「・・・・・姉御」

「分かってる」


ルアス市街地。
家という家が、
森のように立ち並ぶこの場所で、

ツバメは息を潜めていた。

「姉御」
「いつまでも路地裏に隠れてるなぁキチぃですぜ」
「相手が相手ならこっちもこっちだ」
「隠れるには俺達ぁ多すぎる」

「分かってる」

物陰・・・
と言ってもいいだろうか。
路地裏。
ルアス市街地の一角。
その路地裏を、

黒スーツのヤクザ達が身を潜めていた。

いや、
数だけを見るなら占拠していたというべきか。

「だけどねぇ」

ポリバケツを隠れ蓑に、
ツバメ=シシドウは路地裏から市街地を覗き込む。

「・・・・・」

ゾロゾロ。
ゾロゾロ。
市街の中に、
死骸死骸。
死骸騎士が行きかっていた。
数にしたら、
すでにこの時点で負けているかもしれない。

「騎馬隊ですな」
「有名な白馬(白バイ)部隊だ姉御」

「白バイ・・・・」

そう。
路地裏から見える景色。
この《昇竜会》が潜むこの場所の外。

そこを徘徊する・・・・エルモア。
エルモアにのった死骸騎士達。

モンスターキャッスルがブレインナイト。

「見開いた場所で戦うと不利だろうねぇ」

ふぅ、
と、
ツバメは物陰に体を隠しなおし、
息を整える。

先ほどまでは進軍中だった。
だが、
あの白馬部隊にぶつかった。

通り。
広き道。

「戦場という見開いた場所に置いて、一番真正面からぶつかっちゃいけないのが・・・・"騎馬隊だよ"」

これでもギルド、
そしてそれを含めた攻城戦をこなしてきている。

「強さとかない。騎馬隊の最強の武器それは・・・・・"勢い"」

何があろうとも、
吹き飛ばすほどの勢い。
飛びぬけた人間が一人二人いたところで関係ない。
騎馬の勢いの前には掻き消える。
踏み潰される。

「姉御ぉ」
「そりゃぁさっきぶつかった時も体感しやしたが」
「隠れてるってぇのも極道としちゃぁみっともねぇってもんで」

「火」

「あ、はい」

近場のヤクザが、
ツバメの口に挟まるタバコにライターを近づけ、
点火する。

「分かってる。分かってるさ」

タバコの煙を吐き出し、
路地裏にて状況を見据えながら、
ツバメは落ち着く。

「だけどねぇ。戦争は殺し合いだ。殺し合いだが、この戦争には"ゴール"があるんだよ」

そう。
ゴール。

「闇雲に突破。結果オーライ。それじゃぁ駄目なんだ。
 ただでも戦力で不利。うちらはね、出来るだけ被害なく、内門まで辿り付かなきゃいけない」

殺し合い。

「殺し合いの目的は、殺しあう事じゃない。生き延びる事だ」

シシドウの言葉とも思えない。
だが、
それが逆にツバメらしかった。

「じゃぁ・・・」
「どうするんですかい?ツバメの姉貴」

「シッ」

ツバメは、
唇に人差し指を当て、
そして息を潜める。

付けたばかりのタバコを地面に押し付け、
無に近づく。

「・・・・・・なんだあいつ」

路地裏から見えた・・・。
その男。


「んー。気配するねぇ。ビンビンする。オイの心もビンビンすっぜ」


路地裏から見える、
通りの景色。
白馬に跨る幾多の死骸騎士達。
だが、
一際目立つ、
その男。

「ま、ここら辺り一帯に隠れてるな。さすがに隠れるにゃぁ多すぎるだろうよ。
 バレバレ。だけどこっちもウカツにゃぁ手を出せないわな。
 オイら騎馬隊ってぇのは狭いところに行くわけにゃぁいかねぇーからよ」

路地裏の、
建物と建物の狭い隙間から見える、
あの男。

「すげぇナリですぜ。あいつ」
「なんなんだあの男」

「・・・・・・」

周りの奴らが変に思うのも不思議じゃない。
実際、
ツバメも苦笑いをした。

おそらく、
あいつが部隊長だろう。
一際存在が違う。
だが・・・
あのナリ。

「んー。子猫ちゃん達ぃ。早く出ておいでぇ。我慢比べはオイの性に合わねぇんだよ。
 っつってもオイら騎馬隊は路地裏にゃぁいけねぇからな。出てきてもらうしかねぇ。
 隠れて包囲してんのはあんたらだが、状況としてはこっちなんじゃねぇーの?」

目立つ。
目立つ。
目立ちすぎる。

なんだあの男。

っていうか。
なんだあの頭。

「・・・・・あの脳みそ弾け飛んだような髪型はなんだい」

「姉御」
「ありゃぁソウルの塊」
「リーゼントですぜ」

リーゼント。
あぁ。
あれがそうなのか。
始めてみる。

「金槌みたいな髪型だねぇ・・・・」

笑いを通り越して、
呆れて声も出ない。
なんだあの出っ張った髪型は。
生活するのに邪魔じゃないのか?
まさか、
武器になるとか?

「いや、姉御」
「アレはただの魂です」
「だけどあいつのリーゼントすげぇ」
「30cmくらい出っ張ってる」

周りの男ヤクザ達は、
むしろ関心していた。
分からん。
自分が女だからなのか?
男はあーいうのにロマンを感じるのか?


「そこだな」

背筋が凍った。
おもしろリーゼントに目を奪われていた時、
その横顔が、
その目が、
こちらを向いた。

「ここいらの物陰は四方八方ヤクザだらけだが、オイにゃぁ分かる。あそこだ。
 あそこに頭がいるぜ。ビンビン感じる。野郎共。肝冷やしとけよ」

確実。
出任せじゃない。
あいつ、
こちらの、
いや、
ツバメの位置を掴んでいる。

その証拠に、
そのリーゼントの部隊長はこちらを向いた。

「あーい敵さん。注目」

両手の親指を自分に向けながら、
リーゼントの先がこっちを向いた。

エルモアからは降りているが、
間違いなく部隊長だろう。
一人だけ髪型・・・
いや、
格好も違う。

地面につきそうなほど長い上着。
真っ白で、
よく分からん漢字が並んでいる。
特攻服という奴だろうか。

そのリーゼントの男は、
こちらを向いて話し始める。

「そこに隠れている敵さん。夜露死苦ぅ。
 オイが王国騎士団が39番・白馬(白バイ)部隊が部隊長。
 愛の男と書いてぇ〜・・・・・・」

右腕を突き出し、
親指を立てた。

「ラブヲ=クリスティーだ。あぁ、夜露死苦ぅ」

その特攻服リーゼントは、
親指を立てたまま、
そう言って静止した。

「・・・・・」
「ラ・・・」
「ラブヲ・・・・」
「凄い名前ですぜ・・・・」

やばい。
部下がうろたえている。
あの男の存在に。
あまりに不可解すぎて。

「落ち着きな。ただの馬鹿だよ」

うん。
間違ってないはずだ。
記念すべき、
最初の敵で、
しかも別にあいつが何かドジをおかしたわけじゃないが、
間違いなく馬鹿の部類だろう。
間違いない。

「でぇ〜?いつまで隠れてるつもりだ子猫ちゃん達ぃ」

安い挑発をしてくる。

だが、
事実、
いつまでも隠れているわけにもいかなかった。
自分たちは進まなければいけない。
未来のために。
まずは内門まで。
そのためには、
あの騎馬隊。

変てこ特攻服リーゼントの、
ラブヲ=クリスティー率いる白馬部隊は邪魔なのだから。

「・・・・・・」

ツバメは、
決心した。

「あんたら。裏から逃げな。うちがオトリになる」

「な!?」
「姉御ぉ!?」

「うろたえるんじゃないよ。極道だろう?
 これが最善だ。全員が生き残り、道を作るにはね。
 恐らくどう足掻いてもあいつら騎馬隊にうちらは勝てない。
 なら可能性のある道を選ぶんだよ。だからうちが一人で出る」

そう。
それが最善。

「もちろん、うちも死ぬ気はない」

そう言い残し、
ツバメは一人立って、
路地裏から歩み出た。

「おーぅ?おうおう。アマちゃんじゃないか」

「アマ?ふん。うちが逆にそう呼ばれる日が来るとはねぇ」

ツバメはたった一人、
見晴らしのいい通りに出た。

「・・・・・」

少し汗が出た。
路地裏から出てみれば、
騎馬。
騎馬騎馬騎馬騎馬。

こんなにも居たのか。
もうこの時点で逃げ場もないほどに、
真っ白なエルモアに跨るブレインナイト達が、
こちらを見据えていた。

「・・・・・しょっぱなからこれかい・・・・生きて帰れるか自信なくなってきたねぇ」

53のうちの、
たった1部隊だ。
なのに・・・・。

騎士団というのはこんなにも強大な存在だったか。

・・・・。
まぁいい。
覚悟は出来てる。

「お望みどおり、出てきてやったよ」

「それはスンバラシィーぜ。まさか一人で出てくるとは思わなかったな。
 ん〜〜。捨て駒じゃないな。分かるぜ。ソウルを感じる。ビンビンにな」

「・・・・・」

ふざけた性格だが、
こいつ。
このラブヲという男。
一瞬の油断もない。
覇気の切れ目がない。
これが、
王国騎士団部隊長。

「・・・・うちが《昇竜会》が頭、ツバメだ」

「夜露死苦ぅ」

ラブヲは、
リーゼントをミサイルのように天に翳すかのように、
アゴを上げて返事を返す。

「オイが。ラブヲだ。あんたが最後に出会うソウルの塊だ」

「・・・・・へへっ。そりゃぁうんざりだね。愛男なんてぇふざけた名前が最後に聞く名なんてね」

「愛の男とぉ〜書いてぇ〜〜・・・・ラブヲ」

ビッ、
と、
リーゼント特攻服は、
両手の親指を突き出した。
決まった!とか思ってそうだ。

「・・・ん〜。だがぁ、愛。愛。その響きはオイは大好きなんだが、
 ソウルハートを持つこのオイが名前だけで愛に生きる男だとは思わないで欲しい」

「全然思ってないよ」

「だろぉ?そうだろぉ?いいねぇ。ソウルがビンビンと感じてくるぜ」

特攻服のリーゼントは、
そう両手を広げる。
その動作で、
やはり、
ツバメは辺りへの警戒を怠れない。

周り。
見るからに、
騎馬だらけ。
たった一人。
自分の除いて、
全て敵。
囲まれている。

自ら出向いた死地。

「オイはだなぁ、ツバメさん」

ラブヲが話を続ける。

「戦争が仕事なわけだ。戦争というフルボッコの世界に生きるソウルなわけだよぉ」

「・・・・分かる言葉で言ってくれ」

「そう。普段の業務から、戦争に至るまで、フルボッコ生活のフルボッコライフなわけだ」

・・・・。
だからなんだ。
フルボッコって。
響きでなんとなく分かるけども。

「そう。この世はフルボッコ。戦場の世界に愛なぁーんてもんはねぇ。
 あるとしたら、愛の名を持つ、このラブヲ=クリスティー様だけだろぉねぇ」

そう言い、
どこからかクシを取り出し、
ラブヲは、
自慢(に違いない。どちらにしても馬鹿だが、自慢じゃなければさらに馬鹿だ)のリーゼントに、
そのクシを通す。

正直、
リーゼントにクシを通しただけだが、
あの髪型からミサイルでも飛んで来るんじゃないかとドキっとした。

「そう」

リーゼントを整え終え、
ラブヲはまたクシをしまう。

「ラブ。愛。心。ハート。戦場にハートフルなんてねぇ」

そして、
また誇らしげにビシッと親指を突き出す。

「この世はハートフルボッコだ!!それがオイのビンビンソウル!!!!」

「・・・・・」

とりあえず話を聞いたが、
とりあえず、
何も伝わらなかった。

「ハートフルボッコドラマ!!!」

もう一度言ってくれたが、
何度言われようとも伝わらない。
伝わってはいけない気がする。

「夜露死苦ぅ」

絶対によろしくしない。

「部隊長」
「そろそろ」
「ん?そうだな」

周りの、
騎馬に跨った死骸騎士達が、
ラブヲに声をかける。
ラブヲはニタニタ笑う。

「で、敵さんよぉ。こちらから時間稼ぎに付き合ってやったわけだが・・・・」

「・・・・・バレバレなのね」

さすがに、
敵の頭の一人であるツバメを包囲しておいて、
そこまでのん気なほど馬鹿ではないか。

「わざわざうちの時間稼ぎに付き合ってくれた理由は?」

「一つは余裕。オイ達の実力の差の問題だ」

ツゥー・・・と、
指先でリーゼントをなぞる。

「一つはマイソウル。戦うからには少し楽しみがあったほうがいい」

小さく、
親指を立て、
ニッと笑う。

「そして」

その親指を人差し指に変え、
突き出してくる。

「オイは誇り高き王国騎士団だ。オイらの任務はあくまで守る事。
 殺す事や、大虐殺、殲滅を目的としてるんじゃぁーねぇーんだよ。
 あんたらが退却という選択肢を選んでいるならば、追う事はない」

「はん。敵に対して甘いもんだねぇ」

「そこは唯一のハートフルだ。何故ならお前らは敵であって敵でない」

「あん?どういうことだい」

「オイ達は王国騎士団。マイソシアの秩序を守る役目を背負った者。
 あんたらだって・・・マイソシアの一員だろ。無意味にファミリーに手はかけねぇ」

それが、
オイのソウルだ。

「だが来るなら容赦しねぇ。ハートフルボッコにしてやんよ」

「・・・・・」

なんにしろ、
向かってくれば容赦はしないか。
・・・。
来るか。

勝てるか?

・・・・。
勝てないだろうな。
この男一人でもキワドイが、
それ以上に・・・

「・・・・・・」

周りは騎馬隊の群だ。
ツバメ一人、
包囲されているこの状況。
・・・・。
覚悟。
覚悟か。

「姉御!!」
「ツバメの姉貴!!」
「大丈夫か!?」

背後から、
路地裏から、
逃げたはずのヤクザ。
黒スーツの男が3人、
飛び出してきた。

「!?・・・お前ら何出てきてんだい!?」

ツバメの叱咤を無視し、
ヤクザが3人、
ツバメの前に立ちはだかり、
構える。

「・・・・・親ぁ・・・一人残すなんてぇできやせんよ」
「ちょいと加勢という名のやられ役(時間稼ぎ)にきやした」
「それに・・・・"もう少しかかるでしょ?"」

「・・・・・やれやれ」

確固なる筋を持った部下をもったもんだ。
頑固で融通がきかない。
リュウの親っさんが育てた子達。
まったく。
嫌いじゃない。

「部隊長」
「俺達が」

「いや、いい。オイ一人で十分だ」

特攻服リーゼント。
ラブヲは、
一人前に出る。
ニタニタ笑う。

そして突然、
全身に力を込める。

「闘気発顕!!!!ビンビンに震えろマイソウル!!!!!」

一瞬、
ラブヲの体全体から、
気のようなものが奮起したように見えた。
いや、
実際何かが噴出した。

・・・・。
闘気発顕。
確か修道士のスキル。

「・・・・・来な。フルボッコにしてやんよ」

リーゼントの特攻服は、
威風堂々と立ち、
両手で挑発した。

「・・・・・チッ」
「姉御」
「ちょっとやられてくんぜ」

「あんたら!ちょっと待ちな!!」

ツバメの制止も聞かず、
ヤクザ達は、
三人三様。

ラブヲへと突っ込んでいった。

「うぉおおおお!!!!」

一人のヤクザが、
蹴りを叩き込む。
飛び上がっての、
大きな回し蹴り。

だが、
ラブヲは、
動かない。
避けもしない。

そして、
ガードさえしない。

ヤクザの蹴りは、
ラブヲの肩口に突き刺さった。
・・・・。
が、

「・・・・・・痛ぇけど、効かねぇな」

「な・・・・」
「どけっ!!!」

もう一人が、
走りこみながら、
拳を突き出す。
真っ直ぐ。
それは、
ラブヲの顔面を狙う。

だが、
やはりラブヲは避けもしなければガードもしない。

「ぐっ・・・・」

ラブヲは、
右頬に突き刺さった拳で、
すこしヨロけ、
二歩だけ背後に足を戻したが。

「・・・・痛ぇ・・・・けど効かねぇな」

「俺がやる!!」

最後の一人は、
ドス(剣)を抜いていた。

「死ねぇ!!」

「じゃかしい!!!!」

そこで初めてラブヲが動く。
振り切られてきた剣に対し、
拳を振り回したと思うと・・・・

「!?」

剣を、
拳で、
叩き割った。

「効かねぇ効かねぇ!!男はぁ・・・・・我慢。タフボーイでなくちゃぁならねぇなぁ!!!」

「くっ・・・」
「くそぉ・・・・」

今度はヤクザ3人が少し退いたと思うと、

「おめらもタフボーイであってくれよぉ!!歯ぁ食いしばれや!!!」

特攻服リーゼントが、
動いた。

「うぉおおおおお!!」

ガードもガードなら、
攻撃も攻撃だ。
真っ直ぐガムシャラに、
見え見えの拳を振りかざし、
特攻。

「フルボッコパァーンチ!!!」

名前がついただけのただのパンチが、
一人のヤクザに突き刺さり、
吹き飛ぶ。
後ろの家の壁まで吹き飛び、
貼り付けになる。

「フゥールボッコキィーック!!!」

名前がついただけのただのキックが、
違う一人のヤクザに突き刺さり、
吹き飛ぶ。
路地裏へと吹き飛び、
ゴロゴロと転がっていく。

「あ・・・あ・・・・」

残り一人。
ラブヲは、
余裕で、自分の両手をリーゼントに添える。

「唸れマイソウル。鋼の肉体」

フワ・・と、
少し輝いたと思うと、

「覚悟しな」

ヤクザの目の前に、
堂々と、
ただ歩み寄り、

「フルボッコヘッドバァーッド!!!」

・・・・。
どんな技だ。
鋼の肉体で強化された・・・・リーゼントを叩き付けた。

「ってぇー事で、前座終りぃ」

あっという間に転がるヤクザ3人を前に、
ラブヲは、
また両手の親指をグッと突き出し、
軽快な笑顔。

「で、次はアマちゃん。あんただ。そろそろ出てくる時間じゃぁねぇの?
 ・・・・っと。オイのソウルが乱れたぜ。ハートフルボッコも楽じゃぁねぇ」

己のソウルを、
またクシで整える。

「・・・・・確かに。腕前はかなりのもんみたいだねぇ」

「ハートがビンビンくるだろ?」

「あぁ。アドレナリンがビンビンきてるよ」

素早い動きで、
懐から、
ダガーを取り出すツバメ。

「うちの部下をやられた怒りでねぇ」

「向かってきたのはそっちだ。そりゃぁまた酷い言い掛かりだ」

「あぁ・・・だけどねぇ」

それでも、

「人には退けない道ってのがあるんだよねぇ!」

腰を低くし、
ダガーを構えるツバメ。
戦闘体勢。

「いいソウルだ。YAKUZA魂(ソウル)って奴かね」

楽しそうに笑い、
両手で挑発する。

「きな。アマヤクザ。そのソウルごと、ハートフルボッコにしてやん・・・・・・ッ!?」

その刹那。
余裕をかましていたラブヲの視界から、
ツバメが消える。

見逃したのではなく、
消える。

否、
ラブヲはこう見えて、
隙など見せていない。

タフとか我慢とか言っていたが、
どんな攻撃をも受ける覚悟が彼には常時あるからこそ、
一部の隙さえなかった。

ラブヲがツバメを見失ったのは、
正真正銘、
ツバメが消えたから。

「インビジ・・・・!?」

「違うね」

ラブヲの背後から声。
真背後から。

背中に殺意が移動した。

「透明になったんじゃない。消えたのさ。これがシシドウの暗殺術」

殺化ラウンドバック。
ツバメがシシドウで学んだ殺人術。

時間を稼いでいたのは、
仲間を逃がすためだけじゃない。
頭の中に呪文を開いていた。
記憶の中の、
記憶の書。

視界は全て攻撃範囲。
簡易に示すなら、
相手の背後への瞬間移動。

「時間は足りなかったんだけどねぇ。うちの子らが稼いでくれた」

ラブヲの背後で、
ツバメは、
ダガーを振りかぶっていた。

「殺すためだけの技だよ。確かに、戦場(殺し合い)にハートフルなんてありゃ・・・しないね!!!!」

そして、
突き出した。

「・・・が・・・・」

ツバメのダガーは、
確実に。
完璧に。

ラブヲの後頭部を・・・・・貫いた。

「・・・・・・確かにあんたらにゃぁ、うちらは勝てないだろう。力の差は歴然だ。
 だけど・・・なら、頭を討ち取っちまえばどうだろうねぇ。これで、道は見えた」

100%。
確実に。
ツバメのダガーは、
ラブヲの後頭部を貫いた。
突き刺さった。
調度ダガーの刃の長さが、
頭一個分。

残念ながら、
自慢のリーゼントのせいで、
額側から刃が突き出る事はなかったが、

ラブヲは、
その一撃で・・・・

息絶えた。

「オイのソウルはタフボーイだ」

「!?・・・・な!?」

ツバメは、
驚き、
後ろに退いた。

突き刺したダガーをそのままに、
後ろに下がった。

「戦いはぁ、我慢だよ。我慢。痛ぇけど、効かねぇなぁ」

そうして、
特攻服リーゼントは、
振り向いた。

後頭部に、
ダガーが突き刺さったまま。

「・・・・っつーか。痛ぇ。痛ぇってなんだったか」

「馬鹿な・・・・頭を貫かれて生きてるはずが・・・」

確実に息絶えたはずだ。
・・・・。
いや、
何を。
何を言っているんだ。
息絶えた?

誰に対して言っているんだ。

「よっと」

ラブヲは、
後頭部に突き刺さったダガーを抜き、
捨てる。

カランカランと、
ルアスの石畳に、
ダガーが転がる。

・・・・まるで新品同様のダガーが。

「褒めるぜアマ。2年前ならこれでオイは死んでた」

脳天を貫いたダガーに、
血はない。
血が付着していない。
もちろん、
さきほどまで突き刺さっていたラブヲの後頭部にさえ、
血がない。

「だが、残念ながら、オイはもう死んでるんだ」

「ば・・・かな・・・・」

脳天を貫いても・・・
死なないだと?
これが・・・
これが死骸騎士。

死んだ人間は、殺せない。

「・・・・・・くっ」

ツバメは焦って周りを見渡す。
当然、
騎士軍団に包囲されたまま。

このエルモアに跨った死骸騎士達。
これが全員・・・・。
これぐらいの耐久度を持ってるっていうのか?

「そう、オイ達は魂の奴隷。生かされた、死んだ亡骸人形。
 だからオイ達に残ってるのは・・・・・誇り(プライド)と、魂(ソウル)だけなんだぜ」

そういいながら、
ラブヲは、
痛みさえ感じていない、
その穴の開いた後頭部をさする。

「だから、ただそれらだけは、死んだ今でもビンビンにしときてぇ。
 これだきゃぁ・・・・王国騎士団(キングダムナイツ)全員の意思だろうぜ」

「く・・・そ・・・」

冷や汗が出る。
勝てない。
この男に、
どう足掻いても。
そして、
この死骸騎士の団体。
こいつらにも・・・・

たった・・・・
たった・・・・
53部隊のうちの1部隊だぞ・・・・

「さぁて。それでもオイ達に残ってるのは任務だ。果たさせてもうらぜ。
 あんたぁ残念だったとしか言えねぇ。普通だったら戦況は変わってたろうな。
 だが、続いちまったからにはそうじゃぁねぇ。まだオイもフルソウルじゃねぇんでな」

「・・・・・なん・・・・だと・・・」

「オイは"騎馬隊だぜ"」

ニッと笑い、
リーゼントは、
親指を突き立てる。

「っつってもまぁ殺戮が好みってわけじゃないんでね。ハーフルボッコ(半殺し)で勘弁しといて・・・」

「うがぁ!!」

「姉御!!」
「姉さん!こっちだ!!」

一人の死骸騎士の悲鳴が聞こえたと思うと、
地面に一人、
死骸騎士が落馬していた。
そしてそいつのエルモア。
そのエルモアの上には、
所狭しと、
3人のヤクザが跨っていた。

「他の兵隊から連絡がきた!!」
「退却は済んだぜ!」
「逃げやしょう!!」

「チッ」

ラブヲは舌打ちする。

「相手が女(アマ)ちゃんなら、オイも甘(アマ)ちゃんだったな。確実に仕留めとくべきだった」

「馬をだしな!!!」

ツバメが叫ぶと、
ヤクザ達の跨ったエルモアが走り出す。
どこへ?
敵に包囲されている。

「突っ切るよ!!」

わずかに敵の少ない、
進行方向と逆方面。
退却。
後戻り。
それしか道はなかった。

「チクショウ!」

ツバメは、
エルモアの最後尾に飛び乗る。

「駄目だ姉御!」
「さすがに4人乗ってちゃ速度が出ねぇ!」
「うちが重いってのかい!?」
「いやそうじゃねぇが・・・・」

最強の騎士団が、
精鋭騎馬隊。
それに包囲された状態で、
こんなもので逃げ切れる・・・か?

「ボヤボヤしてんじゃないよ!相手は騎馬隊だ!小回りはきかない!
 包囲戦には向いてないんだ!突っ切るんだよ!!!」

確かに、
騎馬隊は包囲戦には向いていない。
ツバメ達に襲い掛かろうとしても、
逆に味方同士がモミクチャにぶつかってしまう。
・・・・。
だが、
敵の群の中であることは変わらない。

そして、
追う事に関しては・・・・・騎馬隊は最強だ。

「クソ・・・クソ・・・・」

騎馬の隙間を縫って、
逃げる。
このルアス市街を。

こちらを向いていた騎馬達の隙間を縫っていく。
そして、
通り越した騎馬達が、
順に、
ツバメの方を向いていく。

全ての騎馬の進行方向が統一された時、
騎馬隊というのは

止められない雪崩になる。

「突破まではするんじゃないよ!追われるよりは囲まれてる方が安全だ!
 隙を見てどこかの路地裏に逃げ込むんだよ!そこからゲートで一時離脱する!」

「わ、分かった!!」
「うわぁ!!」

当たり前だ。
4人も乗って、
速度の出ない騎馬。
それで騎馬隊の包囲網を突っ切ろうとなんて、
無理にもほどがある。

ヤクザの一人が、
馬上から突き出された槍に刺さり、
落下した。

「お、おい!!」
「振り向くな!止まったら死ぬよ!!突っ切るんだよ!!!」

言いながらも、
苦虫を噛んだ。
もう死んだだろうけど、
それでも仲間を捨て置くなんて・・・
そんな・・・
そんなの筋じゃない・・・・
だけど・・・・

「騎馬隊の今の状況なら、騎馬隊は逆にこのモミクチャの状況で馬を走らせづらい!」
「わ、わかりやした・・・」
「例えうちが落馬しても進め!!!」

逃げ切れるか・・・
逃げ切れる・・・か・・・

「うぎゃぁ!!」

もう一人落馬した。
走り出せないからといって、
死骸騎士の騎馬隊の群の中。
格好の標的もいいところだった。
だが、

哀しきかな、
二人落馬したことで、
速度は出るようになってきた。

「・・・・・ッ・・・微塵も嬉しくないけどね・・・・」
「だけど!なんとか逃げれそうでさぁ!!あそこ路地裏なら馬も入れやす!」

手綱を引いているヤクザが、
片手で示す。

「あの路地裏は馬も侵入できやすし、さらに馬を捨てて迷路みたいな路地裏に逃げ込めます!」
「全力で駆けるんだよ!相手が!動けないうちに!!!」

「逃がすかぁ!!!」

だが、
多すぎて逆に動き出せないはずの騎馬の中、
唯一、
一頭。

軽やかに人ごみを掻き分けてくる騎馬。

「駆けろカウンタック(E−W)!!!路上を蹂躙(フルボッコ)してやれ!!」

毛並みの美しい、
一際目立つエルモアに、
リーゼントの男。

追って来た。

「やべぇ。やべぇぜ姉御!!騎士団がEシリーズの1ケタ台だ!」
「・・・・・ツヴァイが使ってるE−Uに近い性能かい・・・・」

逃げ切れるか・・・
だけど、
駆けるしかない。

・・・・

・・・・。

ただ、
ただ悔しい。



道は長い。
ルアス市街を抜け、
外門に集まり、
庭園を抜け、
内門を突破し、
・・・・。

そして53の騎士団長を倒さなければならないのに。

その最初の最初。
ただの初戦、
道の始まりの始まり。

なのに・・・・。


ツバメ=シシドウ。
及び、
《昇竜会》


敗走。

戦果0。






































「駄目だ!!!!」
「止められない!」

「諦めないで!第5射!用意!!!」

フレアが大声で命令を出す。

ルアス市街が一角。
それを通行止めのように一列に並ぶ魔術師たち。

「私達は世界最強の魔術師ギルド!《メイジプール》なんです!
 出来上がって1年の新生《メイジプール》だからといって、誇りを忘れないで!!」

「マスター!!」
「第5射!用意できました!」

「魔術師の頂点の自信を持ってください!!!第5射!!撃ぇ!!!」

フレアの号令と共に、
通りに並んだ魔術師たちが、
一斉に各々の魔法を射出する。

ファイアボール。
ウインドブレード。
アイススパイラル。
クロスモノボルト。

様々な魔術(スペル)が、
魔術師たちの手によって、
向こう側へと放たれる。
それは台風のようであり、
嵐のようであり、
この世のあらゆる気象現象を混ぜ合わせたかのような、

魔術の乱舞。
それが放たれる。

街中。
ルアスの通りの向こうで、
激しく爆発音が奏でられる。

・・・・が、

「駄目です!」
「止められない!!」

そんな馬鹿な・・・。
止まらない。

「止めるんです!攻めの立場はこちらなんですよ!!第6射!用意!!」

6回目の攻撃。
これまでの5回。
無意味とも思えた。
だから、
この6回目も無意味かもしれない。
それでもフレアは命令を下す。

「じゅ、準備できました!」

「第6射!!撃ぇ!!」

また、
色とりどりの魔術(スペル)が、
道を走行するかのように放たれる。
そして着弾する。

爆発。
魔法という魔法が、
一点にぶつけられ、
ルアスの街中。
その地面ごと跳ね飛ばした。

「・・・・・・・」

だが、

「だめだ!!」
「効いてねぇ!!」

爆煙が晴れると・・・・

そこを無傷で突っ切ってくる、
騎馬隊。
騎馬隊が、
何事もなかったかのように、

勢い止めずに突き進んできた。

「あいつら・・・・化け物か・・・・」
「なんで効かねぇ・・・・」

死骸騎士だから?
違う。
あれは、
あの騎士団の、
あの部隊の実力。

「だ、第7射!用意!!」

フレアは、
さすがに口ごもった。
無意味としか思えないから。
だがこれしか出来る事はない。

「騎馬隊・・・」
「あれが・・・・」
「王国騎士団、第38番・湾岸警備部隊・・・・・」

地響きをたてて、
通りの向こうから突っ込んでくる・・・
群れ。
軍隊。
騎馬隊。

「怯えないでください!騎馬隊とはいえ!進軍速度は遅いです!!」

何故?
それは至って簡単。
騎馬隊とはいえ、
エルモアではない。

第38番・湾岸警備部隊。
エルモアではない騎馬隊。
双極を成す、
もう一つの騎士の相棒。

デミの騎馬隊。

「重騎馬隊・・・・か・・・・」

鎧に身を包んだ、
屈強なる騎馬隊。

「くそぉ・・・」
「だが、近寄ってこればくるほど、こちらの魔術の効果も上がる」
「あのノロマな騎馬隊なら・・・・」

遅い、
といっても、
デミの騎馬隊。
奴らの速度は、
歩兵が走りこんでくるぐらいの速度はある。
問題は、

勢い。

あまりにも止まらない。


「HEYHEYHEYHEYHEYHEYHEYHEY!!!!!!」

「!?」
「一騎突っ込んでくるぞ!!!」

・・・・。
歩兵の走行速度?
否、
エルモアぐらいの速度のある騎馬が一騎。
デミとは思えない騎馬速度。

「HEYHEY!!この世は晴れたオフロードじゃぁ!!!
 荒地を限界で爆走しろ38番隊!!自分のサスペンションを信じんかい!!」

一騎。
たった一騎。
デミにしては有りえない速度で特攻してくる騎士。
顔・・・は分からない。
何故なら、

アメット。

なんだあのアメットは。
顔全体を包み込んでいる。
だが、
重装備とかそういう類ではない。

まるで・・・
ヘルメット。

フルフェイスのヘルメット。

フルフェイスアメットの、
デミ騎馬から、
篭った若い声が聞こえてくる。

「ワシぁ!第38番・湾岸警備部隊!部隊長!!ギア=ライダーじゃぁ!
 この世にワシらを止められるバリケードなんてありゃぁせんぜよぉ!」

「ク、クソォ!!」
「マスター!射撃準備できました!!」

「分かったわ!!第7射!!撃ぇ!!」

7度目の正直。
それを願って、
七色の魔術射撃。

・・・・。
別に命令は出さなかった。
だが、
誰もが危険視し、
恐怖をもったのだろう。

その魔術の嵐は、
騎馬隊本体ではなく、
先頭、
部隊長ギア=ライダーに襲い掛かった。

「HEYHEYHEYHEY!!!!これしきの逆境(オフロード)!!
 ワシにゃぁ峠よりも攻めるのは簡単じゃけぇ!ぶっこんでくぜぃ!!!」

魔術の嵐の中に、
ギア=ライダーは消えた。

消えた。
だが、
当たり前のように、
彼は突き抜けてくる。

爆煙の中、
2つのライト。
いや、
デミの眼光か。
まるでライトのように強烈な眼光。
それが爆煙の中から飛び出る。

「いいぜよD−1(モータヘッド)!!!今日もいい走りじゃぁ!!!」

フルフェイスアメットの、
ライダーが、
止まる事なく突っ込んでくる。

「HEYHEYHEYHEY!この世に舗装された道(サーキット)なんてあらへんのじゃ!!
 道ゆうのは自分で切り開くもの!!自分で道を切り裂き!突き進まないかんのじゃぁ!
 どんなオフロードでも突き進む!その先にライトで照らせる未来があるんじゃけぇのぉ!!」

もちろん、
ただの耐久力じゃないだろう。
ギア=ライダー。
この際ハンドリングとでもいうべきか。
魔術の嵐。
避けている。
あの隙間無き魔術の嵐を。

最小限で。

最小限だけ受け、
それだけなら、
デミのライダーにとってはそよ風のようなもの。

フルフェイスアメットのライダーが突っ込んでくる。

「ピンが並んどるけぇのぉ!!!ボーリングといこうかぁ!!」

ギア=ライダーが、
デミの速度を上げる。

「やばいですマスター!!」
「あれは止められない!」
「あいつの言うとおり、このままじゃボーリングのピンみたいに吹っ飛ばされます!!」

こちらは100を超える魔術師がいる。
だが、
アレは止められない。
デミ特有の破壊力。
重心。
こちらがどんだけいようが、
あれ一騎で、
全てを吹き飛ばし、
突き抜ける。

それがこの短期間でも分かる。

「・・・・・・」

フレアは目を瞑った。
・・・。
自分はどうすればいい。
過去の《メイジプール》
その生き残りは自分ひとり。
皆死んだ。
受け継がなければならない。

なら、
元マスター。
魔道リッドならこんな時どうしただろう。
前マスター。
マリン=シャルならどうしただろう。

・・・・。

「マスター!!!」
「命令を!!!」

どうもこうもない。
今は、
自分がマスター。
自分が決めなければならない。

「退却します!!!」

フレアは、
大声で、
言い切った。

「各々!ウィザードゲートセルフで飛んでください!
 使えないものがもしいるならばウィザードゲートで先導して!!」

退却。
その決断。
まだぶつかってもいないのに。
まだ、
ただの最初の戦い。
初戦なのに。

だが、
誰もそれに反論はしなかった。

「退却だ!」
「逃げろ!!!」

フレアの命令どおり、
各々がゲートで飛んでいく。
空へと散っていく。


「なんじゃいなんじゃい!!!!」

ギア=ライダーは、
デミでかっ飛んできながら、
叫ぶ。

「HEYHEYHEY!逃がすかぁ!ギアを上げるぜよD−1!!!
 海岸沿いを6速(ロクサス)でノンストップじゃ!!夕日を追いかけるんじゃぁ!!」

「急げ!!」
「来るぞ!」

さすがに洗練された魔術師たち。
統率は出来ている。
手際よく各々がゲートで飛んでいく。
これならギア=ライダーが来る前に非難はできるだろう。

「貴様らぁ!!進めんからって逃げるたぁ何事じゃぁあ!!!HEY!・・・・HEYHEY!!
 どんなオフロードでも突っ切ってみせんかぁ!そんなんで道を切り開けるかぁ!!」

「・・・・・」

あの男。
ギア=ライダーの言う事は正しい。
あまりに正しい。

私達。
自分たちの進む道。
帝国への挑戦。
それは、

誰がどう見ても行き止まりだ。

それでも進まなければいけない。
突き破らなければいけない。

進めないから、
諦める。

それじゃぁどうやったって帝国には勝てない。

「今までのように、結果的に勝つじゃ駄目なんですね。全てに・・・打ち勝って・・・。
 それでやっと・・・やっと光が薄っすら見える。そうじゃないと・・・・」

だけど、
光を消すわけにもいかない。

「私の判断は正しかったんでしょうか。リッドさんやマリンさんならどうしてたか・・・・」

呟くフレア。
少し、
うつむくフレア。

気付くと、
周りの魔術師達は全員退避を完了していた。

「HEYHEYHEY!!!」

ブレーキ音。
デミが、
地面を削るようにドリフト気味にブレーキをかけ、
石畳に砂煙を上げながら、

「あんた一人残ってんのはなんでじゃい?ワシとやる気があっての事か?」

フルフェイスアメットのデミライダーは、
デミ(バイク)を、
フレアの目の前で止めた。

「そりゃぁすっげぇグッドな判断ぜよ。オフロードを走る勇気。超える勇気。
 舗装された道じゃなく、あんたはオフロードを選んだってことじゃけぇのぉ!」

近くで見る。
フレアはその瞳を、
デミの上のギア=ライダーに向けた。

「面白い仮面ですね」

しとやかに微笑む。
境遇などさておき、
フレアは笑顔は忘れない。

「そのアメット。その目のところの黒いガラスから見えてるんですか?」

「HEYHEY!敵を目の前にそんな事質問してくる奴ぁ初めてじゃのぉ!
 気に入った!無意味にオフロードを走ろうってその気具合!リスペクトするぜ!」

デミと体を横に向けたまま、
ギア=ライダーは言った。

・・・・。

遥か背後。
遅れた騎馬隊の砂煙が見える。
あの大軍。
雪崩のようなデミ騎馬隊。
あれが到着したら・・・・飲み込まれる。

「HEY!だから答えてやるぜよ!まぁこいつぁ見たまんま、アメット改造したヘルメットじゃけぇ。
 フルフェイスなのは防具ってぇよりライダーとしての嗜みってもんぜよ。
 あとコレはガラスじゃないけぇ。ヘルメットシールドっていうんだけどよぉ、
 もちろん防具じゃねぇ。防具っつえば防具か?走行中の風や逆行のための・・・・・」

「ハードインパクト!!!!」

「ぬぉお!?」

フレアが唱える、
と同時、
小径の隕石が数個だけ、
天から降り注ぎ、
ギア=ライダーを襲う。

「HEYHEY!!不意打ちかぁ!?」

デミならば、
"止まってしまえばこっちのもん"
フレアはそう考えた。
だからこそ、
相手が油断して止まってくれる可能性のある、
一人を選んだ。

「避けられないでしょう」

フレアは小悪魔に微笑む。
デミが、
瞬時に速度を出して回避行動をとれるわけがない。

「じゃかしぃ!!」

わけが・・・・ないのだが・・・・

「こんな逆境(オフロード)!!なれっこじゃけぇのぉ!!!」

有りえない発進速度で、
デミが、
砂煙を上げながら動き出し、
ハードインパクトの落下地点から避け駆けた。

「HEYHEY!!」

ハードインパクトを避け、
ギア=ライダーは、
地面に滑走跡を付けながらドリフトし、
また違う場所で停止した。

「ワシのD−1をなめんじゃねぇぜよ!!王国騎士団がDシリーズの一等品じゃけぇ!!
 ワシのD−1は発進から6速、エンスト無しでラクショーじゃけぇのぉ!!!」

「・・・・悔しいです」

フレアは少し口を尖らせた。
正直決まったと思ってたので、
本気で悔しかったようだ。

「HEYHEY!だけど否定はせぇへんけぇのぉ!!正攻法じゃ駄目なら外道法!
 サーキットじゃなく、オフロードを走るもんにゃぁそういうのも必要じゃけぇ!!」

フルフェイスアメットのせいで、
顔は見えない。
目部のヘルメットシールドの部分から向こうは見えているのだろうが、
表情は伺えない。
ただ、
声からするにそこそこに若いように感じる。

「っつーってもあいつら遅いのぉ!」

目線の向きは分からないが、
フルフェイスメットが後方を向いたので、
フレアもそちらを見た。

後方。
砂煙をあげて、
こちらに向かってくるデミ騎馬軍団。

「あいつらのバイクじゃこんなもんぜよ。HEYHEYまったく。
 ちゃんとバイクのメンテナンスはしてんのかって話じゃのぉ!
 エサのチューニング甘いんじゃねぇか?愛車はもっとカスタムせんと」

そして、
またギア=ライダーのフルフェイスメットがこちらを向く。

「で、嬢ちゃん。やる気はあると受け取るぜよ?」

「・・・・・・」

フレアは身構える。
・・・。
だが、
不意打ちも効かなかったのに何か通用するのか?
フレアの得意技は、
落下系のスペルだ。
着弾まで時間がかかる。
あの機動力だ。
まず当らないだろう。

だが、
あのギア=ライダーの様子を見ていると、
得意技を当てなければダメージは与えられそうにもない。

「嬢ちゃん。あんたはなんでオフロードを走る」

「・・・・・はい?」

「オフロードどころじゃねぇぜよ。騎士団に歯向かうのは、むしろ崖への暴走じゃ。
 道なんかねぇ。ただのチキンラン。どこで止まるか。それまでじゃけぇのぉ」

・・・・。
確かに、
帝国。
どうやっても行き止まり。
その行き止まりが崖というなら、
道は、
切り開きようがない。

「とりあえず・・・・走ってみただけです」

「んん?」

「それで進めそうにない道だと分かりましたから、とりあえず私も逃げようと思います」

そう、
くったくのない笑顔を浮かべるフレア。

「HEYHEY。今度は逆走か?」

「はい逆走です。一時撤退します。まぁ最初からその予定でした」

「あんたのオフロードへの挑戦心はリスペクトもんじゃけぇ。
 行き止まりと分かってて向かってきた事は惚れ惚れするけぇのぉ。
 だが、引き返すと分かっていて、何故険しい道を少し進んだ」

・・・・。
どうせ逃げるなら、
最初から逃げていればいい。
ギア=ライダーがこうして会話してくる可能性さえ絶対じゃなかった。
真っ直ぐ、
ひき殺されていてもおかしくなかった。
それなのに、
何故、
わざわざ残った。

「・・・・・」

決まってる。

「とりあえず。試してみたかったんです」

「んん?」

「通用しないなら、どこまで通用しないのか」

「見事な挑戦心じゃ。じゃけぇ、それが何になる」

「それでも、私達は進まなければいけないからです」

フレアは。
フレアの目は。
一点の曇りもなく、
ただ、
強固に真っ直ぐ。
その愛らしい顔の眉間にシワをよせて、
真剣に。

「HEYHEY!!!グッドじゃけぇ!!!」

ギア=ライダーは、
デミの上で、
両手をパンパンッとぶつけ、
短い拍手をした。

「あんたぁ、見事なオフロードライダーぜよ!分かった。あんたはあんたの道を進んでくれ!」

「え?」

「残念じゃけぇ。さっきのあんたの攻撃の回避行動のせいで、ほれ、距離がこんなに」

フルフェイスアメットが動く。
おそらくアゴで示したのだろう。

「あんたぁ、《メイジプール》の現マスターじゃろ?・・・・・攻城戦ではちあわせた事はなかったが、
 内門前は何度もあんたのメテオにお世話になったけぇのぉ。ありゃぁ苦しんだけぇ」

「それはそれは、すいません」

笑顔で、
悪ぶれもなく、
フレアは答える。

「ま、だからあんたほどの魔術師なら、ワシの爆走特攻(チャージラッシュ)よりも早く、
 ゲートで退避できるぜよ。残念ながらここはお開きじゃ」

「また、次回ってところですかね」

「次回の保証なんてありゃせん。それが戦場(オフロード)じゃ。
 だが、舗装されてないオフロードだからこそ出会えた奇跡に乾杯じゃ」

「フフッ」

フレアは笑顔で、
そして、
ウィザードゲートの光に身を包む。
彼の言葉は分かる。
だから、
もう少しくらい言葉を交わしていてもよかったが、
残念ながら、
彼の背後。
デミ軍団がすでに迫っている。

「それでは。私じゃないかもしれませんが、"必ず"、私達の誰かが貴方を倒すでしょう」

険しすぎる道だが、
そうしなければならないから。
突き進まなければならないから。

「あぁ。そいつらとのツーリングも楽しみにしとくけぇ。
 じゃぁのぉ、反乱者(オフローダー)。アウトローなオフロードを突き進んでくれ。
 ただし、ワシらの作るオフロードは、超えられない峠。険しいけぇのぉ。覚悟するぜよ」

「・・・・・分かってます」

フレアは、
そのままゲートの光で飛んでいった。


フレア=リングラブ。
及び《メイジプール》

初戦。
敗走。

成果0。





































「大変な事に気付きました!!!!」

ルアス市街。
中央。
大通り。

ルアスで一番広い道。

そこを歩く、
反乱者が一団。
一団の一欠けら。

ツヴァイを先頭とする、数十名。

「大変な事に気付いてしましました!!!!」

その中、
アレックスが一人、
大騒ぎするように叫ぶ。
他の者は、
無言で進軍している。

「・・・・・・」

騒いでいるのに反応がないので、
アレックスはもう一度叫ぶ。

「皆さん!大変です!英雄が大変な事に気付きました!!!」

「うるせぇええええ!!!」
「少し黙れアレックス」
「またかいアレックス君・・・・」

皆が、
慣れたように口を開く。
反応してやるのは、
優しい優しいMDの同士達くらいだ。

「次はどれなの・・・・」
「あれです!!」

アレックスが、
進軍しながら、
道の少し脇を指差す。

「あれ!僕の大好きな定食屋さんなんです!!!」
「「「・・・・・・・」」」

アレックスは、
真剣な表情で指をさし示したまま、
歩いていたが、
他は、
やはり呆れる。

「なぁアレックス」
「はい」
「全ての質問を吹っ飛ばして、まず聞いとく」
「はい」
「大好きな定食屋さん?てめぇが嫌いな定食屋さんなんてねぇだろ」
「その通りです」

ハキハキと答えてくるアレックスに、
ドジャーはため息をつきそうになるのをこらえながら、
歩きながらさらに聞く。

「次の質問。だから、定食屋さんがなんだ」
「いえ、別に。ただ好きな定食屋さんなんです」
「で」
「そうですね。あわよくば食事なんてどうでしょうか?」
「ふざけんな!!!」

この何度目かの問答に、
もう皆が呆れていたので、
ドジャーが頑張って怒る。

「何が飯だ!状況分かってんのか!!」
「腹が減っては戦はできず」
「てん・・・めぇは!!!来る前に散々食ったろうが!
 胃の面積の物理問題の常識を覆して、科学者を困らせるくらいによぉ!!!」
「む。ですがですね」
「それもさっき聞いたわ!!!「死ぬ前に・・・好きなものが食べたい・・・」だろが!!!!
 てめぇ!朝もそう言ってたじゃねぇか!ふざけんな!!!」
「ふふん。ドジャーさん」

アレックスは、
歩きながら、
チッチッと指を振る。

「駄目ですよ?」
「・・・・何がだ」
「英雄に対しての口の効き方がなってません」
「チョーシこくなっつってんだろ!!!」
「ぎゃふん!!」

ドジャーがアレックスを蹴飛ばす。
こうして、
またアレックスにダメージ。
戦闘前だというのに、
すでに、
さきほどから、
ツッコミだけでアレックスはダメージを蓄積していた。

「何が英雄だ!何度も言ってんだろ!てめぇの能力がたまたま適当だっただけだろが!!」
「同じです。気をつけてくださいよ?何にしろこの僕の体は大事な大事な切り札なんですから」
「うるせぇ!!」
「ぎゃふん!」

またダメージ。
英雄は、
無駄に傷を負うのが好きなようだ。

「・・・・じょ、冗談に決まってるじゃないですか・・・」
「おう。さすがにもううるせぇから定食屋に入ってやろうかとも思ってたけどな」
「あ。じゃぁ行きましょう」
「冗談に決まってんだろが!!!」
「ぎゃふん!!」

英雄とは、
学ばない馬鹿のことのようだ。

「・・・・・まぁ。いいだろう」

そんな中、
進軍の先頭で、
エルモアに跨ったツヴァイが、
振り向きもせずに言った。

「何がですか?御飯の許可ですか」
「そんなわけないだろう」
「ツッコミもちゃんと出来るようになったんですねツヴァイさん。安心です」
「オレもそういう安心の意味だ」
「へ?」

ツヴァイは、
やはり振り向かず、
黙々と馬を進めていた。

「正直、お前は隠していただろうが、それでもオレにはお前が気負いすぎているのが分かってた。
 だがそれほど軽口を叩けるようになったのだ。少し安心している」
「・・・・・・それでも実際その局面に立ったら分かりませんけどね」
「その時はその時だ。その時でもないのに気負い過ぎていたのが気になっていた」
「・・・・・」

何にも無関心なようで、
ちゃんと周りを見ているんだな。
そうアレックスは思った。
ツヴァイは、
すでに、
孤独の戦士じゃない。
共に戦う事を知った一人の人間だ。

「にしても」

マリナが口を開く。

「静かなもんね。っていっても周りじゃそこら中から戦闘音が聞こえるわけだけど、
 私達の前には猫の一匹さえ敵が出てこないわ。楽だからいいけど」
「知ってるかい?マリナ。これは嵐の前の静けさっていうんだよ」

エクスポが答える。

「おかしいと思ったら、それはおかしいのさ。ルアス一番の大通りであり、
 そしてボクらはリーダーツヴァイと共に進む旗本だ」
「あと英雄アレックスも忘れずに」
「・・・・ひっぱるねぇ君。まぁ何にしろ中心人物も含め、進軍経路を含め」
「カッ、俺達の前に敵が出てこないのはおかしすぎる」
「つまり罠の可能性ですね」

エクスポは笑って頷く。
言い出したクセに、
一番余裕があるのはなんでか知らない。
そういう男だ。

「何にしろどこを通っても蛇の道だ。いけるところまではいっちまおうぜ」
「む?」

イスカが、
ふと立ち止まった。

「どうしたの?イスカ」
「いや・・・・」
「何かに気付いたか?全軍止まれ!!!」

ツヴァイが、
号令を出す。
数十人が、
一斉に足を止める。

「・・・・こう、足元に何か感じないか?」
「へ?」
「・・・・・・」

イスカに言われて、
皆が気にしてみたが、

「・・・・・いや・・・・少しこう震えが・・・・」
「?」

やはり分からない。

「・・・・む?」

と思うと、
イスカは急に地面に張り付く。

「どうした?金でも落ちてたか?」
「そんなもんでいちいち足を止めるわけなかろう」
「・・・・・」

そうなのか?
ドジャーは少し動揺した。
いや、
金が落ちてたら止まるだろう。
俺だけなのか?

「じゃぁウンコでも落ちてましたか?」
「落ちていたからどうなのだ。拙者が糞を発見するやいなや地面に張り付いたと?
 ふざけるな。拙者を何かキチガイか何かと思っておったのかお主は。斬るぞ」
「じょ、冗談ですよ・・・・」
「ふん」

イスカは、
そのまま地面に耳を当てていた。

「足音」

イスカはそう言った。

「それも人のものではない。音からするに騎馬か。振動からするに数は3ケタを超えている」
「・・・・・」

ほんとかよ?
と、
ドジャーはちょっと真似してやってみたが、
全然分からなかった。

「イスカ・・・・・おめぇの五感はほんと獣並だな」
「いつの時も気配を巡らしておくのが侍だ」

イスカが立ち上がる。

「確かか」

ツヴァイが聞く。

「うむ。この大通りの向こうからだ」
「あ、ほんとだ。薄っすら何か見えるわね」

と、
マリナ。
首をかしげ、
アレックスとドジャーとエクスポが、
目を凝らしてみたが、
何も見えない。

「だが騎馬ってことは間違いなさそうだな」
「そうですね。さきほどまたウォーキートォーキーマンさんの部下が来ましたし」

情報はこうだ。
《昇竜会》と《メイジプール》が、
共に敗走したと。

敵は、
第38番・湾岸警備部隊
第39番・白馬(白バイ)部隊

騎馬の足音というなら、
間違いなくその2部隊。

「真っ直ぐで見開いたこの大通り」
「騎馬隊としては本領発揮としかいいようがないですからね」
「敵がこの大通りに出てこなかったのも頷けるわ」

雪崩のように進軍してくるだろう、
騎馬隊の大軍。
敵だろうと、
味方だろうと、
すべてをその持ち前の勢いで飲み込んでしまうだろう。

恐らく、
この大通りを埋め尽くしてしまうだろう、
雪崩。

「ってことでどうする?」
「わざわざ敵の得意なフィールドで戦う必要はないんじゃない?」
「道を変えるのが無難だね。でもボクとしてはこれは逆にチャンスだと思う
 陽動して、逆に相手の戦いにくい小道に誘いこむってのはどうかな?」
「いや」

ツヴァイが、
言う。

「オレが行こう」
「は?」
「ツヴァイさん一人で?」
「ふん」

振り向きもせず、
ツヴァイが言う。

「オレ一人で十分だ。行くぞ、ガルネリウス(E−U)!!」

そう言うなり、
手綱を引き、
ツヴァイは、
猛スピードで特攻していった。

まだ姿も見えぬ、
この大通りの先。
騎馬隊の大軍へと向かって。

「おま!」
「ちょ、ちょっと!!」

アレックスは、
先ほど思った事を撤回した。
やっぱりあの人は孤高だ。
騎士団長と同じ・・・・。
自己中は血筋か・・・・。

「お、おいどうすんだよ!」
「いきなりリーダーが単独で特攻しちゃうなんて・・・・」

あまりにも急に、
ツヴァイを欠いた事は、
不安要素であることは否めなかった。

「とりあえず・・・・大丈夫でしょう」

アレックスは冷静に言う。
大通りを、
一人、
単独で特攻していくツヴァイの後ろ姿を見ながら。

「もちろんツヴァイさんとて、王国騎士団の騎馬隊2つを単騎で倒せるとは思いませんが、
 逆に、倒せないとしてもツヴァイさんが死ぬとは到底思えない」
「いやまぁそうだけど・・・・」
「俺達はどうするよ」

アレックスは、
口に手を当てて考えた。

「・・・・もし、ミサイルを撃ち込んだって、雪崩っていうのは止まりません」
「・・・?」
「ツヴァイさんが最強だとしても単騎。ただの一人です。
 騎馬隊という雪崩自体は止められない。それが騎馬隊の強みでもあります。
 ツヴァイさんが一人で騎馬隊を突っ切っても、騎馬隊という雪崩全体は勢いを止めないでしょう」
「んで、どうするんだよ」
「なるほど。一つの手として、ツヴァイが削いでくれた騎馬隊の雪崩を迎え撃つ。
 全部が全部じゃなく、零れて突進してきた騎馬隊くらいなら、わずかだけど対抗策はあるね」
「だけどこの大通りよ?不利な事には変わりないわ」
「だからといってこのルートを失うのも痛ぇな」
「背に腹は変えられんだろう。無理な事に無理をするほど愚かではない。
 道を変え、こちらに有利に働くよう、道を変えたほうがいいかもしれん」

どうする。
騎馬の雪崩に迎え撃つか、
それとも、
ルートを変えるか。

「とりあえず進みましょう」
「んお?決断だな」
「いえ、保留です。まだいくらでも間に合います。様子を見て、駄目そうなら変えましょう。
 正直、小道に入ると大人数での進軍が難しくなります」
「のちのち外門へ向けて仲間と合流することを考えると、大通りのルートは残したいね」
「そうです。そして戦力では全体を見ても当たり前のように向こうが上なんですから。
 小道に入り、さらに戦力が分散されるとさらに不利になります」
「すでにかなり分散してるわけだしね」

ならば、
ギリギリまで様子を見て、
とりあえず進軍か。

「ドジャーさん」
「あん?」
「こういう決断はその時になると、相談するより誰か一人の判断に任せた方が行動が早いです。
 もし、小道にルートを変える場合、ドジャーさんがその決断をしてください」
「カッ。いいけどよ。なんで俺だ?」
「逃げに関して一番特化してるからです」
「・・・・・・褒めてんのか?それ・・・」
「今の状況に置いては」

アレックスは微笑む。

「・・・・あー・・・・オケオケ。分かった。その時は俺が決断しよう」
「決断時間違えないでよ?」
「ここに居る数十名は旗本なのだぞ。精鋭が揃ってる。失うわけにはいかん」
「決断するにもあまりにギリギリだと、ボクらが散り過ぎてしまう恐れがあるしね」
「わぁーった。わぁーったっての」

ドジャーがうんざりしたように言う。

「大丈夫だっての。俺ぁ危険が大嫌いなわけ。危ねぇと思った瞬間すぐ号令だすって」
「チキン」
「チキンドジャー」
「腑抜けが」
「どっちがいいんだよおめぇら・・・・」

何にしろ、
重要な役割だ。
それを、
ドジャーに託そう。

「そろそろツヴァイが騎馬隊にぶつかる頃かもね」
「ボヤボヤしてられねぇな」
「僕達も進軍しましょうか」

そう言った時だった。
皆、
また進みだそうとした時だった。


ソレは、

降って来た。


どこから?
分からない。
分からない。
いつもの事だ。
だが、
その超重量のソレは、
猛烈な勢いで、

降って来た。


「ドッゴラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


ルアスの街の、
石畳を、
大砲の着弾かのように跳ね上げ、
吹き飛ばし、


猛獣が、
着地した。


「ち・・・・・」


石畳の巨大な破片が散らばり、
砂煙。
その中から、
世界最強の身体能力を持つ猛獣が、
姿を現すか、
現さないか、

そんな瀬戸際で、


「ち、散れ!散れぇえええええええええええ!!!!」


ドジャーの完璧な決断と共に、
皆、
各々、

蜂の巣を散らしたように、
一目散に、

ルアスの街中へと散り散りに逃げ出した。


                 






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