「負傷者30名!」
「ただの遠征だってのになんなんだ・・・・」

遥か昔だ。
それこそ昔。
どれくらい昔かと言えば、

若きピルゲンの鼻下にルアス一のヒゲなど無いほどに。

「私は初遠征なんですが」

だが他の者と違い、
ピルゲンに余裕はあった。

「モンスターに襲われる覚悟は持ってきたのですが、
 まさかこんな森の中で"人間"が襲ってくるとは」

負傷者と死者が横たわる中、
懐古とも言えるその日の森。
騎士団の視線の先には・・・・一匹の獣(にんげん)が居た。

「・・・・・ぐぅ・・・・・うぅぅう・・・・・・」

その獣(男)は薄汚れて年齢も分からない。
ただかなり若い事だけは確かだった。
一糸も纏わないその姿は、ニンゲンと属し難かった。

「まるで野獣だ」

ピルゲンはその野獣を見て思う。

「知能は・・・無いようです。恐らく言語さえも。この者には人の文化がない」

野生か。

「いい洞察力だ。ピルゲン」

後ろで腕を組み、
ピルゲンの他、唯一動揺していない男は、

「騎士団長」

時点での王国騎士団長。
アンドリュー=ハードだった。

「お前は一般兵で終わる器じゃぁないだろうな」

「これぐらいの洞察も出来ないようでは騎士団の底が知れます」

「ハッハ。デカい口だ。どちらかといえば今ここで冷静にものを考える事が出来ている。
 その事、お前のその図太さを賞賛し、その事を評価している」

アンドリュー騎士団長は、
大槍を地面に突き刺したまま、
威風堂々としていた。

新兵のピルゲンにも、
この男がこの場を鎮圧するだろう事は分かった。

「それで騎士団長」

「なんだ」

「あの野獣は遠征の邪魔です。野獣の処理、よければ私が引き受けますが」

「処理?馬鹿な事を考えるな」

処理しないというのか。
かなりの騎士を虐殺している、
野生の野獣であるこの者を。

「これは野獣だがヒトだ。この男は捕らえ、人間の文化の蚊帳に入れる。
 ・・・・・うむ、いや、この暴力・・・騎士団のために養成学校に入れるか」

周りはどよめいた。
この野獣。
人でありながら野生しか知らないだろうことは数分対峙しただけでも分かる。
言語も無い。
しゃべれないし聞く耳も無い。
文化が無い。

「何故です?」

「今の養成学校。前に演説に行ったが・・・・良い人材が揃っていた。
 いや良すぎる。黄金の人材。黄金の風が吹く黄金の世代が揃いつつある。
 彼らは騎士団を、マイソシアをさらに屈強にするだろう」

それは今にすれば皮肉な言葉だが。

「彼もそれを担う一人かもしれない。野生で暴力という才能に開花したこの野獣。
 若い頃の血が騒ぐな・・・・処分するには惜しいと考えている」

「・・・・・・・」

駒として使う・・・か。
ピルゲンは若き頭で考えた。

確かにこの野獣はとんでもない力を秘めている。
だが、
今の平和ボケした騎士団に、
それを駒として扱えるほどの力は備わっているのか?

このアンドリュー=ハードという騎士団長は、
間違いなくマイソシア最強だと自分にも分かるが・・・・
こんな暴力を、
そして"自分"を、
扱うに値するには足りない。

この世には足りない。

何者にも翻せないほどの絶対的存在が。

「この野獣の名はギルヴァング・・・とでもしておこうか」

何にしろ。
何にしろだ。

野生から人間世界に強制連行されたこの野獣。

少なくとも平和を重んじる王国騎士団にとっては、
一つの間違いの一手。

後の絶対の帝王への餞(はなむけ)でしか無かったのは、
この時点では知るよしもない。


































「ぐぉおお・・・・・があっぁああああああああああああああああああ!!!」

咆哮がルアス城にこだまする。
地面が唸りをあげる。

「ぁあああああああああああああ!!!!」

ギルヴァングは両手を目に当てる。
叫ぶ。
唸る。
血の涙がダクダクと噴出して。

「この野郎ゴルァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

両手を掲げ、天へ叫んだ。
目の穴にダガーが二本誇らしく咲き誇り、
痛み、
いや効果を赤い涙が物語っていた。

「やった・・・・やったぜおい!!」

全員が一斉に距離をとっていた中、
ドジャーは拳を握った。

「俺の攻撃が効いた・・・・・目ん玉潰してやったぞっ!」

ハハッ・・・と自分でも半信半疑に笑い、
ただ実感が沸いた。

「見たか野獣野郎っ!これがドジャー様の力だっ!」
「いや、私の機転のお陰ね」
「俺の踏ん張りがあったからだろうが」
「ぼくのフォローが良かったんだよ?」

辺りで仲間達が好き勝手な事を言う。
まぁ慣れたものだ。

「でも終りって訳じゃないんでしょ?」

マリナが言う。
哀しくもその通りだろう。

「獣だけど、虫みたいに胴体半分になっても動きそうだよね」

ロッキーは笑顔で怖い表現をするが、
確かにそれくらいの悪寒は感じる。

「それに目が無くても体はピンピンしてるだろうしね」
「カッ、照準が無ければ戦車を壊せるのか?ってことだろ。
 答えはイエスだ。前進したんだよ俺らはよぉ」
「ガハハ。んじゃ次はどこだ。タイヤか?それともコクピットか?」

タイヤ。
動きを封じるのもそれはアリだ。
用心に越した事はない。

「コクピットだ。頭ふっとばすぞ」

致命打を与えたのが自分だからか、
ドジャーは強気だった。

「チャンスは二度回ってこねぇ」
「注文しても?」
「カッ、てめぇんとこのチャーハンじゃねぇんだよ」
「あら残念」
「ロッキー。メッツ」

ドジャーはギルドマスターらしく、
指示を飛ばす。

「見たところ・・・つーか戦った感じじゃぁ、あいつの内側までダメージが通るのはお前らだけだ。
 メッツの斧でもいい。ロッキーの魔法でもいい。最終的にそこに繋ぐぞ」
「"結果が全て"・・・・はいいけど。過程をちゃんと伝えてくれないと」
「言うようになったなロッキー」

ロッキーはシニカルに笑顔を返すだけだ。

「プランは思いつかねぇ。以上。異論は?」
「ねぇよ」
「ないよ」
「最初から期待なんかしてないわ」
「OKだ。場上円満。世は事も無し」

ドジャーは銃のようにダガーを両手に取り出し、
手で回転させる。

「こっからの俺は本当に役立たずだ。狙うウィークポイントさえねぇ。
 錯乱しか出来ねぇ。任せた。いや、任せきったぜお前ら」
「本当やぁねぇ。アレックス君起こしたらマスター交代してもらおうかしら」
「おいロッキー。俺とテメェ、どっちが決めるよ」
「メッツおいしいところ欲しい?」
「超欲しいね」

メッツはギラりと笑う。

「じゃぁぼくが決めるよ」

ロッキーは微笑んだ。
性格も悪くなった気がする。

「あぁ!?てめぇケンカ売ってんのか!」
「もしもの時にあの野獣さんを抑え込めるのはメッツだけだよ?
 だからぼくは及ばずながらちょっと大きめのを狙ってみるよ」
「チッ・・・・」

説得もうまくなったものだ。

「傭兵も二人残ってるわ。彼らにも何か・・・」
「いや、・・・・来るぜ」

「ぁあああああああああああああああああああ!!!」

ギルヴァングの叫びが絶頂に達した。
達しきった後、
ダガーが二本生えた顔を真っ直ぐに向け、
ギルヴァングは、
歯を食いしばって言った。

「い゙・・・・いだくねぇ!!!」

そこを譲らない理由は何かあるのだろうか。

「いだくねぇぞゴゥルァアアアアアア!!!!」

ギルヴァングは叫びながら、
両手で、
自分の眼に刺さったダガーを引き抜いた。

「目の一つや二つ!ドぉーってことねぇんだよぉおおお!!」

いや、ツーアウトでチェンジだろう。
ドロリ・・・と目から血と体液が垂れ、
引き抜いたダガーに、
目玉が二つ・・・付いて来ていた。

「がぁ!」

何をするかと思えば・・・
その両手のダガーがまるで串ダンゴのようだった。

己の両眼球を、喰った。

「お、おい・・・まさか食って新しいの生えてこねぇよな・・・」
「それは野獣さんが人間の領域に留まってくれているのを期待しようよ」

他人事のようにロッキーは笑った。

「ドジャーあんたいきなりビクビクするんじゃないわよ。
 《聖ヨハネ教会》とやった時だってあんたトラジに言ってたじゃない」
「なんて?」
「鳥食ったら羽が生えるのか?って」
「ガハハ!んじゃぁ俺も今頃手が何十本とあるだろうな!」

さすがに再生するなんて事は無いだろう。
気合で世の中そこまでどうにかなるもんじゃない。

ギルヴァングは、
自分の目玉と共にダガーの刃もバキバキと噛み砕き、
全て飲み込んだ後、
両目から赤い涙を流した野獣が残った。

「来い。いい一撃だった」

彼は落ち着いていた。
こちらの場所が分かるように手招きしていた。
まさか見えてはいまい。

「・・・・・油断すんなよ。イスカと違う理由で五感は発達してるだろうよ」
「声砲(バードノイズ)の乱射は?」
「あと数刻は大丈夫なはずだ。声は出てても振動になってねぇ」
「ならボヤボヤしてる場合じゃねぇな!!!」

メッツは両斧を背負ったまま駆け出した。

「ったく・・・もっとセーフティなバトルにはならねぇもんかな」
「あんたが楽勝出来る相手ばっかなら世界は安泰よ」
「違いねぇ」

マリナとドジャーも続いた。


「パンパカパーーーーン!!!!」

「あ?」
「はぁ?」

三人は同時に足を止めた。
そこには第三者の声があった。

「なんだあいつぁ?」

そいつは、
両手に銃を携え、
三つ編みにギザギザ八重歯。
色白さが少々人間からは逸脱していた。

「よぉよぉ!チェケラッチョ!無敵の僕様参上!ヒャッハー!
 何?何その顔?どこのヒーローかって?イェー!教えてあげるぜ!
 僕様は世界の次期海賊王!デムピアスベビー様だ!YO!ROW!SHIT!QUTE!」

パンパンッと、
空に銃を二度打ち鳴らした。
三つ編みが踊るように頭でリズムをとっている。

「デムピアス・・・ベビー?」

「YO!デミィって呼んでね!」

フフンと得意顔になり、
デムピアスベビーは鼻歌混じりに動き出す。
ギルヴァングに向かって。

「ハイハイ。ハーイ!盛り上がってるとこ悪いけど、無敵の僕様が来たからにはもう安心。
 この怪物君も世界の王様(候補)の僕様がチャチャっとやっつけてあげましょー!」

ギルヴァングはベビーの方を見ていなかった。
いや、見えももしないのか、
見向きもしないのか。
あのベビーはともかく、
ギルヴァングが場所を把握出来ないとしたらそれは・・・・・

「倒しちゃう前に海賊王の僕様があんたに最後のチャンスをあげちゃうよん!
 君君、いい体してるし、《デムピアス海賊団》に入らないかぁーい?」

ギルヴァングに反応は無い。

「福利厚生も充実!大きな悪行も小さな事からコツコツと!
 "清く健康的な世界征服"こそ我が海賊団のモットーでござーい!
 キャッキャ!今ならお得!僕様権限で世界の半分をあげちゃうよーん!」

それは気前のいいことだ。

「いらん」

ギルヴァングは初めて言葉を開いた。

「おぉーっと!それはベリーベリー馬っ鹿ーなお返事だね!
 この僕様魔王様に歯向かうなんてプライドは人を殺すよぉーん?
 このまま成す術もなく無敵の僕様に殺されちゃうなんてかっこ悪ィったらカッコ笑い」

ガチャン、と
ベビーの両手の銃が撃鉄を起こす。

「無敵の魔王に歯向かうたぁな」

ベビーの顔は急変した。
冷たく、
ドス黒い、
闇のような・・・・

悪夢のような顔に。

「藻屑になっちまいな。チェケラ」

「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「うぇ!?ぎょわっ!!!!!」

ギルヴァングの拳が突き刺さった。
モロに。
クリーンヒット。

岩が破裂するような音がすると共に、
ベビーは秒間20回転してるんじゃないかというほどキリモミ状態で吹っ飛んだ。

「無敵なのにぃいいいいいいいいいい!!!!」

漫画なら・・・キランッ・・・と星になるんじゃないかというほど吹き飛び、
そのまま見えなくなった。

「なんだったんだあいつ・・・・」

よく分からなかった。

「ドジャーがあぁいう役じゃなくてよかったね」

ロッキーはニコリと微笑んで毒を吐いた。
うっせぇ。
とだけ返しておいたが、
何やらロッキーが魔力を溜めているのも目に付いた。

「カッ・・・よく分からねぇが時間稼ぎにはなったみてぇだな」
「うん。まだもうちょっとかかるけどね。初めてだから勝手が分からなくてさ」

なら期待もしてみるか。
改めてギルヴァングに目線をあわす。
あちらには合わす目線など存在しないが。

「興が冷めたな」

野獣の赤い二つの穴は、確かにこちらを睨んだ。

「埋め合わせをしようぜ。来い。漢共」

手招きするギルヴァングは、それは嬉しそうだった。

「来いっ!!ザコ共!俺様は結構今メチャ気分がイイっ!
 最高にハイな気分だ!俺様の人生っ!ここまでの逆境は無かった!
 ロウマ以外でここまで俺様を追い詰めたのも初めてだっ!」

燃える。
逆境こそ・・・力。

「世の中弱肉強食だっ!だが!漢ならぁぁぁあああ!
 どんな状況でも勝ち抜いてみせる!それが俺様のパワーだ!!!」

「熱いことだなぁコラァ!!」

メッツは背中から斧を抜いて走った。
片方は刃が砕かれ、
鉄塊と等しいただの鈍器に近いが。

「悪ぃが手加減しねぇぜ!俺ぁ弱点を突く事こそ本当のスポーツマンシップだと思ってる!」

「分かってるじゃねぇか。漢だぜ。勝つためにガチで来な」

「うぉおおおおおおおお!!!」

メッツは刃が砕けている方の斧を繰り出した。

「ゴゥルァアアアアアアア!!!」

そしてギルヴァングは反応した。
斧に対し、
真っ直ぐ。
迷いなく、
拳をぶつけた。

「・・・・・見えてるのか?」

メッツはギルヴァングの拳に斧をぶち当てたまま、
問う。

「見えてねぇ。見えてねぇさ。だが漢ならっ!!ライバルがいるならっ!
 そこに向かって真っ直ぐ拳を突き出すだけだろ!」

「気に入ったっ!!」

メッツがもう片方の斧を横薙ぎに振り切る。
が、それよりも早く、
ギルヴァングのもう片方の拳が繰り出された。

「ゴォゥルッァアアアア!!!!」

メッツの胸に突き刺さり、
メッツはロケットの如く吹き飛ばされる。

「がぁ!ギャハハハハ!!!」

獣はゆらりと体の向きを変える。

「そっちかっ!!!」

そちらの空中には、マリナが跳んでいた。

「え・・・」

見えているのか?
音を立てないために跳んで空中から迫ったのに。
猛獣の赤い涙はこちらを見据えている。

「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

大口を開き、
声砲。

「やばっ!!」

マリナは咄嗟にMB1600mmバズーカを撃つ。
衝撃をやわらげるために。

「かぁ・・・・あ、そうだった。声出ねぇんだった」

声砲は来なかった。
だがバズーカは放たれた。

「しまっ・・・・」

「そっちかっ!!!!」

猛獣は跳んだ。
それこそゴリラは猿より疾く。
運動能力の限界地の猛獣が蜂に飛び掛る。

「ぎゃーーお!!」

笑ってバズーカを腕で真正面から受け止め、
空中のマリナの足首を掴む。

「ちょ・・・・離っ・・・・・」

「ドォオオオオオゴォラァァァアアアア!!!!!!」

空中でぶんぶん・・・と振り回し、
投げ捨てる。
遠心力だけでバターにでもなってしまいそうだった。

「マリナッ!!」

ドジャーが投げ飛ばされたマリナをキャッチする。

「・・・と・・・だぁ!!!」

そんな格好良くは決まらなかった。
クッションになった程度で、
マリナもろとも地面に直撃した。

「だ・・・だだ・・・・女の子を投げつけるなんて・・・あいたたた・・・・」
「女の子って年じゃねぇだろ・・・・・」
「うっさいわね。殺されたい?私のお尻の下で呻かないで」
「だったら俺の顔面からケツをどけろっ!」
「あっ、どくわ」

は?と、
突然マリナが居なくなって開けた視野。
空中から猛獣が迫ってきていた。

「ギャハハハハハハ!!!」

「おーわ!!!」

ドジャーは咄嗟に地面を転がって避けた。

「危ねぇ!」
「危なかったわねドジャー。ドジャーのクラッシュポテトが新メニューになるとこだったわ」
「笑えねぇし1品限定かよっ!!」

「そっちだなっ!!!!」

マリナとドジャーは同時に口を塞いだ。
それはもう遅いが、

「ギャァァァーーッハッハッハッハ!!」

「俺かよっ!!!」

ドジャーは一目散に逃げた。

「化け物がっ!!」

速さだけなら負けないつもりだったが、
振り向かなくても超絶な威圧感が背中にぶつかってくる。
速度も対等?

「全パラメーターMAXか!?チートだろっ!」

「ギャハハ!んなこたぁねぇ!頭は悪ぃし視力は0.0だ!」

「お前の状況でその冗談を言える頭は賞賛に値するけどな」

やはり五感は人の数倍か。
今や四感とも言えるが、
音と感覚だけでここまで相手を捕捉している。

「オォオオーーーラ!!!!!」

横からメッツの声。
それと同時に、
ブゥンブゥンと重斧が回転して飛んできていた。

「危ねっ!!」

それは屈んだドジャーの頭をかすめ、
ギルヴァングへと向かう。

「武器なんて効くかゴォラァァァアア!!!!」

毎度の如く、
ギルヴァングは拳を突き出した。

ただ、
斧の回転は、偶然・・・・面白い方へ転んだ。

「ぁあ!!?」

ギルヴァングの拳は斧に直撃せず、
ギルヴァングの豪腕に横から食い込んだ。

「がぁこの野郎の俺の斧は大木だって鉄だって両断すんのによぉ!
 あいつは化け物か!?どうやったら斧が刺さる程度で止まるんだよっ!」
「いやメッツ。ナイスだっ!!」

ドジャーは間髪入れずにギルヴァングへ飛び掛った。

「見えねぇのちゃんとマジみてぇじゃねぇか!!」

両目が見えていたギルヴァングなら、
あの斧程度なら叩き壊せていただろう。
だが狙いがうまく行かず、突き刺さった。

「人間の状況把握は視力によるものが7割っつーがな!
 底力が俺の数倍でも7割は7割ってことだ!!」

ドジャーは跳び、
ギルヴァングの腕に突き刺さった重斧に、
着地するように、
蹴りを放った。

「ぐぅぉおお!!!」

斧はさらに食い込む。

「これしきっ!!!」

ギルヴァングがその豪腕から斧を抜こうとするが、
それよりも先に、
メッツが鎖繋ぎにそれを引っ張り、引き抜いた。

「俺は、こっちだぜ」

斧を引き抜いた方向。
メッツは自分の居場所を教えた。

「なるほど・・・・いい漢だてめぇは!!!!」

そう笑ったギルヴァングの頭が・・・・跳ね落ちた。

「・・・・・・あ?」

お辞儀をするように、
前へ反動で頭が揺らいだ。

ギルヴァングの後頭部に、
何かが直撃したのだ。

「・・・・・狙撃銃でも貫けないか・・・・」

MB16mmスナイパーライフルを、
ただの地面に転がって構えていたマリナは残念そうだった。

「石頭どころじゃないわよ。鉄頭どころでもね。オリハルコン頭と名付けてあげるわ」

そう言っている間に、
溜め時間(リロード)が終り、
マリナはそのまま地面でヒジを固定し、
スナイパーライフルをギルヴァングへ狙撃した。

「ぐっ・・・・」

次弾は背中にぶち当たった。
だがこれまでと違い、
ギルヴァングの体が反動で揺れる。

「効いてるみたいね」

一点集中のこれならば、
貫くまではいかないまでも・・・・・
少なくともマリナから見て、
背中には穴が空いていて・・・流血していた。

「ギャハハハ・・・・面白ぇ。面白ぇよ。燃えるぜ」

そして、

「だが蚊が刺したほどにも効かねぇなぁ」

赤い涙を流すギルヴァングが顔をあげると、
頭部からの流血が彼の顔で川になっていた。

「効いてる・・・・本当に効いてるわ。頭を撃ちぬかれてその程度ってのが納得がいかないけど」

マリナは急いでリロード。
次の狙撃に備える。

「集中!・・・もう一発頭の同じところにっ!!」

「ギャハッ!!」

血の涙を流す猛獣が、
こちらを向いた。
悪寒が走った。

「吹き飛べゴォウルァァアアアアアアアアア!!!!!」

大口と共に、
巨大に叫んだ。

「ウソッ!?もう喉が治っ・・・・」

寝そべった体勢のせいで反応が遅れた。
そして、
ギルヴァングからは声砲(バードノイズ)が放たれた。

「キャアッ!!」

地面と共にマリナは吹き飛ばされた。

「あー、あー、ギャハハ。まだ本調子じゃねぇか」

ギルヴァングは自分の首を掴みながら笑う。

「ドジャー!マリナがっ!」
「あの程度なら大丈夫だ!カッ!だが完璧に戻る前に倒すぞっ!」

目無しの猛獣がこちらに気付き、
振り向く。

「倒すぅ!?ギャハハ!その心意気やメチャ良し!だが勝つのは俺様だっ!!」

声の方向から、
メッツとドジャーの大体の位置を捕捉。
息を吸い込む。
ギルヴァングの胸が膨らむ。

「じゃぁ俺も・・・だ」

ドジャーはそう言い、
自分も息を吸い込んだ。

「ドッ!!!」

ギルヴァングが声砲を放とうとした。
したが、
既にドジャーは一瞬で・・・・ギルヴァングの懐に潜り込んでいた。

無呼吸ブリズ。
最速の最速でギルヴァングに詰め寄った。

目が見えていたならば、
ギルヴァングはその人間性能を超えた反射神経で反応し、
ドジャーの命がその手で途絶えさせられていただろうが、
ギルヴァングは目が見えない。

ドジャーとメッツの声がした位置からの予測しか立てられない。

「俺でもな、不意打ちでならテメェのアゴ跳ね上げるくらいは出来るんだ・・・ぜっ!!」

ドジャーは片手のダガーを思いっきりギルヴァングのアゴ下にぶちかます。
ダガーの刃は、
ギルヴァングの皮膚に負けた。
粉々になる。

「だぁーりゃ!!」

それでも非力ながら全力で押し込むと、
ギルヴァングの上の歯と下の歯がガチンッと合わさる音がした。

「ぶっ!?」

爆発するように、
ギルヴァングの両目から血が噴出した。
鼻からも。
口の隙間からも。
先ほどのマリナが空けた後頭部の穴からも。

全身の小さな怪我からも。

行き場の無くなった声砲が体内で彷徨ったか。

「ぐっ・・・ごの・・・・」

「おっと」

ドジャーは軽やかにギルヴァングの胸を蹴り、
その反動で回避行動。

「・・・・とっと!?」

・・・よりもギルヴァングの豪腕は、
反則に早かった。

ドジャーは豪腕に吹き飛ばされる。
メシメシっ・・・と骨の音が自分の耳に響いた。
情けないほどに回転し、
地面にぶつかると地面が砕け、
2・3度バウンドするほど吹き飛ばされた。

「俺様はっ!世界で一番強ぇんだ!負けられるかよっ!!!
 漢なら・・・漢なら!!ひと時も諦めずに世界一強ぇ漢を目指すんだよぉおおおお!!!」

今にしてみれば、
いや、
今にしてやっとというべきか。

ギルヴァングの全身は血だらけだった。
幾多に与えてきたダメージが、
無数に彼の全身に刻まれていた。

そして頭部からの流血は凄まじく、
それは彼の顔色をほとんど覆い隠していた。

それでいて猛獣は、
なおも全身を自在に動かす。

「ならその想い。俺が断ち切ってやらぁ!!」

メッツが迫っていた。
声を出さずとも、
その不恰好な勢いはギルヴァングには感じ取れただろう。

「おぉお!!!来いや!どっからでも俺様は逃げたりしねぇ!!!」

逃げない。
退かない。
漢はいつでも真正面から真っ向に。

ギルヴァングは拳を振りかぶる。

メッツは刃が残っている方の斧を振りかぶった。

「漢のぉおおおおおおお!!!」

メッツは全身の鳥肌が浮き出るのを感じた。

もちろんそれは、
今から来るギルヴァングの拳が、
どうしようもないほどの最高の一撃だろうという事を感じ取った。

それもある。

「ロマンはぁぁぁぁあああああ!!!」

それ以上に、
ケンカ屋の長年の勘が反応した。

ここが一つの瀬戸際だと。

今から放つお互いの一撃が、
この戦いに大きく影響するだろう。
いや、
決め手になるだろうと。

同時に、
この一撃で、
自分は死ぬかもしれない。と。

「ガハハハハハッ!!」

全身の毛と鳥肌が浮き立つ感覚に、
メッツは鬼のように嬉しく笑った。

「ギャハハハハハッ!!!!」

猛獣もそれを当然のように感じ取っていて、
血を迸らせながら嬉しくて笑っていた。

「破壊力ぅうううううううあああああああああああああ!!!!」

お互いの体は、
嬉しさのアドレナリンのあまり、
ゆっくりと動く。

先手をとっていたのはメッツの斧。
ブラッドアンガーで強化した右腕は、
血管が浮き出るほどの硬直し、
全力を引き出していた。

一方、
ギルヴァングの豪腕は、
最高の一撃のための全力。
風圧で小屋が吹き飛ぶだろう。

全力で振り下ろした斧。
重さ数十キロ。
こんな両手で扱うのも難しい両手斧を片手で振り切るのはメッツぐらいのものだったが、

相手はその斧を小指で振り回すだろう男。
その漢へと振り下ろす。

斧の刃に亀裂が入る。

ギルヴァングの拳が、
斧の刃部分を通過した。

ガラスのように砕ける。
拳は刃より強し。
名言だ。

だがお互い、
それでも振りぬく。

メッツの斧は刃が無くなった鉄の塊になってなお、
そのままギルヴァングの体へと振り抜かれる。

ギルヴァングの拳はもともと誰にも止められない。
真っ直ぐ、
メッツの顔面へと向かう。

・・・・・伝説。
一つの伝説がギルヴァングにはある。
パンチ、拳一発で、
人の上半身が粉々に吹き飛んだという伝説。
それは事実。

そして、
その威力を持つ全力が、
いままさにメッツの視界を覆いつくすような拳。
これだった。
歪みない。

それでもメッツは斧を振り下ろした。
避けない。
ジャスティンに言わせればこれも運命。
上等だった。

一撃いれるために命くらいはくれてやる。

全身ズタボロのギルヴァング。
それでも支障ない精神力と耐久力。
傷が増えても、
血が流れても、

それでも未だ彼の動きに陰りが見えていない。
動きが鈍くなった気配さえ無い。
底なしの全力。
常時全力。

今までのダメージなど、
どれも意味など無かった現実。

但し、

一点。
一点だけがこの時、
この時だけ機能した。

それこそ、ギルヴァングが全力中の全力を引き出したからこそ。
全身の全力、フルパワーを引き出したからこそ。

彼の体はわずかに傾いた。

痛みなど簡単に凌駕する精神力はある。
だが体は無意識に"ガタ"を来たした。

それはその怪我の主の、
怨念にも似た意地が勝ったと評価すべきだった。

否、
彼女に言わせれば、
それは貫き通した筋。

"仁義"だ。

ツバメが砕いたギルヴァングの肋骨。
最初のダメージでありながら、
ここまでの誰よりも深かったその威力は、

ギルヴァングの拳を僅かにズラした。

「・・・・・・ッ・・・・」

メッツの頬の上の皮を、
ギルヴァングの拳は食い飛ばした。
通過しただけで、
ドレッドヘアーの一塊が弾き飛んだ。

当たったら、
顔が無くなっていた。

当たっていたらだ。

「うぉおおおおおおおおおおお!!!!」

メッツが全力で振り下ろした斧の鉄塊は、
ギルヴァングの肩、
いや、
首元にめりこむように突き刺さった。

「かぁ・・・・」

カスれたようなギルヴァングの声、
首がメシメシと悲鳴をあげる。

「あ・・・・が・・・・」

威力で、
ギルヴァングの屈強過ぎる体が、
後ろに跳ね動いた。

「もぉおおおおいっぱぁぁあああああああああっつ!!!」

これ以上はもう無い。
有無を言わさず、
メッツのはもう片手の斧の鉄塊を振り切る。

斧でなくハンマーと呼ぶべきか。
ギルヴァングの側頭部にぶち当たり、

「あぁぁぁっぁああらぁぁああああ!!」

振り切る。
それは初めて。
初めて、

ギルヴァング=ギャラクティカを地面に沈めた。

「ああ・・・・」

メッツが止まったのは、
その1秒間だった。

「もぉいっぱつ!もぉおいっぱああああああああっつ!!!!」

地面に叩きつけたギルヴァングに、
両手の鈍器を、
我武者羅にぶつけた。

「おらっ!おらぁ!おぉおらぁぁ!!!」

最初で最後のチャンス。
そしてこの男に一瞬勝った。
ここでやらなければ次は無い。

もろもろの要因がメッツのアドレナリンをダンスさせる。
血が頭に昇り、
沸騰し蒸発するほどに。

「だぁぁあ!!コラァッ!!コラァァア!!!!」

鉄塊をギルヴァングに叩き付ける。
叩き付ける。
叩き付ける。
ドス黒い鈍い太鼓の音が、
何度も何度も打ち鳴らされる。

「どうだっ!これでもっ!かっ!これでも!!これでっ!!」

めった打ち。
猛獣を虐待する。
ゴムで出来た鉄を叩くような、
そんな感触がメッツの手の平に何度も伝わる。
それも麻痺する。

「死ねっ!死んどけっ!サすガにっ!モう!寝て!ヲけっ!!」

必死だった。
必死だったはずだが、

「死ネっ!死死死師シし史しっ!!!!」

表情が歪み、
笑みに変わってきている事は、
本人も気付かなかった。

「メッツ!」
「メッツもうやめろっ!!」

ドジャーが後ろからメッツを押さえつける。

「何しやがるドジャー!こいつはこんぐらいやらねぇといつ起きてくるかっ!」
「もう十分だ!さっさとその顔しまえ!」
「あ?」

メッツは両斧を地面にドスンと落とし、
自分の顔に手を這わせる。

「・・・チッ・・・クソッ・・・・」

気付き、自制し、
自分を恨んだ。

「でも派手にやったわね・・・・」

マリナはしゃがみ、
横たわるギルヴァングを覗いた。

「私だってお肉叩く時もここまではしないわ・・・・」

ギルヴァングはピクリとも動かなかった。
赤みがかっていた顔は、
むしろ青白くボコボコになっており、
屈強だった全身の筋肉は歪になっていた。

「あー・・・怖っ・・・これでもいきなり手がグィ・・って伸びてきて起きてきそう」

もちろんそんな事は無かったが、
マリナがそう感じるのもしょうがなく、
その場を離れた。

「ちょっとドジャー。死亡確認してよ」
「メッツ。もうしねぇんじゃなかったのか?」

ドジャーの目はメッツに向けられていた。

「・・・・チッ・・・俺も夢中だったんだよ。大丈夫、意識してりゃ暴走はしねぇ。
 大体俺はそんなスキルもってねぇんだ。薬がなきゃなりようもねぇ。
 ロウマ隊長のせいで暴走してる時のが弱ぇって分かってるしな」
「信じるからな。テメェを」
「あぁ、これで最後だ」
「ドジャー!私を無視するなんていい度胸ね!」
「ん?いや無視してねぇよ。死亡確認しろ、だろ?」
「聞こえてて反応しない事を無視っていうのよっ!」
「死亡確認ったってなぁ・・・」

確かに、
この男。
ギルヴァング=ギャラクティカ。
死亡をしっかり確認するまで一切安心出来ない。

突然起き上がってきそうなものだ。

「心臓の音でも探れってか?そんな度胸ねぇよ・・・・」

どうみても死んでいるが、
対象が対象なだけに、
それはビビる。

「ってことで」

ドジャーはダガーを取り出した。

「どちらにしろこれで正真正銘終いだ。御馳走をくれてやる」

ドジャーはダガーを、
横たわるギルヴァングの胸に突き刺した。

ギルヴァングの体がガタッと一瞬動いたのには鳥肌が立ったが、
死後なんたらの類だろう。
力の入っていないギルヴァングの体には、
ドジャーのダガーもすんなりとは言わずながら受け入れられた。

「マジ疲れた・・・・・」

ドジャーは両足を広げて座り込んだ。

「こいつに双子が入るとかいう設定とかだったら俺、この戦争降りてるわ・・・」
「同感・・・・」





































「・・・・・お姫・・・様ねぇ」

エクスポは苦笑いを禁じえなかった。

「だから?・・・と言いたいところだけども、それは確かに致命的な情報だね」

ロゼ。
その女が正規の王族というならば、

「アインハルトの足元を一つ揺るがす事態だ」

元々アインハルトが大きな権力を持っている理由、
それは"国王の病"だ。
病に伏せった王。
死んでいないからこそ、その権限はアインハルトに移行される形だった。

「まぁ、国民だって皆、王国騎士団が潰れた辺りで国王の無事は期待していないだろうけど」

現時点ならば、
本当は国王が病などでなく、
アインハルトの手にかかった・・・とほとんどの者が気付いている。
時既に遅しだからこその露呈だが。

「だが王女・・・・王族が生きているとなればそちらに流れる人間は多いはずだ。
 そのために決起する人間も少なくない。・・・・・はずだけど」

だけど、
エクスポは自分の目の前、
装飾に塗れた死骸を見る。
王女の死骸。

「これが本物なのか」

「それとも生きて、騎士団長の横に居るのか」

フラン=サークルは他人事のように、
イヤらしく笑った。

「どちらが本物なのが最悪なのかねぇ。どちらだったら希望が残るのかねぇ」

相変わらず勘に障る笑い方だ。
クソの笑い方だ。

「フランだったね。君に一つだけ聞こう」

「生かしてくれると約束するならな」

「神に契約を突きつけるのかい?自惚れないで欲しいね」

「いーや。神は神聖であるべきだ。ここまで無償で情報を差し出してるんだ。
 ・・・・クク・・・・神が独りよがりの欲望で事を進めるもんじゃないだろ」

神なら貞操に気を付けろよ。
フランはエクスポに取引を再度申し込む。

「・・・・いいよ」

エクスポは上から返事をした。

「ボクは君を殺さないと約束しよう。神(自分)に誓って」

「ククッ・・・自分で言っておいてなんだが、そんな甘ぇ事でいいのか」

「いいさ。ボクとて君のような下種を手にかけて汚れたくないからね。
 それにこの地下は嫌いなのさ。・・・・白い羽根が汚れるから」

神は問いに移った。

「聞こう。このロゼがもし生きているという情報があるとしたら、
 騎士団の中で"寝返る"人間はどれくらい居るのかな」

帝国でなく、
王国に忠義を尽くす人間が。

「返事は、知ったこっちゃねぇぜジーザス(神様野郎)・・・だ」

「契約違反だね」

エクスポは風を渦巻かせる。

「おっと焦るな。俺が他人の心なんざ知ったこっちゃないってだけだ。
 だが、赤裸々な死骸騎士(クリムゾンキングダムナイツ)はよぉ、
 終焉戦争時点の魂のままだ。皆、"王国騎士団"を守ろうとしてるんだぜ」

「・・・・・」

知っている情報だ。
改めて聞かされただけ。
だが、
それならばやはり引き金(トリガー)に成りえるかもしれない。

「分かった。うん。それだけで納得しよう」

エクスポはそれだけ聞き、
その場を後にしようとする。

「ありがとよ」

殺さない事に対し、
フランは皮肉に謝礼を述べる。
耳障りでしかなかった。

「神は慈悲を与えるけど、礼を言われる対象ではないさ」

エクスポは、
その地下の扉に手を当てた。
恐らくこの先、
城へと続いているはずだ。

戦況がどうなっているかは知らないが、
自分が内側に潜り込めた事は大きいはずだ。

「フラン=サークルと言ったね」

エクスポはこの腐ったクソの部屋を後にする前に、
最後に、
フランに言葉を添える。

「なんだ」

「本は読む方かな?本はいい。文というのも一つの芸術だ。
 文字自体に個性はカケラもないのに、文はユニークだ。
 作者の伝えたい事が伝われば、それはもうアーティクルだよ」

「そうかい。じゃぁbPベストセラー(聖書)でも読んでみろってかい?」

「いや、つまり罪と罰さ。君は多大で重すぎる・・・・重罪を犯した。
 罪には罰。罪を行ったものは須らく罰を受けるべきだ」

「自白しろってかい」

「いや、君に未来などない。既に清められる域ではないからさ。
 罰とは洗礼じゃぁないんだ。罪を犯したら罰は受けなければいけない。
 だけど、罰を受けたから罪が消える・・・・というわけじゃぁないんだよ」

君の人生は、
既にクソまみれだ。

「未来に価値はない。罪には罰。そして罰には罪を・・・さ」

そう言って、
エクスポはその部屋から姿を消した。

「何が言いたいやら。クク、生き残ったもんが勝ちだぜ」

片足片手が無い体。
フランはその部屋の壁にもたれかかったまま、
勝利に笑った。

「何が罰だ。俺は○(サークル)。×(罰)じゃない。結局俺は好き勝手して生きている。
 それがどういう事か、正しい事が正義じゃねぇってことさ。クソっちが教えてくれた」

楽しくて、
欲望にまみれて、
そして、
力があればいい。

それで天下泰平だ。

「クック・・・さて、どうにか体を復元してねぇとな」

フランが勝利に笑い、
未来を憂いでいた時、

エクスポが出て行った扉と逆。
逆の扉が開いた。

「・・・・あ?」

そちらの扉はつまり、
地下水道に繋がっている扉だ。
そんな所から、
今更来客?

「・・・?!・・・てめ!!」

扉は、
開いたというよりはその場で細切れになって崩れ落ちた。
扉でなくただの通路となったその光景の先には、
部下達の武具が残骸として落ちているだけ。

「あーそーぼ。・・・・って言いに来たんだけどな。バリ遅だったみたいだぜ」

ウサギの耳を付けた殺人鬼は、
トランプの束を両手に、
地獄の扉を切り裂いてきた。

「お前・・・シド=シシドウ!」

「僕の名前を呼び捨てにすんなよ。そう呼んでいいのはフレンドだけだ」

コト、コトと、
ウサ耳のファンシーな殺人鬼が歩み寄ってくる。

「み、見張りが2部隊分居たはずだ・・・・」

「本当に見張るだけしか出来ねぇ奴だったんじゃねぇーの?絶交させてもらったよ」

シドの手の中で、
トランプが右から左へ、
左から右へとシャッフルされる。

「お前の・・・目的はなんだ・・・・」

「あーあ。つまんねつまんねつまんねつまんね。人殺しなんてチョーつまんねぇよ。
 デラックスつまんねぇ。デラつま。でもなぁ、それが僕だしさぁ、なぁ?」

人殺しの・・・目だ。
フランは知っている。
×と○の世紀のクソ野郎を知っているから、

人を平気で殺せる目と、
人を殺す事を楽しむ目。
それを知っている。

「で、なんだっけ?目的だっけ?」

ウサ耳は、
不思議そうに頭を傾げた。

「僕が僕の目的なんて分かるわけないじゃねぇか。逆に僕が聞くぜ」

トランプの動きが止まった。
シドの動きが止まった。
フランの目の前で。

「なんでお前、今から死ぬん?」

殺人鬼は微笑んだ。

「ま・・・待て・・・・」

「いいぜ。何秒待てばいい?」

「い、いや・・・・焦るな!いい情報があるんだ!」

「コミュニケーション能力ないのな。それじゃぁハッピーなフレンドは出来ないぜ?
 僕もなんだけどな。口より先に"手が出る"からさ。あーあ。フレンド欲しいなぁ」

「待て!待て待て待て待て!」

「あ、でも死んでる人を殺しても殺人じゃないんじゃね?」

「待てっつっ・・・・」

「まいいや。じゃぁね。バイバイ。また明日」

「まっ・・・・」







































「冗談じゃ・・・・・ねぇぞ・・・・」

案の定。
案の定の案の定だ。
だが想定の範囲内。
想定の範囲内の中の中の中の事象でしかない。
考えられる中では最悪ということだが、

だけどだからこそ、
この状況を言葉にするなら、

「ふざけんなよクソったれ・・・・」

と、
ドジャーの言うとおりだった。

「・・・・・ギャハハ・・・・・」

ギルヴァング=ギャラクティカは、
胸から吊り上げられるように、
むくり・・・と体を起こした。

「いい気分だ・・・・血が喚いてしょうがねぇ・・・・アドレナリンがメチャ踊ってるぜ」

野獣は、
胸に突き刺さったダガーを引き抜く。
流血が迸ったが、
すぐに水切れの噴水のように止まった。

「頭がクラクラする。これがエンドルフィンって奴か?ちげぇか」

首をコキ、コキと鳴らす野獣。

「じゃ、じゃぁどうしろってのよ・・・・」
「手応えはあったぞ!あれで死んでねぇってのか!」
「反則とかチートとかじゃねぇ・・・こんなもんバグの域だっての・・・」

野獣はその大きな体は立ち上げた。

「七転び七起きがモットーでね。つまり生まれてこの方、俺様は負けた事がねぇって事だ。
 虎がなんで強いか知ってるか?ギャハハ、そりゃぁ元から強ぇからだ」

見れば、ダメージは明らかだ。
いや、
ダメージというよりは死体でなければ可笑しい。

全身はアザだらけ・・・というよりバキバキだ。
凹んでは凸んで、骨格が捻じ曲がっている。
筋肉もどれがどれだ・・・・名称不詳なほど歪だ。
内出血と外出血が入り乱れ、赤と紫に染められた全身。

「なんで立ってんだアレで・・・・」

「理由?必要あるか?ギャハハ。漢は立ち上がってなんぼだろうよ」

ギルヴァングの口で、牙が覗く。

「いや、明らかにダメージはあるはずだ」
「それは見て取れるけど!でも現に立ち上がってきてんのよ!」
「悪あがきで立ち上がった・・・・じゃぁ納得できねぇよ」

気合?
根性?
そんなもので納得出来るか。
精神力?
それで生き返れるなら苦労はしない。

ただ彼は立ち上がったのだ。

「そんな不思議か?漢が立ち上がる事によぉ」

ギャハハと笑うギルヴァング。

「じゃぁ俺様の状態を教えてやろうか」

ギルヴァングは、
自ら自分のボロボロの体に目を這わせる。

「左手・・・おいおい、一個動かない指があんな。腕も第一関節んとこすげぇ痛ぇ。
 ってオイ。肩より上にあがんねぇじゃねぇか。右腕はまだマシか。ベコベコなだけだ。
 胸んとこ・・・これ酷ぇよ・・・アバラ残ってねぇんじゃねぇのか?おい。
 メタクソ打ちつけやがって・・・中もズタズタだ。ま、そのお陰でダガーが少し反れたみてぇだが」

ドジャーのダガーは心臓を貫かなかったか。
しかし、
今の話を聞く限り、
動くだけで骨の破片が内臓を切り刻むような状態のはずだ。

「ったくよぉ・・・・動いても動かなくても激痛が走るぜ・・・・
 歯も五・六本飛んでるしよぉ、血の匂いしかしねぇし耳もゴーゴー言ってやがる」

目は言わずもがな。

「五感はほぼ消失。粉砕骨折だらけ。筋肉も多大に損傷・・・・結論」

野獣は笑う。

「ベストコンディションだ。続きやろうぜ」

漢らしいを通り越してバトルジャンキーだ。
それが、
野獣の生き方。
ギルヴァング=ギャラクティカの生き方。
そう言うなら・・・・


「ここらにしておいたらどうでございますか?」

横槍を入れるように、
突如、闇が渦巻いた。

「退き際かと存じますよ。ギルヴァング殿」

「ピルゲンッ!!」

ドジャー達の前に、
クソ礼儀の正しいヒゲ野郎。

「何しにきやがった・・・・」

「殺し合いに・・・という訳ではございません。私は口を挟むのも好きでございましてね。
 ギルヴァング殿。ここで貴方を失うのは惜しい。一度戻られて治療致しましょう」

それは、
考えられる中でも避けたい事態だった。
もう二度と、
ギルヴァングをここまで追い詰める事などできようもない。
そんな事は・・・

だが、
絶騎将軍(ジャガーノート)をここで2体相手にするのも・・・。

「黙ってろピルゲン。漢がここで引き下がれるか」

だが拒否したのはギルヴァングだった。

「漢はよぉ、勝って負けてで強くなるもんだ。だが強く事よりも重要なのが勝負自体だ!」

ロウマとは、
真逆の言葉。

「このバトルフィールドは戦場だ。この状態で勝ち負けが決まったとは言い難い。
 つまりこの俺様には最後を決するまで付き合う義務があるっ!
 そして俺様自身は負けを認める潔さは持ち合わせちゃぁいねぇんだよ!」

勝ちこそが魅力。
そのために戦っている。

「俺様が勝つのを見届けていろ」

「ふむ。自身はそんなナリでありながら、よくそこまで吼えられるものでございます。
 呆れを通り越して賞賛に値するでしょう。しかし私は貴方に万全を与えられます」

ピルゲンはギルヴァングの誇りなどさも興味なさげで、
それでいて、
手の上に転がるものを見せ付けた。
丸い、
二つの球体。

「?!ドジャー!あれ!」

マリナは気付く。

「ゴーストアイズ!ポルティーボ=Dの魔弾よっ!」
「は?」

マリナが真っ先に察しがついたようだが、
ピルゲンがフフと笑い、
続きを述べる。

「そう。少し時間と体を弄らせて頂ければ、新しい眼を貴方殿に移植しますよ」

モルモットベイビーの偉業。
それを、
ギルヴァングに・・・・。

「ギャッハッハッハッハッハ!!!!」

ギルヴァングは、
天に向かって大きく笑い声をあげた。

「いらねぇな」

そして、珍しく真顔のようになって答える。

「俺様が信じるのは己の肉体だけだ。武器もいらねぇ。防具もいらねぇ。
 信じられるのは生まれた時から共に居たこの体だけだっ!
 この体一つでっ!俺様のやり方でっ!そして戦い勝利するっ!」

それ以外に何の意味がある。

「ふん。やはり呆れでございますね」

ピルゲンは、また闇を繰り出す。

「ロウマ殿も駒になる道へと堕ちたというのに、貴方は駒にもなれないとは。
 後悔して朽ちる事でございます。ディアモンド様の駒の道を選ばなかった事を」

ピルゲンは、
丁寧に腕を折りたたんでお辞儀し、
そのまま闇の中へ消えていった。

「後悔など一度たりともしたことねぇ」

ギャリッ・・・と歯を噛み締めて、
猛獣は笑い、
こちらを見る。

「振り向かねぇし省(かえり)みねぇ。その漢の道を選んできたんだからな。
 さぁやろうぜ。俺様は骨の一欠片になるまで・・・・立ち続ける」

「本当にそうなんだろうな」
「まいっちまうぜ」
「ドジャー。回復はすんだ?」

いや、ギルヴァングからもらったダメージが芯に残ってる。
しかし今更気にするようなレベルでもない。

「インビジする意味もねぇ・・・わなっ!!」

ドジャーが最初に飛び込んだ。

「ジョカポの意味さえねぇ!じゃぁ俺に何が出来る!?・・・あぁ。今度こそぶった斬ってやるよ!」

「なら俺様はぶっ潰してやるっ!!」

ギルヴァングは右腕を振り上げた。
その振る舞いさえ歪だと感じた。
完全にガタが来ている。

ギルヴァングの超絶な精神力が、
体を無理矢理動かしているに過ぎないのだろう。

「だがそれでも俺にはキツい一撃なんだろう・・・なっ!!」

振ってくる腕を消えて避ける。
いや、後ろに回りこんで避ける。
ラウンドバックで背後に。

「当たったかゴラァァァ!!!!」

腕を地面に叩きつけながら、
ギルヴァングは叫ぶ。

「当たってねぇよ!!」

背後からドジャーはダガーを一突き、
思い切り突き刺す。

「いけるっ!!」

今までと違う。
食い込んだ。
しっかりと突き刺さった。
ギルヴァングの広い背中にダガーが生える。

「後ろかゴラァァァァァアア!!!!」

ギルヴァングの後ろ蹴り。

「・・・・っと」

ドジャーはスタンッ・・・とその鋭く重い後ろ蹴りの、
足の上に着地した。

「わずかだが、俺が反応出来るレベルにはトロくなってるぜ」

「そうかいっ!!知ったこっちゃねぇな!!」

今更気付くのは、
ギルヴァングが裸足だという事。
ギルヴァングの足の指が、
ドジャーの衣類を掴んだ。

「なんじゃそりゃ!」

「こういうことだゴラァァァァア!!!!」

ドジャーの衣類を足で掴み、
そのまま回し蹴りのような要領で、
投げ飛ばした。

「さっさとくたばれテメェエエエエ!!!」

メッツが斧の鉄塊を両方投げつける。

「おぉっと。なんか飛んでくるな」

ギルヴァングはニタニタと笑い、
だが避けもしなければ、
ガードもしない。

「ぐっ・・・」

片方数十キロの鉄の塊は、
ドスンッ、ドスンとギルヴァングの体に張り付けになる。
効いてない?
いや、
音が鈍すぎる。

「痛くねぇなぁ。痛くねぇぞゴラァァ!!!!」

当の本人はただそう言う。

「テメェとのパワー比べも!俺様の勝ちで終わらそうじゃねぇか!」

「いやだねっ!今のテメェに勝っておいしく馬鹿力を名乗らせてもらうぜっ!」

メッツは飛び掛り、
腕を振り上げる。
不用意も今のギルヴァングには同じ。
五感がほぼ失われつつあるのだから。

「でぇありゃぁぁああ!!!」

メッツはわざと声を張り上げた。
向こうの動きを見たのだ。
今のギルヴァングなら、
カウンターの攻撃を見てから対処してもリスクは少ない。

「食らいやがれっ!!!」

右腕か?
左腕か?
それともキック。
メッツはギルヴァングの対応を待っていたが、

「んな!?」

ギルヴァングはそれのどれもとらなかった。
メッツに体ごとぶつかってきた。
それこそ相手の位置が分からないなら理には叶っているが、
玉砕覚悟の滑稽な攻撃にも見える。

「ギャハハハハハ!」

ただギルヴァングだ。
結果的に、
ギルヴァングの頭がメッツの腹に突き刺さった。

「が・・・・」

狙ってない頭突きというところだ。

「漢はガチンコォオオオ!!!壊せねぇ壁なんてねぇんだよぉおおおおお!!!」

続けざまに豪腕。
メッツへと振付けられ、
メッツの体がその場で歪む。

「おごっ・・・・」

メッツはそのまま地面に叩きつけられた。

「ギャハハハハ!漢ならっ!やってやれっ!!だっ!!!」

ギルヴァングが大きく息を吸い込む。
横隔膜が膨らむ。
血が滲む。
息を吸い込んだだけで、
他人の耳にまでミチミチと痛々しい音が聞こえる。

「させるかっ!!」

突然横から乱入してきたのは、
傭兵。
《ドライブスルーワーカーズ》の生き残りだった。

「ノヴァ=エラっ!!」
「イエッサー!」

飛び掛った男は、
ギルヴァングの頭を後ろから掴み、
後ろへと引っ張る。
ギルヴァングの口が大きく開いたまま、頭は天を向いた。

「捕えたっ!!」

もう一人の傭兵がスパイダーウェブを放ち、
ギルヴァングの頭をグルグルに巻きつける。
目も見えないギルヴァングの頭部を固定する意味があるのかは知らないが。

「そういう事ね」

ただ理解したマリナは飛び込んだ。

「蜂のように舞い(ライカビー)」

マリナは、
ギルヴァングの両肩に足を乗せる形で着地する。

「蜂のように刺す(ライカビー)!」

ギターの先端をギルヴァングの大口に突っ込んだ。

「あぁ・・・が?」

「いいザマね。そして・・・・」

魔力の引き金を引く。

「女王蜂のように撃つ(ライカクイーンビー)!!!!」

銃声。
乱射。
直接ギルヴァングの喉へマシンガンを打ち鳴らす。

「デェーリャデリャデリャデリャデリャ!!!」

ギルヴァングの全身が振動する。
眼の穴から何度も血が噴出す。

「デェリシャス!!!」

これで死なないなら化け物だが、
相手は化け物だと了解済みだ。
ギルヴァングの両腕が動くのを見計らって、
さっさと退散しようとする。

「ギター噛み付かれてもイヤだしね」

硝煙臭い口からギターを引き抜くと同時、
ギルヴァングの頬が緩んだのが見えた。

「ドッゴラァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

「マジっ?!」

0距離声砲。
マリナは成す術もなく、
声の砲弾に飲み込まれて吹っ飛んだ。

「・・・・か・・・・ガ・・・・声が・・・・また・・・・・」

声が枯れる程度で済んでいるのが規格外としか言いようがないが、
それだけでも済まなかったようだ。
ギルヴァングが抑える首。
首に穴が空いている。
空気と血が行き来していた。

「か・・・すり傷だ・・・・」

言葉と裏腹に、
内側から焼けるような感覚に陥り、
一度地面に足を崩した。

「お・・・・と・・・俺様はまだやれっぞ・・・・」

力が抜ける。
とうとうガタンっ・・と、
その大きな体が地面に崩れた。

「・・・・や・・・・やったか?」

ギルヴァングの頭を抑えていた傭兵が呟くが、
そんな言葉。
可笑しなものだ。

「俺様はまだやれっぞっ!!!!」

ギルヴァングの上半身が跳ね上がる。

「ギャハハ・・・ハハハハ!俺様が勝つまでやるぜ!メチャやるぜっ!!!」

「だっ・・・くそ・・・抑え切れねぇ・・・」

傭兵は暴れ馬にしがみ付く様に押さえつける。
否否、
押さえつける事など出来ず、暴れ馬にしがみ付いているだけだ。

「クソ!せめてこいつに武器を破壊されてなきゃ!」

攻撃出来る奴はいないのか!?
ドジャーがこちらに向かっている。
マリナとメッツはまだ再起できていない。


「おいソル。どいてろ」

傭兵にかけられる言葉。
傭兵はそちらに目を向けて、
理解した。

「サー!イエッサー!」

傭兵がギルヴァングから離れると同時に、
ギルヴァングの体に斬撃の痕が刻まれる。

「ぐっ・・・・」

ギルヴァングはその衝撃に体を揺るがすが、
見えない赤い目で、
そちらに視線を動かした。

「エドガイ・・・・かっ」

「イエス。正解。商品は無し。涙目」

間髪居れずにエドガイはパワーセイバーのトリガーを引く。
剣は真っ直ぐギルヴァングに向けたまま、
何度も何度もトリガーを引く。

「バン。バン。ズキューン」

エドガイは何度も撃ちながらゆっくり前に歩いた。

「ぐっ・・・う・・・がっ・・・」

それと同速度で、
ギルヴァングは後ろに後退する。
パワーセイバーが一撃直撃するたび、
一文字の傷と共に後ろに押されていた。

「ほらっ!ほらっ!ほらっ!何発で死ぬ!おたくはよぉ!」

「俺っ・・・様っ・・・はっ!ぐっ・・・死ぬかゴラァァァアア!!!」

もうギルヴァングの表面は、
パワーセイバーによる傷の方が領域を占めているだろう。
切り傷で埋め尽くされている。
斬撃が撃ちつけられるたび、水溜りのように体の表面から血が跳ねる。

だが倒れず。
ギルヴァングはむしろ押し返してエドガイへ走った。

「行かせる・・・かよっ!!」

そのギルヴァングの足を、
倒れていたメッツが掴んだ。

「さっさとくたばれテメェ!!」

「俺様がくたばるわけがねぇだろうがよぉおお!!!!」

そのメッツを蹴飛ばし、
エドガイに走る。

「なんで動いてんのよおたく・・・・まったく渋いねぇ・・・・」

呆れながら、
エドガイは剣を構えた。
銃のようにでなく、剣技の構え。

「だけど今のボロボロのおたくよりは、俺ちゃんのが強いぜ」

「俺様のが強ぇぇえええ!メチャ!最強にだっ!!!」

交差した。
飛び掛ってくるギルヴァングと、エドガイが。

「普通に剣も振れるんだぜ。俺ちゃん」

剣を振り切っていたエドガイ。
エドガイの目の前に、
ドサっ・・・と、

ギルヴァングの重い左の豪腕が落ちた。

「諦めろよ。ギル」

エドガイは振り向くと、
悪寒が走った。

猛獣は、
左腕などさも知らないように、
噴水のように血を噴出しながら、
エドガイに再度飛びついていた。

「ドッゴラァァァアアアアアアアアアアア!!!!」

「ぐぉっ!?」

型も何もないギルヴァングの右腕のスイングが、
エドガイを吹っ飛ばした。
ゴロゴロと地面を転がった先で、
エドガイは剣を地面に付きたてて無理矢理止まったが、

「きくねぇ・・・涙目・・・」

一度体が崩れた。

「ゴォラァァァアア!!!次はどいつだ!来いっ!いくらでも来いっ!!!!」

聴覚以外の五感をほぼ失い、
四肢が一つ根元から吹き飛んでいるのに、
猛獣は天に叫んで敵を求めた。

「てぇらやぁぁあ!!!!」

ドジャーが飛びつく。
ギルヴァングの血の噴出す左腕の根元へ。
傷口へダガーをねじ込む。

「血は有限だぜっ!エコロジーを考えてご利用は計画的になっ!!!」

噴出する傷口を、
さらに抉る。
考えたくもない痛みだろうが、
ギルヴァングの精神力はその上を遥か凌駕している。

「ががぁぁぁ!!!うぜぇ!もう痛みなんてねぇんだよっ!!!!」

普通ならやらない。
が、
ギルヴァングはその左肩でドジャーにタックルをかましてぶっ飛ばした。

「次はテメェか!!」

「あぁ俺だっ!!」

メッツの動く音は敏感に察しれるらしい。
だが見えないしあやふやだろう。

「これか?どこだ!?」

ギルヴァングは地面を手探り始めた。

「何やってやがる!」

「あったぜ!ギャハハハ!!」

ギルヴァングが手に持ったのは、
自分の、
左腕だった。

「食らえゴラァァァアアアア!!!!」

それを、投げつけた。

「!?」

それがメッツの直撃コースに投げられたのは、
ほぼ偶然の産物だったが、
事実は事実だった。

「ロケットパンチ・・・ってか!?」

皮肉にメッツは笑った後、
避けられもせず、
それが直撃した。

人間の体重の分配を考えるならば、
ギルヴァングの左腕。
それはそれだけで20キロ以上ある事は明白で、
それが豪腕で投げられたなら、
メッツの体が"く"の字に折れ曲がるのに十分だった。

「ぐっ・・・お・・・・」

「当たったか!?ギャハハッハ!俺様が生まれてこの方付き合った最高のパーツだぜ!
 勝つためなら眼も腕も骨も肉も!捨て置くを良しとしてやらぁああああ!!」

タァァン・・・・

と戦場に銃声がこだました。

「・・・・あ?・・・・」

ギルヴァングの体が宙に浮く。
首が反動で曲がっている。

「今なら・・・・貫けたはず」

マリナが寝そべっていた。
再度のMB16mmスナイパーライフル。
それが、
ギルヴァングのこめかみを貫いた。

「・・・・ギャ・・・ハッ・・・・」

腕からは相変わらず。
元より血だらけの顔面から、
さらに一箇所水鉄砲のように血を噴出しながら、

ギルヴァングの体は真横に、
地面に沈んだ。

「まだ・・・・信用しないけどね」

マリナはそれを見ても、
狙撃の姿勢を崩さない。
地面に寝そべったまま、
銃口をギルヴァングに向けている。

「ナイスだマリナ」

ドジャーが近寄るが、
マリナは体勢を解除しない。

「カッ、頭を貫いたんだ。大丈夫だとは思うが・・・・」
「相手が相手よ。起き上がってくる気がしてならないわ」
「んじゃもう一発ぶちこんでやれ」

メッツが、
ギルヴァングの左腕を持ったまま、
マリナに近寄っていく。

「そうね」

スナイパーライフルを打ち鳴らす。
それは、
横たわるギルヴァングの胴体に沈んだ。

「反応もしねぇな」
「信用出来ないわ。出来るだけぶちこんでおくわ。リロード。カバーお願い」
「カバーったってな・・・」

今更あの体に近寄る気もしない。

「でりゃ」

メッツが、
ギルヴァングの左腕を投げつけた。
それをぶつけて意味があるのかは知らないが、
持っていても気色が悪い。

「いや、なんか反応見たいなって思ってよぉ」

メッツは気軽な感じに言ったが、
三人は、
ビクッ・・・と体を止めた。

横たわるギルヴァングの右腕が、自身の左腕を・・・・キャッチした。

「ギャハッ・・・ハハハハッ!!!」

ギルヴァングの体が、
再度始動した。

「化け物だ・・・」
「勘弁してよ・・・・」

「負けねぇ!俺様は負けねぇぞゴラァァァァアアアアアア!!!」

叫び、
起き上がったギルヴァングは、
その左腕に・・・・噛み付いた。

もともと自分のものだった左腕を齧る。

「・・・・あれで左腕再生とかしねぇよな・・・」
「同じ事言ってるヒマがあったら撃って!撃つのよっ!!」

マリナがスナイパーライフルを撃ちこむ。
再度リロード。
魔力の集中が完璧でなくてもいい。
何度も何度もとにかく撃ちこむ。

「クソッ!!倒れろっ!倒れろよっ!!」

ドジャーもダガーを投げつける。
弱っているのは確かだ。
投げつけたダガーもしっかりと突き刺さる。

ただ、
左腕を咥えた猛獣は、
それらを全て受けたまま、それでも立っていた。

「傷の数は・・・3ケタのどの辺りまで行ってると思ってんだ・・・・」
「ドジャー!頭や胴体より足狙って足っ!」
「あぁやってる!!動けなくすりゃ一緒だっ!!」

この距離と、
いまの動揺では狙いもままならない。
だがマリナの弾丸とドジャーのダガーは、
ギルヴァングに確実に突き刺さっている。

その度にギルヴァングの体は揺れている。

「終りにしようやギルっ!!」

エドガイも違う方向からパワーセイバーを撃ちならす。
威力は大きい。
3発、4発と撃ちこみ、

「釣りはいらねぇよ!」

5発撃ち込むと、
ギルヴァングの体は倒れる。

「やってねぇ・・・やってねぇんだろ!クソギルっ!」

返事をするように、
ギルヴァングの体は起き上がる。
左腕の破片が牙に刺さった口で、
笑いながら立ち上がる。

「俺様ぁ・・・・何度でも立つぜっ!!何度でもっ!何度でも何度でも何度でもっ!!
 そうしている限りっ!俺様は負けねぇからだ!そして!漢ならっ!!
 勝つためにっ!ひと時も諦めずにっ!立ち上がるもんだっ!!!」

ボロ雑巾のほうがまだ美しいその身なりで、
もう血液タンクの残りなんて無いだろうその屈強な体で、
猛獣は立つ。

「漢ならっ!漢なら!こんな熱いバトルの先に!勝利を求めるもんだっ!
 最高だっ!メチャ最高だっ!俺様はまだ負けてねぇぇえええええええ!!」

「準備出来たよ。皆」

ドジャー達が振り向くと、
狼帽子の男が、ニコリと微笑んでいた。

「ロッキー!」
「そうだ!忘ってたっ!なんかあんだよなっ!おい!ぶち込めっ!」
「焦らないでよ。勝利は逃げないよ」

ロッキーは微笑む。
そして地面にカプリコハンマーをドスンと立てた。

「範囲が大きいから巻き込まれないでね」

カプハンを中心に、
地面が輝いた。

「大地讃頌。ブレイブラーヴァ!!!」

ロッキーが声をあげた。
あげて・・・

「・・・・・なんも起こらねぇじゃねぇ・・・おっ?!」

メッツが体勢を崩した。
突然、
地面が揺れた。

「なんだ!?」
「地震!?」
「そういうスペルか?!」
「んーーん」

ロッキーは微笑む。

「ブレイブラーヴァだよ」

答えになってない答えを答え、
そして、
地面に亀裂が入っていった。

「あぁ?・・・・なんだぁ?」

ゴゴゴと響く地震。
揺れているという事しか感じられないギルヴァングだったが、
異変には気付く。

「おっ!ぐっおおお?!」

亀裂。
地面の亀裂。
自分の周りだけが激しい。

「なんだ・・・なんだゴラァァァアアアアア!!!」

叫ぶ声はこだまになるだけ。
亀裂は大きくなっていく。
いや、
それだけじゃなく、
ギルヴァングの真下の地面を中心に、

膨れ上がっていく。

「ね・・・・・つ?」

ギルヴァングが気付いた頃には、
それはとうとう姿を現した。

地面は膨らみ、
亀裂が入り、
そして・・・・・大口を開けた。

噴火口を。

「なんじゃこりゃ・・・火山?」
「イカルスに実際にあるレベルの火山じゃない!」
「そうだよ」

ロッキーは微笑む。
火山。
その巨大な火山は姿を現し、

そしてその中心に居たギルヴァングを・・・・飲み込んだ。

「ああああああああああああああああ!がぁああああああああああああ!!」

溶岩。
マグマ。
その噴火口に猛獣は落とされる。
食われる。
飲み込まれる。

1000℃の灼熱の海へと。

全てを溶かす。
完全な無機物の世界へと落とす。
黒炭と化す。

「ドッゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

だが、
噴火口から、
猛獣は真上に飛び出した。

「うっそ・・・」
「あ、ぼくも想定外」

半身が焼け焦げ、
溶け、
皮膚が黒炭と化しているが、
ギルヴァング=ギャラクティカは、
火山の噴火口から飛び出した。

「いいっ!湯加減だったぜっ!体が燃え滾らぁぁああああああ!!!」

野獣は、
自然を超越した。

「俺様は負けねぇぞっ!!まだ!!まだやるぞ!楽しい!楽しい楽しいバトルをよぉおおお!!!!!」

「チッ・・・」

エドガイは止むを得ず踏み出そうとする。
が、
その肩を掴んで、
部下の傭兵が止めた。

「ボス。適材適所ってもんがあります」
「・・・・・」
「任せといてください。仕事ですから。おいノヴァ=エラ。カバー」
「イエッサー」

そして傭兵の一人が走った。
走って飛び出した。

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

そして、
空中のギルヴァングへ掴みかかった。

「最初から最後までテメェにはこればっかだったな!」

「なんだテメェ!離しやがれっ!」

「やだね。業務妨害で訴えるぞ。ノヴァ=エラ!!!」

ギルヴァングに掴みかかった傭兵は、
指示を出す。
盗賊傭兵が、スパイダーウェブを放った。

ギルヴァングと傭兵を、
身動きできない程に固定した。

「てめぇ!!てめぇ!!!こんな!こんなよぉおおおおお!!!」

「悪ぃな。命より、金が大事なんでね」

矛盾を唱えながら、
傭兵は、
ギルヴァングと共に、火山の噴火口へと落ちていった。

「俺様は!俺様はまだ戦える!!闘える!熱くっ!闘えるんだよぉおおおおおお!!!」

灼熱の、
業火へ。

「ゴラァァァアアアアアアアア!!!!!」

ギルヴァングの雄叫びと共に、
二つの体は噴火口へと沈んだ。

「あああああああ!!!ぅがああああああああ!!!」

ギルヴァングの体が溶けていく。
黒く、
炭となっていく。
崩れていく。
消えていく。
無くなっていく。

灼熱の海に、沈んでいく。


「ドッゴラッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

最大の叫びと共に、
全身が浸かり、
消えた。

ギルヴァングの命は、燃え尽きたのだ。

それと共に、
火山は沈んでいく。
地面に戻ろうと縮んでいく。
ゴゴゴ・・・と辺りに地震をもたらしながら。

「・・・・・・ふぅ、疲れたよ」

ロッキーが座り込むとともに、
地面はただの荒地へと戻った。

「俺も・・・だ」
「私も」
「もう二度とやらねぇ・・・・」

ドジャー、マリナ、メッツも、
一気に疲労感が襲い、
その場に崩れた。




































「作戦の、範囲、外に、消えて、くれ」

伏兵部隊部隊長。
リンコリン=パルクの言葉を最後に、

イスカは戦場を少し戻る形になった。

「無念・・・斬り損ねた・・・斬り損ねた斬り損ねた!!!KILL・・・斬る・・・・・」

ギリギリと歯を食いしばるイスカ。
視線は定まっていない。

「俺に感謝して欲しいね。シシドウ=イスカ」

棺桶を背負った戦士。
エースは言った。

イスカは睨み、剣を瞬時に抜く。
そして突き出す。
エースの首元に。

「何故拙者を連れてきた・・・何故拙者と共に居る・・・・答えなければ斬る(KILL)・・・・」

「じゃないと斬られてたろうが。訂正させてもらうとあんたを助けたんじゃない。
 俺はその名刀セイキマツがもったいなかっただけだ。あんた飛び掛ろうとしてたろ?
 それじゃぁ剣聖カージナルの名刀の名前の価値が下がっちまう。言ったろ?」

エースは剣聖の剣が欲しい。
殺人者の剣でなく、だ。
名刀セイキマツは剣聖カージナルの剣。
彼のような者が振るって意味がある。

「あんたに選べる道は2つ。殺人者を続けるなら、違う剣でやる。
 もうひとつはその剣の道。剣聖の道に戻る。まぁ最終的には俺がもらうんだけど」

「分からんっ!分からんわからんっ!」

イスカは首を振った。

「意味が分からん!斬る!斬ればいい!もう!全部!」

「極論だな・・・」

剣を突きつけられたまま、
エースは顔をしかめた。

「付き合ってらんねぇ・・・けど任務ねぇしなぁ・・・はぁ・・・・」

エースは顔を天に向けた。

「いきなり任務無しって・・・・俺の次の最優先事項こんなんだもんよ・・・。
 自分のやりたい事なのに任務やってた方がマシってコレいかに・・・・」

よく分からない自問自答。
だが言葉の伝わらない殺人者を前にしたら、
それもしょうがない。

「斬っていいか?いいか?もう」

目標はこんな事を言ってくるし。

「あんさ。シシドウ=イスカ。あんた何のために斬るんだ?
 ついでに俺は任務じゃないから別に斬ってねぇ」

「ママ、ママリナ殿のために決まっている!」

「そのママママリナ殿が命令してんのか?それとも望んでんのか?」

「また・・・また!またその質問か!斬るぞ!知らん!
 拙者は貴様は斬る!もう考えたくない!考えたくはないんだ!」

「また?俺以外の誰かにも言われたのか?」

ギトリとした眼で、
イスカはこちらを見ている。
その眼に特に意味はないのだろう。
思考を放棄した殺人者なのだからだ。

「巨大な斧を持った・・・『竜斬り』とか言う男だ・・・・」

「!?」

エースは目を丸くした。
イスカの剣を素手で掴む。
血が垂れるがおかまいなしだ。

「今・・・何つった・・・・『竜斬り』?・・・・巨大な斧って・・・竜斬り包丁(ドラゴンスレイヤー)か!?」

「知らん!拙者はもう考えないっ!うッとおしい!」

「聞けっ!言えっ!」

エースの気迫が勝った。
イスカはギラギラした眼のまま、
エースを睨み付けまま、答える。

「・・・・そのような事を言っておった」

「名は!?ネームだよっ!クシャールと名乗ってたか!?」

「・・・・・確かな」

「クソッ!あのオヤジっ!生きてやがったかっ!いや・・・それ自体はいい・・・。
 だがなんで戦場(ココ)に居るのか・・だ!終焉戦争に参加していたのか?
 騎士団に残っていたのか?・・・目的はなんだ・・・・・チッ・・・・連絡だけしとくか・・・・」

一人で慌しい。
WISオーブを取り出す。
だが動きを止める。

「誰に・・・ロウマ隊長にか・・・ユベンにか・・・・・・・チッ・・・
 情報部のエイト=ビット部隊長は真っ先に死んだんだったか・・・・」

エースはWISオーブをしまった。

「まぁいいか。この辺に居るはずだから先に俺がこの目で見ておかないと話にならねぇ。
 中盤以降はディエゴ部隊長の布陣が完成している。誰かが紛れてたら分かるだろうからな」

「忙しいのが終わったならお前を斬っていいか?」

「なんで俺を斬るんだよ。得ねぇだろ」

「敵かもしれん。否、敵だ」

「敵じゃねぇよ。今は任務外だ」

敵じゃないと言われると、
またどうしたらいいのか分からなくなる。
自分の敵はなんだ。
何が本当だ。
迷うなら・・・斬るしかない。

「だから俺の趣味の理由と『竜斬り』の件を合わせて、
 シシドウ=イスカ。少しの間てめぇにくっついて動かせてもらうぜ」

「なら斬る」

「話が通じねぇなぁお前。そんなお前の監視も含めてだ。
 気にするな。任務が再開したらちゃんと敵になりましたって言うからよ」

言葉の意味が分からない。
斬る。
斬るしかない。
さっきから何を迷っている。
さっさと・・・さっさと斬らなければ。

「全部・・・全部・・・マリナ殿の敵かもしれないなら・・・斬っておかないと」

ガタガタと震えているイスカ。
だが恐れの震えというよりは、
武者震い。
奮えだ。

「薬が必要だな・・・ったく。俺も敵の心配なんざして甘い事だ」

「敵?」

「あーウソ。敵じゃない。俺は敵の味方になるとも味方の敵になるとも言ってない」

「むぅ・・・・」

まぁ逆に使いやすいとも、
エースは思った。
トチ狂った奴は楽だ。

「ロウマ隊長の求める強さとは真逆で好きではないがね」

「好き・・・」

イスカは剣を見ながら呟いた。
好き・・・。
それは・・・なんだ。
大事な事か。


「わわわっ!わたったった!あぁぁ〜〜〜〜!!」

呼んでもいないのに突然、
イスカとエースの間に何かが雪崩れ込んできた。

「チッ・・・」

「斬る」

エースもイスカも、
咄嗟にその男に剣を向けた。
向けたが、

「あいた・・・・たたた・・・・」

その男は地面に突っ伏したままの隙だらけだった。
ボサボサの髪の若い男は、
顔をあげた。

「・・・・痛い・・・僕が何したっていうんだ・・・・ただ生きていたいだけなのに・・・
 ってうわっ!何?!なんですか!?ぼぼぼ!僕が何かしましたか!?」

顔をあげた男は、
やっと状況を把握して慌てた。

「あああ怪しいものじゃありません!なんですか!?け、剣を収めてくださいっ!
 僕が何かしましたか?悪い事・・・いやしてないしてないしてない・・・
 僕は何もしてない!僕は悪くないぞ悪くない・・・悪くないんですよ!」

一人でよくくっちゃべる奴だ。
殺意のカケラもない。
一般人のソレ以下だ。

「敵か?」

「敵!?敵じゃありません!僕は誰の敵でもないです!ただのソラ=シシドウです!」

頼んでもいないのに名乗るとは。
頭がマヌケなのか?
こいつは。

「シシドウ・・・?最後の53か」

「最後?皆死んじゃったんですか?ぼぼぼ・・・僕みたいなザコ残して・・・・
 そんな・・・僕なんてしょうもないの残っちゃうなんて悪い気が・・・
 いやいやいや僕は悪くないぞ・・・僕が生きて何が悪いんだ・・・死ぬほうが悪いんだ・・・・」

なんだか分からんが、
気に喰わない感じはした。

「シ・・・シシドウ・・・・」

イスカは思うところがあるのか、
反応した。

「敵・・・敵敵敵・・・斬るべき・・・・敵・・・」

「敵じゃないです!見たところヒエイさんの娘さんですよね!
 ぼぼぼ僕と同じシシドウです!ほら、同じ!同族!斬らないで!」

「敵・・・じゃないのか・・・否・・・う・・・・」

よく分からんパーティが出来たな、
とエースは思ったが、
まぁ味方でもないかとも思った。
どいつも、
こいつも。
死と隣り合わせだが、死並びの部隊ではない。

「否!斬る(KILL)!!」

「わぁぁああ!!!」

何を引き金にしているのか、
危うい侍だ。

突如に剣を振り、
一太刀でソラ=シシドウの首を吹っ飛ばそうとした。

「早まんなよ人斬り。なんでもかんでも斬るなっつったろ」

エースは片手でメイスを一掴み。
マラカスでも持つように軽く、
イスカの剣を止めた。

「ひ、ひぃいい!ごめんなさいごめんなさい!でもっでもっ僕は悪くないっ!」

ソラ=シシドウは怯えて頭を抱えている。
こんな奴の命を守る道理もないが、

「目に入ったら斬る対象と認識する。お前はヒヨコか」

エースは呆れて言った。

「・・・・ふん」

イスカは悪びれも何もしない。
考えてもいない。
斬る事だけが道理。

「はぁ・・・・おい。ソラ=シシドウ」

「ぼぼぼ僕は悪くない悪くない!悪いのは周りだっ!僕は悪くないんだ!殺される理由もないんだ!」

「・・・・まともなのは俺だけかよ。おい小僧。テメェはなんでここに居る」

「ななな何も悪い事なんてしてないっ!斬られる理由なんて・・・なんて・・・」

「言え!ウゼェ!」

「ひぃ!!・・・・すすすすいません僕みたいなのがオドオドと!僕なんて・・・僕なんて・・・
 ぼ、僕はただ・・・城を出たらここまで追い出されてきただけなんです・・・・
 内門から中盤まで布陣が出来上がってて・・・・それの邪魔だって言うんで・・・・」

イスカとエースと理由は同じだ。
もう完成したか。
いい手際だディエゴ=パドレス1番隊部隊長。

「ぼぼ僕は最初から何にも戦おうとか思ってなかったんだ・・・・悪い事なんてしたくないんだ・・・
 それなのに城に連れてかれてあんな怖い奴・・・ロウマ=ハート相手になんか色々やらされて・・・
 必要なくなったら出て行けでこんな・・・なんで・・・僕が何したっていうんだ・・・うう・・・・」

「おい、今なんつった」

「ひぃ!僕は何も言ってません!僕は何も悪い事言ってません!悪くない!悪くないんだ!」

「聞け!小僧!テメェ今、ロウマ隊長のネームを口にしたな。
 生かしてよかったぜ。おいロウマ隊長の何をしたって?何をした!言え!」

エースはもうイスカなど放り、
ソラ=シシドウの胸倉を掴んでいた。
最優先事項だ。

「ひゃぁ!あわわわわ!ななな何もしてない!僕は何も悪い事してないんだ!ごめんなさいごめんなさい!
 べべべ別に何かしろとも言われてないんだ!でも怖かったんだ!だからいつも通り・・・
 僕は生きたかった!生き延びたかっただけだ!死にたくないのがななな何が悪いっていうんだ!」

言っている事が支離破滅だ。
これがこいつの通常か?
腐っている。
いい訳を基準に言葉が並んでいる。

「僕なんてザコっちい非戦闘員如きに危ない事をさせるほうが悪いんだ!
 僕は悪くない!悪いのは皆だ!僕は悪くない!悪いのは皆だ!世界だ!僕は!僕は!」

「クソッ・・・会話にならねぇ」

「なら斬る。黙らせる。無駄口は敵だ。迷うなら斬ればいい・・・斬れば・・・」

「お前は出てくんな人斬り。さらにややこしくなるだろう」

「わあああああ!斬られたくない斬られたくない!僕は斬られたくない!
 死にたくない死にたくない死にたくない!僕は何も悪くないんだ!
 どーして斬られなくちゃいけないんだ!酷い!世界はなんて酷いんだ!」

ソラ=シシドウは、
エースから無理矢理逃れ、
あたふたジタバタと、
足を怪我したアヒルのように逃げていく。

「イヤだ!死にたくない!僕は死にたくないんだ!僕なんかが死んだって・・・
 なら僕は死ななくたっていいじゃないか!いやだ!皆が悪いんだ!皆が!」

ソラ=シシドウ。

異端の殺人鬼。
人でなく鬼として生まれたシド=シシドウを除くならば、
最後のシシドウ。
殺しの家系。

「悪いのは皆だ!僕は・・・僕は・・・・」

ただ、
ガルーダ=シシドウが言うように、
ガルーダとソラ。
この二人は、"非"戦闘員だ。

ガルーダは戦闘を行わずに殺すから、
そういう意味で非戦闘員。
ただ、

「僕は殺したくも殺されたくもないんだ!」

ソラ=シシドウ。
彼は、

本当に殺人を行わない。

それどころか、
生まれてこの方、ただ一人も殺していない。
殺人鬼なのに。
殺しが仕事なのに。

少なくとも、ソラ本人はそう考えている。
いい訳している。

「僕は生きたい・・・・逝きたくない・・・・」

一言で言うなら、
彼は最悪だった。

何もかもをいい訳し、
他人のせいにする。
自分にはいい訳する。

責任から逃れる。
罪悪感から逃れる。
罪から逃れる。

いい訳を張り巡らして。

罪悪感。
罪。
なら"悪"とはなんだ。
様々だ。

Xと○のクソ野郎のように、
それを超越して楽しむのは、
悪だ。

人が不幸になることを行うのは悪だ。
欲望のままに生きるのは悪だ。
自分の事しか考えないのは悪だ。
何かを壊す事は悪だ。
命を奪う事は悪だ。
人の望みを断ち切るのは悪だ。
人を殺すのは悪だ。

じゃぁ、
その悪の中で一番の悪とはなんだ?

「ぼぼ・・・僕は悪くないんだ・・・・皆が悪いんだ・・・・」

人はそいつの事を、

"最悪"と呼ぶ。

最悪な奴だと罵る。
悪の中の悪。
最悪。
最も悪だと、人は言う。

それがソラ=シシドウ。
最低級のクズ野郎。
最悪だ。

「なんだこいつ。ハープなんざ取り出しやがって」

話を戻そう。
ガルーダ=シシドウの言葉。
エースやイスカは知る由もないが、
シシドウで一番気をつけなければいけない男が、
このソラ=シシドウだと彼は言った。

全てを台無しにするから・・・と。

「僕は悪くない!皆が悪いんだ!!!」

世界で一番人を殺したのが、
シド=シシドウなら、
ソラ=シシドウは、
世界で一番人を死に追いやった男だった。

2年前の終焉戦争は、

2年前の世界は、

マイソシアは、

王国騎士団は、

「僕は悪くない!!」

ソラ=シシドウのいい訳が引き金で、終わってしまったのだから。



































「耳を塞いでっ!!!!!」

マリナが叫んだ。

「なんだ?」

とドジャーが疑問の言葉を言うのに覆いかぶさるようにだ。
マリナはこういう事に敏感だった。
魔術師でありながら、
詩人の生き方をしてきたから。
シャークという師と共に生きてきたから。

「ノイズ。音だね。音楽とは言えない」

ロッキーは笑いもせず耳を塞いだ。
それを見てドジャーもしかめ面で両耳を塞いだ。

「どこから聞こえてきやがる」
「何がどう・・・じゃないわ。聞いちゃいけない」

忌み嫌う顔でマリナは言った。

「大きな音だね。戦場の大半を包んでるんじゃないかな」
「戦場の鼓舞音にしちゃぁベースみてぇに芯に来るイケすかねぇ音だ」
「おたくら知らねぇのかい?終焉戦争の成り果てを」

エドガイが、
同じく耳を塞いだ状態で歩み寄っていた。

「ホタルの光だよ可愛くない子ちゃん」

そうは聞こえない。
音楽には聞こえない。

「終りの歌って意味だ」

エドガイは、そう言い切った。

「終焉戦争っつったな。2年前にもあったのか?この音(サイレン)は」
「疑問には思わなかったのかい?可愛くない子ちゃん。
 世界最強のギルド。選りすぐりの15ギルド。"その程度"で。王国騎士団が壊滅するか?」

言ってくれる。
今はその戦力以下で二度目の終焉戦争に挑んでいるというのに。

「まぁ2年前に関しては、結果が結果だ。"ギルド側の誰か"の仕業だと思ってたけどねん。
 今は状況が状況だ。騎士団側の誰かの仕業だった・・・と歴史が一つ解き明かされたわけだ」

終焉戦争は出来レース。
"台無し"で王国は滅んだ。
滅ぼされた。

「そういう事なのでございますよ」

闇が渦巻く。
律儀なあいつが、
ウザったらしく現れた。

「ピルゲン・・・・」

「どうでございましょうか。この舞踏会は!」

ピルゲンはトキメクように、
両手を広げた。
世界を、
戦場を指した。
その体で。

「なんだ・・・・・」
「何?何なの?」

そして、事態に気付いた。
いや、
事態が起き始めた。

周り?
いや、戦場の大半が・・・・

ぶち壊しだ。

「どうなってる!?」

いつの間にか音は止んでいた。
ドジャーは辺りを見回す。
辺りという辺りを。

人が、人を殺している。
戦場だ。
当然だ。

だが人と死骸の戦争。

そこで"人が人"を殺し合っているのだ。

反乱軍が、反乱軍同士で。

「狂乱こそ宴。宴こそ愉しみ。どうでございましょう。レディース&ジェントルメン」

先ほどまで同じ思いで戦いに挑んでいたもの達が、
発狂するように同士討ちを始めた。
戦場には血しか流れない。

「コンフュージョン」

ピルゲンは宴の真ん中で笑った。

「最後のシシドウの最悪の能力でございます。自分が生きるために、他人は死ねばいいという・・・ね。
 馬鹿は使いようでございます。戦場とロウマ殿は狂乱の宴に落ちたのですよ」

おっと。口が過ぎましたか。
悪びれもなくピルゲンは愉しそうに笑った。

「酷い・・・・」

ロッキーは呟いた。
笑顔は無かった。

「台無し・・・にも程があるわ」
「ギルヴァングじゃねぇが・・・戦いさえ放棄するか」

「貴方殿達は節穴でございますか?勝てばいい。聖戦をお望みですか?」

それもそうだ。
結果が全て。
こちらにもその手があるなら迷わず使っただろう。
否、
"こちらには使えない"

「2年前とは違うな」

エドガイは舌を出した。

「お気づきのようですね」

ピルゲンは本当に愉しそうで、
不愉快に気に食わなかった。

「あんな無差別な大音(サイレン)だったのに、殺しあってるのは・・・反乱軍だけだね」

ロッキーは口に出した。

「カッ・・・・生身の無い死骸には効いてねぇってのか」

あまりにも効率的だ。
反乱軍のみに、
シェナニガン(悪ガキ)にのみ与える制裁。

「ケンカ両成敗・・・っていうには笑えない」

反乱軍のみが・・・・お互いで殺し合いをしている。
我も分からず、
望んでいない、
殺し合いを。

「おやおや。お友達もパーティーがお望みのようで」

ズサり・・・と、
ドジャーは背後に何かを感じた。
悪寒が走った。

「・・・・!?」

ドジャーの肩に、
背後から手が置かれる。

振り向けば、

「よぉ、死ね」

ドレッドヘアーは視点が定まっていなかった。
そのまま拳を、
ドジャーの顔面に叩き付けた。

「馬鹿メッ・・・・・」

メッツの豪腕でドジャーが吹き飛び、
転がった。

「メッツ!何してんの!」
「・・・・・耳を塞いで無かったみたいだね」

マリナはギターを、
ロッキーはハンマーを構えたが。

「ギャハハハハハ!ハハ!は?ハ?ハハハハハ!!」

敵として現れたんじゃない。
本人に意志は無い。

そんなメッツに攻撃を仕掛けるのは躊躇われた。

「だから戦場で躊躇する人間は仕事になんねぇんだよ」

エドガイは違った。
躊躇いなく、剣を構えてメッツに飛び込んだ。

「やめてっ!」

ロッキーが間に割り込む。

「あれま」

エドガイはピアス付き舌を出してブレーキをかけたが、

「甘ちゃんだね」

「ギャハハハ!死ねばこんにちわ!」

狂乱のメッツはそのロッキーをも殴り飛ばす。

「こんばんわ!こんばんわ!ギャハハ!死ね!」

ドレッドヘアーをロックスターのように振りしきり、
メッツは狂乱する。

「メンドいねぇ。おい」
「イエッサー。ボス」

傭兵が、
エドガイの指示で何かを投げた。

「な、何?」

それはマリナに投げられ、
マリナはそれをキャッチする。
小瓶のようだ。

「精神安定剤だ可愛い子ちゃん。使いたかったら使いな。サービスだ」

「なるほど。馬鹿につける薬はあったわけね!」

マリナは精神安定剤を片手に、
半狂乱しているメッツに飛び込む。

「食後の薬よメッツ!」

「あが?」

精神が安定していないメッツの口に、
精神安定剤の小瓶が突っ込まれた。
マヌケこの上ない光景だ。

「あぼっ・・・あぼ・・・・」

「馬鹿っ!おい可愛い子ちゃん!薬はフタを開けて飲ませろって教わらなかったか!
 教わってねぇなら俺ちゃんが口移しで教えてやろうか!?」
「いらないお世話よっ!」

マリナの体がグリンと回転する。

「残さず飲みなさい!馬鹿メッツ!」

そのままマリナは、
回し蹴りをメッツの頬に叩き込んだ。

「おごっ!!!?」

メッツの口の中で小瓶が割れる。
考えたくもない。
とんでもない事をする女だ。
お見舞いと看病のイベントはスキップ推奨だ。

「・・・・あ・・・・あ?」

フラっ・・・と倒れかけたメッツの眼が、
標準に戻った。

「なんか・・・・口に突っ込まれた酒瓶を割られた時の夢を見た・・・・・」
「アホな事言ってないの。目ぇ覚めた?」

常習犯だった事にエドガイは唖然とした。

「なんか口ん中が痛ぇんだけど・・・怪我だらけなんだけど・・・」
「あんた寝言で早口言葉噛みまくってたからね」
「寝てたのか?俺?」
「えぇ。立ったまま寝返りまでうってたわ」
「器用だな・・・俺・・・」

メッツは釈然としないようだったが、

「てぃ」
「死ね」

いつの間にか居たドジャーとロッキーから、
本気の蹴りを一発ずつもらった。

「なんだよっ!」
「寝言が五月蝿かったから」
「イビキが聞き苦しかったから」

ドジャーとロッキーはツンとそっぽを向いた。
メッツはドレッドヘアーの上に「?」を連続で浮かべるしかなかった。

「おやおや。愉快なことで」

ピルゲンは愉しそうに眺める。

「テメェ、こんな事で俺らがヤレると思ってたのか?」
「まぁ戦況的には大成功だとは思うけどね」
「ぼくの見たところ、効果は長くは持たないと思うよ」

「それはまた継続的にサイレンを鳴らさせればいいだけでございます。それに・・・・」

ピルゲンは、
それこそムカツク笑みを浮かべた。

「その前に、その薬のストックがあるならさっさと用意するべきでございますね」

フラリ・・と、
ピルゲンの前に、
いや、ドジャー達の前に。

皆の中心に、

前髪がカーテンがかった女がノロノロと・・・・

「アー君・・・・アー君・・・・・」

「スミレコっ!?」
「なんで出てきて・・・・」

疑問など無い、
この不振な振る舞い。
明らかに・・・・・

「アー君・・・アー君・・・私のアー君・・・・・」

フラフラと、
半狂乱のスミレコは、
どこも見ていない。

「おいエドガイ!薬をよこせっ!!」
「・・・あらま。サービスばっかじゃ商売あがったりなんだけどねん。
 彼女は仕事相手だからしゃぁーないか。おい、用意してやれ」
「イエッサー。ボス」

傭兵が懐を探る。
その中フラフラと、
スミレコは彷徨っていた。

「アー君・・・アー君・・・アー君・・・助けてあげるから・・・・私の旦那様・・・」

フラりと、
スミレコは、
地に手を着いた。
・・・・否。
ソレを拾い上げた。

「私が命に変えても・・・・アー君を・・・・助けてあげるから・・・・・」

戦闘で散らばっていた、
ドジャーのダガーの一つを。
そして彼女は・・・・・

「アー君♪・・・・・・世界で一番愛してる♪」


その手で、自分の腹部をかっ捌いた。


「馬鹿っ・・・や・・・・」

ドジャーが眼を広げた中、
ヨタヨタと後ろから女が走ってくる。

「スミレコ先輩っ!!」

エールが、
腹から多大に流血するスミレコに駆け寄る。

「そんなっ・・・・本当に・・・・何してるですかっ!」
「うるさいっ!私は・・・アー君を・・・アー君・・・・アー君・・・・」

アハハと嬉しそうに、
スミレコは血だらけのダガーを持ってフラフラする。

「スミレコ・・・先輩・・・すぐ治しますから・・・・」
「・・・・・イイッ・・・・アー君・・・アー君・・・・私の旦那様・・・・」

エールがスミレコの肩を背負い、
無理矢理連れて行く。
酔っ払いより性質の悪い半狂乱の女は、

「アー君・・・・アー君♪・・・・私が一生一緒に居るから・・・・・」

涙を浮かべながら、
笑っていた。

「面白い演劇がみれましたな」

同じ笑いとは思えない。
ヒゲの下の笑み。

「ピルゲンっ・・・・てめぇ・・・・・」

「そんな怖い顔をなさらずに。お門違いでございます。私の所業ではございません。
 私も同じ観客。音楽が気に食わないのならば演奏者に野次を飛ばして戴きたい。
 ・・・・まぁ私としては拍手喝采を贈りたいところでございますがね」

愉しい愉しい一幕が見れたから。
漆黒の紳士は最低に笑った。

「さて、宴に心躍らされたならば参加しない手もないでしょう」

ピルゲンの周りに8本の黒刀が浮かび上がった。
妖刀ホンアモリ。
悪魔の翼のように広がる。

「たまに赤いワインが零れる所を見ないと私も酔えないのでね。
 共に酒を酌み交わしましょう。地獄は両手を開いております」

8本の怪刀がグルグルと回る中、
紳士は丁寧にお辞儀をした。

「ここで今から・・・・だと」
「絶騎将軍2連戦はツラいところだぜ」
「だがなんだか知らねぇがこっちの都合は構わねぇって顔だぜ」

「ディアモンド様は残った貴方がたに興味を示してはおりません故。
 ここで死のうが生きようが、世界とは無縁の事象という事でございます」

剣が1本、
ヒュィとこちらを向き、
突き飛んできた。

「俺ちゃんか」

エドガイは舌を出してそれに応える。

「タコほど剣があるのに俺ちゃんに1本とは強気だねぇい」

エドガイはそれを剣で弾く。
だが持ち主の居ない妖刀は、
弾こうが空中でくるりと回り、エドガイを再度襲う。

「一方的に俺ちゃんの命だけ賭けるってのは気に食わねぇな・・・・」

そんな意志は関係なく、
空中の剣とエドガイはチャンバラを行うしかなかった。

「在庫はございます」

ピルゲンはそれを放っておき、
周りの内、4本の妖刀をドジャー達に向けた。

「ご指名だぜ・・・・」
「剣と戦った場合、決着はどこだ?」
「さぁ。折ったら勝ちじゃないかしら?」
「ホンアモリが破壊出来るとはぼくは思わないけどね」

結論が出る前に、
4本のホンアモリが突き飛んでくる。
1本はドジャーに。
1本はメッツに。
1本はロッキーに。
1本はマリナに。

「剣と鬼ごっことはな。カッ・・・焼きが回った」

ドジャーは避けながら、
頼りないダガーで応戦する。

「イスカがいつか九十九神がどうたらって言ってたわ。
 物に宿う妖怪。99番街と縁があるのかもね」

マリナは妖刀ホンアモリに銃弾を打ち鳴らしたが、
思ったとおり効果が薄くて体を翻した。

「無機物との戦い方。オリオールにもっと教わればよかったよ」

ロッキーはハンマーのバーストウェーブで弾き飛ばす。
・・・・・甲斐も無く、
すぐさま黒刀は翻し、
襲ってくる。

「つまり、あのヒゲを丸刈りにしてやればいいんだろ?」

メッツは片手の斧でホンアモリを吹き飛ばし、
ピルゲン一択で狙いにいく。
だが刀如きに回り込まれ、
妨害される。

「追加はこちらでございますね。オードブルでは満足できないようで」

まだ余りある妖刀ホンアモリの1本を、
エドガイへと飛ばす。

「高評価ありがとさん・・・・クソ喰らえ」

この中では一番実力のあるエドガイ=カイ=ガンマレイ。
彼には剣を2本。

「血は早く見たい。せっかくの舞踏会でございますしね」

いや3本。

「・・・・・釣りはいらねぇっての・・・・」

2本目が追加された時点でエドガイのピークは見えていた。
エドガイは人類だ。
腕は二本。
剣は一本。

「疲れるよん。・・・オーバーワークだ」

3本目が追加された時点で、
限界の集中力が試された。

「俺ちゃんは『ペニーワイズ(小銭稼ぎ)』だぜ。負担させ過ぎ」

軽い言葉と裏腹に、
瞬きの回数さえ制限される。
極限の集中力。

それはいつまで保てばいい。
どこで終りだ。

「メッツ!俺のも頼むっ!」
「あぁ!?」

ドジャーが応戦しながら、
メッツへと駆け走る。

「まるでノレンに腕押しだ!火力のあるテメェでイチかバチかだ」
「納得いかねぇが好きな言葉だ」

ドジャーがメッツの肩に飛び乗り、
追い越す。
ドジャーを襲う剣。
メッツを襲う剣。

2本のホンアモリがメッツを目掛けた。

「ちょーしこいてんじゃねぇぞコラァ!!!」

ピルゲンの集中力はどこにある?
目は2個。
脳は1個だ。
エドガイに分散されていたならそれは好機だった。

「でぇりゃぁああ!!!」

メッツの両豪腕で振り下ろされた2本の斧は、
妖刀を一本ずつ、
地面に叩き付けた。

「ゴキブリを捕まえた心境だぜ」

ホンアモリは、
斧の重量で地面に貼り付けにされた。

「いいぜメッツ!」
「どーすんだコラ!見た目と裏腹に力がデケェんだよコレ!」

メッツだからこそ押さえつける事が出来ている状況だった。

「おや、面白くない。つまらない事で私が過小に評価されそうだ」

ホンアモリは2本、
黒い渦の中に消えた。

「ダンスのペアは幾重にもあります。地獄の螺旋のように。ね」

ピルゲンの傍らで黒刀が2本、
再生する。

「無限かよ・・・・」
「いやメッツ。最高だ。メモっとけ」
「あ?何を?」
「気付けなきゃアレックスの会話についていけねぇぞ」

アレックス。
ダサい事に今更思い出した。

「ギルヴァングを倒しちまった・・・・アインハルトの元に連れてく約束どうなったんだ」
「んな事言ってる場合かよっ!」
「・・・・チッ・・・他の道はスミレコに任せてたが・・・」

あの様子じゃ・・・・
ツヴァイと連絡がどうこうなど夢の夢だろう。
ギルヴァングの時とは違う。
今、
ピルゲンは倒すべき相手じゃない。
どうにか撒くべき相手だ。
・・・・・どうやって。

「メッツ!私のも!」
「ぼくのも!」

マリナとロッキーが他人任せに走ってきた。
剣を引き連れて。

「馬鹿野郎!俺の腕の本数数えれねぇのか!」

ドジャーとメッツ用のホンアモリも突き飛んで来ている。

「ロッキー君!メッツの後ろに隠れるのよ!」
「分かった!」
「分からねぇ!俺はオトリかよっ!」
「いや、捨て駒だ」
「見捨てないで!!」

状況はよくもなっていないが悪くもなっていない。
剣1本ずつ如きで必死。
というか成す術もない。
その程度だ。

それは《MD》の4人の話だが、

「俺ちゃん的にはギルのがまだ可愛げがあったよん・・・・」

無駄を省いた動き。
洗練された剣。
3本の剣はエドガイを極地に追い込んでいた。

「戦いと、殺しの違いって奴かね。シンド・・・。
 仕事がしたいだけの俺ちゃんは涙目の状況だぜ」

相手を追い詰める事など絶対出来ない状況下、
エドガイは0.5秒・・・・
ホンアモリを1本見失った。

「しまっ・・・・」

背中に剣先を感じた。

「こんなにアッサリと話のついで見てぇに死んでたまるかっ!」
「その通りです。ボス」

振り向けば、
身代わりになるように、
傭兵が串刺しになっていた。

「次の仕事があるじゃないですか。朝は早いですよ?」
「おま・・・・・」

「おや、眼中に無さ過ぎて気付きませんでした」

エドガイの身代わりとなって、
あまりにアッサリと串刺しになった傭兵が、
血を垂らす口で話す。

「ロイ=ハンター。ソル=ワーク。マグナ=オペラ。ルナ=シーダーク。
 先ほど仕事の最中に死を全うしました。そして私、ノヴァ=エラも・・・」

血を吐き捨てながら、
傭兵は笑った。

「それがなんだというのです。仕事に支障はありません。
 クリア・・・・クリアクリアクリアクリア!異常は無いっ!」

「邪魔でございます。貴方の血に興味はありません」

1本は体を貫き、
残りの2本。
いや、
ドジャー達を襲っていた4本をも彼一人に突き飛んだ。

7本の刃は、
彼を串刺しにした。

「・・・・・馬鹿野郎。特別報酬なんてやらねぇぞ」
「サー、イエッサーボス。地獄で来月の給料明細楽しみにしてます」

7本の妖刀は、
傭兵をものの見事に切り刻んだ。
血の華が咲いた。
美しいという感想は、部下に与えるとする。

「ピルゲン・・・・あんま調子に乗るなよっ!!」

エドガイは、
剣を、
銃をピルゲンに向けた。

「今だやれっ!」
「分かってるわよっ!」

ドジャー達とて、
ピルゲンの私情の隙を逃さない。

「おやおや。久方の私事の愉しみなのです。もっと宴を盛り上げましょうよ。
 ダンスはアドリブでやるものではないように、勝敗は決しているからこそ頼もしい」

妖刀達は黒い渦と共に消え、
そして、
ピルゲンの周囲に8本。
また結集した。

「釣りはいらねぇ!!!」
「蜂の巣になりなさいっ!!!」

マリナの弾丸が乱射され、
エドガイの斬撃が連射され、

「ハッハ。安酒は悪酔いするものでございます。月のように青白く。
 私が見たいのは赤い華。その程度で血肉をお払いするわけにはいきません」

ピルゲンの周りで8本の妖刀が回転し、
それらを全て弾き飛ばす。
回転する黒き剣に守られし、
漆黒の紳士。

「隙間を狙え可愛い子ちゃん!」
「どこに隙間があんのよっ!」
「いいから叩き込むんだよっ!」

ギターと剣。
銃で無きものを撃ちならす。
それはピルゲンの肉体に届かず。

「『Queen B』貴方殿の恩者、シャーク殿は実にくだらん魔物でございました」

「黙れっ!シャークの名前を口にしないでっ!」

「肩を寄せれば、デムピアスをディアモンド様の土産ものに出来たというのに。
 魔物の王は、やはり三騎士やノカン将軍程度では代用は効かぬ故」

「パパ達を馬鹿にするなっ!!ノカンは嫌いだけど好敵手だった!」

大地から小火山が幾多と生える。
ロッキーのブレイブラーヴァが、
火球を弾幕に追加した。

それも届かない。

「エドガイ殿。『ビッグパパ』なる者、この戦場で出会えるとお思いでございますか?
 否、"サクラ"がそれを阻みましょう。傭兵は所詮飼い犬。食い争えばいい」

その前にここで朽ちるも一興でございますが。
弾幕の中、
傷一つなくお辞儀する。

「金にならねぇ情報だなっ!」

「ほぉ、ならば『竜斬り』の情報などはどうでございましょう」

「・・・・・・確かに親父ならドラゴンぐらい真っ二つに両替しちまうだろうがな!」

「義理の父の他の呼称を知らぬというのも、さながら夢のように愚かしいですな。
 まぁそこいらの情報は、貴方殿よりメッツ殿に関係があるやもしれませんが」

「俺?はんっ・・・思い当たらねぇな。馬鹿なもんでよぉ」

「フフッ、それと・・・・」

エドガイ、マリナ、ロッキーの弾幕の中、
全て妖刀に守られながら、
ピルゲンの目は、
ドジャーに向けられた。

「貴殿はどなたでございましたかな?」

ピルゲンは笑った。
分かっているクセに・・・・
アインハルトの真似をして愚弄する。
愉しそうに。

「カッ・・・・てめぇのヒゲ・・・いつか鼻ごと刈りとってやる」

「"いつか"などございません」

マリナも、
ロッキーも、
エドガイも、
攻撃を止めた。

「おや、お疲れでございますか?」

何をしても無駄だから。
何も通用しない、
平気で余裕に人をあざけ笑う、
闇のように不確かな紳士。

「5対1でも私如きに軽くあしらわれる。ディアモンド様に敵うはずもございません。
 そろそろやっとお気づきになられたらどうです。"絶対"には、絶対に敵うはずがないと」

肩で息をした。
ギルヴァングのように効かないのでなく、
届かない。
通用しない、その実力差。

「話を戻しましょう。いつか・・・などございません。ここで閉幕でございますから」

ピルゲンの実力はどこにある。
どこまで届けばいい。

絶騎将軍(ジャガーノート)

ギルヴァングに勝ったのは奴のプライドからの甘さか?
なら躊躇の無い燻(XO)には通用するのか?
ツヴァイが居なければジャンヌダルキエルに勝てなかった。
それなのに最強を欲しいままにするロウマには届くのか?

最初から最後まで絶対の帝王の傍らを約束されている、
ピルゲン=ブラフォードを倒すにはどこまで行けばいい?

「天(アスガルド)は落ち、地(ミッドガルド)もまた目前。
 神をも超えてしまえば、それは宗教にも近いのかもしれませんな。
 つまり、全てのモノがたった一つ、1(アイン)に集う」

気付けば、
ドジャー達は囲まれていた。

「カッ・・・・思ったより効果は長ぇみてぇだな・・・」
「どうすんだよドジャー」
「この人達には攻撃していいの?」

それは反乱軍。
コンフュージョンにかかった、
狂乱者達。

視点の定まらない目で、
ドジャー達を取り囲む。

「世界が終わる最後の反乱者達の中心。それはあなた方だと敬意を払ってございます」

ピルゲンは深々とお辞儀した。
反乱軍の中心。

「ツヴァイ殿は既に終わっておいでなのでね」

ヒゲの下の穴が笑う。

「やっぱしくじったか・・・ツヴァイ」
「つー事は確かに、ここに居るメンツが最後だ」
「イスカも使い物にならないしね」

ドジャー、
メッツ、
マリナ、
ロッキー、
エドガイ。

気付けば、
もう反乱軍はこれで打ち止め。

「ロウマ殿も堕ちた」

ピルゲンは続ける。

「縋(すが)るべき、"偽の絶対"も死んだ」

尚、続ける。

「共に戦う同士もこの有様でございます」

頭を下げたまま、
笑いながら、
続ける。

「切り札はもうございません」

無い。
事実無い。

「いえ、切り終わったカードが、ここに5枚。それで閉幕。
 私は忠誠を誓ったディアモンド様のため、幕を下ろす役目を頂戴しに参じたのですよ。
 その役目、ロウマ殿や小娘、燻(XO)殿にとられたくないのでね」

本気だ。
今まで傍観者のようにあざけ笑ってきたこの男は、
終りを奏でにここに来た。
チェックメイトをするために、
駒として。

「終焉でございます」

切り札はもう無い。
終り。

ピルゲンは8本を動かした。
そうすれば、
抗う術はなかった。

終り。
終焉。
チェックメイト。


「チェックメイトはゲームセットじゃありませんけどね」


突如、
ピルゲンの直下に、
炎が膨れ上がった。

「ぬ!?」

闇に紛れたのだろう。
炎の中に紳士は居なく、
別の地点にて闇から現れた。

「・・・・ほぉ・・・・」

それでもピルゲンは避け切れなかったのだろう。
衣類はススだらけで、
体は黒ずんでいる。

「これは・・・また」

ピルゲンは顔をしかめた。
それでも余裕を崩したくないのか、
ヒゲを整える動作でごまかした。

「何故・・・・と問いたいところでございますが・・・・」

「あいにく、地獄は満員でした。でも、」

騎士は、
槍を担いで笑った。

「仲間の不甲斐ないところを見ていちゃぁ、英雄(しゅじんこう)として、
 おちおち死んでもいられない・・・・ってとこですか」

「ふん・・・・・まるでウォッカのように癖の無い・・・曲者(くせもの)でございますね」

「納得いかないならオレンジジュースを混ぜといてください」

それが、
『カクテル・ナイト』だ。

「アレックス!?おま・・・どうやって!?」
「あまりに似合いすぎるセリフですね。小者臭が漂ってイイ感じですよ?」
「てめ!ぶっ殺!・・・いやなんで生き・・・・」
「後にしてください」

アレックスは、
槍を地面に突き刺した。

「今、ちょっと機嫌がいいんで」

あまり機嫌がいいようには見えない表情で、
アレックスは槍を地面に突き刺した。

「イソニアメモリー・・・・オーラランス」

地面に魔方陣が現れ、
そして槍を引き抜けば、
蒼白い炎が、槍を覆う。

「ピルゲンさん。吉報ですよ。アレックス=オーランドが生き返った。
 どうぞさっさと騎士団長に報告でもしに行ってください。
 これが本当の冥土の土産・・・・って奴です。さぞ喜んでもらえる自信があります」

「ふん」

ピルゲンは闇に塗れていく。

「大団円には少し早すぎた・・・という事でしょうか。
 ですがディアモンド様の余興と、終幕が少し延びただけ」

「あまりに似合いすぎる捨てゼリフですね。小者臭が漂ってイイ感じですよ?」

「ほざけ、若造が」

言葉と裏腹に、
丁寧にお辞儀をし、
ピルゲンは闇に包まれて消えた。

「・・・・・ふぅ・・・」

ピルゲンの姿が消えると一息付き、
アレックスは槍を下ろした。
蒼白いオーラもボゥ・・・と消えた。

「危ない危ない。強気にいって良かった。戦闘になったら即行で黄泉帰りになるとこでした」

いつも通りの冗談を言うアレックスだが、
笑みは見られなかった。

「いや!お前!アレックス!」
「ア〜〜レックス〜〜〜♪」

ドジャーの言葉をかき消すように、
ロッキーが走ってアレックスに抱きついた。

「よかったみたいだね!」
「お久しぶりですねロッキーさん。相変わらずですね」
「今のロッキー君の姿を見てそんな返答出来るのあんたくらいよ」

マリナは呆れた。

「そうですか?ちゃんとビックリしてますよ?ロッキーさんって呼びましたし」
「あんたは飼い犬が豚に変わってもあんまり動揺しなさそうね」
「そうですね。晩御飯のメニューが変わるくらいです」

相変わらずなのは、
むしろアレックスの方だった。

「それよりエドガイさん」
「やってるよ可愛い子ちゃん」

エドガイは片目しか見えないのにウィンクして返事した。
WISオーブで何やら通信している。
アレックスが頼もうとしたのは辺りの鎮火だ。
近場のコンフュージョンにかかっている者達は、
とりあえず応急処置的に傭兵達がなんとかしてくれるだろう。

「で、どうなってんだ?アレックス」

タイミングを逃したドジャーに変わって、
メッツが先に聞いてしまった。

「・・・・・・・」

アレックスの表情が濁る。
あまり・・・
答えたくない。
答え辛い・・・・。
そう見えた。

「それでも言えよ」

ドジャーが言及する。

「結果だけじゃ満足できませんか?」
「出来ねぇな。出来るわけねぇだろ」

それは皆同じようだった。
何せ、
修復不能なほどの死骸だった。
死体だった。
内臓は潰れ、
どうしようもないほど体が大きく損傷していた。

「俺ちゃんの仕事には不備はなかった気がしたけどねん♪」

アレックスの体をかっ捌いた張本人が、
指示を終えてアレックスに歩み寄った。

「俺ちゃん自信無くしちゃうよん?」

とか言いながら、
エドガイはアレックスの股下を鷲掴みにした。

「おおぅ。ちゃんと生きてるねぇ」
「どこで判断してるんですか・・・」
「いやいやまだまだ判断ついてないぜ。なんで生きてんの?ってことで・・・
 どーよ?それを調べるためにこれから俺ちゃんと医療台の上でデートってのは。
 もちろん、お布団は暖かくしとくからさ。痛いことしねぇからさ♪」
「遠慮しときます。手術が終わったばかりなんで」

アレックスは無理矢理エドガイを引き剥がす。
手術・・・・。
そんな冗談にならないほどアレックスの体は分断されていたが、
今はそんな気配がない。
塞がっている。

「いや、塞ぐ事は出来ても・・・」

取り返しのつかない損傷だったはずだ。
見た目のよくないアレックスの衣類と、
ついたままの血糊がそれを物語っている。

「ありえないって事は・・・答えは簡単だ。さては偽者だな」

メッツが名探偵になった。

「さすがメッツさんは頭が切れますね。細切れです」
「・・・・・・このムカツく感じは本物だな」

自分の推理を却下するはめになった。

「あぁ偽者じゃねぇ。カッ・・・だが俺に何回質問させれば済む。答えろごく潰し」

問い詰めるドジャーだが、
アレックスが生きていることに、
少し喜びが表情に出ていた。

反対に、
アレックスはやはり・・・芳しくない表情だった。

「助けてもらったんですよ」

それは・・・・
願っていない・・・
求めていない・・・
ありがた迷惑のような口調で。

「引き換えに・・・・ね」

アレックスの目線の先。
少し泳いでいたが、
それでもソレは分かった。

「僕は・・・また罪を犯しました・・・・・」

そこには、
あるはずのモノが、
アレックスを守るために包み込んでいたものが、
消え去っていて、

一人の聖職者が呆然と座り込んでいただけで、

あとは、
アレックスが横たわっていた場所に、

同じ姿で横たわっている・・・・・・・スミレコ=コジョウインだけだった。






































時計の針を少し遡(さかのぼ)った。
時を、
遡らざるを得なかった。

「アー君・・・・アー君・・・・私のアー君・・・・」

半狂乱のスミレコは、
エールの肩で、
ただただ呟いていた。

「意識を正しくもってくださいスミレコ先輩・・・・
 私は死骸だからいいですけど・・・・スミレコ先輩にはすぐにディスペルをかけますから」

ただ、
戻るとスミレコは、

「いらない」

エールを突き飛ばした。

「う・・い?」
「コンフュージョンなんてかかってないわ・・・・」

スミレコはそんな言葉の説得力さえ無い挙動で、
地を這うように、
アレックスの死骸に寄り添った。

「アー君・・・アー君・・・・私はただ・・・決心が付かなかっただけ・・・・
 ずっと・・・ずっと・・・・。だから、思い込んだだけ・・・決心がつかなかったから・・・。
 コンフュージョンのせいにすれば、踏み出せると思ったから・・・・」

いい訳に過ぎなかった。
自分の意志を誤魔化すための、
恐怖を誤魔化すための、
覚悟の無さを、
誤魔化すための。

「けど・・・大丈夫・・・もう大丈夫なの・・・」

スミレコは、
魚屋の失敗作よりも酷いアレックスの亡骸に抱きつく。

「ツヴァイとか・・・あの害虫とか・・・・あの傭兵達とか・・・
 あんなのに期待する必要なんて無かったの・・・
 だって・・・世界でアー君を救えるのも・・・愛せるのも・・・私だけなんだから・・・」

助けるのは、
私だ。
スミレコは、
泣いた。

「私にはアー君しか見えない・・・それ以外なんて見えない・・・嗚呼・・・私の旦那様・・・
 ただアー君に愛してもらいたかった・・・・アー君にメチャメチャにされたかったし、
 罵倒されたかったし・・・・それで・・・・いつか本心で愛してると言って欲しかった・・・・」

スミレコは、
自分に体に刺さっていたダガーを、
抜いた。

血が、
栓の枷から外れたように噴出した。

「エール。あなたが居てよかった。あなたが"蘇生者"よ」
「・・・・スミレコ先輩?」
「アー君・・・アー君・・・アー君アー君アー君アー君・・・・・」

スミレコは、
血まみれのダガーを、
もう一度握りなおす。

「貴方が死ぬなら私も死ぬ。私が死ぬなら貴方も死ぬ・・・。
 死が二人を別つまで・・・・私達は結ばれ続けるの・・・・愛し合ってるんだから・・・
 赤い糸で雁字搦めなんだから・・・・もう解(ほど)けたりは・・・しない・・・・」

アレックスの死骸の上で、
スミレコはダガーを振り上げた。

「アー君・・・アー君!私のアー君!アー君は私が・・・・・」

助ける。

そう叫んで、
スミレコはダガーを、
自分の胸に突き刺した。

「ああ・・・ああああああああああああ!!!」

カーテンのような前髪の下から、
絶叫がこだました。

「あああああああ・・・君・・・アー君!私の!私の!愛しい人っ!!」

スミレコは、
自分に突き刺したダガーに、
さらに力を込めた。

「アー君アー君アー君アー君っ!!貴方も私の事が愛しい!そう・・・だよねっ!!」

自分の体を、
刃物で深く、切り開き始める。

「アー君っ!アーぐんっ!あー・・・嗚呼・・・ああぁぁあああ!!!」

風船を割ったように血が落ちる。
噴出すのでなく、
かき開かれた体からドバドバ流血する。

「わたしの・・・・旦那様っ!私が・・・・私が助けるっ!」

前髪のカーテンの下は、
涙が混じっていた。
痛みだけで落ちた雫でない事は確かだった。

「世界で一番愛してる!だからあなたも私を世界で一番愛してるっ!」

エールは見ていられなかった。
スミレコの名前をただ連呼するしか出来なかった。

スミレコの体は、
自らの手で、

解体された。

「アー君・・・・アー君・・・・・・・アー君・・・・」

顔面に血の色が無く、
脱色の原因は口からも流れ落ち、
胸から腹にかけて、
中身を全て露出した。

「アー君・・・・私の・・・・アー君・・・・・・・」

カランッ・・・とダガーが落ちる。
前髪のカーテンの下、
スミレコが嬉しそうに笑っているのは不気味に見えた。

「お揃い・・・お揃いだよアー君・・・・・」

病んだ彼女は、
あまりに嬉しそうだった。

「アー君・・・アー君・・・あぁ・・・・ああああああああああああ!!!」

どんな精神力が、
彼女をさらに下の極地に堪えうる力を与えるのか。

「ああああああ・・・ひぃ・・・・ひあああああああああああああ!!!」

彼女は、
自らの体に、
両手を突っ込む。

「ひぎゃああああああ!ああああ!ああああくうううううん!」

自ら、
自らの内臓を、
掴み、
引っ張り、
千切り、

「あぁ君!ああぁああああ君!!あぁあああああああくううううぅぅぅん!」

心臓をも自ら掴み、
愛する人への、
餞(はなむけ)にと、
純粋な乙女のプレゼントだと・・・・

「あぁ・・・・・・君・・・・・・・」

行動を理解したエールが急いで駆け寄る。
スミレコはもう、
力の全てを使い果たし、
アレックスの死骸に覆いかぶさるように、
倒れた。

「愛しの・・・・アー・・・君・・・・・・」

私の、
旦那様。








アレックスが目を覚ました時、
視界には、
スミレコしかなかった。

「・・・・・・・・・・?」

どうやって、
何故自分が目覚めたのか。

そんな疑問を全てかっさらったのは、
自分の中に侵入してきている、
彼女の舌と、
重なった唇と、
干からびた涙混じりの彼女の目だった。

「ア・・・・・・・・・・・・・君・・・・・・」

ゴトンっ・・・と、
スミレコはアレックスの上から転げ落ちた。

「もう・・・・・一生・・・・・・・・離さない・・・・・・・・・・・・」

それが最後の言葉だった。

何がなんだかわからなくて、
体を起こせば、
あるはずの傷は塞がっていて、
自分の体は正常に機能していて、

転がっているスミレコの切り開かれた体の中身は、

カラッポだった。


































「代償は・・・・スミレコさんが払ったんです」

アレックスは、
自分の体を摩(さす)る。

「今、僕の中で動いているのは・・・・スミレコさんのものです・・・・」

失ったものは、
全て、
彼女が埋め合わせた。

「こんな形は・・・・望んでなかった・・・・」

アレックスは、
片手で顔を覆った。

「でもこんな展開にしたのは僕です・・・・でも・・・でも・・・・」

自分で、
自分の体を引き裂くのは、
どんな感じなんだろうか。
自分で、
自分の体を引き千切るのは、
どんな感じなんだろうか。

彼女は、
そうした。

「また僕は・・・・人を犠牲にして生き延びてしまった・・・・」

偽善。
偽善者。
そう呼ばれて当然だ。

「僕は・・・僕は・・・・」

アレックスは、
拳を握り締めた。
ぶつけようのない感情。
表現しようのない感情。

「アレックス。これが結果だ。自分を責めるな。・・・・・終わった事なんだよ」

冷たく、
ドジャーは言った。
だからといってアレックスはドジャーを睨む事なんて出来ない。
自分なんかが。

「終わっただなんて・・・そんな言い方・・・・」
「納得いかねぇっつーなら、一つ道はある」

ドジャーは拳を、
アレックスの腹に当てた。

「この体をまたスミレコに返せばいい」

スミレコがアレックスにしたように、
アレックスが同じ事を。

だけど、

「分かったろ?お前の偽善でそれを行ったとしても、
 あの馬鹿ストーカー女はまた同じ事する。お前のために」

だから、
この話はこれで終結せざるを得ない。
終わった事でしか・・・無い。

取り返しはつかない。

「本当に・・・困るんですよ・・・僕はいつも心を貰ってばかりだ・・・・
 僕のスミレコさんへの気持ちなんて・・・・嘘なのに・・・
 好きだなんて・・・利用するための戯言でしかなかったのに・・・・」

彼女は、
本気で返してきた。
何一つ疑わずに。

「カッ・・・・たいした奴だったよあいつは。最強のストーカー女だ」

ドジャーはもう一度、
アレックスの腹を叩いた。

「一生付きまとってくるつもりだぜ?」

ドジャーは笑った。
本当に・・・確かに・・・
完全なストーカーだ。

「ハハッ・・・逃がしてくれそうにないです」

もう、
一生離さないから。

「うぉ〜〜い!お〜いおいおいおい・・・」

音だけでは誰にも伝わらない、
説明が必要な泣き声を、
メッツがあげた。

「いい話だなぁオイ・・・俺そーいうの弱いんだ・・・・」
「い・・・いい話ではないだろ・・・」
「いやいや、可愛くなさすぎ子ちゃんの言う通りだ」

酷い呼称で、
エドガイは言った。

「全部哀しみにしてしょいこんでちゃぁ、浮かばれねぇってもんだよん?
 可愛い子ちゃんは自分の望んだ行動をしたんだぜ。
 それに俺ちゃんらを見てみろって。その点分かってりゃスッキリしたもんだろ?」

エドガイは仲間の死にもクールな男だ。
・・・・・というわけでもないのを、
アレックスもドジャーも分かってはいるが、
口には出さないでおいた。

「確かに、あの人が死んで、アレックスまで不幸になってじゃ駄目だよね」

ロッキーは微笑んだ。

「大切な人を失ってってるのは一緒。だから忘れて・・とまではマリナさんとて言わないけどね」
「あぁ、次が迫ってる」
「忘れちゃいけないし、背負わないといけないけど、引きずっちゃ駄目なんだよ」

そうかな?
そうかもしれない。
でも彼女は僕の重荷にさえ成りたいかもしれない。
それぐらい軽くない愛情だった。
でも・・・・。

「そうですね」

近いうちに謝りに行けるだろうし。
せっかくの重荷だ。
磨り減っちゃわないように、
だから引き摺らないように。
背負っていこう。

「で、どうするよ英雄さん」

ドジャーが聞いてくる。
御馴染みの質問だ。

「そうですね。僕はまず状況把握に努めたいところですけど」
「まずはコンフュージョンをどうするかだね」
「それにしても発動者を見つけないとイタチごっこだねぃ」
「あとこれからどう攻めるかも、よ」
「相手は次、どう出てくんだろな」
「じゃぁとりあえずミルウォーキーさんにアポとっときます。
 それで把握した情報から、僕がこれからの作戦を立てます。
 皆さんじゃ知恵を振り絞ってもたかが知れてますしね」

今日も一言多めの言葉は出る。
平気なフリぐらいはいつも通り出来る。
偽善者になるのは慣れてるから。

「カッ、仕切りてぇか?」

いや、仕切るしかない。

「恐らくここからは個人戦だけじゃ済まないんです。
 騎士団の得意な団体戦に付き合わなければならなくなります」

そうなれば、
向こうの軍師はディエゴ=パドレス。

「なら、僕の出番ですから」

駒は圧倒的に足りないし、
戦況は全てにおいて不利だが、

「噛み付くのは得意ですから」
「・・・・カカカッ!期待してんぜ。そのまま残さず食っちまうのがテメェの売りだ」

やってやろうじゃないですか。
もう、
どれだけ背負ったっていい。

次に肩の荷を下ろすのは・・・・・死ぬときだ。

「おいっ!!!」

メッツが叫んだ。

「アレ見ろっ!」

アレックスには、それを見ても不明としか言い様が無かったが、
他の者達にとっては、
それは停止するに十分な光景だったのだろう。

地面から、
黒い、
岩のような・・・・手が生えていた。

「ウソだろ・・・・」
「冗談じゃないわ・・・・」

地面から生えた手。

異様にも見えるが、
ただそれだけに圧倒的存在感がある。

それを中心に、
地面がパキパキと割れ始めた。

そして、

「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアアア!!!」

野獣が、
瓦礫と共に地の下から飛び出した。

「ギャハハハハハッ!!!!」

猛獣は、
ドジャー達の前に、
降り立った。

「マジ・・・かよ」

野獣と見分けがつくのは、
なんとかその獰猛なシルエットからだけだった。

肌は黒炭のようになっていて、
乾ききってヒビ割れている。
黒炭の塊が動いているといっても良かった。

「変わり果てちゃぁいるが・・・」
「ギ・・・ギルヴァング・・・・」
「あの溶岩から・・・生還したっつーのか・・・・」

一色で表現出来るほど、
焼け切り、
溶け切り、
終わりきった姿だったが、
ギルヴァング=ギャラクティカは、ここに立っている。

「ふざけんなっ!ふざけんなよっ!」
「一件落着ってとこだったのにっ!」

皆、
武器を各々に構える。

ピリオドを打つには、
まだ早かった事を知って、
小さな絶望を感じた。

「どんだけ頑丈なんだろ・・・」
「全員で叩き込むぞ!虫の息なのに変わりはねぇはずだっ!!」

「良かったぜ・・・・俺様・・・・熱く燃え尽きた」

ギルヴァングは、
炭になった歯をニッと見せながら、
豪快に笑った。

「おめぇら・・・・・・」

黒炭と化している野獣は、
動くだけで炭カスの落ちる乾いた体で、
腕を上げた。
こちらを、
指差した。

「漢だったぜ」

そして、

いい終わると共に、

その体は崩れ落ちた。

バリバリとヒビ入り、砕けて。
老朽化した銅像のように。
炭の体が砕け散った。

猛獣の形を成していた破片が、
地面で粉々の黒い灰になり、
砂山のように積まれた。

風が、
それを吹き流すほどに砕け散って。
消え去った。

「・・・・・・・」

突然の出来事と、
終りに、
皆、武器を持ったままあっけにとられていたが、

「・・・・・マジでビビった・・・・」
「さも有り得ねぇってのが・・・・・」

へなへなと体の力が抜けていく。

「ほんと・・・勘弁してくれよ・・・・」

ドジャーなんかはもう地面に寝転がるほどの気の抜けようだった。
皆同じような感じだった。

アレックスの知らないところで、
話は一つ、終了させていてくれたらしい。
頼もしい限りだ。

「あぁ、そういやアレックス」

ドジャーは、
脱力して寝転がったまま、
顔だけアレックスに向けた。

「いい忘れてた」
「なんですか?」
「おかえり」

したり顔でドジャーが見てきた。
そうくるか。
アレックスは顔をしかめ、

「ただいま」

と答えた。
自分に笑顔が戻っていたことにも気付いた。

「またよろしくお願いします」

そうか。
とりあえずはこの偽善で進もうと思う。
だから、
スミレコに対して「さようなら」とは言わなかった。
消臭剤の必要な意味を使うなら、
彼女は自分の中で生きている。

内臓として・・・なんていうと生々しいからロマンティックでもないけど。

「あなたのハート、戴きました・・・・なんて、笑えないか」

背負っていくものがまた一つ増えた。
死ぬわけにいかない理由も。
だから、

アレックスは次の戦場を見据えた。

「愛してるっていうのは嘘っぱちでしたけど、好きなのは本当でしたよ」

彼女の心臓が、
嬉しそうに鼓動したのが分かった。





                 






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