「アレックスぶたいちょアレックスぶたいちょ!」

真っ白な世界が、
また360度、思い出のビジョンに変貌する。
世界が自分の脳内の電子記憶で満たされる。

                        「待ってくださいアレックスぶたいちょっ!
                         どこ行くんですか?隠しッこ無しですよっ!
                         エールさんは副部隊長なんですから!
                         トイレ以外ならどこへでもお供しますよっ!」
                        「いえ、別にいいです」
                        「そぉーんなっ!オカマじゃないですかっ!」
                        「仲間・・・・・です」

記憶で満たされる。
いやになるほど。

「・・・・・あのウザったらしいのはなんだアレックス・・・・」

自分の脳内の世界で、
自分の映像が映し出される中、
その中心に浮かぶように二つのベンチ。
一つにはアレックス。
もう一つにはレイズ。

「懐かしいですね。騎士団時代です。あれはですね・・・・」
「・・・・死ねばいいのにな・・・・」
「説明のカケラもしてないのに結論を出さないでください」

前後上下左右、
全てに映し出される自分の思いでの中。
それはルアス城の廊下で、
自分が歩く後ろを、
当然のように追いかけてくる一人の女。

「あれは僕の部隊の副部隊長のエールさんです」

説明を終えながら、
なんで今更彼女の事など思い出すのだろうとも思う。

「・・・・クックック・・・・思い出した時に頭に浮かぶ・・・・それが嫌か?」
「いえ、必然です。副部隊長という役職も助けて、彼女自身の行動も助けて、
 どうやったって騎士団時代の映像から彼女を切り離すのは不可能ですから」

そうだった。
だけどこの2年。
"騎士団時代の中身まで思い出す事は無かった"

「戦いが戦いですからね」
「・・・・背徳感があるからだろ?・・・・」

さすが自分の脳内の、
さらにベイ=レイズという存在だ。
思い詰められる事をサラリと言って来る。

「・・・・クックック・・・・・彼女はお前が殺したようなもんだ・・・・・」
「・・・・そうですね」
「・・・・彼女だけじゃない・・・・他の医療部隊の面々も・・・・他の部隊の面々も・・・・」
「言ってしまえば、騎士団なんて僕が壊してしまったようなものです」

裏切った。
裏切り尽くした。

「吹っ切れてはいないのか」
「消えませんよ。これだけは。その懺悔も含めた戦いなんですから」

だけどそれも戯言で、
偽善だ。
償えるものじゃない上に、
さらに裏切りを重ねているようなものなのに。

                      「アレックスぶたいちょっ!アレックスぶたいちょっ!
                       今日のエールさんの御飯はですねっ!
                       パスタライシュ・・・噛んだ・・・・パスタライスの大盛でしたっ!」

                      「そうですか。僕はそれをサラダ代わりにして、
                       味噌汁代わりに味噌ラーメンと御飯にカツ丼。
                       オカズにステーキ定食を食べました。ドリンクはクッパです」

「お前の胃袋は圧縮袋で出来ているのか?」
「まさか」

普通ですよ。
・・・とアレックスはレイズに返しつつ、
その映像に目を向けていた。

自分がどれだけ足早に歩いていようとも、
それを必死に追いかけてくる彼女。
それが日常だった。

「・・・・・よく見ると映像の端の方に・・・・暗いストーカーが映っているが・・・・」
「それは心霊映像ですから放って置いてください」

チラリチラリと見えるスミレコの映像は、
目に映らないフリをした。

「・・・・それはそうと・・・・」

クックックと笑いながら、
レイズは映像を観賞する。

「・・・・すれ違う人・・・すれ違う人・・・・お前らの事・・・あまりいい目で見てないな・・・・」

目ざとい人だ。
自分がこの人をそう評価した結果か。
事実、
過去の自分の思い出。
その中、
廊下ですれ違う騎士団員達は、
過去の自分を冷たい目で見てはひそひそと話す。

「・・・・・・基本的に良くは思われていませんでしたから・・・・・」

過去の思い出の映像を見ながら、
過去の思い出を思い出していた。

                        「アレックスぶたいちょっ!アレックスぶたいちょっ!」

それでも必死についてくる彼女の思い出が、
目を逸らしたいのに映し出されていた。
それでも思い返さなくてはいけないのだろう。
僕は・・・。

「僕は王国騎士団でたった二人の反逆者。アクセル=オーランドとエーレン=オーランドの息子ですからね」
「・・・・らしいな・・・・」
「それだけならまだしも、若い人間が部隊長になるっていうのはなかなかに人の気を悪くします。
 黄金世代なら当たり前の事でしたが・・・いえ、黄金世代が居たからこそ、騎士団の地盤は固まっていました」

騎士団は黄金世代によって出来上がっていた。
いや、
たった一人の絶対によって作りあげられてしまっていた。
そう表現するべきだろう。

「だからその騎士団の中で僕のような若い人間が部隊長になるのは反感を高額で買うようなもんで」
「・・・・自慢か?・・・・死ねばいいのに」
「自慢です」
「・・・・死ねばいいのに・・・・」
「そして誇りでした」

相変わらず、
過去の自分は廊下を歩いている。
他人の目線が気にならないわけじゃなかった。
だけど、
それに堪えて、あえてその道を歩んだ。

「母の医療部隊を継いだ形なので、両親の死を利用して成り上がったクズだとも思われてました」

レイズは皮肉に笑ってくれた。
その方が助かった。

「なんにしろ、20代になってばかりの若造が一つの部隊の隊長と副部隊長ですからね」

目の上のたんこぶとでもいうか。
実力云々を除外しても嫌われて当然だ。

「・・・・・お前が部隊長になった・・・・・実力・・・・経緯は分かったが・・・・」

聞いて欲しいんだろ?
いや、
聞かれたくないんだろ?
そんな皮肉な笑みでレイズが聞いてくる。

「・・・・・その・・・エールという娘が副部隊長になった理由は?・・・・」

実力が備わっているのは当然とするが、

「・・・もし・・・・それが他の者を凌駕していても・・・・年功序列を蹴飛ばす"何か"があったんだろう?・・・・・」
「・・・・・・・・・」

今思い出しても、
彼女は副部隊長なんて役職にそぐわない。
実力はともかく、
人の上に立つ、
人をまとめる才能と魅力なんてものはなかった。
むしろその逆だった。
でも。

「・・・・・・騎士団の中ではむしろ珍しいわけではないんですが・・・・」

だからこそ、
彼女。
エール=エグゼを説明するのは、
心が痛んだ。
いや、痛む時点ですでに自分は最悪だ。

普段はそうじゃなかった。
けど、説明という場になれば、
それは彼女の辛い特徴を説明するようなものだから。

それでも彼女は健気に、
そんな素振もなく自分の後ろを追いかけてきていた。

「レイズさん達の街。見捨てられた街。連数を無視した99番街があるなら、
 ルアスには、最後の街とも呼ばれる52番街という街があります」
「・・・・・・知らん奴はいない・・・・・」
「僕と別に、彼女が変な目で見られるのはそれが理由で・・・」

それはつまり差別でもあり、
禁句でいうところのえたやひにんのようなもので、
それはやはり人が作った最悪で最低な出生だと思う。

「モルモットベイビーというのをご存知ですか?」





































「あ〜あ・・・・・」

エドガイは、
戦場で空を見上げた。

「売っちまった過去のはずだ。思い出すなよ。目に涙もねぇよ」

顔をしかめる。
あんな街の事はもう忘れた。
思い出は売り払った。

「が、騎士団を見て思い出さないわけがねぇ・・・わな」

だからこそ、
エドガー=ガンマレイ。
γ線のエドガーは、その名を売り、

「俺ちゃんはエドガイ=カイ=ガンマレイだ」

そして、
騎士団を拒否した。

「まぁ血液がRh-型の人間程度に溢れてる境遇だ。俺ちゃんが悲観するこっちゃねぇさ」

それこそ、王国騎士団に溢れてる境遇だ。
いや、世界にも。
ただそれを誰も口にせずに表沙汰にならず、
その境遇の者もしっかり生きているのは、
あの瓶詰めの街の意志であり、
実験体の反抗心でもあるからだろう。

「涙目だからねぇ。"こっち側"の奴にも、おたくもそうなんだろ?って奴は何人もいるが」

お互い口には出さない。
それでいいと思う。

「まぁどうでもいいわねぇ。この戦争に関係ないし、誰だって苦しい過去はある。
 戦っている人間にゃぁ誰にだって背負ってきた価値がある。"負債"って奴がな」

ふと視界が広がった感覚。
目を覚ませば、
やはり世界は戦場。
敗戦も戦と言うならば、
ここは戦場に代わりは無い。

「毎度の事、死ぬこと死ぬこと。世の中だねぇ」

鞘(さや)も無しにベルトにひっかけただけのアスタシャは、
地面を削りながら引きずられていた。

「右見て死人。左見て殺し。これだから傭兵は食いっぱぐれない」

人間は殺し合いが好きだ。
なら、
戦争は無くならない。
傭兵業に不況は無い。

「さて、やろうかポルポル君」

エドガイは片目を凝らした。
敗戦ムードの戦場でも、
戦いは止まる事なく視界全域で繰り広げられていた。

その中でエドガイの視線は定まらない。
正しくは・・・

敵をまだ見つけてもいないというマヌケな現状だ。

「あーあー」

エドガイはWISオーブを口に当て、
部下達に連絡を取る。

「お前ら出来るだけ戦争を引き伸ばせ。このままじゃ数分も持たずにエンドだ。
 そうなったらタイムオーバー、俺ちゃん涙目。世界はご臨終。
 命なんて使わず捨てたら損だ。使って死のうぜ。悪いが命くれてくれ」

通信の向こう側では、
傭兵達の迷いの無い返事が聞こえてくる。
こんな一言で彼らは死ぬだろう。
2万の敵を前に勝てない戦いを行い、死ぬだろう。

だがタイムオーバーを伸ばすためだけなら、
それだけで彼らはまた命をも投げ捨てる。

「およっ?」

爆音にエドガイは耳を傾けた。
耳どころか視界に入る。
それは地面が跳ね上がって、敵達が巻き上がっていた。

「『ロコ・スタンプ』坊やか」

ロッキー。
今現状で自分以外にあれ程目立つ戦いが出来るのは彼ぐらいだ。

「っつっても・・・・戦ってんのかねぇ?」

その様子を凝視すれば分かる。
周りのザコ共などただのゴミだ。
ロッキーは、見えない何かと戦っているように見える。

そう思っていると、
氷柱が5個ほど空に浮かび、
その地点に落下していっていた。

「・・・・・・・・・居たねぇポルポルくぅ〜ん・・・・」

間違いない。
"魔弾"ポルティーボ=D。
この乱戦の戦場であぁも的確に魔法を放てるのは、
魔術師の中の魔術師。
彼ぐらいしかいない。

そして彼自身も、
対抗馬はロッキーしかいないと判断したんだろう。

「無駄が嫌いだったからねん・・・・ポルちゃんは」

エドガイは頭をポリポリと掻く。

「いや」

だが、
続く魔法は別の地点に落下した。

「対抗馬をもう一匹見つけましたん?」

無駄が嫌いなポルティーボ。
その彼が二点を攻撃している。
片方がロッキー。
ならばもう一人は・・・。

「侍の可愛い子ちゃんか」

ポルティーボ=Dは、
ロッキーとイスカの二人に目をつけ、
仕留めに来ている。

「この短い時間でこっちの重要戦力を分析したか。さすがポルポルッくぅ〜ん。
 効率マシンの無駄嫌い。事務系の仕事についたら天下とれてたかもねん」

ただ、
ただ問題なのは、
逆にエドガイも目を付けている標的ポルティーボの姿を、
未だ認識出来て居ないということ。

「この乱戦の中で、自分は紛れて敵を倒す。ポルのやりそうなこった。
 にしてもほんと、お互い見えない位置関係の中で、なんでポルだけ一方的に攻撃出来る」

それが、
ポルティーボが居る事が分かった中でも、
決定的に彼を発見出来ない理由だった。

見えない(インビジブル)よりもやっかいだ。

いや、
方法は知っている。
奴も学校の同期だ。
変わってなけりゃ同じ。

だが、
分かってたって解決法は無い。

「しゃぁーねぇ」

なら・・・と、
エドガイはWISオーブを指で弄る。

「デートの約束でもしますか」


































ポルティーボ=Dは、
戦場の中に居た。
ただ、
人に紛れ、
姿は現さない。

ローブに深くかぶったモスバインダー。
スタッフを握るその姿は、
誰がどう見ようと魔術師以外に見間違いようもない。

だがそれ以上に、
彼の姿を発見出来ている敵はいなかった。

だがポルティーボには見える。
一方的に、
敵を視認する。

[あ〜〜ら。お元気ぃ?ポルポルッちゃぁ〜ん♪]

「・・・・・・・」

そんなポルティーボのWISオーブから、
生意気な傭兵の声が聞こえてくる。

「・・・・・"衝撃"・・・・・・・・・・それを通り越して不覚といったところか。
 エドガイ。何故貴様が私のWISアドレスを知っている」

ポルティーボは、
味方に囲まれた安全地帯にて、
辺りを確認する。
目を見張る。

エドガイの姿など無い。

いや、"あった"
あんなところに。

[おっと?俺ちゃん見つかった?うわぁー気持ち悪いねぇ。
 俺ちゃんからは見えないのに見つけちゃうんだぁー。涙目]

エドガイはキョロキョロと辺りを見回している。
本当にこちらの居場所は分かって居ないようだ。

「・・・・"演技"・・・・・・・・・・・ふん。とは違うようだな」

[あいー?]

「・・・・・・・"独言"・・・・・・・短直にそれだけだ。で、エドガイ。何故私に連絡がとれる」

[あー。情報屋から買っただけよん]

情報屋?
ポルティーボは"観る"。

「・・・・"外野"・・・・・・言うならばそんなところか。情報屋というのは戦場を飛び回っているアレらか」

[ほえー、『ウォーキートォーキーマン』見つけたん?やるねぇ。さすがおたくの目だ。
 奴らは金で仕事をする同業の中では断トツで一目置いてるんだけどねぇ。・・・・・・・・ま、]

"一目"置く事に関しては、おたくにゃ勝てねぇわな。
エドガイはWISオーブの向こう側で笑う。

「・・・・・・・」

ポルティーボは顔をしかめた。
ピンポイントアクセスと呼ばれる自分に、
こうして戦場で連絡をとってくるとは。
情報屋。
傭兵業。
金での仕事に無駄は無い・・・か。

「"用件"・・・・・」

[んー?]

「無駄話は嫌いだ。無駄話以上に無駄なことなどないからだ」

さっさと言え。
ポルティーボは聞く。

[んとねぇ・・・・まず]

通信の向こう側でのエドガイの笑み。
それが腹立たしかった。

「"蘇生者"への連絡先・・・かな」

「"皆無"・・・・・・・・・二つの意味で皆無だ。まずその質問に答える必要性が無い。
 敵に情報を与えるメリットが無い。実に非効率で無駄な作業だ。
 そしてもう一つは、騎士団長の横に居る女。アレへの連絡手段など私は持っていない」

[いいねぇ♪さすがポルポル♪短い質問でも内容の把握力が高くて無駄がない。
 ま・・・結果は残念。蘇生者にコンタクトする方法はさすがに金じゃ買えなくてねん]

当然だ。
蘇生者。
つまるところ、
ロゼ。
あの頂点の隣人。

自分としても死骸として復活してから初めて知った。
謎の女だ。

だがそんな女へのコンタクト方法を知るわけが無い。
否、
無駄が絶対的に嫌いな自分だからこそ思う。

ロゼ。
あんな女に対して何か行動を起こそうという行為。
それ自体が無駄だ。

ロゼ。
ゼロの反対。
1の隣に座る、0の逆。
無力で有りながら不可解に力を持ち、
そしてあまりにも不透明だ。
無駄。

名前の通り、
無と駄を足したような存在だ。

「・・・"思惑"・・・・・・・・貴様、あんな女に接触するなど無駄に限りない。
 なのに何故そう考える。アレックス=オーランドの蘇生のための蘇生者探しか?」

[さすが無駄嫌い。その通り。ポンピン♪]

「・・・・・"却下"・・・・・ならばそれでこそ金輪際そんな質問は却下だ。
 無駄でしかない無駄で無駄で無駄だ。お前の言葉に従うメリットが一つもない」

[ならデメリットの話をしようポルポル]

通信の向こう側のエドガイは、
それでも冷静で、
そして、
あたかも自分が優勢にたっているような口調で気に食わなかった。

[のこのこと出て来い。姿を現せっつってんだよポルポル君]

「・・・・"無意"・・・・・・・あまりに非効率で無駄な意見だエドガイ。
 お前が出てきて欲しいのは分かる。私の位置が分からないのだからな。
 だが私には分かる。実に効率的だ。このまま攻撃していればいい。お前の位置も分かった。
 このまま『ロコ・スタンプ』、『人斬りオロチ』共々生命を無駄にしてくれる」

[後悔するぜ?]

やはり通信の向こうでエドガイは笑った。

[出てこないなら引きずり出してやる。無駄が嫌いならお釣りの用意をしておけよ]

















































「キャラメル。上から連絡があった」
「キョキョキョ・・・・へぇ」

地下の一室に二人。
いや、二匹。

「アレックス=オーランドが死んだそうだ」
「へぇ。それは気持ち悪いね。こんなところで死ぬ輩じゃぁないはずだ」
「いやいや、なのに死んだ。だからこそいい気持ちじゃないか?」
「キョキョキョ。確かに違いねぇ」

二人は怪しく笑う。

「どうやら騎士団長の台本があったようだ。蘇生不可な死亡らしい」
「あらま。それまた。絶対に出来ねぇの?」
「出来んさ。世界最高の聖職者だったエーレン=オーランドはもう居ない。
 完全なまでに死んだんだ。それは"俺達も"よぉーく知ってるところだろ?」
「よぉーーーーーーーく。知ってるさ」
「いい気持ちだ」
「あぁ。気持ち悪ぃほどにな」

二人は笑う。
汚く怪しく。
地下の中で。

「それでも奴らは主役であるアレックス=オーランドの復活を求めるだろう」
「蘇生者探し?エーレン=オーランドも死んでるのに?蘇生不可な死体を誰が蘇生できる。
 医療部隊副部隊長のエールか?出来ないに決まってるさ気持ち悪い」
「それでも探すさ」
「誰を?」
「・・・となると、異端の蘇生者」
「ロゼ・・・・ね」

キャッキャッキャ。
キョキョキョ。
二つの笑いが重なる。

「拝呈しよう」
「否定しよう」
「アホらしい」
「腐るほどに」
「いい気持ちだ」
「気持ち悪っ!」

二人は笑う。
闇の中で。

「まぁいいさキャラメル。俺達は俺達の仕事をしよう」
「そうだなフラン。御菓子でも食べよう」
「それらを聞くと俄然地下で仕事する気にもなるってもんだ」
「なぁフラン。奴らは"ここの秘密"に辿り着くかな?」
「奴ら?あの芸術家気取りか?それとも・・・」
「どっちでもいいさ」
「なら賭けよう。ウサギでもなんでもいい。誰かが辿り着くかだ」
「どう賭ける?出来る?出来ない?」
「俺はYESに賭けようかな。拝呈しよう」
「んじゃぁ俺はNOに賭けよっと。否定する」
「いい気持ちだ」
「気持ち悪っ!」
「あわよくば、真実拝ませたツラを拝むのもいい気持ちかもしれんが」
「そうだねぃ」
「どちらにしろ」
「奴らは終わってる事には変わりないがね」






































「辿り着ける・・・か?」

答えは分からない。
だがエクスポは決めていた。
まずどこに辿り着けばいいのか分からないが、
向き合おうと。

この美しくも無い地下で。

「さぁ、どう戦おうかな」

迷路を走りながら後ろを振り向けば、
ウサギが追いかけてきていた。

「これじゃぁボクの配役はカメじゃないか」

そう苦笑しながらも、
やれやれと走る。

「待ちなっ!芸術家さんっ!」

「ボクの名前はエクスポだよ。ただ、君に名を呼んで欲しくないけどね」

「なら僕は頼ませてやるっ!フレンドになりたいっ!ってね!
 僕はただ作りたい!100人のフレンドと名を呼びあうハッピーなライフをっ!」

ウサギの殺人鬼は追いかけてくる。
速さに関しては・・・・

「互角といったところか」

盗賊である分、少し自分に分があるか?
とエクスポは思ったが、
自分が逃げ、先頭を走っている以上、
道を決めるのは自分だ。

鏡と氷の迷宮。
そのタイムラグを合わせるとむしろ分が悪い。

「だからといってまともに立ち会えばボクが不利なのは明確・・・か」

相手は殺人鬼だ。
殺し合いだけはしてはいけない。

「・・・・・と」

エクスポは分かれ道の中から、
見える道。
見えない道。
鏡と透明の偽の壁の中から、
瞬時に正しい道を割り出し、
曲がる。

「形状がややこしくなってきたな」

それはキャラメルによって作られた迷宮だけでなく、
この水道自体がまた複雑になってきていた。

「城の真下に・・・・近づいたってことかな?」

真偽はともかく、
遠ざかってはいないだろう。

そんな事を一瞬考えていただけの、
少しの間。
その時に、何かがエクスポを追い抜いた。

「・・・・・ッ・・・」

顔をかすめた事には後になって気付いた。
顔には切り傷が出来ていて、
滲む程度に血が露になった。

「カードか・・・・」

後ろを見ると、
シド=シシドウは両手にカードを広げていた。
投げて来たのだ。
見てはいたが、やはり紙切れを凶器と化す技はなかなかにやっかいだ。

「プロフィット(預言者)・・・・とかいう戦闘職だって聞いたけど」

あまり見かけるものでもない。
少なくともエクスポが遭遇するのはシドが初めてだ。
カードを投げて攻撃する。
アタックカットと呼ばれる技。

「ドジャーのダガー投げと同じような技術かな・・・・。いや、違うか。
 逆にドジャーのダガーがプロフィットと同じような技術なわけだね」

エクスポは走りながらムゥ・・・と考える。
だがそれも微笑に変わる。

「・・・・なら、知らない技でもないってことさ」

「待ちな芸術家っ!待たないなら無理矢理にでもっ!」

シドは一度、
走りながら跳んだ。
ウサギが跳ぶ。
そして彼の周りには、トランプが渦巻いていた。

「待ってもらうぜっ!」

そしてそれらが一斉に飛んでくる。
紙の嵐はナイフの嵐。

「本人は克服した・・・って言ってたけど、ドジャーの弱点は狭い路地だった」

エクスポは道を折れ曲がった。
急遽右折した。
そうやってカードの嵐を避ける。

「ドジャーの弱点は・・・・その攻撃が直線的過ぎる事」

仲間の事ならよく知っている。
後ろを振り向けば、
ウサ耳ファンシー殺人鬼も当然のように道を曲がって追いかけてきていた。

「シド。ボクはドジャーとこうして戦ったら恐らく五分五分・・・いや、分が悪い。
 なのに今は君から攻撃を食らう事は無いと保証できるよ」

「へぇ。僕と同じタイプか。それは是非ともフレンドになりてぇな」

クッチャクッチャと、
ガムを噛みながら殺人鬼は追いかけてくる。

「で?君のフレンドなら君に届くのに、僕は君に届かない理由は?ディアフレンド」

「ドジャーの単純明快な攻撃は、自分が有利な位置にいるからこそ有意義な技なんだよ。
 君はドジャーほどの俊敏性を兼ね揃えていない。さらにインビジもなければ目くらましも無い。
 弓は強力だが、それしか持って居ない兵はいと容易い・・・って昔の兵士は言ってたらしいよ」

「友情に・・・・難しい理屈はいらねぇんだよっ!」

エクスポは少しずつ分かってきた。
シドをドジャーと照らし合わせてこそだ。
彼は近・中距離戦なら無敵の殺人鬼だが、
攻撃方法は至って単純。
直線的過ぎる。

彼の殺人は、
あまりにも純粋過ぎるのだ。

「ってことでプレゼントだ」

「なんだい?ディアフレンド」

「迷惑メールだよ。残念だったね」

エクスポは前を走りながら、
何かを落とした。
二つほどの丸い物体は、地面を弾み、
コロコロと転がると。

「うわっ!?」

煙が噴出した。

「スモークボムさ」

すでに煙に撒かれて、
シドはエクスポを視認できないが、
その間にエクスポは一人距離を離しながら指を振る。

「君の直線的で純粋過ぎるアクションを弱点だと認識させてもらったよ。
 弱点は欠点じゃないさ。そういうのは魅力の一部だから悲観することはない」

「ケホッ!ケホッ!!」

煙が晴れていく中、
手で空気を掻き毟りながら、
シドが咳き込み、姿を現した。

「粋な計らいじゃねぇかディアフレンド。ガムを吐き出しち・・・・・」

その晴れた視界の中、
シドの視界に映ったのは、
転がってくる・・・・3つの爆弾。

「複雑は芸術さ。シンプル・イズ・ベスト。それは外見の話であって中身は綿密であるべきだ。
 人と同じでね。思いと同じでね。計画策略。その点はボクの方が優れているだろう」

「このっ!!!」

シドは素早かった。
両手のトランプが目にも留まらぬ速さで動いた。
傍目にはシドの両手が消えたように見えるほど。

それで二つの爆弾は粉々になったが、
一つは・・・
一つのサンドボムは・・・

「くっ!!」

シドの目の前で爆発した。

「・・・・直撃は避けたか」

エクスポは残念な中、
少し微笑み、
その様子を見終える事無く、
一人先へと進んでいった。

「・・・く・・・・そ・・・・・待てっ!待てっつってんだろ芸術家っ!!」

ウサ耳が立ち上がると共に、
シドの体も元気を取り戻す。
そして地下水道を走る。

「いいじゃないかっ!中身なんてさぁ!僕の中身がなんだってんだ!
 僕の中にドス黒い何かがあったとしてっ!それがフレンドになれない理由になるのかっ!?
 違う!ハッピーっていうのはややこしいもんじゃないっ!もっと単純でいいはずなんだっ!」

シドは走ったが、
既にエクスポの姿を見失っていた。
だからといって走るのをやめない。

「待てっ!待ってくれよっ!」

そう我武者羅に走っていくと、
ふと壁に気付いた。
何かが取り付けられて・・・・

「爆弾っ?!」

壁に・・・地雷が設置されていた。
もちろんセンサー爆弾なんてものじゃない。
それは時限爆弾。
その時計の針は、
『チクタクアーティスト(時計仕掛けの芸術家)』の台上だ。
測ったかのように。
いや、
測られたタイミングで時限爆弾は爆発する。

「・・・うぐっ!!」

爆風で吹き飛ばされる。
そのままシドの体は横に流れる水道の中へと落ちた。

「・・・ごぼ・・・」

急いで水の中で体を暴れさせる。
どうやったか夢中で、
とにかく水面に這い出た。

「・・・・やば」

気配がした。
天井。
壁。
虫が沸く様に・・・・トカゲの気配。

「出なきゃっ!クソッ!」

シドは悪い予感がしてすぐさま水面からも這い出て、
足場に体を転がす。
トカゲ達はひっこんでいった。
恐らく、
もう数秒水の中に居たら凍らされていたことだろう。

「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

息を乱しながら、
シドはそれでも前をギッと睨む。
エクスポの姿は無い。
だが、
絶対に捕まえてやる。

「答えはあんたに教えてもらう・・・その体でな。だから僕は諦めないぜ・・・・」

シドはガムを口に放り投げ、
八つ当たりのように噛みしきる。
そのガムの音の中、

「・・・・・・?・・・・」

背後から、
音。

「なんだ?」

振り向くと、
ユックリ、
コロコロ、
それこそシドのファンシーな格好には似つかわしい・・・

「カボ・・・チャ?」

パンプキンボムが転がってきていた。

「なんで後ろからっ!!」

シドとて、さすがにそれが爆弾だとは理解できる。
触れられたら爆発する。

「このやろっ!」

カードを一枚投げる。
パンプキンボムにそれが刺さると、
カボチャは破裂した。

・・・・だがその音と爆煙が晴れると、
後続してカボチャ爆弾がコロコロと転がってきていた。

「ちゃんとっ!・・・・・・追いかけてこいってかっ!?僕にっ!」

シドはスタートを切る。
走る。

「嬉しいじゃねぇかっ!!」

ウサギは寂しいと死ぬ。
だから嬉しいウサギは飛び跳ねた。

「遊ぼうぜっ!ディアフレンドっ!」

飛び跳ね、
追いかけ、
シドはトランプを投げた。

今度は見逃さない。
壁と地面に埋め込まれていた時限爆弾に、
カードが一枚づつ刺さる。
時限爆弾は元気を無くし、
キュゥゥン・・・と言う音と共に停止した。

「僕は殺意には敏感なんだっ!気をつければこんなものっ!」

ボトン・・・と突然爆弾が落ちてきた。
上から?
氷の一片に固定して、溶ける時間をも計算していた。
長針と短針の魔術師。

「あぶねっ!!」

それ自体が危険な自殺行為だったが、
シドは爆弾を蹴り飛ばした。
衝撃で爆弾は爆発したが、
幸運な事にシドに被害の無い位置で爆発した。

「でも!僕も巻けねぇーぜディアフレンドっ!」

嬉しそうに、
殺し合いを楽しむ。
いや、
殺人鬼なんかじゃないと、自分と戦うシド。
彼は殺人なんてものは大嫌いだ。
だけど、
殺される感覚には無頓着だった。

だから、
構ってもらえるだけで彼の言うところ・・・ハッピーな気分になれた。

「今度はどこだっ!爆弾っ!」

へへんと、
得意気になるシド。
走りながら目を凝らす。

「サンドボムかっ!?セットマイン!?ジョーカーポークかスモークボムか!
 はたまたトクシン、ペパーボム!それともお得意のスマートボムかっ!?」

だが、
注意に注意を重ねても、
前方に爆弾の気配がない。
時計仕掛けに仕掛けられた爆弾のトラップ。
それが行く手を阻むはずだ。
だがそれがない。

「なんでいきなり・・・・・?・・・・・僕と遊ぶのは疲れちゃったのか?」

走りながらシドはガムをフーセンにする。
フーセンにした時に、
ふと後ろが気になって振り向いた。

「うわああ!!」

すでに、
すぐ真後ろに、
パンプキンボムがあった。

咄嗟にカードでそれを斬る。
今度は衝撃が近かった。
シドは吹っ飛ぶ。

「・・・・うう・・・・痛ぇ・・・・」

爆発の規模自体は小さなものだったが、
直撃に近いダメージを食らった。

「・・・・なんで・・・追いかけてくるパンプキンボムより速く走ってたのに・・・」

見れば、
次々とパンプキンボムが転がって追いかけてきていた。
それも・・・
さっきよりも・・・・速い。

「あ・・・」

シドは気付いた。
カボチャを見てじゃない。
横に流れる水路を見て。

「そっか・・・僕は水の流れる先を目指してたんだから・・・」

生活用水が流れる水路ゆえ、
水の流れる先が城の下。
エクスポもそれが目印でこの道を選んでいた。

つまりそれは、
水が流れるという事は、

「少しずつ下ってたからっ!」

シドは両手にカードを取り出す。

「ほんの少しだけっ!急斜になってたのかっ!」

時計仕掛けの芸術家。
その仕掛け張りのトラップ。
ウサギは時計盤の上で踊らされていた。

「芸術は・・・・・」

気配を感じなかった。
夢中だったからだ。
それも策略。

突然、
自分のすぐ横に、
後ろで髪を結んだ芸術家が、
インビジブル(不可視)の世界から姿を現し、

「爆発なんだよ。殺人鬼」

少し微笑して、
軽くだけシドの肩を叩いて、
そしてまた

インビジブル(不可視)の世界へ消えていった。

「ディアッ・・・・フレンドッ!!!!」

すぐさま切り刻もうとした。
見えないからといって、
すぐ傍にエクスポが居るには代わり無い。

「・・・・・くっ・・・・」

だが、
それは適わなかった。
すぐ近くの敵にさえ攻撃させてくれない・・・
時間計算。

シドの目の前にはパンプキンボムが次々と転がってきていた。

「君と"彼"重ねてみたからこその勝利だ。だから言わせてもらうよ」

見えない、
消えた姿のまま、
エクスポは言う。

「御馳走をくれてあげる」

「このぉおおおおおおお!!!!」

シドはトランプを投げた。
投げに投げた。
投げまくった。
1から13。
x4で52。
ジョーカー有りで54枚。
それを超えて何百枚。

トランプが両手から繰り出させる。

「このこのこのこのこのこのこのっ!!!!」

迫ってくるパンプキンボムに投げる。
投げる投げる投げる投げる。

破裂する。
起爆する。
衝撃する。
爆発する。

それでも無数に転がってくる。

「最高のプレゼントだ芸術家!!!!」

投げるだけじゃない。
シドの周りにトランプが浮き、
渦巻き、
飛んでいく。
放たれていく。
ナックルカット。
いや、マルチリフト。
カードのナイフが飛んでいく。

「分かった!分かったよ芸術家!ディアフレンドッ!」

カボチャを切り刻む。
爆発が重なる。
それでも、殺人鬼にカボチャが転がる。

「僕は夢を諦めないっ!だけど!理解は出来ないけどっ!僕は死ぬべき存在なんだっ!」

爆発。
爆発。
爆発。

「だけど夢はやっぱり諦めない!100人のフレンドとハッピーなライフ!!
 誰も僕を止められないっ!なら!ならっ!・・・・・・・誰か僕を殺してくれよっ!!!」

最後のカードが投げられた。
ジョーカーのカードが投げられ、
最後のパンプキンボムが爆発した。

「はぁ・・・はぁ・・・・」

さすがの殺人鬼も疲れ、
息を乱し、
自慢のウサ耳はだらしなく垂れていた。

「・・・・・ディアフレンドッ!!」

そして、
目に映ったのはエクスポの姿。

無意識に、
咄嗟にカードを投げた。
エクスポに向かって。

カードはすんなりとエクスポに突き刺さり、
姿は歪(ゆが)み、
歪(ひず)んだ。

「・・・・・鏡?・・・」

そのエクスポの姿は、
氷で出来た鏡だった。
ヒビの入った氷の鏡の中で、
エクスポは微笑していた。

「どこだっ!どこなんだディアフレンドッ!!」

シドは辺りを見渡す。
壁を。
道を。
探す。

「ウサギは!僕は寂しいと死んじゃうんだよっ!」

そしてエクスポの姿を見つけた。
太い、
分厚い、
透明の氷の壁の向こう。

「独りで死ぬのは嫌だ・・・・・」

氷の壁に、
シド=シシドウは手を付く。

「だから、殺してくれ・・・・だけど死にたくない・・・ハッピーなライフ・・・・」

その氷の壁は分厚く、
シドの力では突破出来そうになかった。
出来なかった。

だからこそ、
声も届きあわなかったが、
やっぱりエクスポは向こう側で首を振った。

そして、
哀しそうな目で、
懐中時計を手にしていた。

「え・・・・」

シドが振り向くと、
スマートボムが、
ソリッドボムが、
時限爆弾が、
シドの周りの至る所に設置してあった。
360度。
致命的なほどに、
時計仕掛け(チクタクアーティクル)に。

「イヤ・・・だ・・・」

シドは逆に後退し、
エクスポが先に居る氷の壁に背中をついた。

「僕はまだっ!このライフでっ!一人のフレンドも出来てないんだっ!」

振り向いて、
また氷の壁にすがる。
壁の向こうの、
エクスポにすがる。

エクスポは首を振った。
君にその壁は突破出来ない。
君はそこで罰を受けなければいけない。

私刑判決の死刑。
そんなのエクスポの美徳に反するが、
そんなつまらないプライド。
捨てた。

君と同じで自分の手も血みどろだ。

「フレンド!ディアフレンドッ!!」

エクスポは首さえ振らなかった。
残酷な殺し方だと思う。
だけど、
血みどろになってでも、
自分は進まなければいけない。

美しくありたい。
シドがハッピーなライフを目指すなら、
エクスポが目指すのは、
ビューティフルライフ。

でも、
綺麗になろうとしても・・・・・

汚れは落ちないんだよ。



「後からボクも地獄に花を咲かせにいくよ」

エクスポは、
最後にそう言って、
振り向いた。
懐中時計の針は、
あと銃数秒で終りを告げる。

「死に様を見ないで済む時間・・だね。卑怯だな・・・ボクは」

エクスポが自虐的に呟いた中、
エクスポの背後で、
崩れる音がした。

「ディア・・・・フレンド・・・・」

馬鹿な。
あの氷の壁は、声も通らない程分厚い。
シドとて突破出来ないほど分厚い。
そんな氷の壁だったはずだ。
なのに・・・・

「・・・・どうして」

エクスポが振り向く。
氷の壁が・・・崩れていて、
ボロボロのウサギがそこに居た。

「ディ・・・・ア・・・・フレンド・・・・」

なんで。
なぜ。
何故突破出来た。
出来ないはずだ。

そう考えていると、
答えはシドの手の中にあった。

「・・・カードが・・・燃えてる?・・・」

思い出せば、
この戦いを決意した時、
あの時も越えられない分厚い壁があったはずだ。
だがそれをシドは突破してきた。

フレイムシャッフル。

シドにあの壁を・・・・
切り刻む威力は備わっていなかったが、
"溶かし刻む"火力は備わっていた・・・という事か。

「芸術家としては・・・詰めが甘かったか」

美しくないな。
エクスポは苦笑した。
そして、
全てを受け入れた。

「なぁ・・・・ディアフレンド・・・・・・」

殺人鬼が。
ファンシーな格好をした、
ウサ耳の殺人鬼が、
純粋な少年が、
エクスポに近づいてくる。

「フレンドとハッピーなライフ・・・・それを望む事自体は・・・いけない事じゃないよなっ・・・・」

この距離。
この至近距離。
この距離の中でなら、

殺人鬼シドは無敵だ。

誰が何をどうやっても勝てない。
だからエクスポは受け入れた。

「悪い事じゃない。未来を夢見る事は誰一人例外なく許された美しい行為だ」

「じゃぁ・・・なんで僕にはフレンドが・・・・・」

「・・・・・人には未来だけじゃない。・・・・・積み重ねられた過去がある」

世知辛いけど、
君はあまりに説得力がないほど・・・・
過去が腐っている。

「そしてこれからの未来も間違いなく同じ・・・だからだよ」

「・・・・でも僕は諦めないぜっ・・・・・なぁディアフレンド・・・・・」

シドが・・・エクスポの目の前まで来て、
ボロボロのウサギが・・・芸術家の目の前まで来て、
手を差し出した。

「フレンド(友達)に・・・なってくれ・・・・」

その差し出された手には、
カード(ナイフ)があった。

その手の動きは、
シドの意志と関係なく。
シドの希望と関係なく。
シドの願望と関係なく。
ただ無意識に。
当たり前のように。
そうインプットされていたからだと証明するように。

エクスポを殺してきた。



















それからは覚えていない。
いや、
じわりとだけ覚えている。

目の前が反転した。
真っ暗になったようで、
グルグルと回っていた。

死んだのか・・・・

そうエクスポは思ったが、
シドも巻き込まれている姿をうっすら視認して、
違う事が分かった。

津波がエクスポ達を襲ったのだった。

突如一気に流れ込んできた。
エクスポとシドを巻き込むためだけに。
水が襲ってきて全てを包み込んだ。

なるほど・・・・
やはり氷の壁。
迷宮は時間稼ぎ。

あのトカゲ男達は、知らぬ処で・・・
"水路ごと氷漬け"にしていたんだ。

人だけでなく、
水の行き止まりを作り出した。
至る所に。

そして行き場の無くなった水達が一気に流れ込んできた。

自分と、
シド。
両方処理出来ればそれでいい。

そう理解していても、
エクスポの意識は薄くなっていった。

荒れ狂う水の中で、
このまま意識が無くなれば・・・・

そのまま水の中で窒息するか・・・
それともトカゲ男達に氷漬けにされるか。
どちらが速いかの違い。

おっと、
シドが先に目覚めても駄目か。

君の夢(メジャードリーム)に乾杯。
そして完敗。

エクスポは渦巻く水の中で皮肉に笑い、
そのまま意識を消していった。



いや・・・
消えるギリギリでかすかに覚えている。
それとも一度意識を失った後だったのかな?

一瞬だけしか意識はなかったけど、

じゃじゃ馬娘が、
自分を水の中から這い上げてくれたのを。










































「どぉ〜〜〜こだぁ〜〜〜〜〜!!!!」

カプリコハンマーをぶん回した。
爽快とも言えるほど、
敵がガラクタのように吹っ飛ぶ。

「くっそ〜!オリオール〜!敵がどこか分かんないよぉ!」

                        余は分かりかけてきた。
                        というよりも知っている・・・と言う方が正しいか

「えぇ〜?」

ロッキーは戦場の、
敵に囲まれた状態で動きを止める。

「じゃぁ教えてよぉ〜!」

                        お前も成長しなければいけない。
                        自分で探れ。
                        それが三騎士の希望でもある。

「むぅ〜・・・・」

ロッキーはむくれた。
父親達の名を出されては反論も出来ない。

「"まだん"さんを見つけれないとやっつけれないもん」

オリオールの言葉も分かるが、
わがままも言いたいものだ。

「あうあー、あー」

三騎士の息子。
コロラドもロッキーの背中ではしゃぐ。
いや、

                        何かを見つけたようだな。

「何を〜?ねぇ、コロラド。何を見つけたの?」
「あうあー!」

コロラドが小さな指を向ける。
向けた先を見ると、

敵が真っ二つになって跳ね上がった。

「・・・・・KILL(斬る)」

侍女が、
敵をかなぐり斬り、
姿を現した。

「イスカァ〜〜〜!」

ロッキーは嬉しそうにイスカの名を呼び、
小さな手を、
小さな体いっぱい使って振った。

が・・・
殺人の血を持つイスカ。
否、
アスカ=シシドウは、
その円らな瞳を睨みで返した。

「・・・・・・貴様もマリナ殿の敵か」

「え?ななな何言ってんの〜イスカぁ〜!」

「・・・・・ふん」

イスカはそのまま目を逸らし、
敵を斬り、
乱戦の中に消えた。

手当たり次第斬り漁り、
言葉通り、
敵を切り開いて道としていた。

「・・・・おかしなイスカだぁ〜・・・・ぼくが分からなかったのかな?」

                         いや、認識はしていた。

「じゃぁなんで〜?ぼくは敵じゃないよ!」

                         それが理解出来て居ない状態だった。
                         何が敵で、何が敵でないのか。
                         ならば疑わしきは全て斬れ。
                         そんな目だった。

斬るか斬らないか。
否、
斬らない理由さえ見つからない。
不安は無くならないと消えない。
だから、
全て叩き斬る。

「よく分からないけど〜イスカとぼくは仲間だよっ!」

ロッキーは純粋無垢にそう微笑んだ。

「あうあー」
「え〜?何〜?コロラドぉ〜」

コロラドが上を指差すので、
ロッキーも上を見た。

「あう」
「わ〜〜〜ぉ」

気の抜ける声と裏腹に、
ロッキーとコロラドの小さな体を埋め尽くすほどに、
影。

巨大な岩石。
ハードインパクト。

「わ・・わ・・・わわぁぁ〜!」

両手を上に広げて驚くロッキー。

                         避けろロッキー!

「びっくりしたぁ〜」

ロッキーはカプリコハンマーを握り、
上へ突き出した。

ハンマーでの突き。
その一撃で、
降って来た岩石は、
大きく砕け、
ロッキーの周りに落ち果てた。

「ねぇ〜?ビックリしたね〜?」

何事も無かったかのように、
ロッキーは背中のコロラドに頭を傾ける。
コロラドも「あ〜」と言って小さな頭を傾けた。

「よぉ〜い・・・・」

ロッキーはハンマーを振り、

「しょっとっ!」

一振りで、
周りの瓦礫を吹き飛ばした。
自分の何倍も、
何十倍分もある岩石の瓦礫は、
軽く吹っ飛んでいった。

「よぉーし!もうひと頑張りしよぉ〜!」

オリオールは心の中で目を閉じた。
ロッキー。
この逸材。
実年齢20歳前後にして、
精神年齢と体格はそれに付いて来ず、
実質6歳前後。

だがその小さな体には、
だからこその溢れんばかり魔力と腕力。
そして経験と才能。

パワーの貯蓄庫のような子だ。

自分というアクセルがあれば、
この無限のガソリンタンクは無敵と化せるだろう。

だが・・・・
自分がいなかったら?
オリオール自身も操作できるとはいえ、
ロッキーの体はロッキーのものだ。

もしロッキーが抑え切れなくなったら、
この子自身も抑えの利かない強大で膨大な力はどうなる。

この子の危険性。
それは、

才能と能力に・・・実力が付いてきていないという・・・・矛盾。

「にしても凄いねぇ〜〜〜!」

無邪気にロッキーが言う。

「あぁーんな大きい石がどぉーーんって落ちてきたよ?」

                        凄いのはそこじゃないぞロッキー

「えぇ〜?」

オリオールはロッキーに、
心の中から心へ問いかける。

「なんで〜?」

                        確かに今のハードインパクトは凄い。
                        生半可な魔力ではないだろう。
                        だが、驚くべきなのは、
                        それをお前だけに落としてきた事だ。

「それはさぁ〜〜。敵がこのへんにぼくしかいないからじゃないの〜?」

そこを、理解させなくてはいけない。
じゃないと、
この子は自分の力に押し潰される。
周りを食い荒らし、
その時の荒れ果てた景色を見て、
哀しみ潰れるのは他でもないロッキーだ。

                        この魔術師。魔弾。
                        情報ではポルティーボだったか?
                        あれだけの強大な攻撃だったが、
                        それを味方に被害が無いように撃ってきた。

ピンポイントアクセス。
そのコントロール。
制球力。
ロッキーには無く、
実質世界最高の魔術師であるポルティーボにある能力。

                        ロッキー。お前にもコレが出来るか?

「コレ?コレってぇ〜?仲間に当たらないように攻撃するってことぉ〜?
 できるよ!へへ〜ん。ぼくは仲間に攻撃なんて絶対しないよぉ〜」

違う。
お前は・・・

                        地に咲くタンポポを壊さず、
                        爆弾を扱えるか。

それが、
ロッキーが身につけなければいけない事。









































「さぁて。お仕事といきますか」

エドガイは腰にぶら下げ引きずっていたアスタシャを、
一度肩に担ぐ。

見渡せばもう数少ない反乱軍。
それを圧倒的に上回る騎士の軍勢。

「あの中のどこにポルがいる・・・か」

こちらからはポルティーボの姿は認識できないが、
向こうが出来る。
姿を隠したまま、
的確にこちらを狙ってこれる。

「こんな風にかい?」

突如巨大な氷柱。
ツララがエドガイを襲って来た。
アイスアロー。
その魔法の規模を大きく超えた巨大な氷の矢が襲う。

「ずっきゅん」

軽い口乗りで、
エドガイは剣を構え、
トリガーを引く。

放たれたパワーセイバーがアイスアローを分断し、
エドガイの左右に突き刺さった。

「おいポル。ポルポル君」

エドガイはWISオーブに話しかける。

「そのまま隠れて戦ってると後悔するぜ?」

向こう側から返事はない。
否定か。

「無駄口さえやめたか」

エドガイは苦笑する。

「なら撃ち斬ってやんよ」

同期だ。
ポルティーボ=Dの性格は知っている。
無駄。
無駄が極限に嫌いな男だ。
それは冷酷なのでなく、
全てを拝呈する・・・全てを許容する心。

「忠告通り引きずり出してやる。お前にゃたまらんだろうぜ」

そう言い、
エドガイは少し腰を落とし、
剣を構えた。

エドガイには似合わぬ居合い切りの構え。
右半分にだけ垂れた前髪がカーテンのように揺れた。

[・・"忠告"・・・・・・・・・・この言葉はそういう事だ。やめておけエドガイ]
「お。ご返事」

WISオーブの向こうからポルティーボの声。

[・・・"双知"・・・・・・・・・簡単に言うとそんなところだ。
 お前が私の能力を知っているように、私もお前の能力を知っている。
 パワセイバーの横薙ぎで・・・・・一網打尽にする打算だろう]
「ご名答」

表情は通信に乗らないが、
エドガイは肩唇を歪ませた。

「全てぶった切っていけば、いつかおたくと会えるだろ?」
[・・・・・"乱心"・・・・・・・・・・考えが浅いお前に送る言葉だな。
 確かにお前のパワーセイバーは撃つだけじゃない。広範囲に"斬る"事も出来る。
 だがこの乱戦状態を把握出来ているのか?仲間もろとも斬り捨てるつもりか?]

無駄だ。
無駄で無駄で、
あまりにも非効率。
非効率どころか愚作。
使ってはいけない策というのは使えない策。

[・・・・"無駄"・・・・・・・短直に言うところそんなところだ。
 それを思いついた時点の思考力と時間が既に無駄だ。無駄で無駄でしょうがない]
「本当に無駄だと・・・・涙目だけどねん!!」

エドガイは切り払った。

[!?]

トリガーを引いたままアスタシャを振りぬく。
横薙ぎに、
斬撃が扇状に飛ぶ。

水面の波紋のように、
それは大きく広がり、乱戦の中を切り裂いた。

「お仕事だからね」

横一閃に切り抜かれたパワーセイバーは、
それこそ一網打尽。
一陣の元。
10。
いや、20?30?
それほどの人間が横に真っ二つになった。

遠慮なく、区別なく。

「おーう。さすが死骸騎士共。真っ二つでも消えない奴がちらほら居るね」

切り裂いた人間の数の倍の体が転がり、
その残骸は、
エドガイのパワーセイバーに習い、
横一列に転がっていた。

[・・・・・"正気"・・・・・・・・それを疑わせてもらうぞエドガイ]
「おやまぁ、やっぱりポルポル君だねぇ。
 俺ちゃんからは見えねぇけどおたくからはバッチリ見えてるわけね」

エドガイはまた剣を構える。

[・・・・・"錯乱"・・・・・・そう言い切ってもいい行動だ。無駄。無駄が有り過ぎる。
 味方もろとも全て斬り捨て、私を探し出す気か?信じられない]
「そんなとこよん♪」

エドガイはまた切り払った。
パワーセイバー。
横一線の斬撃は、
また遠距離の人間たちを横一列に切り払う。
胴体が吹っ飛び、
ニ分割される。
20人程の体を数えるように、横一列に体が崩れた。

[・・・・・"無駄"・・・・・・・・・お前の行動は無駄があり過ぎる。無駄の極地だ。
 私という一人の人間を片付けるために、敵味方全て両断していく気か?
 信じられん。あまりに非効率で無駄があり過ぎる。無駄・・・無駄すぎる]
「それでも100%確実な方法だろ?」

エドガイは強きでWISオーブに言い放つ。

「ただ、俺ちゃんはよぉ、ポルポル君。おたくを引きずり出すって言ったよねん?
 ま、もうおたくにゃ分かってるだろうけどおたくはもう出てくるしかねぇよ?
 ・・・・・・・・ん〜?いや、もう一押し必要か?なら教えてやる」
[・・・・無駄・・・・]
「俺ちゃんが斬ったの死骸騎士だけだ」

そう言うエドガイの視線の先。
パワーセイバーの横薙ぎで切り落としたニ分割の残骸達。
それはどれも、
死骸騎士ばかりだった。
その証拠に斬られた者達は次々と光となって天へ登っていった。

[・・・・・・"戯言"・・・・・・・・その言葉だな。お前が言った言葉は。
 そんな事が出来るはずがない。あの広範囲攻撃だ。私でもあの規模で敵だけ狙うのは無理だ。
 お前の言葉は無駄な戯言。そんな効率的な行動とは思えない]
「部下にやらせたんだよねん」
[・・・・・・・・部下?]

通信の向こうでポルティーボが声を詰まらせるのが分かった。
だからエドガイは続けた。

「そ。部下の一部に命令しといた。ここら一帯は邪魔にならねぇように味方をどかしとくようにな。
 分かんなかったろ?ま、これでも俺ちゃんらは一流の傭兵でね。仕事と夜は凄いよん?」
[・・・・・・・・なるほどな・・・・・・]
「さて、それでポルポル君。おたくはもう出てくるしかねぇよ」

エドガイは、
それこそ養成学校の同期だからこそ知っている。
これでポルティーボが出てくる事を。

そして、
その通りだと返事をするように通信は切れ、
敵の人ゴミが分かれた。

一人の男が歩いて出てくる。

魔術師の魔術師たる格好。
モスバインダーを深く被り、
スタッフを付く姿。
"魔弾"ポルティーボ=D。

「・・・"不愉快"・・・・・・・・そう言わざるを得ないだろう」

ポルティーボ=Dは、
その大きな帽子で顔を隠したまま、エドガイに言う。

「・・・・・"無駄"・・・・・・・・・それを嫌う私の性格をよく知っているな」
「あぁ知ってるよん。よぉ・・・・・・く。ね♪」

エドガイはトリガーに指をかけたまま、
剣をポルティーボに向けた。

「ポル。おたくは無駄が嫌いだ。それが"無駄死に"であってもだ。
 隠れたまま戦えるなら実におたくの好きな無駄の無い効率だったろうが・・・・」
「・・・・"無意味"・・・・・・・私の戦闘方法のためだけに、仲間が死ぬのは無駄だ。
 無駄だ無駄・・・無駄でしかない。仲間の命に無駄なものなど一つもないのだから」

エドガイ。
貴様はそれを切り捨てた。

「・・・・"無許容"・・・・・許せんよ。貴様は私の仲間の命を無駄にした。
 私直々に貴様を処理する。非効率は無しだ。ここから先、誰一人として無駄に散らせるか」
「仲間のために怒れるおたくの性格。嫌いじゃなかったんだがな」

バイバイだ。
エドガイは剣を突きつけたまま、
トリガーを引いた。

剣から斬撃が放たれる。

だがポルティーボは一つの動作も無く、
魔法で返した。
エドガイとポルティーボの間に、
アイスアローが二つクロスして突き刺さり、
防壁となって防いだ。

「さすがだねん。次も止められるかなん?」
「・・・・・"愚策"・・・・・・お前の考えは分かっている」

ポルティーボはモスバインダーの鍔を少し触ったかと思うと、

「だぁぁ〜〜〜〜〜!!!」

そのポルティーボ=Dの真横。
人ゴミの中から、
カプリコハンマーを持った一人の少年が飛び出てきた。

「やっつけてやる〜!」
「・・・・・無駄・・・・・」

一度風が吹き上がった。
ウインドバイン。
ロッキーの小さな体は、
突風によって吹き飛ばされた。

「わぁ!!」

ドテンという音と共に無様に転がり、
ゴロゴロと転がるロッキー。
そして尻餅を付いて止まった。

「なんでぇ〜!不意をついたのに〜!」
「ウヌラ・・・ラルルレロ」
「え〜?」

その様子に、
ポルティーボが笑ったように感じた。
エドガイからは、
モスバインダーに阻まれてポルティーボの素顔は見えないが。
確かに笑っただろう。

「・・・・・"無駄"・・・・・・・・・不意打ちなど私には無い。ありえない。非効率だからやめておけ。
 ・・・・ふん・・・・エドガイは既に知っているから隠しても無意味か。『ロコ・スタンプ』にも教えておこう」

そう言うポルティーボの周りに、
何かが舞った。
二つの何か。

いや、二つどころじゃない。
4つ6つ・・・・
いや、10を超える何か。

ポルティーボの周りに浮かぶソレ。

オーブ。
目を司った魔球体。
ゴーストアイズ。

「・・・・・・"義眼"・・・・・・・・・・これらが私の"眼"だ」

そう言いながら、
ポルティーボはモスバインダーを脱ぐ。

「何あれ〜!」

ロッキーの驚きと共に現れたポルティーボの顔。
その光景は、

両目はくり貫かれ、
目玉があるべき場所に・・・・ゴーストアイズが埋め込まれていた。

「・・・・まさに涙目だねぇ・・・・オチビちゃん。よく見て覚えておけ。
 アレがあいつの両目だ。"生まれつき"・・・・な。世の中にはそーいうのがいっぱいいるんだよ」
「う、生まれつき〜?」

ロッキーが首をかしげて座り込んでいるところに、
浮かんでいたゴーストアイズのうちの一つが、
フワフワとロッキーの目の前に飛んできて、
そしてその無機質な眼を向けた。

「・・・"事実"・・・・確かにそういう事なのだよ『ロコ・スタンプ』。エドガイの言う通りだ。
 私はこれでもモルモットベイビーの成功例の一つでね。・・・・ふん。
 これでも・・・か。皮肉な言葉だ。そう。つまり効率的に話すと私はこーいう人間なんだ」

愚かしさと醜さを隠すように、
ポルティーボ=Dはモスバインダーを被りなおし、
その素顔をまた隠した。

「・・・"千里眼"・・・・・・・短直に言うとそんなようなものだ。
 このゴーストアイズ達が私の眼。両眼だ。このオーブに映る全てが私には見える」

「お・・・お目々は二つだよ〜!」

「・・・・"却下"・・・・・・・・・私は12の景色が同時に見える。実に、実に効率的に、無駄もなく・・・ね。
 それが私ポルティーボ=Dが『ピンポイントアクセス』と呼ばれるが由縁だ。
 私は自分自身がどこに居ようが、敵がどこに居ようが確実にそれを標的に出来る」

無駄がない。
無駄なく、
実に効率的に。

「ノレルラロ・・・レレルリラーラ」
「へぇ〜。オリオール詳しいね〜」
「ウウウスネリトルラ」
「そっか。オーブ仲間だもんね」

あのゴーストアイズの眼こそが、
ポルティーボ=Dの千里眼の理由。
それこそがポルティーボ=Dの・・・・・"魔弾"

「で、改造人間君」
「・・・・・"笑止"・・・・・・・・目糞鼻糞を笑う言葉だな」
「まぁねん。だがポルポル。おたくのその千里眼(ゴーストアイズ)は、索敵特化だ。
 こうも姿を現しちゃぁ意味ないんじゃなぁーいのぉーん?」

嬉しそうにエドガイは言う。
もちろん、
それこそがエドガイの狙いでもあったからだ。
敵を良く知るからこそ、
引きずり出した。

「・・・・・・"同意"・・・・・確かにその通りだ。無意味といえば無駄だな。 
 先ほどの『ロコ・スタンプ』のような不意打ちには備えられる程度か。
 『人斬りオロチ』にはもちろんゴーストアイズを一つ付けさせている。
 ・・・・錯乱しているな。基本的にこちらに気付いては居ないようだ」
「お見通し・・・か」

千里眼。
だが今になっては戦場を無駄なく見渡せる程度の能力。

「・・・・・・"戯言"・・・・・」
「・・・ぁあ?」
「・・・・私としたことが無駄口を叩いてしまうとは、これは自己嫌悪に走ってもいいレベルだな。
 残念ながらそうではない。私のゴーストアイズは十分に、十二分に、無駄なく活用する」
「ほぉ。眼が沢山ありゃ強いのか?耳が4つあったら?口が6個あったら?
 そぉーは俺ちゃん思えないけどねぇん。覗きは隠れててなんぼだろ?ポルポル」
「・・・・・"否"・・・・・・人には限界があるというが・・・」

ポルティーボは、
両手を広げた。
てスタッフを持つ手と空の手。

「・・・・・・・それは人間という素晴らしさを活かせていないだけだ。・・・・私が人間を口にするのもナンだがな。
 有名な事象をあげるならば、人は脳を10%しか使っていないというのがあるだろう?
 それは脳にそれだけのポテンシャルがあるのにそれが追いつかないだけ。
 人はその才能というのを無駄にしているのだよ。無駄。無駄にね。実にもったいない」

何か、
ポルティーボに何かが集まっていくのが分かる。
恐らく魔力。
魔力だ。
渦巻くといってもいい。
魔術師たる魔術師に、
強大な魔力が渦巻いていく。

「・・・・"全開"・・・・・・・人はポテンシャルがあるのにそれを使い切れていないのだよ。
 才能が実力に追いついていない無駄。そこの『ロコ・スタンプ』と同じだ」

「え〜?ぼく〜?」

「・・・・・・"拝呈"・・・・・・そうだ。無駄だ。あまりにもったいない。無駄過ぎる。
 無駄・・・無駄無駄無駄・・・・無駄は嫌いだ。効率的ではない。あまりに無駄!」

"魔弾"ポルティーボ=Dは、無駄が嫌い。

「・・・・"十五"・・・・・だからこそ私には15の景色が見える!それは人の15倍のポテンシャル!
 筋力が追いつくならば誰もが二刀を使う!間に合うなら100本だって使うだろう!
 限界値が違うのだよ。私は無駄無く・・・無という駄さえ無に。自分の力を有効に使える!」

ガソリンは、
使い切れてこそ意味がある。

「・・・・・"無駄"・・・・・・は終りだ」

そしてポルティーボは発動した。
エドガイは瞬間的にポルティーボがしようとした事を理解した。

「やめろっ!!!」

だが、
それこそ無駄な叫びだった。
既に発動した後。
後の祭。

「・・・・なに・・・・これぇ・・・・・」

ロッキーは見上げた。
その光景を。

「無駄ぁ!・・・・全ては無駄だ!平和な未来のために!争いなんて無駄な事は滅びればイイッ!」

魔弾。
ポルティーボ=Dから、
数多(あまた)の魔法が飛び放たれた。

まるで花火だ。

全弾発射の兵器の如く。
炎。
氷。
風。
地。
雷。
魔弾は無駄嫌いを中心に飛び交った。

ファイアストームが飛び交う。
それは三人の反乱者を燃やした。

アイスランスが斜めに落ちる。
それは二人の反乱者を串刺しにした。

ハリケーンバインが吹き荒れる。
それは四人の反乱者を切り刻んだ。

ハードインパクトが落下する。
それは六人の反乱者を押し潰した。

クロスモノボルトが落ちる。
それは五人の反乱者を黒焦げにした。

そしてそれは全ての騎士団員に被害を与えず、
反乱軍だけを漏れなく殺害していった。
20000と500人。
1/40しか割合の居ない敵だけを、
選び、
捉え、
ピンポイントで狙撃していった。
休み無く。
淀み無く。
無駄・・・無く。

「・・・・・"失念"!・・・・・私とした事がっ!最初からこうしていればよかった!!」

ゴーストアイズが飛び交う。
戦場を。
15の眼が戦場を索敵する。
ポルティーボはその放大な魔力を惜しみなく使う。
無駄無く。

15倍の索敵が行えるからこそ、
彼は一切惜しみなく魔力が使える。

「・・・・・"失態"!・・・・お前ら有力者を先に倒す事こそが効率的かと思っていたが!
 だがこちらの方が無駄が無かった!な仲間を犠牲になくていい!これが一番無駄が無い!」

昔、
十人から一度に話しを聞ける偉人が居たそうだ。
有名な話だ。
だが、
だからといって彼はその十人と同時に会話は出来なかっただろう。

しかしポルティーボは出来る。
15箇所を見つめる事が出来れば、
彼は15箇所で戦える。

「おいポルっ!やめろっ!俺ちゃんと戦えっ!この改造人間がっ!」

「・・・・"却下"・・・・・そうしている間にも大事な仲間の命が無駄に散ってしまう。それが私には堪えられない」

10秒間で、5人死ぬ。
否、
10秒間で、75人死ぬ。
ポルティーボの魔法は止まらない。
止まらぬ花火のように飛び交う。

味方だけが。
吟味されて味方だけが狙われ、
散っていく。
騎士に被害は微塵も無い。

完璧。

そう評する魔術があるならば、
魔弾ポルティーボ=Dの魔術の事だろう。

素晴らしすぎる事が完璧ではない。
無駄が一切無い事こそが・・・・完璧なのだ。

「・・・・"無駄"!・・・・無駄無駄無駄無駄ァ!!私はこの騎士団で!この騎士団の仲間と!世界を作る!
 より良い!無駄の無い世界を!そのために無駄は排除せねばならん!皆生きよう!
 志を同じくする仲間に無駄な命など一切無いっ!仲間ほど大切なものは無い!」

なら、
敵など無駄だ。
争いなど無くなればいい。

敵だけを、
己の無駄だけを、焼け野原にしていく。

あるウインドアローは、
騎士の脇を掻い潜り、
傷付ける事無く、反乱者だけを貫いた。

あるアイシクルレインは、
まるでそう仕組まれたパズルのように、
騎士だけを避けて反乱者だけに降り注いだ。

それが、十五箇所で行われる。

「やめろっつってんだろっ!」
「やめろぉ〜〜〜!!」

当然のように、
遅すぎるように動いたのは、
やはりエドガイとロッキー。
否、
彼ら以外に動けるものなどいない。

「・・・・・"承知"・・・・・・・見えている。私に見えないものなど無い」

「そうかよっ!そりゃぁ釣りの足りねぇ"過剰品質"って奴だぜ!!」

エドガイはトリガーを5回引く。
連射。
パワーセイバーの斬撃が、
5つ放たれる。

「・・・・"赤裸々"・・・・・・・・お前の攻撃など丸見えだと言っているのだ」

ポルティーボはモスバインダーの唾を、
クィッと直す動作をしただけだった。
だが、
放たれたのは見てから余裕の5つのウインドアロー。
剣の斬撃弾と、
風の斬撃弾が、
5つ同時にぶつかり、消滅した。

「・・・・・"同時"・・・・・・もちろんお前もだ『ロコ・スタンプ』」

「うあ〜〜!!」

ハンマーを振り上げ、
突っ込んでくるロッキー。
それに対し、
やはり外見的には見向きもせず、
不動のまま、
ポルティーボが繰り出したのはローリングストーン。

「どっけぇぇぇ〜〜〜!」

小さな体が吹き起こした旋風。
ハンマーは力の限り振り回され、
それを粉砕する。

「"まだん"〜!ぼくはおまえをやっつけるぞ!」

「・・・・・"同意"・・・・・・・ならば私はお前を倒そう」

砕け散ったローリングストーン。
その岩の破片が、
突如巻き起こる。

「ふえ!?」

スプレッドサンド。
無駄無く、
再利用された岩クズが、
ロッキーを襲い、吹き飛ばした。

「・・・・・・"再言"・・・・・そして言った事を理解して欲しいものだな。二言は無駄だからだ。
 私は1人相手にするのも15人相手にするのも、同じ事なのだよ」

ポルティーボ=Dは、
すでに次の行動に入っていた。
否。
否否。
彼は全てを同時に行っている。
次という動作は無い。
彼のポテンシャルは、15の行動を同時に行える事にあるのだから。

だから、
エドガイが隙を付いてパワーセイバーを放った今とて同じ事。
隙など無いのだから。
無駄など無いのだから。

ポルティーボはロッキーと対等に戦いながら、
エドガイとも対等に戦える。
1対2ではない。
1対1を2箇所同時に行っているに過ぎない。

竜巻が巻き起こり、
パワーセイバーの斬撃は散り消えた。

「・・"邪魔"・・・・・・・・・その安直な言葉でいうところ、確かにお前らの攻撃は無駄ではなかったかもしれんな。
 何せ、私の攻撃を邪魔できたのだから。攻撃を止めるぐらいの実力はあるようだ」

一度終り、
静かになった。

だからこそ、
辺りを見回した。

・・・・・味方が居ない。

先ほどの魔力魔術魔法放出。
ピンポイントアクセス。
花火のような的確乱舞。
アレの効果は今に見えた。

近場の味方がほぼ・・・・・全滅している。

エドガイとロッキーが無理矢理止めたとはいえ、
あの短時間での被害は見るに堪えなかった。
あれだけで、
反乱軍だけを根絶やしに・・・。

いったいどれだけ・・・・

「・・・・・・・"心残"・・・・・・・・4・50残ってしまったか。私とした事が無駄を残した」

ポルティーボの言葉に、
エドガイは顔をしかめ、
ロッキーは眼を大きくした。

4・50?
そう言ったのか?あの魔弾は。

全てが見えている彼に偽りは無い。
つまり、
あの魔法放出。
あの一瞬にも近いあの出来事で・・・・

反乱軍だけを400以上仕留めたというのか?

「・・・・・"清算"・・・・・・・・無駄は嫌いだ。プラスマイナス一切無く、敵だけを倒す。
 あまりにも効率的だと思うだろう?何より心地よいのは私の仲間は無事だということだ」

ポルティーボは、
その帽子を深く被ったまま、
口元だけをゆがめる。

「・・・・・"誇り"・・・・・・・・私のこの憎き体を、今では誇りにさえ感じる。
 この醜い体の造りが、多くの仲間を助け、多くの敵から道を作り出せるのなら」

私はその力を、誇りに思う。
魔術師がそう笑うのが、エドガイには見えた。
彼の周りには、
10個ほどのゴーストアイズ。
魔弾(まだん)
いや、魔玉(まがたま)
・・・・、
否、魔眼(まがん)が浮いていた。

「おっと」

ポルティーボが不意に、
ファイアビットを6個ほど発生させる。
爆発するように生まれた火の玉は、
ポルティーボの眼前に浮かび上がった。

「・・・・"不動"・・・・・・・あまり無駄な動きをしないことだエドガイ」

「・・・・見え見えか」

「・・・・"必然"・・・・・・・私に見えない事などない」

エドガイは、
舌打ちしながらWISオーブをしまった。

「・・・・・"無安"・・・・・心配するなエドガイ。お前の仲間は大体生き残っているよ。
 連絡をとらなくてもいい。まぁ事実は応援を呼ぼうと思ったのだろうがな
 傭兵。・・・・さすがとも言ってやろう。なかなかに無駄の無い力の持ち主達だ。
 それでも私がもう数十秒ピンポイントアクセスしていれば分からなかったがな」

「負けらんないよっ!」

ロッキーが立ち上がった。
その小粒な眼を強く輝かせて。

「・・・・・"油断"・・・・・・・・・・それは出来そうにもないな。確かにお前らは無駄な実力者ではない。
 事実私を止める事には成功した。そうだな。無駄なく打算してみると、
 お前ら二人を相手にするには・・・・・・・・・・・8人力は必要だからな」

言うならばそれは、
8/15の力があれば、
エドガイとロッキーを抑えられるということ。

「・・・・・"賞賛"・・・・・落ち込むなよ。エドガイ。『ロコ・スタンプ』・・・・。
 それは言い換えればそれは私より4倍お前らの方が強いとも取れるだろう?」

だがまぁ、
お前らが2人づつ居れば相手ぐらいは出来るかもな。
ポルティーボの言いたいことはそんなところだ。

「チッ・・・・」

エドガイは辺りを見回す。
やはりありえない。
まるで何も起こって居ないかのようだ。
あまりにも被害が少ない光景。
なのに、
眼を凝らせば反乱軍の死体が眼に入る。

確実に、
完璧に、
無駄無く。

ポルティーボは自身の力に一切の無駄を排除して、
敵だけを仕留める。

「・・・・・"応援"・・・・・・・・そうだな。お前が傭兵の仲間を応援としてよこしたい気持ちも分かる。
 確かに奴らが集結すれば私とて手に余る・・・いや、眼に余るところだろう。圧倒的に不利だ。
 だがもちろんゴーストアイズが文字通り"眼"を光らせている。無駄だと思え。
 むしろその労力をなんとか私を止める事に使用した方が無駄なく効率的だろう」

そうすれば、
あわよくば5人力は使うことになるだろうな。

「ウヌリレロラ」
「ぐぅ〜・・・・そんな事言ったってオリオール〜・・・ぼくだってどうしたら・・・・」

「・・・・"援軍"」

ポルティーボ=Dは、
短くそう言った。

「短直にお前らの期待するものを言葉にすれば、そういったところだろう。
 だが残念ながら、その希望は無駄だ。この場面に援軍。まるで物語のようじゃないか。
 しかし私は現実を"見て"いる。ゴーストアイズは至る所に眼を光らせている。
 余力を持って大きめに見てみても、援軍が現れる様子は見受けられないな」

ポルティーボのゴーストアイズの"視野"はどれくらいだ?
浮遊し、
飛び回る15の眼(オーブ)の範囲は?
・・・・淡い期待だ。
ここら一帯。
反乱軍をほぼ全滅させる能力だ。
恐らく・・・・ほぼ見えている。
外門から、奥まで突破しているツヴァイの辺りまで。
彼には全てが見える範囲なのだろう。

「・・・・・"絶望"・・・・・・・・無駄なく争いを終わらせるために説明しておいてやろうか?
 『人見知り知らず』・・・・ふん。ケチな盗賊は53部隊の前に捕われているぞ。
 『人斬りオロチ』は相変わらずだ。こちらを視野にさえ入れてないようだな。
 おっと『ピンクスパイダー』は移動しているな。・・・ん?・・・・ちっ・・・裏切り者か」

裏切り者。
スミレコと共に行動している騎士団員がいるという事か?
エドガイからしてみれば、
それが"蘇生者"である事を祈る。
アレックス=オーランドを。
希望の反逆者を蘇らせてくれる裏切り者である事を。

「・・・・"残念"・・・・・伝えるならそんなところだ。希望を消すために教えておいてやろう。
 城の入り口まで眼で追ってみたが、期待を裏切る援軍の登場は微塵も見受けられないな。
 ツヴァイでさえ44に押されている。万事休すか。あと残るは・・・・・」

ポルティーボ=Dが、
15個の球体の内の一つを、
自分の目の前から動かした。
ゴーストアイズの眼が、グルンと球体であるがまま回転し、
視野を・・・・

「!?」

エドガイの視野にも入っていた。
ロッキーの視野にも入っていた。

その一つのオーブが、
突如弾け飛んだ。

「・・・・"不覚"!!・・・・・・・私とした事が!見逃していたっ!!」

2・3個のオーブが一斉に同じ方向を見て浮遊する。
全てがポルティーボの眼。
それが、
眼の一つを撃ち落した狙撃主を捉える。

「・・・・"狙撃主"・・・・・・『Queen B』か」

ゴーストアイズの視覚は、
遥か遠く。
外壁へと登る階段の途中。
そこに腰掛け、
ギターを構える赤いドレスを捉える。

そして、
銃口と女王蜂と"眼が合った"

銃声は聞こえないが、
銃口が輝いたのがオーブの画面に広がった。

「無駄だ!」

城壁の階段から、
シャル=マリナが狙撃してきた。

ポルティーボは、
アイスボールを展開させ、
それを相殺させて止める。

予想を超えて魔力が集結していたMBスナイパーライフルは、
アイスボールを貫いたが、
2個・3個と展開させていたため、
調度というように相殺されて弾丸は消え止まった。

「・・・・・"誤算"・・・・・・そして不覚だったな。私とした事が無駄があった。
 ギリギリ索敵範囲外だった故に女王蜂の存在を失念していた」

「チクショウ」
「だけど!目ん玉を一つマリナがやっつけたよっ!」

「・・・・・・"敗北"・・・・・・・・確かにな。女王蜂の狙撃は私を"一人"倒したに値する」

それでも、
焦りのカケラもなく、
ポルティーボ=Dはどこも見ていないようで全てを見据えているような。
そんな冷静な佇(たたず)まいのままだった。

「・・・・・"視認"・・・・・・・だがソレをした時点でそれも終りだ。
 私の弱点と言えばアウト・オブ・眼中。それ一つ。全て彼女も視野の中だ。
 14人力あれば・・・・お前らを相手するのに無駄無く十分過ぎる」

「さぁて・・・・どうすっかな」

正直、
エドガイ=カイ=ガンマレイは舐めていた。
本気(マジ)でやればツヴァイと対等にやり合える自信さえあった故、
ギルヴァング。
燻(XO)。
ピルゲン。
ロウマ。
その4人以外ならば楽にとは言わずとも一人で仕留められると思った。

それが現実。
事実は、
ロッキーとマリナ。
今反乱軍で使えるだろう頂点の2人を迎えて、このザマだ。

一瞬で・・・・
反乱軍を50以下にまで掃除されまでして・・・
まだ足りない。

「・・・・"差異"・・・・・・・・・これが私とお前らの差だ」

ポルティーボ=Dは、
全てを受け入れているような物言いだった。

「・・・・・"覚悟"・・・・・・・・確かにお前らはソレをして来たのだろう。
 絶対に歯向かう覚悟。そして死ぬ覚悟。失う覚悟。それをしてきたのだろう。
 それは強さだ。それ以外のなんでもない。だが!それは私とお前らの差だ!」

そう・・・・言う時のポルティーボには、
立ち姿からは見えない熱さを感じた。

「・・・・・"命"!!・・・・"仲間"!!・・・・・・・・・・私にはそれを失う覚悟など"微塵さえも無い"ね!」

それが、
魔弾に込められた信念。

「・・・・・・私は失いたくない!仲間も!絆も!信念も!夢も!誇りも!それらにはわずかにも無駄は無いっ!
 失っていい道理など一切無い!だから私は何も捨てない!この世に!・・・・・私が抱く思いに!」

無駄なものなど、微塵にも有りえないのだから。

何も失わない覚悟。
失う事自体が無。
必要なものだけを何も諦めない。
それこそ、
ポルティーボ=Dの強さ。

魔弾ポルティーボ=Dは、無駄が嫌い。

「そうかい・・・」

エドガイは顔をしかめる。

「だがなぁ、俺ちゃんは等価払いなんでね。何かを失う代わりに何かを奪うのが傭兵だ!
 支払ってもらった価値を、等価で返すのが傭兵の流儀!エンド・オブ・マネーだ!」

「・・・・・"残額"・・・・・・・は、いらない・・・か。変わってないな。いや、"変わったまま"だなエドガイ」

「あぁ。釣りはいらねぇって奴だ。・・・・オチビちゃん!」
「ほあぃ!」

ロッキーはハンマーを地面にぶつけて返事した。

「おたくが失ったものはなんだっ!」
「え?」

ロッキーは一瞬止まった。
自分が失ったもの。
一つだ。

「パパ達っ!」

大きな声で叫んだ。

「レイズッ!チェスタ〜!ジャスティンッ!」
「その命は無駄だったか!?」
「のぉ〜〜〜〜!!」

さらに大きな声で、
ロッキーは天へ叫んだ。

「なら背負え!倍プッシュだっ!」
「うぅ〜〜〜〜・・・・・ぅううう!!・・・・・わかった〜!!」

ブカブカのオーブのまま、
ロッキーが飛び出す。

「・・・・・"無残"・・・・・・・・無駄だと言っているのが分からんか」

浮遊したままだったファイアビットが、
ロッキーに向けて放たれる。

「!?」

だがその半分が炸裂して散り、
またその半分が斬り落とされた。

「・・・・・"不覚"・・・・・・・エドガイの斬撃と女王蜂の狙撃か。・・・・チッ・・・・だが一瞬目を離しただけだ」

「いーや。おたくは15・・・いや、14の眼を活かしきるに至っていない事だ。
 相手は俺ちゃんら3人でも、眼を数体監視に回している分追いつかない部分があんだよ」
「やぁ〜〜!!」

ロッキーはハンマーを振り上げたまま突っ込んできていた。

「・・・・・"無問題"!・・・・・・・私は忌み嫌うが!誰にでもわずかな隙はある!
 それでもお前らを倒すには十二分で!お前らより無駄は遥かに少ない!」

計算。
無駄を嫌うからこそ、
ポルティーボはその有能な頭脳でそれを行っている。
どこにどれだけ眼を光らせ、
自分の力をどれだけ分散させればいいか。
それを計算し、
適度で効率よく、
無駄無く。
それが彼の強さ。

「・・・・・・・・"防御"!・・・・・・・・『ロコ・スタンプ』!貴様にはこの程度!」

ロッキーの目の前に、
大きなアイスボールの塊が氷結していく。
それはロッキーの力を計算しての魔力量。
他は常時マリナとエドガイに回す。
無駄無く。

「どっりゃぁぁ〜〜〜!!」

だが、
戦場ではいかなる時にも計算違いというのは現れてくる。
ロッキーが振り出したハンマー。
その片方の面。
得意技のバーストウェーブ。
普段はそれを攻撃の面に使うが・・・・

「・・・・・何?」

はたまたそれはジェット噴射。
バーストウェーブをジェット代わりに使い、
ハンマーの振りは加速した。

「・・・・・"誤算"!・・・・・言わずともそんなところかっ!!!」

予想より早く加速し、
さらに強力になったカプリコハンマーは、
氷結の途中であったアイスボールを粉砕した。

もちろんポルティーボにとったら魔術は一つづつなんてケチな真似はいらない。
同時にフォローも入れていた。

ウィンドバイン。
風が巻き起こり、ロッキーの体を上空に吹き飛ばす。

「・・・・・"視認"!!・・・・・・当然見えているぞ!全ては見えているっ!!」

14の眼による14の視認。
見えないものなど無く、
同時に14の状況に対応出来るポルティーボは、

「LOVEずっきゅん!!!」

エドガイの渾身のパワーセイバーの弾丸も見えていた。
もちろんマリナの狙撃も見えていた。

吹き上がるウィンドバインと同時に、
渾身のサンドスプレッド。
地面から瓦礫が巻き上がり、
幾多も瓦礫を吹き飛ばされながらも、
エドガイのパワーセイバー。
マリナのMBスナイパーライフル。
その両方を食い止めた。

「・・・・・"無駄ァ"!!!・・・・・無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」

コンボ・・・・というよりは、
やはりそれは同時に既に発動されていた。

突風で吹き上げられたロッキーには巨大なファイヤアロー。
長距離の先に居るマリナには眼くらましのアイスアロー。
飛ぶ斬撃を行うエドガイにはウィンドアローの乱舞をお見舞いしていた。

「そう!釣りはいらねぇよなぁ!!」

エドガイはウィンドアローのカマイタチの中を走っていた。
エドガイから動くのは初めての事。
走りながら、
トリガー付きのアスタシャを振りし切り、
パワーセイバーで風の刃を相殺して翔け走る。

「まっけないもんねー!!」

空中のロッキーは、
空中で餅つきの如くハンマーを振り上げ、
それを振ると同時に爆裂した。
それはファイヤアローの炎を吹き飛ばす。

「"無駄"・・・・・と言っているのだ!!」

アイスアローは空中で砕け散った。
マジックボールの凝縮された弾丸が、
氷の矢を貫き砕く。

それらも全て・・・・"見えている"

「・・・・"千里眼"・・・・・・は全てが見えている!私に見通せない事など無い!
 無駄など即斬!無言即殺!取捨選択さえ甚だしい!!実に!実に非効率だっ!!」

「だぁあああああ〜〜〜!!!!!」

空中のロッキーは、
ハンマーにジェット噴射を加え、
急落下してくる。

「・・・・・・"進化"・・・・・・・こいつ・・・・・戦いの中で経験を詰んで・・・・進化している?
 無駄を超越するな!過剰品質ほど無駄な事は無い!計算も出来ない無駄め!!」

ファイアビットを大量に出現させ、
空中のロッキーへ発射する。
それは同時に、
エドガイとマリナにも発射される。
20。
30?
一人の人間が発射する量のファイアビットの量ではない。

ロッキーを狙うのと同時に、
マリナの狙撃を逆に食い止め、撃ち落し、
エドガイの進攻を妨害する。

「足りねぇ!足りねぇぜポルポル!!それじゃぁ俺ちゃんは"買え"ねぇぜ!?」

全てを叩き落してエドガイが突っ込んでくる。
対応出来ない程近づいて斬ってくる気だ。

「ポルッ!てめぇの実力は足し算であって掛け算じゃぁねぇ!
 てめぇが14人居ようが15人居ようが!てめぇ一人の実力を超えるもんじゃぁねぇんだ!」

「・・・"否否"!!・・・・・・・・それで十分なのだ!弱者でさえ!一人より二人の方が頼もしい!
 それが合わさる力というものだ!協力ほど強力なものは無い!力を合わせる事に無駄など無いっ!!」

ファイアビットがさらに増える。
花火を超え、
それは一つの太陽から放たれる火山の飛礫。
100を超える炎のビットが炸裂し飛び交う。

「足りねぇ足りねぇ足りねぇ!!"余所見"してるヒマがあんのかポルポル君よぉ!!!」

剣技だけでも誰よりも凌駕している事を見せ付けるように、
エドガイは炎の飛礫を切り刻んで駆け走る。

弾幕を、
マジックボールの弾丸が貫いて襲ってくる。

空中から、
凶悪な勢いで少年が急落下してくる。

「・・・・"無駄"・・・・無駄!メニグラスッ!・・・・ノォ!センスッ!!
 私の誇りと覚悟は何よりも強いっ!それに対抗しようなどと!無々で!駄々だ!」

その誇り高き、
全てを見据える魔力の中を、
弾丸(マリナ)と、
底力(ロッキー)と、
斬弾(エドガイ)が、

貫いてくる。

「メェェェニグラスッ!!!!」

一瞬、
全てのファイアビットが消えた。

「ノォ!!・・・・・・・センッスッッ!!!!」

弾けた。
ポルティーボの周りで、
幾多に、
数多に、
埋め尽くすほどに、

爆発(バーストウェーブ)が起こった。

「・・・・のぁっ!」
「わぁ!?」

エドガイが吹っ飛ばされる。
ロッキーが吹っ飛ばされる。
マリナの弾丸が消し飛ばされる。

「・・・・"誇志"!!・・・・・私はっ!!何も失うわけにはいかないっ!!」

全てを吹き飛ばした中心に、
魔弾ポルティーボ=Dが立っていた。
当たり前の、
魔術師の中の魔術師の身なりのまま。
周りにゴーストアイズ(自らの眼)を浮遊させたまま。
彼は立っていた。

「・・・・・"十四"・・・・・足りた・・・私の力は無駄ではない・・・・・」

「てて・・・・」
「・・・・くそ・・・ほんと・・・やるようになったなポルポルちゃん・・・」

「"誇り"・・・・"結束"・・・・そして"希望"!それが私の力だ!
 ここに居る騎士団の皆の思いは一欠片も無駄には出来んっ!」

傷は浅い。
だが完全に押し返された。
エドガイもロッキーも成す術もなく押し返された。
足りなかった。

「いーや。転んでも小銭を拾わなきゃ立ち上がらねぇのが俺ちゃんだ」

もったいねぇもんな。
エドガイはペロリと舌を出すと、
舌の中心のピアスが輝いた。

「大体見えてきたぜぇん♪」

接近。
そこまでは間違っていない。

ロッキーはオールラウンダーだが、
エドガイの長所を含めても、
マリナを含めて全員遠距離・・・・いや、中距離以上で力を出せるタイプでもある。

それでも近距離だ。

魔術師に近距離戦を挑むのはポピュラーこの上ないし、
それ以上に。

「てめぇの無駄はソコにある」

だが、
"ソレ"を行う上でどうするか。
圧倒的に"足りない"。

「現状で加勢に使えるのは可愛く無い子ちゃんと、病んだ可愛い子ちゃんか。
 いーや。涙目な事に"眼"で監視されている以上誰の加勢も願えねぇ」

それこそポルティーボの無駄の無さ。
希望は立たれている。
無駄無く詰まれている。

「さぁて・・・・万事休すかねぇ」

どうにかWISオーブで部下だけでも呼べれば。
そう考えている時に。

「おい」

そう短く声をあげたのは、
ポルティーボの方だった。

「・・・・"疑惑"・・・・・どうなっている」

「ぁあん?」

ポルティーボが何を言っているか分からなかった。
疑問を疑問で返すつもりはないが、
ポルティーボが何を言っているか分からない。
世界で一番意味の無い事を言わない人間が、
何を・・・。

「・・・・"完遂"・・・・・私は完璧に見張り続けていたはずだ」

ドジャー。
イスカ。
スミレコ。
『ドライブスルー・ワーカーズ』
それら全てを監視しつつ、
全体を把握し続けていたはずだ。

まさに死角無し。
そうしていたはずだ。

「・・・・"出現"・・・・・どこから現れた!!」

エドガイ自身も疑惑の表情のまま、
辺りを見回した。

「・・・・・あれま」

なんという事は無い。
素晴らしき救世主の登場!!・・・・というわけでもない。
どこにでも居そうな戦士だ。
それが死骸と戦っていた。

「あんれ?ここら一帯はポルに全滅させ・・・・」

そう思っていると、
戦闘音が他所でも聞こえてくる。

「あれ〜?何何〜?」

ロッキーもキョロキョロと見回す。
戦闘音。
戦っている。
誰?
誰というわけでもない。
だが、
既に全滅と呼んでいいほどに滅ぼされていたはずの反乱軍。
なのに、
所々で戦闘が戻り始めていた。

「・・・・"何時"!・・・・否!・・・・"何処"!・・・・・お前らはどこから現れた!!」

気付いてみれば、
いつの間にかとしか言い様が無い。
戦っている。

50・・・いや、30さえも切っていたろう残りの反乱軍。
なのに、
明らかに100を超える人間が戦闘に参加し始めている。
いやもっと。
増える。
増えていく。

味方が・・・突如に増えている。


「だぁーらしないねぇ」


そう、
当たり前のように。
ずっと居たように。

その者は、
ポルティーボやエドガイ達の中心に立っていた。

「結局あたしも参加しなきゃぁならんわけね。あー、肩こる。
 あ、年のせいじゃないわよ。今少しでも頭に過った奴はぶっ殺した上に晩御飯無しだかんね」

アクビをしながら、
ティンカーベル=ブルー&バードはそこに立っていた。

「ティル!!」

「馴れ慣れしいわよエド。ま、別にいいけど」

巨大な、
馬鹿デカい旗を持って、
ティルは立っていた。

「いややっぱよくないわ。あんたねぇ、昔っから馴れ慣れしいのよ!
 べっこべこにされたくなかったらあたしに話しかける時は土下座しながらにしなさい」

「・・・・いや、絶対嫌だけどよぉ。おたく一体・・・・」

「・・・・・・"何処"」

ポルティーボが無動作に話しかける。

「・・・・・短直に聞くならそんなところだ。一体、何時(いつ)・・・・何処(どこ)から現れた」

ポルティーボの頭上で、
慌しくゴーストアイズが飛び回った。

「・・・・・"完璧"・・・・・私のサーチは完璧だったはずだ。無駄は無かった。
 外門までフォローしていた。なのに。なのにお前は何処から現れた!」

「やーねぇー。いーじゃないの。何処から来たの?なんて同窓会っぽくて」

城の頂点にでも突き刺すような馬鹿デカい旗を肩に立てかけながら、
ティルはおばさん臭く言った。
そんな事を口に出そうものなら誰しも命は無いが。

「堂々と真正面から不意打って入門してきたに決まってんじゃない」

「・・・・・・・・"不可視"・・・・・・インビジか!」

居なかったのではない。
見えなかった。
見えないまま、
外門から堂々と伏兵は侵入してきていた。

「ピンポンパン♪せいかぁーい!でも残念。ご褒美はあげないわよ〜」

ハッハッハと、
胸を反らしてティルは豪快に笑った。

「・・・"否解"・・・・・解せん。それでも!」

ポルティーボは辺りをそのスタッフで示す。

「軽く100を超える人間を隠して侵入してきただと!
 そんな効率良く!無駄の無い事が出来るはずが無い!」

「100?何言ってんの?」

ティルは微笑み、
その巨大な旗に逆にもたれかかるようにしながら、
ゆっくりと、
右手を挙げた。
挙げた右腕の先で、

指がパチンッと音を鳴らした。

同時。

歓声。
豪鳴。
振動。
気迫。

まるで部屋に灯りがともったかのように、
あたり一面に人。

人人人人人人人人人人人人人人。

溢れかえった。

戦場だけではない。
その人の大群・・・いや、大軍と呼べるその津波は、
一面を埋め尽くしているだけでなく、
外門まで流れ、
そのまま街にまで繋がっていた。

人の流れが、
街から押し寄せている。

その数、

1000や2000なんかではない。

「・・・・・"馬鹿"・・・・・馬鹿な・・・・」

それは、
決してポルティーボには該当させられない描写ではあるが、
ポルティーボは眼を丸くした。

ありえない。
自分の監視の眼を掻い潜り、
何千という人間が目の前に現れたのだ。

魔術。
魔法。
奇術。
奇策。
奇跡。

そんな言葉では納得出来ない出来事が、
目の前で起こっている。

「おいおい。どーなってんだこりゃ」

エドガイとて驚きを隠せないまま、
・・・・ハハッとその光景に笑った。
また始まった。
終わりかけた戦闘が、
また至る所で開始させられた。

「どっから沸いたんだこりゃ。反乱軍は根こそぎ連れてきたはずだろ」

「・・・・って聞かれたら、まぁ"パンピーが沢山"って答えるしかないけどね」

巨大な旗を持ったまま、
ティルはエドガイに応える。

「始まりはね。反乱軍の家族ってところかしら」

「家族だぁ?」

「あたしは行ってないけど、反乱軍の巣窟(コロニー)だっけ?基地よ基地。
 ほとんど惨殺されちゃったけど、あれ以外にも非戦闘員ってのは沢山居たわけ」

「・・・・で納得出来る数じゃぁねぇな」

居たとしても数十人だ。
その数は割が合わない。

「彼らが集ったのよ」

「・・・・反乱しましょってか?」

「そういう事」

「バカバカしい」

納得出来るわけがない。
絶対に歯向かう。
それが出来なかったから民だ。
逆に、
それが出来た人間だけが反乱軍として勇者に成り得た。

「最初はルアスの民だって言ってたわ」

「ルアス?」

「ツヴァイにケンカ売られてムカついたってところね」


                   「黙れ!!!!!!!」
                   「カス共が!!!」
                   「倒してくれ?願っている?応援している?・・・・黙れカス共!!
                    そんなもの・・・・何一つの助けにもならん!」
                   「貴様らのような人間は世界の醜悪と同等のカスだ!」
                   「オレ達は、ただオレ達のためだけに戦う!」
                   「身勝手な傍観者であるお前らのためになど、カケラも戦わん」
                   「分かってて死ににいく。それこそ愚かだが・・・・
                    貴様らのように何もしない者達と比べればどれだけでも胸を張れる!!!」
 
門出で、
ツヴァイは民を一掃した。
傍観者に未来は無い。

「そこでうっせ!やってやらぁ!・・・って動ける馬鹿が、世界にはこれだけ居たって話よ」

それだけの話。

「"人は老いても腐らない"。名言だこりゃ」

ペチンとティルは自分の額を叩いた。
人は老いても腐らない。
世界が腐っても、
性根には命があり・・・意志がある。

「・・・つっても、いや・・・確かに誰もが最初で最後のチャンスだとは分かってたろうよ。
 だけど自らの命を価値に換算出来る奴がここまで居るたぁねぇ」

俺ちゃん結構嬉涙目だねぇ。

「・・・・・"黙言"!!・・・・・・・・・私はそんな事を聞いているのではないっ!!!」

ポルティーボは叫んだ。

「・・・・"何故"・・・・ではない!何処から現れたのかと聞いている!
 インビジ?カモフラ?不可解成りっ!この大軍でそんな事が出来るはずがないっ!
 我が騎士団有するステルス部隊でさえ鍛錬を積んで100や200募るのが精一杯だった!」

「そぉんな大したもんじゃないよ。息を頑張って殺して、ゆっくり歩いてきただけだからね。
 ポル。あんたの眼。視覚だけを欺くならそうも難しい事じゃぁないんだよ」

「・・・・・"否解"!!・・・・・・・だからといって4ケタの人間をインビジ出来る人間などっ!!」

「居るよ。そこに」

ティルはそこにデザートでもあるかのように軽く指差した。
旗に持たれかかったまま、
指をさす。

その先では、
ロッキーが口を大きく開けて、
眼を大きく見開いて、
満面の笑みを作っていた。

「フィ〜〜リィ〜〜!」

「よっす!ロッキー!」

二人の少年は、
戦場の中で久々の出会いに追いかけっこを始めた。
ロッキーと一緒に居るのは、
ロッキーより少し大きい程度の、
年端も行かない子供だった。

「おいティル。誰あれ」

「うち(99番街)の子だよ。ディル=フィリー。3老が一人、レン爺の坊主だ」

「フィリー!なぁにしに来たの?」
「決まってる!じぃちゃんの仇だっ!」

追いかけっこをしながら、
二人の少年は仲良さそう笑った。

「・・・・って事。ポルもエドも知らないだろうから説明しとくとわ。この坊主は天才インビジ少年なのよ。
 有名な事件だと1年前の"広場集団神隠し事件"の犯人。広場の人間全員インビジってね」

ま、
今はさらにその実力(ヤンチャ)に磨きがかかってるわ。
ティルは母親のように追いかけっこを微笑ましく眺めていた。

「・・・・・"畜生"・・・・・・・・」

ポルティーボが、
モスバインダーの舌で唇を噛んでいるのが見て取れた。

「・・・・無駄ではない・・・あまりに無駄ではないからこそ・・・恨めしい・・・・。
 お前らのような意志は・・・私が決して無駄にしたく無い"真の意志"だからだ・・・・」

ポルティーボの口の動きが止まる。
唇の両端が離れた。

「・・・・"だが"・・・・それでも!先行の反乱軍より通る烏合の集に過ぎない!そうあえて言わせてもらう!
 私とて!"私ら"とて!この意志は無駄ではない!私達は私達なりに世界を守りたいのだっ!
 だからこそ!どちらの意志こそが無駄ではなかったかという事を!証明してやるっ!!」

「あらそう」

そこでティルは、
地面にその巨大な旗を突き刺した。

「ならツヴァイには悪いけど、あたしがこの新しき反乱軍の門出を勤めさせてもらおうかしら」

その巨大な旗は、
大きく、
意志の中で揺らめいていた。

そこになぶり書かれているのは"反抗意志"
親指を二本地面に突き落としているかのようにさえ見える、

"99"という文字。

「ここあるのはただの"反抗心"。お世辞にも褒められた理由も無いただの反乱。
 ただの世界の皆の反抗期。勝てない親に抵抗する子供の悪あがき。
 だからこそ、今、この時だけ、あたしの好きな言葉で名乗らせてもらうわ」

旗を片手に、
周りに反抗期を集い、
ティンカーベルは、
名乗った。

「シェナニガンズ・・・・悪ガキの結晶・・・・・《シェナニガンズ・ベスト(クソッタレの逆襲)》・・・・ってね」

言い換えれば、
メジャードリーム。
新しき意志も、
未だ残りし意志も、
同じ。

「さぁ、行くわよ《シェナニガンズ(悪ガキ坊's)》!!!」

人は立ち上がった。
何人。
何千?
その列と群は街まで続いている事から、
その数は永遠にさえ感じる。

それにはきっとキリはあるし、
帝国軍に比べればそれは余りにも足らない事には変わり無いだろう。

マイソシアは立ち上がった。

反抗期の群が帝国軍へと雪崩れ込む。

「・・・・"言値"・・・・・・・・・言うならば・・・・眼を見張るものはあった」

押し寄せる民の光景の中、
ポルティーボは言及する。

「・・・・・"有意義"・・・・・・・・私達が守るべき民は!守るだけの価値があったのだと!
 ただ!結果として現れた時!何が正しかったのかだけを私は示そう!王国の力で!
 お前達は誇り高き民だ!お前らの思い!無駄にはせん!」

ポルティーボが魔法を発動する。
高名なる魔術師14人力の、
最高の魔術師x14分の力を持って、
全力を持って迎え撃つ。

「・・・・"無駄ぁ!!"・・・・・・メニグラスッ!!ノォ・・・・センスッ!!!」

出鼻を挫くように。
出足を挫くように。

強大な魔法は反乱軍に襲い掛かり、
一つさえ外す事なく、
無駄無く、
完璧なコントロールで、
雪崩れに魔法をぶちこむ。

増援など無駄だと知らしめるように、
出足から数十人という人が吹き飛んだ。

「あれ・・・ポルってばあんな強かったかしら」

「そぉれが強ぇんだよ。俺ちゃんとおたく。調度ここに騎士団に入らなかった二人が居るわけだが。
 ん?あぁ今更ディアンの話はいいけどよ。つまるところ、俺ちゃんらの知らない所で世界は回ってたってわけ」

「無駄な生活はしてなかったってわけね」

「で、ティルよぉ」

エドガイはティルに近づき、
小声で耳打ちしようとする。

「ちょいと作戦があんだけど」

「ノるかどうかは別として言ってみなさい」

片手で遮りながら、
ティルに小声で耳打ちを・・・・

「レロッ」

「耳を舐めるなっ!」

世界がひっくり返ったと思った。
ツッコミに手加減を知らないのか?
エドガイは地面に叩きつけられてバウンドし、
スローモーションの世界でお花畑が見えたと思ったところで、
自分がヨガみたいなポーズで逆さまに着地している事に気付いた。

「じょ、冗談だっての・・・涙目だぜ。本気だったら"泣虫"がベソかくだろ?」

「あいつはただの"元"旦那よ。んで?ベッコベコにされたくなかったらちゃんと言いなさい」

「あーい・・・・・」

ヨロヨロと立ち上がりながら、
エドガイは今度はちゃんと耳打ちをする。

「あー、なるほどね」

「名案っしょ?」

「やってみなきゃ分からないってとこだけど。ま、あたしにやってやれない事は無いしね」

「さっすが騎士団養成学校の不良番長。スケバン様に不可能はないねぇ」

「ベッコベコにされたいみたいね」

「いーや」

ヘラヘラ笑いながら、
ヘドガイはそれっきりティルを見なかった。

「おーい。オチビちゃん!」
「はぁーい!」

フィリーと追いかけっこをしていたロッキーだが、
呼ばれたらジャンプして応えた。
既に乱入者達の群で姿がほんのりとしか見えなかったが、
頭の中から狼帽子がピョンピョンとジャンプしているのが見える。

「いけ。ポルティーボを地面ごと吹き飛ばしちまえ」

エドガイが歯を見せながら合図する。
ロッキーは一度首を傾げたが、
やっぱり無邪気に考えるのをやめて、
微笑んで景気のいい返事をした。

「やっるぞぉー!!」

人ゴミの中からロッキーが抜け出す。
ポルティーボは魔法を放ち続けていて、
彼に近づけば近づくほど、
人の数は少なくなっていた。

「さて、あたしも自己紹介といかせてもらおうかしら」

ティルは一度鼻で笑った後、
旗を地面に突き刺したままに、
走り出した。

「・・・"初動"・・・・・・・動いたかティンカーベル」

一度魔法は止み、
ポルティーボの眼。
眼という眼はティルを見据えた。

「・・・・・"油断"・・・・・・お前にブランクがあるとはいえ、よもや油断などはしない。
 無駄な事だ。お前も私達と同じクラスの人間なのだからな!」

「っせー!改造人間っ!コンプレックスは克服したかい?」

「・・・"無論"・・・・・・・・簡単に言えば、今ではコレは私の誇りだ!!」

「ならあたしがベッコベコにしてやんぜっ!!」

陸上選手さながらの大振りな走りで、
ティルは加速して駆けていく。
風を切り、
空気を切って、
一直線に。

「あたしの能力は覚えてるかい?」

「・・・・"虚"・・・・うつろにな。ただお前はあまり人目の好きな人間じゃなかったからな」

「だね!・・・・クレリックエイドッ!!」

白い、
輝く光が、
加速して走るティルを包み込んだ。
かけられたクレリックエイドは関係ないだろうが、
光と共にティルはさらに加速する。

「・・・・・"記憶"・・・・・思い出してきたぞ。お前は"強化型"だったな」

「いぇーーーっす♪・・・・ロックスキンッ!!」

さらにティルは加速する。
光がさらにティルを包み込む。

「ホンアモリッ!ブレシングヘルスッ!!」

さらに、さらに、加速する。
共に、
光がさらに上書きされる。
光が包み込む上からさらに包み込んでいく。

「マナエイドッ!スキルエイドッ!ホーリーエイドッッ!」

輝く。
輝く輝き輝かせる。
白き暖かき聖なり光。
何重にも何重にも、
加速して駆けるティルに上書きされていく。

「・・・・・"確認"・・・・・・そうだ。そうだそうだそうだったな!お前はそういう能力だった!」

「グレイスセルフッ!ヒットストライク!ホーリーディメンジョンッ!!」

輝きが、
包み込む。
眩い。
ただただ、
ティルに純白の光が包み込んでいく。

「クレリックシールドッ!ディバインシールドッ!スティタスガァーーッドッ!」

それはもう、
翔ける一人の乙女を包み込む、何かだった。
光は光でなく、
あまりの密度に、
光は包み込むというより包み込まれていた。

「ライトフィーリングッ!」

・・・・ドレス。
言うならばそうだ。
彼女に何重にも重ねられた光は、
十二単(じゅうにひとえ)に包み込み、
それは光を着こなすが如く。
オーロラのようで、
ベールのようで、

柔くも美しい、真っ白なドレス。

「・・・・・・"聖衣"!!・・・・・・・『煙草を咥えたウェディングドレス』!!
 それがお前の呼び名だったなティンカーベル=ブルー&バード!!!」

全弾発射。
そう言っても差支えが無いほどに、
魔弾は魔法を発射した。
それらが一つの無駄も無く、
全てがティルへと襲い掛かる。

「"こうのとり"を見たことがあるかい?」

その魔法は、
風に等しかった。

ティルを吹き飛ばすはずの魔法達は、
ティルに直撃するや否や、
ため息のように蒸発していった。

聖衣。
補助魔法による、
光のウェディングドレスによって。

「幸せを・・・見たことがあるかいって聞いてんのよ!!」

ティルにぶつかると共に、
ポルティーボの魔法が消えていく。
ベールが乱れ散ると共に、
魔力も消滅し、消えていっていた。

「ここはあたしのヴァージンロード!行方を邪魔できる奴ぁ一人もいないわ!!」

魔法を片手でかき消した。
その中で、
永遠の新婦は駆け走る。

自分のヴァージンロードを。
教会の鐘(ベル)の鳴る方へ、

ティンカーベルはウェディングドレスを靡かせて。

「・・・・・"屈強"・・・・・・・・だが無駄ではないっ!お前の"聖衣"は無限で無い事も覚えているぞ!」

それでも休むヒマなく、
14の魔法はティルを襲い続ける。
そのたびに魔法は消滅を続け、
その度に、
ウェディングドレスは輝き散っていた。

「・・・・"無論"!・・・・・・・・そちらも忘れてはいない!!」

その魔法の内の幾らかが、
方向を転換させた。

「うっぉお〜〜〜!」

ハンマーを振り上げ、
ロッキーが突撃してきていた。


「・・・"視認"!・・・・・見えているぞ!私の魔弾(眼)に視覚はあっても死角は無いっ!
 360度!三次元を超えて!全てが私の眼中!見る目があったな!!」

「そうかな」

ロッキーの口が、
突如冷静に歪んだ。

「!?」

「・・・・・出来るならばロッキーの成長の礎にしたかったが・・・・已むを得ん」

オリオールは、
冷酷に、無機物的に、口を動かした。
足を止め、
ハンマーを担いで、
片手を突き出した。

「大地讃頌。メガスプレッドサンド」

岩の飛礫。
それは地面の飛礫。
ただ、
オリオールのメガスプレッドサンドは、
それにて攻撃するでなく、

地面を揺るがす威力を、そのまま攻撃に変えた。

「改造人間だろうと所詮有機物だろう。・・・・無機物に屈しろ」

地面が大きく跳ね上がった。
崩れる天井の真逆。
地面が崩れてバラバラに吹き飛んだ。

「ぬぉ!!!」

皮肉にも、
それがやっと、ここにきて初めて、
ポルティーボをその場から動かすに至った。

今の今まで一歩たりとも動かずに圧勝していたが、
そこで初めてポルティーボは空中に放り出された。

「・・・・・"無駄"・・・・・・・・」

だが、
それに何の意味がある。

眼は、自由自在に空を舞う。
ポルティーボ自身が空中に放り出されたからといって、
ポルティーボに不利は一切無い。

この状態でも冷静に無駄無く確実かつ効率的に、
ポルティーボは攻撃を行える。

ポルティーボがどこにいようとどんな状態だろうと、
問題がないからこそ、今の今まで苦労していた。

「・・・・"確認"・・・・・・それは見えているということだ」

つまり、
コンボ。
このままエドガイとマリナ。
それ以上に走りこんできたティル。
一斉に攻撃を打ち込んでくる。
そういうことだろう。

ポルティーボは冷静にそう判断した。

「だが"無駄"!・・・・・無駄だ無駄だ無駄だ無駄ァ!!!
 地に居ても空に居てもそれは同じ!無駄でしかない!無駄は嫌いだ何の意味も無い!
 地で全ての攻撃を防ぎきれていたように!こんな事は無駄でしかない!」

だが、
一つ、
やっと気付いた事がある。

ティルは・・・・真っ直ぐ自分に向かって走りこんで居たわけじゃなかった。

真っ直ぐ、
関係ないところに走っていた。

「・・・・"疑惑"・・・・・・・なんだ。何故そんな無駄な行動を・・・・」

客観的に見れば、コンボ用か?
自分の落下地点を先読みしていた?
いや、
それよりも疑るべきは・・・・。

「てててて!何すんだよティルおばさん!!」
「ティル姉って呼べっつってんだろ悪ガキ坊主ッ!!」

ティルはいつの間にか、
フィリーのドタマを掴んで走っていた。
まるで人形でも掴んでいるように、
フィリーの小さな頭を掴んだまま、
腕を容赦なく振りまくって走っていた。

「きぃ〜〜もち悪いぃ〜〜」
「頑張れ悪ガキ坊主!レン爺のカタキ討つんでしょ!?」
「うぅ〜でを振らないで走ってぇ〜〜」

ブンブンと鞄より悪い扱いでフィリーは振り回される。

いつの間にか?
そう表現したが、
もちろんポルティーボはそれ自体には気付いていた。
思いがけなかったからこそ止める事は出来なかったが、
ゴーストアイズによって、
フィリーを拾うその瞬間自体は目撃していた。

「・・・・"何故"・・・・」

空中でポルティーボは、
モスバインダーが飛ばされないように深く抑え付け、
遠隔の眼でそれを見据えていた。

「・・・・・いや"理解"・・・・・・・・・理解出来たぞティンカーベル!」

ポルティーボは小さく笑みを漏らした。

「・・・・"逆手"・・・・・・・私の能力が"視る"能力である事を逆手にとろうとしているのだな!
 その子供がインビジブルの使い手だと私に教えたのはあまりにも非効率で無駄だった!
 だが無駄!!!不可視にして私の"目視"から逃れようと、その瞬間を私は見逃さないっ!
 全身全霊!ソコに私の魔法を思いのままにぶつけてやろう!それで無駄に終りだっ!」

確かに、
自分のピンポイントアクセスの能力は少し乱れる。
敬意に値する無駄ではない作戦だろう。
だが許容範囲。

「・・・・"然(しかり)"!・・・・・・もしくはその子供が盗賊だという事を使う気か?
 確かに"スモークボム"や"ジョーカーポーク"は私に有効に見えるかもしれない。
 私の能力は眼である限り!・・・だが、それは逆に私の長所だと言っておこう!
 14の自由自在の眼でその自体にも対処は完璧に出来る!目潰しが効かない事が私の能力!」

「そぉ〜んな事僕出来ないよぉ〜ぉ〜〜ぉお〜〜」

今にもゲロを吐きそうな声だったが、
物のようにティルに運ばれるフィリーはそれを否定した。

「さて」

ティルは急にブレーキをかけた。
そして片手を突き出す。
紋所(もんどころ)でも見せ付けるように、
フィリーの頭を掴んだまま、
ブランブランと前に突き出した。

「やれ。悪ガキ坊主」
「およよ・・・・・死んだじぃちゃんが見えるぅ〜・・・・」

目を回しながら、
フィリーはソレを発動した。

「・・・・・"何"?・・・・・・」

警戒する。
ポルティーボは14の目で警戒の限りを尽くした。
何もかもを見据えて、
何も見逃さないよう配慮した。

だが、
何が起こったか分からなかった。
何せ、
何も起こらなかったのだから。

この戦場のどこをどう見渡そうとも、
何一つ、
何も変哲も無い。

「無駄じゃなかったってぇいうなら、俺ちゃんのさっきまでの攻撃は、無駄じゃなかったんわけだ」

エドガイが、
そう得意気に話した。
ポルティーボの眼の内の3つまでもが、
エドガイの方を見据えた。

「ポル。おたくは確かに"抜け目"が無かったぜ。確かに"目の付け所が違う"って奴だ。
 だがおたくには決定的な"盲点"があったわけだ。つまり、頭隠して尻隠さずの心境」

エドガイは、
指の代わりに剣を突き出す。

「おたくの・・・おたく自身のその"両眼"は、見る用のもんじゃねぇってことだ」

一度だけ見せた、
ポルティーボの素顔。
その顔には、
醜くゴーストアイズが埋め込まれていた。

「だってそうだろ?おたくとは別に14の眼(ゴーストアイズ)は飛び回ってんだからな。
 それにおたくはずっとモスバインダーで顔を隠していた。
 つまりおたくに付いてるのは"節穴"で、その二つはただの受信用のオーブってわけだ」

「・・・・"肯定"・・・・・・確かにその通りだ」

「そうとは思ってたんだけどよぉ、俺ちゃん疑り深いし、そう見せてるだけかもしれねぇ。
 そう思ってよ、試したわけだ。わざわざ俺ちゃんが自ら接近戦なんて挑んでよぉ」

それで確信した。

「おたくの超絶的な制球力。その無駄の無い魔法コントロール。
 なのにあの時だけは目茶苦茶に俺ちゃんやオチビちゃんをバーストウェーブで吹っ飛ばした」

やろうと思えば、
ポルティーボの正確性ならば、
それで仕留め切る事だって出来たはずだ。
なのに結果はお粗末。
やたらめったに無茶苦茶に、
コントロールのカケラもなく吹っ飛ばしただけだった。

「・・・・"結論"・・・・それでなんだというのだ!確かに的を得ている!
 私自身に埋め込まれたゴーストアイズは受信用だ。見る事は出来ない。
 そして客観的にしか私自身を見れないからこそ、あの時は瀬戸際まで追い込まれた。
 だからといってなんだ!私には無駄無き!14の眼がそれを上回る!」

「で・・・・・おたくは今どこっては・な・し♪」

「!?」

どこ?
何処?
自分自身がどこに居るか・・・だと?

ゴーストアイズ。
14の魔弾が、戦場を動き回った。

「・・・・"何処(いずこ)"・・・・・・・・・」

見る。
視る。
観る。
それを14回繰り返しても、
しても、

自分自身の姿が目視出来ない。

「カモフラは得意なんだよっ!」

フィリーは悪ガキ臭く、
偉そうに笑った。
それをゴーストアイズが映像で捉えたが、

ポルティーボはポルティーボ自身を見つける事が出来なかった。

肌に空気の抵抗があり、
自分が落下しているのは感じる。
だが、

飛び回るゴーストアイズで探しても、
自分の場所が分からない。

「・・・・"何処"・・・・だ。・・・・・何処だ何処だ何処だ何処だ!!!」

14のカメラでしか、
自分を見れない。

自分自身の体が、
どこで何をやっているのかが分からない。

「ずっきゅん♪」

エドガイが、
空にパワーセイバーを撃った。
撃った撃った撃った。
マリナも遠距離から狙撃を開始したようだ。

ただ、
どれも何かを狙っているというわけでもなく、
適当に乱射されているだけだった。

・・・・。
だからといって、
ポルティーボは、
どの弾丸が自分に危険なのかさえ分からない。

「・・・む・・・・"無駄"・・・・・・・無駄無駄無駄無駄ぁ!!!!」

ポルティーボはとにかく魔法を乱射した。
それは、
『ピンポイントアクセス』と呼ばれるにはあまりにもお粗末だった。
だが、

「・・・"視認"!!・・・・・・・見えた!見えたぞ!!!」

自分が魔法を発動している事によって、
14のオーブが自分自身の位置を確認した。
索敵し、
目視した。

「・・・・ハッハ!!・・・・"無駄"!・・・・無駄だったな!全てはメニグラスッ!!!」

気付けば、
もうすぐ地面にまで落下するところのようだった。
それを客観的に気付いた。
随分と高く打ち上げられてい・・・・・

「そこかい!!!」

ティルが、
嬉しそうに走行を再開した。

「しまっ・・・・」

今更。
全ては今更だった。
自分を知りたくて発動した魔法は、
すぐ近くのティルに居場所を教えたに過ぎなかった。

今更・・・というのは、
もうあまりに近すぎて、
魔法による妨害が間に合わない。

全てはこのため・・・・時間稼ぎに過ぎなかった。

「・・・・ち・・・・"畜生"・・・・真っ向からなら!全てを無駄無く対処出来たのに!
 身を守るべき対象を無くしてしまわなければ・・・効率よく対応出来ていたのに!」

それでもポルティーボは諦めない。
諦めるなんて言葉、
無駄だからだ。
諦めるなんて時間、
無駄だからだ。

無駄は嫌いだ。

そんな無駄な事、断じてしない。
最後の一瞬まで、
そんな無駄な事を絶対にしてなるものか。

「・・・・・"無駄ァ"!!・・・・・・・無駄無駄無駄無駄無駄ぁあああああ!!!」

魔法を思いのままにティルに打ち込んだ。
思える全てをつぎ込んだ。

「ぐっ・・・」

その瞬間にも、
エドガイとマリナの弾丸が、
逆にポルティーボをえぐった。
肩を抉られ、
脇腹を吹き飛ばされる。

そしてポルティーボの魔弾は、
今更ティルの聖衣を貫くほどの量は、
間に合っていなかった。

「うぐっ!!!」

地面に衝突した。
その衝撃で片腕・・・右腕が吹っ飛んだのが分かった。
あんまりだ。
同時に右足まで吹っ飛んでいる。

せめて、
自分が"どういう体制で落下しているか"分かれば、
ここまでの不時着は無かったはずだ。

右腕と右足が吹っ飛んだのを、
14の眼で確認した。
衝撃でインビジ状態が解除されたのを目視したが、
それもまた、
今更だった。

ウェディングドレスは、
光を散らばせながら、
駆けてきていた。

「ケーキ入刀っ!!真っ二つ!!」

速度を一切落とさず、
ウェディングドレス(新婦)は、
非情に拳を振り上げていた。

「ベッコベコにしてやるわ!!」

なんとか、
左手が話さなかったスタッフで立ち上がろうとして、
それも儚くまた崩れ倒れようとしている最中、

ティンカーベルの拳が直撃した。

左腕が、
有り得ない勢いでかき消し飛んだ。

それを目視した頃には、
ティルはもう片腕を振り切っていて、
振りぬいていて、

純白のドレスで、
ポルティーボの腹を貫いた。

「・・・ノォ・・・・センス・・・・・」

四肢バラバラに吹き飛んで、
そして、
空から、
ポルティーボは自分の亡骸を眺めた。

「・・・・"無駄"・・・・・・・・私の思いなど・・・・ここで無駄に散ってしまうのか・・・・・」

胸から上しかない自分の体を、
ただ眺めるしかなかった。

モスバインダーは空中の時点でどこかに飛んで行ってしまったようだ。
醜い、
決して見たくない、
その両目がむき出しにされていた。

この眼のせいで、
生まれてこの方、鏡を見る必要が無いのだと気付いた日を思い出した。

「無駄かどうか。それはあたしが判断する事じゃないけどさ」

戦場の中、
藻屑の欠片と化した自分の前に、
ティンカーベルは見下ろし、立っている。

「無駄ってそんなに悪い事かしら?あたしはそうは思わない。
 予定が無くて一人で過ごす週末が、いらない日だとは思わない。
 なんのハプニングも無い帰宅時が毎日続いて満足だとも思わない。
 メリットの無い友達なんて不必要だとは思わない。そういうもんじゃない?」

決まっている。
それは無駄な事ではないからだ。
この世に、無駄な事なんて一つもないんだから。
じゃぁ、
本当に無駄な事ってなんなんだろう。

ポルティーボ=Dは、
自分の破片が光と共に浄化されていく、
終りの中で今更思った。

「だから考えるだけ無駄なのよ。無駄について考える事が一番無駄。
 だけどあんたは昔っから無駄を無くす。無駄を無くす。
 無駄の逆。無駄の逆。そればっかり。有意義ばかり考えて。あたしに言わせりゃ・・・・」

消えていく中で、
ティンカーベルは自分を教えてくれた。

「有駄有駄言ってるんじゃないわよって事」

そうか。
そうなんだな。
つまり、自分は最初から無駄なんて無かった。
今も無駄死になんかじゃない。

何故ならこんなにも清清しい。

無念はあるが、
後悔なんて無いのだから。

「・・・・・"栄光"・・・・・」

消え行く中で、
ポルティーボは今までの自分の人生に、
何一つの疑問も持たず、
言えた。

「・・・・・・王国騎士団に栄光あれ・・・・・・」





























「やだ!やだね!僕はジィちゃんの仇討つんだから!」
「戦場は坊主の遊び場じゃないんだよ」

決してティルが言うべき言葉ではないのだが、
ティルはフィリーの頭を押さえつけて説教していた。

「あんたはまだ養われてる身っての覚えときなさい。
 レン爺の事は残念だったけど、あんたのお父さんお母さんはまだ生きてるわ。
 悪い言い方するとあんたはまだまだ両親の所有物なのよ。自重しなさい」
「僕は十分に立派な大人だ!」
「舐めんなじゃないよフィリー。あんたが生きてるのはあんたのお父さんとお母さんのお陰だ。
 両親が多額の養育費を払って愛も込めてその上であんたの命は成り立ってるの。
 あんたが成人するまでに500万。学校行くなら千万単位で両親はあんたに投資するの。
 命をかけるってのはそれを全額返済した人生半分超えで初めて口にしなさい」
「ぶー・・・」
「ま、その時には今度はあんたが子供に投資してるだろうから、どっちにしろ死ねない身だけどね」

フィリーはティルの説教にスネていた。
難しい事は良く分からないが、駄目だと言われているのは分かる。
いやいやそれよりも、
この戦場に連れてきたのはあんただろと子供心に理不尽を持っているのだろう。

「おいティル」
「なんだいエド」
「お子様帰すなら早くしとけよ。おたくが連れてきた勇士の皆さんのお陰で戦場はブリ返してんだからよ」

こんな表現もどうかと思うのだが、
戦場に活気が戻っていた。
また命の奪い合い。
死骸と、
生きる人々。
その戦いが再び切って落とされたわけだ。

「あら、あんたも子供を大事にする気持ちはあるのね」
「ガキだからじゃないよん。おたくの話のまんまだ。こちとら"金"には五月蝿くてね。
 戦争のプロってよりサービスメンですからねん。命の等価換金は俺ちゃんのシンジョーよ」

命だって買われるものだ。
ガキはなおさら。
このガキも、そして・・・。

「養ってもらった恩(金額)の返済ってぇのはなんでこーも厳しいのかねぇ」

エドガイは顔をしかめて、
ティルから眼を反らした。

「ポルも自分の体を誇りに思ってたわよ。醜くても大事に・・・ね」
「モルモットベイビー(実験体)の考えは俺ちゃん分かんね」
「あんたでも?」
「俺ちゃんでも」

エドガイはやはり目を反らしたままだった。

「ま、何にしろティル。おたくもやる事あんだろ?"ティル姉"ちゃん」
「まぁね。血は繋がって無くても99番街の坊主共は家族だから。
 ドジャーの手助けでもしてやるかしら。ほんと手のかかる子なんだからね」
「家族ねぇ・・・・」

エドガイは反らしたままの目を・・・・
鋭く細めた。

おもむろに剣を抜く。
体勢は自然に無駄なく整えられる。
そのアスタシャ(剣)は、

向かってくる何かのために抜かれた。

「家族っつーと、もう一人来なすったよん」


「爆蹴(エクスタ)」


残像が残るほどの急激な加速で、
戦場の群の中から、
一人の男が飛び出した。

「爆掌(エクスタ)!!」

そして、
その男の手の平と、
エドガイの剣が交わると、
間(狭間)で衝撃が爆発のように弾けた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

その一瞬の交差が終わると、
エドガイの剣に掌底を合わせている一人の男。

ウェーブのかかった金髪の、
泣きボクロの男。

「・・・・・・・衰えてねぇな。エクスタシーだ」
「おたくもな。ハンサムボーイ」

二人は同時に後ろへと距離をとった。

その二人の三角点で、
ティルはやれやれと首の後ろをかいた。

「家族ぅ?違うわよ。元・・・よ。"元"」

「涙目な事言うなよティル。俺の愛妻。今でも俺は愛して止まない。ただ、愛して病んではいるけどさ」

「何回聞いても反吐が出るこっ恥ずかしい言葉量産機だわね」

「本音さ」

泣きボクロの男は、
エドガイと、
元妻の目の前で、
乱れた髪をクシでとき直し、
前を大胆に開かせたカッターシャツ(Yシャツ)を整えた。

「で、エドガイ」

ティルはその男を無視し、
エドガイに聞く。

「家族ってのはどっちの話かしら」

「さぁて。そっちの色男に聞いてくれ」

「おいおい俺に振るなよ。愛の言葉以外は苦手でね」

泣きボクロの上の目は、
優しそうでありながら、
エドガイを睨むようにしていた。
そしてそれは、
エドガイも同じだった。

「愛・・・愛愛愛愛・・・・愛の道化め」

「金・・・金金金金・・・・金の亡者め」

「何言ってんだ。愛も金が無けりゃ守れねぇ」

「そうかな?愛さえあれば他に何もいらないさ」

「合わねぇな」

「そりゃそうだ」

平然を装っているようで、
二人の目は瞬きさえ無かった。

泣きボクロの上の左目と、
前髪のかかっていない左目の焦点が、
常に合わさっていた。

「なら証明しようかエドガイ=カイ=ガンマレイ」

「・・・・ま、しょうがねぇよな。クライ=カイ=スカイハイ」

「涙目な話だ」

「あぁ、涙目だ」

カイとカイは、
一瞬で交差するほどに張り詰めていた。

「あの人ティル姉ちゃんの旦那さんなの?」

・・・・その糸を千切ったのは、
頭をティルに抑えられたままのフィリーだった。

「元よ。もーとー!」

ティルはさらにフィリーの頭を抑えつけた。
フィリーは痛がりながらも頑張って言葉を続ける。

「なーんーでーわーかーれーたーのー!」
「無理して聞くな!大人の事情ってのがあるの!あんたん家みたいに皆仲良しってわけじゃないの!」
「どぉーっちがわーるーかったのー!」
「タブーを学べ坊主!ついでに答えとくとあたしに非は一切ないわ!
 見ときなフィリー。あーゆー言葉ばっかですぐ浮気する男になっちゃ駄目よ」

「そりゃぁないぜティル」

緊張の糸を解き、
クライは両手を広げて眉を上げた。

「言ったろ?俺の心は正真正銘、正直ほんと、お前以外のどこにも・・・・」

「あーあーあー!聞きたくない聞きたくない!
 花言葉事典にでも載ってるような甘ったるいイイ訳聞きたくない!
 ほら。フィリー。あんたはお家に帰って勉強でもしてなさい」
「わっわっわっ!」

ティルはフィリーの頭を掴んで、ポイッと空中に投げた。
フィリーと共に投げ捨てられたのは、
開かれたゲートスクロールだった。

「あー!ずるいっ!!」

空中でフィリーはゲートスクロールの光に包まれ、
光となって天空へと消えていった。

「ん。良かった良かった。さすが俺の妻だ。分かってる。
 俺も子供の前で殺し合いはしたくなかったからな」

「そりゃぁ"どっち"との殺し合いを見せたくなかったんだ?」

エドガイは、
光の後を追い、天空を見上げたままのクライに聞く。

「愚問だぜエドガイ。俺は愛する人と望んで戦うと思うか?」

「・・・・・俺ちゃんとは万事OKってことね」

「そりゃそうだ。ビッグパパ(親父)の意志だ」

ビッグパパ。
エドガイの身の拾い主で、
それは同じ名を持つクライの・・・。

「親の愛には答えないとな」

「身を買われた金の返済だろ?」

「いーや。俺はビッグパパには愛で育ててもらったと考えている」

「同じだ。俺ちゃんもおたくも、ビッグパパに買われたもん同士だ」

「それも愛だとなんで気付かないかな」

そう話しながらも、
クライは戦場の中、
まだ天空を見上げていた。

「ぼんやり余所見してんなよ。"泣虫"クライ」

「いや、まぁちょっと待て。エドガイ。それにティル。これはちょっと涙目だ」

クライは天を仰ぎながら、首を振った。

「あぁん?」

「何よ」

「参った。参ったよ。今の子供の転送見たろ?飛ばしたのは誰でもないティル。君さ」

「で、何よ」

「このルアス城っていうのは・・・・・・もちろん難攻不落の理由は騎士団(俺ら)の強さもある。
 あるが、他の理由の一つに、転送での侵入を阻む結界があるって事さ」

転送での侵入を阻む結界。
ゲートスクロール。
ウィザードゲート。
もちろん記憶の書。
それらの力は、
ルアス城に囲まれたバリア(結界)によって不可能にされている。

攻城戦に身を投じた事がある者なら承知の事実だ。

「そう。だからこそルアス城の外門と内門が難攻不落のチェックポイントなわけだし、
 その点、その外門から堂々と虚をついたティルの援軍侵入にはポルもやられたわけだ」

ルアス城を攻めるには、
必ず真正面から攻めなければいけない。
転送による団体侵入は不可能なのだから。

「そうが何よ」

「そりゃぁあくまで入ってくる側の話だろ?俺ちゃんも攻城は仕事場だ。
 ゲートで入るのは無理でも、ゲートで出て行く事は出来る。そりゃぁ知ってる」

「だから涙目なわけだ」

クライは、
ニヒルに笑いながら、
それでいて皮肉に笑いながら、
天を指差す。

「俺の登場が消し飛んじまう。まさかこんな方法があったとはな」

ティルも、
エドガイも、
天空を見上げた。

いや、
彼らだけじゃなく、
気付く者は皆気付き、
皆の注目は空へと釘付けられていた。

雲と太陽。

その景色を阻むように・・・・・

巨大な船底が空にあった。

「まさか、結界の外からそのまま落ちてこよう・・・・とはね」

船。
巨大な船だ。
それが、空から落ちてきている。

転送による侵入は不可能なのに?
否。
結界の外。
結界のさらに上に"彼ら"は転送したのだ。

転送で直に侵入しなくても、
結界の外にならば転送は出来る。
ただの自由落下。

もちろん人間がそんな事をやればペシャンコで終りなのだが、
彼らはそれを、
船事行おうと・・・・いや、行ったのだ。

「わーぉ・・・・」

ティルはありのままの感想を口にした。

穴を付くような大胆不敵な侵入経路。
但し、
それは高度な転送文化があって成せる業だ。

少なくともまだ人間文明には、あの巨大な船を転送させる手段は無い。
その上、
ゲートも記憶の書も、
x軸とy軸の座標転送のみ。
z軸の座標転送など開発されていない。

空中に転送するなど、人間の仕業ではない。

ただ、
人間ではない彼らの高度な文明は、それを可能にした。

「・・・こりゃぁ〜・・・マジ降ってくるね」

「チッ・・・・」

呆然としていたが、
遅れてやっとクライが動き出し、
WISオーブを取り出して通信を始めた。

「聞こえるか!俺だ!クライだ!見えるかディエゴ!中に居るから見えないなんて悠長な事言ってんなよ!?
 奴ら・・・・・"奴ら"空中から侵入を図りやがった!正直ほんと想定外で涙目だ!命令を出せ!
 ポルの部隊はまるまる残って余ってんだろ!落とせ!落とすんだよ!入れさせるな!」

クライが通信を切ると同時、
どれだけ手際がよければそんなに早く動き出せるのか。
数多の魔法が地上・・・・内門方面から発せられた。

空中から降ってくる巨大な船。
ガレオン船の船底に、数多の魔術がぶつけられる。
撃墜しようと地上から砲撃される。

だが、
それも虚しく、
巨大なガレオン船は結界を突っ切り、

箱舟は地面に不時着・・・・いや、"上陸"した。


































その上陸は文字通り衝撃的なものだった。
さすがの船も、
この着陸には船底が堪えられなかったのだろう。

何百という死骸騎士を踏み潰しながら、
地面との直撃と共に、船底は粉砕していた。

だが、
その巨大なガレオン船にとってはそれも些細であり、
下半分がぶっ壊れても上陸は上陸だと言わんばかりの力技で、
船は堂々とルアス城が庭園に座っていた。

恐らくルアスで・・・
ルアス城の次に大きいであろう建築物が、そこに形成されたのだ。

下半身を半壊させて停泊したその船。

最初は周りの者も静かで、
そして船自体も静かなものだった。

だが、
そのガレオン船の船首に、
一人の男が逆光の中で現れた。

「イィーーヤッホォー!!チェケラッ!!!無敵の僕様参上っ!」

三つ編みで、
ギザギザの歯をした0歳児は、
両手の拳銃を空に無駄に撃ち放ち、船首で叫んでいた。

「ヤー!ヤーヤーヤー!ゴカンシューの皆様!度肝抜かれたカイ!?
 僕様はこの船の次期センチョーのデムピアスベビー様だ!YO!ROW!SHIT!QUTE♪」

トラバサミのような口を開けて、
生意気なベビーは、自分勝手にしゃべった。

「えーえー!皆様!土下座をするなら今の内に要チェケラッ!
 我が《デムピアス海賊団》に下りたいなら今がお買い得!暖かく迎えるよん!
 次期船長の僕様が作る海賊団はそれはもうリスペクトの塊のような一団になるぜぇ!」

また無駄に射撃音を鳴らしながら、
船首の先でベビーはやたらめったに話す。

「我が《デムピアス海賊団》は悪!あぁーくの一団でぇございます!野望はでっかく"世界征服"!
 だけどもちろん!大きな社望があるからには根元からキッチリ整えてやってやんぜ!
 減給無しのボーナス二回!福利厚生も整えております!安定した地盤の上で目指せ世界征服!」
「「「わーー」」」

パチパチパチと、
いつの間にかベビーの近くに、
ティチ・ボニ・ブギといった海賊モンスターが合いの手を打っていた。

「イェー!そう!野望は大きいけども!我が一団のモットーは"大きな悪行も小さな事からコツコツと"!
 部下達のより良い悪行生活の促進と!優雅で健全な犯罪生活を心から願いっ!
 下の野心を積極的に取り入れ!ダークでファックな生活提供を保証致しますぜー!」
「「「わーー」」」

パチパチパチと魔物が手を合わす。

「SO!一度きりの人生!皆さんも僕様の《デムピアス海賊団》で世界征服を目指してみませ・・・・・あぎゃっ!!」

突然蹴飛ばされ、
ベビーは選手から豪快無残に落っこちた。

そしてその船首には代わりに、
それ単体で言葉などいらないほどに重圧な、
一匹・・・
否、
一人の男がマントを靡かせて立っていた。

「・・・・・・ふん」

鉄混じりの銀髪で、
肉と鋼の混じった体。
ただ姿格好だけはチェスターを模しつつも、
斑な眼と冷たい表情の海賊王が、
そこに立っていた。

「なるほど。お前が言っていたとおり、目立つというのも中々にいいものだな。チェスター」
「ウキキッ!」

チェチェが、
その小さな体で海賊王の体を跳ね登り、
肩の上に登った。

巨大な船頭で、
海賊王は戦場を見下していた。

「俺とした事が、胸が高鳴る。これが前へ向かう意志か」

鉄仮面のような表情の口が、
少し笑みで歪んだように見えた。

「ならばよし。わが野望(想い)のままに、全てを藻屑にしてくれよう」

デムピアスは、
片手を広げた。


「"魔王(正義の味方)"の降臨だ」


魔王デムピアスの意志と共に、
船から機械仕掛けの魔物達が飛び降りた。









































「ギャハハ!派手でいいじゃねぇか」

風が強い。
ここはルアス城の屋根の上。
戦場(ここ)で一番高き所に、
ギルヴァングは体を降ろしていた。

「敵の増援に加えてデムピアスの登場か。いいねぇ。メチャいいねぇ。燃えるねぇ。血が滾るぜ。
 ポルティーボがやられてこっちの部隊長共も一斉に動き始めたし・・・・。戦場だねぇ。
 ・・・・・と。おいおい!このままじゃぁ俺様の取り分無くなっちまうんじゃねぇーのか!?」

少しだけ体を起こし、
戦場を見下ろす。

「そいつぁいけねぇ。メチャいけねぇよ!こんな熱いバトルのリングで!俺様仲間外れはねぇだろ!
 ギャハハハッ!ま!さすがに今更俺様を止める道理もねぇだろ!楽しませてもらおうじゃねぇか!」

ま、
止めようにも血が暴れ出しちまって、
もう誰にも俺様を止められやしねぇがな。

「・・・・それに、もう寸止めはメチャ飽きたってもんだ。終りまで付き合わせてもらうぜ」

口を切り開くほどに大きく開け、
ギルヴァングは豪快に笑った。

「俺様も"ファイナルラウンド"といかせてもらうぜ!」

猛獣は、
屋根の上で身を大きく縮め、
力を溜め・・・・


「ドッゴラッ!!!」


屋根の一角を吹き飛ばし、
野獣は戦場へと跳んだ。





                 






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送