******注意******

この短編は、
実際のSOADと全く関係ありません。

本編と世界はリンクしていませんし、
実際のキャラとは無関係です。


**************
























「僕の日だな」

ミルレスの白十字総合病院。
その最上階が一室で、
白衣に身を包んだ彼は言った。

「いや、誰だお前・・・・・」

その部屋のソファーに寝転がりながら、
ドジャーは不可思議な目線を流した。

「ふん。下賤な。バレンタインデーなのだよ今日は。
 つまりこの六銃士が一人、ヴァレンタイン=ルガーの日とも言える」

「思い出せねぇー・・・・」

ドジャーは頭を痛めながら、
ソファーの上で首を振った。
居たような居なかったような・・・。
昔過ぎて思い出せない。

「院長。チョコレートです」
「今年もより多くの命を救いましょう」
「ふむ。収支をプラスにするのはどの企業も同じ。そして病院もしかりだ。
 いかなる命の犠牲を払ってでも、一人でも多くの患者を救ってみせよう」

ナース二人に囲まれながら、
ヴァレンタインは、看護婦からチョコを手渡されていた。

「・・・・カッ」

こんなよくも思い出せないキャラのクセに、
ナースからチョコレートを貰うなんていけ好かない。
なんて羨ましい奴だ。
嫉妬でとろけそうだ。
悔しい・・・羨ましい・・・
ナース!ナースだと!?このドジャー様を放っておいて貴様ら・・・・

「・・・・・・・・・俺なら逆にこいつらの母乳でミルクチョコレートを作って・・・・・・・・」
「おいレイズ。勝手に人の思考回路を作り上げるな」
「・・・・クックック・・・・代弁してやっただけさ・・・・」

横にある人体模型よりも矮小な存在感で、
レイズはそこに立っていた。

「・・・・そんな恨めしい目で院長を見るなよ・・・ドジャー・・・
 ・・・・過剰摂取が無ければ・・・・糖分ってのは病院に不可欠なものなのだけだ・・・・」
「つーかオメェが院長だろ。あいつ死んだだろ。つーかお前死んだだろ」
「・・・・番外編だからなんでもアリだ・・・・」
「"俺が神だ"みたいに誇らしげに言うな」

レイズは不機嫌なドジャーを見ながら、
逆に楽しそうにしている。

それにしてもこの院長室。
あのヴァレンタインの光景はカンに障る。
ナースにチョコレートを「アーン」してもらっている。
なんという贅沢だ。
何がアーンだこのドジャー様を放っておいて

「・・・・・・・・俺なら逆に違うものをお前らに突っ込んでアンアン言わせてやるのに・・・・・」
「いやだから勝手に人の思考回路を作るなっつってんだろ!」
「・・・・黙れ・・・・チョコ無し男め・・・・」
「ぐっ!!」

ドジャーは言葉を詰まらせた。
それを見ると、
レイズはやはり嬉しそうに笑う。
悪魔のように笑う。

「・・・・ククク・・・そうだろ?・・・ドジャー・・・そうなんだろ?・・・・・
 もらえる予定が無かったから逆に・・・この聖日と無関係そうな病院に来たんだろ?・・・
 ・・・・心の安らぎを求めて・・・・・《MD》で一番縁が無さそうな俺の所に来たんだろ・・・・」
「ぐっ・・・・」

図星を突かれてドジャーは口をしかめた。
怖い・・・
今自分はこの男が怖い。
何が怖いって・・
図星を突かれた事じゃない。
今、
ここで、
レイズに"ソレ"を聞くのが怖い。
最悪な・・・
敗北を喫する可能性があるソレを聞くのが怖い。

「・・・・・・クックック・・・・分かっている・・・分かっている・・・・お前が見たいのはコレだろ・・・・」

そしてレイズは、
どこからか、
両手いっぱいのチョコの包みを取り出した。

「・・・・俺の取り分だ・・・・」
「馬鹿なっ!」

ドジャーはソファーから飛び上がり、
全身全霊で現実を否定した。

「お前がもらえるわけねぇだろ!」
「・・・・・患者さん達から感謝のプレゼントだ・・・・」
「・・・カッ!!義理じゃねぇか!」
「・・・義理・・・クク・・・確かにそうだ・・・だが・・・・俺にはあって・・・・」

お前には無いものだ・・・

「やめろっ!言うな!やめてくれっ!!」

ドジャーは頭を抱えて現実を拭い去った。
だが、
追い討ちをかけるようにレイズは畳み掛ける。

「・・・欲しいんだろ・・・クク・・・そう・・・義理だろうと一個あると無いでは違う・・・
 心は見えないからこそ・・・保証などないからこそ・・・・・もらったという事実がものを言う・・・・」
「やめろっ!」
「・・・・逆に義理如きだからこそ・・・・・義理如きも貰えていない事は・・・・破滅だ・・・・」
「やめてくれレイズ!!」
「・・・きっとお前は・・・毎年毎年・・・・"仕事で"・・・とかそういう予定を無理矢理作って過ごしたのだろう?
 ・・・・クリスマスも・・・そうだったんだろう?・・・・結局そんなのいい訳にならないのに・・・・
 予定のある奴は先延ばしだろうが・・・なんだろうが・・・ちゃんとイベントがあるのに・・・・」
「やめてくれ!やめてくれよ!」
「・・・他人にも・・・そして自分にも・・・いい訳は・・・・"出会いがないから"・・・・」
「心を代弁しないでくれー!!」

ドジャーは錯乱気味に叫んだ。
頭をかきむしる。
すでにドジャーのSP(精神力)は0に等しかった。
だが、
悪魔はだからこそ追い討ちをかける。

「・・・・お母さん・・・・」

ビクッ・・・
ドジャーの動きは心臓と共に止まる。

「・・・・潔く0なら諦めもつくのに・・・・一個だけ・・・母親からもらう気持ちはどうだろう・・・・
 最悪だ・・・最悪だよ・・・・・家族の優しさが・・・・何よりも心をえぐってくる・・・・」
「・・・ば・・・馬鹿。・・・設定上、俺の両親は俺がガキの頃に死んで・・・・」
「・・・・ククク・・・・番外編だから復活させといた・・・・・」
「勘弁してくれよぉおおおおおおお!!!」

ドジャーはその場に崩れ落ちた。
今日はもう帰れない。
何かの拍子で結果を聞かれるのが怖い。
自分の家なのに、言葉を交わすのが怖い。
バレンタインなのに、
気を使われて逆にその話題が出ない事が逆に怖い。

「・・・うぅ・・・・」
「・・・えー・・・イケメンでクールで主人公ポジションのドジャーさんが〜・・・チョコ無し〜?・・・」
「・・・ぐぅ・・・・」
「・・・・ノーチョコレートー?・・・・」
「・・・・う・・・う・・・・」
「・・・・バレンタインにチョコの一つも貰えない男とか・・・・・」

そして、

「・・・・・・・死ねばいいのに・・・・・」

聞きなれたそのセリフは、
いつ聞くよりも心をえぐった。
レイズの姿は閻魔大王よりも大きく見え、
ドジャーを見下し、
ドジャーは押しつぶされそうだった。
死のう。
そうさえ思った。

そう・・・死ねばいい・・・
チョコの一個も貰えないような・・・俺みたいな人間・・。

「・・・・『人見知り知らず』なんて呼ばれてても・・・バレンタインでは人見知りだなドジャーも・・・」
「まだ追い討ちをかけるか・・・・」

殺意も沸かない。
ただ敗北感と虚無感だけが自分を包み込む。


「ん?ガン首揃えておるな」


そう言って、
部屋の扉を開けて入ってきたのは、
イスカだった。
ただ、
この時のドジャーには男まさりなイスカが、
女神にさえ見えた。

「イスカ・・・まさかお前・・・俺に・・・・・」
「ん?」

見えただけだった。
すぐ正常な思考回路が働き、
それは有り得ないと悟った。

「・・・期待させんじゃねぇよ。こんなとこに何しにきやがった」
「ふむ。いやな、街を歩いておったら何やら皆言うのでな」
「・・・・何をだ?・・・・」
「どやつもこやつも口を揃えて"ヴァレンタイでー"、"ヴァレンタインでー"とか言うのでな。
 だからよく分からんからヴァレンタインとかいう奴の所へ来てみたというわけだ」

期待を大きく下回っていた。
こいつの常識と情報力の無さはここまでだったとは。
まぁいかにもチョコレートというよりは和菓子といったところだ。
イスカが可愛い包装紙をリボンで包んで持っているのは想像出来ない。
よくて高島屋とか書いた紙袋が似合う程度だろう。

「・・・・イスカ・・・バレンタインデーというのはな・・・・女が愛する男にチョコレートを贈る日だ・・・・」
「な、なんと!?」
「・・・・正しくは製菓会社の陰謀だ・・・・数多くの男が華やかなイベントの裏で涙を呑んでいる・・・・。
 勝ち組と負け組の決定日・・・・・・もらえず敗者になる者と・・・・幸せと共に歯医者に行く者・・・」
「うまい事いってんじゃねぇよ」
「・・・・黙れ敗者・・・・」
「くっ・・・」

ドジャーは歯を食いしばった。
虫歯になる心配が無いのがこんなに辛いとは。

「つまり、マリナ殿が拙者にちこれーとをくれる日なのか」
「チョコレートな」

無機質な顔で、
ドジャーはイスカを見た。
予想はしていた。
期待していないほど予想は出来ていた。
予想通り過ぎる展開だ。
いや、むしろここで主役にならなければイスカというキャラの意味さえ成さないだろう。
まるで恋する乙女のようにイスカはモジモジとしていたが、

「いや、お前女じゃん」
「拙者は性などとうに捨てた」

キリッと眉を上げ、
イスカは言う。

「・・・・・いや・・・なら貰う側にもなれんだろ・・・・・」
「む・・・・」

盲点だったと、
イスカは手をアゴに添える。

「だからってマリナ側は女確定だしなぁ」
「・・・・・なら逆チョコというのもあるぞ・・・・」
「ほぉ。なんぞそれは」
「・・・・男が女にチョコをやるという製菓メーカーの陰謀だ・・・・」
「ほぉ〜」
「いやだから何にしろ駄目じゃねぇか。お前は男じゃないだろ」
「それだ!」

イスカは指をドジャーに突きつける。

「拙者が男であればどちらでも問題ないということであろう?」
「いや、その発想が問題だろ」
「・・・・問題など無い。レイズ。お主医者だろう?性転換手術を拙者に施せ」
「番外編でキャラ設定を変更するな!」
「番外編だからだろうが!!」

泣きそうな顔でイスカが勢いよく言う。
必死だ。
本気で必死だ。

「レイズ・・・拙者に慈悲を・・・・」
「・・・・いや・・・・俺だってそんな事できん・・・・」
「番外編だろう!?」
「魔法かその言葉は!」
「希望だ!」

凄い執念だ。
この執念と欲望があればシンを黙らせて南斗聖拳の一角を担えるだろう。
だが。

「・・・・出来ん・・・・何故ならば俺は人の幸せが大嫌いだからだ・・・・」

悪魔は断固として拒否に徹した。
有情無き男だ。
悪魔が微笑む時代なんだと分かる。

「くっ・・・ならばこの両乳を自らの剣で切り落とすまで・・・・」

発想が怖い。
そうまでしてマリナからチョコを貰いたいか。

「・・・・胸が平らになろうとも・・・・ナニが無くては男とは呼べんな・・・・」

希望を絶つのが好きな男だ。
お前に希望は無い。
余命宣告より残酷な事を告げる医者だ。

「ならば拙者にナニを生やせっ!今日から拙者は二刀流になるっ!」

無茶な要求に対し、
レイズはゆっくりと中指を突きたて、
悪魔のような笑顔で、

「・・・・・・キュウリでも突っ込んでろ・・・・・」

患者を見捨てた。

「無念っ!無念っ!!!!」

イスカは本当に泣きながら病室を飛び出していった。
可哀想に。

「レイズ・・・お前酷いな・・・」
「・・・・もっと俺を褒め称えろ・・・・・」

・・・・。
これ以上言及するのはやめておこう。
イスカが居なくなった今、
また標的が自分に戻るのも目に見えている。

「んじゃぁ俺はそろそろおいとまさせてもらうわ」
「・・・・ククク・・・・今日と言う日・・・・どこへ行こうとも・・・お前に希望は無いぞ・・・・。
 ・・・・・だがそれでも無様に救いを求めるがいい・・・・微塵も無い希望に縋り・・・・無情な世界を歎くがいい・・・・」
「お前は魔王か」

だが十分に世界の終りに近い。
それが毎年訪れるのだから、確かに歎きたくもなる。


































「どいつもこいつも・・・・」

ミルレスからルアスに飛び、街を歩いていると、
よもやうんざり気味だ。
街中で幸せオーラが飛び交っている。

「イチャイチャチュパチュパ・・・・金払ってでも見せられたくねぇよ」

女は違うのかなとかドジャーは歩きながら考える。
マリナがそういう話に意外と食いつくのを思い出した。
本人曰く「自分と関係無い恋愛話は面白い」とか。
そりゃぁイスカやメッツへの対処を見ていれば分かるが、
まぁ、
そりゃぁ歌もドラマも売れるわけだと考える。

「女は分からん。不幸話も大好物なクセに」

やれやれと考える事で、
周りの風景から目を反らす事に成功した。

「あれ?ドジャーじゃないか」

不意にすれ違う。
周りのカップルに溶け込んでいたから気付かなかったが、

「あれ?こんな日に堂々と一人で歩く勇ましい男が居ると思ったらドジャーじゃないか」
「言い直すな」

ジャスティンが歩みを止めた。
当然のようにラスティルの肩に手を伸ばして。

「まぁ怒るなってドジャー。どうしたんだこんな所で。こんな日にもソロ狩りか?」
「ぶっ殺すぞテメェ」

ソロなんて言葉、
今日は一番聞きたくない。

「ま、逆に男で集まって傷を舐めあうよりマシか」
「お前・・・キャラ変わってねぇ?」
「そんな事ないさ。なぁラスティル」

ラスティルはコクンと無言で頷いた。

「そう。そんな事ないのさ。決してもう本編で死んだから人気取る必要が無くなったからじゃない。
 キャラランキングが無くなった時点で《MD》断トツの最下位だったからってそれを気にしてる訳じゃない。
 もう出番が終了して取り返しがつかなくなって投槍にグレたわけでは決して無い」
「根に持ちすぎだろ・・・・」
「レイズめ・・・3位のまま速効で勝ち逃げしやがって・・・・
 チェスターなんてわざわざ1話丸ごとストーリー作ってもらいやがって・・・・」
「・・・・・・嫉妬深いな・・・・・・まぁ確かに、お前ほど死相出まくってたキャラもいねぇぞ」

と、
ドジャーはジャスティンの肩に手を置く。

「長生きしたほうだ」
「やかましいわ!」

グレたジャスティンをおちょくると、
これはこれで気が晴れた。
よかったよかった。
53部隊のパーマ野郎(現在戦闘中)が言ってたっけか。
俺が幸せじゃなくていいんだ。
皆不幸せになってしまえばいい。

「まぁいいよ。俺にはラスティルが居る。こんな日でも俺は幸せだ」
「あー・・・あいあい」
「ドジャー。君は帰って大好きな"To LOVEる"でも見てるんだな」
「俺の好みを創作すんな!」
「さもなくばしょこたんのブログでも見に行けばいい。彼女は今日だろうとクリスマスだろうと、
 隠れ彼氏が居る可能性の余地が無いほど更新している。モテない男にとって女神じゃないか?」
「俺はジョジョの楽しみ方を間違ってる奴だけは女神にしないっ!」
「ふん。なら帰ってテレビか。今日もウェンツ瑛士のCMうぜぇとか呟くんだろうな。安い僻みだ」
「くっ・・・」

否定出来ない。
俺の負けなのか・・・。

「さぁ負け犬ドジャー君。帰ってパソコンの壁紙を"俺の嫁"に変える作業に戻るんだ」
「しねぇよ!」
「放置しておくとチョコレートを渡してくれるスクリーンセーバーに変えるといい」
「それは思いつく方がどうなんだ!」

どいつもこいつも馬鹿にしやがって。

「大体俺はキリスト教じゃないんでな!神は信じてねぇ!だからこんなイベント知った事か!
 キリスト教でもねぇのにクリスマスとか騒いでる奴の気がしれねぇな!踊らされてる馬鹿だ!」
「え?お祭り事が増える事になんの問題があるんだ?」
「ぐっ!」
「関係ないじゃないかそんな事。楽しい日が増える事に何の問題がある」

むか・・・むかつく・・・。

「まぁいいさ負け犬ドジャー君。帰ってオナニーして寝てればいい」
「番外編だからってなんでも言うな!お前!」
「布団の中で股間のジョイスティックで波動拳の練習でもしてろ」
「哀しみで殺意の波動に目覚めるわ!」

コルト=ジャスティンはこんなキャラだったか?
本当にもう出番が無いからって暴走しすぎじゃないか?

「まぁいいや。じゃぁなドジャー」
「ちっ・・・・」
「帰ってもプライドが邪魔してアスもメッセもログイン出来んだろうけどなー」

なんて捨てゼリフだ。
俺を見栄っ張り廃人と並べやがった。
いや、
そのプライドの何が悪い。
開き直るほどまだ感情は出来てないんだ。








ジャスティンが居なくなって少し歩く。
表通りは目に悪いから、
少し裏通りを歩いた。

「自分が情けない・・・・表通りを歩けない自分が情けない・・・」

ドジャーは十二分に自暴自棄になっていた。
レイズとジャスティンの卑語はドジャーの心を蝕んだ。

「勇気を出せドジャー・・・・人気(ひとけ)のある所にいかないとチョコの可能性も減るぞ・・・・」

だが、
それよりも傷つく恐怖がドジャーを弱くした。

「助けてドラえもん・・・・」

だがドラえもんのポケットからチョコが出てきても全然嬉しくない。
ドラミでも嬉しくない。

「毎年2月を29日制にして・・・日付は14日を削って調整すればいいのに・・・」

ジャスティンのキャラ崩壊よりも、
ドジャーのキャラ崩壊が危惧されてきた。
いや、ドジャーはこーゆーポジションで合ってるか。

「・・・・・ん?」

だがそんなドジャーの耳に、
バレンタインなんて関係なさそうなかけ声。
男臭さと汗臭さ。
ふと横を見ると、

「道場か」

道場だ。
同情ではない。
同情するなら義理チョコをくれ。
道場だ。

「《騎士の心道場》・・・なつかしいなおい」

道場を覗いてみれば、
懐かしい面々。
揃いも揃ってもう本編に出番の無い奴らばかりだ。
そしてバレンタインと無縁そうな奴らばかりだ。
心のよりどころだ。



「うわああああああああ!!」

道場には多くの門下生(男のみ)が壁際に立っていたが、
中心に居るのは数人。
その内の一人が竹刀ごと吹っ飛ばされているところだった。

「HAHAHAHA!!甘いぞリヨン!精進が足らんな!」

「お、おみそれしましたあああああ!師範!!!自分はぁああ!自分はぁああああ!
 まだまだ成果至らぬ事を悟りましたぁああああ!まだまだ力不足ですぅううう!!」

「HAHAHA!違うな!リヨン。お前がこのディアン様を倒せない理由は一つ!
 この俺様がお前の敵である"悪"ではないから!それだけだ!」

「な、なるほどおおおおお!悪は斬られるべし!斬られぬ悪など居ない!
 不毛なり自分!このリヨン=オーリンパックはあああ!生涯師範は倒せませぇええん!!!」

「HAHAHAHA!!」

暑苦しい。
暑苦しいぞ。
冬のはずだ今は。
ドジャーは影から見ているだけで団扇が欲しくなった。

「やれやれ・・・・・元気な事ですよ・・・・とぉ。なぁツィン」
「あぁ。確かに鍛錬は必要だが、こんな休日まで活き活きと修行出来るのはこの二人くらいですよ」
「そうそう。休日も休日。さらに今日は・・・・・」

「ヤンキ!!次はお前が俺様の相手だ!」

「・・・・・とぉ・・・」

絶妙のタイミング。
というより図ったようなタイミングで、
ヤンキが呼ばれる。

「勘弁してくださいよ師範。へとへとですよ・・・とぉ。
 大体テンションも下がりますって。何せ今日、世間は・・・・」

「2月14日だ!!」

ディアンは叫んだ。

「ヤンキ!」

「・・・は、はい?」

「今日は2月14日の土曜日だなぁ!」

「そ、そうですね・・・・」

「ただの!2月の14日目だ!」

目が・・・怖い。
アメットを脱いだディアンの、目が怖い。
鋭いというよりは・・・・必死というか。

「いや師範。だからつまり今日は・・・・」

「ヤンキィイ!!!」

「・・・とぉ・・・・」

「それ以外の何がある!」

「つまり今日は記念日というか祝い日というか・・・・」

「なんでだ!なんでただの2月14日が!?お前なんか勘違いしてるぞ!
 ・・・・・HAHA!そうか!昨日か!昨日と勘違いしてるんだなお前は!
 昨日は13日の金曜日だからな!この組み合わせはそうも無い!
 だから俺様昨日ツタヤでジェイソンを借りようと思ったら貸し出し中だったぜ!」

引きつるような笑いが、
道場にこだまする。
明らかに無理をしている。
誤魔化しがきいていない。

「あぁ師範、俺もミルレスのゲオ行ったんですよ・・・とぉ。
 そしたら特集組まれてて、恋愛ものがバァーっと前に・・・・」

「HAHAHA!馬鹿だなぁゲオは!ホラーはともかく恋愛ものを特集する意味なんてねぇのにな!」

「・・・・・・・・・・・今日が今日なんで俺はアレ借りようと思ったんですよ・・と。チャーリーとチョコレ・・・・」

「チャァァァアーリーズ・エンジェルな!あれは名作だな!」

「いや・・・チョコレートこうじょ・・・・」

「ツィイイイイイン!!!」

ヤンキの声を押し潰すように、
ディアンの声は違う方へ放たれた。

「・・・・なんでしょうか師範」

「ヤンキとは話が食い合わん!やっぱお前が俺様の相手しろっ!」

「・・・・いや実は師範・・・・俺・・・これから予定があってですね・・・・」

「よぉ・・・てぇ・・・い?」

ギラリとディアンの目が睨まれる。
ディアンだけじゃない。
道場に居る門下生全員の冷たい殺気が、
ツィンに向けられた。

「ほほぉ。ツィン。ただの2月14日に外せない予定とはなんなんだ」

「・・・・その・・・今朝ポストに女の子からの手紙が入ってて・・・・」

ディアンの動きが止まり、
道場が静かになった。
わなわなと、
地震に似た空気が立ち込めていた。

「分かったぞっ!!!」

だがディアンは負けない。

「果たし状だなっ!!!」

竹槍を突き出して言った。

「さすが我が弟子だ!ただの2月14日にも果し合いとはっ!そう!ただの2月14日だものな!
 何の問題もない!つまり別に果たし状が来てもおかしくない普通の日だものな!」

「いや・・まぁなんというか・・・」
「師範。ちょっと現実を見たほうがいいですよ・・・とぉ・・・」
「師範!しはぁぁぁああああん!自分も!自分も何故かぁああ!
 朝郵便受けにチョコレートが入ってたんですがぁぁあああああ!」

「な、なんだと!リヨン如きまでも!」

「何故ですかねぇ!普通の日なのにいい!毒!毒でしょうかぁぁああ!」

「違う!違うぞリヨン!それはお前にまだまだ"甘い"と言っているのだ!」

「ハッ!?」

「さぁ続けるぞお前ら!甘さも苦さもいらん!しょっぱい汗が俺様達には似合う!!」

・・・・しょっぱい涙もな・・・
ドジャーはソッと道場から離れた。
薄っすら涙も浮かんだ。

「・・・ディアン・・・誰もテメェを責めたりしねえよ・・・・」

男の中の男だ。
哀しみを乗り越えろ。
男だからこその苦難だ。

何故かドジャーは、
ディアン連帯感のようなものを抱き、
今度酒でも奢ってやろうかと誓った。

「・・・・まぁお前らもう本編に出番ないけどな」

挽回のチャンスが無いというのもまた哀しい。


































「城でもいってみっか」

気を取り直してドジャーは街の表通りに戻った。
基本的に風景からは目を反らした。

「アレックスとメッツが居るしな。気晴らしはダチにでも会うのが一番だ」

そう考えるが、
正直アレックスに会うのは気が引けた。
本編でもなんでかあいつの周りには女が居る。
ツートップで小説やってるはずなのに。

自分の周りにはライバル心剥き出す男ばっかりだ。

「クソッ・・・女キャラ増えてきたのになんで俺にはフラグが一切ないんだっ!
 最終話なんだから「この戦いが終わったら・・・」みたいなフラグあってもいいじゃねぇか!
 ダルシムにさえ美人の嫁さん居るんだぞ!なのに俺にはジャイ子フラグさえねぇ!」

いらんけど、
それさえない。

「スネークとかジェームス・ボンドみてぇに毎作違う女とっかえひっかえしてぇ!
 キャラなのか!キャラなのか!そーいうのはゴルゴやコブラみてぇなワイルドな男じゃねぇと・・・・」

そう自問自答のようでそうでもない事を歎いていると、
道端に人だかり。
目が痛い。

何せ真っ黒だ。

「親っさん!」
「親っさん!」
「もらってくだせぇ親っさん!」

男も尊大に混ざっているが、
それ以上に女の群れ。
その中心に、
ワイルドを形にしたような男。
リュウ=カクノウザンが居た。

「あぁ、あっしは甘ぇもんは嫌いで食えたもんじゃねぇ。残念だがツマミにもならねぇ」

「そんな事言わないで!」
「もらってくだせぇ親っさん!」
「親っさーん!」

「いやいや」

平然と群れの中心でリュウがタバコを片手に、

「受け取らねぇとは言ってねぇさ。こーいうもんはモノじゃねぇ。心の問題だ。
 あんたらの気持ちは十二分にあっしに届きまさぁ。それだけで桜咲くってもんで。
 これは温度で溶けちまう食い物だがぁ・・・・だからこそ、温かみと共に受け取る価値もある。
 受け取るさぁ。男が腐っちまう。差し出された心情に、受け取れない抱えきれないなんてねぇってもんで」

それこそ持ちきれないほどに、
リュウにチョコレートの包みが飛び交った。

「なるほど・・・・男にもカッコイイと思われるぐらいじゃないと駄目なのか」

ドジャーはそれを名残惜しそうに見た。
老若男女。
関係なくリュウの周りに人が群がる。
一方、『人見知り知らず』は人見知りに成り下がっている。

「親っさぁーん!親っさぁあああああああん!!」

よく見ると、
特に必死な女が一人。
ツバメだ。
他をどかしながらリュウにチョコを運ぶ。

「そんな元気あるならさっさと本編復帰しろ・・・・」

ドジャーの呟きなど届くはずもなく、
ツバメは両目をハートにして、
リュウに飛びついていた。

「親っさん!親っさーん!うちの愛をぉおお!」
「どけツバメっ!」

その勢いのツバメさえもどかしたのは、
トラジとシシオだった。

「親っさん。俺らにゃぁ分かりやす。親っさんに真に必要なもの。おいシシオ」

トラジに言われ、
シシオは懐(四次元ポケット)から何やらとりだす。
一見チョコの包み程度の大きさだが、
それは・・・・

「龍が如く3!PS3で2月26日発売でさぁ!」

なんでCMしてるんだあいつは。
大体ヤクザがヤクザを操作するのかよ。
ドジャーは呆れたが、
リュウは思いのほか嬉しそうだった。

「ようがす。美麗な画質で作り込まれた神室町が見れる。それだけでPS3が出た価値はありんした」

何を言ってるんだあいつは。
カッコイイ極道の長じゃなかったのか。
番外編だからって。
終わったキャラだからって。
キャラ設定放り捨て過ぎだろ。

いやいや、
北斗が次男、トキ様は言ってた。
キャラ設定は投げ捨てるもの(キリッ

「キャー親っさーん!私のスターオーシャン4を受け取ってー!」
「待て!2月は格ゲー祭だ!スト4とKOFも出るんだぞ!」
「馬鹿野郎!バイオ5こそ本命だろ!」
「マリオRPGだって出るんだぞ!」
「ヘイロー!ヘイロー!」
「無双オロチこそ親っさんへ!」
「男はメカだろ!親っさんには是非ともスパロボを!」
「どけどけぇ!お呼びじゃないよっ!」

春の新作ラッシュを掻き分け、
やはり出てきたのはツバメだった。

「親っさん!これをお納めください!」

そしてツバメは両手でソレを差し出した。
それは、
ドラクエ9だった。

「いけねぇ。そいつぁいけねぇよツバメ。そいつぁ"見えてる地雷"だ」

リュウは首を振った。
ここからどう挽回しようとも、
やってもいないのに。
発売さえしていないのに。
皆が求めるドラクエにはもう絶対に成り得ない。
そんなもう、どうしようもない一品だった。

「だが」

しかし、
リュウはその言葉と共に、
ツバメから地雷を受け取った。

「分かってていてもあえて踏もう。それが・・・ドラクエってもんの在り方だろう」

「親っさーーーん!」
「キャーー親っさーん!!」

歓声が沸く。
もう何が何だか分からない。
主旨がズレている。
ズレまくっている。
だが、
ドジャーにもリュウがカッコ良く見えてしまった。
これが、
これがモテる男のあり方か。

「俺も文句言いながらも・・・一応買っちまいそうだよ」

延期したがな・・・。
ドジャーは小さく笑い、
そしてその場を去ろうと・・・・

「親っさーん!」
「親っさん!チョコも!チョコももらってぇー!」

主旨がズレていたのに、
急に現実に戻された。
ゲームをやってる最中の、
真っ黒なローディング画面に自分の顔が映った時のような心境だ。

何で誤魔化しても、
バレンタインはバレンタインなんだ。

「カッ・・・いいんだ・・・俺は本命一つもらえたら・・・」

そう捨てゼリフを吐いて去ろうとしたドジャーの方を、
不意にリュウが振り返った。

「世の中ぁ、義理と人情でさぁ」

くそぉ!
そうだよ!
義理でいいから欲しいんだよ!

ドジャーは泣くように走り去った。

























「くそぉ!さっさと城に逃げ込もう!あそこは男ばっかのはずだ!」

心の安らぎだ!
ドジャーは逃げるように敵の本拠地へ走る。

周りのカップルなんて目に留めて溜まるか。
足が壊れてもかまわない。
全速力だ。
ブリズ全開。

無呼吸ブリズウィクが番外編の場で極まろうとしていた。

酸欠になるほどに走った。
猛烈に走った。
全てを振り切るために、
風になって走った。

「トヨタが倒産しても俺は走る」

ドジャーは全力で走った。
走った。
転んだ。
すでに慢心相違だ。
負けるか今日はホーリーナイト(聖なる夜)。
想像して鬱になるのは御免だ。

あんなに苦労したはずの城の外門は開いていて、
庭園へと抜け出た。

そして庭園の真ん中に出ると、

「ドジャァ〜〜〜!」
「ドジャー!助けてくれ!」

ロッキーとチェスターが居た。

「な、なんだなんだ?」

いつの間にか囲まれている。
左右を。
チェスターとロッキーが怯えるようにドジャーに寄り添った。

本編では戦場になっているココ。
その両極端に、
壮大なる人が向かい合っていた。

「戦争だよドジャァア〜〜!」
「第三次終焉戦争が始まっちゃったんだ!」
「ほ、本編まだ途中なのに!?」

ドジャーとチェスターとロッキーの両サイドに、
鬼気迫る男女が対峙している。
殺意さえ感じる。
なんだ。
この戦場。
何が始まろうとしている。
バレンタインなんて日に、
何が起ころうとしているのだ。

ドジャーがツバをゴクリと呑むと、
両者が一斉に動き出した。

「今日こそキノコ派を駆逐するぞ!」
「きのこの山ばんざーい!!」

「何を!今日こそタケノコ派が天下を取る日!」
「たけのこの里に栄光を!」

きのこの山。
たけのこの里。
きのこ派とたけのこ派の戦争だった。

「いや・・・確かにチョコの日だけども・・・・」

そんなどうでもいい派閥知らんがな。
ドジャーが呆れている中、
そんな事も知ったことかと、
キノコ派とタケノコ派の攻防は始まった。

「絶対にきのこの山だ!たけのこの里など二番煎じ!」
「そうだ!」
「きのこの山を見てみろ!この美しいフォルム!」
「曲線美!」
「見ておいしい!食べておいしい!これがきのこの山だ!」

「ふざけんな!」
「たけのこの里の一体感に気付かないのか!」
「チョコとスナックの神々しいマッチング!」
「サクサク感!」
「御菓子として一個体として完成している!」
「御菓子とはこうあるべきなのだ!」

「すぎのこ村とかきこりの切り株とかあるんだぜ!」

チェスターの乱入は華麗にスルーされた。
黒歴史と他社はお呼びではないようだ。

「一体感だぁー?」
「聞いて呆れるぜ!」
「きのこの山は二度おいしいんだよ!」
「そしてたけのこには無い分離の楽しさ!」
「チョコだけを分離させる楽しさはたまらん!」
「遊び心の想像。それがタケノコには無い!」

「てめぇらはポッキーでも食ってろ!」
「なら別々に食えばいいだろうが!」
「一つの芸術として勝負出来ない邪道だ!」

「キノコはチョコだけでもおいしいしスナックの部分だけでもおいしい!」
「パクッと食べればダブルでおいしい!」
「一挙両得だ!」

「ポッキーを馬鹿にするなぁ〜!」

とロッキーは主張したが、
誰も聞いていなかった。

「大体よぉ、タケノコの長所はそのスナックとの一体感だぁ?」
「粉とかでてきて食いづれぇんだよ!」
「キノコの上品さに劣る下卑た食い物だ」
「おっと近寄るなよ。服が汚れる」

「うっせぇ!」
「○○○型の御菓子が上品を口にすんな!」
「チョコだけ舐めて捨てる奴だっているだろ!」
「御菓子としての立ち居地がまず成り立ってねぇな!」

「あータケノコ厨は下品な人達でちゅねー!」
「御菓子としてだぁ?」
「ケケッ!知ってるか!?」
「内容量はきのこの山89gに対し、たけのこの里84g!」
「それからさらにたけのこの里は70g台にまで減ったんだってな!」
「きのこの山圧勝!!」

「ばーか!それはきのこが低品質の表れなんだよ!」
「墓穴を掘ったな!ざまぁ!」
「なら売り上げを知ってっか!?」
「たけのこの里のが売り上げは毎年高ぇんだよ!」

「工作員乙!」
「双璧と呼ばれていてもきのこの方がポピュラーだ!」
「並んでいてもマリオとルイージのような超えられない壁が存在してる!」

「アレックスとドジャーみたいだな」
「うっせぇチェスター」

変なところで巻き込んで欲しくない。

「おいおまえら!」
「お前らはどうなんだ!」

きのこ派とたけのこ派が、
真ん中の三人に聞いてきた。
巻き込まれた。

ドジャーはどうにかならないかと考えていたが、
どうにもなりそうにならなかった。
チェスターとロッキーが答える方が早かった。

「オイラはパイの実が好きだ!」
「ぼくは〜、小枝がいいな〜」

「帰れ!」
「枝も実も・・・山と里の前では小せぇんだよ!」
「きのこかたけのこかって聞いてんだよ!」
「おいそっちの盗賊は!」

「お・・・俺は・・・・」

ボソボソと、
しょうがなく答える。

「カントリーマァムが一番・・・・」

「却下だー!」
「却下却下!牧場厨め!」
「あれを俺達はチョコとは呼ばん!」
「どちらかといえばクッキーに組するものだ!」

なんなんだこの熱気は・・・
これが・・・
古から対立するニ派閥の闘争なのか・・・。

「お、おい・・・」
「会長だ!」
「会長が来たぞ!」

きのこ派も、
たけのこ派も、
一斉に姿勢を整え、
静かになる。

何事かと思えば、
城の方からカラカラと・・・
一人の男。

「ウフフ・・・・世の中は二種類だ」

車椅子の男は言った。

「"きのこ"と、"たけのこ"だ」

「どっちでもいいわーー!!」

突然現れた燻(XO)会長を振りぬき、
ドジャーは城へと駆け込んだ。




































「あーあ・・・本編でも来てねぇとこ来ちまった・・・・」

内門は開きまくっていた。

「いっそここから本編スタートでよくね?」

本音だった。

「内門までの道のりマジ遠そうだしよぉ。皆願ってるぜ。ひとっ子ひとりよぉ。
 クリスマス・バレンタインもとい、開くのは股だけじゃなくていいはずだ。
 内門だってガバガバでいいだろ。ガバガバでくぱぁーっといこうぜ」

その表現はどうかと思うが。
ドジャーは城内を探索し始めた。
特に城内のどこをどうというわけではない。
描写する必要もない。
城内のどこかを歩いている。
それでいいだろう。

「決して城内のネタバレを恐れて描写しないわけじゃねぇぜ?
 決してまだ城内のどうこうが決まってないから描写できないわけじゃねぇぜ?
 ・・・・ってなんで俺が代わりに弁解しなきゃぁいけねぇんだ」

つまらない事を口走りながら、
ドジャーはブラブラと歩く。
さすがにお堅い騎士団だ。
バレンタイン色はあまり見られない。

「なるほど。仕事を言い訳にバレンタインから逃げてるわけだな。やだねぇ公務員は」

けど俺も成りてぇ。
と、思ってもみない事を思った。

「・・・・・・・」

「うぉおお!!?」

ビックリした。
いつの間にか目の前に人が居る。
黙って立っている。

大きなリボンを頭に付けた女だ。
確か44部隊のメリーとかいう女。

いつの間に居たんだ。
魔女かこいつは?

「な、なんだよ・・・・」

ドジャーが問うが、
メリーさんは口が利けない。
ただただ、
ドジャーの前で俯いて、
顔を赤らめ、
胸に抱いた人形で顔を隠し、
モジモジとしているだけだ。

「どうしたってんだ・・・・いきなり照れ・・・」

ハッとドジャーは我にかえる。
女の子がバレンタインに男の前に。
そして照れてモジモジと。

「俺にも春(フラグ)が来たか!!」

いやまて。
待てドジャー。
まだ慌てる時間じゃない。
仙道もそう言っている。
オチケツ。
素数を数えるんだ。

「こいつとは本編でカケラのフラグも立っていないぞ・・・そんなおいしい話があるはずがない。
 これは罠だ!カッ!そうに違いない!孔明の罠に違いない!図ったなシャアッ!」

人間不信になりつつあるドジャーだったが、
それと裏腹に、
顔を赤らめてモジモジしているメリーを見ると。

「か、可愛いじゃねぇか」

駄目だ!
我にかえれドジャー!
これはつり橋効果みたいなものだ。
恐らく目の前にジャガー横田が居てもちょっと可愛いと思ってしまうだろう。
危ない危ない。
オチに利用されるところだった。

「危ねぇ危ねぇ。ドットーレの二の舞になるところだったぜ」

一人舞い上がった汗をぬぐうドジャーだったが、

「・・・・・」

メリーは俯いたままソレを差し出した。

「なっ!?」

渡すなり、
メリーはそそくさと一目散に逃げた。

「こ・・・これは・・・・」

わなわなとドジャーの手が震える。

「ほんまもんのチョコやないか!」

興奮で関西弁になった。
ただそれは本当にチョコであり、
銀紙に包まれた茶色の輝き。
板チョコだ。

「わいは!わいは生きててよかったよとっつぁん!」

キャラが崩壊かつ変貌していたが、
涙と共に、
ドジャーはチョコレートを口に・・・・

「ぶほぉっ!」

血糊と共に盛大に噴出した。

「節子っ!これ!チョコやない!カレーのルーや!」

夢は現実と共に敗れ去り、
ドジャーはorzの姿勢で崩れた。

「カレーの・・・ルーや・・・・」

心の底にキている。
オチがあるなんて分かりきっていたのに、
性根までもしかしたらと思っていたため、
痛いほど引きずっていた。

「アーリーな・・・・ドリームだったぜ・・・・・」

それはルー大柴だ。
そんなドジャーを、
物陰でメリーはクスクスと笑っていた。

殺す。

本編で絡みがあるとは思わないが、
台本をすっ飛ばして瞬間移動してでも奴を殺す。

ドジャーはメリーの殺害を心に誓った。

「もう誰も信じねぇ・・・・地球だって青くねぇ・・・・」

人間不信は増したものの、
なんとか心を建て直し、
ドジャーは廊下をまた歩き出す。
殺意は生きる原動力になるようだ。

「拙者は殺さ否の誓いを破るでござる」

抜刀斎のような目付きでドジャーは歩いた。


「チョッ!・・・・コレイト!」

すると廊下の向こうから、
歌い声。
見てみると、
パンダとオオカミ。
パムパムとキリンジが並んで歩いていた。

「女キャラなど飾りだ」

ドジャーはもう心を無心にした。
無我の境地に至った。

「チョッ!・・・・コレイト!」

それは放っておいて、
パンダ娘は何やら歌っている。

「チョッ!・・・コレイト〜。チョッ!・・・コレイト〜。チョコレイト〜は〜・・・」

そこまで歌ってパンダ娘は、
隣のキリンジを見上げる。

「森永?」
「ブルボンだパムパム」

明治だろ。
ドジャーはすれ違いながら心でツッコミをいれる。

「おぉ!そうだった!チョッ!・・・コレイト〜。チョッ!・・・コレイト〜」
「パムパムは歌がうまいな!」
「チョッ!コボ・・・チョコチョコ、チョ!コ!ボ〜!」

んぐ、
おしい。
いろいろと惜しい。

「チョコボボーーボーーボーーボッ!ボッボー!」

それは勝利のファンファーレだ。
違うのに分かってしまうじゃないか。

「チョ〜!チョッコボー!ねっておいしいチョコボルボールボ」

それは無理矢理すぎるだろ。

「は!か!た!の!し・お!」

全然関係ない!
だけど脳内再生されるのが悔しい!

「主旨がズレてきてるからやめろっ!」

ドジャーは我慢ならず叫んだ。

「お?」

すれ違ったパムパムとキリンジが振り向く。
そして、
ドジャーに向かって聞く。

「青雲!」

「それは・・・・・」

負けた
一言なのにツラれた。
勝手に続きが自動再生される。

「ハッハッハ!これが44部隊の力だ!」

何もしてないくせにキリンジは威張り散らし、
パムパムと歩き去っていった。
何が44部隊の力だ・・・。

「恐ろしい・・・・」

ドジャーは真に思った。



「世の中は時に不平等だ!!」

突然近くのドアの中から、
そんな悲痛な声が聞こえた。
ドアが開いているから覗き込んでみると・・・。

「暗躍部隊がドア開けっ放しにすんなよ・・・」

中には53部隊の面々が居た。

「時に!時に不平等だとは思わないか!?」
「何がだやかましいな」

平然と壁にもたれかかっているツバサが答える。

「時に44部隊を見てみろ。平等に女が配置されている時間だ。
 なのになんだ53部隊は!汗臭さばかりが滲み出てくる!
 世間は男女平等を訴えている時間なら!キャラ比率も男女平等にすべきだ!」

ガルーダがガラにも無く熱く語る。
いやだいやだ。
今まさにあんな奴と本編で対峙しているとは思いたくない。

「わっちがいるでありんす」
「時に黙れオカマ野郎。三本足のメスなどいない」

ジャックの言葉を一層する。

「時に俺はナニがついてる奴を女に分別する自身はない。萌えないゴミだ」
「心は乙女でありんす。それにおっぱいはありんす」
「シリコンだろ」

その言葉に、
スザクはうんうんと頷く。

「確かに。シリコンで女になれるならオナホールは世界一モテる女になれる」

何を真面目に語っている。

「これだから右手とオナホールが彼女の男は嫌でありんす」
「スザク。お前オナホールなんて使っているのか?」
「使ってまテンガ」
「使ってるだろ」

バレた。

「ヒャッホイ!だがだが!ついていればいいというわけじゃない。
 例えば室伏兄貴におっぱい付いててお前は萌えるか?」

萌えない。
熱い男なのに燃え下がる。

「わっちはスレンダーで美人でありんす!」
「それだけでいいなら俺は牛のダイエットを促進している」
「可愛いだけでいいなら一家に一匹猫がいますね・・・・」
「人間に例えるでありんす!」

イスカが居たら同じく議論していただろう。
シシドウとはこういう奴ばかりなんだろうか。

「でもさでもさ。僕はオカマにでもチョコもらえたら嬉しいと思うぜっ!」
「あら、シドは分かってりゃんせ」
「僕は嫌だな・・・・いや!決してジャックが嫌なわけじゃないけど、その・・・
 性的に生理的に受け付けないというか・・・いや!いや!あくまで僕の個人的な感情だけど!
 だけどその・・・・気分がいいものじゃないし出来れば関りたくないというか・・・・」
「ならチョコあげないだけでありんす」

ジャックはツーンと言ったが、
別にだからといって誰も強要しなかったため、
逆に傷ついた。

「自分で作って自分で食ってろ」

ツバサは酷い事を言った。

「・・・ひ、酷い輩達でしえ。オカマキャラの重要性が分かってないでありんす」
「ヒャッホイ。でもいっぱい溢れてそうでオカマキャラってすぐ思いつかねぇな」
「Mr.ボンクレーとかしかすぐ出てこない」
「る・・・るろ剣の鎌足とか・・・」
「いやっ!ネフェルピトーとか!」
「それはただの性別不詳だろ」
「メタルギアのメリルとかクレイモアのウンディーネとか」
「ただムキムキな女だろ」
「ジョジョのアナスイとか・・・」
「それはいつの間にか男になってたキャラだろ・・・・」
「・・・・ブ・・・ブリジットがいるじゃないですか・・・・」
「あんな可愛い子が女の子のはずがないっ!」
「ただの可愛い男の子じゃねぇか」
「まぁ時に気持ち悪くねぇオカマキャラを探す方が難しい時間だな」
「あーもー!ヒャァーッホイ!そんな事いいから!俺の嫁!俺の嫁はまだか!」

ボケた老人のように言うが、
残念だスザク。
イスカもツバメも既出だ。
絡みさえ期待できない。

「やっぱ男ばっかなのがなぁ。出会いがなぁ」
「シシドウから離散したのは女二人なのにねっ」
「だけどさっ。ギルヴァング隊長はメスライオンからシマウマの肉もらったっていってたぜ」

そのモテ方もどうだ。

「ま、いろいろだな・・・・」

ドジャーは同情と、
そしてかすかな仲間意識と共に、
その部屋から離れた。


「あー、確かに女キャラ偏ってるよな」

ドジャーは歩きながら考える。
《MD》でさえ偏っているのだから。
ある意味マリナ一人と言ってもいいぐらいだ。

「集まるところには集まってんだけどなぁ」

そう思いながら歩いていると、
なにやら人だかり。
オナゴ
女子。
キャーキャー騒いでいる。

その中心に居るのは。


「ほんと正直エクスタシーだね」

泣きボクロのハンサム野郎。
クライだった。

「待ってくれ。待ってくれよ君達。気持ちは嬉しいけど俺にはティルっていう心に誓った・・・・」

その声は、
ドンドンと遠くなっていった。

そしてクライの声を聞こえなくなった。

理由は単純。
ドジャーが素通りしたからだ。

「あいつは別にどうでもいいな」

興味のカケラもなかったから素通りした。
皆甘いのだ。
登場したからっていちいちイベントが発生すると思ってもらっちゃ困る。
魅力の無いキャラはこういう扱いで十分なのだ。


「じゃぁなんで今回はドジャーさんが主人公なんでしょうかねぇ」

むかつく声。
こんな事を言うのは一人しかいねぇ。

「おぉ、やっと登場かアレックス(主人公)」
「やっと会えましたねドジャー(ルイージ)さん」
「ルビがおかしいルビが」
「またまた〜。2コンキャラのクセに」
「2コンキャラで悪かったな2コンキャラで!」
「2コンにはスタートボタンさえ無いですよ。ショボッ」
「マイクが付いとるわ!使い道ほぼ皆無だけど!つーかファミコンで表すなっ!」
「せめて5コンならボンバーマンで有利なんですけどね。中途半端〜」
「ボンバーマン以外のゲームに参加できねぇよ!」
「いいじゃないですか。僕らは楽しく桃鉄やってますから。ドジャーさんはあぶれててください」
「あぶれてたまるかっ!」

そう対応しながらも、
・・・・このやり取り。
イヤに落ち着く。
なんだかんだでいいコンビなのだろう。

「アレックスぶたいちょ。誰ですか〜?この人は」
「あぁエールさんはまだ本編で会ってないですね。この人は・・・」
「いや、おい」

ドジャーはそこで制止する。

「え?なんですか?何もまだドジャーさんを馬鹿にしてないですよ」
「いやいや。「この人は・・・」の続きはどうでもいい。聞きたくない。
 ただ俺が聞きたいのはソレだ。そいつだ!」

と、
ドジャーはアレックスの横に並んでいるツインテールの聖職者。
エールを指差す。
それに対してエールは深々とお辞儀した。

「初めまして。医療部隊副部隊長のエールさんです」
「いや!いい!そういう自己紹介はいい!どーせ本編で会った時もするんだろ!二度手間だ!」
「ドジャーさん。根も葉も無いこと言わないでくださいよ。大丈夫です。
 読者様方々は空気の読める人じゃないですか。掲示板見れば分かるでしょ?
 先が読めててもちゃんと空気読んでコメントしてくれる素晴らしい方々が沢山います。
 エールさんとの初対面もうまいことスルーしてくれますって」
「違う!俺はそいつ自体がこの番外編に登場した事をつっこませてもらう!」

ドジャーは焦りと真剣が混ざった目で言う。

「驚いている理由!俺はありのまま今起こった事を話すぜ!
 俺はたった今、人気の無い新キャラを華麗にスルーしてここに来た・・・と思ったらここにも居た。
 作者のテコ入れとかヒイキとかそんなチャチなもんじゃぁ断じてねぇ!
 もっと恐ろしいものの片鱗を見た感覚だ!・・・・・・つまり、誰も望んでねぇだろって話だ!」
「そんな事ないですよ。エールさんは東方神起・・・・噛んだ・・・大人気ですよ」
「噛み様がないだろ」
「でも大人気ですよ。ねぇアレックスぶたいちょ」
「そうですよ。ランキングが残ってたら組織表で5位くらいですよ」
「ならねぇよ!」
「そんな事言ったらディアンさんこそ誰も望んでないでしょう」
「お作者を含めてですよね」
「あの辺はツィンとヤンキとリヨンが人気だったからオマケなんだよ!」
「ギルドマスターって誰かさんと同じで人気無いですねー」
「あ!そこに繋げたかったんだな!おい!カッ!頭に穴あけてやろうか?」
「やれやれ。これだから敗者の僻みは」

アレックスは涼しい顔で頭を振った。
余裕を含めた勝者の対応。

「な・・・なんだよ。勝者とか敗者とか・・・・」
「その余裕の無さが物語ってますよ。エールさん。25個目のチョコを」
「うぃ!」

エールは後ろの台車からチョコを取り出した。
・・・台車?
ずっとあったのか。
そこには二輪の台車があり、
これから納品にでも行くのかというほど山積みになっていた。

「ふむ」

アレックスはエールから渡されたチョコの包装を破り、
そしてパキッと口で割って食べた。

「うまい。余は満足じゃ」

アレックスは至福の表情で口に広がるチョコを味わう。

「フフ。ドジャーさん。燻(XO)さん風に言うと世の中は二種類です」
「・・・・・・・」
「エールさん。代わりに言ってやってください」
「うぃ!今日!チョコが貰える者と!その他です!」

背後にバーンという効果音が流れた。
その中で、
アレックスはチョコで口を汚しながら、ドジャーを見下した。

「て、てめぇ・・・まさかその台車に乗ってるやつ全部・・・・」
「もちろん。チョコレートです。軽く数百あります」
「全部・・・・お前の?」
「馬鹿ですねぇドジャーさん。ここには男が僕とドジャーさんしかいないんですよ?
 僕のチョコレートじゃなかったら、じゃぁいったい誰のチョコレートだと言うんです」

な、
なんてムカツク事を平気で言う奴だ。
圧倒的勝者が、
圧倒的敗者にかける言葉だ。
しかも、
言い返せない。

「あれ!?天下のドジャーさんはチョコレートを貰ってないとか!?」
「・・・・貰ってねぇよ」
「え!?ゼロチョコレート!?」
「あぁゼロだよ!!」
「ノーチョコレート!?」
「・・・・・ノーチョコレートだようるせぇな!」
「・・・・さみしくないんですか?」
「ぶっ殺すぞテメェ!!」

本編だけじゃなく、
番外編でも死なせてやろうかと思った。

「アレックスぶたいちょはモエモエなんですよ!」
「エールさん。モテモテの間違いです。まぁ今日の僕を指す分には間違ってないですけどね」
「なんて自信だ・・・・・ぶっ殺してぇ」
「アレックスぶたいちょはですねぇ!モエモエでモテモテだからチョコいっぱいです!
 もちろん仕事上の義理ばっかじゃないですよ!亡命も沢山です!」
「本命です」
「噛みました」

と会話しながら、
アレックスとエールの目が、
ニヤニヤとドジャーを見る。

「て・・めぇ・・・いい気になりやがって・・・・」
「あれ?プライドの高いドジャーさんもチョコが欲しかったんですか?
 やだなぁ。ドジャーさんともあろう方はクールで硬派だから興味ないものかと」
「アレックスぶたいちょは優しいからちょっと恵んであげてもいいですよっ!」
「絶対あげませんけどね」
「うるせぇ!いらねぇよ!中古のぬいぐるみと同じでもらいにくいんだよ!
 他人への贈り物とか思いとか気持ちが篭ってそうで怖ぇーっての!」
「ドジャーさん。あげませんけど一つ勘違いしています」
「ぁあ?」
「チョコは本命か義理か。そういう心の問題ではありません」

誇らしげに、
アレックスは人差し指を立てて言う。

「食えるか、食えないかです」

自分が女に生まれても、
こいつにだけはチョコをあげたいとは思わない。

「世の中食うか食われるか!なら僕は食べる側に立つ!」
「アレックスぶたいちょ!かっこいい!」
「人道としては間違ってるだろ・・・」
「ノーチョコレートのドジャーさんは男として間違ってますけどね」
「うるせぇ!数じゃねぇんだよ!」
「チョコナッシングに言われてもなぁ」
「アレックスぶたいちょ。チョコナッシングってなんですか?」
「それはですね。チョコが無い、追い詰められた人の事を言うわけです。
 野球で言うツーナッシングですね。後が無い。そして未来に希望もない」
「お前ほんと酷いな!」

悪役のポジションに立つべきだ。

「そんなアレックスぶたいちょでも変体だった時もありましたね」
「大変だった時ですね」
「噛んだけど間違ってもないですね!」
「解雇しますよエールさん」
「・・・・う・・・うぃ・・・・」
「んで?大変だったってのは?」

しょうがないから聞いてやるって顔で、
ドジャーは聞いた。

「そうなんですよねアレックスぶたいちょ!サラダコさんとタワレコさんの姉妹が!」
「サクラコさんとスミレコさんですよ」
「噛みました」
「で?」
「朝はサクラコさんに拉致されてですね」
「ら・・・拉致・・・」
「はい。地面にチロルチョコが次々と落ちてたので拾っては食べてたら変な部屋に・・・・」

お前は猿か。

「それでピンクチェアに縛り付けられましてね」
「アレックスぶたいちょ!ピンクチェアってなんですか!」
「ググってください」

いや、ググらせるな。

「そして一個一個チョコをあーんさせられました」
「・・・・自慢にしか聞こえねぇなぁ主人公!」
「全部カカオ99%でした」
「うぉ・・・・」
「おいしかったです」
「満足してんじゃねぇか!」
「アレックスぶたいちょ!アレックスぶたいちょ!にっくきスミレコ惨敗も!」
「先輩ですよ」
「噛みました」

言われてドジャーは辺りを見回した。

「そういやスミレコ見ねぇな。ストーカーキャラだから企画にピッタリだってのに」
「昼に宿舎に戻ったらですねぇ。スミレコさんの彫像が立ってました。
 彫像かと思ってたら、チョコまみれのスミレコさんでした」
「怖っ!」
「何故かミケランジェロの像のポーズでした」
「怖ぇよ!」
「私を食べてって奴ですよねアレックスぶたいちょ!」
「はい。あれは食べ難かった・・・・」
「食ったのかよ!」
「ひとカケラも残さず舐めとりました。スミレコさんは満足したようで、今、夜分の準備をしてます。
 ついでなんで、夜はグリコのポーズで立っててくださいとリクエストしときました」
「つらそうだ!んなリクエストすんなよ!」
「丁度100個目のキリ番だったので」

ホームページじゃないんだから。

「まぁ今日は主人公の貫禄を見せ付けるにはいい機会でしたね」
「貫禄っていうか貞操概念が崩れた気がするがな」
「アレックスぶたいちょ!エールさんの人気は増えましたかねぇ!」
「難しいな」
「エールさん。人は人に好かれるために生きてるわけじゃないんです」
「う、うぃ・・・」

あれはあれで同じような負け犬だとドジャーは思った。

「まぁいいや。それよりもよぉアレックス、俺は何もお前だけ見に来たわけじゃねぇんだよ」
「知ってますよ。何かあわやっていう期待を求めて彷徨ってみたんでしょ?」
「俺をドンドン惨めにするな。メッツはどこだよメッツは」
「えぇ!?ドジャーさん。メッツさんとは兄弟で家族で親友で仲間で、その上恋仲だったんですか?」
「♀x♀議論もオカマ議論も十分に通過してきたからもうそういう話題はいらん」

むしろ恋愛話の方が少ない。

「なぁんだ。残念」
「エールさんも残念です!間接的にガチムチ動画の何が面白いのか教えてくれると思ったんですけど!」
「それは俺にも分からん」
「そんなもんですよ。外人さんも自分でも何が面白いのか分からないのに、
 ドナルド中毒になる人が増えているそうです」
「地球終わってますね」
「俺はそんな地球が大好きだ。んで?メッツは?」
「あ!メッツさんで思いだしました。FF13にギルガメッツってキャラを作ろうと思うんですけど」
「何故お前にそんな権限がある・・・・」
「でも強そうですねアレックスぶたいちょ!」
「でしょう?主人公はスコール・リオンハートです」
「リオンかよ・・・暑苦しそうだな・・・・。んでメッツは?」
「エールさんメッツで思い出しましたよっ!ジャニーズJr.にメッツっていうグループが・・・・」
「YOUは黙っちゃいなよ!メッツは!?」
「あれれ。ドジャーさんったら必死になっちゃって。もー、ツンデレなん・・・・」
「メッツプリーズ!!OK?!」

キレ弾けそうなドジャーを見て、
やっとアレックスは答えた。

「メッツさんならここじゃないですよ。マリナさんの店行きました」
「お?そうか。そういやそうだわな。44に位置してるからここに配置されてると思ったんだが、
 よぉく考えたらイベント的にはメッツはそっちにいなきゃなんねぇな」
「RPGが苦手そうですね!」
「そんな事ないですよエールさん。ドジャーさんは友達いないからRPGばっかやってます。
 その反発でネトゲで厨房化し、FF11のブロントさんの再来とまで言われて・・・・」
「もういい!付き合ってられん!俺はもう帰る!」
「5様がお帰りになられます!拍手でお送りください!」
「わー」

言葉通り付き合ってられなくなり、
ドジャーはアレックスとエールを放っておいて、
そのまま体を翻したが。

「・・・・・・」

帰ろうとした矢先、
そこには一人の女がウロウロとしていた。
それが目に入ってしまった。

黒髪のその女は、
挙動不振のように。
そして決心がつかないようで、
ただただ、
チョコを抱えてその場を徘徊していた。


「うぅ・・・兄上・・・兄上・・・・・」

ツヴァイは、
決心のつかぬままウロウロしていた。

「・・・・ブラコンが」
「見なかった事にしましょう・・・・」
「うぃ・・・」



































「結局ここか」

ドジャーは見慣れたその店の扉に手をつく。
酒場Queen B。
カランカランという心地よい音と共に入り口を潜り、

「どあーー!滑っちまったー!!」

そこでは豪快にメッツが転倒していた。
椅子やテーブルをひっくり返し、
屈強な男は瓦礫の中へと埋もれていた。

「あたた・・・・・」

メッツは椅子や食器の瓦礫の中からドレッドヘアーを出すと、

「俺としたことが・・・・"チョコ"っとドジっちまったぜ・・・・」

「・・・・・・」

ドジャーは呆然とそれを見守るしかなかった。

「ガハハ!俺ってばおっ"チョコ"ちょいだからな!」

お前はトレパン先生か。
露骨すぎる。
そして、
哀しすぎるぞ。
今まで経過してきた中で一番哀れだ。

「・・・・・・メッツ。ちょっとこっち来なさい」
「お?なんだなんだマリナ。なぁーんだろうなぁー。別に何か期待してるわけじゃねぇんだけど、
 こんな日に俺に何の用があるんだろうな。分からん!分からんがどうしたマリナ!」
「店を荒らすんじゃないっ!」
「ほげぇ!」

もらえたのは鉄分でなく、
鉄拳だった。
お怒りの女王の拳がメッツを貫き、
鮮血と涙と共にメッツは空中で弧を描いた。

「ぐ・・・・ほぉ・・・・」

鼻から血を滴らせているメッツが、
入り口のドジャーの前に仰向けに転がった。

「・・・・よぉ。ドジャーじゃねぇか・・・・」
「・・・・・・どうしたメッツ。チョコ食いすぎて鼻血が出たか」
「違うわい・・・うぐ・・・・ちょっと目にカカオが入っただけだい・・・・」

目が潤んでいる。
屈強な体はあまりにひ弱そうに見えた。

「マァーリナ。メッツの野郎、露骨に期待してんじゃねぇか。
 バレバレだろ?仲間なんだからやっかい払いのつもりで恵んでやれよ」
「ここはお店よ。お金を払えばいくらでもくれてやるわ」

鬼だこの女は。
愛も何もない。

「うぅドジャー・・・金を恵んでくれ・・・・」

鼻血をふき取りながらメッツは起き上がる。

「そうまでしてマリナのチョコが欲しいのかよ」
「凄く欲しい!」
「いくらなんだ」
「・・・・・20万」
「高っ!ボッタじゃねぇか!新卒の手取りを大きく上回っているっ!
 俺だったらプラズマテレビとPS3を買ってブルーレイを導入するぞ!
 そして矢沢永吉の真似をしながらソファーでブルジョワジーに浸る!」
「俺はブラウン管にセガサターンでいいからチョコが欲しいんだ!」
「マリナがくれるチョコなんてヴァーチャルボーイぐらいガッカリするに決まってる!」
「ちょっとちょっと。言ってくれるじゃない」

マリナは腰に両手を当て、
不機嫌に答えた。

「料理人である私が作るのよ?お値段相応のものは用意してあげるわよ」
「ほぉ。例えばどんなだ」
「チロルチョコをドーンと1万ダースくらいあげるわ」
「作ってくれよ!」
「しかも利益出てるっ!」
「キッチリしてるのよ私は。買う時も消費税がかからないように1個づつ買うわ」
「ドジャー!ある意味手間隙かかってるチョコじゃないか!?」
「騙されてるぞお前・・・・・」

不憫な親友を持ったものだ。

「ならチョコボールに変えてあげてもいいわよ?エンゼル当たるかもしれないし」
「お・・・オモチャの缶詰・・・・」
「騙されるなメッツ!」
「でもドジャー・・・オモチャの缶詰が当たるかもしれないんだぞ・・・」
「当たってもエンゼルがもったいなくて多分送らないぞ!」
「ハッ!危ないっ!キョロちゃんの魅力に騙されるところだった!」
「そうだ落ち着けメッツ。お前はチョコボールよりチョコボール向井が好きだったはずだ」
「そうだった・・・俺は彼に憧れ・・・毎夜DVDで予行練習に明け暮れ・・・・いや!違うだろ!」
「よぉし、落ち着いてきたぞ」

その調子だ。
冷静になれ。
あんな魔女に騙されちゃいけない。

「ウダウダ言ってるんじゃないわよ。私から貰えるだけで凄く嬉しいでしょ?」

メッツは一瞬マリナを見たが、
答えるようにドジャーの方を見、
親指を立てた。

「超嬉しい!!!」
「満面の笑みで言うな。喜びが滲み出すぎだ。お前は肉汁か」
「でも想像すると俺嬉しすぎる!笑顔が止まらない!」
「過剰品質なんだよ。笑顔ってのはちょっとで天下が取れるんだぞ。
 ヨン様見てみろ。5mmくらい笑うだけで大金持ちだ。ヨォ〜モニィ〜〜〜〜〜♪」
「ドジャー!俺はヨン様と小栗旬の人気だけは分からないんだ!もっとカッコイイ男いっぱいるのに!
 なんで嵐はマツジュンじゃなくて二宮君が人気なんだ!それが分からないからモテないんだろうか!」
「結局アラフォー世代を勝ち取れるかどうかなんだ」
「アラフォーって流行語にならなきゃ知らなかったよな」
「そしてメッツ。お前が今欲しいのはアラフォードだ」
「そうだ!チョコ!」

メッツは悔やみきれず、
マリナに目を真っ直ぐ向け、手を差し出す。

「チョコをくれ!」

おぉ、直だ。
それぞ男らしい。
メッツよ、それでこそ男だ。

「・・・・・・」

マリナは右手を差し出し、
親指を立てた。
立てたと思うとそれを反転させ、

「断るッ!!」

地に突き下ろした。

「うわぁーーんドジャー!」

自分より一回り大きい男が泣いて抱きついてくる。
いい。
何も言うまい。
それでこそ男だ。

「やっぱりマリナからチョコがもらえねぇ〜〜!これも不景気のせいなのか〜!」
「全てサブプライムローンのせいにするな・・・・」
「オバマ効果による特需は無いのかぁ〜!?」
「麻生を見てやれ。彼がどうにかしてくれる。漢字の書き取りとか」
「・・・・・・ドジャー。俺は思うんだ」

ドジャーは涙目を切らし、
ドジャーを見据える。

「何故ホワイトデーが先にこないんだ。そうすれば半強制的に女の子からチョコがもらえるのに」
「冷静に考えてみろ」
「・・・・・やっぱそうなったら返ってこないかな・・・」
「そう。逆に考えるんだ。渡すだけ損にならなかっただけマシと考えるんだ」
「ならいっそバレンタインデーなんて無ければよかったのに!」
「その通りだ同志よ!」

親友は、
肩をとりあった。

「今年は"バレンタインデー中止のお知らせ"が足りなかったんだ!」
「バレンチノ司教を蘇生し!記念日じゃなくすんだ!」
「チョコじゃなくて酢コンブとかに変えれば流行らなくなるはずだ!」
「良純に頼んで天気予報を工作しよう!」
「カカオを高騰させっ!逆にカツオを売り出そう!」

「その必要はないっ!!」

威勢のいい声と共に、
入り口が開け放たれた。

「覚悟を決め、して参じた」

そこには、
イスカが威風堂々と立っていた。
諦めない心。
何を・・・
何が彼女をそこまで奮い立たせるのか。
いや、
何が彼女をそこまで追い詰めるのか。

ドジャーは感服し、
言葉にならなかった。

「チョコレートを一つ、もらおうか」

イスカの着物から、
キュウリがはみ出ていた。

















































「ん〜〜・・・・・・」
「どうしたのチェスタ〜〜?」

あぐらをかいて座り込み、
考えるチェスター。
それを不思議そうに見るロッキー。

「も〜お話終わっちゃうよ〜?」
「いやさっ・・・・なぁにか忘れてるよぉな・・・・」
「なぁに〜?」
「なんかこう・・・・パターンっていうか・・・・お約束っていうか・・・・」
「えぇ〜?」
「何ていうか・・・・・いつものオチっていうか・・・・・それが無い気がして・・・・」
「そうかなぁ〜・・・・?」

チェスターとロッキーは二人して考えたが、

「・・・何っていうか・・・だぁれか忘れてるような・・・・」
「も〜みんな出たよ〜?」
「そうだよなぁ〜」
「うん!」
「ならいっか!」
「うん!」


思い出せないまま、
時計はチクタクと終了を奏でた。





























                 






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