"人は何故戦う"


なんて古臭くて、
なんて既に考えつくされたキーワードなんだろう。

でも、
全てには理由がある。

"なんとなく"でさえ理由の一つだ。

金のため。
愛のため。
誇りのため。
正義のため。
平和のため。
ヒマを潰すため。
たんに好きだから。
皆がやってるから。

理由は千差万別だろう。

だがたった二つに分けられるはずだ。

人は何故戦う。
それは・・・・

何かを手に入れるためか、
何かを守るためか。

そのどちらかだ。

いいや、
その二つさえ突き詰めれば結局同じ事なのかもしれないが、

"俺達"は後者だった。


守るため。



それだけが戦う理由だった。


































「〜〜ヒュゥ♪・・・・・・赤組前へ!!!一歩だけな!」

デカい。
とにかくデカい。
世界で一番デカいだろうドア。
ルアス城。
その外門。
その聳え立つ姿は、
地獄でさえお目にかかれないだろう、最強最大の防壁。

「構え!」

その真下。
外門を守る、100にも及ぶ騎士。
それが・・・・

一列に並んでいる。

「ヒュゥ♪!いいぜ!そのままレッド(止まれ)だ!」

外門の真下。
一列に並ぶ、100の騎士。
彼らは、その手に持つたった一つの武具を・・・・・・・微動だにしない。
そう、
彼ら100人の騎士が持つ武具はたった一つ。

長方形の鋼鉄で出来た盾。
アイアンウォール。

「赤き壁!ヒュゥ♪いいね!そうだ!それが俺達の仕事だ!」

立ち並ぶ。
まるで壁。
長方形の鋼鉄が、
100の騎士の手により整列する。

"外門の前の外壁"

「いいぜ。赤組。そうだ。これがデッドなベッド。レッドラインだ!」

赤き宝石のアメットを被った男。
名をヒューゴ。
第21番 門番部隊・赤組 『赤鬼』 ヒューゴ=シグナル

「ち・・・またこれか」
「・・・・・どうするエイアグ」
「・・・・・・」

ルアス城入り口。
その大いなる広場。
立ち聳える外門。
その真下に立ち並ぶ鋼鉄の肉壁。

「あれを超えねぇ限り突破は無理だぜ?」
「・・・・笑止。分かりきった事だ」
「・・・・さて、どうするか」

アジェトロ。
フサム。
そしてエイアグ。
三つ同時に生まれてしまったとも称されるモンスター界の生きた伝説。
カプリコ三騎士。

その三騎士は、
この外門で攻めあぐねていた。

「応応!だぁからよぉ!フサム!エイアグ!俺ぁ壁登った方が早ぇっつったんだ!」
「・・・・笑止。我らだけの突破が目的ではないぞアジェトロ」
「その通り。参ってるのはこの外門を突破しなければならないという点」

先じて到着した三騎士。
それは、
反乱軍の外門突破を手助けするため。

「だがどうするよあの防壁」
「うむ。一つ気になったことがある」

エイアグが、
深刻な顔つきで、

「さっきコロラドのオムツちゃんと替えただろうか」
「知るか!」
「エイアグ・・・・ふざけているのか?」
「ふざけている?ふん。これ以上の問題があるか。我が愛息子の股間が危ぶまれている」
「・・・・応応・・・おまえの頭が一番ふざけてるな・・・・」
「・・・・・笑止。おまえの頭以上の問題はない」

突破できていない状況というのに、
幾分余裕があるようにも見えた。

「ヒュゥ♪そんな事で三騎士が務まるのかい?俺の部隊を突破できねぇようでよぉ」

赤き宝石のアメットをかぶった騎士。
ヒューゴが笑う。

「チッ、人間如きを頭にのせてるぜ」
「・・・・・承知。辛抱たまらんな」
「駄目もとだ。もう一度行くぞ」

エイアグが、
その自分の体ほどあるヤモンクソードを構える。

「参る!」
「応!」
「・・・・承知」

エイアグに続き、
アジェトロとフサムも構え、
そして、
3つの伝説が同時の飛び出す。

「一点突破だ」
「応!」
「・・・・承知」

伝説にしては小さすぎる彼らの体が、
立ち並ぶ鋼鉄の防御のど真ん中へ突っ込む。

「ヒュゥ♪」

部隊長ヒューゴはアメットの下で笑う。

「赤は停止の色。明らかなる失格・落第の色。赤は止まれだ!分かってねぇな!」

ヒューゴの威勢とは裏腹に、
彼の部隊。
第21番 門番部隊・赤組が100人は、
一切動かない。
まるで本当の壁の如く、
鋼鉄の長方形。
アイアンウォールを隙間なく並べたまま、

外門を守る。

「らぁ!」
「てぃ!」
「・・・・斬」

3つの伝説の、
3つのヤモンクソード。
その巨大な剣が、
小さな体狭しと回転する。

「・・・・・」
「チッ!」

だが、
"守るだけ"の彼らにそれは通じない。
何一つ考慮しない。
攻めない。
守るためだけの盾。
アイアンウォールに叩き付けた剣は、

壁を壊せない。

「・・・・チッ」
「俺達の剣で・・・」
「斬れないものがあるとはな」

3つの伝説は、
少し押し返した程度に、
盾に剣をぶつけたまま。
そのまま斬り飛ばせない。

壁は動かない。

「・・・・ヒュゥ♪・・・・赤は止まれだっつったろ?そして・・・・・ヒョウガ!」
「ウッヒョーー!分かってるって!!」

赤き宝石のアメットをかぶった騎士。
ヒューゴの横に居た男がうって変わって叫ぶ。

「青組前へ!一歩だけだ!!」

青き宝石のアメットをかぶった男。
名をヒョウガ。
第22番 門番部隊・青組 ヒョウガ=シグナル。

「構え!!」

鋼鉄の盾を持ち、立ち並ぶ100の騎士。
その後ろ。

二段構え。

守るだけの100の壁騎士の真後ろに、
攻めるだけの100の騎士。

二段構えの100の騎士は、
槍を片手に・・・・

「ウヒョー!!やっちまえ!!!」

盾の後ろから一斉に槍を突き出す。

「・・・・応応!」
「またこれか・・・」
「下がれ!」

まるで、
壁から突き出した剣山。
100の盾の後ろから、
100の槍。

「・・・・ったくよぉ」
「参るな」
「・・・・承知」

三騎士はまた後方へ下がるしかなかった。

「ヒュゥ♪いいねぇヒョウガ」
「ウッヒョー!いいだろヒューゴ!」

赤組ヒューゴ率いる盾の立ち並ぶ部隊。
青組ヒョウガ率いる槍の立ち並ぶ部隊。
その二段構え。

「盾は守ればいい」
「槍は突けばいい」
「騎士とは!」
「こういうものだ!」

鉄壁。
鉄の盾と、
鉄の槍。
その二段構えの鉄壁。

「クソッタレ!」

エイアグ、
アジェトロ、
フサム。
彼らは実力的に大いに上回っているはずなのに、
大いに攻めあぐねていた。

「ノカンとやった時にも感じた事だな」

エイアグが言う。

「我らカプリコは集団だ。個体の能力。群れだ」
「・・・・承知。ノカン将軍も言っていた・・・チームワークというものだな」
「確かに俺達には無ぇ能力だ」

とは言ったものの、
彼ら三人は目を合わせずとも動きを合わせる事ができる。
それほど息の合う動きは出来る。

「作戦・・・という奴か」
「さながら戦術」

カプリコにはない。
いや、
基本的にノカン以外の魔物には存在しない。
戦術という戦いの要素。

「これが人間が頂点に立つ理由か」
「・・・・・ハサミの使い方という奴だな」
「知識のある者が優位に立つってか?」

彼ら有能なる王国騎士団が、
守りのみに徹した時。
それは三騎士にも突破できない防御力。

「・・・・笑止。そうも相手ばかりを褒めてはいられん」

フサムが、
マフラーの下のアゴで、
クイッと後ろを指し示す。

「息子のパパ達は実は役立たず。そんな風に見られているぞ。実に笑止」

外門前の広場は広い。
運動会が同時に4箇所行えるほど広い。
その外門前広場。

入り口付近は、
1000を超える反抗期。

「参るな。先に到着して突破口を開けておいてやるつもりだったが」
「すでに過半数が到着してやがんじゃねぇか」

反乱軍。
その1000を超える精鋭達が、
すでに外門に集結していた。
だが、
彼らはそれ以上踏み込んではこない。

あくまで、
現状況、
王国騎士団が外門部隊と、
三騎士三匹。

「応応!気にすべきなのはあんな人間共の目じゃぁねぇだろ」
「そうだな」

その通りだ。
1000の反乱軍の中、
さながら小さい影二つ。

「あーあー」
「パパ!ぼくも・・・・」

幼いコロラドを抱えた、
小さな魔物人間。
ロッキーが見ていられないといった表情。

「見てくれアジェトロ。フサム。我が息子の愛くるしい目。
 まるで犯罪だ。今すぐ飛び出して抱きしめたくなる。抱きしめてもいいだろうか?」
「駄目」
「駄目だ」
「ふん。息子の可愛いさとは罪だな」

コロラドを想う出来合いのエイアグは言う。
だが、
ここではアジェトロとフサムもつっこまない。
形は違えど、
溺愛に関しては彼らも同じ。

ロッキーは、
血も繋がっていなければ、
種族さえ違うが・・・・

カプリコ三騎士の息子なのだから。

「下がってろロッキー」
「お前はコロラドを守っておいてもらはねばならん」
「応!パパ達に任せな!」

三騎士はそう言い、
ロッキーを止めて置く。

「ヒュゥ♪その判断が命とりだぜ?三騎士さん」
「守備戦において、騎士に勝る職はない」

ヒューゴ。
ヒョウガ。
外門を守る二人の部隊長が、
鉄壁のような布陣の後ろで言ってくる。

「騎士ってのは、団体からしか生まれない職業だ」
「ウヒョー!その通り!個体の騎士など存在しない!」

赤き宝石のアメットの赤鬼。
青き宝石のアメットの青鬼。

「ヒュゥ♪・・・このデカくて四角い邪魔くせぇ盾はなんのためにあると思う?
 それは目の前だけを守るためだ。目の前だけ守れば、横には仲間がいる」
「ウヒョー!・・・・この先端にしか攻撃判定の無い槍はなんのためにあると思う?
 それは目の前だけを突くためだ。目の前だけ攻めれば、横には仲間がいる」

前以外を守るならば、
もっといい盾がある。
前以外を攻めるならば、
もっといい武器がある。

「騎士ってのは城を守るための職業だ」
「役目は守る事。それだけだ」
「そのためだけに生まれ」
「それだけに特化している」

赤鬼と青鬼は、
いまだ揺るがない鉄壁の中、
堂々とそう言い放った。

「チィ、この状況で怖気づかないか」
「人間も捨てたものじゃない」
「・・・・この三騎士を前にし、さらに1000が後ろに控えているというのに」

1000。
数だけ見ると、
圧倒的優勢。

なのに、
背後の1000は、
未だ動かない。

否、
1000の反乱軍は、

未だ動けない。

「だから外壁が先っつったろ」
「・・・・承知。だが今更だ」

三騎士は、
前方を警戒したまま、
見上げる。

大きな・・・大きな外門。
巨人も潜る事ができよう巨大な門。

それに連なり、城を囲む巨大な外壁。

その上に連なる・・・・・・・・・100の魔術師。

「ヒャハッ」

赤き宝石のアメット。
『赤鬼』ヒューゴ。
青き宝石のアメット。
『青鬼』ヒョウガ。
そして、
その後ろにさらにもう一人。

「てめぇらは"何のため"に戦う?」

黄色の宝石のアメット。
名をヒャギ。
第20番 門番部隊・黄組 ヒャギ=シグナル 

「何を守るためだ?ヒャハッ、それとも何を奪うためだ?」

黄色のヒャギは、
ヒューゴとヒョウガの背後で、
堂々と言い放つ。

「俺達は"守るため"だ。それだけ。それだけだ!」

ヒャギ。
ヒューゴ。
ヒョウガ。

外門の守護神。
3部隊長。

「ヒャハッ」
「ヒュゥ♪」
「ウヒョー!」

黄。
赤。
青。
その3兄弟。

「守るべきものがある」
「その力」
「思い知れ」

立ち並ぶ100。
盾の地平線。

その後ろ、
立ち並ぶ100。
槍の地平線。

その上、外壁。
立ち並ぶ100.
魔の地平線。

「我慢ならねぇ!!」

入り口付近に待機する、
1000のうちの一人が叫んだ。

「ボヤボヤしてられるか!外門は目の前なんだぞ!」
「馬鹿野郎!」
「城壁の魔術師が見えねぇのか!?」

城壁の上の魔術師達。
それは、
皆いつでも魔法を射出できる体勢に入っていた。

「これ以上近寄れば魔法の餌食だ!」
「だけどよぉ!」
「相手はたった300なんだぞ?!」
「だからだろ!」
「イチかバチか・・・・それで突っ込むにはあまりに割に合わねぇんだよ!」

だから飛び込まない。
この広い外門前の広場を持て余したまま、
進めない。

もし進んだとすれば、
城壁の上の魔術師達の格好の餌食。
一方的な大被害。

こんなスタート地点で受けるわけにはいかない、
甚大な被害が約束されている。

「ヒャハッ、黄色に注意だぜ?」

長男。
ヒャギが言う。

「俺の一声で魔法が一斉射撃だ。黄色は警戒の色。それ以上近寄るな」
「ヒュゥ♪そして赤は止まれだ。俺の部隊がこれ以上一切てめぇらを進めねぇ」
「ウヒョー!そして青は進めだ。来るなら殺す。それだけだ」

守るため。
守るための3コンボ。

完璧な守り。
完璧な返り討ち。
そして、
完璧なる警告。

「俺達には守るべきものがある」
「これ以上は進ませない」

守る。
守るため。
それだけ。
それだけを考えた、
彼らの布陣。
絶対なるシグナル。

「ウヒョー・・・信号は全て点灯しているぜ?青もだ。進みたきゃ進んでこいよ」
「おっと、黄色も点灯してるぜ?魔法を浴びたいか?ヒャハッ、注意しな」
「だが赤も点灯してる。ヒュゥ・・・・どうやっても進めない行き止まりだ」

3人。
ヒャギ、
ヒューゴ、
ヒョウガ。
その3部隊長は外門の前。

その前に立ち並ぶ、
槍と盾。
その上の城壁に立ち並ぶ魔術師。

「応応、訳分かんねぇな。人間は色にまで意味をもたせるのか」
「・・・・笑止。本当に人間は余分に奇怪な生物だ」
「だが意味は分かる」

小さな体の伝説は、
相も変わらず手には巨大な剣。

「選択肢は一つだ。・・・・参る!」
「応!」
「・・・・承知」

3匹がまたも一斉に飛び掛る。
鉄壁へ。

総計するとこれで何度目かという、
変化の無い突っ込みだ。

それを何一つ揺るがずに抑えるこの外門守備部隊はさすがといえよう。

力の源は一つ。

「ヒャハッ、そう。俺達が負けるわけがねぇ」
「ウッヒョー。その通りだ。何故なら」
「・・・・ヒュウ♪・・・・俺達は、守るために戦うからだ」




































「走れ!走るんだスウィートボックス!」
「言われなくても走ってるよ!!」

薄暗い地下。
地下水道。
その細い道を、
エクスポとスウィートボックスは走る。

「ハァ!ハァ!隠れる場所は!?」
「あるわけないだろ!」

チューブ状の水道。
歩道自体、
橋に備え付けられた足場しかないのだ。

カンカンッと足場の金網が反響する。
それを聞きつけるかのように・・・・・

「来るよ!」

水が膨らみ、
下水の中から巨大な魚が飛び出した。

「・・・・本当に規格外の大きさだね」
「ティラノの二・三倍はある・・・」

その、
巨大なザコパリンクは、
水面に落ちる。
大口を開けながら、
水を飲みつくしてしまうんじゃないかという勢いで、
また潜った。

そして津波のような水しぶきがあがる。

「冷たっ!」
「ドジャーかジャスティンなら水も滴る・・・とか言うところだけど」

そうも言ってられないほど、
ずぶ濡れ。
全身に水がバケツ数十杯分ほどぶっかかる。
それでも足は止めない。

「シャワーにしてはやりすぎさ。お気に入りの服が汚れてしまう」
「もー!服がベチャベチャして動きづらい!」

衣類が濡れるとこれほど重くなるのか。
というのを実感した。

「スウィートボックス!もう道は選んでられないよ!」
「分かってるわよ!迷子もこの世から遭難するよりはマシだ!」

水面下を、
全て包み込むほど大きな影がヌルリと自然に伝ってくる。

「こんな美しくない地下で人生を終えたくないね。考えるだけで身震いするね。
 花火は一目につくから美しいんだ。こんな美しくないところで人生を終えたくない」
「私はどんなところでも死にたくないよ!」

それはそうだ。
だから走っている。
足場の金網の音。
それが反響する。
ベチャベチャと水を含むやっかいな足音。

それが、
3っつ。

「待て!待ってくれって!僕を置いてくなっての!」

エクスポとスウィートボックスの、
少し後方。
必死に追いかけてくるのは・・・・

ウサギ。

「ちょ、ちょ!ウルトラやばいって!だから一緒に逃げようぜ!フレンドだろ!?」

耳のキーホルダーと、ウサ耳を揺らしながら、
追いかけてきていた。

「だ、誰かフレンドだよ!さっき会ってばっかだろ!」
「生憎他人の事に構ってられる状況じゃないんだ・・・・」

「フレンドを見捨てるのか!?フレンドを置き去り!略してフレザリか!?
 ひでぇぜ!ウサギは寂しいと死んじゃうんだぞ!」

「そうこうしてたらどっちにしろ死んじゃうんだよっ!」
「そこの巨大ザコパとフレンドでも友達でもなればいいじゃないか!」

「メアド教えてくんねぇもんこいつ!」

そりゃそうだ。

メアドよりも冥土を教えてくれそうだ。

「お・・・」
「うわっ!」

スウィートボックスとエクスポは後ろを見て走るのをやめ、
前だけ見て走り出した。
必死に。

「え?何何?」

ウサ耳少年が疑問に思うのと同時。
彼の横の空中に、
水しぶきがあがっていた。

「・・・・ほえ・・・・」

視界を全て覆いつくすような巨大なザコパリンクが、
自ら飛び出てきて、
そして、
がま口サイフのように全開まで広げたその口で、

「おあ!!わわわあああああ!!!」

彼に、
メアドでなく冥土を教えた。

巨大なザコパリンクは、
彼の足場ごと、
食らい、
喰らい、
そのまま水の中へと潜っていった。

「うわ・・・」
「ありゃ・・・・」

エクスポとスウィートボックスは、
走るのをやめ、
振り返った。

戻る道の無くなった足場。
金網の足場が、
かじられて無くなっていて、
ウサギは捕食されたのだろう。

見る影もなくなっていた。

「ハッ・・・ハハ・・・・」
「わ、笑い事じゃないわよ!食べられちゃったよあの人!」
「まるでピノキオだね」
「笑い事じゃないって言ってるじゃん!!」

その残骸を見る。
ひねくれた足場は、
カラッポの命を物語っていた。

「・・・・私達も早く逃げないと」
「そうだね。美しい出会いとは言えなかったけど、彼には冥福を・・・・」

そうこうしている間に、
足場の下。
水面下に、
大きな黒い影。
巨大なザコパリンクの影が浮かび上がる。

「や、やばいわ。お腹いっぱいとはいかなかったみたい・・・」

スィートボックスが身を翻して一目散に逃げようとするのを、

「いや、待つんだ」

エクスポは制止した。

「何よ!あんたもメアド教えてもらいたいの!?」
「・・・・・それは啓報に変わっちゃったみたいだよ」

エクスポは指をさす。
その水面。

デロン・・・・と、
巨大なザコパリンクの顔が浮かび上がった。

「ひっ・・・」

スウィートボックスはやっぱり逃げようと思ったが、
それも止める。
ザコパリンクの顔は、
そのまま、
水面に横向きに転がった。

首だけ切り取られた状態で、浮かび上がった。

「え・・・・何?」

水面を覗き込むと、
先ほどまで巨大なザコパリンクの影で黒く染まっていた水面が、
段々と、
ゆっくりと、
赤色に滲んでいく。

「どうやら・・・食べたものがよくなかったみたいだね。・・・・究極の食あたりってやつさ」

水面にあがってくるのは、
巨大なザコパリンクの体ではなかった。
細切れになった、
刺身になった、
魚の肉片。

暗い水面は赤々と滲んでいった。

「ブクッ・・・」

その水面から、
チョロンとウサギの耳が飛び出した。

「ブハッ!!!ゲホッゲホッ・・・・」

赤い肉片が、
味噌汁の具のように浮かぶ中、
水面からウサギ少年の顔が飛び出した。

ファンシーな格好をした少年の登場だが、
それはあまりにもメルヘンとはかけ離れていた。
本当は怖かったグリム童話とでも言うべき映像だった。

「うわっ・・・生臭っ・・・・・ベリグサイぜ・・・・これだからお魚は嫌いだよなぁ。
 世の中の食べ物は全部ニンジンになればいいのに。野菜以外いらねぇよ」

ウサギは、
そんな事を言いながら、
血の海をバシャバシャとバタ足で泳いで足場に向かっていた。

「・・・・大きな魚を、一瞬で解体したっていうの?体の中から?」
「ピノキオじゃなくて、ほらふき男爵の方だったみたいだね」

そうも言ってる間に、
ウサギ少年は食いきられた足場のフチに辿り着き、

「よいっしょ」

ザブンッと血の水を滴らせて水面から出てきた。

「どうだい?僕って強ぇだろ?・・・っとあぁ!?カードがベショベショだ・・・・」

焦りながらも余裕の挙動の少年。
それを固唾と見つめる二人。

「なんなのこいつ・・・・常人じゃないわ」

スウィートボックスは少し身を引くように言った。

「・・・あぁ。常人じゃない」

異常だ。

神妙な趣で、
エクスポは睨むようにその少年を観察した。

「人間技じゃない。その力の・・・強さの事じゃないさ。手際に揺らぎがない。
 美しさを通り越すほどに、まるで欠如しているかのように躊躇いがない」

殺害という行動に。
世界の何よりも手馴れているかのように。

「次の瞬間には殺していた・・・と言ってもいいほどに。そして相手に命のカケラも残さない。
 鮮やかといっていいほど、殺しきる。殺しつくす。当然の如くオーバーキル」

魚を殺しただけだ。
こちらを襲ってくる危うき者を殺してくれただけだ。
だが、
まるで剥き出しの刃のような・・危うさ。
それを、
エクスポは感じた。

「なぁーんだよ」

それとは逆の笑顔で、
少年は両手を腰にあて、
水分で垂れ落ちるウサ耳を振りながら水しぶきを犬のように飛ばす。

「僕を殺人鬼みたいに表現しちゃってよ。これからフレンドになろうってのに」

笑顔で、
純粋に、
その少年は手を伸ばしてきた。
握手を求めてきたのだろう。

その手にさえ、
何か武器を突きつけられているようで、
応えてやることはできなかった。

「チェェー、なんだよ。いーじゃんか。フレンドになろうぜ?ね?な?」

手をこちらに差し出したまま、
まるで無害のように笑う少年。

刀は人を殺すためだけのものだが、
刀は悪くない。
そんな事を頭によぎらせる。

「エクスポ・・・」

スウィートボックスが、
エクスポの後ろで不安そうにする。

「君。名前は」

エクスポが、
睨むような表情を変えずに聞く。

「え?あぁそうだったな。そう、君はエクスポ。君はスウィートボックス。僕だけ知ってるのは良くないよね!」

睨む目に慣れているように平気に、
笑顔で言う。

「僕はシド。シド=シシドウだ」

名前を聞いて、
合点がいった。

「そうか・・・・君が・・・・」
「え?なんなの?知り合いなの?」

スウィートボックスが知らないのは無理もない。
この戦いには事実上無関係な彼女だ。
世間的に存在を知られていないシシドウ。
その中の異端の異端の存在。
それが、
シド=シシドウ。

「君の事は仲間から聞いてるよ。闘技場で仲間と会ったらしいね。
 僕は残念ながらその場に居合わせていなかったけど、・・・・いろいろ聞いてるよ」

いろいろと。
悪評だけを。

「そーなんだ!」

嬉しそうに、
心と連動しているように頭の上のウサ耳が立ち上がる。

「ならいいじゃん!フレンドになるきっかけは十分だよねっ!
 あっ、敵同士?いや、別にそんなのどうでもいいんじゃねぇ?
 僕はフレンドを探すためだけに存在してるんだしさ。世の中ハッピー&フレンドだよ」

それは本心だろう。
あまりに無邪気な本心だろう。

シドの本心に違いない。
心の空の正直な本音だ。
だが、

「シド・・・君は・・・・」

聞かずには居られない。

「ボクらを殺すのかい?」

彼に殺意は無い。
欠如しているほどに。
不可解なほどに殺意のカケラもない。

だが、
刀にだって殺意がないように、
彼は殺人のための存在であることは身を持って感じる。

「"殺したくないよ"」

ニコリと、
シドは微笑んだ。
恐らく、
一番正確で完璧な言葉の表現だっただろう。

「誰も死なずにハッピーエンド!みんなフレンド!手を取り合って平和だピース!
 それが一番いいことだぜ?だから僕は殺人なんて大嫌いだし、しようとなんて思わない」

笑顔の彼は、
やはりそれも本心なのだろう。

「だけど、殺すんだろう?」

「殺さないさ。殺したくないんだもん。絶対に殺さない。約束する」

心からの言葉だろうが、
あまりにも、
あまりにもその言葉は薄っぺらに思えた。

凶器がそう言ったってどうしようもないように。

コレは、

どうしようもない存在だ。

エクスポには、
出会って少しの時間でそれを理解し、判断した。

「少し前の話を思い出した」

「へ?」

ウサ耳を横に垂れ落とし、
シドは首を傾けた。

「ボク達が皆でイカルスに言った時だ。ほんとに昔の話だった気がする」
「何を言い出すのよ・・・」
「理由は・・・よく覚えてないな。ノリだった気もするし、・・・・・そうだ。
 マリナの食材探しに付き合わされたのが理由だった気もする」

エクスポは、
いきなり話を始める。

「アレックス君の面影さえない昔の昔の話だ。そんな狩りの時、メッツが食べられたんだ。ティラノに」
「誰か知らないけど、笑い事じゃないじゃない」
「笑い事じゃなかったさ。だけどメッツはそのティラノの腹をぶち破って出てきた。
 皆呆れてたさ。それぞれに反応してた。ロッキーは驚いてたし、チェスターはカッコイイって笑ってた。
 レイズはそのまま死ねばいいのにって呟いてたし、マリナは食材であるティラノの心配をしてた」
「ちょっとちょっと・・・本当に何の話なのよ・・・・」
「ドジャーは焦らせるなって怒ってたし、イスカは何やら呆れていた。・・・・・ちょっと思い出しただけさ。
 君が魚の中から、体ぶち破って出てきたのを見てね。ちょっと思い出しただけさ」

今は、
チェスターもいないし、
レイズもいない。
メッツも敵だ。

「ふーん。面白い話だね!それで!?」

シドは、
自分に何か話してくれる事自体が嬉しそうに、
その話に食いついた。

「ジャスティンは皮肉を言いながらも、一番安心した顔をしていた」

エクスポの目つきが一層厳しくなる。

「ジャスティンを殺したのは君か」

憎しみや、
怒り。
そういったものを目線に集約するように。
エクスポは、
シドを睨んだ。

シドは一層首をかしげた。

「誰それ?」

「とぼけるな!!」

冷静なエクスポの声とは思えぬ声が、
狭い地下水道に反響した。

「コロニーには君のカードが残っていた。惨殺された死体達もそこの魚と似たような残骸だった。
 分かってるんだよ。・・・・君か。君なんだろ。・・・・・ジャスティンを殺したのは」

睨む。
憎しみの目が、
シドへと突きつけられる。

「いや!本当全然分からない!訳分からないって!」

シドは焦って両手をブンブンと振る。

「・・・・・見苦しい・・・美しくないな。君・・・・人間を殺しておいて言い逃れようっていうのかい・・・・」

いや、
違う。
いい。
世界のどれだけの人が死のうと、
それは美しくない事だが、
何よりも重要な事は、
大切な仲間(ジャスティン)を殺してくれたことだ。

「いや!待って!待ってってば!タイムタイム!」

子供の言い訳のように。
無実の罪に焦るかのように、
ウサギの少年は腕を振って否定し続ける。

「っていうかさ!さ!分かんないって!僕死んだ人間とかあんまり分かんないんだって!
 だって死んだ人間はフレンドになってくんないじゃん!僕がちゃんと記憶するのは生きた人間だけっ!」

それは事実だった。
欠如した人間。
シドの特性だ。
だが・・・・。

「その人の事を知ってるかどうかも覚えてないけどさっ!それもう終わった事じゃん!
 悲しい事だけどさ!そりゃ!うん!僕も残念だと思うよ!人が死んじゃうのは哀しいよ!
 だけど前向きに生きなきゃ!僕らはさっ!生きてるんだから!」

あは・・あはは・・・と引きつりながら、
友達を失ってしまうのが怖いという表情をしながら、
世界で一番人を殺す、
ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
純粋に言った。

「生きてるモンだけで、ハッピーにフレンドすべきだよ」

冷静が売りのようなエクスポだったが、
正直、
血管のいくらかが切れてしまったような感覚があった。

「君は・・・・・ジャスティンを殺したことなど覚えもいないし・・・・どうでもいいっていうのかい!?」

「だだだだから!それも分からないって!僕が認識してないって事は死んだ人なんだろうけどさっ!」

「・・・・・」

怒りで我を忘れそうになって、
それでジャスティンの死に姿を思い出した。
からこそ、
冷静になった。

「・・・・・・」

ジャスティンの亡骸。
首を、
テーブルに晒された悪趣味なものだった。
残忍な、腐った思考回路の人間が想像しながら遊んだような。

「・・・・・君ではないか」

シド。
シド=シシドウ。
この少年は、
見たまま・・・・・純粋だ。

あまりに純粋に生物を殺す。
殺す対象に・・・・興味のカケラもない。
それどころか敵意や殺意さえもない。

「・・・・・」

水面に浮いているザコパリンクの死骸を見る。
見る影もないほどに細切れで、
ただ殺したという結果だけが残っているような。
そこに、
勝敗とか陳腐なものは一切ない。

殺して、殺された。

それだけの結果が現れている。
ジャスティンの、
悪趣味に晒された死骸を思い出すと、
悪でも趣味でもない殺人鬼。
このシド=シシドウが殺したとは確かに思えなかった。

「・・・・ねぇ・・・エクスポ・・・」

不意に、
スウィートボックスの背中が、
エクスポの背中に当たる。
後ずさりをしてぶつかったかのように。

「あれ・・・」

そう言いながら、
スウィートボックスは、
見当違いの水面を指差した。

「ん?」

エクスポがそれを見ると、

「あれって・・・」

スウィートボックスが指差した先。
その水面は、
黒い影。
大きな影で覆われていた。

「もしかしてだけど・・・・」
「・・・・・もう一匹いたようだね」

間違いない。
ザコパリンクだ。
巨大なザコパリンク。
それが下水の水道の中を、
ゆっくりと、
近づいて来ている。

「わわわわ!」

一匹自分で殺したクセに、
純粋に驚き焦るシド。

「ど・・・どうすんのよ!後の道は閉ざされてんのよっ!」

先ほど。
一匹目のザコパリンクのせいで、
後ろの足場は食い破られていた。
退路は絶たれている。

「・・・・足場があってもなくても、彼の方に逃げるなんてしたくないけどね」

横目で、
エクスポはシドを睨んだ。
そして、

「大丈夫だよスウィートボックス」

優しく、
スウィートボックスの肩に手を添える。

「ボクは今、ちょっとばかし虫の居所が悪い」

エクスポの殺気と同調するかのように、
水面から、
水の中から、
巨大なザコパリンクが飛び上がった。

遠近感を失くすような巨大な魚が、
異世界にでも続いているような大口を開いて、
こちらに飛び掛ってきた。

「八つ当たりのようで美しくないけど」

いつの間にか、
その手には爆弾が乗っていて、

エクスポは、
その爆弾を・・・・・・・ザコパリンクの巨大な口の中に放り込んだ。

「襲ってくるぐらいなら、ちょっと眠っててくれ」

そして、
弾けた。
炸裂した。
爆発した。

ザコパリンクは、
その巨大な体内から、
光を噴射するように飛び散った。

「キャッ!」

飛び掛ってきたザコパリンクは、
残骸になって降り注いだ。
ただの他事のようにあっけなく、
エクスポはザコパリンクを破壊した。

「シド君だったね」

エクスポは、
残骸の雨の中、
振り向き、
シドを睨む。
涼しげに、冷たく睨む。

「人は感情に生きている。だからこそ、間違うし、誤まる事もある。
 それでいても分かっていて悪を行うことさえある。ボクだってそうだ」

「な・・・なんだよっ・・・・」

「だけど、それが最高であっても、最悪であっても、人ならばそれに何かを感じなければいけない。
 殺すときもそうだ。殺してしまった事を平然とする人もいるだろう。楽しむ人もいるだろう。
 よかれと言い訳する人もいれば、自分を責める人もいる。どれだっていい。
 その愚かさ全てが人間だと思うし、ボクはそんな苦悩する愚かしさも人間の美しさだと思う」

エクスポは、
そう言いながら、
スウィートボックスの背中を押し、
シドに背を向け、
離れていく。

「だけど、何も感じない。それだけは駄目だ。畜生道に堕ちたって人間だ。
 だけど罪悪感どころか、何一つ感じないし覚えていないなんてのは、人間にあっちゃいけない。
 人を殺す事が"何もしない事と同じ"なんてのは・・・・・・それはもう・・・・人間じゃない」

強く、
ツラく、
攻め立て
責め立て、
エクスポは言葉を残しながらシドから離れていく。

「間違って、誤まって、それが人間だ。その呪縛から解放された自由な者なんて、もう人間じゃない。
 由なる心を持ってしまった生物・・・・・・・・・・・・それを人は"鬼"と書く」

ボクはそんな奴と、
一秒たりとも一緒に居たくない。

エクスポは、
純粋なる殺人鬼に、
そう言い残した。







































「ヒャギ、ヒューゴ、ヒョウガ。ヒャ・ヒュ・ヒョの3人組か」

三騎士が突っ込んでいくのを見送るのは、
外門前広場の入り口。

反乱軍が身動きできずに固まっているこの場所。

「まったく。お呼びでないねぇ」

黒スーツの男達を従え、
羽織るようにスーツを着たボムカットの女性。
オカッパに切りそろえた、
女ヤクザ。

「外門守備のエキスパートが居たっていうのは本当だったんだねぇ。
 途端外門がキツくなったよ。ま、そんな文句は門だけにお門違いって奴だけどさ」

3対300で戦う三騎士を見ながら、
ツバメは言う。
いや、
その後ろに聳える巨大な外門を見て言う。

「改めて見ると大きなもんだよ。絶対男が作ったね。男はなんでも大きけりゃいいと思ってるから」

呆れ顔のツバメ。

「今までは『ノック・ザ・ドアー』が開幕と同時に外門ぶっ壊してくれてたからねぇ。
 お陰でこちとら外門の経験は無しだよ。まったく、お呼びでないねぇ」

そう考えると、
事実上、
攻め側は"城の門を突破できたことがない"とも言える。
何十年も不可侵だった内門。
毎回開きっぱなしだった外門。

チェスターの存在のお陰で、
毎回外門の守備を放棄していた王国騎士団だから、

現実問題、
誰しも門の突破経験が無いとも言える。

「そこに現れた外門守備のエキスパート。ヒャギ、ヒューゴ、ヒョウガか。まったく、お呼びじゃないよ」

思いやられる顔つきのツバメ。

「で」

黒スーツのヤクザ達を従えたその先頭で、
ツバメは腕を組んで見下ろす。

「あんたはなんでこんなとこでぼんやりしてんだい?」

ツバメが見下ろすと、
外門前広場の芝生の上。
槍を地面に突き刺し、
あぐらをかいて座っている・・・

黒き騎士。

「ふん」

ツヴァイは他のもの達に混じるように、
芝生に座り込んでいた。

「年がたたって疲れちゃったかい?」

「お前が思ってるほど年は食ってない」

ツヴァイがそう答えるが、
そう言われるとツヴァイの年齢はどれくらいなのだろうと疑問があった。

単純計算だと40は軽く超えるはずだけども。

「気になるねぶっちゃけいくつなの?」

「ふん。数えるほど自分に興味のある人生ではなかったのでな」

ツヴァイは、
ツバメの方を見ず、
座ったままそう答えた。

「で?本題。三騎士が戦ってる中、ツヴァイともあろう方がなんでここでぼんやり見物してんだい」

「あの者達との口約束でな」

ツバメからは見えない目線だけを動かし、
ツヴァイは座ったまま外門の方を見る。
いや、変わらず見続けている。

その先では、
三騎士がまたあの盾の配列を突破できずに押し返されていた。

「被害が出るまでは我らに任せてくれ。・・・・とあのチビ共が言うのでな」

「三騎士をチビ共扱いねぇ。それにしてもツヴァイ。あんたがそんな言葉を受け入れるとはね」

「ふん」

やはり、
芝生の上で座ったまま、
目もくれずにツヴァイは言う。

「オレはもう独りではない。これでも仲間の事を考えて行動している」

「へぇ、義理と人情かい?いいね。うちらはそれが大好きだよ。
 そうだ。いい言葉がある。リュウの親っさんが言ってたんだけど・・・」

「興味ない」

「義理とは義なる理(ことわり)。つま・・・え!?興味ないの!?」

「興味ない」

「親っさんの言葉なのに!?」

「興味ない。お前の親っさんとやらなど影も形も知らんからな」

そういえばそうだった。
だが、
ツバメにとって神様のような存在のリュウの言葉を知りたくもないなど、
ツバメには理解不能だった。

「・・・・まぁそれは置いておいて、でも義理と人情って言葉を使うからには納得させて欲しいね」

「使ってないがな」

「・・・・・とにかく理由がないと納得いかないの。あんたがここで高みの見物の理由は?」

三騎士だけが戦い、
自分は彼らの言葉に従い、
悠然と待機している理由。

「オレ一人で突っ走り、外門で戦っても意味がなかろう。敵を増やすだけだ。
 突破するにはあの女(フレア)の到着を待たねば意味がない。
 ふん・・・・。まぁ最悪オレ一人で外門を突破してやってもよかったがな」

「あんた一人が突っ込んだらこっちの体勢が整ってないのに敵が雪崩れてくるねぇ」

「そういう事だ。だからこちらの体勢が整うまでという期限付きであいつらにやらせる事にした。
 魔物に好き勝手させるのは性に合わんが、オレはこちらが勝つことを最大限に考えねばならん」

ツバメは笑った。
力だけの女。
そう思っていたが、
ちゃんとリーダーリーダーしているじゃないか。

カリスマ性と力。
それだけじゃなくなった今、
十分にこちらの頂点を任せられる。

「まぁ、あの三騎士に好き勝手させるのもいいが、それでこちらが不利になってはいかんからな。
 被害が出るようならオレも出ると言ってある。そういうわけだ」

「それでまだ被害がないから硬直状態ってわけだね」

「硬直状態と言っても、それは外壁の上の魔術師と、ここでたむろって居る反乱軍の話だがな」

硬直状態と言っても、
三騎士は戦い続けている。
事実上、300対3は続いている。

「そしてそう。硬直状態という言葉を使うからには被害はない。"どちらにもな"」

完全なるノーダメージ。
それは、
敵だけではない。
外門だけではない。
三騎士とて対等にそうではある。

「じゃぁどちらが先に崩れるかだねぇ」

ツバメはフゥ・・・と息を吐いた。
我慢比べは嫌いだ。

「まぁそういうことだ」

「親っさんは言ってたよ。こういう状態で最後にモノを言うのは心に通った筋で・・・」

「興味ない」

「・・・・・」

ツバメは親っさんをないがしろに扱われたようで、
少しむくれたが、
ツヴァイはやはりこちらを見ずに聞いてくる。

「お前の心を作った師なのだろうが、残念ながらオレの仲間はその親っさんとやらではない。お前だ」

言葉をくれるなら、
お前の言葉でくれ。
そう、
最強の女の背中は言っていた。

「なかなか嬉しい事を言ってくれるじゃないのさ」

「ふん」

「それで?三騎士が先に崩れたらどうするんだい」

「崩れんさ。まぁ最悪そうだとしてもその時はオレがフォローを入れよう。そのための待機だ」

三騎士が崩れるような相手に、
自分でフォローか。

三騎士は三匹居ればロウマと互角だというのに。
凄い自信だ。

いや、それよりも、
ツヴァイという孤高の強さを持つ者が、
他人に任せてみようと思った事が何よりなのかもしれない。

「ま、なるほど。フレア嬢が来ればそれで願ったり適ったりだしねぇ」

状況だけみれば、
この硬直状態が続けばいい。
続けば続くほどいいのだ。

相手に変化はない。

だがこちらに変化はある。

味方が揃いつつある。
全て揃った時に動けばいい。

この状態のままフレアが到着すれば・・・・・・・・メテオも使える。

「それよりも話は変わるが黒女」

「黒女ってなんだい・・・」

ツヴァイが座り込んだまま、
横目にツバメを見る。

「前から聞きたかったのだが。ふむ。そのスーツを羽織るようになってからだな。
 胸にサラシを巻いてる姿を見て疑問なのだが。その体格・・・・・お前は男なのか?」

「体格?」

ツバメはよく分からなくて自分の体を見下ろしてみて、
それで理解して顔をあげた。

「ぶん殴るよあんた!」

「ふん。だな。悪かった。そんなわけはないな。ならば逆に賞賛に値する。
 その胸囲は戦いのための軽量化か。邪魔にならなそうで羨ましい」

「うちは恨めしいわ!発育の問題だ!それ以上口を開くんじゃないよ!」

天然の世間知らずはこれだから嫌だ。
コンプレックスを気軽に突付いてくる。

「まぁいい。戦いがあるというのに何もしないというのはこれはこれでヒマなものでな」

「ヒマねぇ。ま、あんたならご自慢の腕をご披露するために今にも飛び込みたいんだろうけど」

「少し違うな」

ツヴァイはあぐらをかいまま、
外門前の戦いを眺めて言う。

「役に立ちたい。それだけだ」

「・・・・・」

それは、
反乱軍の最高戦力の言葉ではないような気がした。
だけど、
それはやはりツヴァイの心の変化のようなものだろう。


「おいおい。なんだこりゃ。正直ほんと、ツイてねぇなぁ」

その時だった。

後ろから、
反乱軍の人並みをどかして、
いや、
彼を避けて勝手に道が開くように。

その中心を一人の男が歩いてきた。

「優勢にもなってねぇのか。そりゃ涙目だ。ま、圧されてないだけマシだけどな。
 お?ありゃぁ三騎士か?ならヒャギ達案外よくやってるじゃねぇか。
 さすが俺達王国騎士団の仲間だ。誇りに値するね。エクスタシーだ」

外資系エリートみたいなカッターシャツを着た、
ウェーブのかかった金髪の泣きボクロの男だった。

「なんだいあんた?反乱軍にあんたみたいな色男野郎、居たっけ?」

ツバメが首を傾げつつも警戒していると、
ツヴァイはやはり目を外門に向けたまま。

「クライか」

彼の名を呼んだ。

「久しぶりだな。ツヴァイ」

クライ=カイ=スカイハイは、
芝生に座り込んだツヴァイの後姿に微笑んだ。

「・・・・って事は敵かい」

ツバメが睨む。

「敵さんが敵の中を堂々と通ってくるとはねぇ。いい度胸だ。死ぬ覚悟があるってことだね」

「おやお嬢さん。君はなかなかエクスタシーだね。どう?これから俺とホテルにでも」

「そ、そんな直球なナンパがあるかっ!」

ツバメはその色男の股間を蹴飛ばしてやろうと足を振り切ったが、

「!?」

揺れるようにクライの体が消える。
残像。
パリィ。
気付くとクライはツバメを通り過ぎていた。

「い・・・いつの間に・・・・」

「残念だ。俺はウソはつかない。一晩だけなら本当に愛する自信はあったんだけどな。
 ま、この俺の誘いを断る奴もそういない。君は貴重だよ。エクスタシーだ」

クライは気楽にツバメから離れていき、
そして、
座り込んでいるツヴァイの真後ろに立った。

「・・・・・」

ツヴァイは後ろを、
クライの方を見ないが、
背中越しに殺気を放っているのは分かった。

「何用だ。オレと戦いに来たか。クライ」

ツヴァイの背中が放つ殺気は、
そこに居たのがクライじゃなければ怖気づいたかもしれない。
事実、
近くにいた反乱軍も、
黒スーツの男達も、
ツバメを除いて一歩離れた。

「そんなわけないだろ?」

余裕で微笑むクライ。

「今さっきまでギルの奴とやってきた所だ。さらにツヴァイとだなんて正直ほんと、しんどい」

ま、
この体は疲れなんて感じないんだけどな。

と、クライは死骸である自分の体に皮肉を刻んだ。

「ギルヴァングと?ほぉ。よく生きてココに居るな」

「自分自身そう思う。心の中は正直ほんと、涙目だった」

「生きてここに居るという事は勝ったのか?」

「勝ったさ」

クライは、
さらりと余裕でそう言い放った。

周りはザワめく。
彼に近寄れないまでも、
ヤクザ達を中心に近くの反乱軍はその言葉を飲み込めない。

あのギルヴァングの恐ろしさと脅威。
それは、
反乱軍の誰もが見た。

たった一人で街を一つ平らげてしまいそうな凶悪な暴力。

「聞き方が悪かった」

ツヴァイだけが冷静に返す。

「ギルヴァングを倒せたのか?」

「そんな事できるわけないだろ?」

クライは、
さらりと余裕でそう言った。

「勝つ事は出来るさ。戦いという概念の中でならな。あいつは馬鹿正直だからな。
 だけど倒せるかと言ったら無理だ。ボクサーで言うところのリングの上なら勝てる・・・ってとこかな」

クライはツヴァイの背中を超え、
外門を見た。

相変わらず、
三騎士と外門守備部隊が戦っている。
どちらも譲らない。
どちらも負傷しない。
どちらも圧されない。

「まぁいいんだ。俺の事なんてな。俺じゃなく、"俺達"だ。
 王国騎士団。王国騎士団(キングダムナイツ)。それだけでいいんだ。
 個人的な用事は俺の出番の前に、今、済ませてきたしな」

思い残す事はない。
あるとすれば、
戦いの行方。
そんな表情で、
クライは外門の戦況を見据えた。

外門守備部隊と三騎士が、
圧さず圧されず戦っていた。

「さて、死ぬか?」

唐突に、
ツヴァイが槍を抜いた。
地面に突き刺さっていた槍を抜く。
まだ座ったままで、
背中を向けたままだが、
槍を抜いた。

「理由などどうでもいい。敵である貴様がここに居る。
 見逃してくれるとでも思ったか?戦場で。のこのことオレの前に来て」

背中から殺気が漂う。
漆黒の戦乙女から。

「まさか。あんたにゃ勝てないよ。だが逃げる自信はあるからのこのこと来た」

「その自信。奪ってやろうか?」

ツヴァイの殺気は未だ消えず。
やる気。
殺る気だ。

「勘弁してくれよ。ツイてない。正直ほんと、涙目だ」

軽く跳ぶ。
ツヴァイを飛び越すように。
不意に。

傍目にはただスキップして離れただけに見えるが、
殺気をかもすツヴァイから距離を一瞬で置いた。

「周りの後押しもあったとはいえ、俺は部隊員全部死なせちまって今ここに居るんだよ。
 ルアスの街でな。騎士(仲間)達に顔向けできねぇ。頭下げなきゃいけねぇんだから」

うって変わって、
今度はツヴァイがクライの背中を見る形になる。

クライ。
涙目クライは、
外門前広場の芝生を踏みしめ、
単体、
外門の方へと向かっていった。

「"中"で会うような事があったらデートしてくれよ。ツヴァイ。
 同窓会(パーティ)の準備は出来てる。皆お前の噂で持ちきりだ。
 いい意味でも悪い意味でも、お前と"ダンス"を踊るのは誰かってな」

色男は、
言葉を残しながら外門の方へ歩いていく。

「ふん。オレは兄上の影だった。オレの存在に興味を持つものなど今更そうもいないだろう」

「俺はウソはつかないさ。お前はそれでもモテるってことさ。俺ほどじゃないがな」

「・・・・・」

「だがまぁ、一番人気はあいつだ。ギルを止めがてら見てこようと思ったんだが・・・」

クライは、
外門前広場の真ん中で止まり、
振り向いた。
泣きボクロのあるしっとりした笑顔。
涙目が初めてツヴァイと目が合った。

「アルとレンの息子。アレックスだよ。終焉戦争を含め、やはり思うところはあいつだな」

「・・・・・期待するほどの男でもないぞ」

「分かってるさ。同じ部隊長だったんだからな」

「だが、一切無視の出来ない存在でもある」

「・・・・分かってるさ。同じ部隊長だったんだからな」

そのまま、
クライはまた前を見た。
外門前広場の中心。

前方では、
守備部隊と三騎士が争っている。

「じゃあな。ツヴァイ。やっぱり戦場で会わない事を祈る。ツイてないのはコリゴリだ」

そのまま歩む。
三騎士の背後へ。

「あいつまさか!」

ツバメが叫ぶ。

「後ろから攻撃しようってんじゃ!」

だが、
ツバメの予想をよそに、

「爆跳(エクスタ)」

クライは、
まるでただ歩いているかのような気軽さで跳んだ。
ほんとうに自然に。
ただ、
芝生がえぐれ、
弾け跳んだと思うと、

クライは宙を舞った。

一点に集約したエクスターミネイションの、
跳躍。

「な・・何?・・・あの跳躍力・・・・」

ツバメが見上げる。
たった一歩。
階段を一段登るような気軽さで、
クライは跳び、
そして、

外門の上に着地した。

外門の上で、
恐らくツヴァイに向けてだと思われるウィンクを、
クライは投げ捨て、
そのまま外門の向こう側へと降りていった。

「な、なんだったのよあいつ・・・・」

ツバメを始め、
皆は少々だけ呆然としていた。
自分達が突破できず、
どうしたものかと思っていた外門を、

まるで商店街の如くいとも簡単に縦断していった。

「行くぞ」

その唖然とした空間を、
簡単に断ち切るように。
ツヴァイは立ち上がり、
皆の前に立った。

「え?ええ?ちょ、ちょっと!いきなりなんなんだいツヴァイ!
 被害が出るまでは三騎士に任せておくんじゃなかったの?
 まだフレア嬢がお呼びじゃないよ。それまではギリギリまで時間を・・・・・」

「タァーイムリミットってことよ」

「うわっ!」

ツバメの後ろから、
誰かがいきなり抱きついてきた。
主婦だった。

「ちょちょちょ・・・・いきなりなんなんだオバ・・・」

ティルに対し、
オバサンと言おうとして口を噤んだ。
学んでいる。
禁句だ。
この世には口にしてはいけない呪いの言葉がある。

「うーん♪若い子の肌はいいわぁ〜」

思い留まったツバメをよそに、
ティルはツバメに頬擦りする。

「まだピッチピチじゃない。ティナが見たらヒステリック起こしそうね。
 ・・・・・んで?オバ・・・・何?まさかオバさんとか?オバサンとか言おうとした?」

「あ・・・いや・・・その・・・オバ・・・オバ・・・・・えっと・・・オバケ!オバケって言おうと!」

「誰がオバケだ!」

状況を打破できてなかった。
ツバメはそのまま地面に叩きつけられた。
ぬいぐるみのように可愛がられた時間はほんのわずかだった。

「・・・たた・・・」

地面から立ち上がるツバメは、
普段は怒るところだが、
ティルには勝ち目はなさそうだからやめた。
マリナが唯一立ち向かえないというのも納得できる。

「それで・・・えっと・・・ティル姉?さん?」

「やーね。あたしも嬢でいいわよ嬢で」

「・・・・・ティル嬢・・・・」

「いーわぁ♪若返った感がするわね♪んで?何?」

「タイムリミットってのはどういうこと?」

ティルは馬鹿にしたような表情でツバメを指差しながら、
ツヴァイに声をかける。

「ねぇ。この子大丈夫なの?部外者のあたしでも状況理解出来てるのに。
 確かギルドマスターでしょ?これでもマスターなの?なんのマスターなのよ」

「だからギルドのだろう」

「そうでしたー♪てへっ♪」

その語尾に、
寒気のようなものが辺りを覆いつくしたが、
誰もツッコム事は出来ない。
いい年したオバサンがてへっ♪とか言ったところで、
それに何かを言える権力を持った人間はここには居なかった。
この場の最強は主婦だった。

「ティル。お前には関係ない戦いだろう。こんなところまで来たのか」

「まーね。あいつは一目見て一言言えれば良かったみたいだけど、
 あたしは一発ぶん殴ってやんないと気が済まなくなっちゃってね」

「クライか」

「ま、古旦那に固執してるみたいでダサいから、やっぱり目的は同窓会ってことにしといて」

「ふん」

興味なさ気に、
ツヴァイは話を切った。

「ツバメ」

「ん?あいあい何々?」

ツバメは身なりを整え直しながら返事をした。

「お前。オレと名前似てるな。ややこしい。改名しろ」

「いきなりどんな命令だ!」

理不尽だが、
確かにややこしかった。

「ふん。まぁそれはいい。追々でいいだろう」

「いつかまた追及されるんだ・・・」

「ここで動き出さなければならん理由は分からんか?」

その問いに対しては、
やはり首をかしげるしかなかった。
何か状況が変わったとは思えない。
まだ現段階ならば、
フレアの到着を待つのが正しい判断だとも思える。

「あたしが来ちゃったからってことね」

他人事のように、
ティルは言う。

「?・・・ティル嬢が来たからどうしたっていうんだい?
 確かに危ないし、出来れば怪我しないうち離れたいとは思うけど」

「綺麗なバラにはトゲがあるって解釈するわ」

「凄いポジティブだねぇ・・・・」

「この解釈の違う解釈をする場合、あたしはあんたを介錯する事になるけど」

「おっしゃる通りですティル嬢!」

短期間でツバメを舎弟のように扱っていた。
いや、
すでに部外者でありながら、反乱軍はティルの手に落ちているようなものだ。

「正確に言うならば、ティルとクライが来たからだ」

ツヴァイが、
注約を入れる。

「それがどういう事か分からんか?」

「え・・えっと・・・」

「・・・カスだな」

「もう少し言い方があるだろ!」

「・・・・ふん。つまりだな」

ツヴァイが、
理由を口にする。

「もうすぐギルヴァングがここに来るという事だ」

「あ・・・・」

ツバメと同時に、
周りの者達も納得したようだった。
クライとギルヴァングが戦っていた。
そのクライがここに来たという事は、

あの凶暴なる暴力が、
自分達の背後に忍び寄っているという事。

「なるほど・・・タイムリミットだねぇ・・・・」

ツバメは納得し、
歯を食いしばる。

「皆の者ッ!!!!」

ツヴァイが、
皆の先頭で、
槍を、
高々と天に突き上げた。

「これから我々は念願のルアス城が外門に攻め入る!!!」

皆の先頭で叫ぶツヴァイだったが、
反乱軍からすぐに返答は返ってこなかった。
だがそれも分かっていたかのように、
口を開く。

「お前らがここで拱(こまね)いている理由は分かる!城壁の上の魔術師部隊!」

ツヴァイは城壁へと槍を突き出す。
城壁の上に立ち並ぶ、
100の魔術師。

「奴らが"怖いのではない"。奴らの攻撃が怖いのではない!
 お前らはとっくに死の覚悟をしてきている愚か者共だ。命を粗末に扱うカス共だ!
 痛みを怖がっているわけではなく、命を失うのが怖いわけではない。
 自分の死を受け入れる覚悟をもってきているが、志を失う覚悟がないからだ!」

もう一度槍を天に突きつける。

「戦って死にたいとさえ思っているだろう!いっそ心に任せて向かいたいとさえ思っている!
 だが!仲間が死に!SOAD(帝国落とし)が成らない事だけを恐れている!」

反乱軍は声を高らかに上げる。
皆、
各々に。
それは、
ツヴァイの言葉がその通りだからだ。

攻撃を受ける覚悟も、
死の覚悟もある。

だが、
それによっての被害。
この反乱の夢が潰える事だけが恐怖。

「だがそうは言ってはいられない。これから我らは前へ足を踏み出さなければならないっ!
 これ以上踏み出せば、あの魔術師達の集中砲火で我らの戦力は甚大なる被害を受けるだろう」

そう。
それだけ。
それだけが恐怖。

「数少ない志を共にした2000の強き者。社会的弱者である我ら自体が潰えたくはない。
 自分一人が戦い、死ぬ事はいい。だが、"自分達"が死ぬことだけはあってはならない。
 だからお前らは外門を前にして、踏み出せなかった。だが、踏み出さなくてはならない」

言葉を続ける。

「お前らが戦いの中に見い出すものはなんだ」

言葉を、
続ける。

「戦いにあるのはたった二つ!何かを手に入れるためか!何かを守るためか!それだけだ!
 ならば守れ!守るべきものはなんだ!命か!?夢か!?誇りか!?我侭なプライドか!?
 十分だ!守れ!我侭な傲慢を捨てるな!自分自身の全てを守りきれ!自分の大事なものだけを守れ!!」

言葉、
それを、
続ける。

「今!この時!信頼における仲間の事など放っておけ!信頼するなら放っておけ!
 全員が全員、自分の事だけを守り、突っ込め!!それだけだ!それが最善策だ!!!」

なんという不器用で荒々しい、
愚かな作戦だろう。
愚かな指示だろう。
だが、

「オレは間違った事を言っているか!?自分一人の命も守れん奴がこんなとこにはいないよな!?
 ならばオレ達は誰一人死なん!ならば我らは最強の反乱者達だ!ならば無敵の無法者だ!」

歓声があがった。
そうだ!
そのとおりだと。

誰もが、
こんなところで拱いているのは本望じゃなかった。

「お前らも分かっていたようだな!ならば生きるぞ!我らの命などカスだ!だが死ぬにはまだ早い!
 今すべき方向性が分かったならば!ならば!見ろ!あの不恰好なデカい門を!!!」

ツヴァイは、
槍を、
真っ直ぐ。
真っ直ぐ。
その巨大な外門へ向ける。

「あの力の象徴のようなデカい門が我らが目指す入り口だ!文字通り、奴らの体内への入り口だ!
 オレ達は世界の癌だ!反乱する病原体だ!奴らの体内に入るぞ!あのデカい口を開けてやれ!
 この世の中をぶっ壊してやるぞ!あの外門を破壊し!活路を見い出せ!!!」

ツヴァイは、
今まで以上に深く息を吸い込み、

「逝くぞカス共!世界の二番手共!黄昏(トワイライト)のわずかな命を踏みしめろ!
 さすればあの仰々しい門は!その時我らの足元に崩れ落ちているだろう!
 世界を屈服させてやる時が来た!門を叩け!返事など聞いてやるな!
 今システム・オブ・ア・ダウンは始まる!戦争の始まりだ!世界を崩せ!!!!」

そして、
その長き槍を振り下ろした。

「死んでこいカス共ぉおおおお!!!!!!」

歓声。
咆哮。
荒々しい雄叫び。
雄雄しい叫び声。

世界の反抗期。
2000の反乱者達は、
一斉に、
地響きを唸らしながら、

走り出した。

あの馬鹿デカくムカつく外門へと。

「ウヒョォーっ!!来たぜ!!」
「ヒュゥ♪・・・・・絶景だ。ヤバいかもな」
「ヒャハッ・・・・・・だが・・・・・・・・・・守りきるぞ!!!」

黄色の宝石のアメット。
ヒャギが命令を叫ぶ。

「放てっ!!てめぇら!イエローシグナルを無視する奴らに警告を教えてやれっ!!!!」

地響き。
2000の勇者が、
外門へと突っ込む。
それは、
踏み出したという事は、

射程内。

城壁の上から、
魔術師達が一斉に魔法を放った。
斜めに撃ち落される魔術の数々。

アイスランス。
スリングストーン。
ウインドバイン。
ライトニングボルト。

数々のスペルが、
城壁から降り注がれる。

「ぐぁぁあ!!」
「ぐぅ・・・・」
「怯むな!」
「進め!!!」
「門を破壊しろっ!!!」

外門前広場に、
数々のスペルが着弾する。
事実、
どんどんと反乱者達がそれを食らい、
倒れていく。

だが烏合の衆とも呼べぬ、
その勢い止まらぬ反乱者達は、
そんな被害を無視するかのように突き進む。

「いいねぇ。粋だねぇ」

動かぬ団体が、
一つだけ。

「姉御っ!」
「姉さん!」
「俺達も行きやしょう!」

黒スーツのヤクザ達。
《昇竜会》

「分かってる。うちもな。燕龍(ヤンロン)になるためには、こんなとこで退く臆病者にはなれないよ。
 そんなリュウの親っさんの教えに背くような小心者はお呼びじゃないからねぇ!!」

今や極道の頭である、
若き女ヤクザは、
ヤクザ達の先頭で堂々としていた。

「うちらはなんだい?そう、極道。極めし道。曲がったことなんてぇあったならない極道だ。
 信念を貫く一本の牙。極道なら、極めし道を!自らの手で切り開かなきゃいけないっ!
 信念を曲げちゃいけない!それが仁義だ!仁言はいらない!それが義(よし)!!
 そして道なき道に、そこに壁があるならっ!極道を切り開け!極道を築け!!!」

ツバメも、
ツヴァイのように腹に力を込める。

「仁義を刻め!お前ら!!!!」

歓声と共に、
極道達は、道を走り出した。


































「ぐっ・・・」

今日何度目か。
明らかに力を出し切れていない。
戦術の差。

アジェトロは盾の配列に押し返された。

「・・・・笑止」
「参るな」

エイアグ、
フサムもそこに居る。
壁を崩せず、
そこに居る。

「応応!後ろを見な!奴らも来たぜ!」
「・・・・承知。見なくともわかる」
「大地が揺れている。声が轟いているからな」
「俺達もモタモタしてられねぇな!」

カプリコ三騎士はその大きな剣をまた構える。
実力では上回ってるはずが、
切り開けない。
そんな事があってはならない。

「貴様ら」

エイアグは、
背後で反乱軍が迫って来ているのを尻目に、
声を投げかける。

外門守備部隊が、
ヒャギ、
ヒューゴ、
ヒョウガに。

「お前らの強さの源はなんだ」

エイアグは聞く。
それは、
心からの問い。

自分達をも押さえつける、
敬意さえ表するべき敵に。

「ヒュゥ・・・・力の源だぁ?」
「そんなの決まってらぁ」
「・・・・・・・ヒャハッ!"守るべきものがある"。それだけだ」

反乱軍が迫ってくる。
爆撃のように城壁からスペルが降り注いでいる。
それでも、
それから逃れた奴らはこの外門に押し寄せるだろう。

それでも、
三人の守備部隊長は冷静だった。

「守るべきものがある者は負けない」

「守るべきもの」
「それはお前らの背後にある、」
「その鉄クズと木屑のデカいだけの門か?」

「そうだ」
「そしてそうであって・・・・そうではない」
「俺達が守るべきものは、この外門であって、この外門ではない」

反乱軍が、
大群として押し寄せる中、

三人の部隊長と、
三匹の魔物騎士は対峙し、
声を放つ。

「俺達はこれまで、この外門を守った事などほとんどなかった」
「・・・・ヒュゥ♪・・・攻城戦では基本的に、『ノック・ザ・ドアー』が外門を破壊しちまうからだ」
「ウヒョォ♪だけど今回は守れる!!最高だ!」

「守った事がない?」
「この門の守備部隊なのだろう?」
「外門の守備部隊でありながら、この門の守備の素人だというのか」

「ヒャハッ!だが俺達の仕事だ!」

赤と、
青と、
黄色の部隊長は、
嬉しそうだった。

「外門を守る事は、もちろん、このルアス城を、騎士団を守る事に繋がる」
「ヒュゥ・・・・もちろん騎士団の誇りを守る事にもなる」
「そりゃぁ俄然やる気も出るってもんだ。守り甲斐があるってもんだ!」
「だが」
「俺達が守りたいものは他にある」
「俺達が本当に守りたいものは・・・・・・・・・・"家族"だ」

反乱軍が押し寄せる。
それまでのひと時。
三人の部隊長は、
語った。

「俺達は貧乏だった」
「・・・・ヒャハッ・・・・極寒のレビアの地」
「20畳の家で、50人の家族が育った」

三人の部隊長は、
強き目をしていた。

「寝るときは人が重なった」
「食事は一般家庭の1/3の量を、一日一食とれるかどうかだった」
「雪国なのに靴も買えない兄弟」
「もう衰えて動けないジジババ」
「どう血が繋がってるかも分からない両親が10人」
「明日生きてるかも分からない俺達50人の家族はそれでも身を寄せ合って耐えた」

押し寄せる大群に、
恐怖のカケラもない。

「その中で!」
「俺達三人だけが!」
「家族の希望としてレビアを後にした!」
「ヒャハッ!!俺達は守れなくちゃぁいけない!!」
「家族を!」
「俺達が守りたいものは家族だ!」

ヒョウガが、
片手を外門へ向けた。

「俺達は手に入れた!大きな金を手にする仕事を!」
「・・・・・ウヒョォ・・・・だが・・・今までは守れなかった・・・・この外門を・・・・」
「だが!俺達は失うわけにはいかない!この外門を!」
「この仕事を!」
「この使命を!」
「この外門を守る事は!故郷の家族を守る事なんだ!」
「俺達はこの外門を守るという役目を!仕事を真っ当し!」
「金を稼ぐ!」
「そしてその金で家族を守る!絶対に失うわけにはいかない!」

三人の部隊長は、
殺意にも似た、
決心のような強き決意を放った。

守るべき、
心の強さ。

「俺達の夢は!親にいい服を買って与えてやることだ!」
「俺達のやるべき事は!ジジババ達に!デケェ家を買ってやる事だ!」
「俺達が守るべきものは!ただ!毎日兄弟に思う存分腹いっぱい飯を食わせてやることだけだっ!」
「「「だから守る!それだけだ!」」」

彼らの信念は、
やはり、
敬意に値するものだった。

「・・・・堅いわけだ」
「難いわけだ」
「強いわけだ」

三騎士は、
納得し、
敵に敬意を評し、
笑った。

「失うには惜しい者達だ」
「だが、我らとて退けない」
「その門・・・・・もらうぞ」

三騎士は、
剣を合わせた。
その大きな剣を、
合わせた。

何かの決意表明のようにも見えた。

だが違った。

三騎士の背後から、
群を抜け出す一つの影。

「いいぞカス共」

漆黒の、
影。

「はあっ!!」

白馬に跨った、
漆黒の最強は、
蹄を鳴らし、
跳んだ。

「おらぁっ!」
「・・・・承知!」
「いけ」

ツヴァイ。
そのエルモアの蹄は、
合わさった三騎士の剣の上に着地し、
そして三騎士は、

それを押し上げ、跳ね飛ばした。

純白の白馬に乗った、
漆黒の乙女は、

敵を飛び越え、天を舞った。

「なっ!?」
「ウヒョー!やべぇ!!!」

だが、
どうしようもなかった。
空を舞った漆黒の二番手は、
もう止めようが無く。

「まずは序章だ」

空中で、
その、
その目の前に立ちはだかる巨大な外門へと。

「砕けろっ!!!」

槍を突き出した。

「らぁああっ!!!」

ツヴァイの槍は、
外門のど真ん中を・・・・・貫いた。
まるで巨大な弾丸のようだった。

厚さだけでも何メートルもあるその屈強なる外門の、
中心を、

貫いた。

「チィ・・・・」

だが、
されど槍。
ツヴァイがどれだけ凄かろうと、
突きだ。

鉄橋より分厚いその外門の真ん中に、
半径1mほどの大穴を空け、
半径5mほど、大きなクレーター状にメキメキとへこましただけに終わった。

もちろんその威力自体は、
大砲何十発分にも値する一撃で、
外門の中心部分だけならば半壊状態までに持っていく壮大な一撃だったが・・・・・

それでも、
巨大すぎる外門を崩すには、
まだ全然足りなかった。

「ヒュゥ・・・助かった・・・・か」
「安心するのは早い!あれを何発かもらったらヤバい!」
「崩させるかよっ!!守るんだ!!」

外門への攻撃から落ちてきたツヴァイに、
三人の部隊長。
ヒャギ、
ヒューゴ、
ヒョウガは一斉に飛び掛る。
三つの槍がツヴァイを襲う。

「・・・・ふん」

その三つを、
ツヴァイは一つの盾で同時受ける。

「ぬっ?」

そして、
退いたのは、
ツヴァイの方だった。

「チッ・・・」

ダメージ自体はない。
だが、
エルモアの足で距離を取る。

そして盾を持つ手。
その手は、
ジンジンと痺れていた。
一時的に言う事が効かないほどに。

「なるほど・・・・やはり部隊長レベルも複数となると、オレも楽観視して戦えるものではないか」

少し考え、
ツヴァイは一度退いた。
退いたというのは、
逃げたという意味ではなかった。

また助走をつけ、
外門へと飛び掛る選択を選んだのだ。

他のものに出来なくとも、
自分に出来る事。
ツヴァイはそちらを選ぶようになっていた。

「ウヒョォ・・・・なんとか凌いだな」
「だが次が来る」
「ヒュゥ・・・・寿命が縮むぜ。・・・ま、俺達もう死んでるわけだけどな」
「ヒャハッ、そんなの関係ねぇよ」
「死んでようが、金は稼げる」
「この外門を守る仕事を真っ当し、家族を守る」

守るべきものがあるから、
彼らは一瞬たりとも気圧される事はなかった。

「・・・・おいっ!」

その時だった。

ヒョウガが気付いた。
それに伴い、
ヒューゴとヒャギも気付く。

「兵が一匹・・・」
「吹っ飛ばされているぞ!」

それは・・・・
ヒューゴの部隊。
盾を司る、
盾にて外門を守る、
鉄壁の赤組。

その一人が、
宙を舞っていて・・・・

「うがっ!!」

城門へとぶつかった。
まるで大砲のように飛び、
外門へぶつかり、
張り付けにされたようだった。

そのままズルりと落ちる。

「壁が一枚破られたぞ!」
「フォローは出来ているか!?」
「全体整列!!」

ヒューゴの一声の前に、
すでに盾部隊の陣形の組みなおしは終わっていた。
もうまた隙間無く、
盾は外門の前に立ち並んでいた。

「・・・・大丈夫そうだ」
「だが誰が俺の鉄壁の一枚を崩しやがった!」

見据えると、
まだ大群はここまで辿り着いていない。
ヒャギの部隊。
城壁の上の魔術師達。
黄組の功績で時間はなかなかに稼げているようだ。

「ならば誰が・・・」
「三騎士か?」

いや違った。
違ったが、
似て非なるもの。

「へへーん!」

それは、
小さな体の少年。
狼帽子をかぶった少年だった。
さらに小さなカプリコを背負った小さな小さな少年。

「どうだぁ!ぼくの力!」

それは、
小さな小さな体で、
大きな大きなカプリコハンマーを担いだ少年。
ロッキーだった。

「やっつけちゃうぞ!!」

無邪気な小さな爆弾は、
そう笑った。

「ロッキー!」
「下がれ!」
「攻撃がくるぞ!」

「え?え?」

三騎士の一斉の助言で、
ロッキーは慌てて、
鬼ごっこで鬼から逃げるように後ろへ走った。

「青組!逃がすな!」

同時、
盾の隙間から、
槍が一斉に突き出てくる。

「あ・あ・あ・・・あぶなかったぁ〜〜〜〜!」

本当に驚いたように、
無邪気に、
ロッキーは表情豊かだった。

「・・・チッ・・・なんだあのガキは・・・」
「あれだ。懸賞金が出てた」
「カプリコ三騎士の養子。『ロコ・スタンプ』か」

「へへーん♪」

ロッキーは、
嬉しそうにVサインを小さな指で掲げた。

「ぼくだってやればできるんだよぉ〜〜!」

「ロッキー!」
「お前は出てくるな!危ねぇ!」
「・・・・コロラドを守ってろ」

「パパッ!」

ロッキーは、
小さな白い歯を見せながら、
無邪気にニィー・・・と笑う。

「だいじょうぶだよっ!あの門を壊せばいいんでしょ〜?」

ロッキーは、
小さな小さな人差し指を向ける。
巨大な巨大な外門へ。

「まかせてよっ!」

そして、
ロッキーは、

カプリコハンマーを担いだ。

「狙って狙ってぇ〜〜〜。ぴぴぴぴぴぴぴ〜」

担いだといっても、
それは、
槌の部分をだ。
タイコを肩に担ぐように。

いや、
まるでそれは・・・・・

「チェスターはどーんな風にこのおっきな、おっ・・・・きな門を壊してたのかなぁ〜?」

大砲を担いでいるかのような姿だった。

「決まってるよねっ!」

ロッキーは、
カプリコハンマーの腹の部分を、
その外門へ向けた。
ハンマーの腹にはフェイスオーブ。
オリオールの顔が向けられていた。

「いっくよぉー!ぼく大砲はっしゃぁ〜〜!」

そしてロッキーは、
その大砲(カプハン)から、

「"どっかぁぁぁ〜〜〜〜ん"」

撃ち放った。

「わわわっ!」

ロッキーの小さな体は、
大砲を撃ち放った拍子に、
後ろに大きく反動で跳んで尻餅をついた。

そして大砲。
その弾。
それは当然スペル。
そして弾といっても、
弾は見えない。

ロッキーが撃ち放つと同時に、
それは、
外門に着弾した。

「たぁ〜〜まやぁ〜〜〜♪あははははっ」

カプハンを地面に転がしたまま、
尻餅をついたまま、
小さな両手で大きくパチパチと手を叩いて喜んだ。

それは、
バーストウェーブ。
カプハンを大砲代わりにして撃ち放ったのだった。

「なっ!?クソッ!」
「ウヒョォ!いきなり外門に二発目を食らったぞ!」
「・・・・結構な威力だぜ・・・あのチビ助」

それはそうだった。
ロッキーの容姿からは想像がつかないだろう。
だが、
メッツが居ない今。
チェスターが居ない今。

事実上・・・・・・《MD》の最大火力はこのロッキーなのだから。

「よぉーし!もう一発いっちゃうよぉー!」

ぴょこんと起き上がり、
カプハンを拾い上げ、
ロッキーはまたその身なりには大きすぎるカプリコハンマーを大砲のように担ぐ。

「ジャスティンが言ってたんだ〜。こ〜いう時は〜、今夜は寝かせないよ〜って言うんだよ〜」
「・・・ウロ・・・ネルルニナノ!」
「え〜?違うのオリオール〜」

いや、
このオリオールと完全に力を合わせている今、
メッツらを含めたとしても・・・・

ロッキーの火力はトップといっても過言ではなかった。

「ぴぴぴぴぴぴぴぴ〜」

照準を合わせてる雰囲気の音なのだろう。
声に出すのが可愛らしい。
もとより外門は大き過ぎて照準を合わす必要もないわけだが。

「ぼく爆弾はっしゃ準備かんりょぉ〜〜。周りに注意〜〜。
 右みて〜左みて〜もっかい右みてぇ〜・・・・手を上げて!よぉし!」

「ロッキー!」
「コロラドっ!?」

「あえ?」
「あう〜」

三騎士が横から飛び出してきた。
飛び出してきて、
ロッキーとコロラドを攫うように拾い上げる。

「わわっ!」

それでも撃ち出されたバーストウェーブの大砲は、
照準を逸れ、
外門の端の方に着弾した。

それとは別に、
ロッキーが居た場所。
そこには無数の魔法が降り注いだ。

三騎士達が拾い上げなければロッキーは魔法の餌食になっていた。

「ヒャハッ・・・避けられちまったぜ」
「頼むぜヒャギ。・・・・こっちの遠距離攻撃はてめぇしかないんだからな」
「分かってるってのヒューゴ。お前もちゃんと守れよ」
「ウッヒョー!ヒャギ!ヒューゴ!俺も役に立ちたいぜ!」
「分かってる。だが今まず狙うなら・・・・」

三人の部隊長の目は、
一点に集まる。

それは小柄なロッキー。

「三騎士でもなく、ツヴァイでもなく、あの小僧だ」
「ヒュゥ・・・ツヴァイは元より止めきるのが困難だからな」
「三騎士は抑えられるしな」
「だがあのロコ・スタンプ。威力と射撃速度。外門への被害に関してはツヴァイ以上だ」

まずはロッキーから。
まずは抑えなければいけない。

「カスがっ!!!」

いつの間にかまたツヴァイが戻ってきていた。
今度は自力のジャンプ。
エルモアの跳躍力。
盾部隊と槍部隊を飛び越え、

外門へ空中突撃する。

「ヒャギッ!ヒョウガ!!」
「分かってる!」
「行け!ヒューゴ!」

今度は逆だった。
三人の部隊長が、仲間を空中へ押し上げる。

守りの部隊長。
ヒューゴが空中へ、
ヒャギとヒョウガの手によって投げ出される。

「絶対に守ってみせる!!」

「ぬっ・・・」

ヒューゴは盾しかもっていなかった。
だが、
ツヴァイにとっても不意を突かれた形で、
ヒューゴはそのまま空中でツヴァイとぶつかった。

倒しても倒されてもいない。
だがそれでいい。

とにかく外門へ攻撃されなければ、
それでいい。

「チッ・・・・」

ツヴァイは着地し、
また軽やかに助走を付けていく。

「クソッ・・・あいつ・・・」

ヒューゴは地面に不時着し、
少々の痛みを抑えながら、
ツヴァイの後ろ姿を見送る。

「また助走をつけに行った・・・・」
「あぁ分かってる」
「あいつは"外門の中心しか狙っていない"」

ツヴァイの狙い。
それは無闇に外門を狙うのでない。
最初に与えた一撃。
外門のど真ん中。

そこから一気にぶち壊す。

「ロッキー」

「はぁーい!」

三騎士達の後ろで、
ロッキーは元気に手を上げた。

エイアグはロッキーから受け取ったコロラドを大事そうに抱きかかえながら言う。

「お前もあの者と同じく、外門の中心を狙え」
「一番狙いやすい部分だ。そして破壊しやすい部分でもある」

「分かったよぉ〜!ぼくに任せとけば目からウココなんだから!」

「・・・・?」
「言葉も違うし意味も違うぞ」
「・・・・・応応!だけどよぉ!」

アジェトロが見上げる。
遥か高き城壁。
そこに立ち並ぶ魔術師。

「奴らが居たら自由に動く事もできねぇ」
「・・・・承知。あちらから狙うべきではないか?」
「ザコはザコに任せよう。もうすぐ"群れ"も外門下にぶつかる。
 やつらの中の魔術師が排除してくれるだろう」

だが、
やはりカプリコ。
戦術面においては甘い考えだった。

上と下。
そして防壁。
この差は大きい。

《メイジプール》が到着していない今、
魔術師の質はたかが知れている。
中の上。
その程度の魔術師しかいない。

城壁の上の魔術師達を相手にするには分が悪かった。

「だいじょうぶだよ〜〜!」

嬉しそうに、
ロッキーは両手をあげながら飛び跳ねる。

「ぼくにはね。仲間がいるんだから〜!」

三騎士がロッキーの言葉の意味に疑問をもとうとした次の瞬間。

「なっ!?」
「ヒャハッ!?」
「なんだ!」

外門に煙。
何かが着弾した。
中規模の何かが、
外門へと着弾した。

「アッハハハッ!!!」

人によっては、
ソレを天使か何かが舞い降りたように見えたかもしれない。
いや、
そのブロンドの長髪が空中できめ細かく広がる様は、

翼というよりも羽。

女神というよりは女王蜂。

「マリナさん参上♪」

途端と地面に着地するマリナ。
ギターを抱えた女神は、
真っ赤なドレスを着ていた。

「焼き加減はどうだったかしら?あら、まだまだだったみたいね。残念。
 だけどマリナさんにかかればチョチョイのチョイでクッキングよ!
 メニューの名前は・・・・そうねぇ・・・・」

マリナは唇に指を添えてフフッと笑う。

「外門のジャムトーストね。でも焦げちゃったらゴメンネ♪」

そしてマリナは、
目線を上にあげ、
見渡す。

「でも、ココの"パンの耳"はマーガリンでも美味しく料理できそうにないわ」

そして、
ドレスを着た女王蜂は、
ギターの銃口を・・・・・城壁へと向けた。

「まずは下ごしらえってところね!!」

そして、
銃口は光った。
マズルフラッシュ。
そして放たれる幾多の弾丸。
それが城壁へと乱射される。

「だっだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!」

狙いは上手いとは言い難い。
乱射。
数撃ちゃ当たるのポリシー通り、
弾は天へ消えていったり、
城壁にぶち当たったり、
お粗末なものだったが、

城壁の上の魔術師達は女王蜂の攻撃で"蜂の巣"を散らした状態だった。
幾分か確実に仕留め、
魔術師の攻撃をし難くはしている。

「だっだだだだだだだだだだだだだっ!!!」

そして当の女王蜂はというと、

「だぁーいなみぃーっく!!!」

楽しそうに嬉しそうに銃を乱射していた。
何かしらよほどストレスが溜まっていたのか、
鬱憤を晴らすかのような心地いい乱射だった。


「マ、マリナ殿!」

遅れて追いかけてくるのは、
当然、
イスカ。

「一人で先に行かれるな!拙者はマリナ殿ほど身軽では・・・うぐっ・・・おっ・・・」

そして、
追いかけてくるイスカは苦しそうだ。

「まっ・・・むぎゅっ・・・・くぅ・・・・・」

イスカは、
人ごみに紛れていた。
溶け込んでいた。
いやまぁ、
巻き込まれていた。

「お・・ぐ・・・ど、どけお主ら・・・」

勢いのままに突撃する反乱軍の中の、
さらにどう運が転ぶのか一番密集地帯。
イスカはそれに巻き込まれていた。

「拙者はマリナ殿を守っ・・・・」

守りたいという意思だけは、
ここに居る者達の中でも抜けていたが、
無残にも人ごみに押しつぶされていた。

「なぁ〜にやってんだか」

マリナはギターを地面に付け、
呆れ顔でため息をついた。

「マァ〜リナ〜〜♪」

そんなマリナにロッキーが飛びつく。

「ちょ、ちょっとロッキー君?戦場で戯れないの」
「マァ〜リナァ〜♪」
「もぉ・・・」

しょうがなく、
マリナはロッキーを胸に抱えた。

「マァ〜リナァ〜・・・どのぉ〜〜・・・」

ロッキーとは打って変わって、
イスカは集団の中でゾンビのように手を伸ばしていた。
マリナは見ていられないといった顔つきで、
顔を手で覆った。

「何はともあれ・・・といったところか」

そんなマリナの前に、
エルモアに跨ったツヴァイが立った。

そう。
何はともあれだ。
イスカがモミクチャにされているのでも分かるように。

魔術師達の攻撃を突破し、

反乱軍の群れは辿り着いた。

この、外門へ。

「さて、ゴングが鳴り響く時間だ」

外門守備兵達が立ち並ぶその前で、
エルモアに乗ったツヴァイは、誰にともなく言う。

「このデカい門がオレの足元に這い蹲る時が楽しみでしょうがない」

そのツヴァイを飲み込むように。
反乱者達の群れが、
大群が、
ツヴァイの脇を通り過ぎていった。
飲み込んでいった。

「さて」

ツヴァイの後ろを、
前を、
右を、
左を、

2000の反乱分子が通り過ぎ、
勢いと志だけの強き勇者達が、

外門を守るべく配列する、
盾に、
槍に、

「ドアをノックする時間だ」

雄叫びと共に勢いよくぶつかった。

「世界を崩す時が来た」

2000と300が、ぶつかった。

「攻城戦の始まりだ」

古き世界を守る者達と、
新しき世界を手に入れようとする者達が、

ぶつかった。

「戦争の開戦だ」

世界を守ろうとする者達と、
マイソシアを守ろうとする者達が、

ぶつかった。

「カス共っ!!この愛するマイソシアを、崩れた世界を踏みしめてやれっ!!」

世界の象徴、
ルアス城が入り口外門が下で、

骨が砕け散るが勢いで、
血肉と体が弾け飛ぶ勢いで、

志が違(たが)う、
守るべきものが違(たが)う、

正義と正義が、

・・・・・・・・・・衝突した。



「System Of A Down Too・・・・・・第二次終焉戦争(SOAD2)の始まりだ」





"人は何故戦う"

何かを守るため。

それだけが戦う理由だ。





                 






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