「宴の時だ」

マイソシア。
その世界の中心。
ルアス。
そこに聳える、
世界の中心である建造物。

それは、
マイソシアを統括するルアス=アスク王による、
アスク帝国。
その王宮を軸に、
実質的に基幹であった機関。

王国騎士団。

それも今はなく、
それどころかアスク王を含む、
アスク帝国もなく、
当然騎士団もなく、
法もなく、
国もなく、
公共もなく、
ルールもなく、
ただ、
慈悲もなく。

そして、
その建造物も、
世界も、

たった一人の人間によって統括された。
否。
統括する気などサラサラなく、
ただ、
世界を玩具にした。

「我を中心に世界が回っているのではない」

世界の中心。
ルアス城。

世界の中心の中心。
その最上階にて、

彼はその王座に腰を落としていた。

「ただ、我が世界を回す」

彼の居る場所が世界の中心で、
彼が、
世界の中心。

「虫の上に獣を作り、獣の上に魔物を作り、魔物の上に人を作った。
 そしてそれを作った全ての上に神がいた。だが・・・・その上に我がいる」





                   元王国騎士団 騎士団長
                   現帝国アルガルド騎士団 騎士団長

                   『天上天下唯我独尊(ジ・アイン)』

                  アインハルト=ディアモンド=ハークス




地面につくほど長い、
漆黒の髪のように漆黒な。
そして、
全ての頂点にして、

絶対。

たった一つの存在。
完全なる"1(オリジナル)"

「我の前には何者もなく、ただ我の後にも何者もいない」

1(アイン)の前には何もなく、
1(アイン)の後にも何もない。

孤独(ロンリー)や
唯一(オンリー)よりも、

ただ、
絶対(アブソリュート)

「ゆえに、我の思いのまま、世界で遊ぼうではないか」


「もちろんでございます。ディアモンド様」


王座の前に立つ、
その半老体。
模したかのように、
また彼も漆黒のハットをかぶり、
紳士なる礼儀正しい服装の通りに、
礼儀正しく。

右腕を折り曲げ、
頭を下げた。

「何もかもあなた様のしたいようにすべきでございます。
 何故なら世界の塵一つ例外なく、あなた様に逆らえるものなどいないのでございますから」




            元王国騎士団 第34番・行政部隊 部隊長
            現帝国アルガルド騎士団 『絶騎士将軍(ジャガーノート)』

            『漆黒紳士(ブラック・ナイト)』

            ピルゲン=ブラフォード



騎士(ナイト)でありながら、
夜(ナイト)でもある、
その忠実なる僕(しもべ)の言葉に対し、

「ふん」

アインハルトは、
ただ当たり前の言葉を返してきただけだと、
鼻を鳴らしただけだった。

「いやはや」

だがピルゲンは嬉しそうに、
自慢のヒゲを整えながら、

「まさかこんな事を考えてらっしゃるとは思いもございませんでした」

ピルゲンは小さく笑いながら話す。

「王国騎士団の屍骸を復活させるなどと・・・・・ね」

そう言いながら、
ピルゲンは視線の向きを変える。

そこには、

鎧が立っていた。

「・・・・・・」

それは返事もせず立っていたが、
それにも嬉しそうに首を振り、
ピルゲンは話を続ける。

「いやいや、復活というよりは造り直したと言うべきでございましょうか。
 さすがに私も気付けませんでした。なぜ《GUN'S Revoler》なんというギルドを造り、
 終焉戦争など起こし、自ら王国騎士団を壊滅させたのか・・・という事をね」

ヒゲを弄りながら、
続ける。

「選別だとおっしゃっておりましたね。あれは使えるものだけを選んだのかと思っておりました。
 あぁ・・・いや失礼。それも正しいのでございましょう。事実、生きているのは使える者だけ」

王国騎士団時代から生き残っているのは、
使える、
使える駒だけ。

「残りの使えぬものは・・・・使えるように作り直す。それが計画だったのでございますね。
 ・・・・フフッ、なるほど。そして面白い。"死者の部隊"などと・・・・・ね」

ピルゲンの視線は、
やはり彼から離れてはいなかった。

鎧の男。
鎧だけの男。

骨と、
鎧だけの男。



「・・・・・・身が滅んでも・・・・誇りは・・・・・死なん・・・・」







                     元王国騎士団 第1番・最終守備部隊 部隊長

                     『プラウド・ナイト』

                     ディエゴ=パドレス


「おやおや、まだ悠長にも話せないのでございますか?
 フフッ、ですが死人に口無しという言葉は改正すべきでございますね」

「・・・・・・黙れ・・・・誇り亡き化身め・・・・」

骸骨の魂。
魂だけの存在。
されど、
鎧と槍を捨てない死者は、
わずかにも動かずそう言った。

「そう。誇りだ」

口を挟んだのは、
アインハルト。

「心地はどうだ?ディエゴ」

「・・・・・・」

「だろうな。もうお前には感情もない。退化もなければ進化もない。命が進むことさえ。
 何も感じないだろう?だがお前はただ考える。"騎士団を、城を守る"と・・・・な」

アインハルトは、
そういやらしく笑った。


「そうです。私の・・・・アザトース(死逆葬送)はそういう魔法なのですから・・・・」

女性の声。
彼女は、
そのか弱い、
小さな体を、
アインハルトにもたれ掛かるように預け、
寄り添い、
そしてそれは、
アインハルトのみに発しているかのようだった。

「生き返らせたんじゃない・・・蘇らせたんじゃない・・・・ただ、死人を動かしただけ・・・・」



         アインハルト 愛僕

         『アンチ・ゼロ』

           ロゼ


無なる存在。
無の逆。
ゼロの逆の存在は、
アインハルトの胸に手を寄せながら続ける。

「"誇り高き騎士団"・・・・アイン様・・・あなた様はそれを長い年月をかけて作った・・・・
 覆られない屈強な誇りを持つ騎士団・・・・・その魂は・・・・2年を過ぎてもこの城で・・・・・」

2年。
終焉戦争からの年月。
だが、
終焉戦争で死に絶えた者達。

誇り高き騎士団。
王国騎士団の騎士達は、

朽ちなかった。
魂はそれでも朽ちなかった。

そう、
アインハルトが作ったのだが・・・・。

「2年前・・・・あなた様の陰謀とは露知らず・・・騎士団の者達は戦った・・・・
 そして死んでいった・・・そして死に際の最後まで・・・・城を・・・騎士団を守ろうと・・・・」

「・・・・五月蝿い・・・・・」

鎧の、
死者の騎士は言葉を突き出した。

「・・・それの・・・何が悪い・・・それの・・・・」

「そう。あなたは悪くない。ただ、あなたは今でもその愚かなまま・・・・」

「・・・・・・」

鎧の、
骸骨の騎士は言葉を止めた。
死んでいるかのように。
死んでいるから。

「あなた・・・いえ、あなた達の魂は"2年前のまま"・・・・時が止まったままなのです。
 だから今、この場にいて、どれだけ言葉を交わそうと、心しかないあなたは変わらない。
 脳に刻まれることはない。まだ、ただ、愚かに、"騎士団を守ろう"という気持ちを止められない」

「・・・・だま・・・れ・・・・」

死し、
誇り高き騎士ディエゴは、
かき消せないから、
その通りだから、
ただ言葉を返すしかなかった。

その通りだからだ。

何を言われようと、
何をされようと、
何も感じない。
何も変われない。

魂だけの死者だから。

ただただ、
今でも、

騎士団を守ろうという決意だけが、
自分の中に渦巻いている。

死んだときからわずかにも変わらない。
そのままの状態で。

抵抗もできない。
本心が固定されたままなのだから。


「・・・・・ディエゴ。お前は間違っていない」


「・・・・・分かってる・・・分かってる・・・・」

「哀しき末路だが、お前の朽ちぬ誇り。このロウマ。賞賛に値する」




          元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 部隊長
          現帝国アルガルド騎士団 『絶騎士将軍(ジャガーノート)』
          兼帝国アルガルド騎士団 44部隊 部隊長

          『矛盾のスサノオ』

          ロウマ=ハート



ロウマ。
世界最強は、
その2mを超える巨体を王座の間の柱に預けながら、
両腕を組んで話す。

「ディエゴ。お前はいつも言っていたな。死んでも守る・・・と」

「・・・・・あぁ」

「叶えたではないか。・・・・ロゼのアザトースは死者蘇生。いや、死者再始動のスペルだが・・・。
 だけどだ。魂が無ければ所詮蘇生魔法など無意味でしかない。
 だがお前は立っているだろう?平均で30分しか持たないと言われている魂の寿命。
 お前は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・"2年耐えた"」

2年。
魂が2年。
ココに、
耐え抜いた。

天国にも地獄にもいかず、
ただ、
未練と固執。

ただ、
王国騎士団のために。
城を守るために。

それだけの信念と誇りだけで。

「まぁ、それは自縛霊や浮遊霊の理論でございましょうがね」

水を差すように、
ピルゲンは横から口を出した。

「・・・・黙れピルゲン。それでもいいだろう。思いの強さがディエゴを蘇らせた」
「それもディアモンド様の意志でございますがね
 恐らく下準備があったのでございましょう。魂を解放しない下ごしらえがね」

だからこそ壊滅させた。

「そう」

アインハルトは、
右手を泳がせながら、
ニヤりと笑い、
言う。

「何度も言っているように、我が欲しいのは完全なる"駒"だ。
 死も恐れず、ただ戦う雑兵(ポーン)だ。ただ前にだけ進む・・・・な。
 だから王国騎士団を利用した。フッ。愚かだな。
 "何も恐れない一途な騎士道"が、何よりも扱いやすい」

王座に座ったまま、
アインハルトはただ笑う。
何もかも思い通り。
予定通り。
そして、
何もかもを弄ぶ通り。
手の平。
いつでも握りつぶせる小さなカス共。

ならばせめて我が手の上で踊れ。

「アイン」

両腕を組んだまま、
"矛盾"の二文字を刻んだマントを柱に預けたまま。
ロウマはアインハルトに言う。

「確かにお前の思い通りなのだろう。このロウマを含む、王国騎士団の騎士道さえも。
 その真っ直ぐな心さえも。ただのお前の利用価値にすぎなかったのだろう。
 だがそれでもなお、思い通りだろうとも、真っ直ぐ前を向くディエゴ達に何か思わないのか?」

「思うな。使えぬカスではなかったぐらいしかな」

「・・・・・聞くだけ無駄だったか」

アインハルトに唯一。
唯一歯向かう言葉を持つ男。
それが、
ロウマだった。

「ディエゴ。確かにこのロウマとて、強制的に生かされ・・・いや、"死に続けさせられ"
 そんな姿になってまでお前の言う"騎志(プラウド)"に捕われ利用される姿には思うところはある。
 だがこれだけは言わせてくれ。このロウマの本心だ」

ロウマは、
柱にもたれたまま、
やはり両腕を組んだまま微動だにせず。
ただ、
目を瞑って言った。

「このロウマ。またお前らと戦えて嬉しく思う」
「・・・・ロウマ」

骨と、
鎧と、
槍だけの屍骸の姿になってまで、
まだ、
ただ王国騎士団のためだけ。
そのために戦いたいと思ってしまう。

そんなものはもうないのに。

心が変えられない。
死んでいるから。
魂しかないから。
成長も退化もしないから。

終焉戦争の時、
死んだ時から時を止められ。

誇りのための思いが、
利用されても。

「ロウマ・・・・」

ディエゴは、
何か感情があるようで、
だが、
やはり槍を持ち、
鎧に覆われた、
模型のような骸骨のまま。

「それだけで救われる。間違っていると分かっていても、戦うしか選択肢のない俺だ。
 騎士団長の意思で遊ばれていても、この思いは止められないから。だから」

その言葉は救いになる。

騎志はもう止められない。
それを利用されていても、
固定させられている。

でも、
それを否定もできないし、
したくない。


「・・・・・ッラァ!!!」


ゴンッ!!
と、
地面をぶち叩く音がした。

「漢だねぇ!!」

それは、
遠目には布切れにしか見えないような、
ファー付きの衣類。
逆立った髪に、
野獣のような体つき。

その男は、
この世界の最上部にて、
赤い絨毯の上で、
あぐらをかいて座りこんでいた。

「難しい事分からねぇけどよぉ!それでも戦う漢にゃ俺様惚れちまうぜ!!!」


         元王国騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 双璧部隊長
         現帝国アルガルド騎士団 『絶騎将軍(ジャガーノート)』
         兼現帝国アルガルド騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 双璧部隊長

             『グランドスラム(破壊制覇者)』

              ギルヴァング=ギャラクティカ


「ギャハハハハッ!正直、こんだけ話を聞いても全然!!まったく理解できねぇけどな!
 死んだ人間が復活する意味とはわけわかんねぇ!でもいーや!つまり気合だろ!!
 気合で復活したんだろ!死んでもまだ戦うなんてぇ!まったくメチャ漢だぜ!!!」
「ギルヴァング殿・・・・。もう少し利口になられては?」
「ばっかじゃねぇの!!!漢は馬鹿でいいんだよ!!!」

その力強い拳を握り、
猛獣の牙をも連想させるその歯を噛み締め笑う。

「それによぉ!よく分からねぇけど、"皆"復活してんだろ!?」

皆。

「俺様暗躍だったからな!基本的に関り無かったから楽しみだっての!
 アイン!お前に選ばれた52人の部隊長って奴と闘うのがなぁ!!ギャハハハッ!!」
「仲間と戦ってどうするんでございますか」
「漢に理屈はいらねぇ!!向き合って闘志がぶつかったら!もうメチャ闘えばいいじゃねぇか!」

そう。
そうなのだ。

屍骸として、
死者として復活した騎士は、
何もディエゴだけではない。

王国騎士団。
カードに見立てられた52枚の部隊長達。
それを含む、
まさに王国騎士団。

その者達は、

皆、蘇った。

「・・・・・正確には全員ではないです」

ロゼが付け足す。

「損傷の激しい方は不可能でした・・・・アザトースにて動かせたのは6割程度でしょうか」
「死者も完全ではないということ・・・か」

ロウマは胸を痛める。

「どちらが幸せだったのだろうな。本人の思いのままなのかも分からず、
 他人の意志の上に利用させられ、まだ王国騎士団のために戦う死人騎士。
 それとも、あの終焉戦争にて、蘇生も出来ないほど完膚なきまで戦い、朽ち果てた者」

「関係ない」

アインハルトが、
全てを否定するように挟む。

「ロゼの力でも蘇生できなかった者など、ただの使えぬカスでしかなかった」

それだけだ。

そう、
全ての権限を持つもの。
絶対の存在。
勇敢で誇り高き騎士の亡骸まで弄ぶ、
そんな孤高の絶対は言い放つ。

「ギャハハッ!よく分からねぇけど!とにかく強ぇ奴は残ってんだろ!?
 俺様メチャやってみてぇ奴いっぱいいんのよ!そーだなぁ・・・・まずディエゴだろ?」
「・・・・断る。俺はただ騎士団のためだけに戦う」
「ケッ、つれねぇなぁ。あとディアンだろ?」
「あいつは騎士団に入ってない。それ以前にもう死んだ」
「え?マジで?・・・・んまぁ・・・あとは・・・・そうそう!!」

バチンっ!
と、
両手を合わせるギルヴァング。

「アクセル!アクセル=オーランド!」
「・・・・・」

ロウマは溜まらず顔を背けた。
それは、
ある種の禁句とさえ思えた。

「ギルヴァング殿」

ピルゲンが、
補足のように話しかける。

「あぁーん?」
「アクセル殿は、エーレン殿と共に死んだでございましょう? 終焉戦争の前に」
「あ?んじゃぁ復活してねぇの?」
「そういう事でございます」

「ウフフ・・・・」

落ち込むギルヴァングを放っておくように、
嬉しそうな声が、
横入りする。

「そう。その通りだ。ありゃぁ惜しい素材達だったぜ?
 アインハルトに立て突かなけりゃ長生き出来た。少なくとも今、死者としてな」

紫色の長髪の上に、
ネクロケスタの骸骨をかぶり、
そして、
車椅子に腰掛ける、
美麗なる男。

「でもいーねぇ。ゾクゾクするぜ。死者の再利用?最高っじゃねぇか♪
 どう応用してやろうか。もう殺して捨てる時代は終わったんだな。
 ウフフ・・・・こりゃぁ拷問の幅が倍以上に増えるぜ?興奮するねぇ」

カラカラ、
と、
車輪を回す。

「世の中結局。Xか○だ。あんたについてきて良かったぜド畜生」



   元王国騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 双璧部隊長
   帝国アルガルド騎士団 『絶騎将軍(ジャガーノート)』
   兼現帝国アルガルド騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 双璧部隊長

         『バスケットケース(手も足もでない)』

             燻(XO)


「ウフフ・・・・死んでも生かされる・・・・まるで鎖で繋いだかのように。
 心は2年前のまま・・・ただ思う・・・戦わせてくれっ!戦いたいっ!
 騎士団のためにっ!ルアス城のためにっ!・・・・・ウヒャヒャヒャヒャ!」

車椅子の上で、
鬼畜は舌を出して笑った。

「いいねぇ。騎士の本心を利用するなんてぇ・・・なかなか最悪だ!
 騎士団というトランプカードは、その例えのままあんたに弄ばれるんだな!」

「そうだ」

「いいねぇいいねぇ!!そして最悪だ!そこがいい!最悪は最高だぜド畜生!
 ・・・・で?何が最悪かって?ウフフ・・・・そう。俺は分かる。俺は気付いてるぜぇ?」

自分の両手を弄るように蠢かせながら、
舌を出したまま、
クソ野郎は笑う。

「そう。あんたは王国騎士団を丸ごと復活させた。自分のオモチャとして♪
 歴史上最強と言われた騎士団。52+2人の部隊長率いる最強のカード!
 ・・・・・だ・け・ど・・・・・揃っちゃぁいねぇよな?いねぇよ。いねぇな」

そのイヤらしい目線は、
ロゼに注がれていた。
ロゼはその美しい視線がイヤで、
目を背けながら答えた。

「・・・・はい。騎士団全てとは言わなくても、死し部隊長49名は無事アザトースが成功しました。
 もとより生き延びたピルゲンさんとロウマさんも含め、51隊長。
 そして・・・・無き53枚目の部隊である貴方がたも健在・・・・ですが・・・・」
「だ・が♪」

まだ嬉しそうに。
燻(XO)は受け継ぐように続ける。

「1人だけ。52+2の部隊長の中で一人だけカードが揃ってない」

ウフフ・・・・
と笑う燻(XO)の言葉に答えたのは、
ロウマだった。

「・・・・・・アクセルの倅」
「ピンポンピンポーン♪まったくXの付けようがない答えだロウマちゃぁーん♪
 ○どころか二重○・・・花○あげちゃうぜぇ♪そう・・・・"アクセルとエーレンのガキ"だ」
「アレックス部隊長か」

微動だにせぬ屍骸騎士。
ディエゴは、
心も動かさず、
苦虫を噛む。

「あいつは・・・・何故あんなことを・・・・」
「そうでございましたね。ディエゴ殿。"あなたは唯一その目で見た"」

アレックスが、
世界の鍵。
世界の礎。
世界の根源。
シンボルオブジェクトを盗み、
逃走するのを。

「理由を聞いても理解できない。何故・・・・・」
「そぉーんな事はどうでもイーんだよ」

燻(XO)は、
嬉しそうに、
楽しそうに話す。

「重要なのは・・・つまりだ。アイン。アインハルトよぉ。"あんたがあいつを選んだ"って事だ」

その言葉に、
アインハルトは鼻で笑う。
それを見ても、
燻(XO)は続ける。

「そうだろ?あんたは、あいつを"主人公に選んだ"。"敵に選んだ"」
「どういうことだぁ?俺様にも分かるように説明してくれ」

ギルヴァングが首をかしげながら、
あぐらをかいたまま、
聞く。

そして、
それに答えたのは、

やはり。

「そういうことだ」

アインハルト。
アインハルト=ディアモンド=ハークス。
その絶対だった。

「アレは、我が選んだ。まぁあくまで台本を途中変更しての事だがな」
「アイン様・・・何故あのような者なのですか?」
「簡単だ」

アインハルトは、
片手を握りながら笑う。

「ただ、我の手の平の上での、唯一の反抗分子だったからだ」

唯一。

「ロウマ。ピルゲン。燻(XO)。ギルヴァング。生きし騎士は、生き残っても我の下に。
 そしてディエゴを含む49の部隊長。お前らは利用されるがために死んで我の下に」
「だが・・・・アクセルの倅だけは違った」
「そうだ」

楽しくて、
面白くて、
アインハルトは笑う。

「奴だけは反抗した。我の手の平の上でもがいた。
 結果、終焉にて死にもせず、そして選ばれていないのに生き残り・・・
 手の平の上の存在だったのにも関らず、気付くとこの手になかった」

ゆっくり、
アインハルトは、
握った片手を開いた。

「アレはな。唯一思い通りにいかなかった存在なのだよ」

アレックスは、
アインハルトの計画に飲み込まれず、
終焉戦争から生き延び、
逃げ延び、
そして、
シンボルオブジェクトはまで奪っていった。

結果、
アインハルトの計画は、
1年もの延期をもたらす。

アインハルトに掌握されたマイソシア。
その中の、

唯一の異分子。

「当初は気にも止めていなかった。だが、気付くと、唯一思い通りにならなかったのが奴だった。
 我の人生において、我に反抗したといってもいい存在は3人。
 その3人の最後の一人は・・・・・残り2人の実子だった。こんな面白い偶然はない」

偶然?
偶然なんかじゃない。

「オーランドの血。我の命の中の唯一の敵に相応しい」
「だがよぉ」

ギルヴァングが挟んで来る。

「俺ぁあいつにゃぁ燃えねぇな。アクセルのガキだってか?似ても似つかねぇな。
 あいつにはアクセルのような燃え滾る漢の闘気を感じなかった。
 実力に置いてもハッキリいってヘナチョコだ。メチャ燃えねぇぜありゃぁ」
「ま、そこだけは同感だねぇ」

燻(XO)も続く。

「あいつは、武力だけ天性だったアクセルと、賢力だけ天性だったエーレンの間のガキ。
 だが、だからといって両方受け継いだわけじゃねぇ。・・・・っていうか受け継いでねぇ。
 両極端にズバ抜けたの二人の間に生まれたのは・・・・・ただのど真ん中。"凡人だった"」

騎士としての武力も、
彼らに比べればさほどでもない。
聖職者としての賢力も、
彼らに比べればさほどでもない。

ただの、
平凡な男。

「分かってないな」

ロウマが答える。

「あいつには努力の才能がある。残念ながら勤しむ才能はないがな。
 だが動かないのに、逃げるばかりなのに・・・・・底知れぬ欲求がある。
 力が欲しいとただ望む。何もしたくないのに、何もやりたくないのに。
 あまりに理不尽に、宝くじでも求めるかのように。・・・・だがそれは強さを産む」
「そうでございますね」

ピルゲンが続ける。

「私共がこれだけ世話を焼いてやっても、まるでゴキブリのように生き延びる生命力。
 いやはや感銘を受けますよ。運命から逃れる力・・・・いえ、運命にあらがう力でございましょうか」
「もう・・・・死という運命からさえ逃れられるのに・・・・それでも生き延びるのですね・・・・」
「俺にはやはり分からん。死しても向かうが騎士。騎志だ」

「くだらん」

全ての論議を、
アインハルトは一喝した。

「どうでもいい。あいつはただのカスの一匹には違いない。
 選んでやったのは、ただ相応しかったから。それだけだ」

「そうでございますが?それでもなお、アレックス殿では荷が重いのでは?」
「そうですね・・・・アイン様。あの者には、貴方様の大いなる力の前には雑魚同然・・・・」

「フフッ・・・ハハハ!!!!」

アインハルトは、
笑った。
ただ、
笑った。

「そうだ。その通りだ。・・・・・なのに。なのにだ。"あいつは用意されたようにそこに居る"。
 我の思う通りにならぬのに。まるで我がために作られたようにソコに居た。
 生い立ち、個体としての能力。全てが我にあらがうためだけに用意されたように」

アインハルトは両手を広げた。
世界の中心で。
世界の頂点であるルアス城最上階。
王座の間の中心。
王座にて。

「だから我があいつを"英雄(敵)"にする。否!さすが異分子というべきか。
 我が手を下さずとも、我が手を下したかのように、すでに英雄となっていた!
 まるで物語のように!まるで童話のように!我に反するためだけに生まれたように!」

アインハルトは、
アゴをあげ、
深く、
深く王座にもたれかかった。

「直に分かる。ただの凡人である奴が、何故かこれほどまでに御誂えな敵であるか。
 奴は唯一その権利を持っている。奴は唯一その力を持っている。そして・・・・」

反発するように、
漆黒の絶対は、
王座から立ち上がった。

「その英雄の終わりが、世界を玩具にした我の遊びの終わりだ。
 ククッ・・・・これほどまで我を楽しませてくれる男はいない」

そして、
アインハルトは、
立ち上がったまま、
片手を広げる。

地面につきそうなマントが片側になびき、
地面につきそうな漆黒の髪が揺れた。

「前座は終わった。全ては整った。今、我はとても充実している。
 生涯で初めて敵をもった。これ以上の事はない。
 さぁ。やろう。もう一度。終焉を。二度目の終焉を」














「System Of A Down(世界の終焉)を・・・・」
















S・O・A・D 〜System Of A Down〜



opening 2 ending act

<<ネダヤシ=ネコソギ=ネヴァー&・・・・>>






















「死者の部隊・・・・・か」

彼は、
その部屋にて。
ペンをくわえながら呟いた。

「うちに、そんな陰謀があったとはな。これはどうとるべきなんだろうか」

咥えたペンを手で取り、
デスクの上に放り投げる。

「いや、考えるまでもない。ただ、共に戦ってきた仲間がただ、利用されるためだけに。
 それだけのために戦わせられていた事実。そして死なせられ、死んでまた強制的に戦わせられる」

そんなこと・・・・

「何よりじゃない」



            元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 副部隊長
            現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 副部隊長

                  『ドラゴニカ・ナイト』

                  ユベン=グローヴァー


「死してなお、結果的には操り人形のように戦う騎士達。屍骸の騎士。
 このルアス城。MC(モンスターキャッスル)、いや、MC(マイソシアキャッスル)。
 そこに渦巻く屍骸の騎士はすでに魔物も同然の扱いだ。操り人形の死骸。
 MCに徘徊する死骸騎士。ブレインガードかブレインナイトとでも呼ぶべきかな」

ユベンは、
自分のその仕事机に両肘をつき、
ため息をついた。

「ロウマ隊長の下に居ることに微塵も不満はないが・・・・」

それでも、
その上にある組織。
その頂点。
この騎士団。
アインハルト率いる帝国。

そこに不満は否めない。


「マリオネットは笑わない」


ユベンのその部屋の片隅。
椅子を揺らしながら、
彼はボソりと言った。

「別の言い方をすると、"兵隊は考えない"・・・ってところかな。
 その極地を彼は実行したのさ。僕ら以上に彼らは操り人形。
 消せない誇りを利用され、目的とズレてようが52の部隊はまた動き出した」

「利用される誇りか」

「誇り(プライド)ほど揺るがないものはない。こんなに利用しやすいものはないさ。
 ダ・カーポには続きがあった。それだけだよ。まさに空(ソラ)と怒(ド)の間に死(シ)。
 演奏をやめたオーケストラ(騎士団)は、"指揮者"によってまたヘ長調を奏で始めたのさ」



                元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
                現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員


                 『戦場のモーツァルト』


                  ミヤヴィ=ザ=クリムボン

「オーケストラ(兵隊)に権限はないさ。タクトが振られればまた楽器(槍)を片手に演奏(戦争)だ。
 僕らの誇りなんて全てリハーサル。"楽譜は指揮者のためだけにあった"んだよ」

「・・・・・・何よりじゃない。ミヤヴィ。お前の比喩は芯を突きすぎてる」

「残念ながら褒め言葉として受け取るよ」

自嘲気味に、
ミヤヴィは笑った。


「でも実際・・・・その通り」


違う椅子に、
礼儀正しく。
むしろ縮こまるかのような姿勢で座っている男。

「俺達の・・・・俺達の王国騎士団は・・・・。ただの"素材"だったってことだ・・・・。
 この従順な死者の部隊を作るためだけの・・・・死ぬために作られた王国騎士団」

「何よりじゃない。もとから道具にするためだけの騎士団だったんだ」
「だけどね。僕らは違うさ。フィナーレは鳴らない。僕らは生きてる」

「それは・・・・」

頼りなさそうに、
縮こまるように座っていた男。
だけど、
そこだけは顔を上げ、
強い視線で言った。

「俺達は・・・・出来る子だったから。それだけさ」


         元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
         現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

             『ST.スナイパー』

              ニッケルバッカー

「あの方の陰謀のままに、道具として終焉戦争を戦い抜く力があったなら、
 生かして使ってやる。それだけだったんだ。それはそれで思い通りの駒だから」
「思い通りに、しかも"使える駒"だけ使う・・・か」
「使えないなら"使える駒"にする」
「だけど・・・・俺らにはまだ意志がある。俺達は出来る子だ。駒なんかじゃない」
「どうだかな・・・・・」

ユベンは顔を覆った。

「俺達がどう思っていようが関係ないのかもしれない。あのアインハルトという存在の前には。
 どっちにしろ、俺達はあの人のいい様に利用され、動いてるわけなんだからな。何よりじゃない」
「どっちにしろじゃないさ。どちらでもいいんだ。僕らはカス。カスの微動など誤差でしかない」
「カ、カスなんかじゃないさ!俺は出来る子だ!」
「・・・・・そうかもね。君はどう思う?」

流し目のように、
ミヤヴィは目線と片手を送った。
それは部屋の隅。
部屋の隅で、
まるで一人の世界に入っているかのように、
ぬいぐるみを抱きしめた女性。

「・・・・・・・」

頭の大きなリボンごと、
首を振る。
言葉は発しない。
発せない。
だけど、
それだけに返事は集約されている気もした。

「・・・・・・」

彼女は立ち上がり、
ヌイグルミを片手で抱きしめたまま、
もう片手で何かを伝えようと、
指を必死でさす。

「ん?これか?」

ユベンはそれを手に取る。
一つの書類。

「あぁ・・・・・」

それで気付く。

「そうだな。そうなんだよな」

何よりじゃない部分の一つ。
その書類を、
皆の目に入るよう、
机の上を滑らした。

「この書類の通りだ。ブレインナイト。ブレインガード。どちらでもいいが、その死骸騎士の名簿だ。
 死者として復活させられた、させることができた騎士達の名簿。
 ・・・・・・何よりじゃないことに、終焉戦争で死んだ44部隊は一人も確認できてない」

その言葉に、
彼女は、
分かっていたのに、
落ち込んだ。

「・・・・・」

抱きしめたぬいぐるみに顔をうずめるように。
哀しそうに。

         元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
         現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

            『口なしメリーさん』

            メリー・メリー=キャリー

「・・・・・・」
「あぁ、分かってるよメリー」
「そうだね。僕らはもう"増えない"・・・・・最強の44部隊が減る一方だ」
「ねぇユベン。その書類・・・・」
「ん?あぁ、こっちにもまだまだある。地獄は満杯だとよ。
 何人生き帰ったやら。いや、死ねず生かさず、何人死んだままやらな」

誇りを無視し、
無碍にし、
生かされ、
死んだまま戦わされる。

「さながら"アンコール"・・・・ってとこかな。で、オーケストラの数は?」
「・・・・・・・・5000だな」
「・・・・・・・?」
「へぇ。以外と少ないね」
「いーや。5000人。死なない人間が5000人。いや、死んでる人間が5000人だ。
 もう死んでいるからこそ・・・・減りもしない5000。居るのにもう居ない5000だ」
「・・・・・・・・・」
「永遠の再利用ってとこだね」
「噛んでも噛んでもなくならないガムを5000枚も持とうと思うか?多すぎるくらいなんだよ」
「・・・・・皮肉だね」

ニッケルバッカーが、
その書類の一角を見て、
呟いた。

「何もかも皮肉さ」
「・・・・いや、その見出しだよ。皮肉なのはその死骸部隊の書類の"見出し"」

死んでいるから、
もう死なない。
魂だけだから、
もう変化もない。
利用されるだけの屍骸の部隊。

ブレインナイト。
ブレインガード。
そんな魔物としての呼び方よりも、

それは確かに皮肉だった。

死んだはずの49人の部隊長と、
5000の兵。

その名簿の見出しは・・・・・



《キングダム・クリムゾン(赤裸々な騎死団)》



「"裸の王様"・・・・・か。・・・・酷いジョークだね。
 骨だけの存在で、魂だけで成り立っている。たしかにこれ以上の裸はないさ」
「弄ばれてる。騎士団まるごと・・・・」
「・・・・・・」

ミヤヴィも、
ニッケルバッカーも、
メリーも、
三人三様に虚ろだった。

この虚無感。

自分達の存在が、
信じていたものが、
誇りが、
まるまるただの玩具だったと知る虚無感。

「関係ないさ」

だが、
副部隊長。
ユベンは言った。

「俺達の信じる道は、ただロウマ隊長だけだ。
 自分だけを信じることが44部隊のモットーで、それがロウマ隊長を信じることだ。
 それだけで迷う必要はない。何より。何よりなんだ・・・・」

王国騎士団だが、
王国騎士団なんかじゃない。
帝国アルガルド騎士団なんかではサラサラない。

自分達は、
ロウマ=ハート率いる、
44部隊。

それ以外でもそれ以上でもそれ以下でもない。

ただ、

彼らはそう、



矛盾にすがった。





































「矛盾・・・・・か」

水の音。
シャワーの音。
シャワー室にて、
人口の雨に打たれながら、
彼は一人で呟いた。

「そうだな。それだけしか頼るものがない。けどそれより光あるものもない。
 ・・・・・皆思ってるだろうな。それでも"なんでロウマ隊長はあんな奴の下に"」

シャワーを浴びながら、
髪を泡立たせながら、
一人、
呟く。

「矛盾」

今になって、
自分の信じる最強が、
マントに刻むその二文字。
それが芯に、
真に、
心に響く。

「・・・・・・まぁ。そこもまた、一つの魅力なんだけどな。自分しか信じるな。
 自分を信じ、超えろ。そう言っておきながら、俺らみたいなのを拾って44部隊がある。
 あの人は矛盾だらけだけど、だけど、それは俺達皆ももってるものだから、惹かれたのかもしれねぇ」

静かなシャワー室で、
水音と、
独り言だけが響く。

「でも矛盾は怖い。チグハグは怖い。まるでジグザグだ・・・・」

その言葉に、
自分で自分を自嘲した。
失笑した。

「・・・・・ジグザグ?・・・・ふん。誰の名前なんだか。知らねぇ。知らねぇよ。
 記憶なんていらない。過去もいらない。だが軌跡は欲しい。
 だから求める・・・・俺は44部隊の"名無し"。それだけだと信じても・・・・」


         元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
         現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

          『AAA(ノーネーム)』

          エース

「エドガイ・・・だったか。・・・・チッ・・・・ふざけるなよ。俺が《ドライブスルー・ワーカーズ》だと?
 この44部隊のA's(エース)が、元、金稼ぎの傭兵風情だと?ふざけるなよ・・・・・」

シャワーと片手で止めた。
上部に備え付けられたシャワーから、
ポタン・・・
ポタン・・・
と、
名残惜しそうに水滴が落ちる。
それをあびる頭は下を向いていた。

「・・・・・足が付かないように毎回武器を変えて請負殺人を行う傭兵。
 ジギー=ザック。通称《ジグザグ》。それが俺の名だと?信じねぇぞ」

水の止まったシャワー室で、
エースは嘆いた。
否定したくて。
だけど、
何も覚えてないから分からない。
でも、
覚えていないようで分かるから、
否定したい。

「俺は俺だ。44部隊のエースだ。俺が欲しい名は"そんなん"じゃない!」

だが、
自分でも分かっているように、
体は覚えていた。

シャワー室。

そこにたたずむエース。
それは自分には見えないが、
いや、
生涯直接見ることは出来ないだろう箇所だから、
一生目を背けることになるだろう箇所だから、

でも、
それは確固として存在していた。

ポタン・・・
ポタン・・・と
シャワーから落ちてくる水滴は、

背中に当たる。

彼の背中の、
あの最強の金稼ぎ傭兵部隊。
《ドライブスルー・ワーカーズ》の証でもある"バーコード"

それは本人も気付かない背中に刻まれていた。


「何者か・・・・確かに重要だな」


ふと、
隣のシャワー室から声が聞こえてきた。

「・・・・・独り言を盗み聞きか。悪趣味だな」
「盗んではない。お前が勝手に提供してきただけだ。
 俺の方が先にシャワー室にはいた。お前が俺を"見てないだけ"」
「ケッ」

エースは舌を打った。

「さすがにガスマスク付けてシャワーは浴びないんだな」
「・・・・・・・・・」


                   元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
                  現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

                   『ワッチ・ミー・イフ・ユー・キャン?』

                     スモーガス



「・・・・隠れる必要のない所だからな」
「そんな声だったんだな。お前」
「声?声だけじゃないさ。誰も俺の事なんて知らない」

知らない。
それに、
知らせないし、
知られようとしない。
だけど、
知って欲しい。
見て欲しい。
自分の存在を。

「そんな悠長にしゃべる奴だとは思わなかったよ」
「それさえも本当の俺なのかどうか。本当の俺を知ってるのなんて隊長だけだ」
「どゆことだ?」
「隠れる必要のないところだけ隠れず、あとは隠れてる。そういうことさ」
「インビジの達人らしいセリフだな」
「達人じゃない」

達人なんかじゃ。
"息を吸うのがうまい"なんて言われる人間がいないように。

「そりゃぁ、お前の体の事か?」
「!?」
「知ってるよ。俺だけじゃねぇ。皆知ってるさ。
 お前が知られたくないようだから知らないフリしてやってるだけ。
 ロウマ隊長しか知らないと思ってるようだが、無敵の44部隊をなめんなよ?」
「・・・・・・・・」

そうか。
そうなのか。
スモーガスは力が抜ける。
それが、
愕然としたのと同時に、
ホッとしたようだった。

「その常時インビジな体。透明人間体。いつからだ?」
「ナチュラルボーンさ」
「ん?」
「生まれつきってこと。それに理由なんてないし、知りもしない。
 俺さえ俺の体を見たことがない。俺を含めて、本当の俺の存在なんて誰も知らない」

鏡にさえ映らない。
生まれつきのインビジブル。

「今だから、バレてると知ったからこそ言うぜ。
 俺は俺がしっかりとこの世界に存在しているのかも分からない。
 それも知らない。知りたい。誰か・・・誰か・・・俺でもいい。誰か俺を見てくれ」

なんでもいい。
だれでもいい。
見てくれ。
何故見えない。
見てくれよ。

「俺と一緒だな」
「ん?」
「俺もお前の言うナチュラルボーンだ。生まれてから名前がない。
 あったのかもしれないし、なかったのかもしれないが、事実無い。
 誰もが生まれてすぐ手に入れる存在の名称。それが俺にはない」
「・・・・・」
「俺とお前は同じだよ」
「お前も自分の存在が知りたいのか」
「あぁ知りたい」
「俺は本当にいるのか?」
「俺は存在しているのか?」
「誰か俺を見てくれ」
「誰か俺に名前をくれ」
「そうして俺を証明してくれ」
「俺が俺である証明をくれ」
「でも」
「だが」
「それでもこんな俺の存在を」
「あるがままの個体として受け入れてくれたのが」
「「ロウマ隊長だ」」

同時に、
小さな笑みがこぼれる。

「笑えるな」
「あぁ」
「結局俺達は」
「あの矛盾の最強によって証明されているんだ」

なら・・・・・。


























「はい。おかしなところはないですね」
「そんなわけないだろクソ医者が」
「は、はい?」

先に注意しておくと、
医者である彼は、
ただの騎士団の専業の医師であり、
物語とはなんの関係もない。

「これは健康診断であるなら、病気は診断してもらわなくちゃいけないわ」

ただ、
定期健康診断として、
彼女を看取っただけだ。

「い、いえ・・・特に異常な箇所は見受けられませんでしたが」
「ヤブ医者が。私の病はココ」

そう言い、
彼女は、
両手を自分の胸に当てる。

「これは・・・・・恋の病・・・・」
「訂正します。重大な脳障害が診受けられました」


       元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
       現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

         『ピンクスパイダー(女郎蜘蛛)』

         スミレコ=コジョウイン


「・・・・・その表現はよくないわ。訂正しなさいこの蓑虫が」
「・・・すいません」
「嗚呼・・・・それにしても、何ゆえこんなに愛しいのかしら。
 アレックス部隊長。貴方が隣にいないだけでこんなにも胸が苦しい」

医者の代わりに言うが、
重症だ。

「でもいいの。あなたはいつも私の心の隣にいるから。そして私の部屋にも。
 1万もの隠し撮り・・・じゃなくてツーショット写真(SS)が私に微笑んでくれる」

事実、
スミレコの部屋には、
もはや壁紙と言っても差し支えない量のアレックスの写真が張り巡らされている。
いろんな意味で悪趣味だ。

「でもなんて哀しいのかしら。私とあなたは敵同士。恋に障害はつきものなんていうけど、
 この場合、恋に傷害がつきものというべき。ドメスティックバイオレンスディープラブ・・・・」
「あの・・・・もう一度診断しましょうか?」
「黙れナメクジが。見るのもウザい。帰れ。土にかえれ」
「私の病室ですが・・・・・」

医者の言葉など放っておき、
独自の世界に浸る彼女。

「次に会うときはやはり戦場なのでしょうね。嗚呼・・・愛しのアレックス部隊長。
 大好きだったけど恋敵でもあったお姉ちゃんがいなくなって、世界は私達二人だけ。
 愛し合う、相思相愛な私達だけ・・・・きっと世界のどこかで同じようにあなたも私のことを・・・」

描写する必要もないと思うが、
完全に一方通行だ。

「でも戦わなければいけないの。私達は。戦いたくないのに。愛し合いたいのに。
 ・・・・・でも、貴方に殺されるなら私は幸せ。それだけで私の生涯は傷害によって障害が駆除される。
 でもその時は一緒・・・・・・愛し合う二人。絶対一緒に死にましょうね」
「すいません。私は医者です。夢を見る薬は出せますが、現実を見せる薬はありません」
「黙れゴミ虫。心臓を治せてもこのハートの鼓動は止められないクセに」
「・・・・安楽死がご希望で?」
「いいえ。恋の炎でショック死しそうだわ」
「すいません。あなたは手遅れです」

手遅れ?
恋を止められるものなんてないのに。
距離も時間さえも、
恋の前では無力なのに。
そうスミレコは思いながらも、

「・・・・でも、本当の敵は誰なのかしら」

それは妄想ではなく、
真な言葉だった。

「アレックス部隊長。あなたは私の敵なの?なんで?いや・・・・私達が敵であることがまずおかしい。
 ロウマ隊長は何を考えているのかしら・・・・でも、アレックス部隊長とロウマ隊長を天秤にかけれない。
 でも、もしあなたがロウマ隊長のように私を誘ってくれたら・・・私は一体どうするのかしら」

いや、
私でなく、
私達を。
矛盾の下の私達を。

「嗚呼・・・考えても胸が苦しくなるだけ・・・・恋に特効薬はないのかしら・・・・」
「あなたは恋に特攻しすぎです」
「黙れ。いいからさっさと惚れ薬を出せ」
「ないですって・・・・」


ガゴンッ!!
と、
隣の病室を隔てる壁が、
揺れた。

















「・・・・・・・っと悪ぃ・・・・」

そう言い、
彼は壁を殴りつけた腕を下ろした。

「いえ、分からなくもないですから」

医者は、
そう落ち着いて答えた。

「・・・・・・でも笑い話だぜ」
「卑屈になりすぎです。寿命はまっとうできます」
「吸わなきゃだろ?ならまっとうはできねぇや」

頭を振り、
ドレッドヘアーをなびかせ、
皮肉に笑う。

「俺ぁノラ犬育ちだからよぉ。怪我で入院はあっても診断なんてもんはしたことなかった。
 外傷はあっても内蔵を調べる機会なんてなかったからな。正しくは肺か」
「今すぐ死ぬとかそーいう話じゃないんです。タバコをやめてくださいと言ってるだけです」
「それが無理だから落ち込んでるんだろ?」
「・・・・・」
「あぁーっと・・・・なんだっけ?医学の言葉は小難しくて覚えられねぇ。
 このまま俺が酸素(ニコチン)を吸ってりゃなんて病になるんだっけか」
「病名は"自業自得"です」
「ガハハ!いいセンスだあんた」


       賞金首ギルド《MD(メジャードリーム)》所属
       兼帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

        『クレイジージャンキー』

               メッツ

「一日2箱も3箱も吸ってればそうなって当然です」
「あいあい。お説教はもういいっての」

メッツはその屈強な体を椅子から立ち上がらせ、
ドアへと歩む。

「・・・・・旦那。依存症に薬はありません。ただ絶つしか方法はないんです」
「ガハハ」

メッツは医者の方も見ず、
病室のドアノブを掴むよりも先に、
タバコの箱を取り出し、
咥え、
火をつける。

「薬ならあるさ」

煙を吐き出し、
指に挟んだタバコをかざし、
笑う。

「コレがそうだ。麻薬。立派な薬だろ?」

これが無きゃ生きていけねぇんだから、
死ぬからやめろ。
なんて馬鹿馬鹿しい。
矛盾すぎる。

「って事でもう世話にはならねぇぜ。自分を知りたくなっただけだからよぉ」

メッツは、
言葉を放つ医者を尻目に、
ドアを豪快に開け放ち、
病室から出た。

「・・・・・・ふぅ」

今度は逆に、
勢いよくドアを閉めると、
タバコを手に、
そのドアにもたれ掛かった。

「ヤブ医者め」

それは、
心にそう思ったことだった。

タバコで体がヤバくなる?

何を言ってるんだ。

"俺の体はもっと先までいっている"

「レイズに聞いてんだよ」

タバコを咥え、
自嘲気味に笑う。

「レイジの使いすぎだってな。専門家でもなきゃそりゃ分からねぇわな。
 無理矢理限界以上の力を引き出してたせいで体がボロボロだってよ」

タバコ。
力。
どちらも、
麻薬だ。

「レイジなんて俺だって使いたくねぇ。だからこっち側にいるってのによぉ」

顔をしかめる。

「ロウマなら。・・・・・ロウマ隊長ならそんな事をしない力の引き出し方を知っている。
 いや、教えてくれる。そして使う必要もねぇ。・・・・"強者の側に"。それが唯一の俺の薬なんだ」

だけど、
ニコチン。
力。
己の底力。
なにもかもの麻薬よりも。
一番の麻薬は・・・・・

魅力。

あの力に惚れてしまった。
あの最強の力に。
そして・・・・
共に登っていける魅力。

そして・・・・

自分が一番知っている・・・・
最愛なる魅力的な強き仲間達との戦い。
それは、
メッツを中毒者にした。

矛盾に、
渇望し、
それでも、
こっち側にいる魅力に、
メッツは酔っていた。
気持ちのいい酔いだった。

「それでも俺は《MD》だ。それは変わらねぇ。ならどうするよ俺。
 この世界の戦い・・・それがあまりにもどうでもいいから・・・・・俺は自由に戦い過ぎてるんじゃねぇか?」

だけど、
それこそ自分で、
それも否定したくない。

「・・・・ガハハ。ドジャーも困ってんだろな。だけどよぉ。悪ぃ。
 親友だろ?家族だろ?最後まで迷惑かけさせてくれ。俺は俺の存在意義を知りたい」

それは、
他の《MD》の皆と違う。
自分は、
俺は、

戦う事しか能がないから。


「あーあーおいおい。デカブツ。終わったんならどいてくれよ」


「ん?」

病室の前でボヤボヤしていると、
廊下の向こうから、
二人歩いてきた。
背の高さが違うが、
二人の女性。
スラッとした女性と、
小柄な女性だった。

スラりとした女性は、
ノースリーブにハーフパンツ。
小柄な女性は、
ビーズ装飾の可愛いTシャツにスカート。

二人とも髪を長くも無く、
粗末に切り揃え、
そのせいで顔の整いがよく目立った。

「・・・・・で。誰あんたら」

「はぁぁ!?聞いたかよ!こりゃ酷ぇ!酷すぎねぇか!?」
「なぁー?なぁー?まるでムエタイでエビを釣る勢いだなぁー?」
「おーよ。あちきらをなめてるぜこのエテゴリラ。アニマル差別だこりゃ!」
「あんなー、つまり今週のオラはステテコパンツ目白押しだと思うんだ」

「・・・あぁ、あんたらか」


     元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
     現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

         『ZOO』

      キリンジ=ノ=ヤジュー

               元王国騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員
               現帝国アルガルド騎士団 第44番・竜騎士部隊 隊員

                   『ドーピングパンダ』

                     パムパム


「カッコがカッコだから全然分からなかったぜ」

「あーこれなー」

キリンジは、
自分の私服をベロンと伸ばす。
パムパムも真似してスカートをベロンと伸ばした。

「服を勝手に洗濯されちまってよ。気持ち悪いったらありゃしねーの。
 あ、だからパムパム。でんぐりがえるな。スカートどうこうでユベンに怒られる」
「おんどりゃー。エビフリャ〜がなんぼのもんじゃぃ〜〜」

色気も皆無に、
ゴロゴロと地面を転がるパムパム。
「あーあー・・・」
と頭をポリポリとかくキリンジ。

ま、
いつもの通りだが、
格好が普通の女になるだけで、
こうも見違えるものだろうか。

ゴロゴロと転がるパムパムは、
そのままメッツの目の前まで転がってきて、

「スパーキン!!」

ポーズを決めて下から見上げてきた。

「ん?ん・・・あぁ・・・スパーキン」

とりあえず合わせておいたが、
感情を表現するように、
タバコから灰がポロリと落ちた。

「甘いなぁ〜。まるで坦々麺のようにショバショバだ」
「キャハハ。もっと言ってやれパムパム」
「おまえー、まるで聳え立つメンマだな」

よく分からんが、
なんか傷ついた。

「ま、それよりよぉエテゴリラ」

そう言い、
ニヤニヤと、
メッツの肩に手を回してきた。
かなり長身であるメッツの肩に、
手が回るなど、
キリンジが女の中でも身長があることを表してはいるが、

「てめぇ裏切るなよ」
「・・・・あぁ?」

キシシと笑う、
短髪の女。
笑うと八重歯が覗く。

パムパムは三点倒立を始めた。
こっちは理解する必要はない。

「何の話だよ」
「とぼけんなよこのヒポポタマスが。・・・・言ったろ?言ったか?まぁいいや。
 あんな。言ったと仮定したとしてもう一度言ってやる」

小声で、
でも強く。
八重歯を立てて。

「てめぇとパムパムは、ロウマ隊長の"カギ"だ」
「・・・・・だからどういう意味なんだよ」
「意味っつーとまぁ、いい意味でも悪い意味でもある。
 これはあちきだけが知ってりゃいい事なんだけどな」
「何度同じ質問さす気だ?それとも俺が馬鹿なのか?」
「いいから聞けっての!てめぇが馬鹿(ホースディア)なのは分かってんだよ!
 いいか?矛盾ってのは矛盾だから矛盾なんだ。そう成り立ってる。
 いや、成り立ってねぇから矛盾なんだ。そーいうもんなんだよ」
「分かった。俺が馬鹿なだけじゃねぇ。お前の説明も下手なんだ」
「だから・・・・」

キリンジは、
メッツの肩に手を回したまま、
その手の人差し指を、
チッチッと振り、
やはり八重歯を出して笑う。

「矛盾を肯定しちまったらダメなんだよ。OKか?」
「全然」
「つまり、てめぇとパムパムは"変わっちゃならねぇ"」

変わると、
それが、
矛盾の最強という錠前を壊すカギになってしまう。

「いや、最終的に一歩も前に進んでないほど意味分からねぇ・・・・・」
「なーなー」
「ん?」

パムパムが、
メッツの太い腕を掴んでいた。

「カップの中に入ったヌードのルーが辛いと、カレーラーメンなのか?」
「分かるようで分からない。理解しようとすると頭が痛くなるが、
 前半の部分だけ抜粋するとどうしても理解したくなるから不思議だ。・・・って離せ!」

メッツなりの44部隊への愛嬌。
のって突っ込みのつもりだったが、

「・・・・ん・・・」

だが、
パムパムに捕まれた腕は、
ビクともしなかった。

「・・・・おま・・・」
「なーなー。あんなー」

ただ純粋な眼で見上げてくる。
・・・。
違う。
その力・・・じゃない。
この存在。

「まぁいいや。つまるところ44(ヨンヨン)に染まれってだけだ。
 オッケーか?エテゴリラ。いくぞパムパム。獣医さんが呼んでる」
「おー!最近流行りの雪崩式さばおりだな!」

そう言い、
キリンジはメッツをどかし、
パムパムの手を引いて医務室へと入っていった。

「・・・・・こいつもな」

キリンジはドアの向こうへと行きながら、

「お前と同じだ。いや、お前より悪い。クスリってもんが必要なんだよ」

そういい残し、
キリンジとパムパムは、
医務室へと入っていった。

「・・・・・チッ」

いつの間にか消えていたタバコを、
室内というのに地面に捨て、
踏みにじる。

「あんなのが・・・・」




































「時にブラボーとでも言い放ちたくもなる時間だ!」

無精ひげを生やした、
黒いパーマの男は、
地下の隠し部屋にて、
両手を広げて叫んだ。

「時に滞りなく、スザクのアホも死んだそうだ!時に、時に清清しい時間もあるものだな。
 ツバサもジャックもスザクも死んで、実質年長者は俺一人。時に俺一人だ。
 俺は何もしていないのに、53部隊のトップに躍り出たと言ってもいい」

その、
隠し部屋の中、
ぐるりと体を回転させ、
指を突き出す。

「時に、いつの時も、周りが落ちて行く様は快感だといわざるをえない。
 そう!人はのし上がらなくてもいい!努力や鍛錬などしなくてもいい!
 時に周りが落ちていけば、それだけで自分の方が上に立てるのだ!」

そして彼は、
パーマ頭をワシャりとさわり、
クセのように無精ひげを撫でる。

「時にこれが、労せぬ下克上だ。世界は時々頼もしい!」



      元王国騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 隊員
      現帝国アルガルド騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 隊員
      暗殺血族シシドウ

          『下刻城』

        ガルーダ=シシドウ

自らは手を下さず、
自らは登ろうともせず、
ただ、
人を蹴落としで見下ろす。

「いいか?つまり。つまりだ。あの《キングダム・クリムゾン(赤裸々な騎死団)》見たろ?
 ルアス城の中も外も、時にまるで生きているかのように徘徊する屍骸共だ」

「生きているかのようにって・・・・」

ガルーダの言葉を聞いていた、
いや、
聞かされていた若い青年は、

「あっ、いえ!すいません!別にガルーダさんの意見に反論があるとかじゃなくてですね・・・。
 そのっ、生き返ったんだから生きてるんじゃないかな・・・とかそーいうなんていうか・・・・
 あ!あ!あ!違います!僕ごときゴミクズがナマイキに意見しようとかじゃないんです!」

「時にその性格は治らないのか?」

「すすすす、すいません!イヤですよね!?僕のこんな性格なんて!死んだほうがマシですよね!
 僕なんてクズでガキでゴミでカスで、そんな奴が口を開くだけでも世界にマイナスなのに・・・・」

寝癖のような、
ボサッとしたアホ毛頭の、
少年とも言える見掛けの男は、
オドオドと、
上目遣いに反応を見る。

「すいませんすいません・・・・、でも、僕は悪くないんです・・・・」



      元王国騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 隊員
      現帝国アルガルド騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 隊員
      暗殺血族シシドウ

          『ラッキー・ボーイ・コンフュージョン』

              ソラ=シシドウ


「でも、でもですよ・・・あ、すいません。ちょっと、ちょっとだけですから・・・・」
「いいから話せって。今はそういう時間だ」
「そ、そのですね・・・屍骸騎士(彼ら)はどう考えても生きてます・・・・この目で見たんです。
 あ、あーあーあ・・・いえ、僕なんかの腐った目で見たって百聞は一見にしかずな確信があるなんて、
 そんな大それた事考えてないんですけどね・・・でも、でもその・・・なんていうんですか・・・・」
「時にさっさと言え」
「すい、すいませんすいませんすいません!僕みたいなクズの話を長くしちゃって!
 あの・・そのですね・・・あの屍骸騎士達は・・・・ちゃんと見るし、話すし、考えるんです・・・・」
「・・・・ふむ」
「骸骨鎧であること以外は普通の人間にしか見えないというか・・・・
 あ、きっと僕なんてゴミクズよりもっともっと活き活きしてるというか・・・・」
「はん」

オドオドと話すソラに対し、
ガルーダは笑った。

「つまりあれだろ?」
「は、はい!そうです!きっとそうです!」
「時にまだ俺はなんも言ってねぇだろ」
「すすすすいません!でも、でも僕なんかが話すよりガルーダさんの話す事の方が絶対正しいというか・・・」
「まぁいい」

ガルーダは無精ひげを弄りながら、
笑う。

「関係ない。関係ない時間だ。魂だけで生きてるあいつらは、それでも人形のようなもんだ。
 だが時に重要なのは、生きてる側の人間が、もうほぼ44部隊と53部隊だけって時間のとこだ」
「すいません!僕なんかゴミがまだ生き残っちゃって!」
「いいから聞けって。つまり。時につまりだ。俺とソラなんてほぼ何もしてないも同義なのによぉ、
 それなのに世界の頂点のTOP20くらいには入っちゃってるってわけだ。
 ククッ。44(ヨンヨン)の奴らなんてもっと減るだろうよ。それはいい。それは時にいい。
 勝手にくたばってくれ。それだけで何もしなくても俺の順位が上がっていくわけだ」


「つまんねぇ夢だね」

部屋の中心に近いところで、
こちらも見ずに遊んでいる少年が、
そう言った。

「・・・あん?なんだって」

「おっと。気をつけてくれよ。僕はこれでも副部隊長なんだからな。
 あぁでも、敬語とかは使ってくれなくてもいいけどな。それはフレンドとの間に溝が出来ちまう。
 フレンドとハッピーを探す上で、格差ってのは物凄く邪魔だよな。
 だからそこに話が戻るわけ。格差の上を手に入れる夢なんて、凄くつまんねぇよ」

その、
ウサ耳のファンシーな格好をした男は、
右から左手。
左から右手に、
トランプをパラパラと移動させ、
クチャクチャとガムを噛んで言う。

「世の中、金力でも、権力でも、性欲でも、暴力でもない。ユージョーだよユージョー」



      元王国騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 副部隊長
      現帝国アルガルド騎士団 第53番・暗躍部隊(ジョーカーズ) 副部隊長
      暗殺血族シシドウ

              『KEEP OFF(近寄るな)』

               シド=シシドウ


友情。
なんの恥ずかしげもなく、
ウサ耳ファンシー殺人鬼は、
そうガムを噛みながら言うのだ。

「ハッピー&フレンズ。それが本当のラブ&ピースさ」
「時に黙れガキ。そしてそれ以上近寄るなよ?物理的にも精神的にもな」

ガルーダが、
シドに対し、
指を突き出して言う。

「俺やソラみたいな"非戦闘民"にはてめぇの自動無意識殺人(オートマキラー)は危ねぇんだ。
 『近寄るな』だぁ?はん。関りたくもねぇ時間だな。フレンド?仲間?ざけんなよ。
 時に仲間だって殺すクセに。俺にとっちゃてめぇは頭数からハズれてんだよ。なぁソラ?」
「う、うん・・・・・」

部屋の隅で、
オドオドしながら、
ソラは答える。

「あ、いや・・・シドさんは悪くないんですけど、その・・・僕だって悪くないっていうか・・・
 あぁいいえいいえいいえ!上司に楯突くとか、そんなめっそうもない事は考えてないですよ!
 僕如きですから!僕なんて思考があるだけで生意気なくらいのゴミ人間ですから!
 で、でもでも、殺すのもイヤだけど、自分が死ぬのはもっとイヤというか・・・・ねぇ?ね?
 こーいう感情はしょーがないというか、僕は悪くないんですよ。僕は・・・その・・・ね?」
「・・・・・・チョマンネ(超つまんねの意)」

シドは、
それでも部屋の真ん中から動こうとせず、
それでいて、
寂しそうに、
哀しそうに、
トランプを一枚デッキから抜いて投げた。

「お?」

壁に突き刺さったカードは、
彼らを現す"ジョーカー"だった。

「ハハッ、でもそーいう事だね。僕らなんて全員居てもいなくても同じっていうかさ」

ウサ耳をペロンと落とし、
ガムをくちゃくちゃ噛みながら、
誰にとでもなく、
シドは呟いた。

「あのジョーカーのまんま。僕らってつまり"いないいないばー"。
 死んで始まるシシドウなんだからさ。僕らもつまり存在しない死者。
 今城中を徘徊してる死者騎士となぁんにも変わらないってもんだぜ」
「あぁん?そんなん方便だろ」
「そ、そうです!僕らはシシドウですが、物理的には生きてます!」
「一緒だよ。バリッショ(バーリーピーポー皆一緒の意)。あの魂だけで蘇った死者たち。
 考えて、話して、生きてるのに、目的だけはインプットされたままみたいなマリオネット。
 アハハ。チョーおもしれーっての。"俺らシシドウと何が違う"って話」

話し、
聞き、
考える。
生きた人間と同じ事をする。
だが、
騎士団を、
城を守るという"誇り高き固執"から逃れられない、
52−3の、
49人の部隊長からなる5000人。
《キングダム・クリムゾン(赤裸々な騎死団)》

ただ、
殺す事だけを目的とされていたシシドウ。
ジョーカーズ。
53部隊。

どちらも目的が一つあるだけの・・・・死者。

「あーあ・・・。考えれば考えるほど殺し合いなんてつまんねぇよな」

耳に所狭しとぶらさがるキーホルダー達が音を奏で、
片方のウサ耳をちょいちょいと弄る。

「やっぱハッピーとフレンド。僕にはそれしかねぇーや」

何もかも、
意志と関係なく削除してしまう、
史上最悪の殺人鬼。

ウサ耳のファンシーな殺人少年鬼は、
ただ求めた。

「まだ見ぬ世界のディアフレンドへ。仲良くしようぜ。死ぬほどさ」

「死ぬほど。・・・・ふん。時にそこだけは同意してやる」
「は、ははははい。僕もそこだけは同意です」

そう、
死人。
死人なのだから。

シシドウなのだから。
彼らの人生は、
死んで始まる物語なのだから。


「さ、さぁ・・・」
「時に」
「死を始めようか」



































「き、聞いた?死者が復活したって・・・」
「小耳にだけでヤンスけど・・・・」

真っ青な海。
真っ青な青空。
白い入道雲。
それだけが世界の7割。
7つの海。

その表面に浮かぶ、
巨大なガレオン船。

「それってつまりさ、あのアインハルトを倒すためには、
 もう一回終焉戦争並の兵力が必要ってことじゃない!」
「・・・考え甘いでヤンスよ。いつも・・・」
「え、何々?」

その、
あまりにも小柄な、
バンダナをつけた生物は言った。

「全部今回の死者復活(アザトース)が目的だったんでヤンスよ?
 終焉戦争はもともと出来レース。ギルド側は勝たせてもらったに等しいんでヤンス」
「う・・・・」
「それもアインハルトの留守を狙った上ででヤンス」
「うにゅ・・・・」
「それさえも出来レースのための布石だったんでヤンスけどね」
「ぐぐ・・・・」
「そして全滅して復活した王国騎士団は、屍骸騎士団として"完成した"と言ってもいいでヤンス」
「う・・う・・・」
「死者なんて相手したこともないでヤンス。はたして倒せるのかさえ不明でヤンス」
「・・・むぅ・・・・」
「そしてギルドなんて、終焉戦争に参加した15ギルドのうち12ギルドが壊滅。
 残った3ギルドも戦力は半減どころか2割程度といったところでヤンスね。計算できるでヤンスか?」
「・・・・ぼ、ぼくは暗算はちょっと・・・・」
「はぁ・・・・それで海賊団を受け継げるんでヤンスか?」
「ば、ばか!!」

成人したかも定かではない、
そのバンダナを巻いた女は、
拳を握る。

「ぼくはデムピアスになる女だぞ!楽勝だ!・・・・・と思う・・・・」
「・・・・・はぁ・・・・・」


   15ギルド《BY-KINGS(ピッツバーグ海賊団)》 現ギルドマスター(キャプテン)
   兼《デムピアス海賊団》団員(クルー)

      《バンビーナ(ひよっこ)》

      バンビ=ピッツバーグ


                  15ギルド《BY-KINGS(ピッツバーグ海賊団)》 団員(クルー)
                  兼《デムピアス海賊団》団員(クルー)

                                 ピンキッド




「親父さんの跡を継ぐんでヤンショ?しっかりして欲しいんでヤンス」
「わ、分かってるよ。でもなぁ・・・・」

バンビは、
そう物思いに、
この巨大なガレオン船の甲板。
その手すりにもたれかかり、
海を見渡す。
見渡しきれない広大な海を。

「世界って広すぎるからさ・・・・」
「まぁそう思うでヤンショね。ジャッカルさんの影で好き勝手やってただけでヤンスから。
 怖いもの無しだった世界(マイソシア)なのに、気づけば世の中ツワモノだらけ」
「・・・・ねぇピンキッド」
「なんでヤンスか」
「ぼくって役立たずかな・・・」
「それはもう間違いなく」

バンダナを巻いたピンキオは、
大きなくちばしを上下させながら、
その顔を(ほとんど顔だが)頷かせた。

「・・・・なんかフォローしてよ」
「いやぁ。フォローしようがないでヤンスね。絶景無敵の役立たずでヤンス
 なんたって1ギルドマスターがアピールしかスキルないなんて笑い者でヤンスよ?」
「事実だけどさ・・・・」
「逆に言えば奇跡でヤンス。もうツワモノしか残ってないこのマイソシアでヤンス。
 そのツワモノ達が最終戦争をおっぱじめようっていう今日この頃。
 その主要な人物の中で戦力に加算されないのはバンビさんくらいでヤンス」
「・・・・それってもう主要キャラじゃないんじゃないかな」

相談したつもりが、
かえって落ち込んだ。

「はぁ・・・・」

半ば体を投げ出す形で、
手すりにブランと体を落とし、
海を見渡す。
青いなぁ。
海も。
自分も。

「親父・・・・海は広いけど・・・・陸の世界はもっと広かったよ・・・・」
「面積的には陸のが狭いでヤンス」
「うっさいな!」


「ヘーイヘイヘイ!ザコちゃん共が海とおしゃべりですかーい?
 そりゃぁ要チェケラだな。まったくまったく、カッコ、笑い。
 知らない世界を見てしまって落ち込むなんて、カッコ、わりぃ。
 僕様なんて産まれてばっかだから知らない事だらけなのによぉ」

三つ編みの、
人型のソレは、
ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。

「なぁによ。呼んでないわ」

バンビは一度そいつを見たが、
また海を見つめた。
その方が有意義だと思ったから。

「悩みのないガキはいいよね」

「悩みだらけの大人よりは救いがあると僕様思ってるけどね」

ニヤニヤと、
その笑えるほどギザギザの歯を見せて笑う0歳児。
身長170を超える0歳。

「ま」

三つ編みのその男は、
腰のホルスターから、
二丁の拳銃を取り出し、
両手の指をトリガーにひっかけてクルクル回す。

「僕様は無敵(自称)だから悩む必要もないわけ」

そして両手でグリップを掴んで回転を止め、
突き出す。

「ってことでYO!ROW!SHIT!QUTE♪」



                  《デムピアス海賊団》団員(クルー)

                   『無敵(自称)』

                  デムピアスベビー(デミィ)


「はぁ・・・・」
「格好だけはいっちょまえなんでヤンスけどねぇ・・・・」
「何々?僕様をナメてんの?言っとくけど僕様無敵(自称)だぜ?」
「ぼくはあんたのその無敵って言葉の後ろにカッコが見える気がするよ」
「まぁ確かに強いには強いでヤンスけどねぇ」
「何々?なんだよ」

ベビーは、
二丁拳銃を持った両手を広げた。

「僕様の強さに不満か?あんたら十分にチェケラったろ?」
「でも期待してたほどじゃなかったしねぇ」
「そうでヤンスね」
「バッキャROW!前は完全に不覚をとっただけだってぇーの!
 じゃなきゃあんなカプリコの1歳児に遅れ取らないてぇーの!」

そして自信を取り戻したかのように、
ギザギザの歯を見せて笑う。

「いいか?僕様はあの三騎士のガキ・・・・2匹ともだな。両方チェケってやるかんな。
 魔物界はすでに、三騎士とパパの二強時代だ。あれ?計算あってる?算数わかんねぇや。
 と・も・か・く!次世代の魔物界の頂点に立つのは僕様だもんね!」

実力は確かに伴っているが、
よくもこう叫ぶものだと、
バンビとピンキッドは首を振った。
だが、

「次世代・・・か」

バンビは思うところはあった。

「ギルドもほぼ世代交代したもんね。もちろんうちも・・・・」
「恵まれているほうでヤンス。ほとんどのギルドは世代交代も出来ずに壊滅したでヤンス」
「でもぼくは何もしてない・・・何も成してない」

零れ落ちてきただけの、
地位。
海を眺める。
だらりと体を船に預けて。
自分が、
いかにちっぽけな個体だと分かる。

「でも、それだけの人間にはなりたくない。海賊王にふさわしい女になりたい」

ただ、
強くそう呟いた。
それを後ろで見ていたピンキッドは、
微笑ましく笑った。

「気持ちがあれば船は進むでヤンス。バンビさんはまだ若い。
 きっといつか思いを果たせるでヤンスよ。海賊王に。デムピアスになれるでヤンス」
「・・・・・うん」


「そしてぇ〜♪受け継ぐ〜♪それだけでもそれはそれで幸せなんだぜぇ〜〜ぃ♪」


鼻歌が聞こえてきた。
明らかにこちらに向けての事だろう。

「うん。それは凄くハッピーなシンドロームなんだぜぇ〜ぃ?
 人に何かを伝えたいから言葉があるし歌もあるってもんだぜぇ〜ぃ。
 バンビーナも親父さんから何かを受け継いだなら、それも大事にしなきゃだねぇ〜ぃ」

彼は、
その長い手足を起用に折り畳み、
甲板の上に座り込んでいた。
両手が忙しそうだ。
サメ型のギターをチューニングしているようだ。

「思いは伝わるタイタンウェーブだぜぇ〜ぃ。ベイベー。
 そしてそれを行動で示すのが"ロッカー"なんだぜぇ〜ぃ!!」



            元デムピアス案内人
            現《デムピアス海賊団》団員(クルー)

             『鯱将魂(シャチハタロック)』

              シャーク



「ロッカーねぇ」
「いろいろ仕舞えそうでヤンスね」
「・・・・・・言葉だけで伝わらないから、歌詞はミュージックに乗せるべきなんだねぇ〜ぃ」

シャークは苦笑いをした。

「ってぇーかオッサン。サメのオッサン」
「なんだぁ〜い?海賊ボーイ」
「僕様をそんな呼び方すんのやめてくれって!それよりサメのオッサン。
 あんたまだ船に乗ってるってことは、パパと一緒に戦いに行くってことだよな?」
「・・・・・・オォーラィ」

キュッ、
キュッ、と
自慢のギターをチューニングしながら、
シャークは答える。

「バトルフィールドにアタックパラダイスのエクスタシーを伝えに行くわけじゃないさぁー。
 俺はロッカー。ミュージシャン。芸術家じゃなく伝道師だぜぇ〜ぃ?"伝えに行くのさ"」
「何々〜?」
「どゆことでヤンスか?」
「僕様にも分かるように説明しろっての」
「ハッハー。アンコールまでよく聴けヘッズ」

シャークは指を、
その細長い手の先に、
またさらに細長い人差し指を突き出す。

「俺は昔はしがないデムピアス案内人さぁ〜。人と魔物を繋ぐ伝道師。
 俺はいつも思っていたさぁ〜。人と魔物。音楽のように垣根無しに繋がればってねぇ〜ぃ」
「ミュージシャンってのは現実化を無視して好き勝手いう生物なのね」

果てしない言葉に、
不可能な言葉に、
バンビは頭をかしげた。

「いぃーや。バンビーナ。ベイビーはその重要な一つのヘッズさ」
「へ?」
「俺や海賊ボーイ。ピンキオボーイを含め、この船には"魔物しか乗ってない"
 そこに堂々と腰を落ち着けてるバンビーナは、一つの奇跡のスターダストだぜぇ〜ぃ」
「うーん」

確かに異様だとは思っている。
自分でも。
だけど親父の・・・。
ピッツバーグ海賊団自体が、
魔物との混合という特殊なギルドだった。
実感はあまりない。

「人を人に。魔物を魔物に。魔物を人に。人は魔物に。そんな音楽を奏でるのが俺の生涯さぁ〜。
 そんな世界の可能性を伝えるのが俺の仕事。あまりにもレインボーでファンタスティックだろぉ〜?
 そしてだぜぇ〜ぃ。今、このグレートなマイソシアワールドは・・・・・途絶えようとしている」

そう言い、
シャークはチューニングの締めと言わんばかりに、
指を動かすのをやめ、
一度だけギターを奏でた。
満足がいったのか、
頷いた。

「帝国。あれは何も伝えない。あれで世界は伝道を終えて終わってしまうんだぜぇ〜ぃ」

そして、
ギターを抱え、
はじき出す。

「ピィ〜ポォ〜♪バイザ・モンスタァ〜♪オブザ・ピィ〜ポォ〜♪フォーザ・モンスター!」

ギャイィンと、
エレキギターの演奏を短く終える。

「人を人に。魔物を魔物に。魔物を人に。人は魔物に。そんな世界を途絶えさえちゃ駄目なんだぜぇ〜ぃ。
 続いてさえいれば、それは遥かなるロングロード。いつか、できっとで、フォーエヴァー。
 伝え続けていれば、未来の世代がきっと垣根のない世界を作ってくれる。俺はそう信じてるんだぜぇ〜ぃ」

シャークは、
そう言い、
露骨にカッコつけるように、
指先を向けた。

「人と魔物は分かり合える。大事は伝える事。方法はなんでもいい。俺は音楽を選んだぜぇ〜ぃ。
 だけどもう一つ大事は途絶えさせちゃいけない事。これはもしかして手段は選べないのかもねぇ〜ぃ」

自由きままな、
魔物のロッカーは、
そう言った。

手段なんて選べない。
相手はそこまできている。
だから、
ここに居る。
自分のすべき事をするために。

そのためならば、
マリナ(ベイビー)のもとから離れることも・・・・


「わざわざ言葉で伝える・・・か。ふん。度し難い」


黒と白の修道服。
マーズヴォルテル。
だが修道士でもなく。

「伝道は、伝えるものではない。伝わるものだ」

一人の人間の姿。
だが、
人間でもなく。

「俺はそうやって伝わった」

それ以前に、
機械と、
生命の狭間。
それでいて、
魔物と、
人間の狭間。

「一人の人間(ヒーロー)にな」


              魔物界覇者
       兼《デムピアス海賊団》マスター(キャプテン)

              『海賊王』

              デムピアス


「ふん」

その人間一人分・・・・
一人の人間(エンツォ)の体を媒体に、
機械と魔力で補強した、
仕掛け生命(カラクリ生命)

ハリガネのような、
電源コードやパイプのような。
ガラクタを集めたような白の混じった銀髪。

「ウキッ!ウキッ!」
「あまり浮かれるな。チェチェ」

肩の上の小猿を撫で上げる、
血の通っていない冷たい手。

そしてその顔は・・・・
一人のヒーローの表情を冷たくしたかのようだった。

「いい天気だ」

悪の、
魔物の、
機械の王は、
天を見上げてそう言った。

「水面(みなも)がきらめく。釣りでもしたい天気だな」
「パパッ!」

そう喜びながら、
自分と同じくらいの身長の息子(0歳児)が駆け寄ってくる。

「騒ぐな馬鹿息子が。波が揺れる」
「あぎゃっ、」

手で払うように、
軽くベビーを転がし、
そっぽをむく。
海。
自分のものであるその大海原を見る。

「ベビー。お前は俺を継ぐ者だ。あまり見っとも無いマネはするなよ」
「あーん?パパ。僕様のどこが見っとも無いんだよ」
「するなと言っているんだ。これからの戦いも、この先の戦いも」
「しないしない。僕様って無敵だから!」
「自称だろ?」
「パパまでそんな事言うー?」

ふん。
と、
デムピアスは鼻を鳴らした。

「口で言うだけなら誰でもできる。だがそれを実行できるかどうかは別問題だ」

海を見ているというよりは、
遥か彼方。
水平線の先。
つまり、
何も無い、
見えない何かを見ているようだった。

「空想な絵空言。それを毎日呟いていた男を知っている。
 だがその男は、その絵空言を毎日実現し続けていた」
「それが君のいうヒーローかぁーぃ?デムピアス」

シャークが細長い腕を広げながら言う。
頷きもしない。
だが、
デムピアスにとってそれが肯定のようにも思えた。

「彼は俺も知ってるぜぇ〜ぃ。案内人としてルケシオンの砂浜に住んでいる時に何度か会った。
 ナタク=ロンってじいさんの弟子だねぇーぃ。この間城ですれ違った時は見違えたぜぇーぃ」
「・・・・・」

デムピアスは返事もしないし、
振り返りもしなかった。
だが、
興味がないわけでなく、
むしろ、

「それは初耳だ」

あまりに無造作な興味が、
海の魔王に降り注いだようだ。
シャークは笑った。

「聞きたいかぁーぃ?」

やはり、
デムピアスは返事もしなかった。
だが、
否定しない事は肯定なのだろう。
あまりに無愛想な魔王。
だが、
興味は一つの正義に純粋な小鳥のように降り注がれていた。

シャークは笑い、
話してやった。

毎日毎日ルアスの辺境から、
ルケシオンダンジョンまでトレーニングで走ってくる狂人。
ジジイとガキ。
片方はヒーローを夢見ていた事。
そのために努力を惜しまなかった事。
チェチェとの出会いも近場だったこと。

いろいろと、
長々と、
まるで御伽噺。
英雄譚というよりは歴史。
シャークが話すと、
それは話というよりも一つの歌のようにも思えた。

全て話し終えても、
やはりデムピアスは反応しなかった。
機械のように無表情で、
微動だにしない機械生物だった。

「シャーク」

話の感想ではなく、
思った感動でもなく、

「人と魔物は分かり合えない」

デムピアスは、
結論のように言った。

「それは哀しい答えだぜデムピアス。あんたなら分かると思って話したんだがねぇーぃ」
「いや・・・・」

デムピアスは、
やはり無表情で、

「分かり合えないから。相容れないから、俺はこうまでも惹かれてしまったのだろう」

重たい鉄の銀髪は、
潮風でさえ揺らすのは難しかったが、
わずかになびいていた。

「俺はあまりにも人間というものに魅力をもってしまい、そして嫉妬してしまった」

鉄で出来た、
その拳を握る。

「半人間。半機械。潮の血さえも通じて、なんとか手に入れたこの体だった。
 だがそれでも俺は人間にはなれなかった。これは一つの人と魔物の相違の結果だろう」

成りたいものに、
成れなかった。
彼は、
自分の彼は、
海賊王にとっての少年は、
魔王にとってのヒーローは、
成りたいものに成ったのに。
夢を叶えたのに。

「だが、俺はあまりにもあの一人の人間に入れ込んでしまったのだろう。
 彼に成りたい。彼を失いたくない。彼に消えて欲しくない」

やはり無表情だったが、
肩の上の、
彼の忘れ形見。
一匹の小猿を見据える。

「だから、彼を俺は継ぐ。人を魔物が継ぐ。英雄を王が継ぐ。
 お前の言う伝道だ。つなげる。あのヒーローを受け継ぐ事を俺は誇りに思ってしまっている。
 伝道に魅力を。そう思わせるヒーローに嫉妬という魅惑にかられた。だからベビーも造った」

俺も継ぐならば、
受け継ぎたい。

「悪には悪の正義を。俺は・・・・」

ダークヒーローになる。

七つの海を制覇した、
機械と、
魔物を従えた、
邪悪の王は、
正義を語る。

「受け継ぐ・・・か」

バンビはこっそりと、
自分の拳を見た。

「分かったでヤンスよデムピアス船長!」
「パパかっけぇー!要チェケラ!!」
「ヘイヘイ。やっぱあんたに付いてきた間違いじゃなかったみたいだねぇーぃ」

「ふん。度し難い」

それは紛れも無く自分自身に言った。
魔王が、
こんな甘っちょろい事を言うなんて。
ただ、
それがあまりにも悪くないなんて、
悪が思うから、
やっぱり自分でそう思っただけだった。

間違ってはいない。
進路は順調だ。

「反乱の人間も、絶対の人間も、どちらも世界を終わらそうとして戦っている。
 なら、俺達は繋ぐために戦うぞ。さぁ帆を張れ悪の子らよ。勝利は我らにある」

片腕だけ、
デムピアスは広げ、
そしてやっと、
やっと、
小さく笑った。

「何故なら正義は負けんからだ」
「ウキッ!ウキッ!!」







































「へぇ。デムピアスにガキがねぇ」
「・・・・笑止。だが見てみたかったな」

金属音がぶつかり合う。
高速で移動しながら、
小柄な体が二体、
割に合わない大きなソードを片手で軽々と古い、
小さなミスで相手を殺してしまうようなチャンバラに興じていた。

「応応、だがあいつもまた魔物だったってことだな」
「・・・・だな」
「俺達魔族は繁栄した人間野郎達は違い、種族の存亡を重んじるからな」
「・・・・奴もまた、滅びるのを拒んだか」

あまりにレベルが逸材なその稽古の場所は、
人里離れた・・・
文字通り、
人の里から眼忍ぶように造られた、
新しい故郷。
砦。

「で、」
「・・・・どうなんだ?」

「ん?」

世界最高級の模擬試合を見ながら、
岩に座っている男は返事をした。

「何がだ」

「応応!決まってんだろ?」
「・・・・そのデムピアスのガキはどうなんだって事だ」

「ふん」

彼は、
何を聞くかと思えばと笑った。
鼻で笑った。
そんな答え。
決まっている。

「俺達の子の方が強くて可愛い」


                  カプリコ砦 長

                 『カプリコ三騎士』       

                   エイアグ


      カプリコ砦 長

     『カプリコ三騎士』       

       アジェトロ



                            カプリコ砦 長

                           『カプリコ三騎士』       

                              フサム


「あーあ」
「・・・・笑止」
「お前に聞いて正確な答えを期待はしてなかったけどな」

アジェトロとフサムは、
同時にチャンバラをやめた。
たった二人。
否、
二匹の稽古が終わっただけで、
まるで戦争から解き放たれたかのように、
その場は静かになった。

「ふん。だがまぁ用心に越した事はない」
「応。ケビンが死んだ今、」
「・・・・我ら魔物界の天敵は奴くらいのものだ」

三匹三様。
いや、
分かるものでなければ、
見分けさえつかないだろう。
もちろん、
カプリコとしては全然容姿の違う三匹なのだが、
人目には同じコピーが三匹にしか見えない。
マフラー付きの小柄なカプリコ族の体。
それに釣り合わない巨大なソード。

そして、
"伝説が三つ同時に生まれてしまった"
とさえ称される、
カプリコ・・・・
いや、
魔物界の最強三陣。

ロウマさえ倒せなかったこの三匹。

三匹揃っている彼らにとって、
敵なし。
弱点なし。
怖いものなし。

「あーーー。ああーあー・・・・」

いや、

「おぉーー!?どうした?よしよし。ほぉーら、パパのとこに!」
「「・・・・・・・」」

アジェトロとフサムは呆れる。
一匹の、
小さなカプリコ族の中でもさらに小さい、
1歳児。
それが、

「あーー、あーあー」

とか言いながらエイアグに駆け寄ると、
魔物界最強の一角の顔は、
とろんとトロけ、
最弱に変貌する。

「よぉーしよしよしよしよし!どうしたぁー?なんか怖いものでもいたかぁー?
 いやいやごめん。強い子だもんな!パパの子だからな!そんなはずないよな!
 でも大丈夫!どんな危険だってパパが追い払ってやるからな!」
「あー、あうあーあー!」

そんな愛を、
全身で受け入れ、
エイアグに抱きつく、
カプリコの星。
新星。

「うぅ・・・・可愛い・・・・可愛い過ぎる。これは人間の法律でいう犯罪に等しくないか!?
 美しすぎる事が罪なら、この子は生まれながらにして可愛すぎて罪を背負っている!
 強くて可愛くて!その上頭もいい!神はカプリコに不平等をくださった!」
「あうあー!」
「大丈夫!お前は無敵だ!可愛すぎて誰も攻撃できないからな!」
「あうあうあー!」



               カプリコ族

               コロラド


「よぉーしよしよしよし。あんなデムピアスの息子なんか目じゃないな。
 コロラド!きっと間違いなく!魔物界の未来を背負うのはお前に違いない!」
「応応〜・・・・」
「・・・・・承知・・・?」
「エイアグよぉー。溺愛もいいがなぁ、」
「・・・・・・・・・少しは鍛錬を積ませてはどうだ。
 その子は確かにお前の言うとおり、カプリコの未来を背負ってもらわなければならん」
「な、何を言ってる!まだ早い!コロラドにはまだ早い!!」

エイアグは、
我が子を隠すように抱きしめる。
全身全霊で。

「怪我でもしたらお婿にやれんだろ!やらんがな!」
「心配しすぎだろ・・・」
「・・・・俺らにとってもその子は可愛い。だからこそ武術を学ばせておきたい」
「やーだな!やだね!まだいい!焦らなくてもこの子は最強になる!!」

えらい変貌だ。
親馬鹿は万国共通。
人間でも、
魔物でも。
最強形無しだ。

「あー」

だが、
コロラドは、
エイアグに抱きしめられたまま、
無邪気に一生懸命手を伸ばした。

「あー、あうあー」
「・・・・む?」
「ハハハッ!!応応!」
「・・・・・笑止。親がこうでも、やはり親の子だな」
「あう〜・・・あうあ〜〜」

そう。
コロラドは、
その一歳児は、
一生懸命、
手を、
エイアグのヤモンクソード。
いや、カプリコソードに手を伸ばしていた。

「う・・・・」

エイアグは思いとどまる。
その光景に。
いや、
実際、
コロラドには才がある。
エイアグが止めてもアジェトロとフサムが勝手に剣を教えてしまうのもあるが、
それ以上に、
天性の才能。

ついてきてしまったノカン跡地の戦争でも、
その片鱗は見られた。
たかだが一歳で、
すでに・・・・。


「可愛いのもわかるけどね〜〜」


そう、
彼は言う。

「パパは甘やかしすぎだよ?コロラドをさ〜〜」

ポテポテと、
小動物のような足音と、
ズリズリと、
ブカブカのローブとカプリコハンマーを引きずる音。

「ほぉ〜らコロラド〜。お兄ちゃんだよ〜?」
「あうあ〜!」

コロラドは、
エイアグの手から抜け出て、飛び出した。

「あ、こらコロラド!」

エイアグの静止を聞く耳もたず、
あまりに小さな体は、
少し大きいだけの小さな体に飛び込んだ。

「あうあー!あうあうあー!」
「アハハ、くすぐったいよコロラド」

お兄ちゃんの腕の中、
無邪気にじゃれ付くコロラド。
そのお兄ちゃん。
"お兄ちゃん"
お兄ちゃんでありながら、
血は繋がっておらず、
それ以前に・・・

カプリコでもない。

いや、
本人はカプリコであるとただ思っている。
分かっていても、
そう言い張る。
血の問題なんかじゃないから。

「大丈夫!もしもの時はお兄ちゃんが守ってあげるからね〜〜」
「あうあ〜〜!!」



            カプリコ三騎士が養子
            兼《MD(メジャードリーム)》所属

              『ロコ・スタンプ』

               ロッキー


「あはは、よし、コロラド!競争だ!」
「あうあー!」

と言いつつ、
ロッキーとコロラドは、
それぞれまったく別の方へと走り出した。
ま、
そんな光景も見ていて微笑ましい。

「・・・・ふん。我らが一番息子の方が分かっているようだな」
「あぁ。確かに」
「何がだ」
「・・・・笑止」
「お前が分かってないって意味だよエイアグ」
「む・・・・」

カプリコ砦を、
庭のように、
いや、
庭を走り回るロッキーとコロラド。

「ロッキーは分かっているようだ。守るという意味を」
「・・・・・それは守ってやるという意味ではないんだよ」
「・・・・・ぬぅ」
「我らが息子はそれを分かってる。守るとは・・・戦う事だとな!」
「・・・・守るためには、戦わねばならんという事を承知している」
「・・・・」

分かってはいる。
自分達がそうしてきたから。
そして、
力なくして、
前のカプリコ砦は守りきれなかった。

だから知っている。
守るとは、
戦うことだと。

「だが・・・」
「応!分かってる。それにしてもロッキーでさえもなのに、コロラドは若すぎるにも程がある」
「だからお前が守ってやれ」
「・・・・ふっ。俺達3匹が・・・だろ?」
「応!」
「・・・・承知」

三匹の伝説は笑った。

「まぁ、うぬらは一つ勘違いをしているな」

と、
伝説なる三騎士に軽々しく言う者。
それは、
狼帽をかぶった、
自分らの息子。

「お前らの息子(コレ)は、守られるほど弱くはない」

「・・・・・チッ」
「フェイスオーブ」
「オリオールか」

「そう構えるな」

と、
ロッキーの体は笑うのだ。

「余はこの者と和解したと言ったろ?」

「信じられんな」
「そう騙してるのかもしれん」

「案ずるな。余は妥協してでもこの体に居たいと願ったのだ。
 この者の体を魔力のガソリンタンクとしてしか見ていなかったがな。
 だがな。この魅力的な体のためならば、逆に余が使われてやってもいい」

所詮、

「所詮、余は生物でない。モノだ。モノは使われるだけ。もともとそっちに魅力があったのだろう」

「ふん」
「だがいつかはロッキーの体から出てもらうぞ」

「その選択権もすでにこの者にある。余などモノ。いらなくなればゴミとして捨てられる。
 余は今出来る事は、見放されないよう"ご主人様"に嫌われないようにするくらいだ。
 そのために、世界最強の魔術師であるこのオリオールが、絶対の帝ヌラノラヌラヌヌヌ」

「・・・?」

「ウヌ、ヌヌヌラニヌノ」
「はい!ぼくの番!」

通じぬ言葉を、
カプハンに埋まったフェイスオーブが話しているのを尻目に、
ロッキーが笑顔で話す。

「みんなでがんばろー!おー!!」

そして小さな拳を、
天に掲げた。

「あ、パパ達!ほら!カプリコ砦だけじゃないよ。世界を守るんだよ?
 だからほら。一緒に!おー!・・・・ね?おー!おーーー!!」

一生懸命、
拳を突き上げる。

三騎士は顔を見合わせた。
そして笑った。
確かに。
確かに。

自分達の血の繋がらない。
種族さえ違う正真正銘の息子は、
いつの間にかこんなに立派になっていた。

三匹は同時に拳を突き上げた。

「応!!」
「承知!!」
「参る!!!」





































小鳥が鳴く。
小鳥が鳴いて、
木に止まる。

だが、
木から木が生えているかのような、
その大木。
森の中の大木の、
その一つの巨大な幹のような枝の上で、

「あ〜ぁ・・・・・・・」

上半身裸の男は、
あくびをたてた。

「平和だねぇ・・・・・いいこった・・・・・・」

と、
のん気に、
木の上で寝転がって言う。

そしてまったく世界は平和でもない。
平和なのは彼の頭くらいだろう。

「いいねぇ・・・・平和。超イイね・・・・何もしなくていいからな・・・・・あぁー」

そして、
ブランと、
木から無機物のように垂れ下がった腕をあげ、
仰向けの自分の口へ、
タバコを誘(いざな)う。

「・・・・何もしないことさえメンドくせぇ・・・・・」



            元天使部隊《四x四神(フォース)》

            『ライ=ジェルン』

             ネオ=ガブリエル


耳に安全ピン。
そして半裸の胸には、
"RIP"
墓に書いてあるその言葉を、
堂々と胸に刻む。
安らかに眠れとは、
まさに彼のための言葉でもある。

「なんで生きるのってメンドくせぇんだろ・・・・なんでだろな・・・・
 食って寝るさえもメンドいから・・・神になったのによぉ・・・・なんも変わんねぇ・・・・」

その面倒臭がりの性格は、
極地と言ってもいい。

「でも死ぬのもメンドくせぇ・・・・」

何もしなくても生きられる神族の彼にとって、
その丈夫過ぎる半永久期間的身体を自殺に使うのは、
それはそれで労力。

なんてったって、
彼の病気ともいえるその面倒くさがりは、
運動アレルギーといっても差支えが無いのだから。

「世の中・・・・何もなくなればいいのに・・・・・」

神は、
悪魔のような事を言った。

「何故人は争いなどするんだろうな・・・・」

神らしき事を言う。

「頑張って死ななくてもよぉ・・・・・だらんと寝ながら死ねばいいのにな・・・メンドいし・・・・」

これはこれで、
深い。


「やぁやぁ、こんなところに居たのかい?探したよ」


「・・・・」

木の枝の上で寝ていると、
下から声がした。

「・・・・・・」

「返事は無しかい?」

無いのではない。
ただ、
返事などという事は面倒だ。
返事をするということは、
さらに言葉が返ってくるということで、
さらにさらにと考えると、
さらに面倒くさい。

「哀しいねぇ。無視されるのは慣れてるボクが哀しいよ。
 でもどうだい?神様なら人様の言葉に耳くらい傾けるべきだと思うけど?・・・・ライジェルン?」

「・・・・・・あん?」

数秒遅れて、
やっと反応し、
見下ろす。

「フウジェルンか」

「ボクはそんな名じゃないさ。もっと美しい名前がある。
 でもやっと反応してくれたね。ならあらためてお互いを言葉で装飾しあおうじゃないか。
 きっとそれで分かり合える。そういう関係だと、ボクは思うけどね。だって」

そして彼は、
手をピストルに見立ててガブリエルに突き出し、
ウインクした。

「芸術は爆発だ」



         元天使部隊《四x四神(フォース)》
         《MD(メジャードリーム)》所属

         『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』

         モントール=エクスポ


「フフッ」

微笑し、
木陰から、
木の上を見上げ、
エクスポは笑う。

「・・・・ったくダリィ・・・・・なんの用だフウジェルン」
「ボクはそんな名じゃないよ。ボクはエクスポさ」
「・・・・・EXPO(お祭り)たぁ笑える名だな・・・・笑うのもメンドくせぇけど・・・・」
「いい名じゃないか」
「・・・・・・・・・」
「そしてエクスプロージョン(爆発)のエクスポだからね。よろしく♪」
「・・・・・だりぃ」
「なんでだい?」
「どうやっても返事がズラズラと返ってくる・・・・ダリィったらありゃしねぇよ」

チュンチュン、
と、
鳥が飛んで来て、
木の枝で寝転がるガブリエルの腹の上に止まった。
そして、
ガブリエル本人はまるで風景のように、
それを受け入れたまま寝ていた。

「で、ライジェルン」
「・・・・・・俺だってそんな名じゃねぇよ・・・・」
「じゃぁ教えておくれよ」
「・・・・・チッ・・・・」

ガブリエルは、
寝転がったまま、
タバコを木から放り捨てた。

「ネオ=ガブリエルだ。ガブちゃんとでも呼んでくれ」
「生まれ変わったガブちゃんか。君もいい名じゃないか。知ってたけどね」
「・・・・・・・」

反応したくない。
このエクスポという男。
言葉を発すれば発するほど、
無限に言葉を返してきそうだ。

まぁ、
彼のいう言葉は、
確かに的を得てはいるが。

「・・・・・・いい名・・・・ねぇ。・・・・・ダッリィ事言ってくれる・・・・・
 大体名前の一部だけで判断されるのもまたねぇ・・・・・メンデェ・・・・」
「一部?」
「・・・・あぁ・・・・ネオ=ガブリエルが俺の名じゃねぇ・・・・・」
「それは人間の頃の名前とかが関係してるのかい?」
「・・・・いーや・・・・」
「じゃぁ君の本名はどんなだい?神の名だ。さど美しいんだろうね」
「・・・・・」
「教えてくれたっていいじゃないか」

本当に面倒な野郎だ。
会話のテンションが噛みあっていないのに、
それでも永遠に会話が続いてしまいそうだ。

「思い出すのがメンデぇんだよ・・・・」
「いーじゃないか」

エクスポは笑う。

「教えてくれよ」
「・・・・・」

教えてやらないと、
一生付きまとわれそうだ。
まったく。
まったく。

「ふぅ・・・・・」

一度息を吸い込む。

「ネオ=ガブリエル=グラフィティ=リ=ロットン=ルーキー=ライザー
 =テン=トゥー=フィーチンアパート=ロウワイアン=ガーデン
 =ゴイ=ハーヴェスト=ブラフ=スタンディクルセイド=トゥ=ダッシュド
 =フランク=スタート=ランパシッド=ポット=シュート=オルターナだ」
「・・・・・」

エクスポは、
少し固まり、
時間が止まったように硬直したあと、

「うん」

手を叩き、
またピストルのように指を突き出した。

「略してガブちゃんだね」
「正解」

それが一番だ。
メンデぇ名前なんていらねぇ。
呼び名など、
それだけで呼称で、
自分はもっと違うものだ。

「でもネオ=ガブリエル=グラフィティ=リ=ロットン=ルーキー=ライザー
 =テン=トゥー=フィーチンアパート=ロウワイアン=ガーデン
 =ゴイ=ハーヴェスト=ブラフ=スタンディクルセイド=トゥ=ダッシュド
 =フランク=スタート=ランパシッド=ポット=シュート=オルターナなんて凄い名だね」
「・・・・・お前のが凄ぇよ・・・・・」

一瞬で覚えたのか?
こいつ、
化け物か?

「でも語呂が悪いね。美しくない」
「ほっとけ」

その上ダメだしだ。

「・・・・・神の名だからな・・・・・"高貴な名を軽々しく下等種族に呼ばれないため"だとよ・・・。
 ジャンヌダルキエルやらももっと長い名があるぜ・・・・他人のまで覚えねぇけどな・・・ダリィ・・・・」
「うん。でも君はガブちゃんでいいんだね」
「あぁ」

いい。
どうでも。

「さぁ、それで?神としての誇りを捨てた神様。元ライジェルン。
 君は今回の人間の愚かな戦いをどうするつもりだい?」
「・・・・・傍観だ」

木の上で、
本音を言った。
・・・。
当然だ。
参加する意義などない。
ダラダラと、
愚痴だけ零して時間が過ぎればいい。

俺に時間は無限にあるのだから。

「神が人に干渉すべきでない。だから鑑賞。それが君だったね」
「・・・・そうだ」
「神々の住まう世界(アスガルド)。フフッ、でもそれならば。それならばだよ?
 まだ人間界には干渉すべきでない神とやらが残っているじゃないか。
 ボクは君の事をよく分かってるつもりだよ?元フウジェルンとしてね。
 それを放っておく気かい?彼を、地上に野放しの神族を君は放っておけるのかい?」

・・・・。
ダルイ。
メンドい。
・・・。
本当に。

こいつとは話したくない。

いちいち答えたくない。
・・・のに。
こいつは、

確信ばかりをついてくる。

盗賊の性か?
違うな。
芸術家の性だ。
ものを見る目を持っている。
持ちすぎている。

「それは・・・・・」

木の上で、
静かにガブリエルは答える。

「"どちら"の事を言ってるんだ」
「さぁ」
「ダリ・・・・」

考えるのは慣れてない。
動くのも、
動かされるのも。

でも、
黙ってられない事はある。

しかしそれは考えても無駄だ。
世の中どうとでもなってしまう。
その時はいずれ俺もどうとかしてるのだろう。

考えるだけ無駄だ。
無駄。

「ほんと・・・ダリィ・・・・・」

だから、
ガブリエルはそのまま木の上で目を瞑った。



































「ヒャーーーーーーーーハッハッハッハッハ!!!!」

熱い。
熱いほどに熱い。
熱帯夜。
いやいや、
夜ではないが、
彼の周りはあまりに暗い。
いや、
黒い。
全てを焦がし、
真っ黒こげに。

「・・・・・・ヒャハハ・・・・」

イカルス。
マイソシアで一番熱い地区。
その周辺。
卵巣を超えて火山。
その噴火口の上に、
マグマに足を濡らしながら、
一匹の炎神は嘆いていた。

「心が燃えねぇ。つまり萌え盛らねぇなぁ。ホントに世の中・・・アッちゃんいなくなっちまったのか?」

神の髪が、
ロウソクのように炎で燃え、
そして、
背中には、
二対の羽。
翼。

「ハイにならねぇよ。灰にするもんがなけりゃ、HIGHにゃなれねぇ。これじゃぁ俺は廃人だ」

背中から、
まるで火炎放射のように、
炎の翼を噴出した、
生まれ返りし炎の神。

「俺ぁ、燃え尽きちまったのかねぇ」




          元王国騎士団 団員
          元《GUN'S Revolver》 ギルド員
          堕天族

          『チャッカマン』『過剰なる火上炎神(ターボエンジン)』

          ダニエル=スプリングフィールド (カルキ=ダニエル)


「・・・・・・・・・・な、わけねっか♪ヒャハハハハハハハハ!」

そう、
火山の噴火口の風呂の中、
一人、
たった一人、
炎の神は笑っていた。

「そうだ。そうだそうだそうだそうだ。俺はアッちゃんが好きで好きで好きでしょーがなかったけど、
 それはつまり、俺の放火欲の矛先であって、結局失う事が目的だったじゃねぇか。
 それだけで俺のキャンプファイヤーな日々、ならぬ火々が燃え尽きるわけがねぇ!!」

元の名前は、
『放火魔(チャッカマン)』
神の落とし子(スプリングフィールド)、
ダニエル。

今は、

カルキ=ダニエル。

カルキ(汚物を破壊する不死者)
『過剰なる火上炎神(ターボエンジン)』

「無いならまた探すまでだ!あいつほどの燃え木はなかったけども、
 なら、なら探すだけ探すだけだ!俺は変わらねぇ!燃やし続けるだけだ!!」

火は、
炎は、

何か薪を探し続けなければ、

消えてしまうのだから。

「なんでもいい!代わりの!代わりの潤いをくれ!炎を燃やす潤いをよぉ!!
 燃やしてぇんだよ!何もかも火ぃー火ぃー言わしてぇ!炎ジョイしてぇんだよぉおおお!!」

それはもう、
炎らしい、
炎神らしい、
ただの暴走(オーバードライブ)。
それでいて、
迷走だった。

「誰か!誰か俺に火をかせよ!!!燃やしてぇから燃やさせてくれよ!!炎ジョイさせてくれ!
 何もかも!ハイに!HIGHに!灰に!廃に!根絶やし燃やし尽くされてくれよ!」

もう、
ただ、
何もかも見失っていた。

彼が、
火炎にまみれるダニエルの人生で、
唯一の灯火だったから。

「業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!!!」

だから、
彼を見失い、
暗闇になった世界の中、
ダニエルは、
迷ってしまったから、
ただ照らし続けるだけ。

この暗い洞窟のような世界(人生)に、
タイマツを灯すように火を求めるだけ。
それ、
だけ。

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

それでも、
唯一自分を鎮火してくれる彼を、
それでも求めて、
叫ぶだけだった。


































「またここに帰ってこれるとはね」
「足を運ぶだけなら簡単にできたわ」
「ただ、帰れなかっただけ」

三人は、
跡形もない、
この土地の、
跡形も無い、
この家の跡地に、
立ち尽くしていた。

「三人とも、もともとは帰ってくるために家を出たわ」
「そうだったね」
「だけど」

一番年下の彼女は、
落ち込むように言う。

「いつのまにか、それを願うことだけを支えにして、
 でも忙しいと無理をいいわけに・・・・帰らない理由を作ってた気がする」

三人は、
黙った。
家。
この家。

終わった町。
アベル。
久しぶりに足を運んでみれば、
そこは地図から消されていて、
そんな事は知っていたけど、
それでも、

帰ってくる場所なんてものは最終的には絶対残っている気がしていて。

「皮肉なものね」
「帰る理由が出来てみたら、帰る家が町ごと潰れてるんだもの」
「でも、私達はやっぱり帰ってきたね」

そう、
一番年下の彼女が言うと、
三人で笑った。


     元ルアス大広場管理人
     兼ルアスなんでも屋店主

     ルエン=ロイヤル


                  元ミルレスなんでも屋店主
                  元《GUN'S Revolver》 再装填(リロード)メンバー
 
                        マリ=ロイヤル


           元スオミなんでも屋店主

             スシア=ロイヤル


「夢は叶ったわ」
「三人で家に帰ってくるって夢はね」
「でも、元には戻らないのね」
「なぁに言ってるの。私達は元通りじゃない?」
「確かに家はもう元通りなんてならないけど・・・」
「でも・・・・・・お母さんは・・・・・」

そういいかけると、
それは、
やはりもう戻らないものだった。

ロイヤル三姉妹が母親。

エリス=ロイヤル。

彼女は死に、
もう家族水入らずは永久に叶わない。

「お金儲けの亡者。ロイヤル三姉妹形無しね」

ルエンが肩をすくめて苦笑いする。

「でも、」

そう続けるのは、
次女マリ。

「私達がお金で生活が戻ると思っていたのは、それはそれで一つの道よ」
「え?」
「なんで・・・・」
「借金(過去)は利子付きでかえる。思い出として膨張したり、でも元通りのままにはかえらない。
 でも、未来は買えるわ。ローンを組もうが、どれだけでも買える」
「貪欲である限り・・・だね」
「うん」

失ったものより、
未来を手に入れるために。
それを・・・
考えなくては。

「でも、戦いは最終よ」
「最終。・・・・っていうところよりも戦いは・・・ってところね」
「私達なんて無力。どうにもならない」
「でも出来る事はあるはず」
「無力なら」
「力は買うものよ」


「ってことでまいど♪」


そう、
後ろから声をかけてきたのは、

トレカベストを来た、
なんとも軽い、
身軽な男。

「地獄の沙汰も金次第。閻魔様のゴシップから天使様のスキャンダルまで、
 世の中金で変えない情報はない。・・・・・と言わしめるためにオレっち参上♪」

「あら早いわね」
「まさかこんなところにすぐにこれるなんてね」

「抜け道下道隠れ道。オレっちに知らないことなんてねぇーっての。
 なんたってオレっちは歩いてしゃべるトランシーバー男。イッツァウォキトォキ♪」


          ルアス99番街情報屋
          《情報屋ウォーキートォーキーズ》マスター(親機)

          『ウォーキートォーキーマン』

           ミルウォーキー


「情報は持ってきたぜ。入金次第ですぐ渡す」

「あらどこに?」

「決まってんだろ?じょーほーろーえーがオレっちの敵だ。メモ帳は全部ココだよ」

と、
ウォーキートォーキーマンは、
自分のこめかみを指し示す。

「呆れた事」

そう言い、
ルエンはグロッド袋を放り投げる。
それ見ると、
嬉しそうにウォーキートォーキーマンはなめずる。

「まいど♪・・・・ってことで内緒話だ」

それでも一応、
この廃墟と化したアベルの地で、
周りを確認しつつ、
小声で話し始める情報屋。

「今回の商品はあの屍骸騎士(ブレインガード)達・・・死骸騎士(ブレインナイト)達・・・・
 つまり、《キングダム・クリムゾン(赤裸々な騎死団)》の情報だったな」

「そうよ」
「って言ってもその呼び名さえ今知ったんだけどね」

「手っ取り早くいくぜ。数は5000」

トレカベストの情報屋は、
そう話す。
5000。
多いようで、
思ったほどでもないその数。
だが、
それでも思うところはあるのだが、
三姉妹の反応を待たず、
ドンドンと話すウォーキートォーキーマン。

「生きながらえた部隊長3人+2人以外はまるまる復活だ。
 かな49も、むな49も、ってか?49人の勇者が堂々の復活」

朗報の逆だった。
期待の中の、
最悪。

「っとっと。いーよいーよ。反応はいらない。情報はドンドンと流す。
 売っただけだ。カムバックはいらねぇ。あくまでビジネスだからな」

途切れなく続く、
情報のマシンガントーク。

「復活の理由だが・・・・・どうやら鎧にあるらしい。
 鎧。それ自体は変わった風なもんでもないが、復活できなかった死骸を調べた。
 結果、まぁ・・・埋め込まれていたんだよ。鎧にな。下準備は万全ってこった」

どんな?
なんて言葉を挟むヒマなく、
続く情報の嵐。

「コマリクだよ」

と、
セールストークは、
確信をついた。

「本人達も知らなかったんだろうな。コマリクが埋め込まれていた。
 まず、死者の魂が蘇生できるレベルでこの世に滞在できるのは平均30分ってとこだ。
 それを、あの騎士達は、あまりの思いの強さに"成仏できなかった"。
 いわゆる浮遊霊・・・・じゃねぇな。まさに"地縛霊"って表現が正しい」

思いが、
ただ思いが、
彼らをそこに留めた。
それは、
聞こえはいいが、
言葉にしてみれば、
ただの亡霊。
地縛霊。

「だが、それでも騎士団一個まるまる簡単に地縛霊として2年も貯金しとけるかってぇーと、無理。
 無理なんだよ。無理。そんな理論が通るなら、世の中黄泉帰りで溢れちまう」

たしかに、
その通りだ。


「彼らには埋め込まれた・・・・・そうですね?」


・・・・と、
違う場所から表れたのは、
一人の女性だった。

「イエス。オレっちの言葉に口を挟むレディーがいるとはな」

「お世辞を言うならもっと装飾して褒めて欲しいものですよ♪」

彼女は、
そんな風におませに笑った。

「続きです。その情報が正しいならば、つまりこういうことでしょう?」

と、
ピンクの姿の彼女は続ける。

「残留思念に近い騎士団。それを元手に、2年も魂を城の敷地に閉じ込めておくには・・・・
 鎧にコマリクを埋め込んでおく。一種のクローゼットの"乾燥剤"・・・・では?」

「イィーーッツァウォキトォキ!正解だ!」

ウォーキートォーキーマンは両手をあげ、
忍ぶつもりもないように、
大声をあげた。

「なかなか筋があるねお嬢ちゃん。情報もってくるまでもなかったか?
 いやはや名前を聞きたいね。・・・・っとおっとっと。そんな馬鹿な。
 世界一の情報屋が尋ねる?ありえないありえないってね。知ってる知ってる。
 あんたは有名人だ。実力とその容姿。情報屋やってなくてもチェックいれとくっての」

「ウフ、それは嬉しいですね」

そう言い、
彼女は、
短めの、
ヒザより上で着こなすワンピース。
・・・・とも呼べる、
そのピンクの魔術ローブの両端を持ち、
お辞儀した。



         魔術師ギルド《メイジプール》マスター

           『フォーリン・ラブ』

           フレア=リングラブ


「・・・・ということはですよ?」

と、
フレアは微笑みながら切り出したが、

「おっとおっと。まてまて。情報屋の名が廃るオレっちに話させてくれ」

と、
手を突き出す先は、
三姉妹。
三姉妹は一言も話させてもらえない。
だがマシンガントークは続く。

「つまり、でもやっぱ、コマリクってのはアイテムだ。使わなければ効果はない。
 使わなければ効果はないし、復活もしないし、蘇生もしない。だけどある。
 あるんだ。コマリクという復活素材が、ありありと鎧に埋め込まれている」

それはつまり、

「復活させないまでも・・・あぁ、つまり話しやすいところ、お嬢ちゃんの言った"乾燥剤"だ。
 屈しない誇り高き魂は、コマリクによって、生かさず殺さず、留められていた。
 傍にあるだけのコマリクは、にんにく?十字架?いや、単純な御札のように効果し、
 生き返る効果など与えず、だが成仏を拒む騎士の魂を繋ぎ止める効果だけを与えた」

「彼らは彼らの意思を利用され、冷凍保存されていた・・・とでもいうべきでしょうか」

哀しいことだ。
"死んでも守る"
その誇り高き意志さえ、
絶対の意志の下では利用されただけ。

「まぁ情報はここまでだ。これ以上なら追加料金が欲しいところだね」

と、
話が終わったところで、
やっと三姉妹に発言権が戻った。

「あら、なら追加よ」
「私達に出来るのはこれくらいしかないから」
「戦えない私達は、戦いの前のサポートくらいしか出来ない・・・・」

「ただそれなら追加料金と共に追加時間も頂く事になる。
 情報は生ものだ。手に入れるための漁(ネットサーフィン)には時間が要る」

「それはもちろんそうなのですが・・・・」

と、
フレアが切り出す。

「それは新鮮なまま戴きましょう」
「ん?」
「私達に必要なのは、力なんです」

と、
可愛い顔をして、
ニヤりと笑うフレア。
と逆に、
ウォーキートォーキーマンは舌打ちをする。

「なんだ?オレっち達にも戦えってか?」

「なるほどね」
「99番街での奮闘は聞いてるわ」
「帝国の精鋭部隊を蹴散らしたそうじゃない」

そう。
ウォーキートォーキーズ。
彼らは情報屋であるにも関らず、
一つの団体としての力を持っている。

「ないね。オレっちらはな、ただ情報のためにそうしただけ。
 あの時だって命をかけてねぇ。オレっちたちが命をかけるのは情報にだけだ。
 それがポリシーでね。あくまで第三者。サービス業(第三次産業)の名の下にな」

「何を言っているんです?」

と、
得意げに、
フレアは笑う。
かわいらしい、
憎みのないその仮面からは想像できない、
裏のある笑顔。

「戦え・・・なんて一言も言っていません。ただ、情報をくれと言ってるんですよ?」
「どういうこった」
「要請します。情報を買います」

フレアは、
自分の唇に指を当てて笑う。

「新鮮で、生な、リアルタイムな情報をね」

微笑む、
その笑顔は小悪魔のようだった。

「そう。貴方がた《ウォーキートォーキーズ》に真正面な依頼なはずですよ?
 ただ情報を求む・・・ということ。戦場・・・"第二次終焉戦争"リアルタイムの情報をね」

戦えと言っているんじゃない。
ただ、
伝達役であり、
戦況報告者。
分からない事だらけの二度目の終焉戦争の情報を、

戦場で、
リアルタイムで、
情報を集め、
くれ、
よこせ。

彼女は、
ただそう以来したのだ。

「ククッ」

その依頼には、
ウォーキートォーキーマンは、
笑いを隠せなかった。

「ハハハハ!!そらすげぇ依頼だ!確かに、確かにオレっちたのポリシーから外れてねぇ。
 なるほど。なるほどなるほど。世界の終わりのレポーター。臨時ニュースをリアルタイムで。
 ・・・か。へへっ、楽しいね。そりゃぁなるほど。情報屋冥利に尽きるってもんだ!!」

そして、
ウォーキートォーキーマンは、
片手の指の上で、
WISオーブをクルクルと回し、
その手に掴んだ。

「きいたかウォーキートォーキーズ(子機共)。新しい依頼だ。そして最大級だぜ。
 命さながらの戦場で、命をかけて情報を集めてこいってよぉ!」

[[[[ イッツァウォキトキ!!]]]]

無線越しに聞こえる、
部下の声達。

「そう。そうだ。オレっちらは歩くスピーカーことウォーキートォーキーマン(トランシーバー男)。
 壁に耳あり障子に目あり。歩って、しゃべってウォーキートォーキー。OK? YOU COPY?」

[[[[ I COPY ! ]]]]

「ペンは剣より強しってぇのがマスコミ(オレっちら)の格言だ。マイクに刻め!ユーコピー!?」

[[[[ アイコピー! ]]]]

「YEAH!世界の終焉に号外を届けるパパラッチがオレっち達だ!OK!? U Copy?」

[[[[ 愛 コピー!  ]]]]

「いいセンスだ!なら5感を駆使して命や金より見えないモノに命をかけよう! 言う コピー? 」

[[[[ EYE コピー! ]]]]

「っしゃぁ!!じゃぁ第三者として戦争に出かけるぞ《ウォーキートォーキーズ》!イッツア・・・・・・」

[[[[ ウォキトォキ♪ ]]]]
[イェーーーーアーーーー!!]
[トリッキィイイ]
[トリッキィ♪]
[トゥゥゥゥゥリッキー♪♪♪]
[Trickyyyyy!!!]
[TRICKY♪」
[TTTTTTTTTTRICKYYYYY♪♪]

「世界の全てを!」

[[[[ Check-ch-check-check-check-ch-check it out!!! ]]]]



































「そう、ま。世の中、地獄の沙汰も金次第ってもんなわけよ」

そう、
似たような事を言うのは、

「殺人、強盗、婦女暴行、リンチ、強姦、掃除洗濯まで、金次第でなんでもする。
 ハシた金のためならこんな命も惜しくねぇのが傭兵(俺ちゃんら)の生き方だ」

右側だけダラりと顔を隠すように落ちた長い前髪。
逆に、
顔の左半分は、
まぶたの上から、
耳、
そして舌の上までピアスだらけ。

命に穴をあけるのがお上手ね。

そんな風にいってやりたい風貌の男。

「何度も題材になってると思うが・・・・・"命の価値"・・・・それが俺ちゃんらにとっちゃぁ、
 小さな戦争の中、小銭のために賭ける分で事足りちまうのさ。それが自分の命の価値」

彼は見据えた。
ルアスの街中。
その一つの路地陰。
そこから少し見据えるだけで、
堂々とそびえ立つのが見える・・・・

巨大な帝国。
ルアスを城下町だと認識させる、
ルアス城(モンスターキャッスル)。

「もうすぐあそこで終焉を告げちまうようなビッグウォー(賞金大会)が始まるわけだ。
 "第二次終焉戦争"・・・・・"SOAD2(System Of A Down too...)"がな」
「そうだな」
「終焉再び。二度目の終焉。どちらにしても筋の通らねぇ表現だよ。
 金利がついたって感じだ。命を2回の分割払いで根絶やしに。そして根こそぎに」
「そしてネヴァーエンド(終わらない)」
「ヘヘッ、笑える。転がった命の利子は、どうやっても返しきれねぇってか?」

だから、
起こった分だけ増えていく、
憎しみ、
哀しみ、
永久にネヴァーエンド。
それが、

戦争・・・か。

「だが嬉しい事で。俺ちゃんらにとっちゃ"職場"が無くならないって事だからな。
 傘屋がもうかるだっけ?ことわざあるよな。終焉は、傭兵にとっちゃ最高の好景気だ」

遠くに、
だがハッキリと見えるルアス城を見据え、
少し靡く長い半分の前髪。
前髪が隠していた右頬に、
自分の命が金に換金された証であるバーコードが見え隠れする。

「換金しに行くかね。命は等価交換だ。奪う事も、失うことも・・・・な」



            傭兵ギルド《ドライブスルー・ワーカーズ》マスター(ボス)

             『ペニーワイズ(小銭稼ぎ)』

             エドガイ=カイ=ガンマレイ


「ふん。笑える前置きだ」

そう、
エドガイと共に居た、
一人の、
いや、
一人しかいない女が言った。

「金稼ぎ。取引の前置きにしか聞こえんな」
「ダイジョーブ。構えなくたってよ、可愛い子ちゃんには特価に決まってんだろ?」
「ふん」

女は、
固まったようなキツい表情で、
目もあわせなかった。

「だがまぁ、命は等価か。それには同意だ」

彼女も、
ルアス城を見据えながら、
その高い背から垂れ落ちるキメ細やかな漆黒の髪を、
寂しくゆらめかせる。

「オレにとっても一度終わった命。それを清算しに行く。それだけなのかもな」
「死ににいくみたいに言うなよ」
「兄上と対峙する事を、死にに行くと表現しないでどう表現する」

そう表現する。
断言する。

「勝ち目などサラサラない。自殺と同意語だ」
「哀しい事言うねぇ」
「夢は見れない。何故なら"絶対"だからだ」

絶対は覆らない。

「兄上はそんな星のもとに生まれた。それは絶対だ。どうしようもない。
 ・・・・フフッ、違うか。どうしようもないのはオレたちだな。
 そんな兄上のもとに生まれてしまったのだから、こんな哀しき境遇はない」

ただ、
アインハルトと同時期に生きてしまった。
それだけ。
それだけ。
たったそれだけで、
世界の誰一人塵も残らぬ不遇な境遇。

「黄金世代?まるで・・・まるで兄上に作られたかのような世代だ。
 だが世界最強の世代としても兄上の足元にも及ばなかった。ただの道具に成り下がった」

この、
オレさえもな。

「第二次終焉戦争?・・・ふん。兄上がいる限り、終焉は永遠に続くさ」
「だろうな」
「そうさ」

彼女は、
漆黒を身に纏い、
やはり、
その絶対の象徴。
ルアス城を見据える。
町の片隅から。

「オレを含め、誰もが頂点には辿りつけない。1は、絶対(アイン)は覆らない」
「分身であるお前も含めてな」
「分身?」

そこで、
漆黒の美しき彼女は、
何もかも出来る、
あの兄のように完璧に近い存在は、
自嘲気味に笑った。

「違うさ。共に産まれただけ。一番よく知るオレだからこそ分かる。
 全てが兄上に似ているだけで、全てが兄上に劣るオレだからこそ分かる。
 双子のオレは分身なんかじゃない・・・・・ただの・・・・」

ただの・・・・

「レプリカ(劣化模造品)さ」



                          反乱軍リーダー

                       『二番目の唯一無二(ザ・ツヴァイ)』

                        ツヴァイ=スペーディア=ハークス


「あんまり悲観的になんなって。それでもあんたは生い立ちに恵まれてるさ。
 アインがいなけりゃどう考えてもお前が世界の頂点に値する人物だった。
 才能全てに恵まれてなお、女としても最高級品だ。なんなら俺ちゃんが買ってやるけど?♪」
「恵まれている?・・・ふん」

エドガイの言葉など、
無視するように交わし、

「オレほどレベルの低い存在が他にいるか?オレは"一度も勝った事がない"。
 生まれた瞬間、隣に頂点がいたんだ。オレは・・・・一度たりとも人の上に立てた事などない」

世界は広い。
広いから、
狭い世界か何重にもある。

誰だって、
長い人生、
どこかでなにかの一番をとったことがあるはずだ。
だけど、
その狭い世界の中に、
いつも最強の兄がいたツヴァイは、

兄以外ならば、
全ての存在より優れているはずなのに・・・・
ただ二番目だから。

ただ、
二番目(劣化レプリカ)だから。

「だが、オレはやっと自らの足で立てた」
「ふぅーん」
「兄上の道具としてしか生涯を見い出せなかった、意志無き二番目の最強は終わったんだ。
 兄上の手によって捨てられ・・・・・そして拾われた。同じ、ゴミ捨て場に生きる者達によってな」

ツヴァイの拳は、
強く握られるでなく、
むしろ、
その確固たる拳は、
泣くように震えていた。

「オレは、生まれて初めて必要とされたんだ。"オレ"という存在自体に対し、必要だと・・・・。
 オレが兄上にもっとも近いからこそなんだが・・・・兄上じゃないから。
 複製だから、レプリカだから、そしてやはりアインハルトじゃないのだからこそ・・・・」

だからこそ、
必要とされた。

「オレは、死後にして初めて命を見つけたんだ」
「そのためなら・・・・死ねるってか?」
「違う。生きに行く」
「惚ぉれるねぇ♪可愛い子ちゃん」

エドガイが笑った。
ピアス付きの舌を出しながら。

「でも勝ち目はやはり0に等しいわな。"1の下には0しかないんだから"」
「あぁ。絶対は覆らない」

それが現実。
現実こそが絶対で、
絶対が現実を作るものなのだから。

「兄上、ピルゲン、ロウマ、燻(XO)、ギルヴァング。
 そしてディエゴを含める49人の部隊長達。・・・・正直絶対なる絶望だ。
 今あげた敵と、まともにやりあえるのは、こちらでは"オレとお前くらい"だ。エドガイ」
「算数したくなくなるねぇ」
「算数にするなら、兄上だけあげれば全て誤算になる」
「まぁな」
「ふん。だが三騎士や堕神族らも期待のうちには入るかもな」
「ま、絶騎将軍(ジャガーノート)と遣り合えるのは、俺ちゃんらとデムピアスくらいだろ」
「そうだな」

そこで、
やっと、
ルアス城を見据え続けてきたツヴァイが、
エドガイを見た。

「兄上の下。あの養成学校に居た人間で、すでに相対側にいるのはオレとお前だけだ。
 ・・・・必要だ。エドガイ。エドガイ=カイ=ガンマレイ。力を貸してくれるか」
「ハハッ、ここで取引かよ」

お金だけの付き合い。
ドライブスルーの仕事人は、
おかしくて笑う。

「いくらで力を貸してくれる?」
「ノン、ノン」

エドガイは口を尖らせ、
指を振る。

「可愛い子ちゃんには特価だっつったろ?金は受け取らない。それが答えさ。
 俺ちゃんも今回に限っちゃぁ、訳アリな主要メンバーだろ?
 頼まれて金もらって戦う傭兵なわけだけどよぉ、俺ちゃんはすでに巻き込まれてる。
 何も請け負わなくても、金もらわなくても、すでに俺ちゃんは巻き込まれちまってんのさ」
「皮肉だな」
「そう。今回に限ってはどれだけ狸の肉をとっても皮算用なわけ。まさに皮肉よん」

そうしてエドガイは、
自らの手を、
ツヴァイのアゴの下に添えて、
笑う。

「俺ちゃんらにしかアインと相対していないってんなら・・・・なおさら・・・な」
「・・・・フッ」

ツヴァイは、
拒みもせず、
笑った。

「あと一人。52分の1人で、そして、世界にたった二人、兄上に反抗した二人の忘れ形見もいるがな」
「あいつじゃ無理だろ」
「あぁ無理だ」
「でもあいつは、アクセルとエーレンと同じように、たった一つの頂点と向き合ってるんだな」
「あぁ」
「笑える」
「だが、もとを辿ればすべて、オーランドの血に巻き込まれてはいるさ」

そして、
ツヴァイは、
一歩。
たった一歩だけ、
ルアス城の方向へ足を踏み出す。

「さぁ、行こうか。地獄の前の同窓会に」
「あぁ、釣りはいらねぇ。とっときな」

































「いらないモノを投げ入れろ〜そこのカゴに投げ入れろ〜♪」

調理場に、
鼻歌が響く。

「空の瓶から書けない鉛筆 しけた吸殻 鳴かない番犬
 おっと、お前の横の無口な男 騒げぬそいつも入れちまえ〜♪」

ジュージューと、
フライパンで料理が進化の悲鳴をあげる中、
熱気にまざる、
彼女の歌。

「いらないモノを投げ入れろ 目に入りゃとりあえず投げちまえ〜
 いらないもうないか?手に持つジョッキも空けちまえ〜♪」

上機嫌に響く、
彼女の歌声。
リズムに合わせるように、
フライパンが器用に返され、
料理が熱のダンスフロアで踊った。

「もう投げるものがないだって?おいおいお前は節穴か♪
 近くに一つ残ってる 探せばすぐに見つかるだろ
 お前自身は必要か? 悩むなら自ら身を投げろ〜♪」

上機嫌な鼻歌に、
踊る料理。
焼けるいい匂いがさらに漂ってくると、
彼女の機嫌はさらにあがり、
手に持つフライパンにも、
歌にも、
自然と機嫌がうつる。

「まだまだカゴは腹ペコだ 入れても入れても隙間はあるぞ〜
 詰め込めカゴは壊れない 叩けど殴れど壊れない
 中身はいらないモノだけだ 必要なのは一つだけ
 ゴミを詰め込むこのカゴだ 世界で一番堅いカぁ〜ゴ・・・っと♪」

その、
99番街で知らないものはいない、
99番街(ゴミ箱)を表すその歌の終わりと同時に、
彼女は火を止め、
フライパンの皿から白く広い皿へと、
料理を移動させる。

「はぁ〜ぃおまたぁ♪」

その皿を片手で支え、
詩人の赤いドレスをクルクルと回し、
フィギュアスケートのように調理場から、
彼女は出てきた。

「これでラストよ♪ミディアムレアに焼いた龍肉に、すっぱいりんごの風味をまぶしたの。
 甘みはないけど、龍肉の脂を引き立てた豪勢ジューシーなステーキよ♪
 ん〜・・・名前どうしよっかな?よし!名付けて"素敵ドロイカンステーキ"よ!」

それを彼女達の前。
テーブルにドカッと一皿置き、

「そしてシャークスープ。体力も気力も魔力も精力も付くわよ♪」

そして並ぶ料理。
最後のその料理を置いて、
豪勢に彩られるテーブルの上。
フルコースという言葉を考えなくても使ってしまう、
その色とりどりのメニュー。

「さぁ、死ぬほど召し上がれ♪」

そう言い、
パチンと両手の指を鳴らして、
赤いドレスをなびかせ、
一回転。

彼女は自信ありげにポーズをとった。





             《MD(メジャードリーム)》所属

             『Queen B』

              シャル=マリナ


「熱いうちに食べちゃってね♪」
「と、当然!」

慌てるように、
テーブルに座っていた女は、
ナイフとフォークを二刀流に、
ステーキへと手を伸ばす。

「む?む?」

カタカタと、
ヘタクソにフォークを動かす彼女。
ナイフは自己流とはいえ鮮やかに肉を切り裂いたが、
フォークはあまりにおぼつかない。

「う・・・・」

あまりにフォークの扱いが下手で、
ステーキのソースが飛び散ってしまった。
まぁ、
それも予想していたことで、
彼女はあらかじめ胸の上に恰好と似つかわしくない紙エプロンを乗せていたので問題ない。

「あーあー、もー。何やってんの?」
「す、すまぬマリナ殿・・・・拙者・・・不器用で・・・」

ショボン・・・と、
落ち込む女侍。

「そんな無理しなくても、ほら、あんた用にちゃんと用意してあったでしょ?」
「ん?・・・おぉ!」

彼女の目の前。
よく見ると、
割り箸が置いてあった。

「不覚!マリナ殿の気遣いに気付けぬとは!一生の不覚!
 かたじけない!拙者、道具は刃物しか使えぬが、ハシならばまだ・・・」
「普通はオハシのが難しいはずなんだけどね」

呆れるように、
マリナはため息混じりに笑った。

「とぅ!」

そして勢いよく割り箸を割る。

「・・・・・不覚」

割り箸を割るのに失敗した。
2:8くらいの割合で割れてる。

「マリナ殿・・・もう一本」
「いいわよ。料理は食べるだけのもの。お残し以外は文句つけないのが私のポリシーよ」
「かたじけない!」

文句はつけない。
まぁたしかに、
彼女の料理に対する姿勢は少し行儀悪い。

椅子にもうまく座れないのか、
椅子の上であぐらをかいて座り、
焼酎を傍らに、
やっと割れたオハシを武器のように構える。

「とぉ!」

そして、
まるで武士と武士が入り乱れる一瞬のように、
ハシと肉が交差し、
肉は彼女の口へと飛び込む。

「う!!」

彼女は目を見開き、
ハシを置いて、
両手を合わせた。

「お手並み!お見事なりマリナ殿!」

そう、
彼女は頭を下げた。


       《MD(メジャードリーム)》所属
        シシドウ血族

        『人斬りオロチ』

        シシドウ=イスカ


「何度、何時、いつの場所でどう食べようとも、マリナ殿の料理は絶品だ」
「嬉しい事言ってくれるじゃない♪」
「こう・・・なんというか・・・・なんとも言葉にできぬほど美味しいのだ」
「言葉にしてよ」
「そうだな。うむ・・・なんというか・・・こう・・・口の中で広がるように・・・・なんとも言葉にできぬほどに」
「美味しいんでしょ?」
「うむ」
「それでそれで?」
「うむ。そしてまさにこう・・・なんというか・・・・」
「言葉にできぬほどに?」
「美味い」
「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」
「・・・・・不甲斐ない・・・・拙者・・・不器用で・・・・」

あまりの自分の言語表現能力の無さに、
侍はまた萎んだ。

「まぁ確かに・・・・」

と、
もう一人。
食卓を囲む女性が、
口を開く。

「味の方はまずまず・・・・」
「あら素直じゃないのね」
「・・・・うるさいこのアマ。料理を出す方が口を出すな。お呼びじゃないよ!」
「別にそんなルールないでしょ?」
「そうだ!ここはマリナ殿の店だぞ!」
「うちはその客だからね」

と、
彼女はまた違う皿へとフォークを伸ばす。

「ま。確かに実際美味いとは言ってあげてもいいけどね」
「誰様よ。大体あんた、客ったってタダでご馳走してあげてんだから偉そうにしないでよ」
「そうだ!ここはマリナ殿の店だぞ!」
「お呼びじゃないよ。お呼びじゃないけど来てあげたんだから粋な計らいだと思って欲しいね」

と、
ボブカットに切りそろえた黒髪の彼女は、
いやらしく笑った。

「大体うちはアマ。あんたに用があって来たんじゃなくてイスカ嬢に用があってきたんだよ」
「あーらそうね。私としてもあんたに用はないわ。あんたが勝手にお呼びでないのに来たんだもんね」
「そうだ!ここはマリナ殿の店だぞ!」
「イスカ嬢・・・あんたはテープレコーダーかい?」
「ふむ?聞きなれない言葉だが、なんだか"でじたる"な気分になったぞ」

超アナログ人間のイスカにとったら、
横文字はそれだけで意味不明かつ凄そうに聞こえるようだ。

「まぁまぁ、アマとはともかく、イスカ嬢。うちはあんたとはケンカしに来たんじゃないからね。
 同じシシドウ同士。それでいてサラシ仲間として腹ならぬ胸(心)を割って話そうってことで」

そう、
スーツの上着から見える、
胸のサラシを親指で突き刺して、
スーツのエージェント姿の彼女は言った。

「ふむ?割らんでも拙者はいつも割れておるが」
「・・・・う・・・・」

不覚にも自分とイスカを比較してしまい、
彼女はスーツを前で覆って顔を真っ赤にした。

「わ、割れてるのがそんなに偉いのか!お呼びじゃないよ!」
「お主が言ったのであろう・・・・」
「フフッ・・・」

マリナがニヤニヤと笑い、
彼女の耳元でささやく。

「便利そーね。今度お洗濯に使わせてもらおうかしら」
「う、うるさいこのアマッ!!お呼びじゃないよ!!」


      《昇竜会》マスター(組長)

      『死造りの燕竜(ヤンロン)』

      ツバメ=シシドウ

「戦う女に体などどうでもいいだよ!家庭的な部分もいらん!世の中は義理と人情だ!」
「あら。いい男はきっと顔じゃなくて私の中身を見てくれる・・・
 なぁーんて言ってるビッチみたいな事を言うのね。女は磨いてなんぼよ」
「拙者は女などとうに捨てたがな」

と、
黙々とハシを進めるイスカ。

「で、拙者に話があったのでは?」
「あ、う、うん・・・」

無理矢理自分を落ち着かせようと、
一度咳払いをし、
ツバメは椅子に座りなおした。

「何度も言ってるから分かるだろうけど、イスカ嬢。シシドウについてだよ」
「何度も言っておるから分かるだろうが、拙者はシシドウなど関係ない」

落ち着いた様子で、
イスカは食を進めながら返す。
落ち着いているのは、
それが本心だからだ。

「シシドウ。53部隊。ジョーカーズ。難しくて拙者には分からんな」
「あんたはそれでもシシドウなんだよ?」
「拙者不器用でな。物分りは悪いほうだ」

そう、
鋭い目つきで、
イスカはツバメを見る。

「拙者は《MD》のイスカ。それ以上でもそれ以下でもない。
 昔の自分も捨てた。もう拙者はアスカではない。マリナ殿のくれた名がある。
 アスカの次のイスカ。飛鳥(アスカ)はイスカという鳥にして大空を知った」
「過去を捨てた?捨てるもんじゃないさ」

ツバメは返す。

「うちに兄貴は言ってた。"後ろを振り向け"・・・・とね。
 今しか見てない。今が楽しければ。それは学生だけが言う血迷いごとだよ。
 お呼びじゃない。あんたは過去を踏みしめて未来へ続く"道"を進む勇気がないんだよ」
「その道が極道というなら分からんな」
「うちの道は真っ直ぐだ」

ツバメは、
真っ直ぐ目の前のイスカを見て、
それでも、
まるで背後に意識があるような、
そんな雰囲気をかもし出していた。

「お兄ちゃんを含めたシシドウとしての血。うちはそれを踏み台して生きてしまった。
 それに、リュウの親っさんの心意気。いや、心粋。それを胸にしまい、
 それを大事に受け継いだトラジの野郎から、うちはさらにそれを受け継いだ」

木は伸びる。
上へ上へ、
高く、
太く。
天へ登る。

「うちは真っ直ぐただ筋の通った一本道を通ってきた。それがうちの道だから。
 だけどその真っ直ぐの道を振り向けば、失った大事なものが見える。
 真っ直ぐだから、真っ直ぐすぎるからいつまでも見えてしまう。いや、見なきゃいけない」

後ろを、
見ろ。
背後を、
乗り越えろ。

「死んだ翼は、翼は背中に生えるものだと知っても、それでも空を目指した。
 木造りの鯉は極道を滝登り、滝という文字通り、空翔ける竜になった。
 盲目の虎は、道を見失っても、それでも虎は竜に憧れて天を目指した。
 だから、燕も空へ飛び出すよ。うちは燕の翼を持つ、燕竜(ヤンロン)になる」
「・・・・・・」

イスカは、
何を思ってか、
黙った。

「いーじゃない」

その緊迫した言葉に、
横槍を入れるのは、
マリナ。

「ツバメ。あんたは知らないでしょうが。ココはそういうところなのよ」

と、
自分の店の地面。
いや、
この場所を指し示す。

「99番街はね、世界の最果て。称されるがままの"ゴミ箱"なのよ。
 過去に迷い、過去を捨て、過去を失った人が捨てられたように自ら身を投げる場所。
 《MD》はゴミ箱生まれが5人、辿りついてしまった流れ者が5人。
 イスカも私も後者。過去を捨てて、新しい人生を歩むためにここに居るの」
「アマ。あんたは過去に未練はないのか?」
「・・・・・」

そういわれると、
言葉はない。
マリン。
唯一の妹。
マリン。
置き去りにして、
自分だけ自由になって、
哀しい思いをさせた妹。

それでも自分は今と前を見ている。

「あんたもだ。イスカ嬢。シシドウを捨てた?まだ"名乗っている"のに?」
「む?」
「あんたの親父さんはシシドウを真っ当した。それをも捨てるのかい?」
「・・・・・・」
「それでもあんたは暖かい血を受け継いでる。義理でもない人情が。そうだろ?」

ツバメの言葉は核心をつく。
揺るがない。
本当に忘れてしまっていいのか?
どうなんだ・・・と。

「拙者不器用でな」

だが、
それでも揺るがないのは、
イスカの方だった。

「お主の道。それは分からんでもない。考えれば、拙者も不器用に真っ直ぐ進んでいるだけだ。
 斬るための剣が、守るための剣になった。それだけで、我武者羅に、我、侍にと真っ直ぐ」

イスカは、
着物の内側から手を伸ばし、
焼酎のとっくりに手を伸ばす。

「だが、ここに来て学んだ事がある。拙者にも凄く分かりやすかった」

それを、
口に運び、
そしてとっくりを置く。

「ただ、目の前。保証の無い未来に目をくれずとも、目の前だけ見れば前には進める。
 過去が足を引っ張ろうとも、目の前に壁が出来ようとも、そのたび乗り越えればいい。
 そんな無能な人生の歩み方しか拙者にはできんよ。・・・フッ・・・・不器用でな」

イスカは目を瞑るように笑った。
同意し、
マリナも笑って頷いた。


・・・。
だが、
引きずる過去は多すぎて。
目は背けられない。

それでも見たいのは前だけで。


































「なぁーんか緊迫してるなぁ・・・・」

マリナ達が話す中、
入り口から顔だけ覗き込む一つの影。

「女性の会話には勝てないですからね・・・・居ないようですしコッソリ退散」

そう思い、
Queen Bに入るのをやめ、
図書館の管理人のようなのほほんとしたマヌケヅラの男は、
店の表から小走りに退散した。

「んじゃぁこっちかな」

店を回りこむように、
彼は走る。
そして店の裏の、
樽や小箱の並んでいるところへたどり着くと、
それらに足をかけ、

「んっ・・・しょと」

そのまま、
店の屋根に登った。

「あ、やっぱ居ましたね」
「あん?」

店の屋根の上に登ると、
一人の男が、
そこに寝転がっていた。

サッパリとした、
裏の腹黒を出さない騎士は、
屋根の上を歩み、

そして、
アクセサリーに身を纏ったまま寝転がるその盗賊の横に座った。

「探しましたよドジャーさん」
「これはこれはアレックスさんってか?やめてくれ。
 なんで分かった。テレパシーとか言うのやめてくれよ気色悪い」
「テレパシーです」
「・・・・あえて言うお前の性格が一番気色悪ぃぜ」

屋根の上。
アレックスとドジャー。
二人は同じ方を見ていた。

ドジャーは寝転がり、
アレックスは座り、

そして視界の先には、
この世界の果て。
ルアスのゴミ箱の街からでも見える、
巨大な城。

「一人になりなかったですか?」
「・・・・カッ、まぁな」
「だからこそ来ました」
「最低だな。男心分かってねぇよ」
「そうですね。下心は常備してるんですが」
「カッ・・・・」

ドジャーは寝転んだまま苦笑した。

「初めてお前とあった時も、この街だった。
 その時はただの平和ボケかと思ってたが、こぉんな裏だらけの奴だったとはな」
「奇遇ですね。僕もドジャーさんと初めて会ったのはこの街でした」
「そりゃそうだ」
「僕はですね、初めてドジャーさんを見たときは器の小さいヤンキー盗賊だと思いました」
「カッ」
「正解でした」
「黙れ」

少し、
屋根の上で沈黙は続く。
居心地は悪くない。

「・・・・俺は99番街生まれ、99番街育ちなわけよ」
「はい」
「最初に会ったのはメッツ。どっかの街から捨てられたガキだった。
 それからジャスティンとチェスターとレイズとエクスポに会って、
 マリナとイスカとロッキーが流れてきて、・・・・最後にお前が落ちこぼれてきた」
「間違いです。僕はもとから落ちこぼれてます」
「カカッ」

ドジャーは寝転んだまま笑った。

「・・・・」

そしてやはり少し沈黙は間に入る。

「だが、そっから3人消えた」
「・・・・・」
「俺達の戦いを考えれば少ないくらいなのかもしれねぇ。
 それでも、絶対になくなるはずのないものだと思ってたもんが消えたんだ。
 ・・・・・俺はこの街しか知らねぇ。だから、そこから何かがなくなるとは思わなかった」
「・・・・・」

アレックスは、
黙って聞いた。
当然、
ドジャーも、
アレックスも、
二人とも顔を見合わせたりしない。
ただ、
同じ方を見ていた。

「もう数日たった。たったけどよぉ。それでも忘れられねぇ」
「ジャスティンさん・・・ですね」
「あぁ」

仲間を、
また一人。

「違うんだ」
「へ?」
「俺はよぉ、全員が大事でな。それでいてその他なんてどーでもいいんだ。
 俺らに関係なければ黙って勝手に死んじまえ。それくらいに思ってた。
 唯一だから、同じくらいに大事に・・・・とは思ってたんだ」
「・・・・・」
「だけど、ジャスティンは結構クルもんがあってよ」

顔を見せ合ってるわけでもないのに、
ドジャーは寝転んだまま、
少し顔をそむけた。

「俺と・・・メッツとジャスティンは3人組みてぇなもんだった。
 それが《MD》として9人組になって、そして10人になったが、
 それでも、最初から最後まで一緒なのは、やっぱり俺ら3人だった」
「・・・・・・・」
「ハッキリ言って、情けねぇことに、相当キテる」

そういうドジャー。
だから、
やはりあえてドジャーの顔は見なかった。

「ジャスティンはよぉ、俺ら3人でいつも行動してたのに、いつも一歩ひいていた。
 俺とメッツの無茶を後ろで監視してるように、ただ関係が壊れるのを怖がるように」
「分かりますよ。ジャスティンさんは誰よりも自分を犠牲にしてました」
「だがそれに気付いてやるのは遅すぎた。6年前、ジャスティンは一回壊れた。
 そのせいで、自分が本当に必要なのか?と、《MD》を一度去った」
「GUN’Sに・・・ですね」
「あぁ」

ドジャーは、
自分の両手をまくらに、
寝転んだまま。

「でもやっぱりあいつはあいつだった。だから少し戻るが・・・・
 レイズとチェスターには悪いが、ジャスティンを失った事の方が俺にはデカかった」

そう感じている自分にも嫌悪し、
だけど、
やはり、
やはりそれが大事なものだったと気付き、
嘆いている。

「俺は失わないために戦ってきたのによぉ、また失った」
「すいません」
「なんでてめぇが謝る。今は俺の感傷モードの愚痴を聞く場面だ」
「巻き込んだのは・・・僕です」

アレックスは、
少し俯く。

「《MD》は世界と関係なかった。だけど、僕が混じったせいで、巻き込んだ」

自分が、
世界を戦争に巻き込む。
こんな、
逃げてばかりの、
裏切りのアレックスが、
人を戦いに巻き込む。

「前に聞いた」
「はい」
「気にするなっつったろ」
「はい。少し感傷モードに同席しただけです」
「そうか」
「でも、本音で現実だから口に出さずにはいられない」

本当に、
自分は正しい道を選んだのか?

「なら出会わなければよかったのか?」
「・・・・・」
「そういうこったろ」

ドジャーは小さく笑ったような気がした。
見ていないので真実は分からない。

「俺もそうだ。ジャスティンを失うくらいなら、出会わなければよかったのか?
 そう考えるとそうじゃねぇ。ただ世知辛かっただけだ」

ただ、
やりきれないだけ。

「ジャスティンさんの言葉を借りるなら、ハローとグッバイ。ですかね」
「だが、"また会おう"だからこそのハローとグッバイだ」
「フレンド(Friend)のつづりは、endで終わる・・・とも言ってました」
「それだきゃバカバカしいさ」

真実だが、
虚像だ。

「ENDもANDも同じだ。だからネヴァーエンド」
「終と&は同じものですか」
「・・・・エンドでアンド。カカッ、知ってるか?《MD》ってのはジャスティンが付けたんだけどよぉ」
「はいメジャードリーム。クソッタレの逆襲でしょ?」
「おう。だがその前にメッツが言い出したのはメッツ&ドジャーでMDだ」
「センスないですね」
「あぁ」

顔は見てないが、
間違いなく、
ドジャーは今笑ってると思う。

「アレックスとドジャー」
「はい?」
「AとDだ。AnD。&であり、エンドだ」
「アハハ、意味は?」
「フレンド(Friend)のつづりの通り、最後(end)まで・・・かな」
「気持ち悪くなりました」
「奇遇だな。俺もだ」

二人同時に、
舌を出し自虐的に笑った。

「・・・・・・あいつらは気持ちを切り替えてる頃だろう」
「皆さんですか?」
「ジャスティンの死にまだクヨクヨしてんのは俺くらいのもんだ。
 そりゃそうだ。それ以上にもう、目の前には戦わなきゃいけねぇもんが迫ってる」
「引きずるのは悪いことではありません。悩むのは後でもできる。
 そんなのは詭弁です。哀しみを後回しにするなんて、そんな愚かな人は僕が認めません」
「・・・・・」
「でも戦わなくちゃいけない」
「世知辛ぇな」
「甘く生きたいもんですけどね」

ダラダラ、
平和に、
無干渉かつ無感傷に。
それが、
一番なのに。

「でも、なら止めなくちゃいけねぇよな。もう失うわけにはいかねぇ」
「はい」
「アレックス。俺の話ばっかだったが、てめぇはどうだ?」
「何がです?」
「お前は王国騎士団だろ。噂ではお前以外の部隊長、全てが敵だ」
「・・・・・・」

生き残った部隊長も、
死んだ部隊長も、
生き残った仲間も、
死んだ仲間も、
全て、
敵。

なのに、

なんで自分はここにいる。

その全てを裏切ってまで。

「・・・・さぁ?」
「あん?」
「とりあえず、哀しむべき場面にまだ遭遇してませんから。
 つらい事にはなるでしょうけど、それはその場面にはち合ってから向き合います」
「後回しか。人間として最悪だな」
「はい。考えたくありませんから」
「それでいいさ。なんだって無理矢理ネガティブと向き合わなくちゃいけねぇんだ」

そして、

「よっと」

ドジャーは勢いよく振り子のように足の反動で、
立ち上がった。

「なんにしろ、やらなきゃ終わらねぇ。失うことさえ終わらない」
「はい。どちらの願う終焉になるか分かりませんが、終焉を始めなければいけません」
「カカッ、なかなかどうして。俺の人生がこうなるとは思ってなかった」
「・・・・・」
「ゴミクズの住人が、世界をぶっ壊すことになるとはよ」

そこで、
初めて、
ドジャーがアレックスを見た。

「今更無関係者お断り・・・なんてこたぁねぇよな」
「はい。無関係じゃありませんから」
「そうだな。"世界で唯一の関係者"に巻き込まれたんだからよぉ」
「はい」

アレックスは、
ドジャーとは逆に、
顔をまだ見なかった。

「ドジャーさん」
「あん?」

だが、
願うように。
見上げた。

「僕を、助けてください」
「当然」

返ってくると、
分かっていた言葉で、
アレックスはやっと顔を見た。
そして立ち上がった。

「アハハ、じゃぁちょっと利用させてもらいますよ」
「おーよ」

アレックスは右腕を、
ドジャーは左腕を、
お互いぶつけた。


「じゃぁちょっくら」
「世界でも守ってやりますか」








                   元王国騎士団 第16番・医療部隊・部隊長
                   現《MD(メジャードリーム)》メンバー

                     『カクテル・ナイト』

                     アレックス=オーランド



       《MD(メジャードリーム)》マスター

         『人見知り知らず』

         ロス・A=ドジャー








「うわっ、」
「おっと」

突然、
地面が、

・・・というか、
店が揺れた気がした。

「なんだ?」

アレックスとドジャーは、
顔を見合わせると同時、
屋根から飛び降り、

Queen Bの正面に降り立った。

「うわ・・・」
「ありゃ・・・」

Queen Bには、
ドアがなかった。
客をもてなすはずのドアは、
そこに無く、
来客を奏でるベルが地面で鳴いていた。

「おいおい・・・・」

そのドアはというと・・・・
どうやってどうなったのか。

蹴り飛ばしたとでもいうのか?
店の最奥まで吹っ飛び、
酒の並んでいるカウンターに張り付けになっていた。


だが、
騒ぎは起きない。
店の中に居る、
マリナさえ、
言葉を発しない。

店をこんな風に扱われれば、
たとえ世界の誰が来ようとも怒り狂うマリナのはずだが、
言葉をあげない。


「久しぶりに邪魔するよ」


その、
張本人は、
外にいるアレックスとドジャーにも気付かず、
中へと入って行く。


「あぁー、ごめんごめんマリナ。悪かった。うん。いーよ。そうか。
 ってドジャーとメッツはいないのかい。まったく。わざわざ来てやったってのに」

「こ、こっちだ」

「お?おーおー」

張本人は振り向き、
外に居るドジャーへ駆け寄る。

「見ないうちにデカくなりやがってこの!」

「あで!」

蹴飛ばされるが、
当たり前のようにドジャーは文句を言わない。

「人は成長するもんだねぇ、んー。あたしが育てただけはあるわ」

と、
次から次へと休みなしの行動。
ドジャーを子供のように胸に抱きよせ。

「・・・・・・ジャスティンが死んだってね」

「・・・・・・・」

ドジャーは、
彼女の胸の中で、
返事をしなかった。
だが彼女の鼓動が暖かかった。

「わぁーってるよ。悪ガキ坊's。しゃぁーないから今回だけは面倒みてやる。心配すんな。
 あぁー、マリナ。酒。酒もってきて。あるだけね。美味しいのから順番に!あと御飯!」

ドジャーを放り捨てるようにし、
彼女は店の中に。
マリナはというと、
慌てて「りょ、了解!」とだけ叫び、
厨房へ入っていった。

「・・・・・なんで」

ドジャーが聞くと、
彼女はは振り向かず、
テーブルの方へ歩んでいった。

「なんで?まぁそりゃ愛する悪ガキ坊'sに手を出されちゃね。それに」

粗末に椅子に座りこみ、
彼女はニカッと笑った。

「終焉って名の同窓会があるって聞いてね。
 死んだあいつらがお呼ばれしてんなら、死んだあたしも呼ばれてやんなきゃ」

「手を貸してくれるのか・・・・ティル姉」

「面倒を見てやんだよ。保護者として・・・ね♪」






               元王国騎士団養成学校 黄金世代同期

               『タバコを咥えたウェディングドレス』


                ティンカーベル=ブルー&バード














役者は揃い、

あとは減るだけ。

根こそぎに。
根絶やしに。

そして終わらない終焉のために。

あとは減るだけ。

ステージに揃った役者は、
退場するのみ。
ただそれだけ。

そして、
物語を終えるならば、
そこにルールはない。

誰が死に、
誰が生き、

それは誰にも当てはまらないルールで、
誰にも当てはまるルールで、

根こそぎ、
根絶やし、
終わりのルールは全てに平等に。

それが世界の終わり。



Sと、
Oと、
Aと、
D。





"System Of A Down(世界終焉)"



さぁ、
終焉を始めよう。












                 






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