「よく集まってくれた・・・・・と言いたいところだが」

99番街。
その傍ら。

Queen Bという看板が踊るこの店。

「集まってくれた事には感謝しない。それはもう無意味だからだ」

その中心に立つのは、
腰を超える漆黒の長髪。
ツヴァイ=スペーディア=ハークス。

「もう、頼む事もしない。ついて来てくれとも言わない。
 自殺に誘う事を心中という。そんなものに巻き込む気はサラサラない」

と、
店内で、
目的もなく、
歩みながら彼女は言う。

「むしろ今回集まってくれたお前ら自殺志願者達を愚かにさえ思う。
 ただ、勝ち目の無い戦いに、自らの意志だけで集まったのだから。
 自己満足のために死ににいく。ふん。それが現実の勇者というものなのだろう」

あまりに、
あまりに愚かなカスだ。

「だが」

愚かに思うし、
感謝もしない。
だが、

「ただ頼もしい」

ツヴァイは、
その中心で、
店内を見渡す。

愚かな自殺志願者達。
だが、
使われて生きるよりも、
自由のために死の道を選んだ仲間たち。

「カッ、笑えるねぇ」

ドジャーが、
テーブルの上に足を放り出した状態で言った。

「勝手に殺すな。俺たちゃ生きるために戦うんだ。それ以外にねぇんだからよ。
 人生ってなんだ。死ぬための人生?死ぬために生きるなんてバカバカしいぜ。・・・な?」

と、
ドジャーも辺りを見渡す。
店内。
カウンターの裏にはマリナが立ち、
ドジャーと同じテーブルにはアレックスが。
違うテーブルにフレアやツバメ。
まばらに、
寄り添う事もなく、
店全体に主要メンバーが位置する。

「言葉の問題だねぇ」

と、
ツバメがすまし顔で答えた。

「死ぬ気でやる。それだけだよ」
「ごもっともです」

と、
一番余裕のある笑顔でフレアが頷いた。

「今更気持ちの問題なんて無駄ですよ」

アレックスは、
ドジャーの隣の席で、
全体に話しかけるように言う。

「今更迷ってる人はいません。迷うくらいならここには居ませんからね。
 覚悟はすでに出来ています。生きるためとはいえ・・・・死ぬ覚悟もね」
「ふん」

と、
ツヴァイは笑った。
やはり、
心地よい。
何を求めるでもなく、
同じ意志の者達がいる。

自分がその一人。
孤立なる一人じゃない。

自分は必要な人間であるように、
人と繋がっている事を確認できる。

「酒〜〜〜〜〜!!!!」

と、
突然、
一人の女が叫んだ。

「酒酒酒!マリナ!酒〜〜!」
「わ、分かったわよティル姉」
「ん?お?」

そこで、
皆の視線が自分に降り注がれている事に、
ティルは気付いた。

「あ?何?興を冷ましちゃった?ごめぇーん」

と、
本当に悪気があるのか分からない仕草で、
両手を合わせて片目を瞑り、
謝る。

「でもあたしは関係ないからさぁ。手伝うだけー。
 死にに行くわけじゃないから気の持ち様が軽いわけよ」
「相変わらずだな。ティンカーベル」
「あんたも相変わらずね。・・・・ただ変わったけど」
「ふん」

ツヴァイは視線も合わさず、
だが、
ティルに意識が向いていた。

「・・・・生きていたとはな」
「あら?死んだと思ってた?そりゃそーよ。死んだ事にしといたんだから。
 "こうなるのは"結構前に気付いてたからねぇー。早めに退場しといたのよ。
 アインなんて馬鹿げた存在とは"生き別れる"のが一番だと思ってね」
「確かに。お前は死に逃げることで、オレ達の中で唯一最善の選択をしたのかもな」

そこでマリナの手によって運ばれてきた酒瓶を見ると、
「ぉお♪」と、
嬉しそうに声を漏らし、
片手で瓶を掴んだと思うと、
親指だけで王冠を弾き外した。

「ん?」

ゴクゴクと、
豪快にらっぱ飲みするティルは、

「いや、いつまであたしなんか見てんのよ。だからあたしは手伝うだけだって。
 ストーリーはあんたらに任せるから好きにおっぱじめちゃってよ」
「ティル姉・・・そんだけ目立ってたらしょうがないんじゃ・・・・」
「ん〜?マリナ。いつからあたしにそんな口きけるようになったの?」
「ご、ごめん」
「ん〜♪やっぱ素直なイイコのままねぇ♪よしよし」

と、
マリナの頭を子供のように撫でる。

「うん。でもティル姉の言うとおりだね。せっかく集まったのは集まり理由があるからさ。
 終焉を美しいハッピーエンドで終わらすためには、意見を出し合うのが大事さ」
「つまりさっさと作戦会議しちゃいましょうってことですね」
「はいはぁ〜〜ぃ!」

と、
ぴょんぴょんと、
椅子の上でジャンプする者。

ドジャーはため息をつきながら、
指だけロッキーに向ける。

「あいあい。ロッキー君」
「はぁ〜ぃ」

ロッキーは両手をあげて、
嬉しそうに話す。

「がんばろぉ〜!!」
「・・・・・」
「やれやれ」

周りが首を振っている意味も分からず、
むしろそれは、
元気が足りないせいだと考え、
ロッキーはもう一度「がんばろぉ〜!」と叫んだ。

「ロッキー。頑張ってどうこうできる事態ではないから話合う場を設けておるのだ」
「そーよ?イスカの言うとおり。どうやっても不利なんだから」
「カッ、そこで俺達の得意分野だな」
「いかに"ズルするか"ってところですね」

真正面からやって、
勝てる見込みは万に一つもない。

「いや」

だが、
それを否定するのは、
中心。

「その者の言うとおりだ」

ツヴァイは、
むしろロッキーを肯定した。
ロッキーは嬉しそうだったが、

「どういう事だい?」
「策など不要・・・などとは言わん。だが・・・策など通用しない」

キッパリとツヴァイは言い切った。

「相手は兄上率いる帝国だ。戦力に差がありすぎる」
「だからこそ作戦を練らなければいけないんじゃありませんか?・・・と私は思うんですけど」
「そうだよ。極道とて気合だけで突っ走るわけにはいかないねぇ。必要なのは勝気だよ」
「じゃぁ言い換えよう」

ツヴァイは部屋の中心で続ける。

「策がない」

そう、
ツヴァイが言うと、
それでもう、
誰も答えられなくなった。

手段を選ばない?
いや、
選べない。
選ぶことさえ出来ないほど、
つまり、

どうしようもない。

「・・・・帝国・・・いや、王国騎士団ってのは強ぇってのか?」
「強いもなにも、」

アレックスは、
むしろ誇らしく言う。

「歴代最強ですよ。何が大変かっていうと、戦力に付け加え、攻める先がルアス城ってとこです」
「難攻不落のルアス城・・・か」
「そうです」

アレックスは、
誰にともなく、
頷く。

「現在の体制が整ってから、数十年栄え続けたアスク帝国。
 その数十年間、一度たりとも内門を突破されたことはありませんでした」

内門。
崩れ知らずの最終防衛ライン。

「一度たりともじゃなくて一度だけ、でしょ?」
「終焉戦争では崩れてる」
「破られるのと破らせたでは違います。そういった意味では未だ不落」
「城内に侵入させた事は無いに等しい・・か」

鉄壁。
崩れることを知らぬ、
騎士団の攻城戦。

「どう凄いのぉ〜?」

ロッキーが頭をかしげる。

「あぁ、ロッキー君だけルアス城は未経験だったわね」
「ボクらは一度あるね。《ハンドレッズ》を敵に回した時だったかな。
 ドジャーとアレックス君とボクとマリナ。それに・・・・うん。レイズ」
「私は二度あるわ。二回目はイスカと地下から脱獄でね」
「うむ」

どう考えてもいい思い出ではないのだが、
イスカはいい思い出のように思い返していた。

「こう、拙者が剣で道という道を斬り開いてだな・・・」

さも、
自分の大奮闘で脱出したかのよう、
イスカの脳内は模造されていた。

「うちは攻城戦常連だしねぇ」
「私もです」

ギルドマスターである、
ツバメとフレアは言う。

「あれ?拙者の奮闘劇の続きは聞かぬのか?」

誰も返事をせずに流したのが、
全ての答えだった。

ともかくも、
《メイジプール》と、
《昇竜会》
15ギルドの中でも、
3強とも呼ばれるギルド。
常連なのも当然。

その他となると、

「ツヴァイは当然として、ティル姉は?」
「ん〜?まだ私に話が回ってくるかい?勘弁しておくれよ。
 でもまぁ、これでも騎士団養成学校通ってたんだからね。知ってるよ」

酒の片手間に答える。
この短時間で結構酒が進んでいるようだ。
顔の色を見れば、
特別強いわけでもないのが見て取れる。

「そりゃそうか」
「そう考えるとロッキー君以外の主要メンバーはさわりだけでもルアス城を知ってるんですね」
「そこで寝てる馬鹿は?」
「・・・・あ・・・・」

皆の視線が一点に集中する。
落ちるとも言っていいか。
テーブルの下。
地べたに寝転がる一つの影。

「・・・・・・・」

そんな視線さえも、
まるで無視。
気にする事なく、
寝タバコに興じるネオ=ガブリエル。

「・・・・・俺ぁ戦争にゃぁ関係ないだろ・・・・メンドくせぇ・・・・」

ここにも、
エクスポに引きずられて連れてこられただけ。
(もちろん、抵抗する方が面倒臭い)
世界の全てをシカトすると、
世界の全ての場所が同じだ。

「参加しない気ですか?」
「ダリィ・・・・」

"参加"
ガブリエルの嫌いな言葉の一つだ。
この世の塵にさえ興味はない。
平和に、
無意味に、
ただ無味無臭に時間は過ぎればいい。

「まぁこいつの目的である神族は向こうにゃいねぇわけだしな」
「・・・・それ以上にタダめんどくせぇ・・・・」
「そうも言ってられるかな?」

と、
エクスポは不敵に笑う。

「戦場に神族がいるならば、それを黙って見過ごせるとは思わないけどね」
「・・・・・」

エクスポが言うと、
ガブリエルはわざわざ、
面倒なのにも関らず寝返りをうって顔をそむけた。

「ダニエルの事か?」
「来ますかね。ダニー」
「来ないはずないよ。少しでも耳を傾ける才能があるなら、アレックス君の生存に気付かないわけない」
「じゃぁ気付かないだろうな」
「ダニーの異常性ならまず気付かないですね。見境なく燃やしますから。
 情報源も全部燃やしてることでしょう。なんとか繋ぎとめて戦力にしたかったんですけど・・・・」
「ふむ、現れたとしても」
「このままじゃ敵にも味方にもなるねぇ」
「デムピアス一派と同様に、第三者として捉えておくのがいいかもしれませんね」
「ともかく話を戻そうか」

ツヴァイが言う。
本題はまず、
ルアス城。
そちらからだ。

「ともかく、知っているならなおさらだ。あの城は要塞と言ってもいいレベルだ」
「要塞ねぇ」
「カッ、城が割れて主砲でも付いてるってか?」
「付いてる」
「!?」
「冗談だ」
「・・・・・」

ツヴァイも軽々しく冗談を言うようになったか、
と思った。
人は変わるものだ。
ただ、
彼女が言うと事実との境目が分からなくなるからやめて欲しい。

「まぁ要塞と例えるのはそのまま、あの城の難落不攻な形状にある」
「ただの一般的な城の形状じゃねぇか」
「城の一般的な形状が何故あぁなのかっていうのが大変なとこなんだよドジャー」
「カッ」
「まぁ攻城戦を経験しないと分からないレベルかもしれんがな」

見た、
訪れたでなく、

戦争として。
攻めてみるか、
守ってみるかしないと分からない。
ルアス城経験以上以下に関らず、
攻城戦に参加したことがあるものとなると・・・・

「そうなると限られてきますね。僕やツヴァイさんは守備側で。
 ツバメさんやフレアさんは攻撃側で参加した事ありますけど」
「戦争ってなると私もパス」
「ほとんどが経験無しだな」
「まさに、元王国騎士団か有力ギルド主でない限り、戦争経験者は無しってことだね」
「そういう意味ではダニエルは惜しかったわね」

チャッカマン『ダニエル』
至る所で点いては消える、
問題の火種の呼び名。

「うむ。元王国騎士団でありながら、ギルドを転々としていた男だ。
 攻撃側と守備側。両方経験しているのはこの世でも奴くらいのものだろう」
「ですが、王国騎士団でもなく、かつ、有力ギルドでなくても、経験者はいます」

「俺ちゃんだな」

と、
すでに壊れている店のドアから入ってくるのは、
エドガイだった。

「わりぃわりぃ。遅れちった」

悪気もなくニヤけるエドガイ。

「あぁ、忘れてた」
「あんたが居たわね」
「エクスポさんさえ居れば全員揃ってると錯覚してしまうので恐ろしいですね」
「どういう意味だい・・・・」

落ち込んだのはエクスポの方だった。
何もしてなくても可哀想な男だ。

「盛り上がってんのねぇぃ。ありゃ?可愛い子ちゃん三姉妹はいないのね」
「ウォーキートォーキーマンと交渉中だ」
「そりゃ残念。同じ三人でも三騎士と違って華のある子がいた方がいんだけどな。よっと」

エドガイは、
しゃべりながら近場の椅子に腰掛けた。

「ま、ちょっと俺ちゃんも"用事"があってな。話のつまんないとこは終わってくれたぁーん?」
「いーや」
「つまらん話しかねぇーよ」
「光の見えてこぬ・・・な」
「今城の攻めにくさについて話し始めた所です」
「あぁ、それで参加者の話な」

エドガイは、
顔を半分隠し前髪。
その邪魔な方をわざわざ向けながらニヤニヤ話す。

「そう。つまり第三者。傭兵(俺ちゃんら)みたいな存在が世の中には居るわけだ。
 王国騎士団でも、ギルドでもない。"戦争の向こう側"に目的の無い戦争参加者」
「金で戦う」
「安い命の連中ね」
「イエス。言い得て絶妙だ」

皮肉に対し、
むしろ誇らしげに笑う。

「城攻めの話はしたのか?」
「いや、これからだ」
「じゃぁ傭兵視点で俺ちゃんからいきなり難題点を示そう」

エドガイは、
ニヤニヤ笑いながら、
ピッと指だけ突き出す。

「まず"外門が崩せねぇ"。終わり。俺ちゃんらの負けだ」

エドガイはそう、
キッパリと言い放った。

「あーん?」
「何を言っておる」
「これからだって言ったけど、実は私達、さっき内門の話はしたわ。
 数十年打ち破られなかった鉄壁の内門。その大変さは分かってるけど、
 逆を言えば外門なんて最初に話題にあがらないレベルのものよ」
「最初にぶち当たる壁なのにか?」

当然である言葉を、
エドガイが問題点として、
疑問点としてズバズバと言い放つ。

「それでも問題視する場所じゃねぇだろ」
「長年、外門はほぼ例外無く突破してるらしいしね」
「その外門は"誰が突破してた"って話だ」

皆は「あっ・・」とだけ反応し、
口を閉ざした。

「ピンポンピンポンピポピン♪そう。だからこそ傭兵視点から言わせてもらった。
 攻城戦のたびに外門を突破してたのは誰ともねぇ。
 お前らの仲間。傭兵マーチェこと、ユナイト=チェスターだ」

ここに来て、
必要な人材の名に、
死者。
失った仲間の名。

最強の傭兵(偽名)マーチェこと、
ユナイト=チェスター。

そう。
外門壊しのマーチェ。

だからこそついたあだ名が、

『ノック・ザ・ドアー』だった。

「チェスタァ〜ってぇ〜、そんな凄かったのぉ〜?」

疑問係とも言えるロッキーは、
首をかしげた。
そして話はそこに集中した。
アレックスも頷く。

「話題にあげてみればそう。逆に僕は守備側視点で言わせてもらいますけど、
 チェスターさんの外門崩しはハッキリいって脅威でした」
「確かに」

そこで切り出すのはフレアだった。

「門崩しっていうのは結構私達《メイジプール》のような魔術師の力が重要になってきます。
 その魔術師達をフォローしつつ、いかに門を崩せるかは他の皆さんにかかってます。ですが・・・」
「アハハ、それがお呼びでないってね」

ツバメは笑い飛ばす。

「どれだけ助けられたかね。あのエネミーレイゾン。
 ありゃ防ぎようがなかったろうね。開幕と同時にぶっ放すんだもん」

開幕のノック。

「そうです。守備はあくまで"攻められる側"。つまり、戦争の開始は攻撃側の好き勝手です。
 その好き勝手の始まりが、つまりチェスターさんのエネミーレイゾンでした」
「開幕と同時に外門は破壊されちまってるってことよねぇ〜ん」

エドガイが続ける。

「ま、なんにしろ、必要だったのは強大な破壊力。デカいってのが重要だ。門がデカいんだからな。
 そういった意味では一人であの門を吹っ飛ばすあの傭兵は傭兵的にも惚れるとこはあったな」

強さと結果。
"コレ"をたんまりもらえてたんだろうよ。
と、
エドガイが指でわっかを作りながら笑う。

「そのチェスターがいない・・・・か」

ドジャーは、
コツ、コツ、
と、
意味も無くテーブルを指で叩いていた。

「チェスターは決定的に凄かった。が、そのチェスターは今決定的にいねぇ。そういうこったろ」
「そういうこっただな。可愛いくない子ちゃん」

危機感もなく、
エドガイは笑う。

「ふん。オレはその男が活躍する時代には攻城戦に参加はしていないが・・・・」

ツヴァイが切り出す。

「結局外門は最初の砦だ。守備側が最初に全力をつぎ込む場所と言ってもいい」
「それも帝国」
「相手の全力にはかなわないってぇ話だな」
「がんばればいんじゃないかなぁ〜〜?」
「名案だロッキー。少し黙れ」

褒められたのに怒られた。
ロッキーは凄く不思議だった。
なんでだろうと首をかしげた。

「なら門以外から潜入しちゃぁどうだい?」

と、
エクスポ。

「だってそうだろ?入り口は外門だけだろうさ。だけど盗賊視点から言わせてもらうと・・・・」
「カカッ、確かにな。表玄関を使うなんてむしろ馬鹿げてる」

泥棒は裏口からコッソリ。
裏道こそが、
正攻法。

「あの四方を頑なに閉ざす外壁をどうしたいんですか」

アレックスは言う。

「そりゃぁも〜〜!どっかぁ〜〜ん!」

ロッキーが両手を万歳するようにあげて言う。

「そんな事が出来るならその労力を外門に当てた方が手っ取り早い」
「そりゃぁそうね。壁は壁。門は門。耐久度で言えば断然門のが脆いわ」

まさに鉄壁な外壁。
壊そうなどと考えるなら、
門を壊すほうが話は簡単だ。

「だがその門が鉄壁」
「壁と壁」
「振り出しにもどったな」

数人からため息が零れる。

「まるで道を封鎖されている迷路を解こうとしてるみたいだね」

決してゴールへの道などない、
そんな迷路。
だが、
ドジャーはエクスポのその言葉でふと思った。

「待ってくれ、迷路は二次元だが・・・・」

ドジャーは指で机の上をなぞる。
なぞりながら、
指をヒョィっと跳ねさせる。

「現実は三次元だ。外壁を越えるってのは?」
「それも攻城戦の一つの戦法ですね」

攻城経験豊富なフレアが答える。

「具体的には"ハシゴ"」
「ハシゴ?」
「ハシゴを外壁にかけるんです」

フレアはニコやかに、
両手をコニョコニョと動かした。
ハシゴを登る様子を表しているつもりらしい。

「そう、でもです。特に今まではノック・ザ・ドアーさんによって外門は破壊されていたので、
 外壁外門に騎士団は人員をほとんど配備しませんでした。だからそれもありでしたが」
「だね。つまり今回はお呼びだよ」

ツバメは苦笑いしながら、
自分の指を、
フレアの両手に上からぶつける。

「今回は相手もバッチリ外壁上に人員を配備してるだろうね。つまり・・・下と上。どっちが強いかって話」
「迎え撃つ気マンマンの敵兵の居る外壁上を目指して」
「ハシゴをよいしょよいしょってか?」
「格好の餌食ってことだね」
「両手両足使って体丸出しで登るわけだもんね」
「人員が多ければ有効ですが、人数で負けてる時点でそんな決死な作戦は危ないです」
「作戦でさぁ苦戦ってか?」
「ドジャーさん」
「言ってみただけだ」

つっこまれる前に反省した。

「いやだから」

エドガイが話を引き戻す。

「もし突破口を探すなら、結局外門を壊す事考えろよ」

偉そうに口を開くエドガイに、
ドジャーは少しムッとした。

「おめぇが無理だっつったんだろ」
「無理も何も、最終的には外門も内門を壊さないとどうしようもねぇーんだ。
 いいか可愛くない子ちゃん?説明してもオッケーな頭してるか?」
「実はむかつくなお前・・・・」
「相手によるんだよ」

可愛い子ちゃんなら口調も別だ。
と続け、

「ま、戦争のプロ。プロフェェーッショナルの俺ちゃんが基本の基本を教えてやる。
 戦争の場合、大事なのは侵入することじゃねぇ。突破することだ」

尖った奇策も、
結局は本筋のため。

「頭ひねって数人、数十人が城壁越えたとしてどうするよ?
 カギの閉まったトリカゴの中で、5000人と相手するのか?牢屋だぜまるで」
「あぁ・・・・」
「何にしろ最終的には団体が通り抜けられる道は作らないといけないってことね」
「そう」

エドガイはピアス付きの舌を出す。

「チェックポイントは二つ。"外門"と"内門"。これは避けては通れないわけだ」
「避けて」
「通れない」
「・・・・・のに」
「避けれないし」
「通れもしない・・・・」

ため息は、
また続く。
問題は終わらない。
そして進まない。
また振り出し。

「まぁーだ話おわんないの〜〜?」

半分酔っ払った部外者。
ティル姉こと、
ティンカーベルが、
テーブルにつっぷせて言った。

「もーいーじゃなぁーい。面白い話しよ面白い話ー」

年甲斐もなく、
両手をパタパタとテーブルにぶつけるティル。
酔っ払い始めたんだろう。
この重要な話合いの中、
無関係者のように。

まぁ、
無関係者といえば無関係者なのだが・・・。

誰ともなく、
ため息は増徴される。

そして、
ふらりと、
地雷を踏んだ者が一人。

「誰だい・・・このオバサン呼んだの・・・・・」

一言も声を発さず、
《MD》の面々は同時に顔を伏せた。
そして、

キュピーン

と、
オバサンの目は鋭く光った。

「わわっ!?」

何よりも、
音よりも光よりも速いかの如く、
オバサンと呼ばれたソレは跳ね飛び出し、
ツバメを捕まえ、
刹那で、
店の壁に叩きつけていた。

「あ・・・・や・・・・・」

砂埃が、
残像のように残った。

ティル本人と、
捕えられたツバメが、
一瞬で店の壁まで移動したようにさえ見えた。

「誰が美しいお姉さんだって?」

酔っ払ったオバサンは、
若いツバメの胸倉を掴み、
壁に追い詰め、
凶悪な笑みを浮かべていた。

「ん〜?そんな事を言うのはどの口だい?この口かい?
 そんな事を言うこの口は何を食べたい?何?鉄拳?鉄拳?」
「あ・・・いや・・・その・・・・」
「鉄拳?鉄拳鉄拳鉄拳?・・・・鉄拳?」
「口が滑ったというか・・・・・」
「でぇりゃーーー!!!!」

ツバメは世界が一周回ったのを感じた。
他の者達は、
人間が世界一周する様を見た。

華麗なる背負い投げ。

ツバメは、
店の壁から、
逆の店の壁まで吹っ飛び、
「アギャ」
と、
情けない声をあげて逆さまに張り付いた。

「ケタケタケタ」

と、
半分酔っ払ったオバ・・・・美しいお姉さんは、
汚い笑い声をあげながら、
腹を抱えた。

「一本!!」

そして、
人差し指を立ててそう言い放った。

「なぁーにボヤボヤしてんのよマリナ」
「え?」
「一本!!」
「あ・・・えぇと・・・一本!」

マリナも真似する。

「違うわよ!お酒もう一本!!!」
「あ、はい!!!」

マリナは一目散にカウンターへと潜った。

「「「・・・・・・・・」」」

他の者は、
次の標的にならぬよう、
俯いて黙っておいた。

エドガイが、
椅子に座ったまま、
顔だけツヴァイに寄せ、
小声をかける。

「相変わらずだな・・・・アレ」
「相変わらずなのか・・・。オレはあまり学生時代を満喫していないからな・・・・」
「それでもティルが喫煙を注意してきた教師を3階から投げ落とした話くらい知ってんだろ・・・
 あと購買の焼きそばパンが売り切れると、柱に拳型のヘコみが増えるって話・・・」

アレックスは聞き耳を立てながらツバを飲み込んだ。
あれ、
この人なのか。

「で・・・・逆に思ったんだけど・・・・・」

と、
逆さまに壁に転がるツバメが、
逆さまのまま言う。

「結局、内門壊せばいいんだよねぇ?」
「そりゃそうだが」
「んじゃぁそいつがいるじゃないか」

と、
壁に逆さまに貼り付き落ちた状態のまま、
ツバメは、
指をさす。

「私ですか?」

と、
フレア。
自分を指差す。

「ふむ。まぁ結局誰もが考えていた結論でもあるだろう」

ツヴァイが言う。

「フレア=リングラブ。お前のメテオ、見させてもらったが、あれはなかなかのものだ」
「褒めても何も出ませんよ?もっと褒めてください♪」

と、
天使のような笑顔でフレアが言う。

「まぁチェスターのエネミーを超える威力っつったら、」
「現状フレアさんのメテオしかありませんね」
「うん。正直、ボクらの戦力での最大火力は君のメテオだ」

単体を倒すためのものではない、
超広範囲メテオ。
フレアのこの能力は、
むしろ、
戦争という場のみで威力を発揮する。

「カカッ、」

ドジャーが笑う。

「さっき言ったアレックスの話だがよぉ、どんだけ不利だろうが、俺達が"攻め"だ。
 最強野郎共を攻める馬鹿野郎達だ。つまりぃ・・・・俺達から開戦・・・そうだろ?」
「私のメテオは威力の反面、詠唱に時間がかかります。ですが」
「こちらが攻めなら関係ないね。開幕と同時にフレア嬢のメテオをドォーン。そうだろ?」

俄然現実的。
メテオは城攻めで有力のスペルの一つ。
いや、
むしろ主戦力と言ってもいいスペル。
それも、
世界一の魔術師による、
世界一のメテオだ。

「まぁ一つだけ問題があるとすれば」

アレックスが、
そう言い、
ゴメンと謝るかのように、
手の平を垂直に立てる。

「今度はドジャーさんがさっき言った理論。現実は三次元です。
 門は大きいですが、広く見れば縦に"こう"立っています」
「なるほど」
「隕石は雨」
「メテオは落ちてくるからこそ、平ぺったな門に直撃とはいかないわけね」
「平ぺったいと言っても巨大すぎてかなりの分厚さだがな」
「雨は斜めに降ります」

フレアは安心を促すような笑顔を送る。

「最高の効果は期待できなくとも、門はこじ開けましょう」

フレアの柔らかい、
普通に見ると頼りないようなか弱い笑顔は、
逆に頼りになった。

「決まりだな」
「異論無しだ」

外門は、
フレアのメテオで突破する。

「で、難題点2〜〜」

目を覚まさせるかのように、
エドガイ。

「内門の突破。できない。しゅ〜〜りょ〜〜」
「おいテメェ!!」

ドジャーが立ち上がり、
エドガイに詰め寄る。

「ん〜?」

胸倉を掴もうと詰め寄るドジャー。
手を伸ばす瞬間に、
エドガイも椅子から立ち上がる。

「なんだ可愛いくない子ちゃん」

ドジャーの目の前で立ち上がり、
目と鼻の先まで顔面を近づけ、
ピアス付きの舌をベロンと垂らす。

「なんだじゃねぇ・・・さっきから揚げ足をとるようによぉ!」
「事実だ。現実と向きあえ可愛いくねぇ」
「ドジャーさん」

アレックスが、
その爆発しそうな睨み合い(ドジャーの一方的な)を、
声だけで止める。

「確かに事実です」
「んだよ!てめぇまでよぉ!」
「じゃぁどうするんだい?内門は」

エクスポも援護するように言う。
ドジャーは苦虫を噛んで答える。

「そりゃぁ」

と、
言葉を発しながら、
ドジャーも思い当たる。

「フレアの・・・メテオで・・・・」

ドジャーが声を弱くしながら、
フレアを見る。
皆も見る。
フレアは笑顔で頷いた。

「・・・・はい。やるだけはやってみます」
「そういうことだ」

ツヴァイが、
腕を組んだまま言う。

「この女のメテオ。ハッキリ言って内門も外門も要になるだろう。
 だが、全魔力を使って外門を打ち砕き、さらに内門もとなると、」
「正直ツラいですね」

フレアは眉を垂らしながら、
それでも笑顔で答えた。

「魔力の装填と内門までの突破。理論的には出来ます。出来ますよ」

デメリットは言わず、
ただ、
フレアはそう強く笑顔で言った。

「相手もそれはわかってるだろうね」

ツバメが、
椅子に座りなおしながら言う。
椅子を逆向きに、
背もたれに両手をかけながら。

「フレア嬢一人に任せる。逆に相手の狙いどころもそこ一つ」
「無理があってもやってもらうしかないんだけどね」
「それでも無理のある作戦一つで解決。そうは至らんな」
「それでもやるしかねぇだろ」

ドジャーが、
そう使い古された言葉を言う。
そんな、
安い、根拠のない言葉を。

「・・・・・・」

フレアが、
二度の超メテオに耐えうらなかったら?
フレアが、
内門までたどり着けなかったら?
フレアが、
激戦が予想される庭園にて、
メテオを撃つヒマを与えられなかったら?

「それでも・・・やるしかねぇ」

ドジャーは、
不安をかき消そうと必死に、
そう呟いた。

成功率が少なかろうと、
無理があろうと、
唯一現実的な策ではあるから。

「ボクさ。最近ミステリーにハマっててね」

いきなり、
エクスポが話題を変えるように、
軽い口調で言った。

「いきなりなんだ?エクスポ」
「まぁ聞いておくれよドジャー。つまり、ミステリー小説・・・っていうか推理小説だね。
 あぁいうトリックに全力をそそいだ文学はギミックを考えつくされた芸術だと思うわけだよ。
 完全犯罪は美しい。不謹慎かな。でも完全という言葉には美しさがあるからね」

・・・と、話がそれた。
エクスポは笑う。

「推理小説のトリック。それは大きく二種類だ。アリバイと、密室。基本はこの二つ」

エクスポが、
指を二本立てる。
ピースをするように。

「密室トリックは逆算さ。犯人の気持ちになれば、最終的には"どうカギを閉めるか"」
「押してだめなら引けばいい」
「バン♪」

アレックスの回答に、
ご名答とでも言わんばかりに、
エクスポはウインクした。

「そう。その通りだよ。あくまで門だ。鉄壁という名の密室(完全犯罪)も真実はいつも一つ。
 カギは中から開ければいい。そういう仕掛けはあるんだろ?」
「あります」

アレックスは頷く。

「外門の横。稼動式のレバーのようなものがあります。
 単純に、一人の力でも開けられるような仕掛けです」
「なら行けるんじゃねぇか?」
「確かに」
「それこそ策と言えるかもね」
「中に入りたいから門を開けるのに、どうやって中から門を開けるのだ」

と、
当たり前すぎる事を、
ツヴァイが言う。

「う・・・・」
「なんつー馬鹿・・・」

自分達自身に呆れる。

「いや、だが」

イスカが切り出した。

「つまり、少数でも門以外から突破すれば、希望はあるということだ」
「確かに」
「ちなみにアレックス」
「はい」
「その仕掛けは内門にも外門にもあんのか?」
「当然です。あの馬鹿デカい門を毎回兵達が一生懸命皆で押して開けたり閉じたりしてるとでも?」
「お前も気付かなかったクセに偉そうに言うな」
「あの馬鹿デカい門を毎回兵達が一生懸命皆で押して開けたり閉じたりしてるとでも?」
「なんで二回言う・・・・」
「なんとなく。反論もなかったので」
「意味わからん」
「でもです」

アレックスが片手を広げて言う。

「つまり、向こうも毎回の事なので分かっているでしょう」
「当然だな。そんな急所、用心していないわけがない」
「でも門をぶち破るよりずっと可能性はあるねぇ」
「問題は」
「どうやって侵入するかだね」
「城壁を越えるのが至難なのは変わらないしね」

なんでこうも・・・
皆は思う。
なんでこうも・・・
思考が進んでは戻るのか。
ぐるぐるぐるぐる同じ事を考える。

だがそれは、
それだけ、
あのルアス城。
鉄壁のルアス城が、
攻城戦という場において不落かを表している。

「飛んでけー!」

酔っ払いが叫んだ。

「吹っ飛べー!」

顔を真っ赤にした姉さんが、
酒瓶を持ってへべれけに言う。

「ティル姉・・・飲みすぎだ」
「なぁーんだドジャ〜〜。この悪ガキ坊’S〜。お姉さんに文句あるのか〜」
「いや、だけどよぉティル姉ぇ・・・・」
「それです」

アレックスは、
思いついたように椅子から立ち上がり、
立ち上がったかと思うと、
すぐさま体を縮め、
テーブルの下へと潜っていった。

「コレを使いましょう」

そう言いながら、
アレックスは、
ズリズリとソレを引きずり出す。

「イヤだ」

不動の状態で、
まるでモノのように微動だにせず引きずり出されたソレは、
タバコを手に持ったまま、
話を聞く前に拒否した。

「ダルい」

顔の筋肉。
いや、
全身の筋肉を微動だにせず、
寝転がったまま言った。

「なるほどね」
「ガブちゃんを使うわけだ」
「やはり三次元という部分に戻るのだな」
「これはこちらにしかない一つの要でもある」

神族。
その、
翼。

「ガブリエルなら自由に城壁を跨げる」
「空に国境はない。美しい言葉だね」
「イヤだ」

筋肉をまったく使わず、
何事もないように、
ガブリエルは言う。

「イヤだ」
「・・・・・」
「メンドくさがりのクセに三度もいいやがった・・・・」
「ガブちゃんさん。確定事項ではないです。ですが貴方の翼。
 それを一つの選択肢に入れるだけで戦況の幅は大きく変わります」
「イヤだ。ダルい」

なんという駄々っ子だ。

「イヤだ。ダルい。メンドくさい」
「ムキィーーーー!!!」

ツバメが地団駄を踏む。

「おい神様野郎!!てめぇうちの兄貴の名前を背負いながら何言ってやがる!
 なんのための神だ!翼だ!てめぇの翼はなんのために生えてる!?あぁ!?」
「フッ・・・」

ここで、
寝転がったまま、
ガブリエルはすまし顔で言う。

「俺の翼は・・・」

天井にタバコを差し上げながら。

「飾りだ!」

「黙れ!!!」
「ざけんな!!!」

近場の人間の足が一斉に飛ぶ。
踏む。
踏む踏む踏む。
1up。

「いたい・・・いたい・・・・いたい・・・・」

あまり痛そうじゃない声をあげながら、
踏まれまくりながら、
ガブリエルはタバコを吸っていた。
絶対痛いはずなのに、
抵抗したりわめいたりするのも面倒なのか。

「まぁ何にしろだ」

場を収めるように、
エドガイは言う。

「可能性はあるが、どれも確実とは言い難い。そうだろ?」
「・・・・」
「まぁ確かに」

皆、
ガブリエルを踏むのをやめた。

「相手は帝国だ。計画通りに進む可能性の方が少ない」
「ふん。そうだな。今上げた作戦も、全て相手側とてすぐ思いつくことだ」
「バレバレでしょうね」
「じゃぁ実際どうするんだよ」
「だから」

結論のように、
ツヴァイは、
その言葉に戻る。

「策はない」

その言葉に、
誰もイラつきはしなかった。
事実であり、
現実だから。

「まぁ考えれる事は考えておいて、最終的には行き当たりバッタリになるだろうな」
「なるようにしかならねぇか」
「なるようにしか?」

ツヴァイは睨む。

「なるようになる。その自然の流れに任せれば十中十九、相手側の流れだ。
 全ては帝国が勝っているのだから。楽観視などできようものではない」

なるようになど、
絶対に、
ならない。

「だからといっても策もねぇ」
「あーあ」

マリナがカウンターに項垂れる。

「現実は厳しいわね・・・戦力自体、質も数で負けまくってるのにお城かぁ・・・・」
「相手は歴戦の騎士団だからな」
「数も・・・・2000と5000」
「魔物軍団と戦った時は数は倍だったけど、それ以上」
「質もそれほど差は無かったといってもね」
「だけどあの時は勝った」
「かけ算で考えれば今回のが不利だけどよぉ、あの時は1万も差があったんだ」
「それと比べれば確かに今回は・・・・」
「え?」

アレックスが不思議そうに、
辺りを見渡す。
なんで?
なんで?
と、

「なんで、2000対5000なんですか?」
「いや、だからこっちが2000しかいなくて」
「復活した王国騎士団が5000・・・・」
「帝国は全然1万超えてますけど」

知らぬ者は、
皆、
目を見開いてアレックスを見た。
それが怖くて、
アレックスは少しキョドった。

「な、なんですか・・・」
「何言ってんだおめぇ!」
「そんな話聞いてないわよ!」
「いや・・・だって・・・・」
「そうだぜアレックス」

ドジャーが、
アレックスに迫るように言う。

「悪魔部隊も倒した。神族部隊も倒した。あの量の魔物部隊も倒した。
 そんでもってお前の策略で人間部隊も壊滅させたじゃねぇか」
「もう敵は残ってないわよ」
「死骸騎士しかね」
「ぼ、僕は人間部隊を壊滅させてなんてないですけど・・・・」

アレックスは焦る。
皆の反応が怖い。

「あ、いえ、確かに精鋭1000は壊滅させました。
 隊長格なども根こそぎ、99番街にて壊滅させました。
 実質部隊として成り立てなくはしました。けど・・・・」
「確かに・・・・人間部隊が1000。考えてみれば少なすぎるね」

エクスポは、
スッキリとしたため息をつき、
納得する。

「そこらの大型ギルドより少ない。それで壊滅なんて言えたものじゃない・・・か。
 美しくないね。こんな事実が残っていたとは・・・・」
「チッ・・・部隊としちゃぁ成り立ってねぇが、雑兵はゴロゴロ残ってるってことか」
「そりゃそうよね・・・」

マリナは思い出したように、
カウンターに項垂れたまま、
片手で額を覆う。

「私とイスカが脱出しようって時、城の中にバリバリ敵いたもの・・・・」
「拙者は覚えておったぞ。ただ忘れておっただけだ」
「それは覚えてないっていうんだ」
「思い出せるということは覚えていたということであろう?」

どうでもいい。

「アレックス」

ツヴァイが聞く。

「それで。雑兵はどうなってる」

アレックスは顔を振りながら答える。

「数までは分かりません。ですが死骸騎士と合わせて1万は超えるでしょう」
「質は?」
「さっきも言いましたが、僕の素晴らしい見事な作戦により、主要な人は排除しました。
 特に目ぼしい強敵という人は残っていません。ほんと雑兵としか言い様がない人達です」
「ザコが沸いた気分だな・・・・」

皆、
グッタリする。
考えれば考えるほど、
光が消えていく。

「でもでも〜」

ロッキーがピョンピョンと跳ねながら聞く。

「その死んだ人達っていうのは〜。凄い人達がいるんでしょ〜?」
「あ〜」
「聞きたくねぇ」

ドジャーは椅子に身を投げてそっぽ向いた。
他も似たような反応だ。

「そりゃそうですよ。歴代最強の騎士団と、その部隊長達ですよ?」
「カッ、僕もその中の一人です。ってか?」
「僕なんてザコです」

アレックスは、
また首を振った。

「部隊長格。全て僕より上だと思ってください」
「・・・・・」
「それが52人?」
「正確には僕を除いて51人」
「プラス、53部隊の2人」
「ジョーカー含めてトランプは54枚」
「アレックスだけ抜けて」
「ジジ抜きだね〜!」

ロッキーが言う。
ジジ抜き。
確かに。
言い得て絶妙だ。

「・・・・・」
「一応聞いとこうか」
「死骸部隊長で特に危ないのは?」
「皆危ないです」
「だーかーら・・・・」
「言ってるでしょう?全ての部隊長は僕より強いです。
 僕なんて若い内にちょいちょいと就任しちゃった若造部隊長だったんですから」

母の、
医療部隊を継いだだけの・・・。

「それでも、そんな素晴らしい52の部隊長から、特に秀でている人達も居ます。
 ピルゲンさんは力を隠してましたし、ジョーカーズも同じ。あと・・・・」
「ロウマの強さなんて知ってるっての」
「ロウマさんが最強なんて誰でも知ってます。だからそれを除外した強者達。
 部隊長の中の部隊長。彼ら5人のことを、仲間の騎士達はこう呼びます」

アレックスは一間開け、
呼吸し、
言い放つ。

「"五天王"」

その言葉に、
皆、
沈黙し、
特に、
ドジャーが反応を見せた。
固まったように、
その言葉にやられたように。
その固まった表情のまま、
なんとか、
言う。

「ハ・・・ハンパだ・・・・」

何かこう、
胸に引っかかる。
ハンパ具合が。

「ハンパね・・・」
「ハンパだな・・・・」
「五天王って・・・・」
「一人くらい断腸の思いで削ってくれよ!!」
「団長なだけに?」
「誰?今くだらない事言ったの」

静まった。
誰かは分からないが、
言った本人も恥ずかしいのだろう。

「名前だけあげときます。五天王。筆頭はもちろん、ディエゴ=パドレス・・・・ディエゴさんです」
「パドか。ナツい名だ」

エドガイが、
自分の耳のピアスをなぶりながら言う。

「ナツかしいどころじゃないと思いますよ。全員当然黄金世代ですから。
 残りは鉄壁のミラさん。魔弾ポルティーボ=Dさん。女神オレンティーナさん。そして・・・」
「涙目クライ」

と、
そう口を挟んだのは、
顔を真っ赤にしたまま、
テーブルに項垂れるティルだった。

「・・・・・ほんと。同窓会だねぇ」
「ティル。向こうも向こうでお前に会ったらビックリするだろうさ」
「会いたくなくても行かなきゃなのが同窓会よねぇ・・・・」

アインハルトの呪縛から、
死んだことにして逃げたティル。
その束縛へ、
自ら足を踏み入れなければならない。

「酔いが覚めたわ」

ムスりと、
ティルはテーブルに顔をうずめたまま、
そっぽを向いた。

「ん?ん?ん?」

イスカは、
必死に自分の指を折り曲げていた。

「覚えきれぬ・・・・」
「でしょうね」
「大丈夫だ。どーせぶちあたる。今は忘れておけ」
「カッ・・・なんせ・・・・」

ドジャーも呆れ顔で言う。

「ロウマ、ピルゲン、燻(XO)、ギルヴァングを含めた、53の部隊長。
 それ全部をぶち倒さねぇといけねぇんだ。前人未到の53人抜きだぜ」
「前人未到?」
「彼らの前に立った人などすべからく倒れているのにですか?」
「うっせ。言葉の揚げ足をとるな」
「敵が大きすぎますね・・・・・」

フレアがため息をついた。
想像を超える、
その、
どうしようもない絶対なる強大さに。

「絶騎将軍(ジャガーノート)4体だけでも絶望的なのに、それを含めた部隊長53人」
「それを助ける歴代最強の死骸騎士達5000」
「計1万超え」
「それを守る鉄壁のルアス城」
「超えられない壁、内門外門」
「その全てを超えたとして・・・・・」

どうにもならない、
最強の、

絶対(アブソリュート)

アインハルト=ディアモンド=ハークス。

「ここまで話しても」
「結論無し」
「絶望ありあり」
「望み無し」
「うちらってさ・・・・」

言葉にしちゃいけないと分かってても、
それでも、

「本当に勝てるのかな」

ツバメが放った言葉は、
現実で。
あまりに途方も無く、
望みもなく、
希望もなく。
勝てる見込みは皆無。

ツヴァイが最初に言った言葉。

自殺。

それ以外の、
何者でもない。
ただ、
"勇気ある自爆"
それだけ。
それだけ。
ただ愚かな・・・。

「でもやるしかねぇ」

ドジャーが、
また、
使い古された言葉を言う。

「後には退けないねぇし、逃げ場もねぇ。やるしかねぇんだろ」
「そうだ」

ツヴァイが言う。
同意する。

「勝てる見込みがないなら・・・勝て。死ぬしかないなら・・・・生きろ。
 未来がないなら・・・・進め。それでも駄目なら・・・・立ち上がれ」

オレ達には、
それしかない。

選択肢がないなら。
もう、
覚悟は、
皆、
決まっている。
最初に言ったはずだ。

皆、
覚悟はとうに出来ている。

「何人死ぬかな」

エクスポは笑った。

「全員だろ」

エドガイの言葉は笑い事じゃなかった。

「なら、どーせなら道連れだね」

ツバメは苦笑した。

「悔いは残さないです」

フレアが微笑みながらも真剣に。

「到達せんならすでに後悔だ」

イスカが呟く。

「なら勝とうよ〜」

ロッキーが微笑む。

「どうにでもなるさ・・・・」

どーでもよさそうにガブリエルが言う。

「どうにかするんだ。理屈じゃないよ」

ティルが寝言のように言う。

「勝率はゼロ。だが兄上の1を超える。それだけだ」

無表情に、
ツヴァイが言う。

「どーせ終焉だ。全部最後だ」

ドジャーが投槍に言って。

「なら終わらせましょう」

アレックスがやはり微笑む。

「でもバッドエンドは認めません。僕はハッピーエンドが好きです」

そう続け、
アレックスはもう一度笑った。

「よし、どう転がろうと終焉だ」

ドジャーが立ち上がる。

「全て終わった後、生きて地獄で会おうぜ」

ドジャーはそういい残し、
店を後にしようと歩む。
アレックスもやれやれと立ち上がり、
着いて行く。

結局、
作戦も何もなかった。
光も見えなかった。

相手はそれほどだ。
それほどで、
絶望だ。

だけど、
愚か者達は立ち上がった。

「あ、そうそう」

ドジャーが先に行こうとしているのに、
アレックスは立ち止まり、
振り向く。

「作戦という作戦は結局なかったですね。結局行き当たりで、生き当たり。
 きっと終焉にて、行き止まりにて、生き止まり。それが分かったくらいですが・・・・」
「ん?なんだアレックス」
「方法も分かりません。手段も思いつきませんだけど、僕の考えている作戦を一つだけ」
「カッ、まさか作戦は"勝つ"ってか?」
「いいえ。それもカッコいいけど現実的な話」

前から言ってたでしょう?
僕は思い直していません。
この作戦。
きっと実行させます。

「44部隊を引き込みます」

そう、
軽く誰ともなく指を突き出し、
根拠が本当に無い笑顔を浮かべ、
アレックスはドジャーと共に店の外へと出て行った。

「本気かよ」
「本気と書いてマジです」
「カッ」

店の外に出たのと同時、
日差しが襲いかかってきて、
二人は足を止めた。

「相手が強いなら、相手が仲間になればいいんですよ」
「そうなりゃ最高だがな」

そんな策略も、
可能性を考えればわずか。
もちろん、
その策を成す手段など、
本気と書いてマジに、
これっぽっちも思いついていない。

「ま、期待はしないでください。今のところ倒さなきゃいけない相手です」
「今のところねぇ」
「正直、引き込めるとしたら彼らしかないと思ってるだけです」
「だろうな」

太陽は容赦しない。
雲に隠れようともせず、
アレックスとドジャーを照りつける。

「じゃぁとりあえず、今居る奴らで・・・・」
「やるしかないですね」

絶対を。
100%という、
1を。

覆す。

無力を持って。


「今居る奴?」


ふと声。

「忘れてもらっちゃぁ困るな」

そいつは、
店の外。
その壁にもたれかかって座っていた。

「ん?」
「なんだお前来てたのか」
「入ってこれば良かったのに」

「ジョーダン」

そいつは、
すまし顔で笑った。

「嫌われ者はハブられてるのが一番だ」

「カッ、どっちにしろ期待してねぇよ」
「貴方、前の時は逃げたと聞きましたしね」

「あぁ。期待しないでくれ」

「・・・・いけすかねぇ」
「ですが貴重な主力戦力です」

そう言って、
アレックスとドジャーはその場を離れながら、
背中越しに言い残した。

「じゃぁな」
「それでも期待してますよ。メテオラさん」

「・・・・ウフ・・・」

二人が遠くに歩んでいくのを見て、
メテオラは笑みを止めれなかった。

「"わざわざクソを踏む奴なんていねぇ"・・・ってか?」

嫌われておけば、
このとおりだ。

そう。
現実問題。

"未だバレちゃぁいない"

「平和ボケのド畜生共め。まだ気付かないなんてなぁ。可愛いすぎる。
 まだただの気に入らない仲間だと思ってやがる。
 大事なだぁーいじなお友達を、"あんな風に殺してやったのに"・・・。
 ウフフ・・・・・大体入れるわけねぇだろ。顔バレてる奴が中に居るのによぉ」

甘ちゃん共めが。
可愛い可愛い、
ド畜生共めが。

「ま、話は大概聞かせてもらった。最後のは聞き流してもいいレベルだろうけどな。
 ウフフ。ま、いいだろこのくらい?"仲間"なんだからよぉ」

仲間?
敵?
化けの皮の下は決まっている。
最悪の、
X(罰)

ウフフと笑いながら、
メテオラは転送の光に包まれていく。

「じゃぁな。地獄でクソでも食い合おうぜ」

そういい残し、
人知れず。
クソ野郎は去っていった。






戦争は始まる。

勝ち目のない戦争が。

終焉を迎える戦争が。



これで終わる。
ネコソギに。
ネダヤシに。

塵も残らない。
最後だから、
どうにでもなるし、
どうとでもなる。

最後の舞台には、
誰しにも平等の・・・・

死の権利がある。




終わるのか。
終わらないのか。

終わる。
終わらない終わり。

どっちだ。

ネヴァーエンド。
ネヴァーエンド。
ネヴァーEND。
ネヴァーAND。

命はどちら。


ハッピーエンドか、
バッドエンドか。

希望はもちろん、

未来のあるエンディング。

現実は・・・・


さぁ。


Never Anding Story の・・・・


終焉の開幕。










                 






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