「こらえろ!!ただこらえろ!!!」

そうとしか。
そうとしか命令は出せなかった。
指示は出せなかった。
前方に敵が居る事は分かっている。
だが、
後方の森にも1万の魔物。
致命的で決定的。
そんな挟み撃ち。
挟まれた。
いや、
囲まれた。

「耐えてくれ!堪えてくれ!まだ・・・・まだ終わってないんだ!!」

ジャスティンは、
ただ、
指示とも、
命令ともいえない。
そんな、
そんな心情論を叫ぶしかなかった。

「耐え切ればまだ未来はある!光はあるんだ!」

兵を納得させるだけの言葉。
そんなものは出せない。
アレックスから来たWIS。
それは成功するならば・・・
だが言えない。

「固まれ!できるだけ固まるんだ!向こうには範囲攻撃は少ない!
 固まって堪えろ!堪えるんだ!時間を・・・・いや・・・・・命を稼げ!!!」

命令でも指示でもない。
ただ本心だけを叫んでいた。
ジャスティン自身、
逃げ出したかった。
今にも、
今の今にも魔物に飲み込まれてしまいそうな圧迫感。
仲間の悲鳴が聞こえるたびに逃げ出したくなる。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
絶体絶命なんて言葉はあまりにも陳腐だったが、
それが重くのしかかった。

守りきるしか、
凌ぐしか、
堪えるしか、
我慢するしか、
・・・・・死を待つしか手段がない。
選択肢がない。

だが、
自分でさえ逃げ出したかったのに、
そんなジャスティンを支えたのは・・・
味方だった。

誰一人逃げ出さない。
根拠無き絶命の場。
誰も、
誰一人も。
皆、
同じ気持ちなのだろう。

誰も逃げ出さないなら自分も逃げ出さない。

「クソッ・・・・どれだけ堪えればいい・・・どれだけ・・・・」

どれだけ堪えても無駄かもしれない。
だが希望というのは麻薬だ。
一瞬光が刺せばすがりたくなる。

着信する気配のないWISオーブを、
腕時計のように何度も確認した。


「無駄なんじゃねーの?」

怒りでブチ切れそうになる言葉を発したのは、
メテオラだった。

「・・・・メテオラ。てめぇなんつった!」

「おーおー。冷静なようで煮詰まってるねぇリーダー」

周りの状況。
死に絶えないために。
自分が、
皆が死に絶えないように、
この修羅場に必死になっているというのに、

メテオラはまだシートの上に座り込んでいた。
両脇に女を抱いたまま、
まるで花見のように。
それが心の底から憎らしかった。

「メテオラ・・・・てめぇ・・・・フレアが離脱した今!《メイジプール》のリーダーはお前だろ!
 何してやがるんだ!死にたいのかてめぇ!!今がどういう状況か・・・・」

「片腕骨折して戦力にもならないクセに。出す指示もない。
 なのにキレる事だけはいっちょまえか?リーダー」

「・・・・・・・ッ!!・・・・」

返す言葉もない。
その通りだ。
自分は役立たずだ。
戦える体でもなければ、
今皆のためにできることは無意味な声をあげるだけだった。
だが・・・
だが・・・・

「お前に言われたくないメテオラ!!お前・・・・こんな時に・・・・・
 お前のそんな行動で周りの奴らはどういう風に感じてしまうか分かっ・・・・」

「あっ、気にすんな。帰るし俺」

「・・・・は?」

あまりの・・・
あまりに思いがけない言葉で、
ジャスティンは少々思考を欠いた。
思考が止まった。
周りの戦争の音が、
全て消え去ってしまったかのような感覚。

「聞こえなかった?俺、もう帰るから。おつかれさぁーっす」

冷静になったと思うと、
血管が切れていくような音が脳内に響き渡った。
メテオラ。
メテオラ・・・・。
こいつは・・・・。
・・・・。
ムカつく奴だとは思ってた。
気に食わない奴だとは思ってた。
絶対分かり合えない味方だとも思ってた。
だが・・・・。
・・・・。
こんなに終わってる奴だとは思わなかった。

「てめぇ・・・・」

「え?何怒っちゃってんの?だって俺の役目終わったっしょ。
 フレア嬢ちゃんのメテオ操作の役目はしっかりこなしたしよー」

「フレアがいない今!お前が《メイジプール》を指揮しないといけねぇだろが!!!」

「何それ。今さっき出来た指示じゃん?俺カンケーねぇーし」

メテオラは、
憎らしい、
捻くれた表情で、
言葉の通り「カンケーねぇーし」という表情のままに、
そんな事を言う。

「なんならまぁ、俺、もう《メイジプール》やめるって。
 《メイジプール》に居たらこんな負け試合に付き合わなきゃいけねぇんだろ?
 死んじゃうじゃねぇか俺。やだよそりゃ。俺巻き込まれるの大っ嫌いだっつったろ。
 世の中には二種類の人間が居る。"引き際を分かってない人間"と・・・俺だ。・・・・つーことで」

「ふざけんな!!!!」

あまりの怒りで、
混乱を招くほどの怒りで、
ジャスティンは頭の中で熱がグルグル回っている感覚に陥った。
その中でもただ、
目の前に座り腐ってるこの男をブチ殺したいとさえ思う怒りを確かに、
怒りを叫んだ。

「お前が今逃げ帰ったらどうなる!!お前の指示を待ってる奴はどうなる!
 お前を頼りにしてる奴はどうなる!お前が逃げた事で不安に思う奴はどうなる!
 お前が帰った事で「自分も・・・」って弱音を吐く奴が出てきたらどうする!!!」

「カンケーないね」

メテオラは、
口の中、
口の裏側で舌で遊びながら、
憎らしいナマイキ顔で言う。

「俺、巻き込まれるのは嫌いだけどよぉ、俺のせいで巻き込まれる奴ぁどー・・・・でもいいな」

「クソ野郎・・・・」

「よく言われる。あとクールでカッコイイね・・・ともな♪」

クソ野郎で、
クズ野郎で、
カス野郎。
そうとしか言えない・・・
こいつは・・・
こいつは・・・
終わってやがる。

「って事でこのモテモテの自由人メテオラ=トンプソン様は帰らせてもらうぜ。
 いいねー。俺かっけーなぁおい。世の中は二種類。若い女にモテねぇ奴と俺だ。
 ヒントやろうか?若い女(ティーンエイジャー)っつーのはよぉ、ラクショー。
 悪い奴や、型に捕われない自由人。今しか見てねぇアウトローに惚れるわけよ。
 ガリベンイケメンよりヤンキーがモテる。大事な授業は体育だ。OK?」

「・・・・・視界からうせろクズ野郎・・・・」

このクズ。
クソ。
カス。
得体が知れない。
なんというか、
"生々しいほど気持ちが悪い"
外見は本人の言うとおり整っているが、
心がガタガタに腐ってる。
そして、
生態系もガタガタだ。
これほど腐った奴なのに、
あり得ないほど有能だ。

GUN’Sでは六銃士(リヴォルバーナンバー)
《メイジプール》ではオフィサー・・・いや、副マスターと言ってもいい。
その上、
その上、
アレックスの父親のGキキを所持している。
これほど巻き込まれるのを嫌うクズ野郎のクセに、

何かしら絡んでやがる。
関係ない彼岸から釣り針だけひっかけてきているような・・・・。
胡散臭くて、
気持ち悪い。
そして間違いないのは、

存在自体がヘドが出る。

「てめぇみてぇな奴!!さっさとどっか行っちまえ!!」

「おーおー。言わんでも行くっつってぇーのー」

「二度と俺の前に顔を見せるな!!!」

「あー、そりゃ無理。俺、ノーリスクでおいしいもん戴くのが生き甲斐だから。
 敵だろうが味方だろうがどうやったってあんたとは絡・・・・」

「声も聞きたくねぇんだよ!!」

全力の声を使ったと思う。
ジャスティンは、
目の前にいる汚物に、
罵声の限りを全力でぶつけ、
それは誰の目で見たって明らかな本音だった。

それでも、
メテオラは両脇に女を二人抱いたまま、
座り込んだままヘラヘラ笑い、
軽くモンブリング帽を整えた後、
やはりヘラヘラと、
見たくもない笑顔をふりまきながら、
「近いうちにまた会おうぜリーダー」
とだけ言い残して、
ウィザードゲートで天に登っていった。










































「・・・・はぁ・・・・とうとう脱落者が出たか」

その二人組の片方は、
天に昇るゲートの光を見てつぶやいた。

「レント(遅)すぎるほどさ。この時点で逃げ出すような奴は、脱落者じゃないよ。
 それは反逆者さ。指揮者のテンポに合わせないプレイヤーってのは、
 どうしてもオーケストラ(団体)には混じってしまうもの。
 それがここにきて音に表れただけ。三拍子と四拍子のように噛み合わない者さ」

「どちらにしても美しくないよ。何が美しくないって?
 三拍子と四拍子(噛み合わないリズム)も、目指すところ(演奏終了)は合わさるからさ。
 なのに途中で噛み合わないってことがとてもとても、哀しさと言っていいほど美しくない」

「やっぱり君の意見はアルツァメント(高揚するよ)。とても気が合う。
 職人の気質かな。君とはいつかコンビでディエットしてみたいね。エクスポ」

「気持ちは重な(ハモ)ってるさ。だけど叶わぬ夢だよミヤヴィ」

戦場のド真ん中。
同じ方向を、
並んで見ている二人が居た。

それは、
《MD》所属、
『時計仕掛けの芸術家(チクタクアーティスト)』
モントール=エクスポ。

そして、
《44部隊》所属、
『戦場のモーツァルト』
ミヤヴィ=ザ=クリムボン。

敵同士の二人で、
それらが肩を並べていた。

「まぁ立場が立場だからね」

「立場か。出会いの形だけで同じ思想の人間が違(たが)うのは美しくないな。
 本来ならボク達は同じ方向を見つめる同士になりえたかもしれないのにね」

「それは違うさエクスポ。音楽家は同じ方向を見て同じ曲を演奏するが、
 ただ一人、同じ曲を演奏するのに向かい合う人間がいる」

「指揮者かい?」

「そうさ。やっぱり君は理解し合える人間みたいだ。同じヘ長調の楽譜を奏でたかったね。
 そう、指揮者さ。全ての音楽家は兵隊のようなもので、たった一人の指揮者と向かい合う。
 僕にとってそれはロウマ隊長で、それ以外のタクト(指図)に合わせる気はないんだ」

「芸術とはその者自身を現すとはよく言ったものだね。
 音だろうが絵だろうが彫刻だろうが、完成品にはその人自身が投影される。
 それはやはり環境もさ。君の芸術には君の置かれている状況がありありと出るわけだ。
 同じ感性の人間でも違う芸術が出来るのはつまりそういう事。
 やっぱり立場だね。それだけで君とボクは相容れない芸術家・・・というわけか」

「エクスポ。君は本当に素晴らしい。目と音だけで演奏を共に出来る仲間のようなハーモニーだ。
 1を話すだけで10を理解してくれる。歌詞がなくとも伝わるインストゥルメンタルだ。
 道が違わなければ相容れただろう。分かり合ってるのに相容れない。哀しいトレモロだ」

「それはまるで恋のようだね」

「君流に言わせてもらえば美しい表現だ。いつかそんな歌を作らせてもらうよ」

エクスポ。
ミヤヴィ。
単純に、
簡潔に、

敵同士。

なのに、
芸術家と、
音楽家。
これほど畑の合う人間同士は居なかったのだろう。
あまりにも分かりあえ、
あまりにも気があい、
あまりにも違和感のない、
親友を超える・・・・
それは同調(シンクロ)
ただ戦場で出会っただけなのに、
二人はそれを感じていた。

だが、
敵同士。
考え方も同じなら、
感じ方も同じ二人だが、
目指すものが違う。
置かれている立場が違う。

どんなに同じでも、
《MD》と、《44部隊》
それは、
言うならば鏡に照らしたような関係。
同じでも、
全く同じでも、
向かい合うしか・・・・・対峙するしかない関係。

「いいのかい?エクスポ」

「いいのさミヤヴィ」

「なにがいいのか?って聞かないんだね」

「分かってるからさ。ボクの方はかなり危ない状況だけど、助けに行かなくてもいいのか・・・だろ?」

「その通り」

「そうすると君はボクを攻撃しなければいけない」

「そう。戦いのダカーポさ」

二人は・・・・
エクスポとミヤヴィは、
それぞれが共に同じ方向を見て並んでいたが、
同時に"臨戦態勢"にも入っていた。
敵同士。
敵同士だからだ。
戦うべき相手だからだ。

どちらかが動いたら、
どちらかが隙を見せたら、
そこで開幕。
なだらかに見えて張り詰めた状況だった。

・・・・・。
それでも、
それでも不思議だった。
二人の心は穏やかだった。
友と語り合っているかのように。

「いいんだよエクスポ。今日はあまり戦うつもりはないからね」

「そうなのかい?」

「ドの前はシ。死の後に怒。それは楽譜が一巡繰り上がること。つまり復讐を表している。
 つまり、戦いとは許せない事によって行われるカンタービレだ。
 でも今日はそんな意志はない。ロウマ隊長(指揮者)不在の飛び入りミュージカルなんだ。
 僕は意志(タクト)無き演奏に心を込めるほど出来たミュージシャンじゃないよ」

「それは逆に、まだ舞台に立ってないだけって意味だね」

「そう、部隊が舞台に立ってないだけ。韻も綺麗だね。僕はラップを音楽と拝呈する人間さ」

「話がソレたよミヤヴィ。戻すと、つまりボクらはまだ戦う場面じゃないだけで、
 必ず戦う場面がくるという事だね。・・・・お互いがお互いのために」

「当然さ。僕らに関係ないところでチケットは完売。
 公演日だけ未定だけど中止は無し。雨天決行。
 マイソシア(世界)を巻き込んだ大オーケストラなんだ。
 舞台(ステージ)だけは整ってる。後は幕が上がるのを待つだけさ」

「そうか」

「そうさ」

並び立つ二人。
目を見なくても分かる・・・意志。
分かり合える意志。
芸術家と、
音楽家。
それは同じもの。
形あるものを生み出すものと、
形なきものを生み出すものというだけ。
いや、
結局は同じか。
道が違うだけのこと。

「なら、次会うときはきっと美しいものにしよう。
 終わりよければ全て良しとも言うけど、ボクはつまり終わりの華々しさを評価する人間でね」

「芸術は爆発・・・か。悪くない。派手に散らそうじゃないか」

「どちらが散るにしても美しく・・・・」

「絶好のハーモニーを奏でよう」

そうして、
まるで分かり合うように、
戦場で出会った親友は、
顔も見合わず分かれた。

モントール=エクスポと、
ミヤヴィ=ザ=クリムボンは、
同じ輝きを持ったまま、
転がり、
そして出会い、
ただそのまま交差し、
すれ違った。
それだけだった。

鏡に映った同じ光は、
交差はすれど、
混じり合うことはなかった。

100%同じものでも、
それは対極の境目を超える事は無かった。










































「・・・・・・・・・見れば見るほどダリィ・・・・・・」

見れば見るほど。
考えれば考えるほど。
ダルかった。

「人間諦めが肝心って言い言葉だよな。・・・・んー・・・人間じゃねぇーけど・・・・・
 でもつまるところ俺は元人間でー・・・諦めるって言葉は大好きだしなー・・・・
 まー・・・あれだー。触らぬ神に祟り無しっつーしなー・・・
 つまるところ俺は神様なわけだからー・・・・俺が触らなきゃ祟り無しってぇーわけでぇー」

つまり、
行動するという事が面倒だ。
やるという事が面倒だ。

行動のサイクルとして、
PDCA(計画実行評価改善)
というループがある。

P、プラン(計画して)
D、ドゥー(やって)
C、チェック(考え直して)
A、アクション(改善行動)
というが、
つまるところ、
ネオ=ガブリエルは、
N、ノープラン(ぶっつけで)
D、ドント(何もせず)
C、チェック(考えなおしても)
D、ドント(行動せず)
なわけで。

前述でも、
後述でも、
現段階がCなわけで。
ずっとCなわけで、
改善など起こらず、
結局改悪のループであって、
つまり考えれば考えるほど、
アクションなんて言葉は自分に合わないと分かる。
考えれば考えるほど劣化していくのに行動するのも面倒だ。
生気が沸かないし、
動きたくない。

やっぱつまるところ、
次のためのループ行動というのが苦手で、
次があるなんて面倒臭く、
今があるのなんて事さえ面倒臭く、
だからつまり、
何を考えても、
何をしても、
考えれば考えるほど全て面倒なので、
結局何もしない。
それがネオ=ガブリエルだった。

それでも、
行動せねばならん事が山積みになるのが世の常というわけで。

「やっぱ下界(マイソシア)なんて来るんじゃなかったかねー・・・
 人間界のこーいうところ(働かざるものなんとやら)が俺嫌いなわけなんだよねー・・・」

空中。
裸の上半身に生える、美しく大きい白い翼で、
ネオ=ガブリエルは戦場の上空を羽ばたき、
そして、
そうして、
目の前に広がるのは、

空中の蟻。
まるで空這うアリンコ。

黒き翼の悪魔共の姿だった。

「逃がしてくんねぇーかなぁー・・・くんねぇーだろぉなぁー・・・ダリィわなぁー・・・
 俺から立ち向かったわけだしなぁー・・・・数分前の俺に戻りてぇー・・・・」

N(なんも考えずに)
D(どーかした)せいで、
今C(考え中)だ。
ただ次のセクションは決まっている。
ガブリエルの人生いつも同じだ。
D(どーしょーもない)し、
D(どーもしない)

俺はもういい、
"俺をほっといて勝手に世界は回ってくれ"
極論だと、
ガブリエルが天使に転生した理由でもある。
歯車から脱却し、
目的を持たないゴミ(用済み)でありたかった。

「・・・・・・・」

だが、
一応一面に広がる悪魔の群。
黒い神族。
黒き翼の同属達を見ると、
ちょいと「違うな」と思うわけで。

「あー・・・・つまりさ、やめよーや・・・・・俺達神ってのはさ映画館(マイソシア)のオーナーなわけ・・・・
 覗き見するくらいで我慢しようって話・・・・・・・料金(お経や聖歌)は十分に戴いてるんだ・・・・・
 その上、口やら文句やら以上に手まで出すのはこぉー・・・・"部外者"としてはどうなのかって話よ・・・・
 ・・・・・映画(下界の物語)の製作者でも視聴者でもない奴のすることじゃないと思うわけよぉー・・・・」

関係ないところで寝転んでいればいい。
そうだ。
神族っていうのはつまり、
管理者であって監視員だ。
それだけ。
自分が言いたいのはそれだけだ。
雲の上で見てるだけでいい。
たまにブザーを鳴らしてやるだけ。
それが、
"観るだけの能無し"こそ、
"力ある役立たず"こそ、
神のあるべき姿。

・・・・。
うん。
今更でしゃばるのはよくない。
あの・・・
なんだっけ。
アレックス。
そう、
アレックス=オーラン・・・・なんとかの言うとおりなわけだ。
あいつは分かる奴だ。
そう。
だからあいつに免じて、
まぁ少しだけ動いてやるとする。

まぁそいで、
割と好きだしな。
同じ匂いもするし。
・・・・。
なんだっけ。
そうそう。
アレックス。
えーと・・・。
アレックス=オラウータン。

・・・・。
馬鹿みてぇな名前だな。
まだ猿から進化してねぇのか。

「・・・・ま・・・・俺も小学部の時の文集で・・・夢・・・動物園(檻の中の方)って書いたくらいだしな・・・
 一緒か・・・気が合うねー・・・・俺も昔オラウータンな生活に憧れてたわけよー・・・・」

食って、
寝て、
太るだけの生活。
最高だね。

そう言いながら、
半開きみたいな目のまま、
タバコに火をつけるヤサグレ天使。
耳にはピアスの代わりに安全ピン。
裸の上半身の胸には、
R・I・Pという刺青。

そして周りには・・・・

「てめぇか裏切りもん」
「神のクセに恥ずかしくねぇのか?」
「神族のクセに人間に使われて恥ずかしくねぇのかよ」

黒き、
黒き翼を纏った・・・
悪魔。
悪魔達だった。
ボォーっと・・・
ダラァーっと・・・・
何をするでもなく空中停止していたのだ。
いつの間にやら囲まれていても当然だった。
そう。
すでに囲まれていた。

「・・・・・・・・・べっつにー。俺そーいうのどーでもいいしー・・・・・
 俺ぁー自分で何かしらを決めるのは面倒だからよぉー・・・・」

流れるままに。
河を流れる木の葉のように。
流されて今に来ただけ。

「・・・・ってぇーかー?・・・あんたらだって人間に使われてんじゃねぇーのー?
 ・・・・・・ま・・・・・興味ねぇけどー・・・・どっでもいいけどー・・・・・・」

「あぁん?」
「俺達も人間に使われてると思ってんのか?」
「天使風情が勘違いしてんじゃねぇよ」
「俺達はアインハルトなんざぁ関係ねぇ。関りたくはねぇけどな」
「協力してやってるだけだ」
「な、ネクロ様」

そうして、
黒き悪魔達が一斉に同じ方向を向いた。
まるで目線を誘うように。

「・・・・・・」

ネオ=ガブリエルも流されるのは専売特許だ。
タバコの灰を空中から舞い散らせながら、
悪魔の中心を見た。

「クケケケケケケケ」

"いかにも"・・・・ってぇやつだ。
ここに居る悪魔達というのは、
つまるところ天使を黒く染めたぐらいの違いの外見だ。
人に黒い翼が生えただけみたいな。
まぁ天使と違うのは翼がコウモリみたいな形してる程度だろうか。
だが、
ソレはまさに"いかにも"だ。
人間の想像する悪魔ってぇのはこういう外見を言うんだろう。

「そういう事じゃ。ワシらは下界に用があるから出向いただけ」

骸骨を被った魔物。
ネクロケスタ。
それに黒き翼が生えた・・・・
"魔物の転生悪魔"

「お初にお目にかかる・・・かな?ワシはネクロケスタ]V(13世)じゃ」

ガブリエルが人間から転生して天使になったように、
このネクロケスタは魔物から転生して悪魔になったようだ。

「あー・・・・鳥・・・・・」

どうでもいいことだった。
ガブリエルが気付いたのは、
ネクロケスタが他の悪魔と違って、
天使と同じ黒い鳥のような翼だったという事。
まぁ、
転生したら悪魔もこの型の翼になるんだなぁと思った程度で、
正直物語的にどうでもいいことだった。

「まぁ・・・・なんでもいいか・・・・・ダリィし・・・・・」

"楽"が分かったのは大きかった。
つまるところ、
こいつが"頭"だ。
このネクロケスタを倒せば終わり。
近道。
ショートカット。
分かりやすい。

「ネクロ様万歳!!!!」

「・・・・ぁあー?・・・・・」

突然ネクロケスタが叫んだ。
ガブリエルは何も変わらない冷ややかな目でそれを見ていたが、
周りは・・・
異常だった。
それは一斉だった。

「「「「「「 ネクロ様万歳!!!!!! 」」」」」」

悪魔という悪魔。
ここに居る悪魔が全て同時に叫んだ。
気合のままに。
腹の底から心まで吐き出すように、
そう叫んだ。

「コルァ!お前も叫ばんか馬鹿天使が!!!」

「・・・・・・・ぁー・・・・・」

状況の理解よりも、
とにかくガブリエルは「ダルい」と思った。
なんにしろメンドそうで、
とにかく気の合わない連中だと分かった。
・・・・。
まぁ、
もとよりガブリエルは他人を受け入れるなんて事はしないが。

「クケケケ!ネクロ!!ネェクロ!ネクロこそこの世で至上の生物なのじゃ!
 絶対神イアも、善神族の異端児ジャンヌダルキエルもヒョットコじゃ!
 これからの世界は、神も人も魔物を巻き込み!魔物(ネクロ)が至上となるのじゃ!!」

「・・・・・・ぁー・・・・・」

なるほど、
どうでもよさそうだった。
こういう時は言葉を発しないに限る。
ガブリエルはそれを分かっている。
変に質問もせず、
変に否定もしない。
だってどうでもいいから。

「・・・・という事じゃ!ワシらは下界(マイソシア)に"布教"に来ておるのじゃ。
 『ネクロ教』を再度下界にも布教させる必要があるからのぉ」

「「「「「「 ネクロ教万歳!!! 」」」」」」

「この通り、天上界(アスガルド)にもかなりの会員を募集する事が出来た。
 じゃが、下界(マイソシア)支部は一年前に壊滅してしまったとか聞いたのでのぉ」

ネクロ教。
マイソシア支部。
つまるところ、
それは《邪神教:根黒》というギルドの事だろう。
《聖ヨハネ教会》と対立する大型宗教ギルドで、
15ギルドが一つ。
魔物がギルドマスターという異端ギルドだったはずだ。

まぁ、
15ギルドのほとんど、
いや、
《聖ヨハネ教会》もアレックス達の手で壊滅した今、
15ギルドは、
《昇竜会》
《メイジプール》
《BY=KINGS(ピッツバーグ海賊団)》とGUN'Sの残党を除き、
まるまる壊滅している。

理由は忘れている方も多いと思うが、
一年前、
ロウマ率いる44部隊が潰しまわったからだ。
(仕上げがミルレスに置けるGUN'S討伐)

話しを戻すと、
下界のネクロ教《邪神教:根黒》が潰れたので、
もう一度下界にネクロ教を布教しに来た・・・・
というのがネクロケスタ]Vの言い分のようだ。

「あぁ、勘違いしないでおくれよ天使。ワシはただの13代目じゃ。
 ネクロ教の教祖かつ、信仰者は初代ネクロケスタ様じゃからな」

「・・・・・・・・メンデぇー・・・・・」

何が面倒かというと、
別にそんな事まで考えるほど、
ネオガブリエルに甲斐性はない。
ガブリエル自体はその性格から
「なんか悪魔の団体が理由あって下界来た」
くらいにしか捉えてない。
それ以上は耳を通り過ぎている。
なのに、
聞いてもいないのに説明が終わらない事が面倒なのだ。

「ネクロ様万歳!!!」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!! 」」」」」」

「ネクロ様万歳!!!」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!! 」」」」」」

なんだこの体育会系の悪魔共は。
絶対友達になれん。

「朝一起きたら!!!」

「「「「「「 ネクロ様!!! 」」」」」」

「夜、寝る前に!」

「「「「「「 ネクロ様!!! 」」」」」」

「朝昼晩三食!!」

「「「「「「 ネクロ様!!! 」」」」」」

「部屋の壁紙は!!」

「「「「「「 ネクロ様!!! 」」」」」」

「愛犬(守護動物)の名前は!」

「ポチ!」「クロ!」「ニンゲン!」「タロ!」「クッキー!」「ビーフストロガノフ!」

「我らがリーダー!!」

「「「「「「 ネクロ様ぁあああああああああ!!! 」」」」」」

アホのような歓声。
悪魔達が湧き上がる。
沸きあがる。
黒い翼を持つ威厳ある悪魔達は、
両手を「ばんざぁーい!ばんざぁーい!」と上げながら、
意気揚々だ。

「・・・・・・・」

超第三者的に、
超客観的に、
巻き込まれないように遠い目で、
ガブリエルはその光景を見ていた。

「・・・・・・・タルぃ・・・・・」

理解するのも面倒だ。
予想を遥かに超えて相手したくない相手のようだった。

「・・・・・・神が宗教・・・か。・・・・・・心から笑えるな・・・・・」

ふぅー・・・とタバコの煙を吐き捨てるガブリエル。
そのニコチンの快楽の余韻に浸っていると、
ふと、
視線という視線がこちらに戻っている事に気付いた。

「おい」
「そこの天使風情」
「今なんつった」
「侮辱したか。ネクロ教を」

「・・・・・・ダリィ・・・・・」

まぁこうなるだろう。
口が滑ったとはこういう事だ。
まぁ先のことを考えて行動するのは苦手だ。
何がPDCAだ。
自分が気付いて止まるのはいつもCの部分だ。

「あぁー・・・いやぁー・・・侮辱はしてませぇーん・・・ぜ」

面倒ごとはゴメンだ。
ダルくない範囲で繕っとくか。

「まぁ・・・なんつーの?・・・・天使も悪魔も・・・・ヒマだし趣味持つのはいいことだと思うよー。
 死神も退屈だからって下界に下りて人間からエサ(リンゴ)貰う時代だしなぁー・・・
 ・・・・神族の生活なんて人間の老後生活と超酷似だしよぉー・・・・趣味持つことはいいことー・・・。
 それがたとえ他人の目を気にしない・・・脳みそ腐ったミカン増殖組合でも俺は・・・・・ぁー・・・・」

そこまで言って、
ガブリエルは周りの反応に気付く。
・・・・。
んーー。
逆効果だったみたいだ。
なにやら皆さんお怒りになっておられる。
・・・・。
何が駄目だったのかなー。
自分の言葉に責任持たない主義だからなー。
・・・。
まぁ多分リンゴ派とミカン派がいたんだろ。
きっとそうだろ。

「・・・・・全く・・・失礼極まりない天使のようじゃな・・・・」

中心。
ネクロケスタ]Vが、
怒りをガブリエルに向けていた。

「お主がもっと素直じゃったらネクロ教に勧誘してあげようと思っておったが・・・・・」

そして、
その骸骨魔物悪魔は、
そのネクロスタッフをガブリエルに向けてきた。

「・・・やめじゃ!お主はネクロ様のありがたみをたっぷり調教の刑に処する!!!」

どっちにしろ洗脳されるのかよ。
・・・と、
口には出さず、
心の中だけでつっこんだ後、

「やれやれ・・・・」

ガブリエルは片手に槍を作り出す。
あぁ、
さっきまで持っていたはずなのにダルくて消してたみたいだ。
ガブリエルの右手。
そこに稲妻が走る。
電撃が渦巻く。
雷が形成される。
それは、
バチバチと音を鳴らしながら、
最終的には槍(サンダーランス)となってガブリエルの右手に収まった。

「楽な道はないって言うから・・・・進むのをやめたのに・・・・
 止まってたって面倒は向こうからやってくるもんなんだねぇー・・・・・」

「黙れ小童天使!!!皆のもの!!かかれ!!!!」

「「「「「「 ネクロ様!万歳!!!!! 」」」」」」

ネクロケスタ]V(13世)の合図と共に、
数十という悪魔が一斉にこちらへ飛んできた。
空を裂き、
悪魔の流星が空を舞う。

「・・・・・ぁー・・・・・」

ガブリエルはポリポリと頭をかく。

「・・・・・小童とか天使とか・・・・・・ガブちゃんでいいってぇー・・・・」

そんなどうでもいい事を呟きながら、
天使は、
左手のタバコを投げ捨てた。
タバコは、
煙を舞い上げながら遥か下の地上へと落下していく。
超高層ポイ捨て。
天使の名前を返上して欲しい。

「・・・・・・・まぁ・・・・メンドいし・・・・タルいし・・・・ダルいし・・・・・・」

そして、
ガブリエルは右手の槍を握りこんだ。

「早めに終わらせますか」


そして天使は飛んだ。
彼らしくもない。

白い羽根が、
その瞬間数枚置き去りにされた。
まるで噴射した飛行機のように、
獲物を見つけた鳥のように、
超速でガブリエルは飛び立った。

「異端者が!!」
「ネクロ様の良さが分からぬ異端者が!!!」
「ネクロ様の偉大さは!頂点で溺れていた神族(我ら)の目を覚ましてくれたのだ!」

それはいい心がけだ。
本心でそう思う。
ただベクトルが違う気がする。

「ネクロ様の何も知らないクセに批判しやがって!」
「知らぬ仏を笑うもの!」
「恥を知れ恥を!!」

まぁそれはこっちが悪かったな。
内容も知らないのに批判はないな。
うん。
ただなんつーの。

「見ててキモいからなー・・・・」

「黙れ!」
「異端者が!」
「異端神ジャンヌダルキエルなんかに従った異端者が!」
「お前は異端の二重だ!」
「いや!その上人に仕える異端!三重の異端!」
「ネクロ様の名にかけて貴様を処する!!!」
「ネェクロ様ばんざぁぁああいい!!!!」

黒き翼の悪魔達。
それらの手に闇が渦巻く。
そして、
それは形となった。

「バトルトライデント(でっかいフォーク)・・・か・・・・悪魔っぽいねぇー・・・・」

巨大なフォーク型の武器。
バトルトライデントを、
悪魔達は手に取り、
そして鳥のように四方八方。
前後左右。
さらに上下。
360度x360度の方向から、
ガブリエルと同じように飛んでくる。

「・・・・・ま・・・・"あくまで悪魔"・・・か・・・・・・・」

「グァッ!!!」

空中。
超速ですれ違う。
一人の悪魔とガブリエル。
すれ違った瞬間、
突き抜いたのはガブリエルの槍の方だった。

「・・・・お後がよろしいようで・・・・ってかぁ?・・・・・」

「ネクロ様ばんざぁーい!・・・・・」

そしてその悪魔は、
ガブリエルとすれ違った後、
そのまま落下・・・
いや、
墜落していった。

「まず一匹・・・・タリィなこりゃ・・・・」

ガブリエルは、
空中で速度を緩めず、
そのまま通り過ぎて大きく旋回する。

その後を、
多くの悪魔達が追尾飛行していた。

「・・・・・後ろのは後だな・・・・・・」

「ぎゃっ!」
「グハッ!!!」

そのまま空中を超速で飛び回りながら、
すれ違う機体を撃ち落していった。
また2体。
ガブリエルと接触した悪魔が墜落していく。

下から、
地上から見たらどんな光景なのだろうか。
線が飛び回っているように見えるだろう。
白い線と、
幾多の黒い線。
それらが合わさると、
黒い方が落ちる。

そんな空中戦。

「・・・・・・こんな一生懸命飛んだの久々だな・・・・身分不相応だ・・・・ダリィ・・・・・・」

またすれ違いざま、
ガブリエルは空中でそのサンダーランスを振り切った。
それは黒き悪魔の体を二分し、
斬れ口はバチバチと電撃が走る。
そのまま上半身と下半身に分かれ、
悪魔は速度を緩めず墜落していった。

「ネクロ様・・・・ばんざ・・・・・」

「こいつもか・・・・気持ち悪ぃ・・・・・」

倒した悪魔は、
全てネクロの名を呼んで墜落していった。
それは異様に思えた。
まぁどうでもいい。
これが宗教ってもんだろ。
・・・・と、
天使は偏見を考えながらさらに飛び回る。
空中を、
自在に、
高速に、
自分の庭だと言わん限りに、
天使は空でダンスした。

「調子に乗るなよ天使風情が!!」
「その偽善者の翼!へし折ってやる!!」

前方から二つの機影。
両方が斜め45度から挟み込むように迫ってくる。
高速と高速。
接触は刹那後。

「たりぃんだよ・・・・・」

二体同時。
槍で一閃できれば楽だがそんな隙もヒマもないだろう。
ってことで、
ガブリエルは手を伸ばした。
すれ違い。
片方、
右側の悪魔とのすれ違いざま、
その悪魔の片翼を"はぎとった"

「ま・・・俺が殺す必要なんてねぇわけよ・・・ダリィしな・・・・・」

「くそぉおおおおおおお!!!!」

片翼を千切り取られ、
飛ぶことがままならなくなった悪魔は、
制御不能でグルグルと回転しながら落ちていった。

その間、刹那。
それ自体は時間にしたら刹那だ。

もう片方へと槍構え、、
すれ違いざまにもう一人の悪魔に槍を突き刺す。
これで二体同時にいっちょあがりだった。

「ん?」

だが、
そちらの悪魔の体を、
槍は突き抜けなかった。
そのまま、
悪魔の体に槍は突き刺さったまま、
ガブリエルは空中でその悪魔にぶつかった。

「へへっ・・・・」

気持ち悪い色の血を口から流しながら、
ガブリエルの槍が腹に刺さった悪魔は笑った。
その悪魔はバトルトライデントを投げ捨て、
両手でガブリエルの槍を掴んだ。

「捕まえた・・・ぜ・・・・・」

「・・・・・・・」

こいつは、
この悪魔は、
自分を犠牲にしてガブリエルの動きをとめた。
それだけが目的だった。
"止めてしまえば"
ガブリエルは終わりだった。
何せ悪魔の数はまだたんまりといる。
それらに空中でモミクチャにされただけで、
ガブリエルは終わりだ。
だからこそ、
飛び回って戦う必要があった。

「これで終わりだ・・・・天使・・・・これがネクロ様の強さだ・・・・・
 分かったら貴様も・・・・・・降参してネクロ教に・・・・・・・」

「犠牲心が強さか・・・・笑わせる」

俺には分からんね。
と、
ガブリエルは呟き、
そして言葉を発する。

「ライトニングスピア」

「ぐああああああああ!!!」

まるで、
ガブリエルの槍が避雷針になっているかのように、
雷が落下した。
それは槍ごと、
その悪魔を焦がした。
丸焦がした。

「これはチェスだ。白1体と黒数十のな」

ガブリエルが槍を抜くと、
黒き悪魔は墜落していった。

「白を黒に変えれるのはオセロだけだ。俺は黒には染まらんさ・・・・他を勧誘しろ」

そしてガブリエルは、
また羽根を散らばらせる勢いで飛行を始めた。

「てめぇぇええ!!!」
「ちょこまかとぉおおお!!!」

悪魔達が後ろから迫ってきていた。
コウモリのような翼で、
ガブリエルを追跡してくる。

「これでも食らえ!!!!」

そして、
追跡してくる悪魔達は一斉に投げた。
バトルトライデントを一斉に投げつけてきた。
まるで矢の雨のようだった。

「たりぃな・・・・空中戦を分かってねぇみたいだな・・・・」

ガブリエルは大きく旋回する。
それだけでバトルトライデントの投槍群は、
彼方関係ない方へと飛んでいった。

「直線的飛び道具が有効なのはすれ違いの時だけだ・・・てぇーの・・・・・
 自分と同じ方向に飛んでくるモンなんて見てから避けれる・・・・」

まぁ、
それでも背後をつくのも空中戦のキモだ。
飛び回っているからこそ、
背後をとるのはノーリスクハイリターン。
ただ、
自分しかいないガブリエルにとってそれは無関係な策。

「結局コツコツ確実に落としていくのがベスト・・・か・・・・だっりぃ・・・・・・
 俺らしくないな・・・・・"地道"って言葉大嫌いなのよ・・・・・"努力"とか"頑張る"の次くらいに・・・・・」

「ならサッサと死んじまいなぁあああ!」
「ヒャッホーーー!ネクロ様ばんざーーーい!!!」

「・・・・・マジかったりぃ・・・・・」

別の方から二体。
二体の機影。
それはピッタリとガブリエルの後ろ。
いや、
真横についた。
同じ方向に、
挟むように。
ガブリエルに平行して飛行している。

「落ちな!堕天使!!」
「地獄はこっちじゃねぇ!下だぜぇええ!!!」

二体の悪魔は、
空中を飛行しながら、
そのままガブリエルに体当たりをしてきた。

「・・・・・・ちっ・・・・・」

空中で体制を崩すガブリエル。
まぁだからといって墜落なんて事はないが、
この二体に並んで飛行されるのは面倒だ。
ダルい。
かったるい。
これでは思い通りに進路をとれない。

「ヒャハハ!悪魔が天使を地獄へ御招待だ!!」
「間違えておっこちんなよ!童話と違って地獄も天上界(アスガルド)にあるんだからな!」

平行して飛行してきた二人の悪魔は、
同時にバトルトライデントを突き出してきた。

「・・・・2−1=・・・か・・・・・タルいな・・・・・」

ガブリエルは急激に速度を落としながら、
上へと旋回した。
いやまぁ、
上と言ってもすでにこの空中戦では上下左右なんて分かったもんじゃないので、
ガブリエルの視線的に頭上方向に旋回したという意味だ。
速度を落としながら進路を変えたガブリエルは、
その二つの悪魔フォークをかわした。
バトルトライデントとバトルトライデントがぶつかる音がする。

「ちっ!」
「しくじったか!!」

「・・・・・・複数同時はメンドいな・・・・ダルい・・・・・」

ガブリエルは、
飛びながら左手に力を込めた。
何も持っていない左手。
そこがバチバチと弾ける。
電撃で、
雷で、
稲妻で。
そして、
左手にもう一本サンダーランスが生み出された。

「この野郎ぉおお!!!」
「武器は増やしゃいいってもんじゃねぇぞコラァア!!!」

「・・・・ま・・・そりゃそうだけどね・・・・・」

前方から2体の機影。
さきほどの悪魔達だ。
大きく空中を旋回し合い、
前方でかち合ったようだ。

その2体は、
先ほどのガブリエルの注意を実践したように、
同時に前方から槍(バトルトライデント)を投げてきた。

「おぉーっと・・・・・」

飛行戦。
空中戦。
ただでもすれ違うのは超速だというのに、
だからこそその刹那の飛び道具は裂けづらい。
速度に任せて投げてきたモノに向かって、
自分から超速度に向かっていく形になるのだから。

「・・・・・ま・・・どっちにしろその程度・・・・できんことないけどな・・・・・」

ぐるん・・・と、
ガブリエルは飛行しながら360度ねじるように回転した。
もとよりもう、
どこが上なのか分からないような空中戦だが、
ガブリエルは敵に向かいながら回転し、
二本の投槍を交わした。

軽く、ガブリエルの白い翼をカスり、
飛び散る白い羽根は美しかった。

「ほんっ・・・とダルくなってきたな・・・・・」

「くっ・・・」
「のぁ!!」

すれ違いざま、
その2体の悪魔に一本ずつ槍を突き刺す。

「それやるよ・・・・」

突き刺して、
突き刺したまま、
自分は通り過ぎる。
飛び去る。
背後、
槍を突き刺した悪魔の方も見ずに、
ガブリエルは飛び去り。

「天罰(お仕置き)だ・・・・・」

ガブリエルが念じると、
背後の二体の悪魔。
槍で貫かれた悪魔にライトニングスピアの雷が落ち、
二つの機影は墜落していった。

「まだまだじゃ。こちらにはまだまだ愛しいネクロの子達がおるぞい」

ネクロケスタ]Vの声が聞こえた。
他の悪魔達に任せて自分は高みの見物だ。
うまいこと戦闘に巻き込まれない位置を浮遊している。
飛行して近寄ろうとしても、
近場には悪魔が多数旋回して近寄りがたかった。

「・・・・・ダルィ・・・・本当にダルィねぇ・・・・・」

飛び回りながら、
出来るだけ敵のいない空を飛びながら、
ガブリエルはまた右手にサンダーランスを形成した。
そしてすれ違う小数の機影(悪魔)だけ撃ち落していく。
だが、
やはり最終的に狙うべき頭。
ネクロケスタを眼中に捉え続けていた。

「死ねぇぇぇぇぇえ白神族があああ!!!!」

「おぉっと・・・・」

これだから空中戦は・・・。
どこからというと、
飛行するガブリエルの下。
腹部方向。
そっちから真っ直ぐバトルトライデントを突き出して特攻してくる悪魔。
・・・・。
まぁそれは簡単にくるりと空中で回転飛行しつつ避け、
サンダーランスで頭を小突いてやった。
斬撃や、
突撃を与えたというよりも、
稲妻渦巻くサンダーランスで頭をショートさせてやった感じだ。
悪魔は墜落していった。
目覚めたときは地面にぶつかって死んでいるだろう。
そんな感じで、
手際よく悪魔を撃墜していくガブリエル。

「キリがねぇな・・・・かったりぃ・・・・・」

だがまぁその通りだった。
落としても落としても、
死を恐れないネクロ教悪魔達は向かってくる。
こーいうのが一番面倒臭い。
一番ガブリエルの嫌いな面倒な相手だった。

「諦めろ。ライ=ジェルン」

未だ立ち立ち居地・・・・いや、
浮遊位置の変わらないネクロケスタ]Vが笑った。
・・・・。
ライ=ジェルン。

「昔の呼び名だもう・・・・過去もってくるなよ面倒くせぇ・・・・・」

そう言いながら、
サンダーランスを投げる。
それはそこらに飛行していた悪魔に突き刺さり、
そしてトドメと言わんばかりに雷が落ちる。
そうしてまた悪魔が墜落していく。

「・・・・・・・あぁ・・・面倒くせぇ・・・・・」

飛び回る、
たった一人の天使。
一人に対し、
多数。
一人に対し、
数十。
その天使と悪魔、
白と黒のチェスゲームは、
完全に不利なのにも関らず、
ガブリエルは無傷で、
落ちていくのは黒き悪魔ばかりだった。

「早くおわんねぇかなぁー・・・・」

つまり、
実力差は歴然だった。
歴然中の歴然だった。
ネクロケスタが呟いた言葉。
"ライ=ジェルン"
それがそのまま理由になる。

現段階。
いや、
つい最近までの天界事情。
絶対神イアがアインハルトに殺され、
天上界(アスガルド)は半壊。

その中、
神の中で最大の力を持っていたのは、
まごうことなき、
人に従いし異端神ジャンヌダルキエルだった。
そのジャンヌダルキエルが選びし、
4人の精鋭。
四x四神(フォース)が一人。
それこそ、
『ライ=ジェルン』
ネオ=ガブリエルだった。

それは単純な計算式の上でも、
さらのさらにの現段階を考慮した上でも、
それがつまり引き算の結果の繰り下げかつ繰り上げ入選だとしても。

現状、
"ネオ=ガブリエルが神族最強に近い所に位置しているという事なのだから"

「ぐああぁっぁ!!」
「ネクロ様ぁぁああああ!!!」

すれ違うたび、
落ちていく悪魔達。
結果は出ていた。
ガブリエルにとって、
この程度の、
というかほとんどの神族は格下なのだから。

「それでも・・・・」

ニヤりと、
骸骨頭。
ネクロケスタは笑った。

「貴様の強さなどたかが知れている」

「・・・・・ぉー?・・・」

ネオガブリエルは飛行をやめた。
空中で止まった。
止まった反動で白い羽根が散らばった。

「ん?こうか・・・」

360度x360度関係ない空中戦だったため、
どっちが上か分かっていなかったから、
丁度いいので向きを直した。
まぁ人間と同じ形状をしている以上、
神も重力に従うのが楽な姿勢だ。
・・・・と、
それは置いとき、
ガブリエルが何故止まった・・・・いや、
止まらざるを得なかったかというと。

「・・・・・んー・・・・チェスだとかなんとか言わんけりゃよかったか・・・・メンドいなこりゃ・・・・」

チェックメイト・・・・というやつだった。
悪魔達が、
包囲するように。
逃げ場ないように。
空中上下左右前後斜め。
取り囲んでいた。

「まぁ・・・・こう見ると結構減らしたなぁ・・・・俺頑張ったねー・・・・」

頑張った。
うん。
ヘドが出るほど嫌いな言葉だ。
過去形じゃなけりゃ死んでいたかもしれない。
拒否反応のあまり。

「これがお前の限界じゃライ=ジェルン」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!!! 」」」」」」

おぉ、
なんというサラウンド効果だ。
気持ち悪い事この上ない。

「クケケケケケ。ライ=ジェルン。その呼び名はお主の力を表してはおるが、
 逆にお主の力の程度を表していると言っても過言じゃぁないよのぉ」

「・・・・・」

なんやら話が長くなりそうだと思い、
ガブリエルはタバコを咥え、
点火した。
まぁ、
囲まれて万事休すで身動き取れないし、
タバコ吸うくらいしかすることないしな。
・・・んー。
上空はライターが使いづらい。
人間界にあるターボライターというのが欲しいなぁ。

「四x四神(フォース)がライ=ジェルン。それは力の表れじゃ。四x四神(フォース)最弱というな」

なにやら言っているが、
ネオ=ガブリエルにとって、
ニコチンが体を回る快楽のほうが優先された。
ネクロケスタは続ける。

「フウ=ジェルンについてはよぉ知らんが、お主が最弱というのはよぉ知っておるわい。
 エン=ジェルンのフレアスプレッド。スイ=ジェルンのクリスタルストーム。
 そしてジャンヌダルキエルのホーリーフォースビーム。・・・・クケケケ。
 それらは下界で使えば街一つ壊滅させるほどの強力な魔法じゃった」

じゃがお前さんのはどうじゃ?
と、
ネクロケスタはクケケケケケと笑う。
どうでもいい笑い声だった。

「確かにお前さんの戦闘力は認めよう。じゃが、決定的に足りないもの・・・それは"規模"じゃ。
 ライトニングスピア?・・・・クケケ。なんじゃそりゃ。人間でも出来るわ」

聞く耳もちはしないが、
まぁ雑音だけ聞いててもカンに障る野郎だ。
まぁ、
いちいち相手にするのはメンドいからどうでもいい。
面倒なくらいなら好きなだけ罵声を浴びる。

「まぁデフレじゃわな。ジャンヌダルキエルやエン=ジェルン、スイ=ジェルンに比べれば、
 この戦争などあまりにちっぽけじゃ。あまりに弱弱しい弱者のケンカじゃ。
 まぁ先ほど無駄に落ちたメテオだけは神族並じゃったが・・・・それだけじゃて。クケケケ」

「・・・・・・ふぅー・・・・・」

口から煙を出す。
ガブリエルはいちいち言葉を返さない。

「つまりお主の強さなど、下界のレベルに収まる程度という事じゃ。
 足りないのは先ほども言ったが圧倒的なほどに"規模"じゃ。
 威力でなく範囲。質じゃなく壮大さ。・・・・・・・数だけでどうにかなるレベルという事じゃて」

数だけで。
それは今繰り広げられている3万の命の戦争。
数という単純な力で、
どうにもこうにも左右する現状。
それが下界で、
マイソシア。
ネクロケスタに言わせれば、
このガブリエルを含めたこの戦争全てがそのレベルだという事。
圧倒的強大はない。
数だけでどうにかなる。
質高き者がいようとも、
数。
数だけで。

「・・・・・・ん?・・・・話終わった?」

「・・・・・・」

休憩所のように空中でタバコをふかすガブリエルの態度は、
誰だって鼻に付くだろう。

「・・・・人の話も聞かぬとは、程度が知れるなライ=ジェルン。
 この世に大事なモノの一つに"説教"がある。教えを説くと書いて説教。
 ワシは説教を通じて多くの人間、魔物、そして神族を改心させてきた。
 正しき悪の道。救いへの闇の道をネクロ様を通じて教え説いてきた」

クケケケケと笑う、
魔物悪魔ネクロケスタ]V。

「その結果がこの信者の数じゃよ」

ガブリエルの視界全てを取り巻く悪魔達。

「ネクロ教は人間、魔物、神族の垣根をも越える自由の宗教じゃ。
 信じずる者は救われる。例外なく幸せを求めない者などいないのだからな!」

・・・・。
一人、目の前で例外がタバコを吸っているが。

「同じ考えを持つ者で輪を作って何が悪いのか。モチロン悪くない。
 そして、全ての生物を巻き込んだ宗教にすれば批判者もいなくなる。
 皆で作ろうネクロ教の輪!!世界中誰もが幸せじゃ!ネクロ様万歳!!」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!! 」」」」」」」

「悪を何故皆は嫌う!おかしいではないか!何故"黒"を皆嫌う!おかしいじゃろう!
 白!善!聖という正!そんな生はくだらない!ネクロ様万歳!!!」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!! 」」」」」」」

「白とは進化しない色!どんなものも極めて白には辿り着かない!
 個性という名の全ての色が混ざり合うと!その最終系は黒じゃ!
 白に少しの黒が混ざると濁るが!黒に少しの白が混ざっても濁らない!
 黒は光を吸収する色でもある!全ては黒という悪へと極まるのじゃ!」

「「「「「「 ネクロ様!!!ネクロ様!!! 」」」」」」」

「さぁ!変化しない黒の世界を作ろうではないか!真っ黒なる世界を作ろうではないか!
 根元から!根源から!全てを黒で包む!それぞ根黒(ネクロ)!
 根黒(ネグロ)じゃないぞ!根黒(ネクロ)じゃ!世界中に黒き輪を!」

「「「「「「 ネクロ様万歳!!!ネクロ様万歳!!! 」」」」」」」

だが、
やはりというべきか。
ガブリエルは何一つ動じていなかった。
言葉の力が効いていないというか、
言葉自体を聞いていないというか・・・・。

「・・・・・ふぅー・・・・・「昨日犬の散歩行ったらさぁー」・・・・まで聞いた」

「そんな事言っとらん」

まぁそうだろうな。
適当に言ったしな。

「まぁいい。よぉく分かった。馬の耳に念仏という奴だ。
 人の話を聞かん奴に説教しても無駄じゃて」

「俺は神だぜー・・・・釈迦に念仏と言って欲しいな」

「勧誘が無理じゃという事。じゃから死んでしまえ。白き神族め」

勧誘じゃなく洗脳だろ?
と、
少しだけ脳みそを働かせたが、
まぁ相手するだけ無駄だ。
こういう類は、
人に説教を行うくせに他の話は聞かないってぇ矛盾する類の輩だ。
相手するだけ無駄。
・・・。
ま、
自分自身もある意味そうだけど。

「終わらすか」

そう言ったのは、
ネクロケスタでもなく、
取り囲んだ悪魔達でもなく、
ネオ=ガブリエルだった。

「これはダルくてダルくてしょうがないんだけどなぁー・・・・
 結局分かった事は俺・・・結局こいつら倒すっつー流れってことでー・・・・
 だから結局最初から終わらしといたほうがよかったわけねー・・・・」

ガブリエルの右手の中が、
バチバチと輝く。
電撃。
稲妻。
雷。
それがガブリエルの右手の中で形を形成する。

「・・・・・・よっと」

それは・・・・
サンダーランスではなかった。
それは・・・・
巨大な・・・
まるで武器のような・・・・

十字架。

「これを使うのも久しぶりだなぁー・・・そりゃそうか・・・・ダリィもんな・・・・」

ダルい事ワザワザやるこたぁーない。
それならいっそ諦める。
でも今は違う。
ちょっくらだけやる気になっちゃってるから、
早く終わらす。

「あいつなんかやる気だ!!!」

一人の悪魔が、
たまらず飛び出した。
バトルトライデントを突き出し、
ガブリエルの方へと高速飛行で突っ込む。

「・・・・・やる気ナッシンの帝王に何言ってんだよ・・・・」

と、
ガブリエルは突っ込んできた悪魔の方も見ず、
片手で巨大な十字架を振り切った。
それはまぁ、
ただのハンマーみたいなもんだった。
十字架の角が、
悪魔のホホに当たり、
そこからその悪魔は自分が突っ込んだ勢いも相乗して頭が潰れて砕け散った。

「・・・・・んじゃ・・・邪魔も消えたとこだし・・・俺ちゃんやっちゃうよー・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・ん?・・・・俺こんな一人称だっけか・・・・・・・ま、いいか・・・・・」

そう言いがてら、
ガブリエルはその大きな十字架を肩に担ぎ、
目を瞑った。

「・・・・・・あぁー・・・・詠唱だりぃ・・・・・んと・・・・汝・・・天罰がどうこうで・・・
 雲とかから出でし響くどーたらが・・・・ぁー・・・・ここハショって閃光が・・・・・」

それでいいのか?という詠唱を始める。
十字架を担いだまま、
目を瞑って。

悪魔達は動かなかった。
ネクロケスタも動かなかった。
・・・・なんというか・・・
警戒した。
今更時間稼ぎというわけでもないだろう。
時間を稼いだところでどうにかなる状況でもない。
なら、
何かあるはずだ。
何かしてくる気だ。
ならば、
囲んだまま、
距離のある現状を保つ事が優先。

「・・・・・つまりぃー・・・神が鳴るとかいて雷だとかどーとか・・・・・・」

警戒すべきは"あの十字架"
わざわざ十字架を出したのには意味があるはずだ。
関係ありそうには見えないし、
あれ自体から魔力の気配も見れない。
たからといって鈍器としての武器を今さら出したとも考えにくい。

・・・・・。
十字架。

それは、
マイソシアで列記として存在する武器だ。
ちゃんと存在する武器の一つだった。
・・・・まぁ十字架としか呼称しようがないが、
つまり、
なんというか、
マイソシアではこれを修道士以外が扱うので、
つまり、
なんというか、
その用途をガブリエル的に例えるならば・・・・
槍としか言いようががなかった。
殴ろうとも、
先がなかろうともだ。

「・・・・つまりぃー・・・・その稲妻は天と地を・・・・刹那?・・・とかで結ぶなんとやらでー・・・・」

元人間。
まぁそれさえも関係なく考えても、
ガブリエルは騎士・・・・というベクトルに位置するだろう。
サンダーランスを使い、
ライトニングスピアが持ち技だと考えても。
つまり十字架は槍であり、
ガブリエルが使うのは騎士技だった。

「・・・・でぇー・・・アレがこーなってこーなっちゃうわけでー・・・・」

なのにこんな腐ったような詠唱を何故行うか?
騎士が何故詠唱を行う?
それはもう、
ここから先はガブリエルの応用技だとしか言いようがなく、
そんなもんズルいと言われようとも、
応用であり、
応用の類から出なく、
自己流の応用技でしかないのだからしょうがない。

・・・・。
話を戻そう。
十字架。
じゃぁ十字架ってなんだ?
十字架という槍だと言ったが、
十字架そのものはなんだ?
・・・・。
まぁつまり、
あそこまで大きな十字架というのは、
そういう大きさの十字架が何かと考えれば、
大きいなんてこともない至って普通サイズ。
通常のサイズ。
そう。
あのサイズの十字架といえば、

それは墓だった。

"墓を背負う天使"
それはライ=ジェルンになる前にネオ=ガブリエルが呼ばれていた呼称だった。
そのトレードとなるのは、
この十字架で、
そしてそれ以上に・・・・
"R・I・P"という胸の刺青だった。

R・I・P。
Rest in Peace。
安らかに眠れ。

墓に刻まれるポピュラーな文字が、
彼の胸に刻まれている。

・・・・。
すまないことに、
この話は、
関係はあるが、
直接的には関係ない話だったかもしれない。

だがまぁつまり、
今言いたいことは、

"十字架は墓であり"、
"ガブリエルは墓であり"、
"十字架は槍であるならば"、
"ガブリエルは槍である"という事だった。

「・・・・・・フゥー・・・・詠唱終わりー・・・ダルかったー・・・・あ、火ぃ消えてる・・・・」

タバコの吸殻を天空から投げ捨てる彼が、
結局のところ何のために(意味あるのかわからんような)詠唱をしたのかというと、
それは詠唱を聞いてくれたならば分かると思うが、
やはり自己流で、
応用を超えないわけで、

彼がライ=ジェルンという、
雷の属性を持つ呼称をされていて、
事実、
サンダーランスやライトニングスピアといった雷の化身である上での応用なわけで、

しかし詠唱したかと言って、
騎士である彼がクロスモノボルトのような範囲魔法が使えるわけでもないので、
三度言うが、
つまり彼の応用の域を出ないわけだ。

「ぁー・・・・・」

そして結果的に何をするかって言う話になると。

「・・・・ダルかった・・・・・」

そんなキメ言葉もないような、
日常的なセリフと共に起こったのは、

ライトニングスピア。

応用と言うからには、
やはり彼にあるのはその技だった。
つまり、
だから、
つまり、
十字架があり、
墓であり、
彼自身が槍である。

そう、
ガブリエルという名の巨大なエネルギーの槍を使った、
超範囲型ライトニングスピア。
いや、
それはもうライトニングスピアというには種類が違いすぎて、
それは、使用法、効果などを考えてもクロスモノボルトに酷似しているが、
それはやはりライトニングスピアの域を出ない。

つまるところ、

クロスライトニングスピアとでも呼称するしかない。

「なん・・・・だと・・・・・」

ネクロケスタは、
その光景に唖然とした。
目の前に天変地異が起きているとしか表現しようがなかった。
閃光。
稲妻。
サンダーでライトニングで、
それはつまり、
神が鳴ると呼んで雷。

おびただしい雷鳴と共に、
おびただしい落命。
雷で視界が埋め尽くされた。

「・・・・儚いかな・・・・・」

雷の中心で、
雷という雷が落ちただれている中で、
雷という雷が雷として落ち乱れている中で、
自身さえも
雷の中に身をおきながら、
平然と笑う事さえしない、
ネオ=ガブリエル。

「・・・・儚く・・・墓さえ無く・・・・・なら・・・・・ただ"R&I&P(安らかに眠れ)"」

ガブリエルは、
雷の中心で、
自身の胸にある刺青。
RとIとPを指でなぞるに、
「アーメン」と十字を描いた。

「馬鹿な・・・・聞いておらんぞ・・・・・」

悪魔という悪魔が、
雷鳴に落命し、
黒き体を黒焦げにして墜落していくのを見ながら、
ネクロケスタは動揺した。

「ライ=ジェルンに無いのは規模・・・・・そのはずじゃなかったのか・・・・」

だが、
目の前の光景は、
エン=ジェルンにもスイ=ジェルンにも見劣りしない天変地異。
神として、
神の名の、
神としての所業。

「ジャンヌダルキエルの女狐・・・・隠してやがったか・・・・」

ネクロケスタは歯を食いしばる。
だがそれはお門違いであり、
ネオ=ガブリエル自体が表に自分から出て行かない性格が引き起こした情報不足であって、
"墓を背負う天使"をもう少し調べれば分かった事でもあった。
ただ甘く、
数による自身で自失し、
軽率だったというだけ。
あくまで悪魔。
愚神・・・・。
そう呼ばれても仕方が無いツメの甘さだった。

・・・・・そして、
知ったところでどうかなっていたとも言えはしない。

「・・・・・ま・・・・・こんなとこかねぇ・・・・」

ネオ=ガブリエルが担ぐ十字架が、
バチバチと音を鳴らして消え去った。
それと同時に、
雷鳴は止み、
閃光が落ちてくる事も無くなった。

今日も清清しい、
マイソシアは晴れだった。

「・・・・・ふざけるな・・・まさか・・・・・」

その晴れ渡る空。
その空中。
その晴れ渡る空に浮かぶのは・・・・・

「ネクロの子達が・・・・・全滅だと・・・・・」

ネクロケスタ]Vと、
ネオ=ガブリエルのみだった。

「馬鹿な!そんな馬鹿な!これから信者を増やし!
 マイソシアにてネクロ教を再生しようという時ではないか!
 なのに!なのにどういう事じゃ!加護は!ネクロ様の加護は!!」

「神が偶像にすがるなんてぇー・・・・・・ダリぃねぇー」

ネオ=ガブリエルは、
整理体操だと言わんばかりに、
首をコキコキと鳴らした。

「あぁー・・・・だりぃ・・・・さすがにだりぃー・・・・疲れるってぇーのは凄く嫌いだわー・・・・
 ヘットヘト・・・・もとより動きたくない体質なのによぉー・・・無理に動くからー・・・・
 運動アレルギーってのもつらいねー・・・・・24x30時間くらい寝てぇーなぁー・・・・」

常時外見がタラタラしているガブリエルだから、
その変化は分かりにくかったが、
事実、
かなり消耗しているようだった。

そしてこの場において、
ネクロケスタもそれに気付く。

「・・・・加護はやはりワシにあった。クケケケケ・・・・感謝しますネクロ様」

そしてネクロケスタ]V(13世)は、
その手に持つネクロスタッフを・・・・・

「ゴハッ!!!」

その前に、
ネクロケスタの腹部に、
サンダーランスが突き刺さった。

「ゲホッ・・・・ガっ・・・・・ク・・・・いつの間に・・・・・」

口から赤くない血を流しながら、
ネクロケスタはガブリエルを見るが、
ガブリエルは涼しい顔をしていた。

「・・・・・・神のみぞ知るってか」

笑いもしない。
あまりにクールで、
あまりに多感化されない生物だ。

「くっ・・・・・」

槍。
サンダーランス。
ガブリエルのそれが突き刺さったという事実。
それが何を意味するかは、
もう今更だ。
言うならば、
神に釘を打ちつけられたようなもの。
先に待つのは天罰。

「・・・・・・・み、見逃してくれんか!!!」

「・・・・・・・」

表情はやはり動かなかったが、
ガブリエルも、
さすがに今突如ネクロケスタから出てきたその言葉には呆れた。
まぁ、
かといって別に何も言葉は返さない。

「約束しよう!いや!公約しよう!これからワシは!絶対に人の迷惑はかけん!
 ネクロ教の夢は諦めなぬが・・・・・他人を強制的に巻き込むようなみっともない真似はせん!」

自覚があったのか。
まぁ、
宗教の末端はピュアだが、
結局上層部ってぇもんはこういうもんだ。

「・・・・いや・・・・交渉とかで頭使うのダリィから死ねよ・・・・」

天使の言葉とは思えないが、
つまりガブリエルの感情は、
殺しちゃえばとりあえず問題自体消去できるわけで、
スッキリ簡単に解決。
手っ取り早いという言葉はなかなか好きだ。
・・・・。
まぁ、
手っ取り早いというのも行動を起こすからこそ出る言葉なので、
動きたくないガブリエルにとっては、なかなか好きの域は出ないが。

「ワ、ワシを殺すメリットはないんじゃぁないか!?
 ワシを殺すと大変じゃぞ!ネクロ教の残党がいる・・・・かもしれんからな!」

「・・・・・かも?」

「い・・・いやおる!それに危害がない悪魔・・・あっいや・・・同属を殺すのもいろいろ面倒じゃろう!
 異端者ジャンヌダルキエルからの脱退はともかく・・・同属殺しはいろいろと・・・・・なぁ?・・・
 クケケケ・・・・・それに生かしてくれたらそれなりのお礼はするぞ・・・・・」

「・・・・・・」

ガブリエルは、
無反応で、
結局のところ、
また今日何度目かのタバコに火を付けた。

「・・・・ふぅー・・・・」

煙を吐いて一呼吸おく。

「・・・・・・いや・・・俺があんたと戦う意味・・・・言ったろ?」

「・・・・へ?」

ネクロケスタはいろいろと思い返す。
・・・。
意味・・
戦う意味・・・。
・・・・。
・・・・言ったか?

「・・・・・結局のところー・・・・俺ぁ思うわけねーー。・・・神は傍観者で居るべきだって・・・
 神は・・・・人間・・・いや・・・マイソシアに干渉するべきじゃぁねぇんだよ・・・・」

それだけ。
それだけ。
無気力で、
堕落で、
ニートみたいな天使、
ネオ=ガブリエルがたった一つもっているのはそれだけ。
それだけ。
その意志だけ。

「だーかーら・・・・お前は天罰だ・・・・・・みたいな?・・・・」

「ワ、ワシはだな!宗教を通じて慈悲と加護を与えておるのじゃ!
 ・・・・・い、いや!これからはさらにそちらに特化しよう!
 悪ではなく・・・人や魔物に得・・・・徳・・・・つまり善だけを与える!それなら・・・・」

「監視員が褒美をやるか?褒めたりするか?・・・・・ただ見るだけだ。
 そして違反者にブザーを鳴らしてやるだけ・・・・・それだけだ・・・・
 所詮神(GOD)は神(GOD)だ・・・・・GOODは与えられねぇ・・・・
 神が出来る事なんてぇのは・・・・結局のところ"天罰"だけなんだよ・・・・」

人にとっては、
ただの厄災・・・。
それだけ。
それだけであるべき。
無害なる天変地異であるべき。

「干渉とか・・・・俺達にそんな権利はねぇんだよ・・・」

「・・・・・・クケケ・・・・権利じゃと・・・・」

ネクロケスタは・・・・
開き直った。

「馬鹿を言うな小坊主が!!権利・・・権利じゃと!完全なる生命体で!
 全ての生物の頂点に立つワシらに権利がないじゃと!馬鹿も大概にしろ!
 ワシらは神じゃ!存在するだけで全ての自由と権利を持つ存在なんじゃ!」

「結局そこか・・・・」

神は所詮神・・・か。
皆同じ事を言う。
まぁ傲慢を特性に持つ種族だ。
しゃぁないか。

「・・・・いいか・・・・ダリぃけどしゃぁねぇー。説教っていうやつを俺も教えてやる・・・
 聖書(バイブル)には載らねぇからー・・・・耳かっぽじって聞きな・・・・」

神は、
天使は、
タバコを吸いながら説教をたれた。

「神以外の生物は・・・・・食う・働く・寝る・遊ぶの義務を背負ってる。
 だが・・・・・俺達はそれをしなくていい・・・・・その義務も権利もねぇんだよ」

そして、
ネオ=ガブリエルは、
そのタバコをネクロケスタの方へ突きつけた。

「てめぇは遊びすぎたんだ」

その目は、
やはり無表情のように冷たかったが、
真剣で、
意志が感じ取れた。

「だからあと・・・神であるテメェが出来るのは一つだけだ・・・・
 さすがにお前の断末魔は叫びは俺だって想像できる・・・・だからこそだ・・・
 てめぇだからこそ叫びな・・・・神だからこそ叫びな・・・・・」

そして・・・

「・・・・OH、MY、GOD・・・・ってな」

稲妻は落ちた。
ライトニングスピアの雷が、
ネクロケスタを貫いた。

「ネ・・・・・」

包み込むように。
跡形も残さないように。

「ネクロ様ばんざぁぁぁぁぁああああああい!!!!!」

叫び声だけを残して、
予想通りの叫びだけを残して、
ネクロケスタ]V(13世)は、
天罰のもと、
塵となった。

「・・・・・・ま、意味は一緒だからな」

そして、
一段落つき、
ガブリエルはもう一度ニコチン摂取用点火葉を口へと運ぶ。
・・・・。
終わった安堵のせいか、
ニコチンの取りすぎなせいか、
つまるところ、
クロスライトニングスピアで力を使いすぎたのだろう。
頭がクラっっとした。

「・・・・・だりぃ・・・・こんなだりぃ事をもうこりごりだぜ・・・・」

だが、
もうこれで、
これで終わった。
神族。
・・・・天使・・・悪魔。
その両方を地上から排除した。
もう戦うべき相手はいない。
これで・・・
自分の役目は終わりだ。

・・・・残ったのは自分。
自分だって同じ。
干渉すべきではない。
自分だからこそ自分でケジメはつけなければならない。
それは決意だ。

「・・・・・・俺ぁもう戦わねぇよ・・・・・"神に誓って"・・・な」

そんな決意を、
ダラダラとしたにも関らずだった。


「・・・・・・・」


終わったからこそ、
感じた。
終わったと思ったのに、
・・・・・
どうしたものか。

「・・・・・・だりぃな・・・・」

神だからこそ分かる。
神族・・・
同属の気配。

「・・・・・一つは悪魔・・・・人間からの転生型だろうなこっちは・・・・」

そしてもうひとつ。
それには、
ガブリエルも少々眉を潜ませた。

"なんなんだ"
天使か悪魔かもよく分からない。
転生物でもなければ、
生粋の神族の気配ともいえない。
なんというか・・・・
なんなんだとしか言えない。

「・・・・あぁ・・・・あの異端者か・・・・・あれの対処はどうしたもんかねぇ・・・・」

そのもう一人が、
まるで、
まるで自分から主張しているかのようだった。

感じなくても、
"肉眼で分かった"

向こうの空・・・・
いや、
向こうの森が赤く燃えている。

「覚醒しちゃったわけね・・・・神の落とし子(スプリングフィールド)ちゃん・・・・
 どうしたもんかねぇー・・・どうしたもんか・・・・うぅーん・・・・」

どうしたものか。
どうしたものか。
それを考えると、
決まって出てくる答えは同じだ。

「どーもしたくねー・・・・」

そう言い、

「寝る」

ガブリエルは動きを止めた。
寝た。
突発的に寝た。
権利とか、
義務とか言ってたくせに、
無責任に寝た。

・・・・・。
空中で。

「・・・・zZZZ・・・・・」

寝タバコはよくない。
危ない。
とかそういう問題を置き去りにし、
ネオ=ガブリエルは寝た。
眠って落下・・・墜落していった。
起きる気配はない。

まぁまぁ、
まぁまぁしょうがない。
なんたって彼は堕落してるのだから。
運動アレルギーなのだから。
もう放っておこう。

天使は安らかに眠って落ちていった。

今の所はただ、
言ってやれることはまぁ一つ。


R・I・P(安らかに眠れ)





















































「おー・・・・ガブリエルが落ちてくぜアレックス」
「え?あ、ホントですね」

Gキキで走りながら、
アレックスとドジャーは天を見上げた。
一つの影が落ちていく。
直滑降で。

「なんですか?ガブちゃんさんやられちゃったんですか?」
「ん?いーやー。俺ヒマだから見てたけどよぉー、ダメージ受けてる気配は無かったぜ」
「ヒマってなんですか。全く。自転車にしろ何にしろ後部座席は楽でいいですね」
「怒んなよ。状況把握は大事なことだろが」
「そういう事にしといてあげます。例えうかつに「ヒマ」って本音を滑らしたとしても」
「・・・・・カッ・・・・目ざといねぇほんとお前は・・・・」

Gキキは足音とかしない。
まぁそれはGキキを見たことある人なら当然と思うだろう。
だからまぁ、
大きな音を立てることもなく、
Gキキはアレックスとドジャーを運んでいた。

「・・・・・んで。景気よく落下してくけどよぉ。ガブリエルの野郎大丈夫なのか?」
「見てた限りノーダメージだって言ったのはドジャーさんじゃないですか」
「いや、落ちてんだぞ?神族っつってもあの高さから落ちたらヤベぇんじゃねぇのか?」
「知りませんよ」

だからって助けに行く事も出来ないので、
アレックスもドジャーも冷静に分析するくらいしか出来なかった。

「ま、大丈夫でも大丈夫じゃなくもないんじゃないんですか?」
「何言ってんだおめぇ。頭大丈夫か」
「大丈夫でも大丈夫じゃなくもないかもしれません」
「知ってる」
「まぁつまりガブちゃんさんの事です。考えがあって落ちてるわけでもないでしょう」
「そりゃそうだ」
「どうせ動くのがメンドくなったとかそんな理由で落ちてるんですよ」
「まさに多分きっと間違いなくそんなだな」
「なら心配するだけ無駄です」
「だな」

ガブリエルのことを考えるなんて、
さらに心配するなんて、
それこそ徒労だ。
無駄中の無駄である。
机の上のお菓子にさえ手を伸ばすのが面倒で飢え死にしそうな奴だ。
息をするのも面倒で窒息死しそうな奴だ。
ほっとくに限る。

「でもまぁ、そんなガブちゃんさんですが、あの途中の雷は凄かったですね」
「・・・・だな。ガブリエルにあそこまでの力があったとは思わなかったぜ。
 正直、俺らがガブリエルと戦った時にアレやられたらヤバかったな」
「僕がガブちゃんさんと戦った時にあれやるわけないですよ」
「なんでだよ。あいつが面倒くさがりだからか?」
「ガブちゃんさんは神族しか相手しないんですから」
「そなん?」
「言ってたじゃないですか」
「あー・・・なんか神が許せないとかなんだか言ってたなぁー」
「僕との戦いの時も手加減してました。それは僕が一番感じたからこそ、悪魔まるまる任せました」

ガブリエルを評価していた・・・ということか。
まぁ性格と意志。
状況さえも含めて、
ガブリエルの使い道はあれ以外なかっただろう。
そしてそれは驚くほどの結果を生み出した。
悪魔全滅。

「・・・・・正直ここまでやってくれると思いませんでしたけどね」
「んだよ」
「だってガブちゃんさんですよ?あの性格ですから・・・・」
「・・・・ま・・・・ボイコットもありえたわな・・・」
「そのために念のためダニーはガブちゃんさんのカバーに使おうと配置してたんですが・・・・」
「そのダニーだけどよぉ」

Gキキの後ろ。
ドジャーがあさっての方向・・・
というか間逆を見ながら言った。

「"うまいこといった"みたいだぜ」

その言葉で、
アレックスも、
Gキキに捕まったまま背後を振り向いた。

・・・・。
空が、
赤く染まっていた。

「覚醒しましたか」

アレックスは呟いた。
・・・・正直、
ダニエルが何がどうなったかは分からない。
全く分からない。
ただ、
ダニエルが神族であり、
その力がまだ未知数であるはずだと踏んだだけだ。
だから、
ダニエルがどんな風になったかまでは分からない。
ただ、
あの赤い空を見ると成功したのだろう。
ダニエルは、
"元に戻った"と表現するべきなのか、
"何かになった"と表現するべきなのかはまだ分からないし、
それが吉と出るか凶と出るかさえ分からない。
ただ、

「作戦は成功みたいですね」

明らかに森が燃えているだろう事は分かる。
だからこそ、
作戦という紙の上では成功といえるだろう。

「なぁーにが作戦は成功だ」
「あでっ!」

ドジャーはアレックスを殴った。

「なんなんですかー!」
「なぁんなぁんでぇすかぁ〜〜〜・・・じゃねぇ!カッコつけんな!
 今さっき「ダニーはガブちゃんさんのカバーのつもりで」とか言ってただろが!
 正直行き当たりばったりだったんだろ!ダニエル使って森燃やすなんてよぉ!」
「失礼な!ちゃんと考えてましたーーー」
「うそつけ」
「本当ですーーーー」

間延びした、
小学生のような反論をするアレックス。

「ちゃんと二重の意味だったんです。ガブちゃんさんも心配だったし、
 森を燃やすという作戦は展開上切り札としてどこかで使えると思ってましたから。
 不安要素としては、どちらにしろダニーが覚醒しなきゃ意味ないかもってとこでしたね」
「カッ、そこだけ聞くと応用の効く作戦の配置だったって聞こえるがな」
「作戦でしたーーーー」
「うそくせぇ・・・」
「本当ですよ?本当の事を言うとダニーのあの配置にはまだ意味が10個くらいあります」
「俄然ウソくさくなったな」
「戦術は僕のオハコです」
「出来る奴きどってんじゃねぇよ!んじゃ他に俺が納得するようなダニエルの使い道・・・・
 っつーか戦力であるダニエルをあんなとこに配置した意味を言えたら認めてやる」
「そんだけでいんですか?んじゃ簡単です」

Gキキの前座席的位置に座って、
前方を見たまま、
アレックスは後ろのドジャーに言った。

「隔離です」
「は?」
「ダニーを近くに置いておいたら危険じゃないですか。
 だから隔離。これがダニーの配置の一番で要で絶対的理由です」
「・・・・・なるほど。お前頭いいわ」

まぁそれを言われると、
ダニエルの配置はあそこしかないなと、
納得するしかない。

「まぁダニエルの件は現状だけで考えれば吉と出たとしとこう。
 後から手に負えないなんてのも想像できるが、この戦況においては大吉だ」
「そうですね」
「ガブリエルとダニエル。同時に動きが吉と出た。
 ハッキリ言ってチェックメイトは近い。あと処理しなきゃいけない事は・・・・」

ガブリエルによって悪魔は一掃。
ダニエルがうまくいっているとしたら、
全体の戦況事態はもうひっくり返っただろう。
1万の魔物を一掃で、
残りだけ考えればこちらが有利ととれる。
だから、
あと処理しなきゃいけないこと。
・・・・。
軍師で将軍。
仮とはいえ絶騎将軍(ジャガーノート)のケビン=ノカン。
・・・。
そして三騎士・・・
いや・・・
ロッキー。
一番どうにかしたい問題は正直ここだ。

・・・・あぁ・・・・
そして・・・・・

「!?」

ドジャーは気配を感じた。

「アレックス!!!」
「へ?なんですか?」

と疑問を持っているアレックスをよそに、
ドジャーはアレックスを突き飛ばした。
Gキキの上から。
そして自分も飛び降りる。

アレックスとドジャー。
二人が不意にGキキから落馬した形。

「いきなり何・・・」

アレックスが文句を言おうとした時、
ソレは目の前を通り過ぎた。
通り過ぎ、
それは、
血と、
黒き羽根を舞い散らしていった。

「忘れてたぜ・・・・」

それは・・・・
黒き翼・・・
あと一人の悪魔。
・・・・
いや、
黒き翼の・・・カラス。

ヨーキ=ヤンキだった。

「痛い・・・・痛い痛い痛い・・・・痛いんですよ・・・・とぉ・・・・・」

黒き翼で羽ばたき、
浮遊する、
黒き剣を持った悪魔。
ヤンキ。
それは・・・・
見るに堪えない姿だった。

「光・・・・・闇・・・血血血血血・・・・・・終わらぬ力は・・・・まるで底なしの闇・・・・ですよ・・・・とぉ・・・・・」

目から流血していた。
口から流血していた。
腹から流血していた。
それでも生きつづけていた。

改造悪魔ヨーキ=ヤンキ。
ブラッドアンガー。
ヤンキのブラッドアンガーは、
ダメージと直結するブラッドアンガー。
このまま血を流し続ければ流し続けるほど、
このまま死に近づけば近づくほど、

ヤンキは強くなる。

「痛い・・・・痛い・・・・俺はどこまで生き続ければ・・・・闇から出られるんだ・・・・・」

見ていて特に痛痛しいのは、
全身のいたるところの流血よりも、
体を貫いている致命的な傷よりも・・・・

ヤンキの左脇だった。
その傷は、
傷というには大きすぎた。
・・・・。
無い。
左脇がない。
左脇が大きく削り取られ、
そのまま左腕の途中までも喰い取られ、
左腕がオモチャのようにプランプランと揺れていた。

「・・・・・あの傷」
「・・・・まぁあそこまで理屈外の傷を付けられる奴ぁ決まってら」

「・・・・・・これは・・・・黒色の騎士にやられました・・・よっとぉ・・・・」

黒色の騎士。
・・・・十中八九ツヴァイだろう。
どこで遭遇したか知らないが、
ツヴァイの槍にやられたのだ。
まるで大砲が突き抜けたような穴が、
ヤンキの左脇を突き抜けている。
そのせいで左手がただのお荷物のようにぶら下がっているほどの、
デカい空洞。
・・・・・。
削り取られた左脇の赤い噴水から見えるのは・・・・
心臓か?
心臓が外に出るほど削り取られて生きているなんて・・・・・

悪魔的だ。

「あれは・・・いい黒だった・・・・・カラスには眩しすぎるくらいの真っ黒な女だった・・・・
 まるで黒い光・・・・羨ましいですよ・・・とぉ・・・・だけど・・・・痛い・・・痛い・・・・・」

もともと満身創痍なほどの重症だったにも関らず、
ドーナツをかじったようなデカい穴を作られ、
だが、
それでも、
なお生きる悪魔。
それは、
不死身に近いほどの耐久力のある体が、
どれだけ不幸なのかを説明しているようだった。

「・・・・やっかいな事してくれましたねツヴァイさん・・・」
「あぁ・・・」
「このヤンキさんに限っては"殺し損ねる事が一番危ない"」

ヤンキのブラッドアンガーは、
痛みの上の力。
それはもう、
自らを痛める事によって力を手に入れるブラッドアンガーを超え、
とにかく、
自らが痛めば痛むほど強くなるという底なしの力だ。
底なしの悪魔の体に、
あまりに馴染み、
あまりにピッタリだからこその、
哀しい力。

「死ねない・・・・痛い・・・・死ねば死ぬほど力が沸いてくるんですよ・・・・とぉ・・・・
 死に近づくほど・・・・・逆に生を感じるほどに体が活性化する・・・・
 麻痺さえしない・・・・逆に強く感じていく痛み・・・・痛い痛い痛い・・・・」

終わらない痛み。
終わらない増力。
終わらない生。
終わらない・・・・闇。

「昼でも夜でもない・・・・夕焼け・・・・カラスな俺はもう・・・・そこを飛びたくない・・・・・
 どうにか日よ沈んでくれ・・・・光・・・・どこまで追い続ければいい・・・・・
 どこまで追いかければ夕焼けは終わるんですか・・・・と・・・・と・・・・・とぉ・・・・・・」

見ていて痛々しい。
そして、
どうする。
下手に手は出せない。
ハンパなダメージはヤンキをさらに強くする。
ハンパなダメージ?
ツヴァイの一撃でさえ生きながらえているのに、
アレックスとドジャーでどうする。
そもそも、
ダメージとか以前に・・・・

すでにアレックスとドジャーでは手の付けられない強さになっているんじゃ・・・・・

「カッ・・・・どうすんだよアレックス」
「・・・・・見たところ部分的なダメージは意味がなさそうです・・・・」
「・・・・だからどうするんだって聞いてんだよ」
「・・・・全部消し飛ばすようなつもりじゃないとダメです」
「だからどうすんだって!・・・・・」

ドジャーがアレックスに八つ当たりの言葉を浴びせているとき、
ソレは爆発すた。

「・・・あああああああ!!痛い!!痛い!!!」

ヤンキの体自体が吹き飛ぶ。
その衝撃で、
プラプラと皮と少量の肉だけでぶら下がっていたヤンキの左腕はどこかへ飛んでいった。
死に至らしめることは出来なかったようだが・・・・・


「見ていて美しくないね」

その爆発の主は、
歩いて表れた。

「エクスポか」
「やぁ。アレックス君。ドジャー」

エクスポは、
得意の動じない表情で、
爆弾を両手に持って表れた。

「加勢に来る仲間の登場。・・・・ハハ!美しかったかい?」
「美しくねぇよ!!」
「あてっ!」

ドジャーはエクスポを蹴飛ばした。

「何をするんだ美しくない!いいかいドジャー。仲間内での暴力は反対だ。
 それはもっとも愚すべき行為だよ。世の中にはDVというのもあるね。
 ドメスティックなバイオレンスが選べれて世の中で問題になっているのは・・・・・」
「うっせ!!」
「エクスポさん・・・・ヤンキさんはダメージを受けるたびに強くなるんですよ」
「へぇ」

エクスポは何度も頷いた。
なるほどなるほどと。
その、
理由を聞いたクセに、
自分が何をしたか分かったクセに、
動じない様子がドジャーのカンに障ったのか、
ドジャーはもう一度エクスポを蹴飛ばした。

「痛いねドジャー!なんだい君は!SMの素質とか性癖があるのかい!?
 逆にもしそうな場合だけボクを足蹴にしたことは許してあげよう!
 そういうのに美徳を感じる人がいる事を、ボクは否定はしないからね!」
「俺はてめぇの存在を否定してやんよ!」
「ドジャー。芸術評論家を否定するなんてなかなかやるじゃないか。
 その意志は大事だよ。芸術っていうのは個人の視点で測れるものじゃないからね。
 ・・・・でもまぁ、芸術の楽しみ方や好奇心を他人に一つの方法として提供するという意味で、
 芸術評論家とは無くてはならない存在だ。芸術はやはり評価されてナンボだからね。
 美しいものとはそれだけで価値があるけども、やっぱり自己満足だけで・・・・」
「どうでもいい話はやめろエクスポ」
「どうでもいい?どうでもいいと言ったかい?ドジャー。ボクはね・・・」
「エクスポさん。ボクもどうでもいいです」
「・・・・・・」

エクスポは少し不満そうだった。

「なるほど。押し付けがましいのは美しくないね。反省するよ。
 それはまるで「分かる奴だけ分かればいい」って主張するインディーズバンドだ。
 楽しみ方を強制する奴は二流だ。それはまだまだ美しくない。
 メジャーもマイナーもひっくるめて評価されるものこそ、本当の芸術だとボクは・・・・」

まだクドクドと話しが続く。
何が反省するよだ。
どこを反省したというのだ。
成長しないというのも芸術家としてどうなのだ。

「なんだあんたは・・・・お呼びじゃないですよ・・・・とぉ・・・・・」

軽く黒こげになったヤンキは、
もう見れたものじゃない。
さらに顔の皮が軽くはがれ、
左腕はちぎれ、
流血の限りを尽くし、
まるでゾンビ予備隊のような外見のヤンキ。

「お呼びじゃない?ふむ。ボクは思うんだよね。
 呼ばれなきゃ出場できないような映画祭や博覧会だから、ドンドンと芸術が埋もれていくのだと。
 うん。また話がソレたね。つまりボクが言いたいのは誰がどう呼ばれようとも、
 君は君というその姿のままここに存在しちゃってるじゃないかという事さ」

全然意味が伝わらん。
意志を伝えられないのも、
また芸術家として落第点だ。

「・・・・・・あんた意味分からないですよ・・・・とぉ・・・・・・」

「分からない?へぇ。分からないというのは凄く哀しいことだよヤンキ君。
 その点、さっき出あった音楽家はボクにとって凄く美しい存在だったけど・・・・
 まぁ分からないには理解できないって意味と分かろうとしないって意味の二通りあるんだ。
 どちらにしろ芸術的美的観点から見て、製作者と回覧者が分かり合えないって意味なのだから。
 つまりボクが言いたいのはボクと君はもっと分かり合えるって美しい・・・・」

「あんたに・・・・俺の何が分かるってぇ・・・」

「分かるに決まってるじゃないか。同じなのだからね」

話しを切られて返されたのに、
ハッキリとエクスポは返した。

「ボクは以前、フウ=ジェルンと呼ばれた。君と同じだ。
 望みもしないのに自分を変えさせられた者だよ。神族にね」

アレックスは思いだした。
エクスポも、
天使試験にて神族に転生させられた者だと。
・・・・いや、
思い出したのはそこじゃなくて、
そこは当然であって、
思い出したのは・・・・
エクスポが人間に戻ったという点。
つまり・・・
つまり・・・

ヤンキもシャークの吟遊詩人スキル、
レクイエムによって変身解除を行えば・・・・・

「それは無駄だよアレックス君」

まるでアレックスの思考をよんだようにエクスポはアレックスの考えを遮った。

「いいかい?」

おもむろに。
さもおもむろに、
エクスポは両手に持っている爆弾の片方を地面に落とした。
落として、
それを足で踏み潰した。

「!?」

「大丈夫だよ」

エクスポの言葉通り。
足で踏み潰した爆弾は爆発しなかった。
サンドボムだったのだろう。
爆弾は、
砂や火薬や、ちょっと素人には分からないような砂状のものを散乱し、
巻き散っただけだった。

「つまりこういう事。どんな芸術も火がつかなければそれまで。
 カラッポのもぬけの殻って事さ。"ハートに火をつけて"。
 ボクはどんな芸術も爆弾と同じだと思ってる。火が付かなきゃただのモノだってね」

エクスポは笑う。

「あぁ、そういえば例えとしてだけどね。最近芸術学習のために漫画を読んでるんだ。
 ダメだね。ありゃ。最近の漫画というのは薄っぺらさを感じるよ。
 それは心がないからさ。努力や修行なんて描写がまるまる削られてるからだと思う。
 絵の中の人物が空想そのものの心の無い遠い存在に感じてしまう。
 天才や怪物もいいけどそれから共感は・・・・・おっと。あんまりたとえが長いとまた怒られるかな」

少し学習したのか、
エクスポは話を切り上げて本題に入る。

「つまり心のないものは芸術にあらず。どんな芸術だろうと、
 機械で量産されたレプリカには何故か感じるものが少ないだろう?
 なのにヘタクソなのに努力の跡が見られる手作りには温かみを感じる」
「また長くなってますよ」
「はよ話進めろ」
「せっかちだなぁ君たちは。楽して時なくして芸術は生まれないよ?
 芸術っていうのは積み重ねて積み重ねて、そして爆発するものなんだから」
「いいですから」
「はよ」
「つまり心のないものは芸術にあらず」
「戻ってますよ」
「進めろっつったんだ俺は」
「戻ってないさ」

エクスポは笑い、
指をヤンキに突きつけた。

「君はカラッポだって言ってるんだよ」

ヤンキは、
エクスポに指を突きつけられ、
言葉を突きつけられ、
そして、

「そんな事は分かってますよ・・・・とぉ・・・・」

エクスポは分かっている事を言っただけだったようだ。

「だからと言って・・・・」

痛々しく、
あまりに哀しいツギハギのような体で、
ヤンキは赤い血を目から流しながら、
訴える。

「だからこそ・・・どうしていいか分からない・・・・・俺は・・・・
 ガムシャラに・・・・闇の中で出口を探すしかないんだ・・・・・」

「だから心を失っているって言ってるのさ」

「・・・・」

「君は目的を見失っている」

分かっている。
分かりきった事を、
ただエクスポは言うだけだ。
それでも、
エクスポは続ける。

「ボクも神族化したから分かるよ。思考回路自体が人間のソレとズレてしまう。
 そして自分が自分であるまま、別のものになってしまったような感覚。
 素材が素材のままなのに、進む方向だけを間違ってしまったような感覚」

オムライスがチャーハンになってしまったような。
と続け、
さらに続ける。

「経験者だからこそ言わせてもらうよ。君は迷惑だ。
 心を失った芸術品だ。それは傲慢な力を持った迷惑でしかない。
 だからといって作り直しはきかない。砂山は壊して作り直すのに時間がかかる。
 今すぐ戻れないと言うのならば・・・・それは哀しい事だけで消えるしかない」

・・・・。
アレックスを止めた結論はここだったのだろう。
そして、
それは、
その言葉は、
エクスポはエクスポ自身。
転生させられた時に心の底で思っていたこと。
決断していたことだったのだろう。
たまたま・・・
たまたまシャークのレクイエムがその時その場所にあったというだけ。
そうじゃなければ、
エクスポはアレックスもドジャーも、
そして自分も、
あるがまま壊していただろう。
だから、
だからこそ、
そんな偶然だけで助かっただけだと分かっているからこそ。
エクスポはヤンキに言った。

自分達のようなものは即刻消えるべきだ。
心のない本人など、
模造の芸術品。
レプリカに過ぎないのだから。

「エクスポさん・・・それはちょっと・・・」
「そうだぜ。シャークのレクイエムがあればヤンキは戻せるかもしれない。
 そうすればその時点でヤンキも、そしてツィンも束縛される理由がなくなりハッピーエンドだ」
「そのシャークはどこにいるんだい?」

その通りだった。

「そのどこに居るかも分からないシャークを探すのかい?
 その遭遇するかも分からないシャークを待ってみるのかい?
 ならその間コレはどうする。悲しき殺戮のままを許すのかい?
 ボクは単純な話をしているんだ。これは漫画じゃない。
 漫画で主人公が世界よりたった一人のヒロインを取る姿は確かに美しい。
 だけどそれは虚像の世界の中だからであって、ボクは現実の話をしてるんだ」

それは・・・
やはりその通りだった。
エクスポは当たり前の事しかさっきから言っていない。
だからこその現実だった。
ヤンキを助ける?
助けるまでの間にどれだけの犠牲が出るというのだ。
ヤンキ自身さえも被害者なのに、
被害者が被害者しか生まない哀しみを何故認める。

「だがよぉ」
「それも分かってる」

ドジャーの言葉を、
まるでエクスポは思考をよんだように遮る。

「ボクだって、例えば君たちが危なければ世界の人間何千万人より君達をとる。
 《MD》はズレた感覚のそういう奴らが集まってるギルドで、ボクもそうさ。
 そして考えてくれよ。彼はどう考えてもボクの好きな《MD》のあまりに大きな危害要因だ。
 だからこそ。だからこそボクはこう言ってるのさ。つまりは最初からそうなんだ。
 ヤンキ君のためが50%。その気持ちが分かるボクのためが50%。
 そして、《MD》のためが100%。だからボクは言っている」

どちらをとるか。
そういう話だ。
皆がハッピーになるが可能性の低い美話をとるか。
それとも本当に自分達の大事な者を守るか。

「まぁ結局君のためにもボクらのためにもなるのさ」

エクスポの目は、
ヤンキを捉えたまま。

「君が死ぬのがね」

それは冷たい言葉だったし、
哀しい言葉だったが、
エクスポがそんな言葉を、
冷たく残虐で凍えそうな酷い発言をするのも、
ただただ、
100%大事な《MD》のことを思ってなだけの、
最優先な発言だった。

何度も言うが、
分かりきった事だった。
分かりきった事。
エクスポはさっきから分かりきった事しか言ってない。
だから・・・・

「分かっていたさ」

ヤンキはそう答えた。

「・・・・・死ねないなんて事はない・・・・死ねるんだ・・・・
 真っ暗な闇で光が見えないなんて事はない・・・・道は分かってた・・・・
 ただただ足掻いてもがくフリをしてだけ・・・・そうなんですよっと・・・・」

自分が死ねば、
ツィンが救われる。
それが分かっていた。

「ただ一つ迷っていたのは・・・・ツィンが俺を思って・・・
 俺を死なせたくないから俺を悪魔化して生かしたから・・・
 死ぬのを躊躇っていただけ・・・ツィンの気持ちは分かるから・・・・
 たった一人・・・・たった残り一人の仲間を死なせたくない気持ちが痛いほど分かっていたから・・・」

だから・・・
だから・・・・
ヤンキはずっと呟いていた。
痛い。
痛い。
痛い痛い痛い痛い。
体の痛みじゃない。
気持ちが痛いほど分かっていたから。

「だけど・・・やっぱダメですね・・・とぉ・・・・・
 俺が生きる事で・・・・ツィンを束縛するわけにはいかないんですよっと・・・・
 俺にとっても奴は残りたった一人の仲間なんだから・・・・」

答えは分かってた。
答えは知っていた。
自分が仲間を失いたくないか、
仲間が自分を失いたくないか。
その二択。
どっちをとるかって話。
エクスポは分かりきった事を話していただけ。

それでも、
ツィンはヤンキを失う事を悲しむだろう。
だが結局、
それもどっちをとるかって話なだけ。
ヤンキが死ぬことで、
ヤンキはツィンの縛りを解く事ができる。
それはヤンキの思うところだし、
ツィンのためになる。
死んだ自分のことなど引きずるまでもない。
ツィンが前に進まなきゃ意味がないのだから。
死んだ自分なんかに束縛されてちゃいけない。
結局、
自分が死ぬことがお互いのためになる。
そんな哀しい現実だっただけ。
現実の話だ。

「どっちをとるか・・・か・・・・・フフッ・・・・ただ・・・・
 ツィンは「ならどっちもとる」ってきかないだろうけどな・・・・
 二兎を追うのが大好きだから・・・・両手に花を咲かすのが大好きだからな・・・・」

だが・・・
二兎を失うわけにはいかなかった。
分かっていた。
分かっていた。
だから・・・
痛い・・・
痛い痛い痛い・・・・・。

「殺してくれ」

ヤンキは言った。

「首を刎ねるだけでいい。それで十分に俺は死ぬ。それだけですよ・・・とぉ・・・・」

「・・・・・いいんだな」

ドジャーは言った。
それは、
ドジャーが言っただけで、
アレックスとエクスポの言葉でもあった。
説いたエクスポ自身も、
聞き返さなければならない言葉であった。
・・・・。
自分なのだから。
あそこにいるのは、
自分と同じ境遇の者なのだから。

「いいんですよ・・・と・・・・これで逝ける・・・・光の元へ・・・・
 ハッキリと闇の中に光が見える・・・・・師範の姿がハッキリと・・・・」

死の先に居るから。
死にたい。
それが幸せだ。
そんなもの間違っているという人にはちょっと教えてやりたい。
死んだ事ない人間には分からない。
この状況に陥ってなければ分からない。
全ての符号が、
自分が死ぬことで幸せを選んでいる。
そして自分さえも。

「そういえばあんたらも99番街の出身だったな・・・・
 あんたらはどうか知らないが・・・俺には最悪だった・・・・
 それは単純に居場所じゃなかったからだろう・・・・
 生きていたとは思えない・・・・ゴミを突付くカラスのような惨めな生活だったし・・・・
 師範と出会ってからの人生には光があった・・・・だからもう戻りたくない・・・・」

死なせてくれ。
そう、
どう見ても死んでいるような重傷の上に重症を重ねたような、
死人よりも重症な身なりで、
ヤンキはそう懇願した。

「分かっていた。分かってはいた事を教えてくれただけだ。
 負の連鎖の中を動き回っていても光は見えてこない。
 カラスは・・・・・・・・・夕暮れに向かって消えますよ・・・・とぉ・・・」

夕暮れ。
夕暮れ。
カラスはいつも夕暮れ。
朝焼けなんて似合わない。
始まりに飛ぶ鳥じゃない。
終わりに向かう鳥だ。
飛ぶことさえもう、
闇に向かう招待状であり、
夜に向かって飛んだって光は見えない。
分かっていた。
分かっていた。

「・・・・・じゃぁ・・・やるぜ」

ドジャーは、
両手にクルクルと回しながらダガーを手におさめた。
二つのダガーを逆手に持ち、
ヤンキに近づいた。

「・・・・・死が怖くない・・・・こんなにも晴れ晴れとしている・・・・
 それは真っ暗な闇の中の・・・・たった一つの出口だからだろうね・・・・・」

「それ以上しゃべるな」

殺しにくくなる。
ドジャーはそう言ったが、
ヤンキはしゃべるのをやめなかった。

「・・・・・死が怖くないのは・・・・俺が悪魔で・・・今、地獄にいるからだろう・・・・
 死はもう垂れた蜘蛛の糸みたいなもんで・・・すがりたいほど捕まりたいものだ・・・・」

「分かってるさ。ちょっといいかい?」

エクスポが、
ドジャーの肩に手を置きながら間に入り、
話しだす。
だが、
説教じみた顔はしていない。
だが当然の事しか話さないエクスポは、
やはり当然の事をまた話すのだろう。

「君が死ぬ前にボクの死に様の希望を教えてあげるよ。ボクはね。早死にしたい。
 いつか娶る妻も、変わらない友、そして叶えたい夢も、全て"置き去りにして"死にたい。
 ボクの寝転がるベッドの周りで皆が泣いて、そしてボクだけが笑って息を引き取るんだ」

突然何を話し始めるかと思ったが、
エクスポの話を皆が聞いた。

「・・・・・・夢も叶えないで死にたいのか?・・・・」

「悔いのあるまま、無念のまま死にたいのさ。あ、念が残るのに無念ってどういう意味なんだろうね?
 まぁいいか。つまり、カラッポのまま死にたくないのさ。積み重ねたものを消したくない。
 友が死に、最愛の人が死に、そして夢まで叶えて、全て悔いの残らない人生を送って・・・
 その時ボクは一人だ。やり残した事もなく、いつ死んでも同じ後生で一人ぼっちさ」

無駄な人生を歩みたくない。
ただそう願うなら、
何も叶えてはいけない。
友も死に、
妻も死に、
夢も終えた人生。
残りは思い出だけが残る無駄な人生だ。
それも美しいかもしれないが、
そんな時間を生きたいとはエクスポは思わない。

「積み重ねて積み重ねたものは最後に華々しく散って美しいのさ。
 削れていくように消えていく花火を誰が見たいだろうか?ボクはボクの人生をそうしたくない」

エクスポは笑った。

「君は幸せだよヤンキ君」

そう笑った。

「自分の死にたいように死ねるんだ。そして、それは残した者に意味がある。
 ツィンという人を解放できるんだろ?"君の死には意味がある"
 カラッポのまま死ぬんじゃない。それがどんなに幸せな事か」

何かを残せる死がどれだけ幸せか。
自分よがりじゃない死がどれだけ幸せか。
積み重ねたものを消費しきってからの死ではない。

「ありがとう・・・と言っておきますよ・・・とぉ。
 価値観を見つけてくれるという意味じゃぁ・・・・確かにあんたは芸術家だ」

「そこらに落ちている石ころさえ意味を見つけて飾るのが芸術家だからね」

「・・・・・フッ・・・・そうだな・・・・悔いがあるからこそ気持ちよく逝けるんだな・・・・
 何も無い闇じゃない・・・・俺の死にはちゃんとした心残りがある・・・・」

血だるまのカラスは、
やはり穏やかな顔だった。

「光・・・光さ・・・・師範もリヨンも地獄でよろしくやってることだろう・・・・
 俺にはそっちの方があんまりにも光眩しい・・・・俺はそっちに行きたい・・・・
 ・・・・だから・・・・・俺は死んで生きよう・・・・・死んだ先を生きよう・・・・
 ・・そう思えば心残りも輝かしく逝ける・・・・それは取り返せばいい・・・・生き返るように・・・・
 ゴミをつつくように・・・何度でも・・・・何度でも・・・・俺は死と生の間の夕暮れを飛ぼう・・・・・」

ドジャーが目の前に立つと、
ヤンキは穏やかな顔で言った。

「俺はカラス。千度飛ぶさ」

逆手に持った、
ドジャーのダガーが、
クロスした。
ハサミで挟むように、
クロスしてカッ斬った。
首が飛んだ。
ヤンキの首は、
赤黒いまま飛んだ。

それで終わりだった。
それで。
誰もが望んだ結果だ。
本人さえも。
満場一致。
そういう、
そういう死だった。

だった。


「・・・・・・・・」


ただ、
ただタイミングが悪かった。
時と場合。
そういう言葉をあげるならば、
これほどタイミングが悪いことはないだろう。

過程など関係なく、
その時と場合だけが目に収まったなら、
どう思っただろう。
どう感じただろう。

友の首が飛んだ光景は。
たった一人の仲間が死んだ光景は。

「・・・・・ヤンキ」

ただ、
二刀流の剣士は、
最悪のタイミングでそこに立っていて、
現状、
その光景、
その結果だけを写すフィルムには、

血に塗れたダガーを持つドジャーと、
最後の友の首が吹き飛ばされて転がっているだけだった。














































・・・・。

それは、

"ミスではないが失敗だっただろう"

少しだけ時は遡る。
少しだけであり、
遡る必要もないほど少しだけだったが、
噛み合わないならば戻る必要がある。

そしてもう一度言うが、
それはミスではないが、
失敗だっただろう。

「アッちゃん・・・・・」

森の中。
ダニエル=スプリングフィールドは立っていた。
『チャッカマン』ダニエルは、
ただ呆然とそこに立っていた。

「死んだってどういうことだよ・・・・・」

それはウソであったが、
それは受け入れるしかない現実だった。
アレックスは、
実は引き金は作っておいたのだ。
戦争が始まる前、
ダニエルに言っておいた。
「この戦争での僕が、一つの答え」だと。
それはあまりに曖昧だったが、
提示されたものが、
それを示しているのだとダニエルは思うしかなかった。

アレックスは死んだのだと。
それが答えだと。

「・・・お・・・おお・・・・俺が燃やすっつったじゃないか!
 他の誰でもなく俺が燃やすから俺はアッちゃんを・・・・」

アレックスは、
ダニエルを覚醒させるためにはどうしたらいいのかと考えていた。
つまるところ、
それは自分の死だと決断した。
もちろんだからといって
「はい死にます」と死ぬ可愛げはアレックスにはないが、
ダニエルにそれを突きつける必要があった。

今、
現状で自分が死ねばダニエルの箍が外れると。
そう確信していたから。

「アッちゃん・・・・アッちゃん・・・・・」

赤い髪の放火魔は頭を抱える。
ダニエルが、
アレックスを失ったのは二度目だ。
一度目は、
もちろん終焉戦争。
それでアレックスは死んだのだと悟っていた。
だが、
その時ダニエルは覚醒しなかった。

だが今とその時は違う。
ダニエルは自覚している。
自分が神族だと。

ガブリエルにそれを突きつけられ、
自分の底なしの魔力にそれを感じ取った。
根拠を感じ取った。
自分の人間とズレた感情に根拠を感じた。
自分は違うのだと認めた。
否、
自分が人と違うとは分かっていて、
その納得いく結論を知った。
そういうこと。

・・・・・。
ダニエルは一度死に掛けた。
一年前のミルレス。
ミルレスの谷底に落下した。
だが生きていたダニエル。
その理由は、
ぶっ飛んだ発想で「飛んだ」としか思えない。
思えないわけだが、
それは、
ダニエルが神族ならばあり得る話で他ならなかった。

今、
ダニエルは神族であることを自覚している。

「・・・・・アッちゃん・・・・アッちゃんは言ってくれたじゃないか・・・・」

だが、
それでも、
それでもダニエルが今のままでいるのは、
ギリギリ人間という存在のままであったのは、
それはつまりアレックスが留め金だったに過ぎない。

「こんな俺でも人間だって・・・・・」

こんな腐った変人でも、
認められない最悪な放火魔でも、
人としてあり得ない感情を持っていたとしても、
それでも、
アレックスが、
そのダニエルを肯定したから。
それでもダニエルは人間なのだと。
ダニエル自身を肯定したわけじゃないが、
それでもダニエルは人間なのだと。
ただの間違った人間なだけだと。

「なら俺はどうしたらいい!!!」

どうしたらいい。
どうしたらいいのか。
分からない。
分かりはしない。
たった一つの自分の支えが無くなったのだから。
自分が自分である、
いや、
自分が人間である理由を失ったのだから。

「・・・・・・・・・・」

結論から言うと、
ダニエルは覚醒する。
神族に変貌する。
だが、
結論を述べた上で、
先ほどの前提をまた言う。

それはミスではなかったが、
失敗だったと。

「・・・・・・・ヒャハ・・・・・・」

ダニエルは、
つまるところダニエルであり、
最低最悪の放火魔だ。
燃やす事に快感があり、
ありとあらゆるものを燃やしたいという性欲の持ち主だ。

モノが灰に変わるのが好きで、
自然が煙に変わるのが好きで、
一面が炎に巻き込まれるのが好きで、
生きて動いて考えて愛を語っていた人間が、
悶え苦しみ、
叫び声をあげ、
炎の中で最後の灯火と言わんばかりに踊り狂い、
色が赤の中の黒へと変わり、
煙が命を吸い、
漂ってくる人油の湿り具合が好きで。
最後にただの黒い炭になるのが好き。

異常で、
最低で、
邪悪で、
人、物、自然。
無機物から見ても有機物から見ても、
災害でしかない邪魔で居ない方がいい存在。

だが、
それを見越した上で、
それを理解した上で、
歯止めが効かなくなる事を分かっていた上で、
アレックスはダニエルを解放したのだから。

それを分かっていた上で、
ダニエルを森の中に置き、
森の中の発火地点に置き、
ダニエルの性質のまま利用しようとしたのだから、
それはミスではない。
ミスではない。
大成功の上に、
花丸が三つ付いて、
後世に語り継いでもいいほど計画通り。
ミスなど一つもない。

だが失敗だった。

「ヒャハハハハハハハハ!!」

今、
この時、
この場合。
それだけを見たら最高この上ない判断だっただろう。
これしかなかったのだから。
ダニエルにしか出来なくて、
最高で最大限の力を遺憾なく発揮できる、
メリットの塊のような作戦だったのだから。

「ヒャーーーーハッハッハッハハハハハハハハハハ!!!!」

ただ、
その先を見据えたら、
それは失敗だったとしか言えない。

一件の火事のために、
大河川の堤防を壊してもいいのか。
一匹の害虫駆除のために、
大森林を伐採してしまっていいのか。

これはそういう話だった。

ひと時の勝利のために、
抑えの利かない大災害を誕生させてしまうのだから。
敵も味方もなく、
全てを飲み込む事だけが幸福の、
盲目の、
消えない大火災の火種を誕生させてしまうのだから。

それはミスではないが、
大失敗だったとしか言えないだろう。

「ならいいや!ヒャハ!ならもう!いい!どうでもいい!
 どうだっていい!灰に!廃に!HIGHに!ハイになっちまえばいい!
 なんもかんも!見えるもん全部!萌え萌えに燃やしちまえばいい!!
 上は大火事、下は大火災!これなーんだ!答え!赤のち黒!ヒャハハハハハハハ!!!!」

首輪を外してしまった。
檻を壊してしまった。
ダニエルは解放されてしまった。

目が。
まずは目が。
ダニエルの両の眼が、

真っ赤に変貌した。

「もーぉ本当に燃やしたいものはないからぜぇーんぶ燃やす!!燃やす!!!
 とっておく好きなもんは無くなかったから好きなもんぜぇーんぶ燃やす!!
 もーーーいーーーよーーー!俺が俺である必要なくなっちゃもんねー!!
 だから俺が俺であるまま俺の好きなよーーにしちゃう!ヒャハハハハハハ!!!」

次に、
ダニエルの上半身の衣類が、
燃えて消え去った。
炭になる時間もなく、
消え去った。
炎と化して、
消え去った。

「業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!
 業火で猛火で不知火で鬼火で烈火で蛍火で点火で発火で電光石火で百火繚乱!!!」

そして燃え始めたのは、
頭部。
心がという意味でなく、
ダニエルの頭部。
その赤い赤い自慢の髪は、
消えることなく業火の蝋燭が如く、
轟々と燃え始めた。
赤い髪が、
炎の中で生きるように。
赤い髪が、
ダニエルの頭部は、
炎で形成された。
髪がなびくように、
頭部で炎が揺らめく。

「陽炎なる爆炎の限りの火炎で火達磨の火祭り!大火災のち大火葬の火蓋で炎上させての炎天下!!!
 ファイヤー!バーニンッ!フレアにヒートッったらフレイムバーンな大ブラストでインフェルノ!
 ライターでマッチでストーブでバーナーでコンロでランタン・ローソク!チャッカマン!!!!
 焼いて炙って煮込んで湯立てて揚げて蒸して炒めて茹でて煎てもっかい焼いて燃やして燃やす!!」

そして、
生まれた。

「燃やして燃やす!燃やして燃やす!燃やして燃やして燃やして燃やす!!
 火火火火火火で!炎炎炎炎炎炎炎ででででで!燃や燃や燃燃燃や燃やす!!!!」

赤き、
炎のような眼の。
赤き、
炎のままの髪の毛の。

そして、

「ヒャーーーーーハッハッハッハハッハハハハッハッハッハッハハハハハハハハ!
 ハハハハハヒャハハハヒャハハヒャハハヒャヒャヒャハハヒャーーハッハッハッハ!!!」

悪魔か、
天使か、
それらからさえ隔離された異端。

それは、
生えるというよりも、
点火した。

ダニエルの背中から、
大きく、
ただ大きく。
燃え上がるように。
燃え広がるように。

炎の翼が。

赤く。
赤く。

羽根を撒き散らすように火花を散らし、

火炎の両翼が広がった。

そして、
辺りは赤く、
オレンジ色に変わり果てた。
何もかもが。
命という命が。
非命という非命が。
景色という景色が。
燃えるものという燃えるものが。
燃えないものさえ燃えるものに。
木も、
葉も、
石も、
土も、
空気も、
命も。
全てが全て、
食い尽くされるように赤とオレンジに飲み込まれた。

『放火魔(チャッカマン)』
神の落とし子(スプリングフィールド)ダニエル。
それは変わり果て、

『過剰なる火上炎神(ターボエンジン)』
カルキ=ダニエル。
カルキ(汚物を破壊する不死者)

炎の翼を火災の如く広げ、

火炎を背負いし赤の化身は、
炎の両翼の下・・・・・解き放たれた。














                 






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