「ビーズの処理は大体済んだようだな」

仲間達の報告を受け、
ジャスティンは一息ついた。
そして一息つくヒマなどない事を思い出し、
表情を固める。

「だからってボォーっとしてるところに突っ込まれるとお終いだ。
 せっかくツヴァイが少し時間を稼いでくれてるんだしな」
「ったく。一人で突っ込むってどうなんだよ。まさかまさかって事はないよな?」
「ボクにはまさかで死ぬ女性には見えなかったけどね」
「そうです。まぁある意味ですよ?こんな事でツヴァイさんが死ぬようなら楽です。
 その双子の兄である騎士団長を倒すのもその程度の楽さって事ですからね」
「カッ、ツヴァイが死なないって事がアインハルトの強さも証明しちまってるのか」
「複雑だな」
「複雑じゃないさ。とてもシンプルに簡単な結論じゃないか。
 ツヴァイが死ななくてアインハルトを倒せばいい。それだけなんだからね」

簡単にサラりと言うもんだ。
エクスポ特有の芸術家気質か。
そしてでもその通り。

「ちょっと!ジャスティン!聞いてるジャスティン!!」

スマイルマンの上から声。
数体のスマイルマン。
その上からルエンが叫ぶ。
ルエン、
マリ、
スシアの三姉妹は、
全員それぞれスマイルマンの上だ。

「敵が動いたわ!!」
「何!?」

スマイルマンの上から指をさすルエン。
その先。
2万の魔物の群の中、
走りこんでくる団体。

「くっ、先鋒隊か」
「むしろ気付くのが遅すぎましたね。すでに中間地点まで走りこんできてます」
「早いね。いや、速いよ」

どこから取り出したのか、
エクスポが双眼鏡で覗き込んでいた。

「・・・数200ってところだね」
「200?大した数じゃないな」
「まだ姿勢の整ってないこちらを襲撃するには十分な数ですよ。
 いわば足止め。ビーズに続き、その200でこちらの動きを止めるつもりです」
「あいつらに戸惑ってたら後ろの2万が一気になだれ込んでくるってか」
「だが速い。魔物にあれだけの速度を出せる種族があったか?」
「Gキキ?」
「いや、さすがにそれほどじゃないが、足並み揃えた部隊的な動きだ。なんだあれは」
「・・・・・・」

双眼鏡を覗き込んでいたエクスポ。
エクスポが何かに気付き、
双眼鏡から目を放し、
叫ぶ。

「騎馬隊だ!」
「?」
「騎馬・・・隊?」
「魔物が?」
「ノカンだよ!ノカンが200!エルモアに乗ってる!」
「なっ!?」
「ノカンがエルモアだと!?」

































「魔物が魔物に。ノカンがエルモアに搭乗出来るとは知りませんでしたよ」

「俺が作り上げたのさ」

ケビンが笑う。

「言っただろう?世の中に無駄なものなどないし、使えるものはなんだって使う。
 俺が人間の武器であるブルトガングを使うように、人工文化だろうが利用できるものは利用する」

「そして作ったのがノカン騎馬隊ですか」

「エルモアというものは便利だな。ノカン村でも家畜を利用する事はあったが、
 生き物を戦争の道具に使うのは人間くらいだよ。だが使えるからこそ利用させてもらった。
 速く、そして自由自在。先鋒隊に必要な機動力はエルモアを使えばいい」

「人間の文化も貴方にとってはただの道具ですか」

「ふん。人間の文化は正直恐れ入るよ。さすが頭脳の発達で大陸を制した種族だ。
 だが・・・・それ以外は全て魔物に分がある。人などただの道具生産工場だ」

平均的な戦闘能力。
身体能力は、魔物に分があるのは必然。
だから道具や魔法、武術など、知恵を振り絞って力を得た。
ならば、
ならば魔物がそれらを利用したら?
ケビンはただそれだけの事をしただけだ。
魔物に道具を生み出す能力はないが、
それは人間がやればいい。
利用できるものは利用する。

「まぁモタモタしているヒマはない。次鋒!全軍前半の1万を進ませろ!!」



























「来るぞ!!」
「メテオラ!《メイジプール》に指示を出せ!」
「わぁーってるよ」

メテオラはそれでも座り込んだまま、
声だけを張り上げる。

「騎馬隊を止めるぞ!《メイジプール》全員!構えろ!!」

魔術師達が、
手を、
オーブを、
スタッフを斜め前の構える。
ビーズを撃ち落していた時と同じ、
矢。
ファイヤアローやウインドアロー。
アイスアローなどの、
魔法の矢を放つ構え。

「撃てぇ!!!」

メテオラが声を張り上げる。
それと同時に、
火と、
風と、
氷の。
魔法の矢達が一斉に撃ち放たれる。

「どうだ!」
「止まるか!?」

矢の大軍。
矢の雨。
矢の嵐。
それらが、
迫り来るノカンのエルモア部隊へ降り注ぐ。

「駄目です!止めるには少なすぎます!」
「撃ち倒したのは10・20ってとこか・・・・」
「200の少数精鋭・・・穴だらけで矢なんて当たったもんじゃないって事だね」

少し数を減らしても、
エルモアに跨ったノカン達は速度を緩めない。


「オラァ!!人間共!!覚悟しやがれ!!!!」

左手はエルモアの手綱。
そして右手のノカンクラブで矢を打ち払いながら、
先頭で駆け抜けてくるノカン。

「ブラックストーン様のお通りだ!死に目を見やがれ人間共!!」


「なんだあいつ」
「火傷塗れのノカン・・・あいつがエルモア部隊のリーダーみたいですね」
「そんな事より!もうぶつかるよ!!」
「騎士隊!前へ!!」

ジャスティンが右手を振ると、
1万の群集の中から、
騎士が盾を構えて前に出た。
盾を地面に立てて、
片膝をついて守りの体制に入る。

「アレックスが帝国から引っ張ってきた騎士達か」
「騎士と戦士の違い。それは騎士が守る者という事です。
 盾で守り、団結して並び、目の前の敵だけを突く槍」
「・・・・・騎士達の壁だけであいつらを止めれるかどうかだな」


「無理に決まってんだろがよぉおおお!!!」

ぶつかった。
ノカンによる、エルモア騎馬隊。
その突撃。
それと隊列を組み固める騎士達。
その盾の壁。

数十匹のエルモアは転倒したが、
関係ない。
突きぬけ、
ノカンエルモア騎馬隊は本陣へと突っ込んできた。

「入ってきましたよ!」
「チクショウ!懐にもぐりこまれるのが一番やっかいだ!」

エルモアにのりながら、
また、
エルモアを乗り捨てて、
ノカン達がこちらの本陣へと突っ込んできた。

「ノカン如きがなめるな!」

「人間如きがよぉ!!」

入り乱れる。
ノカンが入り込み、
本陣の中が入り乱れる。

「もらったぁ!!」

「こんなとこまで・・・・」

人間とノカンが入り乱れる中、
深き場所に居たアレックスのもとまで、
ノカンが突っ込んできた。
火傷塗れのアンクルノカン。
ブラックストーン。
アレックスを見るなり、
エルモアの馬上からノカンクラブを振り下ろしてくる。

「くっ!」

槍で受け止めるが、
エルモアの突撃に裏付けられた打撃は重かった。

「チッ!外したか!」

他のノカン達は敵の真っ只中で次々と落馬していったが、
ブラックストーン。
この火傷塗れのアンクルノカンは、
敵地内で悠々とエルモアを乗り回していた。

「オラァ!お前は死ね!お前も死ね!人間なんて全部死んじまえ!!」

アレックスを通り過ぎると、
もうそれは過去の事のように、
通り過ぎる人間達を馬上から殴り飛ばしていた。

「調子こいてんじゃねぇぞ!」

「おっと」

ドジャーが飛ぶ。
人ごみの中、
持ち前の俊敏さ。
人ごみを飛び越え、
エルモアに乗るブラックストーンにジャンプで飛び掛る。

「軽い!軽いぜ人間!!」

「チッ!!」

だがノカンクラブの打撃と、
ドジャーのダガーがぶつかると、
軽々しくドジャーは撃ち落された。

「・・・・っと。いつの間にか結構深いとこまでキチまったな。
 おいてめぇら!役目は果たした!一端退くぞ!・・・・ってあんま残ってねぇか?」
「甘くみんなブラスト!」
「ノカンの意地がある!」
「そうだったな!!!」

エルモアをまだ乗りこなしているノカン。
落馬したノカン。
それら全てが今度は逆走する。
落馬したノカンは他のノカンのエルモアに乗り込み、
一目散に戻っていく。

「逃がすか!」
「やられっぱなしでいくかよ!」

だが遅い。
ノカン達は速い。
本陣をかき乱すだけかき乱し、
自由の限りを尽くして戻っていった。

100ほどのノカンの死体を残し、
残り半分は撤収していく。

「くそぉ・・・・台風みてぇな奴らだったぜ・・・」
「自分達のペースで戦える分だけ戦ってとっとと戻っていきましたね・・・・」

エルモアに乗るノカン達の後姿。
疾風の如く。
嵐の如く。
その間数分。
やるだけやって帰っていった。
半分の100は打ち殺したといっても、
1万居る本陣に入られてそれだけしか被害を与えられなかった。
こちらはこちらで同等の被害を受けている。

「追え!追えー!」
「やられっぱなしで逃がすな!!」

兵達が、
追撃を食らわそうと殺気立っている。
走り出す。
エルモアに乗るノカン達を追いかける。

「駄目です!」

アレックスが止めるが全体の状況はそれどころじゃない。

「相手はこちらの体勢を崩すだけ崩してひっぱり出す気です!」
「クソッ!あいつらは挑発だったって事か!」
「兵達が追いかけるとヤバいね。釣られた形だ」

ノカン達の後姿。
戻っていくエルモア騎馬隊。
そしてその先。
そこには・・・・

地響き。
地震と言ってもいい。
それほどの数の魔物達の大群。

「くそぉ!このままぶつかってみるしかねぇんじゃねぇのか!?」
「とりあえずあいつだけでも討ち取っとけばいいのか?」

言ったのはメテオラ。
あんな状況の中、
まだのん気に座り込んでいたらしい。
両手の女も離していない。

「あいつ?」
「あの火傷のノカンだ。あれさえ殺しとけばとりあえず騎馬隊はもう機能しねぇだろ。
 それに殺気立ってる馬鹿達の脳みそぐらいは晴れる。ま、グチグチ言ってるヒマはねぇ・・・か」

メテオラは、
座り込んだまま、
コロリと何かを転がした。
それは・・・
卵。
卵は煙を噴き上げ、
そして・・・・

「やっぱ楽チンが一番だよな」

メテオラの真下に現れた守護動物。
それは・・・・・
Gキキ。

「こいつならエルモアにだって追いつけるだろ?」
「ちょっと待ってください!そのGキキ・・・まさか・・・・」
「知らねぇな。行くぜ"G−T"」

メテオラが命令すると、
Gキキは「キイ!」と返事をして駆け出した。
マイソシア最速生物。
メテオラは2人ほど両手に抱いたまま、
Gキキに乗って人ごみを駆け抜けていった。

「あいつもGキキに乗るのか」
「搭乗用Gキキは騎士団で訓練を受けたものだけじゃなかったのかい?」
「・・・・・あのGキキは・・・」

自慢のスピードで駆け抜けて行くGキキ。
メテオラを乗せて、
一気に本陣を抜け、
走り去っていくGキキ。

「『G−T』・・・・王国騎士団のGシリーズの一号機・・・・そして名前は"お味噌汁"」
「は?」
「父が・・・・父が使っていたGキキです・・・・」


























「ヒャッホー!いい風だぜ!やっぱ乗るなら速いもんに限るね!
 楽できるなら楽できたほうがいい。どーせなら速いモン!ハッキリそうだよな!
 どうだ俺の女達。戦場をドライブってぇのもイキなもんだろ?」

メテオラは両手に女を抱えたまま、
Gキキで走る。
戦場を走る。
前方には・・・・
退却していくノカンのエルモア部隊。

「アレックスって野郎ビビってたな。そりゃそうだ。俺がコレに乗ってるんだからよぉ♪
 ま、面白ぇもんは面白ぇが、面倒は勘弁だ。理由は教えてやんねー♪ヒヒ♪」

最速生物で駆け抜けると、
エルモアに乗るノカン達の後姿はもう目の前だった。

「はいはいおどきー。通りますよーっと」

ノカン達を追い抜き、
メテオラはGキキに跨ったまま先頭を目指す。

「なんだ貴様!」
「エルモアに追いついてくるだと・・・」
「Gキキ?」

「あんたらに用はないんだよねー」

メテオラが駆け抜ける。
ノカン達を追い抜き、
先頭を目指す。
そして先頭。
火傷塗れのアンクルノカン。
ブラックストーン。

「あいあいお邪魔しますよっと」

「なっ?!」

ブラックストーンは左手でエルモアの手綱を引きながら、
真横を見ると、
モングリング帽をかぶった魔術師が並走していた。

「てめぇ!追ってきたのか!」

「追ってきたわけだ。てめぇを殺すためにな。Gキキの速さ見たー?
 俺の実力じゃないけど俺の持ち物は俺のもの。俺の実力だよな」

「ざけるなっ!!」

ブラックストーンが馬上でノカンクラブを振ってくる。

「おっとっと」

メテオラはそれを、
Gキキを巧みに乗りこなし、
距離を離して避けた。
それでもエルモアとGキキ。
ブラックストーンとメテオラの並走は続く。

「ヘイヘイ、ノカン野郎。死ぬ準備は出来たか?火傷が痛痛しいねぇ。
 生きるのツラいっしょ?俺みたいにイケメンなら我慢ならねぇなぁそういうのは」

「うるさい人間が!これは俺がノカン村から生き延びた証!生き延びてしまった証!
 焼けつくしたこの場所!ここにあったノカン村!そこで焦げ残った石ころの証だ!
 俺のこの火傷の痛みは!死んでいったノカン達の痛み!それを愚弄するか!」

「関係ないねー。そういう面倒な話興味ないのよ俺」

「んだと・・・」

「自分が幸せならそれでいいね。他人の不幸を背負ってどうすんだよ」

「貴様!人間!貴様は何の意志もなく!この戦場に居るというのか!」

「あるある。それは俺の幸せのため。それだけ」

並走するGキキ。
その上で、
メテオラはブラックストーンに指を突きつけた。

「あと忠告。この世には二種類の人間がいる。・・・つってもあんたは人間じゃないか。
 ともかく二種類。それは"ちゃんと周りに注意して安全運転する奴"・・・そしてあんただ。
 余所見運転は危ないぜ?それこそ俺みたいな奴が近くに居る時は・・・な♪」

「何を・・・・ぐあっ!!」

突如、
ブラックストーンの体が宙を舞う。
エルモアから放り出される。
何かがぶつかった。
それも・・・・
メテオラとは逆側から。

「これからは標識立てとくべきか。"隕石注意"ってな」

突然真横からすっ飛んできたメテオ。
たった一つのメテオ。
それがブラックストーンをエルモアから突き落とした。
そしてそのメテオは、
まるで生きているかのよう。
ぶんぶんと空中を動き回り、
一度・・・・
メテオラの指の先で止まった。

「俺は『メテオドライブ』のメテオラ。能力はメテオ操作能力だ。
 スプレッドサンドの応用なんだが・・・まぁこのメテオは俺の思うままに動くってこった」

メテオラが指をチョチョイと動かすと、
メテオが後方へと飛んでいった。
走り抜けるGキキ。
落馬して後方に置き去りのブラックストーン。

「ブラックストーンだったっけ?焼け焦げた石ねぇ。そして石で意志か。
 知らねぇな。俺の人生の邪魔だったら、路上の石は蹴飛ばしとく主義でね」

背後も見ずに、
メテオは的確にブラックストーンの頭上へと向かう。
落馬した衝撃で倒れているブラックストーンの頭上。
そこにメテオは停止した。

「くそ・・・くそぉ!!俺は!ノカン達の意志を継がなければいけないっ!
 こんなところで・・・・こんなところで終わるわけにはいかねぇんだよぉおおおお!!」

「だから知らねぇっつってんだろ」

メテオラは、
後方も見ず、
その指を下げた。

「じゃ、オヤスミ」

指の動作と共に、
メテオは地面へと落ちた。
真下のブラックストーンを押しつぶすように。
あまりにも軽く、
あまりにも簡単に、
自身のメテオのように、命を一つ思うがまま潰した。

「楽なもんだ」

メテオラが笑うと、
両サイドの女がメテオラの服を引っ張る。
何かを伝えたいように。

「ん?あちゃぁー・・・・」

走り続けるGキキ。
その前方。
そこには・・・・
広がる魔物の大軍。
まるで地平線のような、
超軍隊。
津波のように迫り来る。

「こりゃぁさっさと帰らないとねぇ。こんな奴らの相手は俺の責任じゃねぇ。
 考える前にスタコラサッサとさせてもらいましょっかねぇ」

メテオラはGキキの進行方向を反転させ、
今度は自陣へと戻っていく。

「世の中は二種類。"優柔不断に決断を迷う奴"と・・・俺だ。逃げるが勝ちってな」

今度は逆方向。
今まで通ってきた道。
今まで追い抜いてきたノカン達。
エルモアに乗るノカン達

それらと逆にすれ違う。

「どけっ!どけどけ!俺の邪魔をすんなっての!」

Gキキに跨り、
メテオラは、
片手をブンブンと振り回した。
そして、
まるでその手とメテオが繋がっているかのように、
メテオが宙をブンブンと動き回る。

「どけどけっ!メテオとメテオラ様が通るぞ!
 メテオが降り注ぐものだと思うなよ!俺のメテオを振りかかるものだ!」

まるでカウボーイのように、
メテオを魔力で振り回す。
すれ違う。
エルモアに乗ったノカン達。
それらの上から、
右から、
左から、
たった一つのメテオが動き回り、
衝突し、
ノカン達を跳ね飛ばし、
メテオラはそのノカン達とすれ違っていく。

「俺の帰り道にいる方が悪ぃんだぜ!」

ノカンのエルモア部隊の流れを、
逆に突きぬけ、
十数匹のノカンをついでで落馬させると、
すでにノカン騎馬隊とはすれ違い終わり、
本陣が見えてきた。

「おらぁ!帰ってきたぞ!世の中は二種類の人間だ!!
 言った事をやりきれない人間と!俺だ!てめぇらはどっちだ!
 《メイジプール》は全員その場を動かず待機!分かったか!!」

命令を飛ばしながら、
メテオラはGキキで本陣の群れの中へと戻ってきた。
そして人ごみをかきわけ、
メイジプールの団体のところまで来ると、
Gキキを止め、
卵に戻すと同時に、
また地べたに座り込んだ。

「俺の仕事は終わったぞ!次はてめぇらの番だろ!」
「メテオラさん!そのGキキは・・・」
「そんな話は後だろ!世の中は二種類の人間がいるぜ?
 "時と場合を考える事を出来る人間"と・・・お前だ!今はそれどころじゃねぇだろ!」
「メテオラの言うとおりだアレックス君。敵が雪崩れ込んでくる」
「このままじゃ押しつぶされるね」

もうすぐ目と鼻の先だ。
500m・・・いや、300mほど先。
そこに魔物の大群。
超大群。
押し寄せる。
地響き。
まるで地面が壊れてしまうかのように揺れる。
大陸全体が上下に揺れているのかと思えてくるほどだ。

「当初の予定通り!《メイジプール》と2000を残し!他は全員前へ出ろ!
 騎士が先頭だ!それに続くように全員前方に意識を向けろ!!」

ジャスティンが大声で命令を発する。
そしてそれは人を伝い、
行動に移る。
ジャスティンの言葉通りに。

メテオラが一人で追撃を行ってくれたため、
統率はなんとか取れているほどに体勢は整っていた。

「いよいよか・・・」
「真正面から大軍と大軍がぶつかるんだね」
「出来れば正面衝突を避ける形を取りたかったのですが、
 向こうの頭・・・・ノカン将軍という者がそうはさせてくれなかったようです」
「カッ、楽に行くとは最初から思ってなかったさ」

敵が、
魔物の大群が・・・
押し寄せる。
大地震でありながら、
大雪崩でもある。
生命の津波。
それがもう・・・目の前。
200mほど先・・・
見る見る近づいてくる。

「進め!!!」

ジャスティンの声と同時、
世界の反抗期達が、
一斉に前へ走り出した。
先頭に騎士達が盾と槍を構え、
壁のように突進し、
他の者達が後に続く。

1万と2万の正面衝突が始まる。
今、
雪崩と雪崩、
津波と津波が合い交えようと・・・・・


「止まれ!!!!」

そんな時、
声が聞こえる。
向こう側だ。
魔物の声。
魔物の命令。

「全軍進撃やめ!!!」

叫んだのは、
魔物達の先頭。
ピンクの中のピンク。
メスのニュクノカンだった。

彼女の言葉で、
打ち合わせどおりかのように、
魔物が進撃を止める。
魔物の雪崩がゆっくりと速度を落とし、
100mほどの距離で停止した。

「射撃部隊前へ!!!」

メスのノカンの声と同時、
入れ替わるように、
先頭に一種類の魔物が立ち並ぶ。
一面ピンク。
ピンクの壁。
魔物の大群の先頭に・・・・・・・・ニュクノカンの壁が形成された。

「射撃部隊!全員構え!!!」

メスのノカンの命令が続く。
と、
同時、
魔物の群の先頭に立ち並ぶニュクノカンたち。
それらが片膝を付き、
構える。
構える。
まるで何かの垣根が続くように、

吹き矢を構えたニュクノカン達が・・・・

「!?」
「やばいです!罠です!」
「止まれ!!!全軍とまれ!!止まれー!!!」

ジャスティンが慌てて推し進めた者達をとめる。
罠。
ぶつかってくるとみせかけ、
罠。
吹き矢の一斉射撃をあびせてくる気だ。
ジャスティンの号令で、
反乱軍は一斉に止まろうとしたが、
そんな突然の命令はうまく行かず、
大概の者は、
ドミノ倒しのように転がり、
惨事になっていた。

「先頭の騎士達が盾を並べろ!守れ!!防げ!!!」

「撃てぇええ!!!!!」

一列に並んだニュクノカン達が、
一斉に吹き矢を発射する。
一斉に発射される吹き矢。
並列に、
まるで矢さえも統率されたように、
数百の矢が地面に平行に飛びかかってくる。

「うぐっ!!」
「ぐぁあああ!!!」

ジャスティンの命令は完全とはいかず、
半数は先頭の騎士達の盾で防いだが、
カモのような大群に矢の嵐は突き刺さった。

「いいぞ!そのまま第二射撃!用意!!!」

メスノカンの号令で、
ニュクノカン達は吹き矢に矢を装填し、
さらに第二射撃の構えを取った。

「くそっ!」

ジャスティンは唇を噛み締めた。
そして命令を叫ぶ。

「騎士達はそのまま盾を構えろ!隙間を空けるな!
 吹き矢は直線だ!先頭の騎士達の盾を壁にしろ!防ぎきれ!
 そして第二射撃終了と共に全軍突撃だ!!」

「第二射撃、構え止め!!!全軍突撃!!!!」

「なっ!?」

ニュクノカン達は吹き矢の構えを解き、
後ろへ下がっていく。
そして入れ替わりに、
魔物の大群が押し寄せる。
津波のように。
魔物が雪崩のように。

「くそっくそっくそっ!!全員突撃しろ!!」

何もかも後れを取った。
今更こちらは突撃に勢いの乗せるヒマはなかった。
全て相手に上をいかれた。
相手の思う壷だ。
勢いの止まったこちらの大群へ、
魔物の大群が押し寄せ・・・・

そしてぶつかった。

「・・・・・」
「完全にやられましたね」

中盤からでも分かる。
前方。
人間と魔物が入り乱れるところ。
勢いに乗った魔物達が、
人間を飲み込んでいくのが分かる。
大軍と大軍の戦い、
もみくちゃになったらもう戦術の行き届くヒマはない。
ならば、
何が差をつけるかと言うと、
ぶつかる時。
その勢い。
人間の大群と、
魔物の大群。
それらがぶつかった時の勢いは、
8:2ぐらいの割合で負けていた。
押しつぶされていく人々が分かる。

「数は向こうで勢いも向こう・・・か。美しくないね」
「2万対1万が、3万対1万ぐらいの勢いにされた形」
「クソッ・・・・」
「ジャスティンさんの責任はありません。むしろ機転がよくて被害を最小限に抑えれてます」
「・・・・俺の責任じゃない・・・相手が全て上回ってだけ・・・か」

ジャスティン程度の発想、
それらを全てケビンは見越している。
通常の者より機転が利く事さえも。
いや、
相手がどんな司令塔だろうと、
状況に応じて対応できる術を用意していたのだろう。

「前方は劣勢・・・か」

ぶつかった大軍と大軍。
大群と大群。
明らかに人間が押し負けている。

「ならポイントごとに潰していくしかないですね」
「そうだね。魔物とはいえ、そして2万とはいえそれはただの2万の魔物の塊じゃないさ。
 キーマンとなる隊長格が何人か居て、部隊の塊が2万になってるはずだよ」
「どんな巨大なもんでも柱を崩されればただの瓦礫か」

ドジャーがダガーを両手に構える。

「とりあえず目に付いたのはあのメスノカンだな」
「早目にドンドン潰しておくべきですね」
「じゃぁ行くぞアレックス。エクスポ」
「ジャスティンは居残りだよ」

エクスポが指をさし、
キザに微笑む。

「君だけでも本陣は任せられるよね?期待してるよ。ボクらの司令塔」
「・・・・・・」

ジャスティンは右拳を握る。
右拳・・・。
左手は骨折のため吊ったままだ。
戦闘になるかも分からない。
役立たず。
足手まとい。
いや、
違う。

「分かった」

やれる事があるはずだ。
自分にしか出来ない事もあるはずだ。
エクスポの言葉は、
それを簡単に表してくれているだけ。
そう言われればやるさ。

「ルエン、乗せてってやってくれ」
「あいよ」

上方から返事。
スマイルマンの上。

「マリに動かし方教えてもらったけど、難しいねこりゃ」

それでもすでにスマイルマンを乗りこなしていた。
スマイルマンの肩の上で、
コントローラーを持って巨大な鉄の化け物を操っている。
今のところ、
スマイルマンの操作が出来るのは、
ルエン、マリ、スシアだけだった。

「ほれ、乗りな」

スマイルマンの巨大な手の平が地面に落ちる。
アレックス、
ドジャー、
エクスポの3人は、
その手の平の上に飛び乗った。

「ガリバーになった気分だな」
「ガリバーは逆です」
「ドジャー、昔話はどれも芸術さ。夢と希望がつまっていて、その裏もある。
 歴史の暗号文のようでもあり、歴史による人間の考えの持ち方をメルヘンで教えてくれる」
「難しい事ばっか考えるなよ」
「浅はかに考えるなら、この状況は孫悟空で例えて欲しいな」
「グダグダ言ってないで。運ぶよあんたら」

ルエンが言うと、
巨大なスマイルマンの手の平が動き、
アレックス達を持ち上げる。

「おぉ!?気持ち悪い!」
「機械に運ばれるなんてなんか不思議な気分ですね」
「ボクはそんな事ないよ。ギミックが分かれば機械も不思議なものではないさ」
「じゃぁ行くよ、身構えて」
「へ?」
「どうするつもりですか!?」
「どうするって。カタパルト方式にぶん投げるんだよ」
「冗談だろ!?」
「冗談冗談♪」

スマイルマンが歩き出す。
地響きを立て、
その巨大な体が前方へゆっくりと動き出す。

「うっわ・・・揺れる・・・」
「乗り物苦手ですか?」
「そんなことないだろ?不思議ダンジョンで列車に乗ったのもこの3人だったじゃないか」

なつかしい話だ。
あの時は3人でスマイルマンと戦った。
今ではスマイルマンの手の平に乗って進んでいる。
不思議なもんだ。

「ほーらどいたどいた!潰されたいのかい?道開けなぁー」

ルエンが大声で言う。
当然のように、
道が開き、
敵の群を目指してユックリと進んでいく。

「高ぇし、VIP待遇だし、気分いいなこりゃ」
「敵の中まで行ったらそうも言ってられないでしょうけどね」
「敵も逃げるか、逆に巨大な的にされるかどっちかだろうね」

この巨大な鉄の塊。
スマイルマン。
これがそうそうの事で負けるとは思わないが、
相手だってザコの集団じゃない。
どうなるか、
それはすぐ分かる。

気付くと、
もう戦地だった。

「やっぱ劣勢だな」
「少しづつ境目がこちらに傾いてますね」

スマイルマンの手の平の上から見える景色。
敵と味方。
魔物と人間。
入り乱れ、
殺しあっている。
もみくちゃな状態だが、
どちらかというと少しずつ魔物がこちら側に進軍している。

「ほれどきな小人達」

ルエンがコントローラーのレバーを引くと、
スマイルマンのもう片方の腕が、
薙ぎ払われた。
目の前の者達。
それがゴミクズのように吹っ飛ぶ。
机の上のものを払ったかのように、
スマイルマンの鉄の腕が命を薙ぎ払った。

「味方まで攻撃すんなよルエン」
「スマイルマンは巨大すぎますからね」
「分かってるよ。それぐらいは気を配ってる」

「部隊全員構えろ!!」

聞き覚えのある声。
先ほどの声。
メスのノカンの声だ。

「あのスマイルマンに照準を絞れ!・・・・・・撃てぇ!!!」

敵の群の中、
幾多の場所から、
メスノカンの号令と共に発射される吹き矢。
それは全て、
スマイルマンに向けて放たれた。

「やばいね」
「かがめ!」

スマイルマンの手の平の上で、
アレックス、ドジャー、エクスポが姿勢を低くする。
下から放たれてくる吹き矢の逆の雨。
それは、
スマイルマンの鋼鉄のボディにぶつかって落ちた。

「マリの作品はこんなもんじゃ壊れないよ!!」
「ドジャーさん、エクスポさん」
「あぁ、」
「敵は見つかったね」

3人は、
スマイルマンの手の平の上で顔を見渡し、
頷くと、

「いっちょ地獄に遊びに行くか!」

3人一斉にスマイルマンの手の平から飛び降りた。

「あたた・・・」

アレックスは着地の衝撃がきたが、
盗賊であるドジャーとエクスポは、
ひらりと軽やかに着地した。

「ニンゲン!」
「殺せ!!」

戦地真っ只中に飛び降りると、
有無を言わず、
魔物達が飛び掛ってきた。

「休むヒマはございませんってか」

ドジャーはすかさず走りこみ、
こちらをその大きな目で見ていたナイトメア。
その瞳に思いっきり二本のダガーを突き刺した。

「仕事熱心すぎだぜ。あの世で養生しな」
「カッコつけてるんじゃないですよドジャーさん!」
「おっ?」

ドジャーの真横に、
ポンナイトがすでに槍を構えていた。
そのポンナイトに向け、
アレックスが槍を突き出す。
ポンナイトの体は水しぶきをあげて散った。

「助かったぜ」
「360度敵だらけなんですから気をつけてくださいよ」

そんな事を言ってると、
近くで爆音。
もちろん主は、

「掃除をしている時が一番の幸福を感じるよ」

もう一度爆音。
エクスポが急がず焦らず、
ただクールに爆弾を両手に構えながら歩いている。

「美しいね。美しい。この儚さのためなら毎日御飯を食べるさ」

嬉しそうに、
楽しそうに、
エクスポが爆弾を放り投げる。
そして爆発する。
魔物が数体吹き飛ぶ。
豪快なもんだ。

「やっぱエクスポさんは対多な戦いで頼りになりますね」
「逆にタイマン向きじゃないけどな。うおっ!」

ドジャーとアレックスの近くで爆発。
咄嗟に手で覆った。

「危ねぇなエクスポ!」
「周りをよく見て戦ってくださいよ!」
「何を言ってるんだい。芸術は無差別さ♪」

エクスポは背後にポイッと爆弾を放り投げ、
こちらにウインクする。

「作者が読者を選ぶ漫画家は芸術家じゃない。作者が聴き手を選ぶ音楽家は芸術家じゃない。
 こんな人に聴いて欲しい、見て欲しいってのはあっても、それを選ぶのは視聴者。
 芸術を評価されるってのはそういう事さ。そういう事なんだよ♪」

偉そうに持論を述べるエクスポの横に、
敵が迫る。
ソードウンディゴが迫る。
気付いていない?
いや、
気付いている。
エクスポは余所見をしたまま、
ソードウンディゴに直接爆弾を張り付ける。
スマートボム。
それを張り付けてソードウンディゴを蹴り飛ばす。

「マイナーで評価されるだけじゃ三流。メジャーで評価されるだけじゃ二流。
 一流っていうのはメジャー派もマイナー派もどんな人にだって評価される人の事さ」

エクスポは右手の懐中時計を見る。
その針が頂点を指し示す。

「だから芸術は・・・・何もかもを巻き込む爆発なのさ」

その瞬間、
ソードウンディゴが爆発した。
あたりの魔物も巻き込み、
その現況である芸術家は笑っていた。
『チクタクアーティスト(時計仕掛けの芸術家)』は、
懐中時計と爆弾を手に、
戦場を芸術で彩った。

「あいつ夢中だな・・・・」
「久しぶりですからね。こういうの・・・・」
「目的忘れてやがる。無差別がどうこう言ってやがるし、隊長格を狙う気ないなありゃ・・・・」
「ほっといて僕らでやりましょうか」

それに、
エクスポはここで戦っててもらった方が効率的だ。
この短い時間で、
すでに一人で数十匹倒している。
デリケートなイメージがあったが、
実際は前線で自由に戦うのに向いている能力と性格のようだ。

「おわっと!!」

地面が揺れる。
何かと思うと、
スマイルマンの腕が叩きつけられた音だった。
おそらくあの質量、
数匹の魔物がペシャンコだろう。

「なぁにボヤボヤしてんだい!さっさと仕事しな!給料泥棒達!」

ルエンがスマイルマンの上で叫ぶ。
給料などもらってないが、
働かなければってのはその通りだ。

「ほらほら!ルエンさんのお通りだよ!!」

ルエンはスマイルマンのコントローラーはメチャクチャに動かし、
スマイルマンの腕は、
周りに打ち付けられまくっていた。
周りの魔物をゴミのようにペシャンコにする巨大な鉄の塊スマイルマン。
本当にちゃんと仲間と敵を識別してくれているのだろうか・・・。

「すげぇもん作っちまうもんだ」
「とりあえずあのメスノカンを探しましょう」
「・・・・っつって勢いよく降り立ったはいいけどよぉ、
 この360度どこ見ても魔物だらけの中で一匹のメスノカンを探すのか?」
「さきほどスマイルマンの上で大体の位置は把握しました」

アレックスが駆け出す。

「カッ、突いて来いってか。考えなしですいませんねぇ!」

アレックスとドジャーは、
魔物の群れの中を走る。
槍を振り払い、
ダガーを突き出し、
デスアイを、
シドリを、
ケティを、
様々な魔物を切り捨てながら走る。

「ぼぉーっとしてんなよ。そこのお仲間さん」

ドジャーは、
苦戦している仲間の方へダガーを投げたりもしながら、
戦地の中を駆け抜けた。
1万の仲間の援護はドジャーに任せ、
アレックスはとにかく駆け抜ける。

「!?」

突如、
異様な場所に出た。
・・・。
敵がいない。
戦地の真ん中で、
ココだけ敵がいないサークルになっている。

「私をお探しみたいね」

そこに居たのは、
ピンクの中のピンク。
先ほど見た、
メスのニュクノカンだった。

「見つけましたよ」
「カッ、戦場は用意してくれてるってか」

そこだけまるで結界が張られたかのように、
敵がいない。
居るのは、
そのメスノカンと、
アレックスとドジャーだけ。

「違うわ。皆私の巻き添えを食らいたくないだけ。
 私はノカン射撃部隊のリーダー。ニュクノカンのヴァージニア」

「初めて見ましたよ」
「あぁ、ノカンにもメスが居たんだな。ノカンの見分けなんてつかねぇけどよ」

「あら、それでも分かるのは私がノカンの中でも結構イケてる方だからかしらね」

・・・・・。
分からん。
ノカンの中の美人なんて見分けがつかない。

「ま、人間はノカンおじさんとかしか見たことないだろうからね。
 オスしかいないって思ってる人も多いって聞くわ。だけどそれは間違い。
 女は戦場に出ないって風習があるのはノカンも一緒」

ヴァージニアというメスノカンは、
吹き矢を手に取った。
その腰。
腰には幾多の吹き矢の筒が携えてあった。

「カプリコとの戦いでも私は戦力外。メスってだけでね。でも今は違う。
 女だってメスだって戦える。いや、戦わなくちゃいけない時ってのがノカンならあるのよっ!!」

ヴァージニアが吹き矢を口に構える。
そして、
撃ち放った。

「!?これはっ!」

アレックスが咄嗟にドジャーを蹴飛ばし、
同時に横に逃れる。
そして、
偶然後ろにいたプロドが・・・・

穴だらけになった。

「なっ!?」
「散弾!?」

ヴァージニアの吹き矢。
それは・・・・
吹き矢の散弾。
吹き矢のショットガン。

「だからここ一帯、敵も味方もいねぇわけか・・・」
「吹き矢の散弾銃なんて初めて見ましたが・・・・たしかに範囲が広くて巻き込まれますからね」
「カッ、だが散弾って事は弾込めも面倒なハズ・・・」

そのドジャーの予想と共に、
ヴァージニアはその吹き矢を放り捨てた。
投げ捨てた。
そして腰に携えてある幾多の吹き矢の筒。
それを新たに手に取った。

「・・・・・装填済みをいくつも準備済みみたいですね・・・」
「ズリぃよ・・・・」

「用意周到ってのは褒めてもらうべきところよ!!」

「じゃぁ俺も褒めてもらおうか?」

ニヒヒと笑うドジャー。
そのの両手。
そこにはダガー。
ダガーダガーダガー。
4x2の8本。

「吹き矢なんかでダガーを撃ち落せるか!?できねぇよな!」

「できるわ」

そう言い、
ヴァージニアは口に吹き矢の筒を咥えたまま、
両手を腰に、
そして両手にまた吹き矢の筒。
散弾式吹き矢。
それを両手に一本ずつ取り出し、
クルクルと回すと、
3つの筒を同時に口に咥える。

「ほえでどお」

「何言ってっか分かんねぇよ・・・」
「咥えながらしゃべらないでください」

「ぷはっ、これでどうかって聴いてんのよ。ダガー程度で吹き矢に勝てると思ってるの?
 ショットガンが3っつ。一発一発は微力でもね。強さってのは足し算なのよ」

「・・・・カッ、それは俺がいつも言ってるセリフなんだけど・・・・・なっ!!!!」

ドジャーが8本のダガーを投げつける。
8つの閃光。
飛んでいく8つのダガー。

「人間ってのは算数もできないのね」

ヴァージニアは、
ショットガン式の吹き矢の筒。
それを計3本口に含み、
そして撃ち放った。

まるで爆発したかのようだ。
x3の散弾銃から発射される吹き矢の数は、
それはもう、
サボテンが3つ爆発したかのようだった。

「なっ・・・・」

8つのダガーは、
数え切れない吹き矢の嵐に包まれ、
撃ち落された。
数は強さ。
ダガーを8本撃ち落しても、
相殺しても、
2割程度・・・・数本の細かい針はアレックスとドジャー目掛けて向かってくる。

「必殺!ドジャーさんガード!これは全ての攻撃をドジャーさんを犠牲にすることで・・・・」
「馬鹿やってる場合か!」

ドジャーのダガーが相殺した分、
飛んできた吹き矢の針はほとんどが軌道を外れていて、
数本、
アレックスとドジャーのホホや肩をかすめたくらいで済んだ。

「くっそ・・・なら次はもっと数を増やして・・・・」
「どいてください役立たずのドジャーさん!」
「ぁあん!?」

無駄な仲間を挑発するアレックス。
何か言いたげなドジャーをどかし、
指を突き出す。
十字はもう描いた。
あとは発動するだけ。

「パージは地面からの座標攻撃です!パージならかき消される事もないです!」

後は狙いをつけるだけ。
アレックスは指先をヴァージニアに向けて・・・

「どんな状況にでも対応できるように策を。ケビンが言ってたわ」

「あっ!」

狙い済ましたと思うと・・・消える。
ヴァージニアが、
後ろの人ごみ・・・もとい魔物ごみの中へと飛び込む。

「逃げやがった!」
「・・・・いえ、敵の密集地帯に入って狙いをつけさせない気です・・・」

地面に魔方陣を発動させての座標攻撃。
見えないところに行ってしまえば、
それでもう攻撃は不可能。
魔物の集団。
戦場の中に紛れ込んでいった。

「ちょっとこの辺は敵の密集率が高すぎます・・・。見えません。
 ここに無理矢理にサークル・・・戦いの空間が空けてある分ですかね」
「どうでもいい!アレックス!適当に打ち込め!
 どうせ敵ばっかだ!ハズれても魔物倒せて得なんだからドンドン適当に打ち込め!」
「ヴァージニアさんはそれを狙ってるんですよ・・・・」
「数撃ちゃどっかで当たる!パージ打ち込め!」
「聞いてますか?」
「・・・ん?・・・おぉ、まぁ聞いてる」
「こっちが攻撃して隙を見せた所を狙ってくる気です」
「カッ・・・なるほど。なら・・・」

ドジャーはこっそりと後ろ手にダガーを用意する。
隠すように、
見えないように。

「だからこそ打ち込め。ハズしちまえ。あのメスノカンはそれで炙り出せるだろう。
 わざと隙を作っちまって、飛び出てきた所を・・・・・俺が仕留める」
「・・・・ドジャーさんにしては悪くない策です」
「素直に褒めろ」
「ドジャーさんは悪いです」
「いい褒め言葉だ」
「ドジャーさんは頭が悪いです」
「・・・・先にてめぇを仕留めるぞ」
「いいからさっさとやっちゃいますよ」
「俺のセリフだ」

ドジャーはこっそりとダガーを隠し、
アレックスは適当な場所に狙いを付ける。
そして突き出した指を・・・
クイッと上へ。

「アーメン」

噴出すパージフレア。
それは魔物達の群の中で吹き上がり、
魔物の悲鳴がひとつ聞こえた。

「さぁ・・・この瞬間、僕は隙だらけですよ・・・・」

アレックスがボソリと言うと、
そのまま、
思いのまま、
まんまとだ。
魔物の群の中から、
真ピンクの体が飛び出てきた。

「もらったわ!!」

ヴァージニアが吹き矢を咥えて飛び出てきた。
散弾式、
ショットガン式の吹き矢の筒は、
アレックス達に照準があっている。

「もらったってのはこっちのセリフなんだよ!!」

ドジャーが隠して準備していたダガーを・・・・・・・投げつけた。
それに一歩遅れる形で、
ヴァージニアは散弾式の吹き矢を発射した。

「あっ・・・・」

アレックスは苦笑した。
そうだった。
馬鹿すぎる。
これはもうドジャーのせいじゃなく、
失念していた自分のせいだ。
マヌケすぎる。
どんだけ早いド忘れだ。

「やっぱドジャーさんの浅はかな策なんて使うんじゃなかった・・・」

・・・・。
ドジャーのダガーは、
ヴァージニアの吹き矢に簡単に撃ち落された。
吹き矢は、
ドジャーのダガーを撃ち落し、
それでも大多数の針がアレックス達目掛けて飛んでくる。

「・・・・やっちまった」

避けるヒマはない。
目の前に広がり迫る、針の嵐。
広範囲かつ大量の針は、
もう避ける時間は無かった。
張り付けならぬ、
針漬けを覚悟したアレックスとドジャー。

だが、
ふと、
目の前に山のようなシルエットが視界を遮った。


「攻撃を極めても勝てるとは限らねぇ。だが、防御を極めると・・・負けることはねぇ!」

それは、
その大きな体の者は、
アレックスとドジャーの目の前で、
ショットガンを全て受けきった。
その・・・
両手に持つ2つの盾で。

「だから・・・・鉄壁こそが無敵!」

盾2つという異様な装備の大男は、
アレックスとドジャーの目の前で振り返り、
ニヤりと笑った。

「久しぶりだなテメェら」

その姿、
自分達を守った二盾流の大男の顔を見て、
アレックスとドジャーは、
懐かしさに声を漏らした。

「・・・・・・誰ですか?」
「・・・・全く分からん・・・・」

「なっ!てめぇら!この俺を忘れたってのか!」

「忘れたっていうか・・・」
「知らん」
「僕の脳細胞の片隅にもあなたはいません」

酷い事を言うものだ。
本当の事でも言っていいことと悪い事がある。

「俺と昔戦っただろが!ほれ!この盾!この無敵具合!忘れたってのか!」

その大男は両手の盾をガンガンッとぶつける。
玩具の猿がシンバルを鳴らすように。

「あっ!あーあーあーあー!」

ドジャーが手を一度叩き、
指をさす。

「思い出したか!?」

「八百屋の!」

「違う!それこそ誰だ!潰すぞてめぇ!」

んじゃぁ分からん。
誰だ。

「おい、カブ。マジに忘れられてるぞ俺ら」
「イィーーーッ!」

どこからか、
小柄な男が飛び出してきた。
両手にハロウィンパンプキンナックル。
爪の形をした武器を付けた、
猿のような男だった。

「姉御が助けてやれっつったから来てやったのによぉ!」
「イィー」

「姉御?」

「ルエンの姉御に決まってんだろ」
「イィーーー!!」

「あっ・・・・」

ルエンの手下。
そうか、
思い出した。
ボンヤリと思い出した。
両手に盾を装備した大男。
両手に爪を装備した小男。
『ルエンの大右腕』と、
『ルエンの小左腕』

「確か・・・・・」
「ブリーフとカブ!」

「ブレーブだ!!!」

まぁ合格範囲だろう。
ギリギリ覚えてた。
ブリーフね。
ん?どっちだっけか。
あぁ、ブレーブとカブ。
昔、
ルエンといざこざがあった時に戦った相手。
今思えば、
ドジャーとアレックスが、
初めて共に戦った相手だ。

「てめぇら生きてたのか」

「はんっ!お前ら如きに殺されるかよ!」
「イィーーーッ!!」

「いや、」
「こう・・・存在的な意味でな」
「キャラ的な意味で」
「記憶的な意味でな」
「生きる失敗作的な意味ですね」
「ボツキャラが動いてる感じだったな」

酷い言い様だ。
彼らだって生きてるんだ。

「助けられた分際で好き勝手いいやがって!」
「ィイイイイイーーーッ!!」

ブレーブは、
両手の盾をガンガンッとぶつけ、
その横で、
カブは猿のように飛び跳ねていた。

「!?」

話をしている場合じゃなかった。

「危ないブレーブさんっ!」

針の嵐。
ヴァージニアの吹き矢。
ショットガン式に飛んでくる針の横雨。

「危ない?危ないなんてもんは・・・・・」

ブレーブはその大きな腕で、
その一回り大きなライドを突き出した。

「最強の防御の中では無意味な言葉だ」

そして、
水溜りの水を傘で防ぐぐらいの気安さで、
吹き矢の嵐を防ぎきってしまった。

「揺ぎ無い防御!それは砕けぬ壁!鉄壁!岸壁!黄金壁!それはつまり完璧だ!!
 完璧という言葉は!文字通り、落ち度無き壁の事!攻撃でなく、防御を表す様だ!
 最強の防御こそが完璧(パーフェクトォ)!鉄壁完璧!それはつまり無敵!!」

「"壁"と"璧"は字が違いますよ」

「・・・・・・」
「・・・・・」

ブレーブとカブは、
アレックス達に背を向けた。

「行くぞカブ!人が極めるのはいつも両腕だ!姉御の両腕としていっちょ仕事してやろうぜ!」
「ィイイイイイ!!!」

自分で自分の言った事を流すとは。
防御は確かに完璧かもしれない。

「・・・とりあえずどうします?ドジャーさん」
「ん?いや、別に任せとけばいんじゃね?楽できるならそれでいいだろ。それに」

ドジャーはダガーを腰から抜き、
振り返って振り切る。
そこにはモスキャプテンが浮いており、
それが半分に分かれて落ちた。

「魔物共もそろそろ黙ってるわけには行かないって顔してるぜ」
「・・・・はぁ、見渡す限り戦う相手なんているでしょうに・・・・」

ヴァージニアの命令なのか知らないが、
アレックスとドジャーに手を出してこなかった魔物達。
アレックスとドジャー、そしてヴァージニアの戦いは、
まるで戦場の真ん中で隔離されたようになっていたが、
それでも戦場。
飢えた獣達の見る目は殺意にまみれていた。

「しょうがないですね・・・ザコでも倒してヒマ潰してますか」
「言うようになったな」
「言うだけなら誰にでも出来ますから」
「カッ、そうだな。レストランで無理な注文するのはお前、払うのは俺だもんな」
「それを食べきる事は僕にしかできませんけどね」
「あっそ。なら、今日はディナーが2万食あるぜ?食いきって見せろよ」
「冗談。それが出来れば戦争は起きません」

アレックスは槍を構え、
ドジャーがダガーを構える。

「んじゃいっちょ仕事するか」



一方、
ブレーブとカブ。

「さぁて、いっちょ仕事するかカブ!」
「イッーーー!」

同じようなセリフを吐きながら、
対峙するのは、
メスのニュクノカン。
散弾式吹き矢使いのヴァージニア。

「あら、相手が人間二人組から魔物二人組に変わったわね」

「ん?」
「ィ?」

ブレーブとカブは顔を見合わせる。
大男と小男。
お互いがお互いを見合わせる。

「誰が魔物だ!」
「ィイ!」

「あんた達、ノカンおじさんとワイキベベのコンビみたいじゃない。
 特にそっちの大男。あんたノカン村でならモテモテだったと思うわよ」

「嬉しくねぇよ!」

「小男の方は問題外ね。今時魔物でも共通言語話すってのに」

「イィィイイイ!!」

ゴリラとチンパンジーのコンビは、
猿化動物らしい怒りを見せた。

「くそっ!俺達をなめてるぞカブ!」
「ィイイ!!」
「確かに俺達は野生育ちだけどよぉ!ルエンの姉御に拾われた恩!
 ここで見せなきゃ男が廃るってもんだ!行くぞ!」
「イィイイーーーー!!!」

「道具を使うことを覚えたくらいの人間風情に遅れを取るわけにはいかないわ」

ヴァージニアは腰から吹き矢の筒を取り出し、
口に咥える。
そして、
放ってくる。
吹き矢のショットガン。
広範囲に広がる針の嵐。

「きかねぇきかねぇ!効かざる!当たらざる!食らわざるだ!」

ブレーブは両手の大きな盾を前へ突き出す。
ライドとマジックネムア。
それを前へ突き出すと、
二つの盾でそれは壁のようだった。
カブもブレーブの後ろへと隠れる。

「鉄壁!岸壁!黄金壁!ゆえに完璧!!」

その鉄壁の盾によるガードは、
吹き矢の嵐を全て弾き止める。

「チッ、やっかいね」

ヴァージニアは筒を投げ捨て、
すぐさま新しい吹き矢の筒を腰から手に取る。

「鉄壁&鉄壁!無敵&無敵!ガード&ディフェンス!それは完璧(パーフェクトォ)!
 守りきる者!ガードと共に!ガード&で全てが始まる!それこそ守護者(ガーディアン)!」

ブレーブが片手の盾を上に向ける。
ウエイトレスがトレイを持つように。
そこにカブがヒョィッと乗かった。

「発射準備OK!行くぞ!カブドリルスペシャル!」
「イィイイイイイ!!!!!」

そして、
カタパルト式に・・・・
ブレーブはカブをぶん投げた。
カブは両手のハロウィンパンプキンナックルを突き出し、
グルグルと空中をミサイルのように突っ込む。
まさに人間魚雷。

「な、なにそれ!?」

ヴァージニアは咄嗟に吹き矢を放つのをやめ、
避け行動をとる。
人間が一人ぶっ飛んでくるのだ。
吹き矢を撃ってる場合じゃない。
思考回路を戻す方が優先だ。

「ィイイ!!」

カブの突撃は外れたが、
カブは地面に着地すると同時に、
視線はヴァージニアの方を向いていた。

「ィイッ!!!」

「なっ?!速っ!」

小柄なるカブは、
両手の爪。
パンプキンナックルを広げ、
猿のように跳ね飛んできた。

「ナハハ!!カブはピュタワーカーと速度ポーションでドーピングしてんだよっ!
 軽い体重とも合わせて、そこらの盗賊なんざより数段早ぇぜ!!!」

その言葉通り、
いや、
速いだけでなく小さい。
まるでノミが飛んでるかのような捉えにくさ。

「イィイイ!!」

どこをどうしてどのように。
猿のように不可解かつ、早い動きで飛び回り、
カブはヴァージニアの目の前で両手を広げていた。

「イィイーーーーッ!!!」

その両手の長き爪。
カギ爪のようなそのハロウィンナックルをつけた両手を、
ヴァージニアに向けてクロスさせた。

「くっ!!ほんと魔物みたいな奴ね!!」

避け切れるか?
ヴァージニアはその桃色の体を低くして横に飛ぶ。
だが、
カスる。
人間ならば髪を切り取られた程度だっただろう・
だが、
ノカンであるヴァージニアは、
その特有の長い耳の先を切り取られた。

「私の耳が!?・・・・メスを傷つけるなんて最低ね!
 あんたの耳は凄くセクシーだってオスノカンによく言われるのに!」

ヴァージニアは吹き矢を咥え、
目の前、
至近距離のカブに向けてショットガンのような針の嵐を噴出す。
だが、
すでに目の前にカブはいない。

「イィイーーーッ!!」

「上!?」

すばしっこく、
不可解。
両手に爪を付けたチンパンジー人間は、
上方から両手の爪を振り下ろしながら落下してきた。

「接近戦は苦手なのよっ!!」

ヴァージニアは仕方なく下がる。
バックステップ。
避ける。
そして反撃にと吹き矢を浴びせてやろうとするが、

「イィ!!」

カブの軽やかな身のこなし。
体重が軽いお陰でひとつひとつの動作も早いのだろう。
ヴァージニアの全ての行動より先に、
カブは詰め寄り、
爪で切り裂いてくる。

「くっ!ちょこまかちょこまか!」

前から、
右から、
左から、
上から、
斜めから。
カブは四方八方至る方向へ飛び回り、
爪で切り裂いてくる。
ヴァージニアは避ける事で精一杯だった。
だが、
どうにかチャンスを見い出さなければいけない。
避け続ける。
避け続けるしか・・・・

「・・・・あれ?」

避け続けていると突然、
ドンッ・・・
と、
背中に何かがぶつかった。
クッションのような、
いや、
壁?
荒野の真ん中で・・・・背中に壁?
視線だけ後ろに向けると・・・・

「捕まえたぜノカン」

背中にはブレーブがいた。
と同時に、
左右から衝撃。
盾と盾。
右と左の盾が、
押しつぶすようにヴァージニアを挟む。

「ぐっ・・・あああ・・・・・」

「鉄壁のサンドイッチだ!!このまま押しつぶしてやろうか!!」

「・・・・・この・・・・ひとつしか能の無いゴリラとチンパンジーのくせに・・・・・」

「十分!だから俺は姉御の右腕で、カブは姉御の左腕なんだ!!
 岩(グー)とハサミ(チョキ)があれば、ジャンケンは負けねぇんだよっ!!!!」

「・・・・ぁ・・・あああが・・・・・」

ブレーブが、
両サイドから盾でヴァージニアを圧迫する。
腕ごと挟まれたヴァージニアは、
身動き一つとれない、
そして二つの盾が万力のようにヴァージニアを締め付ける。

「鉄壁・・・それは完璧!人は皆、人生で何かの障害があるとそれを壁にぶち当たるって言うよな!
 そう!壁こそ生物にとっての最強の敵であり!超えられない壁があればそれは無敵だ!!
 鉄壁!無敵!完璧!それは悲劇!悪いがあんたは命の壁にぶち当たっちまったようだな!!」

「ク・・・ソ・・・・」

メシメシときしむ、ヴァージニアの体。
ノカンとはいえ、
戦う者とはいえ、
やはり女性の体は悲鳴をあげる。
いや、
ブレーブの怪力ならばどんな者だって砕けてしまうだろう。
だが、
ヴァージニアはまだ砕けない。
心と共に、
砕けない。

「・・・・ノカン・・・・ノカンを終わらすわけにはいかないのよ・・・・・
 この戦いはノカンの未来がかかってる・・・・だから戦わなきゃ・・・・・」

「いつだって生き残るのは壊す者じゃなく、守る者だぜ」

「守るものなどもうない!!私達ノカンは!失った仲間たちと故郷を取り戻すためだけに居る!
 壊すものも!守るものもない!私達は・・・・だから戦う!ノカンが死なないためだけに!!」

正義も悪もない、
戦っているなら、
争っているなら、
どちらにだって理由がある。
大切な理由かもしれないし、
くだらない理由かもしれないが、
譲れないから戦う。
それは正義も悪も関係なく、
人も魔物も関係ない。

「・・・・それは俺も同じなんでね!」

ブレーブは締め付けをさらに強くする。

「あんたが守るべきモンを失ってよぉ!取り戻すために戦ってんなら俺達もだ!
 俺達はルエンの姉御の両腕!姉御のために働き姉御のために戦う!
 つまり姉御の夢こそ俺達の理由!姉御の考えこそ両腕の動く理由!
 俺達の理由はただ一つ!あの広場を取り戻すため!それだけだ!
 活気に溢れたルアスの広場!!露店と命の溢れた過去の広場を取り戻すため!
 譲れねぇのは同じなんだ!姉御のため!ルアス広場のため!俺達は砕けねぇ!!」

そして、
ブレーブの二つの盾の締め付けが最大まで達した時、
前方からカブが飛び掛り、

その爪でヴァージニアを切り裂いた。







「終わったみたいだぜ、アレックス」
「みたいですね」

ドジャーがダガーをダーツのようにダガーを投げつけると、
バディアクトバルーンに突き刺さり、
その気球が破裂した。
アレックスも魔物達に撃ち放っていたパージフレアをやめる。

「あいつらホントにあのメスノカン倒しやがった」
「ま、僕達でも勝てましたけどね」
「だな」

アレックスとドジャーは、
負けず嫌いを揃って言う。
そういう所だけ気が合う二人だ。

「ほらほら、終わったみたいだね!」

アレックスとドジャーから光が閉ざされる。
太陽の光を遮るのは、
巨大な鉄のシルエット。
スマイルマンだった。

「はいはい掃除掃除」

ルエンがスマイルマンの巨大な腕を動かすと、
鋼鉄の腕は一振りで魔物達を払いのけた。

「姉御!」
「イィー!」
「俺達やったぜ姉御っ!」
「イーーーッ!!」
「隊長格一匹倒したくらいでいい気にならないの!2万匹いるのよ2万匹!」
「そっそうだな姉御・・・」
「イィー・・・」
「でもよくやったわブレーブ、カブ」
「!!・・・だよな姉御!」
「イィイイイイーッ!!」

ゴリラとチンパンジーは嬉しそうに飛び跳ねた。

「で、あんた達はどうするの?本陣に戻るならスマイルマンで送るわよ?」

「あー、どうします?ドジャーさん」
「いや、俺らも仕事しねぇとな。ザコはあしらいつつ隊長格を狙ってくか」
「そういう役目も必要ですよね。皆必死に戦ってますし」
「俺らだって必死だ。逃げまくりながら高得点だけ倒すぞ」
「っていうかエクスポさん迷子だし、勝手に戻るわけにもいきませんよね」
「あぁそうだった。あの空気野郎忘れてた」

この広い戦場の中、
どこで戦っているやら・・・
と考えていると、
ちょっと遠いところで爆煙があがった。
続いて二度、三度と。
探すのは簡単そうだ。

「あたいらももうちょっとここで暴れるとするかい」
「そうこなくっちゃ姉御!」
「イィーーッ!」

「そうしてくれると助かります」
「スマイルマンはかなり一騎当千な戦力だからな」
「でも危険になったら戻ってくださいね?」

「言われなくても戻るわよ。それ以上にスマイルマン壊すとマリがうるさそうだからね」

うるさそうだ。
金勘定的な意味で。
商人姉妹の繋がりも分かりやすい。

「だが戦況はまだ圧され気味だな」
「フレアさんのメテオ待ちですかね」
「あれが決まれば一気に戦況はひっくり返るかもな」
「そしてマリナさん達にも期待したいところですけど・・・」

マリナ。
詳しくは、
マリナ、
イスカ、
そしてエドガイ率いる《ドライブ・スルー・ワーカーズ》
彼女らには、
バックアタックを頼んである。

簡単に言えば、
敵の後ろ側に回ってもらっているのだ。

森を迂回してもらい、
後ろから叩く。
できるならば一気に本陣を。

伏兵的隠密行動なので、
少数精鋭にするための編成だ。

エドガイ率いる《ドライブ・スルー・ワーカーズ》は言わずもがな。
少数精鋭で言えば彼らの十八番であり、
部隊としてチームワークもあるから期待できる。

マリナもマシンガンによる対・多数戦に秀でているので、
少数精鋭の要になるだろうし、
イスカはぶっちゃけ剣士というタイマンタイプなので、
戦場でそこまで期待できなかったから伏兵に回ってもらった。
マリナが行くなら行くと付いて行っただけでもあったが、
裏に回り、
一気に頭を叩くのが役目。
ならば強敵の多いだろう敵本陣でこそイスカの力が発揮できるだろう。

「ま、簡単に後ろを突かせてもらえるとは思わねぇけどな」
「ですが成功すれば効果は絶大です。本陣への強襲。しかも一種の挟み撃ちの形になりますから」
「逆に編成が心配になってきたぜ・・・」
「・・・・」

マリナ、
イスカ、
エドガイ。
・・・・。
確かに今考えるとちゃんと役目を果たしてくれるか心配なメンバーだ。

「キャァッ!!!!」

突如悲鳴。
上から。
ルエンだ。

「なっ!?」
「どうしたルエン!?」

アレックスとドジャーの問いに答える事はない。
ルエンは宙を舞っていた。
肩口から血を噴出しながら、

巨大なスマイルマンの上から落下していた。

「姉御ぉお!!!!」
「イィイーーーッ!!!」

ブレーブとカブが飛び出す。
ブレーブは盾で魔物を蹴散らし、
カブは魔物の隙間を掻い潜って走る。

そしてブレーブは落下してきたルエンをキャッチし、
カブが周りの魔物を切り裂いて守った。

「大丈夫ですか!?」

アレックスとドジャーも、
魔物を蹴散らしながら駆け寄る。
そしてブレーブの両腕の上のルエン。

「・・・・・心配はいらないよ・・・カスり傷だよ」

確かに、
命に関るような傷ではない。
だが、
出血が酷い。

「ブレーブさん!カブさん!二人はルエンさんを連れてゲートで戦場から出てください!
 出来れば残されたスマイルマンの対処をWISか何かでジャスティンさんに連絡を!」
「くっ・・・姉御!!」
「イィ・・・・」
「何があったんだルエン!スマイルマンの上に乗ってたのに何から攻撃を受けた!」
「・・・・分からないよ・・・下ばっか見てたから・・・・魔法が飛んできたわけでもないし・・・
 多分・・・空から攻撃を受けたんだろうね・・・・飛行系の魔物か・・・それとも・・・」
「悪魔か・・・」

悪魔。
この戦いの敵は魔物だけではない。
神族。
ピルゲン率いる悪魔部隊もいるはずなのだ。
だが、
部隊は部隊。
空に悪魔達が飛んでいる気配は無かった。
ならば、
何者かの単独的な攻撃。

「くそっ!姉御!死なないでくれよ!」
「イィイイイ!」
「大げさだねあんた達は・・・・」

そして、
ブレーブとカブは、
負傷したルエンを連れて戦場から離脱した。

「・・・・ルエンさん自体に戦闘能力はないですからね・・・」
「ストーンバットとかグレイブあたりに攻撃を受けたのかもな」

ルエンの傷口は切り裂かれた形だった。
爪か、
牙か。


「剣ですよ」

魔物達の群の中、
魔物達の中なのに、
その中を平然と歩く者。
その声の主。

「久しぶりだな盗賊さん」

その剣士は、
腰の二つの鞘に剣を収めたまま、
戦場を当たり前のように歩いてきた。

「・・・・あなたは・・・」
「てめぇ・・・・」

「花を咲かせに、ちょっと舞い戻ってきました」

ツィンは、
魔物達を背に、
人であるのに、
魔物達をバックに、
アレックス達へと対峙した。

「ツィン・・・・てめぇなんでそっち側にいやがる」

「なんで?おかしな話だ。俺がいつあんた達の仲間になった。
 まず元々《騎士の心道場》は戦士を騎士に育成し、騎士団に送り出す団体。
 こちら側のが自然ってものだ。それに敵味方というならむしろハッキリしている」

人がどうこう、
魔物がどうこう、
立場がどうこうではない。

「俺はあんたの敵で、あんたの敵は俺のはずだ。1勝1敗。ケリをつけに来ただけですよ」

・・・・。
そう、
一度流れで味方になっただけ。
手を貸してきただけ。
それ以前に2度も戦っている敵だ。
戦わなければいけない理由はない。
だが、
戦う敵。

「・・・・・俺と戦いたいがためにこの戦場にきやがったのか」

「正解といえば正解です。違わないといえば違わない。つまりその通りなんですが、
 理由はそれだけじゃない。理由など一つと誰が決めたことなんですか?
 二兎を追ってもいいでしょう。人には・・・・二つ腕があるのだから」

笑いもしない。
ただ睨むようにドジャーを見据えている。

「・・・・・カッ、確かにてめぇと仲良しこよしになる義理はねぇなぁ。
 俺としちゃぁ戦う義理もねぇが、やりてぇならやってやるぞ」

ドジャーはダガーを構える。

「てめぇも隊長格の一人っぽいしな」

「俺はただの使われの身だ。たいしたもんじゃない。あんたを殺すだけだ」

「死に底無いがわめきやがって」
「・・・・確かに、あの一年前のミルレス。ツィンさんも生き延びたんですね」

「生き延びた?ふん・・・生き延びた・・・か。生き延びたというのかな。あぁ俺は生き延びたさ」

ツィンの雰囲気。
何か、
違った。
心を変えたように。
昔のツィンではなく、
何か変わってしまったかのように。

「俺は生き残った。だが・・・・師範とリヨンを失い・・・・あのミルレスでヤンキも死んだ」

《騎士の心道場》
師範であるディアン。
そして師範代に近い存在である、
"騎四剣"と呼ばれる3人。
リヨンの1剣、
ヤンキの1剣、
そしてツィンの2剣で"騎四剣"

「そうですか・・・ヤンキさんは・・・」
「生き残ったのはてめぇだけなのか」

「あぁ」

ツィンは冷たい目をしていた。
守るべきものは人それぞれ。
ツィンにとって、
守るべきものはソレ。
ソレだけ。
それを全て失った。
自分以外。

「あの炎上するミルレス。俺はヤンキを背負って逃げて逃げて逃げ続けた。
 気付くと・・・・もうヤンキは返事をしなくなっていた」

ツィンは、
ふと辺り一帯を見回した。

「失意の底に落ちた俺は、ヤンキの死体の傍らで丁度こんな状態だった。
 四方を数え切れない魔物に囲まれていた。逃げ場なく・・・・な。
 まぁ今はその魔物達が仲間なわけだが、ハッキリ言ってあの日俺は終わった」

「そこからどうやって生き延びたんですか」

「俺の目の前に闇が渦巻いた。そしてそいつが現れた」

冷たい目で、
ツィンは言った。

「そいつはピルゲンと名乗ったよ」

「!?」
「ピルゲンが・・・・・」

「失意にのまれる俺を嬉しそうに眺めていたよ。本当に楽しそうなクソ野郎だった。
 だが、俺はもう絶望の淵でどうでもよかった。守るべきものが無くなり、心は破滅。
 師範、リヨンに続き、ヤンキも失った。最後の守るべきものの傍らで俺は両手をついた」

最後の守るべきもの。
ヤンキ。
最後の仲間。
その死体の横での心境。
分からないでもない。

「殺すなら殺せと言ったさ。俺は」

「だが、」
「生かされた・・・・か」

「正解といえば正解です。違わないといえば違わない。だが、それは大きく違う。
 ピルゲンは俺に言った。「"その"命を捨てるなら・・・・命をやる」と・・・・・・・」

ツィンは、
自分の両手を見た。

「俺はその取引に乗った。・・・・・失いたくなかった!どんな形でも!なんでもよかった!
 二兎追うものは一兎も得ず・・・だが・・・・俺は何もかもを失いたくなかった!」

険しい表情で、
ツィンは頭を抱えた。

「俺じゃない!俺なんかどうでもいい!だから命を売った!失いたくないから!
 だから命を差し出した!そして取引で蘇生してもらったんだ!クソッ!」

「蘇生?」
「・・・ツィン・・・てめぇの命を・・・か?」

「俺じゃない!俺は失いたくなかった!だから・・・・"その"命を・・・・」

ふと羽ばたく音。
その音は、
停止したスマイルマンの影からバサりと飛んだ。
黒い。
真っ黒の。
影のようなシルエット。
それは・・・

「だからヤンキを・・・・悪魔として蘇生してもらったんだ・・・・・」

黒い、
真っ黒の、
影のようなソレは、
黒い、
真っ黒の、
影のような羽根を撒き散らし、
そして・・・

降り立った。

見た目は何も変わってなかった。
あるのまま。
命はあのまま。
ただ、

カラスのように広がるその黒き両翼。

「もう・・・・光なんていらないんですよ・・・・・とぉ」

黒い、
悪魔の翼を背負ったヨーキ=ヤンキは、
変わり果てた姿で舞い降りた。

『千羽烏(せんばがらす)』は闇に解けていた。










                 






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