「ウヒョー!あんたがギルヴァングか」
「・・・・ヒュゥ・・・・助かったぜ」
「・・・・・ヒャハッ」

助かった。
その言葉はその言葉の通りだ。

だがそれは、
自分達の事であって、
自分達の事でもない。

つまるところ、
この外門が助かった。

そういう意味だった。

「ギャハハハッ!礼を言われる筋合いはねぇな!」

この外門の直下。
そこにいるのは、
獰猛な図体をした野蛮なる野獣、
ギルヴァング=ギャラクティカ。
その腕力の塊のような両腕が止めるのは、

「・・・・・ふん」

漆黒の黒騎士。
ツヴァイ=スペーディア=ハークスの黒槍。

「俺様ぁよぉ!俺様がやりてぇ事をやってるだけだっ!闘いの魅力に負けちまってな!
 むしろこれが真剣勝負っつーならてめぇらの闘いに横槍をいれちまった形だからな!
 ギャハハ!そりゃぁ漢らしくねぇ。俺様メチャ漢らしくねぇよ!」

「そんな事はない」
「俺達はこの外門さえ守れれば本望だ」
「それ以外にない。"守りたいものを守れない"なんて事だけが最悪なんだ」

誇りもなにもいらない。
守りたい。
それだけだ。

守りたいものを守れないような誇りなどいらない。

「散々耳の痛いデカい声をあげて」

ツヴァイが無表情に言う。

「まるで守りきったかのような言い草だな。この。オレから」

「うぉ?」

ツヴァイは槍に力をいれ、
ギルヴァングがそれを両腕で掴んで止めている。
それだけの構図なのだが、
地面が振動しているかのようだった。

「いいパワーだな!あんたよぉ!!メチャいいぜ!」

「お前がその力によって穴が空くのを見たくてな。自然と力が入る」

「いいねぇ!!メチャその粋だぜ!!」

ツヴァイが全力かは分からないだが、
ギルヴァングも同じ。
だが、
槍がミシミシと音を奏でている事から、
自然な二人の間にとてつもない力が加わっている事は想像がついた。

「・・・・ツヴァイ=スペーディア=ハークス」

ギルヴァングが、
ツヴァイの槍を受け止めたまま、
ギャハハと笑う。

「気安く名を呼ぶな。野獣が」

「いいじゃねぇか。これから血肉を削り、メチャガチンコバトルする仲じゃねぇか。
 ハッキリメチャクチャ俺様は心が躍ってるぜ!アドレナリンが爆発しそうだ!
 オルァ!!ドッゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ぬっ?」

ツヴァイの体が浮いた。
いや、
投げ飛ばされた。

ギルヴァングの豪腕が、
槍ごとツヴァイの体を投げ飛ばす。

「ぺしゃんこになりなっ!!!」

「チッ!!」

それはとてつもない勢いだった。
重力が真横に10倍になったかのような勢いで、
ツヴァイは吹き飛び、
外門へと叩きつけられた。

「野獣め」

否、
叩き付けられる直前に、
芯から鳴り響く音。
ツヴァイは、
槍を釘のように外門に突き刺して外門に着地した。

「抜けなくなったらどうする」

そう言いながらも、
ツヴァイは外門から槍を抜きとり、
地面に着地する。

外門には綺麗な槍型の穴が出来ていた。
一片さえも崩れず、型をくり貫いたかのようなその穴は、
その勢いの強さを物語っていた。

そして、
それでも向こう側に貫通していない槍穴。
外門の厚さと強固さを現していた。

「確かに」

ツヴァイは軽くその長槍を振る。

「貴様を倒すのは骨が折れそうだ」

「ギャハハハハッ!骨が折れる程度で済めばいいがな!!
 やべぇ!ワクワクする!高鳴るぜ!さっさと!もっともっと闘ろうぜツヴァイ!!」

「気安くオレの名を呼ぶな野獣が」

「いーーーーじゃねぇか!!いい名だと思うぜ!!!」

いい・・・・名?
その部分に、
少しツヴァイは動揺した。

ツヴァイは自身の名を、いい名前だと考えた事がない。
ツヴァイ。
2番目のツヴァイ。
アインの次のツヴァイ。

双子としてほぼ同時にこの世に生を受けながらも、
名前の通り、
完全なる2番手としてこの世に育った。

生まれたその瞬間から、
世界の最頂点が横に居て、
誰もが一度は夢見る"一番"という目標を、
一度たりとも、想像さえ出来なかった。

「ツヴァイ!ツヴァァーイ!!いいじゃねぇか!メチャ!ヴァがいい!ヴァが!」

「は?貴様は何をほざいている」

「ヴァ!っていいじゃねぇか!カッコいいじゃねぇか!俺様にもあるぜ!ギル"ヴァ"ング!
 濁音っていいよな!漢のロマンだ!カッコイイ!メチャイカす!すっげぇ燃える!」

耳を貸す気にもならない。
ロマン?
そんなもので戦いには勝てない。
夢など持つ事さえ自分には出来なかった。
上がすでに塞がったまま育ったのだから。

「ヴァっていいよな!バもいいが!ヴァがあるせいでダセぇ!ヴァがいい!ヴァが!!
 この世のバは全部ヴァにしちまえばいいと思わねぇか!?なぁ漢達よ!!」

ギルヴァングは唐突に、
ヒャギ・ヒューゴ・ヒョウガの方を向いて話を振ったが、
三人は「う、うん・・・まぁ・・・」みたいな返事しか出来なかった。

「そうだろう!!燃えるじゃねぇか!だから俺様はバナナもヴァナナと呼ぶ!ヴァナァーナァー!!」

「くだらん」

一言で切り捨てた。
耳を貸す気にもなれん。

「下らん会話に時間を費やすのも惜しい」

「確かにな!ギャハハハッ!とっととバトろうぜ!ガチンコの!漢のバトルをよぉおおお!!!」

「ふん。そんなお前に一言くれてやろう」

ツヴァイは苦笑して、
言ってやった。

「このヴァカが」

「ぁあ?」

「お呼びだね」

刹那。
まるで影のように、ギルヴァングの背後に一人。
空中に、
黒き女。
ツバメがダガーを携えて浮いていた。

「ツ"ヴァ"メさんをお忘れだよ。死にな」

耳を貸す時間などいらない。
戦いに、
殺しにそんな時間は必要ない。
ギルヴァングの反応を待つ時間はいらない。
反応する時間もくれてやらない。

避ける時間も与えない。
ガードする時間も与えない。

殺すには後頭部。
ツバメがもっとも得意とする、
哀しき暗殺術。

世界一の身体能力を持つ化け物だろうと、
筋肉のない所は鍛えられない。

ダガーで貫けない後頭部などない。

ツバメはそのまま、
ギルヴァングの後頭部に、

ダガーを突き刺し・・・・

「ドッゴラァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

大きな大きな巨大な外門が振動するほどの豪声が発せられた。

「いっ・・・・」

ツバメは鼓膜が破れたかと思った。
事実、
外音が聞こえなくなるほどの衝撃が聴覚器官に与えられた。
それでも、

ツバメは、なりたくもなかった殺人マシーンなのだ。

腕は止めない。
そのまま、
ダガーを持つその手をギルヴァングの後頭部に突き立てる。

「・・・・・・・そんな・・・」

ただ、
その手にはダガーが無かった。

小さな破片が宙を舞っているだけだった。

この最強の野獣に、
避ける暇も、
ガードする暇も与えなかったというのに、

「声だけで武器破壊?・・・・・お呼びじゃないよ・・・・・」

「ドゥルァアアアアア!!!!!!」

ツバメの体がへしゃげた。
ギルヴァングの豪腕が、
裏拳が、
ツバメの横腹に突き刺さる。

ツバメは声を発するヒマも、
そして吹き飛ぶ弾道さえ見えぬ勢いで、
彼方の外壁に直撃し、
外壁が崩れ落ちた。

「ガチンコしようって時に不意打ちたぁ、漢じゃねぇなぁ!ぁあ!?
 そんでもって・・・・・・・・・・・武器なんて使ってんじゃねぇぞゴルァアアアアアアアアア!!!
 漢ならぁぁああ!!熱き体一つで全てにぶつかってきやがれってんだこの野郎ぉおおおお!!!」

誰さえも耳を塞ぎたくなるような巨声が響く。







「ウヒョー!すげぇ声」
「声で外門壊れたりしねぇよなぁ・・・それじゃぁ元も子もねぇし」
「いや、それよりだ」

ヒャギはヒューゴとヒョウガに注意を促す。

「この男ならツヴァイを止めれるだろう。なら、ならばだ」
「あぁ」
「俺達は外門を守る」

もちろん、
未だ部隊の防壁は崩れて居ない。

ヒューゴのドラゴンスケイル。
ヒョウガのタクティクス。
そして、
ヒャギのナイトユニークは機能している。

「攻めているのは向こうだが」
「ヒュゥ・・・・押し返しているのは俺達だな」

2000対300でも、
外門の守りは揺るがない。

「だが上を見ろ」

ヒョウガが天を示す。

上空では、
幾多の火球。
城壁に、
そして外門に、
ロッキーのブレイブラーヴァが休みなく叩き付けられていた。

斜め上に振る雹のように。
それは外門をノックする。

「一つ一つが地味に痛ぇぞあれは」
「外門の強度に比べれば問題はないレベルだが」
「あと小一時間も外門に砲撃され続けたら・・・・・」

・・・・・落ちる。
外門は落ちる。

「止めるぞ」
「あぁ」
「絶対に守る」

ヒャギ、
ヒューゴ、
ヒョウガの三人は、
外門の守りを優先した。

守るべきものがそこにはあるから。






「ウェポンブレイクか」

ツヴァイは呟く。

「詩人のスキル。呪文の代わりに歌でスペルを奏でるのが吟遊詩人だが、まさか声だけで行う男がいるとはな」

「そんな大層なもんじゃねぇよ。要は気合だ!!!」

グッと拳に力を込める。
ギルヴァングが言うからこそ説得力のある言葉だ。

「さぁてやろうぜツヴァイよぉ。燃えたぎる血が冷めるこたぁねぇとはいえ、沸騰しちまうほどだからな。
 グツグツと煮えてる俺様の闘志を納得させるバトルを俺様にくれやがれ!」

「ふん。暑苦しいのは好まない。そして・・・」

ユラリと、
その長き黒槍を目前に構える。

「お前の嫌いな"武器"とやらがここにもあるぞ。オレの場合は別問題にしてくれるのか」

「ヴァカ言うんじゃねぇぜ!!!」

ギルヴァングはギャハハと握った手を一度開き、

「もちろんそれも押しつぶす!」

もう一度握る。

「例外なんてねぇ!漢はぁよぉ!体一つでぶつかってこそ華があるってもんだろうが!!!」

「なら砕いてみせろ」

「ギャハハ!いいねぇ!挑発ってぇのは乗らねぇ手はねぇもんだ!だから燃えるんだ!
 だが一つ言っとくぞゴラァ!!俺様が武器破壊出来なかった相手は・・・・ロウだけだぜ?」

「そうか。ならば壊せないというわけだな」

「どういう意味だ!!」

「脳まで筋肉だな。体で気付くがいい」

「ギャハハハハッ!!そぉーさせてもらうぜ!!!」

猛獣が飛び掛る。
どう見ても重いだろうその屈強な体が、
軽々とツヴァイに飛び掛る。

「こちとら体一つで人生楽しんできたんだからよぉおお!!!」

重い重い拳が、
腕が、
丸太のように振り切られる。

「まるで大砲だな」

そう言いながらもツヴァイは首一つで避ける。

「動きが素直すぎる」

キメ細やかな黒い長髪が、
輝くように揺れた。

「つまり、当たらなければどうということはない」

「当たったらどうなるかなぁ!!!!ギャハハハハッ!!!!」

ドゴンッ!と遅れながら轟音が響いた。
風圧。
腕の風圧だけで、
外門が揺れた。

「当たらぬからどうということもないのだ」

ツヴァイはそのまま、
黒い髪を流したまま、
後ろ足を大きく回す。

「そして当てるから意味があるのだ。お前の敗因を教えてやろうか?
 ・・・・・ふん。お前が兄上の下に居るという事は・・・・・」

後ろ回し蹴り。
ツヴァイのそれが、

「オレより下という事だからだ」

ギルヴァングの首に突き刺さった。

「ギャハハ!!」

だが、
モロに直撃したはずだ。
ツヴァイの攻撃をだ。
だが、
ギルヴァングは微動だにしなかった。
ツヴァイの足が、ギルヴァングの首に突き刺さっているだけ。

「きかねぇなぁ・・・」

ケロっとした笑う顔が、
そこにあるだけ。
まるで効いていない。

「当たったからってどういうこともねぇなぁ!!!」

ぶんっ、と豪腕でギルヴァングは掴みにかかる。

「・・・・チッ」

ツヴァイが軽やかに後ろに下がり、それを避けた。

「鋼鉄を蹴飛ばしたような感触だった」

「そんな柔らかいモンと俺様の体を比較すんじゃねぇ!鍛えてるんでな!!よぉ気合だ!!!」

楽しそうに、
純粋に闘いを楽しみながら、
ギルヴァングはツヴァイを追いかけ、
腕を振り落とす。
豪腕が振り回される。

「馬鹿も過ぎればここまで来れるか」

もちろん、
ツヴァイにその腕は当たらなかったが、
ギルヴァングの腕は、
そのまま地面を吹き飛ばした。
爆弾が爆発したかのような威力だった。
地面が弾け飛ぶ。

人間の体など粉々になるだろう。

「ギャハハハハ!いいぜ!メチャいいぜ!!もっと熱くバトろうぜぇ!!!ゴォオオルァアアアアア!!!!!」

何も考えていないかのように、
ギルヴァングはツヴァイを追いかけ、
腕を思いのままにぶん回す。

「扇風機にしては強すぎるな」

ツヴァイの黒髪が流される。
パンチの風圧だけで並の人間なら吹き飛んでいるだろう。

「漢ならぁぁ!!台風の一つくらい気合で起こせてなんぼだろうよぉおおおお!!!」

飛び掛りながら、
ギルヴァングは腕を見え見えにもほどがあるほどに振りかぶる。

「オゥルァアアアアアアアアア!!!!!」

それだけでも爆撃が飛んでくるかのような威圧感があった。

「漢のロマンはぁぁぁあああああああ!!!!」

「阿呆のように死ぬことか?」

だからといって、
ツヴァイがそんな隙を逃すはずがない。
相打ちでも自分が死んでしまうような状況だろうと、
ツヴァイは見逃さない。

槍を突き出す。
それは鋭く、
無駄もない。
真っ直ぐ。

拳を振り上げて飛び掛ってくるギルヴァングに突き出す。

一つはカウンター。
一つは絶対的なリーチの差。
その二つが相まった槍の一撃。

ギルヴァングの勢いが強烈だからこそ、
避ける手立てはない。

「おぉおおっと!!!」

だからそれは、
ギルヴァングの才能だっただろう。
というよりは本能。
天性の才能でなく、
野生の本能。

ギルヴァングのずば抜けた反射神経が成す技で、
拳は軌道修正される。

「壊されたいってぇかぁぁあああ!!!?」

むしろ愚作。
ギルヴァングの拳は、
ツヴァイでなく、

槍そのものを狙った。

槍を側面から、吹き飛ばす。
打ち砕くための拳に変化した。

ガードとかそういうレベルではなく、
ぶつかればどう足掻いても・・・・槍は粉砕される。

「武器なんて使ってんじゃねぇええええええ!!!!」

猛烈で豪烈。
その拳が、
ツヴァイの槍にぶち当たる。

「ふん」

砕け散・・・・

「ぁあ?」

ったかと思ったが、
ツヴァイの槍は、
そのまま彼方へと吹き飛んだだけだった。

「猛獣はすぐに餌に食いつくから扱いやすい」

ツヴァイが自ら手を離したのだ。
槍をわざと吹き飛ばさせた。

「槍はオトリだ」

次の瞬間にはツヴァイはギルヴァングの懐へと潜り込んでいた。

「同じだっ!メチャ同じだっ!壊そうが吹き飛ばそうが!てめぇの武器さえ無くなれば俺様は本望よっ!!」

「本望か。死んで本望とはいい事だな」

懐、
超至近距離にて、
今度はツヴァイの拳が振り切られる。

「効かねぇっつってんだろっ!!!」

だがやはり、
その拳は、ギルヴァングの硬き腹部で停止した。
屈強すぎるその体。
ツヴァイの拳でもダメージは与えられない。

「武器はなんのためにあると思う?」

「ぁあ!?ガチンコできねぇ弱者がすがるだけのもんだろっ!!」

「そうだ」

ツヴァイは無表情で言う。

「武器とはハンデ。この拳はそのハンデの差だ」

ギルヴァングの腹部に突き刺さっているそのツヴァイの拳。
生身で貫けないならば・・・
ハンデが必要だ。
ツヴァイの拳には・・・・・

刃が握られていた。

何の刃か?
それは、
その場に落ちていた刃の破片。

砕かれた・・・・・ツバメのダガーの破片。

刃の破片を握っての拳だった。

「握るオレも痛みはあるがな。貴様を傷つけるためならそれも構わん」

「ギャハハハッ!!!やるねぇ!・・・・・だがメチャ無駄だ」

「む」

ツヴァイの拳から、
刃がボロボロと零れ落ちた。
握って腹部に叩き付けたのに、

砕けたのは刃の方だった。

「刃で傷つくほど!柔な鍛え方はしてないんでなぁ!!!」

「・・・・・呆れた丈夫さだ」

「ありがとよぉ!!!!」

ギルヴァングはそのまま、
ツヴァイの腕を掴んだ。

「・・・・チィ・・・・」

「ゴォオオルァアアアアアアア!!!!!」

ツヴァイの体が浮く。
いや、

振り回される。

ギルヴァングはツヴァイの腕を掴んで、
まるで投げ縄のようにぶん回し、

「己の体より!!強ぇもんなんてねぇんだよぉおおおお!!!!」

ツヴァイをぶん投げた。

「ごはっ!!」

そして、
外門へと叩き付けられた。
巨大な外門は揺れる。
外門の表面に、
人型のくぼみが出来る。

「馬鹿・・・・力め・・・・・」

よろり・・・・と、
外門から剥がれ落ちるツヴァイ。

「褒め言葉だ!!!!」

そこに追い討ちをかけるように、
ジャンプで飛び込むギルヴァング。

「漢のロマンはよぉお!!破壊力だからなぁああ!そして・・・見逃さねぇぜ!!!!」

ギルヴァングは突っ込みながら、

「盾なんて使ってんじゃねぇええええええ!!!!」

ツヴァイのもう片方の武具。
片手に持つ盾を狙う。
拳を、
破壊のために空中で振り上げる。

「オレも・・・・・・」

「ぐぉ!!」

だがカウンターと言わんばかりに、
その盾を、
突っ込んでくるギルヴァングの顔面に叩き付けた。

「やられっぱなしは性に合わんのでな」

そしてそのまま、
ギルヴァングもろとも地面へと逆に急降下する。

「落ちろ!!カスがっ!!!!!」

外門下。

地面が跳ね上がった。


































「さてどうする」

味方の壁配列の内側で、
ヒャギは腕を組んで考える。

「未だ突破されていないのは吉兆」
「だがこれでは逆にこの砲弾の主には近づけねぇな」

鉄壁とは、
相手を寄せ付けないものだが、
逆に、
自分達も外へは出ていけない。

「隊長!!」
「道を開けるか!?」

盾部隊の者達が、
迫り来る敵をなんとか押さえつけなながら、
ヒャギ・ヒューゴ・ヒョウガに言う。

一瞬も油断できず、
今にも押し込まれそうな状況。

「んな事したら崩れるだろ」
「もうちょっとの辛抱だ。おめぇらは体張ってくれ。おらっ!ドラゴンスケイル!」
「タクティクス!!」

増強。
ヒューゴとヒョウガの補助を軸に、
壁達は必死に持ちこたえる。

守るべきものがあるのだ。
なら、

守れる。

「うぉ!」

背後で轟音。
振り向けば、
外門の直下の地面が跳ね上がっていた。

「ウヒョー・・・勘弁してくれよな」
「あのレベルで戦うなら外門から離れたとこでやってくれ」
「"ついでに外門も壊れました"じゃ目も開けられねぇ」

事実、
成りかねないから注意を逸らせない。
だからといって、
ツヴァイとギルヴァングの戦いなど、
干渉できるものはココにはいない。

「さすがに押し返されてきてるな」

視点は騎士の壁に戻る。

「タクティクスのカウンターやドラゴンスケイルの防御力の問題じゃない」
「勢いと消耗」
「ヒャギのナイトユニークが無けりゃとっくに押しつぶされてる」

だが、
堪えている。

「外門は、今まで無かったから突破されてただけだ」
「あれば」
「突破などさせない」

事実、
戦力的に圧倒的不利でも、
彼らは反乱軍をものともしていなかった。


「確かに、突破は無理かもなぁ」

当たり前のように、
突然、
ヒャギ・ヒューゴ・ヒョウガの後ろから、
声。

「ヒュゥ・・・」
「ウッヒョ!!」

躊躇いもなく、
ヒューゴは盾を、
ヒョウガは槍を、
背後のその者に突きつけた。

「あーやめやめ。俺にんな事しても無駄。だって戦力になってねぇもん」

そこには、
いけ好かないピアスをした盗賊が立っていた。

「貴様、いつの間に」
「どうやって内側に来た」

「小細工だけが取り得でねぇ」

ドジャーは、
盾と槍を突きつけられたまま、
手ぶらで両手をあげた。

「突破は無理でも侵入は盗賊のお家芸なわけよ。カッ、だからって何が出来るってわけでもねぇんだけど」

ツバメが侵入できたように、
ドジャーにもそれくらいは出来た。
機動力という一点に置いては、
さすがにまだネガティブにはなれない。

「カッ、焦んなって。俺よぉ、情けねぇ事に死骸騎士倒すような火力ねぇわけ」

その自虐に対しては、
ドジャー自身も失笑ものだ。
事実、
そこらの兵士さえ仕留められないのだから。

「ならば」
「貴様は何をしに来た」

「手も足も出ねぇなら、口しか出せねぇだろ?挨拶だよ」

そしてドジャーは、
天を指差した。

「天気予報だ。今日は"曇るらしい"ぜ?」

無害なドジャーを尻目に、
ヒャギ、
ヒューゴ、
ヒョウガの三人は、
天を仰いだ。

「なっ・・・・・」

一目で分かる現状。

「てめぇらの表情がな」

ニヤりと笑うドジャー。
そう。
そして天。
そこには、

無数の石塊が浮かんでいた。

「カカカッ!フレアを守る必要がなくなったからちょいと曇り顔だけ見に来たんだよ」

「クソッ!!!」
「すでにメテオの準備が終わってやがんのかっ!」
「ハヤテの馬鹿は何をしてる!」

「あぁ、あのステルス水着女か。ありゃぁ鍵が閉まっててこの広場に来れねぇって嘆いてたぜ」

「チッ」
「クソッ!!」

「おっと」

盾と槍が、
同時にドジャーを襲ったが、
唯一の取り得で、
それを避ける。

「いいねぇ。そーいうのを見に来たんだ」

カカカッと笑うドジャー。

「俺が言いに来たのはそーいう事だ。そうだろ?
 てめぇらは守る。守りたいもんがあんだろ?だから守ってんだろ?」

「あぁそうだ」
「貴様には分かるまい」

「分からねぇなぁ。俺は守れなかったんだからよぉ」

ドジャーは指を付けつける。

「俺の守りてぇもんはもう戻ってこねぇ。失っちまったんだからな。
 だが戻ってこねぇ守りてぇもんを・・・・奪い返しに来てやった。それだけだからな」

八つ当たりに近ぇよ。
そう続け、
ドジャーは指をさらに向こうへと指し示す。

「見てみろ」

それは、
先ほどまでは押しつ押されつの戦いが繰り広げられていた、
盾の配列。
だが、

「・・・・・敵が退いた?」
「何故だ」

反乱軍の者達は、
一度後退を始めていた。

「言ったろが、メテオが降ってくんだよ。てめぇらと、外門に、ドデカいノックをするためにな」

「巻き込まれないためか・・・・」
「くっ・・・・」

「経験不足か?そういや、外門守備部隊のクセに外門の守備経験が全然無いんだったな。
 なら残念ながら、そりゃぁ人生最後の苦い思い出になるだろうよ」

「ふん」
「だが・・・だがだ!」
「メテオが降り注ごうとも」
「地が裂けようとも」
「俺達は絶対に屈しない!崩れない!」
「守りたいからこそ!守り通すからだ!」

「そうだろうな。だが、スタートボタンは押されちまったようだぜ?」

その言葉と同時に、
盾部隊から、
一つ悲鳴。

振り向けば、
一人が蒼い炎に撒かれていた。

「主人公が辿り着けばイベントの発生だ。英雄ってカギが、門を開けに来たぜ」

一人、
炎で浄化され、
空いたその隙間から見えるのは、
一人の騎士。

「・・・・・ぐっ・・・・」
「裏切り者・・・・」
「アレックス部隊長か!」

その視界の隙間から見えるアレックスは、
パージフレアを発動後のまま、
指を突き上げた状態。

「盾は前を守るものです。真下からの攻撃を避ける術はありません」

そしてアレックスの右手には、
青い。
蒼い、
炎・・・・オーラを纏った、
オーラランスが揺らめく。

「カギを持った英雄の登場です。大人しく道を開けてもらいましょう。僕らの・・・・進む道をね」

天を見上げれば、
今にも落ちてきそうな、

メテオの雨。


































「ヤバ・・・・カッコいい・・・・・オシッコちびりそう・・・・・」

それはそれは、
この外門前広場の、
端の端。

外門からは逆に遠ざかった場所で、
植木の隅から体半分だけ顔を覗かせる女。
顔を覗かせると言っても、
前髪が長すぎて顔は見えない。

「さすがアー君・・・・「大人しく・・・股を開け」・・・だなんて・・・・」

数秒でアレックスのセリフは地に落ちた。
酷い女だ。
妄想だけで人のいい場面を最低化する。

「それにしてもあの泥棒猫のメテオ。いつ見てもイイ感じはしないわ」

木の陰から、
スミレコは天を仰いだ。
空を埋め尽くす、
無数のメテオ。

「終焉戦争で内門を破ったときよりは規模が小さい・・・・急いたわね。
 これだから猫は駄目だわ。目先しか見えてないんだから」

だが、
それでも外門へ大打撃を与えるには十分にも十分過ぎた。

「どっちにしても私のアー君がいるんだもの。外門は突破できて当然。
 アー君なら小指一つでこれくらいの困難十分切り開けるわ」

スミレコのアレックスへの過大評価は酷すぎる。
アレックスの小指のどこにそんな超絶な性能が隠されているというのだ。

「・・・・・・そう。突破は必ずする」

木の木陰で、
スミレコは少しだけ遠い目をした。

「・・・・そうしたら・・・きっとその先には・・・・ロウマ隊長がいる」

必ず。
絶対に。
ロウマ率いる44部隊は、
アレックス達に立ちはだかるだろう。

「その時・・・私は・・・・」

それが、
スミレコの今の状況だった。
愛すべきアレックスから離れ、
一人こんな隅で傍観している理由。

・・・・・。
決心したつもりだった。

だが、
いざその場面が近づいてくると・・・・迷いがあった。
どうすればいいのだろう。
もし、
このままロウマ達とぶつかる事になったら、
その時。

「自分はどちらに・・・・」

アレックス。
アレックスに決まっている。
アレックスより大事なものはない。

だが、
それは勝敗とは関係なかった。

負けるロウマ=ハートなど見たくない。
もちろん、
自分がどちらについていたとしても、
最強ロウマ=ハートが負ける事など有りえないのだが、

逆を言おう。
アレックスが負ける事に関しては、こだわりはない。

ロウマ及び44部隊は無敗であって欲しい。
その点、愛するアレックスは負けたっていい。
もとはと言えば、
アレックスに敗北を求めに近づいたのだから。

「怖いのは・・・・失う事だけ・・・・」

なら、
自分がつくべきは・・・・

「・・・・」

スミレコは考えた。
考えに考えつくした。
それでも、
アレックスを裏切るなんて事は出来ない。

「別れるとか言われたし・・・いや・・・私達の愛が崩れる事なんて古今東西有りえないけど・・・・
 どうやったって私達は死ぬまで一緒の運命なのは変わりないわけだけど・・・・」

だけど、
どうする。
どうする。

「・・・・・・・」

スミレコは、
メテオの空の下、
木陰で、
その戦いの最中のアレックスを見据えた。
そして・・・

「・・・・・・アー君カッコイイ・・・・」

とりあえず、
現実から逃避した。




































「つつ・・・・・」

瓦礫の中、
瓦礫にまみれ、
ツバメが体を起こす。

「あんなのどうやって勝てって・・・・」

ギルヴァングに吹き飛ばされて、
少し意識さえ失っていたようだ。

城壁に直撃し、
瓦礫の中から顔を出す。

「姉御!」
「大丈夫ッスか!?」

黒スーツのヤクザが数人近寄ってきた。

「盾の外側まで吹き飛んでたのかい。情け無い」

体を起こしても、
そのまま瓦礫に体を任せながら、
片手で自らの顔を覆う。

「命があっただけでも儲けモンでさぁ」
「あいつぁ化け物ですぜ」

「その化け物に歯向かえないとこの戦いはやってけないんだよ」

そうは言ってもこの様だから情けないのだった。
少し視線を変えれば、
外門の下でツヴァイとギルヴァングが戦っていた。

「うちはどうあってもあの中には紛れられないのかねぇ」

誰だって無理だ。
だけど、
不甲斐ない気持ちでいっぱいになる。

「それより姉御」
「上をご覧なせぇ」

「ん?」

瓦礫の中で、
天を見上げる。

「おぉ、フレア嬢がやってくれたか」

天空には、
無数の隕石が滞在していた。
埋めつく勢いで、
そして、
今にも落ちてきそうに。

「あん方はさすがだぜ」
「外門突破の道が見えてきた」

「あぁ。あぁいうのがお呼びなんだよ」

味方ながら天晴れだ。
皆が期待していて、
その期待の通りにしてくれる。

「そうと決まればうちらもグズグズしてらんないよ!」

「分かってまさぁ!」
「極道の意地を見せてやりやしょう!」

そう言い、
ツバメは瓦礫から抜け出し、
スーツを羽織い直した。

「さぁて・・・・」

一仕切り恰好をつけたところで、
ツバメは気付いた。

「あ・・・・」

その手に、
ダガーが無かった。
ギルヴァングに破壊されたんだった。

「姉御」

黒スーツの一人が、
ツバメにダガーを投げてよこす。
ツバメはそれをキャッチし、
見る。

「・・・・・」

本当に自分は何をやっているんだろう。

やられるだけやられ。
屁の役にも立たず、
戦う術、
たった一本の武器さえ守れない。

フレアはよくやっている。
それに比べて自分はなんだ。

《昇竜会》
《メイジプール》

その二つは《GUN's Revolver》を含め、
15ギルドの中の3頂点だった。
GUN'sは潰れ、
残りの二つは、

魔道リッド、木造りのリュウの絶世紀から、
マリン、トラジに受け継がれ、
さらにそこから、
現在のフレア、ツバメ時代に突入した。

《メイジプール》も《昇竜会》、
以前の二代と比べれば明らかに劣化している。
だが、
それでもフレアはこうやって自分のすべき事をしている。

自分は何をやっているんだ。
役に立たず、
武器まで破壊され、

無様を晒している。

死んだリュウやトラジにどう顔向けすればいい。

「竜にならなければいけないのに」

竜に。
天へ登る竜に。

「燕(ツバメ)という名の竜(リュウ)に・・・・燕龍(ヤンロン)にならなければいけないのに」

このままではいけない。
このままじゃ。
こんな事で、
竜になれるか?
天へ駆け上がれるのか?

「"アレ"を持て」

ツバメは、
受け取ったダガーを投げ捨て、
城壁に突き刺した。

「アレ?」
「姉御・・・アレって・・・」

「お呼びだ!持ってくるんだよ!」

ツバメの目は険しいものになった。

「いや、姉御・・・」
「そりゃぁいいけど」
「アレは姉御にゃ合わねぇ。むしろ姉御の持ち味を半減させちまう」

「いいから!」

自分は・・・・不甲斐ない。
なら、
自分の強みはなんだ?

それは極道。
血という義理。
家族の契り。

それは受け継ぐ力。
それが極道の力だ。

なら、
受け継いでみせる。

「さっさと持ってくるんだよ!木刀"大木殺(だいぼくさつ)"を!」


































「数撃ちゃ当たるっ!!数撃ちゃ当たる!!!」

念じるように、
マリナは撃ち放っていた。
確かに当たってはいたが、
それは命中率という点では及第点には達してなかった。

「あーもう!!見えない敵とか面倒でたまらないわっ!!快感が無いのよ快感が!
 イスカ!さっさとレーダーやってよレーダー!どこ撃てばいいのよっ!」
「・・・・待ってくれマリナ殿」

ここ、
外門前広場に繋がる入り口。
そこに立ち塞がる二人だったが。

「くっ・・・・」

イスカはとりあえず近場の空間を切り裂いた。
何も無いそこから、
インビジで姿を眩ましていた者が、
バラバラになって崩れ落ちる。

「すまぬマリナ殿・・・・近場しか捉えきれん」
「ぇえ!?」

マリナは適当にマシンガンをぶっ放しながら、
イスカの方を向いた。

「ちょっとちょっと!さっきまで自信マンマンだったじゃない!
 超自信マンマンの大盛激辛御代わりご自由にどうぞって感じだったじゃない!」
「確かにそうだったが・・・・」

イスカは心を落ち着ける。

「・・・1・・・2・・・」

確かに、
イスカであれば・・・
恐らくこの世で唯一イスカであれば、
ステルス部隊を捉える事が出来る。

「駄目だ・・・数が多すぎる・・・そして速過ぎる・・・」

肉眼で見えず、
足音もなく、
砂埃さえたたない完璧なインビジだ。
それを捉えるには並大抵の集中力では足りない。

「移り変わる状況では指示し尽くせない・・・・近場だけならば反射でどうとでもなるが・・・・」

結論から言えば、
速く・多すぎるため、
追いつかないという事。

「・・・・もー!そんなんじゃあんたドジャーより役に立たないわよ!」
「それは酷い言い草だ!」

そう言いながら、
イスカは近場の敵を切り裂く。
空間に見えない敵。

「ディテク使えるだけドジャーのが役に立ったかもよ!」
「あ奴じゃただのレーダーだ!マリナ殿を守れるのは拙者だけだ!」

譲れない。
マリナを守るのは、自分だけでいい。

「あっ・・・・」

闇雲に撃ってもラチが空かないので、
マリナはふと空を見上げた。

「見て見て、イスカ。メテオの準備が終わってるわよ」
「すまぬ!目を離すヒマなどない!」

ただでも見えないのだ。
一瞬も目が離せない。
気を逸らせない。

「凄いわねー。絶景って奴ね。アスガルドでエン=ジェルンやスイ=ジェルンがやってたのも凄かったけど、
 こうやって身近な世界の空に広がってみると、やっぱり凄さが分かるわー」
「見てくれマリナ殿!拙者のが凄いぞ!敵を倒している!」
「今度お店から見えるようにメテオやってって頼んでみようかしら。お酒のツマミに凄くいいわ」
「くっ・・・・」

メテオ如きにマリナを取られてたまるか、
と、イスカは戦いに専念するが・・・。

「ニンニン♪どうした?その程度ニン?」

どこからともなく部隊長ハヤテの声。
だが、
声がした方を見たところで、
もはやそこには居ないだろう。

どこにどう移動したかも分からない。

足跡一切無しのインビジ移動。

「そこに居たかガリガリ女っ!!!」

一瞬でマリナが豹変する。
ギターをガッシリ構え、
無闇に闇雲に乱射する。

「蜂の巣にしてやるっ!!!」

「ニンニン♪こぉーっちだよぉー!デブ女!」

「ミィーンチにしてやる骸骨女ぁぁあああ!!!」

当たりもしない。
乱射に乱射。
恐らくマリナはもうハヤテ=シップゥだけ仕留められればいいと思っているのだろう。

「それにしてもヤバいニン。フレアを止められなかったニン」

どこからともなく聞こえる声。

「これは懲戒免職並の任務失敗ニンな・・・・ヒャ・ヒュ・ヒョの三人に怒られそうだニン」

「あんたを人生から懲戒免職にしてやるわあああああ!!!!」

恐ろしいほどの豹変ぶりだ。
迷いが一切無い。
粉微塵にしてトンコツスープにする気がマンマンだ。

「マリナ殿」
「何!?あんたもぶっ飛ばされたいの?!」
「いや・・・フレア殿がメテオを発動したという事は、ここを守りきる理由も少々希薄になったという事」
「なるほど!好き勝手ハチャメチャに料理の限りを尽くしてももいいというわけね!」
「ちが・・・・」
「うぉおおおおおお!!」

雄雄しき声をあげながら、
マリナはマシンガンを撃ちならし、
突っ込んでいった。
敵がどこに居るのかも分からないクセに。
映画ならばさっさと見せ場として死んでしまうタイプだ。

「敵も・・・突破よりこちらへの攻撃を優先してくると言いたかったのだが・・・・」

その通りだ。
すでにフレアを止める作戦は失敗している。
ならば無理に突破するよりも、
マリナ・イスカ両名を倒しに来るはずだ。

「どうする拙者」

ラリった軍人のようにマシンガンの弾を周囲にバラまくマリナを見据えながら、
イスカは考える。

「だからと言ってココを通すわけにもいかんだろう。だがマリナ殿が優先。
 ・・・・・拙者もこの入り口を離れて戦うべきか否か・・・・うぅむ・・・・」
「イスカァァァア!手ぇ出したらぶん殴るかんね!!!」
「・・・・」

思考する自由は与えられなかった。

「マリナ殿の頼みではしょうがないか。出来れば身を持ってマリナ殿を守りたかったが」

「ぐぁっ!!」

瞬時にイスカが剣を切り裂き、
敵が崩れ落ちる。

「一番の標的になるのはやはりこの入り口。一匹でも多く敵を倒せるならば、それがマリナ殿の安全。
 了解だ。出来るだけ多く、マリナ殿を守ろう。殺そう」

敵を殺す事が、
マリナを守る事なのだから。


「どこだうりゃぁぁぁああああ!!!」

やたらめったに、
マリナはマシンガンを撃ち鳴らす。

「こいつも違う!こいつも違う!!!」

周りの空間を埋め尽くすように撃ち続けていれば、
自然と数発は敵に当たる。
それで現れ、
崩れていく敵達だが、
その中にハヤテ=シップゥの姿は無い。

「ニン♪こっちニン。こっちニン」

「そこかあぁぁぁああ!!!」

照準を絞って撃ちまくる。
だが、
街の植木が穴だらけになっただけだった。

「へたくそニン!!」

「どこだ骸骨女!!」

撃っても撃っても、
見当たらない。
見えないし、
当たらない。

「ニンニン♪こっちだほぉーい!」

「このぉ!!!」

声がする方にギターを構える。
だけど、
すぐ背後から気配を感じた。

「死ね」
「重火器女め」

「!?」

マリナは咄嗟にギターを逆手に持ち替え、

「邪魔だぁぁあああああ!!!」

ハンマーのように、
バットのように振り切る。
何も無い空間から、
砕けた骨が二人分現れて吹き飛んだ。

「あーウザいウザいウザい!!!隠れて隠れてチョロチョロとぉ!」

「ニンニン♪かーぁーくれんぼしーぃーましょ♪」

「だぁーれがするか!!」

適当に撃つ。
だからといって、
手ごたえはない。

「鬼さんこちら」

「このぉ!」

声がしたから咄嗟に振り向き、
マシンガンを乱射したが、
それはハヤテの声でさえなかった。

「もぉーいーかい?」

「何?!何なの!」

声がする方へ、
まんまと銃口を向けて乱射する。

「かーくれんぼしましょ」
「手のなるほーへ」

マリナは撃つのをやめる。
そして周り一帯。
360度体を回し、
見渡す。

「鬼さんこっちら」
「もーいーよー」
「こっちだ」
「ここだよ」

「な、なんなのよ・・・・」

一見何もない空間。
イスカと、
マリナしか居ない空間。
だがあらゆる場所から声が聞こえてくる。

マリナを囲むように、
惑わすように、
見えない敵が撹乱してくる。

「かーごめかーごーめー」

マリナの周囲360度から、
見えない声が鳴り響く。

「かーごのなぁーかのとぉーりぃはー」
「いーつーいーつー出ーやぁあるぅー」

歌が聞こえてくる。
ステルス部隊達の声が。

「ふざけちゃって!!!」

マリナはとにかく撃つ。
敵はどこか分からない。
それでいて、
どこにでも居るような感覚。
弾丸は空虚に撃ち鳴らされるだけだった。

「よぉーあぁーけぇーのーばぁーんにー」
「つぅーるとかぁーめがすぅべぇーったぁー」

「このっ!!このぉ!!!」

撃つ。
撃つ。
だが、
どこに居るかも分からない敵。
先ほどまでは適度に当たっていた弾丸も、
まるで当たらない。

なのに周りから声は聞こえてくる。
まるで幽霊のように。
360度。

笑い声さえ聞こえてくる。

「出てきなさい!!!」

撃っても撃ってもあたらない。
声だけが存在しているように。

敵は居るのか?
足音も無い。
存在が無い。

亡霊と戦っている。

「後ろのしょーめんだぁーーーあれ?」

「!?」

ビクりと、
肩を上げた。
その声は背後・・・・どころか、
完全に耳元から聞こえた。
距離にして数cm。
ずっと真後ろに居たかのように。

「ニン♪」

「ぐっ!!」

急いて逃げ跳んだが、
脇腹に痛み。
攻撃の際にハヤテの姿が見えた。
ウッドダガーがマリナの脇腹に食い込んだ。

「ニンニン♪ダイエットしてたら避けきれたかもニン♪」

また居なくなる。

「マリナ殿っ!!」

イスカがそれを見て救援に向かおうとするが、

「ぐっ!邪魔だ!!」

そうはさせまいと、
見えない気配がイスカに飛び掛る。
そちらの対応だけで、
イスカはマリナの方へは向かえない。

「・・・・・このマリナさんを舐めてくれるじゃない・・・・」

アザになった脇腹を押さえながら、
どこに発していいかも分からないが、
声を投げ飛ばす。

「かぁーごめ、かぁーごぉーめー」

また歌が始まる。
どこにでも居るし、
どこにも居ない。

どこを狙っても居るし、
どこを狙っても無駄。

「かぁーごのなぁーかのとぉーりぃーはー」
「いーつーいーつー出ーやぁーあるー」

「・・・・・」

また来る。
マリナでは存在を察知できない。
歌の通りならば、
次も来るのは背後。
後ろの正面か?

「そんな単純なはずもないわね・・・・」

なら360度、
どこから来る。

「よぉーあぇーけーのーばぁーんにー」
「つぅーるとかぁーめがすぅーべったぁー」

来る。
来る。
タイミングだけはココのはず。

「このぉおおおお!!!」

適当に、
適当に撃ちまくる。
マシンガンを。
空虚に。
無意味に。

「後ろの正面」
「だぁーれ」

「い・・・・」

左右。
左肩と、
右の腹。

同時にステルス部隊が現れて、
ウッドダガーをマリナに食い込ませた。

「・・・・・ったいわね!!!!」

マリナはすぐさまギターを振り回し、
ぶん殴ろうとしたが、
敵は攻撃の際に一瞬姿を見せただけで、
もう居なかった。

「ニンニン♪」

痛みで蹲るマリナをよそに、
どこからか、
ハヤテの声が聞こえる。

「見えない事は恐怖じゃないニン。居るのに見えない事が恐怖なのニン」

スモーガスも同じような事を言っていた。
だが、
これはその真逆とも言える。

「動物も鳥も虫も植物さえも、ステルス部隊の存在を認識することはないニン。
 それはまるで風さえも気付けない、これが真っ白なステルスという隠密ニン」

ならどうすればいい。
どうやら、
あらかた片付けたせいで、
先ほどまでと違い精鋭ばかりが残っているようだ。

「こっちから見えなくても、そっちからは丸見えってことね・・・」

「そーゆーことニン♪」

今残ってるメンバーは、
およそ、
マリナの動きを見てから回避が出来る者達なのだろう。
盗賊以上の瞬発力。
いや、
王国騎士団なる精鋭。

「・・・・・・」

ならどうする。
どうすればいい。
見えないのに、
当たらないのに、
まだ攻撃するか?
どうする。

「・・・・・・考えるのはマリナさんの性に合わないわ」

マリナはそう結論付け、
立ち上がり、
ギターの先にエネルギーを集中させる。

「一発にかける気ニンな」

マリナはギターの銃口に、
魔力の塊を集結させていく。

「その通りよ」

マジックボールは変幻自在。
ただの魔力だから。
それは思いのままに増減する。

「撃たなきゃ当たらないんだからね!!」

「ニン、お前ら、下手な鉄砲なんかに当たるんじゃないニン」
「分かってます」
「そんなヘマはしない」
「私達はステルス」

マリナのギターの先に、
巨大なマジックボールが出来上がっていく。

「パーティーの時間よ!!!」

そしてマリナは、
その銃口を・・・・天に向けた。

「数撃ちゃ当たる!!それを変える気はないわっ!!MB16mmダムダムランチャー!
 フレアのメテオの前に、マリナさん特製メテオをプレゼントしてあげるわ!」

そして天に打ち上げた。
大きなマジックボールの塊は、
真上に飛んで行く。

「弾けろ!」

そして炸裂弾は、炸裂した。
天空で弾け、
周囲に弾丸の雨を落とす。

「ニンッ!?お前ら!避けるニン!!!」

ハヤテの指示が聞こえる。
聞こえるが。

「避けるったって・・・」
「どこに!?」

マリナの真上を中心に、
広がり落ちてくる弾丸の雨。
それは雨でありながら、
さながら傘のような形状で落ちてくる。
マリナ周囲一帯を包み込んでしまうかのように、
逃げ場の無い、弾丸の雨。

「ぐぉ!!」
「ちくしょぉ!!」

降り注いだ。
弾丸は、真上からステルス部隊を撃ち砕いていく。
次々と姿が現れ、
砕け、
消えていく。

「難しい事考えるのは苦手なのよね!当たればいいのよ当たれば!!!」

その弾丸の雨。
その演奏の指揮者のようにマリナは中心で叫んだ。

「そのまま穴だらけになっちゃいなさい骸骨女!!!」

次々と昇華していく。
雨に撃たれ、
ステルス部隊の姿が現れては、
蒸発するように消えていく。

そして、
炸裂弾の雨は降り止んだ。

「・・・・・・ハヤテは?!」

かなり、
いや、
数的にほとんどの敵を倒しただろう。
だが、
ハヤテが撃たれた場面は見れていない。

「5人だマリナ殿」

イスカが言った。
と同時に、
イスカが剣を一瞬で3度振り、
骸骨が2体細切れになった。

「訂正する。あと3人だマリナ殿」

予想以上の効果をあげたようだ。
完全にマリナの周りに密集していたお陰で、
炸裂弾の成果はてき面だった。

「イスカ!ハヤテはっ!!」
「・・・・・着弾した様は見ておらん」

イスカは辺りに集中する。
あと3人。
そうは言ったが、
今は2人分の気配しか感じられない。

「避ける際に少し気配が零れただけのようだマリナ殿。
 2匹の所在は分かるが、ハヤテという輩の気配は今は皆無」
「少なくなったから集中が分散されないでしょ!?見つけれないの!」
「・・・・・・・・・・それでも分からん」

誰よりも5感に優れているイスカでも分からない。
それは、
もう世界でハヤテの気配を感じられる存在は居ないのと同意語だった。

「ほんと気に食わない女だわ・・・・」
「マリナ殿!上だ!!」
「分かったわよ!!!」

マリナはイスカの声と同調しているかのように、
ギターを真上に構えると同時に撃ち放った。
弾丸が数秒撃たれると、
骨の残骸がマリナの周りに落ちて昇華していった。

「・・・・・こいつもハヤテじゃない」

「そう、ハヤテはここニン」

「がっ・・・・」

また、
脇腹。
ウッドダガーが食い込んだ。

「ニンニンニン♪」

一瞬姿を見せ、
消えていくハヤテ。
イスカが逃さぬよう、
剣を構えて飛び込んだが、
そこはすでに空虚だった。

「無駄ニン。あんたらにはもう捉える事は無理ニン」

「この・・・・イスカ!私の横に居て!」
「そう言われて断る理由はない」
「あんたなら至近距離まで来たらさすがに察知できるはず!逃さないでよ!」
「了解」

「無駄だと言ってるニン」

どこからともなく聞こえてくる声。
それに惑わされてはいけない。
ギターだけは構えておく。
イスカも鞘から手を離さない。

「あんたに二度、攻撃を与えたニン。その際、両方ともあんたの真横に居たのに気付けなかったニン。
 そっちの侍でももう見つける事は無理だろうニン。無理ニン。無駄ニン。もうカンニン♪」

それは、
近づかれてもイスカでさえ察知できないと挑発してきていた。

「苦しくも、死骸騎士になった事で私のステルスは完璧になったニン。
 物音から砂埃さえ立てない軽さという完璧なステルス。そこに生命の鼓動さえ消えたニン。
 吐息もない。体温もない。そして心臓と脈さえ音を立てない。ステルスの極地ニン!」

・・・・。
なるほど。

「手がかり、足跡(そくせき)、何一つ残らないわけね」

そんなもの、
どうやっても察知できない。

「風にさえ揺らめきを与えないニン。私は空虚。誰にも気付かれないニン!」

「来るぞ!マリナ殿!」
「どこから!!!?」

分からない。
無闇に乱射するマリナ。
それが正解と踏んだ。
接近されても気付けないのなら、
それはイスカへわずかな希望を残し、
自分は可能性にかける。

「ここか」

イスカの目が鋭くなる。
そして鞘から剣を抜き、
瞬速の居合い切り。

「手応え」

そして微塵切りにする。
する、
が、
そこに現れた骸骨は、
最後の一人のステルス部隊の方だった。

「見えないモンがあると、見える方が気になっちまうもんだぜ」

その死骸騎士は、
最後に捨てゼリフを破棄、
消え去った。

「そして見えないものは見えないニン」

そして本命のハヤテの方は、
イスカとマリナの間。
お互いわずか数cm。
そんな距離。

「風を超えてこその疾風ニン」

「そう何度もっ!!」

マリナへウッドダガーの一撃。
三度目ゆえに、
マリナはあらかた予想していたようで、
ギターで防いだが、

「私にとっても何度もニン」

そう来る事さえハヤテには分かっていて、
もう片方の手でマリナを殴りぬける。

「くっ・・・・」

軽いゆえにそれほどのダメージではないが、
マリナは殴られ後ろによろめいた。

「ココがお主の弱点だ!」

イスカは剣を振りぬいていた。
インビジのどうしようもない弱点。
それはどうやってもたった一つ。
攻撃すれば解除されること。
ハヤテの姿は丸出しだ。

「私をなんだと思っているニン?」

だがこの超至近距離の、
イスカの剣筋さえも、
軽さを生かしたハヤテの身のこなしは受け付けない。
グルグルと回転するようにイスカの横払いを飛び避け、
そのままイスカを蹴り飛ばした。

「ちっ・・・・おのれ・・・・」

確かに軽い。
体重に比例してダメージは軽いが、
蹴りがイスカの頭に直撃した事で一瞬クラりと来た。

「マリナ殿への何度もの無礼!許さんぞ!」

頭を切り替え、
目の前の敵を切り裂こうとしたが、
もう居ない。

「遅いニン」

だがその時にはすでにイスカの真横。
視界の外。
ウッドダガーがイスカの脇腹をえぐる。

「いや、重すぎるニン」

攻撃の際に姿を現す、水着の忍者は、余裕の表情で言った。

「この骸骨女っ!!!」

マリナがイスカのすぐ横、
姿を現したハヤテへと重点的に銃弾を浴びせる。
だが、
その軽すぎるハヤテの体は、
風に浮いたかのようにジャンプして、
避けた。

「重い事は弱さニン」

ハヤテの体は空中で溶け込むように消えた。

「音も無く、温度も無いニン。形跡も無く、風さえも気付かないニン」

「黙れトンコツ女っ!!」

マリナは上空へマシンガンを撃ち鳴らす。
居るはずだ。
跳んだのだから。
だが、
弾丸は空へと消えていくばかり。

「一つ訂正するニン」

「たっ!!」

すでにハヤテはマリナの真横に居た。
マリナに足払いをかける。
着地した音さえしなかった。
空気と同化しているかのように自然に、
無音で、
無気。
無存在。

「たぁ!」

それ目掛けてイスカが剣を振る姿は、
哀しくも滑稽にさえ見えた。
ハヤテの姿は消え、

「名前の事ニン」

ふと・・挑発するように、
後ろからイスカの頬を撫でる。

「舐めおって!!」

背後に剣を振り切るが、もう居ない。
いや、
もともと居なかったかのように居ない。
どこからか聞こえる声。

「疾風=疾風と書いてハヤテ=シップゥと言ったニン。
 だけど疾風なんかないニン。風さえも失うから失風ニン」

体勢を立て直すマリナだったが、
その際、
トンッ・・・と、肩の上に違和感を感じた。

軽すぎて、
それがハヤテだとは瞬時には気付けなかった。

「失(な)い者に勝てるか?軽い(ライト)。それは正解(ライト)ニン・・・・ニン♪
 電光石火!!軽き光速!!それが疾風迅雷(ライトニンッ)!!!・・・・だニン♪」

微笑ましく笑いながら、
ハヤテはマリナを蹴飛ばした。

「キャッ!」

蹴り飛ばされ、
石畳に転がるマリナ。

「ニンニンニンニンニン♪ラァーイトニング♪」

溶け込んでいく。
また手に入らない無感触の世界へ。

「・・・・・」
「・・・・・くっ」

マリナは立ち上がらなかったし、
イスカは歯を食いしばった。

それは、結論付けられていた。
自分達では、ハヤテを捉える事は出来ない。

目で見えないし、
音をたてない。
動作の痕跡も残さなければ、
体温さえ無い。

存在していないのと同じ。

否、
なのに存在しているからこその強さ。
軽さと直結した強さ。

そして、
そして何よりも、

それを抜きにしても実力が違う。

「部隊長・・・クラス」

マリナは呟いた。
部隊長は、
ここまで三体撃破している。

その中で、
エイト=ビットは戦いとは言えないだろう。
ギア=ライダーとラブヲ=クリスティーはツヴァイだからこそ倒せた。
だが、
それだけなのだ。
真に対峙したのはこれが始めてとも言える。

「恐れるなマリナ殿」

根拠もなく、
イスカは言う。

「拙者らは二人居れば、六銃士がスミス=ウェッソンや、44部隊のスモーガス。
 格上の相手を倒してきた。否、格下だとは思ってはおらん」

「格下だニン」

笑うようなハヤテの声。

「そして格下と、隠した格上。それが今の状況ニン。六銃士や44部隊の雑兵如きと比べられては困るニン。
 GUN'Sは騎士団が作った出来レースギルド・・・・だったらしいニン?そして44部隊は騎士団の部隊ニン」

そしてハヤテ=シップゥは、
騎士団が部隊長。
52の部隊長が一人。

「確かに私達ステルス部隊は戦闘主体の部隊じゃないニン。でもそれにさえ手も足も出ないニン?」

手も足も出ない。
その通りだった。

「・・・・・だけど部隊を壊滅させた実力は褒めてあげるニン。作戦まで失敗させられたニン。
 戦い自体は私の負けニン。大敗ニン。それは認めてあげるニン。そこは軽くはないニン。脅威ニン。
 だから誠心誠意をもって、あの世まで疾風迅雷(ライトニング)な軽さで送ってやるニン」

足音も何も聞こえない。
だが、
ハヤテが近づいてくるのは分かる。
どこかも分からない。
だが、
確実に。

「くっ・・・・」

イスカが剣を構える。
集中する。
だが、
居場所は分からない。
あさっての方向を警戒している。

「このっ!調子の乗るんじゃないわよ!!!」

マリナが転んだ状態のまま、
乱射する。
当然、
当たらない。
当たらないのが自然なほどに当然。

「地獄でダイエットして悔やむニン」

イスカの近くで声が聞こえた。
間に合わない。
間に合っても当たらないだろう。
捉えられない。
居ないかのように、
攻撃が当たらない。
それはすでに・・・・・無敵。

「・・・・・・チィ!」

駄目もとで、
イスカは剣を振り切った。
だがただの駄目もとだった。

空を切っただけだった。
このまま攻撃を食らって終り。
そうとさえ覚悟したが、

「・・・・・?」

ハヤテの一撃はこなかった。
イスカは不思議に思い、
マリナの方を向いたが、

「へ?」

マリナもよく分からないといった表情だった。
見えないからこそ、
どうにも分からない。

何故、攻撃してこない。

「何をしたニン」

近くでハヤテの声。

「お前ら何をしたニン!!」

そんな事を言ってきたが、
イスカにもマリナにも分からなかった。
事実、
ハヤテが何をされたかも分からなかった。

「・・・・ディテクション」

ボソりと声が聞こえた。
それと同時に、ハヤテの水着姿が露になる。

「違う!」

ハヤテは振り向く。

「こいつらじゃない!あいつか!」

そしてその見た方向は、
外門広場の入り口だった。

その簡易門。
その脇で、
体を半分だけ出した、前髪の長い女。

「・・・・・こんなところでアー君の作戦にドロを塗られちゃ適わないわ・・・・」

スミレコが、
門の陰に隠れるようにしてボソボソと言った。
そして気付いてみれば、

「ぬ?」
「あれ?!」

イスカの両足は元より、
地面に体を任せたままのマリナの全身も。

白い糸に絡まれていた。

そしてもちろん、ハヤテの両足も。

「このスパイダーウェブ・・・・44のスミレコニンな!」

「スミレコニンじゃない・・・・スミレコだ」

門の陰でしかめた顔をした。
アレックス以外に名を呼ばれるのも苦痛だと言わんばかりに。

「アー君なら言うわ・・・・居ないも同然でもそれは居るんでしょう・・・って・・・
 そしてアー君なら言うわ・・・・スミレコさん大好き!一生愛し合いましょう!って・・・・」

後半はスルーして、
ハヤテが返す。

「貴様!騎士団のクセに裏切ったニンな!」

「そう。居ないも同然でも居るものは居る」

ハヤテの言葉など当たり前のように無視して、
自己中心的にスミレコは言う。

「居るなら、蜘蛛はかかる。ここら全部が範囲の私に死角は無い。
 視覚できなくても死角はない。私の拡散スパイダーウェブは100%かかる」

「ニン・・・・ここで盗賊登場とはニン・・・」

盗賊の天敵は盗賊。
それはマイソシアの理だ。
すぐに再発動できるとはいえディテクションはステルスの天敵。
そして動き回るものへの蜘蛛も。

「だが変わらないニン!」

「・・・・・面倒は嫌い・・・・」

ハヤテが身動きをとろうとした。
動けないのに?
いや、盗賊の天敵は盗賊。
それはお互い様だ。
インビジブルにディテクション。
スパイダーウェブにはスパイダーカットがある。

「ニ・・・ニニン!?」

だがその動作を行おうとするハヤテの体に、
糸が絡みつく。
足から、
糸が這い上がってきて、ハヤテの体を包み込んでいく。

「アー君以外を縛っても縛られても面白くもなんともないのに・・・・まったく・・・羽虫め・・・繭に戻れ」

固定するように、
ハヤテの体が蜘蛛の糸に絡めとられていく。
そして首から上だけを残し、
ミイラのような、いや、言葉通り繭のようにされた。

「・・・・・ふぅ・・・・アー君の作戦もちゃんと実行できない害虫女共の助けなんてしたくもなかったけど・・・・
 っていうかメテオの準備できたみたいだから、もうどっちが死んでもどうでもよかったけど・・・・」

髪に隠れた、
スミレコの目が鋭くなる。

「ギッ!!ニンッ!!」

ハヤテがうめき声をあげた。
痛みを感じない体だが、うめき声をあげた。
いや、それ以上に、
痛み?
それは、ハヤテの体からのキシみ。

「まるで44部隊があんたらの下みたいな言い分だけは聞き逃せなかったわ」

「ニ?!ニニニン!?」

糸。
ハヤテを包んだ蜘蛛の糸が、
ハヤテの体を締め上げていた。

「部隊長如きが、偉そうにしてんじゃないわ。そんな風に言われたら、
 ロウマ隊長があんたと同格になっちゃうじゃない。こんな羽虫如きと同格?
 そこの虫女共があんたの格下なのは当然だけど、ロウマ隊長と同格なわけないじゃない」

「ニッ・・・ニィイイ!!やめるニン!!!」

音が聞こえる。
ボキボキと、
繭の中から骨が砕けていく音が。

「44部隊を舐めるんじゃない。虫けら」

「こ・・・この!裏切り者っ!!!」

「土に還れ。ウジ虫」

そして、
大きな鈍い音が最後に一度。
繭が見えて分かるほど、
ペットボトルやスチール缶が潰れたように圧縮され、

その中に居たハヤテは砕け、白い魂のようになって昇華された。

「さすがダイエット部隊・・・・・ダイエットし過ぎて消えてなくなったわね」

クスクスと物陰で、
ストーカー女は笑う。

「・・・・・44部隊?」
「アレックスは44部隊の引き込みに成功したのか?」

「勘違いするな虫女共」

スパイダーウェブを解除し、
スミレコはそれでも物陰から出てこずに言う。

「私はアー君だけの味方だ」

「ちょ、ちょっと!聞き捨てならないわね!さっきから!このマリナさんを虫扱いとはっ!」
「ふむ。聞き捨てならんな、さっきから。マリナ殿を虫扱いとは」
「ん?あんたはいいの?」
「ふむ?・・・・拙者を虫扱いとは!」

「虫の鳴き声は五月蝿いわ。アー君は虫の友達しかいなのかしら。
 でも大丈夫。アー君の恋人は私だけ。私だけ居ればそれで問題ないわ」

それだけ言って、
マリナとイスカなどもう放っておいて、
スミレコは視線を外門の方へ戻す。

「それに・・・・言われて決心がついたわ・・・・・」

それは、
ハヤテの言葉。

「裏切り者・・・・アー君もこの言葉に堪えているというなら・・・・・私もそうなるのも悪くない・・・・・」

そして、
空を見上げた。

「もうすぐ・・・・空が落ちてくる」

メテオは、
神が見下すように浮かんでいた。


































「食らうなよ!あの槍は危険だ!」
「ヒュゥ・・・・分かってる」

ヒューゴは、
アレックスのオーラランスを盾で的確に止めた。
ツヴァイのせいでへしゃげていたが、
まだ十分に使える。

「おいアレックス!カッコつけて登場したんだからさっさと倒せよ!」
「無茶言います・・・・」

槍は盾に弾かれる。

「・・・・相手は部隊長ですよ?」
「おめぇも部隊長だろ!」

「ヒューゴ!ヒョウガ!そんなヒヨッコに負けるなよ!」
「ヒュゥ・・・」
「ウヒョォ!」

こちらはオーラランスという、
死骸騎士にしてみれば死活問題な武器をもっているというのに、
ヒューゴとヒョウガは構わず攻撃してくる。

「こんな部隊長を数年もやってねぇ奴に負けれるか!」
「じゃなくても医療部隊なんかに負けてられるかよ!」

彼らの言うとおり、
アレックスの実績などそんなものだ。
年齢から考えれば当然だし、
若すぎる。
ヒヨッコも当然。

「ヒューゴ!ヒョウガ!馬鹿野郎!そういう考えは捨てろ!どうあろうと部隊長だ!
 俺達王国騎士団の52に登った男だ!一瞬も油断するな!」

「・・・・・いえ、合ってます。買いかぶりですよ」

アレックスは距離を離し、
パージフレアを放つ。

「アーメン」

だが、
そんな軌道は簡単に読まれている。
外門守備にブランクはあっても、
戦闘部隊の部隊長だ。
直接戦闘のセンスには実力差がありありとあった。

「僕なんてヒヨッコです。部隊長の座なんて実力でとったものじゃない」

そう。
医療部隊の部隊長の座なんて、
ただ、
作為的に転がり落ちてきただけだ。

・・・・。
母が死んだから。

「タクティクスッ!!」

一瞬でヒョウガが槍を突き出して詰め寄ってきた。

「ランス!」

突き出してくる槍。
それは鮮やかというほどアレックスを的確に狙ってくる。

「逃げ腰は得意ですけどね」

逃げる準備だけはいつも万端。
それを斜め後ろに避ける。

「ウヒョォ!こっちは捉えるのが得意でな!!」

だが、
突ききって終わりじゃなかった。
その槍の先端は軌道修正してそのままアレックスに向かう。

「俺の得意分野はタクティクス!その命中率だ!絶対に当てる槍だ!ホーミングって奴だな!」

力を一撃に込めていない。
さらに足を踏み出し、
そのままアレックスを突いてくる。

「ちょ、ちょ、ちょ!」

「ウヒョォー!!」

「ヤバッ!」

近場に居ては、
攻撃の隙ももらえず、追われたままだろう。
アレックスは決意して踏み込み、一気に距離を離した。

「ホーミングっつったろ!!!」

だが、
それが狙いだった。
少し考えれば、突いたまま追いかけてくるなんて子供のミサイルごっこだ。
無様この上ない。

大きく距離を離し、回避行動をさせないのが狙いだった。

「ウヒョー!!」

ヒョウガは槍をぶん投げた。
一見お粗末にも見えるが、
その戦略は的確だった。

回避できない体勢にして、確実に仕留める。
言葉通り、
投げられた槍の軌道は完璧だった。
状況への持って行き方の年期が違う。

「アホかお前!」

アレックスは避けられない状況だったが、
ドジャーが飛び込んで、
槍を蹴り飛ばす。

「見え見えだったろが!」
「でも槍突き出しておっかけてくるんですよ!ある意味怖いですよ!」
「そりゃそうだが」

「絶対命中!」

ヒョウガは、槍が外れたのにそう叫んだ。

「ホーミングっつったろが!三度目だ!俺はただの青信号!進めるだけだ!」

吹っ飛んだ槍を、
誰かがキャッチした。

「そして俺が黄信号だ。気を付けとけよ」

それはヒャギだった。
槍をキャッチし、
また投げる構えをとっている。

「おいおい!先へ先へ行かれてるじゃねぇか!」

ドジャーは投げさせまいと、
両手にダガーを構え、
逆に先行して投げつける。

「・・・・おっと」

だが、
ヒャギの目の前にヒューゴ。
盾でダガーを弾き落とす。

「ヒュゥ・・・・赤信号だ」
「お前の言葉は正解だ。信号はいつも先に人の行動を告げる!」

ヒャギが槍を投げつけてきた。
だがヒョウガほどの命中率はない。
まず槍を投げるなんて行動がお粗末だ。
ロウマほどになって脅威になる。

「ウヒョォー!」

だがそれは直接狙ってきた行動じゃなかった。
アレックス達へと向かう前に、
ヒョウガが槍を空中でキャッチする。

「青ざめな!!」

「やべぇ!」

突如目の前で槍をキャッチしたヒョウガに、
対応できない。
ヒョウガはそのまま振り落とすように槍を突いてきた。

「・・・・ッ・・・」

アレックスの肩をカスる。
アレックスは反撃にとオーラランスを振り返すが、
それは空ぶった。

「ウヒョ。やっぱちとその槍を怖がって外しちまったぜ」
「おいおいヒョウガ」
「わぁーてる!次は仕留める」

相手の戦い方。
それはやはり後から見れば荒だらけの雑に見えた。

「調子こいてんなよ!」

ドジャーがヒョウガに近づき、
ダガーを突きつける。

「ウヒョ」

だが、
避けもしない。
ヒョウガは、ドジャーの腕をそのまま掴んだ。

「なっ!?」

「んなもん当たるかよ」

「うごっ・・・・」

そして蹴りを一撃ドジャーに入れて投げ捨てた。

「裏切り者のアレックス部隊長が先だ」

単純に、
実力差があった。
ヒャギ・ヒューゴ・ヒョウガ。
彼らの戦い方は陳腐で雑なんじゃない。

遊びのような作戦を混ぜても戦えるくらい、
実力差があるだけだった。

「・・・・・・カカカッ」

だが、
無様に投げ飛ばされようとも、
ドジャーは笑った。

「・・・・今更だっての。俺っつーもんは今までも格下と戦った事ねぇくらいだからよぉ。
 だが、いいんだ。俺には結果だけがあればいい。それでも俺は勝ち続けてきた。
 俺が勝てなくてもいいんだ。結果的に勝てればな。・・・・・・・・・見ろよ。俺らの勝ちだ」

ドジャーが、
中指を立てる。
それは挑発でもあり、
勝利宣言でもあり、
そして、
天を指し示していた。


「空が落っこちてくるぜ」






































私、
フレア=リングラブは・・・・・裏切り者だ。

「・・・・・・」

すでに自分の詠唱の手を離れたメテオの集団を見上げ、
思い返す。

世界最高の魔術ギルドである、
《メイジプール》
それは世界最高の魔術師と呼ばれた魔道リッド率いる精鋭。

『風林火山(レインボーマウンテン)』リッド=スチュワートを筆頭に、
オフィサーとして、
『ウィンドウ・ウィンドウ(窓辺の風)』ウィンドル、
『クーラ・シェイカー』マリン、
『輝きのタクティカ』ライト。
そして自分、
『フォーリン・ラブ』フレア。

だけど、
ウィンドルとライト。そしてマスター魔道リッドは、
終焉戦争で命が潰え、
後を引き継いだマリン=シャルも、
残りのメンバー全員と共に命を失った。

「私だけが残った」

終焉戦争以前のメンバーは、
たった一人、
自分だけだった。

「マスター達の無念を晴らしたい」

だから、
反乱に加わった。
正直、世界をどうこうしようなんて気持ちは大きくなかった。
それ以上に、
仇討ちの気持ちが強かった。

自分しか居ないから、自分がするしかない。

「・・・・・だけど」

だけど、
自分は裏切り者だ。
そう思った。

自分だけが生き残った。
それは裏切りの行為でしかない。
だから正直迷っていたが、
反乱の主要メンバーにアレックス=オーランドが加わった事で、
決意は確固たるものになった。

「彼も同じ裏切り者を背負うなら、この中で戦ってもいいと思えます」

自分と同じような人は幾多もいる。
だけど、
自分だけ挫けていてどうする。
尊敬する同士、
マスターを引き継いだマリンの姉、シャル=マリナは言った。
撃たなきゃ当たらない。

「やらなきゃ何も起きないんですね」

だから、
もう迷いはなかった。
覚悟は決まっていた。

「私が誇れるのはこのメテオだけ」

天を仰ぐ。
自分のメテオ。
戦況的に完全なもので発動する事は叶わなかったが、
十分なレベルには達した。

「あの日の《メイジプール》を継いでいるのが私だけなら、このメテオは《メイジプール》の力。
 《メイジプール》の無念をここで私が晴らす。晴らしてみせます。マスター。皆」

愛を落とそう。
フォーリン・ラブだ。

「《メイジプール》の結束は尊敬の結束。敬愛の結束です。だから落とします・・・・・・・輪廻(リング)のように」

フレアが、
腕を振り落とした。


「愛よ降り注げ」


空中のメテオが、
一斉に顔をあげる。
そして、
重力を突然感じたように・・・・・一斉に落下を始めた。

「・・・・・・」

落ちてくるメテオを見ながら、
心は苦しかった。

正直戦いは好きではない。
人を傷つけるのも好きではない。
でも愛だけで世界が変わらないのも知っている。

「私は・・・・マスターには向いていなかったんでしょうね」

魔道リッドは尊敬の限りに値する人物だった。
その人に選ばれたマリンもそうだった。

だが自分は違う。

余ったからなっただけ。
彼のように、
彼女のように、
カリスマ性のカケラもない。
人を統率する事に向いてない。
人の上に立つ事に向いていない。

でも、だけど、
自分しか居ないのだから、
自分がやるしかない。

「《メイジプール》は終わらせない。皆の敬愛のギルドを、終わらせたりはしない」

続いていくべきなんだ。
リングのように。
輪廻のように。
フレア=リングラブは、
ただそれだけが望みだった。

メテオが落ちてくる。

「このメテオは!私の決意の証!!!」

自分にやれる事だけを。
ただ、
やるだけ。

「私も守るために戦う一人です!!」


そして、
メテオは落ちた。

フレアの決意を込めたメテオは、
外門前に降り注いだ。

城壁の上がえぐれた。
人が落ちていく。

無数のメテオが落ちていく。

外門にメテオがぶつかる。
揺れる。
へこむ。
損害を与えていく。

悲鳴が聞こえる。

外門下の部隊の者達に隕石が落下する。
人が吹き飛ぶ。

まるで地獄絵図のようだったが、
これで、
これで道が開ける。

城壁をえぐる。
外門が揺れる。
地面に穴が空いていく。
騎士が吹き飛ぶ。
騎士がそれでも必死に守っている。
それでもメテオは落ちる。

泣き止まぬ空のように。

歓声があがり、
反乱軍が一斉に雪崩れ込んだ。

崩れた壁の部隊を押しつぶし、
反乱軍が一斉になだれ込む。
そしてそのまま外門へとぶつかる。

外門はもう、
時間の問題だろう。



ただ・・・・・




そんな光景が見れるはずだった。


「・・・え・・・・・」


フレアは呆然した。
最初は何がどうなっているのか分からなかった。

何が、
どうなっているのかが分からなかった。

何が、
どうして、
こうなってしまっているのか。

「・・・・・・え・・・・あ・・・・・」

城壁は、
えぐれていなかった。

外門は、
揺れてはいなかった。

敵は、
悲鳴をあげていなかった。

混乱の雨が降り注いだのは・・・・・・・・味方だった。

「え・・・・なんで・・・・どうして・・・・・」

フレアは顔を両手で覆い、
それでも目を大きく見開き、
その場に崩れた。

メテオは降り注いでいた。
ただ、
愚かしくも、
味方の真上に。

「・・・・だって・・・・そんな・・・・」

訳が分からない。
何が、
どうなって、
どうして、
こんな事になってしまっているのか。

味方が吹き飛んでいる。
味方が押し潰されている。

自分の・・・・メテオで。

「・・・な・・・なんで!・・・どうして!・・・・私・・・・私・・・・」

決意の塊だった。
その隕石の塊は、
決意の塊だった。
なのにそれは・・・・

味方を押し潰した。

止まる事なく、
止める事なく、
愛は落ちていく。

どうしようもないほどに。

空が泣いているかのように。

「あぁ・・・あああ・・・・・・」

マスターの、
皆の無念を晴らしたかった。
ここがその場だ。
自分の、
出来る事をした。
自分の唯一の取り得は誇りだから、それを落とした。
だけど、
それは、
なんで。

「・・・・あぁ・・・・ぁぁ・・・・ぁ・・・・・・」

両手で覆う顔は、
悲痛に満ちた。
フレアの表情は、
訳の分からない混乱に満ちた。

哀しみでもなく、
驚きでもなく、
ただ、
絶望だけが顔に表れた。

「私は・・・何を・・・・なんで・・・・どうして・・・・・」

フレアは前のめりになり、
地面と向き合い、
目を逸らし、
だけど耳から聞こえてくる仲間の悲鳴を聞き、
混乱で表情は歪んだ。

「・・・・ぁぁ・・・・」

ただ、
訳の分からない現状と、
事実自分のメテオが仲間の命を奪っていく現状が入り乱れ、
ただ、
ただ絶望し、

彼女の精神は、
天から地へと落ち、


「ああああああああああああああああああああ!!!!!」


ただ、
泣き叫んだ。





































「ウフフ・・・・・・アハハ・・・・・アヒャヒャヒャヒャ!!!!!!」

外門からは遠い木陰で、
クソ野郎は笑った。
モングリング帽など愉悦の笑いの中で投げ捨て、
腹を抱えて笑った。

「アヒャ!・・・見ろ!あの女の顔!!ウフフ・・・・アヒャヒャヒャヒャ!!!傑作だ!傑作過ぎるぜド畜生が!
 最高だ!美人の顔が絶望に歪む顔なんて何百回見ても飽きねぇ!”おったつ"ぜ!!」

クソ野郎は、
張本人はただ楽しくて満足で笑った。

「あぁーーったりまえだろがド畜生が!!わざわざ説明してやってんじゃねぇか!
 俺は『メテオドライブ』のメテオラ様だぞ!!アッハハ!そう!クソ野郎だ!
 そんな奴に特等席を用意してくれちゃって!ばぁーーっかじゃねぇの!ド畜生だな!!!」

心の底から、可笑しくて笑う。

「絶対使う切り札の操縦能力持ってるのが、こぉーんな怪しい男でなんで疑問に思わねぇんだよ!
 ウフフ!ハッキリしてんじゃねぇか!ハッキリした事大好きだぜド畜生が!
 あぁヤベェ!あの女の顔!どうしようもねぇな!犯したくなるくらい最高だ!ウヒャハハハ!!!」

紫の長髪を笑いで揺らす。
腹を抱えて笑う。

「ヤベェ!ヤベェ!アハハッ!あの女の絶望顔見てるだけでイッちまいそうだ!
 パンツの替え持ってきてねぇよ!ウヒャヒャヒャ!どぉーーしよ!こんな快楽ねぇよ!
 ガマン汁一年溜めただけはあったぜ!オラ!こっからじゃよく見えねぇよ!顔あげろよ!
 泣き顔見せろって!・・・ウフ・・・アヒャヒャ!見えた!見えたぞ!血ぃみてぇな涙零してやがる!
 きったね!気持ち悪ぃっての!可愛い顔して酷ぇ顔!アヒャヒャ!欲情しちまうからやめろっての!!」

罪悪感のカケラもなく、
心の底から笑うクソ野郎。
クソの底辺のような男の思うままに、
彼女は絶望し、失望し、死んだように泣き叫んでいた。



クソ野郎の手で、切り札は落ちた。
天から絶望が降り注いだ。


敵も味方も、
両者に混乱が与えられた中・・・・・




魔物が三匹動いた。



















                 






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