"あんたが動くと戦いが始まっちまうんだ"


あんたは常に爆心地


あんたがいると巻き込まれるんだよ。巻き込まれてどうかなっちまう


"こいつが居なければ、あんたらの仲間は生きてたかもな"




メテオラがアレックスに言い放った言葉。
今更だが、

引きずっていた。

表には出さないが、
心の中の重りになった。
それはアレックス自身が心の底で思っていた事で、
それが言葉となってアレックスを突き刺した。

自分がやってきた事。
それは、
"いつも争いを招くものだ"

騎士団を裏切り、
シンボルオブジェクトを盗み、
《MD》を巻き込み、
ギルド達と戦い、
そしてさらに多くの人を巻き込んで帝国に挑む。

そのために、
どれだけの人が巻き込まれている。

今の仲間は、
全て戦わなければならなかった仲間なのか?
巻き込んだだけじゃないのか?

そして死んでいった。

幾多の人をその手にかけ、
共に戦った幾多の人々が死んでいった。
それは死ななければいけなかったのか?

巻き込んだだけじゃないのか。

《MD》は・・・
関係なかったはずだ。

アレックスがいなければ、
世界の端っこ。
99番目の世界で他人事のように生きてただろう。
なのに、
戦い、
そして死んだ。

ベイ=レイズは死んだ。
ユナイト=チェスターは死んだ。

彼らは死ななければならなかったのか?
他の人々もだ。
巻き込まれなければならなかったのか?

いや、
関係ない。
関係なくはないが、
誰もが自分の意志で戦っているはずだ。

そして目の前にいる者達。

彼らも巻き込んだのか。
彼らは彼らの意思があったはずだ。
だが、
辿っていけば、
自分が責任のように感じる。

ツィン=リーフレットは、
仲間とも思えない奴らの下で、
哀しい思いをする必要はなかった。

ヨーキ=ヤンキは、

人間の命を捨てる必要はなかった。















「真っ暗ですよ・・・・とぉ」

黒き翼を広げた、
黒き剣士は、
どこから宙を見るように言った。

「もう光なんて見えない。リヨンが死んで、たった一つの俺の光だった師範も死んだ。
 そして俺の命さえも闇に落ちた。・・・・もう・・・探す光さえもないですよ・・・・とぉ」

暗黒の翼を背負い、
淀んだ目をこちらに向ける・・・・
ヤンキ。
闇のカラス。
悪魔に堕ちた黒き人。

「ヤンキ・・・さん」
「悪魔になったってのか!?」

「悪魔試験。それがピルゲンの出してきた条件だった」

まるで、
この辺り。
戦場のド真ん中だというのに、
この周辺だけ時間が止まっているかのようだった。
慌しい戦場の中、
ここだけが他人事のように。

「いわゆる実験台・・・・いや、生け贄に近い形だ。
 それだけがヤンキを蘇生してくれるという条件。それしかなかった」

ツィンが言う。
変わり果てた黒き仲間の後ろで。

「悪魔試験・・・か」
「エクスポさんがやられた天使試験のように、それの悪魔verって事ですか」
「・・・・カッ」

ドジャーはツバを吐き捨てる。

「惨めなもんだな。そんな形で仲間を復活させて嬉しいのか?」

「まるで戯言ですよ。盗賊さん」

動揺するそぶりのカケラも見せず、
ツィンは返す。

「ヤンキはヤンキだ。そんな学校の道徳の時間みたいな説教はいりませんね。
 どんな形でも関係ない!生きている!ヤンキが生きているんだ!
 ちゃんとヤンキの体で!ヤンキの四肢で!ヤンキの脳みそでだ!
 変わり果てただけで何も変わっていない!仲間の命を望んで何が悪い!」

ツィンは・・・・
腰の二つの剣を抜いた。
まるで花開くように、
二剣がツィンの両サイドに開く。

「変化で捨てるものじゃない。花のように、人も変わりゆくもの。
 俺は大切な花を"枯れた"なんて理由で手放したくはない」

「・・・・そりゃそうだ」

ドジャーは苦笑いをした。
ドジャー自身、
エクスポに対して同じ感情だった。
エクスポはエクスポ。
そう信じて諦めなかった。

「俺はどうでもいいですよ・・・・っとぉ」

だが、
ツィンの気持ちなど上の空のように、
ヤンキは呟いた。

「ツィンに感謝も何もしていない」

黒き剣。
モノソードを手に取り、
悪魔は呟いた。

「死にたいわけじゃなかったが、なんで生かしてくれやがったんですか・・・・とぉ。
 生きたかったわけじゃなかったが、なんで死なせてくれなかったんですか・・・・とぉ。
 俺に生きる希望はもうない。光を見失った死んだも同然のヤセガラスだ。
 闇を彷徨い、ゴミをつつく生活に戻るくらいなら・・・・俺は光なんていらない」

ヤンキは、
地に立ったまま、
その黒き両翼を大きく開いた。
悪魔である証の翼。

「もう・・・・何もかもどうでもよくなった。俺は闇に戻って闇塗れの姿になっちまった。
 どうでもいいんですよ・・・・とぉ。だから・・・・・すべて・・・・闇に溶けてしまえばいい」

思考回路が変わっている。
エクスポの時と同じ。
悪魔として、
悪魔の考えであり、
ヤンキであって、
ヤンキではない脳。

「光は闇に返すべきだ」

そして羽ばたいた。
また宙へと。
黒き翼をなびかせて。

「光はもういらないっ!もうこの世は夜だけでいいっ!!!」

何をしたのかと、
一瞬分からなかった。
狂ったような事を言い出し、
悪魔へと堕ちたヤンキ。
その望まない黒き翼で宙に浮き、
その黒き剣で攻撃・・・・・

してくるのかと思った。

「痛い・・・・」

彼は笑った。
泣くように笑った。

「痛い痛い痛い痛い痛い!俺は人なのか!?命はあっても死んでいるのか!?
 分からない・・・・分からないんですよ・・・・とぉ・・・・でもハッキリしている事がある。
 それは痛み・・・・ヒリつく痛みだけは、闇に迷った俺を照らす一瞬の光だ・・・・」

ポタリ・・・
ポタリと音がする。
やかましい戦場の中、
何故かその音はハッキリ聞こえた。
地面に落ちるその音は。

「痛み・・・俺が生きたものだと唯一教えてくれるもの・・・痛みは光ですよ・・・・とぉ。
 痛み・・・俺が死に近づいているのだと、唯一教えてくれるもの・・・・痛みは光ですよ・・・・とぉ。
 光・・・・そんなものはいらない!だけど欲っして止まない!無いと・・・無いと何も分からない・・・・。
 俺は生きてるのか?俺は死んでるのか?俺はヤンキなのか?俺はヤンキじゃないのか?
 人なのか・・・人じゃないのか・・・生きてるのか・・・死んでるのか・・・俺はどこにいる・・・・」

それは血が落ちていく音。

「自分の居場所も分からない・・・真っ暗だ・・・夜だ・・・闇だ・・・・
 暗すぎて自分が見えない・・・・カラスの体は・・・夜に紛れて迷子だ・・・・・黒の中の黒ですよ・・・とぉ・・・
 だから・・・・だから痛みよ・・・・光になって俺を導いてくれよ・・・・
 生か死か・・・人か否か・・・闇で自分も分からない俺に・・・・光を・・・・・」

ヤンキは・・・笑っていた。
それでも笑っていた。
剣を。
その自分の剣を。
自分の黒き剣を。

自分の腹部に突き刺したまま。

「痛い・・・・痛い痛い痛い痛い!!俺は生きてるから痛い!そうなんだろ!?なぁ!?
 なら痛みは力だ!俺に光を与えてくれる!だから俺は・・・・闇を切り裂くカラスなんですよ・・・・とぉ」

剣を抜いた。
腹部を貫いたのに生きている。
悪魔の生命力か。
口から血を垂らしながら、
悪魔ヤンキは笑った。






















「改造悪魔?」

ケビンは聞いた。
横で笑うピルゲンに。
ピルゲンは嬉しそうに、
自慢話でもするように話す。

「そうでございます!せっかく悪魔を僕として使えるのですからね。
 いろいろ悪魔で遊んでみたのでございます。いやぁ、よい日々でございました」

「ふん。悪趣味な奴だ」

「それでですね。せっかくの悪魔の生命力を何かに生かせないか・・・と思いまして。
 そしたら悪魔試験・・・つまり人間を悪魔に転生させる枠があると言うじゃございませんか」
「クケケケケケ!別に人間だけじゃないけどのぉ」

ピルゲンの横で話すのは、
悪魔?
魔物?
なんだこいつは。

「そうでございましたね。ネクロケスタ卿」
「クケケ。ネクロケスタ]V(13世)じゃ。間違えんようにな。人間」

それはネクロケスタだった。
ドクロをかぶった魔物。
いや、
頭部がドクロで出来ている。
杖を持ったまま、クケケと笑う。
だが、
ただの魔物でなく、
背中に黒き翼があった。

「ワシも200年前に悪魔試験で悪魔に転生した魔物じゃ」
「魔族が魔族に。面白いものでございます。それで彼が教えてくれたので、
 一人の人間を悪魔に仕立てあげて実験してみることにしたのでございます」
「あのヤンキという人間でじゃな。クケケケ!あれは面白かったのぉ!」
「ケビン殿。ブラッドアンガーをご存知で?」

「・・・・いや」

「人間の戦士のスキルでございます。ブラッドアンガー。血の怒り。
 その名の通り、自らの大量を消耗しつつ自らの力を増幅するスキル」
「クケケケ、つまり戦士である人間を悪魔にすれば・・・・・」
「悪魔の生命力は人間のそれとは比べ物になりませんからね」

「本当に悪趣味だな。命を削らせて強化させたのか」

「クケケケケ!悪趣味というならもうちょっと話してからにしてほしいのぉ」
「そうでございますね。何せ・・・苦痛を伴えば伴うほど威力が増すように改造しましたから」

「・・・・・」

「彼はもだえるでしょう。痛みにもだえ苦しみ・・・そしてそうなればそうなるほど・・・・力が増す」
「死が近づくほど能力が増し、血を流せば流すほど・・・・クケケケケ!!!」
「ブラッドアンガー。血に飢えた黒翼のカラスはどう生きるのでしょうね」

「・・・・お前らの悪趣味な実験で俺の戦場を荒らさないで欲しいな」

「戦場を荒らす?そうでございますね。そういう話ならば」

ふと、
ピルゲンは戦場とは逆側を見る。
ケビンを中心にピルゲン達は、
魔物軍2万の最後尾に位置している。
ノカン村跡地。
この荒野。
この最奥。
つまり、

すぐ後ろは森だった。

「こちら側。ルアスの森の中でございますが・・・・戦場じゃない所から荒らされる。
 そういう考えはございませんか?つまり・・・・背後を狙われる」

「その程度の考え、俺が逃すとでも?」

ケビンは呆れたように首を振った。

「伏兵、不意打ち。戦争には付き物だ。ならばと・・・森の中に伏兵を隠してある。
 背後から狙おうとする馬鹿を逆に始末してやろう・・・とな」

「すでに伏兵を配備済みという事でございますか」

「まぁどちらかというと足止め兵を置いてある感じだな。
 来るかどうかもわからない伏兵のために力を入れて待ち構えるなんて馬鹿だ。
 それだけの力。戦争のド真ん中に使わなければ意味がない」
「森の中にはトラップのように魔物を配置しているわけでございますか」
「突破されるとは思わないがな。強い兵を配置しているわけでもない。
 つまるところ、"めんどくさく"配置してある。バッラバラにな」
「10をぶつけるでなく、1を10回・・・ということですな」
「敵は常にどこから狙ってくるのかって慎重にならざるをえないってわけだ」
「だがその分、部分部分で突破されやすいのでは?」
「突破されてもいいんだよ」

分かってねぇなといった口ぶりで、
ケビンは言う。

「戦争ってのは一人一人の戦い勝つ必要はない。全体で勝てばいいんだよ。
 森を通って俺らを後ろを突こうって輩がいても、そいつらはたどり着けない。
 部下達を倒し、辿りついた時には戦争は終わってる。そうやって配置しといた」
「ほぉ」
「切り札ってのは発揮できなきゃいけねぇ。ジョーカーってのも使わず終わればそれまでさ。
 相手の伏兵を殺す必要なんてねぇ。無効化さえ出来ればそれでいい」

相手は、
どうやっても森を通って後ろを突いてこれない。
それには、
時間が足りない。

ケビンはそうなるように刺客を用意した。
































「なにかうまく行き過ぎではないか?マリナ殿」
「はぁー?」

ルアスの森。
その森の中を、
イスカとマリナは走る。

「何よ。うまくいってるならそれに越した事はないじゃない!」
「いや、だが・・・・・」

イスカは不思議に思っていた。
この森の中。
この森の中をこのまま突破すると、
相手の本陣。
その後ろを突けるのだ。

「相手にとってもこれくらいは想定しているだろう。なのに何も気配がない」
「んじゃ、相手が馬鹿だったんじゃないのー?」
「そんなはずはない。相手の軍師を兼ねるノカン将軍は頭の切れる者だと・・・・」
「うっさいうっさい!イスカは頭固いわねー!いいじゃない!実際スムーズに行ってるんだから!」

森を駆け抜ける。
走る。
走り抜ける。
トラップらしきものもない。
待ち構える敵らしきものもない。

このままではアッサリと敵本陣の後ろにたどり着く。

「考えすぎか・・・そのだといいのだが」
「そうよそうよ。それにうまくいってない事ならひとつあったじゃない」
「ぬ?」
「エドガイって男達とはぐれちゃったじゃない」
「あぁ」

相手の本陣の裏をつく。
ルアスの森を通って。
その作戦は、
マリナ、
イスカ、
そして、
エドガイ率いる《ドライブ・スルー・ワーカーズ》の役目だった。
だが、
マリナとイスカと共にエドガイの姿はない。

「はぐれたというか・・・」

イスカは走りながら困惑する。

「あれはマリナ殿が"撒いた"のでは?」
「だってあいつセクハラ発言多くてイヤになっちゃうじゃない」

エドガイは・・・
途中で置いてきた。
マリナが無理矢理別行動したのだ。
任務だというのに、
ただでも少数精鋭だというのに、
勝手なものだ。

「お店でもあぁーいう客が一番イヤなのよねー」
「だが、奴らは確かに腕の立つ者達だったぞ」
「知らないわよ。イヤなものはイヤなの」
「マリナ殿がそう言うのならば・・・・」

忠実なものだ。
忠実な女侍。
いや、
侍女。
侍女とは普通メイドのような立場の者の事を指すが、
イスカには二通りの意味でそれに相応しい。
風貌は全く相応しくないが。

「ぬっ?」

イスカは何かに気付く。

「ちょっと待ってくれマリナ殿」
「えー?何?」

イスカが走るのをやめ、
止まる。

「これは・・・・」

ルアスの森の中。
その木の木陰。

「これは・・・・って何よ。ただの魔物の死骸じゃない」
「そうだが・・・・」

森の中、
木陰にはキャメル船長の死骸があった。

「ここは森よ?戦争ったって普通に生息してる魔物だっているわ。
 死骸なんて珍しくないわよ。来る途中だっていっぱいあったじゃない」

マリナとイスカで作った魔物の死骸もいっぱいある。

「ふむ。だがこの魔物はルアスの森に生息する類ではない」
「まぁね。キャメル船長はもっとルケシオンとか海の方よね。
 でもいいじゃない。人間だって全員地元で暮らすわけじゃないわ」
「そうなのだが・・・・場合が場合ゆえに気になってな」

イスカはキャメル船長の死骸の傍らで、
首をかしげる。

「もしかするとだが、この魔物は刺客だったのではないかと・・・・」
「刺客?つまり私達みたいなのを襲うための?」
「うむ。相手はやはり背後にも魔物を配置していたのだろう。
 この魔物もその一匹。そう考えた方が辻褄が合いやすい」
「で・・・・」

マリナは両手を広げてため息をつく。

「なんでその刺客が死んでるのよ」
「う・・・うむ・・・・」

その通りだった。
人間と魔物の戦い。
人間側の伏兵はマリナ達の任務。
他にはいない。
ならば・・・・

このキャメル船長は何に殺されたんだ?

「原生生物にやられたとか?この森にもともと住んでる魔物とかさ」
「ルアスの森程度の魔物に殺されるとは思わぬが・・・」
「ならエドガイ達とか?」
「あやつらは拙者らより後ろだ。それに撒いたせいで道も違う」
「んじゃぁ誰がやったのよ」
「うぅむ・・・・」

考えても出てこない。
当然といえば当然だ。
だが、
現実が目の前にあるのだ。

「じゃぁもういいじゃない。メンドくさいわ!考えてたって仕方ないしもう先進んじゃいましょ!」
「いや、何か危険の香りがするのでな」
「危険な香り?何それ。新しい調味料っていうなら私の店で使ってあげるわ」
「だ、だがマリナ殿の身になにかあってからでは・・・・」
「このマリナさんの身に何があるってのよ!」
「・・・・」
「それに」

マリナが笑う。

「私になんかある時はイスカが守ってくれるんでしょ?」

当たり前のようにマリナが笑う。
・・・。
ズルいものだ。
そう聞かれたら答えるしかない。

「と、当然!」

当たり前だ。
そのために自分がいる。
マリナを絶対に守る。
命の限り。
危険など関係ない。
全て自らの刃で断ち切って見せる。

「痛っ・・・・」

イスカはふと、
声を漏らした。

「どうしたの?イスカ」
「いや・・・なにかチクりと・・・・」

小さな痛みだった。
蜂に刺されたような痛み。
それが太ももにあった。

「虫か何かに刺されただけだと」
「やーね。気をつけてよ?ハブかなんかだと大変よ?」
「!?拙者を気遣ってくれるのか!マリナ殿はやはり優しい!」
「イスカが死んじゃったら私を誰が守るのよ」
「死んでも守る!そう誓った!」
「そうだったわね」

イスカはおかしくて笑った。

「とりあえずいきましょ。何にしてもここで考えて解決する問題じゃなさそうだし」
「そうだな」

マリナとイスカはまた走り出した。

森を掻き分ける。
走る。
やはり刺客はなかった。
走っても走っても。
あまりに順調。

「また死骸だわ」
「今度はブロニン・・・・」

走っている途中、
幾度も魔物の死骸を見た。
そして、
どれもルアスの森に生息していない魔物。

「確定的ね」
「あぁ。帝国側の魔物が誰かに殺されておる」

誰か。
分からない。
だからとりあえず走るしかなかった。

「考えてもみればさ。怪しいけど味方じゃないの?」
「というと?」
「だって敵を倒してるのよ?私達じゃなくて。なら味方でしょ?」
「拙者らしか伏兵はおらんのに誰が・・・」
「分からないけどね」

その可能性の方が高い。
通り道、
敵の魔物の死骸があるという意味でそれは大きな可能性だった。
なら誰だ。
分からない。
同じ反乱軍でなく、
まだ見ぬ別の者。

仲間ではないが、意志を同じくする者なのか?

「でもあまりにも順調ね。この調子だとあと30分も走れば敵の後ろ側よ」
「・・・・・」
「あれ?イスカ?」

マリナは走りながら、
後ろを振り向いた。
イスカ。
イスカが少し後方にいる。

「何遅れてるのよ!疲れたの?」
「・・・・・いや・・・・」

ヨロヨロと、
少しふらつきながら、
イスカは後方を走ってくる。

「ちょ、ちょっと大丈夫?どうしたの?」
「わからぬ・・・不覚・・・・」

イスカがよろめく。
マリナが駆け寄り、
体を支える。

「熱っ!ちょっと!イスカあんた熱あるじゃない!」
「・・・・・・」
「本当にどうしたの!?」
「・・・・わからぬ・・・わかぬが・・・・足が・・・」

イスカが着物を片方たくし上げる。
そして、
露になった太もも。
それは、
変色し・・・腫れ上がっていた。

「・・・これは・・・・さきほど痛みを感じた・・・」
「何?ほんとに毒虫かなんかにやられたの?」
「・・・・・・」

いや・・・・
これは・・・・・


「いいザマでありんす」
「ヒャッホイ!!また会ったな俺の嫁2!」

前方から二つの声。
いつから居たのか。
そこには、

"伍参"と書かれた眼帯の男。
もう一人、
チャイナドレスに身を包んだ女性が立っていた。

「・・・・・お主は・・・・」

「ヒャッホイ♪そそ♪俺ぁスザク。スザク=シシドウ。覚えてたみたいだな俺の嫁」
「初めましてでありんすね。わっちはジャック=シシドウといいましえ。
 以後よろしくしておくんなし。・・・・でも女性しかおらんのさね。寂しえ」

モデルのようなプロポーションをした女。
ジャックは自分の唇に指を当て、
眉を垂らした。

「世の男性のお口の恋人ジャック嬢がいるというのに哀しえ」
「キモい事言ってんじゃねぇよジャック」
「あら妬くのは勘弁しておくんなし♪」
「・・・・・チッ」

「な、何よあんたら!」
「・・・・・53部隊か・・・・」

「ヒャッホイ!正解!って分かりきった事だねぇ」

「貴様ら・・・・」

イスカが立ち上がり、
剣を構えようとする。
だが、
体がフラつく。

「あらあら。無理はよくないでありんすよ?そんなお・か・ら・だ・で♪」

「・・・・あんたまさか」

マリナが顔を強張らせ、
睨む。

「イスカに何かやったのあんたね!」

「あら人聞きの悪い事を言わないでおくんなし」

ジャックは、
ペロりと舌を出し、
突き抜けるような高い声で言った。

「で・も♪その通りでしえ。このお口の恋人ジャック=シシドウの仕業やねぇ♪」

「・・・・・不覚をとったか・・・」
「でもいつの間に・・・・」

「♪〜〜」

ジャックの服の下。
チャイナドレスのスソの下。
そこから、
するりと何かが落ちる。
それは・・・・
ムチ。
先が異様にトガったムチが太ももに沿って垂れ落ちた。

「さきほどこっそりチクりとね。痛かったでありんすか?勘弁しておくんなし♪」
「ヒャッホイ♪こういう奴を相手にしない方がいいぜ?」

スザクは、
ニヤニヤと笑いながら話し始める。

「俺達53部隊ってのは暗躍部隊だ。不意打ち、隠れ討ち上等ってなぁ。
 前に戦った俺やツバサは唯一の正統派だ。あとは悪どいのが揃ってるぜ」
「イヤな言いかたしないでおくんなし」
「ま、確かにジャックはまだマシな方かもな。
 隠れてターゲットをムチでコッソリ毒にしたり麻痺にしたりって程度か」

「毒!?イスカのこれは毒なの!?」

だからか。
イスカの足は腫れ上がり、
紫色に変色している。
毒が体に回り、
熱を起こしたか。

「暗殺っていうのは正面から戦う必要なんてないと知りゃんせ♪
 ちょっと相手を小突き、そして弱るまでジワジワ待てばいいさね」

ジャックはまた、
舌をペロリと出した。
獲物を狙う爬虫類のように。
それにしては妖美に。

「まぁでもあいつら二人に比べればわっちはまだマシでありんすね」
「あいつらは燻(XO)隊長の言うところの"下駄箱に画鋲を入れるタイプ"の典型だからな。
 っつってもジャック。てめぇもその類だろう。イヤらしいもんだぜ?」
「いやらしいっていうのは褒め言葉でありんす♪
 か弱い女というのはいつも時として陰湿なものでありんすよ?」
「なぁーーーにが女だ変体が」

「黙ってあんた達」

マリナが強く言う。
そして、
その手。
その手にはギター。
その銃口はすでにスザクとジャックへと向けられていた。

「さっさと解毒剤を出しなさい。蜂の巣になりたくなければね」

マリナは睨む。
本気の目で。
だが、
スザクは噴出し、
ジャックはクスクスと笑った。

「ヒャハハ!ヒャッホイ!お馬鹿だねぇあんた!」
「それは自分で「解毒剤持ってきてないです」って言ってるようなもんでありんすよ♪」

「出しなさいって言ってるの!!!」

一瞬銃声。
威嚇射撃。
マジックボールの弾丸は、
スザクとジャックの隙間を縫い、
森の中へと溶けていった。
銃声は森に反響して響いた。

「いいですえ♪女というのは時として強気であるべきでありんす」

「ゴチャゴチャ言ってないでイスカの解毒剤を出しなさい!」

「状況をよく見て言っておくんなし」
「1対2だぜ?どっちが優勢が見て分かるだろ」

イスカは明らかに弱っていた。
ならば、
状況はマリナVSスザクとジャック。
53部隊二人を一人で相手しなければならない。

「焦らず楽しみましえ♪せっかくこんな状況を作ったのでありんすから♪」

「作った?イスカを弱らせたことを言ってるなら今すぐ蜂の巣に・・・・」

「フフッ・・・・」
「ヘヘッ、ヒャッホイ♪」

スザクがニヤニヤと笑いながら親指で指し示す。
それは、
魔物の死骸だった。

「この状況をだよ。魔物の死骸がいっぱいあったろ。アレやったの俺達だ」

「・・・・何?」
「・・・・どういう・・・ことだ・・・・」

イスカがカスれた声で聞く。

「つまんねぇだろ?俺ら除外で戦争なんてよぉ!ヒャッホイ!
 燻(XO)隊長の命令でな。戦争ぶっ壊して遊んでこいってよ」
「魔物共もまさか味方側にやられると思ってなかったと思いましえ?
 まぁただでもわっちら暗躍部隊にこういう戦いに勝てるわけないでありんすけどね」

味方ではなかった。
刺客達を殺したのは・・・
敵を殺したのは・・・
敵。

「こんな戦い俺らにはどうでもいいんでね。勝っても負けてもな。
 俺ら53部隊は53部隊として任務に・・・戦争に当たってやるよ」
「そのためには味方とて邪魔は排除しとくのがよいと知りゃんせ。
 だからわっちのムチでチョィっと寝てもらったんでありんす」

そして、
ジャックの服の下から、
ムチが完全に落ちた。
ジャックはそれを拾いあげる。

「このムチの先が見えましえ?」

ジャックのムチの先。
それは、
異様に尖っていた。
まるでバラのトゲのように。
ムチの先が針のようになっている。

「これでチクっといけばコロンってなもんでありんす。
 ブラックローズによる毒、スタンスラップによる麻痺。
 わっちのムチにかかればお手の物。獲物は弱らせて頂くのが趣味でありんす」

ヒュンッ・・・と、
ジャックの手首の動きだけで、
ムチが生き物のように動いた。

「刺すのはいつも男。女だって突いたり刺したりしたいでしえ♪」
「てめぇが言うなこの変態が」
「褒め言葉でありんす♪」

「どうでもいいわ」

マリナの表情は変わらない。
酷く鋭く、
憎しみのように睨んだまま。

「さっきの話はやめ。殺してでも解毒剤を奪い取るわ」

「ヒャッホイ♪」
「女も気丈であるべきでしえ♪」

「口だけ達者ね!今から全身に口の穴を作ってあげるから天国でダベってなさい!!!」

そして、
マリナのギターの先。
マズルフラッシュ。
その銃口が輝いたと思うと、
マシンガン。
幾多の銃弾が乱射された。

「ヒャッホーィ!!怖いねぇ!!」
「見境ない女は下品でありんすよ♪」

スザクとジャック。
修道士と盗賊。
その素早い身のこなし。
二手に分かれるように、
両サイドに展開し、
マリナのマシンガンを避ける。

「くっ・・・・分かれたか。めんどうね」

マリナの銃口は、
一瞬迷った後スザクを追いかけた。
ギターの照準は銃弾の動きと連動する。
森の中に穴が流れる。

「ヒャッホイ♪」

スザクが飛び込む。
それは木の後。
その大きめの木の幹に、
銃痕が重なる。

「出てきなさい!!しばいてあげるから出てきなさい!」

「やぁなこった!今出てったら蜂の巣じゃねぇか!!」

撃ちやまない。
スザクの隠れている木に向かって、
阿呆のようにマリナはマシンガンを乱射する。

「見る目のない女はイヤねぇ♪」

「!?」

「後ろでしえ♪」

背後から声。
スザクを追っている間に、
ジャックが背後に回りこんでいた。

「くっ・・・・」

マリナが咄嗟に回避行動をとろうとするが、
遅い。

「きゃっ!」

スタンスラップ。
ムチがマリナにまきつく。
その・・・・首に。

「う・・・・ぐ・・・・」

マリナの首に巻きついたムチ。
そしてそれは・・・・・
突如マリナを持ち上げた。

「・・・・あ・・・・ぁあ・・・・・」

「はたくだけがムチの使い方じゃないですえ?
 わっちは暗躍部隊ジョーカーズ。暗殺術ならお手の物ち知りゃんせ」

ムチは、
マリナの首にまきついたまま、
その上。
木の枝にひっかかり、
クレーン式にマリナを吊るし上げていた。
ジャックはそれを地面で引っ張る。

「・・・・ぁ・・・・うぅ・・・・・」

マリナが首に絡みついたムチを引き剥がそうと両手で引っ張ろうとするが、
・・・・力が入らない。
軽い麻痺。
スタンスラップの効果。
外せない。
マリナは宙に浮いた足をバタつかせた。

「天国見せてあげましえ♪」

「拙者の前で・・・・させるか!」

「あら・・・・」

突如、
イスカの剣がジャックを襲う。
ジャックはマリナを解放し、
咄嗟に後ろへと退いた。

「動く元気がありましたの?毒でグロッキーかと思ってたでありんす」

「こんなことで・・・くだばる拙者ではない・・・・」

強きに強情を張ったが、
イスカは見るからに弱っていた。
息遣いが荒く、
顔色も悪い。

「動くと毒の回りも早くなりんすよ?ただでも常人ならぶっ倒れてる頃だと知りゃんせ」

「ふん・・・・拙者不器用でな・・・・体調管理など出来はせぬ」

その弱った体で、
イスカは剣を突き出した。

「自らを案じて・・・・マリナ殿を見殺しにするほど・・・・出来た人間ではない・・・・」

懸命な判断などクソ食らえだ。
黙ってられない。
それだけだった。

「イスカ!あんた本当にヤバいんだから大人しくしてなさい!」
「・・・・・イヤだ」
「私が言ってんのよ!」
「例えマリナ殿の頼みでもだ!!」

弱りきってるくせに、
イスカはマリナにその強き瞳を見せる。

「たとえマリナ殿に否と言われようとも!拙者は勝手にマリナ殿を助ける!」

・・・・・本当に勝手だ。
頭が固い。
硬すぎる。
堅すぎて、
まるで剣のように真っ直ぐだ。

「まったく・・・・」

呆れるのも慣れてきた。

「足だけは引っ張らないでよ」
「・・・・当然・・・守るはずが守られたでは立つ瀬がない」

マリナと共に戦う。
だが、
やはりイスカが毒で弱っている事に変わりは無い。

「ヒャッホイ!!いいねいいね!さすが俺の嫁2号!
 んじゃぁよぉ、こうしねぇか?・・・・・・1対1で戦うわけだ」
「2対2じゃそちらが不利でありんす。ま、わっちのせいでありんすけどね。
 実質1対2の状態か、1対1を二つ作るかの違いでしえ」
「そのマリナって女が安全なのはどっちだろうかねぇ?
 足手まとい連れて2対2なんて笑い話だろ?」

「話にならん・・・・拙者がマリナ殿を守・・・・」
「いいわ」

マリナはイスカの言葉を切るように発言した。

「タイマン勝負ね。受けてあげるわ」
「・・・・マリナ殿」

イスカの弱った目。
それはつまり、
やはりイスカの事を足手まといだと思ってるということか。
イスカを切り捨て、
一人ずつ戦った方がいいと・・・

「イスカ」
「・・・・・」
「どっちが先に敵を倒して応援に行けるか競争ね♪」

・・・・違う。
マリナは、
ただイスカを信じただけ。
イスカが死ぬわけない。
負けるわけない。
なら、
自分がタイマンで敵を倒し、
イスカを守る。
・・・・。
お互いがお互い、
同じ事を思っただけだった。

「決まりだな!ヒャッホイ!俺は俺の嫁とな」
「異論ないでしえ。わっちはそちらの女王蜂さんとでありんすね。
 スザク。相手が女だからって手加減しないでおくんなし?」
「バーカ。殺し屋がそんな躊躇あるか。赤子だって平気で殺るように出来てんだよ。ま・・・」

スザクは、
両拳をぶつける。
すると、
火打ち石のように両手が発火した。

「嫁になるよう説得はするつもりだがな」
「まぁシシドウでありんすからね。生かして捉えるのもよしえ」
「俺の嫁よしてな♪」

「残念だが・・・・」

イスカは弱った目で睨む。

「拙者は女など・・・性別などとうに捨てた・・・・剣に生きている」

「カッコイイねぇ♪さすが俺の嫁♪・・・お?ってぇことはよぉ。ジャックと同じじゃねぇか」
「うるさいでありんす」
「いや、違うわな。俺の嫁はそうは言っても女だしな。てめぇと違ってよぉ」

「え?何それ?」

「へへっ、分からなかったのか?」

スザクにはニヤニヤと笑い、
親指でジャックを指し示す。

「こいつは男だよ男。名前で気づけよ」

「!?」
「え!?この人男なの!?」

「・・・・・」

ジャックは、
その妖美な顔をしかめた。

「男って言わないでおくんなし。下品でしえ。わっちは女でありんす」

「・・・・・私からもどう見ても女にしか見えないけど・・・・」

ジャックは、
ため息をつきながら首を振った。

「世の中っていうのは理不尽で不条理でありんす」

ジャックは、
そのモデルのような体型。
その腰、
くびれに自分の手を当てる。

「わっちは全てが女の中の女として生まれんした。
 体型も、骨格も、全てでしえ。毛だって生えないし、ホルモンの端から端まで女でありんす。
 喉仏だって出てこないし、肩幅も狭いし、そして脳みその造りだって全て女。
 何もかもが女それも絶品級のでしえ。・・・・・・でも性別だけ男だった」

ジャックは、
自分の唇に指を当てる。
その唇も、
その容姿全て、
どう見ても女だった。

「絶世の美女として産まれたのに・・・なんでわっちは男なのか?
 女としての体つきで女としての思考回路があって、女としてのプライドまでありんすのに」

ジャックは、
自分の胸を両手でもちあげた。

「だから手術しただけでありんす♪ま、せっかくでしえ?
 このお口の恋人こと、絶世の美女ジャックさんのお胸は大きめに♪」

「・・・・オカマか」
「ニューハーフって事ね」

「ヒャッホイ♪そそ♪こいつニューハーフってやつね。変体で変態ってわけよ。
 ま、そんじょそこらのと違うのはどうみても女ってことだけどな」

どう見ても女だ。
それも、
そこらの女なら羨ましがるほどの容姿を持っている。
声も高く、透き通るように美しい。
もともと女としてホルモンレベルから女の中の女の容姿を持ち、
思考回路まで女だというのなら、
それはもうニューハーフではなく、
女に転生したと言ってもいいんじゃないだろうか?

「だがこいつは女っては言えねぇわけよ♪」
「・・・・・・」
「だってナニはついてるもんな?」
「・・・・・さすがにココの手術は怖いでありんす・・・・」

なるほど。
それは女とはいえない。

「んで、そのニューハーフさんが私の相手なわけね」

マリナは銃口を向ける。

「かかってきなさい変態さん」

「わっちはこの世を不条理で理不尽だと思ってありんす」

ジャックはムチを一度地面に向かってシバいた。

「人間が全て平等?それならなんで生まれた時点で差があるんでしえ?
 裕福な家庭に生まれただけ。都会に生まれただけ。進路が約束されただけ。
 美人に生まれただけ。親の優秀な能力を受け継いだだけ。それだけで差ができんす。
 それは選べず、宝くじのように本人の意思と関係なく決まってしまうのが不条理で理不尽でありんす」

ジャックは、
舌でペロリと自分の唇を舐めた。

「生まれてきたくて生まれたわけじゃないのに、何故コンプレックスは生まれるんでしえ?
 選べないのに強制された欠点。わっちはそれが許せないでありんす。
 わっちは・・・わっちは・・・・女に生まれたかった。そして・・・シシドウなんて呪縛もいらなかった!」

ジャックの目は、
マリナだけを見据えていた。

「あーた。『Queen B(女王蜂)』と呼ばれてるそうでありんすね?」

「そうよ」

「わっちは『ホーネット(雀蜂)』。ジャック(雀)と書いてスズメバチ。
 あーたの二つ名気に入らないでしえ。女王とか王様とか貴族とか、
 そういう生まれつきで手に入れる優遇された理不尽は大嫌いでありんす。
 生まれただけで人を見下す奴。生まれがよかっただけを自慢する奴。死りゃんせ」

「そうね。気が合うじゃない」

マリナは、
同意で返した。

「私も同じ意見よ。特に若いってだけで偉いと思ってる子が大嫌いね。
 誰でも通る道で、ただ年をとってないだけの未熟者のくせに、
 オジサンオバサン、ジジィババァって偉そうに言う馬鹿が大嫌いなのよ」

「あら、おいくつで?」

「永遠の20歳よ」

「ならそれはただの嫉妬でありんす」

「あんたのソレもね」

「気が合いますえ」

「そうね」

マリナとジャックは、
一度同時に笑った。

「なら決着付けましょうか」

「女王蜂と雀蜂。どっちが勝っているか知りゃんせ。そして・・・死りゃんせ」




「俺らもやろうか、俺の嫁」

「いつでも来い」

そう言うには、
イスカの様態はあまりにも芳しくなかった。

「いつでも来い。いい言葉だ♪言い換えて優しく言ってもらいたい言葉だねぇ!
 決めた!ツバメよりもあんたを嫁にする!あんた俺と結婚してくれ!」

「断る」

「子供の名前はヒバリちゃんにしようぜ!いい名前だろ!?」
「スザク。あーた」

ジャックがマリナと対峙したまま、
言葉を挟む。

「まだ引きずってるのかい?嫁と子供」
「うっせ」

スザクは、
両手に炎を渦巻かせたまま、
イスカに向かって構えをとった。
眼帯で隠れている目が後ろに来るように。
その構えは真剣だった。

「殺し屋はいつも、人の命を失わせるだけだ。他人にとっても自分にとってもだ。
 そんな人生はまっぴら御免だ。俺は取り戻す。だからあんたは俺の嫁になってもらうぜ」

「・・・・断る」

イスカは、
一度抜いた刀を、
鞘に収めた。
そして、
低姿勢になり、
右手を鞘に添えて構える。

「あえて聞かぬ。誰にでも戦う理由はある。そして戦うからにはお互い引けぬ理由がある。
 ならば、戦いの中には私情はいらぬ。それは心の中で個々に持っていればいい」

「・・・・ヒャッホイ。あんたマジ気に入ったぜ。俺の気に入る女ってのは結局シシドウだけなんだな」

スザクは、
その炎に塗れた両手を突き出す。
まるで、
鳥のクチバシのように。

「スザク(朱雀)。それは神の鳥。朱雀は鳳凰は同じと言われる事もあるな。
 そして・・・それはフェニックス(火の鳥)だ。神(命)を司る不死鳥だ。
 何度だって蘇る。死んだって生き返る。殺した者も取り戻す。もう一度やり直すんだ」

動かない。
まるで完成されたように。
いや、
心のように。
堅い決意のように。

「鳳(♂)と凰(♀)は一緒にいるもんだ。俺はそれを望む。失ったって望む。
 朱雀(空を守護する孤独な者)。そんな称号はいらねぇ。南方は俺に向いている。
 ならぁイスカさんよぉ。だから愛し合おうぜ。・・・・一生一緒に暮らそうぜ!!!」

スザクは、
両手に炎を巻いて突っ込んだ。
























「くっ・・・・」

「どうしました?盗賊さん」

ツィンの双剣が、
ドジャーを襲う。
ドジャーは両手のダガーでそれを止めるが、

「熱ぃなおい!」

耐えられなくなって弾き、
後ろへと飛んだ。

「初見というわけでもないでしょう。あんたはこんな程度なのか?」

ツィン。
その両手。
その両手に広がるのは2つの剣。
それは・・・・

赤く赤く燃えていた。

フレイムスラッシュ。
それを剣に滞在させる能力。
ツィン自体は"サザンカ"と呼んでいる。
剣は燃え続ける。
フレイムウェポンのように。
いや、
アレックスがパージフレアを媒体にオーラランスを作り上げているのであれば、
あれはもう列記としたフレイムウェポンだ。

「2つの剣は燃え盛る。そして咲き誇る。これは俺の欲望だ。
 俺はどちらか選ぶなんて事はしない。決めたものは両方手に入れようと生きてきた」

ツィンの両手の中、
炎は揺れる。
炎の剣が咲き誇る。
スミスの父、
最高の鍛冶屋の一人ルド=ウェッソンの傑作の二振り。
『華火花伝・雄蕊(かかかでん・おしべ)』と
『華火花伝・雌蕊(かかかでん・めしべ)』

「俺は諦めない。自分としての、剣士としての道を諦めたりしない。
 そして師範の騎士としての心意気。その道場の心意気も諦めたりしない。
 二兎を追って何が悪い。人には手が二つあるのだから。だから両手に花は咲き誇る」

「チッ・・・・・2度戦ってるが、あまりにも正統派な敵ってのも久しぶりだ」

正統派の正統派。
それをただ洗礼した。
鮮麗した。
花のように美しい剣技。
ただ美しく咲き誇ろうとしただけの花は、何よりも美しい。

「だがこんなとこでやるハメになるとはな」

ツィンの目にはドジャーしか映っていない。
1対1。
だが、
ここは戦場だ。
周りでは血が飛び散り、
武器が火花を散らし、
魔物が唸り声をあげる。
その中、
その中での戦い。

「なぁ、ツィン。今度にしねぇか?」

「何を今更」

「てめぇだって正々堂々真正面から俺とタイマンはりてぇだろ?時と場合がアレじゃねぇか」

「あなたから正々堂々真正面なんて言葉が聞けるとはね」

「・・・・確かにな」

言い換えれば、
これは有利かもしれない。
ハッキリ、
ハッキリ言ってドジャーとしてはツィンと真面目に戦おうなんて気はない。
意地はあるが、
世の中結果だ。
勝てばいい。
ならば、
この戦場という不確定な状況はどうとでも出来る。

逃げる。
不意撃つ。
卑怯に仲間を使う。
なんでも出来る。

「・・・・っつっても戦いにきぃのは間違いねぇな。・・・ってごわっ!!」

突如、
ドジャーの背中に何かがぶつかり、
ドジャーもろとも転がった。

「・・・ってぇな!」
「すいませんドジャーさん!」

それはアレックスだった。

「うわ!また来た!」

アレックスがかがむ。
ドジャーも釣られてかがむ。
すると、
二人の頭上を高速で何かが飛び、
通り過ぎた。

「・・・・・殺し損ねたか・・・・とぉ」

黒い羽根が、
横切った場所に舞い落ちる。
そして宙で羽ばたく黒い悪魔。

「皆死んでしまえばいいのに・・・・皆・・・光なんて無くなってしまえばいいのに・・・・」

淀んだ目をしたカラスは、
黒い剣を持ち、
戦場を飛ぶ。

「痛みは生。そして痛みは死。痛みを感じて、皆闇に落ちればいいんですよ・・・とぉ」

黒き剣士は、
宙を飛ぶ。
アレックス達の方にではない。
突如、
周りの戦場へと飛ぶ。

「死ね!皆死ねばいい!光を求めた目が気に入らない!光を求めた希望が気に入らない!
 生を噛み締めているくせに!光のために死場へ出向く意志が気に入らない!!」

血が飛び散る。
それは人々の血だった。
反乱軍の者達が、
ヤンキの剣の餌食になり、
切り刻まれていく。

「なんで!俺にはもう目指すべき光がないのに!お前らにはあるんだ!理不尽ですよ・・・とぉ!
 だから俺と同じように闇に落ちればいい!何もかも見失えばいい!
 血を流せばいい!痛みを感じればいい!人である事を死によって失えばいい!!」

黒き翼を羽ばたかせながら、
戦場を飛び回りながら、
ヤンキはその黒き剣を振り回した。
止まることなく振り回した。

「どうせいつか皆、全てを失うんですよ・・・とぉ!何もかも無くなるんですよ・・・とぉ!
 なら!今失えばいい!俺みたいに!迷い!彷徨い!夜の闇へと落ちればいい!」

止まることない剣技。
それは、
カラス返し。
一度だけ切り返すツバメ返しでなく、
何度も、
何度も何度も何度も、
無限に切り返す。
無期限に切り返す。
無益に切り返す。
止まることなき剣の切り返し。
『千羽烏(センバガラス)』は、
千の刃を羽ばたかせる。

「俺のカラスは千度飛ぶ!」

血しぶきをあげる。
楽しそうに、
哀しそうに、
悲しそうに。
人を切り刻む。
止まることなく、
ムチャクチャに。

「前に見た技だが・・・」
「もう技と呼べるかどうか・・・ですね。道場で学んだものを忘れてるような。
 そう、感情だけで振り回し、感情だけで動いてるような・・・・」
「くだらねぇもんだぜ。だが放っておくわけにもいかねぇか」

仲間を切り刻まれているのだ。
放っておくわけにはいかない。

「!?」

だが、
気付く。

「あいつ・・・」
「魔物も斬ってる?」

それはもう、
無差別だった。
戦場。
そこで目に付くもの全てを切り刻んでいる。
ただ飛び回り、
悪魔は飛び回り、
カラスは飛び回り、
黒い羽根と、
赤い血を撒き散らしていた。

「あれが今のヤンキだ」

「!?」
「くっ!」

突然ツィンが斬りつけてきた。
アレックスとドジャー。
二人に同時に。
その燃え盛る炎の剣を。

「不意打ちとはやってくれるな」
「道場で何を学んできたんですか?」

「勘違いしないで欲しいですね。殺す事も出来たが、防がせてあげただけです」

二つの炎の剣。
一つはドジャーのダガーに。
一つはアレックスの槍に切り付けられ、
ぶつかっていた。

「そして勘違いしない欲しい。俺はもう失うものはない。
 失いたくないものが二つあるだけ。それ以外はいらない。
 その二つのためなら俺はもうなんだって失う覚悟だ。プライドも。心も」

「チッ・・・」

ドジャーとアレックスは同時にツィンを弾き飛ばす。

「笑かすなよ」
「僕らから見ればツィンさん。あなたもヤンキさんと同じように何かを見失ってる」

「ヤンキと同じならそれもいい。俺はあいつを失うわけにはいかない。
 生きる土が変わっただけ。それでも花は並んで咲くさ」

堅い決意があるようだ。
だが間違ったような、
見失ったからこその投げやりな決意にも見れた。

「痛い・・・・痛い痛い痛い・・・・光が痛い・・・・俺に光を見せるな・・・・」

いつの間にか。
ヤンキがすぐ上で浮いていた。
全身を返り血で汚している。
いや、
自分の血もだ。
口から血が垂れている。
まるで血を食したように。
腹部からも血が流れ出る。
それもすでに少し塞がり始めていた。
悪魔の生命力か。

「痛い!俺に・・・俺に苦痛をくれ!生きているという光をくれ!!」

変わり果てたヤンキは・・・
いきなり、
その黒き剣で自らの手首に切れ目を入れた。
リストカット。
血が吹き出る。

「はぁ・・・これだ・・・これですよ・・・とぉ・・・」

ヤンキは、
その手首を自ら舐め取っていた。
そして、
他人の血、
自らの血。
それらが、
宙に浮くヤンキの体から地面に垂れ落ちていた。

「・・・・・あれが今のヤンキの姿だ。ブラッドアンガー。さっきも話しただろう?
 血を求める。ただただ・・・吸血鬼のように。違うな。まるでマゾいサドだ。
 血ならなんでもいい。痛みならなんでもいい。他人のでも、自分のでもな。
 ヤンキにとってそれだけが闇の中で生を感じさせてくれる唯一の光なんだ」

「そして痛みで力が増幅する・・・か。やっかいな能力だ」
「無闇に攻撃すると逆効果ですかね」
「カッ。しなくても勝手に自分を切り刻みはじめるんだ。止められねぇよ」

死。
生きているのか。
自分は死んでいるのか。
今の自分は自分なのか。
分からない。
闇の中のように。
だが、
痛みだけが思いだせる。
自分が生命だと、生きているのだと。
それが唯一の光。
だから、
死が近づく事によってヤンキは生を得る。

「俺は人なのか・・・ヤンキなのか・・・分からないんですよ・・・とぉ」

落ち着いているのか、
狂っているのか。
それさえも分からない。
ただ、
ヤンキは血まみれのまま笑った。

「ただ・・・・カラスには・・・黒い翼がよく似合う・・・・」

戦場の宙で、
血をしたたらせながら、
ヤンキは虚ろな目であたりを見た。

「これが俺なのかもしれない・・・ただクズのような・・・・カラスのような生き方・・・。
 他人のゴミを吸い取りつつきながら、他人に迷惑を与えながら・・・なお人に忌み嫌われる・・・」

悪魔。
それが自分かもしれない。
人ではなかったのかもしれない。
自分はもともとこのためなのかもしれない。

「分からない!分からない!何もかも分からないんですよ!・・・とぉ。
 ただ・・・ただ・・・・痛みだけが・・・俺がココに居るという実感をくれる!!!」

カラスは、
宙で翼を広げた。
その大きな翼を。
その反動で黒い羽根が舞い落ちる。
その反動で赤い血が舞い落ちる。
黒い涙のように。
赤い涙のように。

「・・・・どうする。ツィンも相手にしなきゃいけねぇのによぉ」
「ツィンさんよりも重要です。彼の行動は戦況に影響を与えています」
「けどよぉ、俺のダガーなんかじゃチクチク当てても逆に能力を上げちまう」
「僕なんて槍とパージですからね。空にいる相手には無力すぎます」
「役立たずだなおめぇ」
「逆効果よりはマシです」

「見守ればいい」

ツィンは言った。

「花は咲こうと思えばアスファルトの上にだって咲き誇る。
 それは、綺麗な花も美しくない花もだ。ただ生きているんだ。
 俺達は生きる。咲くためだけに。踏みにじらないでくれ」

「カッ、てめぇは人間のままなのに変わっちまったな」
「だけど本当にどうにかしないと・・・」
「・・・・あのヤンキを止めれる奴は誰だよ。ツヴァイ辺りを呼び戻すか?」
「どうやって」
「・・・・ならガブリエルだ。天使なら悪魔を相手さすべきだろ」
「ガブちゃんさんとダニエルさんは使うわけにはいきません。
 悪魔部隊全体がまだ出てきてないんですから。その時対応できません」

ならどうする。
ヤンキをどう止める。
分からない。

「・・・・戦況は圧されたままです。ここだけの問題じゃありません。
 このまま何か状況が変わらなければ、タイムオーバー。負けです」
「正義のヒーロー待ちか?」
「笑えません。いろんな意味でね」

どうする。
変わるのを待つ。
それでいいのか。
動いてるのは自分達だ。
何か・・・
何か・・・・。

だが、
求めようが、
求めてなかろうが、

状況を変えるものは現れた。

「なんだ?」

騒がしい。
いや、
騒がしいのはずっとだが、
奮闘の騒がしさじゃない。
何か、

「あっちです」

アレックスが示した先。
何か、
何か戦場が乱れている。
分からない。
だが、
何かが向かってきている。

「おいおい・・・やられまくってるじゃねぇか」
「ヤンキさんが増えた・・・とかそんな笑い話じゃないですよね?」

ソレは、
関係なく無差別に殺して進んできていた。
人間も、
魔物も、
敵も、
味方も。
関係なく、
殺しながら、
突き進んできていた。

「なんなんだありゃ・・・・」

人と魔物の群の中、
何かが死骸を作り、
命を掻き分けている。

それは・・・・
3つの影だった。

「参る」
「応!」
「・・・・承知」

3つの影は、
まるで踊っているかのようだった。
ノミが跳ね回るようにも見えた。
ただ、
ただただ、
戦場がただの地面のようだった。
全てがただのゴミのように。
三騎士は命を切り捨てながら、
こちらに向かってきていた。

「な、なんであいつらがここに!」
「こっち来ますよ!」

あっという間だった。
三騎士は、
戦場を跳ね回り、
その大きなカプリコソードを振り回し、
血を吹き飛ばしながら、
その小さな体で飛び回ってこちらへ。

「邪魔なのはアレだな」
「・・・・・やるか」
「やっちまおうぜ!!」

三騎士は、
攻め入ってきたと思うと、
同時に飛んだ。
3つの影。
3つの伝説が同時に飛ぶ。

「応応!!」
「・・・・ここらで暴れてるんじゃないぞ悪魔」
「カプリコ三騎士が参ったぞ」

三騎士が飛んだ先は、
宙に飛ぶヤンキ。
黒き悪魔ヤンキ。

「ぐぁぁあ!!!」

その3つの影が、
空中で交差した。
ヤンキとすれ違うように通り過ぎた。
と、
同時。
ヤンキに3つの切れ目が入る。
そして大量の血が噴出す。

「痛い!痛い痛い痛い!!!」

ヤンキは空中で悶え苦しんだ。
血を大量に噴出しながら。

「・・・・む」
「なんだ。殺したと思ったけど頑丈な野郎だな!」
「仕留めそこなったか」

着地した三騎士は、
ついでと言わんばかりに、
近場に居た人間を切り殺し、
近場に居た魔物を斬り殺し、
宙を見上げた。

「痛い・・・血だ・・・血ですよ・・・とぉ・・・・・死ぬ・・・生きてるから死ぬ・・・でも死なない・・・・
 赤い・・・血だ・・・血ですよ・・・とぉ・・・・黒い俺が・・・闇に塗れた俺が・・・赤く・・・
 赤い光で満たされる・・・・闇の中に光が漲る・・・黒い闇が・・・赤い夕日に照らされる!!!」

ヤンキは、
重症を負ってなお、
まるで生き返ったかのように声をあげた。
痛みが嬉しいように。
血が嬉しいように。
全身から血を滴らせ、
口からヨダレのように血を滴らせ、
そして、
両目から赤い涙が零れ落ちていた。

「夕焼けだ!夕焼けが見える!きっと失ったものが戻る光ですよ・・・とぉ!
 夜は夕へ・・・俺は・・・俺は・・・・あぁ・・・ぁあああああああああああ!!!!」

ヤンキは突如滑降する。
鳥のように、
烏のように、
宙から地へ。

「むっ・・・」

エイアグの方へと急降下し、
そしてヤンキの黒き剣は、
エイアグのカプリコソードを大きく弾き、
カラスはまた戦場へと狂ったように潜っていった。

「なんだあいつ。力があがっている」
「応応!エイアグ!」
「・・・お前らしくない・・・危なかったんじゃないか?」

ヤンキの力は、
エイアグでも少々苦戦するほどに上がっていた。
だが、
そんな事を置いておくかのように、

「おい三騎士!てめぇら!」

ドジャーが声をあげながら三騎士へと近づいた。
アレックスもしょうがなくついていった。

「なんでてめぇらここにいやがる!」

「ふん」
「・・・カプリコ砦が近い」
「見過ごすわけにはいかねぇだろが!」

「なら応援に来てくれたんですか?」
「馬鹿かアレックス。こいつら人間も殺しまくってたじゃねぇか」

三騎士。
その三匹全員、
一瞬答えもしなかった。
だが、
呆れたようにエイアグが言い始める。

「人間。勘違いするな。今まで手を貸してやったのは理由があったからだ。
 俺達は貴様らの敵でもなければ、味方でもない。今まで一度たりともな」

「んだと?」

「カプリコ砦の危険性を考えて戦場に赴いたまで。そして懐かしい匂いがしたからな。
 戦場の雰囲気。戦い方で分かる。いるんだろう?この戦場に。ノカン将軍が」

・・・・。
ノカン将軍。
三騎士がそれに反応するのも頷ける。
カプリコとノカン。
それは古くからの因縁だ。
種族間の因縁。
捨て置くことのできない因縁。

「そうです。確かに居ます。そしてそれなら話は早いですよ。
 ノカン将軍は相手のトップです。ならばこちらに手を貸す理由はあります」

ドジャーは苦笑いしながらも、
ある意味アレックスを心の中で褒めた。
もう三騎士を引き込むような言葉を選んでいる。
呆れるほどの小賢しさだ。

「ないな」
「ノカン将軍は殺すが、お前らに手を貸す義理はない」
「・・・・・お前らもここらを荒らすもの。斬って当然」

「おい、おかしいだろ。なんでこっち側にならねぇ」

「言ったばかりだ。我らはお前らの味方ではない。今まで一度たりともだ。
 ミルレスでの時は借りがあったからだ。そしてロッキーの考えだったからだ。
 我らはロッキーを味方したまで。お前らの味方になったわけではない」

「なら今回も同じはずだぜ」

ドジャーは笑う。

「いるんだろ?てめぇらが来たってことはよぉ。ロッキーがだ」

それは当然。
当然だった。
当たり前。
そして待ちわびた事だった。
もしかしてとも思っていた。
再開を果たしていない最後の《MD》
それがロッキー。
ならば出会えるのかと、
それは期待。

・・・・。
だが、
三騎士は答えなかった。
まるで、
答えにくいかのように。
そして、
殺気までかもし出していた。

「それが理由だ。"だから貴様らに手を貸す理由はない"」

「あん?」

「ロッキーはいない」
「ロッキーはもういない」

「!?」
「なっ・・・・」

「ロッキーに関してはお前らのせいだ」
「てめぇらさえいなけりゃ・・・・」
「・・・・だから俺達はお前らに恨みさえ感じている」

何を、
何を言っているんだ?
いない?
もういない?
それは・・・
つまり・・・・

「死・・・・」

アレックスが言いかけた直後、
近くで爆発音が聞こえた。
魔物が飛び散る。
人間が飛び散る。

「なんだ?」
「あれは・・・バーストウェーブ?」

爆発系の魔法。
それが人間と魔物、
関係なく吹き飛ばしていた。
そしてそれは、
何もかもを吹き飛ばし、
そして、
近く。
アレックス達の近くに居た者達を吹き飛ばし、
姿を見せた。

「・・・・・・」

それは、
愛らしい小さな姿をした人間だった。
ブカブカのローブをひきずり、
ウルフキャップをかぶった小さな人間。
身の丈に合わない大きなカプリコハンマーを持っていた。

「なんだ。いるんじゃねぇか」

ドジャーがニヤけながら近寄ろうとする。
それをアレックスが止める。

「待ってくださいドジャーさん」
「あん?」
「ロッキーさんが・・・あんな無差別に攻撃しますか?」
「・・・・いやそりゃそうだがよぉ、あのバーストウェーブはロッキーに違いねぇだろ。
 つーかあのナリ見れば分かるだろが、どう見てもロッキーじゃねぇか」

そう言い、
ドジャーはロッキーに駆け寄った。

「カッ!久しぶりだな!見ないうちにデカくなったなぁ・・・ってか?
 カカカッ!なんも変わっちゃいねぇな!小さいまんまだぜロッ・・・・・」

ドジャーのその手、
それは・・・
振り払われた。
ロッキーの、
その小さな手に。

「気安く触るな」

カプリコハンマーをかついだ、
その小さな体は、
ドジャーにそう言い放った。

「あ?・・・・おめぇ何・・・」

「余に気安く触るなと言ったんだ人間如きが」

ウルフキャップの下から、
その眼が覗く。
その目は、
無邪気なロッキーのものではなかった。
冷たく、
ドジャーを睨む。

「・・・・おい・・・ロッキー?」

「・・・・フッ」

ロッキーは、
軽く苦笑し目線を外したと思うと、
もう一度ドジャーを睨んだ。

「人違いだな」

「・・・・・は?」

「うぬは覚えているぞ。小賢しいハエのような人間だ。全く。品に欠ける」

そして、
ロッキーは、
カプリコハンマーを片手で振り、
ドジャーの目の前に突きつけた。
その小さな体で、
下から、
ドジャーに。

「ロッキー。それは"コレ"の昔の名だ。今はもう居ない。今、コレは余のものだ。
 だからそんな薄汚れた名で二度と余を呼ぶな。覚えておけ低能な人間よ」

その小さな体の、
その懐かしい口の、
その懐かしい声の中の、
まったく別の者は言った。

「余はオリオール。この体の新しい所持者だ」












                 






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