「情報は生ものだ。新鮮なうちに迅速に・・・だぜ?」
「はいっ!」
「違う違う。返事はそうじゃないだろ?・・・・・YOU COPY?」
「I COPY!」

そう元気よく返事をし、
彼は街中を走った。

「とぅうううりっきー♪」

先輩からもらった初仕事に、
胸を躍らし、
さらにいえば、
初仕事がこんな重要な、
第二次終焉戦争の最中の情報伝達ともなれば、
気さえも引き締まる。

「よっ、ほっ」

ルアスの町並み。
屋根から屋根を飛び移り、
目的地へ。

「急げ急げ。俺。なんてった俺は、ウォーキートォーキーズ87号機なんだから!」

数字(アドレス)に意味は無い。
空き番から埋まるだけ。
たまたま"現在使われておりません"なナンバーが87だった。

「へへっ、見てろよぉ!なんたって初仕事がこの終焉戦争!世界最大の大事件!
 つまり大事件の宝庫だから、ニュースの最前線!情報屋として成り上がるには十分だぜ!」

屋根を蹴り、
家々の上を通り抜け、
風のような速度で、
87号機は走る。

「ここらは静かだな。戦いも始まってないし、人も逃げた後だ」

屋根の上を走り渡りながら、
ルアスの町並みを見下ろし、
少し思う。
そう景色を見ていると、

「おわ!?」

情報屋として、
ウォーキートォーキーズとして、
かなり足には自信があるのだが、
それ以上の速度ですれ違う。
すれ違うと言っても、
87号は屋根の上、
ソレは街の大通りを走り去っていった。

「・・・・・・はぇぇな・・・・ありゃぁ戦乙女ツヴァイか・・・・」

驚きつつも、
高速ですれ違うソレを目視判断出来た彼は、
情報屋として、
この先の未来、
かなり期待のできるところだろう。

「・・・・ってあれが情報の伝達先じゃなかったっけ!?あれ?!」

キキッ!
と、
屋根の上でブレーキをかける。
町並み。
ルアス市街。

目下に走るのは、
大通り。

そう。
彼、
ウォーキートォーキーズ87号機に与えられたのは、
反乱軍の旗本に、
敵の情報を伝えるためだった。

部隊長・ギア=ライダー率いる、
デミの重騎馬隊。
第38番・湾岸警備部隊。

部隊長・ラブヲ=クリスティー率いる、
エルモアの白騎馬隊。
第39番・白馬(白バイ)部隊。

その二部隊が迫っているという情報をだ。

「ツヴァイって奴がいるとこが旗本だって先輩いってたけども!どーすんだこれ!
 どこもってきゃいいのこの情報!俺!初仕事いきなり失敗したくねぇよ!」

あたふたと、
屋根の上で焦る87号機。

敵はまだまだ先だ。
安全で簡単だからと、
先輩の情報屋も初仕事の87号に任せたのだが、
そのお届け先はその部隊の方へと単身爆走していってしまった。

んじゃぁどうしよう。

「ん?」

だが、
大通りを辿ってみると。

「あ、いるじゃん。つまりあれだな」

大通りのど真ん中で、
停止している団体がいた。
間違いなく反乱軍だ。

「行っちゃったリーダーはしゃぁないとして、あそこに届けりゃ問題ないだろ」

と、
87号機は思った。
その通りだった。

残念ながら、
本当に残念なことがあるならば、
すでにその情報は彼らは知っているということ。

まさかまさか、
イスカのような異常な5感の持ち主がいるとは思ってもいなかっただろう。
知っていたら是非とも情報屋にスカウトしたいところだ。

「んじゃいっちょ!俺の初仕事!」

そんな事も露知らず、
87号機は仕事にでかけた。

「とぅーーりっきーーー!!」

言ってみたかった。
やってみたかった。
感動の仕事の場面だ。

屋根から勢いよく飛び出し、
大通りに飛び出て、
滑るように皆の前に躍り出る。

「いっつぁうぉきとぉき!ニュースをお届けに・・・・」

決まった。
と思いながら、
前文句を語り出していた時だった。
ふと思った。

誰も自分に注目しやがらねぇ。
なんてこった。
俺の初仕事だぞ。
てめぇらに重要な仕事をもってきてやった、
スーパーニュースキャスターだぞ。

なのにだ。
皆、
その刹那だけ。
その一瞬だけ。
全く違うところに興味がいっているようで、

「・・・・ん?」

そして87号機も、
その、
皆が一瞬だけ注目した、
その、
そちらを、

見上げた。


「ドッゴラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


結論だけ言うと、
87号機は、
初仕事もロクにこなせなかった。

初仕事はそこで終わった。
そして、
情報屋としての仕事も生涯分そこで終わった。

まさか、

自分の真上に猛獣が落下してくるとは思わなかった。

思わなかったところで、
彼の命は、
誰にも気付かれることなく、
猛獣の重圧に押しつぶされた。



































「フゥ・・・・・・・・」

砂埃が舞う。
地面が割れている。
大砲、
いや、
隕石でも落下してきたかのようなその有様の真ん中、

「ゴルァアアアアアアアア!!!!!!」

猛獣は、
髪を逆立てて叫んだ。

「決まったぁあああ!!メチャ決まったろゴルァア!!!漢らしかったろが!ぁあ!っしゃああ!!」

野獣のような腕に、
血管を浮き立たせるほどに力を込め、
歯をギシギシ軋ませながら、
ギルヴァングは笑った。

「来たろ!?メチャ来たろ!?俺様一番ノリだろ!!!ギャハハ!漢のロマンは一番ノリだ!!
 そう!闘うなら戦争最前線!!!夢とロマンに溢れ!血肉踊り!骨汗滾る!
 そんなバトルはやっぱ最前線だろが!!!しゃぁ!!やろうぜええ!!この!俺様と!!
 メチャ!メチャハチャメチャなバトルをよぉおお!!漢らしく!ガチンコでよぉおおおお!!!」

その叫び声だけで、
街が揺れるようで、
その叫び声だけで、
残っている砂煙が吹き飛んだ。

吹き飛んだのだが・・・・

「・・・・・あ?」

その晴れた視界の光景は、

「・・・・ゴ・・・・ゴルアァア!!!」

わーわー、
わらわら、
反乱軍の兵達が、
何の迷いもなく、
各々、
散り散りに、
逃げていく後姿だけだった。

それもすでに退去済みと言ってもいいほどの手際。
逃げに命をかけたと言っても過言でもない。
ほぼ、
もう姿もなかった。

「ゴルアァアア!!!てめぇらそれでも漢かぁぁあああ!?ざけんな!メチャざけんな!!!
 やれよおぉおおお!俺様とよぉおおお!!!ガチンコで!肌と肌でバトらんかあああああああ!!」



































「・・・・・・あんな事叫んでますけど」
「ほっとけ!振り向くヒマあったら走れ!!」

アレックスとドジャー。
二人は、
ルアスの市街。
街中。
その路地裏を走っていた。

いや、
路地裏を二回越えている。
ただ街中を走っていると言ってもいい。
他の皆もそんな感じだろう。

「はぁ・・・・」

先を走っていたドジャーが、
膝を突いて止まる。

「ここまで・・・走れば・・・大丈夫だろ・・・」

さすがに焦って必死に走ったのだ。
足に自信があるドジャーとて、
短期間にちょいと疲れたようだ。

「いえいえ」

アレックスは、
そんなドジャーをとんっと叩き、
通り過ぎて軽い足取りで走っていく。

「まだまだ安心できませんよー?」
「じゅーぶん逃げたろがよ」
「忘れましたか?ギルヴァングさんはあの風貌、あの獰猛さに反して・・・吟遊詩人ですよ?
 あの人の楽器は声。あの人の声が聞こえるうちは爆心地だと思っておいた方が無難です」
「・・・・そうだった」

ギルヴァングの何もかもを吹き飛ばす、
ヴォイス。
いや、
シャウトと言っていい音撃(ノイズ)。
意識を失った事さえある。

ドジャーもアレックスの走っていく方に、
逃走を再開した。

「・・・・そうだったそうだった。あいつは99番街をコテンパンにしてくれやがった」
「モグラみたいに家々を吹き飛ばして追いかけてきましたからね」
「やっべ。トラウマ帰ってきた・・・・」

少し違うが葉を隠すなら森という言葉がある。
だが、
ギルヴァングは森をもひっくり返してしまうだろう。

「逃げるだけ逃げとかないと。それでも安心なんて出来ないんですから」
「シマウマの気分だな」

街中を走り回り、
逃げ回る。
すでに城に向かっているのかどうかも微妙だ。

「あ、大丈夫です。僕は方向音痴じゃないんで」
「僕はってなんだ。"は"って」
「うわっ?!」
「なんだ?!」

背後の方からドデカい音がした。
何かと思い、
アレックスとドジャーは足を止め、
振り向く。

「・・・・・・うわぁ・・・」
「ありえねぇな」

ルアスの町並み、
家と家の隙間から見えたその光景。
いや、
町並みの上とでも言うべきか。

恐らく・・・・
というか間違いなく、
犯人はギルヴァングだろう。

遠くで屋根が飛んでいた。

「何がどうなったら家の屋根が吹っ飛ぶんだよ・・・・」
「あれがドジャーさんじゃなくてよかったですね」
「恐ろしい事言うな・・・・」

それが落下したと思うと、
今度は家の壁の破片が舞い上がる。
まるで花火だ。

「ありゃぁ、また家破壊しながら敵探してんな・・・・」
「家?街の間違いでしょう」
「確かに」

街を平らげながら、
敵との戦いを所望する。
恐ろしき野獣。
残念ながらお相手はしたくない。

「隠れる場所が無くなる前に出来るだけ離れつつ進みましょう」
「冗談に聞こえねぇなぁそれ」

本当に数時間もあれば、
ルアスを半壊させてしまいそうだ。

「まぁとっととトンヅラ・・・お?」

ドジャーがその光景を見ながら進もうとすると、
アレックスの背中にぶつかった。

「んだよ。トロいんだからさっさと・・・・」
「ドジャーさん」
「アレックスが苦笑いする」

そして、
自分達の進行方向。

「・・・・・別働隊は別働隊でここまで来てやがったか」

それは。
死骸。
死骸騎士。

死骸騎士達が、
ルアスの街中。
アレックスとドジャーの前に立ちはだかった。

多くは無い。
5名ほどか。

「・・・・・騎馬隊の二部隊が最前線かと思ってたが・・・」
「恐らくフレアさん達とツバメさん達が足止めしてくれたんでしょう」
「カッ。別の奴らはチャッカリここらまで来てたか」

「アレックス部隊長だな」

死骸騎士の一人が言った。
変スクもない、
一般兵。
表情もない、
骸骨の鎧。

「この・・・・・裏切り者め」

違う一人が、
そう言った。

その言葉の反応は、
しっかり表情に出してしまった。

「覚悟・・・決めたんだろ?」

ドジャーが後ろから言う。

「・・・・はい」

そう。
今更だ。
今更なんだ。
覚悟はしていた。
受け入れた。
自分がしたことだ。

なのに前に出た。

・・・・。
エイト=ビットという部隊長が言ったとおりなんだ。
そう。
アレックスは、
スタートボタンを自ら押したのだから。

「覚悟は出来てます」

アレックスは槍を地面に突き刺す。
そして、
表れる魔方陣。

「イソニアメモリー・・・・オーラランス」

今、
この場に置いて、
仲間を、
かつての仲間を殺すためだけに・・・・

"仲間殺しにあまりにも適した槍"

聖なる蒼き炎のオーラランス。

「やる気だな」
「裏切りのアレックスめ」
「俺達を、殺しにくるんだな」

「はい」

アレックスは槍を構える。

「もう・・・・逃げません」

そして、
3歩、
4歩、
駆けるというよりはステップ。
瞬時に間合いを詰め、

槍と槍しか届かぬ距離。
騎士と騎士との距離。

体全体を大きく使い、
片手を突き出す。
突き出す。

渾身の、ピアシングボディ。

「ぐぁ・・・・」

蒼き炎の、
聖なる槍は、
気持ちのよいほどに、
まるで溶け込むかのよう死骸騎士の体に突き刺さり、
その死なる体を、
聖なる炎に包み込む。

「あ・・・ああああ!!!」

そして、
聖なる炎に焼かれ、
灰に。
白い砂になるようにそれは崩れ、
崩れといいつつも、
短い天へ消えていく。
昇華する。

「僕は・・・」

アレックスは槍を突き出したままの状態で、

「英雄になる。裏切りの英雄という汚名をかぶり、讃えられるよりも祟られる。そんな道を選びます。
 ・・・・・だから、あなた達は・・・・僕の守りたかった誇り高き王国騎士団として立ち塞がってください!」

アレックスがさらに飛び込み、
槍を振る。
振り切る。
それは死骸騎士の体を裂き、
ソレは灰となり、
また昇華される。

「あああああ!!!」

さらに一振り、
また一突き。
普通ならば、
致命傷であれ、
死には至らない程度の傷を与えているだけだが、
その死骸の傷口から、
蒼き聖なる炎が噴出し、
体を包み込み、
灰にし、
昇華する。

死骸のためのリーサルウェポン。
死を断する聖槍オーラランス。

あっという間に、
4人目まで、
死という束縛から昇華した。

「あと一人・・・・・」

と、
アレックスが槍を構えながら振り向く。
残りの一人。
一人は、

「裏切りものめ!!」

そう言う、
その死骸の体には、
ダガーが4本刺さっていた。
鎧の隙間に的確に。

骨を砕き刺さる4本のダガー。
しかし、
まるで無傷のようにアレックスを襲ってくる。

「俺達の王国騎士団を・・・・」

「すいません」

何を許せというのか。
自分でも思う。
そう思いながらも、
そう言いながら、
その男にオーラランスをぶち込み、
その死骸騎士。
かつての仲間がまた一人、
灰となった。

「・・・・・」

アレックスの手の槍から、
蒼き炎が鎮火する。

そして視線を変えると、

ドジャーが両手を広げながら、
首を振っていた。

「・・・・・やべぇ」

顔をしぶめながら、
ドジャーは言う。

「俺の攻撃・・・・意味ねぇ・・・・・」

冗談じゃないのは表情で分かった。

「いや、普通の人間なら確実に仕留めてたんだぜ?だけどよぉ・・・・
 4発ダガーぶっ刺してやってもピンピンしてやがんのよ・・・・」
「・・・・・彼らに痛みはありませんからね」

死骸だから。
骸骨だから。
魂だけの存在だから。

「・・・・・・骨ってどこに急所あんの?」
「・・・・・知りませんよ」
「・・・・・なんとかしてくれ・・・俺の攻撃ってぇのは急所にぶっ刺して初めて意味があんだよ・・・」

腹や心臓に。
そして頭に。
ドジャーのダガー投げは、
それでこそ意味がある。
言うならば、

生命機関。
分かりやすく言うならば内蔵だ。

「一応・・・・脳天にも刺してやったしよぉ・・・・心臓だったとこにも刺してやったけど意味ねぇ・・・
 魂だけだったか?魂ってどこにあんだよ・・・頭じゃねぇの?」
「さらに一応心臓(ハート)も狙ったっていうのは結構ロマンチストですね」
「うっせ!!!やべぇって!!マジで!!!」
「落ち着いてください。魂なんて物理的なものじゃないに決まってます。
 聖なる炎以外で倒すなら、エイトさんの言っていた通り、修復不能にするしかないです」
「・・・・・それってどれくらいだ」
「・・・・・」
「どんくらいぶつのめせばいいんだよ・・・」

アレックスは少し考える。

「一応・・・目安としては・・・・あっ。あくまで予想ですからね?僕だって初めてなんですから」
「いいから」
「人は死んだら魂飛ぶでしょ?それを呼び戻すためのスペルが蘇生魔法なんですから」
「あぁ」
「つまり魂が滞在できないくらい」
「いや、あいつら死んでるじゃねぇか」
「骸骨だろうと死骸だろうと、生身だった時に死亡するくらいの破壊ですかね」

つまり、
まぁ、
胴体が吹き飛ぶくらいだろう。

「エイトさんの時を見ていると、生半可ならくっつきますしね。
 くっついてももう一度死骸騎士としての容姿を保てないようなダメージを・・・・」
「ダガーでどうやってやんだよそれ!!!!!」

本人はかなり真面目に焦っているが、
それを言われても、
僕に聞かれても・・・・と、答えるしかない。

「ちょ、まてまて・・・・」

ドジャーが顔に手を当てる。

「マリナは・・・いけそうだな・・・イスカはどうだ・・・・ロッキーとエクスポには爆撃がある・・・・」
「攻撃力ないのドジャーさんだけですね」
「うっせ!!」
「死骸騎士に対して必要なのは傷じゃなく、破壊ですからね。
 そういう意味ではイスカさんも苦労しそうですが、あの人はそれを補うだけの技量ありますし」
「あぁー!あぁー!俺にはねぇな!!」
「ツバメさんも同じように苦労はありそうですね。退却も頷けます」
「俺にも逃げろってか!?」

ドジャーは逆ギレ状態でアレックスに指差す。

「俺!このままじゃ無力じゃねぇか!!」
「ドジャーさん」

アレックスは、
真剣な眼差しで、
それに答える。

「ドジャーさん。役立たずですね」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!!」
「どう頑張ってもノレンに腕押し」
「うっせぇ!!どうにかしろ!!」

どうにかしろったって・・・
と、
アレックスは少し考える。
実際、
実際問題、
死骸騎士の耐久力がここまでだとは思わなかった。
ドジャーじゃなくとも、
並レベルの戦士でも苦戦するだろう。
そうじゃなくとも相手は歴戦の騎士達なのだから。

「腕を・・・・フッ飛ばしてください」
「あん?」
「武器を持ってる腕をです。時間が立てばくっついちゃうかもしれませんが、
 それでも攻撃方法を封じるだけでそれには意味があります」
「・・・・・」
「できるならば、そのまま細切れ。それくらいやらなきゃだめです。それぐらいやってやっとです。
 どうしてもなら、ディナータイムでもご馳走してあげてください。あのなんかいっぱい投げるやつ。
 アレはモロにぶつければ散弾銃(ショットガン)のようなものですからね」

敵を粉砕する破壊力くらいなら、
無いわけではない。

「まぁザコに使うにはもったいないですけどね」
「俺ぁ・・・・」

ドジャーは頭を抱える。

「いつも以上に工夫という工夫を練らなきゃならねぇみてぇだな・・・・」

頭が痛くなるのも分かる。
小賢しく、
チョコマカと。
そんな戦いが売りのドジャーが、
その持ち味を全て無効化されたようなものなのだから。

「でもそんなに悲観しなくても、忘れてるかもしれませんが相手の半分も人間ですよ?」
「あ、そうか」

詳しい数は分からない。
だが、
万を超えるにしても、
死骸騎士は5000。
残りは通常の兵士なのだ。
そう考えればドジャーにも光はある。

「じゃぁもし両方出てきたら、アレックス。てめぇが死骸騎士で、俺がパン兵な」
「別にいいですけど・・・・」
「適材適所ってやつだ」
「それは僕には当てはまります。僕は死骸騎士に有利ですから。
 でもドジャーさんは一般兵に有利ってわけじゃないでしょう。適材適所とは言いません」
「うっせぇなおめぇわ」
「もういいですか?行きますよ役立たずさん」
「うっせぇなおめぇわ!」
「行きますよ役立たジャーさん」
「うっせぇなぁおめぇわよぉ!!!」
「行きますよ。ロス・A=役立たず」
「さんはどうした"さん"は!!!?」

「アレックスさん!」
「ドジャーさん!」

「ん?」
「あれ?」

誰かと思えば・・・・
いや、
誰かは知らないが、
ずらずらと兵士。
十数人。
どうやら味方の兵士のようだ。

まぁさきほどギルヴァングの強襲で散らばったメンバーを含め、
この街。
首都ルアスには2000の仲間が散らばっているのだ。

こうして街中で合流するのも珍しくないだろう。

「無事だったんですね」
「僕らは3人やられました」
「へへっ。逆に向こうは5人殺ってやったけどな」
「死骸騎士も2体始末してやったぜ」

合流した仲間達の言葉に、
アレックスは、
ドジャーをチラりと見る。

ドジャーは見るなと手を振った。
さきほどまでの悲観的な論争を聞かれなくてよかったと思ってるだろう。

「とりあえずここらは大丈夫ッスよ」

そう言いながらも、
十数名は、
各々、
別方向。
道という道にそれぞれ警戒を置く。
ここまで生き残り、
死の待つこの戦いに身を置く猛者達だ。
ただの2000の仲間じゃない事も見て取れる。

「情報屋から話は聞いて言います」
「有力な武器があるとか」
「あんたについてきてよかったぜ」

その言葉には、
正直、
かなり心に響いた。
自分の必要性。

「邪魔にならなければ俺達も共に進軍しようと思いますが」

願ったり叶ったりだ。
戦場。
この死骸だらけの街中ならば、
数は多ければ多いほうがいい。

ドジャーがドジャーなだけに、
正直アレックス一人では、
多数に囲まれた時にキツい。

数は邪魔にはならない。
力は邪魔にはならない。

「いえ」

だが、
アレックスは否定で入った。

「残念ですが・・・・こうもバラけてしまっては逆にそれはしない方がいいでしょう」

「何故です?」
「俺達は仲間だろう?」
「助け合って戦った方が有利なんじゃ」

「他の方々とはそうです。是非ともそうして外門にたどり着いてください。
 ただ、相手はバラけた僕達の中で誰を優先的に狙うかというと・・・・僕です」

先ほど襲ってきた死骸騎士もしかり。
元王国騎士団の騎士達は、
少なからず、
アレックスを憎んでいるものがいる。
帝国騎士団の人間兵にしても同じだろう。

どちらも・・・
二度も・・・・
裏切ったのだから。

「じゃぁなおさら!」

「僕にはオトリの価値があるっていうことですよ。
 目的はとりあえず外門に辿り着く事です。こちらの合流ポイントですから。
 体勢を立て直すにしろまずそれを優先すべき。
 なら僕を身軽にして泳がして、他の皆さんが進軍しやすいほうがいいんですよ」
「カッ。格好つけるねぇ英雄さん。危険は引き受けますってか?」
「そうです。そして時には逃げます。見っとも無く」
「その時勇敢な仲間は足手まといってか?」
「いちいち悪い表現しないでくださいよ」

「・・・・・分かりました」

少し口惜しそうな表情で、
仲間の兵達は頷く。

「ご武運を」
「外門で再会しましょう」

「という事です。行きましょうドジャーさん」

「うわぁあああ!!!」

突如、
仲間の一人の悲鳴が聞こえた。

「なんだ?!」

そちらに視線を向ける。
向けたが、
その悲鳴をあげた一人は、
こちらに逃げてこようとしていた。
していたが・・・・

「うわぁ!」

転んだ。
いや、
つまづいたんじゃない。
足が何かに巻き取られた。
巻き取られたと思うと・・・・

「あ・・・あ・・・・」

地面にへばりついたその男。
その男の体を・・・・

何か・・・
何かが飲み込んでいく。

白い何かが、
その男の体全身に巻きつき、
そして、
次の瞬間にはその男は白い塊と化していた。

「なんだ!?」
「い」
「糸だ!!」

誰かが叫んだ時、
皆の視界。
視界全体に、

それは映った。

「な・・・」
「なんだこりゃ!!」

地面を。
ルアスの石畳を。
壁を。
ルアスの家々の壁を。
屋根を。
物体という物体の全てを、
糸が飲み込んでいく。

「逃げろ!!」

ドジャーが叫んだが、
それも遅かった。
逃げ出そうとした者達を、
糸が飲み込んでいく。

まるで地を這うかのように、
壁を這うかのように。

糸が生き物のように。
津波のように。
まるで向こう側から、
街を白色に塗り替えていくように、

糸が地面と壁を這い、
広がって向かってくる。

「うああああ!!」
「あああ・・・あああ!!!」

糸に追いつかれた者が、
順に糸に巻き取られ、
始めは足。
そして体。
そうやって巻きつかれていき、

そして、
繭(まゆ)になっていく。

「どうなってんだこりゃ!」
「振り向かないで!!」

必死に逃げる。
ルアスの町並みを。
だが、
曲がり角も、
階段も、
ルアスの町並みなど何も関係ないように、

床・壁・天井・屋根。

糸が這い追ってくる。

そして巻きつかれた者が、
糸の塊。
繭の人形へと変貌していく。

「追いつかれるぞ!!」
「ドジャーさん!スパイダーカットです!!」
「ぁあ!?」

一瞬疑問に思ったが、
ドジャーは振り向き、
右腕を振り払った。
すると。

「お」

スパイダーカットを放った場所だけ、
糸の津波が飛び散った。

「こりゃぁ・・・スパイダーウェブか!覚えてるぞ。闘技場で見た!」
「はい。僕は昔から覚えています」

広範囲型。
放射状に広げるスパイダーウェブ。

「『ピンクスパイダー(女郎蜘蛛)』 スミレコ=コジョウインさんです」
「いきなり44部隊がここまで来やがったか」

だが、
この入り組んだ街中。
相手の姿は見えない。

一方的に無差別に広げてくるスパイダーウェブ。

・・・・・
相手の土俵だった。


































「またつまらぬ者を斬った」

イスカが剣を振り切った状態で、
そう呟く。

そして、
死骸騎士の体が、
綺麗に分断され、
崩れ落ちた。

「死するものに、情けはやらんさ」

イスカが剣を鞘に収める。
その光景。
イスカの周りには、
6つ。
つまり、
両断した3体の死骸騎士が転がっていた。

「王国騎士団というのもこの程度か」

歴戦の騎士団とはいえ、
少数戦ならば、
イスカの敵ではなかった。
なかったのだが。

「む?」

カタカタ・・・
カタカタ・・・と、
両断した骸骨が、
揺れ動き、
そしてくっついていく。

「むむむ?」

そして、
まるで何事も無かったかのように、
3体の死骸騎士は、
また立ち上がった。

「み、みねうちではなかったのだが・・・・」

腕が鈍ったかと、
自分を少し疑ったが、
思い起こす。
相手は死骸騎士。

「これしきで・・・」
「俺達は・・・」
「戦いを諦めたりはしない・・・」

「・・・・・さすが死して戦う者の根性か」

イスカは鞘に手を添える。

「ならばどこまで切り刻めば倒せるか。試してやろう」
「あーーーーりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!!」

イスカが決めたのを掻き消す様に、
女の声。
叫びながら、
幾多の発砲音。

無数の弾丸が、
イスカの眼前を横切っていったと思うと、

「うごぉ・・・」
「が・・・・」

それらが、
死骸騎士の体を貫いていき、
骨を砕き砕き、
それでも止まぬ、
弾丸の横雨。

「ふぅ・・・」

そして弾丸を止めると、
その暴弾の主は、
ギターを担いだ。

「オードブルで十分だったわね♪」

マリナは、
粉々に散らばった死骸騎士のカケラを目にし、
満足げに笑った。

「MB16mmマシンガン。私のマジックボールのマシンガンは十分通用しそうね」
「・・・・さすがだな」

いざという時だったので、
気が抜けたが、
横取りしたのがマリナというならばイスカは文句を言わない。

「手ごたえは微妙だけど、数撃ちゃってのが私のポリシーだからね」
「さすがだ」
「イスカは役立たずね」
「・・・・・む」
「冗談よ」
「・・・・・耳が痛かった」

初めての敵との遭遇だったが、
この場において、
結局敵を倒したのはマリナだった。

「負けん・・・・」

いや、
一匹生き残っている。
いや、
死んでいるのだが、
これからそういう突っ込みはヤボかもしれない。
ともかく、
死骸騎士の一体が、
グラグラと、
すでに体の形を保つのがやっとな状態で立ち上がった。

「それくらいイスカがやりなさい。イスカの剣も通用するかのテストよ」
「無論」

イスカは、
また鞘に手を添え、
気を引き締める。

「拙者に斬れぬものなどない」

そして、
閃光が4度ほど撒き散らされた。
速い。
すでにイスカの剣は鞘に納まっていた。
瞬時に4度斬りつけた。

そして、
死骸騎士の体は細かく分断され、
さすがにもう起き上がることはなかった。

「・・・・・・ふむ。いけるな」

少し安心した。
斬るだけでは、
どれだけやっても復旧してしまうのなら頭の痛いところだった。

組み直るとはいえ、
再生するわけではないらしい。

「いい感じじゃない。また腕をあげた?」
「修行のたまもの・・・といいたいところなのだがな。
 どちらかというと修羅場を越えてきたお陰かもしれん」
「剣聖ってやつに近づいたんじゃない?」
「そうだといいのだが」

だけど、
だが、
修羅場。
殺しの螺旋を超えて強くなったなど、
それはまた・・・・

死を餌にした亡者のようではないか。

「なんだっていいじゃない」

イスカの心を読んだように、
マリナが言う。

「とにかく強くなってるんでしょ?後悔はしない約束。
 終わりよければ全て良しっていう無責任かつ楽観的にいきましょ」
「・・・・・」

そうだ。
結果的に、
マリナを守る力があるなら、
それでいい。
それに勝るものは無いのなら、
何もかも犠牲にするし、
何も後悔はしない。

過去は忘れないが捨てた。
マリナもだ。
それでいい。
重荷なのだから。

「慌しくなってきたわね」

そう言われるとそうだ。
ルアスの街中。
戦争前だったこの街が、
騒がしくなる。

「そうだな。そこら中で小さな戦いが始まっているのだろう」
「皮肉なもんね」
「何がだ?マリナ殿」
「今この街で戦っているのは、私達反乱軍と、そして元王国騎士団がほとんどだと思う。
 でもどちらも守るべきものがあって誇りのために戦っているんだもの」

そう言われればそうだ。
だが、

「どちらにも守るものがあるからぶつかって戦っている。それだけだ」
「そうね」
「拙者もそう。守るもののためなら、相手の誇りなど考慮していられない」
「私だってそうよ。お店のため」

そう考えると、
戦争も、
戦いも、
双方の個人的な理由を守るためだけ。
善も悪もひっくるめ、
それだけなのだろう。

「覚悟はある。進もう。マリナ殿」
「うん。悪いけど」

マリナは、
ギターを担いで笑う。

「立ち塞がってくるならすべて薙ぎ倒すわ。どんな誇りも、
 このマリナさんの野望の邪魔になるなら遠慮はしないわ」
「頼もしい限り」
「ただの自己中断固宣言よ」
「それでこそマリナ殿だ」
「えぇ。かたっぱしからぶちのめしてやるわ!」
「見よマリナ殿」

そう言い、
イスカが指をさす。
街中の景色の先。
向こうの天。

「花火があがっておる。拙者らの門出を祝福してくれておるぞ」
「・・・・・」

悪い冗談だ。

「何が花火よ・・・・あれは家よ家・・・・」

屋根。
壁。
砕けた家が、
向こうの方で飛び上がっては落ちている。

ギルヴァングが暴れている場所が一目で分かる。

「触らぬなんたらに祟り無しね・・・・避けて進みましょ」
「ぬ?でもマリナ殿。奴も最終的は倒さねばならん」
「パス」
「ぬ?」
「倒せる奴だけ倒すわ。あぁいうのはツヴァイとかツヴァイとかツヴァイに任せとけばいーの」
「ふむ」
「私達は倒せる奴だけぶっ飛ばす。ね?合理的でしょ?」
「ふむ」

まぁ事実、
あの野獣に勝てるかと聞かれれば、
首は縦には振れない。
だが、
マリナのためとなれば、
そういったいざという時ならば、
どんな敵だろうと相手する覚悟はある。
そして・・・
倒して見せる。

「まぁ行きましょ・・・・ってあれ?」

いざ、
進もうと思った時だった。
視界の先。
なんの変哲もないルアスの風景。

それが、
いきなり霧がかってきた。

「なんだ?」
「そんな天気じゃないと思うけど」

だが、
霧は充満していく。
進もうとした先。
その視界を全て封じ込めてしまうように、
霧が立ち込める。

「違う」
「え?」

イスカの目つきが変わる。

「これは・・・・煙だ」

煙。
煙だ。
間違いない。
進行方向。
街の風景を、
煙が包み込んでいく。
まるで雲が地面にまで落ちてきたように、
路地も家も、
煙が包み込んでいく。

「・・・・・・シュコー・・・・」

何かを通して息の漏れる音が聞こえた。












































パカラッ
パカラッ
と、
聞こえのいい蹄の音を奏で、
ルアスの石畳を蹴る、
一騎。

「今日は調子がいいな。ガルネリウス(E−U)」

彼女の股の下のエルモアは、
首を持ち上げて雄叫びをあげた。

「オレも気持ちがいい。こうも気持ちが昂ぶる事はもうないだろう。
 オレに、この先・・・この戦いの先があろうとなかろうとな」

ルアス市街。
その大通り。
一番の大通りのど真ん中を、
一騎の白きエルモアと、
その上の漆黒の戦乙女が駆け走る。

「こう、何も起伏なき道を、何の邪魔もなく真っ直ぐ走れるのもこれが最後だろう」

今は軽快に駆けている。
ツヴァイ=スペーディア=ハークスと、
そのエルモアが、
何の無駄もなく、
大通りを疾走する。

「ここから先は・・・・立ち塞がるものが必ず居るのだからな」

この戦いの先。
平和はもうこない。
戦いは始まったのだから。
いや、
もう平和なんてすでにないのかもしれない。

「・・・・・・・・居た」

空気を逆走し、
風を逆走し、
全てに逆らうようにひた走る、
エルモアに跨るツヴァイ。

どこまで走ってもコピー&ペーストのように風景の変わらなかった道。
大通り。
ひたすら真っ直ぐのこの道に、

「まるで壁が迫ってくるようだな」

逆側。
遥か向こう。
見えてしまえばそれはもうすぐだ。
壁のように群れる、
エルモアの大群。
死骸騎士の大軍。

大通りを津波が押し寄せるように向かってきている。

「エルモア部隊。ふん。白馬(白バイ)部隊が先鋒か」

白い波が、
大通りの逆から押し寄せる。
砂煙をあげ、
それこそ雄叫びをあげながら。

「数にして・・・・」

ツヴァイはエルモアの上で体勢を低くし、
風を切りながら、
目を細める。

「100。二部隊で200といったところか」

200の騎馬の大群。

「津波と言うよりは土砂崩れか。飲み込まれたらお終いだな」

だが、
200の騎馬に、
たった1騎で向かうツヴァイは、
進行方向を微動だにさせない。

ただの200ではない。
こちらに突進してきている200の騎馬だ。
それは、
殺そうがどうしようが止められない津波。
土砂崩れ。

「200」

もう、
すでに大群が押し寄せてくる音で耳が痛くなるような距離。
砂埃と共に、
大通りを逆走してくる200の騎馬。

「騎馬戦による200VS1・・・・。ふん。算数のできるやつなら、向かったりはせんだろうな」

何せ、
200対1だ。

「子供でも分かる単純な計算だ。圧力。それは戦力をも上回る。
 オレとて落馬しただけで馬の雪崩の中、落命だ。それは向こうも同じだがな。
 だからやはり、200対1の騎馬戦。単純な算数だ。考えるまでもない」

少し考えれば分かる。
この差。
圧倒的な差。
個人の優越などかき消してしまう。
だから考えるまでも無い。
200と1。
この場において・・・・

突っ込む奴など頭がマヌケになってるとしかいいようがない。

「そうだ」

結果など、
単純な算数で出ている。
そう。

「オレに200程度で挑もうとはな!」

ツヴァイは駆けた。
目の前に迫る、
200の大群。
エルモアの群れ。
市街の中心通りを押し寄せる、
死骸騎士の群れ。

「戦乙女だ!!」
「漆黒が向かってくるぞ!!」

もう目の前。
向こうも当然速度を落とさない。
こちらも当然速度を落とさない。

「向かってくる?違うな。漆黒が突き抜けるぞ」

そして・・・・

「袖(そで)擦れ合うも他生の縁というしな。その言葉通り・・・・次の世で会おうか」

ツヴァイは単身、
200の騎馬の群れの中に・・・・・・・突っ込んだ。

鳥が雲に突っ込むかの如く、
それと同時に、

死骸が3体空を舞った。

「のけぇ!!」

超高速のすれ違い。
終わらぬすれ違い。

「カスが!!!」

壁のような大群に飲み込まれたというのに、
ツヴァイは、
ぶつかったりしない。

いや、
その点は自身のエルモアの功績。
世界最高のエルモアと言ってもいい。
手綱は相方に任せる。

時速数十kmでのすれ違いの海の中、
ツヴァイのエルモア、
ガルネリウス(E−U)は向かってくる騎馬を全て避け走る。

「カスが。道をあけろ!」

そして、
その馬上には、
一匹の漆黒。
漆黒の槍を振り回し、
騎馬兵を薙ぎ払い、
落馬させていく。

「落ちてろ」

一薙ぎ。
それで殺す必要はない。
落馬はイコール死を意味する。

ツヴァイに斬り落とされた死骸騎士は、
止まらぬ馬の海へと落下していく。

「臆するな!」
「いつまでもは続かん!」
「少し体勢を崩すだけで我らの勝ち・・・うごぁ!?」

言いながら、
槍で吹き飛ばされた死骸騎士は、
馬雪崩の上をぐるんぐるんと吹っ飛び、
他の騎馬兵2体を巻き込んでぶつかり、
地面に落下して蹄に潰されて終わった。

「くたばれ!」
「ツヴァイ=スペーディア=ハークス!!」

敵も、
歴戦の王国騎士団。
覚悟がある。
避ける動作をせず、
2騎が突っ込んできた。

「どけといっている!邪魔なだけだからカスといっているのだ!」

ツヴァイは、
力の限り槍を薙ぎ払う。
その槍は、
馬ごとその2騎を吹き飛ばす。

「気を緩めるなよ!ガルネリウス!」

エルモアは返事の代わりに鼻を鳴らす。

横に流れる馬の滝を、
逆に登る。
高速ですれ違っていく騎馬隊の中、
唯一、
逆走する漆黒。

もちろん、
数が数だ。
ツヴァイとて止まるわけにもいかない。

目の前に来た敵だけ薙ぎ払って進む。
そのほかの騎馬は、
後方へ流れ過ぎていく。

「フン、」

馬を、
人を、
死骸を薙ぎ払い、
200に1騎、
逆走するツヴァイ。

「オレ一人倒せずに・・・・・その程度か!貴様らの誇りというのは!」

ツヴァイが槍を振るたびに、
高速ですれ違うなか、
死骸騎士が無残に宙を舞う。

ひと時の時間停止を感じた後、
奈落の蹄の海に落ち、
粉々になっていく。

「ちょーしこいてんじゃねぇぞ!!!」

前方。
そちらから、
一際威勢のいい声がした。

「オイが相手だ!オイのソウルを見せてやるっ!!!」

そいつは、
騎馬の群れの中、
一騎。
そいつだけ、

エルモアの上に立って腕を組んでいた。

特攻服にリーゼントヘアーの男。

「オイは、こん39番・白馬(白バイ)部隊が部隊長!!
 愛の男と書いてハートをフルボッコする男!!ラブヲ=クリスティーだ!!
 久方の戦い!ソウルがビンビンするぜ!!いざ!ツヴァイ=スペーディア=ハークス!!」

特攻服にリーゼントの男。
ラブヲは、
エルモアの上に立ったまま、
群れの中、
こちらに向かってくる。
数十キロのすれ違いの中だ。
それはもうすぐに目の前に現れた。

「どぉりゃぁあ!!」

そして、
馬の雪崩の海の中、
ラブヲは、
何の迷いもなく・・・・・跳んだ。

「ハートフルボッコストーリーにしてやんぜ!!!」

リーゼント頭の男が、
馬雪崩の上を、
拳を振り上げながら突っ込んでくる。

「ふん」

ツヴァイは、
手短な死骸騎士を切り払いながら、
そちらに目を向ける。

「気合だけのカスが」

そして、
宙から突っ込んでくるラブヲに向かって、
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐに、
槍を突き出し・・・・・

「ご・・・・・」

ラブヲ=クリスティーを串刺しにした。

「これで一介の部隊長か。笑わせるな」

「へっ」

だが、
ラブヲは、
串刺しにされたまま笑った。

「へほどにも痛くねぇなぁ!!!」

串刺しにされたラブヲは、
ツヴァイの槍に突き刺さったまま。

ツヴァイはそれでも進軍を進める。
手綱は愛馬に任せたまま。

「ソウルがビンビン昂ぶるぜ!!男が我慢だ!きかねぇなぁ!!!」

ラブヲは、
逆に、
槍を掴んだ。
自分の腹部を貫いている槍を、
掴んで固定した。

「む?」

「ハハハッ!!強さとはタフさだ!根性と気合だってんだよぉ!!
 男よ、タフボーイであれ!!これでてめぇの槍は封じたぜ!!どれだけ持つかな?!」

槍は、
ラブヲを貫いたまま。
武器はない。

「・・・・チッ。こびりつくからこそのカスか。その粋は褒めてやる」

すぐさま、
ツヴァイは鞍代わりにしていた盾を左に手にする。
槍は手放すわけにはいかない。

「おめぇらぁ!!どんどんとビンビンと攻撃しろ!!ツヴァイを落馬させてやれ!!!」

槍は手放すわけにはいかない。
ツヴァイは、
すれ違いざまの敵の攻撃を、
避け、
盾で防ぐしかなかった。

「なめるな!オレを誰だと思っている!」

ツヴァイは、
愛馬の腹を一度足で蹴る。

「お?」

同時に、
愛馬ガルネリウスは、
斜めに進軍方向を変えた。

「のけっ!!」

斜めに突っ込むという事は、
敵が横方向からぶつかってくるということ。
この騎馬の群れの中では自殺行為だったが、

「のけと言っている!!!冥土の下まで退去しろっ!!」

ツヴァイは、
盾で、
敵をぶん殴り、
迫る騎馬を吹き飛ばした。

「貴様も落ちろ!!!」

「うぉお?!」

ツヴァイは、
ラブヲを貫いている槍を振り回し始めた。
ラブヲが刺さっていようが関係ない。
そのまま、
ハンマーのように敵を薙ぎ払う。

「ぐ・・・・ぐぅ・・・・・」

そのまま気を失って吹っ飛ばされてしまいそうになるのを、
ラブヲは堪える。

「きくかぁぁ!!オイはタフボーイだ!!我慢に関しては世界一だ!!
 これしきで離してたまるかよぉ!!痛くねぇ!痛くねぇなぁあ!!!!」

離れない。
突き刺さったまま、
むしろ、
ラブヲはツヴァイの槍を放さない。
死しその両腕に力を込め、
ツヴァイの槍を封じ込めようと固定する。

「それも終りだ」

「!?」

気付くと、
斜めの進軍は一瞬のものだった。
振り回された後のラブヲは、
それに気付いた。

「てめ!!まさか!?」

「そのまさかだ」

ツヴァイ。
彼女が馬を真っ直ぐ進める場所。
それは、
先ほどはど真ん中だったが、
場所が変わっただけだ。

ただ、
大通りの端に。
つまり、

「やめろ!!!」

「いやだね」

ツヴァイは、
馬で駆けながら、
槍を。
ラブヲが突き刺さったままの槍を・・・・

横に広げた。

「ごぁ・・・・ごああああああああああ!!!」

それは、
家の壁。
ルアス市街。
その大通りの立ち並ぶ、
石造りの家々。

そこに、
槍に突き刺さったラブヲを、
ぶつけ、

「残りカスも残さん」

擦(こす)りつける。
壁に擦(す)り付ける。

「おぐぅ・・・・ぐ・・・ぐあああああああああああ!!!!」

超速で駆け走る馬。
その馬上で、
壁に押し付けられるラブヲ。
肉片が飛び散る。
擦り切れる。

「ぐぅうう!!!痛くねぇ!!痛くねぇぞぉおおおおお!!!」

だが、
ラブヲの体は、
とうとう変スクが途絶え、
自慢のリーゼントも消え、
みすぼらしい、
死骸の体をあらわにした。

「くそぉお!!ぐそぉおお!!オイがハートフルボッコかよぉおおお!!!」

ガリガリ、
バリバリと音が鳴る。
骨が飛んだ。
足の骨、
腕の骨。
どこの骨とも分からぬ、
彼の体の至る部分の骨が、
壁に削り取られながら、
吹き飛んでいった。

「くそぉおおおお!!痛くねぇええぞコラァァァァアアアアアア!!!!!
 オイは・・・・オイはまだ堪えられる!!堪えられるっ!どこまでも足掻いてみせるっ!!
 そうやって生きてきた!!そうやって死んだぁ!!!それがオイのソウルだ!
 騎士団はっ!そうやって出来てるん・・・・ぐっ・・・・痛くねぇええええええええええええ!!!!」

そこで、
体を形成していた部分が、
全て吹き飛んだ。

馬雪崩の中に、
全身を形成していた骨が、
粉々に、
散っていった。

「ふん」

ツヴァイは軽くなった槍を振り、
近場の敵を吹き飛ばした。

「む」

そう思うと、
突如、
視界が広がった。

「群れを越えたか」

エルモアの蹄の耳鳴りが止む。
後ろを振り返ると、
それでも止まる事のないエルモア騎馬隊が走り去っていく後姿だった。

「もう少し被害を与えてやるつもりだったが」

それでもまぁ、
Uターンして追いかけても、
追いつける騎馬隊でもない。

「部隊長を始末しただけでもヨシとしておくか」

200の騎馬隊の群れに突っ込み、
部隊長を仕留めて抜け出た。

それでヨシでないなら、
何で満足がいくというのだ。

「なんにしろ、あれだけ被害を与えて部隊長まで倒してやったというのに、
 それでも進軍の規律が崩れないか。さすがは騎士団の1部隊だと言っておこうか」

そして、
ツヴァイはエルモアで、
たった一騎で駆け抜ける。
大通りを。

「そしてもう1部隊か」

そう。
エルモア騎馬隊を抜け出て、
さらに前方に目をやると、

さらに群れ。

今度は、
先ほどより遅い。
デミの大群。
重量級騎馬隊。

「デミの分、後続になっていたか。だが同じ事だ」

速度はやはり緩めない。
眼前に向かってくる、
デミによる重量級騎馬隊。

第38番・湾岸警備部隊。

「向こうも向こうで・・・・・退く気無し、か」

退く気ないなど、
それは当然。
それだけではない。
あの重量級騎馬隊。

あのデミの騎馬軍。
進行方向をわずかながらを変えるつもりがない。
一騎一騎全てがだ。

「デミの破壊力。ひねり潰そうという魂胆か」

さながらイノシシの大群だ。

「オレの槍でも、ガルネリウスでも、アレらを弾き飛ばすのは難しいな」

つまり、
このままぶつかったらオジャンだ。
奴らはその重量を活かし、
真っ直ぐぶつかってくるつもりだ。

エルモア騎馬隊の時のように、
間を縫って走ることも、
切り捨てて走ることも困難。
いや、
不可能。

まさに壁が走ってきているようなものなのだ。

「俺達は白バイの奴らのようにはいかねぇぜ!!」
「どうやったって無駄だ!」
「俺達はどかねぇ!」
「駄目もとでぶつかってきてみな!」
「そのままミンチにしてやるぜ!!」

どうする。
あれに真っ向からぶつかるのは自殺行為。
ツヴァイとて、
不可能。

「自分達の特性を活かし、臆せず向かってくるその行為。敬意に値する。だが」

ツヴァイは、
それでも真っ直ぐ、
デミの大群へと突っ込んでいく。

「残念だったな。オレは退かない」

その瞬間、

「おい・・・・」
「有りえねぇ・・・・・」

騎馬隊の者達は、
その光景に、
一瞬時が止まったような感覚を得た。

「馬が・・・・」
「飛んでやがる・・・・」

「カスどもが」

ツヴァイは、
エルモアと共に、
跳躍した。
大きく、
大きく。

白馬は飛んだ。
まるでペガサスの如く。
天を駆ける。
そして。

「ぐぁあああ!!!」

大群の"上に"着地した。

「ふん。しっかりした土台だな。使えるだけカスよりマシだ。カス共が」

エルモアで、
デミの上に落下し、
そのまま蹄で死骸騎士を踏み潰す。
そしてまた跳躍。

「ふ、」
「ふざけんな!!」
「あいつ・・・・」
「騎馬隊の上を走ってやがる!!!」

「のけ。カスども。踏み潰されるのが似合ってるぞ」

エルモアが、
また騎馬の上に着地し、
騎馬兵を踏み潰し、
また跳躍する。

「なんなんだよあのエルモアはよぉ!」
「ざけんな!!!」

ガルネリウスは、
的確に馬上に着地し、
蹄で敵を蹂躙していく。
同時に、
漆黒の槍も振り払われる。

デミは無視。
馬上のみでの殺戮。

屈強な、
重量級のデミ騎馬は、
確固たる足場でしかなかった。

「面白いな。的だけが地面に生えているようじゃないか」

面白い?
不可解でしかない。
走る騎馬の上を、
騎馬で横断するなど、
有りえない。

不可能の産物。
だが、
一匹の漆黒と、
一匹の純白は、
自由自在に駆けている。
翔けている。

「どいてろ。カスどもが」

槍が振り回される。
飛び跳ねる馬。
信じられない光景の中、
現実として、
騎馬兵が薙ぎ倒されていた。

「ふん。お前らじゃ実力不足だ」

横薙ぎするだけで、
どうしようもない騎馬兵達が3・4人と、
巻き込んで吹っ飛び、
馬の群れに落ちていく。

「ギルヴァングなら、真正面からこの騎馬をひっくり返したかもな」

デミの騎馬隊を、
単騎でひっくり返すなんて有りえない話を、
デミの騎馬隊の上を、
縦横無尽に騎馬で駆け巡るなどという有りえない事をしながら言った。

「ロウマならどうかな」

騎馬の上を飛び跳ね、
槍で敵を薙ぎ払い、
エルモアの蹄でグシャりと潰し、
ツヴァイは"動く地面"の上を逆走する。

「・・・・・兄上なら・・・・・」

そんな事を考えていると、
何かを感じ、
危険を感じ、
ツヴァイは咄嗟にエルモアごと翻(ひるがえ)した。

「チッ、よけたか!!!!」

何かが、
墜落してきた。
それはデミの群れの上に落下した。

「なんだ?」

デミの大群の上を翔け走りながら、
ツヴァイは後方へと遠のいていくその落下地点に目をやった。
だが、
そこには誰も居なかった。

「こっちじゃい!!」

全く違う方向から声。
どこだ。

ツヴァイが視線をやった先は・・・・

「まぁ不意打ちで終わるなんてつまらんけぇのぉ!!」

そいつは、
屋根の上に居た。
大通りの横をひた並ぶ、
その家々の屋根の上。
そこを、

唯一、
ツヴァイと同じ方向に翔け走る、
デミに跨った男。

「ワシぁ第38番・湾岸警備部隊の部隊長!ギア=ライダーじゃ!」

そう、
フルフェイスヘルメットのようなアメットをかぶった男が言った。

「あんたぁ!いい男じゃのぉ!!!」

そう言いながら、
ギアは、
家の屋根から飛び込んできた。

「いや!女じゃったかのぉ!すまんかったなぁ!!」

斜めに飛び込んでくる。
デミが、
デミという超重量の騎馬が、
家の屋根から斜めに飛んでくる。
まるでミサイルのように。

「ちぃ」

ツヴァイはそれをまた避ける。
エルモアに無理を言い、
その不安定なデミの上の足場で急転換させる。

「だぁ!またはずったか!!」

そのまま、
デミの大群の地面に直下するかと思いきや、
ギア=ライダーは、
すんでのところでデミを卵に戻し、
自らだけが着地した。

「あんたぁ!こんなすげぇオフロードを乗りこなすたぁ!見上げたもんじゃけぇ!」

そう言いながらも、
ギア=ライダーは、
自らも、
その体でデミ騎馬隊の上に着地し、
華麗な身のこなしで飛び跳ねる。

そしてあっと言う間にまた、
屋根の上まで戻り、
卵からデミを出現させてまたがった。

「まぁワシのデミじゃぁさすがにそんなオフロードの上をピョンピョンはできんけぇのぉ!
 デミじゃなくても無理か!そんなことできるのはあんたぁぐらいのもんじゃけぇ!!」

「ふん。敵を褒めるか」

ツヴァイは、
デミの上を、
エルモアで踏み潰し駆けながら、
その、
屋根の上を走るフルフェイスアメットの男を見る。

「事実じゃけぇのぉ!ワシにゃぁそこまでのドライビングテクはないけぇ!
 じゃがぁ!ワシにはこのデミがおる!オフロードを蹂躙する愛車がのぉ!!!」

そしてまた、
屋根の上から、
デミごと突っ込んできた。

「喰らえ!!!」

「・・・・・くっ」

少し考えたが、
避けるしかない。

「いつまで避けれるかのぉ!そこが勝負じゃけぇ!!」

また、
ギア=ライダーは、
着地の瞬間にデミを卵に戻す。
そして自らは、
また華麗にデミの大群の上を跳ね回り、
また屋根の上に戻る。

「どや!ワシのドライビングテクも結構なもんじゃろぉ!
 ロクサス(6速)全開!今日も峠を爆走じゃけぇ!!!」

・・・・。
実際問題、
あのデミでの突撃はやっかいなものだ。
それもそのはず。
今、
ツヴァイがこのデミ騎馬隊の上を駆け走っているのは、
デミ自体の重量級の圧力には、
真正面から向かい合えないからだ。

そのデミが、
ミサイルのように飛んでくる。

防ぐことなど出来ない。
切り落とすことも出来ないだろう。

「・・・・・・」

いや、
全力でいけば、
そこはツヴァイ。
一騎程度のデミ、
受け止めてみせよう。

だが、
この不安定な大群の上だ。
あまりにも無茶なことをしているのだ。

その上でそんな事をしたら、
ギア=ライダーを倒せる倒せないを別問題にしても、
そのままデミの大群の藻屑に消えてしまうだろう。

「これがオフロードの力じゃ。世界はどこもオフロードじゃけぇ。
 険しき道を進んでこそ未来がある。舗装された道には安定しかありゃせんからのぉ!!」

険しき・・・道・・・か。

「オフロードを蹂躙できるのは爆走のみじゃ!爆走のドライブ!それだけじゃ!
 それが出来るものだけが!荒れたオフロードを制するんじゃけぇ!」

フルフェイスのアメットの男が、
また、
屋根の上からデミに跨って突っ込んできた。

「オフロードを蹂躙する!それだけが道を切り開く方法じゃけぇのぉ!!!!」

突っ込んでくる。
的確だ。
敵を切り倒しながら、
騎馬の上を跳ね回るツヴァイのその先をも見据えている。
的確にツヴァイを狙って突っ込んできている。

切り落とせない。
受け止めれない。

どうする。

「オフロード(険しき道)・・・・か」

ツヴァイは笑った。

「自分の進んだ道がそうであることなど分かっている!!」

そう言いながら、
ツヴァイは・・・・
跳んだ。

「!?」

騎馬と、
騎馬兵一騎を蹄で踏み潰しながら、
さらに跳躍した。

「なら・・・・」

それは、
向かってくるギア=ライダーの、
さらに上。

「乗り越えてやろうじゃないか」

避ける方向は、
上。
向かう方向は、
上。

天馬に跨り、
見下ろせば、

デミに跨るギア=ライダーが、
丸見えだった。

「兄上への反抗だ。これ以上の険しき道はないさ」

「・・・・・・やるやないけぇ・・・・・」

そしてそのまま、
空中で、
ギア=ライダーを薙ぎ払った。

「ぐ・・・・・」

おかしな表現だが、
ギア=ライダーは、
空中でデミから落馬した。
そしてそのまま、
きりもみ状態に吹き飛び、
落下した。

「ぐ・・・う・・・・」

ギア=ライダーが落下した先は、
調度、
デミの大群が通り過ぎた後の、

広い、
大通りだった。

「・・・・オフロードを・・・・乗りこなし損なったか・・・・」

ツヴァイの攻撃もしかり、
地面に落ちた衝撃も相当のものだったのだろう。

地面に横たわっているのは、
骨の砕けた、
フルフェイスアメットをかぶった骸骨だった。

「えぇのぉ。褒めてやるけぇ・・・」

すでに、
空中落馬の衝撃で、
ギア=ライダーの体は、
方々に散っていた。

「じゃが・・・ここから先・・・さらに険しいけぇのぉ・・・・」

ツヴァイも降り立つ。
全ての騎馬の通り過ぎた大通りに、
一騎の純白のエルモアに跨った、
漆黒の戦乙女が降り立つ。

「なぁ、"二番目の女"・・・・」

体を成していないその状態で、
ギア=ライダーは、
砕けた体のまま、
言う。

「あんたの選んだ道は・・・・とびっきりのオフロードじゃけぇ・・・・
 ・・・・いや・・・・あんたぁの兄貴・・・騎士団長への反乱・・・・
 険しき峠どころじゃないけぇ・・・・それはもう・・・・・・・道無き崖じゃぁ・・・・・」

「分かっている」

「道無き崖と分かってて・・・・飛び込むか・・・・」

「あぁ」

「見事じゃ・・・・」

ギア=ライダーの方々に散った骨が、
粉になっていく。

「そのまま・・・・崖に堕ちるまで・・・・オフロードを蹂躙してくれ・・・・や・・・・・」

そして、
フルフェイスアメットがコロンと転がり、
首と繋がっていない頭蓋骨が露になったと思うと、
それも粉になり、
消えた。

「・・・・・・」

エルモアに跨り、
ツヴァイは少し歩む。

「道無き行き止まりか・・・・・」

そして止まる。

「それでも、オレは行くしかない。・・・・・初めて選べた・・・・自分の道なのだから・・・・」

そして、
エルモアの蹄で、
そのアメットを踏み潰し、
ツヴァイは、
その先・・・・・

まだ少し先に見える、
遥かなるルアス城を見上げた。








































「やれやれ」

その遥か後方。
ツヴァイより、
ずっと遅れて大通りの真ん中。

「後処理とかそういうのが・・・ボクには似合ってるのかねぇ」

苦笑いと共に、
縛った後ろ髪を、
エクスポは整えた。

「絶景だね。うんざりする。これもまた芸術の一端かとも思うね」

大通りの真ん中。
その先に見えるのは・・・・・

砂煙をあげる、
騎馬隊。
大群。

ツヴァイと行き違った、
それでもなお走る、
誇り高き騎馬隊。

「ツヴァイはあれに突っ込んで無事なんだろうなぁ。信じられないね。
 だけどそれほどの摩訶なる超人力も、そこまでいけばただ美しいね」

幾多の騎馬隊が、
砂煙をあげて、
雪崩のように向かってくる中、
エクスポは、
堂々と大通りの真ん中に立っていた。

「美しいな。あの勢い。圧力。あれが騎馬隊か。何者にも止められないその勢い。
 うん。素晴らしい。どんな者だって、あれに突っ込まれたらどうしようもないよ」

すでにその言葉にツヴァイは例外にしていたが、
それにしても、
エクスポは、
そのどうしようもない勢いの騎馬隊が向かってくるその大通りの真ん中で、
余裕の笑みを浮かべていた。

「まぁ、その勢いが命取りになるんだけどね」

そう言いながら、
エクスポは、
手に持つ懐中時計を見た。
チチチチチチ・・・・と、
規則正しく、
秒針が動く。

「じゃぁ」

エクスポは、
その懐中時計をしまった。

「芸術は爆発だ」

その言葉と共に、
大通り、
その一角が、

弾け跳んだ。

「うわああああ!!」
「ぐあっ!?」

爆発。
それは大通りの真ん中で起こった。
それは、
騎馬隊の最前列。

大通りを全て封鎖するように、
大爆発が起こった。

「連鎖。それも芸術かな」

騎馬隊の最前列。
その最先鋒が、
爆発で吹き飛び、
そして、
それこそ雪崩のように、
地面に転がった。

「うん。芸術だ」

そして、
あとは、
エクスポが何かするまでもない。

止まる事のない騎馬隊は、
止める事もない。
それは、
敵にとってもであり、
そして、
騎馬隊自身にとってもだ。

先頭が落馬し、
転がったせいで、
後続がそこに突っ込み、
どんどんと崩れていく。

「美しい・・・・」

まるでドミノ倒しだ。
あまりにも勢いに乗った騎馬隊は、
何もしなくてもそのまま崩れ転がった先頭にぶつかり、
落馬して転がっていく。
その後ろもさらにだ。

「ま、力だけが戦いじゃないよね。こう戦術がハマると気持ちのいいもんだ。
 アレックス君が戦術に重きをおくのも分かるよ。まぁ彼の場合はただの工夫だろうけどね。
 ズルする小賢しさってものだろう。だけど弱者にもやりようがあるってことだよね」

敵が崩れていく。
ただ、
先頭を崩しただけなのに。

「香車の使い方が勝負を分けるというけども、香車しかいなければ対処は簡単さ。
 同じ花だけ咲く花畑はとてもとても美しいけど・・・・・・それは一斉に枯れてしまうのさ」

さらにいえば、
エクスポの起こした爆発で、
大通りの地面が使い物にならないほど砕けた。
だが敵は止まれない。
止まれずに、
その自慢の勢いでそこに突っ込んでいき、
勝手に崩れていく。

エクスポの戦術は、
完璧にハマったと言っていい。

「うーん。美しい。こんなにもボクの美しい活躍が決まったというのに、
 誰一人として褒めてくれる仲間が近くにいないなんて。哀しいものだね。
 だけどこれで騎馬隊自体壊滅といっていいだろう。少なくとも無効化さ」

たった一人で、
騎馬隊を無効化した。
大通りを封鎖した。

まぁこちらも大通りから攻めれなくなったわけだが、
迂回すれば同じ事。
現在ツヴァイがいる辺りまでいけば、
また大通りも使えるのだから。

「うん。このボクの素晴らしい活躍を情報屋が流してくれるはずだ。
 こういう時にボクを見直してくれないと、皆ボクを軽視しがちだしね。
 ま、それでよしとしよう。きっと情報屋のお陰でボクの株は急上昇さっ」

進軍経路を爆発で封鎖することで、
事実上騎馬隊を壊滅させた。

「さて、どうしようかな」

もうすることはない。
勝手に転んでくれるのを待つだけ。
どうやら指令を出す部隊長もいないようだ。
ツヴァイが倒したのだろう。

「誰かと合流しようかな?アレックス君かドジャーか、マリナかイスカか。
 あぁイスカは駄目だね。WISオーブの使い方理解してないし。
 ボクより彼女のほうが問題だね。誰かと一緒にいればいいけど。
 とりあえず連絡入れてみようか・・・・・いやいやだめだ」

独り言を、
市街地の真ん中で呟くエクスポ。

「なんて言うんだ。"はぐれちゃったから仲間に入れてくれ"って誰かにWISするのかな?
 そんなのさすがに恥ずかしいなぁ。事実だとはいえ美しくない。うわっ!?」

近くで、
家が吹き飛んだ音がした。
ギルヴァングだ。

「・・・・ヤバいね・・・・結構近い。ボヤボヤしてられない」

さすがに相手出来る気がしない。

「でもツヴァイが先に行っちゃった以上、誰が相手するのかな。
 エドガイ辺りかな?彼は今どこでどう行動してるやら聞いてないし。
 ま、ボクがどうこう出来る問題じゃないからさっさと忘れて・・・・」

エクスポはキョロキョロと辺りを見渡す。
そして斜め上。
遥か向こうに聳える、
ルアス城を見上げる。

「どこをどう進もうとあんな目印があるんだから絶対合流はできるか。
 ならまぁ気ままに進もうかな。ただ出遅れちゃったのにこのまま進むのも味気ないなぁ」

ゴタゴタ言わずにさっさと進めと言いたくなるが、
いちいちツッコミを入れる者さえ近場にいないため、
あまりにもエクスポはマイペースだった。

「ちょっと広い道を使おうかな。ボクの爆弾はその方が・・・・・ん?」

そう思い、
大通りから離脱し、
どこか別の道を探そうと思っていた時だった。

「なんだ?」

カタカタ・・・と、
地面が揺れている。
地震?
違うか。
揺れているのは地面じゃない。

「あのマンホールか」

大通りの端。
その一端。
そのマンホールの蓋がカタカタと揺れていて、
そして、

軽く開いた。

「道をお探しかい?」

マンホールを開き、
その隙間から顔を出した者は、
突然そんな事を聞いてきた。

「おやおや。そんなところからご来客なんて。まさか地獄よりの使者かい?」

「そんなところだよ」

マンホールの蓋を片手で支えながら、
顔だけ出して、
そいつは言った。

「で、どうよ」

「道というのは、そのマンホールの事かい?」

「その通り」

マンホールよりの使者は、
そう言って笑った。
そして説明を始める。

「ルアスの街に流れている川は見たことあるかい?あるよね。
 あれは地面より下を流れてるよね。覚えてる?見たことくらいあるでしょう?」

「うん。そうだね。それが?」

「単純に下水を兼ねているのさ。ルアスの下には下水道があるんだ」

「へぇ。初耳だ」

エクスポは、
アゴに手を当て、
そのマンホールの隙間から顔を出す者を見る。

「それで君は、その下水なんて臭そうで美しくなさそうな道をボクに薦めるわけかい?」

「その通り」

「メリットは?」

「敵の下を隠れて進める。これ以上のメリットがあるかい?」

「まぁその通りだけども」

感心しながら、
エクスポは聞く。

「うん。確かにいい案だ。敵も盲点だろう。だけど逆に質問だ」

「いいよ」

「その下水道とやらはどこまで続いているんだい」

その問いを、
待っていたと言わんばかりに、
マンホールの下の者は笑った。

「フフッ。あんたは城の者が"毎日バケツで生活水を運んでいる"とでも?」

「なるほど」

エクスポも、
つられて笑った。

「井戸だけで城全体をまかなえるわけないからね。下水は城まで経由してるわけか」

「それでも中は迷路。それでいて通行止めのオンパレードだよ。
 騎士団だって馬鹿じゃない。さすがに進軍が可能な出来にはなってないよ」

「でも単独潜入なら、出来ない事もない」

「普通ならそれも出来ないけどね。地図さえないルアス地下水道。
 迷路が得意な者でも1/10も進まず終りさ」

「それを薦める君には自信があるって感じだね」

「当然」

マンホールを帽子のようにして、
地下から顔を出して話しかけてくる、
得体の知れない者は、
自信に溢れた笑みで語る。

「なんたって、私は城から来たんだからね」

「ほぉ。どういう理由で?」

「生まれてこの方囚人生活さ。そのたびに脱獄してきた。今回で16回目。
 そう、つまり私は世界最強の牢・・・・ルアス城の牢から抜け出てきたんだ」

「それは頼もしい。乗った」

エクスポは手を銃に見立ててウインクした。

「乗るよ。得体はしれないけど真実味はある。下水からの潜入。
 君の協力をありがたく頂戴しようと思う。よろしく。それで、君の名前は?」

マンホールから顔を出している女は、
やはり笑って答えた。

「名はないよ。牢獄が家で牢獄で育った。それだけの女だ」

マンホールの蓋をずらし、
開いて見せる。
そしてエクスポ手招きする。

「だから私の事は、『箱入り娘(スウィートボックス)』とでも呼んでくれ。さぁ、来な。
 私とて生まれて初めてだよ。脱獄を繰り返してきた人生で、豚箱に戻ろうなんていうのはね」







                 






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