士討ちっつーか。どっちかーっつーと一方的じゃねぇか。
 一部の騎士団が、一方的に騎士団を攻撃してやがる」

ノッポの部隊長は高き頭部で、
歯をギリと噛み締める。

「伏兵・・・でありますか」

「違います。あえていうなら含兵」

「くっ・・・」

それでもリトルプッチは後ろを見ない。
アレックスに対する。

「者共!倒せ!正当防衛であります!伏兵でも!裏切り者でもなんでもいいのである!
 攻撃してくる相手は敵であります!正当防衛の名の下に!倒すであります!」
「た・・隊長!」

そう命令するリトルプッチのもとに、
部隊員が一人、
駆け込んでくる。

「・・・・・状況は」
「う、裏切り者です・・・」
「倒せ!アレックス=オーランドの策略であります!
 騎士団であっても!正当防衛であります!正当防衛であります!」
「出来ません・・・・」

その兵士は、
縋るように、
リトルプッチの長身の足元に崩れた。

「強すぎるんです・・・・」
「・・・・何?」
「歯が立たない・・・・」

同じ騎士団。
第32番長槍部隊は完全な戦闘部隊だ。
裏切り者と部下は表現した。

歯が立たないほどの実力差があるとしても、
それは44部隊か52部隊、53部隊ぐらいのもの。

「どうにもならない!リトルプッチ部隊長!何か指示を!し・・・ああああああ!!!」

足元に居た部下が、
突如消えてなくなった。
昇華された。
光となって・・・・散った。

「・・・・囲まれている」

リトルプッチはやはり身動き一つしなかったが、
自分が、
裏切り者に囲まれている事に気付いた。

「・・・・・お前ら・・・・」

そして、
その裏切り者の正体も・・・・分かった。

「ア・・・アアアア!アレックスぶたいちょ!」

ドタバタと走り、
しまいには転び、
それでも立ち上がって、
エール=エグゼはアレックスの前で敬礼する。

「言われた通りにしまうま!・・・噛んだ・・・しました!」

上出来です。

アレックスはエールの頭に手を載せる。

「・・・・お前らは」

リトルプッチを取り囲む者達。
それは、
"強すぎる"なんて表現とは真逆の存在。
むしろ、
"最弱"とも呼んでもいい・・・・・

聖職者達。

「医療部隊・・・・・」

反逆者は、
何の不思議もない。

背に十字架が描かれた聖職者達。


"王国騎士団・第16番・医療部隊"


「そう。僕の部隊です」

アレックスは、笑いもせずに言った。

「死骸騎士の魂が終焉戦争の時のままというなら・・・・」
「カカカッ!なるほど。こいつらの指揮権は・・・アレックス。お前だな」

聖職者達は、
リトルプッチを取り囲んだまま。

「リトルプッチさん。英雄には、英雄の風向きがある。
 これが騎士団長の台本であるならば。僕が仕立て上げられた英雄であるなら。
 環境は全て、整えられているんですよ。あたかも宿命のようにね」

英雄の宿命。
英雄のための、味方。

「『アンデッド(死骸騎士)』」

アレックスは、短く一度言う。

「ならば、天敵は何か・・・お分かりですよね?皮肉なものです。
 非戦闘部隊である医療部隊が・・・・・・最強の部隊になる日がくるとは」

「くそ!」

なんという皮肉か。
リトルプッチは歯をくいしばったまま、
その長身でアレックスを見下ろす。

「正当防衛!正当防衛だ!正義の戦いは我輩にある!
 負けはしないのである!それでも!そのための才をもって生まれてきたのだから!」

「・・・・示しがつかないので僕がやるつもりだったんですが、やめます」

アレックスは、
オーラランスの炎を・・・消した。

「僕は王国騎士団も、終焉戦争も、あの絶対の帝王も、そして外の世界も、全てを見てきました。
 そんな常識が通用しない世界が、罪が、この世には広がっているんですよ。ね、ドジャーさん」

アレックスは横目でドジャーを見る。
ドジャーは「カッ・・・」と苦笑した。

「この世がどれだけ世知辛いか見せてあげましょう」

周囲の聖職者達が、
手を、
スタッフを、
あげる。

「お・・・おい・・・この裏切り者共・・・やめるでありま・・・・」

「どうしました?正当防衛はどこにいきました?」

「・・・・アレックス・・・オーランド!」

「あなたの正義は僕と同じ偽善だ。分かったでしょう?
 ここに正当防衛なんて発生しない。だって彼らは・・・・」

"仲間を癒そうとしているだけなのだから"

「アレックス=オーランド!アレックス部隊長!我輩は!我輩!
 貴様を英雄などと認めないであります!何が正義!何が宿命!
 正義はこちらにあるのに!台本通りに動くしか能の無いっ!」

「英雄は、与えられた役目をただこなすだけです」

アレックスはチラりとエールを見る。
エールは頷き、
片手をあげ、命令する。

「16番隊。心傷つきし仲間に、癒しを与えなさい」

一斉にヒールが、
ヒール如きが、
アンデッド(死骸騎士)が部隊長に・・・放たれた。

「正当・・・正当防衛ぃぃいいいいであぁぁぁああある!!!!!!」

何一つの外傷もなく、
何一つの痛みもなく、
リトルプッチは、
癒しの光に巻かれ、
浄化された。

本当にたった一瞬だった。

「・・・・・・・」

16番隊も、
エールも、
そして・・・アレックス自身も、
胸の前で、
指で十字を描いた。

「アーメン」

アレックスが呟くたあとの地に、
大きな長身の姿は、跡形も無かった。

「・・・・・こいつぁ・・・・すげぇな」

ドジャーが今の光景か、
16番隊か、
それとも、
目の前に広がる景色か、
どれを見て言ったのか分からないが。

「エールさん。ご苦労様です。状況を」
「はい。アレックスぶたいちょ。第16番隊。命令通り任務完了」

通常のおどおどした雰囲気は見せず、
エールは淡々と流暢に話す。

「今のリトルプッチ=ミニー部隊長を最後に、第32番・長槍部隊は殲滅。
 その後衛として・・・・・・・恐らくこの後雪崩れ込もうと配置されていた、
 第40番・追撃部隊・・・及び、部隊長カニエ=ウエスタンも殲滅」
「噛まずに言えましたね」
「う、うぃ!」

言葉をもらって元のエールになっていたが、
アレックスは笑いかけてくれたわけではないことに気付き、
少し落ち込んでいた。

「おいおい、あの一騒動で2部隊?反則じゃねぇか?」
「不意討ちだったのがありましたからね。通常じゃこうはいかないでしょう。ただ・・・」
「世界最強の聖職者部隊は、今や最強の精鋭部隊・・・カカッ!だろ?」
「そういうことです」

アンデッド。
赤裸々な王国騎士(クリムゾンキングダム)相手ならば、
彼らは・・・
最強だ。

英雄の下に集いし・・・・精鋭だ。

「・・・・・正直。再び僕の命令を聞いてくれるか・・・心配だったんです」

裏切り者である自分を。
特に終焉戦争では、彼らを裏切った。
自分の部隊を、
裏切った。

「でも・・・・」

そんな時にさえ、
タイミング悪く、WISオーブが着信した。

「・・・・・カッコつけさせてもらえないもんですね」

アレックスは苦笑しながら、
ポーチからWISオーブを取り出すが、
自分のものが着信しているわけじゃないと分かり、
もう一つのWISオーブを手に取る。

「・・・・・・・・・」

小時間、ただ通信を聞いていただけだった。
そしてそのまま、
アレックスは通信を切った。

「事態が好転しました」
「・・・・なんだったんだ?ってか誰から?」
「・・・・いえ、むしろ悪くなったともとれるのかもしれませんが」
「返事になってねぇよ」

ドジャーを無視して、
アレックスは部隊を見た。

「・・・・・・・・・あ・・・」

正直、その光景はアレックスとしても情けない顔を晒してしまった。

十字を背負った聖職者達は、
アレックスの前に集結し、
片膝を付き、
頭(こうべ)を垂れていた。

「・・・・・また僕の、命令(わがまま)を聞いてくれるんですね」

エール(副部隊長)が遅れてぴょこぴょこと皆の前に走り、
同じように頭を垂れ、

「なんなりと」

そう笑った。

アレックスは何かを堪えるように、
一度天を仰いで。

「・・・・事態が変わりました。作戦は多少変更があります。
 全軍で内門を突破する予定でしたが、少数精鋭を通過させる事を目標とします」
「ん?アレックス。どういう・・・」
「ドジャーさん。さっさと西軍と東軍を合流させますよ。
 じゃないとこちら・・・西軍に指揮者がいなくなってしまいます」

それだけ言って、
アレックスは医療部隊の前で、槍を掲げた。

「あなた達は僕の後に続いてください。僕のために動いてください。
 生も、死も、十字架のように編みこみ、僕に預けてください。
 第16番・医療部隊。セイントクロスの名の下に!アーメン!」

"仲間"から、
"同士"から、
返事はあった。

「「「「「「「「「「 アーメン 」」」」」」」」」




































「おいおい。どういうことだ?」

ラモン=オリオンパックを、
自分の手柄ではないが仕留め、
辺りの体勢が整いなおす前に戻ってきたメッツは、

「なんだったんだ今の」

WISオーブを手に、
最前線でたたずんでいた。

「あらあら、ボォーっとしてんじゃねぇぜおたく」

明後日の方からパワーセイバーが数発飛んできたかと思うと、
それはメッツの周りの死骸を切り裂き、
エドガイが現れた。

「ん?あぁ、確か傭兵の」
「仕事じゃなけりゃ、おたくみたいな超可愛いくない子ちゃん助けないぜ?」
「おいメッツ!メッツじゃねぇか!」

もう一人。
棺桶を背負った戦士が駆け寄ってくる。

「んあー?エースか。ガハハ!裏切ったってのは本当らしいな!」
「裏切ってねぇよ!ざけんなよ!テメェだって裏切ったような・・・
 あー!もー!そうだ!そうだった!お前、WISきたろ!」

エースは露骨に自分のWISオーブを主張する。

「あぁ、来たけどよぉ・・・・・」
「・・・・チッ・・・・正直・・・俺も訳が分かってねぇ・・・・」

































数分前、
城内。
その一角で、
ユベン=グローヴァーはWISオーブを口元においていた。

「・・・・・・・・・・」

最初は、そのグループ通信にしても、
まだ踏ん切りがつかないのか、言葉は無かった。
だが、
話を進める。

「・・・・・44部隊の皆に伝える。聞こえているだろう。返事はしなくていい」

自分の声じゃないようにさえ感じた。

「次の命令を伝える。ミヤヴィ。メリー。エース。聞いてくれ。
 恐らく聞こえているだろう、メッツとアレックス部隊長。お前らもだ」

そこに、大した不利はない。

「これより次の命令を伝える。俺からじゃない。ロウマ隊長からだ」

ロウマ=ハートの。
世界最強の矛盾の。

「俺が副部隊長になった時に課せられた命令だ。最初で最後の命令だ。
 つまり、俺達にとって・・・・・最後の命令になる」

それは、
ロウマ。
ロウマ=ハートが望んだ命令。

「各々の位置は把握し切れていない。城内に居る者は俺のもとに集え。
 外に居る者は、クシャールという男を捜して下につけ」

この事態になることを予想していた。
いや、
矛盾は、望んでいたのかもしれない。

いつか、
必ず成り得る事態だったのかもしれない。

だから矛盾は、
こんな命令を残し、
矛盾のままに・・・・帝王の下に居たんだろう。

だから、
だから、

何よりじゃない。

発するはずの命令じゃないと信じていた。

「・・・・・・・・・・・・」

出来るはずがない。
やりたくもない。
やれるはずもない。

でも、
彼自身が望んだ事ならば・・・

自分は・・・・。

ただ・・・・。

「・・・・・くっ・・・・・」


・・・ユベンは、心を振り払い、
ただ、
強く言い切った。



「これより、ロウマ=ハート討伐作戦を開始する」


































                 






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