「逃げんなゴルァアアアアアアアアアアアア!!!!!!」 ルアスという町自体が揺れるかのように、 振動するかのように、 その雄叫びは響く。 「漢だろうがぁああ!!!闘いだろうがよぉおおお!! てめぇら!!敵に背ぇ向けやがって!!それでも精液入ってんのかゴルァアアア!!!!」 ルアスという町の中心で、 漢を叫んだが、 「だっ、おま・・・逃げんなっつってんだろが!!!!」 嫌でも聞こえてくるギルヴァングの馬鹿でかい声にさえ、 耳を貸すものはいなかった。 皆、 全力で逃げていた。 「ふざけんな!!メチャふざけんな!!!!」 そう言い、 ギルヴァングは八つ当たり。 その獰猛な拳を、 横の家の壁にぶつけると、 あら不思議。 その家の壁は破片となって砕け、 さわやかなオープンテラスの一軒家に姿を変える。 「闘えよぉおおお俺様とよぉおおおおお!!!」 ルアスに響く、 唸り声。 地震のように、 街が振動する。 「チッ・・・・」 獰猛な体。 逆立った髪。 それらを荒ぶらせたまま、 「戦場(ここ)に漢はいねぇのかよ」 ギルヴァングは苦虫を噛んだ。 基本的にギルヴァングは逃走者を襲う事はしない。 あくまで欲するは、 純粋な闘い。 殺戮ではない。 「俺様とガチンコるメチャ漢な野郎はいねぇのか!?あぁ!?」 欲するは、 闘い。 血肉踊る。 そんな熱き戦い。 だから逃走者を襲うような真似はしない。 「ドッゴラァァアアアアアアア!!」 まぁ、 とはいえ、 短気かつ、 オツムが足りないため、 八つ当たりかつ敵探しで街を破壊し、 犠牲者を出すのはご愛嬌だ。 本人に悪気はない。 (事故だと思っている) だから、 殺戮行動はしなくとも、 彼が好敵手を探すだけで、 街と人々は壊滅はまぬがれない。 「逃げる?漢らしくねぇ?」 「言ってくれるじゃねぇか」 「お?」 そんな、 すでにゴーストタウンのようになっているこの風景に、 たった二人。 勇者が立ちはだかった。 「俺達にも誇りがある」 「やってやろうじゃねぇか」 残念ながら、 特筆すべき名はない。 反乱軍の兵が2人だ。 「いいね」 ギルヴァングは笑う。 どんな相手でも、 自分に向かってきてくれる奴には、 敬意さえ感じる。 「闘ろうじゃねぇか」 「・・・・・・」 「・・・・・」 正直、 こう、 真正面から向かい合っても、 二人の男は、 震えが収まらなかった。 馬鹿ではない。 雑魚でもない。 相手の力量が自分達を遥かに上回っている事も分かっている。 だからこそ勇者と表現した。 名も知られていないただの二人であれ、 彼らとて、 この第二次終焉戦争に挑んだ愚か者。 死を覚悟している。 本気で何かを成そうとしている者の内の二人だ。 明らかに目の前に死が待っていようと、 逃げない。 立ち向かった。 「てめぇら。名は」 「・・・・・《昇竜会》・・・カネワシ」 「元傭兵のラムズだ」 「ギャハハ!いいねぇ。墓は作ってやれねぇが、一生覚えててやるよ」 ギルヴァングは、 構えともいえぬ構えをとり、 笑う。 「二人・・・・・漢が居たとな!!!!」 本当に、 心から嬉しそうに、 野獣は獰猛に微笑んだ。 「・・・・逃げるわけにはいかない・・・か。俺達も馬鹿だな」 「あぁ。そんな理由で怪物に向かうなんてな。命を捨てたようなもんだ」 そう言いながら、 黒スーツの男は長いポン刀(ソード)を抜き、 鎧の男は槍を抜いた。 「あん?」 そこに、 ギルヴァングは顔をしかめる。 「おい、てめぇら」 そんなルールはない。 そんなルールはないが、 ギルヴァングの教科書には、 逆にそのルールはタブーだ。 「武器なんざ・・・・・・・」 ギルヴァングの横隔膜が、 風船のように膨らむ。 大砲でも撃ち出すかのように、 ギルヴァングは、 圧力高き空気を吸い込み・・・・・ 「使ってんじゃねぇえええええええええええ!!!!!」 雄雄しき、 声。 轟く、 雄叫び。 獰猛な、 ヴォイス。 吹き飛ばすような、 シャウト。 ギルヴァングの喉という楽器(大砲)から、 叫び声(見えない砲弾)が発射される。 台風の風をも超える圧力。 その叫び声。 「うっ!?」 「おぁっ!?」 昇竜会の男と、 元傭兵の男は、 同時に一歩下がり、 声だけに押されたかと思うと、 「・・・・・・おい!!」 「なんだこりゃ!?」 ヤクザの男の手のポン刀(ソード)に、 亀裂が、 鎧を纏った騎士の手の槍に、 ヒビが、 それがメシメシと、 双方の武器をむしばみ、 粉々になって落ちた。 「なっ?!」 「声だけで武器が・・・・」 喉という楽器。 獰猛なる吟遊詩人。 シャウトという名の・・・・・・ウェポンブレイク。 ガチンコタイマン真剣勝負。 血肉踊る正真正銘の肉弾戦闘こそ、 漢の闘いだと心酔しているギルヴァングが身に着けた、 武器無効化(アンチウェポン) 「ど、どうなってんだ!」 「武器が破壊されたぞ!!」 「防具なんかに・・・・・」 だが、 強靭な肉体を持つ野獣の胸が、 また膨らむ。 「守られてんじゃねぇえええええええええ!!!!」 また、 街ごと吹き飛ばすかのような、 空気砲と言ってもいい声の弾丸。 砲弾。 それが二人を突き抜けたと思うと、 元傭兵の男の鎧が、 ピシピシと・・・・・ 割れ始めた。 「なっ!?防具まで駄目なのかよっ!?」 「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」 動揺しているヒマなど、 与えてくれなかった。 そう強靭で、 豪快で、 獰猛な超肉体が、 見た目に反比例するほどの速き勢いで飛び出した。 「これで!!!ガチンコだ!!!闘いはこうじゃなきゃなぁあああああ!!!」 「クッ・・・・クソォ!!!」 グラグラと、 ひび割れた鎧を纏った男は、 成れぬ手ぶらの構えをとった。 無武器の戦いなどしたことがなかった。 だが、 覚悟しなければならない。 世界最強の身体能力を持つ野獣が、 自分に向かってきているのだから。 「クソォ!!!来いくそ野郎!!!!」 「ギャーーーハッハハハハハ!!!その覚悟!!!メチャ良し!!!!」 破いたような、 布切れを纏っただけのような、 ファー付きの毛皮を着た野生の猛獣が、 自分に向かってくる。 だが、 逃げない。 覚悟は決めていた。 自分も、 世界に反する覚悟を決めた一人。 相手が反則級に自分を上回る者だとしても、 逃げたりはしない。 「・・・・・・」 覚悟は決めていた。 ・・・・。 だが、 それだけだった。 「ゴブッ!!!」 一瞬で、 その筋肉質な体が、 風のように、 嵐のように自分の所まで迫り、 視界が真っ暗になった。 顔面を捕まれた。 「オゥルァアアアアアアアア!!!!」 何も見えない世界が、 回る。 顔面を片手で捕まれ、 元傭兵の男は、 グルングルンと振り回された。 首が千切れるかと思った。 パワーと遠心力で、 頭だけ残して体が吹っ飛ぶかと思った。 千切れていないのが不思議だった。 だが、 どちらにしろ、 もう一度世界を目にすることはないんだろうと、 確信した。 「ぶっ飛べゴルァアアアアアアアア!!!!!」 顔面を捕まれ、 振り回され、 そして、 投げられた。 やはり世界は見れなかった。 視界を捕まれていて、 そのまま投げ飛ばされた。 景色を見るヒマなどなく、 目を開ける早さよりも速く、 男は、 背後の家へとぶち当たった。 記憶はそこまでだった。 「・・・・・・なんだ・・・そりゃ・・・・」 それを見ていたヤクザの男は、 その光景に驚愕した。 ぶん投げられた仲間は、 投げられて、 家に突っ込み、 そこで姿は見えなくなったが、 威力は分かった。 2軒先の家が崩れたからだ。 ぶん投げられた男は、 そのまま家を2軒貫き、 3軒目の家を崩すまでに至った。 「なんだよそりゃ・・・あの腕・・・大砲かなんかかよ・・・・」 その残骸を見て、 ヤクザの男も確信した。 自分も終りだと。 「さぁ」 ギルヴァングは、 そのデカい拳を、 コキコキと鳴らす。 「あんたがよぉ、仲間がやられるのを見ても怖気づかない真の漢だと信じてるぜ」 猛獣の目は、 自分を見ている。 「く・・・そ・・・・」 剣を構えた。 だが、 その剣がすでに柄しかない事に気付き、 捨てた。 「・・・・・仲間とはぐれちまったのが運の付きだったか・・・・」 「お?逃げねぇんだな」 逃げない? あぁ。 逃げないさ。 こんな名も知れてない自分でも、 覚悟を決めてきたんだ。 相手がどんな者だろうと、 逃げたりしない。 「・・・・・・」 だが、 どちらにしろ逃げなかっただろう。 否、 逃げれなかっただろう。 正直、 恐怖で足が動かない。 「あんた、漢だねぇ」 ギルヴァングは嬉しそうに笑い、 本当に嬉しそうに笑い、 そして、 ゆっくり、 加速するように、 その獰猛な足を運び始めた。 「・・・・来るか・・・・来るなら来な・・・・・・・・本当は来て欲しくねぇけどよ・・・・」 身体能力。 パワー。 本能。 それだけを極限まで極めた漢が、 自分に向かってくる。 「チクショウ・・・・終りか・・・・だが、俺は逃げなかったぜ・・・・ それだけでリュウの親っさんにあの世で顔向けできらぁ・・・・・」 「おうよ!!!てめぇはどこに出しても恥ずかしくねぇ漢だったぜ!!!!」 野獣が向かってくる。 自分に。 終りを届けに。 その、 豪腕を振りかぶりながら。 「漢の・・・・・」 一つ、 53部隊の者達しか知らない伝説がある。 それは、 ギルヴァングが53部隊の部隊長という、 陰で動く役目だったからこそ、 53部隊の者しか知らなかった伝説だ。 「ロマンは・・・・・・」 有りえないパワー。 極限を越える腕力。 世界一の圧力。 砕けぬものは無い威力。 その一点を突き詰めたギルヴァングの拳、 それは・・・・ 「破ぁ壊力ぅうううううううううう!!!!!!!!!!!!」 ギルヴァングのその、 敬意と全力をこめた一撃。 振りぬかれた拳。 ただ、 全力で振りぬかれた拳。 それは、 黒スーツの男を貫いた。 ・・・・。 結果。 それは53部隊の者達しか知らない伝説。 それが現実だと再現された結果。 ギルヴァングの全力の拳を、 まともに食らった黒スーツの男。 その男の・・・・・ 上半身は無くなった。 消し飛んだ。 吹き飛んだ。 まるで大砲が至近距離で直撃したかのように、 黒スーツの男の、 腹部から上は、 消えてなくなった。 ただの、 拳の、 あまりの破壊力ゆえに。 「ふぅ・・・・・」 ギルヴァングは、 腰から下。 下半身だけ地面に立っているその男の上から、 振り切った拳をしまい、 「てめぇら・・・・・」 振り向く。 「メチャ、漢だったぜ」 自分の倒した相手に対し、 いや、 自分と、 真正面から、 ガチンコで、 向き合ってくれた相手に対し、 ギルヴァングは心から敬意を称し、 そして、 心からの満足感と喜びに満たされていた。 「やっぱ戦場(ここ)はいいな。真の漢と、ロマンが溢れてやがる」 そして、 下半身に力を込める。 「ドッゴラァァアアアアアアアアアアアア!!!!!」 地面を踏み切る。 それだけで、 地面は割れた。 地面を破壊しての、 跳躍。 大砲のような跳躍。 ギルヴァングは戦場で踊る。 目的はただ、 真の闘い。 「それ以外になんかないのか?」 「ありません」 ドジャーが聞く。 アレックスが答える。 「あるだろ!なんか!」 「ありません」 ドジャーが聞く。 アレックスが答える。 「んじゃぁ何か!?結局それか!?」 「はい」 ドジャーが聞く。 アレックスが答える。 「カッ!わぁーったっての!じゃぁもっぺん言ってみろ!作戦は!?」 ドジャーが聞く。 「逃げます」 アレックスが、 答える。 「それはもうやってるっつってんだろが!!!!」 ルアスの街中。 アレックス。 そしてドジャー。 二人は、 逃げていた。 「でもそれしかないんですもん・・・・・」 アレックスは、 走る。 ドジャーも、 走る。 背後。 そこには迫る蜘蛛の糸。 まるでカビが街中を急速に侵食していくように、 地面を、 壁を、 蜘蛛の糸が広がり、 追いかけてくる。 「だぁ!!逃げても逃げても解決するわけないだろが!!!」 背後に迫る蜘蛛の糸。 無限増のように、 街を広がっていく。 「そりゃぁ・・・まぁ・・・問題の主から遠ざかってるわけですしね・・・・」 「だろ!?スミレコって奴を倒さないと解決しねぇんだろが!」 スミレコ。 スミレコ=コジョウイン。 44部隊が一人。 彼女が繰り出すスパイダーウェブは、 ピンポイントでなく、 拡散。 点でなく、 面。 地面に連なる全てのものを、 津波のように飲み込むスパイダーウェブ。 「射程外まで逃げればいいんですよ」 「それじゃぁ解決しねぇって言ってんだろが!」 「解決しますよ」 走り、 逃げながら、 アレックスは言う。 「スミレコさんのスパイダーウェブは、その広範囲ゆえに、無差別です。 味方が近くに居たら、味方をも飲み込んでしまうもの。 つまりまだ帝国側の少ないこの街中でこそ自由自在に使える技なんですよ」 「・・・・・チッ、なるほどな」 逃げる理由はもう一つある。 「スミレコさんは、あのスパイダーウェブを発動中は、ずっと地面に手を付けていなければいけません。 一瞬のスパイダーウェブじゃなく、広げるスパイダーウェブですから、広げ続けないといけないんです」 「相手は動けないってことか」 「動かなくても倒せるとも言えます」 「・・・・確かに、自分がどこに居ようが、適当にスパイダーウェブを広げてれば・・・・」 「相手は糸に雁字搦めですからね」 そういう意味で、 遮蔽物の多い街中は、 彼女の独壇場だった。 それゆえに、 このルアスの街中でスミレコと戦うのは不利。 「だけどよぉ」 逃げ足は自信があるぶん、 アレックスより幾分も余裕のあるドジャーは、 走り逃げながら聞いた。 「俺ぁ盗賊だぜ?スパイダーカットがある。あいつのウェブは通用しないんじゃねぇか?」 「まぁそうですね」 当然のように肯定し、 だが、 アレックスは逃げていた。 「なんか裏があるってか?」 「いえ」 「ねぇのか?」 「はい」 「盗賊なんて俺以外にも腐るほどいる。だが、弱点が明確な状態のままだ。 ある意味罠くせぇ。他の奴が待ち伏せしてるんじゃねぇか?」 「ドジャーさんは、スパイダーカットし続けて来るか分からない敵を待ち伏せますか?」 「・・・・・しねぇな」 体力が持たない。 「ドジャーさんはそういう意味でスミレコさんを倒すに相応しいと思います」 「んじゃなんで俺まで逃げてんだよ!!」 「それは・・・・」 視線も変えず、 逃げながら、 アレックスは言う。 「勝手に僕に付いて来てるだけでしょう」 「はぁ!?」 ドジャーはそこで・・・・立ち止まった。 「なんだそれ!?俺逃げる意味ねぇのかよ!」 「ドジャーさん。蜘蛛きてます」 「わっと」 振り向くと、 地面を這い滑るように、 蜘蛛の糸が追いかけてきていた。 とりあえず逃走を再開する。 「おいアレックス!」 「なんですか」 「話の続きだ!つまり!俺は別に倒しに向かっても問題ねぇんだな!」 「問題ないです。むしろ行ってください。たまには役に立ってくださいよ」 「早く言え!!」 なんのために逃げていたんだと、 ドジャーはげんなりしていた。 「カッ、で?俺は倒しに行くとして、それでも相手は44部隊だ。一筋縄じゃぁいかねぇだろ」 「でしょうね」 「それなのに、お前は逃げるのか?」 「話戻ってますね。だから逃げます。僕に勝ち目はないので」 「援護しろよ!カットでフォローしてやるからよぉ!」 「いやです」 「おま!そんな薄情な事言ってる場合か!」 「いーやーでーす!」 「・・・・・・」 ドジャーは、 少し落ち着き、 逃げながらアレックスを横目に見て、 それでも目をあわさないアレックスを見て、 ふと思った。 「そういや、あいつ、サクラコって奴の妹だったな」 アレックスは返事をしなかった。 しなかったし、 動揺する素振りを見せようとしなかったが、 一瞬肩がビクりと動いたのを見逃さなかった。 「・・・・・アレが苦手とか?」 「・・・・・・・」 「図星かよ・・・・・」 ドジャーはため息をついた。 ついたついでに、 背後を見ると。 「お、見ろよ。蜘蛛の糸がついてこなくなった。射程外みたいだぜ」 スキルで出来た蜘蛛の糸は、 ある地点を境に、 薄っすらとなって止まっていた。 それを見て、 アレックスとドジャーは逃げるのをやめる。 「いやぁ、よかったですね」 「で、前にもちょいと話には聞いてたけどよぉ」 「さぁ、違う道でも探しましょう」 「あいつは確か、お前にゾッコンのストーカー女だったよな」 「少し遠回りになりますがこちらの道を行きましょう。急がば回れです」 「女が怖くて逃げるか・・・・・」 ボソリとドジャーが言うと、 アレックスはピクッと反応し、 振り向く。 「ド、ドジャーさんは監禁なんてされた事ないから気軽なんですよ!」 「換金ならよくするけどな」 「僕はそれと同じようなジョークであの姉妹に女の子にされそうにまでなったんです!」 「・・・・・・・ヒュー・・・・」 笑えそうで笑えない話だ。 「なかなかの境遇だったみたいだな」 「あぁ・・・思い出したくない・・・・」 アレックスは頭を抱えて座り込んだ。 「痛い事だけが苦しみじゃないなんて・・・・・」 「なんか知らんが新世界だったようだな・・・・」 「痛い事が幸せだなんて・・・・」 「分かった・・・悪かった・・・・」 どうやら聞いてはいけない領域だったようだ。 「でもよ。姉貴の方はお前倒してたじゃねぇか」 「ポジティブよりネガティブの方が怖いんです」 「よく分からんが、サドよりマゾの方が怖いのか」 「怖いですよ!僕はあの後一週間は部屋に隙間があると視線を気にしてしまう体質だったんですから!」 「あぁ、ストーカーが怖いのか・・・・」 「だってスミレコさん!僕の観察日記で毎日ノート一冊埋めるんですよ!」 「うわぁ・・・・」 さすがにそれは怖い。 ケツの穴まで見られる感覚だ。 だが何を書いたらそこまで埋まるのか。 逆に見てみたい気がした。 「でもまぁそれでも昔の事です。さすがに目の前にして怯えてしまうほどのトラウマは残ってません」 「じゃぁなんで逃げるんだよ」 「それでもわざわざ近寄りたいとは思いません」 「それをトラウマっていうんだよ」 だがまぁ実際、 闘技場でもスミレコを近くに置いて、 アレックスがどうかなってしまう様子はなかった。 拒絶反応やら、 トラウマでイカれてるってわけでもないようだ。 冷静を保てるほどに時はたっているということか。 「ま、単純に天敵だわな」 「・・・・はい。あの人は僕より僕の事を知ってますから・・・・」 「弱点とかもってことだな」 「そりゃぁもう、姉妹で僕の知らない弱点まで発掘されましたから・・・」 「例えば何を?」 「・・・・」 「サドとマゾ姉妹コンビだからなぁ、死角無しだったわけか」 「ドジャーさんは・・・・」 「あん?」 「アレを体験したら、わざわざお店にお金を払ってムチに打たれに行く人がバカバカしく思えますよ・・・」 「いや、体験しなくてもそれはバカバカしく思ってるが・・・分かった。もう聞かねぇから」 ドジャーは思いやりを覚えた。 「だがよぉ、アレックス」 「はい」 「てめぇも覚悟してきたんだろうが」 そう、 ドジャーは真剣に言い放った。 「そうだろう?皆してきた。覚悟の中の覚悟って奴をよぉ。 だからこの自殺と同意語な戦争に自ら足を運んだんだ。 なのに聞いたところよぉ、お前はトラウマってぇより、出来れば戦いたくない。 それだけだろ?いや、もしトラウマがあったって同じだ。退くところか?ここは」 そう、 真っ直ぐ、 ドジャーはアレックスに言葉をぶつける。 「俺達は逃げる目的でここには来てねぇ。終わらせるために来たんだ。 なのにそんな、迷ったらやめよう衝動買いみたいな精神でいいのか?」 それは・・・・ そうだ。 そうなんだ。 覚悟はしてきた。 帝国、 いや、 王国騎士団が相手だと知らされても、 それでも、 立ち向かうと覚悟してきた。 裏切った自分が、 さらに裏切る覚悟で。 そして、 自分がその立場に居る覚悟も、 英雄になる覚悟さえした。 なのに。 「ドジャーさんはズルいですよ」 「あん?」 「役に立たないくせにそーやってポイント稼ごうとする」 「のぁ!?ちょ、正直ビックリしたわテメェ!お前が言うか!? いつもはそれお前がやってたんじゃねぇーか!やってたよな!?」 「人がやってたら赤信号を渡っていいんですか?」 「だからこそテメェが言うな!!」 「エー」 「エーじゃねぇ!」 「大体、ギルヴァングさんから逃げてきてばっかなのに説得力ないですよ」 「うっせ!俺が言いたいのはだな!勝てかもしれねぇ相手にまでケツ見せんなってことだ!」 「その通りですね」 「お?」 ドジャーは、 やっと分かったかと笑った。 「前に進まないと進めませんもんね。普段の人生は、別に進まなくたっていいと思ってますけど」 「俺もだ」 「今回だけは、覚悟と共に、前に歩まないと」 じゃないと、 たどり着けないのだから。 「覚悟を決めましたよ」 「おっし。じゃぁ攻めだ。俺から離れるなよ?俺のサポートが届く範囲に居やがれ」 「なんというスパイダーカット要員」 「うっせ!」 「ちょっと役に立つと思ったらこれだ」 「オーラランスの使い道を知った時のテメェよりマシだ!」 「でもまぁ、攻める必要はありませんよ」 「はぁ!?まだ怖気づいてんのかテメェは!」 「いえ」 そう言い、 アレックスは腕を半分上げ、 指差す。 「もう来てますもん」 アレックスの指の先。 それを辿っていくドジャー。 ルアスの町並み。 その家を、 一件、 二件と越え、 その陰。 「・・・・うわ・・・・」 その家の陰に、 ひょこんと、 顔だけ出す女が一人。 「・・・・・・!?」 女は、 こちらの視線に気付くと、 焦って物陰に隠れた。 「・・・・あの前髪が人ん家の庭の雑草みたいになってるのがスミレコか」 「なんか見るたびに前髪のカーテンが凄い事になってる気がします・・・」 闘技場の時より伸びてる。 前見えてるのかアレ。 「気配を微塵も感じさせずにここまで来るとか・・・忍者かあいつ?」 「僕はウンコの後に見上げたら覗かれてた時さえあります」 「・・・・・そりゃぁビビるな・・・」 「はい。ビックリした勢いで次の日の分まで出ました」 「・・・・・ツッコミにくい・・・。てめぇの場合次の日の分まで食うからな・・・・」 それはさておき・・・ スミレコだ。 また覗いてる。 顔を半分だけ出し、 物陰からこちらを見ている。 表顔なのに髪の毛しか見えない。 海草から生まれた人間がいるとしても、 今なら信じれると思った。 だがそれより・・・・ 「なんなんだ」 異様だ。 その挙動でなく、 それであってその挙動がだ。 「やろうと思えば姿も見せずに攻撃できたはずだ。 奴の蜘蛛(ウェブ)は地と壁を這って闇雲に広げれるんだからよぉ」 「だけど姿を現した」 「解せねぇな」 「簡単です。仕留めに来たんですよ」 「あん?」 「見えない所から攻撃はできますが、逆に"攻撃できたか"も見えないわけです。 ただ闇雲に敵を襲うならともかく・・・・・今回は僕というターゲットがいるわけです」 「カッ、なるほどな。確実に仕留めにねぇ。・・・・つまりそれは自信の表れでもある」 ・・・・・。 なら、 挑発してみるか。 そう、 ドジャーは企み、 「おい!海草頭女!」 ドジャーが、 家の陰のスミレコに叫ぶ。 スミレコは、 半分だけ出していた顔を、 そのさらに半分だけ隠した。 「おい海草!アマ!海女(アマ)!アマガッパ!」 ドジャーは子供のような挑発をするが、 スミレコはそれ以上の反応を見せない。 片目だけで物陰からじっと見ている。 前髪のせいで目があるのかも分からないが、 間違いなくじっと見ている。 「おい聞こえねぇのか?!あ!?隠れてねぇで出て来いっつってんだよ!」 「・・・・・・黙れ」 初めての反応は、 暗く、 低い、 悪魔のような女の声だった。 「私は虫語なんて理解できない。・・・・・・耳障りだ・・・土に還れ。ゾウリムシ以下の単細胞生物め」 ・・・・ きっと、 今、睨めっこをしたらドジャーは優勝だろう。 それほどまでに表情が崩れた。 怒りで。 「・・・・か・・・こっ・・・あ・・・・この・・・・アマ・・・・・・」 言葉にならないほど、 ドジャーのハートはブレイクした。 込み上げる怒りで、 逆に言葉にもならず、 表情はデッサンが狂った可哀想な顔になっていた。 「ここここ・・・・この・・・・・」 「ドジャーさん・・・・挑発負けしてどうするんですか・・・・」 「くくく・・・そ・・・ざけんな!!このっ・・・ヴァーカ!!バーカ!!」 ドジャーは怒りのあまり思考回路は定かでなかった。 「あれ、ウジ虫が、鳴いている」 「ぶっ殺すこのクソ腐れ女!!!!!!」 「お、落ち着いてドジャーさん!」 発狂して目ん玉を飛び出しそうになりながら飛び掛ろうとするドジャーを、 なんとかアレックスは背負い締めにして抑えた。 「離せアレックス!こんなむかつく女は初めてだ!怒りが込み上げてきそうなんだ!!」 「もう噴出してますよ!!」 「いいから!一回だけ!一回だけ殺させてくれ!!!」 「落ち着いてください!」 「いい!いいから!損得無しで女に殺意が芽生えたのは初めてだ!!」 「とにかく落ち着いて・・・・」 背負い締めにしても暴れるドジャーを、 なんとか落ち着かせる。 「ぐぅ・・・・」 敵犬を見つけた番犬のように、 ドジャーはスミレコのいる物陰を殺意の目で見ていたが、 ズルズルとアレックスはドジャーを引きずる。 「離せっての!」 ドジャーがアレックスを振り払う! 「なんで止めやがる!挑発(じゃないと思うが)にノってようがどうだろうが! あいつは敵だろ!攻撃してやりゃぁいーじゃねぇか!?あ!?」 「ま、待ってくださいよ・・・この距離で向こうも攻撃してこないんです」 スミレコの広がるタイプのスパイダーウェブ。 距離的には、 逆にこれが最接近と言ってもよかった。 これ以上近づくと、 逆にスミレコに不利。 なのにも関らず、 彼女は攻撃を仕掛けてこない。 「ぁあ?つまりぃ?」 「まぁ・・・・何か言いたいことがあるってことでしょう」 「んなもん聞く道理はねぇな!聞かなくてもあの女言いたい放題じゃねぇか!」 「いいんです。とりあえず、"覚悟は決めた"ので」 そう言い、 ドジャーより前にアレックスは歩み、 相変わらず家の陰に隠れているスミレコに話しかける。 「スミレコさん。お久しぶり・・・・というほどでもないですかね」 「アレックス部隊長・・・・お会いしたかったです」 「それでですね。スミレコさん。もしかして何か話し・・・・」 「嗚呼・・・私がどれだけこの思いに焦がれ続けていたか・・・ そう、恋は病というけど、その通り。胸が苦しくて締め付けられるようで、 だけどそれは嫌な苦しみじゃなくて、思い人へ会いたいという気持ちの表れというなら、 ずっとこの病で胸を締め付けられる苦痛さえも快感になっていくかのようで・・・・」 「スミレコさん。僕は貴方とお話をしようと思ってき・・・・」 「だからこの苦痛は恋の鞭打でいつまでも味わっていたい苦痛でもあったけど、 それよりもお顔を生で拝見したいという気持ちの中ではそれもまた弱き感情で、 病といえど熱は冷めず、一層燃え滾るばかりのこのハートがさらに私をかき立てて・・・・」 「えと・・・少しお話し・・・・」 「冷めない恋の熱の中に溺れて死んでしまってもよかったけど、だけど駄目。 やっぱり死ぬなら愛する人と共にと決めているし、そういう意味では恋は不幸。 一生一緒に居ると誓った私達の仲だけど、そんな風には世の中いかない・・・哀しい・・・ 必ずどちらかが先に死んでしまう・・・嗚呼・・・ならいっそ共に死んで終わりというのが・・・」 「あの・・・・」 「なんにしろ足は止まらなくて、どうすればいいのかなんて事も考えていたけど、 だけどやっぱり恋に向かってよかった。こうして顔を拝見できただけでも、 まるで世界の中で一番私が・・・じゃないですよね。世界の中で一番私達が幸せだと感じられる」 「もしもーし・・・・」 「嗚呼・・・だからつまり愛し合う私達二人というのは結局共にいるのが一番ということ。 それは二人が望む事であり、それだけで私達は幸せになれるんですから・・・。 さぁアレックス部隊長。幸せの再会なんです。あとはロミオとジュリエットになりましょう。 共に生き、共に苦しみ、共に泣いて共に喜び・・・・そして共に幸せのために死にましょう」 家の陰から顔を半分出したまま、 ぼそぼそと、 だがハッキリと聞こえるマシンガントーク。 独りよがりの頂点の言葉は、 アレックスの言葉など簡単にかき消した。 「それで・・・えと・・・なんで攻撃しないか・・・・でしたよね」 おぉ。 聞こえてたのか。 っていうか聞いていたのか。 「それは簡単ですアレックス部隊長。貴方が投降するかそれとも無理矢理か。 それで待遇は全然違うから・・・・・愛する夫のためを思えば選択肢は当然・・・・」 「夫だってよ」 「凄いですね・・・。今の世の中、知らないうちに結婚してたなんて事もあるんですね・・・・」 「カカッ。で、スミレコ」 「黙れ。アメーバに毛が生えた程度の生物の言葉なんて聞きたくもない」 怒りがぶり返してくる。 なんだ。 なんなんだこいつは。 人の気持ちを考えた事があるのか? 大体まず、 アレックスとドジャーに対する声のトーンが、 すでにキーがマイナス3くらい違う。 「・・・・・」 理不尽な怒りで、 ドジャーは頭がクラクラしたが、 こらえた分は成長したといえよう。 「スミレコさん」 「はい♪」 ほれみろ。 声色が違いすぎる。 「僕は投降するつもりはありません。実際僕はひとつのキーパーソンです。 僕の投降によって状況は大きく変わるでしょう。でもそうするわけにはいかないんです」 「でしょうね」 家の物陰で、 大きくダラリと垂れた前髪の女が頷く。 「分かってました。愛し合った仲ですもの」 「だってよ」 「一方通行が相互愛になる時代が来たんですね・・・・」 「酷い・・・」 スミレコが呟く。 「貴方のために全て捧げたのに・・・・」 「だってよ」 「いえ・・・僕がプライバシーのカケラまでぶん取られたって感じでしたけど・・・」 「でも分かってました・・・・・」 前髪で顔の隠れた女は、 物陰から言う。 「投降にしろ、愛にしろ、貴方が否定するだろうことも・・・・ でも聞かずにはいられなかったからここに来た・・・・・分かってたんです・・・・」 もしかして泣いてるんじゃないかと、 少し動揺したが、 「だってアレックス部隊長はシャイだから・・・・」 むしろ向こうに動揺して欲しかった。 なんだあのダイヤモンドより揺らがない鉄壁の勘違いは。 ある意味賞賛に値する。 「だから私のするべき事は一つ・・・・」 「カッ。またそれか。私も死んで、アレックスも殺す・・・・ってか?」 「いや、お持ち帰り」 「あ?」 ドジャーは首をかしげた。 だがスミレコに迷いはない。 物陰に隠れたまま、 ボソボソハキハキと話す。 「蜘蛛で拉致して持って帰る・・・・そう・・・・愛はそうやって進まなきゃいけない・・・・。 ここはアレックス部隊長には危険すぎる・・・・それから守るのも恋人の仕事・・・・」 「いえ・・・ありがた迷惑ですけど・・・・」 「大丈夫・・・あなたは何もしなくていい・・・・私が守ってあげるから・・・・ こんな危険なところじゃなく・・・二人で愛の巣で暮らせばいい・・・・。 アレックス部隊長は何もしなくていいんです。心配しなくても大丈夫」 「いや・・・その・・・・」 「私がずっと養ってあげます・・・・全部全部世話して・・・・尽くしてあげます・・・ アレックス部隊長は部屋の隅にでも居ればいい・・・ずっと・・・一生・・・ 御飯も作るし、おトイレの世話も全部するから大丈夫・・・・必要なものは全部あげますから・・・」 「あぁー・・・・友達とかに会えないのは寂しいかなぁー・・・なぁーんて・・・・・」 「大丈夫・・・。貴方には私だけ居ればいいわ。私しか必要ないし世界には二人だけでいい。 一生生涯それだけでいいと思う。愛し合う二人がいれば他に何もいらないわ。 時間も止まってしまえばいい・・・そう、最後は二人で命の時間も止めてしまいましょ・・・・」 「どうしましょうドジャーさん・・・」 「良かったな。最高のヒモ生活じゃねぇか」 「ヒモどころかロープと鎖で繋がれる生活が想像できるんですけど」 「アレックス部隊長・・・・そんなバッチィ人と会話してると汚物になっちゃいますよ」 「ぁああ!?」 「だから挑発にノらないでくださいよ汚物さん・・・」 「ぁああ!?」 おぉ。 二秒間で二方向を睨んだ。 馬鹿みたいだ。 「とにかく・・・・・・・」 スミレコが、 家の物陰に隠れた。 ひっこんだ。 「アレックス部隊長にばい菌が入る前にお持ち帰り・・・・」 「隠れましたよ!」 「蜘蛛が来るか!?」 予想通り。 想像通り。 家の陰に隠れたスミレコ。 そしてその家の裏側から、 家ごと包み込むように、 スパイダーウェブの糸が這い回り始めた。 「あの家を迂回してください!」 「カッ。そうだったな。発動中は動けない。ならっ!!」 スミレコのスパイダーウェブは、 地面を媒体に"流し込む"という表現が一番合うだろう。 だから、 発動中は地面から手を離せない。 「約束は破るぜ!フォローはしねぇ!俺がぶっ殺す!!」 ドジャーが跳ねる。 迂回はしない。 家に飛び乗る。 蜘蛛に包み込まれた家の、 一つ前の家。 だが、 糸が伸び、 広がっていく。 「怖くねぇな!盗賊に弱すぎだぜその技!!!」 そして屋根から屋根へ。 蜘蛛の糸に包み込まれた家の屋根へと飛び乗る。 蜘蛛の糸の地面。 蜘蛛の糸の屋根。 そこに着地する。 そのドジャーの足を、 這い上がるように蜘蛛の糸が巻き付いてきた。 「対策技がもう昔に開発されてんだからなぁ!」 その糸が飛び散るように消える。 スパイダーカット。 スパイダーウェブの解除技。 「ラクショー。マジラクショー。このままへらず口にダガーで栓してやる!!!」 蜘蛛の巣だらけの屋根の上を、 ひた走る。 とめどなく蜘蛛が絡み付いてくるが、 自分だけならば問題ない。 カットしていく。 「家の裏にいる事は分かってんだよ!!っつーことは!!」 屋根のふちに移動し、 ドジャーは両手にダガーを4本づつ。 そして見下ろす。 「ここだ!!!」 そしてダガーを投げ下ろ・・・・ 「?!」 そうとしたが・・・・ 「いねぇ!?」 屋根の上から見下ろした景色。 スミレコがいるはずだ。 発動中は動けないのだから。 その、 家の物陰。 この裏側にいるはずだった。 だが・・・ いない。 この屋根の上と同じように、 地面も壁も、 スパイダーウェブの蜘蛛の巣で真っ白になっているだけだった。 「馬鹿な・・・」 ドジャーは屋根の上から見渡す。 だが、 近くの景色にスミレコらしき姿は無い。 「家の中か?!」 そして飛び降りる。 屋根から飛び降り、 そしてそのまま窓から家の中を探る。 「チッ・・・・」 片手のダガーはしまう。 こうしてる間にも、 蜘蛛の糸が自分の足を這い上がってくるからだ。 片手はスパイダーカットに使わなければいけない。 「どこだ・・・・」 慎重に家の中を探る。 家の中も当然真っ白だ。 壁や地面が繋がってさえいれば、 発動地点を中心に無差別に蜘蛛の糸が広がるようだ。 「中に入るわけにはいかねぇな・・・・密閉空間で四方八方から蜘蛛に襲われちゃたまらねぇ」 とりあえず窓から覗いた景色には、 いない。 「・・・・・そうか。手を離せないだけ・・・。壁や地面に手を付いたままなら移動できるのか。 ・・・・カッ。そのマヌケな移動方法・・・拝んでやりたかったがな・・・・。 だが技が技だ。術師である自分の安全確保には慣れっこってことだな」 伊達に弱点さらけだしたままの44部隊じゃねぇってわけ・・・か。 「・・・・・・」 ドジャーはニヤりと笑う。 「分かったぜ。かくれんぼ。それなら答えは一つ。盗賊の常套手段!!!!」 そしてドジャーは、 右腕を振り下ろす。 「見えないんじゃなくて見えてないだけ!!インビジだ!!!」 盗賊が隠れるとしたら、 それだ。 それが最上で、 されが最高。 スミレコの技の事を考えれば、 インビジで自分の位置を消すのはあまりに相性がいい。 「・・・・・・」 だが、 だが、 「・・・・・クソッ!!」 ディテクションを放った。 放ったはずだ。 ウェブにカットがあるように、 インビジにはディテクがある。 "盗賊の天敵は盗賊" 辺り一帯は、 ディテクでインビジが解除されたはずだ。 だが、 スミレコの姿はない。 「ばーか」 なのに、 突然、 どこからか声が聞こえる。 女の声。 「だからゾウリムシから進化できないんだよ。この微生物め」 一瞬目を疑った。 世界がワープしたかと思った。 いや、 実際は変わっていない。 だが、 辺り一面の蜘蛛の糸が、一瞬で消え去った。 「・・・・・解除だと!?」 何故? どうして。 白にまみれていた糸まみれの景色が、 一瞬で元に戻る。 何も変わらぬルアスの町並み。 何も変わらぬ普遍的な家の景色に戻る。 そして、 スミレコは居た。 ドジャーのすぐ傍に。 さっきから視界にずっと入っていたはずの位置に、 スミレコは居た。 「てめ・・・・」 前髪で顔の隠れた女が、 ドジャーのすぐ傍で、 地面に、 這い蹲っていた。 「自分ごと蜘蛛の中に!?」 「今さら遅いんだよゴミ虫」 「!?」 白かった景色が普通に。 そして、 その景色が今度は・・・・・・ 黒に変わった。 「のぁ!?」 何かが落ちてきた。 降って来たのだ。 ドジャーの真上から。 これは・・・・樽? 「蓑虫野郎。耳かっぽじって聞きな。私の能力は動きを止めるだけ。それだけ。 ならそれを解除したらどうなる?止まったものは・・・・・・動き出す。 あんたがここに来る事は予想済みなんだよ。屋根の裏側に蜘蛛で固定しておいた」 だから、 解除。 一番の得意技スパイダーウェブ。 それを解除することが・・・・・・スミレコの攻撃。 降って来た樽で栓をされるように、 ドジャーは樽の中に閉じ込められた。 「弱点ほど使えるものはない。弱点をさらけ出していることこそ至上。 嗚呼いいわ・・・・皆もっと私の弱点をまんまと小突いて頂戴・・・・・それが・・・・私の快感だから・・・・」 「クソッ!!こんな子供だまし!」 子供だまし。 そう言われればそうだ。 子供の罠遊びのようなもの。 樽が降ってきて、 閉じ込められただけ。 こんなもの退(ど)かすのは容易。 「ん?・・・・あれ・・・」 樽の中の真っ暗闇で、 ドジャーは天井を押し上げようとしたが・・・・ 動かない。 この樽・・・・ビクともしない。 「・・・・・まさか・・・・」 「当たり前じゃないの。だからゴミ虫から進化できないんだよ。 中からじゃ分からないだろうけど、もうすでに"その樽は蜘蛛の巣絡め"なんだよ」 ドジャーを閉じ込めた樽は、 外側から包み込むように。 地面と共に、 スパイダーウェブで固定されていた。 「だぁぁぁぁ!!この野郎!俺に蜘蛛は通用しねぇっつってんだろ!!」 と、 ドジャーは樽の中でスパイダーカットを発動する。 「・・・・あれ」 「本当にカマキリくらいの脳みその量しかないのね。虫は虫。クズ虫か・・・・。 外側に張られた蜘蛛が中から解除できるかっての。あーやだやだ。 その思考回路だけで気持ち悪い。ゴキブリは物陰がお似合いだわ。 そのまま出てこないで頂戴。視界に入るだけで生理的に受け付けないのよあなた」 「だぁぁぁぁぁあ!!このアマァァァァア!!」 身動きできないのに、 容赦なく降ってくる暴言の嵐。 樽を中から殴りつけまくる。 ・・・・・。 無駄だが・・・。 スミレコにぶつけたい拳を、 とにかく樽にぶつける。 ・・・・・。 無駄だが・・・。 「そこまでですスミレコさん」 スミレコが振り向くと、 そこにはアレックスが居た。 解除された隙を付いて、 近づいたようだ。 「やだ・・・・」 スミレコは顔を赤らめて家の中に飛び込む。 まるで忍者のような手際だった。 そして窓から、 顔を半分だけだしてアレックスの方を見た。 「いるなら居るって言ってよダーリン」 「ダ・・・・、ダ?」 聞き流そう。 いろんな意味で聞きたくない言葉だ。 「とにかくそこまでです」 「何を言ってるのあなた」 それも聞き流そう。 "あなた"というのは相手に対する言葉のはずだ。 違う意味のはずがない。 「あ・な・た」 はずがない。 聞いてない。 聞き流そう。 「スミレコさん。その前髪に隠れた目でも見えるはずです。僕の足元が」 「!?」 そう。 アレックスは、 自分の足元に注目するように仕向ける。 そして、 アレックスの足元・・・ そこには・・・ 魔方陣があった。 「パージフレアの魔方陣です。分かりますか?察しがよければ分かるはずです」 「い・・・・一緒に死のうってことね・・・・」 「・・・・・分かりました。説明します」 察しがいいはずが無かった。 彼女の頭の中は自分のいいように構成されているのだから。 「このまままだやろうっていうのなら、僕はこの魔方陣で・・・自爆します」 「自縛!?素晴らしい響きですアレックス部隊長。私もしょっちゅう自縛してます」 「・・・・恐らく字が違うと思いますので言い換えます・・・・自殺します」 「!?」 スミレコは、 前髪で全部覆いかぶったその顔を、 物陰で晒しながら、 フルフルと震えた。 「察してくれたみたいですね。そうです。このまま続けると言うのなら、 あなたの大好きなアレックス部隊長はここで死んでしまうんです」 「そんな・・・・」 物陰で、 スミレコはプルプルと震える。 「私の愛が・・・・こんなところで・・・・嫌・・・アレックス部隊長を失いたくない・・・・」 「分かってくれたようですね。そう僕は奇麗事無しになんでもします。 僕が生き延びるためならば、僕ぐらい殺してやろうするんですよ」 「ひ・・・・人質なんてズルいですアレックス部隊長」 「フフフッ。好きに言ってください。ほぉーら。諦めないとアレックスを殺すぞー」 「でも・・・・そんなアレックス部隊長もステキ・・・・」 「おぉーい。樽の中から突っ込んだ方がいいかー?いいよなー? お前らの会話ツッコミがいねぇと暴走してる感がいなめねぇんだがよぉー」 ドジャーの良心が働いた。 まんまと閉じ込められた役立たずでも、 自分の立ち位置と役割の重要さは分かっているようだ。 「そうですね。スミレコさん。とりあえずまずドジャーさんの樽の蜘蛛を解除してください。 様子からすると通常のスパイダーウェブのようですね。お願いします」 「そんな・・・・あんな汚れた害虫をこの世に呼び覚ますなんて・・・・」 「こちらには人質がいるんですよ?」 自分だが。 「人質なんて関係ない・・・・・」 だが、 スミレコはアレックスの予想外の言葉を吐いた。 正直、 過信していた。 自分への愛は間違いないだろうと確信してのことだったが・・・・ 「アレックス部隊長の命令ならなんでもします・・・・」 いや、 間違ってなかった。 スミレコはそのまま、 物陰からスパイダーカットを放ち、 樽を覆っていた蜘蛛の糸を解除する。 その2秒後くらいに、 樽がゴロンと傾き、 「ドジャー誕生」 「黙っててくださいかませ犬」 「ぐ・・・・」 拘束は解けたのに、 瞬時にドジャーは身動きと言動を封じられた。 「それでどうするつもり・・・・アレックス部隊長・・・」 プルプルと、 子犬のように物陰で、 前髪に顔を隠して俯いたまま、 スミレコは聞く。 「その男に・・・・私を攻撃させるつもり・・・・なんですか・・・・ 嫌っ!絶対嫌!害虫に殺されるなんてまさに虫唾が走る屈辱です! 人質をとられて何も出来ない私が・・・・低俗な輩に成す術もなく・・・・ 嗚呼・・・・屈辱の極地です・・・でもその屈辱もまた・・・・いいかも・・・・」 「大丈夫です。そういうわけではありません」 「おい。とりあえずこの空間において世界の最下層にランク付けされてる俺は怒っていいよな?な?」 「大丈夫です。最下層なんていっぱいいますよ」 「フォローしろよ!!」 「汚名が挽回しただけです」 「返上させてくれ!頼むから!!」 とりあえずこの人は放っておこう。 大事なのはそこじゃない。 「スミレコさん」 「もっと戒めるように呼んでくださいアレックス部隊長」 「・・・・・・。それでですね。何故こういう状況にしたかというと、僕も覚悟をしたからです。 この戦いは普通にやっても普通の結果しかこない。その結果は僕らの敗北です。 逆転にはそれ相応の何かがないといけない。つまり・・・・・あなたの力を貸して欲しいんです」 「!?」 スミレコはクラリと、 立ち眩みした。 「そんな・・・・そんな言葉を言ってもらえるなんて・・・・。 大丈夫です。この日のためにいろいろ練習してきましたから・・・・」 「何を・・・・。まぁとりあえず僕から言いたい事は一つです。 その何かのための一歩として、"あなたに寝返ってもらいたい"」 「それは無理です」 それは、 スミレコの言葉としては、 あまりにハッキリと返ってきた。 「え・・・あれ?」 正直すんなり行くと思ってたので、 アレックスは拍子抜けした。 「なんでもするって・・・・」 「無理です。私はロウマ隊長に忠誠を誓いました。あの人を裏切れない。 だから逆ならOKです。だから私はあなたを拉致しに来たのだから」 「それは僕も無理ですが・・・・・」 ロウマに対する忠誠。 44部隊の意志。 それは強固すぎた。 「アレックス。お前やっぱ本気だったんだな」 44部隊を引き込む。 そんな途方もない作戦。 「・・・はい」 「だが唯一の突破口の一つがこうも簡単に消えるたぁな・・・。 正直今聞いてて悪くはねぇと思ってたぜ。だが予想外だったな」 「・・・・・」 本当にいけると思ってた。 だが、 このスミレコの調子を見ていると、 スミレコを引き込んだところで、 他の部隊員も同じだろう。 「すみませんアレックス部隊長・・・。そしてこんな状況。 どちらかが死ぬしかないのかもしれません。お互い退けないから・・・。 嗚呼・・・何故愛は報われないのかしら・・・・健気な私達・・・・まるでロミオとジュリエット・・・。 ・・・・・そう。だからここで一緒に死ぬという選択肢ならとれます。お願いします」 「あぁ・・・・それは最終手段ということで・・・・」 「やだ・・・それは共に人生を歩み、そして共に死のうということ・・・・」 とりあえず放っておこう。 だが、 だけど、 「それならしょうがないです。僕も覚悟をしてきました。一つの覚悟を」 「覚悟?」 「はい。ならこうします。・・・・・・付き合っちゃいましょう」 ドジャーの頭が壁にぶつかった音がした。 「あー・・・・付き合わせてるような状況で悪いんだけども・・・・・この道で合ってるのかい?」 直。 いきなり。 そして最終的に。 エクスポは確信を聞いた。 「合ってるに決まってるじゃん」 スウィートボックスは堂々と言う。 何も迷いはない。 本当なのだろう。 だが、 エクスポ的には迷ってるとしか思えなかった。 「でも美しくない景色だねぇ。アメーバとかゾウリムシとか害虫とかいそうだね。 こう、視界に入るだけで生理的に受け付けないようで、それでいて役立たずな虫とか」 「なんかどっかでクシャミの音が聞こえそうね」 「なんでだい?」 「さぁ」 エキスポは、 そんな事を言いながらスウィートボックスの後ろを付いて歩いた。 景色。 確かにそれは賞賛できるものではなかった。 パイプの巡る地下水道。 横に伸びる足場を除けば、 9割は水が流れ続けている。 飲料水に使える下水だと知っていても、 足を入れたくなかった。 「薄暗いもんだ。それに同じような景色ばかり」 「そんなもんだよ。それを把握できないようじゃぁ脱獄なんて出来ないけどね」 「慣れてるってことだね」 「もちろんだよ。脱獄のエリートだからね」 偉そうに、 スウィートボックスは先導をとって、 薄暗い地下の道を歩んでいく。 そして分かれ道で右を選択し、 迷いなく進んでいく。 「でもスウィートボックス。さっき聞いた話だとさ、ルアス城の牢獄でボクの仲間と会ってるんだよね?」 「あぁ。あの役立たず共ね」 誰の事だ。 「彼女らはでも、とっくの昔にボクらと合流したよ?なのに君は脱出したのは今日なのかい?」 「・・・・・・」 彼女は黙り込んだ。 エクスポは思う。 あぁ。 なんか言い訳考えてるな。 と。 「あいつらは近道を選んだんだよ。成功したからいいものの、それは愚の骨頂だね。 地下から脱出するために上へ。はん。まったく。素人丸出しだよ。 プロは地下から脱出するためならさらに地下へ。バレないスニーキングこそプロ」 「へぇ・・・・まぁ理には適ってるね」 「だろ?険しい道にも二種類ある。あいつらは可能性の低い険しい道を。 私はツラいが脱出に適した険しい道を選んだだけさ。 もし10回脱獄があったら、10回成功する確率は私の方の道だよ」 「10回も脱獄する機会ないと思うけど」 「ここにそのプロがいるじゃぁないか」 「10回も捕まる事への対策を立てるべきかと」 「・・・・・これだから素人は」 いや、 脱獄に関しては素人の方が偉いだろ。 「ま、それでも道なき道を進むには運は必要だけどね。 例えばトラップにひっかかって落ちた先が誰も気付かないような下水道だったとか」 「ん?それって」 「例えばだからね」 「あぁ・・・例えばね・・・・」 本当にこの女に任せていいのか・・・と、 心配になった。 「それにしても臭いが少々ツラいね。美しくないよ。それに思ったよりうるさい」 水がとめどなく流れているのだ。 五月蝿いのはしょうがない。 だが臭いはどうにかして欲しかった。 流れている水は生活用水で綺麗なのだが、 この下水道自体は違う。 風呂を放っておくとカビて腐るように、 水で洗った頭が臭いように、 水は腐るのだ。 流れる水以外は、 湿気で臭いを放つ。 「彩りがない景色は嫌いだよ。シンプルイズザベストも考え物だね。 ボクは白と黒の単調な部屋模様で手軽に誤魔化してる人間も好きじゃぁないが、 腐った黒だけのこの景色も考え物だ。美しさのカケラもないよ」 「へぇ。じゃぁあんたの部屋は素晴らしい景色なんだろうね」 「白と黒で統一してるけどね」 「なんじゃそりゃ」 「最後はその二色に戻っちゃうものさ。まるで人だね」 「深いようでただの後付ね」 それでも道は続く。 景色は変わらない。 常時右端か左端の足場を歩いているだけで、 あとの地面は水。 ずっとチューブのような閉鎖的な地下の道。 エクスポは変わらない景色が嫌いだ。 美しいと思う景色には動きが必ずある。 それは草木や天候による、 朝昼夜や、 春夏秋冬だったり、 長い歴史の代わり模様を感じられるから。 "生"のないものは美しくない。 「あの死骸騎士達もしかりだね」 「ん?なんか言った?」 「いや。それよりスウィートボックス。君はなんでボクの手助けをしてくれるんだい?」 「んー?」 ふと折れ曲がれる道があったので、 スウィートボックスは一度足を止めて周りを見渡したが、 すぐにまた足が動き出し、 歩き出す。 「そうだね。簡単な話だよ。一年前が好きだったからさ」 「一年前?」 「システム・オブ・ア・ダウン(法の停止)。あの一年間は私に人生をくれたんだ。 統治する騎士団がないってことは法律もない。捕まる理由がなかったからね。 私は物心がついたころには檻の中だったし、そこからの人生も檻の中ばかりさ」 「そう言ってたね」 「最初になんで捕まったかの理由さえ覚えてないし、 脱獄を繰り返していたらそっちの懲役と罰の方が大きくなっててね。 向こうとしても"逃げるから捕まえる"。そんな感じだったろうよ」 捕まる理由が脱獄したからだなんて、 まるでヒヨコとタマゴどちらが先かみたいな話だ。 「だからもう一度私の足首を繋ぐ鎖が無くなるっていうならこれくらい安いもんだよ」 「それが君の戦う理由かい?」 「戦わないよ。勘違いしないでね。私は案内するだけ。そこでバイバイさ。 私に戦闘の技術なんてないんだから。城までの道。それだけ」 「そうかい」 エクスポは笑った。 それでも、 良心とも言えるだろう。 感謝はしたい。 「それにしても遠いね」 「そりゃそうだよ。まだルアスの街の真ん中程度だろうさ。 ルアスの街とルアス城庭園。そしてルアスの城の真下まで歩くんだ。 この入り組んだ地下の道をね。思ってるよりも長いよ道は」 「我慢できるかな。こんな美しくない風景」 それが心配だった。 もうこの道の掃除をしたくなるくらいだ。 「だけどよくこんな入り組んだ地下の下水道を地図もなしに歩けるね」 「簡単だよ、ウギャ!!!!」 と、 いきなり、 スウィートボックスは飛び跳ねたと思うと、 「のののののののののの」 とか言いながら、 エクスポの後ろに回りこんで隠れた。 「な、なんだい。罠かい?」 「い・・・いいから・・・」 エクスポの背中で服にしがみ付きながら、 そっと覗く。 エクスポがその視線を追ってみると。 「あぁ。ネズミか」 「・・・・・」 「確かに美しくない生き物だとボクも思うよ。苦手なのかい?」 「苦手なわけないだろ!ただ・・・・ちょっと仲が悪いだけだ・・・・・」 「あそう・・・・」 「牢獄脱獄生活にネズミなんて付き物だ!どうとも思わないさ! ただ目を覚ましたら目の前に居た日があって、その日に絶交したんだよ」 「へぇ」 「私はこいつらがハムスターと同じ仲間なんて信じない」 まぁともかく嫌いなのは分かった。 「もういなくなったよ。離してくれ」 「・・・・ふん」 スウィートボックスは豹変するようにエクスポの前を堂々と歩き出す。 変なプライドがあるようだ。 だが、 先ほどまでの話からすると、 帰り道に一人で帰れるのか心配になってきた。 「それでさっきの話の続きさ」 話題を消したいらしい。 前を歩きながら、 スウィートボックスは話を戻す。 「なんでこんな迷路みたいな道もスラスラと歩けるかっていうと。それは記憶力さ」 「へぇ。覚えているのかい?」 「もちろん。さすがに脱獄となると毎回知らない道を辿って脱出することになる。 その中で必要になっていくのは記憶力さ。あ、運と勘は当然として置いておくよ。 つまり、同じ過ちを繰り返さない。それだけで迷路は100%出口に繋がる」 有限実行ならば、 確かにその通りだ。 迷わなければ迷わない。 そういうことだ。 「この地下水路も苦労したからね。丸暗記さ。次は左に・・・・」 そう言い、 T字路の突き当たりで、 左を見る。 「右だな」 迷わず彼女は振り返り、 進行方向を右に変えた。 すかさずエクスポがスウィートボックスの服を引っ張り、 止める。 「・・・・・ちょっと待った。今、左行こうとしたよね」 「してない」 それでもエクスポに掴まれながらも、 スウィートボックスは先に進もうとする。 やけに強情だ。 エクスポは、 行くはずだった左の道を見た。 「・・・・あぁ・・・・」 ネズミが二匹居た。 「なぁスウィートボックス。君がネズミが苦手なのは分かった。分かったよ」 「違う。あいつらと仲が悪いだけだ。顔をみたくない」 「・・・・・まぁそれでいいんだけど、いや、実際ネズミが嫌いな人は多数派だとは思うよ? もしなんでも出来る様々な道具を持つオールマイティな素晴らしい機械生物が生まれたとしても、 きっとネズミを見たらポケットを放り出して逃げ出すさ」 「ポケットの付いたロボットなんて生まれるわけがない」 「いや、ただの例え話だけども。だけどだよ?ネズミの是非で道を選ばれると・・・・」 辿り付けるものも辿りつけない。 「大丈夫。大丈夫だから!こっちから!」 「いや・・・・」 「こっちからでもいけるから!多分!」 「多分!?」 「言ったろ!こういうプロに必要なのは記憶力と・・・」 「運!?」 「と・・・」 「勘!?」 エクスポはため息をついた。 うな垂れた。 そうしてる間にも、 スウィートボックスはネズミから離れようと全力で足を進めようとしている。 服が伸びるぞ。 「分かった・・・分かったよ・・・君だけが頼りだからね。それにノってしまったんだから・・・ ただ、君の武器である記憶力と運と勘っていうのを実証してくれないかな・・・・」 「実証?円周率でも言えばいいのかな?3.1415926535」 「ビックリした!円周率自慢でハッキリ少数第10ケタで止めてくる人間がいるとは・・・・」 「じゃぁあんた言えるのかい?」 「言えないけども10ケタって中途半端だね・・・・」 「じゃぁどうやって証明するんだい。ここから先の道のりでも言えばいいかい?」 それを言われても、 エクスポに確認する術はないが、 「まぁとりあえず・・・・」 「じゃぁここを右に曲がったとしての道のりだね。行くよ? まず左左で合流するだろ?それで真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ。 右・左・真っ直ぐ・真っ直ぐ。右。それから突き当たりまで真っ直ぐで左左左左・・・・」 「ストップ」 エクスポが止める。 「なんだい」 「左左左左て・・・・それ、一周してないかい?」 「・・・・・・」 スウィートボックスは少し考えた。 そして、 手をポン、 と叩く。 「うん。・・・・あ、いや、そうとも限らないだろ」 「そうとも限らないけども・・・・限らないけども・・・・ 恐らくそこで君はぐるぐる回った可能性高そうだよね・・・」 「大丈夫。私は結局出れたんだから」 「・・・・・」 「心配すんなって」 「問題」 「?」 「さっきの分岐点はボク達どちらから来たでしょう」 「右」 「・・・・」 「あ、いや。こっちから見て右ね!」 「いや、まっすぐ来たけど・・・・」 「ひっかけ!?」 「・・・・・」 どうやら、 大博打の道を選んでしまったようだ。 衝動買いと同じ。 易々と助力なんて買うものじゃない。 「・・・・で」 「うん」 「この分岐点はどちらに・・・・箱入り娘様・・・」 「右」 「根拠は・・・・」 「あっちにはネズミがいるから」 「・・・・・・・・」 エクスポのため息が、 狭い地下道に反響した。 「何言ってんのお前!?馬鹿なの!?ねぇ馬鹿なの!?なぁ馬鹿なの!? 脳みそ干からびたのか?おい!なぁ!脳みそに何詰まってんの!?頭!?」 「落ち着いてくださいドジャーさん」 「落ち着くのはお前だハゲ!!」 ドジャーが自慢の足を無駄に使い、 アレックスにとびかかってゲンコツをお見舞いする。 「あだっ!」 「何言ってんだお前!!」 「いや・・・だから・・・・スミレコさんに付き合いましょうと・・・・」 「言うな!鼻がムズムズする!このストーリーにそんなセリフが登場すると思わんかったわ!」 いや、 それはそうだけども。 「これが僕の覚悟なんです」 「意味わからんわ!」 「まぁまぁ。で、スミレコさん。答えは?」 スミレコは、 物陰でプルプル震えながら、 顔の半分だけでなく、 片手を突き出し、 親指を立てていた。 「了承」 「ほら丸く収まった」 「収まってねぇーーー!!」 「へぶっ」 ドジャーがアレックスに回し蹴りを食らわせた。 まさかそんな武器があるとは思わなかった。 隠しコマンドをこんなところで使わなくてもいいのに。 「おま、アレックス!てめぇの奇策はいろいろ見てきたけどこりゃぁ初めてだっての! 意味わからん!アホなのか!?奇策っていうか奇行だろ!!」 「黙れウジ虫」 ふと見ると、 どんな素早い行動なのか。 スミレコが窓の陰から、 いつの間にかアレックスの背後へと移動していた。 アレックスの服のスソを掴み、 屈むように横から見ている。 「愛する二人を邪魔するな。愛は絶対だ。ここに愛が生まれたのだ。 まぁお前のような単細胞生物は分裂で繁殖するから愛など分からないんだろうけども」 「あ・・・・く・・・・」 ドジャーはもう、 怒りとかいろいろグチャグチャしすぎてどうしていいか分からず、 とりあえず地面をガンガンと蹴った。 「でもアレックス部隊長」 「はい」 スミレコが、 アレックスの背中にへばりついたまま、 聞く。 「どういう心変わりなんですか?あ、いえ。私達の心はいつもそうあったんだから、 心変わりではないんですけど。だけどこんな風に返されたのは初めての事です」 「そうですね」 アレックスはニコりと微笑む。 「残念ながら作戦の一部と説明するしかありません」 「じゃなかったら俺は歴代最高の命中率でダガーをてめぇの額に突き刺してるところだ」 「それが見れないのは残念ですが、スミレコさん」 「はい」 アレックスが、 自分の背中側を見ようと左脇側に視線を落とすと、 スミレコはクルン、 と、 右脇の方に移動した。 照れているのかよく分からないが、 とりあえず人の視界から外れようとする人だ。 「えっと。とりあえず僕の恋人になったということはですね。いう事を聞いてもらいます」 「・・・・・?」 「それがあなたの望みだと言ってましたしね。当然、先ほどの件に関しても」 「それは・・・・」 先ほどの件。 それは・・・・ 44部隊の脱却。 固く拒んでいた。 「それは・・・・さすがに」 「ですよね。そこは妥協しましょう。だからあなたはメッツさんと同じです」 「メッツと?」 「はい」 アレックスは頷く。 「44部隊は抜けなくていいです。それでいてこちら側に来ていただければそれでいい」 「おいおいどーいうことだ」 「黙れゾウリムシ。アレックス部隊長は説明してるだろ」 「・・・・・」 まるでドジャーが敵なような立ち居地だ。 「スミレコさんは当然僕と共に行動してもらうことになります。恋人として」 最後のを強調して言った。 裏の見える物言いだ。 スミレコはコクンと頷く。 「44部隊は抜ける必要ありません。ロウマさんを裏切る必要もありません。 ただ、44部隊の『ピンクスパイダー(女郎蜘蛛)』スミレコ=コジョウインとして、 こちら側についてもらえればいいんです。それで・・・・」 アレックスが怪しく笑う。 「44部隊が手に入るなら」 「お前は越後屋か・・・・。だけどよぉ。付き合う云々はこの際関係ないんじゃねぇか?」 「いいえ」 そしてアレックスは、 自分の背中にへばりつくスミレコを見る。 今度は逃げなかった。 「その契約が破られた時は・・・・別れます」 「!?」 スミレコはその言葉で、 アレックスの服のスソをギュッと握り、 背中上部の鎧部分に寄り添う。 「なるほどな。その部分に繋げたかったわけか」 「あの・・・その・・・アレックス部隊長・・・・」 オドオドと、 スミレコがアレックスの背中で小動物のような声で聞いてくる。 「その・・・・別れるというのは・・・・心中しようという意味・・・」 「そんなわけないじゃないですか。それは短直な意味での別れるという意味です。 でも心配しなくていいですよ?約束が破られるなんてそんな状況有りえないですから。 だって僕は信じてますもん。なのにそれが破られるなんてそんなこと有りえない。 それなのにこんなにも信じているのに貴方が約束を破るなんてことがあったら、 それこそでしょう?僕は貴方を軽蔑し、愛することをやめます。当たり前じゃないですか」 よくもまぁと、 さっきまでと違い、 ドジャーは関心する。 そんなにベラベラと戯言を吐けるものだ。 悪魔かお前は。 「私は・・・・」 スミレコは、 アレックスの背中で俯く。 「夫との契りに従います・・・・」 「夫じゃないけどありがとうございます」 アレックスは微笑む。 その真逆の、 無表情のような呆然とした表情で、 ドジャーは頭をポリポリとかいていた。 「いやまぁ・・・なんつーんだ・・・」 軽く、 白い目で、 「顔に似合わず腹黒いし、クールっつーか冷酷な事考えてる野郎だとは知ってたが・・・・ まさか目的のために女心まで弄ぶか・・・・腹黒通り越して最悪だなお前・・・・」 「嫌な言い方しないでください・・・・」 「いや、でもお前それでいいの?立場的にその判断いいの?やってけるの?」 「なんの立場ですか・・・・」 「いやその・・・なんだ・・・あぁ。英雄としてというか・・・・」 まぁ実際、 自分が弱いからといって、 嘘八百で敵側の女一人を誑かす英雄など聞いた事がない。 そんな主人公もいない。 居てもきっと人気ない。 「大丈夫ですアレックス部隊長・・・私はどんな扱いでもいい。あなたのためならば・・・ なんでもします。あわよくば踏まれたっていい。むしろ踏んでください」 「いや、踏みませんけど・・・それで僕が何を得るんですか・・・・」 「色々と。私も色々と得られるでしょう」 「その時は僕はむしろ何かを失っている気がしますが・・・・」 やはり気軽に出来る決断でもなかった気がする。 だからこその覚悟だったが・・・ 「まぁいい。それでアレックスの口車にまんまと乗った女」 「黙れ便所虫。両者合意に口車もクソもない」 「そうですよドジャーさん」 ドジャーはまた、 自分だけ敵になったような感覚を得た。 なんか改行の構成とかがおかしいとどこかに訴えたい。 「あー・・・ゴホン。んでスミレコ。改めて確認だ。 てめぇはこっち側に付き、そして帝国とも戦う。そうだな」 「あくまで44部隊所属という部分を奪われないのならば」 スミレコはコクンと頷いた。 「実際、私達44部隊は、帝国なんかに忠誠を誓ってなんていない。 私達が忠誠を誓うのはあくまでロウマ隊長。そして無き王国騎士団。 だからグレイもヴァーティゴもダ=フイもエースもお姉ちゃんも勝手な行動に出た」 そういえばそんなことも言っていた。 あの5人の44部隊が99番街に攻めてきた時の事だ。 今思えば貴重とも思える、 攻撃的な44部隊のメンバーが挙(こぞ)って無駄に攻めてきた。 アレックスを、 倒したいという願いのためだけに。 アレックスが44部隊を引き込もうと思った要素の一つでもある。 44部隊は帝国にとってあまりにも特異で浮いているのだ。 「いい情報だ。少し光が見えたか?」 「分かりません。でもスミレコさんを手に入れた事自体は大きな一歩です。 中途半端は重要です。44部隊には今、メッツさんとスミレコさん」 「中途半端が二人か」 「小さな傷口だろうと、そこをえぐれるかどうか。これはその一つ目です」 「えげつない事を考えるアレックス部隊長はステキです」 「褒められました」 「嬉しいか?」 うん。 どうだろう。 「何度も言うけども大丈夫です。私は貴方の恋のしもべですから。 黒かろうと、策略だろうと、あなたが望むのならなんだってします」 「イスカといい、恋は不毛だな」 「でもスミレコさん。その言葉信じますよ」 「はい。なんなりとおっしゃってくれれば・・・。なんだってします。 あぁ・・・だけどさすがにアレックス部隊長のウンコを食べろとか言われたら・・・・」 「言いませんけど」 「いえ、大丈夫です!食べます!私は愛する夫のウンコを食べます!」 「夫じゃないし食べなくていいです」 「いいんです!それで貴方が喜ぶならウンコを食べる女になります!」 「喜ばないしそんな女にならないでください」 「そんな事言わずに食べさせてください!」 やばい。 予想以上に頭が腐ってるこの子。 駄目だ。 これ。 本当に終わってる。 選択誤りまくった感をヒシヒシと感じる。 「とりあえずスミレコ。情報をくれ。今44部隊の稼働状況はどんな感じだ」 「うっせぇゴミ虫。あんたと話す義理もない。クソでも食ってろ」 「よし分かった。44部隊の稼働状況はこれから一人殉職だ」 ドジャーがそこらの安っぽいチンピラヤンキーのような怒りの表情を見せながら、 スミレコはアレックスの陰で舌を出して挑発していた。 まぁこの二人が仲が悪いわけではない。 スミレコは、 アレックス以外の男にはこんなもんだ。 いや、 コジョウイン姉妹がか。 彼女らはこの世に可愛い気な男以外死滅すればいいと本気で思っていた。 「僕からもお願いします。教えて欲しいところです」 「喜んで。貴方のためならばなんでもお教えします旦那様。 知っている事ならお尻の毛の本数までなんなりと。 あぁでも私にはそんなものありません。そんなはしたない女ではありません。 ですが知りたいのならちょっと時間を頂ければ数えて見るのもやぶさかでは・・・・」 「44部隊の状況を教えてください」 「はい」 なんか手馴れてきた自分も嫌なもんだ。 自分の背中に向けて話しかけるのはまだ違和感があるが・・・・。 「今ルアス市街に出動しているのは私とスモーガスのみです。 私達二人は共に無差別かつ広範囲な能力なので自ら志願しました」 「スモーガス?あぁ。闘技場に居たガスマスク野郎か」 「無差別インビジブルを使っていた方ですね。 スミレコさんのウェブと同じよう、自分を中心に広げるタイプの」 「辺り全体全てを飲み込むスパイダーウェブと、 辺り全体全てを飲み込むインビジブル。あのコンボは脅威だったが・・・・」 「単体で出回ってくれてるのはありがたいですね」 「私達の能力はサポートタイプとして44部隊の中でも抜けていますが、 その範囲の大きさ故に仲間にとっても思わぬ支障を表す事がありますから」 「カッ。だが44部隊が単体行動してくれているのはありがてぇ」 ただでも確固強力な44部隊だ。 99番街の時は、 グレイ。ダ=フイ。サクラコ。ヴァーティゴ。エース。 彼らが複数戦も得意で、 そうなってくるとほぼこちらは致命的なダメージを受ける事は避けられなかった。 44部隊を相手にするならば、 個別に。 それ以外に余裕はない。 「何を言ってるんだか。だからゾウリムシは低能で困る。さっさと顕微鏡の中に帰れ」 「ぁあ!?」 「出動しているのは私とスモーガスだけだと言ったでしょう。 他は待機中。そしてコレは戦争。攻城戦。王国騎士団としてのね。 忘れてもらっては困るのよ。私達は世界最強の第44番・竜騎士部隊。 その力を身を持って体感することになるわ。いえ、死を持って」 やはり、 この後に及んでも、 スミレコは44部隊に誇りを持っているのは聞いて取れた。 言葉がハキハキと出てくる。 「スミレコさん。それは・・・・この先、44部隊は団体で・・・部隊として出てくるということですか?」 「ロウマ隊長はこの間新入りのメッツにもドロイカンを配布していました。 間違いないと言っても過言じゃないです。私は貴方に嘘はつかない。愛してますから」 「・・・・・チッ。やっかいだな」 「これまでの状況からすると、個別に来るイメージがありましたからね」 「ロウマ隊長はあくまで個人主義者。私達のユニークを買ってくれていたから、 そういう事を許してくれていた。だけど部隊としての任務であるなら話は別」 44部隊が、 部隊として。 それはあまりに破滅的だ。 何かの幸運か、 これまでの戦いに関しては、 44部隊とのタイマン・・・1VS1の戦いにおいては、 そこそこ互角の結果を得られている。 だが、 だからこそ、 数の優越が出た勝負では、 ありありとその結果が普遍的に現れる。 一番の問題は・・・・・ 個人主義の彼らが、個人戦と団体戦・・・・どちらに優れているかだ。 否応ない。 GUN'Sとの戦争に置いて、 アレックス達が苦戦したスマイルマンを、 彼らはチームワークでいとも簡単に圧倒していた。 彼らはギルドという集団ではない。 彼らは部隊というチームなのだ。 「ありがとうございます。スミレコさん。事前に知っておくか否かで対策を打てます」 「そんな・・・・お礼なんて。私はアレックス部隊長のためならばなんなりと。 愛する人のためにどんな事でも話すし、どんな事でも致す覚悟が出来ているんですよ」 先ほどから何度も連呼されている言葉。 相手の思考回路にはいささか問題があるが、 そう言ってもらえるのは事実心強い。 そうアレックスは思う。 「なら・・・・」 だが、 アレックスはそこで口を閉ざした。 「なんですか?なんでも言ってくれればいいのに・・・・」 「いえ、なんでもないです」 言いかけて、 アレックスはやめた。 "なんでもする" その言葉。 なら、 ならば、 ・・・・・。 だがその先は聞かないほうがいいと思った。 なら・・・・・・ もしもの時、 "ロウマや44部隊を相手にするのか" ・・・・・。 聞かないほうがいい。 それは最悪、 突破口を一つ潰す事になり兼ねない。 「カッ。まぁいい。対策も何も、進みながらしか打てねぇ。俺らはそういう立場にあんだからよ」 「そうですね」 「出遅れてる。先に進もうぜ。ギルヴァングからの退却と、スミレコからの一時撤退。 それらが相応して俺らは本当に他の奴らから少し出遅れてる」 「皆さんはどれくらい進んでるんでしょうね」 「ツヴァイあたりは外門まで行ってんじゃねぇか?」 「時間的にさすがにそれはないと思いますが、かなりのところまで行ってるでしょう」 「それは逆にあいつの助力を期待できねぇってことだ。俺達は俺達の力で突破するしかねぇ」 「あの・・・・・」 アレックスの背中で、 消えそうな声で、 スミレコがアレックスに声をあげる。 「私は、本当に貴方と一緒に居ていいんですね・・・・」 作戦のための約束だから、 少し背徳感がある。 戯言。 嘘っぱち。 彼女もそれを理解している。 いやいや、 スミレコのことだからまた思い込みで言いように訂正されているのかもしれないが、 どちらにしろ、 アレックスからは嘘っぱちの愛情である。 背徳感。 「当たり前です。よろしくお願いしますよ」 そう言い、 アレックスは、 背中越しのスミレコの頭に手を当てて撫でる。 冗談交じりだったが、 ドジャーの言うとおりだ。 何が英雄だ。 最悪だ。 でも、 偽善こそ、 唯一の自分の道しるべ。 「思いが叶った・・・・夢のようです・・・・」 頭を撫でられるのを恥ずかしそうに、 でも俯きながらも、 拒まずに。 スミレコはアレックスの背中に小動物のようにくっついていた。 「あの・・・アレックス部隊長・・・」 「はい」 「一つお願いしてもいいですか?」 「えーと・・・怖いのでものにもよりますけど、とりあえず言ってみてください」 「恋人になったあかつきに、アー君と呼んでもいいですか?」 ブヒョッ、 と、 ブサイクに息の漏れる音がした。 ドジャーだ。 アレックスが見ると、 ドジャーは顔面を風船のように膨らまして、 顔を真っ赤にして、 口をすぼめて何かを堪えていた。 その何かはその表情で考えるまでもない。 「・・・・・ブッ・・・・・・ププッ・・・・・」 ドジャーは必死に堪えていた。 口を抑え、 目から涙が流れそうになるのを堪えながら、 顔を背ける。 だがチラりとアレックス達の方を見て・・・・ 「・・・・・ア・・・・アー君?・・・・」 限界と言わんばかりに破裂しそうな顔で、 アレックスに指をさしながら・・・ 「・・・・・プッ・・・・ククッ・・・・え?・・・・アー君?・・・・」 「・・・・・・・」 「ダッハハハハハハハハハ!!」 とうとう堪えきれなくなってドジャーは噴出し、 地面に屈みこみ、 爆笑しながら地面に拳を打ち付ける。 「ア・・・・アー君だってよぉ!!プッ・・・・ダハハハハハ!有りえねぇ!! か・・・神様!アー君が生まれました!お・・・お許しください!!ギャハハハハ・・・・」 「そ・・・・そんなに笑わなくても・・・・」 「笑うなったって・・・・プッ・・・・・ククッ・・・・マイソシアを救う英雄アー君の誕生だぞ!? 信じられねぇー!我らが切り札オーラランスを持つ男!その名はアー君!!!」 ・・・・む、 むかつくこの人・・・・ 「お、おや・・・アレックスの様子が・・・・」 突然真剣なような顔をして、 ドジャーがこちらを向いていた・・・・ と思うと、 「おめでとう!アレックスはアー君に進化したー!」 と言って、 地面を転がり始め、 腹を抱えて笑うドジャー。 街の中に反響する笑い声。 敵が聞きつけて集まってしまいそうだ。 でもドジャーの笑い声は止まらない。 「・・・・ププッ・・・・ふぅーふぅー・・・落ち着け・・・落ち着け俺・・・・3の倍数とか数えろ・・・・。 大丈夫大丈夫・・・・・アー君だから・・アー君だから・・・・アー様なら俺は死んでたかもしれん・・・・」 そう言いながら笑いがぶり返す。 むかつく。 殺意が芽生える。 なんて抑えもせずに人を笑える人なんだ。 「・・・・フー・・・フー・・・・・よ、良かったなぁアー君・・・・プッ・・・・」 「ドジャーさんは普通に呼んでください・・・・」 「笑い声までが耳障りだこのガキブリ大臣が。スミッコでシャカシャカ動いてる」 「ぁあ〜?」 爆笑から一瞬でキレ顔に変貌できるのは、 一つの特技だと思う。 やっぱ面白いなこの人は。 「アー君。あの人がいじめる」 「おっと。呼ばれてみると結構ゾワッっと僕自身寒気がしましたね。 でも大丈夫です。あの人は口だけで凄く役立たずですから危害はありません」 「でも危害はなくてもゴキブリは気持ち悪いものなの。 あの人生理的に受け付けないわ。骨の髄まで死滅すればいいのに」 「そういう時は5グロッド硬貨くらい投げ捨てると、まるでゴキブリホイホイみたいに飛びつきますよ」 「てめぇら案外いいコンビなんじゃねぇか・・・・・・」 むしろ関心してしまった。 「何にしろ前髪がイエティみてぇになってる奴に言われたくねぇよストーカー女」 「ストーキングが悪いみたいに言うな害虫」 「悪いよね!?」 「ですが確かにスミレコさん」 そう言い、 アレックスは振り向く。 「この前髪はもったいないですよ。せっかくなのに隠しちゃぁ」 そう言い、 アレックスはスミレコの額に手をあて、 ノレンのように前髪を開く。 「うん。こっちの方が絶対いいですよ」 前髪を開くと、 化粧もしていないが整ったスミレコの顔が、 ストーブのように一気に赤くなり、 一瞬でゴキブリのような速さでアレックスの背後に隠れ逃げる。 「・・・・・・」 「・・・・・なんか失敗しましたかね?」 「やーいアレックス。女泣かしたー」 「泣かしてませんし、中学生ですかドジャーさんは。 まぁいいや。スミレコさん。今度髪留めかヘアバンドでも買ってあげますよ」 「俺、ポケットに輪ゴムならあったぜ」 「小学生ですかあんたは」 「うっせぇ!チューインガムと輪ゴムしか入ってねぇよ!」 「まるっきり小学生のポケットの装備じゃないですか・・・・・」 「こんな低俗な奴ほっといて、行きましょうアー君」 と、 スミレコはアレックスの服のスソを引っ張る。 「え?どこに」 「おいおい、俺置いてくなよ」 「あんたなんか邪魔なのよ。その辺の空き家でいいわ」 スミレコはアレックスの脇陰から指をさす。 「え?なんで」 「この幸せを永遠にするための契りとして既成事実を作ってしまいましょう。 アー君がどうしてもというならしょうがないけど、私は外は恥ずかしいです。 あ、いや・・・・アー君の命令であるならば他人の目に陵辱されるのもやぶさかでは・・・・・」 「僕はやぶさかです」 「却下だ。帰れ。他の小説でやれ。時と場合を考えろ」 本当にどうなっているんだこの人は。 脳みその賞味期限がやばいのか? この人の言う事にいちいち付き合ってたら身が持たない。 だが、 そんな状況を打破してくれるかのように、 「イッツァウォキトォキ!!!」 ズザァと、 地面を滑る音。 どこから出てきたのか。 オレンジのトレカベストを来た男がアレックス達の目の前に滑り込んできた。 「ひと段落着いたみたいだな。俺ぁウォーキートォーキーズ10号機。 戦場と世界のためにトリッキィーにニュースを届けに来たぜ」 気配も感じなかった。 ひと段落を狙っていたのならば、 ずっと近くに居たのか。 この人たちは実際の能力はなかなかのものだ。 本当に情報屋にしとくにはもったいない。 「ホントに仕事するなぁてめぇら」 「ジョブはグッドに。速く、早く、正しく、そして特種を。それが情報屋(マスコミ)だ。 とりあえず情報交換に来たぜ。まず情報を預かる方だ。 44部隊がスミレコ=コジョウインの引き込み。他の子機達にも届ける。よろしいか?」 「あぁ頼む」 「いや・・・」 アレックスは止める。 「あん?なんだよアレックス」 「いえ」 少し思った。 実際これは一つの大きな変動だ。 仲間達に知らせるのは大事だろう。 だけど・・・・・ 「届けなくていいです。内密に」 「?・・・・そうかい。まぁお客様の機密は預かるぜ。脳内シュレッダーとはいかねぇけどな」 バラさない方がいい。 そう、 アレックスは思った。 そして背後のスミレコを見る。 当たり前のようにスミレコは恥ずかしそうに背中の逆側にひっこんだ。 「とりあえず様子見です」 スミレコの引き込み。 教えたほうがいいだろう。 何せ今仲間はバラけている。 だから、 もし、 他の仲間たちが戦場でスミレコと会ったら・・・・・・ 仲間とも知らずに攻撃してしまう。 でも。 だが・・・・だ。 教えたら? 教えたらどうなるというのだ。 いや、 正直な感想を言おう。 アレックスとしては、 スミレコがこのままこっち側に居てくれてるのかが確信が持てない。 それはさっき噤んだ言葉。 もし44部隊と・・・・ロウマと戦う場面に来たら、 "スミレコはどちら側に居る" ・・・・・。 分からない。 その時仲間達は躊躇するだろう。 それが命とりになる。 仲間なのか敵なのか分からない。 攻撃していいのかどうか。 それは死活問題だ。 ならば・・・・・・・・いっそ攻撃してもらった方がいい。 スミレコが、 こちら側に居たままだとしても、 やはり最終的には向こう側に居たとしてもだ。 あまりに、 あまりに冷酷な判断だろうが、 仲間達を危険に晒すくらいならば、 いっそスミレコを敵と認識してもらったまま、 もしもの時は迷いなく攻撃してもらう方が問題がない。 スミレコが、 こちら側に居たままだとしても・・・・だ。 「情報屋さん。引き続き情報の方を」 あまり考えたくない。 いつもだ。 自分の考える事は、 あまりにも血生臭く・・・・・・・・・最悪だ。 "正しい判断" 自分が下すその判断は、 いつも最悪を来たす。 偽善の英雄。 だから自分は呼ばれたくなかった。 こんな薄汚れた思考回路しか持てない自分を、 英雄・・・・なんて。 「あぁ。ならいいがな。引き続き・・・・ってことで、今度は情報をお届けだ」 ウォーキートォーキーズが話し始める。 「数十分前、《昇竜会》、《メイジプール》共に再出撃を完了した。 進軍は順調。場所は違うがすでにあんたらと同じくらいに進攻は進んでる」 「カッ、やはり遅れとってたな俺ら」 「先を急がないとですね」 「ツヴァイ=スペーディア=ハークスに置いては、すでに中央広場を越え、 単独で8割ほど越えている。時計の針がそうも動かないうちに外門に到達するだろう」 さすがだ。 単独。 彼女は仲間という存在を知ったが、 それでも、 やはり哀しくも孤高の才能。 一人・・・ 独りである力があまりにも長けている。 「まだまだあるぜ。戦況は進んでいる。それで他の重要者に関してだが、 シャル=マリナ、シシドウ=イスカ両名は共に行動」 「やっぱりか」 「44部隊が一人、スモーガスと交戦中だ」 「・・・・・チッ」 「やっぱりぶち当たってましたね」 「戦況は不明。スモーガスの能力が能力なだけに、視覚的に判断する事が困難だった。 仲間がパパラってるから分かり次第情報(ニュース)として届けるぜ」 インビジブルの使い手。 スモーガス。 アレックスとドジャー以上に、 直接的な攻撃しか持ち合わせていないマリナとイスカにとって、 少し痛い相手かもしれない。 「スモーガス・・・・あいつは侮らない方がいいです」 アレックスの後ろで、 スミレコが言う。 「44部隊で一番得体の知れないのがあいつ・・・・まるで害虫だわ」 「害虫を悪く言うな!」 ドジャーはもうこの短時間で、 自分の立場に愛着が出来てしまったようだ。 「私と同じ。戦争という場面で単独で行動するからには行動する理由がある。 でも大丈夫。アー君には私がついてるから。一生守って尽くしてあげますから」 「はぁ・・・ありがとうございます」 とりあえずこの人には無難に返事をしておくのが一番だと、 アレックスは学んだ。 「あと、《メイジプール》がメテオラの参戦を確認した」 「ぁー?今更か?こなくていいってのあいつ」 「まぁ・・・・確かにいけ好かないって気持ちは分かりますけどね。それでも貴重な戦力ですよ」 「メテオラは《メイジプール》とは別行動で参戦しているため、 そこらで遭遇した反乱軍と共に促成リーダー的に行動している。 ただ・・・・少し異常が起こっている。原因は俺達でも確認できていない」 「・・・・?」 「メテオラはどんどんと共に行動する仲間を変えている。 ただ、仲間と出会う所は確認しているが、"仲間と別れるところは確認できていない"。 まるで神隠しの道を歩いているかのように。・・・・情報屋の面目がたたねぇよ」 まぁ、 確認できていないだけともとれるが、 この戦争だ。 何か警戒しておいたほうがいいかもしれない。 メテオラ。 メテオラ=トンプソン。 腐っても《GUN'S Revolver》の唯一の生き残りで、 元・リボルバーナンバーズだ。 GUN'Sのリボルバーナンバーズに関しては、 44部隊に勝るとも劣らない者達ばかりだった。 基本的に人数的有利以外で勝てた試しがない。 そのメテオラがいるのだから、 とりあえずの問題は彼に任せよう。 そんな事を考えるアレックスには、 "その問題の中心がメテオラなのではないか" という疑心がポッカリと抜けていたが、 現段階の彼にそれを確認する術などなかった。 「まぁルアス市街、全体の戦況としては、結構有利な状況に変わりつつあるな」 「お?マジか」 「それは朗報ですね」 「やっとウォーキートォーキーズの中でも全体像が見えてきた。 帝国側は、ルアス市街に送り込んだ部隊は王国騎士団で5部隊。 人間兵・死骸騎士合わせても500から多く見積もっても1000。 数と質では今のところ反乱軍が押している。負傷者は多く出たが、 500人がかりほどで1部隊+1部隊長を撃退している」 「うっお、すげ」 「皆さん結構やりますね」 中心人物以外の者達も、 よくやってくれているようだ。 ここまで残り、 そして死を覚悟した2000の猛者達なのだから。 「ツヴァイ=スペーディア=ハークスが倒した2部隊を含め、 これで3部隊を倒した状況だ。まぁ全滅でなければ部隊は活動しているがな」 「でもいい調子ですね」 「カッ。王国騎士団の部隊ってのも大したことねぇな。かませ犬x53なんじゃねぇの?」 「む・・3部隊倒したくらいでいい気にならないで。 騎馬隊2つはツヴァイ=スペーディア=ハークスじゃなければ倒せてなかったはず。 王国騎士団は全ての部隊に役割がある、誇り高き部隊なんだから」 「おめぇはどっちの味方なんだよ」 「私は・・・・世界の何よりもアー君の味方・・・・・」 もう聞き飽きたわ。 そういうセリフ。 「続けていいか?撃退したのは第15番・歩兵部隊。シャンガリアの部隊だ。 ま、力の弱い部隊だったが、倒した部隊ってのも情報に必要だろ? チェケラっといてくれ。ってまぁ情報はこれで・・・・・・・あ。あーあーあー」 情報屋ウォーキートォーキーマンが子機。 10号機は、 何かを思い出したように頷く。 「忘れてた。なんか忘れやすいんだよな」 「何がだよ。ちゃんと言えよ」 「モントール=エクスポは地下を進んだ。これは主要人物にしか教えないでくれと、 本人からのお達しだ。なんでも地下水道から直接ルアス城に侵入するとか」 「あぁ。エクスポか。なぁしょうがない。お前が悪いわけじゃない」 「ですね」 酷い言われようだ。 「でも地下水道ですか。どういう経緯でか知りませんが考えましたね」 「あいつの嫌いな汚らしい道だけどな」 「でも盲点ってやつですよ。効果的です」 「地下水道・・・・・・」 アレックスの背後で、 スミレコがボソりと呟く。 「どうかしました?スミレコさん」 「・・・・あ・・・いえ・・・・ただ、確かに盲点でした。効果的だと思います。 ただ誰もの盲点というからには記憶から消えるなんならの情報があったはず・・・・ なんだったか・・・・力になれなくてゴメンなさいアー君・・・・」 気にはかかるが、 ま、 エクスポだから大丈夫だろうと、 アレックスとドジャーは放っておいた。 多分、 なんかあったとしてもギャグ漫画みたいに助かるだろうと。 「お気に召してもらえたかな?情報屋冥利につきるってもんだぜ。 だがビッグニュースが最後に一つ。他は近況報告で、大事なのはコレだ」 と、 もったいぶって情報屋10号機は言う。 「カプリコ三騎士及び、その実子、養子を確認した」 「ロッキーか!」 「ちゃんと来てくれたみたいですね。三騎士さんと一緒っていうのは頼もしいですよ」 少々悪いが、 オリオールの力を得たロッキーよりも、 三騎士の参戦が確認できた事の方が朗報だった。 三騎士は三匹揃えばロウマ=ハートとも張り合える実力者だ。 はっきり言って、 こちらの切り札と言っても過言ではない戦力。 「チッチッ」 10号機は指を振る。 「ビッグニュースと言ったはずだ。グッドニュースでもバッドニュースでもなくな」 「あぁ?んだよ」 「情報には期待してくれってことだ」 二名ほど他のウォーキートォーキーズとも出会ったが、 この情報屋はなかなか会話を好むようだ。 いろいろいるんだな。 情報屋にも。 「カプリコ三騎士。ロッキー。コロラド5名。現在地はどこだと思う?」 情報屋はもったいぶったように聞いてくる。 「いいからさっさと言えよイラつくな」 「外門だ」 情報屋から出た言葉には、 さすがのドジャーも、 少々時間を止めた。 「・・・・・外門?」 「あぁそうだ。彼らはすでに、誰よりも先に、外門に到達した」 「マジか・・・・」 「朗報ですね」 正直、 最初に到達するのはツヴァイだとばかり思っていた。 自分たちに関してはまだルアス市街の真ん中だ。 だが、 切り札である彼らは、 すでに外門にまで到達していた。 「そりゃぁすげぇ・・・・アレックス。正直外門でフレア待ちになるかと思ってたが、 このままだともしかしたら三騎士とツヴァイだけで外門突破するかもしれねぇぞ」 「王国騎士団が外門をなめないで。ゾウリムシ如きが安易な計算をするな」 スミレコが言って来る。 本当にどっちの味方だ。 少なくともドジャーにとっては敵だが。 「グッドニュースでもバッドニュースでもないって言ったろ?」 それを挟むように、 情報屋が言って来る。 「『ノック・ザ・ドアー』が居た頃の攻城戦とは違う。 外門には外門として、部隊が配属されているのが確認された」 「カッ。だからなんだってんだ。44部隊でもなけりゃ三騎士はとめられねぇよ。 王国騎士団のかませ犬部隊共じゃぁ役不足だと思うけどな」 「そのかませ犬部隊が3部隊。内門の守備についている。 彼らは死んでなお、やっと正規に内門を守備できると張り切っているよ。 第20番 門番部隊・黄組 『黄鬼』長男、ヒャギ=シグナル 第21番 門番部隊・赤組 『赤鬼』次男、ヒューゴ=シグナル 第22番 門番部隊・青組 『青鬼』三男、ヒョウガ=シグナル。 ヒャギ・ヒューゴ・ヒョウガの三色兄弟で、『信号鬼』と呼ばれている」 「んで?そのかませ犬3匹の鬼ちゃんが?」 「現段階、その3部隊でカプリコ三騎士一同を無傷で抑えている」 「・・・・・・なんだって?」 |
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