地上に降り立つ海賊王。

「デムピアス・・・・・」
「これが本物の・・・」

船の上から、機械仕掛けの魔物達が降り立つ。
その中で一際、
さらに言えば一番正常な外見を持つ者。

人。
否。
言うならば機械仕掛けのサイボーグ。

そんな笑い種な存在が、
特と一番際立っている。

「人の強さを知れば、又、人の弱さも知る・・・か」

人を語るデムピアス。
鋼の体を煌かせ。
人の温もりに恋し。
魔王は修道士の短いマントを揺らし、

「度し難いが・・・それもまたいい」

堂々と立っている。

「慌てるな」
「デムピアスと言っても一度死んでいる」
「倒せない敵ではないし、むしろ劣化は否めない・・・といったところだろうよ」
「周辺4小隊!デムピアスに迎え撃て!残りは他の魔物を討伐せよ!」

「度し難いが由(よし)」

斑(まだら)の眼は、
瞬き一つせず、
周囲の騎士団を睨みつける。
どこを見るでもなく、
焦点の無い冷たい目。

「人という生き物は何故こうも頭が阿呆(あほう)なのだろうか。
 獣も魔物も、自分より強い者と分かれば戦わない。生きる事こそ最善だからだ。
 だがチェスターも含め、人はそれを知っても知らずとも戦う。
 ただの愚かな阿呆か。それともそれを超えたいのか」

どちらでも由。
それが人なら、

「俺もそうなるまでだ」

おもむろに、
デムピアスはその腕を。
チェスターを形(かた)したその腕を上げる。
人。
それになろう。

そんな事を呟くくせに、
デムピアスのその腕は・・・・

「なんだありゃ!?」
「腕が・・・・・」


蒼き龍の頭を象り"変形"した。


「ドロイカンブレス」


「下がれ!」
「気を付けろ!!」

というのも遅く。
デムピアスの右腕から、
炎。
火炎が吹き荒れる。
それらは騎士団を数人、炎に包み込んだ。

「なんなんだあれは!」
「鉄の右腕がドロイカンの形になったぞ!」
「怖気るな!魔王デムピアスだぞ!魔法の一つや二つ使うだろ!」

「違うな。機械の力だ」

マントが置いてけぼりにならないよう揺れる。
デムピアスが動いた。
初動無く、
一瞬でトップスピードで、騎士団の群れの中へと突っ込む。

「キャメルサーベル」

今度は左腕が細く・・・そして長い。
槍にも近いサーベルへと変形する。

「藻屑に落ちろ」

対応できる暇など微塵も与えず、
群れの中に突っ込むや否や、
サーベルが胴体を3つ解体する。
計算が合わない。
3つを13個に分断する。

「そして奈落を楽しむがいい」

その細切れになった胴体に、
ドロイカンの頭。
鉄の右腕を向けると、
火炎で死骸を炭になるまで焼き切った。

「なんなんだあの体・・・」
「どう対処すりゃいいんだ」

群れの中に突っ込んだというのに、
騎士達は取り囲むように退いた。
デムピアスの周りだけ空き、
騎士達が取り囲む。
だが誰も手を出さない。

「ふん。人とは一人一人に正義があるのだろう?乗り越えたければ立ち向かってくるがいい」

銀の鉄髪が、
なびきもせず輝く。

「それを受けて立つ。否。受けて絶つのが魔王の役目だからな」

ならば、
自分達はお前を超えてやる・・と。
騎士達の目にも力が篭る。

「右腕の炎と左腕の剣に気を付けろ!」
「いや!どちらかといえばサーベルはサブウェポンだ!」
「剣での戦いに持ち込めばこちらが有利」
「ドロイカンの炎に気を付けつつ、近距離戦に持ち込め!」

「まぁ」

チェスターに似た、
その残酷で冷酷な機械仕掛けの魔物の顔は、
見下すように彼らを見る。

「浅はかというのは度し難いがな」

すると、
デムピアスの両腕はギミックが稼働するように変形を始める。
ドロイカンを模した右腕も、
キャメルのサーベルを模した左腕も、
パズルのように機械仕掛けに稼働する。
そして、

「テュニショット」

両腕は、
幾数もの砲台を持つ、
ライフルへと変形した。

「ふ、伏せろ!!」
「盾を・・・・」

その形状から攻撃を察し、
騎士達が警戒。
対応。
防御・・・・・するのは間に合わなかった。

「微塵に消えろ!」

銃口からマズルフラッシュが輝く。
4・・・7・・・10。
両腕から歪(いびつ)に、
十数本の銃口。

幾多のショットが騎士団を襲った。

「俺を乗り越えてみろ人間!!」

弾。
弾弾弾。

乱射にも近い連射。
360度、縦横無尽にショット。

騎士達の体が消し飛び、
吹っ飛び、
砕けていく。

「魔王を倒す事こそ!貴様ら人間に与えられた責務だろう!?」

嵐。
吹き荒れる弾。
骨が砕ける。
弾の嵐。

「ならば俺も迎え撃ち!盾突こう!俺は俺の・・・・悪の正義を志しっ!人の王を破ってみせるっ!」

砲撃を打ち鳴らすデムピアスの姿は、
やはりそれはもう魔王の姿だった。

指一つ触れさせず、
ただただ辺りを壊滅させていく。
10、20、30。
人の命をゴミクズのように粉々にする両腕のライフルは、
騎士達に"逃げ"の選択肢を思い浮かべさせるには容易で、
そして、
その弾幕の嵐から逃げる事は不可能だった。

「違うだろう人間。俺の知っている人間はこんなものじゃぁない。
 真の強さを知っている者。それが人間だった。それを力に出来るのが人間だった」

弾を止める事無く、
デムピアスは言う。

「それが人間の怖さで、それが人の弱さで」

それが愚かで・・・・そしてそれこそが魅力的だった。
あのヒーローのように。

「俺が成りたいのはこんな人間ではない」


「あーそうそうデムピアス。デムピアスだよデムピアス」

テュニショットの弾幕の中。
身動き一つ取らず立っている人間が一人。
いや、
二人居た。

「違いますってディエゴ部隊長。間違いなくデムピアスだよ。
 そりゃぁ俺はデムピアス見たことねぇけど間違いないですって。
 なんつーか雰囲気で分かります。他の魔物よりかっ飛んでますもん」
「おいゴウカ。通信はその辺にしとけって」
「いやいやいや。こいつがデムピアスじゃなけりゃ何ピアスだって話。
 うん。かっ飛んで強そうです。間違いなく俺達より強いです」
「おーいー。ゴーウーカー」

いや、
動いてないのではなく、
ただ全ての弾を見切り、
平然とその嵐の中に立っている。

片方に至っては平然とWIS通信を行っている。

「ふん」

デムピアスは両腕のライフルを止めた。
もとの鉄の両腕に戻す。

辺りには幾十。
幾百もの残骸が落ちていて、
死骸騎士達は光となっていたが、
その中の二人。

「大丈夫じゃないけど大丈夫ですってディエゴ部隊長。
 ・・・・・・・いやぁーそう聞かれるとまぁ、勝てなさそうとしか言えないですけど。
 ま、ポルティーボ部隊長がやったみたいに俺達が判断します」
「ゴウカってば。俺が部隊長だぞ?命令聞けって。通信切れ」
「デムピアスって奴が"どこまでやれば倒せるのか"ってね。かっ飛んでいきますよ」
「ゴウカッ!」
「え?何?レッカ姉貴」

デムピアスからすると人間の性別は見分けが尽き難いが、
恐らく女。
女が二人。
言葉使いは男勝りだが、
ゴーグルを頭に付けた女と、
キャップをかぶった女。

「ほれ、WIS切れ。デムピアスがこっちに気付いたぞ」
「マジかよレッカ姉貴」
「もっと驚け。俺ら死ぬかもしんねぇぞ」
「もー死んでるって」
「そのネタ、他の奴が散々使い古してるっての。この馬鹿妹」

姉の方が無理矢理WISオーブを取り上げ、
通信を切ってつき返した。

「さて、デムピアスさん」
「前菜は俺達だ。よろしく」

キャップをかぶった姉と、
ゴーグルをかぶった妹が、
怖気も付かず、
デムピアスを見てくる。

いい目だ。

「既に散々耳にしているが、チェスターから教わった礼儀だ」

斑(まだら)な目で、
デムピアスは姉妹に問う。

「名乗れ」

気に入ったと言わんばかりに、
デムピアスは横目にその二人を見すえたままだった。

「俺は『蒼きトルネード』!第47番・拳走部隊・副隊長。ゴウカ!」
「俺は『紅きサイクロン』!第47番・拳走部隊・部隊長。レッカ!」

二人の女は、ポーズを決めた。

「・・・・って事で」
「暴走姉妹レッカとゴウカたぁ俺達の事だ」

「まぁ大体分かった」

匂い・・・は似ている。
くだらないが、嫌いではない。

「ウキキッ!」

どこからかチェチェがデムピアスの体を這い上がり、
デムピアスの肩に登る。

「隠れていろチェチェ。こいつらは少し乱暴にしないといけないようだ」

「ほほぉ。天下の海賊王デムピアス様に認められるたぁ」
「俺達も捨てたもんじゃねぇなレッカ姉貴」

嬉しそうに構えを取る。
ゴウカ。
そしてレッカ。

「恐らくてめぇのが強いのは感じてるんだぜデムピアス」
「だが、俺達姉妹でかかれば・・・・やれない相手ではない」
「ぶっ飛ぶぜ俺(ゴウカ)」
「負けないぜ俺(レッカ)」

そう言い、
赤いキャップをかぶった方の女。
その女の右腕に目が行く。
見逃さない。

・・・・風。

「風貌と違い、魔術師か」

「いい目を持ってるな海賊王」
「だが、分かったからってレッカ姉貴の風は止められねぇぜ!!」
「ぁあああああ!!!!」

レッカと呼ばれる女の腕に、
風が渦巻く。
言葉通り渦巻く。
竜巻のように・・・・。

「風は引き寄せるっ!そして切り刻むっ!避ける事も守る事も出来ないぜっ!
 魔王の力を見せてみろっ!ハリケェェェェン・・・・・バインッ!!!!」

魔術師とは思えないような腕の振り。
突き出す拳。
竜巻。

「イッツ!ソニックッ!!!」

腕から竜巻が伸びる。

「分かりやすい攻撃だ」

見てからでもどうとでも反応できる。
デムピアスは足を鳴らす。

「・・・・・むっ」

だが、
体勢が崩れる。
避けることが出来ない。
竜巻が。
ウズマキが。
ハリケーンが。
デムピアスの体を引き込む。

「・・・・・なるほど。やるな人間」

そして、
避けることも出来ず、

デムピアスは竜巻の直撃を受けた。

風の刃が切り刻み、
地面を弾き、
砂埃が舞う。

「しゃぁぁああ!やったぜレッカ姉貴!」
「馬鹿かゴウカ!あれぐらいでデムピアスが倒せるわけねぇだろ!」
「・・・・・チッ・・・・確かに」
「畳み込むぜっ!!」

砂埃が晴れたところを、
狙い打とうと、
レッカとゴウカが各々の攻撃態勢に入る。

「・・・・なんだありゃ・・・・」

だが、
砂埃の晴れた中から現れたのは・・・・
言葉にならない。
何なのか分からない。
紫色の・・・・歪な・・・何か。
・・・・甲羅?
いや、
殻?

「マレックスシェル」

鉄細工の殻の中からデムピアスの声。
声と共に、
その殻がギミック仕掛けに変形し、
両腕、
両足になっていく。
そして、
殻の中からまた人型の魔王が現れる。

「悪くない攻撃だ」

平然と、
デムピアスは答える。

「・・・・・レッカ姉貴・・・ダメージは?」
「さぁ」

皮肉に苦笑する。

「生半可な攻撃じゃぁビクともしないのは分かったぜ」
「やっぱり言葉通り畳み掛けていくしか・・・・・」

「いや、お前らの実力は十分に分かった」

デムピアスは、
右肩の上のチェチェを撫でる。
体温の無いその手で。

「チェチェを傷付けずに戦うのは少々骨が折れる」

終りにしよう。
デムピアスは右腕を突き出す。
突き出した右腕は、
機械仕掛けに変形する。

「また武器に変わるぞレッカ姉貴っ!」
「焦るなゴウカ。出来るだけ他の者達のために奴の実力を引き出すんだ。
 それが俺達に出来る作戦。任務。そして義務だ」
「・・・・・分かったよレッカ姉貴」
「そして負けない」
「・・・・・あぁ!そうだな!」
「近距離武器なら俺が、遠距離武器ならあんたがやるんだよ」
「でも両腕で別々だったら・・・」
「そん時は二人でやるんだよっ!」

レッカは、
また風を溜める。
竜巻。
ハリケーンバインの拳を繰り出せるように構える。


「イミットキャノン」


身構えるにはやはり、時間が足りなかった。
デムピアスの右腕が、
一つの大砲のようになっているのに気がつき、
その照準から逃れなければいけないと気付いた時には、
それはすでに発射されていた。

イミットの、
デムピアスの心を投影したそのキャノンは、
発射からの弾速などほぼ目で終えない。
発射と着弾がほぼ同時。

それほどの勢いで放たれたキャノン。

「・・・・え・・・・」

ゴウカは呆然としたが、
やっと。
やっと気付いたと言わんばかりに、
自分の真横を見る。

いつの間に・・・という弾速。

レッカの胴体が吹き飛んでいた。

「レッカ姉貴っ!!」

声も虚しく。
胴体が丸ごと吹っ飛んでいる。
頭、
腕、
支えを失ったそれらがガランガランと地面に落ちると、
そのまま光となり、
天へ消えていく。

「姉貴っ!レッカ姉貴っ!!」

「イミットキャノン」

「くっ!!」

半ば勘と感に任せながら、
ゴウカは体を翻した。

後方で爆音。
おそらくあの一発で騎士数人を吹き飛ばしている事だろう。

「これがっ・・・これが魔王デムピアスかっ!」

汗の出ない死骸の体でも、
心は冷える。

「なんでも有りかよその体っ!!」

「人は何にでも成れる・・・と、人が言っていた」

俺はそれに成る。
デムピアスは斑な冷たい目をして、
人の温かみを求める。

「くそぉ!俺やレッカ姉貴だって人からは化け物みたいだって呼ばれて生きてきたっ!
 だけどあんたを見て思ったぜ!俺達は正常だ!だからあんたらは魔物(モンスター)なんだっ!」

「安い線引き(グランドライン)だな。人間」

右腕の砲台が、
ゴウカを睨む。

「藻屑に散れ」

「だからって俺達は騎士だっ!ぶっ倒してやるっ!」

放たれるイミットキャノン。
ゴーグルの端にカスった。
見切った。
最速。
全神経を集中し、
その弾道を見切った。

ゴウカはそのまま走り抜ける。
デムピアスに向かって。

「なるほど、お前の方は修道士か」

「違うっ!違う違う違うっ!俺達には守るものがあるっ!だから俺達は騎士団なんだっ!!」

「守るために立ち向かう。いいな人間」

羨ましい。
デムピアスはキャノンを放った。

「うぉおおおおお!!!」

避け切れない。
左腕が吹き飛んだ。
だがゴウカは止まらない。
前進。
前進前進前進。
走る。

「第47番・拳走部隊・副部隊長ゴウカ!!俺はこれしか知らないんだよぉおお!!」

残った右腕を振りかぶる。
風。
竜巻が巻き起こる。

「かっ飛べゴウカッ!!コークスクリュートルネェェェェーィドッ!!!!」

風が巻き起こるほどのコークスクリューを突き出し、
真っ直ぐ突っ込んできた。

「マグナム級にかっ飛びなっ!!」

「悪くない。悪くないぞ人間!」

デムピアスの右腕が、また変形する。
ナックル。
いや、刃。
獣の口のような・・・・

「チャウファングッ!!」

真っ向からぶつかりたくなった。
人間というものに。

「かっ飛べデムピアスっ!!!」

「瓦礫に屈しろっ!」

竜巻の右腕と、
牙の拳が、

衝突する。

「ぐぅ・・・うううう!!!」

ゴウカのコークスクリューを、
文字通り拳で噛み付いた。
トラバサミのようなその腕が、
挟み込むようにゴウカの腕に噛み付く。

「負けるかぁぁぁぁああ!!」

押し合う。
噛み付かれた状態で、
ゴウカはさらに拳をねじ込む。
腕が千切れてもいい。
デムピアスに、拳を・・・・。

「否っ!!」

ファングの圧力が増す。

「正義が勝つっ!!!」

デムピアスの言葉と共に、
ファングが噛み切った。
噛み千切った。
ゴウカの右腕をぶち切り、
粉々に噛み砕いた。

「ぐぁ!ぁぁ!!!」

右腕が粉々に粉砕され、
ゴウカはその場に崩れる。

「くそぉ!くそぉデムピアス!お前は何が望みなんだっ!
 これは人間の戦いだ!なんであんたみたいのが出てくる!」

「理由があるから。それで満足か?」

デムピアスは、
両腕の無いゴウカの体を両腕で持ち上げた。
首を絞めるように、
その体を持ち上げた。

「人に成りたいから。王は一人でいいから。海だけで無く、陸を手に入れたいから。
 理由があればそれで満足か?・・・・度し難い。・・・・・正義があれば他に何も必要など無いっ!」

「あんたのは・・・・正義なんかじゃないっ!」

反撃も出来ない体で、
持ち上げられたままゴウカはデムピアスに言い捨てる。

「正義とは己で決めるものだ」

「あんたのは・・・・ただ野望だっ!!!」

「成否を誰が判断する。それは己で判断するものだ。だから人は戦うのだろう?
 生命活動以外の理由で戦うのが人間だ。それに・・・・・・・・・・・野望も夢に代わりは無い」

「くそっ!」

ゴウカは、
首を絞められ、
両腕の無いこの状態で、
最後のあがきに出る。

足。
足でのコークスクリュー。
この至近距離で・・・デムピアスが両腕を使っているこの場で、
ぶち込む。

「かっ・・・・・かっ飛べ!デムピア・・・・・」

そこで気付く。
やはりこの者は・・・人ではなく・・・魔物だ。
化け物だ。

デムピアスの全身から・・・・・砲台が突き出ていた。
全身が凶器。
全身が武器。
機械仕掛けの魔王。

「藻屑に消えろ」

「・・・ちくしょ・・・・・・・でも覚えとけ・・・・・俺達だけじゃないから・・・・・"騎士団"なんだ・・・・」

大量の火薬が、
零距離でゴウカの体を粉々に貫いた。

必要以上の弾が、
必要外にまで及び、
そして、

元の形さえ残らなくなった。

「先ほどの問い。俺にも分からんよ。人間の騎士よ」

デムピアスの手に残ったカスは、
消えるように天へ昇っていった。

「野望。夢。そして正義。それを知りたいからこそ、それを信じて俺は居る」

それを追求するのが人なんだろう。

「だから俺にたった一つ確信出切る事は・・・・・・"受け継ぐ"事」

人の言葉で、
愛(いとし)・・・・とでも言うべきか。

デムピアスは、
右腕を天に掲げた。

「こうか?こうだったよなチェスター。一つ前に進んだ時の意思表示は」

返事をするように、
チェチェがデムピアスの頭に昇り、
飛び跳ねた。

「俺はお前の成し遂げたかった事を必ず継ぐ。成し遂げて見せる。
 お前が死んでも、お前の意志は死なない。正義の意志は俺が継ぐ。
 何故なら・・・・・・お前(ヒーロー)は最終回まで死なない・・・・そうだったよな」

正義を掲げ、
魔王はまた、
銃口を人に向けた。







































「うひゃー・・・ありゃ凄いでヤンス・・・」
「チートだよあんなん・・・」

ガレオン船の上。
その淵から顔だけ出すのは、
バンダナの少女と、
バンダナのピンキオ。

バンビとピンキッド。

「あれでも船長は抑えて戦ってるでヤンスよ」
「あれで?」
「やろうと思えば半径数十メートルを一瞬で鉄くずにしちゃえるでヤンス。
 全身ウェポンでヤンスからね。両腕をメインで戦ってるだけ小規模でヤンス」
「それまた・・・・」

ゴクンと船の手すりに雪崩落ちるバンビ。

「僕の出番無さそう・・・」
「バンビさんは元々戦力になる力持ってないでヤンス」
「そ・・・そうだけどアレの後に出ていける人居ないって・・・・」
「人じゃないでヤンスけどね」

ぴょんっと、
ピンキッドはその小さな体で跳び、
手すりの上に着地した。

「人じゃないって話になると、デムピアス船長はやっぱり"人"を意識してるみたいでヤンス」
「あの戦いでぇ?」
「人間らしい戦いに執着してるでヤンス。さっきも言ったでヤンスけど、やればもっと派手に出来るでヤンス。
 でも基本的には両腕の変形しか使わないし、立ち回りも人間らしいでヤンス」

まぁ、
確かにそうだけど・・・・

「それでも規格外だよぉ。人とは言えない」

手すりの下。
船の下の光景を見るバンビ。
また弾薬をフルにデムピアスが暴れている。
成す術もないといった景色。
戦車が小動物を蹴散らしているような。

「・・・・・ねぇピンキッド」
「なんでヤンスか」
「やっぱり人の上に立つには・・・"力"ってものが必要なのかな」
「海賊王を目指すお嬢が情けない事でヤンス」
「真面目に答えてよっ!」
「うーん。答えるなら絶対的に必要でヤンス」
「・・・むっ・・・」
「でも力ってものは腕力だけの事を言うんじゃないでヤンスよ?」
「おっ。それはいい意見だね船員ピンキッド君。例えば権力とか、財力とか?」
「それもあるでヤンスが・・・・・」

ピンキッドは、
手すりの上から同じように見下ろす。

「・・・・一番強い力は・・・"魅力"でヤンス」
「魅力ー?」
「人の上に立つ人間には・・・そして人の前に立つ者には、何かしらの魅力が必要でヤンス。
 もちろん、財力や権力、戦力だって魅力には成り得るでヤンスが、他の道だってあるでヤンス」
「なるほどねー」

バンビも相変わらず見下ろす。
デムピアスの暴れっぷり。

デムピアス海賊団は何故彼についていくのか。
それは、
やはり揺ぎ無い力があるからだ。
怖さというのもあるだろう。
それが魅力。
上に立つ者に求められる力。

さらに言えば・・・
そのデムピアスさえも、
たった一人の人間の魅力に憑かれてしまっているのだから。

「・・・・ぼくにある魅力って何かなぁ」
「何一つ無いでヤンスね」
「何か一つくらいあるでしょ!」
「無いでヤンスね」
「僕は海賊王になる女だぞ!魅力の一つや二つ!例えばっ!
 ・・・・・・えー・・・例えば・・・・・女!女というのもまた一つの魅力っ!」
「ピンキオの自分から見ても女としての魅力は色々足りないと思うでヤンス」
「ピンキオは見る目が無いっ!」

ダランと体を船の手すりに預けながら、
バンビはむくれた。

「親父ぃ・・・・それでもぼくは海賊王になってやるぞぉ・・・・・」
「・・・・・酔ってるでヤンスか?バンビさん」
「酒は嫌いだ。酔ってないよ」
「自分に酔ってそうでヤンス」
「・・・・・・・ただの船酔いだよ。船で空なんて飛んだもんだから」

でも、
センチメンタルにもなる。
この化け物たちの戦場で、
一般的な戦力さえ無い自分は・・・・どうすればいい。

「力が欲しいなぁ・・・・」
「覚えてるスキルはアピールだけ。絶望的でヤンス」
「うるさいなっ!いいよ!じゃぁやってやるっ!」

バンビはビッシリと立ち上がった。

「ぼくが敵をやっつけて証明してやるっ!」
「バンビさんが?」
「ぼくがっ!」
「敵を?」
「敵をっ!」
「ビフテキじゃなくて?」
「ビフテキじゃなくて敵をっ!」
「この戦場で一番弱いのに?」
「うっ・・・・」
「頑張って、バンビさんでも倒せる敵を探すんでヤンスか?」
「ぼ・・・ぼくでも倒せる敵くらい居るはずだ!」
「バンビさん如きで?」
「如きっていうなー!」
「"ぼくより弱い奴に会いに行く"・・・・みたいな・・・でヤンスか?」
「うるさい!」
「じゃぁどうするんでヤンスか」
「えっと・・・・」
「強い敵は倒さないでヤンスか?」
「た、倒すよっ!」
「ほんとに?」
「ぼ、ぼくよりちょっとだけ強い奴に会いに行くっ!」

しょぼい信念だ。

「海賊王が聞いて呆れるでヤンス。ジャッカル船長があの世で泣いてるでヤンス。
 それだからバンビさんはいつまでもバンビーナ(ひよっこ)なんでヤンス」
「うるさいうるさいうるさーーい!」
「お?」

バンビの目が、
少し頼もしくなった。

「バンビーナっていうな!ぼくは親父のような海の男・・・じゃなくて海の女になる!
 ぼくは海賊王になる女だぞっ!どんな荒波も!どんな津波も乗り越えてみせるっ!」
「おー!」
「こちとろ親父と同じルケッ子でぃ!海人(うみんちゅ)の魂みせてやるっ!」
「おー!バンビさんが頼もしいでヤンスっ!」

ピンキッドは短い手をパチパチと合わせた。

「この世のお宝はぼくの物っ!海賊王は何でも盗む!」
「命でもっ!?」
「いや!世界だろうとっ!」
「カッコイーでヤンスよバンビさんっ!」
「舵をとれっ!世界へ漕ぎ出すぞっ!」
「あいあいさーっ!」
「来たれ敵っ!」
「強敵っ!」
「どんな奴でもかかってこーーーーーーい!!」


「ドッゴラァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

甲板に、
何か落ちてきた。

「・・・・・・・」

バンビは、
腕を振り上げたまま停止した。
なんか降って来た。

「・・・・かかって・・・・・」

木片が散らばる。
吹き荒れる花びらのように。
散々に、
豪快に散らばる。

その世界の中で、
バンビは止まっていた。

「・・・・こーい・・・・」

波打ち際の波が引いたように、
甲板の木片の散らばりが止むと、

甲板の中心に・・・・

「海賊王はどこだ」

猛獣が居た。

「ひょえっ!?」

バンビは情け無い声が出た。

「ギギギ!ギルヴァングって奴でヤンス!バンビさんっ!」

ピンキッドが焦りながらバンビを見る。
見ると、

「・・・・・何やってるでヤンスかバンビさん」

バンビは何やら、
ポーズをとったまま停止していた。

「・・・・話しかけないで。ぼくは今、ただの銅像だ」
「・・・・・・」

さっきまでの威勢はどこへ行った。
情けなくて、
クチバシからため息が出た。

「何が銅像でヤンスか・・・・全然見えないでヤンス」
「ぼくの鍛え抜かれた鋼の肉体ならカモフラージュは可能だ」
「二の腕なんでマシュマロみたいなクセに・・・・」
「マシュマロじゃない。ぼくは銅像だ。無害な銅像だ」

「おいっ!!そこの奴っ!!!」

「「!!?」」

バンビとピンキッドはビクッと心臓が止まりそうになる。
声が恐ろしい。
そしてデカい。
耳から心臓まで響く。

「デムピアスってぇメチャ強い奴はどこだ」

猛獣は嬉しそうに、
楽しそうに、
ギラギラとこちらを見ている。

「・・・・ど・・・銅像は答えません。ピンキッド相手して・・・・」

本当に情けない。

「おいゴルァァア!!!デムピアスはどこだっ!!!」

声の圧力だけで倒れそうになる。
倒れて船から落ちて死にそうだ。

「じ、自分が!」

ピンキッドが前に出る。

「デムピアスでヤンス!!!」

おい。
それは無理があるだろう・・・と。
バンビは銅像の真似を続けながら答える。

「か・・かか・・・かかってこい!自分が相手でヤンス!!」

無理がありまくるが、
さすが海賊団の船員。
いいぞピンキッドと、バンビは応援する。
頑張れ。
そしてそのままぼくのために死んでくれ。
骨は拾ってやる。

いや、
それは無理か。
自分は銅像だ。

あの化け物がいなくなるまでは銅像だ。

「ほほぉ。人はメチャ見掛けによらんな。まぁ人でもないが、俺様は外見で判断はしない。・・・・・が!」

さすがにバレた!?

「まさかデムピアスがディドだとは」

ディドじゃない。
ピンキオだ。
銅像は無心の中でつっこんだ。

「だがパワーを感じないな。漲る漢のパワーを。お前、本当にデムピアスか?」

「・・・・デ、デムピアスにも色々なんでヤンス・・・
 自分はルケシオン海・南の方区・5丁目のデムピアスでヤンス」

「なんだゴルァ!なら海賊王のデムピアスじゃねぇのか!?」

「・・・・ご!・・・・5丁目の海賊王でヤンス!」

無理がある。
無理があるぞピンキッド。
銅像は無心で思う。

だが頑張れ。
あの怖い顔と怖い声の化け物に反論出来るだけ尊敬ものだ。

ぼくなんて・・・・
ちょっとチビっちゃってるし・・・・。

「じゃかしいゴルァア!!!!俺様は強ぇ奴とバトりてぇんだよっ!!」

やばい。
怖い。
無理無理無理。
今すっごい出てる。
パンツの替えが必要。

「バンビさん・・・」
「ぼくは銅像だ・・・」
「じゃぁ銅像さん」

ピンキッドは、
震えていた。
やはり、
やはり怖いのだろう。
ピンキッドも。

ぼくも・・・怖い。

勝てないから。
絶対に。
絶対に・・・立ち向かったりも出来ない。

・・・・怖い。

「銅像さん。逃げてください」
「へ?」
「海賊王になる女なんでしょ!そうでヤンしょ!」

ピンキッドは、
そのクチバシいっぱいに叫んだ。

「自分は今はデムピアス海賊団でも!心はピッツバーグ海賊団の船員でヤンス!
 ジャッカルさんと!バンビさんの船に乗った者でヤンス!あなたの夢は自分の夢でヤンス!」

小さな魔物の背中は、
そう叫ぶ。

「今は小さな波でも、それは浜辺に到達する頃には津波になるでヤンス」
「ピンキッド・・・・」

バンビは、
力を抜いて、
そして、
ダガーを握った。

「・・・・・自分の船員を見捨てちゃぁ、ルケっ子の恥さらしだね」

ピンキッドの横に、バンビは並んだ。
ピンキッドは呆れたが、
少しクチバシを歪めて笑った。

「・・・・あれ?銅像は動かないんでヤンしょ?」
「銅像じゃない。ぼくは海賊王だ」

それでも震えは止まらない。
怖い。
怖いさ。
でも、
嵐を恐れて海に出れるか。
後悔を恐れて航海が出来るか。

「漢だねぇ」

ギルヴァングはニッ・・・と笑った。

「俺様が漢と認めたからにゃぁ相手になってやるよ。いや、相手してもらうぜ!
 漢であるなら!俺様は容赦は出来ねぇ漢だぜぇ!手加減なしのガチンコだ!」

「フフッ、そうか」

バンビは笑った。

「だがこの海賊王になるぼくの御前だ。遠慮するな。・・・・・手加減してくれてもいいんだよっ!」
「・・・・・偉そうに乞わないで欲しいでヤンス・・・・」
「ぼくに勝てる要素は微塵もないっ!!」
「潔すぎてカッコいいでヤンス・・・・」

「ギャハハッ!そうかそうか。だが、"獲物"を扱うのは漢らしくねぇなぁ。
 拳と拳。体と体。ガチンコでぶつかってこそ、漢ってぇもんだろっ!?」

猛獣が、
息を吸い込む。
巻き込むといっていいほどに。
ギルヴァングの胸が、大きく膨らんだ。

「武器なんて・・・・・」

「バンビさん!なんか来るでヤンス!」
「ビーム!!口からビームが出てくる!!」
「それは無いでヤンスが似たようなのが来そうでヤンスっ!!」

「使ってんじゃねぇええええええええええ!!!!!!」

突風!?
いや、
声。
ただの声。
しかし轟音。
響く、唸り声。

巨大なガレオン船が揺れるほどの超振動。

「キャァッ!!」
「ヤンスっ!?」

ウェポンブレイク。
全ての武器を破壊する声。
それ以上に、
バンビとピンキッドを船から吹き落とすほどの威力があった。
あった。
・・・・が。

「・・・・・あれ?」

情けないことに、
顔を背けて手で防いでいたバンビ。

「なんで?」

特に・・・別状は・・・・・

そう思っていると、
横からギュィーーーンと、
乾いた音が鳴り響く。


「いいシャウトだねぇーぃ。ヘヴィでメタルだぜぇーい。
 まるで大地に轟くシンドローム。赤子の目も覚めるスレイヤーヴォイスだ」

ハリガネのように細長い腕の中で、
サメ型のギターをかき鳴らす魔物。

「だ・け・ど。モンスターヘッズ。このシャーク様のロックには適わなかったみたいだねぇーぃ」

ギターをかき鳴らす。

「シャーク!」
「いいところに来たでヤンス!」

「YEAH!時間通りさぁー。パンクチャルな奴は嫌いじゃないだろ?俺は・・・ロッカーだけどな」

ギターをまた心地良さそうにかき鳴らす。
・・・・ギター。
音。
声とは音。
音には音。

ギルヴァングの声は、シャークのギターが相殺した。

・・・・というのは簡単だが、
破壊活動さえ行えるギルヴァングの声だ。
それさえも相殺出来るのが・・・・

「これが、ロック&ロールだ」

どこをとっても細長い体の先、
人差し指を立ててシャークは言う。

「おいおいおいっ!ガチのタイマンに横槍たぁ漢らしくねぇんじゃねぇか!?」

「まずタイマンじゃぁ無かったんじゃないかぁーぃ?
 ・・・・っていうのはこちら側の言い分では無いかもしれないけどねぇーぃ。
 ただ君はお祭り(ライブ)を黙って見ていられるほど大人なのかぁーぃ?」

「ん?・・・・ギャハハッ!確かになっ!俺様ぁ漢であって大人らしさはねぇかもしれねぇ」

ギルヴァングは、
その太い拳をゴキゴキと鳴らす。

「まとめてかかってきな」

それでも負ける要素は無い。
そう言わんばかり。
いや、このギルヴァングという男は、
勝てる見込みがあろうと無かろうとそう言うだろう。

「・・・・・・こいつの相手は・・・・ちょっとばかしアンコールまで持たせるにはドリームが過ぎそうだぜぇーぃ。
 ドメスティックサンダーな空気が立ち振る舞いからハリケーンサイクロンだ」

「俺様だからな」

「だからってステージに幕を下ろすのはロッケンローラーの恥だぜぇーぃ」

「・・・・一応聞いておくが、あんたもデムピアスじゃぁないんだな」

「俺?俺はロックンローラーだぜぇーぃ。そしてまたの名をデムピアス案内人」

「・・・・案内人?・・・・ほぉ!!そりゃぁメチャ好都合だ!
 てめぇを倒せばデムピアスに会わせてくれるんだなっ!」

ギルヴァングは嬉しそうに笑う。
覇気が飛び交う。

「・・・そいつぁ出来ない約束だぜぇーぃ。俺はデムピアス案内人。デムピアスと人を引き合わせる者だねぇーぃ。
 だけどその役目ももう終わった。俺の案内は、人をデムピアスに導く事じゃない。
 デムピアスを人へ導く事だ。今回のこの強行侵入で俺の役目は終わったのさぁー」

今回の空から船での侵入経路。
それはシャークの提案だった。
それでいい。
それで終りだ。

デムピアスは、
きっとあとは一人で"人"へと歩んでいけるだろう。

「訂正するぜぇーぃ。俺はただのフリーマンさぁー。・・・・俺を繋ぐ鎖は何もない」

「いいねぇ!なら後は裸(ガチ)でぶつかるだけだなっ!」

あぁそうだ。
もう失うものは何も無い。
それがロッカーの強みだ。

「ヘイ。パイレーツガール。ピンキオボーイの言葉をワンサゲンタイムゾーンで悪いけどねぇーぃ。
 逃げな。なぁーに?俺じゃぁ勝てなさそうだってかぁーぃ?酷いねぇーぃ。ロックは無敵だぜぇーぃ?
 それらを抜きにしても・・・・・・・ロッカーは演奏中に客を逃がさない事が仕事なんだぜぇーぃ?」
「バンビさん!一度逃げるでヤンス!」
「海賊が仲間を放っておけるか!」
「居ても邪魔なだけでヤンスっ!」
「うぅ・・・・」
「海を守ろうぜパイレーツガール。俺はさぁー。・・・・・・"海"の女が大好きなんだぜぇーぃ」




































「時に時間通りだなっ!パンクチャルな奴は嫌いじゃないっ!」

黒髪パーマの無精ひげ。
ガルーダ=シシドウが嬉しそうに言う。

「貴様が思いついた事はさて置き、動き出すという事は上か下か!時にそれしかないっ!
 今、貴様は下だ。ピラミッドが一つ下がる事は、このガルーダ様が一つ上に行くという事だっ!」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよっ!!」

ドジャーは重い体を無理矢理引きずるぐらいの気持ちで、
距離をとった。

「・・・・カッ、てめぇのマジシャンスロー。距離で威力が変わる事は分かった。それが分かりゃぁ・・・」

「わ・か・れ・ば?」

ガルーダは無精ひげを撫でる。

「今、お前は思いついたよな。・・・時に。時に!俺を倒さなければいけない理由が出来た!
 "仲間の死を遅速させる"・・・・・だったか?なるほど可能だ。時に俺には可能な時間だろう。
 つまり・・・・向かってこなければいけないのに離れた!時に世界は愚かだなっ!」

「・・・・黙れ・・・てめぇの効果範囲から外に出・・・・」

「様子見!?・・・あぁ・・・時に・・・時に愚かだな!その時間が無いからお前は俺に挑んでいるんだろう!?」

時。
時間。
焦る気持ちを無理矢理押さえつける。

アレックスの死からどれだけたった?

過ぎ去る戦いの時間が狂わせる。
もう30分は過ぎてしまったのか?
それともまだ数分とたっていないのか?

「そう。いいんだよ人見知り知らず君。俺は戦いは嫌いだ。俺は弱いからだ。
 時間を稼げればそれでいい。なんならこのまま退いたっていい。今はそういう時間だ」

「逃がすかよっ!!」

「ならどうする」

「くっ・・・」

マジシャンスロー。
人だけでなく、
全てを遅くする。
この自慢の足。
それさえも・・・・近づけば近づくほど無力化される。

「知るかよっ!!!」

ドジャーは両手の指の間にダガーを挟む。
8本。

「人間性能が低いのは了解済みだっ!処理しきれないほど攻撃を与えるのみだっ!」

8本の閃光。
それを投げたのは・・・・いわゆる詰み。

ドジャーが詰みの状況に立たされているという事、
他ならなかった。

それしか出来ないのだから。

「時に愚か。時速1kmじゃぁ交通事故さえ起きない」

当然のように、
放たれたダガーはガルーダに近づくにつれて・・・遅速する。
そして範囲10mほどに達したところで、
それは停止といってもいいほどに速度を無くした。

「くそっ・・・・」

ドジャーは何も出来ない。
だが何もしないわけにもいかない。
距離を詰めず、
とらず、
ガルーダの周囲を走った。
意味など無い。

「時に、お前。1という数字がどれだけ割れるか・・・など試した事があるかな?」

「そんなヒマ人じゃぁねぇんだよっ!!」

ドジャーは走りながら、
周囲を旋回しながら、
ダガーを投げつける。
それも、
空中で止まる。

「割ると減っていくものだ。どんどんと。必ず、間違いなく。間違いなく0に近づいていく。
 ただ・・・・いつになったら0になるのだろう。割って割っても・・・時に割っても・・・・。
 時にそれを踏まえて質問だ。・・・・・"お前は俺に辿り着けるのかな"?」

「黙れっ!!」

周りを走りながら、
ガルーダのマジシャンスローが届かない範囲から、
ただダガーを投げるしかない。

それは全て空中で無残に止まった。

「クソッ!どうすればいい!」

「走ってみればいい。無駄な努力・・・・時にご苦労様。そうしているうちにお前は消耗する。
 俺が何もしなくても人が落ちていく様は快感だ。人が落ちれば俺は上にあがれる」

・・・・全力で突っ込んでみるか。
このままでは攻めあぐねたままだ。
自分の足。
その最大。
無呼吸ブリズを使って最速で突っ込む。

「いや無理だ・・・・ダガーが停止するほどの遅速だ・・・・」

ラウンドバック?
同じだ。
移動しているだけ。
ん?
ラウンドバック?
・・・・・シシドウ?

「時に愚かな時間だな。貴様の考えている事も分かるぞ。経験だ」

ガルーダは、
自分の周りの空中で止まっているダガー達を手で遊びながら、
小さく笑う。

「"ツバメ=シシドウ"なら。ツバサと同じ、あの殺化ラウンドバックならば。
 あれは移動じゃない。記憶の書のシステムを利用した瞬間移動だ。それならば・・・・。
 が、しかし!時に哀しい!ツバサも一度同じ事をしたよ」

「・・・・・・カッ」

そうだ。
あいつの真横に辿り着けてどうする。
やはりそこは遅速の世界。
停止の世界だ。

攻撃は出来ない。

「・・・つーかツバメを呼びに行ってるヒマもねぇか。あいつが今戦える状態なのかも分からねぇし・・・・」

「さぁどうしようか。俺の能力は無敵だ。無敵の防御壁だ。
 俺は何もしないが、お前は何も出来ない。楽しいな!時に楽しい時間だ!!」

時間稼ぎ。
何もしてこない。
向こうはそれでいい。
ならどうする。

攻撃を受けない事だけがドジャーの安心でもあった。
・・・・思考をめぐらす時間など無いが。

「アレックスなら・・・・アレックスならどうする・・・・」

「座標攻撃のパージフレア。ルアスの街で会ったよな?無駄だね。
 発動しなかったのを覚えているだろう?武器、魔力。関係なく遅速させられる」

例外はない。

「そしてまた経験からお前の考えている事を当ててやろう」

「・・・・・んだと」

「とりあえず攻撃は受けないなら・・・・・・なぁんて残念!!」

ガルーダは、
両手を広げた。

「俺は戦闘能力も持たない・・・非・戦闘員だ。攻撃に関しては時にクズでねぇ。
 ただ!俺からの攻撃はないが!時に"お前から"の攻撃はあるんだよっ!」

あれは・・・・
ガルーダの周囲。
空中で停止していたダガー達が・・・・・・

こちらを向いている。

「時に、動き出せ」

「!?」

全てが解放された。
エネルギーを停止させられていたダガー達は、
ガルーダが向きだけ変えて停止させられていたダガー達は、

マジシャンスローの解除と共に、
ドジャーに向かって放たれた。

「くっ!!」

走りながら、伏せる。
転倒と言い換えてもいい。

それでも2本ほど、
ドジャーの体をダガーがカスめた。

「チクショォ・・・・・」

地面に片膝をつきながら、
ドジャーはガルーダを睨む。
肩口あたりから血が滲んでいる。

「いい目だ。その目線はさすがに俺にも止められない。
 まぁどうする。パンクチャル(時間通り)、詰みの時間だな。
 お前はもうダガーも投げられない。何をしてもムーダ!・・・時に愚かっ!」

腹の底から笑うガルーダ。
確かに・・・ダガーを投げる事自体ただの様子見だったが、
それさえももう逆境になりえる。

自分に出来る事は・・・・無いのか?

「無いね」

ガルーダは言う。
腕時計型のベルトを直し、
時間の無駄でも知るように、
すでにドジャーへの興味が引いていた。

「時に詰んださ。時に奇策でも考えてみるか?俺の能力の性質を踏まえれば何もかも意味はないけどな。
 まぁゆっくり話でもしよう。君が堕ちるが、俺はこの戦いの後、華々しい生活をおくれる話などどうだい?」

どうする。
いつもなら・・・
いつもなら・・・・

"また僕に聞くんですか?"

俺がアレックスに聞き、
アレックスがそう答える。

そうすると期待と裏腹にとんでもない事をぬかしやがって、
それでも結果を見ればオーライ。
そんな提案をあいつはしてくれる。

「・・・・クセになっちまってたんだな。アレックスに頼るのが」

英雄だよお前は。
危機を乗り越える才能がある。
奇抜すぎるが・・・。

俺はそんなお前に頼るのが当たり前になっちまってて、
それで、

「すぐ隣にお前が居るのも、当たり前になっちまってたんだな」

だが、
今、隣にアレックスは居ない。
居ないんだ。

「じゃぁ・・・俺は誰に頼ればいい・・・・」

・・・・。

「馬鹿か?」

違う。
違うだろ。
逆。
逆だ。

「俺があいつに頼るのが当たり前になってた中・・・"あいつはいつ俺に頼った"」

金が無い時か?
腹が減った時か?
いや、
いやいやいやいや!

「今しかねぇだろっ!!!」
































「おーいおい。どーなってんだこりゃ」

メッツがドレッドヘアーをポリポリと掻く。
そして大きなドロイカンの上、
ユベン=グローヴァーを見上げた。

「ちょいと散歩に出てきて見れば。情けねぇ事だな副部隊長様よぉ」

「・・・・・・」

ユベンは返事をしなかった。
そして改めて見る。
44部隊の戦いの場。
そこに辿り着いたメッツは光景を見る。

「こりゃまた、ワクワクすんな」

見たことの無い守護動物が、
何匹も、
何匹も転がっていて、
すでに汚れが目立ってきたエース。
吐息が荒い。

ドロイカンに乗っているメリー。
ミヤヴィ。
キリンジとパムパム。

全員が身動き一つしていなかった。

その中心で、
黒の戦乙女は立っていた。

「突然・・・強くなった・・・としか言いようが無い」

「ぁあ?」

「何よりではない」

ユベンとて、
状況を把握している時なんだろう。

「おいおい!仲間のメッツ様が来たんだぞっ!誰か説明しやがれ!
 俺の情報じゃぁ、お前らは勝ってる。倒せそうって聞いたんだがなぁ!」

「黙りなこの筋肉ゴリラ!!」
「僕らも戸惑っているんだ」

完全に押していた。
ツヴァイ=スペーディア=ハークスを倒せる段階まで詰んでいた。
だが、
悪い言い様があるなら火事場のクソ力とでも呼ぶべきか。

ツヴァイはキリンジの守護動物を次々と倒し、
エース、ミヤヴィ、メリーの攻撃も悉(ことごと)く寄せ付けなかった。

「・・・・」

ツヴァイは、
古今東西神話お構いなしの守護動物の死骸の中心で、
不気味に立っていた。

「・・・・・・・オレは弱い」

呟いた。

「弱くなってしまったというべきか。・・・・ただオレの道は間違っていなかった!」

ツヴァイは、
強く黒槍を握る。

「これがオレの新しい力だ!!」

そう言い、
ツヴァイは背後を示した。
背後。
それは・・・・戦い。

終わりかけた戦いがまた活気的に。
援軍の到着で盛り返していた。

「オレは・・・・オレはもう独りではないっ!何故ならこうも心が温かいっ!
 これは・・・兄上と違う道を選んだオレの力だ!オレの誇りだ!!」

仲間。
そんなものは今まで居なかった。
自分の上に、
一つだけ頂点があった。

でも今は・・・・・

後ろにこんなにも仲間が居る。

「オレはリーダーだ。黄昏のリーダーだ!オレはもう負けるわけにはいかないっ!」

そして自分は・・・・弱くたっていい。
頼ったっていいんだ。
助けてくれる仲間が居て、
助ける仲間がいる。

これが自分が手に入れた力。
それは・・・・"助力"

「今のオレに・・・・限界は無いっ!!」

言葉の通り、
ツヴァイの勢いに迷いは無かった。
44部隊とて、攻め入れないほどに。

「・・・・・おいおいどーするよツヴァイ」

エースは両手の武器を投げ捨てた。
気付けばそこら中に落ちている。
天界装備など、
折れて地面に刺さっていた。

何本目の武器なのか。

「なんか開き直っちまったぜ?」
「知るか!あちきのアニマルちゃん達を殺しやがって!!」
「僕はそれでも5分以上優勢には思っているけどね」
「・・・・・関係ない。俺らとて何より負けるわけにはいかない」

ツヴァイはそう言ったが、
メリーは戸惑いながらドロイカンの上でぬいぐるみを抱えていた。

「おいおいなんか分かんねぇけど俺は手伝わねぇからな?」

メッツは、
軽い口調でそう言った。

「俺は俺の用事があるんだ。勝つにしろ負けるにしろ勝手にしてくれ」

「ぁあ!?」
「なにほざいてんだヒポポタマス!このクソゴリラ!」
「メッツ。君、それは部隊を放棄する。ロウマ隊長への冒涜ととるよ?」

「俺は44部隊だが、俺にとっての44部隊ってのはロウマ隊長の部下って意味だ。
 てめぇらは嫌いじゃねぇが、俺にとっての部隊ってのはロウマ隊長の命令オンリーよ」

決まりきった風にメッツは言った。

「そうはいかない」

「そうはいかないってのをそうはいかない」

メッツはやはり軽い口調でユベンの言葉を遮った。
が、
ユベンが静かに感情を表に出している事に気付いた。

「状況云々ではなく、メッツ。お前を野放しにするわけにはいかない」

「ぁあ?」

「・・・・・言っただろう。それがお前を置いてきた理由」

メッツにはやはりよく分からなかった。
そんな、
自分を檻にでも閉じ込めておかなければならないみたいな。

「どうでもいいんだよヒポポタマス共っ!!!」

キリンジが、
ドロイカンの上で叫んだ。

「あちきは大事なアニマルちゃん達を殺されたんだ!
 何匹殺されたと思う?何匹!?ふざけるな!全部あちきの親友だった!」

そう抑えきれない状態で、
キリンジはドロイカンから飛び降りた。
両手両足を地面に付き、
狼女は着地する。

「ツヴァイ=スペーディア=ハークス!あちきはお前を許さない」

「・・・・逆恨みだな。これは戦争だぞ」

「その理由で友達の死を許容出来るかってんだよぉおおお!!!」

メッツは気付く。
キリンジ自身の戦闘は始めてみたゆえの興味。
ただ守護動物を扱うだけの女だと思っていた。

着地のまま構えていると思ったが、
あの四足歩行のような構え。
あれは・・・戦闘の態勢か?

「アニマルの済み良い世界を作るために・・・あちきはお前を倒し!この戦争の後を見るっ!!」

キリンジ。
キリンジ=ノ=ヤジュー。
四足歩行の彼女の前足。
その両手の爪が・・・・・伸びた。
猛獣の如く。

「やめろってキリンジ!」
「僕らが援護するから少し落ち着んだ」
「うっせモンキー共!抑えられるか!アニマルの世界をあちきは!」
「んな事言ってる場合か!単身じゃ自殺行為だ!」
「それにお前が出たら・・・・・・」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああん!!」

メッツは、
その突然の騒音に、
両耳を塞いだ。

「な・・・なんだ?」

やかましい。
耳に響く。
なんだこの声は・・・・。

「くっ・・・なんだ・・・・詩人は一人だと思っていたが・・・・」

ツヴァイも顔をしかめ、
その声をこらえた。

絶叫。
そう呼んでもいい。

「・・・・・しまっ・・・・・時間か・・・・」

戦闘態勢に入っていたキリンジは、
後ろを見上げた。

「うあ!うあああああああああああああああああああん!!!」

その耳をつん裂く声。
それの主は、
キリンジのドロイカンの上。

パンダの服を着た女だった。

彼女は、
ただ我武者羅に泣いていた。

「パ、パムパム!待ってろ!」

キリンジは戦闘を放棄し、
人間業と思えないほどの跳躍を四足で行い、
ドロイカンの上に戻った。

「う、うっせぇ!早く止めろキリンジ!!」
「相変わらず・・・・ノイズにも近いミュージックだよ・・・・」

44部隊の面々は知っているようだ。

「しまった!あちきのウマシカ野郎!戦闘の拍子に"薬"無くしてる!」
「んだと!俺もってきてねぇぞ!」
「僕も探してみるよ」
「メリー!あんたは城行って探してきてくれっ!くそっ!パムパムっ!」

メリーは何度も頷きながら、
ドロイカンを後ろに走らせた。

「おい!なんなんだよこの寄生!あのパンダ女の泣き声よぉ!」

メッツは耳を押さえながらドロイカンの上に目をやる。
わんわんと、
ただただ泣きじゃくるパンダ娘。
ただただ、
親を見失った子供のように。

「何よりじゃない・・・・俺のせいだ」

ユベンは表情を変えなかったが、
自分を責めているようだった。

「・・・もう間に合わないだろう。メッツ。お前は知るといい」

「何がだよ!あーー!うっせぇ!!」

「お前とパムパムが・・・・44部隊に居る理由だ」

「は?」

「うわああああああああああああああああああああああん!!」

疑問より先に、
ドロイカンの上から、
パムパムが跳んだ。
着地などない。

体を横に、そのまま地面と衝突し、
でもそれでも泣いていた。

「・・・・俺が・・・44部隊に居る理由?」

それはロウマに誘われたからで・・・
それでいて、
自分の意志。

「うぇん・・・うぇえええええん!!うわああああああああああああん!!」

パンダ娘は、
へたくそに立ち上がり、
そして、
爆発的に地面を蹴った。

一直線にツヴァイに向かっていた。

「なんだこの小娘は!?」

パムパムはノカンクラブをおもくそに打ち付ける。
盾で防いだツヴァイだったが、
体ごと吹き飛ばされた。

「・・・・な・・・・んだと・・・・・」

呆れる力だった。
おもくそに吹き飛ばされた。
空中で体勢を整えようとしていると、
パンダ娘がクラブを振りかぶって居るのが見えた。

「ったい・・・・・うわああああああああああああああああああん!!」

投げてきた。
ノカンクラブがブンブンと飛んで来る。
ツヴァイは地面に着地すると同時に、
槍を振り払い、
ノカンクラブを弾いた。

「なんなんだ・・・・・」

目に涙を浮かべながら、
パムパムが突っ込んでくる。
思考など何も無い。
ただのヤケクソの体当たり。

何も恐れていないような・・・。

「こんな訳の分からない娘にっ!!」

それならばとツヴァイは槍を突き出したが、
読んでいたのか?
いや・・・
超反応とでも言うべきに、
パムパムは跳んだ。
飛んで避けて、

上からツヴァイに掴みかかる。

「ぐっ・・・離れ・・・・」

「うわああああああああああああああああああああああん!!!」

我武者羅に、
パムパムはツヴァイを数発、アメットの上から殴ったのち、
ツヴァイに吹っ飛ばされた。

「あう・・・・ああぁぁ・・・・・ああああああああああああ!!」

パムパムは、
地面を這うように、
何かを探しながら、
そして見つけたと言わんばかりにノカンクラブを拾った。
ダメージのほどは・・・・分からない。

「おい!説明しろユベン!!!」

メッツは、
戦闘の状況を見ながら、
ユベンに叫ぶ。

「どうなってやがるあのパンダ娘!急激に戦闘力があがったぞ!?
 ツヴァイとタイマンで押してやがる!どうなってんだ!それに理由ってぇのは!?」

「"前頭葉"・・・・を知っているか?」

ユベンは、
冷静に上から言葉を落としてきた。

「・・・・あん?・・・・なんだそのナントカヨーってのは・・・・」

「知らないなら覚えておくといい」

ユベンは、
自分の頭を指差した。

「脳の一部分だ。簡単に言えば、把握・理解を司る組織だと思えばいい。仲介組織だ。
 まぁ語弊はあるが、考えたり、判断・・・・そういった事を決定するものだと捉えてくれ」

「いやだから・・・そのナントカヨーってのがなん・・・・」

「痴呆症や知的障害の原因として多いのが、この前頭葉の障害だと言われている」

知的・・・障害?

「思い当たるか?」

「確かに、あのパンダ娘の言う事やる事は支離滅裂だったがそれがその前頭・・・・」

「違う。"お前自身に"・・・だ」

メッツは、
止まる。
心を抉られたように。
思い当たるか?
それは・・・・。

「"バーサーカーレイジ"」

ドクンッ・・・と、
メッツの心の臓が鼓動した。

「スキルの一つだが、脳内麻薬(エンドルフィン)の快楽で制御を強制的に止める。
 体のリミッターに制御させなくするわけだ。熟練者なら扱う事も可能だが・・・・」

「・・・・・・意図的に発動させる事も出来る」

ユベンは返事をしなかった。
だけど、
メッツは理解した。
小難しい話は苦手だが、
体が・・・・
体が覚えている。

「薬で脳内麻薬を分泌させてリミッターを外す方法。アスリートで言うところのドーピングだが・・・」

「麻薬を使えば・・・効果はてき面・・・か」

自分を思い出す。
忘れるはずがない。
あんな、
弱い、
愚かな・・・・。

「・・・ユベン。・・・・・俺が使っていたのは・・・"???薬"の一種だった」

「知っている」

「使うと・・・自分を抑えきれなくなる・・・・。"やってる"時は無我夢中で・・・終わると後悔だけが残る。
 だから俺は『クレイジージャンキー』なんて・・・いや・・・『レイジジャンキー』なんて呼ばれてた」

メッツは、
ユベンを見上げた。

「あの小娘も・・・・・」

麻薬の・・・。
レイジの。
憤怒の。
中毒者?

「それなら・・・あの力にも納得がいく・・・」

「そうだ。そして・・・お前とは"真逆"だ」

真逆?

「お前は自ら堕ちた。自ら身を滅ぼした。パムパムは・・・・その逆」

他人の手によって。

「ロウマ隊長が拾った時にはもう遅かった。薬漬け。取り返しがつかない状態だった。
 まだ年端もいかない少女だったが、すでに・・・・ジャンク(壊れて)いた」

ジャンキー。
ジャンク。

「じゃぁ今のパンダ娘は暴走状態ってことか」

前頭葉。
思考回路など欠落し、
ただ力を吹き上げている・・・・ジャンキー。

「真逆だ。言っただろう。既にパムパムは取り返しがついていない」

ユベンも、
メッツも、
ツヴァイを相手に我武者羅にぶつかるパムパムを見ていた。

「パムパムは・・・・・・"常時バーサーカーレイジ状態"なんだ」

「・・・・常時・・・だと?」

ユベンは、
自分を責めるように
「何よりじゃない・・・何よりじゃない・・・」
と呟いていた。

「お前も言ってばかりだろう?パムパムの行動・言動。それは日常から理解は不能だ。
 それは日常からパムパムが思考組織が正常に機能していないことこの他ならない。
 彼女は変わってる子・・・なんじゃない。もとから思考を制御出来る機能がないんだ」

パムパムは、
未だ泣き叫びながらツヴァイと戦っていた。
戦い方も、
頭で考えているとはよほど比喩出来ない支離滅裂な戦い方。

・・・・・自分が・・・重なる。

「いや・・・常時ってよぉ。つまり・・・俺にはよく分かる。分かっちまうんだ。
 俺だってレイジ使った後はそのまま病院に入院ってほど消耗食うんだぞ!?」

「リミッターを外すってことはつまりそういう事だ。その場限りの強さに意味なんてない。
 結果的にはその後の自分を傷つけ、弱くしている」

「そーいう事じゃねぇ!!じゃぁなんだ!?あのパンダ娘は日常からレイジ発動してて!
 それで・・・・・・・・クソッ!そんなもん体がどうかなっちまうだろうが!」

「だから彼女は泣いている」

ユベンは、
手遅れな彼女を、
パンダの愛くるしい姿の彼女を、
遠く見ていた。

「痛いんだよ。体が」

「ぁあ?」

「取り返しがつかないと言ったろ?既にキャシャなあの娘の体はレイジの力に耐え切れていない。
 体はキシみ、いつも悲鳴をあげている。激痛が当たり前のように彼女を襲う。
 全身に言葉に鳴らないほどの痛みが伴う。だけどパムパムにそれを表現する術はない」

だから泣いている。
どうしていいかも分からず、
子供のように、
赤子のように。

「薬というのは・・・・お前が摂取していたのと同じタイプの・・・・麻薬に他ならない」

「・・・・んだと?」

「既に全身のガタが来ている。取り返しがつかないほどに。
 俺達にやってやれる事は・・・・その痛みを忘れさせてやる事だけだ」

「・・・・麻薬を飲ませて・・・レイジをさせて・・・・・無理矢理体の力を引き上げてやるしかねぇってことか」

「それさえも何よりじゃなく・・・・手遅れなんだ。ただの麻薬による痛み止めでしかないだろう」

メッツは、
ツヴァイと戦うパムパムを見た。

「・・・・なら・・・やべぇじゃねぇか。それが切れちまったんだろ」

「ああ。今までのツケが今パムパムを襲っている。あと数刻も続けば・・・・・・」

ユベンは続きを言わなかったが、
結果はハッキリしていた。
あまりの苦痛。
あまりの激痛。
それに精神の方がついていかないだろう。

手術とは麻酔があるから死なないのだ。
そういう・・・事。

「パムパムはジャンキー(中毒者)じゃない。だけど、辞めたらそこで終わってしまうんだ」

「求めた力と・・・・代償じゃねぇってわけか」

「あぁ。結局彼女の名前も過去も分からないが、彼女にそんな仕打ちをしたクズ。
 ・・・・・目星はついてる。恐らく52・・・さくら街の奴らの仕業だろう」

「モルモットベイビーって奴か」

「珍しい。知っているんだな」

「病院はお得意様でね」

「何よりなんだか何よりじゃないんだか。ともあれ・・・・仕方無いとはいえ麻薬を与えているのは俺達だ。
 ・・・・・正直・・・・俺達にもこれが正しい事かは分からない。ただ・・・・ロウマ隊長の意志だ」

「・・・・・チッ・・・・」

仲間とはいえ、
どうでもよかった戦いのはずだ。
だが、
あのパンダ娘に自分が重なる。
自分もあぁやって戦っていた時は・・・・

こんなにも愚かに哀しく見えたのか。

「ロウマ隊長の意志っつったな」

「あぁ」

「それは、この俺も哀れみ・・・・"同情"で拾われたってことなのか」

「いや、今お前がパムパムに抱いているのと同じ」

「・・・・どういうことだ?」

ユベンは答えなかった。
ただそれは、
重ねている。
そういう事なのか?
分かる。
この強さと真逆の力を。
愚かさを。
哀しさを。
それは・・・

あの最強の男が、ひと時そうだったとでも言うのか?

分からない。
だとしたら、

やはりあの男は"矛盾の王"だ。

「あったぞキリンジ!!こんなとこに落ちてやがった!」

エースが叫んだ。
握っているのは薬。
中身を知れば、吐き気さえする。

「いいアニマルだエース!おい!おいツヴァイっ!このヒポポタマス!!」

キリンジはドロイカンから飛び降りて、
ツヴァイに言葉を投げかける。

「・・・・・・ッ・・・・なんだ!?」

ツヴァイはパムパムと交戦していた。
どちらかというと今は抑えきっている。
ツヴァイであれば、
やはり鎖の千切れたパムパムとはいえ、
戦いの中で判ってくる。

ただ余裕があるとはいえなかった。

「あちきはお前に攻撃しないっ!だからお前も攻撃するなっ!」

キリンジは、
エースが投げつけた薬をキャッチし、
一歩一歩と近づいた。

「好きにしろっ!オレは何もかもの覚悟をしてきたっ!残虐になる覚悟もっ!
 だが本人に戦う意志と理由が無いならどうでもいいっ!」

ツヴァイとパムパムと戦いは、
ただ泣き声の中での攻防で、
パムパムの型の無い動きと無駄の一切ないツヴァイ。
素人目にはただの泥試合のようだった。

「・・・・・ユベンよぉ。あいつはどうなる」

ユベンはゆっくりと、
答えた。

「また痛みを知らなくなるだろう。自分の体がどれだけ悲鳴をあげても。
 ただこれだけの時間解放しただけで、パムパムの精神も体も消耗仕切っている」

手術中に麻酔が切れれば人は死ぬさ。

「恐らくではなく、完全に、もう戦えないだろう。ミヤヴィ。パムパムを安全な所へ戻してやってくれ」
「了解」
「俺は・・・・」

ユベンの言葉は、
またメッツに戻された。

「これでよかったと思っている。間違っているかもしれないが、
 少なくともパムパムはもうこの第二次終焉戦争に参加は出来ない。
 戦う意志の無いものに戦いを無理強いしたくはない。
 強くなりたくないものも強制しない。弱者を守るのが・・・・俺の強くなる理由なのだから」

だから、
この世界を・・・・。

「あ・・・そ」

メッツは無理矢理興味の無い物言いをした。
パムパムを見ながら、
強さとは・・・それを考える。

「なら、俺の強さへの欲求はこの先に居る。行かせてもらうぜ」

「・・・・無理矢理止めたいところだが、ここから3人でツヴァイを抑えなければいけない事を考えれば、
 そんなヒマはなさそうだ。・・・・・何よりじゃない。俺は副部隊長を失格だな。仲間も守れない」

それは、
パムパムのことか。
メッツのことか。
さながら死んでいった仲間のことか。
それとも・・・・
最強・・ロウマ=ハートのことか。

「魅力・・・か。知りてぇもんだ。最強なんて魅力的な言葉があるならな」

「メッツ」

「あん?」

立ち去ろうとしているメッツを、
少しだけ呼び止めた。

「カルテを見たぞ」

「・・・・・」

「お前自身も分かっていて、それでパムパムの姿を見ても、お前の行動は変わらないのか」

「・・・・だからこそ、もう変えられねぇのさ」

「何よりじゃないな」

メッツは、
タバコに火を付けた。
ユベンの言葉に対抗するように。

「もう一つの・・・仲間のところへ行くんだろう」

「他にどこへ向かうってんだ」

「アレックス=オーランドが死んだという情報はお前の耳にも入ってるはずだ」

他の仲間も。
なら、
お前はどのツラ下げて現れる。

ユベン自身さえ、
仲間の死に懺悔と後悔。
そして自責の念にかられているのに。
それは、
人であり、
戦う者であれば逃れられない。

メッツは、答えなかった。

「・・・・・・世話んなったな」

別れの挨拶としては、
その言葉は少し突き放していた。













































「仲間・・・・・か」

ドジャーは駆けた。

「両手の指の数さえ救えなくて何がギルドマスターだっつー話だよっ!」

さながら駆けた。

「時に・・・・・言葉は大層だが、言動と感情に、行動が伴っていない時間だな
 そうやって俺のマジシャンスローの効果範囲の周りを旋回するしか能がないのか?」

「カッ!黙れっ!!」

言い返す代わりに、
ドジャーはダガーを一本投げつける。
走るのは止めない。

「時に学ばない・・・・な」

それはもちろん、
ガルーダの周りの空気で止まる。
遅速する。
遅速の限界値。
停止する。

「俺は非・戦闘員ゆえ、お前を倒す術なんてない。時に無い。
 だがお前が勝手に自爆することは出来る。俺はそうやって這い上がってきた」

「シシドウ(人殺し)としてか!」

「何度も言っているだろう。俺と・・・・このガルーダとソラ。この二つのシシドウだけは人を殺さない。
 人を殺さず、死なせるシシドウだ。俺は自爆を促し、ソラはずる賢く人のせいにする。
 お前もそうだ。勝手に消耗し、自爆する。俺が上がらなくても、人が落ちれば俺は上に立てる!」

「果報は寝て待てってか!ソリが会わなそうだなっ!」

ドジャーはまたダガーを投げる。
無力に、
それは停止する。

「攻撃能力の無い俺だから分かる。想像出来るぞ『人見知り知らず』。
 逃げながら、攻めあぐねているように・・・・見せかけて!時に策を練っているな!」

「さぁな!」

「時に当ててやろう。一つは俺の処理能力の限界の判断。
 これはNOだ。例え周囲一面ダガーで埋め尽くしたとしても俺は全て止められる。
 二つ目、継続時間の制限。どこかで必ず解除しなければいけないんじゃないのか?そう考えている」

「・・・・・」

「これもNOだ。魔力が尽きればもちろん解除はされるが、まぁ夕焼けを待つくらい気長ならいけるかもな。
 俺は別に切れたら逃げればいいし、喉が渇いたついでにマナリクシャを飲んでも潤うだろう」

「・・・・はなっからっ」

「三つ目」

「・・・・ッ・・・」

「時に俺に攻撃能力が無いことを逆手に、カウンターを仕掛ける。
 今更自分へ返ってくるだけのダガーを投げるのはそういうことだろう?
 解除した隙を突くためにあえて牽制をふって来ている」

お見通しか。
ドジャーは顔をしかめた。

「時に残念だったな。それも悪くないが、そこを突いてもお前が不利だし、
 別に俺としてはダガーに囲まれながら・・・・お前が無駄な努力に消耗するのを眺めていてもやぶさかではない」

「好きそうだな・・・・そういうの」

「好きではない。大好物だ。俺はそうやって生きてきた。時に弱者の生き方だよ」

逆に言えば、
それしか俺の生きる道は無かった。

ガルーダはそう言う。

だとしても、
だからこそか。
ガルーダという男は生き方を心得ていた。
弱者の生き方を。

その男の戦いの渦にまんまと巻き込まれているこの状況。

「打開策・・・・か」

この詰んでいる状況。
ガルーダのテリトリー。
その渦中。

どうする・・・・と考えたところで、
隣に勇者は居ない。

なら、

「悪いが・・・・」

ドジャーは立ち止まった。

「弱いものイジメは大好きでね」

笑い、
手元でダガーをクルクル回した。

「・・・・・ふん。時にその弱者よりも下に落ちた気分はどうだ」

「考えさせられたね」

「パンクチャルな奴は嫌いじゃない。その先に絶望がある。俺は今までもそうしてきた」

人に、
自爆を促してきた。
そうやって人を殺してきた。
自殺こそ、
ガルーダ=シシドウの殺人。

「俺は時に・・・・人より強かった事などない。だが・・・・人に負けた事も無いっ!」

「なら初体験だな。おめでとう」

「・・・・・何?」

ガルーダは顔をしかめる。

「既に、チェックメイトってことだ」

ドジャーは、
ニッと笑い、
片手はダガーで遊んだ。

「インビジダガー・・・・っつってな。既にお前の周囲はダガーで囲まれている」

「・・・・・・フフッ」

なんだ。
そんな事か。
ガルーダは可笑しくて笑った。

「だからなんだ。お前のダガーは俺に届かない時間だからこそ、俺は囲まれているのだろう。
 解除しなければ問題はない。いやいや、その前に物理運動の方向をお前に向けておくか。
 解除したら何本のダガーがお前を襲うかな。時に俺はその作業にどれだけ時間を裂いてもいい。
 ・・・・おおっと。もちろんそれがお前の狙いなんだろう。解除の瞬間を狙ってくる」

「時間がねぇぞ。早く決めろよ」

「・・・・・」

ガルーダは顔をしかめる。
イラ立つ。
時間が無いのはそちらの方だろう。
自分にはある。
永遠だ。

マジシャンスローという無敵の能力がある以上、
どんな攻撃をしてきたところで無意味・・・。

「おーい。時間がねぇぞ?カモフラの方を解除してネタ晴らししてもいいか?」

「・・・・分かったぞ。爆弾(サンドボム)だな」

ガルーダは冷静に考え、
そして笑う。

「時間・・・つまり爆弾を投げつけていたというわけだ。不可視にして。
 だが残念だ。遅速させるという事は起爆の時間を遅速するという事。
 やはり同じ時間だ。お前は起爆を何十時間待つつもりかな?」

「何十時間も、お前の命の方が持たねぇだろうよ」

「・・・・戯言を。時におろ・・・・・か?」

なんだ?
ガルーダは自分の異変に気付く。

「おやおや、症状が出てきたか。時計おじさん」

「・・・・かっ・・・・」

足が軽くふらつく。
力が・・・。

「何をしたっ・・・・・異常攻撃?・・・・関係ないはずだ・・・どんな攻撃も俺には届かな・・・・」

「お前だけが正常だから、チェックメイトなんだよ」

ドジャーは、
そのまま指をパチンと鳴らした。
ディテクション。
不可視を解除する。

「・・・・あ・・・・が・・・・・」

ガルーダは・・・
囲まれていた。

まず目に入るのは無数のダガー。
言葉通りだ。
インビジで不可視にし、
ダガーはガルーダを取り巻いていた。
しかし、
それ自体は容易い。
特に・・・特に問題はない。

「・・・・貴様・・・・・・」

問題なのは、
その周りを取り囲んでいるもの。

「あーー?よく聞こえねぇーなーシシドウちゃん。それに・・・・」

よく、
見えねぇし。

ドジャーは笑う。

「このっ・・・・・」

ガルーダは歯を食いしばった。
食いしばったところで何にもならない。
あの盗賊。
今は・・・・"見えもしない"ところに居る盗賊・・・・。

「スモーク・・・ボムだと・・・・」

「正解。持ってきてよかったぜ」

ガルーダの周りには、
煙が渦巻いていた。
煙が取り囲んでいた。

もちろん、
煙さえも遅速の対象だ。
それは囲んでいるだけで煙自体がガルーダを飲み込んでいるわけではない。
だが、
しかし。

「苦しいか?お前だって酸素は吸うんだろ?」

カッカッカとドジャーは笑った。

酸素。
まずガルーダが酸素なんてものさえ遅速出来るか。
それは全くの別問題。
どうでもいい問題だ。

大事なのはガルーダを密閉空間に入れること。

マジシャンスローは仇になった。
煙は、消えることなく、
溶けることなく、ガルーダに蓋をする。
空気を・・・密閉する。

「吸ってりゃ減るよな?有限だ。この世で無限なのは時間だけ。なぁそうだろ?」

「・・・こ・・・の・・・・」

時間。
時間。
進めば進むほど苦しくなる。
酸素は減っていく。

「いい提案があるぜ?ガルーダさんよぉ。それは・・・マジシャンスローを解除することだ。
 そうすりゃ煙は晴れるし、息が吸える。自然って素晴らしいなバカヤロウ」

「・・・・そんなこと・・・」

そんなことをすれば・・・
取り巻いているダガーが一斉に自分を襲う。

「・・・・・時に・・・・クソッ・・・」

片手でノドを抑えながら、
ガルーダは空中のダガーを一本一本向きを変えていった。

「多分、お前の言うところの自爆的な無駄な努力をしてるとこだろうよ・・・・持つのか?」

ガルーダが、
この状況から逃れる方法は一つ。
窒息する前にダガーを全て処理すること。

「おかわりだ」

見えない煙の向こうで声。
その返事代わりに、
煙の中からダガーが刃先だけを表し、停止した。

「・・・・おま・・・・」

「大丈夫大丈夫。俺のダガーだって有限だ。尽きるまで頑張れ」

そう言ってドジャーはまたダガーを投げる。
ダガーが追加される。

「怠け者のお前に助言してやろう。ある最強にも説教されたんだ俺も。
 努力は必ず実るものだそうで。ってことで足掻いてみろ。下から見下してきたクズ野郎」

「・・・・時に・・・・時にっ!・・・」

ガルーダの道はもう一つしかなかった。
諦める?
無い。
ならば、
突っ切る。
ダガーの処理など放っておく。
この煙地帯から、抜け出る。

「・・・・なんとか・・・持ってくれ・・・・・・」

空気。
酸素。
こんなに恋しいと思ったことはない。
体が萎んでいくような感覚さえ感じる。
だが・・・
最後の力で・・・
煙の中から・・・・

「あ、言い忘れてたが」

ドジャーがポンッと手を叩く音。

「トクシンもぶちまけたぜ」

「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

煙が晴れ渡る。
行き場の無くなった煙は散々とし、
そして、

その中心には、
無数のダガーで串刺しになったガルーダが立っていた。

「・・・・あ・・・・ぐぅ・・・あ・・・・」

全身から血を流し、
サボテンのように滑稽な姿のガルーダは、
流血の中で立っていた。

「惨めだな」

ドジャーはさながら瞬間移動の如くスピードで、
一気にガルーダの元へと近寄った。
軽い無呼吸ブリズ。

もちろん、
ガルーダが全快ならば、
こんな接近も意味なかっただろう。
遅速によって止められていただろう。

「く・・・はぁ・・・・おそろいで呼吸困難になってりゃ世話ねぇけどな」

その爆発的なブリズで一瞬で間合いを詰め、
同時に、
崩れ落ちるガルーダの首根っこを掴む。
右手のダガーは、
そのままその首に突きつけた。

「変な真似しようとすんなよ」

「くそ・・・・」

「この距離でもマジシャンスローをかけられりゃぁ俺は木偶人形だろうよ。
 だから、発動する素振があったら迷いなくテメェの首をかっ切ってやる」

脅し、
口。
そして刃物だけでなく、
眼でドジャーはガルーダを抑えつけた。

「・・・・死・・・ぬ・・・・・死んじまう・・・時にこの出血だぞ・・・勝負ついてる・・・痛い・・・
 ・・・・・・捨て置いてくれ・・・・負けだから・・・・・・俺の・・・・生かして・・・・」

「そういう奴を散々殺してきたのがテメェの仕事なんだろうが」

「と・・時に懺悔しているから・・・罰も受けるから・・・・・死にたくない・・・・」

哀れなものだ。
これが、
死なす側の人間か。
自分の命を晒さずに人を落としてきた者か。

「・・・・・安心しろ。てめぇのマジシャンスローは逆に便利だった。
 投げる勢い殺しても停止させておけたからな。深くはやってねぇ。
 御馳走は・・・・・・腹八分目ってところだ。感謝しな」

「そ・・・そうか!・・・ありがとう!ありがとう!!・・・・時に・・・慈悲に感謝・・・・」

「ざっけんなよっ!!」

「ひぃ!?」

ドジャーはダガーを首に突きつける。
皮一枚分だけ突き刺す。

「お前の利用価値はアレックスの死を遅速させるところまでだ。その後は知るかっ!」

「わわ・・・わかった・・・それでいい・・・それでいいから・・・・。
 俺は戦いが苦手なんだ・・・・出来るなら戦いは避けたい・・・から・・・・」

「それでいい」

ガルーダは、
鼻血混じりの血だらけの顔で、
軽くヘヘッ・・・と笑った。

「・・・あ・・・いや・・・要求だ・・・・」

「ぁあ!?」

「い・・・いや・・・・それでも俺が・・・アレックスって奴にマジシャンスローかけなきゃ・・・だろ?
 ・・・・やるかどうかは俺の意志・・・・だ・・・・・。だから・・・・生かすと約束出来れば・・・・・」

「てめぇが要求出来る身分か?!あ!?」

「・・・・フフッ・・・・時に・・・出来るだろ・・・・」

俺の力が・・・
欲しいんだろ?
必要なんだろ?

「下種が・・・・」

こいつは、
今までもこうやって、
小賢しく、小賢しく生きてきたのか。

自分が下でもなんでも、
他人を蹴落として・・・。

「・・・・・時に・・・さっさと決めろよ・・・・・・時間が無い時間なんだ・・・・ろ?」

「・・・・・カッ・・・・分かった保証してやる」

時間。
口車に乗るようでしゃくだが、
アレックスの命には代えられない。

守らなければ。
今度は俺が助けてやらなければいけないのだから。

「へへっ・・・・パンクチャルな奴は嫌いじゃないぜ・・・・時に世界は頼もし・・・・・」

ガルーダが、
不意に眼を見開いた。

「・・・・・殺すな・・・・」

「あ?」

「・・・・俺の命が仲間のために・・・必要なんだろ・・・時にそういう時間なんだろ?
 俺は生かしておくべきだ・・・・いろいろと情報もある・・・だから・・・・」

「何言ってんだ?」

突然動揺を始めた。
深くやりすぎたか?
死なすわけにはいかない。

「シシドウの情報なんてどうだ!・・・教える・・・教えるから殺すな・・・・・。
 シド・・・シシドウとか・・・・いや・・・俺もそれはあんまり・・・・。
 ・・・・けど!時にソラの情報なら・・・・あの最悪野郎の事ならなんでも・・・・」

「いいから来い!時間がねぇんだ!」

「ソラッ!ソラは!俺が居ねぇと何しでかすか分からねぇぞ!・・・・俺は・・・生かすべきだっ!
 最悪って意味なら・・・・あいつはシドよりも最低だ!・・・・全てを台無しにしかねねぇ・・・・
 燻(XO)隊長でも・・・ギルヴァング隊長でもなく・・・・一番警戒すべきはソラ=シシド・・・・」


「黙れ」

第三者の声が聞こえた。
ドジャーの・・・・背後?

「カミカゼ」

その声を確認する前に、
ドジャーの髪を、風が揺らした気がした。

「俺をっ!俺を殺すとソラの野郎がっ!」

「もう貴様は死んでいる」

いつの間にか、
前に。
背後から声がしたはずなのに前に、
イスカの姿はあった。

「・・・・あ・・・・・」

イスカが剣を鞘に収めると同時、
ドジャーの手にあったガルーダの体が、
ゴロンと分かれ・・・・落ちた。

「マリナ殿の敵は全て斬る」

「お・・・・」

ドジャーはガルーダの亡骸を投げ捨てた。

「おいイスカッ!!!何してんだてめぇええ!!!」

無我夢中にドジャーはイスカに飛びかかったが、
いつ抜いたのかという神速の居合い斬りが、
ドジャーの目前で停止した。

「ぐっ・・・・」

「敵を斬って何が悪い」

その眼は・・・・荒んでいた。

「・・・・・何・・・俺に刃向けてやがる」

「お主も敵か?」

「ぁあ!?何トチ狂ってやがる!」

ドジャーは叫んだ。

「こいつはアレックスを助けるために必要だった!
 なんでもかんでも斬ってんじゃねぇ!ふざけんじゃねぇぞ!」

「何もかも斬れば・・・マリナ殿の敵は居なくなるだろう」

「・・・・おま・・・・・」

本当に、
どうしてしまったんだ。
イスカじゃない。
これは、
ただのイカれた人殺し。
ただの・・・・・・・・人斬り。

「クソッ!!」

結果。
結果が全て。
その結果が・・・・もう消えたガルーダの命。
アレックスの死を遅速させられる希望。

「・・・・ぐ・・・うぅ・・・・」

もちろん、
"ソレ"は分かっていた。
頭に過ってはいたが希望にかけた。

ガルーダでも死は止められないんじゃないだろうか。

もちろん肉体の死は止められるだろう。
だが、
今の30分というのは魂の問題。
魂を遅速させられるかとなると・・・別問題。

だがそれでも他に道は無いからそこに賭けた。
だが・・・・
この女が断ち切った。

「イスカ・・・・てめぇ・・・・」

「拙者の敵という事はマリナ殿の敵だな。殺すか」

「・・・なっ・・・・」

イスカの手に、
躊躇も無く、
無情に、
冷静に、
力を込められた。

「・・・・・マリナ殿?」

一瞬、
イスカの表情が緩んだ。
何かと思い、
目線を追えば・・・・。

マリナだ。
赤いドレスにブロンドの長髪。
間違いない。

マリナが今横切っていった。

「マリナ殿・・・・拙者だぞ・・・拙者が見えないのか・・・・」

既にドジャーに興味など無く、
いや、
イスカの眼にはマリナしか見えておらず、
剣は下げられた。

「貴方の従者・・・・護者だ!・・・・マリナ殿!・・・拙者は・・・・」

イスカは追いかけた。
マリナの後を。
他に何もいらず、
ただ夢中に。

「・・・・・・チクショウ・・・・・」

取り残されたドジャーは、
ガルーダの亡骸の横で、
崩れた。

「どうなっちまってんだ・・・・・俺は・・・・俺はただ仲間を助けたいだけなのに・・・・」

希望がまた絶たれた。
だが、
止まっている時間さえない。
時間は徒労に消え。

だがもうアレックスの命に残された時間など・・・・

無かった。





































「シャークっ!シャークが居る船っ!!」

マリナは嬉しそうに駆けた。
デムピアスのガレオン船が見えた瞬間、
マリナは居てもたってもいられなくなって駆けた。

「シャーク!シャークが来てくれた!」

それは、
マリナにとっては援軍なんかより何百倍も嬉しく、
頼もしかった。

「とりあえずどうしようかしら。船に登るべきか・・・下?どこに居るのかしら」

「おい泥棒猫の一匹」

不意にマリナを呼び止める声。
気付いて立ち止まり、
見てみれば、

男女が数人。

その中に女が1人と、
蜘蛛の糸で作られたかまくらがあった。

「あらスミレコ」

「気安く名を呼ばれたくない・・・・」

スミレコは不機嫌な顔をしていた。
なんで戦場に居てこんなところでボヤボヤしているのか・・・と聞こうと思ったが、
蜘蛛の糸のかまくらから光が零れていた。

「そうだったわね。ウォーキートォーキーズに聞いたわ。アレックス君が・・・・」

そんな時でも浮かれていた自分を責めたくなったが、
だけど、
シャークなら何か分かるかもと考えていた。
自分を、
自分の人生を変えてくれたのなら・・・。

「あと・・・・どれくらい持ちそうなの?」

「アー君の命・・・がか?」

スミレコの眼は、
弱弱しく・・・・マリナを睨んでいた。

「それは・・・・"時間"を知っていて言っているんだろうなこのドブネズミ」

おおよそ険しい目付きをしていた。
マリナとて知っている。
魂の定着時間はおよそ30分。
それが人間の限界。
それが蘇生可能な時間。

「どれくらい時間が経過したかは知らないけど・・・・・まさかっ!?」

スミレコは答えなかった。
俯くように、
ただ前髪のカーテンの裏では、
眼が死んだようになっていた。

「なんだ。イスカとは合流しなかったのか」

遅れたように、
ドジャーが到着した。

「血相を変えて追いかけてやがったが・・・・」

「おい害虫!!!」

スミレコがこだまするほどに叫んだ。

「蘇生者はっ!アー君の蘇生者はどうなった!」

「・・・・・・・」

それに対しては・・・・返す言葉など無かった。
卑怯だと分かっていても、
目を逸らさずにはいられなかった。

「このっ・・・この役立たずっ!!蛆虫野郎っ!!」

スミレコの言葉に反論はない。
スミレコとて、
やりきれない無力感に襲われているのだろう。

「時間・・・・アレックスはどうなった・・・」

スミレコは、
答えなかった。
答えたくなかった。
そんな風に、
前髪で目を隠したまま。

スミレコの代わりに、
近くに居たドライブスルーワーカーズの護衛が答えた。

「マイマネーがこの調子じゃぁなぁ」
「ま、言うところの"遅刻"だ坊や」

「ち・・・」
「遅刻っつーと・・・・」

時間は・・・・

間に合わなか・・・・

「クソォオオ!!!」
「ドジャー落ち着いて!」

自責で壊れそうなドジャーに、
マリナ。

「30分っていうのは平均時間でしょ?誤差はあるはずだわ。
 大丈夫よ。アレックス君は強い人間よ。
 普通の人なら30分でも。アレックス君ならきっとまだ・・・・」

「あんたらは・・・・・」

スミレコの声は、
怒りで立ち込めていた。

「アー君を"特別な人間"だなんて思ってるの!?」

スミレコは、
哀しそうに・・・・・怒り溢れていた。

「英雄だとか・・・・戦いの中心だとか・・・・・勝手に祭りあげて・・・・・・」

そう・・・かもしれない。
ドジャーとて、
先ほどそれは考えた事だ。
アレックスに、頼りすぎなんじゃないか。
アレックスに、重荷を背負わせすぎなんじゃないか。

実力なんて、
この戦いでいえば真ん中もいい方だ。
あいつの強さも、ただの努力のたまものだ。

特別な人間なんかじゃ・・・ない。

「・・・・今、アー君を診ているのはエールという金魚のフンよ。
 好きじゃないけど、大嫌いだけど、聖職者としては世界でトップと言ってもいい・・・」

「だからって安心は出来ないってことね」
「そいつは"蘇生者"じゃなかったってことだしな」

「あのミノ虫が言うには・・・・蘇生の制限時間30分に人間の優越は関係ない・・・そうよ。
 それはそう。人間が死ぬ瀬戸際だもの。どんな人間だって言葉は可笑しいけど死力を尽くす。
 ただの街の人でも、ただの子供でも、英雄でも・・・・同じ事」

「・・・・どっちにしろ・・・タイムリミットってことか」

パンクチャルな奴は嫌いじゃない。
今更ガルーダの言葉が頭に過る。
時間通りだぁ?
俺は、
何も間に合っていない・・・・。

「スミレコ」

「・・・・気安く呼ぶな害虫め」

「城に・・・・一気に行ける方法は無いか?」

ドジャーは真剣だった。
残る可能性に賭けるならば、
蘇生者。
アインハルトの側近と呼ばれている女。
その噂に縋るしかない。

「火葬の直前に復活した・・・・なんてニュースがあるくらいだ。
 奇跡が売り切れてねぇってんなら・・・・まだ動く価値はある」

そして、
諦める価値なんてない。

「・・・・そうね。ま、このマリナさんの店じゃぁ幸せは売ってるけど?」
「そいつを欲しがってる奴が今寝てんだ」
「・・・・よっしゃしゃーない。お得意様のためにいっちょ人肌脱いで・・・・・・」

マリナが言いかけた時に、
空に、
何かが映った。

映ったと思った次の瞬間には・・・・・


「ゴォルァアアアアアア!!!!」


猛獣は、
地面を粉砕して降って来た。

「ギャーーーッハッハッハッハッハ!!やっぱ戦場はいいなぁゴルァ!!」

獰猛な野獣は、
雄叫びをあげた。

「・・・・クソッ!!こんな時に!」

ドジャーは身構えると共に、
後ろを振り向く。

「スミレコっ!アレックスは頼んだぞっ!」

「・・・・・あんたなんかに言われなくたって・・・・おい下僕犬共っ!仕事の時間よっ!」

スミレコはそう言うが、
護衛を言い渡されている傭兵達。
ドライブスルーワーカーズの者達は、
顔をしかめるしか出来なかった。

「マイマネーの命令は絶対だからしゃぁねぇけど・・・・」
「さっすがに・・・」
「コイツの相手は私達の手に余るわよ」

「なんでもいいっ!絶対にアー君を守れっ!」

そして自分自身も・・・
命に変えても・・・。

「カッ・・・・・ガルーダの次にギルヴァングかよ。ハードル上がり過ぎだぜ・・・・
 そんな場合じゃないっていうのに・・・・・おいマリナ!どうす・・・・」

ドジャーはマリナに呼びかけようとしたが、

「・・・・うっ・・・・」

マリナは口を抑えて、
そのまま膝を落とした。
両手で口を抑えて、
いや、
顔を覆って?

「ギャハハハハッ!やっぱ戦場はいいなっ!素晴らしいバトルが山ほどあるっ!
 熱くなるぜっ!血が滾る!燃え尽きちまいそうだ!メチャ!メチャ素晴らしい!」

ドジャーはそこまで見る余裕は無かった。
だが、
それでやっと気付いた。

ギルヴァングは"何か"持っている。
右手で。

「・・・・・・ん?こいつ?こいつか?こいつは・・・・素晴らしい漢だった」

それは・・・・・魔物。


シャークの上半身だった。


自慢の長ったらしい髪と、
ハリガネのように長い手が、
ぶち切れた胴体からぶら下がって・・・。

「シャーク・・・・シャークッ・・・・・」

マリナは、
頭を抱えて、
地面に向かって視線も定まらずに、
ただ見開いて・・・呟いていた。

「・・・・クソッ・・・・」

状況が状況だ。
無理もない。
親が死体になって現れたようなもんだ。

「・・・・ウソッ・・・・シャーク・・・・シャーク・・・・また私を置いて・・・・」

この様子じゃマリナを置いていけない。
ギルヴァングなんか今相手に出来ない。
勝てもしないが、
マリナとアレックスの亡骸があるここを放っておくわけにもいかない。

「タイムリミットさえ切れちまってるって時によぉ・・・・」

目の前には・・・・
最強が一人。
獣王。

「あ?なんだ?こいつ知り合いだったのか?あー・・・悪かったな・・・なんて事は言える義理じゃねぇが、
 誇っていい。こいつは素晴らしい漢だった。死ぬにも惜しいとも俺様だって思った。
 が、真正面からガチりてぇって気持ちがあったし、何よりこいつの実力が手加減なんてさせちゃぁ・・・・」

「うっせ!おい獣野郎!」

正直、
目も付けられたくないし、
既に逃げたい気持ちさえ浮かんでしまっているが・・・・
そういうわけにはいかない。
いかないんだ。

「ギルヴァング=ギャラクティカ・・・・・俺が相手だ」

こんな状況じゃなけりゃ・・・
言わなかっただろうな。
そう思う。
だが・・・・・

「シャーク・・・・シャァクゥ・・・・・・」

マリナがこの状況じゃぁ是に非も変えられない。
むしろ・・・・

「あぁーん?てめぇ武器臭ぇな。漢の臭いがしねぇ」

「どうでもいいっ!」

シャークの亡骸に目をやる。
マリナには恩人かもしれないが、
それ以上に、あの男はデムピアスの側近だった。
それがいとも容易く・・・。
だが、
だが、
それだからこそ、
絶騎将軍(ジャガーノート)だからこそ。

「ギルヴァング・・・・」

ドジャーはダガーを突き出す。

「俺がお前に勝ったら・・・・・・・・アインハルトの所へ連れて行け」

「ぁあーん?」

勝てる・・・のか?
勝てないだろう。
シャークとどんな戦いがあったか知らないが、
見た所、
ギルヴァングとて無傷で済んでいないようだ。
じゃなくとも戦闘の連続。
ツバメが負わせた怪我も治ってるはずがない。

だがそれを差し引いても・・・・・

「勝ったら・・・・だ。約束しろ」

「漢じゃねぇ奴に負ける気はしねぇよ。勘弁してくれよザコ野郎。
 俺様はさっきこのサメ野郎の漢っぷりに惚れてメチャ機嫌がよかったんだぜ?
 素晴らしいパワーを持った漢だった。それを台無しにしてくれちゃぁ・・・」

「役不足は承知の上だ・・・・」

やるしかない。

ドジャーは横目に見る。
・・・・。
スミレコ。
援護くらいは出来るはずだ。
あと傭兵達。
あいつらとて一人一人が自分より強いくらいの実力者。

「・・・・うぅ・・・・う・・・・・」

マリナはこのザマだ。
そして例え揃っていたところでレベルが足りない。
勝てる見込みなんてない。

「まぁ、俺様としては売られたケンカを放るほど漢らしくねぇ事はしねぇし、
 突きつけられた約束を蹴り飛ばすなんて事もしねぇ。いいぜ?メチャやってやる」

ギルヴァングは、
シャークの上半身を投げ捨て・・・ることはしなかった。
丁重に、
敬意をもって地面に横たわらせ、
そしてドジャーを睨んだ。

「やろうか。ザコ野郎」


「やぁああああああああああああ!!!」

突如、
ギルヴァングの真横から何かが突っ込み、
そして、
爆発した。

「ぐっ!!」

ギルヴァングは直撃を受けて怯む。
怯む程度とも言えるが、
直に爆発を叩き込まれて顔色の変化は見れた。

「あれ〜〜〜〜?」

そして、
傍には小さな戦士が立っていた。

「マリナとドジャ〜〜〜〜」

ロッキーは嬉しそうに手をあげて、
ピョンピョンと飛び跳ねた。

「ね〜ね〜?コロラド知らな〜い?」
「バカッ!ロッキー!早くそいつから離れろっ!」
「えぇ〜〜?」

気付くと、
ロッキーの真横に、
猛獣は立っていた。

「わわわわわっ!!」

ロッキーは驚いて後ろに下がる。
だがもちろんギルヴァングはそんなロッキーを攻撃しなかったし、
むしろ・・・・・
嬉しそうだった。

「なかなかのパワーのガキだっ!メチャ素晴らしい!やはり力とはパワーだっ!」

ギャハハハッ!と大いに笑う。
ギルヴァングには効いていないのか?
だがギルヴァングの胴体からは焦げ目と燻りが見て取れた。
効いてはいる。
間違いはない。

「だが!不意打ちたぁ感心しねぇな!漢らしくねぇ!漢なら真っ直ぐガチンコでぶつかってこい!
 そうすりゃお前はメチャ熱い漢になれる素質がある!・・・・・・・ただ・・・・・・」

ギルヴァングは、
大きく息を吸い込んだ。
横隔膜が、
胸が、
膨らんで・・・・・

「武器なんてぇ・・・・・・」

「!?・・・・ロッキー!!避けろっ!!!」
「え?え〜〜?」

「使ってんじゃねぇええええええええええええええ!!!」

ギルヴァングの口から、
波動のような声。
声の暴力が噴出した。

「・・・・こしゃくなっ・・・・」

いつの間に。
一瞬で入れ替わっていた。
オリオールの判断だろう。
一瞬でロッキーとオリオールの精神は入れ替わっていた。

「万物を無機に捉えろ・・・・イノストプレート!!」

避けられないと踏んで、
避けるヒマなどないと踏んで、
オリオールは、
自分の扱える最大の呪文をすぐさま発動した。

ただ、
魔法という分野に対してそれはあまりにも時間は足りなく、
イノストプレートは未完成。

さらに言えば・・・
完成形であっても・・・・声の衝撃波は止めきる事は出来なかっただろう。

「・・・・・うぐっ・・・・」

プレートは声を遮った。
無理矢理に、
無機的に遮断した。

ただ、
声の衝撃波を全て防ぐ事など・・・・出来なかった。

「代われっ!!!ロッキーっ!!!!」

オリオールが叫んだ。

・・・・・。
代わる。
精神の交代。

それが間に合ったか分からない。

ただ・・・
無機物。
物。
モノ。
魔珠(オリオール)

ギルヴァングのウェポンブレイクで・・・・・



カプリコハンマーのオーブは、ピシリという悲鳴と共に・・・・

亀裂が入った。






































・・・・水音?
乾いた音。

ボクは死んだのか?

・・・・いや・・・・

「・・・・・ん・・・・ぐ・・・・・」

エクスポは目を覚ました。
目を覚ませば、
現実の暗い地下水路。
湿った天井。

そしてそれよりも・・・・

「・・・・・・近っ・・・」
「ていっ」

スウィートボックスの顔が目の前にあったかと思うと、
そのまま頭突きがエクスポの顔面に突き刺さった。

「うぉお!!うごぉおおおお!!」

エクスポは顔面を手で覆って、
地面を転がった。

「鼻がっ・・・・ボクの美しい鼻が・・・・」
「あら、あんたナルシストだったの?」
「そういうわけじゃないが・・・・」

エクスポは鼻ッツラを押さえながら体を起こす。

「ててっ・・・・整形は好きじゃないからね・・・・・親にもらった体は誇りなんだ」
「あっそ。じゃぁあんまり死にたがらない事ね」

ん?
言われて辺りを見回す。
もはやいつも通りと呼んで差し支えない地下の景色。

「そうか・・・ボクは助けられたみたいだね」
「ばっかじゃないの。勝手に流れ着いてきたのよ」

エクスポは笑う。
ここは地下水道。
浜辺じゃない。
勝手に打ち上げられるなんてことがあるものか。

彼女の、
スウィートボックスのずぶ濡れの姿を見れば分かる。

「・・・・逃げろって言ったはずだけどね」
「それはまた、恩人に対してあんまりな言葉ね」
「やっぱり助けてくれたんだ」
「むっ・・・・」

スウィートボックスは口を尖らせて目を反らす。

「・・・・泳いで逃げようと思ったらあんたが流されてきたのよ」
「ウソが下手だね」
「私はカナヅチじゃないっ!」
「いや・・・・指摘したのはそこじゃないんだが・・・・」

なんとまぁ素直じゃないものだ。
抽象画が芸術になるはずだ。

「・・・・ボクはどれくらい意識を失っていたんだい?」
「たくさんよ」
「抽象的すぎる」
「ま、一人だったら陸で窒息してるくらいよ」

ほほぉ。

「それはまた、ボクはおいしい場面で意識がなかったみたいだね」
「勝手な想像してるでしょ。私は何もしてないからね」
「なるほど。君の心を読むためには、君の言動の逆を受け取ればいいのか」
「エクスポ。イキロ」
「・・・・・ッ・・・」

本当にじゃじゃ馬な箱入り娘だ。

「んじゃ行くわよ」

スウィートボックスは、
エクスポを放っておいてでも行こうとする。

「どこへ?」
「先へよ」

無論・・・とでも言いたそうだが。

「君は逃げろっていったろ。ここまで来たら君は足手まといでしかない」
「それはウサギの殺人鬼が居たから言った事でしょ?もういないじゃない」
「同じ事だよ」
「同じじゃないわよ。私は助けてもらわないと生還出来ない自信があるわ」
「まったく・・・・」

また面倒を見るのか。
まぁ・・・・・・

「よっと」

エクスポは立ち上がる。

「手に余って死なせちゃったら思う存分怨んでくれ」
「大丈夫。一人では死なない」
「怨念になる前に道連れっ!?やっぱ帰ってくれ!」
「自爆霊になってやるわ」
「字が違う!巻き込むなっ!」
「なによ。爆弾使いなら私一人くらいエスコートしなさい」

まったく本当に・・・。

「スウィート(甘ったれ)だね。君は」

エクスポはスウィートボックスの横に並んだ。
そして、
共に歩いた。

「それで?君はなんでそうまでして戦いの中へ入ってくるんだい?」
「言ったろ?」
「あいにく物忘れが激しくてね」
「・・・・私は自由が欲しい。それだけだよ。騎士団がまた世界を牛耳ったら・・・法が出来る。
 せっかくの無法時代(システム・オブ・ア・ダウン)。罪人には魅力的なのよ」
「あぁ、言ってたね。そんな事」
「ブタ箱が家だからね。門限が厳しくてね。家出したい年頃なのよ」
「箱入り娘の名が泣くよ?」
「そんな名前がいらないから・・・・・」
「君の本当の名前は?」
「・・・・・・・・・」

彼女は答えなかった。
答えたくなかったのか、
答えれなかったのか。
なんにしろ、
聞く意味はなかったらしい。

「ボクの名前はエクスポ」
「知ってるわよ」
「エクスプロージョンのエクスポで、EXPO(お祭り)のエクスポさ。
 外は太陽が美しい。家から連れ出してあげようか?箱入り娘」
「イヤだ」
「・・・・?・・・・・おいおい君は本当に支離滅裂な・・・・」

エクスポは歩きながら両手を広げ、
肩をすくめたが、

「そんな誘い方じゃイヤだ」

彼女は、
歩きながら俯いて、
そう言った。

エクスポは小さく笑って、
彼女の頭に手を置いた。

「芸術家は大事なことは隠しておくものさ」
「・・・・面倒臭い生き物だ」
「君ほどじゃないさ」

これでいい。
エクスポは思った。

今更忘れ形見なんていらない。

きっと心なんてものは、
自分の散り際を華々しくしてくれるだろう。
でも自分以外には同時に哀しみだ。
死ぬ覚悟をしてきていて、
きっと死んでしまうだろう自分には、
そんな装飾・・・・・ズルいだけだ。

「こっちだよ」

分かれ道で、
スウィートボックスはエクスポを案内する。

「迷わないでくれよ」
「私は迷ったことなんてないわ」
「かもね」
「・・・・・・何その疑いの目・・・」
「疑ってないさ。確信してる」
「・・・・・むぅ・・・・」

それでもやっぱり、
ここにきて、
彼女が頼りなのは間違いはない。

「ねぇエクスポ」
「ん?」
「ブタってイノシシから品種改良された家畜用の生物って知ってる?」
「あぁ・・・・」

ジャンヌダルキエルがそんな事言ってた気もする。
家畜に神など居ないと。

「じゃぁブタ箱育ちの私はなんなのかしら」
「神じゃないのは知ってるさ」
「なら人として生きてこれたのかしら」
「それまた・・・・」
「自由が欲しいのよ。あなたはその希望」
「そんな遺言紛いの事を下手に口にすると、死にやすくなるよ」
「・・・・なら言わない」
「おっとっと。そんなリアリティの無い俗話を信じるなんて、君はなかなかロマンチストだね。
 それは重要だよ。ロマンチストっていうのは芸術家の第一条件だ」
「脱獄の芸術家である私だからね」
「そこはリアリズムを持とう」
「うっさい!」

そう思っていると、
その道の最中・・・・

アメットをかぶった男。

「!?」

エクスポは気付くや否や、
爆弾を手にする。
スウィートボックスはそれよりも早くエクスポの後ろに隠れた。
こんな事だけは素早い。

「・・・・・敵・・・・以外にはありえないよね」

エクスポはそう思った。
事実そうだった。
だが、
そのアメットの男は道の端に立っているだけで、
攻撃してくる気配はない。

「妙だな・・・・」

だがだからこそ気付くのが遅れた。
その道には、
その道の両端には、
アメットをかぶった男達。
つまり騎士達が並んでいた。

「通れ」
「部隊長がお待ちだ」

そう。
それは待ち構えていたというよりは、
歓迎してくれているかのよう。

「・・・・行くの?エクスポ」
「行くさ」

エクスポは、
スウィートボックスもろとも、
その道を歩んだ。

「気味悪いな・・・・」

騎士達は、
道の端に立っているだけ。
ほんとうにそれだけ。

気味が悪い?
その表現は言い得ている。
当たり前だ。
部隊長というのは、間違いなく、
あの、キャラメルとかいうトカゲ男だ。
気持ちが悪いが口癖の。

「・・・・間違いなく罠じゃない?」
「入らないと蟻地獄には届かない」
「そうだけど・・・・」

騎士達の脇を、
中央を、
歩いていく。

いつの間にか下水から反れていた。
ただの地下道。
城の真下だと確信できるほどに、
立派なレンガ造りになっていた。

「やっと上を目指せるんだね」
「・・・・それまた楽観的ね・・・エクスポ。私には地獄へ下ってるように感じるわ」
「それならそれでいいさ」
「へ?」
「皆に会える」

レイズに。
チェスターに。
ジャスティンに。

「何も成し遂げずに逝くほど、ボクは自己満足で終わらないけどね」

他人を巻き込む自己満足。
それが芸術家だ。
まだだまだ・・・・
まだ自分の命は彩っていない。

「・・・・・・・・」

エクスポは止まった。
足を止めた。
行き止まり・・・はたまた生き止まり。
ただそこには、

扉があった。

「入れ」
「入るといい」
「きっといい気分だ」

騎士達が、
嫌悪感のある笑いをする。

エクスポは、
一度思い留まったが・・・・・
扉を押した。

そこでやめておけば後悔なんてしなかっただろう。

地獄の扉を開いた。

「・・・・・・・・・・」

中は薄暗いままだったが、
静かに騒がしかった。

「なんだ・・・・これは・・・・・」

エクスポはただ、
目を見開いて固まった。
中の光景に絶句した。

「・・・・・・・・・」

男が居た。
男は「痛い・・・痛い・・・」と言いながら、
ナイフで自分の足をえぐっていた。

女が居た。
女は「さんびゃくろくじゅ〜・・・」数を数えながら、
大事そうに抱えた赤ん坊にクギを刺していた。

男が居た。
男は「明日は天気かな?今日は夜だな」と呟きながら、
目隠しされたまま首を吊っていた。

女が居た。
女は「快楽が欲しいよぉ〜」と叫びながら、
首を繋がれたブタにしがみ付いていた。

子供が居た。
子供達は「おっにさんこっちら!」「べろべろばー」と笑いながら、
死体に思いのまま罰を与えていた。

「・・・あ・・・うっ!・・・・・」

スウィートボックスは、
エクスポの後ろで口を押さえたが、
たまらず嗚咽した。
そんな彼女にも気を使えないほど、
エクスポは方針状態に陥っていた。

「・・・・・美しくない・・・・」

分かる事はそれだけで、
ここがこの世なのか、
それとも地獄なのか。
自分は正常であるのか?
それともこれが世の正常なのか。

そしてこれは現実なのか・・・
ただの悪夢であって欲しい。


「オラッ!うっせぇぞっ!」

パシンッ!と甲高い音が鳴り響いたと思うと、
幾分かこの光景が静かになった。
それでも錯乱・・・・
錯乱の奇行でただあって欲しいと望むからそう表現するが、
錯乱したままの者も居た。
条理が行き届かない、
取り返しの無い場所であることだけは理解できた。

「お客さんが来たってのによぉ」
「まったく。幸せな奴らだねぇ♪」

正常・・・・と表現していいのか。
いや、
この場で正常でいられる人間を正常と呼んでいいのか。
ただ、
二人の男がそこに居た。

「お見苦しいところをお見せしたよ。芸術家」
「まぁここはこういう場所だから楽しんでくれればいいんだけどね♪」

全てを理解した。
この二人の男を見たからじゃない。
この部屋。
その二人の真後ろの壁を見て、
エクスポは理解した。

この最悪な地下の部屋に、
大きく血文字。

ただ二文字。

"X"と"○"

「自己紹介をさせてもらおうか」
「クキョキョ♪そうだね♪」

二人の男。

「ご存知、俺はキャラメル」

地下水道で出会ったトカゲ男は、
着替え、
海賊のような格好で身なりを整えていた。

「俺の方はフラン」

もう一人の男は、
貴族のような清清しい格好をしていた。

「俺は第35番。囚番部隊・部隊長」
「俺は第36番。拷問部隊・部隊長」
「キャラメル=クロス」
「フラン=サークル」

キャメル船長の格好をした男と、
フランゲリオンの格好をした男は、
同時に両手を広げ、
胸糞悪くなるような嬉しそうな声で、

「クソっちの私室に」
「ようこそっ!」

XOの血文字をバックに、
笑っていた。

「燻(XO)・・・・だって?」

エクスポは、
ただ律儀に・・・精神状態を保てぬまま聞くしか出来なかった。

「そ」
「そぉー♪」
「地下の秘密の一つ目の閲覧おめでとさん」
「どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」
「いい気分だろ?」
「いーや!気持ち悪っ!って感じだろ?」

各々別々の笑い方で、
ただ胸糞悪く、
フランという男とキャラメルという男は笑っていた。

「どういうことだ・・・・」

なんとか、
問いを続ける事は出来た。

「どういうって聞かれてもなぁ?」
「そーそー。ハッキリしないと怒られちゃうよ?クソっちに」
「あえて答えるなら見たままだ」
「うんうん。ハッキリしてるね」

「お前らが・・・・・」

睨む気力もなかった。

「お前ら二人が・・・・燻(XO)なのか?・・・」

「は?何言ってんのこいつ。気持ち悪っ!」
「いやいや、クソッちと間違われるなんて気分いいじゃないか」
「そーかなぁ?否定する」
「いーや。俺は肯定するね」

フランゲリオンの格好をした男と、
キャメル船長の格好をした男は、
同時に、
背後の血文字を指差す。

「俺らがクソっちになんて成れるわけないじゃない」
「俺達はただの"半人前"のクソ野郎さ」
「俺はキャラメル=クロス。半人前の"×"だ」
「俺はフラン=サークル。半人前の"○"だ」

あの史上最低のクソ野郎と比べたら、
まだまだヒヨッコだ。
なんて・・・・嬉しそうに話す。

「あれれ?なんか答えてよ。気分悪っ!」
「いやいや。度肝を抜けたなら気持ちいいじゃないか」

「半分だと・・・・」

こいつらに、
あまりしゃべらせたくもない。
だけど、
現実をつかめない。

「・・・・・お前らは燻(XO)のなんなんだ」

「なんだって言われるとー・・・・・友達?」
「どっちかっていうと子分じゃないか?」
「見習いかなぁ」
「いーや。どう突き詰めてもクソっちのレベルには成れないって」
「言えてる♪」

「お前らはっ!!」

「怒んなよ」

フランゲリオンの格好をした、
フラン=サークルという男は、
フランゲリオンのムチを地面に打ち付けた。

「クキョキョ♪どーきゅーせーって奴♪」
「クソっちとは学校の時からのダチだ」
「たぁーのしかったなぁあの日々♪」
「だな。心を魔物に売った」
「俺はキャメル船長の格好して〜〜」
「俺はフランゲリオン」
「クソッちはネクロケスタで〜〜」
「3人で鬼畜倶楽部なんて呼んでたな」

フランとキャラメルは、
同時に笑い飛ばした。

・・・・何がおかしいのか。
もう出来るだけ視界に入れないようにしたが、
周りの景色。
・・・・最悪だ。
血と快楽と臓物。
地獄と呼ぶのも嘆かわしい。
地獄とは罰だ。
ここに居る彼らは罰を受けるような者達なのか?

「罰(ばつ)は宴(えん)」
「クソっちはよくそう言ってたよ」

至極当たり前のように。
自分達のやっている事に後ろめたさが無いように、
クソ野郎共は答えた。

「この世は二種類なんだよね〜」
「この光景見ればハッキリするだろ?」

・・・・・その通りだ。
自分はこのクソ野郎達と・・・・
同じだと考えたくはない!

「まてまてまて!」
「その危なっかしいもんまず仕舞えよ」

バクダンに手をかけたエクスポを、
キャラメルとフランは制止する。

「地下には秘密がいっぱい♪」
「まだ一つ目・・・いや二つ目か?」
「宴は用意してあるんだよ〜」
「全部見た方が気分いいだろ?」
「気持ち悪くなるかもしれないけどね♪」

「・・・・秘密だって?」

「でもいいのかー?フラン。クソっちにはさぁ」
「あぁ。主役であるアレックス=オーランドを招待しろつってたな」
「でしょ〜?」
「だけどそれが死んだって情報が入ったから、逆に招待してやったんじゃないか」
「そうでしたぁ〜♪」
「まぁだがどこまで見せてやるべきか」
「・・・・にしても気持ち悪いほど役に立たなかったな」

Xと○のクソ野郎達は、
同時に目線を向けた。
それはエクスポにじゃない。

・・・・・・・・・。

分かってはいた。

この二人を見た後、
この二人の部隊名を聞けば、
それがどういう事かは。

思い返せば、
初めてキャラメルと遭遇した時の彼女の反応は、異常だった。
嫌悪感のある奴だが、
吐き気と共に錯乱するほどじゃない。

「おいおい知った仲だろ〜?」
「怖がるなよ奴隷ちゃんよぉ」

彼女は、
逆らえなかった。

導いたんじゃない。
引きずり込んだんだ。
自分を。
命令されて。

この地獄に。

でもそれでも、だからこそ、
実は騙されていたからこそ、
エクスポには彼女を守る理由がある。

主役じゃなくて自分を選んだ事も、
何度だって道を間違えた事も、
そして命がけで助けてくれた事も、

抵抗できない彼女の、
小さな抵抗で。

「そいつは面白ぇよ?希望を見せてやれば何度だって活き活きする」
「だーーつごくゲェーーム!」
「俺達から逃げ切れるなんて無理なのにな」

「・・・・・・・・・黙れ」

エクスポは、
震える彼女の肩を、
小さく抱く。

「あまりに美しくないゲス野郎共め・・・・」

胸が高鳴る。
心臓が動く。
時計のように。

なるほど。
シド=シシドウ。
やはり、
ボクは君とは鏡映しだったようだ。

殺意ってものが抑えきれない。

「てめぇら・・・・跡形もなく・・・・ぶっ殺す」
































                 






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