初めてデートに誘ったのはいつの日だったか。
何時なんて事は覚えてないが、
それが廊下だったのは覚えている。

「やぁティル」

クライは廊下の柱に腕を添え、
偶然を装いながら、
キザったらしくティルに話しかけた。

「まぁちょっと話を聞かないかい?」

泣きボクロのハンサムは、
そう言って懐からチケットを二枚取り出す。
・・・・・のを横目に、

「・・・・・・」

ピンクのスウェットの女は、
そのままそこを通り過ぎていった。

「いやいやちょっと・・・・・」

目もくれてくれないヤンキー女の後ろを追いかける。

「ちょっと話を聞いてくれないかな?」

歩き去ろうとする彼女の横に回り込んで、
クライは必死に話しかける。

「ちょっとしゃべりかけないでくれる?」

ヤンキー女は酷い返事をするもんだ。

「まぁまぁちょっと話聞いてってば。な?これ。これこれ。チケット。なんのチケットだと思う?」

「・・・・・・・・・」

「あー、ゴメン。いや、聞いてくれって。ガリバーでもなんでもないんだ。
 あのレビア幻想楽団の劇のチケットなんだよ。激レア激レア。
 ダフ屋から買ったから正直、ほんと高かったんだけどさ。
 俺、金だきゃぁ腐るほどあるから手に入ったんだ。それも二枚あるんだよね」

「良かったわね」

「いやぁ、でも俺一人で行ったら余っちゃうだろ?」

「それはもったいないわね」

「だろ?だからさ、このもう一枚は・・・・」

「おーーーい。レン。ティナ」

ティンカーベルは、
向こうの方で二人で話していた、
エーレンとオレンティーナに声をかけた。

「激レアチケットがあ・・・・・」

「あー!あー!あーあー!」

クライは慌てて視界を妨げる。

「正直ほんと、悪かった!本音が足らなかったよ!遠まわしだった!
 これは君のために買ったんだ!だから君を誘おうと・・・・」

「ふーん」

ティルは立ち止まってそのチケットを見た。

「劇なんか見てもあたし寝ちゃうんだけど。っていうか別にあんたと行く理由がないわ」

酷い事をビシビシ言う女だ。
壁を作ると言うよりは崖で引き裂こうという言葉だ。
だけど、
クライはそんな事で引ける気持ちじゃぁなかった。

「それよりも・・・・」

ガゴンッ・・・・
廊下に居た人間は皆こちらを見ただろう。
壁が凹んでいた。
彼女の拳でだ。

「あんたはあたしの休日を奪うために来た使者なのかしら?」

「・・・ぁ・・・あ・・・いや・・・・」

ちょっと物怖したが、
でもそれでもやっぱり引くわけにはいかなかった。

「違うんだティル、まずは・・・」

「先に言っておくとうっとおしいのよ。迷惑なのよ。
 先日みたいにいきなり思い立ったように告白されてもねぇ。
 言っとくけどあたしはなんとも思ってない上に、むしろ邪魔だと思ってるから」

直だ。
やんわりとか、
そういうのが一切ない。

「あたしが嫌いな男のタイプ知ってる?聞いておくことね。
 ひとつは体臭の臭い男。もうひとつは香水の臭い男」

「わ、分かった。コロンは止めるからさ、俺と劇に・・・・」

「あぁ・・・・・あともう一種類付け加えておくと、
 動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・サル目・真猿亜目・狭鼻下目
 ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種の雄に属する生物は大体嫌い」

根本から否定された。
性転換でもしろというのか。

「さらに言えばあたしより弱かったら問題外ね」

「ん?それは聞き捨てならないな。俺はこれでもアインとロウマ以外になら負け・・・・」

トンッ・・・
と、
彼女の人差し指が、
クライの額に当たった。

「今一回死んだわ」

「う・・・・」

「問題外ね」

彼女は首を振る。
とにかく、
眼中にないのよ・・・とでも言いたげだった。

・・・・だけど、
彼女のそんなところも含めて自分は・・・

「分かった!とりあえず受け取ってくれ!来るか来ないかは君に任せるっ!
 俺は行くからさっ!だからとりあえず受け取ってくれ!」

何故か愛してやまないのだ。
諦めるわけにはいかない。
引くわけにはいかない。


クライは片手で、
その一枚のチケットを差し出した。
ティルは、
呆れたように、
そして、
諦めたようにため息を付き、

「しょーもないわね・・・・」

それでも彼女は、
そのチケットを・・・・・受け取ってくれた。

「・・・・・・・ハハッ」

正直、
この人生でこれほど嬉しかった事があるだろうか。
そんな快感をクライは感じていた。
エクスタシーだ。
どうしようもない至福。
それを感じ・・・

「あ、手が滑った」

・・・ている中、
彼女の手の中で、
高価なチケットは紙くずの破片になって散らばった。

「ごめんごめん。でもドンマイ」

ティルは、
方針状態のクライの肩にポンッ・・・と手を置いて、
そのまますれ違って歩いていってしまった。

「・・・・・・・」

なんと感想を述べればいいのだろう。
少なくとも感動は虚像だった。
ビリビリに引き裂かれたチケットは地面で泣いていた。





















「何が駄目だったのか・・・・涙目だぜ・・・・」

劇場の中、
クライは反省会を始めた。
劇は目にも耳にも入らない。

「俺は自分で言うのもなんだけど、かなり顔はイイ」

そう言い、
クライは自分のアゴに手を置いた。

「頭も良ければ運動神経も抜群だ。その上、金ももってる。
 そして極めつけに、愛は何よりも深い。これ以上何が足りないっていうんだ」

考えた。
愛の上乗せ?
いやいや、
金と違い、既に自分の愛は限界値(MAX)だ。
彼女をこの世の何よりも愛している。

「金なら・・・・さらに上積みするだけなんだがな・・・・」

愛は手に入れるためには何をすればいいのか。

「あの娘は確かに難しいみたいだしな。気難しいっていうか・・・・
 他人に干渉しようとしないし、たまに話すのだって極わずかな人間だけだ。
 周りから固めるっていうのも難しそうだ。やっぱ小まめにアタックするしかないか」

アタックねぇ・・・
あのヤンキー女の場合、
カウンターアタックが来るから怖いんだが。

「この劇が好みに合わなかったとすると、何が好みなのかな。検討が付かないな。
 だが学校のスケバン番長様だ。なんか任侠物とかにするべきだったのかな・・・」

「誰がスケバンだ番長様だ」

ドスンッ、・・・・
と、
隣の椅子に重みを感じた。

見れば・・・
学校と同じピンクのスウェットを来た彼女が、
両手両足を組んでそこに座っていた。

「え・・・あれ・・・・」

困惑というのを感じた。
なんで彼女が?
ここに?
居る?
?が頭を固めている中、
こっちも向かずに彼女が答えた。

「偶然席がひとつ空いてるって聞いてね」

そりゃそうだ。
常時満席の高価劇のチケットが一枚は、
誰かさんが破り捨てた。

「警備員さんに言ったら入れてくれたわ」

「・・・・へ、へぇ・・・でも空いてるからってよくすんなり通してくれたね」

「あたしも不思議。よくあんなにすんなりと綺麗に右ストレートが通ったと思ったわ」

通過じゃなくて突破してきたのかよ。

「でも・・・」

だけど、
肝心なのは・・・

「なんで来てくれたんだ?」

そこが、
胸が熱くなるほどに肝心な事だ。
それ以外に、
聞きたいことなど無いほどに。

「知らなかった?」

やはり彼女は横に居ながら俺の方は見なかったが、
そのまま、
両手両足を組んだ女らしくない座り方のまま、
ステージの方を見たまま、

「あたし、前からこれ見たかったのよね」

ただ、
屁理屈にそう言ったんだ。

「・・・・ハハッ」

この気持ちをどうどう表現しようか迷ったあげく、
俺は笑い声しか出なかった。
劇は喜劇だったが、
今の気持ちは悲劇の反対だった。

「俺が、君を愛している理由なんだけどさ」

クライも、
劇の方を見ながら話した。

「間違いなく一目惚れだった。だけどさ、それ以上に俺は君を愛している。
 理由?そうさ。君は何よりも手に入り難い。
 俺が金のみに執着していたら絶対に手に入らなかった存在だからさ」

クライはそう微笑んだ。
微笑んで隣の席を見た。

ティンカーベル=ブルー&バードは、
正真正銘、爆睡していた。




































「だけどっ!!あの日っ!あの劇場でっ!
 裏を返せばウソを付いてまで来てくれた事が何より愛しかったっ!!」

クライは地面を蹴る。
爆蹴。
地面が跳ね上がると同時に、
一瞬で距離を詰める。

エドガイではなく、
ティルへと拳を向けて。

「あらそう」

ヒョイと軽い動きでそれを避けながら、
ティルは返事した。

「そんな日も・・・・あったかしら?"覚えてないわね"」

避け際に、
ティルはクライの首に肘鉄を入れる。

「ぐっ・・・・」

「あら、こんなにすんなり通ると思ってなかったわ」
「そこがっ!甘ちゃんなんだぜっ!クライっ!!」

間髪いれずにエドガイが、
体ごと真横に剣を振り回してきた。

「お前に対しちゃ甘かねぇよ!!」

パリィ。
残像を残しながら、
剣を潜り抜ける。

「うへ」

振り切った状態のエドガイの懐。
真下。

両手の平を真上に向け、

「爆(エクス)・・・・!!」

ぐるんと、視界が反転する。
自分の首に、
太ももが絡みついている。
よく知っている感触だ。

「ドリル・ア・ホール式・・・・・」

首をティルの両太ももに挟まれ、
そのまま後ろに引っ張られる。
ティルはそのまま後ろに倒れるように半回転。

「パイルドライバー!!」

「がっ・・・・」

首から地面に叩きつけられる。
捻じ曲がったかのような感触。
・・・・・感触?

「お得意の遊び・・・だったな・・・・」

クライはすかさず体勢を整え、
後ろに残像を残しながらバックステップ。

「あら。これでオネムにならないなんてね」

「何回かけられたと思ってんだよ。お前のプロレス遊び。・・・・・っつーより」

距離をとった後、
クライは首の感覚を確かめる。
いや・・・
感覚というよりも・・・

「俺は死骸だぜ。関節どころか、感触や痛みもねぇんだよ」

「そうだったわね」

「もっとも生身ならお前の太ももの感触だけで死んでたかもな」

「うぇ・・・気持ち悪い事言わないで」

「俺は本音しか言わない。ウソはつかない」

ティルが、
あの日から、
暖かいウソをついてくれたあの日から、
さらにその気持ちは強くなった。

なら自分は・・・・・正直に生きようと。

"泣虫"クライ=カイ=スカイハイは嘘をつかない。

「俺ちゃんとの因縁も忘れないで欲しいね」

「それはそれは」

エドガイが空中から強襲してきていた。

「爆蹴(エクスタ)」

地面を弾き蹴り、
一気にその場を離れる。
避けられる事は分かっていたのか、
エドガイも剣を振り下ろしてはいなかった。

「だがな、エドガイ。お前との因縁はバイバイだ」

「あーん?」

「目の前にティルが居る。俺はそれよりも優先すべき事はないんだ。
 お前の因縁絡みは、"他のところに用意"しといてやるよ」

「涙目だねぇクライ・・・・。俺ちゃんの支払いに保証人払いはねぇんだよっ!」

アスタシャの柄。
グリップを握り、
トリガーに指をかける。

「"金より高いものはない"。忘れるなクライ。思い知れ」

「思い知れ・・・だ?エドガイ。同じ"カイ"の名を持っていてもな・・・その意味は大きく違うぜ!
 ビッグパパの教えは"金"だ!あの日、その教えに乗っ取っていたのはお前!
 そしてその逆が俺だ!ビッグパパは愛(逆)の俺も選んだ!認めたってことなんだよっ!」

「いや、いらなくなっただけさ」
「クレリックシールド、ロックスキン・・・・」

エドガイが撃ってくるかと思った。
だが、
迂回して、
ティルが走りこんできていた。

「ブレシングヘルス、スキル!」

大きく腕を振って、
ランナーのように走ってくる。

「チッ!!」

クライは身構える方向を変える。
変えたのを見計らって、
エドガイの撃鉄は鳴った。

「パリィ!!」

残像と共にしゃがみ、
パワーセイバーの斬撃をかわす。

「クライ。俺ちゃんは仕事第一だ。プライドもねぇ。それ以外ならなんだってするぜ」

そして今、
走りこんできている聖女。
それがクライ(お前の)弱点だ。

「グレイスセルフッ!ヒットストライクッ!!」

ティルの体に聖衣が出来ていく。
光の、
補助のカーテン。
輝きのドレス。

「自分より他人。それがおたくの弱さだよ」

「違うっ!それが俺の強さだっ!!」

矛盾するように、
クライはティルを迎え撃つ。

「離婚届けの印鑑を届けにきたよ旦那さんっ!!」

走る勢いを止めず、
ティルはクライに突っ込んでくる。
躊躇無くクライ(元旦那)を攻め込んでくる気だ。

「ティルッ!!」

思い出。
思い出だ。
美しすぎる・・・・過ぎ去った日に過ぎない。

「ただっ!今も愛しているっ!」

泣虫クライは嘘を付かない。
反吐が出そうな言葉だって、
何百回と吐き捨ててみせる。

「あたしは過去形だけどねっ!!」

「パリィ!」

残像と共に、
今度はクライも躊躇無く避ける。
"ヤる気ならば"、
エドガイやティルの攻撃などクライには通用しない。

「爆(エク)・・・・・」

拳を・・・
がら空きのティルの体に・・・・。

「拳(スタ)ッ!!!!!」

叩き込んだ。
ティルは軽い悲鳴と共に吹き飛んだ。
吹き飛んでゴロゴロと転がる。

「浅いぜ泣虫」

エドガイが間髪いれず、
パワーセイバーを撃ち鳴らしながら突っ込んできていた。

「・・・・だと」

クライは残像を残しながら、
その斬撃を全て避ける。
避けきる。

「甘えがあるぜ甘ちゃんっ!!」

「ねぇよそんなもんっ!!!」

パリィの残像と共に、
地面を蹴飛ばす。
一瞬でエドガイに踏み入る。

「おっとっと」

それも分かりきっていて、
エドガイは後ろに大きく跳んだ。

「回避行動なんて無駄だぜエドガイっ!一歩のデカさが違うんだよっ!!」

クライがもうひと踏み込み。
爆蹴。
またも一瞬で、エドガイの前まで突っ込み・・・・

「!?」

そこは、ティルが片膝をついている場所だった。

「てめっ!ティルを盾に!」

「俺ちゃんは仕事第一だ。言ったろ」

そして、当然のように怯むクライ。
それをあざ笑うエドガイ。

「仕事をこなせる前提なら、出来るだけ俺ちゃんはイイコちゃんにもなる。
 善く生きようとするのは人間の性だしな。俺ちゃんもそうありたい。
 だが、仕事をこなすためならば俺ちゃんは悪のクズにもなるよん」
「てぇりゃっ!!」

聖衣はクライの一撃でほとんど消し飛んでいたが、
ティルは隙を逃さず、
クライに一撃をくれてやる。

「くっ・・・そっ!」

吹っ飛ばされてもスッ転ぶほどではない。
受身をとって着地するクライ。

「なぁにが甘ちゃんよエドガイ。あんたも十分に甘ちゃんよ。
 あの場面でクライがあたしを攻撃出来ないと踏んでたんでしょ?」
「結果論だねぇ。保証は無かったさ」

ピアス付きの舌を出しておどける。

「もう・・・・迷わないぞ」

クライは、
拳を握り締めた。

「愛するお前に、元夫を手に染めるなんて汚業をさせるくらいなら、俺の方が泥をかぶってやる」

「クライ」

エドガイが、
吐き捨てる。

「何度も、何度も聞いてるぜ?似たようなセリフ。
 そう。お前はウソを付かない。ウソで無い言葉を何度も吐き捨てる。
 本心にしようとただ、自分に言い聞かせてるも一緒だねぇ」

「迷いがあるっていいたいのか」

「迷いを無くす方法は一つ。それを教えてくれたのがビッグパパだ」

「俺の愛に迷いはねぇよ」

「違うね。お前は愛を言い訳にしてるに過ぎねぇな」

「・・・・・なんだと」

「ビッグパパが教えてくれたことは、自分の価値を見い出すこと。それだけだ!
 行動理由を他人のせいにしてるテメェなんて、無価値に等しいんだよっ!」

クライはただ、
本音だと言い聞かせるように。
ただウソではないからという理由で、
ハッキリとではなく、
答えるだけ。

「俺の価値は・・・・ティル・・・・お前だけだ。それが俺の全てだっ!」



































「クライ!てめぇどんな魔法使ったんだよ!」

いきなり掴みかかってくる、
そんな図々しい奴は決まっている。

「あのティルをゲットしたってぇ?おいおいちょっと取調べだなぁこりゃ!」

アクセルだ。
アクセル=オーランド。
この超人だらけのクラスで、こんなに人間味のある奴はこいつぐらいだ。

「別に。ただ俺がイカした男だったってだけさ」
「あーあーあー!冗談は置いとくぞおめぇ。ティルだぞ?あのヤンキー女だぞ?
 俺らん中じゃぁ攻略不能女ランキング堂々のbQだってーの。それをだぜ?」
「へぇ?一位は誰だ?・・・・あぁツヴァイか」
「ありゃぁランク外だろ」
「そりゃそうか」
「一位はそりゃぁほら。ティナだろ。オレンティーナ=タランティーナ」
「まぁ・・・あのギャル女は尼僧だからな」
「そゆこと。ティナとティル。抱きたくても不可能ランク1・2フィニッシュだ。
 ティが付いたらもうその女は攻略不能って言われてるくらいだぜ?」
「ティルはそんなにトガった子じゃないよ」

今だからこそ言える。
そして、
現状、付き合っているというのは誇りにも近い。

「そんな事言うけどな。アル。お前だってあのレンと・・・だろ?
 付き合ってるって噂聞くのは俺らとお前らと、あと"あいつ"くらいだが、
 正直ほんと、俺はあのエーレンをひっかけたお前のが不思議だ」
「あ?いや、別になんともねぇよ。俺らのは必然だからな」

必然?
運命とでも言いたいのだろうか。
それはそれは。
愛の道だね。

「・・・・と。嫁さんが来たな。詳しい話は今度聞こうかね」

アクセル=オーランドは、
ティンカーベルの姿を確認すると、
ヘラヘラ笑いながら立ち去ろうとする。

「俺もこれから決戦でね。ディンと一緒にロウに一泡吹かせてやろうってな」
「こりてねぇなぁお前も。お前とディアンじゃロウマには勝てないって。
 正直ほんと、ウソじゃなくてな。あいつ倒したかったらそれこそラツィオとか」
「うっせうっせ!」
「俺みたいにカッコよさが足りないんだよお前は」
「うっせ!んじゃな。俺は行くからよ」
「おう」
「うわっ!なんだありゃ!燻(XO)の野郎、車椅子に乗ってんぞ!」

アクセル=オーランドはそのまま消えていった。

「・・・・・トガった子じゃないとはよく言うじゃない」

ティルは言ってくる。

「俺は、ウソは言わないさ」
「ウソばっかり」

ティルは笑いもしない。

「あんまり噂たてないでよね。あたしがいい気分じゃない」
「そうかい?俺みたいな完璧ハンサムの彼女なんて誇らしいだろ。俺、モテるんだぜ?」
「あんなヤサ男とは、あんたも面食いのアバズレだったんだな・・・・ってさっきミラに言われたわ」
「あの鎧野郎・・・・」

どうしてこうも、
おせっかいの多い奴らなんだ。

「まぁ世論なんて関係ないじゃないか。俺は君を世界で一番愛している。それで十分だろ」
「聞き飽きたわよ」
「言い飽きないさ。本音を言葉にしない理由がない」
「でも何度も言われると重みってもんを感じなくなるわ」

クライは少し動きを止めた。
それは困る。
ならどうしようか。
ふむ。

「クライ。あんたさ」
「なんだい」
「今更だけどあたしの何がいいわけ?」

ピンクのスウェットを着たヤンキー女は、
聞いてくる。

「美人だ」
「別れましょう」
「ちょ、ちょっと待ってって。それも本音だけど、本音の本音は全部好きってことさ」
「そんなのありえないじゃない」

ありえない?
そんなわけがない。
今、自分の価値はティンカーベル=ブルー&バード。
彼女で全てだ。

「嫌なとこなんて絶対あるじゃない。それこそ相手があたしなのよ?」
「変なところに自信もってるね」
「好きで性格悪くなってんだからね」

それまた。

「それを含めて全部好きさ」
「好きって言葉は聞き飽きてるって言ったでしょ?今は嫌いなとこを聞いてるの」
「・・・・・」

嫌いなところ?
そんなもの・・・・

「ほらきた」

ふん・・・とティルは無表情でそっぽを向く。

「こういう時に黙るのがあなたよ。理由は本音しか言わないから。
 あるから言えない。正直ねホント。ウソで取り繕うってことを知らない」

それは・・・・

「昔、それでエドガイとケンカしたな。あの傭兵の巣で」
「話を逸らさないで」
「そらしてないさ」

クライの目は、
真剣だった。

「俺はビッグパパ・・・っつー親父に拾われるまでは孤児だった。
 まぁ親父は孤児しか拾わないわけだが、俺もその中の一人だった」
「へぇ。まぁ知ってるけどね」
「物心が無かったから記憶は無いが、両親は騙されたあげく、死んだらしい。
 悪行の片棒を担がされたあげく、本音も言えずに封殺ってところだな。
 だから拾われた命・・・・俺の命は、偽る事なく生きようと決めた」

偽らず、
正直に生きようと。
正義でも悪でもいい。
自分の本音で生きようと。

「俺の両親はウソを付かれ、ウソを付いて死んだ。最悪だ。無念もこの上ない。
 だから俺は新たな命を、正直に生きる。それこそが命の価値だと思っている。
 やりたいと思ったらやる。欲しいと思ったら正直に言う。悪も善も、な。
 どんな事があっても後悔しないように、ウソを自分につかないように」
「それで」
「俺の行動にウソは一つもないってことだ」

生涯通して生きてきた、
たった一つの本音だ。
裏返りようがない。

「君の全てを世界で一番愛しているよティル」


































「・・・・・フッ・・・・ククッ・・・・」

クライは少し顔を下げて笑った。

「確かに俺は根っこから勘違いしてたのかもしれねぇなぁエドガイ」

顔を上げるクライ。

「一番大事な価値はティルで、それを愛する俺が二番目。単純な答えだった」

「そうかい」

エドガイは、へっ、と笑い捨てる。

「それじゃぁ俺ちゃんには勝てねぇな。ナルシストは足枷だぜ。
 自分を省みない事に強さはある。命を戦いに換算できねぇとは」

傭兵の風上にも置けない。

「何言ってんだ。だからお前は傭兵に戻った。そして・・・・
 守るべき者がある俺はサラリーマンを選んだ・・・ってとこだ」

「愛する人のために騎士団(公務員)ねぇ。その辺はどーよティル」
「別に。その辺はあたしが関与する観点じゃないわ」
「だそうで。クライ。思いが伝わってないんじゃねぇの?」

「あんまり調子こいてるんじゃねぇぞエドガイ」

クライは、睨むように見据える。

「俺は今から、ティルに見せなくちゃぁいけない。
 お前を世界で一番愛しているのは、歪みないイイ男だって事をな。
 ・・・・・片割れであるお前を倒して・・・愛の強さを知らしめる」

「へぇ。俺ちゃんに本気を出させようっての?
 生憎、俺ちゃん気分屋でねぇ。自分で力をコントロール出来るほど器用じゃない。
 ま、お金を示してくれるんなら綺麗にその分の力は発揮してやるけど」

「エドガイ=カイ=ガンマレイ。俺は、クライ=カイ=スカイハイだぜ?
 お前の事はよく知っている。お前を本気にさせる方法・・・知ってるっての」

「・・・・・」

エドガイは返事をしない。

「ガキの頃、ケンカしたな。お互い、本当の事を言ったからケンカした。
 お前は俺の名前を利用して、"泣虫"だと馬鹿にした。俺は本気でキレた」

「そりゃいい思い出だ」

「あぁ。俺は今じゃ過去を受け入れて泣虫を名乗っている。
 ただ・・・あの日、俺はお前に何を言ったかな」

子供のケンカ。
口ゲンカ。

「少なくとも、本気でお前と俺が戦ったのはあの小さ過ぎるあの日くらいだ。
 そして俺がお前のチャラけた性格が一変するのを見たのも、あの日が最大だった」

「・・・・・・」

「そうそう。俺はこう言ったんだ。"モルモットベイビーのクセに"」

エドガイはピクりと反応する。
抑えているのが目でわかる。
剣を、
強く握り締めて。

「・・・・クライ。それ以上言ったら殺すぞ」

「なら、俺は言わざるを得ないな。どう言えばお前がキレるか。・・・・そうだな」

エドガイが動いたのは、
クライがその言葉を口にすると同時で、
つまり、
今まさにその言葉を口にしようとしているクライに、

「この、"童貞野郎"」

「黙れっ!!」

刹那に突っ込んだ。

剣を地面に突き刺し、
パワーセイバー。
その反動で一気に突っ込む。
まぶたの上のピアスが揃って跳ね飛ぶんじゃないかというほど、
目をギラつかせて、
剣を、

「カイはお前に譲る」

「!?」

クライの体に突き刺した。

「・・・・・てめぇ・・・わざと」

クライに対応は無かった。
突っ込んでくるエドガイに、
対抗などしなかった。
ただ、
剣を受け入れた。

それは自殺。

「死骸じゃぁ・・・痛みさえないのが涙目だがな。
 俺は降りる。俺の求めている答えがやっと分かった。ティル」

剣に貫かれたまま、
クライはティルの方を見た。

「正直ほんと、悪かった。俺の本音ばかりをぶつけて、お前の気持ちを考えてやれなかった」

「おいクライ!俺ちゃんには理解できねぇぞ!てめぇで勝手に完結させてるんじゃねぇ!」

エドガイは、
さらに剣を深く捻じ込んだ。

「聞いてんのかよ!」

「いいんだよ・・・お前は・・・。因縁は別に用意されてるって言ったろ・・。お前はそっちで完結してくれ」

「・・・・あぁ?」

「ビッグパパが居るぜ。ココに」

・・・・・。
ココに?
ココとはつまり・・・この戦場に?

「・・・・・・んだと・・・・・」

「敵か味方かは自分で探しな。ただ回避は不可能だから安心するんだ。
 "お前ら側の人間"が深く関わってる。他の奴に因縁を横取られないよう注意しとけよ・・・・」

「おい待て!どういう・・・・」

「お前との話は終りだ・・・俺にはそう・・・ティル・・・・」

クライは、
先ほどからティルを見据えたまま。

「さっきの聖衣・・・凄く綺麗だった。まるでウェディングドレスだった」

「・・・・・・よく言われるわ」

「あぁ。だから思い出した。俺は結婚式の日に・・・・ウソを付いた事になるんだな・・・」

ウソなんて付かない。
本音しか言わない。
その時は本音だった。
"泣虫"クライ=カイ=スカイハイは嘘を付かない。

「浮気して悪かった・・・・嘘をついた・・・俺は・・・・」

人生で一度のウソは、
誓い言葉だった。

「絶対に許さないって言ったでしょ」

「キツいな・・・お前は・・・」

クライは笑った。

「悪かった・・・今になれば過去が嘘だらけになった。
 お前の夫は、頭が良くて、運動神経は抜群で、その上ハンサムで・・・それで・・・・・・」

弱かった。

「カッコいい男ってのは負けちゃぁいけないんだけどな・・・・」

ティルは、
呆れたように。
本当に呆れたように返した。

「昔言ったでしょ」

あぁ言ったな。

「あたしより強い男じゃないと駄目だって」

ティルは本当の事を言わないだけで、
ウソはつかないのかもしれない。
結果は
・・・・自分と結ばれてくれた。

「ありがとう。こんな俺を認めてくれるのか」

クライは頷いて目を瞑った。

「エドガイ。やってくれ」

「・・・・俺ちゃんにはまだ理解できねぇが。・・・いいのか?」

「ティルの求めている結果に気付いた。それだけだ。
 マジにやってりゃお前なんかに負けるかよ。金の亡者。
 愛は強し・・・・ってのは訂正しないまま逝かせてもらう」

「そう・・・・かい!」

なんだか分からないが、
納得済みの"自殺"というなら・・・・。

エドガイは一思いに、
トリガーを引いた。

剣をクライに突き刺したまま、
何度も何度もパワーセイバーを撃ち放った。

クライの体は、
一斬ごとに散らばっていった。

「涙目だ・・・・・」

散らばっていく破片が、
元の骨の破片に戻っていく。
そしてさらに、

光として昇華していく。

「ティル・・・・・」

消え行く中。

「俺は世界で一番君を愛している・・・・」

そして君は世界で一番美しい。

言葉を残して、
泣虫クライは天に消えた。

「なんなんだよオイ・・・・」

エドガイは一人残されたように、
苦虫を噛んだ。
剣を下ろすのも忘れていた。

「説明しろよティル」

エドガイの後ろから、
ティルが近づいてくる。

「簡単。あたしの望みにクライが気付いた。それだけよ」
「おたくの望みぃ?」
「本音と裏腹に、ウソついたりトガったりするのがツンデレって言うらしいわよ」
「はぁ?」
「あたしの望みは・・・」

ティルは空を見上げた。

「戦争?あたしの知らないところで勝手に死んでったこいつが許せなかっただけ」
「・・・・・未練があったのか?」
「まさか。あと100年生きてもヨリを戻すつもりはないわ。
 浮気なんて万死に値する。ただ・・・・・あたしの目の前でちゃんと死ねって・・・それだけよ」

エドガイは「はぁん」と笑い、
剣を下ろした。

「なるほど。ツンデレねぇ。つまりおたくは、クライの死を目前にしたかった。
 そのためだけにこの戦場に来たってわけか」
「そういうこと」
「そしてクライもそれが分かった」
「どうだか。勘違いを本音にしちゃう困った奴だったからね。
 ・・・・・・・・・なんにしてもせいせいしたわ。これで何の未練もない」

死に様。
終焉戦争?
知らないところで勝手に死ぬな。
その清算をしたかっただけ。

「さて・・・と」

ティルはWISオーブを取り出し、
口元に当てる。

「来い」

誰と連絡したのかもわからないが、
ティルはそのままそれだけを口にして、
ブチンと通信を切った。

「おいティル。誰と連絡とったんだ?」
「すぐ来るわ」


「イッツァウォキトォキ!」

ズザァ・・・と地面を滑りながら、
どこからともなく、
《ウォーキートォーキーマン》
情報屋ミルウォーキーが登場した。

「おやおや"同業"か」

傭兵エドガイは小さく笑う。

「・・・・まったく。ティル姉さん。オレっちを二文字で呼び出すのはあんたくらいだっての。
 大体、部下いっぱいいるんだから先にそっちを通してくれよ。今オレっち超忙しいんだよね」

「あたしが呼んだら来る。それだけでしょ?」

「誰が決めたんだよそんなこと・・・」

トレカベストの情報屋は、
頭をポリポリと掻いて呆れた。

「んで御用は?地獄の沙汰も金次第」

「運搬を数件よ」

「・・・・っと。オレっちは情報屋だって言ってんだろ?」

「その一つはあたし」

ミルウォーキーの言葉を無視して、
ティルは話す。

「あたしだぁ?おいティル。おたくどうするつもりだ?」
「決まってんじゃない。用が済んだのよ。帰るわ」

・・・・帰る?

「言ったでしょ。あたしは部外者。もともとの用事もクライの死に様を眺めるためだけ。
 同窓会の目的はそれだけなのよ。晩御飯の支度もあるからさっさと帰るわ」
「帰るっておい・・・」

またまたマイペースで、
勝手な女だ。
逆らえもしない。

「あたしみたいなのはこの戦争に居るべきじゃないのよ。
 世界を壊す戦争は、世界を変えたいと思ってる人間がやるべきだわ。
 これでもわがまま分は働いたつもりよ?義理くらいは通したわよ」

まぁ、それもそうだ。
五天王の一人を排除し、
増援(シェナニガンズ)を連れてきた。
むしろ現段階一番功績が大きいのが他でもないティルだ。

「いやいやいや、YO!YO!オレっちはあくまで情報屋で戦争に口出しはしねぇ。
 帰るなら好きにしなってとこだが、だから情報屋だって言ってるだろティル姉さんよぉ!」

「あぁ、あと悪ガキ坊'sにも届けモノがあるわ」

「いやだから・・・」

「逆らう気?」

「・・・・・・あんたの頼みでもオレっちのポリシーは曲げられない」

「ミルウォーキー。あんたマリナの店にツケあるんじゃないの?」

「あるけど!それとあんたは関係ねぇだろ!」

「そうかしら?・・・・でも困ったわね。それじゃぁ頼み方思いつかなくなってきたわ」

パキ。
ポキ。
ティルの腕が鳴る。

「・・・・・OK。・・・分かった。引き受けよう。あんたのケンカを買う・・・だから情報を売ろう」

これはまたうまいことを。
エドガイは関心した。
さすが同業だ。
そういう解釈は嫌いじゃない。

「あら♪それはお姉さん嬉しいわ。それじゃぁこれと・・あと・・・・」

ティルはミルウォーキーに次々と打ち合わせしていく。
それを傍らに、
エドガイは戦場を見渡していた。
今はどちらが優勢なのか。

それを見ながらも、
本心は・・・・・

「売ってやろうか?ビッグパパって奴の情報」

ミルウォーキーが、
誰でもなく、
エドガイに話しかけてきた。

「・・・あ?」

「驚いた顔するなって。オレっちもそこまでその男の詳細を掴んでる訳じゃない。
 だが、金を払ってくれるならオレっちは働くぜ?
 オレっちはあんたと違って仕事は何個も同時に請け負うんだ。傭兵エドガイ=カイ=ガンマレイ」

いや、
ミルウォーキーは訂正する。

「γ線のエドガーか」

エドガイは、
髪に隠れて居ない左目で、
ミルウォーキーを見据えた。

「・・・・情報屋。お前どこまで知ってる」

「知ってる事しか知らねぇさ」

情報屋はおどけて笑う。

「・・・・・・ったく。これだから金で動く奴は信用ならねぇ。自分達以外は・・だけどな」

「おっと。信用商売なんだけどねぇオレっち達は。
 さてティル姉さん。これがゲートだ。今日に限りはもうオレっちを呼ぶなよ」

「さぁね。急に明日の天気が知りたくなったら呼ぶかもね」

「まったく。情報屋をなんだと思ってるんだか」

「フフッ」

ティルは躊躇もなく、
手渡されたゲートを開いた。

「それじゃぁエドガイ、ミルウォーキー。悪ガキ坊'sの面倒はよろしくね」
「気が向いたらな」

「金次第だねぇ」

「あと・・・・」

飛ぶ間際に、
ティル。
ティンカーベル=ブルー&バードは、
言い残した。

「二度もこのくだらない戦争を起こしたアインをちゃんとボコってよね」








































ここはどの辺りだろうか。
そんな事を確認する余裕。
いや、
そんな意志さえ・・・・

イスカには無かった。

「斬る・・・・」

それだけが全て。
マリナを守る事だけが全て。
そのために、
すでに、
"マリナさえ眼中になかった"

「・・・・・あぁ・・・・」

敵の群れの中、
見上げる。
横には大きく聳え立つ・・・
ガレオン船。
デムピアスが降り立った船だ。

既に崩れた残骸でしかないが、
戦場の中心に落ちているには山のように大きかった。

「邪魔をするな・・・・空を半分削るな・・・・」

見上げた時間は短かった。
空など、
もうどうでもいいはずだから。

ただ地を這う大蛇。
人斬り大蛇は全てを飲み込む。

「KILL・・・・」

敵か味方かも判別せず、
イスカは目の前の人間をまた斬り進んだ。

「あぁ・・・心地いい?・・・素晴らしい?・・・・」

イスカは反狂の中、
その、
人を守る実感に酔いしれていた。

自分に出来ること。
それは人を斬ること。

それだけだ。

そのためだけに前に進んだ。
どこに進めばいいかは分からなかったし、
考えもしなかった。

ただ・・・・

その男はイスカの目の前に居た。

「・・・・・む」

イスカは、
それでも人を斬るのをやめず、
だがその男に目を奪われた。

戦場の中、
座っている。

堂々と花見のように座り込んでいるのだ。
なにやら、
巨大な鉄塊を傍らに置いて。

「・・・・・敵・・・・」

それがなんであれ、
敵に違いない。
味方であれ敵方であれ、
関係ない。

イスカは剣を握り締めたまま、
その男に飛び掛ろうとした。

「危ないねぇ。・・・・お嬢ちゃん」

その男は、
座ったまま顔をあげた。
どこかで見たことのあるような顔だ。
だが、
初老と言わないまでも、
若々しさを残す中年。
50も中盤だろうか。

地なのか染めたのか、
白と黒のメッシュの髪。

しわの無さは、
やはり若くも見えた。

違えば40台かもしれない。

「そんなに殺気ギラつかせちゃぁ、誰だって起きちまう。俺だって起きちまう」

白と黒のメッシュヘアーの男は、
そう言いながら、
それでも立ち上がらなかった。

「お嬢ちゃん。俺を殺したいか?」

他の者とは違う。
ただ、
イスカは剣を構える事で返事をした。

「そいつはいけねぇ。自分勝手過ぎる。俺を殺したいなら俺の許可をとれよ。
 誰に断ってその行動にでてんだぁ?俺を殺していいなんて誰が決めたよ」

よく分からない事を呟きながら、

「おい若造」
「はいはい」
「はいは一回だ」

近くに居た、
騎士を呼び出す。

「俺ぁ今、変な蛇に睨まれてる。どういうこったぁこれは。誰が決めた。
 お前言ったよなぁ?アレックス=オーランドかギルヴァング=ギャラクティカ。
 どっちかの件が片付かない限り、中盤に動きはないだろうってよぉ」
「えぇ・・・まぁ」
「んじゃどういうことよ。おいそっちの若造」
「・・・はい」
「なんかいい訳してみろ。許可する」
「・・・・戦争ですから何が起こるか分かりませんよ。
 デムピアスの動きは不可解ですし、それにツヴァイ=スペーディア=ハークスが負けたとか」
「あぁ?マジで?ユベンのガキがやったか?」
「えぇ・・・どうやら城に連行したらしいと情報が」
「城に?馬鹿か!・・・・チッ・・・ったくよぉ。それこそ俺が動かなきゃなんねぇじゃねぇか」

そこでやっと、
白と黒のメッシュの男は、
どっこらと立ち上がった。

「これだからガキのやる事は気に入らない。そりゃ俺だって"てめぇのガキ"の世話捨てるさ」

そして、
男は、
傍らの・・・・巨大な鉄塊を拾う。
拾うだけで・・・地面が揺れた。

「お嬢ちゃん」

その男は、イスカを見据える。

「俺を殺すってんならドラゴン4匹くらい連れて来いよ。"蛇"じゃぁ俺は殺れねぇぜ」

大蛇。
蛇。

「・・・・・なんだか分からんが、お前は危険な気がする」

イスカはその男を殺すと決めた。

「危険とは、危ういという事だ。そういうものを殺しておくのが、守るということだ」

「んな事誰が決めたんだよ」
「クシャールさん。あれは恐らく人斬りです」
「放って置きましょう」
「わぁーってるよ。そうするつもりだ。はいはい」
「はいは一回ですよクシャールさん」
「あぁ!?んな事誰が決めた!」

クシャールと呼ばれた男。
なんだ。
なんだあの鉄塊は。
大きいなんてものじゃない。
担いでみれば・・・・・"軽く4・5メートル"ある。
家でも分断するつるつもりか?
斬馬刀でもあれほどはない。

「へへ。やっぱビビってますよクシャールさん」
「あんたのその斧に」

若造と呼ばれていた騎士達が、
イスカの表情を伺う。

「おい人斬り。驚いたろこのテトラアックス」
「クシャールさんのこの斧はロウマ=ハートと並んで最大級」
「俗称で"竜斬り包丁"だ」

竜斬り包丁(ドラゴンスレイヤー)?

「おいてめぇら!誰が説明していいって決めた!あぁ?誰が決めた!」

若騎士を片手でぶん殴る白と黒のメッシュの男。
クシャール。

「とにかく行くぞ。ツヴァイを持ち帰った理由はすぐ分かる。
 アインハルトはクソみてぇな事しようとしてやがる。ったく・・・・誰に断って・・・・」

「待て」

「おめぇが決めるなよ」

イスカの制止に、
面倒臭そうに答えるクシャールという男。

「よく分からんが、あんたは俺を殺したいみてぇだな」

特に・・・突如出会ったこの男に何かを感じるわけじゃない。
だが、
出会った敵は全て斬る。
だからだ。

「敵は斬る。それが拙者の勤め」

「誰が決めたよそんな事。言っとくけどなぁお嬢ちゃん。
 さっきあんた、何かを守るために斬るとかどうとか言ってたよな」

「そうだ。拙者が決めた」

「それ、"お前である必要はあるのか"?」

クシャールという男は、
断固と言い切った。

「・・・・何?」

「誰でも斬るなんて誰でも出来るだろ」

・・・・何を言っている。
マリナを守る事。
それは自分にしか出来ない。
自分の勤め。

だが・・・・・
斬り尽しているのはマリナのため?
そしてそれは・・・
自分にしか出来ないことではない?

「まぁいいや。お嬢ちゃんに説教くれてやるのも俺じゃなくていい。
 おい行くぞ。・・・・いや、そのまえにドロイカン肉でもオヤツにしようぜ」
「さっきもそう言ったじゃないですか」
「飯は一日3回。オヤツは一回ですよ」
「んな事誰が決めたよ!ぁあ!?誰に断って決まった事だ!」
「じゃぁまたジャンケンで決めましょ」
「はい、ジャンケン・ポン」
「はいクシャールさんの負け」
「ほら行くなら行きますよ」
「おい!待て!チョキがグーに負けるなんて誰が決めた!俺は負けてねぇぞ!
 それに三回勝負だ!いいな!俺が決めた!今決めた!」

「・・・おい」

イスカは、
そのクシャールという男を呼び止める。

「何・・・何何・・・何が言いたい・・・・拙者はマリナ殿を守る・・・そのために斬っている。
 それが何だ・・・・何がいいたい・・・分からん・・・分からんという事は・・・・敵だな」

「なんだその理屈。誰が決めた」

キリンやゾウでも一刀できそうな斧。
巨大なテトラアックス。
竜斬り包丁を背負い、
他ごとのように答える。

「そのマリナとかいう奴はお前にそう守ってくれと頼んだのか?
 "価値"を見い出せてないな。自分の価値を。そういう奴とは話していたくない」

俺が決めた。
そう言い、
クシャールという男は去っていった。

「おいとりあえずロウマんとこ行くぞ。今俺が決めた!」

どこから取り出したか、
ドロイカン肉をかじりながらだ。
去っていく姿は、見失いようが無い。
あの巨斧だ。

だが、
半ば狂乱していたイスカが、
動けずに居た。

危険だが、自分に害が無いような。
斬る相手ではないような。

否。
蛇などに竜斬りは興味が無いような。

「拙者でなくても・・・・いい?」

混乱していた頭は、
久方ぶりに思考した。

「否・・・拙者でなければマリナ殿は守れないはずだ。
 マリナ殿を守れるのは拙者だけだ・・・否・・・拙者が守りたいのだ」

突然、
騎士が突きかかってきた。
戦場の真ん中でボォーっとしてるな・・・というところだろう。
それを軽く避け、
そして剣を・・・・。

「・・・・・こんなこと・・・・」

その騎士の首元で止めた。

「だが拙者はこれしか出来ない・・・斬るしか能の無い者だ・・・・
 これでいい・・・これでいいはずだ・・・・迷うより・・・・」

まず行動だ。

やはり、
その剣はさらに動き、首を跳ね飛ばした。

イスカは行動を変えなかった。
他に出来ることなどないから。

ただ、
跳んだ首がマリナと何も繋がっていないことは、
薄々感じた。

現在のところは、ただ混乱が深まった。
それだけだった。









































「ようこそ」

王座の扉が開くと、
ムカツくほど丁寧にピルゲン=ブラフォードが頭を下げた。

赤い絨毯が真っ直ぐ伸び、
その先の王座には、
帝王アインハルト=ディアモンド=ハークスが座りこけていた。

「アイン様・・・・一つ余興が増えましたね」
「ロゼ。貴様は口を開くな」

アインハルト。
ロゼ、ピルゲン。
この三人が常駐していると言っていい王座。

入る回数は自分とて数えるほどだ。
冷静を装っても心拍数が上がるのは感じた。

「さぁ、もう少しお傍へ、ユベン殿」

「はい」

ユベンは丁寧な口調で返した。
そして重い足取りでアインの前へと絨毯を歩む。
重いのは・・・
気でなく背中。

気を失っているツヴァイ=スペーディア=ハークス。

「こういう時はご苦労とでも言うべきか」

「いえ。もったいないお言葉」

ユベンは王座の前まで歩むと、
ツヴァイをその場に下ろし、
自分は片膝をついて頭を下げた。

「騎士団長。私めはまだ戦争があります。用は置き捨てますので、退席のお許しを」

「ふん。ラツィオに似て礼儀だけは出来すぎている」

不快にも快にも思わず、
アインハルトは見下ろした。

「何故、生かして連れて来いと言ったか。聞かないのだな」

「いえ、貴方の命令はロウマ隊長に託された。ロウマ隊長の言葉は私めの全て。
 理由などどうでもいいのです。それ以上の事は必要としない」

正直な感想としては、
考えたくもなかった。
この絶対の帝王の考えなど。

それこそきまぐれに過ぎないのだろう。

ただロウマ=ハートを通しての命令ならば、
ユベン=グローヴァーに拒否の選択は無い。
なら通さなかったら?
・・・・それはあまり考えないところだ。

「・・・・いや、やはり言葉を一つ戴けるなら・・・・」

「言ってみろ」

「ロウマ隊長と先ほどから連絡が取れません。次の指示を仰ごうとしているのですが」

冷静に、
地面・・・赤い絨毯を見たまま聞く。
薄いピルゲンの微笑声が耳障りだった。

「そんなことか。それならばこれから向かうところだ。そのカスを連れてな」

気を失っているツヴァイ。
それを示したのだろう。

「地下に一室設けてある。そこにロウは居る。おいピルゲン。
 そこの汚いカスを連れて先に行け。我とロゼは後に行く」

「はい。かしこまりました」

ピルゲンは右手を折りたたんで丁寧にお辞儀をした後、
ツヴァイに歩み寄り、
そのまままたお辞儀と共に闇に消えた。

「・・・・・・詮索するつもりはありませんが、ツヴァイ=スペーディア=ハークスとは双子と存じ上げます。
 何かお二人での話しでもあるのかと思いましたが・・・・・・なぜ隊長のところへ」

前半は飾り。
ユベンが聞きたいのは後半の部分。

「あんなカス。もうどうでもいい。ツヴァイにとってはどうだか知らんがな。一度消したカスだ」

その他の一つ。
そうでしかない。

「それよりも我は、退屈になった戦争の中、少し楽しみたいだけだ。ロウマ=ハートを使ってな。
 ・・・・ふん。ツヴァイはさながら餌に過ぎんよ。ロウに"喰わせる"ためのな」

・・・・喰わせる。
その言葉は、ユベンの耳に残った。
ユベンは・・・ここで顔をあげた。

「騎士団長・・・あなたまさか」

「気付くレベルには話を聞いているか」

気付く?
いや、知らされている。
昔、ロウマ=ハート直々に。

「お言葉ですが騎士団長・・・・」

ユベンは立ち上がった。

「反対します。ロウマ隊長は・・・・」

「お前にその力はない。下がれ」

が、それを断固に絶たれ、
絶対の意志は下された。

「ぐっ・・・・」

その力はない。
誰にも無い。
この男の意志を曲げる力など、
この世界のどこの誰にも。

「クソッ・・・」

聞こえない程度に、自分の不甲斐なさを口にし、
ユベンは一度礼した後、背を向け、
王座の間は去った。

「ロウマ隊長を玩具にするつもりか・・・・」

ユベンは顔を歪めたまま、
扉から出た。


「戦いに専念しろ。ラツィオの倅」

王座の間から出ると、
その壁にはディエゴ=パドレスがもたれかかっていた。

「ディエゴ隊長・・・しかし・・・。あなたなら知っているでしょう。
 兄貴やロウマ隊長と同世代だったあなたなら・・・騎士団長がロウマ隊長をどうするつもりか」

「どうするか分かっていてもどうも出来んさ」

絶対の意志。
アインハルトの意志なのだから。

「言うなれば、それを拒否出切るのはロウマ自身だけだろう。
 副部隊長なら部隊長の意志・・いや、騎志を信じるくらいしたらどうだ」

「・・・・・」

ユベンに言葉は無かった。
命令でやった。
だが、
取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

「ミラの第50番・強壁重装部隊。オレンティーナの第5番・アマゾネス部隊。
 共に配置が完了した。デムピアスの乱入で内門の防御が早まったからな。
 現状、大きくは中盤と内門前に兵を割いている」

反乱軍自体は未だ庭園の前線で燻っている。
だが、
デムピアス海賊団に限っては別だ。
乱入が真ん中からだった。
即急に内門が射程内。

「後続の反乱軍を潰すか。それともデムピアス率いる魔物共を先に潰すか。
 選択肢は多い。お前らはどうする。第44番・竜騎士部隊」

「・・・・俺に聞くんですか」

「当たり前だ。ロウマが居ない今、お前が部隊長だ。信念に従え。
 ・・・・・情報では残り4人しか居ないと聞いているが、それでも最強の部隊だろう」

4人。
たった4人か。
随分減ったものだ。

最強の部隊。
最強の部隊か。

・・・・・・・次の指示は無い。
今何をするべきか。

図らずともそれは分かる。
ロウマの意志は絶対だ。

「ディエゴ部隊長。全指揮権が今あなたにあると聞いている。だから願わせてくれ」

「なんだ」

「少し泳がさせてくれ」

ユベンは、
ディエゴの目を見てそう言った。

「何を考えていることか。構わんよ。最強といえどたった4人の人間を戦略に組み込むなど出来ない。
 逆に言えば44部隊など居なくても万全だという俺の意志の表れでもあるがな」

「助かる。王国騎士団に栄光を」

ユベンは一言と共にその場を後にする。
王座の前のフロア。
最上階はこれだけしかない。
階段は目の前。
それを降りながらユベンはWISオーブを手にする。

「・・・・・・メリー。ミヤヴィ。お前らは城内に居るはずだな。俺と合流しろ。
 エースお前は少し遊んでいろ。後で指示する。ただ・・・・・死ぬなよ」

メッツは受信しなかったが、ユベンにもそれは分かっていた。

ユベンは通信切り、
階段を下りていった。


































「ザコが一匹増えたか」

ギャハハと笑うギルヴァング。
ただその笑いはロッキーを馬鹿にするものではなく、
むしろ逆境というシチュエーションを楽しんでいる風だった。

「ザコとは酷いね」

ロッキーは冷静に微笑むだけだった。

「え・・・いやちょっと・・・・」

マリナはどちらかというとロッキーの変わり果てた姿に目を奪われていた。

「どうしちゃったのよロッキー君!?何あんた・・・成長期?なんか美味しいもんでも食べたの?」
「そうかもね。マリナの料理は美味しいもんね」

大人の姿に変わっても、
微笑む顔は無邪気なままだ。

「マリナは疲れたんなら少し休んでてもいいよ」
「へ?」
「ぼくも少し力を試してみたいしね」

ニコりと微笑んで、
そしてロッキーは片腕を上げた。

同時に・・・
地面の瓦礫が一斉に浮かび上がった。

メガスプレッドサンド。

「うん。いい調子」

そして腕を伸ばすと、
その瓦礫達が一斉にギルヴァングに向かって発射された。

「んーだゴルァ!?」

ギルヴァングは拳を突き出す。
二度・三度と。
瓦礫に拳をぶつけるたびに、
瓦礫が破片に粉砕されていく。

「んなメチャ小賢しい攻撃で俺様を倒せるかダァーーラァ!!!」

数個の瓦礫を拳のみで破壊した後、
ギルヴァングは胸いっぱいに息を吸い込み、
そして吐き出す発狂声。
怒声。

声の圧力はメガスプレッドサンドを粉みじんに吹き飛ばした。

「倒す気マンマンだよ」

「!?」

いつの間にか、
ロッキー自身はギルヴァングの真横に回りこんでいた。
運動能力も、
三騎士譲りのままだ。

「ぶっとんじゃえ」

「ダァァァーーーラ!!!!」

ロッキーはカプリコハンマーを真横に振り抜く。
ハンマーの腹は、
ギルヴァングの腕に直撃し、
バーストウェーブの爆発が炸裂した。

マリナから見れば、
一瞬、ロッキーもギルヴァングも見えなくなるほどの爆発の規模だった。

「・・・・・あれ?おっかしいなぁ」

ロッキーはニコりと苦笑する。
ハンマーは確かに直撃しているが、
それはどちらかといえばギルヴァングが腕でガードしている形だった。

「この規模を素手で止めちゃうのか。おじさん凄いね」

「あぁ・・・・・・俺様はメチャすげぇ・・・・ぜ!!!!」

ギルヴァングのもう片腕が、
台風のような風圧と共に振り切られる。

「およっ・・・と。危ない危ない♪」

狼帽子が脱げてしまいながら、
ロッキーは瞬時に反応してしゃがむ。

「パパ達の剣くらいの速度があるね。おじさん」

「ギャハハ!・・・・だが俺様の方が威力はメチャ万倍だぜっ!?」

ギルヴァングは両腕を組み、
そのまま真下のロッキーに撃ち下ろす。

「えいっと」

ロッキーは避けるでもなく、
ガードするでもなく、
反撃するでもなく、
ハンマーを地面に叩き付けた。

「・・・・んあ!?」

同時に、ロッキーの姿が消える。
いや、居なくなる。

「へへん」

少し遠めの空に、ロッキーは居た。
テレポートランダム。

「ちょっと離れた所に出ちゃったな。でも見失わない程度でラッキーな距離かな♪」

すたん・・・とロッキーは着地する。
そこは戦線の真っ只中だったが、
ハンマーを軽々と一回し、騎士達をガラクタのようにふっ飛ばす。

「急にお邪魔してゴメンね。でもぼくの邪魔しないでね」

微笑みは爆弾。
笑顔とは、
無邪気とは、
時に邪悪にも感じる。

「でも遠すぎるかな。マリナ一人じゃ危ないよね。女の子だもんね」

よっ・・・と。
カプリコハンマーを地に置く。
ただ棒・・・柄を握り締めたまま、ロッキーはハンマーの上に乗った。

「んじゃ"ただいま"しようか。ぼく」

ロッキーが乗ったカプハンの腹は、
同時、
勢い良く爆発。
バーストウェーブが弾け跳んだ。

「あはははははっ!!」

カプハンはバーストウェーブの推進力で、
ロッキーを乗せたままぶっ飛んだ。
地を這うどころか、
空へと舞い上がった。

「はやいはやいっ!」

バーストウェーブのエンジンで進み、
柄のハンドルでコントロールし、
カプハンのジェットはロッキーを乗せて天を駆ける。

「でぇいりゃでりゃでりゃでりゃでりゃ!!!」

あっという間に元の位置までカッ飛ぶと、
そこではマリナが応戦している。
応戦というよりは、
逃げながらマシンガンを乱射していというべきだが。

「ドッゴラァァァアア!!!」

タイマンでギルヴァング相手では、
長くはもたない。
ギルヴァングの一撃。
あれは当たる。

「マ〜〜リナっ!」
「え?・・・・・きゃっ!!」

カプハンのジェットに乗ったまま、
攫(さら)うようにマリナを拾い上げる。

ギルヴァングの拳の一撃は間一髪で暴風を切る。

「危なかったね♪」

抱き抱えるマリナに微笑みを一つくれてやりながら、
ロッキーはカプハンジェットで空を旋回する。

「でもあいつ怖いなぁ」

旋回しながら、
ギラギラとこちらを地から見てくるギルヴァング。
威圧感が半端ではない。

「私にしたらあんたの方が怖いわよ。なんでも出来るようになってるわね」
「なんでも出来るよ。ぼくは1000と20年だから」

強気に微笑む。

「ロッキーとオリオール。・・・・ロキオールってとこかな」
「ロキオール(まるごとの反逆)ねぇ・・・・成長期は反抗期ってとこかしら」
「でもぼくらにはピッタリでしょ?」

マリナは微笑み返す。

「そうね」

と。

「ゴゥルァアアア!!!降りてきやがれ!漢らしかねぇぞ!
 漢ならメチャ真っ向から俺様にぶつかってきやがれってんだ!」

「ムチャクチャな人はムチャ言うなぁ」

困ったようにむくれながら、
カプハンジェットで旋回。
ロッキーは右手をギルヴァングに向けた。

「石頭だね」

ロッキーが魔法を発動したのだろう。
ただそれはロッキーの手からではなく、
空中に突如現れた岩達。
それが隕石のように降り注ぐ。

ハードインパクト。

「石頭だぁ?ギャハハハ!俺様は石どころかスッカラカンだって言われるぜ!」

すぅ・・・・と息を吸い込むギルヴァング。

「ロッキー君!声砲(バードノイズ)が来るわよっ!」
「た、たいへんだぁ〜〜」

言葉と裏腹に余裕の笑みがある。
アダルトロッキーはイマイチ掴みづらいところがある。

「ドッゴラァァアアアアアアアアア!!!」

声の砲弾。
範囲は広い。

ハードインパクト(小型隕石)が空中で砂粒のようになっていく。
それこそ、
かき消すように。

「酷い威力だね。反則だよ。・・・・わわっと!」

声砲(バードノイズ)が軽く影響したのだろう。
カプハンジェットが少し揺れる。

「何何!?墜落!?」
「しないけど。・・・・マリナお願い!」
「へ!?」
「お願い♪」

ロッキーは・・・飛び降りた。
空中から、滑空するように飛び降りた。

「微笑んで言われてもこれどうすんのよっ!?」

焦りながらマリナはカプハンジェットの柄(棒)を掴むが、
思うようにコントロールは出来ない。

「わわわわ!ちょっとちょっと!」

右往左往と暴走して飛び続けているが、
それと裏腹に、
ロッキーは冷静にギルヴァングへ向かって飛び降りていた。

「ギャハハ!ちゃんと降りて突っ込んでくるか!いいじゃねぇか!その漢気やヨシ!!」

「そりゃ男の子だもん」

「だが俺様はガチンコで負けた事ねぇぜ!!!」

ギルヴァングが拳を溜める。
全ては一撃必殺な拳。

「漢の・・・ロマンはぁ!!」

それに向かって、
真っ向から突っ込んでいく。
滑空していくロッキー。
避けることも、
ましてや防ぐなどギルヴァングの前には無力。

「破壊力ぅううううああああああ!!!!」

バッターさながらドンピシャのタイミングで突き上げられる拳。
風を切り、空気が轟音を奏でるほどに。

「大地はぼくの味方だよ」

ふっ・・・と軽やかに。
そよかぜのように。
ハードインパクトで粉々になった石飛礫達と共に。

「大地は讃頌(さんしょう)しないとね」

風がロッキーを空中で運ぶ。
スリリングストーン。
それでわが身をコントロールする。
ふわりと回転しながら、ギルヴァングの拳が当たらない距離に着地した。

「えへへ」

片手を大地に付いた状態の着地姿勢から、
狼帽子の下で、
ロッキーが微笑む。

「なら大地なんてぶっ壊してやらぁぁぁ!!!」

ギルヴァングはすでに次撃の体勢に入っていて、
ロッキーに飛び掛ってくる。

「大地讃頌・・・・・・ブレイブラーヴァ」

突如ロッキーとギルヴァングの周りの地面が盛り上がり、
それは小火山と化する。
無数の砲台。
火山の砲弾。

「ちょちょちょ!どいてロッキー君!コントロール出来ない!墜落する!!」
「そりゃ出来ないよマリナ。ぼくがコントロールしてるんだから」

マリナを乗せたカプハンジェットがこっちに飛んできた。
見なくても分かると言わんばかりに、
ロッキーが小さく飛ぶと、
カプハンジェットはロッキーを拾い上げた。

「お留守番ありがとマリナ」
「心臓がレバー焼きになるかと思ったわ・・・・・」

「ゴルッァアア!また飛ぶなダラァ!!」

下でギルヴァングが喚いているが、
ロッキーは微笑み返すだけだ。

「オリオール曰く・・・・」

ロッキーはカプハンジェットの上で、
空で、
大きく手を広げた。

「母なる大地の乾杯」

そして・・・・
ギルヴァングを取り囲んでいたブレイブラーヴァの小火山達は、
一斉に発射した。
火球を。
マグマの飛礫を。

360度全方位。
火山(ヴォルケーノ)の、
ラブ(投げキッス)

「チッ・・・・・ダァァアルァァァアアアアアアア!!!!」

叫ぶギルヴァングに、
マグマの飛礫が直撃していく。
全弾発射の如く、
次々と直撃して押しつぶしていく。
全方位の小火山がギルヴァングに集約するように。

「ァァァァルァァァアア!!!!」

叫び声がそれでも聞こえてくるのは異様だが、
それを押しつぶすように、
ブレイブラーヴァは着弾していく。

そしてギルヴァングの声も聞こえなくなった。

炎煙が立ち込めている。

「・・・・どうかな。やっつけたかな」
「こういうシチュエーションはやっつけてない時よロッキー君」
「マリナは物知りだね♪」

カプリコジェットは地面に離陸する。

地上に二人は降り立つ。

「でも効いてるのは確かなはずよ」
「ほんとにぃ〜?」
「た・・・ぶん」

言い切れはしない。
何せギルヴァングだ。
その一言に全て集約する。
笑いながら登場するかもしれない。
あの煙の中から。

「マァ〜リナ!」

ロッキーはマリナの後ろから抱きつき、
マリナの肩の上に顔を置く。
ニコニコと。
無邪気なもの。

「ドキドキだね」
「私はビクビクよ・・・」

煙が晴れていく。

「・・・・・期待は裏切るものね」

中から姿があらわになったギルヴァングが、
両手をクロスした状態で立っていた。
全身が炭だらけのように黒おびいていたが、
確固としてそこに立っている。

「燃えたぜ」

ギルヴァングの両腕の下で、
牙が生えたような猛獣の口が笑う。

「血が滾る。こんなバトルこそメチャ最高だ。心臓が熱くなる。
 鼓動が早くなる。感情が昂ぶる。俺様の心が揺らめき蠢く」

ギャハハ。
ギルヴァングは両手を下ろし、
猛獣の笑みでこちらを見据える。

「うぉ!?」

だが途端、
右膝が崩れた。

「・・・・・とと。いい感じだこりゃ」

ギルヴァングが・・・膝を落とした。
効いてる。
効いている。

「いける・・・いけるわよロッキー君!」
「みたいだね」

ロッキーはマリナから離れ、
前に歩む。

「・・・・ギャハハ!俺様を崩した野郎は今日二人目だぜ」

・・・・・効いている。
明らかにダメージはある。
それがギルヴァングのどれほどかは分からない。

だが最初はツバメ。
二度目はシャーク。
二人が与えたダメージは確実に蓄積していた。

その上にマリナと・・・・
そしてロッキーの新たなる力が重ねられた。

絶騎将軍(ジャガーノート)
ギルヴァング=ギャラクティカには、
明らかにダメージを与えられている。

「だが俺様は・・・・死ぬまで立つぜ?」

ギルヴァングが立ち上がる。
その様子を見れば、
それでもまだ万全に戦えるだろう事は見て取れる。

「やらなきゃ」

ロッキーは一度、
首に巻いた三騎士のマフラーを握り、
そして駆け出した。

「"参る"!」

そう叫んで。

「・・・・・ギャハハ。いいぜお前。いい漢だ。お前・・・・・漢だったぜ!!」

「あぁぼくは男の子だ!カプリコ砦の『ロコ・スタンプ』だ!」

ロッキーはカプリコハンマーを振り上げる。
ギルヴァングも呼応するように拳を振り上げる。

「とんじゃえ」

「ぶっ飛べゴルァァ!!」

そして、
槌(ハンマー)と拳(ハンマー)はぶつかった。

「負けないよ・・・おじさん」

爆発が起こる。
ハンマーからバーストウェーブ。
炸裂。

「力とはパワーだ!俺様が負けるかよっ!!! 漢ならぁぁああああああ!!」

「うっ・・・」

パワー。
純粋なる力。
何一つ混じりッ気の無い強さ。
その土台に置いて、

「破壊っ!粉砕っ!爆裂っ!ド根性っ!!!!!」

ギルヴァングに勝る者はこの世界に存在しない。

「うぁ!」

ハンマーが弾かれる。
ハンマーごと、
ロッキーの体が後方へ飛ばされる。

「負けないっ!」

ロッキーは空中で体勢を整える。
ハンマーをグルンと回し、
無理矢理体勢を・・・・

「すぅ・・・・・」

ギルヴァングが・・・息を吸い込んでいるのが目に映った。
胸が大きく膨らむ。
疑いようが無い。

声砲(バードノイズ)

「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

見えない衝撃が、ロッキーを包み込んだ。
風圧。
暴風。
切り裂き。
カマイタチ。
振動。
暴力。
威力。

それがロッキーを突き抜ける。

「うっ・・・・・」

口から、
鼻から、
目から耳から。

鮮血が噴出した。

そして、
ロッキーは大地に転がった。

「ぜぇ・・・ギャハハハ!!!」

肩で息していることも、
身なりのボロボロさからも、
ギルヴァングを追い詰めた事は確実だ。
だが、
彼は悠々と立っていて、
勝者として活き活きと立っている。

そして、
拳を突き出す。

「あんたぁ・・・・・漢だったぜ」






































「30秒だと」

嬉しそうに答えるメッツ。
ドジャーの宣言。
メッツを倒すなど30秒。

「いい口がほざくじゃねぇかドジャー」

「毒舌はアレックスに譲っても、饒舌はまだ俺の得意分野でな。
 カッ・・・・なんならもうちょっと増やしてやってもいいぜ?
 俺に頼んでみろよメッツ。カップ麺作りたかったら土下座しな」

「ガハハ」

メッツは笑い返す。
両腕からチェーンで繋がれた両手斧。
握る。

「好きに来いよドジャー。俺はお前を殺すんだ。
 だからお前も殺す気で来てくれりゃぁ、俺には他に望みはねぇ」

「お前の事はなんでも分かってるって言ったろ?メッツ。強がりめ」

「ほぉ。じゃぁ本当俺の望みを言ってみろや」

「カッ。決まってんだろ」

ドジャーは一度ダガーを放り投げ、
キャッチする。

「メッツ如きが俺にケンカ売ってるんだ。死にてぇんだろ?」

「正解だ」

嬉しそうに、
メッツはさらに腕に力を込める。
両手斧を持つ手がさらに。
血管が浮き出るほどに。
ブラッドアンガー。

「44部隊に入り、俺は強さを知った。闘技場でもお前とヤったけどよぉ。
 あれを全開と思うなよ。戦い方を知ったケンカ屋に在庫はねぇぜ」

「ありたけ無くなるならしょうがねぇ。御馳走を奢ってやるよ」

「あぁ、喰ってやる。墓場で会おうぜ」

「独りで逝け。線香の代わりに煙草を供えてやる」

小時間だけ、
二人は睨み合った。
見方を変えれば見詰め合った。

「・・・・・」
「・・・・・」

意味の無い対峙が数秒続いた。

そしてその後、

「ショータイムだ」

「俺のな!ドジャー!」

先に動いたのはドジャー。
否、
それは二人の間では決まりきった事。

戦闘タイプ的にメッツがドジャーに攻め入る必要は無い。
ドジャーが"その気"なら、
メッツが動いたところで捉える事など出来ないからだ。

場がどう動いたところで最初に動くのはドジャー。
二人はそれを古くから承知している。

「真っ直ぐ来るか。ドジャー」

メッツは嬉しそうに笑った。
接近戦において、
それはメッツに圧倒的に有利だ。
逆に遠距離になればドジャーの独壇場。

但し、
火力に乏しいドジャーは、
手の内を知り尽くされたメッツ相手には、
どこかで決めに来る必要がある。

「30秒。マジなようだな」

舐められたという感覚より、
嬉しさがメッツの心で勝った。

ドジャーが、
本気で自分を殺しに来てくれている。

「カッ、望みなんだろ?」

ドジャーにとっても、
メッツの考えている事はよく分かっているから。

「ガハハ!だが変化球しか投げれねぇお前がストレートなんてこたぁねぇよな!
 どう来るドジャー!カーブか?スライダーか?フォークか?」

インビジ。
ジョーカーポーク。
ラウンドバック。
はたまたバックステップからダガーを投げてくるか。

小細工の盗賊の手段にストレートは無い。

「裏の裏をついてくるつもりだろ。そん時は分断してやるぜコラァ!」

両手を広げたまま、
ただガッシリと斧を握り締めて待ち受けるメッツ。

「ただのチェンジアップだ」

メッツの射程に入るや否や、
ドジャーは速度を落とす。

「知るかっ!」

メッツが右腕を横薙ぎ。
重量級の両手斧がブゥンと空気を削る。

「見えるぜ」

ドジャーはそれを、
上半身を後ろに倒して避ける。

「オラァ!!」

「それも知ってる」

続けざまにメッツが左手の斧を切り上げて来る。
首だけでそれを避ける。

「ぶっ潰れろドジャァァァアア!!!」

最後に両手を振り上げて、
二つの斧を一気に振り落とす。

「全部判ってる」

バク宙。
空中を回転しながら後ろに飛び、
地面を砕く二つの斧を避ける。

「戦い方を知っただ?それでもお前はメッツだ。変わっちゃいねぇよ」

着地の体勢のまま、
ドジャーは右手の中でダガーをくるくると遊び、
ニヤりと笑う。

「今も昔も、お前はただのメッツだ」

「あぁ!そうだなっ!!死んでも・・・・だっ!!」

メッツは、
斧を投げた。
そこまで遠い距離でもないが、
届かぬ距離ならばと投げつける。

斧が着弾する。
地面が割れる。

当然そこに・・・・ドジャーはいない。

「俺だってお前の事は知り尽くしてるんだぜドジャァァァ!!!」

斧を引っ張る。
腕と鎖で繋がれた斧は、
メッツの腕の動きに合わせて引き抜かれ、
返って来る。

そして知り尽くしている。
ドジャーが次に居る場所。
一つしかない。

「チェックメイトだ」

「う・・・・ぐ」

ただ、
メッツの反応より先に、
ドジャーのダガーがメッツの首に絡みついた。

後ろ。
背後。

メッツとドジャーは背中合わせ。
ただドジャーの腕とそのダガーは、
メッツの首に添えられている。

「・・・・・速くなってやがんな。ドジャー」

「速さは関係ねぇよ。いずれこうなってた」

ダガーは、
メッツの首から離れない。
ドレッドヘアーがダガーにも当たる。

「結論なんて決まりきってんだよ。お互い知り尽くしてんだ。
 ただメッツ。お前は頭が悪い上に馬鹿なのがたまに傷だ。
 俺とお前の勝負なんてよぉ・・・・カッ、最終的には俺が勝つに決まってる」

決まりきっている。
知り尽くしている。
メッツにとっての最大の天敵はドジャーで、
何よりも大切で、
だからこそ・・・・。

「なんで殺さない。殺す気でやろうぜって約束したと」

首に添えられているだけで、
動かないダガー。

「質問を質問で返すぜメッツ。負けると分かっていてなんで挑んできた」

「・・・・ガハハ」

「・・・・カッ」

「無駄な質問の交換だな」

「お互いがお互いの答えなんて分かってるんだからな」

ドジャーは、
ダガーを離した。

離しても、メッツが襲ってくるような事は無かった。

「・・・・・負けか。30秒もかからなかったな」

「延長金払うよりマシだろ」

メッツは笑ったが、
背を向けたままだった。
ドジャーはメッツの方を見ていた。

「シンプルに行こうぜメッツ。回りくどいのは嫌いだ。結果だけでいい。
 メッツ。お前は殺し合いに来たんじゃねぇ。・・・・・ただ、死にに来たんだろ?」

メッツはやはり、
その大きな背中を見せたままだった。
ドレッドヘアーは哀しく揺れていた。

ただ、
話し始めた。

「・・・・・ロウマに惚れたのは本当だ。強さを求めたのも本当だ。
 44部隊の居心地が良かったのも本当で、《MD》と揺れたのも本当だ」

ドジャーも聞いた。
メッツの事は分かっている。
話せば少しだけ楽になるだろうという事も分かっている。
メッツが・・・・
見た目と裏腹にデリケートな事も知っている。

「ただ・・・・時間だけが無かったんだ」

メッツは背中を向けたまま。

「もう、長くないんだってよ」

小さく、
自分自身を笑っていた。
メッツは背中を向けたまま、
タバコを咥えた。
火を付けた。

「近いうちにカレンダーに明記されるだろう俺の命日。刻まれる死因はコレだってよ」

それでも気持ち良さそうに、
メッツは煙を吐き出した。

「正しくは快楽。快楽ジャンキー。タバコの吸いすぎ。そしてレイジのやり過ぎ。
 体の内側からもうガタガタらしい。まだ歯も生え揃ってるのに笑っちまうぜ。
 神様は蝋燭に火を点けさすのに、葉っぱと怒りには火を灯すな・・・ってさ」

ヘヘッ・・・と笑うメッツは、
自笑気味だった。

「知ってたさ」

ドジャーは答えた。
動きが止まった事こそ、メッツの反応だった。

「・・・・・いつから」

「レイズが死んだ時だ。遺言のように言ってたぜ。頭ん中に入ってきて・・・な」

「・・・・迷惑な悪魔だあの野郎」

メッツは口にタバコを移動する。

「光を帯びてきたのは最近だが、俺も前々からレイズには言われていた。
 ・・・・理解できるか?医者のあいつが言うんだぜ?死にたいなら勝手に死ね・・てな。
 ただあしらっても毎度嫌味のように言ってきてくれたのがあいつらしかった」

「あいつなりに心残りだったんだろうよ。最後に言ってきたのがソレだったからな」

「ガハハ、悪魔に気を使わせちゃぁ悪かったな」

煙を吐き出した。
一呼吸置いた。
戦争で五月蝿かったが、
静かなものだった。

「ただもう間に合わないとこまで来ちまってたらしい。
 俺には時間が無かった。気付けば、どう死ぬかだけを考えてた」

どう倒すかでもなく、
どう生きるかでもなく、
どう死ぬか。

「強さにも未練があった。このままお前の横にも居づらかった。
 だから俺が選んだ道は、最強のメッツになって、全てをお前にぶつける事だった」

それがこれだ。
消化不良だぜ。
メッツは自笑した。

「ただ・・・もうやりきった・・・あとはお前が俺を完膚無きまで敗北させてくれれば・・・
 未練は無かった。俺は・・・・弱さが怖かった・・・負けが怖かった・・・死ぬのが怖かった・・・・・
 でもそれを全て否定出来る相手はお前だけだった」

ただ、
最高のコンディションで、
最高の死に方をしたかった。

時間は限られていた。
44部隊に入った。
強さに魅入った。

迷いもあった。

ただやはり、
自分も全力で、
そしてドジャーに全力で殺してもらう。
それだけが目的だった。

「殺してくれドジャー」

メッツは背中を向けたまま、
タバコを吸い続けたまま。

「俺の事を思ってくれるなら・・・頼む。今以外に俺は死にたくない」

どうせ死んでしまうなら。
どう抗っても死んでしまうなら。
今、
ここで、
死にたい。

「残念。計算違いだメッツ。お前は死なない」

「あ?」

メッツは振り向く。
ドジャーは、
皮肉混じりのイケ好かない顔で笑っていた。

「なぜなら俺が殺さないからだ」

「・・・・ッ・・・ドジャー。そういう事じゃねぇ。分かるだろ?お前なら・・・」

「葉っぱ?暴走?お前がよぉ、んな事でくたばるタマか?」

「・・・・根性論とかじゃねぇんだよ。ハッピーエンド(奇跡)なんてねぇ。
 俺の場合、悲劇じゃない。ただの自業自得なんだからよぉ」

「知るか」

ドジャーは拳を、
コンッ・・・とメッツの額にぶつけた。

「てめぇは今生きてる。息を吸ってる。ヤニを吸ってる。1秒たった。まだ生きてる。
 死んでんのは目だけだ。でも生きてる。オーライ。万事視界良好。ありがとうお天等様」

「だから・・・・そう・・・・」

「テメェが死んだら俺が心臓ひっぱってでも起こしてやる」

ドジャーの口は笑っていたけど、
目は真剣で。

「肉食え肉。お前のデタラメな体なんてそれで治っちまうよ。
 大体よぉ、お前甘えてんじゃねぇよ。何が死に様だ」

「・・・・・・」

「ゴミ箱に生まれてゴミ箱に育った俺達が何を望んでんだ。
 俺らなんてクソダサく犬死が関の山だっての。それでもいい方だ。
 贅沢する身分じゃねぇぜ?カビパンでも食えれば明日が来る」

そんなもんだ。
俺達なんて。

ドジャーはメッツから手を下ろす。

「お前の名前はなんだ?メッツ(mets)だ。重なる出会いだ。
 俺達は一生ムカツく顔を合わせ続ける腐れ縁なんだよ」

ドジャーは、
それでもうメッツから顔もあわせず、
明後日の方向へ歩き出した。

「そしてお前が死ぬ時は一緒に死んでやる・・・・・・・とは口が裂けても言ってやらねぇよ。
 お前が死にそうな時は文句言ったついでに死ぬ気で生かしてやる」

心配すんな。

「お前の面倒なんて慣れっこだ。重荷でもねぇよ。背負ってやる」

そしてドジャーは、
メッツを置いて、
そのまま歩んだ。

「・・・・・・カッ、・・・・・・ったく・・・本当に不器用な奴だ」

ポリポリと頭を掻く。

ゴールは"こう"決まっていたというのに、
どれだけ回り道しているんだ。

「メッツのクセに。カッコつけやがってメンドくせぇ。
 俺だって這ってでも情けなく生き延びるのがやっとだっての」

メッツの命が長くは無い。
それは本当だろう。
だからといって、ドジャーに何か手立てがあるわけじゃない。
だがそれこそだからといって・・・

命を諦める理由になんてならない。

ガキの頃はナイフ一つ。
晩御飯のためにスラム街を血だらけで歩いた。
半日後の命さえ知らなかった。
それに比べればなんてことはない。

「さてと・・・・最近は説教をアレックスに任せっきりだったからな。
 久しぶりにギルマスの仕事して肩凝ったぜ。慣れない事はするもんじゃねぇな」

ただ、
子守よりも次は大変そうだった。

ドジャーの歩む先。
いや、
歩みを止めた目線の先には・・・・

ギルヴァング=ギャラクティカの姿がった。

「・・・・ギャハハ!そっちの用は終わったのか?まさかヤサ男の方が勝つとはな」

少し遠めのギルヴァングも
ドジャーの姿を視認する。

「・・・・なんだあいつ。結構ダメージ食らってる風だな。マリナがあそこまでやったのか?
 ・・・・・カッ、まさかな。エドガイ辺りでも戻ってきたか」

予想は難しかったが、
少々黒すすんだ姿は、何か展開が進んだろう事は分かる。

「・・・・はぁ・・・・・・気が重いが・・・来いよ」

ドジャーはギルヴァングを挑発する。

「ほぉ・・・いい漢気だ」

ギャハハハハと五月蝿いほどに声をあげた後、

「今の俺様は機嫌がいいぜ!一撃で葬ってやらぁ!!!」

ギルヴァングが突っ込んできた。
勢いを見るだけで、
ちょっち無理かなという気がまた起こる。
事実無理なわけだが。

「ま、ある種の賭けだ」

賭け。

・・・・。
ドジャーは動かなかった。

「お前の事はよく知ってる。メソメソしてねぇで、助けに来いよ」

信じる。
いや、
確信していた。

誰よりも知っているから。
誰よりも知り尽くしているから。

今、
ここで、

メッツが助けに来ると。

「じゃねぇと弱っちい俺なんて一捻りにさせるぜ?」

ドジャーの笑みには余裕があった。
信頼。
そして確信があったからだ。

「世話かけさせたんだ。少し働けよ」

ドジャーは動かない。
腕を組んで、
余裕の笑み。

一方、
ギルヴァングは勢い良く突っ込んでくる。

「一捻りしにしてやらぁぁああ!ゴルァァアアアア!!!」

「・・・・・・・」

少し肩がビクりと動いた。
でも信頼している。
確信がある。

メッツが止めに入るという。

「死ねゴルァアアアアアア!!」

その確信が。

「ダァラァアアア!」

確・・・。

「ドォウルァァァア!!」

「え・・・ちょ・・・・」

ギルヴァングは猛獣が如く。
野獣が如く。
ドジャーを食い殺さんと向かってくる。

さすがのドジャーも焦りが見えた。

「これ、大丈夫だよな?な?助けに来る展開だよな?そーゆー流れだよな?俺合ってるよな?」

ただ音沙汰はない。
ギルヴァングが猛烈な勢いで突っ込んでくる。
それ以外に展開の進展は無い。

・・・・信頼は少し心配に変わった。

「お、おい!メッツ!メッツく〜ん!?出番です!出番ですよ!?」

先ほどまで全力でカッコ付けたのを台無しにするほど、
ドジャーは取り乱してきていた。

構わず突っ込んでくるギルヴァング。

「さ、さっさと開き直れよあの馬鹿っ!!」

ドジャーはダガーを抜いた。
メッツが考えを改め、
こちら側に戻ってきてくれるだろう確信はあった。
あったが、
予定と予想は少しドジャーの斜め下に遅れているようだ。

「カッ・・・・少し俺で相手するしかねぇか」

ダガーを抜く。
抜いたが・・・

「ドッゴラァァアアアアアア!!!」

「・・・・ってちょ!」

なんだあの身体能力。
加速力が尋常じゃない。
世界最強の身体能力。
野生の奇跡。
本能の暴力。

不意に反応するには、
それはすでに遅すぎた。

「ざけっ・・・・」

そして
跳ね飛ばされた。

褐色の筋肉に。
見慣れた・・・ドレッドヘアーに。

「ゴォオルァアアアアア!!!」

「ぁあああああらぁあああ!!!」

お互いの両腕がぶつかり、
絡み、
押し合っている。
ギチギチと、筋肉の悲鳴が聞こえる。

「んだゴルァ!?」

「・・・・・遅かったじゃねぇか。死ぬとこだったぜ」

「ガハハ・・・お前は死なねぇよ・・・・・俺が居るからな・・・・・・・」

メッツとギルヴァングは、
お互い、
パワーとパワー。
両腕で押し合う。

いや、
当然押されるのはメッツ。

メッツは180後半のタッパがあるが、
ギルヴァングはそれより少しだけ一回りデカい。
押しつぶすように力で捻じ伏せてくる。

「・・・・・・・ほぉ。いいパワーだ!いい漢だなテメェ!!」

「・・・・・ぐ・・・・う・・・・・」

メッツは全身の筋力を余す事なく使い切り、
ギルヴァングに押し向かう。

「・・ド・・・ジャ・・・・そうだったな・・・・・」

歯を食いしばり、
力を搾り出しながら、
メッツは言う。

「俺なんてのが・・・・テメェの命の心配するなんて・・・・笑い沙汰だ・・・・・」

「・・・・カカッ、やっと身分に気付いたか馬鹿」

「・・・・あぁ・・・・後・・・ぐっ・・・・最初から言ってたよな俺は・・・・・」

地面がえぐれる。
えぐれながら、
メッツが一歩分後ろに押される。

「・・・・俺・・・は・・・・44部隊であり・・・《MD》・・・だとよ・・・・・。
 お前と戦れたなら・・・・・今の状況・・・・・どこを味方するかなんて・・・・」

決まっている。
味方は44部隊と《MD》だけだ。
それ以外なんてどうでもいい。

「・・・・カッ、44の方にはまだ未練あんのかよ」

「・・・・・悪ぃな・・・あそこに惚れたのは事実だっつったろ・・・・」

だが、
確かにあの者達の強さへの欲求は尊敬に値するが、
あくまで大元はロウマへの憧れ。
それだけだ。

まぁメッツのことだ。
ドジャーと戦いたかったように・・・・
44部隊やロウマとも戦いたい。
それも本音だろう。

つまり、行動概念は一つ。

「・・・・ちょっくら・・・・・《MD》の活動に戻ろうかねぇ・・・・コラァ!!!」

「うぉ!?」

押し返した・・・・まではいかないが、
その力にギルヴァングが眉を動かしたのは事実だった。

「ギャハハハハ!すげぇ!メチャすげぇぜお前!パワーで俺様とタイマン出来る奴なんてよぉ!
 ロウマぐらいかと思ってたが・・・・こいつぁメチャ熱いバトルが出来そうだ!滾るぜっ!!」

パワーとパワー。
純粋な力の押し合い。

「・・・・ぐ・・・ぉお・・・・・調子こいてんじゃ・・・・ねぇぞコラァァ!!」

「・・・ダァルァ!!・・・・ギャハハハハ!!いい!もっと俺様にパワーをぶつけて来い!!」

メッツは凄い。
ギルヴァング相手にパワーで遅れを取っていない。
ただ、
傍目に見れば、
それでも劣っているのは間違いなかった。

このまま続けばメッツが潰れる。

「カッ、しゃぁねぇ」

ドジャーがダガーを握り、
ギルヴァングへと飛び掛った。

「ゴルアァァ!!邪魔すん・・・・ぐぉ!?」

ドジャーが飛び掛るより先、
ギルヴァングの背中に無数の着弾。

「なんかいい方に展開が回ってるみたいねっ!」

マリナがマシンガンでギルヴァングの背中を銃撃した。

「まぁな!!」

間髪いれずにドジャーがダガーを振り切る。
折れる・・・かと思ったが、
マリナのマシンガンで一瞬怯んだか、
ギルヴァングの肩に一線を引いた。

「しゃぁ!ふっ飛べコラァァ!!!」

そしてそこにメッツが振り絞った。
ギルヴァングを力・・・パワーだけで、吹っ飛ばした。

「ダァラ!!チクショウ!タイマンもロクにできねぇのかテメェラ!!楽しい時だったのによぉ!」

そう文句を言いながらも、
地面を滑るギルヴァングはこの逆境を楽しんでいた。

「・・・・・ったぁ・・・ダリィ!ロウマ級ってのはマジだな」

メッツはゼェゼェと肩で息をする。

「あんたもゴリラ並ってのは変わってないわね」

マリナがドジャーとメッツの傍に駆け寄る。

「・・・・ガハハ・・・今の俺・・・カッコ良かったろマリナ・・・・」
「どうだか。ゴリラに好意を抱くマリナさんじゃないからね」
「ぐっ・・・・」

メッツは顔をしかめた。
息はまだ整わない。
本当に全力だったのだろう。

「でもこのメンツならイケる・・・かもしれないわね。もうすぐロッキー君も復帰するわ」
「ロッキー?」
「カッ、あのチビやられたのか」
「えぇ。だけどセルフヒールの範囲内だったわ。戦えるわ。
 フフッ・・・・・でもドジャー。チビとか言ってると後で恥かくかもよ?」
「あん?」
「多分あんたより・・・・まいっか」
「・・・・?」

ドジャーにはマリナが何を言いたいか分からなかったが、
まぁ気にしない事にした。

「でもま、さぁて・・・ってとこか。なぁメッツ」
「あぁ」

今戦線に立ったメッツはともかく、
ドジャーがまた、
意気揚々としていた。
戦う気マンマンだ。

「あら、どうしちゃったのよドジャー。いつになくやる気あるじゃない。
 弱っちいクセに。メッツが戻ってご機嫌な感じなのかしら?」
「ま、それは半分ってとこか」
「ガハハ。ドジャーにしては正直になったもんだ。照れるぜ」
「照れんなよキメぇ」
「うっせ!頭カチ割るぞコラッ!」
「カッ、でもって・・・・・なぁメッツ」
「おうよ」

メッツが腕を鳴らす。

「恐らくデータは一切ねぇだろうよ」
「ガハハ!なんだかんだで数年ぶりか。ありそうで無かったからな」
「テメェのせいだメッツ。離脱が多いからよぉ」
「ガハハ!悪ぃ悪ぃ相棒」

ドジャーもダガーを手元で回す。

「さぁてメッツ&ドジャー」
「初お披露目といこうかっ!」

MとDが同時に動き出した。







































「やれるもんならやってみな!」
「クキョキョキョ」

キャラメル=クロス。
フラン=サークル。
地下の一室。
私刑拷問室・・・・とでも言うべきか。
Xと○のクソ野郎の部屋。
そこに半分と半分。
X(クロス)と○(サークル)

「・・・・・・・」

エクスポの目は据わっていた。
忌むべき者でも見るように。
いや、
仇よりも憎い者を見ている。

「君達は・・・・・ボクの美学に反するんだよっ!!」

片手の爆弾(ボム)を投げつけ、
同時に突っ込むエクスポ。

「正義が」
「勝つとは限らないんだよね♪」

キャメル船長の格好をしたトカゲ男。
キャラメルは、
地下水道でしたように、壁に貼り付き、
高速で移動し始めた。

「そして悪ほど」
「自由に生きている存在はない」

もう一人のフランゲンリオンの格好をした男。
フランは、
ムチを伸ばし、天井に引っ掛けて体を引っ張り上げた。

爆発は無情に終える。

「開き直るというのは一つの極限なんだよ。芸術家」

フランは天井に吊るしたムチで、
そのまま振り子の反動。
似合わぬ言い方をすればターザンのように反動で突っ込んできた。

「自らの悪意に迷いが無く、限りなく自分自身を生きているんだから。
 いい気分だよ?それはもう最高に肯定できる悟りの極地だ。
 ドブネズミのように美しくなろうじゃないか。美学の芸術家」

「誰が・・・・」

エクスポはそれを避けるが、

「クキョキョキョキョ」

天井にまで這って移動していたキャラメルは、
そこかキャメル船長のサーベルを突き出してきた。

「アイスサーベル」

アイスアロー。
サーベルから氷のツララが飛んでくる。

「気持ち悪っ!あぁ気持ち悪っ!」

「そんなもの・・・・・」

エクスポが避けると同時に、
逆方向から、
躊躇なくムチが飛ぶ。

「こんなものっ!」

それでも避け切れる自信はあった。
ただ気付いたのは、
このXと○の二人は・・・・

避け切れるレベルで攻撃してきていた事。

少し遅くに気付いたのは、
そのムチの標的がエクスポでなく・・・・スウィートボックスだった事。

手遅れだったのは、
エクスポに今更行動を修正する技量が足らなかった事。

「あ・・・・・」

スウィートボックスはムチに絡めとられ、
そのまま引っ張られる。

外道のフランゲリオンの手元へ、
彼女は引き寄せられる。

「俺達は目的のために手段は選ばないし、手段のためならば目的は選ばない」
「好きこそものの上手になれ」
「ヤりたい事だけやってればそれが最強だ」

「エクスポ・・・・・」

スウィートボックスが手を伸ばした。
伸ばしたが届くわけもなく、
声・・・・口もフランの手で抑えられた。

「呼ぶなら俺の名を呼んで足掻けよ奴隷が」

クソのような笑顔を浮かべる、
○のフラン。

「お前・・・・その薄汚い手を離・・・・」

エクスポが爆弾を手に取った瞬時、
それは手から消えていた。

「!?」

ムチが弾いたのだ。
あの僅かな間に?
スウィートボックスを捉えたまま、
エクスポの目に入ったまま?

「騒ぐな芸術家。絵に失敗はねぇ。汚れにも芸術はある。だろ?
 それに俺らは好きな芸術を手に入れるだけだ。どんな手を使ってでもな。
 破るも捨てるも汚すも俺達の勝手だ。"完成の後に芸術家の領分はねぇ"」
「クキョキョキョ!料理人によぉ!"こうやって"食べろとかいう奴いるよな?
 ミュージシャンにしろ、こうこうこういう奴はこうして聴いてくださいとかよぉ」

天井で、
トカゲ男キャラメルは長い舌を下に垂らす。

「ユーザーに楽しみ方を求めてるうちは芸術家とは言えねぇよな!
 俺はコンニャクを食うために買った事は一度もないぜ!」

アイスサーベル。
アイスアロー。
サーベルの先からまた氷のツララが降ってくる。
天井から。

「ほれ、ほれ」

「チッ・・・・」

連射。
エクスポはそれを避けていくが、
どちらかといえば避けられる範囲で攻撃してきている。
遊ばれている。

「たっ・・・・」

それでも避けに徹していると、
エクスポは何かに蹴つまづいた。

「なん・・・・・」

なんだと思うと、
そのエクスポへ・・・・
裸の男と女達が手を伸ばしてくる。

「兄ちゃん・・」
「助け・・・」
「愛し合おうよ・・・・」

「なっ!クソッ!」

それらを振り解いてエクスポは逃げ出す。

「アハハハハハッ!」
「クキョクキョキョ!」

フランとキャラメル。
あの男達は楽しそうに笑っていた。

「美しくないっ・・・・美しくなさすぎるっ・・・・」

それはもう、エクスポの感性の真逆。
鳥肌が絶つほどな不快。
嫌悪の限りを尽くすほどに・・・・最悪な奴ら。
Xと○。
クソ野郎の半分が二人。

「お前ら・・・・絶対にっ・・・・・」

まずは人質に取られたスウィートボックスをどうするか。
それを考えていると・・・・

ゴトンッ・・・

エクスポの目の前に、
天井から氷の何かが落ちてきた。

「なんだっ・・・・」

キャラメル=クロスが造り出した・・・氷の彫像だった。
どれだけ不快にさせるつもりだ。
それは・・・・スウィートボックスの形をしていた。

「たっけてー。芸術家ー」

似てもいない真似をキャラメルはする。
それに呼応するように、
スウィートボックスの氷の彫像がカタカタと両手を開き出した。

「たまには私が突いてあげる♪クキョキョキョキョ!!」

「!?」

彼女の氷の彫像は、
突然全身から氷のトゲを突き出した。

「ぐっ・・・・」

2・3本がエクスポの体をわずかに貫く。

「悪趣味な・・・・クソ野郎共め・・・・・」

だがそこまでの過程で・・・
エクスポは確信した。

この二人の男は・・・・・・それぞれが自分より数段上だ。

「・・・・・ボクは・・絶対に・・・・許さないぞ貴様ら・・・・・」

鬼畜なクソ野郎であっても、
彼らはそれぞれが部隊長だ。
地上に置いても、部隊長クラスを単体で倒せるのは、

ツヴァイ。
エドガイ。
デムピアス。

そんな程度だ。
他のメンバーは団体戦に持ち込んで対等になれるかどうか。
その程度。

部隊長クラスとは、未だ超えられない実力の差がある。

それぞれが44部隊よりも上の実力を持っていると言っても、
過言ではないのだから。

「スウィートボックスを離せ・・・」

それでも、
エクスポにとって美学に大きく反するこの男達は、
許す事の出来ない存在に違いは無かった。

「離せ?いい気分だなおい。離せと言われて離す馬鹿がどこに居る。
 離して何を得するんだ。離さなければどう転ぶかが楽しめるだろ?」
「だ・な♪今俺達は迷っている。奴隷が先に死ぬか芸術家が先に死ぬかだ」

スウィートボックスか、
エクスポか。
どちらを先に殺すか。
言い換えれば、
どちらの絶望を感じるかを楽しみたい。

「大丈夫。希望は一つ残そうじゃないか。片方は死なないかもしれない」
「残った方は、ここでペットとして暮らせるかもな!」

それは、
死なないだけで、
生きてなんていない。
死んだほうがマシだろう。

「それに時間はまだあるさ。今更上に合流するのは無理だしな」
「俺達はココで楽しむ。"お楽しみセット"はまだ残ってるんだぜ?」

彼らの言うお楽しみ。
それは・・・・・
最初に言っていた地下の秘密・・・・というものか。

「まさか今まで披露したので全部とは思ってないだろ?気持ち悪い」

「・・・・・知りたくもないね」

「だからこそだ」

赤ん坊に、「お前死ぬんだぜ」と教えるように。
子供に、「お前がどういう過程で生まれたきたか」を教えるように。
だからこその楽しみ。

「ここに秘密があるというなら、ボクはお前らを倒して手に入れるだけだ」

「うるせ。キャラメル。アレを披露しようぜ」
「おっけ♪」

選択権は自分達にある。
そう云わんばかりだった。
実力も状況もクソ野郎達が上で、
事実エクスポに何か出来る力など・・・無かった。

「いいっ気分ったら気持ち悪っ♪」

天井から壁を渡り、
トカゲ男は何かの方向へ向かう。

「待てっ!」

エクスポが動こうとしたのと同時。
それこそ見切り過ぎるほどの反応で・・・ムチが飛んできた。

「ぐっ・・・」

フランのムチはエクスポの首を跳ね上げる。

「あんたは鎖に繋がれてるんだよ。どうしようもないんだ。大人しくしていな」

もし、
スウィートボックスが人質にとられていなかったら。
それでも彼に勝てただろうか。
実力の差は歴然だった。

「これとこれだな。クキョキョキョ」

キャラメルが何やら・・・
無造作に置かれた棺桶のようなロッカー二つの前に立った。

「お前らに勝利の可能性がまた一つ消える絶望をあげよう」
「あぁ気持ち悪っ♪」
「いい気分だ」

ガタッとトカゲ男は、
その二つのロッカーの上に乗り、
ガタガタの扉に両手をかけた。

「さぁ・・・・ご開帳♪」

キィ・・・・とその二つの扉は開かれた。

「・・・・・・」

エクスポは、
それを見てもさして何も思わなかった。
それは、
目の前の二人のクソ野郎を見ているせいか。
辺りに居る哀れも無い奴隷達に囲まれているせいか。
そういう意味で麻痺している・・・・という意味でもなく。

それがなんなのか分からなかった。

「その反応では気分がよくないな」
「ま、"こいつら"が何か分からないとね」

キャラメルの表現で、

「こいつら?」

それが初めて人間だと分かった。
正しく言うならば人間だったと言うべきか。

何故かと言えば、
四肢など判別が付かない、ただの瓦礫の骨。
ロッカーの中で鎖にまみれ、
言われてもそれが元々どういう形状だったか想像できない。

破れ果てた衣類が怖々しくぶら下っている事だけが、
なんとか人間の成れの果てだという主張だった。

その二つのボロ雑巾は、エクスポの前に広がったところで・・・・

「アクセル=オーランドと」
「エーレン=オーランドだ」

そこでエクスポの思考は一時停止した。

「・・・・・何?」

その反応でやっと、
フランとキャラメルは楽しそうに、
腐った笑いを奏でた。

「クキョキョキョ!聞こえなかったか?」
「第8番。治安維持部隊"元"部隊長。アクセル=オーランドと」
「第16番。医療部隊"元"部隊長。エーレン=オーランドだ」

オーランド。
その名が地下に反響した。

「・・・・アレックス君・・・・の?」

「そう!そのアレックス部隊長の!」
「オカンとオヤジだよっ!」

腐った笑いがまた再開される。

「アッハハハハ!いいねぇいい気分だ!これはやっぱりアレックス部隊長本人に見せたかった!」
「だからそこの奴隷にも、元々はアレックス部隊長を呼んで来いと命令したのによぉ」

それは確かに先ほど言っていた。
だが・・・
だが!
こんな事・・・
こんなモノを見せるためだけに・・・・

「心の隅であいつはきっと期待してたと思うんだな」
「実の父と母が、騎士団長の遊びか何かでも・・・・死骸騎士として復活するんじゃないか・・・ってな」
「その希望を絶望に変える遊びだったのによ!」

そんな・・・
そんなためだけに・・・
このクズ共は・・・・。

「・・・・・証拠がない」

エクスポは何とか切り替えした。

「・・・・そんな成れの果てじゃ・・・本人達だと確定出来ない」

「あん?そりゃこいつらが死んだの何年前だと思ってんだよ」
「ったく・・・だから本人が良かったんだ。本人なら"こんなでも"分かっただろうからな」

ウソを付く必要はない。
だが、
必要が無くともウソを付く腐ったクソ達だ。
だけども・・・・
これが燻(XO)という男の仕業ならば。

勘のいいアレックス=オーランドをも絶望に陥れようという、
正真正銘の悪意の所業というならば・・・・。

「あーあ。もうちょっといい反応が見たかったぜ」

トカゲ男は、
ロッカーの上からジャンプし、
そして着地した。

鎖に繋がれた、奴隷の一人・・・一匹の上に。
馬乗りに。

その女性は豚のように這いながら、
キャラメルを背に乗せたまま、鼻息を荒くしていた。

「クソっちならもっとうまくやってたろうな。な?フラン」
「まぁな。俺達のような半人前じゃない。根っこからの腐った鬼畜だからなあの人は」
「いいよな。鬼畜生。最高の生き方だ」
「まぁキャラメル。俺達も割とイイ線いってるぜ?」
「かもな」

キャラメルという男は、
豚家畜の尻を叩きながら笑った。

「クキョキョ。なぁ芸術家。俺の外見を芸術と呼べるかい?」

「・・・・・いいや。裏側まで最低の失敗作だな」

「そうだろ?」

卑下されたのにキャラメルは嬉しそうに笑う。

「なのに。なのにだ。この生き方を選んでからは、こんな美人の全ての穴さえ思うが侭だ」

キャラメルは女の背から降り、
蹴飛ばした。

「面白いもんだぜ。人間ってのは醜い嫌悪する者に乱暴されるのさえ・・・・快楽になりえるんだぜ」
「はん。同士とはいえ、キャラメル。お前のその歪んだ性癖は無様だな」
「おーおー。フラン。お前が言うか?お前の性癖だって当分だろ」
「あぁ?」
「ウロフィリアは俺も分かる。オシッコ最高だよな。クリスマフィリア(浣腸)も悪くない。
 メノフィリア(生理血嗜好) もまぁ一般的だし、エメトフィリア(ゲロ好き)も容認しよう」
「そんだけ分かれば十分だろ。腐ってるっての」
「クキョキョ!だからってオートネピフィリア(幼児退行)はねぇだろ!」
「いーじゃねぇか。俺はここから生まれてきたのか。ママーってな」

腐っている。
こいつらは・・・・世界の底辺に属するほどに。
何を笑っているんだこいつらは・・・。
何で嬉しそうに話すんだこいつらは・・・。
しゃべるな・・・
それ以上下劣な口を開くな・・・。

お前らが同じ人間であることさえ美学に反する・・・。

「ま、それでもクソっちには勝てねぇよ」
「クキョキョ。だな」
「アポテムフィリア(切断フェチ)でヘマトフィリア(流血大好物)」
「相手をアルトカルシフェリア(踏蹴フェチ)にするのも大好きだし、
 アスフィクトシリアの女を作っては首を締めてる」
「そして」
「なんと言っても」
「「ネクロフィリア(死姦フェチ」」

キャラメルとフランは同時に笑う。
大きく。
心から。

「ローション付けてまで究極のマグロとヤりてぇかよっ!」
「ほんっとクソっちは最高だよな!」

何が最高だ。
こいつらの脳ミソはどうなってる。
聞くに耐えない。
クソ・・・・
クソの極地だこいつらは・・・・。

ここに居る・・・
奴隷と化した人形(男と女)は、
そんな趣向の慰めものにされているというのか。

「さて、そろそろ終りにするか」
「芸術家さん。死んでくれ。先はあんただ」

ふぅ・・・と。
楽しみを終えたという表情で、
半分のクソ野郎達は言った。

「さっきはあぁ言ったがよぉ」
「生憎俺達は女に飽きたってほど終わっちゃいねぇ」
「残すなら女に決まってら」

来る・・・気か。
トドメを刺しに。
先ほどまでのように遊びではなく・・・・。

「エクスポ・・・・・」

スウィートボックスが、
フランの手の中で、弱弱しい声をあげた。

「私はいいから・・・」

だがその先に言葉はない。
連れて来たのは彼女だ。
逃げてというのもサラサラ笑い話だ。
そして・・・・

「ぐっ・・・」

エクスポがあまりに悔しかったのは、
彼女のその先の言葉が無かった理由の二つ目。
"私もろとも"・・・なんて言わせてあげるほど、
自分は頼りになっていない・・・
そういう事。

「助ける・・・・こいつらを殺して・・・必ず助けるから・・・・」

根拠はない。
微塵も。

人間の格的にこうも差があるのに、
何故こんな奴らに及ばないんだ自分は。

「チェスター・・・・お前もこんな気持ちで死んでいったのか・・・・。
 正義は勝つんじゃなくて・・・勝つことが正義なのか・・・・・」

悪こそ・・・悪意こそ正義だというならば・・・
こんな・・・
こんな腐りきった世界・・・。

「エクスポ・・・・ごめん・・・・ごめん・・・・」

彼女は潤んだ目でそう、エクスポに問いかけた。
何故君が泣く。
何故君が謝る。
君に悪意なんてない。

あるのはこのクソ野郎達に。
そして・・・・・自分自身の弱さ・・・それくらいなのに。

「いいねぇ涙」

そんな場面でさえ、
フランという男は嬉しそうにしていた。
スウィートボックスのアゴに手を沿え、
自分の方を向かせる。

「そのまま泣いていろ。俺はそんな女の眼球を舐めるのが好きなんだ」

「う・・・ぐぅ・・・・」

スウィートボックスが振り解こうとしても、
彼女は逃げられなかった。

「やめろ・・・お前ら・・・やめろ・・・・・」

「やめろと言われてやめる馬鹿がどこに居る。むしろその最中に実行するのが俺達の楽しみだ」
「そうだよんエクスポ君。エクスポ?エクスポー?クキョキョキョ」
「ん?どしたキャラメル」
「こいつの名前、面白くね?」

何が面白いというんだ。
エクスプロージョン(爆発)のエクスポ。
お祭りのエクスポ。
両親から貰った人生の名だ。

「エクスポ(EXPO)・・・・EXP(経験)0(ゼロ)だってよ!」

どっと二人は笑った。
大きく、楽しそうに。

「アハハハハッ!そりゃぁ傑作だ!そりゃぁガッツくわな!」
「そんな器量の女だって助けたくはなる!」
「助けてどうするの?何するの?」
「ハハッ、なんだ芸術家。こんなにサービスしてやったのにお前。
 もしかしてここに来る過程(自由時間)を与えたのに。この女と犯ってねぇのか?」

お前らと一緒にするな。
お前らの思考と同じにするな。
お前らのモノサシで・・・・
彼女を測るな。

「エクスポ!いいから!もう私なんてどうでもいいから!
 こんな奴らの言葉になんて耳を貸さないで!」

「こんな奴ら?それは俺らの事か?」
「俺らは○と×」
「二人合わせてX○(クソ)だぜ?」
「つまり俺らの事を指すのは燻(XO)っちを指すのと同じだ」
「そんな口きいていいのかなぁ」

スウィートボックスは、
心臓を止めるようにビクりと止まる。

「やめて・・・・」

「なぁに?」
「なにを?」

「言わないで」

彼女が、
箱入り娘が怯えているのは分かった。
それだけで、
エクスポの心には刃が宿る。

「いーかよく聞け芸術家」

「やめて!」

「耳かっぽじってよくきけよ」

「お願いだから!」

「この女(奴隷)の初恋はどうやらお前のようだが」

「エクスポっ!エクスポッ!」

懸命に、
懸命に彼女はエクスポに呼びかける。

「私は私っ!あんたが知っている私だけが私っ!
 こんなところのブタ箱に閉じ込められたスウィートボックスなんて居ないっ!
 だからあなたの心の中に居る私は・・・・・・そのままに・・・・」

ポタン・・・と涙が落ちた。
そんな音さえかき消すように、
フランの口は開く。

「こいつの膜はクソっちのオヤツに消えたぜ」

プチン・・・と、

エクスポはキレた。

「てめぇら死ねクソ共がああぁぁぁああ!!!」

エクスポは爆弾を手にしていた。
エクスポは飛び掛っていた。
エクスポは思考回路は定かじゃなかった。

それでも実力差は埋まるものではなかった。
世知辛く。
天はクソに光を浴びせた。

爆弾は投げられた。

空中で止まった。
キャラメルの氷魔術で氷結した。
無意味となり地面の藻屑になった。

我武者羅にもう片手で爆弾を抱えていた。

爆弾は投げられなかった。

ムチが飛び、
動作よりも早く弾かれた。

エクスポは爆弾を手にしていなかった。
エクスポは飛び掛っていた。
エクスポは思考回路は定かじゃなかった。

ただ、
無意味に両手を彼女に伸ばした。

「あ」

フランが、
さほど何事でもないように・・・・・言った。

「こいつ死んだ」

エクスポは・・・・眼前が真っ暗になった。
その瞬間を、
両の目で・・・・しっかり見たから。
それでも手を伸ばしたけど・・・・

彼女は舌を噛み切っていた。

「馬鹿じゃね?」

フランはスウィートボックスの体を乱暴に放り捨てた。
彼女の体は、
物言わず、
口からダクダクと血を溢れさせたまま、
両目は意識無く、
違う方を見ていた。

「あぁ・・・・あ・・・・」

エクスポの全身の力は彼方に消えた。
地面に崩れて、
それでも彼女を見ていた。

「おいおいフラン。忘れたのかよもったいねぇ」
「そうだったそうだった」

何事もなかったかのように会話する二人など、
エクスポにとっては違う世界のものだった。

「オートアサシノフィリア」
「そうそう。クソっちがスイッチ入るように調教(インプット)してたじゃねぇか」

はぁと呆れたように、
フランは亡骸と芸術家とは関係の無い方向へ歩いていた。
壁に、
大きくかかれた"XO"の血文字。
そこへ。

「芸術家。文字通り、オートでアサシンでフィリアだ」
「ま、死に対するのが快感って性癖だ」
「メンヘラのやべぇ版っつーの?」

黙れ・・・
黙れ黙れ黙れ・・・・・

エクスポは、ただ彼女の死体を見ていた。

「まぁその女が俺らの命令を無視して逃げられなかったのも、その調教のせいなんだよな」
「最終的には性癖が発動して終わるって仕掛け」
「オモチャは手放すのがイヤなんだよ」
「それが欲望ってやつだ」

「違う・・・・」

違う違う違う・・・・
そんなのは違う。
お前らの・・・
お前らの考えで彼女を測るな・・・

彼女は堪えられなくなっただけだ。
彼女は言っていたじゃないか。
そんな事も理解出来ないのはお前らクソ野郎共は。

ただ、
彼女は、
ボクに、
汚れた目で見て欲しくなかった・・・・・それだけだ。

「お前らが殺した・・・・」

そして・・・
自分が殺したようなもんだ。

「この・・・・このクソ野郎共・・・・」

物言わぬ彼女の死体を抱いた。
口から流れる血は、
エクスポを汚した。

舌を噛んだだけでここまで絶対的に死んだり出来るものか。
だが、
彼女は死んでいた。
それが望みだから、それを完膚無きまで真っ当したように。

「あーあ。変な終り方したな」
「あぁつまらん。肯定できない」
「否定もんだよな。男の方が残った。使い道なんかねぇぜ?」
「だな。さっさとゴミにするか、罰でも受けさせて遊ぶか」
「どっちにしろ性欲処理には使えねぇ。今俺、そんな気分なんだよ」
「じゃぁ殺すか」
「あ、でも女の方はまだ使えるかもよ?」
「・・・・おぉ。そうか。クソっちへのお土産にとっとくか。
 キャラメル。お前出来るだけ新鮮さ保つためにちゃんと冷凍保存しとけよ」
「任せと・・・・・」

突如、
爆発の音が聞こえた。

「ん?」

フランとキャラメル。
○と×がエクスポの方を見ると・・・

「あぁ?」
「おい、女の方はどうした」

エクスポの両手には・・・・何も無かった。
木っ端微塵に。
何も。

「彼女なんて・・・・居なかったのさ・・・・」

エクスポは下を向いたまま、
そう言った。

「あん?」
「何言ってんだテメェ」

「こんなところに、お前らの思うような彼女はいなかったんだよ。
 彼女は、ボクと地下で出会って、そのまま分かれて・・・・逃げたんだ・・・・」

それだけだ・・・。
エクスポは真っ赤な自分の両手を見ながらそう言った。

「トチ狂ったか?見た感じお前が爆破したんだろうよ」
「クキョキョ。まぁこういう奴は珍しくねぇ。むしろ正常だ」
「まぁそうか」

彼らの言葉を無視して、
エクスポは歩んだ。

「お前らの・・・・言うとおりだったのかもな・・・・」

芸術家は、
虚しそうに歩んだ。

「何かを捨てた奴だけが極限に達する・・・悪でも・・・最悪でも・・・・極地っていうのはそういうもんかもしれない・・・。
 ボクは捨て切れなかっただけなんだ・・・分かっていた・・・・あの殺人鬼に会った時から・・・・・」

あのウサギも、
捨てきれないでいた。
もがいていた。
まるで・・・・自分の鏡写しだ。

「ボクのポリシーなんて・・・何も守り切れない・・・・そんなものだったんだ」

「なんだこいつ」
「こんな狂い方初めてだな」

エクスポは歩み、
フランとキャラメルの間を割って歩き。
そのまま、
壁まで歩いた。

腐った・・・クソ野郎のトレードが刻まれている。
血文字。
"XO"が描かれた芸術の壁に。

「いや・・・もっと前・・・この戦いに出向く時から分かってたんだ・・・・・
 ボクなんかが・・・自分自身のポリシーなんて守りながら・・・仲間を守ってなんて・・・」

そんな贅沢・・・。

エクスポは、
血だらけの手を、
その壁にぶつけた。

「ボクはっ!ボクはっ!」

そして描き殴った。
その壁に。
"E"

"P"
を。

「・・・・何も守り切れないボクを・・・・捨てる」

血で・・・
"EXPO"と描かれた壁を背に、
彼らを睨んだ。

「ボクはもう!何も望まない!ボクはボクの大切な美しさを!今一度捨てるっ!」

いや、
望むとしたら・・・・

「貴様らを・・・腐りきったクソ共に・・・・・・・天罰を下す」


光と共に。

彼の悲しい背中には、

今一度、





忌み嫌った翼が広がった。












































森。
きっとどこかの森。
木。
何気ないどこにでもある大きな木。

彼はそこに寝ていた。

鳥達は囀り、
煙を怖がらず、
彼の胸の上で遊んだ。

「・・・・・・・ふぅ・・・」

大木の枝の上で、
ただ安らかに眠っていた。
目を瞑っていた。
墓の中のように。
彼の胸の文字のように。

鳥達が、
突然一斉に逃げるように飛んで行った。

「・・・・・・・」

彼は寝たまま、
それでも目を開けなかった。

「・・・・・馬鹿が・・・・・最初からそのつもりだったのか・・・・」

苦笑するのさえ面倒臭い。
だけど、
受け入れた。

「神が・・・・人間の戦いに干渉するなと言っただろう・・・・・」

彼は枝の上で体を起こす。
左手で安全ピンの刺さった耳を触り、
右手でタバコを火のついたまま投げ捨てた。

「ダリィ・・・・メンドくせぇ・・・・・ったくタリィなおい・・・・・」

イヤな顔をして、
それでも彼の背中で翼は広がった。

「でもしゃぁーねぇーか・・・・・恨むぜフウ=ジェルン」

そして、
彼は飛び立った。

「メンデェ・・・・あぁ・・・・メンドくせぇ・・・・」

鮮やかな空へと。
天使(ネオ=ガブリエル)は羽ばたいた。







                 






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