ルアスの街だったと思う。
いや、
正直俺はあの頃、
ルアスの街しか知らなかったから、
ルアスしか世界が無かったと思ってた。
それくらいガキんちょの頃だ。

「うっぐ・・・うっぐ・・・・」

俺は泣いていたと思う。
ルアスの街を泣きじゃくって歩いていた。
"泣く子は99番街(ゴミ箱)に捨てちゃうぞ"
そんな事を言われて育ったが、

「うっぐ・・・・うう・・・」

俺はこのまま、
街を迷い、
きっとその99番街というスラム街に流れ、
そのまま死ぬんだと思ってた。

「パパちゃん・・・・ママちゃん・・・・」

どちらも死んだ。
どんな理由かというと、
実験体だ。
俺はそうやって生まれてきた。
父も、
母も。

「僕は死ぬ・・・死んじゃうんだ・・・パパちゃんやママちゃんみたいに・・・・」

泣くのはやめない。
泣くしかできない。
そうやって、
一人身で、
俺はルアスの街中を徘徊していた。
路地裏を探して歩き回っていた。

そうしたら、
一人の身なりのいい親父が、
俺の前に立って、
俺の小さな体を影で覆ったんだ。

「坊や。迷子かい?」

優しそうなヒゲを蓄えたその親父は、
俺の前で目線を下げ、
聞いてきた。

「迷子なんかじゃない・・・・僕は死ぬんだ・・・・」

「おかしな事を言う。生きてるじゃないか。パパとママは?」

「死んじゃった・・・・」

俺は泣き出したと思う。
大声で。

「パパちゃんもママちゃんも"道具"にされて死んじゃったぁぁああ!
 僕も・・・僕も・・・・あいつらにそうさせられて死んじゃうんだぁぁあああ!」

自分で思い出してみても、
殴りたくなるムカツク子供だったと思う。
メソメソ泣くなよ。

「そうか・・・・悪い事をきいた」

その身なりのいい親父は、
それなのに嫌な顔一つせず、
俺の頭に手を置いた。
それが暖かくて、
俺は少し泣き止んだ覚えがある。

「坊や。名前は?」

「・・・うぐ・・・えっぐ・・・・」

それでもメソメソ泣いていた。
泣き止みたくても、
怖くて涙が溢れた。
でもその人の手が暖かくて、
少し落ちついて、
それでも泣き止まなくて、
メソメソとムカツク昔の俺は、

「エドガー・・・・」

鼻水垂らしながら、
なんとか言った。

「エドガー・・・ガンマレイ・・・・」

名前を聞くと、
その身なりのいい親父は、
ため息に似た息を漏らした。

「"γ線のエドガー"か・・・・最近流行りのモルモットベイビーなのは間違いなさそうだな・・・・」

名前を聞いただけで、
同情したように、
その親父は言った。
そして俺を不安がらせないように笑った。

「それでルアスの52番街から逃げてきたのか」

なんでこの親父はそこまで知っているんだろう。
やはりあそこはそぉいう場所なのか。

「逃げてきたなんて最低だな。坊主」

「う・・・」

優しいと思っていたその親父から、
いきなり辛らつな言葉が襲い掛かってきた。
正直、
泣いていた俺は、
涙さえも止まってしまった。

「お前が逃げた理由を教えてやろうか?エドガー」

「・・・・・」

なんでそんなに詳しいかはわからないが、
その親父は俺を古くからの知人のように言ってくる。

俺は頷いた。
彼は答えた。

「怖かったからだ」

そんなの知ってる。
死ぬのは怖い。
痛いのは怖い。
怖いんだ。

「立ち向かう事。留まる事。戦う事。それらはお前にとって怖かったからだ。
 そしてそれは何故だと思う?・・・・・フフッ。まぁそこまで子供に問うのもナンだな」

身なりのいい親父は、
そう言って笑った。

「それはな。お前が"命の価値"を知っているからだ。
 脳みそのない野獣なら戦っただろう。考えを持たない機械なら戦っただろう。
 だがお前が戦わずに逃げたのは、命の価値を自分で知ってしまったからだ」

命を、
失う事が怖かったからだ。

「・・・そんなの・・・・怖いに決まってるじゃないか・・・・」

「エドガー。だけど君は本当は・・・・戦いたかったんじゃなかったんじゃないかい?」

その親父は、
穏やかに、
包み込むように、
そして、
俺の心を見透かして言った。

俺は、
涙目で頷いた。

「そうだろう。戦い方なんて分からないが、君は君のパパとママのために戦いたかった」

「・・・・うん」

「でも、君は命を失うのが怖かった。命の価値を知ってしまっている年だからだ。
 戦う時、頭の中に"天秤"が現れる。自分の命。そして戦い。秤にかけてしまう。
 その時分かる。戦っても勝てない。命に見合わない。命を失いたくない。怖い」

恐怖で、
そして、
命の欲しさに逃げ出した時を思い出す。
恐怖が・・・
蘇る。

「怖がるな」

それを止めるように、
その身なりのいい親父は、
俺の頭に手を置いた。

「その・・・逃げ出してしまうような最低な命なんて"捨ててしまえ"エドガー」

「命を・・・・」

「俺がお前に"値札"をつけてやる」

値・・・・札?

「それで迷いは無くなる。全て金に還元しろ。全ての事柄を金儲けにしろ。
 そうすれば恐怖は無くなる。金と事象だけを天秤にかけるんだ。
 釣り合わなければやらない。金の方が重い時は迷わず戦え」

簡単だろ?
命なんてあやふやで確実に大事なものより、
金は価値がキッパリしていて、
そして数字で現れる。
とても、
とても簡単だ。

親父は笑った。

「たった一つの命なんてかけるから怖くなる」

「迷わなくなるためには・・・・」

俺は、
そこで聞いてしまった事が全ての始まりだったんだと思う。

「僕がお金になればいいの?」

「いーや。お前は商品だ。値札の付いたな」

その親父は、
俺の頭に手を置いたままだった。

「だが、だからこそ選択肢はある。そんな道を選ぶか否か。
 ・・・お前が決めるんだエドガー。釣り合わないならやめておけばいい。
 命は投げ捨てるものだが、投げ捨てるには少しもったいないものだからな」

「オジちゃんは・・・・」

そこで始まっていたから、
すでに俺は引き返せないところまで、
その親父に魅了されていたんだろう。

「いくらで僕を買ってくれる?」

「100グロッドだ」

決めていたかのように、
その穏やかな親父は言い放った。
迷いなく。

「割に合わないよ・・・・」

「ほほぉ。それはやめておくと言う意味か?それともさらに俺から金額をもぎ取ろうとしておるのか。
 後者だったらお前は立派な傭兵(商品)になれるだろうな。有限実行さえ破らなければ・・・・」

「違うよ」

いつの間にか、
俺の目には涙は無かったと思う。
その時点で、
少なくとも流すのをやめていた。

「10グロッドでいい。パパちゃんもママちゃんも捨てた僕に100グロッドは高すぎる」

「・・・・・・自分に厳しいイイ信念だ。・・・だが違うぞエドガー」

クシャクシャと、
その親父は俺の頭を撫でむしった。

「今のお前のセリフはカッコいいが、商品として生きる覚悟があるならもっとカッコいいのがある。
 お前が自分自身をたったガム一切れの・・・・・たった10グロッドだと評価できる器があるならな。
 ・・・・・黙って受け取っておけばいい。それで見返してやればいい。その時こう言ってやるんだ」

親父は、
指を銃に見立て、
俺に突きつけてウインクした。

「釣りはいらねぇ。とっときな・・・・てな」

その時分かった。
この親父には、
自信がある。
「その金額なら、この俺の値段にしたら釣りがキチまうぜ」
・・・・なぁーんて。
そんな事を平気で言える自信があるんだ。
俺のように釣りあいを考えて逃げる事もない。
自分を数値化して、あまりにも世界が分かっている。
全ての物事が数字(金額)に見えているのだろう。
怖いものがあるはずがない。

「エドガー。俺の息子となり、商品(傭兵)になる覚悟はあるか?」

「傭兵・・・・」

それが、
金に命を放り込んだ者の呼び名か。
俺はその時理解した。

「怖いか?命を放り捨てるのが」

「怖くないよ」

俺は、
その時、
生まれて一番の強い目をしていたに違いない。

「俺の命なんて・・・・たかだか10グロッドなんだから」

怖さなんて、
この世には無かった。

「そうか。良かったな。恐怖を捨てれたじゃないか」

その親父は、
俺に微笑んだ。

説明の一つさえしていなかったのに、
この親父は分かっていたんだ。

ただ泣いてるだけのガキを見ただけで、
そのガキが、
恐怖を捨てたがってた事を。
本当は、
命を放り捨てて戦う勇気を欲しがっていた事を。

なんの説明も無しに理解していたんだ。

だから声をかけて、
拾った。
買った。

「γ線のエドガー。君の命は利用されるために生まれた。ルアス52番街はそういう街だからな。
 君の存在自体は変わらないかもしれない。いや、人間は変われない。だけど意味を付け加える事は出来る。
 だがこれからの君は、消費物ではない。商品だ。値札が付いたんだよ。君には」

値札。
俺の、
命の値段。

「利用されるのと、求められるのは違う」

親父は、
俺の額に拳を軽く突きつけた。
軽くだが、
力強く。

「君の命はこの俺が買った。今日から君は我が息子だ。
 名前はそうだな。・・・・・エドガイ。エドガイ=カイ=ガンマレイだ」

「・・・カイ?」

「俺はこの身一つでミドルネームを付けられるほどの金と権力を得たんだ。気に入ったかい?」

「・・・・・エドガイ」

「エドガイ(エドッコ)。和文化オレンの街で言うところの、粋な男って意味さ。
 ミドルネームに関しては・・・・"勝ち取ってくれ"。契約切れと共に返してもらう。
 うちには君と同じようなガキが大勢いるんだ。俺の本当の息子はその中で一人だけにするつもりだ」

「自分の価値を上げろ・・・ってことだね」

「そうさ。俺が買ったんだ。それに見合う男になってくれよ?」

やはり親父は微笑んだから、

「誰に向かって言ってるのさ。"親父(パパ)"」

俺はカッコつけて、返してやったんだ。

「値段を超えるいい買い物したと思うよ。釣りはいらない。とっときな。・・・・だね」

「ナマイキな商品だ!」

親父は俺の頭をクシャクシャと撫でた。
本当に、
この親父が、
俺の親父になった。

拾った俺を、
買い取ってくれたんだ。

命を投げ捨てた俺に、
権利なんてない。
買った奴のために使おう。
そう誓った。
だけど誰にでも尻尾を振る"安い男"にはならない。
どんな事にでも釣りが余るぐらいの男になってやる。


その日、
俺の右頬にはバーコード(値札)が付いた。


































「おいボス?ボス!!」

「ぁー?」

呼ばれて気付き、
エドガイは体を起こした。

「何ボォーっとしてんだよ」
「これから戦争に巻き込まれようって時にさ」
「我らがボスって立場なんだからちゃんとして欲しいぜ」

「悪ぃ悪ぃ・・・よっと」

エドガイは首をグリグリと回し、
肩を軽くストレッチした。

「俺ちゃん、ちぃと昔を思い出してた」

「昔ぃ?」
「へへっ。俺達(キョーダイ)の思い出か?」

「いーや。ビッグパパ(親父)のさ」

エドガイはベロォンと舌を出して軽くニヤけた。
舌の先にはピアスが光る。

「親父。親父ねぇ」
「私達みんなのビッグパパ」
「だけど今はあんたの親父だ」
「だからてめぇが"ボス"なんだからな」

「わぁーってるよ。部下に舐められちゃぁ、俺ちゃんマジ涙目だぜ」

ベロォンと、
また舌を出しておどける。

風が吹き抜けた。
エドガイの顔の右半分を隠す前髪が、
ソッとカーテンのように揺れると、
右頬に刻まれるバーコード。

そしてそれは、
ここにいる仲間(はした金)達も同じだ。

「ボス。てめぇがボォーっとしてる間に連絡が来たぜ」
「別行動してる奴らからだ」
「そろそろ・・・行こうかってところかしら」

「ヴァーカ」

舌を出すのをやめず、
掴めない笑顔でエドガイは言う。

「それを決めるのは俺ちゃんだ。俺ちゃんがボスで、てめぇらは俺ちゃんが買ったんだからな」

「あぁーいよー」
「んで?」

「・・・・行くぜ。ドライブスルーワーカーズ(後腐れの無い仕事人達)よぉ。
 世界が俺ちゃんらを買ってるぜ。サァーと言え。サァーと。おら行くぜ!!!!」

「「「「「「サー!イエス!サー!!」」」」」」

切り替わるような、
完全な統率のとれた返事。

その中でエドガイはヘラヘラと歩き、
腰にぶら下げたアスタシャが、
ルアスの石畳をガリガリと引きずり削った。

「ほぉーれ仕事だ」

「サー!」

「労働は尊い。テキパキ動こうぜ」

「サー!イエッサー!」

ヘラヘラ動くエドガイに反し、
周りの傭兵達の動きは、
それは熟練されたもので、
全ての者が別々の動きをしているのに、
まるでコンピューターでプログラミングされたかのようだった。


ルアスの街の路地裏。
傭兵の団体が、
一匹の獣のように動く。

「ロイ!マグナ!」

獣の頭が命令を出す。

「「サー!」」

バーコード付きの傭兵二人が、
同時に飛び込み、
転がる。
そして、
合わせたかのように身を伏せる。

そこは路地裏から出るか出ないか、
路地裏から大通りを双方が見渡すように、
壁際から観察する。

「クリア!」
「異常無し!」

路地裏の切れ目で、
二人の傭兵が叫ぶ。

「おーっし。行くぜテメェら!GO!だ!叫べ!GO!」

エドガイを先頭に、
傭兵の一団が路地裏から飛び出す。
路地裏から大通りを見張った二人は、ひと時残り、
警戒をしながら仲間が通り過ぎていくのを待つ。

別の3名ほどが、
仲間達が大通りに飛び出していくのと逆を見て後ずさり。
仲間の後方を守り、
警戒しながら、

「後方OK!」
「ムーブ!ムーブ!」
「ゴーゴーゴー!!!!」

大通りを警戒していた二人の肩を叩き、
全員が走り出し、
大通りを横断する。

「ふぃい・・・・」

エドガイが大通りを横断し、
一番乗りで逆の路地へ入ると、
それを乗り越えるように2名の傭兵が、
路地裏の先へ滑り込み、
お互いをフォローし合うように武器を構える。

「異常ねぇぞ」
「クリア!」

それでも一片の隙も見せず、
路地の奥を警戒しながら、
仲間が全員大通りを横断してくるのを待つ。

「いいねぇいいねぇ、鈍ってないねぇ」

ヘラヘラとエドガイが言う中、
続々と仲間達が路地裏に飛び込んでくる。
そして

「後方異常無しよ!」

最後の仲間がそれでも後方を警戒しながら路地裏に侵入する。

「おーし。行け行け!ゴーだ。ゴーゴーゴー!」

「サー!」
「サーイエスサー!!」
「ゴーだ!」
「ゴーゴー!!」

路地裏を、
戦争のプロ達が進軍する。

「十字路(神様)だ!カバー!」
「OK」

路地裏を進むと、
十字路が現れる。
先頭の二人がやはり各々に動く。

右を走っていた者が、
十字路前の右壁に背を当て、
左を入っていた者が、
十字路前の左壁に背を当て、

「・・・・」
「・・・・」

右の壁に背をつけていたものが、
左の路地を、
左の壁に背をつけていたものが、
右の路地を、
それぞれがカバーするように様子を見た後。

「「ムーブ!!」」

同時に振り返って各々側の十字路へ武器を構えて飛び出す。

「ライトクリア!」
「左、異常ねぇよ!」

「OK。OKだ。てめぇら進め。ほれ進め」

「「「サー!イエスサー!!」」」

左と右の路地を、
一人ずつが警戒したまま、
他の者が直進していく。

「ゴーゴーゴー!!」

路地裏を進む傭兵達。
最後尾は最後尾で、
背中を向けながら進軍する。
前の者は前しか見ない。
十字路を通り過ぎる時に、左右の道の確認さえしない。

お互いが背中を信じて進む。

「クリア!」

最後尾の者がそう言いながら、
左右の路地の警戒をしていた二人の肩を叩く。
それで蓋をするように、
その二人が代わって最後尾に入り、
一同は進んでいく。

「臭ぇな」

そこからは何もない長い路地だったが、
エドガイの表情が変わる。

「におうね♪」

そしてベロンと舌を出しながら、
片手を広げる。

「止まれ。おめぇら」

「「「サー!!イエス!サー!!」」」
「止まれとまれ!」
「後ろ!」
「クリア!」
「前は!?」
「心配ねぇ」

少数精鋭なのもあるが、
2秒で全体が止まりきる。
砂埃以外に動くものがないほどに。

「ノヴァ=エラ。マグナ=オペラ」

「「サー!!!」」

二人が同時に飛び出す。
長い路地を直進する。
片方はシュン・・・・・と突如消える。
インビジで姿をくらまし、
長い路地を直進。
もう片方は、
壁の両側を蹴り、
屋根へ登った。

「臭ぇだけならいいけどな」

エドガイはWISオーブを取り出し、
口元にあて、
耳を澄ます。

[・・・・・・・こちら・・・・ノヴァ・・・・]

WIS(無線)から小声。

[異常無し]

長い路地の突き当たり。
恐らくあのT字路の辺りだろう。
問題は・・・無し。

[・・・・・・マグナだ・・・・]

別の回線。
屋根へ登った方だ。

[・・・こっちもク・・・・・]

そこで無線が途切れた。
ガゴッ・・・
ドガッ・・・・
無線の向こうから、
鈍い音が聞こえてきた。

「・・・なんだ?」
「何かあったのか?」

そう疑問に思っていると、
路地の中央辺りに、
ドサ・・・・と、
人間が一匹落ちてきた。

路地の真ん中に死体が転がる。
無線から声。

[なんでもねぇ。クリア。問題無しだ]

ここからでも見えるように、
屋根の登った方の男が顔を出し、
屋根の上から親指を立てていた。

「なぁーにが問題無しだ。気ぃつけろよー?隙を与えて仲間でも呼ばれたら面倒だ。料金外だからな。
 ・・・・・ってぇことでぇ〜〜次からはスマートによーろーしーくーねーーーー♪」

[あいあいボス。サー、イエッサ〜〜]

でもゴキゲンな風に、
エドガイはWISオーブをクルクルッと回して懐に片付ける。
仲間達と違い、
エドガイはまだ剣を抜かない。
ガリガリと引きずるだけだ。

「んで〜?どぉ〜?」

長い路地裏を移動し終え、
T字路に突き当たる。
右への道は、
仲間が封鎖して警戒していた。
だから左に折れると、

「ボス・・・」

そこに座り込んでいた傭兵が、
トントンッとエドガイの腿を叩き、
アゴだけで指し示す。

「・・・・・」

エドガイは了解し、
物音を立てないようにそちらを見た。

T字路を曲がった先は、
また大通りだった。

「またかよ。ルアスは入り組んでて分かりにきぃな。俺ちゃん涙目」

「ボス」
「俺は見覚えがある。10番道路」
「通称ディド焼き通りだな。この世で唯一うまいディド料理が流行ってる」

「興味ねぇ。あんな可愛くねぇ生物考えたくないね」

路地裏から大通りを見渡す。
結構広い道路だ。
無闇に外に出るわけにもいかなそうだ。
目的は目的。
それ以外は必要ない。

「これどっち方面〜?」

「サー。西向きよ」
「ボスでも分かるように説明してやると、ルアス城は北だ」

「なめられてんねぇ〜♪俺ちゃん涙目」

エドガイはとぼけて舌を出す。
ピアスがキラリと光る。

「んじゃあの南のはなぁーんだ」

「・・・・!?」
「隠れろ」

傭兵一同は、
路地裏に軽く身を隠す。
ただでも日陰だ。
大通りからは死角だろう。

「団体だな」
「部隊か?」

何かが行進するように大通りを横断していた。
いやはや、
行進するというと整ったイメージがあるが、
全員がダァーラダラと歩いている。

「帝国か?」
「帝国なら南からこねぇよ。北に向かってんだ」
「ってか見ればわかるじゃない」

そりゃぁ見れば分かる。
ダラダラと歩いているその団体。
大通りを堂々と、
怖気づかずに堂々と、
黒服。
スーツの者達が歩いているのだから。

「《昇竜会》ねぇ。あそこのマスターは可愛い子ちゃんリストに入ってんだけど」

「ボスは黙ってろ」
「退却したって聞いたけど、もうこんなとこまで」
「なかなかやるじゃない」
「んで?"敵"じゃねぇってんなら合流(でてく)か?」

エドガイは首を振った。

「目的を最優先だ。関係ない奴といらねぇイベントは無し。
 敵だろうが味方だろうが接触は最低限にしとけ。オッケェ?オッケェ〜〜?」

「「「「サー」」」」

小声で一同が返事をする。

・・・・。
大通りを《昇竜会》が過ぎ去っていった。

「あらまぁ全く。大通りを堂々と進軍たぁ、さすがヤクザ。怖いもの知らずだねぇ。
 俺ちゃんらなんて涙目でビクビクしながらコーやって進んでるのによぉ」

通り過ぎていく《昇竜会》を尻目に、
とらえどころのないチャラけた態度で、
エドガイは笑って言う。

「ま、あいつらヤクザもどーせ8割はどっかで引き立て役として死ぬんだろうよ」

「ボス・・・そんな元も子もない・・・」
「っつーか8割なんてありえねぇよ」
「10割だな」
「生き残る可能性の無い戦場だぜ。ここは」

「なぁーに言ってんだか」

やはり、
エドガイはどこまで本気か分からない笑顔で話す。

「そんな戦場を俺ちゃんらは仕事場に選んだんだぜ?それはつまり・・・・」

エドガイは、
自分の右前髪を、
ノレンのように開く。
見えるのは、
右頬のバーコード。

「俺ちゃんらの値段は、それに堪えうるまでになった・・・・ってことだろ」

エドガイはそう言い切ったが、
傭兵達。
値札の付いた愚か者達は、
返事をしなかった。

「おいおい?どうしたてめぇら。サーと言えサーってよぉ。じゃねぇと俺ちゃん涙目」

「ボス。俺らは本当に生き残れるのか?」
「今のところ44部隊にだって負ける気はしねぇ」
「だが、そんくらいじゃぁこの戦争は生き残れない」

第二次終焉戦争。
一方は、
自殺志願者と言ってもいい反乱軍。
一方は、
死者で固められた全滅軍。
最後には、
生きて残る者などいないかもしれない。

跡形も残らないかもしれない戦争。

「怖ぇのか?てめぇら」

エドガイは、
そこではチャラけた態度をとらず、
真剣な顔つきで言った。

「俺ちゃんらはよぉ、金に身を売ったはずだ。全てを割り切った存在として魂を売ったはずだ。
 てめぇらもビッグパパ(親父)と誓ったんだろが。体に刻んだバーコード(値札)はなんだ?」

「だが怖ぇってぇのは・・・」
「割に合ってないのかも・・・・」

自分の値段に相応していない。
だから、
死ぬ可能性を感じる。

「勝利として死ぬならいい。怖くねぇ」
「だけど敗北に死んで、何も得られないってのには恐怖以外感じない」
「俺達は商品(傭兵)だ」
「仕事を真っ当して初めて価値がある」

「気にすんな」

エドガイは、
チャラけた態度に戻っていた。
呆れるような笑顔は、
心を落ち着かせた。

「そんなてめぇらを俺ちゃんは買った。買い取ったんだ。
 それがこの《ドライブスルーワーカーズ》。てめぇらは俺ちゃんのもんだ」

そして舌を出す。

「その俺ちゃんは恐怖を感じねぇ。つまり"お会計"は足りてるんだよ。
 だからよぉ。気にせず死ねばいいんだ。気楽に死のうぜ。俺ちゃんらはそんなもんだ」

ただ・・・

「勝利だけはやるからよ。だから俺ちゃんらのはした命なんて安心して使っちまおうぜ。
 金は使わなければただのゴミだぜ?な?・・・・・・・約束する。・・・・・"死んでも損しねぇ"よ」

エドガイの言葉を、
傭兵。
金のために命を投げ捨てた者達は、
黙って聞いた。

「しっけた態度してんじゃねぇ!言え!サーと言え!サー!と!」

「さ・・・」
「サー・・・」
「「「「「「「サー!イエス!サー!!!」」」」」」」

皆の態度が切り替わると、
エドガイはニッと笑った。
それでいい。
俺らは悩むほどのもんでもねぇんだから。
と。


・・・・。
ふと、
大通りの向こう側。
エドガイ達がいる路地裏をから、
大通りを挟み、
反対側。

敵の姿。
一名。
騎士のようだ。

そいつは、
今まさに、
こちらに気付いたようだった。

その瞬間は、
誰も何も言わなかった。
だが、
すでに頭に命令がプログラミングされているように、
各々が別個に、
それでいて、
同時に動き出した。

飛び出した。

「ゴー!!!」
「ゴーゴーゴー!!」
「カバーしろ!カバー!!!」
「ライトクリア!レフトカバー!」
「レフトクリア!」
「突っ込め!!ダイブダイブダイブ!!!」
「後方異常無し!」
「ゴー!!」
「OK!」
「ゴーだ!ゴーゴーゴー!!!」

「やれやれ」

味方が一斉に、
敵の方へ向かっていく中、
エドガイだけダラリと突っ立っていた。

「料金外は面倒なんだけどねぇ。俺ちゃん涙目」

そして、
腰からやっと、
やっと初めて、
剣を抜く。
アスタシャ。
その剣の柄。
いや、
グリップ。
そこにはトリガー。
銃の引き金。

「ま、しゃぁーねぇーわな。やんなきゃなんねぇってんなら、よーろーしーくーねーーー」

片手で剣を突き出し、
そして、
剣の引き金に指を添える。

「釣りはいらねぇ」

そして、
引く。

「とっときな」

剣から放たれた衝撃波。
パワーセイバーは、
味方の肩という肩をかすめていった。

飛ぶ斬撃は、
今まさに仲間を呼ぼうと叫んだ敵を、
両断した。

「ありゃりゃ。呼ばれた。始業時間か。ま、お仕事だかんね。定時までは頑張っちゃうかね」

100グロッドの仕事で、
俺達の命が10グロッドなら、
9人まで死んでも損しねぇな?
ってゆー、まー、
そーいうことなわけだ。

命なんて怖がる必要ない。
軽く捨てれるもんだ。

「強姦・恐喝・強盗・略奪・放火・誘拐・暴行・虐待・無差別猟奇殺人・窃盗・横領・掃除洗濯♪
 おっと忘れちゃいけねぇ。自殺もOK。地獄の沙汰も金次第。金さえ見合えばなんでもするぜ」

命なんて、
鉄くずか、
紙くずだ。
財布に収まる程度のもんだ。

「よーろーしーくーねー♪」





































「なるほど。例えばだ、シロアリの駆除の業者ってあるだろ?あいつらの装備はハンパねぇよな。
 ま、どんな仕事でも命を奪うからには覚悟の準備が必要ってこった」

アレックス達は歩いていた。
走るべきかとも思ったが、
無理に体力を消耗する必要もない。

「そう。そりゃぁまた、考えているかどーかは別として、相手が命である限り敬意を払ってるわけよ」

アレックスの背中には、
軽装な鎧からはみ出る服のスソをギュッと掴み、
それでいて体温を送っているかのようにピッタリとくっつくスミレコ。

「相手が命である限り、敬意と共にわずかでも不安と恐怖が付きまとうわけだ。
 どんな命にも敬意を払わなくちゃいけねぇ。それは命が命としてあるからだ」

そしてドジャー。

「んで何が言いたいかってぇーと」

ドジャーは立ち止まり、
アレックス?・・・じゃなく、
その後ろのスミレコに指を突き出し、
怒り奮闘の表情で叫ぶ。

「これで36回目だ!!!害虫害虫言うんじゃねぇ!!!このアマ!!!!」

キレるのもこれで36回目だ。

「イモ虫やら害虫やらゴキブリやら散々いいやがって!仲間の士気奪う奴がどこいんだ!
 ってかなんだ!それもう攻撃だろ!心が傷ついてる時点で傷害罪なんだよ!」
「害虫の駆除は正義だ」

アレックスの陰に隠れながら、
辛らつな言葉をさらりと流す。

「ゴキブリが死んで哀しむ者はいないけど、ゴキブリが死んで喜ぶ者は世界にゴマンと居る」
「そうだな!でも俺の事じゃねぇよな!」
「・・・・・・何故ゴキブリが嫌われるか、その5mmほどの脳みそに伝えてあげようか?」
「止めろアレックス!そいつに口を開かせるな!まずムカつく!傷つく!
 そしてライフルと一緒で、そいつの口から優しさが発射されることは金輪際ねぇ!」
「無理ですよ・・・・」
「なんでだよ!」
「僕も面白いし」

聞いてみたいし。

アレックスの言葉で、
ドジャーの表情は潰れる。
その隙を付くように、
スミレコの口から傷害罪が生まれる。

「まずシャカシャカ素早く動くのが気持ち悪いし、その動きが予想不能なのも嫌悪だわ。
 ・・・・・・その上中途半端な大きさがリアルで嫌だし、その上裏側を見ればなんかゴチャゴチャしてて・・・・」

ブルブルと、
スミレコはアレックスの陰で体を震わす。
ドジャーを見ながら。

「嗚呼・・・気持ち悪い・・・・」
「ゴキブリがだよな!!ぁぁあ!?」
「凄いですねドジャーさん。今の特徴を整理すると、全てにおいてドジャーさん当てはまるじゃないですか」
「そう。さすがアー君。分かってらっしゃる・・・・特に求められてもないのに出てくるあたりがまさに・・・・」
「凄いですねドジャーさん。まるでゴキブリのパワーアップバージョンじゃないですか」
「害虫を超えた存在ね・・・・」
「俺今まで害虫超えてなかったの!?害虫以下だったの!?ねぇ!?」

やはりこの人を馬鹿にするのは面白い。
そう思い、
心から清潔な愉快さがアレックスを満足させた。

「ま、モタモタしてられません。さっさと行きましょうドジャブリさん」
「無理矢理すぎるよね!?ざけんな!」
「うるさいですねぇ、・・・・えと・・・なんとか〜〜ブリさん」
「忘れる方が逆だ!!」
「コックローチ・・・・」
「・・・・・・ぁん?」
「ゴキブリの英名・・・・・あなたにピッタリだわ・・・」
「無駄にカッコイイな!でもお断りだ!!」

イラだつドジャーを尻目に、
アレックスはクスクス笑いながらまた歩き出す。
その陰でスミレコが、
ドジャーにアッカンベーをしながら、
アレックスに捕まって付いて行く。

「・・・・・クソ!ハゲ!世界のバカヤロウ!!」

ドジャーはその辺のものに八つ当たりし、
蹴飛ばしいた。

「敵にバレますよー」
「役に立たない上で足を引っ張るか・・・・金魚のフン以下の存在ね・・・」
「うっせ!金魚のフンはてめぇだろ!アレックスにくっついてよぉ!」
「・・・・・アー君のウンコと呼ばれるなら光栄だわ」
「だぁーもー!クソ!!何言っても・・・」

何を言ってもカウンターを食らうのをもう学んだ。
だが自分は言われ放題だ。
諦めるしか道はないのか・・・。
ドジャーは追いかけ、
アレックスに並んで歩く。

「んで、今後は」

まだイラついた口調のドジャー。
まぁ当然といえば当然か。

「そうですね。戦わなきゃいけない敵を避けて進むのは、やはりスミレコさんの存在が大きいです」
「・・・・やだ・・・・気付かないうちにアー君の中で私はそんなに大きな存在に・・・」
「足引っ張ってるからだってーの」
「だまれクズ虫。巣に帰って二度と朝日を拝むな」
「・・・・・ッ・・・」
「いえいえまぁ、理由はそーいう事じゃなくてですね。
 スミレコさんがこちら側についたという情報を出来るだけ長い間バレたくないってことです」
「カッ、時間の問題だと思うけどな」
「その時間を少しでも稼ぎたいわけです」

スミレコの存在は、実はそれくらいに重要だ。
知る由の有無に関らず、
スミレコを利用したスモーガスへのWISの脅迫が無かったら、
イスカとマリナは勝ててなかっただろう。

「あと戦地を広げたくないってのもあります」
「戦地?」
「さきほどの情報です」

ウォーキートォーキーズから話された情報。

「あぁ。三騎士が手間取ってるって話な。あいつらを止める存在ってなるとナンだぜ。
 さすがに部隊長クラスを馬鹿にしてた。三騎士を止めれるような奴らが外門にいるんじゃぁな」
「・・・・というより・・・まぁそれもあるんですけど・・・・」
「虫はこれだから物分りが悪くて困る・・・害になるから害虫なんだ」

アレックスの陰から、
辛らつな言葉をドジャーに放つ。
ドジャーはグッと我慢し、

「んじゃぁテメェはちゃんと理解してんのかよ。あ?」
「アー君は戦地を広げたくないって言ったじゃない・・・・・脳みそがカニみそね。
 ツヴァイ=スペーディア=ハークスも恐らくすぐに外門に到着・・・・・。
 そうなれば、予定よりかなり早く戦場が外門へと移るわ・・・・」

まぁそうだが・・・・

「んー・・・・・つまり援護か?だがあいつらなら単体でどーにでも持ちこたえるだろ」
「後先を考えれないなんて・・・つくづく人間に進化できない下種生物ね」
「・・・・・グッ・・・言わせておけば・・・・」
「まーまードジャーさん・・・。つまりですね。外門が戦場と化するのがこちらに不利なんですよ」
「あー?」

なんでだ?。
と、
ドジャーは歩きながら首をかしげる。

「目的がいい方向で早まっただけだろうが」

自分達の目的はそれだ。
進攻だ。
いい結果であるに違いないはずだ。

「情報屋さんが言うにはルアスの街に出ている帝国軍は、500〜1000と言ってました。
 戦力としては一部も一部。遊びも同然なんですよ。やはり攻城戦に比を置いてます」
「それが・・・・騎士団の強みだから・・・・」

元王国騎士団のアレックスや、
スミレコこそ、
攻城戦での騎士団の強さは分かる。

「んで?」
「それでも三騎士さんとツヴァイさん以外はまだ外門へと到着に時間がかかります。
 三騎士とツヴァイさんだけが、進攻を早めているだけで他は到着してないんです」
「・・・まるで・・・・・愛・・・・」
「どこがだ」
「分裂で繁殖する生物には分からないわ。オスとメスがある生物にはいろいろあるの」
「俺は両生物かよ」
「恋は焦らずという事よ。分かったかこの爬虫類モドキが」
「爬虫類にもなれねぇの!?」
「まぁまぁ。仲良くケンカしないでください。面白いけど僕が寂しいじゃないですか」
「・・・・・・カッ、ともかくただでも少ないこっちの戦力が分散した状況は不利ってことだな」
「それもありますけど・・・つまり外門はどうやって破壊するかって話なんです」

戦いの前から考えていた、
その難問。

「いろいろ話しに話しても、有効な手段は今のところフレアさんのメテオぐらいしかありません。
 三騎士さんも強いといってもそれは戦いの話で、巨大な外門を破壊する破壊力はありません。
 ツヴァイさんならどうでしょう・・・・・やってくれそうで・・・・それでも確信はない」

外門。
それは数十メートルの巨大な壁。

「フレアを待てばいんじゃねぇの?奴らにはその間の時間稼ぎしてもらやぁーいーじゃねぇか」
「外門が戦場になっていたらそれどころじゃないでしょう」
「あーあーあー、やっと繋がった」

ドジャーは納得して頷いた。

「・・・繋がった?・・・それは私とアー君の間柄の事だけを指すのよ・・・・
 軽々しく口にしないで。あんたは食物連鎖の最下層でシャカシャカ地面を這ってろ・・・」
「てめぇはいいから」

ともかくだ。

フレアのメテオというのは、
破壊力こそ抜群だが、
実は穴だらけの産物だ。

まず詠唱にとてつもなく時間がかかる。
隙だらけだ。
外門での戦いが激化してからではなかなか厳しい。

「できるなら、街の敵を一層してからじゃないと厳しかったです」
「まだ敵だらけだからな。最悪挟み撃ちか」

このままでは進攻が早すぎるのだ。
ルアスの街に敵を残し、
背後からも敵が来る状況になってしまう。

「四面楚歌・・・まるで恋・・・・」
「愛と恋は適当に言えばなんでも当てはまってそうに聞こえるな」
「四面楚歌というのは言い得てると思います。それだけは避けなければいけないんですから」

反乱戦状態になったとしたら、
そんな中で広範囲メテオの詠唱をさせてもらえるか・・・・。
戦力自体は圧倒的に向こうが上。

「私は・・・アー君と私さえいれば・・・他はどーでもいいけど・・・・」
「あぁそうです。そうでした」
「何納得してんだ」
「いえいえ違います」
「・・・・違うんですか?」
「あー・・・えーっと・・・・」

こういう時の進行役として頼りになるアレックスだが、
周りに(ある意味)理解力の無い面倒な人しか居ないのは困る。

「外門の戦闘が激しくなると、敵味方もそのうち入り乱れてくるわけです。
 なのにメテオのターゲットは外門自体から外すわけにはいきません」
「あー、仲間を巻き込む。つまり根本的にメテオ自体が使い物にならねぇわけか・・・・」

そう考えると、
三騎士も、
ツヴァイも、
少々面倒な事をしてくれた。

「ツヴァイさんだけならどうにでもなりました。でも三騎士さんの登場で確定です。
 外門はすでに戦場になりかけています。個人的な戦いでなく、戦争が起きるわけです」
「何にしろ俺らも早く辿りついて手を打たねぇとな」
「その時・・・・私が使えるわけですね・・・・」

アレックスの服のスソを、
ギュッと握るスミレコ。

「好きなだけ利用してください・・・・」
「金融機関のキャッチフレーズみてぇだな」
「五月蝿い。蝿が」
「うるさい上にハエだったんですかドジャーさん。ダブルハエじゃないですか」
「全然お徳じゃねぇよ・・・」
「しかも五月」
「五月にお徳要素ねぇよ!」
「とにかく、スミレコさん。言葉通り利用させてもらいます。スミレコさんがバレてないなら潜り込めるかも。
 その辺は歩きながら考えましょう。それが一番効率いいです。あー。お腹すいたなぁ」
「考える挫折がハェェな」
「五月蝿い。蝿が蝿とか言うな」
「・・・・・」

どんな会話をしても最後に自分にたどり着いてしまう気がする。
アレックスとスミレコがコンビを組んでいると、
会話には自分を陥れるオチが付かなきゃいけないものなのか?

「まぁそれでコッソリかつ、急ぐってぇ道理は分かったが」

ドジャーがあたりを見渡す。
いつも通りのルアスの町並み。

「いきなり敵と遭遇しなくなったな」

ルアスの街は戦場だ。
おかしいと言えばおかしい。
それでも周りからは戦音が鳴り響いているので、
ただただ偶然自分達の周りだけかもしれないが。

「あとは害虫がいなくなれば私達二人だけの世界・・・」

スミレコはアレックスにピッタリと寄り添う。
寄り添うといっても、
最初からオマケのようにベッタリくっついていたが。

「あっそ。はいはいお邪魔ですいませんね」
「虫は無視なんて言葉では片付けられないわ。お邪魔虫という名の害虫め。
 居なくなればいいんじゃなくて存在ごと消えてしまえばいいのに」
「・・・・・・・ッ・・・・あっそ・・・すいませんねー」
「ドジャーさんなんて存在ごと消えてしまえばいいのに」
「お前も乗っかるな!」
「「存在ごと」」
「消えねぇよ!」

アレックスはドジャーをいじめるためにスミレコを手に入れた気さえしてきた。

「・・・ったく。それにしてもよぉ。そうも隠れた道じゃねぇぜ?
 なのに、敵と全然ぶち当たらないなんてラッキーで片付けるべきか?」
「え、ドジャーさん気付いてなかったんですか?」
「・・・・・・これだからミノ虫は・・・観察眼が無いなら木にぶら下がってろ」
「・・・・・・なんだよ。さっきから俺ばっか気付いてねぇみてぇな」
「事実じゃないですか」

あーやだやだと、
アレックスは馬鹿にするように首を振る。
真似するように、
アレックスの後ろのスミレコも首を振る。
本当にムカつくコンビだ。

「この辺り十分に荒れてるでしょ?」
「・・・・踏み荒れてもいるわ。私もアー君にこうされたい・・・・」
「この辺りはすでに戦場になった場所なんですよ」
「それもついさっきってところです」

言われてみれば、
と、
ドジャーは注意深く周りを見てみた。
・・・・。
確かに。
町並みは普段の生活じゃつかないような傷跡だらけだ。
地面も薄汚れている。

「仲間が戦ったんですよ。戦いがあったのに僕らが敵に遭遇していないという事は、
 仲間が敵を倒し、さらにルアス城へ向けて進軍したと見るのが妥当ですね」
「戦後の場所だから敵がいねぇって言いてぇのか?」
「・・・・・アー君はずっとそういう経路をとってきてたのに・・・・鈍感な・・・鈍虫め・・・・」
「・・・・・・でもよぉ。死体がねぇじゃねぇか死体がよぉ。戦いがあったんってんなら・・・」
「鈍虫め・・・」
「鈍虫め」
「うっせぇ!」
「相手が人間でなく、死骸騎士だったなら死体なんて残りませんよ。何度も見たでしょう?」

死骸騎士は、
死ぬ・・・いや、すでに死んでいるからこそ、
倒されると同時、
蒸発したかのように消滅する。
浄化とか昇化とでも言うべきか。

「砂埃かなんかのお陰で街中でも足跡が残っています」
「うん。すぐ気付くわ」

アレックスは歩みを止め、その場で屈む。
必然的に後ろにくっついているスミレコも屈む。

「元と比べて汚れているのがハッキリ分かるレベル。ダニの行列だわ。臭いったらありゃしない」
「かなり固まって歩いてる団体です。まるで一個団体。
 それでいて、それだけ集まって進軍しているのにも関らず、足跡に統一感がない。
 意志は皆同じで、一つになって歩んでいるのに、そんなキッチリしてない仲間達」
「あぁ。ヤクザか」
「そういう事です」

ここらを通ったのは、
《昇竜会》
ツバメ率いるヤクザ達だろう。
"筋"という一つの概念で、皆心は一つであるのに、
ダラダラと自分勝手に歩いている感じ。
間違いないだろう。

「魔法の跡があまりにないのも彼らの特徴と・・・・」
「アレックス」

ドジャーがそこまで聞いて、
止めた。

「なんですか?」
「それにスミレコ」
「・・・なによイモ虫・・・・」

だが、
ドジャーの顔は真剣だった。

「ここまで聞いて分かった」
「ここまで聞かなきゃ分からなかったんですか?」
「・・・・まったく・・・害虫は・・・・」
「いや、真面目な話」

地面に屈んでいる二人に、
ドジャーは言う。

「お前らにとっちゃぁ"ソレ"が普通なんだな」

アレックスにも、
スミレコにも、
主旨がよく分からなかったが、

「お前らはよぉ、普通にしててもそーいう部分に目がいく。いや、悪いとかそーいう話じゃなくてよぉ。
 今は戦争なんだからそうあるべきなんだろうしよ。普段からアレックスはそうだったし。
 ただなんつーか・・・・・・・・・今分かったんだ。俺はそこまで気付かねぇし考えて行動してねぇ。
 お前らは戦場の匂いと風向きに敏感すぎるんだ。思考回路と感覚がよぉ」

そんなところを指摘されるとは思ってもみなかった。
そして、
自分も・・・・考えてもみなかった。

「いや・・・別に普通ですよ」
「・・・・そこらの兵士だってこれくらい考えて行動してるんだよ・・・このイモ虫・・・」
「俺はそこらの兵士じゃねぇんだよな」

ドジャーは苦笑するように言った。

「そういう常識っつーのは、騎士団・・・・戦争が日常の奴らの感覚なんだろう。
 そりゃ騎士団だけじゃねぇ。ツバメやフレアだってそうだろうし、エドガイなら尚更だ。
 その点、俺ら《MD》が浮いてる意味が分かったっての。俺らは戦いが生活じゃない」

目的は金だったり、
趣味だったり、
個人的に生きてきた。

その中で必要なら戦い、殺してきただけ。

「それで・・・何が言いたいんだ害虫野郎」
「いーや」

ドジャーは首を振りながら、
やはり苦笑していた。

「別に気付いただけだ。お前らへの付き合い方がどうこうってわけでもねぇ。
 むしろそう考えると頼もしいし、ちょっと自分が軽率だったと反省する始末だぜ?
 今更気付いちまったのは、お前らがどーこーおかしいって話じゃねぇ。
 俺ら《MD》の話だ。俺らってぇーのは本当になんでこんなところにいるか分からねぇ場違いだ」

ドジャーは苦笑はやめず、
そして首元をポリポリとかいていた。

「だからメッツは今、向こう側の居心地がいいんだろう」

それに気付き、
納得してしまったから。

「メッツさんですか?」
「本当に気付くのが今更過ぎたんだ。俺らん中で戦いを好んでたのはメッツとチェスターだけだ。
 チェスターは自分から傭兵名乗って戦場に出向くくらいだった。メッツはケンカばっか。
 だけどあいつは本当は戦場が合ってたんだろう。お前ら側だったんだ」

納得した。
という表情だった。
メッツがなんで44部隊に。
それはもちろんロウマに惹かれてだろうが、
そのロウマに惹かれる理由自体が、
既に戦いに身を置く者の姿なんだ。

メッツが居る場所としては、
44部隊はあまりに自然だった。

「本当に気付いただけで何も変わりませんね」
「あん?」
「つまりメッツさんを取り戻したいなら、この戦争を終わらしてしまうしかない」

戦場を。
居場所を失くしてしまえばいい。

「カッ、そうだな」

ドジャーは清清しい苦笑をした。
考えても始まらないっていうのは本人も凄く分かっている。
だからこそだろう。

「居場所・・・か・・・・」

だが、
ドジャーは気付いただけの事で終わったが、

「なら僕は・・・・」

ドジャーが気付いたその事は、
アレックスには少々考えさせられる事だった。

ドジャーの指摘は正しい。
王国騎士団に居た事もあってか、
自分は戦いの場に適応し過ぎている。

楽が好きだ。
食って。
寝て。
そんなダラしない生活が好きだ。
そうなのに。

"自分の体はそうじゃないなら"

あまりにも戦いに敏感で、
戦いについて気づく事を多すぎて、
今でも戦況の事ばかり考えている。
思考を張り巡らしている。

本当に自分は、

戦いというものが嫌いなんだろうか。

"巻き込むんじゃねぇぞ"

誰かの言葉だ。
そうだ。
確かメテオラだった。
自分がいつも戦いを巻き起こす。
今回もだ。

アレックス=オーランド(自分)が動くと戦いが起こる。
戦いの中心。
それは・・・
本当は・・・
不本意なんかじゃなく・・・・・

自分自身・・・もしかしたら・・・・・・・・


































「楽なもんだ」

彼は、
長い舌を紫の唇に這わせ、
笑った。

「"病原体"を避けて通れば目立つ事もねぇってこと」

「はい?」
「メテオラさん。何か?」

「いーんや。こっちのお話ー♪」

モンブリング帽をかぶった男は、
Gキキに跨り、
のんびりと進軍していた。

「アレックス(戦いの病原体)はあっちだからぁー・・・・」

ボソリと呟き、
ニヤニヤと笑いながら、

「おい、こっち行くぜ野郎共」

「はい」
「了解です」

メテオラは、
5名ほどの急造のパーティーを拾いつつ、
反乱軍の一団として、
アレックスがいないだろう方向へと進軍していた。

「なかなか敵とぶつかりませんねぇ」
「いい事か悪い事か。どっちだろな」
「悪いに決まってんだろ?何の覚悟して戦場に来たと思ってんだ」

Gキキに跨るメテオラの背後を、
5名ほどの戦士達が付いてくる。
彼らは、
反乱軍の中心人物でもあるメテオラに付いていく事に何も疑問を持たない。

メテオラは、
戦場でたまたま出会っただけの急造パーティを率い、
戦地を避けて進軍していた。

「馬鹿だねぇ。皆ド畜生だ・・。気付かないでいてくれるだけで俺がどんだけ動きやすいか」

自分にしか聞こえない小声で、
メテオラはウフフと笑う。

「ま、俺が自分の陣地に攻め込んでるってのも笑える話だがな」

その通りだ。
燻(XO)の立場はあちら側。
なのにこちら側。
楽しい楽しい話だ。

「にしてもオーランドって血族はどーなってんのかねぇ。
 どいつもこいつも自分勝手で自分だけで抱え込むクセに、"周りを巻き込む"。
 平和好きのトラブルメーカー(問題発掘者)なんて笑える一族だ」

「オーランド?」
「アレックスさんの事ですか?」

「ありゃりゃ。聞こえたか」

バレようがバレまいがもうどっちでもいい時期だといっても、
暗躍なんだから一応自重はしとくべきか、
バレないに越した事はない。
危険は回避するべきだ。
好むは他人の危険だけ。
とヘラヘラと反省した。

「ま。魔王が居なけりゃ世界は平和だが、勇者がいなけりゃ戦争も起こらねぇって話だ」

戦争なんて哀しいものが起きるくらいなら、
いっそ勇者なぞ生まれない方がいい。

「そんなことはねぇッスよ」
「アレックスさんがいなけりゃ俺達がこうやって決起する機会も無かったかもしれねぇ」

馬鹿だ。
馬鹿がいる。
自分に付いてきてるこいつらは馬鹿のド畜生だ。
そうそう。
こーいうのが馬鹿なんだ。
死に場所を得た事を誇りに思うド畜生。
ま、
その方がやりやすいんだけどな。

「でもメテオラさん。Gキキに乗るなんて珍しいですね」

「ん?ウフフ。そうだろ?楽チン楽チン」

「でもすいませんね」
「俺らが徒歩だから進軍が遅れちまってる」

「あー?いーんだよ」

その方がな。
"遅れ目で行くのが目的なんだから"

「ウフフ・・・・」

事が思い通りに行くってのが、
Sな鬼畜野郎にとっては至極快感だ。
まさにそれ。
馬鹿が気付いてないと、さらに心地よい。

「ウフフ。なー、てめぇら。ギルヴァング=ギャラクティカをどー思うよ」

唐突に、
先頭でGキキに跨り進んだまま、
後ろを振り向き、
メテオラは聞く。

「どう・・・って」
「さすがにアレとはやりたくないですね」
「やるっつーならやる覚悟はあるけどな」
「それでも無駄死にするよりは世界のために価値ある戦いはしたい」
「現状は避けておきたいってのが本音です」

「そーだな。ウフフ・・・フフ・・・・あーいうのは無視するに限る」

そして、
それが最大に愚かな行為だとは、
誰も気付いてない。
メテオラは・・・・燻(XO)は心の中で笑う。
そして小声でまた独り言を呟く。
誰にも聞こえないように。

「嫌な事は無視無視・・・それでいいんだド畜生共・・・・だから俺はバレねぇんだしな」

ペロリと、
紫の唇を舐める。

「そういった事を無視すると・・・・最悪な事になってる事にさえ気付かねぇ」

現状、
反乱軍のほとんどが、
ルアスの街で暴れているギルヴァングを無視して進軍している。
避けて、
ルアスの城を目指している。

放置された凶暴なる最強の一人。
無視など出来ないはずの強大すぎる存在を・・・・
ギルヴァングを・・・・
無視する形で。

その違和感に気付かない馬鹿共。

「ピルゲンのクソジジィの作戦だってのは気に食わないねぇが・・・・」

実に理に適っていた。

「嫌な事は無視して気付かねぇ。自分らが陥ってる状況にな・・・。
 いや・・・皆気付いてるのに・・・気付かねぇフリをしてるからありがてぇってなもんだ」

現状。
現状。
反乱軍はあまりにいいペースで進軍している。
ノリにのっているといってもいい。
外門までは問題なく進むだろう。

だがそれは・・・
目を背けているからだ。

誰もが思ってるクセに。
"ギルヴァングは誰が倒すんだ"と。
なのに無視して放置。

そして生み出した結果は・・・・・・

「ギルヴァングと俺・・・・53部隊の双璧部隊長にして・・・絶騎将軍(ジャガーノート)の半分が」


"まんまとてめぇらの背後にいるんだぜ"


「ホント、馬鹿の究極系なほどにお気楽なド畜生達だ」

そう。
現状、
無視されて街を暴れまくっているギルヴァングと、
敵に紛れ込んでダラダラと進軍する燻(XO)。

ジョーカーズの二枚のジョーカー。
それでいて絶騎将軍(ジャガーノート)。
そんな二人に、
背後を取られ、
挟み撃ちになっているという状況。

メテオラ(XO)については仕方が無くても、
ギルヴァングに関しては誰もが思い当たることだ。
それなのに、
誰もが気付かないフリをしている。

「嫌われるってのは・・・最強の暗躍なんだよ・・・」

燻(XO)が、
人生で学んだ最強の哲学。
嫌われ者の無関心。
好きの反対は無関心。

「"俺とギルヴァングでのバックアタック"・・・・ウフフ・・・ククク・・・・
 そりゃぁ楽しみだ・・・・地獄絵図だぜ?・・・・・街にクソがブチ撒けられるだろうな」

考えるだけで、
それは絶望的な構図だった。

しかも、
その体勢は、
すでに整っているのだから。
整っていながら、
誰も気付かず、
気付かないフリをして、
無関心のままなのだから。

現在、
アレックス達が危惧していた状況。
外門で挟み撃ちになるような状況。
それでは外門を打破できない。

その状況は、
すでに出来上がっていた。

「お?」

少しメテオラが後ろを振り向くと、
目に求めてなかった、
馬鹿5人組。
そのうちの一人。

「なんだ。レディーが居たんなら言ってくれよ」

アメットを被っている上、
戦場に自ら来るような男勝りな騎士なものだから気付かなかった。

「おいあんた。俺のGキキに登ってこいよ」

「あ、いえ。私は別にいいです。歩きます」

「ウフフ。まぁいいからよ。っていうか言う事きけねぇの?
 一応俺って反乱軍じゃ上司に当たるわけ。命令よ命令」

ケタケタ笑い、
メテオラはそう言う。
女騎士は、
断る理由もなく、
言われるがままにメテオラのGキキに乗り込んだ。

「ん〜・・・中の上ってとこか」

女騎士がGキキに乗り込み、自分の後ろに座ったや否や、
アメットを勝手に投げ捨て、
メテオラはメスを評論し始めた。

「でもやっぱ引き締まってる女はいいよな。柔らかいのも傷つきやすくていんだけどよぉ」

「・・・・戦場にそんなものは関係ありません」

「ウフフ。俺にとっちゃそんなものは、戦場かどうかってのが関係ありません〜♪」

女はいい。
どんな時でもだ。
それを手玉にし、
傷つけ、
壊すのは快感の極みなのだから。

「なぁあんた。バスケットケースになりたくねぇ?」

「はい?なんですかそれは」

「戦場で死んじまうよりは楽しいと思うぜって話♪」

デザートを見るように、
メテオラは舌で自分の唇を舐め回す。

「私はこの戦場で死ぬ覚悟をしています」

「あらそ」

関係ないけどな。
人の意見や、心情。
意志なんてのは。
俺の好きなようにして、
俺の好きなように終わらせてやる。
それが快感なのだから。

「あれ?」

背後で徒歩ってるド畜生の一人が、
疑問の声をあげる。

「んだよ。今は男の声なんて聞きたくねぇんだよ」

「いや、メテオラさん」
「一人居なくなってんスよ」

メテオラ。
そしてその後ろに女騎士。
それについてきてるのは・・・4人。
ちゃんと5人付いてきている。

「あー、なんか顔が生理的に好きじゃなかったんでな」

「?」
「どういうことですか?」

「いーや」

どうでもいいじゃねぇかそんなの。
生殺与奪の権限は、
この場所において、
俺にしかないんだからな。

「言われてみれば、さっきまで俺ら6人居た気がするな」
「そうだっけか?」
「最初から5人くらいだった気もするけど」
「くらいだろ?6人居た気がすんだよ」
「んー・・・確かに誰か忘れてる気がするな」

いちいち面倒な事思い出すなよ。
誰をどうしようが勝手だ。
俺のな。

「あー、でもよ」
「なんだ?」
「俺、このパーティで今居るメンバん中で一番古いメンバなんだけどよ」
「あぁ、俺がメテオラさんのパーティに加わった時にお前すでに居たな」
「おう。んんでどんどんとなんかハグれてんのよ。
 だってここに居るメンバが誰も居ない時からこのパーティに居るんだもんよ」

・・・・。
ま、
気ぃ付かないほど馬鹿じゃないわな。

知らない間にどんどんと人が消えてることによ。

「あれじゃね?さすがに戦闘がないからよぉ」
「どっか戦うために抜けたか?」
「でも無言でパーティ抜けるか?」

「あーあーあー。いんだって」

メテオラはその疑問の会話を無理矢理止める。

「俺がま、こんな奴だからドンドンと愛想尽かしてんだろ?
 だって?俺だぜ?パーティ抜けるなんて言ったら何しでかすか」

ウフフと、
メテオラは笑う。
ごもっともはごもっともで、
メテオラについて来ている今のメンバは、
釘を刺されたような気分だった。

「それよりオメェよぉ」

と、
気分転換。
自分の後ろ。
Gキキの後ろに跨っている女騎士を、
無理矢理手で引き寄せた。

「・・・なんですか」

「オメェ、女の幸せってなんだと思うよ」

そう言いながら、
メテオラはこっそりと手を這わせた。
ヨダレが出そうになる。

「・・・・・少なくとも今こうされることではありません」

手が尻部に移動しようというところで、
女騎士はメテオラの手を払った。

「おっと」

それでも嬉しそうにメテオラは女騎士を抱き寄せる。

「そんな権限はてめぇにねぇよ。世の中は二種類。上とその他だ。
 俺は上。テメェはその他だ。ルールなんかじゃねぇ。
 上にいる奴はその力でその他大勢をどうにでもできるんだよ」

「・・・・私は今の世界のそんな所がイヤで戦いに馳せ参じてるのです」

「いいねぇ。抵抗してくれなきゃ面白くねぇ」

メテオラを突き放そうとする女騎士を、
無理矢理抱き寄せる。
そんな些細な攻防をGキキの上でしていると。

「・・・・・」

メテオラ。
燻(XO)の目つきが変わった。

やっている事は変わらないが、
注意が違う箇所に移動する。

「・・・・ネズミが一匹・・・」

嫌がる女騎士を抱き寄せ、
手を這わせながら、
メテオラの目線の先は・・・・ある家の屋根の上。
一瞬だが見えた。

オレンジのトレカベスト。

「情報屋か」

メテオラはこちらの視線を悟られないようにする。
あくまで何事もなかったかのように、
女で遊んでいた。

「・・・・・隠れたか。情報屋も末端まで教育がいきかってるねぇ。
 ちゃんと悟られないようにしてんのに・・・・・気付いたかマスコミ野郎」

だが、
チラリと見える。
相手が見ているということは、
こちらから見えるということ。
オレンジのトレカベスト。
ウォーキートォーキーズの子分の一人だろう。

「ここまで何度も気配を感じたが・・・あいつらか。暗躍(スパイ)をスパイするたぁなかなかのモンだ」

メテオラは、
ゆっくりと手を動かす。

「だが、俺をパパるには撮影許可が必要でね。運が悪かったな」

そして、
一瞬。
一瞬だけその姿が見えたとき・・・・・

向こうもこちらの動作に気付いたのだろう。
気付いたが、
もうその時には遅かった。

ウォーキートォーキーズが子分の一人。
その男の頭が・・・・・

消し飛んだ。

「・・・・チッ・・・ハズしたか。残務処理もちゃんと・・・・」

「今何をしたんですか?」

「!?」

真横にいる女騎士。
その女騎士が、
ジッとメテオラを見ていた。

「ん?何が?」

とぼけてみせる。
だが、
彼女もまた、
この戦地に出向いた2000の猛者の一人。

「この距離で気付かないとでも?あなたは今、屋根の上に居る男を殺した」

嬉しそうにイラつく。
イラつく。
面倒くせぇ。
面倒くせぇったらありゃしねぇ。
何勝手に見てんだ。

てめぇは家畜のド畜生として俺に遊ばれてりゃいいものを。

「何のことだか」

メテオラは、
それでもとぼけた。

「しらばっくれないでください!貴方は今!一人の男を殺した!」

「どこで?いつ?だれを?だれが?」

「とぼけないでって言ってます!あなたが何をしたまでは分からなかったけど、
 たった今!あそこの屋根の上に居た男の頭を吹き飛ばし・・・・・」

女騎士が、
屋根の上に視線と、
指を向けた時だった。

「え・・・・」

無かった。

そこには何も無かった。

頭の無い死体?
そんなものはどこにもなかった。

「そんな・・・・私は確かに・・・・」

「見間違いじゃねぇの〜?」

ニタニタと笑い、
メテオラは女の顔に自分の顔を近づける。

「俺・が・そんな事する男に見えるぅ〜?」

そして、
女騎士の顔を下から上へ、
ベロン・・・・・と舐め上げた。
女騎士は、
身動き一つとらず、
黙って歯を食いしばり、
メテオラを睨んでいた。

「いいね。それが二種類の片方。何も出来ねぇ弱者の顔だ。・・・・そそるぜ」

Gキキの上。
愉悦の顔で、
メテオラは女騎士を下から手を添えて・・・・

「俺も見たぜ」

背後から、
付いてきたパーティの男の一人が言った。

「一応ずっと気になってはいたんだ。だから監視させてもらった。
 俺は逆に一度目は見逃したが・・・・二度目の動作はしっかりと確認した。
 メテオラさん。あんたはあの情報屋の体を・・・・吹き飛ばした」
「いや、消し飛ばしたっつー方が正しいかもな」

違う奴まで援護の言葉を吐いてきた。
この戦場に参加した、
2000の猛者の一人達。
彼らは、
馬鹿なんかではない。

彼らは・・・気付いていた。

「ウフ」

メテオラの、
燻(XO)の顔が歪む。

「ウフ・・・アヒャ・・・・アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

そして、
自分のGキキの上で大手を広げ、
笑い飛ばした。

「三度目だ!!!!」

愉悦の顔を崩さず、
メテオラは歪んだ美しい顔で笑い言う。

「今日そう言ったド畜生はな!!!」

「三度目・・・?」
「どういうことだ」

「そのまんまだよん。今日、俺ってば三回もバレちゃってんの。三度目の正直なんてウソだねぇ!」

そう笑い飛ばしながら、
メテオラは真横の女騎士の首根っこを片手で掴んだ。

「うぐっ・・・・」

「いいかテメェラ!よぉーく聞け!世の中は二種類だ!
 気付いて死んじまう馬鹿と!知らず知らずに死んじまう馬鹿!
 てめぇらは前者のド畜生だ!寿命が縮んだなぁ!死んじまえよテメェラ!」

女騎士の首を掴んだまま、
4人の部下達を見下ろす。

「あんた・・・・」
「そうやって秘密を知ったものを排除してきたのか!」
「そして・・・・知らぬものはコッソリと始末してきた」

「ウフフ・・・フフ!ハハハハ!その通り!ピンポンピンポーン!
 俺も甘いねぇ。ド畜生だ。三度もバレてやんの。なっさけねぇ。
 ま、お前らが中途半端に凄ぇから悪ぃんだぜ!!」

手加減無しに女騎士の首を潰しかねない強さで締め上げながら、
続ける。

「世の中は二種類だ!成功(○)か失敗(×)!!どっちかだ!でもそれはどっちでもいい。
 お勉強の時間だぜド畜生共。失敗は成功の元!!有名な言葉だ。知ってんだろ!?
 失敗(×)があっての成功(○)ってこと。だから俺は間違ってねぇ!だぁーけぇーど!」

ヘラヘラと笑いながら、
鬼畜は笑う。

「失敗は成功の元ってことはよぉ!失敗がなけりゃ成功が生まれないってことだろ?
 成功の"もと"なんだからよぉ!つぅーまぁーり!いきなり成功した場合!それは成功じゃねぇ!
 失敗ってぇ×がないんだから、それは成功でも失敗でもねぇ!つまりやっぱり×は○のもとなんだよ!」

「だからなんだってんだ!」
「三度目だっつったな」
「今回も逃げおおせるとでも!?」
「隠しとおせるとでも!?」

「もち♪俺ぁ・・・・暗躍のジョーカーだからな」

「黙れ裏切り者が!!」

一人の男が剣を抜いた。
殺意に漲る剣を。

「おーおー。威勢がいいねぇ。でも裏切り者へねぇだろ。俺ぁ裏切ってねぇんだからよ。
 ×じゃなくて○だ。俺は自分の大切な仲間を裏切っちゃぁいねぇ!もともと帝国なんだからな!」

「んだと・・・・」

「んで君。君君。そこのド畜生」

余裕の、
ヘラヘラした顔つきで、
メテオラは指差す。
剣を抜いた男に。

「・・・・君。武器忘れてきちゃったのかね」

「なぁにぃ・・・・・・・」

男は、
その自分の手の剣を見た。

「・・・・あ・・・・」

「腕・ご・と♪」

「あああああああああああ!!!!」

気付いたと同時に、
男の腕から血が噴出した。
間接から先。

腕が・・・・無い。

「うぁああああああ!!!」

男は自分の右腕を抑えながら叫んだ。
だが、
血が噴出す。
止めようが無い。

「あーあー、うるせぇなぁ。ま、それより」

グィ・・・とひきつける。
それは先ほどから首根っこを締め上げていた、
女騎士。

「バレちゃったんだったら隠す必要はねぇ。あんた。俺とどうよ?
 ウフフ・・・・・最ッ高に気持ちのいい地獄を見せてやんぜ?」

「こ・・・の・・・・」

「いいねぇその目♪ブルっちまう。最高にソソる目だ」

メテオラは、
その女騎士を、
両手で締め上げた。
首を、
両手で締め上げる。

「いいねいいねいいねいいねいいねいいね!!イッっちまうって顔してんぜ!」

「・・・・が・・・あっ・・・・・」

「んー。鍛えてる女はこう・・・・キュッってのがいいんだが。うん。鍛えすぎってのもナンだぜ?
 痩せたきゃ食べない。筋肉付けたきゃ食べる。筋肉ってぇのは重いんだぜ?
 レディーなんだからよぉ、体重計乗るのが怖くなるような鍛え方しちゃぁダーメ♪」

メシメシと、
女騎士の首を締め上げる。
最初は赤くなっていたが、
今は青を通り過ぎ、
首筋が紫色になってきていた。
燻(XO)の髪や、唇のように。

「ダァーイエット手伝ってやろうか?」

「・・・・貴様・・・・なんか・・・・に・・・・」

「ほれダイエット成功♪」

「貴様なんか・・・・が・・・・世の中に・・・・・・」

ふと、
女騎士は気付く。
突如、
苦しくなくなった。
首は絞められたままなのに。
そう思い、
目線を下げると・・・・・

「50kgくらい減量できたんじゃね♪」

「・・・・・あ・・・・あ・・・・」

足なんかない足元。
Gキキの背中の上に、

自分の体が落ちていた。

「・・・・あ・・・・」

「気分はどう?」

メテオラは持ち替え、
すでに首だけになった彼女を、
髪の毛を掴んで吊るすように持つ。

「いい目だ。絶望って奴だな。おっタつぜ」

そう言い、
首だけの女騎士の口に、
自分の唇を這わせ、
舌を突っ込んだところで。

「ありゃ、死んだか。そりゃそうだな」

もの言わぬ、
目線の全く動かないその女騎士の首を、
プランプランと揺らした後、
投げ捨てた。

「こっちはリサイクルすっか。生ものは早めに使わねぇとな。乾くと俺もヨくねぇし」

Gキキの背中の上に、
女騎士の首から下は乗せたままに。

「さぁーて。あとはゴミクズか」

ウフフ。
アヒャヒャと笑う。

「俺ぁゴミはリサイクルしねぇ主義でなぁ!」

「チクショゥ・・・」
「ああああ!腕がぁあ・・・腕があああ!」
「しっかりしろ!」
「腕一本どころか死ぬ覚悟してきてんだろが!」

「世の中二種類だ!」

Gキキの上で、
燻(XO)は笑う。

「死ぬ覚悟が出来てる奴と!殺す側!てめぇら悪いクジ引いて生まれちまったなぁ!!」

「死ぬ覚悟はあっても・・・」
「てめぇに殺される覚悟はねぇなクソ野郎!」

「ウフフ・・・いいね。もっと呼んでくれ。最高におっタつ。女じゃねぇならすぐ萎えるけどな。
 ・・・・・・・てめぇらにイイ事教えてやるよ!てめぇらが打ち砕きたい未来の話だ!
 アインハルトはこの戦いの後、絶騎将軍(ジャガーノート)を王とするつもりだ」

「王・・・?」
「将軍ってのは複数いるんだろ」

「そうだ。ま、アインハルトにとったらこの後の世の中なんてどーでもいいんだろうな。
 俺達に与えたエサだ。だぁが俺にとっちゃぁそれはあまりに魅力的でな!
 戦いの後、帝王の下に4人の王が生まれる!まさに・・・・ウフフ・・・・古い言葉で四天王だな」

「なにが王だ・・・」
「てめぇみてぇな王が産まれてたまるかよ!」

「王の能力は権力!何もかも思い通りに弄びたい俺には最高でなぁ!そんな王もいいだろ?
 魔王だって王だし、閻魔だって大王だ。王国騎士団(キングダムナイツ)からキングが生まれたっていいだろ!
 ウフフ・・・・そう。世の中二種類。○か×かだ。・・・・俺は上!!てめぇらは下だ!!このド畜生が!!」

さぁて、
と、
余裕の表情で、
燻(XO)は両手を広げた。

「飽きた。てめぇら死ねよ。死んで生まれてもっかい死ね!・・・・あ。死ぬ前に名前でも名乗ってみたら?
 墓標なんてねぇけどな。家畜に名前はいらねぇ。でも俺は律儀だからよぉ、名乗ったら出席番号順に殺してやるよ!
 ・・・・ま・・・・・いっか。どーでも。誰にも悟られず、惨めに犬死ご苦労様でした」

ウフフと笑い、
最後を言い放つ。

「クソでも喰らいな」



































「アー君」
「はい」

すでに当たり前のように返事をしている自分がイヤだったが、
アレックスは返事をした。
歩みは止めない。
それでも外門へ歩を進めなければいけないのは変わらないのだから。

「ロウマ隊長は言ってました。前に進むのは勇気だと」
「そうですね。何事も踏み込む事は危険を意味しますから」
「危険・・・・とても心地よい響きです・・・・」

恐らく、
逆境を超えるのが好きなのだと信じたい。
44部隊だからきっとそうなのだ。
マゾなのではないと。
・・・・
今更それは否定できないか。

「でも違うんです・・・・危険は前にあるんじゃない。・・・・後ろにあるんです」
「後ろですか?」
「はい。前に踏み出すということは、後ろから遠のくということ。
 ・・・・・・見えもしない背後から、また一歩遠のくということ・・・・」
「カッ、つまり・・・」

ドジャーが横からを口を挟む。

「忘れモンはねぇかって話だろ」
「違うわ。このクズ虫」
「違わねぇだろ!!先に進むにあたって見落としてる事はねぇかって話だろ!」
「違うわ。このクズ虫」
「・・・・・あれっ!?」
「違いますよドジャーさん。つまりスミレコさんが言いたいことはですね」
「・・・・お、おう・・・」
「先に進むにあたって見落としてる事はないかって事です」
「その通り・・・さすがアー君・・・」
「あれぇー!?」

ドジャー的に、
本当にこのコンビはあまりに敵だ。
敵は敵でも強敵すぎる。

「でも後ろ・・・ですか」

アレックスは歩きながら考える。

「カッ。後ろなんて仲間ばっかだろが。俺らはともかく、仲間は敵を打破して進軍してんだからよぉ」
「でも、ギルヴァングさんがいます」
「あぁ・・・・」

まぁ、
それには言葉はない。
ドジャーとて、
気付いているのに気付かないフリをしていたようなもんだ。

「っつってもあんなんどーしよーもねぇだろ」
「そのどうしようもないのが背後に居るんです」

見ないフリも、してられない。

「その通りですアレックス部隊長。前向きだけでは後ろから刺される」
「っつってもさっき話してばっかじゃねぇか。さっさと外門目指さなきゃよぉ」

それもそうなのだ。
こう話しながらでも、
迷う事なく足は外門へ向かっている。

それは、
どう考えてもどうしようもないからだ。

「ねぇ、アーキュン」
「あれ?!なんか進化してないですか!?」
「・・・・気のせいです」
「マジですか・・・」
「・・・・マジです」
「でもその流れに僕も乗っかるとですね、僕の方はシュミレコさんと呼ばなきゃいけないです。
 まるで歯の無くなったご老人のようじゃないですか」
「歯の無いアー君もステキです」
「ストライクゾーン広すぎでしょう!?」

フォアボールは望めそうにない。
つまりこの人にかかれば100%アウトになるということだ。
いや、ある意味デッドボールか。
恐ろしい。

「アー君はいつもどおりに呼んでくれればいいんです」
「ですよね」
「汚物でも見るかのような目で、この雌豚がっ!と」
「呼んだ事ないですよ!」
「そうですね。普段は気軽に豚と呼んでましたものね」
「呼んでません・・・・」
「そんな!私がブヒブヒ言うのを見下すのが快感だって・・・・」
「いつから僕はそんな特殊な趣味を持つように・・・・」
「アレックス。そいつの相手するだけ無駄だ」
「黙れ害虫」
「うっせぇ豚」
「あんたに言われても不快感しかないのよ。セミにも劣る不快な鳴き声だわ。
 あんたは嬉しそうにゴキブリホイホイにでもひっかかってればいいのよ」
「・・・・・ほれみろアレックス。口では勝てん・・・・」
「そりゃぁドジャーさんが人語も理解できない下等生物だからです」
「ノッかるんじゃねぇよ!!!」

どんなに苦しんでもドジャーを馬鹿にすればプラマイ0になる。
アレックスは再認識した。
ドジャーのマイナスはどこに行くかは知らないが。

「それでスミレコさん。なんでしょう?」
「アー君。少しは考えてらしたと思うんだけど、
 実際、絶騎将軍(ジャガーノート)レベルはどうするつもりだったんですか?」
「どうするったって・・・・」

アレックスは助けを求めるようにドジャーを見たが、
ドジャーも「イヤイヤ・・・」と首を振って答えを拒否した。

「そうですね・・・・数で当たっても勝てる気はしませんし、実際太刀打ちできるのは・・・・・
 ツヴァイさん。三騎士さん。それにエドガイさんくらいのもんです」
「正直そこらを頼りにするしかねぇよな」
「でもツヴァイ=スペーディア=ハークスもカプリコ三騎士も外門にいるのでしょう?」

そうなのだ。
太刀打ちできる戦力は、
まるまるこの場にいない。

「保留・・・するしかねぇんだよ。ストーカー女」

ドジャーは言った。

「言いてぇ事は分かる。それでもやらなきゃいけねぇんだから逃げてばっかでいいのか?とかよ。
 だがどーしよーもねぇもんはどーしよーもねぇ。それでも目的はあるんだ。
 最悪・・・っつーか最高か。最高の展開はぶち当たらずにこの戦いを終わらせればいいんだがな」

言いながらも、
そんな事は不可能だとドジャーも分かっていた。
そして、
彼らから逃げている時点で、
アインハルトに太刀打ちできるはずもない。

「ふん。害虫め。まぁネガティブよりはそーいうプラスチックな考えがあればマシだけど」
「素材みたいだから表現変えろ」

プラスチック=前向きチックという意味だろうが・・・。

「でも考えがないわけじゃありません。だからこそスミレコさんに協力を仰いだ」
「つまり・・・やっぱりロウマ隊長を?」

アレックスは頷く。

「44部隊がこちらに付いたとしたら、全ての構図がうまくいきます。
 スミレコさんだって、何の気兼ねもなくこちら側に居れるということでしょう?」

そういうことだ。
ロウマの意志ならば、
何も拒む必要はない。

「そんな・・・私達の間柄に気兼ねなど・・・・曝け出した仲じゃないですか」
「何をですか・・・」
「何もかもをです」
「自信持って嘘つかないでください・・・・」
「カカカッ!その女の前じゃぁアレックスもツッコミに回るな」
「ドジャーさんと同じにしないでください。そしてドジャーさんは唯一の立ち居地への危機感を持つべきです」
「おま・・・・俺の存在意義をそんな風に見てたのか・・・」
「ドジャーさんからツッコミを抜いたら、ャーしか残りません」
「俺のドジが飛んでった!?」
「あ、いいですね。やっぱそっちを残しましょう」
「ャーを残してくれ!」
「そうよ害虫め。あんたとアー君を同じにしないで。反吐が出る。土へ還れ。
 同じツッコミでも用途が違う。アー君は突っ込みで、私は突っ込まれる方」
「深い意味はないですよね」
「深い意味しかないです」
「そうですか・・・・」

ボケというよりは痴呆症を通り越してキチガイだ。

「でもまぁ、スミレコの言い分はごもっともって言やぁごもっともだ。
 正直こちとら切り札を頼りにしてるんでな。んでもってそれも出払い中なわけだが、
 三騎士とツヴァイが駄目でももう一人、絶騎将軍(ジャガーノート)を相手できる奴がいるだろ?」

それはそうだ。
それはそうなのだが、

「エドガイさんの所在は掴めてませんけどね」
「ミルウォーキーの野郎から参戦の情報さえまだもらってねぇしな」
「少数精鋭の彼らなら、幾分は情報を隠して参加することもできるでしょうけど、
 それでも味方としては仲間の動きを把握しておきたいものですね」

傭兵《ドライブスルー・ワーカーズ》
彼らの実力は折り紙付きだ。
あのツヴァイをも抑え込んだ・・・・
いや、
ツヴァイに打ち勝ったと言っても過言ではない傭兵部隊。

「アー君・・・・」

不意に、
スミレコは、
アレックスの服のスソを掴んだまま、
屈んだ。

「?・・・どうしました?スミレコさん」
「敵・・・・」

スミレコは、
アレックスを掴んでいない方の手を、
地面に添えていた。
範囲型のスパイダーウェブを使う彼女にとっては、
これが戦闘の構えになるのだろう。

「・・・敵・・・ですか?」
「・・・・多分」
「根拠は?」
「無いけど気配」

スミレコは警戒する。
前方を。

・・・。
アレックスとドジャーには変わらぬ町並みに見えるが・・・・・

「ぐぁあああ!!」
「あああああ!!!」

騎士が3体。
合図のように路地裏から吹っ飛んできた。

「なんだ!?」

ドジャーはダガーを抜き、
アレックスもさすがに槍を構える。

路地裏から吹っ飛んできた騎士3体は、
そのまま息絶えたようだ。
通りの真ん中に、
騎士の死体が3つ転がる。

「・・・・死体が消えないところを見ると死骸騎士じゃありません。帝国の一般兵士でしょうか」

アレックスの疑問の最中、
さらに、
路地裏から人。

飛び出してきた。

「敵は!?」
「異常なし!」
「カバー!」
「構えとけ。随分敵の数も増えてきた」
「ライトクリア!」
「レフトクリア!」

さきほどまでの静けさ(といってもここら一帯だけの話だが)と違い、
10名ほどの男女が路地裏から飛び出してきて、
各々が各々をカバーするように四方を警戒する構えをとっている。

「やっぱり敵・・・・・」

スミレコの目が鋭くなり、
アレックスから手を離し、
両手を地面に付けた。
そこからスパイダーウェブが広がり始める。

「待ってくださいスミレコさん!」
「はい。ご主人様」

あまりに素晴らしい聞き分けで、
地面から手を離し、
スミレコはスパイダーウェブの拡散を解除する。

それと共に、

「やーやーやーやー」

一人、
ノロノロと路地裏から剣を担いで出てくる男。

「彼女のしつけがなってないんじゃないのー?可愛い子ちゃん。
 いきなり俺ちゃん攻撃しようとするなんてさぁー。で、どこで捕まえたのよ。その彼女」

ヘラヘラとピアス付きの舌をぶら下げながら、
戦闘態勢バリバリの仲間達の中央に、
彼は立った。

「酷いねぇー。俺ちゃん涙目♪俺ちゃんほっといて恋人作っちゃうなんてさぁー」

「エドガイさん・・・」
「噂をすればってか?」

「お?俺ちゃんの噂してたの?そりゃぁー嬉しいねぇ♪
 あー、お前ら、警戒は維持しとけ。もう情報屋にはバレるころだしな」

「「「「「サー!イエス!サー!!」」」」」

「別にバレたってどーってこともねぇんだけど、あー、やりにくくなんなぁ。
 仕事は結果オンリーだかんねぇ。手軽に済めばそれでいーんだけど。
 あ、可愛い子ちゃん。どう?元気ぃ?ツヴァイどこいった?無理してんじゃないのぉーん?」

まるで日常のようなテンション。
掴み所の無い人だ。

「ツヴァイさんはすでに外門近くまで行ってると思います」

「ありゃ!頑張っちゃってんねぇ。張り切りすぎだって。でもツヴァイ無しで大丈夫なん?」

「調度その話をしてたところです」
「大丈夫じゃねぇよ。ギルヴァングが街で暴れてんだ。さすがに知ってんだろ?
 ほれ見ろ。ちょっと視線変えて見上げれば向こうの方で屋根が吹っ飛んでる」

「あー?ちょっと待ってくれよ。まさかまさかだけど。うん。そーじゃないと信じるけどよぉ。
 俺ちゃんにギルをやれってかぁ?かぁーーんべんしてよー。
 あんな脳みそ筋肉と戦ったら全身骨折り損だってぇーの。パスパース」

だらしない顔を振るエドガイ。
どこまで本気なのか。
本当に分からない人だ。

「アー君。あれが傭兵の・・・・」
「そうです。エドガイさんです」
「・・・・そう。《ドライブスルーワーカーズ》。それなら王国にも怨みがある側。敵じゃないですね」
「なんの話ですか?」
「カッ。いーっての。今更伏線みたいな事言わなくてもよぉ。どーせ皆何かしらの理由で戦ってんだ」

「そっそー♪その辺は俺ちゃんがピンチの時にでも回想すればいーんじゃね♪」

「死ぬ時じゃないといいですね」

「ありゃりゃー。可愛い子ちゃんはやっぱ毒舌だねぇー。俺ちゃん涙目♪」

どんな言葉にでも軽く返してくる彼の態度に反して、
周りの傭兵達の隙の無さは頼りがいがあった。
その頂点が彼だと思うと、
あの気の抜けた態度が逆に頼もしくも見えてくる。

「んでー。話の続きなんだけどー。やっぱギルの相手は俺ちゃんパスねー。別の仕事入ってんのよ」

「いえ、無理にぶつけようとも思ってないですが、
 今のところエドガイさん達しかギルヴァングさんの相手になる人がいないんですよ」

「困っちゃうねー。ま、可愛い子ちゃんが俺ちゃんの相手してくれるってんなら考えるけど♪」

と見てくるエドガイ。
ゾワッする。
貞操の危険を感じる。

「・・・・・」

無言でアレックスの背中にくっつくスミレコ。
無言のまま、
「これは私のだ」と言ってるのが伝わる。
・・・・。
ストーカーやらバイやら、
そんでもって放火魔やら、
確かに本当に変人に好かれやすい気はしてくる。
そういえばダニエルは今どこで何をしてるのだろうか。

「アー君・・・あの人はアー君の何なんですか・・・」
「え・・・別に何だっていう関係じゃないですよ・・・・」

「恋人だよぉーん」

と、ヘラヘラと意地悪に笑うエドガイ。
スミレコはムッとし、
アレックスの陰に隠れながら睨む。

「アー君の恋人は私だ・・・巣に帰れ。この両生類。草むらで尻尾千切ってろ」

「いやぁー。俺ちゃんは両刀なだけよぉー?でも両生類ってのも言い得て絶妙かもねん♪」

スミレコと対等に会話している。
凄い。

「黙れ両生類。川原でゲコゲコ鳴いてろ。その舌が両生類っぽいんだよ。この卵産生物が。
 その自慢の舌でハエでも捕まえて喜んでムシャムシャ食べてろ。あー気持ち悪い。
 さぁ身の程が分かったか両生類。アー君の恋人は私だ。お前なんて良くて愛人止まりだ」

本当にドンドンと辛らつな言葉が出てくるものだ。
アレックスは中心に居ながら第三者顔で感心していた。
そしてもう一人。

ドジャーはというと・・・・・、
スミレコを応援していた。

「もっと言ったれ!もっと言ったれ!」

別にエドガイに深い恨みなんて無いが、
自分以外があーやって馬鹿にされているのが何やら嬉しいようだ。
まるで生を得たゴキブリのようにはしゃいでいる。

「愛人〜?いいねぇー♪俺ちゃん歓喜♪すっげぇいい響きだ!オッケ!ノった!俺ちゃんそれな!」

それに対し、
全くダメージを食らわないエドガイ。
変体には変体同士の会話方法があるのだろうか。

スミレコはムッとしていた。

「ズルい・・・駄目。やっぱ駄目。愛人も私・・・・」

「おいおいそりゃぁ欲張りだぜー?どっちか譲れよぉーん?」

「ふん」

アレックスの背中にギュッと寄り添いながら、
スミレコはそっぽを向いた。

「んじゃいーや。俺ちゃんとりあえずペットとかで我慢したげるよぉーん♪」

「駄目!それが一番駄目!アー君にペットにされるのは私の夢!」

どんな夢だ。
というか何を張り合っているのだ。
変体同士で。

「んー♪可愛げのない可愛い子ちゃんだねぇ。可愛い子ちゃんハーレム計画の候補に入れちゃいたいね♪」

「あれ?エドガイさんスミレコさん知ってるんですか?」

「ハハッ、俺ちゃんプロだぜ?この道のプーロー。
 前髪で顔隠れてても俺ちゃんのスペシャルアイは可愛い子ちゃんを見逃さない」

それは凄い機能だ。
ただ性格で相手を選べる脳みそにヴァージョンアップする必要がある。
見境なさ過ぎる。

「あー、茶番終わった?」

ドジャーが不機嫌そうに言った。

「ドジャーさん。ちょっと話題から外れたくらいでスネないでくださいよ」
「カッ」

いやに不機嫌そうだ。
さっきまでは何かしら楽しんでいた気配があったが、
いつからだ?
そんな疑問を持っていると、
その理由は分かった。

「話が終わったんなら、俺も聞きてぇ事がある」

「ん〜?なーんだい可愛いく無い子ちゃん」

「ご馳走をくれてやるっ!!!」

突如、
ドジャーはダガーを投げた。
一本、
投げつけた。
本気ではないのだろう。
それは真っ直ぐ飛んでいき、

「ん?何?」

エドガイが軽く首を動かすと、
それだけでダガーは外れて通り過ぎた。

「何?じゃねぇーよ」

ドジャーは、
ダガーを投げたままの体勢で、
睨んでいた。

「俺ぁよぉ。アレックスと違って反乱軍を1年以上指揮してきた。
 だから顔見知りもそこそこに居るんだ。分かるだろ?」

そしてドジャーは、
指をさし示した。

「そこに寝てる騎士3人。"こっちの奴ら"だ。何殺してくれてんだ変体傭兵が」

その言葉を聞き、
アレックスも注意を向ける。
・・・。
王国騎士団にも、
帝国騎士団にも在籍していたアレックスにも分かる。
装備は強制ではないのだが、
騎士団側から支給されるからには兵士の装備は少なからず統一制が出来る。
だが、
あそこで死んでいる3人の騎士の鎧は、
騎士団が着ているオーソドックスなものとは似つかわしくない。
3人が3人ともだ。

「あーりゃ。怒った?すまんすまん。怒んないでよー可愛いく無い子ちゃん。
 俺ちゃんらプロなわけね?そんでもってジコチュー。俺ちゃんらの目的以外は割とテケトーなのよ」

「納得いかねぇな」

ドジャーの目はマジだった。
それに対してエドガイはやはりヘラヘラとしている。


「イッツァウォキトォキ!!!」


話をぶった切るかのように、
トレカベストの盗賊が、
アレックス達の前に滑り込んできた。

「イァー!ニュースを届けにきたぜ!俺ぁウォーキートォーキーズの子機33号機!
 あら?《ドライブスルー・ワーカーズ》と合流したの?聞いてねぇ情報だな。
 メモ帳に追加しとくぜ♪でまぁ情報をクールにお届けに参上したぜぇーん」

空気を読まないように登場した彼は、
何事もなかったかのように返事も聞かずに話し続ける。
この辺は情報屋みんな統一のようだ。

「あんま状況は変わってねぇーよ。基本的に前の情報のまーんま。
 だけど着実に前に進んでるって意味ではグッドニュースだねぇ」

「それはどうも。お疲れ様です」
「あーん?邪魔だ情報屋。後にしろ」

「いやいや臨時だからな。先に言っておかないと"情報屋は何やってたんだ!"って怒られるっしょ?
 普段はマスコミ批判ばっかなのに、ここぞという時は理不尽なもんだよねー、世論」

気軽な態度だったが、
情報屋は、
顔つきを真剣なものに変えた。

「本題(1面)だ。ここら一帯の路地裏で反乱軍が大量に殺されている。
 敵さんかなりのもんだぜ。まだ姿も見えてねぇが、死体の有様が鮮やかすぎる。
 続きの情報は到着次第お届けするが、あんたらも気をつけろってこ・・・・・・」

そこまで話した瞬間。

情報屋の体が上下に分断された。

トレードマークでもあるトレカベストの腰の辺りから、
綺麗に分断され、
上半身が吹き飛ぶ。

「・・・・・とだね・・・・」

続きの言葉を残しながら、
情報屋の上半身はそのまましゃべらなくなった。

「・・・・・・なっ・・・・」

その情報屋の上半身が吹き飛んだ・・・・・・その真逆。
目線でそれを辿っていくと。

「あーあー。俺ちゃん涙目」

トリガー付きの剣を突き出した状態。
まるで銃を撃ち終わったかのような構えで、
エドガイはそこに立っていた。

「仕事はスムーズに済ませられねぇもんだな。これだからサービス残業が増えるんだよ」

そう言い、
剣を下ろし、
またヘラヘラとした表情に戻る。

「・・・・どういうこった」
「何してるんですかエドガイさん・・・・・」

「どうもこうも何もこうも、さっきまでの続きで見たまんまの事だよ。
 そんでもってそいつの言ってた事がまさに真実で、張本人が誰ちゃんかって話よ」

右半分を隠す前髪が、
少し風で揺れ、
バーコードが見える。

エドガイは、
やはりピアス付きの舌を出しながらヘラヘラと笑っていた。

「てめぇ・・・裏切ったか」

「裏切った?なぁに言ってやがる。俺ちゃんらは誰の味方でもねぇ。
 ま、金さえもらえばどんな奴の味方にもなるけどな。仕事が第一でね」

元から第三者。
どこにも属さない、雇われるだけの・・・・・・傭兵。

「その仕事っていうので・・・・僕らの味方だったはずです」

「仕事ってのはな。可愛い子ちゃん。・・・・・・金をもらってやることなんだよ」

太陽にキラキラと光る。
左マブタの上や、
左耳。
唇にまでピアス。
左半顔に彩られる、
エドガイのアクセサリー。

そして右半顔には前髪のカーテン。

「俺ちゃんらには金は命なんだ。逆に言えば命なんざ金の上でなんぼでも転がる。
 はした金だけが行動意志の哀しい愚かな家業。それが俺ちゃん達傭兵なんだよ」

何も悪気の無い顔で、
さも当たり前のようないつもの顔で、
エドガイはヘラヘラと・・・・。

「怨むんならお門違いだ。あんたらちゃんはちゃぁーんとそこを承知だったはずだ。
 そんで"気付くならいつでも気付けた"。俺ちゃんらは金の上で動くと知ってるからだ。
 そうだろ?だってよぉ・・・・・・・・"今回はあんたらから金をもらってねぇ"」

・・・・。
それは・・・・
確かにそうだった。
だがそれはツヴァイから流れて伝わった情報。
エドガイが自分からノーマネーだと言ってきたと。
だから、
そういうものだとばかりに・・・・・。

「こちとらプロでね。俺ちゃんらはそーやって拾われ、そーやって生きてきた。
 強姦・恐喝・強盗・誘拐・殺人&自殺もOK。性のアフターから掃除洗濯まで。
 地獄の沙汰も金次第。金さえ見合えばなんでもするぜ。そして必ず遂行する。
 これ以外の生き方を知らねぇし、これ以外の生き方を選ぶ気もねぇ」

そして金のためなら、
生きる必要さえない。

「ビッグパパ(親父)に誓ったんだ。はした金のために、"体に値札(バーコード)を刻んだ"んだ。
 ・・・・もっかい言うぜ。こちとらプロだ。サービスには細心の注意を払ってるぜ。
 "先約"があったからあんたらからは金を受け取らなかった。仕事を受け取らなかった」

片手で、
その、
引き金付きの剣を持ち上げ、
突き出す。
その先。

「・・・・・その仕事っていうのは・・・・・帝国からということですか」

「そう。そして積荷はあんただ。可愛い子ちゃん。"アレックス=オーランドの殺害"
 アルとレンには悪ぃが、可愛い倅をお仕事の相手にさせてもらうわ」

「金金金。金だけのために、なんもかんも簡単に捨てれるんだな」

ドジャーが皮肉を込めて言い放つ。
だがエドガイは笑った。

「違うね。全て捨てたんだ。俺ちゃんらはな。そして売った。それだけだ」

命は、ビッグパパの名の下に。
値札という鎖に繋がれて。
カイという名を買い取って。

「だが俺ちゃんも人間だ。仕事の内たぁいえ、あんたらとのお仲間ごっこも楽しかったぜ。
 すんげぇいい思い出だ。ハッキリ言って溢れんばかりにイイ時間だったんだぜ」

「だから・・・」と、付けたし、
エドガイは剣をアレックスに向けたまま、

「釣りはいらねぇ。地獄までもってきな」

エドガイは、
当たり前のように引き金を引いた。











                 






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