突然だが、

マイソシア。
この世界における"銃"の需要について話したい。

大した話ではない。
ただ・・・銃。
呼び方は多々あるが、
人間が生み出したその兵器とも言える発明。

大人だろうが、
年老いた者だろうが、
まだ幼き子供だろうが、

引き金(トリガー)を引く。
それだけ。
それだけで、

大人だろうが、
年老いた者だろうが、
まだ幼き子供だろうが・・・・・

死ぬ。

銃とはそーいうもので、、
それ以上でもなくそれ以下でもない。
"スイッチ一つで人が死ぬもの"
"数センチの鉄の塊で人生を終わらせるマシーン"
"猿でも出来る下克上"
人差し指さえあれば、
1ページの説明書であなたも死体製造魔術が使えます。

扱う者の力なくとも、
そして悪意さえなくとも、
簡単に目の前の人間が死んでしまうもの。
悪魔のような"お手軽"殺人兵器。

それが銃だ。

まぁ扱っている者からすれば、
「そんな単純じゃねぇーよ」と口を挟まれるかもしれないが、
それでも、
だとしても、
銃とはそういうものだ。

そーいうもので、
それ以上でもそれ以下でもない。


話に戻る。

マイソシア。
この世界。
しかし、
それでも、
なのに、
この世界の中で・・・・

"銃を扱うものは極少数だ"

何故?
簡単なのに。
扱いに慣れるにしても、
剣で人を殺せるようになるより、
魔法で人を殺せるようになるより、
圧倒的に簡単なのに。

まぁ、
答え自体も簡単だ。

ただ剣や魔法といった技術が発展しているからに過ぎない。

武具の修行。
魔術の修行。
それが一般的。
そしてそれは世界の人々に自動的に、
そして自然的に、
ある一つの思惑も持たせる。

"銃など信用できない"

銃を持っても、
殺すのは扱う人間自体の信念だ。
だが、
それとは別に弾は飛ぶ。
自分どうこうを抜きに、
撃鉄は起こり、ギミックは稼動し、弾が飛ぶ。

信用できないのだ。

マイソシアの人間にとって、
真に信用できるのは己だ。

学びに学び、
身に体に染み付いた剣術。
修行を重ね、
自信に繋がった魔術。
汗水を詰み、
体が覚えた武術。

体に、自分自身の戦闘術が染み込んでいる。
そしてそれは・・・

何よりも信用できる最高の相棒(パートナー)だ。

例え一瞬の何かで死ぬかもしれない戦闘の中でも、
一番理解でき、
一番信用できるものだ。

だが、
戦闘。
死の淵。
人生の局面に置いて、
"モノ"にそれを委ねるのは馬鹿げている。
誤爆するかもしれない。
弾が切れるかもしれない。
狙いを付けても、その通り飛ばないかもしれない。
絶対的な局面で弾詰まり(ジャム)るかもしれない。
そして、
銃は銃の威力しかない。
変化や個性、工夫も入れられない。
成長しない。

どれだけ自分が修行したところで、
最終的に銃自体に"それ"が左右されてしまう。

剣術、
武術、
聖術、
魔術。
それらが発達した、
死と戦闘が隣り合わせの世界で、
銃など愚劣。
術などない。
成長などなく、
自分自身の力と何一つ直結していいない。

"あくまで別のもの"
それがマイソシアの住人にとって最悪に壁なのである。

簡単にお手軽に人を殺せる最凶兵器。
それは、
何よりも劣る低俗な攻撃方法でしかないのだ。


だが、

でも、

エンツォ。
『036(ゼロスリーシックス)』と呼ばれる、
世界最速。
エンツォ=バレットは・・・・・・・武器の一つに銃を選んだ。

理由。
これだけの前置きの後、
理由は至極明確に単純で適当なものだ。
それは、

"そんなもんどうでもいいから"

一つだけ訂正すると、
銃など、エンツォの武器でさえないかもしれない。
彼の武器。
それは"最速なるその両足だけ"だ。
飛びぬけた才能。
それ。
それさえ100%使えればいい。
あとは・・・
誤差程度の0.05%くらいの力。
それで相手を倒せるなら万々歳なのだ。

速く。
誰よりも速く動き、
そしてその末、
指先一つで相手を倒せるならそれでいい。
それでいいのだ。


もう一度、
これだけ長い前置きの後、
結論を言うと、

銃などどうでもいい。
殺す手段などどうでもいい。

ただ彼には・・・


その両足(才能)さえあればそれでいい。



























『036(ゼロスリーシックス)』























「おっしゃぁあ!わいに続けやお前らぁ!!」

今日も駆ける。
エンツォ=バレットは、
今日も愛馬(エルモア)"シューティングスター"に跨り、
ルケシオンからルケシオンダンジョン。
その9割が砂浜で占める地。
砂を巻き上げ、
走っていた。

「おぅー!」
「あたぼうよ総長(ヘッド)!!」
「エンツォ総長(ヘッド)に遅れをとるなよ!」

先頭を走るエンツォに、
幾多の男達が群がり着いて行く。
エルモアをはじめ、
様々な守護動物に跨る男達。

「ヒャッホー!」
「風になるぜぇー!」
「どっけどけぇ!」
「《暴走☆流れ星》のお通りだ!!」

その奇抜で面白おかしいファッションはどこで手に入れたんだ?
鳥みたいな髪型や、
赤やら青やら、
真っ白に変な文字が書いてある特攻服やら。
チーム名を誇らしげに表記した旗を掲げ、
パラリラパラリラ、
パラリラパラリラ、
迷惑な音を打ち鳴らす男達。

「行くでぇお前ら!《暴走☆流れ星》の走り!全生物に見せつけたれや!」

「「「うぉおおーー!!」」」

いわゆる彼らは暴走族。
《暴走☆流れ星》。
ルケシオンだけに留まらず、マイソシアでもちょっと名の知れた珍走団だ。

「ヘッドォ!!」
「今日はどこまでぶっこんで行くんスか!?」
「ルケまでッスか?」
「海賊要塞くらいまでいっちゃいましょうぜ!」

「アホんだら!」

その頂点に。
いや、
その"先頭"に。
エンツォ=バレットは居た。

「わいに追いつけへんもんなんてない!追いつけへんなんてことはあり得ないんや!
 あの地平線の彼方でも!あの水平線の彼方でも!どこだってわいは辿り付ける!」

エンツォを先頭とする、
珍走団。
暴走族。
カミナリ族。
それが《暴走☆流れ星》

「風や・・・風になるんや。いや、風さえも置いてけぼりにしちゃるわ」

若かったんだろうな。
エンツォ自身も思う。
そんな暴走族という行動も、
そんな恥ずかしい言葉も、
誇りのようなものだった。

「一番になるんや。世界でいっちゃん速い男にな」

「ヘッドォ?」
「なんか言ったッスかぁー?」

「ん?じゃかしい!!お前らとっとと走れや!置いてくで!?」

そんなもんだ。
人から見りゃ、
「何やってんだあの馬鹿達は」
「楽しいのか?何考えてんだか」
と疑問に思われるだろう。
そうだな。
人から見れば暴走族とは、
そのまんま、
字の如く、
暴走しているに過ぎない。

「ノロマの言う事なんてほっときや」

それでよかった。
走る事が好きだった。
なんというか・・
走る事自体が好きだったわけじゃない。
自分の才能を誇示できるからだ。

「それに何か言う奴にわいらをどうにかできるんか?わいらを止めれるか?
 出来へんよな。つまりこの世の力は速さや。速い事が正。速い事は正義や」

お前らはこんなに速く走る事ができるか?
そして・・・
後ろを振り向けば慕うメンバーがいる。

「どこまでもついていきますぜ!アニキ!」
「ヘッドォ!」
「いつまでも俺らはヘッドを追いかけます!」

アニキ、
ヘッド、
と呼ぶ手下共がいる。
なんで?
なんで自分について来るのか。
簡単なことだ。
それは・・・・

"自分が一番、何よりも速いからだ"

ここに居る中で誰よりも速い。
だからついて来る。
追いつけないからついて来る。
いや、
いやいや、
抜けないから。
前を走れないから。
自分が一番速いから、
ついてくるしかないのだ。

「だからわいが一番なんや」

それは・・・
自分の才能だ。
このエンツォ=バレットの、
唯一無比。
最強・最速。

止める?
誰が出来る。
誰も自分には追いつけない。
手を伸ばす事など出来ない。
そうだな。
速い事・・・・・・・・・それは神と同じだ。
壮大なる力だ。
手の届かない空の上を飛ぶ神と同じ。

「わいは誰にも止められへん。何者にもや。誰がわいより速く走れる。
 わいの視界の前を走れる奴なんかいない。おらへんのや。
 わいが先頭や。全ての先頭や。全てはその後ろについてこればいい」

いつの間にか、
信頼する、信用する、
自分の最大の武器であるという確信になっていた。
速い。
それだけ。
修行もしていない。
鍛えてもいない。
体育選手は走りこみ、筋肉をつけるというが、
知らない。

「才能のないやつは速く走る訓練なんてしよるんかいな。
 そりゃぁえろうご苦労さん。速く走るだけで速く走れるのにな」

訓練。
それで持久力はつくだろう、
走るための筋力もつくだろう。
だが、
だがだ。
速さ。
それはやはり全てを還元していくと・・・・・・・才能の問題でしかなかった。
生まれ持った足の肉の質。
赤と白。
筋肉の質。
長距離?
短距離?
短距離は才能。
長距離は努力などときいたことがある。
だがエンツォに言わせれば、

「馬鹿馬鹿しい。つまりは長距離ってのは持久力やろ?速く走れるかやない。
 スピードを維持できるかって戦いや。それは速さと違う。我慢くらべや。
 走る競技。陸上。そういったもんはすでに"速い"って世界と微妙に違うもんなんや。
 だから言う。だからこそ言うで?・・・"速い"。それだけは訓練でどうこうなると思うなや」

絶対的才能。
才能。
速さ。
誰にもマネできない。
マネしたとして・・・
誰が自分のように速く走れるというのだ。

《暴走☆流れ星》の部下。
というかまぁ手下か?
子分?
まぁ、
その一人はエンツォに聞いた。
「どうやったら速く走れるのか」
「自分も速く走るにはどうしたらいいのか?」
「才能でダメなら、
 何かフォームを変えたりすればいいのか?」
そういったことを聞いた。

「フォーム?足の振りを高くとか、腕も鍛えると直結して速く走れる言うな。
 せやけどそんなもん誤差や。お前らの"工夫"なんて才能の前には誤差でしかない。
 悪いけどなぁ、足の遅い奴の話なんてとんと分からん。わいはもともと最速やからや。
 お前らが縮めようと思ってるタイム。その0.1秒やらのタイムの先。
 わいはもっと先で走ってる。見えない。音速の世界の中や」


いや、
ただ最強に速い足。

「見ろよヘッドの足」
「カモシカみてぇな足だ」

「アホか。そんなトロい生物と一緒にすんな。言い得て最悪ってやっちゃ。
 これはこの、エンツォ=バレットの才能や。わいの足。それ以上でもそれ以下でもないわ」

足の遅い奴が100万倍鍛えたら世界最速になれるかと言うと・・・・なれない。
寿命、
もし、
もしもだ、
1億年まで生きれる。
そんな人間がいたとしよう。
だからといって、
1億年走りこんだとしても、
最速にはなれないだろう。
・・・・。
才能の問題なのだ。
生まれ持った。
さずかった。
最強の才能なのだ。
それは・・・・
産まれた時決まっていたのだ。
修行するでもなく、
鍛えるでもなく、




エンツォ=バレットは、

最強の武器を装備していた。















思考の転換。
転機。
いや、
進化?
そんな日は前触れもなく、
そして普遍的に訪れた。









「だぁぁああああ痛ぁあああああ!!!」

ある日。
足を捻挫した。

「ざけんな!!笑い事やないで!!!」

理由?
まぁ話すのも恥ずかしい。
近くの酒場。
ルケシオンの酒場なのだが、
カッコつけて思いっきり入り口の扉を開けたのだ。
そしたまぁ、
勢いつけすぎて、
ドアがバウンドして戻ってきて、
そして勢い良くエンツォにぶつかった。
・・・・。
それだけでもカッコ悪いのに、
「ふざけんなやこのドア!わいを誰や思うてんねや!!!」
と、
蹴り飛ばしたら・・・・

捻挫した。

「まぁ軽い打ち身程度のもんです。一週間ほどだけ安静に」

医者はそう言った。
わざわざ医者まで行ったのか?・・・と言われそうだが、
エンツォにとって足は命。
才能で、
宝で、
誇りだ。
念のためだ。
そして・・・それのためだ。
しょうがない。
安静にしなければならない。

「しゃぁないな」

だが・・・
だが・・・
するとどうだ。

「おいおい聞いたかよ」
「あの《暴走☆流れ星》のマスター」
「ん?あのエンツォ=バレットか?」
「なんでも足を怪我したらしいぜ?」

まぁ偉そうに毎日走り回っていたから、
そんなものはすぐに広まった。
そして・・・
噂とは増徴するものだ。

「総長(ヘッド)のこときいたか?」
「足、"不治"らしいぜ」
「俺は折れてへしゃげたって聞いた」
「それじゃぁもう走れねぇじゃねぇか」

噂。
ただの噂だ。
だがそれはただ増徴していった。
世界最速。
エンツォ=バレット。
その最速は・・・・・走れなくなった・・・と。

「・・・・はん・・・」

一週間。
たった一週間だ。
捻挫。
ただの捻挫だ。
それでこのざまだ。

手下が皆、暴走族をやめると言い出したのだ。

「見てみぃ!ちゃんと直っとるやろ!」

「ほんとッスね・・・」
「あちゃぁ・・・早とちりだったな」
「噂って怖いッスね」

「アホんだらが!噂なんて気にせんと、ちゃんとわいの後ついてこいや!」

「「「ウィーーッス」」」

そんな簡単に解決したこと。
ひと時の思い出。
そんな過去の笑い話。
そんなもんだろう。

だが・・・
その出来事は、

エンツォの心に重い何かがのしかかった。



不安。
恐れ。
恐怖。

分かってしまったのだ。

才能?
神がくれた足?
人よりずば抜けた・・・最速の才能?
人より優れている?
・・・・。
違う。

自分には・・・・・"この足しかない"のだ。

後ろについてくるこの子分達も、
自分が速いから、
何よりも速いからついてきてるだけだ。
エルモアを乗り回し、
騒音鳴らしながらルケシオンを走れば、勝手に道は開く。
だが、
自分が松葉杖になったら別の話。
速い。
ただ、
最速の才能。
"それを持っていたから"
だから・・・・

"それ"が分かった。

誰もついてこない。
誰さえもついてこない。
自分が速い。
だからついてくる。
逆。
そうじゃなければ・・・
誰もついてこない。

"最速じゃなければ、誰もついてこない。誰も慕ってくれない"
"皆の目も冷ややかになる。ただのクズに落ちる"
"自分の存在意義は速いということだけだ"

誰も、
ヘッドなんて呼ばない。
恐れない。
後ろはガラ空き。

「・・・・・・」

足。
この足だけだ。

そのもとよりの役目どおり、
足というものの役目どおり、

自分を支えているのは足だけ。
自分を前に進めているのは足だけ。

これしかないのだ。

これが自分の全てだ。
これが自分の才能の100%だ。
無ければクズ。
ゴミも同然なのだ。

速い。
速いからこそ自分に意味がある。
それだけが自分の存在意義。

逆に・・・

"この足さえあれば何かをつかめる事も理解した"

手ではない。
掴むのはこの最速の足。
音速の足だ。

速ければ、人は恐れおおのく。
速ければ、自分に道を開ける。
速ければ、誰にも止められない。
速ければ、誰も触れる事さえできない。
速ければ、どんな攻撃も当たらない。
速ければ、どんな攻撃も当てることができる。
速ければ、それだけで魅力。
速ければ、こいつらがついてくる。
速ければ、いつも先頭は自分。
速ければ、他のものは皆背後。
速ければ、速ければ誰にも追いつかれない。
速ければ、それだけでトップにいられる。
速いことは力だ。
速いことは強さだ。
速いことは権力だ。
速いことは正義だ。
速いことは無敵だ。

速ければ・・・・・
誰よりも速く走れば・・・・
誰よりも前を走れば・・・・

後ろを振り向く必要はない。


エンツォは決心した。


「わいは・・・誰よりも速く。いつまでも速く・・・・そうして誰よりも前にいたる!
 全てをこの足にたくす!そしてわいの力を証明したる!速いことは正義や!」










そしてエンツォは、
子分を従え、

世界最大のギルド
《GUN'S Revolver》の門を叩いた。



世界最大の中の、
世界最高に、
世界最速として、

この才能で何もかもを掴むために。


ついて来るといった奴は、
十数人程度だった。
もともと以前、
王国騎士団に一斉検挙されたため、
《暴走☆流れ星》のメンバーは大幅に減っていた。
転機には調度いい時だったというのもある。

そして、
ついてこれる者だけついてこればいい。

さぁ、

まずは軽く、
世界最大ギルドの最大。
選ばれた6発の弾丸。
六銃士(リヴォルバーナンバー)にでもなるか。


























「ふざけないでいただきたいです」
「そうだよ!スズちゃんもご立腹!!」

さすがに、
まぁ当然としてだ。
六銃士(リヴォルバーナンバー)などという、
GUN'Sをまとめる者達といきなり対することはできなかった。

「あなたの要望は却下です」
「残念だね!新人君!」

エンツォに話しを聞く相手は、
そこそこ地位の高いGUN'Sの女二人。
名を、
ベラドンナとスズランと言っていた。
ハープを持った清楚な黒い長髪の女と、
小生意気で馬鹿そうな女の二人組だ。

「なんでや!?」

「なんでもいわれましてもですね」
「いきなり六銃士にしろなんて無理に決まってるじゃん!
 ばーかばーか!ねぇベラドンナちゃん!あり得ないよね!」
「ありえませんね」

「くっ・・・」

エンツォは舌打ちする。
確かに都合のいい話だとも思うが、
自分にはそれだけの才能があると思った。
最強の能力。
最速の能力。
それさえあれば、世界最強ギルドの頂点にいけるのは当然だ。

「あんな!あんま回り道したないねん!どーせいつかわいが六銃士になるんやし、
 それなら早目に手ぇうっておいたほうが組織的には楽なんとちゃいまっか?」

「そう見栄を張りたがるもの・・・そして自分の力量が分かっていないもの・・・
 来る者拒まずのGUN'Sではそういった者もよくこられるのです」
「スズちゃん的にはうざぁーい!」
「だからこうしてわたくしベラドンナと・・・・」
「スズちゃんみたいなのが相手してるんだよ!」
「六銃士には貴方如きが拝見できる方々ではないのです」

「じゃかしいわ!ならどないしたら認められるんや!?」

「序列というものもあるのですよ。わたくしとて、音楽を愛しております」

「はぁ!?何の話や!脳みそトチ狂っとんとちゃうか?」

「わたくしとて、このギルドで権力を得て・・・・そして世界に音楽を広めたい」

ベラドンナという長い黒髪の女は、
両手を広げたと思うと、
目を閉じ、
両手を胸に当てた。

「あぁ・・・音楽には何もかもの垣根がない・・・どこまでも届く桃源郷・・・
 音楽はなんと素晴らしいのでしょう・・・人から人へ・・・顔も知らないあなたのもとへ・・・
 伝えてほしい・・・伝わって欲しい・・・・届いて欲しい・・・
 どこまでも届けこの思い(音楽)・・・・君にも届け・・・この思い(音楽)・・・・・」

「っさいゆーとんねん!!」

エンツォが叫ぶ。

「あんさんの夢やら想いなんてどうでもえーっちゅーねん!
 ええか?わいは上へ行きたいんや!前へ行きたいんや!
 この最速の足でただわいの力を証明したいんや!」

「あー、ベラドンナちゃんいじめたー。スズちゃんそーいうの許せないぞ!」

「うるさいゆーとんやろ!」

スズランはむくー・・と顔をふくらました。
それを無視し、
エンツォは・・・

「ならええ・・・・」

背中からライフルを取り出した。

「つまり、あんさんら・・・いや、邪魔なやつ全部ぶっ倒して上へあがりゃええねんな」

「「・・・・」」

ベラドンナはじっと無表情を装っていたが、
スズランはダガーを取り出し、
そしてコポコポとそのダガーに毒を塗り始めた。
だが、

「やめときやお嬢ちゃん」

「わわっ!?」

瞬時。
いつの間に。
スズランの背後にエンツォは回りこんでいた。
見えなかった。
何も。
いつ動いた?
どう動いた?
一瞬で、
刹那に、
最速で動き、
エンツォはスズランの背後でライフルを突きつけていた。

「あんさんらにわいは殺れん。わいにこの足がある限り絶対にや。
 捉えられない、捕えられない才能。わいは絶対に殺されへん。
 やけど・・・逆はちゃうで。わいは簡単にあんさんらを倒せる」

「・・・・」
「うぐー・・・」

エンツォはニヤりと笑った。
これが差。
差だ。
決定的な差。
足。
速さ。
速さの差だ。
攻撃力とかそういうのは全部無駄な世界。
空を切る無駄な世界だ。
必要なのは・・・
速さだけだ。

「・・・・分かりました」

ベラドンナという女は、
長い黒髪を一度さっと撫で下ろし、
エンツォの方を向いた。

「内部で殺し合いが起きても面倒です。上に話して見ましょう」

「お?ほんまか?話分かるやないか♪」

「エンツォ=バレット。《暴走☆流れ星》のリーダー。
 悪名とはいえ、かなり名の知れたグループ・・・ギルドマスター級ともいえます。
 そういう地位も考慮し、上へ、六銃士にその胸だけは伝えておきましょう」

「その後はわい次第ってか?」

「そういう事です」

「・・・・へん♪」

エンツォはその細い目を笑みで緩ませ、
ライフルをおろした。

「おおきにな」

速ささえあれば、
この足さえあれば、

全ての階段などすぐ登れた。
































ルアス城。
その外門前の芝生。
庭園・・・とはいえないか。
外門の前に広がる芝生。
大きく広がった空間だ。

「ほぉ、これが攻城戦かいな。えろう盛り上がりやな。祭や思たわ」

外門前には、
一面、
様々なギルドの人間が待機していた。
王国騎士団に反抗しようという者達。
その数。

「思うてたよりは少ないな」

「そりゃそーッスよ」
「名の知れたギルドあんまり参加してないらしいッスよヘッド」
「15ギルドからは《GUN'S Revolver》と《メイジプール》くらいらしいぜ?」

「ま、わいらの初戦争にゃぁ、ちと物足りひんが・・・よしとするか」

この攻城戦。
ごくありふれた規模の攻城戦だ。
もちろん、
《暴走☆流れ星》のメンバーにとっては初の攻城戦。
それどころか、
《GUN'S Revolver》として、
いや、
ギルド員としての戦闘は初めてだった。

「ほな、行ってくるから待っときや」

エンツォは、
自分の子分達を制止し、
一人歩む。
外門前の芝生の上を。
「次回の攻城戦の前、GUN'Sの一番大きいテントに来いとのことです」
「スズちゃん達でも毎回いけるとこじゃないんだよー!なまいき!」
そう言われた。

「ケッ、つまり六銃士がおるとこってわけやな」

テントに近づくと、
なんか偉そうなGUN'S員がエンツォを止めに来たが、
身なりを見られ、
名前を聞かれると、
「話しは伺っています」
と、
軽いボディチェック。
そして、
ライフル、
ダガーといった武器を預けさせられ、
テントへと通された。
テントの前へ行くと、

中から声が聞こえた。

「ったく。《メイジプール》だけかよ。今回の攻城も駄目かもな」
「あら?言ってくれれば傭兵くらいいくらでもわらわのお金で雇ってあげたのに。
 金も出さず、愚痴だけ零すのは愚民の表れですわ。ねぇピエトロ?」
「にゃ♪」
「せめて15ギルドが3っつありゃぁ話しは違ったな。3はいい数字だ。
 3は勇気の数字。成功を与えてくれる。安定を与えてくれる」
「まぁたそれか。いいかタカヤ。世の中には2種類の人間がいる。
 一つは"ジンクスをもろともしない人間"。もう一つはお前だ」
「黙れメテオラ」

六銃士か?
そりゃそうだろう。
そういうテント。
GUN'Sの頂点のテントだ。
六銃士の会話なのだろう。

「ってか今回の攻城もマスターはいないのかよ」
「マスターのドラグノフってのは本当に居るのか?」
「いいじゃないですの。居ても居なくても、居ない場合はわらわ達六銃士がGUN'Sのトップ。
 それだけの話ですわ。それに指令だけはどこからか届きますしね」
「俺ら六銃士くらいにゃ顔見せて欲しいもんだぜ」

「まいどぉー」

何が毎度なのか。
エンツォがテントの入り口の布をめくり、
中に入ると同時、
中の者達は咄嗟に身構え、
振り向いた。
皆ほぼ同時だ。
武器を構えている剣士もいる。

「ぉお。さすが六銃士や。反応のよろしいこって」

「誰ですか!?」
「あぁ、俺が呼んだ奴だ」

剣を構えた男がそう言い、
剣をしまい、皆に説明する。
一応チェックはしてある。
こいつは確かリヴォルバーNo.1。
『一島両断』
スミス=ウェッソン。

「あぁ!?ざけんなスミス!3倍ざけんな!このテントに新入りなんて連れてきてんじゃねぇ!
 今日は俺がいんだぞ!?《昇竜会》の人間がなんでここにって事になんだろが!」

この男。
これは知らない。
No.3は正体がちまたに流れないが、
話から察するにスパイ活動でもしているのだろうか。

「細かいことをあまり気にしないほうがいいですわ。タカヤ。
 小さな事ならわらわが金と権力で踏み潰してあげますわ」
「にゃ♪」

このケティを連れた魔女。
いや、半魔女(ハーフウィッチ)だったか。
リヴォルバーNo.5
『マジョ・ラ・サンダ・ラ』
ルカ=ベレッタ
カレワラWIS局を創立させた、
マイソシアでも有数の大富豪だと聞いたことがある。

「バラしちまえバラしちまえ!お前が《昇竜会》に潜伏してることも、
 いっそ無駄に実はミルレス白十字病院の院長が六銃士だって事もな!」
「おま!何ペラペラしゃべってんだ!3枚におろすぞ!」
「まぁいいじゃねぇか。きけって。いいか、世の中には2種類の事柄がある。
 一つは"どうにでも取り返しのつく事"、そしてもう一つが今しゃべってる事だ」

今しゃべってる奴。
これが確かリヴォルバーNo.6。
『メテオドライブ』
メテオラ=トンプソン。
女みてぇな顔してモンブリング(ウンコ)帽かぶってやがる。

「あらぁ、六銃士言うて4人しかおらへんがな」

「口の利き方がなってないな」
「それは同感だ。おい新入り。世の中には2種類の人間がいる。一つは・・・」
「まぁいいじゃないですの。それよりどうするつもりなのか気になりますわ。・・・コレ」

ルカが目線だけでエンツォをさす。
コレ。
自分のことか。
軽く見られているものだ。
それにスミスが応える形で話し始めた。

「まぁ、作戦の一つだ。まぁ聞け。耳を済ませろ。話はそれからだ」
「おい、誰が座っていいっつったよ」

「ありゃ?」

エンツォが空いている椅子に座ろうと思ったら、
タカヤという男につっこまれた。
わきまえろ。
そういう事だろう。

「こりゃ失礼。えろうすんません♪世界最強の中の最強の6人。
 六銃士の方々の前では失礼やったな。以後気をつけますさかい♪」

エンツォはわざと下手に出て、
軽く笑い飛ばした。
トップを走ってきた人生だったが、
なかなかこういう対応は得意なものだった。

「調子のいいやつだ」
「目ぇ細いですわね。それ見えてますの?」
「まぁ聞けって言ってるだろ」

スミスはテントの真ん中・・・その机の上に地図を広げた。
まぁ、
有名なマップだ。
この城。
ルアス城の外層の地図。

「とりあえずいつも通り、外門についてはスルーパスだ。ありがた様ってな。
 傭兵『ノック・ザ・ドアー』。外門破りのマーチェを雇ってあっからな」

有名な傭兵だ。
確か猿みたいなガキだという噂もある。
偽名らしいが・・・まぁどうでもいいか。
重要なのは、
その外門破りのお陰でこうして楽ができる。
王国側も、
外門はもう捨てている。
だからこそこうして、
攻め側のギルドの奴らは外門前なんかでのんびり待機できるわけだ。

「作戦ってのは結局門から先の話。外門突破後。それだけなんだがよぉ、
 さっきまで俺らが話していた作戦。いつもと代わり映えしない作戦に付け加えてぇ・・・・・・」

スミスがエンツォを見た。

「こいつを使った作戦を一つ追加したいと思ってる」
「はぁ?」
「今更作戦の追加ですの?」
「大丈夫だ。これは追加であって追加でしかねぇんだ。
 こいつが成功すれば美味いが、失敗したところでノーリスクってなぁ」

「・・・・・フッ」

エンツォは立ったまま、小さく笑った。
なるほど。
新人を使った失敗覚悟の作戦。
つまるところ、
失敗したところでこのナマイキな細目の新人が消えるだけ。
そりゃおいしい話だ。

「あぁ、だから秘密バラしても問題ないって事ね」
「こいつが生きるか死ぬかってだけの作戦なわけですわね」
「で?作戦っつーのはなんなんだよ」
「簡単。こいつを先鋒で突っ込ませる。先鋒で戦法ってな」

スミスが親指でエンツォを指した。
なんだこいつら。
人をなんだと思ってやがる。
使い捨てのなんかだとでも思っているのか?

「具体的には?」
「こいつは《暴走☆流れ星》の頭。エンツォ=バレットだ。聞いたことくらいあんだろ?」
「あぁ、ルケの暴走族の」
「世界最速とか噂流れてるやつですわね」

「おぉ、おおきに。ご存知やったか。でも噂止まりじゃないでっせ」

エンツォは軽くアピールしてみせたが、
六銃士の者達は軽く流した。

「チッ」

まぁいい。
言葉なんて軽いものだ。
つまるところ見せてやればいい。
見えないという形で、
この足を、
自分の速さを。

「で、このエンツォには外門が壊れたと同時に突っ込んでもらう。
 それでその自慢の足を武器に一気に特攻してもらおうって作戦なわけだ」
「あぁ、混乱させたいのか」
「そう。倒したいわけじゃねぇ、王国騎士団の奴らを混乱させたい。
 もしそれが少数だとしても、いきなり自陣深くまで敵が入り込めば問題は起きるだろ?」

エンツォは「ふーん」と頷いていた。
なるほど。
悪くない。
適当に扱われているが、
この六銃士の者達は適当かつ、妥当かつ、有意義に自分を使っている。
"とにかく敵陣奥深くへ"
それは戦闘力の高い者より、
機動力の優れた者にこそ成功率は高い。
突破。
それだけだが、
それだけでも戦争での効果は絶大だ。
そして・・・
捨て駒にしても問題ないという点を置いても、
エンツォ及び《暴走☆流れ星》という駒はうってつけなのだ。

「どこまで潜ればいんでっか?」

スミスはそれ自体には返事をせず、
その地図に指をのせた。
外門から指で地図をなぞっていく。

「とにかく道を開け。突き進め。
 少数とはいえ敵が入り込めば無視などできねぇはずだ。
 とにかくとにかく奥へ奥へ・・・そして・・・・」

スミスが滑らす指。
地図の上をなぞる指。
それは・・・・

「ここまでだ」

内門だった。

「これ以上は万が一にも期待してねぇ。
 王国騎士団。ルアス城内門はもう何十年も打ち破れていない鉄壁だ。
 あの部隊長。『守備漬け(AC)』ミラの重装兵部隊が待ってやがるしな。
 とにかくこの前までお前が突破できれば万々歳なんだよ」
「開始と同時に内門か」
「確かに戦況に変化は出ますわね」

「・・・・・」

なんという作戦だ。
真面目に言っているのか?
何十年も破られない鉄壁の内門。
これだけのギルドで攻めても今まで内門前までしかいけなかったのに、
そこまで、
その今までの最大記録まで、
エンツォと他十数人でいけというのか。

「・・・ええやん」

だがエンツォは笑った。
ただ、
自信があった。
できないわけがない。
速さ。
それを生かせと言っている。
そして・・・
自分の才能を、
この足さえ生かせば成功する作戦なのだ。
言うならば・・・
成功率は100%だ。

「で?」

エンツォはまた軽々しく六銃士に質問する。

「成功したときの報酬は?」

「・・・・なるほど馬鹿か」
「エンツォとかいう新人。いいか?世の中には2種類の人間がいる。
 一つは"その危険度を理解して行動できる者"、もう一つがお前だ。
 失敗や危険を恐れる対策より先、その後を考えるのは馬鹿の考えだぜ」
「死んでも問題なさそうですわね」
「だがまぁ、餌があったほうがいいだろう。戦意に関わるからな。
 死ぬにしても出来るだけ奥まで突破して死んでもらった方がこっちは楽だ」

「で、報酬は?希望は伝えてあるはずでっせ?」

「・・・せっかちなやつだ」

スミスは顔をしかめた。

「ベラドンナとスズランから聞くところ・・・六銃士にして欲しいらしいな」
「マジですの?」
「どんだけ天狗なんだこいつぁ」
「3倍うぜぇ」
「まぁとにかく、それについては無理だ。何せ俺ら六銃士は空席がないからな。
 六銃士にするかしないか以前に空席がないことには入れ替えは起こらない。
 六銃士の弾丸は6発。それはもう決まっていて確定事項なんだ」

「あぁん?なんや。そんなもんでわいは納得でき・・・」

「聞け。まず話を聞け、耳をすませ。話はそれからだ。いいか?
 成功の暁には・・・・再装填メンバーの優先順位1番を与えてやる」

「なんでっかそれ?」

「つまり六銃士候補だ」

つまり、
次の順番待ちってことか。
それの優先順位1番。
空きが出来ればすぐ六銃士。
えらくいい褒美だ。
つまりそれは・・・
それだけ作戦成功率が低いということだ。
この作戦。
もともと"死ぬまでにどこまで行けるか"
そんな作戦だ。
ならよほどの褒美を与えても問題はない。
というか・・・・
万が一成功するようなら六銃士として申し分もない。
それほど難易度の高い作戦。

「死兵には勲章を・・・か。でもあれでんな。割りの合いが逆やわ。
 死んで2階級特進。生きてトップの道。そりゃどうせなら生き残りたいもんでっせ」

エンツォは笑った。
その細い狐目。
それを歪ませ、腹の中で笑う。

「ほないきますわ。応援してくれなはれ」

エンツォはテントを後にした。
返事もまたず、テントから出て行く。
・・・・。
馬鹿な捨て駒が。
六銃士は思っているだろう。

「ククッ・・・」

エンツォは笑う。
いい買い物だ。
成功すれば六銃士へのショートカット。
自分の才能を誇示する思ってもいないチャンスだ。
足がうずく。

「ほえズラかかせたるわ。その目ん玉でよぉ見とき六銃士さんら。
 見えないゆー形で見せたるわ。わいの速さっつー才能をなぁ」

































「頭(ヘッド)!?」
「そ、そんな作戦大丈夫なんスかねぇ・・・」
「俺ら抗争はしょっちゅうしてましたが、戦争なんてのはズブの素人ですぜ?」
「まず作戦なんて言葉始めて使いますよ」

「まぁまぁそんな難しく考えなさんな」

エンツォは、
自分のエルモア。
最速である自分に相応しいであろう、
最上級のエルモア"シューティングスター"を、
外門前の芝生に座らせ、
それをソファのようにして寝転んでいた。

「突っ込むだけや。作戦なんてもんやあらへん。わいら《暴走☆流れ星》のメンツで、
 できるとこまでぶっこんでけばいい。それだけなんやからな」

「でも相手はサツ(王国騎士団)ですぜ!?」
「・・・・ってか本拠地・・・」
「奴らの力はハンパねぇーッスよ!」
「ルケを縄張りにしてる湾岸警備部隊の奴らは俺らの顔知ってるかもしれないですし、
 白馬(白バイ)部隊の奴らのエルモアからは俺ら逃げっぱなしじゃないッスか!」
「あいつらに捕まった仲間(メンバー)もいるってのに・・・」
「その根城のルアス城に突っ込むなんて・・・」
「俺らだけで出来るのか・・・」

「馬鹿やなぁ。アホや。アホやでおまえら」

自分のエルモアをソファのようにして寝転んだまま、
エンツォはその狐のように細い目を閉じ、
首を振って呆れた。

「捕まった仲間ぁ?そんなん捕まるほど遅いんが悪いんやで?
 暴走もできへん奴なんざ知るかっちゅーねん。ただのノロマや。
 でもここにまだ居るお前らは捕まってないっちゅーこっちゃろ?
 それはサツ(王国騎士団)より速いってこっちゃ。その証拠や。
 自信もてや。敵はわいらより遅い。わいらの方が速い。わいらの方が・・・優れてんねや」

エンツォの言葉に、
《暴走☆流れ星》の面々は顔を見合わせ、話し始めた。
その言葉は少しずつ生気に溢れ出した。
「その通りだ」
「ヘッドの言うとおり」
「俺らは速い」
「あんな奴らにやられるか」
そう話し合う。
励ましあう。
それは自信に変わっていく。
速い。
そういう自信。

「ええか?わいに追いつける生物なんてもんはこの世にあらへん。
 けどな、わいの後ろを走ってこれたんもお前らだけや」

エンツォが笑うと、
それは最後の後押しになった。

「さすがヘッド!」
「しびれるぜぇ!」
「そう言ってくれて嬉しいですぜ!」
「そうだ!俺らだって速ぇ!最速の仲間なんだ!」
「王国騎士団の奴らをビビらせてやろうぜ!」
「《暴走☆流れ星》のぶっこみ!見せてやらぁ!」

エンツォの子分。
《暴走☆流れ星》の奴らが沸く。
十数人のメンバーだが、
彼らもエルモアなどの守護動物に跨り、
そしてその場で"ふかす"
自分の守護動物(バイク)に跨り、
エンジン音のように、
ブルン・・ブルルン・・・
暴走族の守護動物(バイク)は鼻息を鳴らした。

パラリラパラリア。
まだ攻城も始まってないのにラッパ鳴らす馬鹿もいるし、
無駄に守護動物(バイク)をふかす馬鹿もいる。
「ヒューー!!」とか意味の分からない奇声をあげる馬鹿もいる。
それらが合い絡まり、
《暴走☆流れ星》はやかましい、
いつもの、
迷惑な、
騒音公害集団へと変わり果てた。


「馬鹿と猿はよくわめく。やかましくてかなわないな」

そんなエンツォ達に向かい、
そんな事を言う声。
気付くと、
エンツォの近くに一人の男が歩み寄ってきていた。

「なんやあんさん?」

「てめぇ!総長(ヘッド)に軽々しく近づいてんじゃねぇ!」
「へこますぞ!」
「俺らはキレるナイフだぜ!」

その男は、
頭悪そうなやかましい暴走族達を見て、
低能な猿でも見るかのように呆れた後、
エンツォに自己紹介をした。

「俺はリッド。リッド=スチュワートという。これでも《メイジプール》のマスターでね」

「ほぉ」

エンツォはエルモアに寄りかかって寝転んだまま、
小さく笑った。

「あんさんがあの有名な魔道リッド。『風林火山(レインボーマウンテン)』か」

リッド=スチュワート。
通称、魔道リッド。
世界最強の15ギルド。
そのうちの一つ、
魔術ギルド《メイジプール》のマスターにして、
"世界最強の魔術師"
と呼ばれている男だ。
大体の人間が知っているだろう。
『風林火山(レインボーマウンテン)』
彼についている二つ名。
その言葉の表すとおり、
彼の魔術。
それは七色。
何が得意とかではない。
虹の如く、
魔術の多彩さ。
それが彼の凄さでもある。

「聞いたことありまっせ。15ギルドが1つ。そのマスターと会えるとは光栄なこっちゃ」

「軽い礼儀くらいは言えるようだな。だが本心より心の図太さが見える。
 俺を見てもなお、見下されてもなお、"こんな奴より自分の方が凄い"って目ぇしてるぞ」

「・・・・・ふん」

心を読む力でもあるのか?
これが15ギルド。
有名なる《メイジプール》のマスターか。
世の中は広い。
いろんな奴がいる。
凄いやつもたくさんいるのだろう。
・・・・。
だが、
それでも、
この世界には自分より速い奴なんていない。

「で、なんや?魔道リッドさん。攻城の前にGUN'Sの下っ端なんかに挨拶でっか?
 大層な事でんな?地位ってぇのはそうやって気付くもんなんやな。
 そう考えるとGUN'Sは気楽や。トップが6人言うんはなかなかいい構成や思うで」

「まるで自分が六銃士みたいな言い分だな。暴走族」

「これが終わればな」

エンツォは、
その細目で軽くリッドを見た。
リッドはそれを睨み返しもしない。
堂々としている。
これがマスターの風格か。

「ふん。まぁいい。基本的にあまり他に興味はないんだ。
 俺が信用しているのは俺のギルドのメンバーだけだ。
 信用。いや、俺は部下を尊敬(リスペクト)している。
 仲間とはそういうものだ。そうでなくてはならないと思っている」

「あらそうでっか」

「だが、今回はそちらの作戦に少々のリスペクトがあってな」

落ち着いているのに、
なぜか見下されているような言葉に聞こえる。
押しつぶすような声圧。
それは、
魔道リッドの言葉全てがハッキリしているからだ。
全ての言葉に責任と自信を持っている。
エンツォは、
「堅っ苦しいやっちゃ」
と思いながら聞き返した。

「わいら《暴走☆流れ星》の特攻作戦についてでっか?」

「そうだ」

「ほぉ。聡明な《メイジプール》の天才魔術師さんがこんなアホな作戦にねぇ」

「確かに現段階では、付け焼刃でしかない愚かな作戦だが、
 その効果を考えるとこれからも有効に発展させられそうな作戦だ。
 恐らく今回の攻城戦も王国騎士団には勝てないだろうが、
 それを無駄に終わらせるのが阿呆の考えだ。人は積み重ねて成長する」

大した言葉だ。
素晴らしい言葉だ。
失敗も無駄に終わらせてはいけない。
素晴らしい。
その通りだ。
それを踏み越えて成長しろ。
・・・・。
・・・・。
アホか。
大嫌いな言葉だ。
ガンバレガンバレ。
勝手に頑張ってろ。
努力。
訓練。
成長。
そんなもんは才能のないやつのすることだ。
才能。
持ってる奴。
自分のような者は、
それを有効に使う事だけ考えればいい。

なのに無駄に足掻いてるもの。
頑張って成長とかしようとしているのもの。
そんなものは置いていく。
そんな時にはもう遅いのだ。
自分はもう先へ進んでいる。
背後をついてくるがいいんだ。
速い事は正義だ。
全てはこのエンツォ=バレットの背中を見てればいい。

「で?結局なんでここに来たんや」

「これからの攻城にこの作戦を有効に使いたいと言っただろう?
 データが欲しいんだよ。この特攻作戦についてのデータがな」

「後で感想文でも書けってか?」

「お前が死んだら口なしだ」

チッ・・・と舌打ちをした。
こいつも自分の事を軽く見ている。
作戦で捨て駒とばかり思っている。
やかましい。
くだらない。
目にもの見せてやる。

「という事で作戦に一人同行させて欲しい」

「はん?」

「お前らGUN'S・・・いや、《暴走☆流れ星》の特攻作戦に、
 うちのメンバーを一人データ役として同行させて欲しいと頼みに来た」

魔道リッド。
彼はそう言うと、
エンツォの返事も聞かず、
一人の男を自分のもとへ呼んだ。

「こいつだ。名はキューピー。うちの一般ギルド員じゃ飛びぬけた才を持ってる。
 世間じゃ『ショット・シュート・アーチャー』という名でなかなか知れている男だ」
「YEAH!ヤーッ!矢(YEAH)!・・・・やぁ兄弟」

キューピーという男は、
軽々しく、
馴れ馴れしく、
エンツォに手を差し出してきた。
握手か?
とりあえず無視をした。

「いけずだねぇ。兄弟。これから共に作戦を行うってのにさ」

「わいは認めてへんぞ」

「?・・そうなのか?マスター、俺って作戦参加できねぇの?」
「いや、六銃士とは話を通してある。作戦上は拒否できない」
「だってよ兄弟」

「・・・・チッ」

これが組織か。
自分の考え以外が勝手に取り入れられる。
クソ。
絶対。
絶対権限を。
権利。
世界最強の権力を手に入れてやる。

「六銃士がなんといおうと、わいはこんな男を連れてかへんで?
 わいは速さに生きる男や。それ以外は基本的に拒否オンリーでなぁ。
 魔術師なんつートロい奴、わいの後ろには置いておけん」

「見くびるな。俺の部下だ。尊敬に値する能力は持っている。
 キューピーは魔術師としては珍しく軌道型だ。
 動く魔法矢の射出機と言ってもいい。足はひっぱらない」

ふん。
疎いわけではないが、
世界の人間に詳しいわけでもない。
『ショット・シュート・アーチャー』だか、
射出機だか、
マヨネーズだか知らないが、
ギルドのパンピーまで知らない。
つーか信用できない。

「キューピー言うたな。あんさん"速さ"は?」

「自信あるぜ」

「ほぉ」

なかなか好きな返答だ。
何mやら何ヤードやらを何秒で走れるとか、
そーいうんじゃない。
ただ自信を持っている。
自分の能力に。
なるほど。
"兄弟"ねぇ。

「そういう事だ。あとは頼んだぞ」

「煮えきらんが、はいなぁー」

「お前じゃない。俺の部下。キューピーに言ったのだ」

「・・・そりゃまぁ」

あの魔道リッドという男は最後まで気に食わなかった。
才能。
世界最強の魔術師として、
かなりの才能を感じるが、
"それに溺れていない"
そういう大物的な雰囲気を感じる。
いやだね。
自分を信じきっていない。
自分の才能を、
ありのまま武器にしようとしていない。

「ヤーッ!ヤッー!矢(YEAH)!・・・・・・ってぇ事でよろしくな兄弟」

魔道リッドがいなくなったこの場。
キューピーという男は、
エンツォのエルモアに飛び乗り、
馴れ馴れしくエンツォに話しかけてきた。

「兄弟いうのやめい」

「いや、兄弟だろ。あんた俺と"同じの"感じるぜ」

キューピーはフフッ・・と笑った。

「俺と同じだ。あんたは"才能の化身"だ。自分の才能に溺れてる口だろ?
 それだけ信用してよぉ、あとは工夫。工夫だよ。
 自分の才能を磨くんじゃねぇ。装飾して引き立てるタイプだ。
 持っている才能(武器)で戦おうってタイプ。図星だろ?」

「・・・・・」

「俺もそうさ。俺ぁファイヤアロー、アイスアロー、ウインドアローしか使えねぇ。
 初歩のスペルしか使えねぇ上に鍛錬もしようと思わねぇ怠け者だ。
 だがそれでいいんだ。それで生きてこう、乗り越えていこうって考え。
 必要なのは訓練じゃねぇ、工夫。工夫だ。それだけで、才能で世の中は渡っていける」

「なるほどやな」

「なるほどだろ?」

「めっちゃ共感するわ。努力とか訓練とか鍛錬とか馬鹿馬鹿しい。あんさんもその口か。
 んで、なんでわいもそーいうタイプだって分かったんや?」

「武器。ライフルなんて持ってりゃすぐ分かる。そんなん使う奴そーそーいねぇ。
 マイソシアでそれを使うやつは猟をする商人と、怠け者ってぇ相場は決まってんだよ。
 それにその細身。頭悪いし、筋肉もねぇ。"なのに"ってのはそーいうタイプって事だ。
 それにな・・・・・・。決定的なのはすぐ分かるんだよ。・・・・・・・・臭い。臭いさ兄弟」

「ふん。そんな臭いか?」

「臭いよ。臭すぎる。プンプンする。いいにおいだ。兄弟(仲間)の臭いだね」

「・・・・・・キューピー言うたな」

「YEAH!なんだ兄弟」

「しっかりついてこいや。遅れたら置いてくで」

「そりゃお好きに♪」































「どっかぁああああああああああああああああああああん!!!!!!!」


ゴングは鳴らされた。
一人の少年の声と共に。

「あれが『ノック・ザ・ドアー』か」
「凄いッスね」
「爽快ってもんで」

子分達の言葉。
まぁ、
正直驚かされた。
エンツォの目の前。
そこで一人の馬鹿みたいな小僧が放ったエネミーレイゾン。
もう、
見たことのない規模だった。

「あれも才能やな」

エンツォはその光景を見てつぶやいた。
バズーカとか、
なんというかそういう規模でもなく、
人一人、
ガキの身体からどうやってあれだけのエネルギーが出ているのか不思議であり、
その『ノック・ザ・ドアー』の放った気の塊は、
外門にぶつかり、
直撃し、
その衝撃で周り一帯に響き渡る「ノック音」がこだましたと思うと、

「どがああああああああああああん!!!」

もう一度やかましい声が聞こえ、
二度目のエネミーレイゾンが飛んでいくのが見えた。
二度目のノックというやつか。
巨大。
巨大も巨大なルアス城外門。
世界一大きな扉にノックする修道士。
二度目のノックで、
左の扉は傾き、
右の扉はグラグラ揺れた後、倒れた。

「やるやないか」

エンツォはつぶやいた。
こういうのも才能だ。
本人はどう思っているか知らないが、
あぁいうのも才能だ。

「ま、興味ないけどな」

言葉通り、
エンツォの心に響くほどのものではなかった。
まぁ、
打ち上げ花火に感動したようなひと時の感動だ。
実際、
次の瞬間には興味の対象外だった。
どーでもいい人間の一人になっていた。
もし、
万が一、
縁あってこの先合い間見える事があったとて、
「あー、そんなのいたな」
程度しか思わないだろう。

「頭ぁ!」
「総長(ヘッド)ぉ!」

「わぁーっとるわぁーっとる」

《暴走☆流れ星》の子分達が、
自分の後ろから声をかけてくる。
守護動物(バイク)の鼻息(エンジン音)を鳴らし、
その時を待つ。

目の前。
扉は開いたのだ。
外門は開いた。
ここからは・・・・

「わいらが主役や」

突っ込む作戦。
特攻隊。
捨て駒としての作戦。
それの合図。
ゴングは鳴った。
派手に。
実質、
『ノック・ザ・ドアー』のエネミーレイゾンより、
それ自体に胸が高鳴っていたのかもしれない。

「いくで!!お前ら!ぶっこんでくで!!」

「「「オォーーーー!!!」」」

エンツォの声と共に、
そしてエンツォが飛び出すと共に、
暴走族は暴走を始めた。
十数匹の守護動物が走り出すと共に、
ブルルルルン、
パラリラパラリラ、
騒音がやかましくも鳴り響く。

「おっしゃぁぁ!!エンツォ=バレット様のお通りや!」

「どけどけぇ!」
「暴走族なめんなよ!!」
「《暴走☆流れ星》の旗印!その眼に拝めぇええ!!」

「道を開けなきゃ吹っ飛ばすでぇ!ついてこれなきゃ置いてくでぇ!
 風を拝めやノロマ達!風は吹き抜け、決して掴めはせぇへんでぇええ!!」

やかましい珍走団は、
勢さと速さ、
その二点だけずば抜けながら走り出した。

「・・・・ってなんであんさんはわいの後ろ乗ってんねや」

「気にすんな兄弟」

愛馬シューティングスターに跨り飛び出したエンツォ。
その後ろのケツには、
キューピーが当たり前のように座っていた。

「ま、その方がトロいよか邪魔にならんでえぇけどな」

エンツォがそう言ったころ、
調度、
エンツォ達がその勢いのまま、
壊れた外門をくぐったところだった。

「敵さん来はったで」

「YEAH!ヤーッ!こりゃ壮大だ!一番のりだもんな。
 足跡のない雪道みたいなもんで、むかつくくらい綺麗なもんだ」

特攻する《暴走☆流れ星》
その視界の先。
外門をくぐって広がる視界。
ルアス城。
庭園。
そこには、
始まったばかりで規律正しく持ち場についている騎士達。
世界、
マイソシア最高の戦力。
王国騎士団の面々が立ちはだかっているのだから。

「どけどけぇえええ!」
「お通りだ!」
「吹っ飛ばすぞてめぇらあああ!!!」

生気付く暴走団。
だが、
目の前に広がる騎士の森。

「どうする兄弟。やっぱ正面は厳しい感じだぜ?」

「へっ!気にすんなや。わいは前しか見えへんからな」

エンツォは走りながら、
後ろも振り向かずに片手をあげた。
背中から抜いたライフル。
それが上空に突き出され、
まるで先頭馬の旗のようだった。

「いくぞお前ら!突っ込むで!わいらのぶっこみ見せたれや!!」

甲高い音が破裂した。
エンツォのライフルが上空に向かって撃ち放たれた。
景気がいい。
それと同時に皆叫ぶ。
暴走族は騒音を打ち鳴らし、
奇声をかきあげ、
そしてスピードを上げた。

「うぉおおおおお!!!」
「突っ込め《暴走☆流れ星》ぃいいい!!」
「王国騎士団だろうが知ったことか!」
「赤信号だろうが知ったことか!」
「みんなでぶっこみゃ怖くねぇ!!!」

「YEAH!ハーーーっ!!いいね兄弟!最高だ!!」

スピードがあがり、
風を受けながら、
エンツォのエルモアの後ろでキューピーは歓喜の声をあげた。


「なんだあいつら!?」
「突っ込んでくるぞ!」

初めての経験だったのだろう。
《暴走☆流れ星》
その数十数人。
そんな数で特攻してくる。
無謀にもほどがある。
馬鹿としか思えない。

「スピード落とさないぞ!?」
「なんだ!?やる気あるのかこいつら!」
「戦闘する気がないわけじゃ・・・」

攻城戦だというのに、
倒しにこない。
攻撃するためにはスピードを落とすはずだ。
無意味に突っ込んでも意味がない。
団体戦なのだから。

「悪いんやけど、わいはいつも先を見てるんでなぁ!」

エンツォはもう敵の中に突っ込んでいた。
スピードを生かし、
そのエルモアの最高速で敵の群の中に入っていた。
目まぐるしく変わる風景。
周りの騎士達。
それが走馬灯のように流れていく。
風が逆に流れているように。
人の群れの中を突き進む。

「どけや!どけや!!わいの前に立つんやないでぇ!!!」

スピードを落とすことなく、
エンツォは馬上でライフルを構えた。
そして一発。

「うぎゃぁ!!」

エンツォの進行方向にいた騎士は、
体に穴を開けたと思うと後ろに流れていって見えなくなった。

「あんさんもいい思い出やったで。やけどこの速さの中じゃぁ、
 0.36秒で後ろに流れていく小さな障害物でしかあらへんけどなぁ」

もう一度発砲。
また騎士が一人死ぬ。
が、
このスピードの中では、
まるで死体が進行方向と逆に吹っ飛んでいくかのような印象さえある。
それほど速い。
風景の切り替わりは風が吹き抜けるよう。
いや、
・・・・
風になってるのは自分だ。

「YEAH!ヤッー!矢(YEAH)!どきなどきな!どいちまいなぁ!」

エンツォの背後。
エルモアの後ろに座るキューピーは、
馬上で弓を構えた。
魔術師なのに弓?という疑問さえ出るが、
弓を構えると、
その上に炎の矢が現れた。
ファイヤアローだ。
弓で魔法の矢を放つタイプなのか。

「SHOTッ!!!」

キューピーの声と共に、
風景の中、
騎士の一人が矢に射られて倒れた。

「ヤーヤーヤーッ!俺はどんな心臓(ハート)も射抜くぜ♪」

「なんやなんや。あんさんなかなか役立つやないか」

「そりゃそうだぜ兄弟。ま、つってもゲームでしかないけどな」

「ハハッ!せやな!まぁ的当てゲームでしかないわな!」

突っ込むエンツォ達。
エンツォを先頭に、
騎士の群れの中をひたすら走る。
高速の最速で。
ゲームでしかない。
そりゃそうだ。
向こうはエンツォの動きを捉えられないのだから。
速すぎる。
向かってきたと思うと、
一瞬(0.36秒)で通り過ぎていく。
手の出しようが無い。

「うぉおおおおお!!!」

前方の方で、
一人の男がハンマーを振り上げていた。
エンツォ達の進攻路で振り上げている。
エンツォ達がたどり着いたら振り落とす気だろう。

「おやまこんにちは。そいでほなさいなら」

だが、
エンツォが軽く引き金を引くだけで、
進行方向に立っていたハンマーの男は血を噴出して倒れた。
ハンマーとその男がゆっくり倒れていくのを見届けながら、
エンツォのエルモアはそこを通り過ぎる。

「ヘヘッ!速ぇなこのエルモア!」

「やろ?」

「名前なんつーんだ?」

「シューティングスター。一番星や」

「流れ星だろ?」

「一番に流れるから一番星や」

「ヤーッ。了解だ兄弟。SHOTッ!SHOTッ!SHOTッ!!!」

キューピーの弓から、
ファイヤ、
アイス、
ウインド。
3本の矢が一本ずつ騎士の体を貫いた。

「YEAH!命中!矢が3本集まれば折れないってぇのはいいことわざだな!」

「そりゃぁちょいと使い方がちがいまっせ」

「分かってるさ。ようは工夫だって事だ」

「さよか」

過ぎ去っていく風景。
騎士達。
彼らに成す術などない。
エンツォが速すぎるから。
攻撃などできない。
ただ、
風景として過ぎ去り、
ついでに何人か殺されていくだけ。
棒立ちと同じ。
もしかしたら、
通り過ぎた中に有名な部隊長などいたかもしれない。
が、
それさえ意味がないのだ。
通り過ぎるだけ。
速さの前では、
全てが無力。
空気は風に追いつけない。
速さとは力。
速さとは無敵。

「見たか!!見えんか!?王国騎士団の馬鹿共!!!」

エンツォは高速で走りながら、
なす術も無い王国騎士団の群れを突っ切りながら、
叫ぶ。
ライフルを上へ向け、
無意味に乱射しながら、
叫ぶ。

「これがエンツォ=バレットの力や!速さという名の最強の力や!
 一瞬!つまり瞬(まばた)きという刹那の時間!0.36秒の中を進む力!
 目で捉えきれない!まぶたの裏側を通る別次元の世界の力ぁ!!」

駆け回り、
賭け走り、
スピードを緩める事なく、
銃を天空へ乱射しながら、
エンツォは叫ぶ。

「お前らにゃわいは捕えられへん!手も届かん存在や!
 逆にわいからしてもお前らなんてアウトオブ眼中でしかないんや!
 その眼に刻みや!見えへん!観えへん!視えへんいう形でなぁ!!」

「ウォーーー!」
「総長(ヘッドォ)!!!」
「俺達ぁ風だぁ!風だぜぇ!」
「俺達は無敵だぁあ!速さは最強の力だぁああ!!!」

エンツォの背後。
全力でついてくる《暴走☆流れ星》の面々。
騒音を鳴らし、
ラッパを轟かし、
旗を掲げ、
武器を掲げ、
迷惑相応、過ぎ去る軍団。

気付くと、
すでにルアス城庭園の真ん中あたりまで突破していた。

「黙れお前ら!お前らとて!ついてこれへん奴は置いてくでぇ!」

「わぁーってます!」
「しっかりケツついてきます!!」
「振り向かなくても大丈夫ですぜ!」
「ついていけない遅い奴が悪ぃんですから!」

「よく分かっとんやんけ!」

エンツォはライフルを乱発する。
今度は騎士団の群れにだ。
いやもう、
360度どこ見たって騎士しかいないのだ。
どこにだってぶち込んでやればいい。

「よく聞けや王国騎士団(てめぇ)ら!こんなわいみたいな奴に好き勝手やられおって!
 悔しないんか!?なす術もなく、適当に仲間殺されとるやんけ!
 やけどあんさんらには何もできひん!なんでや!?なんでなんや!?」

エンツォは最高速のまま、
敵を吹き飛ばしながら、
敵の森を駆け走りながら、
ライフルを乱射しながら、
叫ぶ。

「あんさんらがわいにいい様にやられとるんはなんでや!?理由はなんや!?
 それは才能や!才能の決定的な差や!この暴走の自由はそれの証明や!
 あんたら訓練!努力!修行!鍛錬!全ては無駄や!足りないんはそこやないんやから!
 情熱!?思想!?理念!?頭脳!?気品!?優雅さ!?勤勉さ!?アホかちゃうわ!
 そんなもんいらん!お前らに足りないもん!それは何よりも!・・・・・・・速さが足りへんねやッッ!!」

エンツォはもう一度天空にライフルを撃ち放ち、
叫ぶ。

「愚鈍愚鈍愚鈍愚鈍!!遅い!遅すぎるでぇ!最悪にスロゥリィや!!
 トロいトロい!ノロマ共!鈍く鈍く鈍く!最悪な愚図やお前らは!
 速い事は正義や!遅い事は罪や!速い事は力や!遅い事は無力や!
 あんさらカメ共は祈れ!祈るしかあらへん!それしか方法はない!
 ウサギ(才能)の事故や慈悲をただ願うしかない!ただの無力なノロマでしかあらへんねや!!」

突き進む速さ。
速さは突き進む。
誰にも止められない。
止める術がない。
捕えられないのだから。
捉えられないのだから。
無力。
風はつかめない。
故に、
無敵。
速い事は無敵。
何よりも、
壮絶な、
最強の力。

「これがわいの信じた強さや」

自分の信じた、
疑いようのない強さ。
速さ。
現実に実証された、
何よりも、
何よりも優れた才能。

この足に賭ける。
この足で駆ける。

自分にはこれしかない。
他の全てを捨ててきた。
これだけだ。
努力もしない。
鍛錬もしない。
2番目の才能?
いらん。
捨てた。
いや、
見つけようともしなかった。
全て賭けた。
この足に。
この才能に。
この・・・・速さに。
これだけ。

これだけでいい。

これだけで。


「おい兄弟!!」

「あん?」


ふいに、
背後で爆音が鳴り響いた。

背後。
自分の後ろだ。


「うわあああああ!!」
「ぎゃぁああ!!」
「アニキィイ!!!」

数人の叫び声。
仲間が吹き飛んでいた。

「なんや!?」

「メテオだ!内門に近づいたから魔術部隊が顔を出したんだ!」

キューピーの説明の間、
またメテオが降り注いだ。
それは背後を走る仲間をまた数人吹き飛ばした。

「クッ!!」

「ヘッドぉ!」
「攻撃だ!攻撃だあああ!!」

「慌てんなや!!」

それでも走り続ける。
だが、
今度は氷の塊が飛んできて、
仲間が吹き飛んだ。
高速度で吹き飛ばされた子分は、
そのまま地面に体をぶつけていた。
それも走行速度のため、
一瞬で見えなくなる。

「ヘッドォ!!」
「ヘッド!!」

「どうする兄弟!?」

「どうするもこうするもねぇ!脱落した子分はそいつらのせいや!
 置いていく!ついてこれへん奴が悪いんや!
 わいは全てを捨てる!わい自身の速さ以外は全て捨てる決意もしたんや!」

「違う!さすがにここらが潮時だぜって言いたいんだ!
 この攻撃!この騎士の密集でピンポイントに攻撃してくる精密さ!
 魔術部隊の部隊長『ピンポイントアクセス』ポルティーボ=Dだ!やべぇって!」

「・・・・こっから先はやばい言いたいんか」

「そう言ってるだろ!もうすぐ内門前なんだぜ!?こっからさらに激しくなる!
 ポルティーボ=Dだけじゃねぇ!『守備漬け(AC)』ミラだっているし、
 内門前の統率も完璧だ!部隊長以外にも熟練騎士だらけで手に負えるレベルじゃねぇ!
 王国騎士団を甘くみんな!誰がどう考えても最強の騎士団なんだからよぉ!」

そう言い、
高速で走行するエルモアの後ろ。
キューピーはエンツォに何かを差し出した。
それは、
スクロール。
紐で結んであるスクロール。
・・・・。
ゲートだ。

「逃げるぞ兄弟・・・・潮時だって言ってんだろ。俺らの行動は十分に武勲をあげた。
 ここらが騒がしい分、今頃外門の辺りは攻めやすくなってるはずだ。
 役目は終わってんだよ!これ以上は無駄なんだ!さっさと・・・」

「逃げろいうんか」

「あん?」

「わいに戻れ言うんか!?」

「ヘッドォ!!!」
「危ない!!!」


ふいに、
体が浮いた。

背後のキューピーの声が聞こえたときには遅く、
体は宙に吹き飛ばされていた。
何かの衝撃。
自分のエルモアの横で、
何かが弾けた様な、
そんな衝撃。

「ぐっ・・・」

エンツォは思いっきり地面に体を打ちつけた。
脳が揺れる。
立てるか?
立てるはずだ。
脳みそがなんだ。
体がなんだ。
自分にはこの足がある。

「どう・・・なったんや・・・」

ユラリと、
片膝で立ち上がると、
横たわる自分のエルモア。

「大丈夫か兄弟!」

視界の外にキューピーがいた。
エンツォはすぐさまエルモアを卵に戻す。

「今のはなんや・・・」

「ポルティーボ=Dの魔法か何かだろうよ」

キューピーが指差す先。
そこには炎が轟々と燃えていた。
まるで行きたかった先。
進行方向に壁が出来ているように。
フレアシールドか何かか。

「幸い直撃はしなかったが吹っ飛ばされた。んでこうなってる」

キューピーがため息をつく。
そして、
エンツォとキューピー。
その周り。

「観念しな」
「騒がせやがって」
「こんな少数でここまで突っ込んでくるとはな」

騎士がとりまいていた。
当然だ。
騎士の海の中を走ってきたのだ。
落馬すればこうなる。
仲間の姿もない。
皆同じだろう。
恐らくもう命もない。

「チッ・・・」
「そう、やべぇんだよ」

すかさず、
キューピーは弓を構え、
魔法の矢を生み出し、構える。
エンツォも近場に落ちていたライフルを拾いなおし、
構え、
キューピーとエンツォは、
お互い背中をついた。

「すげぇ数やな。爽快や」
「当然だ兄弟。内門の近くまで来たんだぜ?ほれ、噴水見えるだろ」
「何匹や」
「今日参加してる騎士団は数千ってとこか」
「あほらし・・・」
「そ、最悪ってことだぜ兄弟」

数千の騎士の海に落ちた。
そういうことだ。
そういうことでしかない。
絶体絶命。
それでしかないのだ。

「ほれ兄弟」

背中合わせのまま、
キューピーはエンツォのポケットに何かをねじ込んだ。
ゲートだ。
先ほどのゲート。

「一斉に攻撃した後、すぐさま逃げるぞ。
 気にするな。退散しても問題ないってのもこの作戦のキモだって気付いたぜ。
 そういうデータも含めて、俺らは生きて戻らなきゃならねぇんだ」
「・・・・・」

エンツォは黙った。
目の前の光景。
騎士しか見えない。
エルモアの上からは華やかに見えた小数の木々や障害物。
道。
そういったものも見えない。
騎士。
騎士しか見えない。
なんだこの数。
ふざけてるのか。

「合図するぜ」

キューピーがいう。
ジリジリ・・と、
騎士たちが歩み寄ってくる。
360度取り囲み、
逃げ場なく、
鳥篭の中のエンツォとキューピー。

「今だ兄弟!!」
「くらえや!!!」
「SHOT!SHIT!SHOT!!」

ライフルをパンパンッと乱射する。
矢を出来るだけ乱射する。
騎士たちは当然の如く倒れ始め、
そして一瞬躊躇した。

「行くぞ兄弟!」

キューピーはゲートを広げようとした。
だが・・・・

声をかけようとした先。
そこにエンツォはいなかった。

「おい!!!」

エンツォは走っていた。
内門の方へ。
先ほどの炎が渦巻いている方向へ。

「悪ぃなあんさん。楽しかったで!けどな・・・わいは行かなあかんねや!
 理屈?理由?絶望?可能性?そんなもん知ったこっちゃない。
 わいは全て捨てたんや。そーいうもんは必要ない。
 ただわいはこの足に。この速さに賭ける。この足で駆ける」

走っていくエンツォ。

「わいは振り向くわけにはいかんねや!わいは先頭におらなあかんのやから!
 わいは止まるわけにはいかんねや!わいは走り続けなあかんねやから!
 わいは・・・自分の才能を信じなあかん!それだけがわいの存在意義やからや!」

走っていくエンツォを、
ただキューピーは見るしかなかった。
炎の中に、
騎士の中に突っ込んでいく。
馬鹿だ。
馬鹿にしか見えない。
キューピーは立ち尽くした。
消えていくエンツォを見て、
ただ思考を張り巡らすしかなかった。

なんだあれは?
失敗とか、
妥協とか、
そういうものはないのか?
十分だろ。
十分凄かった。
ここまで来たんだ。
あんたの才能は十二分に報告させてやるよ。
だけど・・・
それでも行くのかあんたは。
十分じゃ足りないのか。
最高じゃないと、
最強じゃないと、
最速じゃないといけないのか。

なんでそうもこだわる。

なんで・・・・


メテオが落下した。
炎。
エンツォが向かっている方向だ。
確実。
ピンポイントで落下している。
ぶつかる。
直撃してしまう。
だが、
エンツォの姿はもう炎の中で見えなかった。
騎士の中で見えなかった。

何故飛び込める。
何故俺を置いていく。
俺が遅いからか?
じゃぁお前に追いつけるのか?
世界最速に。


ふざけるな。
何が・・・

何が同じだ。
何が兄弟だ。


"あれは違う"
違うものだ。

才能を利用し、生きていく者の姿じゃない。
キューピーは幾度と同じタイプの人間を見てきた。
工夫、
アイデア。
それだけでも才能で、
それさえあれば持てる力で上に立っていける。
なまける力もあり、
修行しなくても、
それでも人の上に立てる。

だが、
あれは違う。

全てを捨てている。
速さ。
それだけを求めている。

俺は自分の才能をさらに伸ばそうとかそこまで考えない。
奴も考えていないかもしれない。
AのためにBが使えるならそれでいい。
そこに工夫する。
が、
奴は速さしか考えていない。

そして一番の違いは・・・

誇りだ。

俺らはどうでもいい。
何かのためならすぐ捨てる。
それが俺らのためのもんだ。
プライドなんてクソ食らえ。
より楽しく、
より楽に、
より効率よく。
それだけだ。

もしもの時はなんでも捨てる。
もしもの時はどうやっても逃げる。

が、
あいつは違う。

絶対に譲らない。
譲らない。
速さ。
その一点。
そこだけは譲らない。
それが、
自分の速さという才能が傷つくというのなら、
その他の全てを捨てる。

自分の才能を生かされた作戦の中で、
失敗など許されない。
プライドが、
誇りが、
たった1つ。
本当の本当に1つしかない誇りは傷つけない。

できない。
俺にはできない。
そんなもの怖い。

もしそれが崩れてしまったら、
もしその速さという点で小さな劣等が出来てしまったら。
速さという一点以外捨てたというのに、
その速さで負けてしまったら。

怖すぎる。
ダメだ。
考えたくもない。

速さという才能だけで生きてきて、
それが崩れてしまったら。

なんでそんな危ない思考にたどり着く。
妥協しろよ。
妥協・・・・。

振り向けよ、
やり残した事ってのはあるもんだぞ。
立ち止まれよ。
横を見ろよ。
お前の獲り得はそれだけじゃねぇんだよ。
その方が楽に生きれる。
なのに、

なのに、

お前は真っ直ぐそこだけ走り続けるんだな。

「あんたは別者だ。ついてけねぇよ」

キューピーはゲートを開いた。
すんなりと。
追いかけるなんて思考はない。
そんな性格じゃないから。
いや、
違う。
ただ、

負けたんだ。
あれには敵わない。
そんな覚悟はないから。
そんな覚悟はもてないから。

才能。
才能。
才能。

そんな言葉が頭に通り過ぎる。
それがなんなのか。

それの固執を究極に極めたのがアレか。

無理だ。
俺には辿り着けない。

「あばよ。エンツォ=バレット」


もう兄弟なんて呼ばねぇよ。

あんたはその足(才能)で走り続けるだろうさ。
それだけ。
それしかあんたにはないんだから。
それ以外は捨てたんだから。


予言するぜ。


あんたは本当にそれ以外捨てちまうだろうよ。


地位が吹き飛ぼうが、
人生が吹き飛ぼうが、
腕が吹き飛ぼうが、
体が吹き飛ぼうが、
頭が吹き飛ぼうが、

その足さえ残ってりゃあんたは進むんだろうよ。

たとえ命が吹き飛んでもな。



















































エンツォは歩いた。


どこを?
外だ。
もうルアスの町だ。


ルアスゲートで飛び、
あの戦場。
ある攻城戦から離脱した。

「えろう疲れたわ・・・・」

その歩。
その自慢の足で進むのは、
ルアス城の方向だ。
騒がしい。
まだ攻城戦が続いているんだろう。
どうなったんだろうか。
ま、
ギルド側の負けは決まってるんだろうが。

「ん?」

エンツォが歩き、
ルアス城へ続く道の途中を見ると、
攻城中でほとんど人気の無いその道に、
一人の女が立っていた。

「エンツォ=バレットだね」

スラりと伸びた体の腰に、
幾多のムチがホースのように巻かれてぶら下がり、
チェーンベルトのようにムチがだらんと垂れ下がったり、
ムチが足に絡みついたりしている、
奇妙な女だった。

「誰や」

「六銃士だよ。リヴォルバーNO.2。ディザ=イーグル」

「あぁ、そういやもう一人いるはずやったな」

六銃士。
スミス=ウェッソン。
ルカ=ベレッタ。
タカヤとかいうヤクザ。
メテオラ=トンプソン。
あと、ミルレス白十字病院の院長がどうこうと言っていた。
それでも、
あと1人足りない。
それがこいつか。

「確か8本のムチ使い『タコ足』ディザやったな」

「少しは勉強しているようね」

ディザは少し微笑んだ。

「ご苦労様」

そしてねぎらいの言葉をかけてきた。
六銃士はいけ好かないやつらばかりだと思っていたから、
少し以外だった。

「なんや気持ち悪い」

「そりゃぁ功績を考えたらねぇ」

「ん?」

「まだ戦闘中だけど、十分に連絡は来たわ。騎士団は大慌てよ。
 まさか。まさかよねぇ。"内門まで辿り着けるなんて"」

なかなかの情報力だ。
まだ攻城中であるのに、
もうそこまで分かっているのか。

「せやで」

エンツォは自慢げにライフルを取り出した。

「記念に内門に一発だけ弾撃ち込んできてやったわ♪
 大慌てやったで?まさか一人で辿り着く思うてなかったんやろな。
 ま、さすがにあそこにおんのは無理や。すぐに脱出させてもろたけど」

「十分よ」

六銃士が一人、
ディザ=イーグルは、
うんうんと頷いた。

「ハッキリ言って予想外だったわ。ここまでやってくれるとはね。
 他の六銃士達はあんたに活躍なんて予想してなかったらしいから驚いてるわ。
 反面、逆に会わす顔がなさそうよ。なんやら大口叩かれたみたいね?」

「わいなんて死ぬ死ぬ言うてたからな。・・・で?」

「うん?」

「特攻作戦は成功。それどころか内門まで辿り着いたで?
 ハッキリ言ってどこかマイナス点を付けるのも無理なはずや」

「あーはいはい。聞いてるわ。報酬の方ね」

ディザは少し笑い、
間を置いた後、
言った。

「あげるそうよ。再装填メンバーの一番枠。文句無しよ。もうすでに書いてあるわ」

「ほぉ。気前いいこっちゃ。もうちょっとしぶると思ったけどな」

「六銃士も自分の立場が変わらないなら結構好き勝手やるわよ。
 私もそう。文句無しよ。あんたが六銃士になるのが楽しみだわ」

文句無し・・・か。
これで晴れて・・・だ。
文句無しだ。
ギルドに入ってすぐ、
即行で六銃士予約。
異例だろうよ。
それもこれも、
すべてこの足。
この才能で掴んだものだ。

・・・
間違ってなかった。
信じていた。
そして・・・
自分にはこれしかないと再確認した。

「でも無理な相談や」

「うん?」

突然エンツォは言った。

「いや、わいが六銃士になるのが楽しみってとこや。それは無理や」

「ん?なんでよ。せっかくの権利を破棄する気?」

「いや」

エンツォは、
おもむろに、
ただ無意識のように、
当然のように、

ライフルをディザに向けた。

「わいは今日なるからな。あんた殺して」

「!?」

「六銃士の空きがないと入れ替えはない?ざけんなや。
 そんなん待っとれんわ。空きがないなら作るまでや」

「貴様!!!」

ディザは構えた。
早い。
一瞬だ。
『タコ足』ディザ=イーグル。
その両手。
そこには左右4本ずつ。
計8本のムチが構えられていた。
それの一つずつが違う生き物のように動いている。
六銃士がNo.2。
ディザ=イーグルの能力。
8本のムチ。
変幻自在の包囲網。

だが、

「遅いわ」

「なっ!?」

視界にいない。
ディザの視界にエンツォはいない。
そして声が聞こえたのはディザの背後。
いつの間に?
そんな事を考える暇もない。
速い。
速すぎる。
見えない。
目視できない。
どれだけ速いんだ。

一瞬?
刹那?
一瞬ってなんだ。
一回の瞬き。
瞬きの時間は0.36秒。
人間は瞬きの時間思考は消える。
0.36秒間。
その間に動けるとしたら?
そのまぶたの裏で動けるほど速いとしたら?
その一瞬で動けるとしたら?
その瞬間で動けるとしたら?
それは・・・
もう何もかもを超越している。
それはもう、
瞬間移動だ。

「ほなさいなら」

振り返る時間もなく、
だが、
それでも8本のムチはエンツォを狙って動いていたことは、
さすが六銃士。
世界最強ギルド。
その最強の6人の1人だ。

だが、
死んだ。

そのまま、
なす術もなく、
捉える事もなく。

頭に穴が空き、

虫けらのようにディザ=イーグルは転がった。
ほんの一瞬。
瞬き。
0.36秒。
彼女の命はそれだけだった。

「・・・・あちゃぁ・・・しもた・・・・・ライフルで殺したらわいってバレるやんけ」

六銃士の女性の死体が目の前に転がっているというのに、
エンツォはのん気に、
ポリポリと頭をかきながら困った。

「ま、ええか。問題ないやろ」







そう、
何も問題はなかった。


エンツォ=バレットは、
そのままその日、
世界最強最大ギルド。
《GUN'S Revolver》の六銃士に就任した。

「あん?数字は関係ないんかい。どーせならわいは1番がよかってんけどな」

とりあえず納得した。
それは簡単。
実際問題、
エンツォ自身、
自分が一番だと思っていたからだ。
六銃士。
それでさえも、
自分が頂点だと考えていた。

簡単。
簡単だ。
彼らとて、
エンツォに触れられないし、
エンツォ自身は触れる。

速さは力。
速さは無敵。

負ける要素のない、
最強の能力。

速さ。
それさえあればいい。
それだけでいい。

あとは誤差程度の問題だ。

殺すために銃でも持ってりゃ、
それで最強。


彼は手に入れた。
才能だけで、
一つの才能だけで、
他の才能は捨て、
仲間も捨て、
それ以外の誇りさえも捨てた。

命さえも天秤にかければ軽い。



走る。
ただ前を。
後ろを振り向く必要はない。

全てはついてくるのだから。
この才能に。

誰も抜けやしない。
最速なのだから。

全ては自分の背後を見ていればいい。

それ以外はなにもいらない。

それさえ・・・

それさえ傷つかなければ・・・・・















「ドジャーはん・・・絶対殺してやるで」

数年後。
そこにはやはりエンツォの姿があった。

何も変わらない。
何も変わらない。

キューピーの予言どおり、

体は全て機械仕掛けになり、
命など捨てた。

プライドも捨て、
地位さえも残っていない。
何もない。
全く何も無い。

だが、

彼は変わっていない。

何一つ。

才能だけを、
速さという一点だけに固執する。

それ以外は全て捨てる。

そして・・・
その才能を傷つけた者は許せない。

怖い。
自分が自分で無くなってしまう気がするから。
自分の存在価値が無くなってしまうから。
それ以外捨てたのだ。
それ以外失ったのだ。
だから、
それだけが存在価値。

何も変わらない。
変わっていない。

臆病なるダイヤモンドを抱えた誇り。
ただ走るために産まれた。
それだけのために。


「わいは・・・」


だが彼は、
だからこそ彼は、


「世界最速や」



エンツォ=バレットだった。












                 






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